JP5904378B2 - 抗うつ剤 - Google Patents

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Description

本発明は、抗うつ剤に関する。
うつ病の患者数は、日本国内で100万人以上もいるといわれており、重大な問題となっている。うつ病は、根治させる方法が未だ確立されておらず、抗うつ剤の投与による対症療法が行われている。抗うつ剤としては、三環系抗うつ薬、選択的セロトニン再取り込み阻害薬、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬などが知られているが、口渇、便秘、排尿困難、全身の倦怠感、体重増加といった様々な副作用が生じる問題がある。
うつ病の発症原因は明らかになっていないが、イミプラミン等の三環系抗うつ薬の神経終末へのモノアミン再取り込み阻害作用から、セロトニンやノルアドレナリンといったモノアミンの欠乏が関与すると考えられている(モノアミン仮説)。
一方、近年、タモギタケのエキス末に多く含まれるエルゴチオネインに注目が集まっている。タモギタケは、北海道や東北に多く自生するヒラタケ科のキノコであり、エルゴチオネインを生合成することが知られている。エルゴチオネインは、抗酸化作用や抗炎症作用に優れていることが報告されている(例えば、非特許文献1、2参照)。
Hartman P. E.,Meth.Enzymol.,186,p.310-318, 1990 Ito T. et. al.:Food Sci. Tech. Res., 17, 103-110, 2011
本発明は、副作用などの問題が生じにくく、長期摂取しても安全性の高い、安価な抗うつ剤を新たに提供することを目的とする。
本発明者らは、L−エルゴチオネインの新たな生体作用を発見すべく鋭意検討を行った結果、L−エルゴチオネインが抗うつ作用を有することを予想外にも見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明によれば、L−エルゴチオネインを含有する抗うつ剤が提供される。さらに、本発明によれば、L−エルゴチオネインを有効成分として含むうつ病の予防薬または抑制薬も提供される。
本発明は、副作用などの問題が生じにくく、長期摂取しても安全性の高い、安価な抗うつ剤を提供することができる。
図1は、強制水泳試験1の結果を示すグラフである。 図2は、強制水泳試験2の結果を示すグラフである。 図3は、血中のエルゴチオネイン濃度を示すグラフである。 図4は、脳内のエルゴチオネイン濃度を示すグラフである。 図5は、オープンフィールド試験の結果を示すグラフである。 図6は、尾懸垂試験の結果を示すグラフである。 図7は、血中のエルゴチオネイン濃度を示すグラフである。 図8は、脳内のエルゴチオネイン濃度を示すグラフである。
L−エルゴチオネインは、アスコルビン酸と同様に抗酸化物質として知られており、生体内で合成できないため、外部から摂取する必要がある。L−エルゴチオネインは、アミノ酸の一種であり、熱や酸に強いという性質を有する。L−エルゴチオネインは、以下の構造を有する。
Figure 0005904378
この構造は結晶状態のエルゴチオネインを示したものであり、溶液中では、チオール構造との互変異性体となることが知られている。
L−エルゴチオネインは、化学合成による市販品を用いてもよいが、コストの観点から天然のL−エルゴチオネインを抽出したものを用いることが好ましい。L−エルゴチオネインは、タモギタケ(学名:Pleurotus cornucopiae var.citrinopileatus)等のキノコ類に多く含有される。具体的には、L−エルゴチオネインを含有するキノコ類としては、エノキタケ属(Flammulina)に属するエノキタケ(Flammulina velutipes)等、オオイチョウタケ属(Leucopaxillus)に属するオオイチョウタケ(Leucopaxillus giganteus)等、キコブタケ属(Phellinus)に属するメシマコブ(Phellinus linteus)等、キシメジ属(Tricholoma)に属するサウーバ(Tricholoma sp.)等、ササクレヒトヨタケ属(Coprinus)に属するササクレヒトヨタケ(Coprinus comatus)等、サンゴハリタケ属(Hericiaceae)に属するヤマブシタケ(Hericium erinaceum)等、シメジ属(Lyophyllum)に属するホンシメジ(Lyophyllum shimeji)、ハタケシメジ(Lyophyllum decastes)等、ショウゲンジ属(Rozites)に属するショウゲンジ(Rozites caperata)等、スギタケ属(Pholiota)に属するナメコ(Pholiota nameko)等、ヒラタケ属(Pleurotus)に属するウスヒラタケ(Pleurotus pulmonarius)、ヒラタケ(Pleurotus ostreatus)、エリンギ(Pleurotus eryngii)及びタモギタケ(Pleurotus cornucopiae var.citrinopileatus)等、ブナハリタケ属(Mycoleptodonoides)に属するブナハリタケ(Mycoleptodonoides aitchisonii)等、フミツキタケ属(Agrocybe)に属するヤナギマツタケ(Agrocybe cylindracea)等、マイタケ属(Grifola)に属するアンニンコウ(Grifola gargal)等を挙げることができる。
好ましいキノコ類としては、L−エルゴチオネインを長期間に亘って使用しても副作用の心配がなく、安全性が高いと考えられるため特に好ましく、このようなキノコとしてエノキタケ(Flammulina velutipes)、オオイチョウタケ(Leucopaxillus giganteus)、ササクレヒトヨタケ(Coprinus comatus)、ヤマブシタケ(Hericium erinaceum)、ホンシメジ(Lyophyllum shimeji)、ナメコ(Pholiota nameko)、ヒラタケ(Pleurotus ostreatus)、エリンギ(Pleurotus eryngii)、タモギタケ(Pleurotus cornucopiae var.citrinopileatus)、ブナハリタケ(Mycoleptodonoides aitchisonii)を挙げることができる。
L−エルゴチオネインのキノコ類からの抽出は、公知の方法によって実施することができる。例えば、特開2012−56914号公報に記載されるように、タモギタケ等のキノコ類を煮出して得た煮汁をイオン交換樹脂に供した後、その樹脂から陽イオン性化合物を溶出し、溶出液を濃縮し、これを高速液体クロマトグラフィーにより分離・精製し、凍結乾燥することにより、L−エルゴチオネインを抽出することができる。
タモギタケ等のL−エルゴチオネインを多く含有するキノコ類は食品として長年用いられているため、L−エルゴチオネインを長期間に亘って投与しても副作用の心配がなく、安全性が高いと考えられる。本発明者らによる動物実験によれば、L−エルゴチオネインを1.2mg/g(0.005mmol/g餌)の濃度で含む餌を、マウスに3g/日で2週間投与しても、体重や行動量に目立った変化は見られず、行動面での毒性は見られなかった。このため、マウスの体重20gとして、180mg/kg体重/日では毒性は見られないと考えられる。マウスなどの体表面積の小さい動物では、同じ効果を発現するために、ヒトと比較してより大量の投与量が一般に必要なことが知られており、マウスなどの動物の投与量は、経験的にヒト投与量の約10倍高い投与量が目安とされている。よって、ヒトでは、L−エルゴチオネインを18mg/kg体重/日投与しても毒性は見られないと考えられる。
本発明は、L−エルゴチオネインに抗うつ作用を見出したことに基づく。L−エルゴチオネインの成人1日当たりの投与量は、本発明の所望の効果を得るために、例えば0.005mg以上、好ましくは0.5〜100mg、より好ましくは3〜50mgである。L−エルゴチオネインの投与量は、性別、体重、年齢、摂取期間、症状の重症度等に応じて適宜調整することができる。
L−エルゴチオネインは、これを有効成分として含む抗うつ剤として提供することができる。抗うつ剤は、L−エルゴチオネインを、精製物の形態で、またはキノコ抽出物の形態、好ましくはタモギタケ抽出物の形態で含むことができる。L−エルゴチオネインのキノコ抽出物としては、例えば、「タモギエキス末」(エル・エスコーポレーション社)、「コプリーノエキス」(オリザ油化株式会社)など市販品を使用することができる。キノコ抽出物は、L体のエルゴチオネインのみ含有するものであっても、D体とL体のエルゴチオネインの混合物を含有するものであってもよい。
タモギタケ抽出物等のキノコ抽出物は、例えば0.1〜5質量%のL−エルゴチオネインを含有する。キノコ抽出物に含有されるその他の成分は、その抽出方法によって異なるが、デキストラン等の澱粉分解物、β−グルカン、エルゴステロール、ヘキシトール、セラミド、トリテルペン類、食物繊維等が挙げられる。抗うつ剤は、その用途に応じて、その他の成分を含有してもよい。
L−エルゴチオネインを含有する抗うつ剤によれば、図1と図2の強制水泳試験および図6の尾懸垂試験で示されるように、動物においてうつ病の抑制効果を奏することが観察された。ここで、強制水泳試験および尾懸垂試験(テールサスペンジョン試験)は、例えば国立遺伝学研究所の「マウス開発研究室」(「小出剛」先生)のホームページ中の行動テストに記載されており(国立遺伝学研究所HOME/組織図/マウス開発研究室/行動テスト、URL:http://www.nig.ac.jp/labs/MGRL/MGRL_behavior%20test.html)、抗うつ効果を確認するための試験として一般に確立された試験方法である。具体的には、図1では、強制水泳試験において、通常餌投与群a1、アスコルビン酸投与群b1、およびタモギエキス末含有餌投与群c1についての無動時間を測定した結果が示されており、タモギエキス末投与群c1の無動時間が、通常餌投与群a1およびアスコルビン酸含有餌投与群b1と比較して減少していた。さらに、図2では、通常餌投与群a2、タモギエキス末含有餌投与群c2、およびエルゴチオネイン含有餌投与群d2についての無動時間を測定した結果が示されており、タモギエキス末含有餌投与群c2およびエルゴチオネイン含有餌投与群d2では、通常餌投与群a2と比較して、無動時間の短縮が観察された。無動時間の短縮は、タモギエキス末に含まれるL−エルゴチオネインに抗うつ効果があることを示している。
また、図3および図4では、通常餌投与群a3、タモギエキス末含有餌投与群c3、およびエルゴチオネイン含有餌投与群d3の血液中および脳内のエルゴチオネイン濃度を測定した結果がそれぞれ示されている。タモギエキス末含有餌投与群c3とエルゴチオネイン含有餌投与群d3の血液中および脳内エルゴチオネイン濃度は同程度であり、通常餌投与群a3と比較して非常に高い濃度であったことが確認された。この結果から、L−エルゴチオネインは、抗うつ剤の経口摂取後に血中に移行し、さらに、血液脳関門を通過し、脳に効率よく移行することが判明した。このことは、L−エルゴチオネインが抗うつ効果を有することを裏付けている。
図6では、尾懸垂試験において、タモギエキス末1%含有餌投与群c5sおよびタモギエキス末10%含有餌投与群c5が、通常餌投与群a5と比較して、無動時間が短縮しており、強制水泳試験で示されたL−エルゴチオネインの抗うつ効果が確認された。
さらに、エルゴチオネインは、膜輸送体OCTN1によって細胞膜を透過することがマウスin vivoにおいて確認されている(Kato et al., Pharm Res 27, 832, 2010)。OCTN1はヒトにおいても幅広い組織に発現し(Tamai et al., FEBS Lett 419, 107, 1997;Sugiura et al., Drug Metab Dispos 38, 1665, 2010)、脳においても発現が認められる(Tamai et al., FEBS Lett 419, 107, 1997;Nishimura and Naito, Drug Metab Pharmacokinet 20, 452, 2005;Taubert et al., Gut 58, 312, 2009)。さらに、ヒトOCTN1はエルゴチオネインを細胞内に取り込む活性を有することが確認されている(Grundemann et al., Proc Natl Acad Sci USA 102, 5256, 2005)。これらの知見と、L−エルゴチオネインが脳に効率よく移行する図4の結果を考え合わせると、ヒトにおいても、抗うつ剤の摂取により、L−エルゴチオネインが脳に作用し、うつ症状が改善されるものと考えられる。
本発明に係る抗うつ剤は、うつ病の予防薬または抑制薬の形態でも使用することができる。うつ病の予防薬または抑制薬には、抗うつ剤の他に、賦形剤、基剤、崩壊剤、潤沢剤、結合剤、界面活性剤、pH調整剤、安定化剤、抗酸化剤、充填剤、風味剤、防腐剤、着色剤、またはコーティング剤などの製剤のために一般的に使用される添加剤をさらに含有してもよい。うつ病の予防薬または抑制薬の製剤化は、公知の製剤技術を用いて行うことができる。
うつ病の予防薬または抑制薬は、例えば、溶液、懸濁液、粉末、または固体成型物などであり、その剤型は、例えば、錠剤、カプセル、粉末剤、顆粒剤、ドリンク剤、注射剤、貼付剤、坐剤、および吸入剤などが挙げられる。うつ病の予防薬または治療薬の投与方法は、特に限定されないが、好ましくは経口投与である。経口投与に適した剤形としては、例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、丸剤、液剤、乳剤、懸濁剤、溶液剤、シロップ剤、エキス剤、およびエリキシル剤が挙げられるが、これらに限定されない。
L−エルゴチオネインは、うつ病の予防または抑制用の食品添加剤および食品としても提供することができる。食品添加剤としては、L−エルゴチオネインの精製物、またはL−エルゴチオネインを含むキノコ抽出物に食品として許容可能な担体、添加剤などと混合したものを、例えば、粉末剤、顆粒剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、およびドライシロップ剤などの固形製剤、または液剤、ドリンク剤、およびシロップなどの液状製剤の形態に調製した製品を挙げることができる。食品添加剤は、好ましくは、うつ傾向もしくはうつ状態にある者またはうつ病患者が摂取するための食品の製造時または摂取前に、食品に添加または混合することにより使用される。
食品は、特に限定されないが、例えば、固形、半固形または液体の食品、具体的には、菓子類(クッキー、せんべい、ゼリーなど)、飲料(乳飲料、乳酸菌飲料、清涼飲料、野菜飲料、粉末飲料、スポーツ飲料、サプリメント飲料、栄養飲料など)、茶飲料(コーヒー飲料、紅茶飲料、緑茶、ブレンド茶など)、パン類、スープ類、魚肉加工品、畜肉加工品、麺類、ソース類、惣菜等が挙げられる。食品には、特定保健用食品、栄養機能食品等の保健機能食品や、健康食品、食品に栄養成分を強化する目的で使用されるサプリメント(栄養補助食品)等も含まれる。これらの食品は、その製造過程において上記食品添加剤を材料に配合することにより製造することができる。食品は、上記食品添加剤の他に、食品素材や添加物、例えば、調味料、野菜汁、ゲル化剤、または香料などを任意に含有することができる。食品中の上記食品添加剤の配合量は、食品の外観や味に悪影響を及ぼさない範囲で適宜調整することができる。
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明に係る抗うつ剤は下記実施例によって制限されるものではない。
[イミプラミンを用いた強制水泳試験]
強制水泳試験は、マウスの尾が底に届かない程度の深さまで水温25℃の水を注いだビーカーに7週齢のC57BL/6雄性マウス(三協ラボ社)を入れ、5分間のうちの泳いで移動している時間と無動の時間を計測することにより行った。抗うつ薬として確立されたイミプラミンの腹腔内投与30分後に、再び強制水泳試験を行った。その結果、イミプラミンの投与により無動時間が実際に短縮することを観察した(データは示さず)。よって、抗うつ作用が強制水泳試験によって示されることが確認された。
[強制水泳試験1]
5週齢のC57BL/6雄性マウス(三協ラボ社)に強制水泳試験を実施し、5分間のうちの無動時間を測定し、無動時間の平均が同じになるように3群に分けた。1群当たり6匹のマウスとした。強制水泳試験は、上記強制水泳試験と同様の方法に従って行った。この3群のマウスに、(a1)通常餌、(b1)通常餌にアスコルビン酸を88mg/100g餌(アスコルビン酸0.5mmol/100g餌)混ぜた餌(アスコルビン酸含有餌)、(c1)通常餌にタモギエキス末(エル・エスコーポレーション社)を10質量%(10g/100g餌(L−エルゴチオネイン0.5mmol/100g餌))混ぜた餌(タモギエキス末含有餌)を与えて飼育した。このタモギエキス末のL−エルゴチオネイン含有量は、HPLCによる測定で1.2質量%である。投与開始2週間後に再度、5分間の強制水泳試験を行い、5分間のうちの無動時間を測定した。図1に、無動時間の測定結果を示す。
図1に示されるように、タモギエキス末投与群c1の無動時間は、通常餌投与群a1と比較して有意に減少していた。従って、タモギタケエキス末にはうつ病抑制作用があることが示された。一方、アスコルビン酸含有餌投与群b1の無動時間は、通常餌投与群a1と比較してほとんど差はなかった。よって、アスコルビン酸は、食物に含まれる水溶性の抗酸化物質である点でエルゴチオネインと同様であるが、うつ病抑制作用はないことも判明した。
[強制水泳試験2]
5週齢のC57BL/6雄性マウス(三協ラボ社)に強制水泳試験を実施し、5分間のうちの無動時間を測定し、無動時間の平均が同じになるように3群に分けた。1群当たり6匹のマウスとした。強制水泳試験は、強制水泳試験1と同様の方法に従って行った。この3群のマウスに、(a2)通常餌、(c2)通常餌にタモギエキス末(エル・エスコーポレーション社)を10質量%(10g/100g餌(L−エルゴチオネイン0.5mmol/100g餌))混ぜた餌(タモギエキス末含有餌)、(d2)通常餌にタモギエキス末含有餌に含まれるのと同量(L−エルゴチオネイン120mg(0.5mmol)/100g餌)のエルゴチオネイン(フナコシ社、#FR−111、L体のみ含有)を混ぜた餌(エルゴチオネイン含有餌)を与えて飼育した。投与開始2週間後に再度、5分間の強制水泳試験を行い、5分間のうちの無動時間を測定した。図2に、無動時間の測定結果を示す。
図2に示されるように、通常餌投与群a2と比較して、タモギエキス末含有餌投与群c2およびエルゴチオネイン含有餌投与群d2では、有意な無動時間の短縮が見られた。従って、タモギエキス末中に含まれるエルゴチオネインに抗うつ作用があることが判明した。
[血中および脳内のエルゴチオネイン濃度の測定−タモギエキス末とエルゴチオネインとの比較]
5週齢のC57BL/6雄性マウス(三協ラボ社)を3群に分け、(a3)通常餌、(c3)通常餌にタモギエキス末(エル・エスコーポレーション社)を10質量%(10g/100g餌(L−エルゴチオネイン0.5mmol/100g餌))混ぜた餌(タモギエキス末含有餌)、(d3)通常餌にタモギエキス末含有餌に含まれるのと同量(L−エルゴチオネイン120mg(0.5mmol)/100g餌)のエルゴチオネイン(フナコシ社、#FR−111、L体のみ含有)を混ぜた餌(エルゴチオネイン含有餌)を与えて19日間飼育し、血液中および脳内のエルゴチオネイン濃度を測定した。1群当たり6匹のマウスとした。測定は、Kato et al., Pharm Res 27, 832, 2010に記載の方法により、HPLCを用いて行った。この結果を図3および図4に示す。
図3および図4に示されるように、タモギエキス末含有餌投与群c3とエルゴチオネイン含有餌投与群d3の血液中および脳内エルゴチオネイン濃度は同程度であり、通常餌投与群a3と比較して非常に高い濃度であった。従って、エルゴチオネインが、経口摂取後に血中に移行すること、および血液脳関門を通過し、脳に効率よく移行することが判明した。この結果と、図2においてタモギエキス末含有餌投与群c2とエルゴチオネイン含有餌投与群d2でほぼ同程度の無動時間短縮が観察されたことから、タモギエキス末による抗うつ作用は、タモギエキス末に含まれるエルゴチオネインによる作用であることが明らかになった。
[自発運動活性測定試験]
強制水泳試験において見られた無動時間の減少が、自発運動量の増加に起因するものではないことを確認するため、自発運動量の測定を行った。自発運動量の測定は、強制水泳試験1で試験した各群のマウスについて、5分間に移動した距離(m)として測定した。
この結果、強制水泳試験1で試験したマウスについて、各群での自発運動量や、マウスの通った経路において顕著な差は見られなかった。従って、強制水泳試験における無動時間の減少は、自発運動量の増加に起因するものではないことが示された。
[オープンフィールド試験]
強制水泳試験1で試験した各群のマウスを、マウスにとって広くて明るく新奇な環境であるオープンフィールドテスト装置(縦45cm、横45cm、高さ45cm)に入れ、5分間の各区画(装置の外側、内側、中央)滞在時間と、立ち上がり回数を測定した。装置内におけるマウスの行動は、観察者が実際に観察記録するとともに、ビデオカメラでも撮影し、データを抽出した。区画滞在時間の測定の結果、各群の各区画での滞在時間に差はなかった。一方、立ち上がり回数は、通常餌投与群a4と比較して、タモギエキス末含有餌投与群c4で有意に増加しており(図5)、新奇環境における探索行動が増加する傾向があった。よって、タモギエキス末が、マウスの情動に何らかの作用を有している可能性が示された。一方、アスコルビン酸含有餌投与群b4の立ち上がり回数は、通常餌投与群a4と比較してほとんど差はなかった。よって、アスコルビン酸は、食物に含まれる水溶性の抗酸化物質である点でエルゴチオネインと同様であるが、マウスの情動に影響を及ぼさないことも判明した。
[尾懸垂試験]
5週齢のC57BL/6雄性マウス(三協ラボ社)を12匹ずつ3群に分け、(a5)通常餌、(c5s)通常餌にタモギエキス末(エル・エスコーポレーション社)を1質量%(1g/100g餌(L−エルゴチオネイン0.05mmol/100g餌))混ぜた餌(タモギエキス末1%含有餌)、(c5)通常餌にタモギエキス末(エル・エスコーポレーション社)を10質量%(10g/100g餌(L−エルゴチオネイン0.5mmol/100g餌))混ぜた餌(タモギエキス末10%含有餌)を与えて飼育した。投与開始2週間後に尾懸垂試験を行った。尾懸垂試験は、マウスの尾にテープを貼り付け、このテープを尾懸垂測定装置のフックに吊り下げ、2分間のうちの無動であった時間を計測することにより行った。図6に、尾懸垂試験の結果を示す。
図6に示されるように、タモギエキス末1%含有餌投与群c5sおよびタモギエキス末10%含有餌投与群c5は、通常餌投与群a5と比較して、尾懸垂試験における無動時間が有意に短い値を示した。よって、尾懸垂試験によっても、タモギエキス末にうつ病抑制作用があることが確認された。さらに、タモギエキス末の投与量が1g/100g餌(L−エルゴチオネイン0.05mmol/100g餌)という少量であっても、うつ病抑制作用を発揮することが確認された。
[血中および脳内のエルゴチオネイン濃度の測定−タモギエキス末の投与量による比較]
5週齢のC57BL/6雄性マウス(三協ラボ社)を4匹ずつ3群に分け、(a6)通常餌、(c6s)通常餌にタモギエキス末(エル・エスコーポレーション社)を1質量%(1g/100g餌(L−エルゴチオネイン0.05mmol/100g餌))混ぜた餌(タモギエキス末1%含有餌)、および(c6)通常餌にタモギエキス末(エル・エスコーポレーション社)を10質量%(10g/100g餌(L−エルゴチオネイン0.5mmol/100g餌))混ぜた餌(タモギエキス末10%含有餌)を与えて2週間飼育し、各群のマウスの血液中および脳内のエルゴチオネイン濃度を測定した。測定は、Kato et al., Pharm Res 27, 832, 2010に記載の方法により除タンパクを行った後、HILIC column(phenomenex、00F−4449−B0、150×2mm、3μm HILIC)を装備したLC−MS/MSを用いて行った。除タンパクを行った後のサンプルを1μLインジェクションし、0.1%ギ酸/MS用蒸留水および0.1%ギ酸/アセトニトリルを5:95−70:30の比率で混合した溶媒を用いて、0.3mL/minの流速で溶出した。まず、0.1%ギ酸/アセトニトリルの割合が95%となるように0.5分間維持し、続く3分間で30%まで減少させ、その状態でさらに2分間維持した。続いて、0.1秒で0.1%ギ酸/アセトニトリルが95%の条件に戻し、その状態でさらに2.4分間維持した。カラム温度は50℃、オートサンプラーの温度は4℃で維持した。分析は、LabSolutions instrumentに従った。イオン化は、陽イオンエレクトロスプレー法を用いた。MS/MSでの検出は、multiple reaction monitoring acquisition modeで行った。L−エルゴチオネインの親イオンはm/z値を230.3、娘イオンはm/z値を127.0に、内標として用いたL−エルゴチオネイン−d9の親イオンはm/z値を239.2、娘イオンはm/z値を127.0に設定した。窒素ガスをネブライザーガスとして、アルゴンガスをコリジョンガスとして用いた。この結果を図7および図8に示す。
図7および図8では、図3および図4で観察されたのと同様に、タモギエキス末投与群が、通常餌投与群a3と比較して非常に高い血液中および脳内エルゴチオネイン濃度を示していた。また、タモギエキス末10%含有餌投与群c6は、タモギエキス末1%含有餌投与群c6sよりもより高い血液中および脳内エルゴチオネイン濃度を示していた。図6の結果と合わせると、タモギエキス末の投与量が多いほど血液中および脳内のエルゴチオネイン濃度は増加するが、投与量が少量であっても尾懸垂試験では同程度の無動時間の短縮を達成できることが確認された。
a1、a2、a3、a4、a5、a6 通常餌投与群
b1、b4 アスコルビン酸含有餌投与群
c1、c2、c3、c4、c5、c6 タモギエキス末10%含有餌投与群
c5s、c6s タモギエキス末1%含有餌投与群
d2、d3 エルゴチオネイン含有餌投与群

Claims (1)

  1. 有効成分としてL−エルゴチオネインを含有し、前記L−エルゴチオネインの1日当たりの投与量が3〜50mgであるうつ病の予防薬または抑制薬であって、前記うつ病が、前記うつ病の抑制作用を強制水泳試験および尾懸垂試験で確認できるうつ病である予防薬または抑制薬
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