JP5901948B2 - ポリフェノール類化合物の苦渋味の評価方法 - Google Patents
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Description
苦渋味を軽減するためには、苦渋味が強い物質を除去または低減したり、苦渋味発現を抑制する作用の有る物質を付加または増強したりすることになり、その前提として物質毎に苦渋味を評価することが必要である。
而して、苦渋味を評価する手法としては、ヒト官能試験が一般的であるが、客観性を担保するためには優秀なパネリストを確保しなければならず、時間とコストの点で問題がある。
また、最近では、特許文献1に記載されているように、味覚センサなる装置も開発されているが、一度に使用する試料の量が数十〜数百mLと多い上に、装置自体が高価で測定から解析まで約一日掛かるため、時間とコストの点から同様に問題がある。
本発明は、それに応えて、極めて少量で、簡便、迅速且つある程度客観的に評価でき、最初の探索段階で候補のある程度の絞り込みを可能とする、新規且つ有用な評価手法を提供することをその目的とする。
また、評価対象とする物質がカテコール構造を有する場合には、接触の結果結合した物質とその周囲の溶媒を、レドックス・サイクリング染色法により染色し、その染色度合いからその結合した物質の量を評価することを特徴とする。
(1)苦渋味は、舌上皮細胞の細胞膜上に存在するリン脂質膜やタンパク質などの生体成分と親和性が高く相互作用し易い物質が発現し易く、逆に相互作用し難い物質が発現し難いと考えられていること。
(2)細胞膜を構成するリン脂質膜の主要な構成成分であるホスホリルコリン基を有する化合物でも上記と同様な相互作用を示し、しかも、種々の固定方法により基材上にホスホリルコリン基を有する層を形成することができ、特にホスホリルコリン基を含む重合体をコーティング(被覆)すれば基材上に簡易に再現性高く適度な吸着強度で固定させたホスホリルコリン基を有する被覆層を形成することが可能であること。
(3)疎水性基材にホスホリルコリン基を有する化合物を固定すれば、ポリフェノール類化合物をホスホリルコリン基に結合し易くできること。
(4)ポリフェノール類化合物にはカテコール構造を有し、レドックス・サイクリング染色法により染色される物質が多く存在するが、上記したホスホリルコリン基を有する化合物に結合した状態でも、染色強度の増減に影響が無いこと。
特に、ホスホリルコリン基を含有する重合体は、簡易に且つ均一に基材に適度な強度で固定させることができ、結果として生体中のリン脂質膜に酷似させることが可能となっている。しかも、カテコール構造を有する物質は、ホスホリルコリン基に結合した状態でも、レドックス・サイクリング染色法による染色強度の増加には影響しない。
従って、本発明によれば、ホスホリルコリン基を有する化合物、特に、ホスホリルコリン基を含有する重合体、さらには、少なくとも2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)を構成成分のひとつとして含有する重合体の利用と、更にはポリフェノール類化合物の種類によってはレドックス・サイクリング染色法との併用により、簡便、迅速且つある程度客観的にポリフェノール類化合物の苦渋味を評価できる。
上述の疎水性単量体以外の単量体に由来する構成単位が共重合体に含まれると耐溶出性が向上し、培地等に界面活性剤、有機溶剤を使用できることになるので好ましい。
例えば、グリシジル(メタ)アクリレートを用いた共重合体は、容器表面のアミノ基、カルボキシル基等と反応させることができ、該共重合体を、所望表面に化学的に結合させることができる。
前記共重合体において、疎水性単量体以外の単量体に由来する構成単位の割合は、70モル%以下が好ましい。
このようなホスホリルコリン基含有重合体としては、例えば、日油株式会社が製造するリピジュア(登録商標)シリーズの製品などを用いることができる。
また、共重合体が、エポキシ基、イソシアネート基、スクシンイミド基、アミノ基、カルボキシル基又は水酸基等の化学結合可能な官能基を有する場合には、基材表面のアミノ基、カルボキシル基又は水酸基と化学反応させるために、共重合体を含む溶液を化学結合可能な官能基が反応しない溶剤に溶解し、基材表面と化学結合させ被覆層を形成した後に、未反応の重合体を洗浄除去する。
コーティング液中の重合体の濃度は特に限定されず、上記した操作性を考慮して適宜設定されるが重量濃度で0.01〜50%、好ましくは0.1〜5.0%が良い。濃度が低すぎれば十分なホスホリルコリン基を含有する被覆層を得ることはできないし、多すぎても経済的ではない。
疎水性基材を使用した場合には、被覆層の表面側には疎水性部分であるメタクリロイル基が優先的に吸着し、親水性部分であるホスホリルコリン基側は離間側に優先的に配向するので、ホスホリルコリン基が疎水性基材の表面に露出した状態で吸着されることになる。この状態は、生体中のリン脂質膜に類似することを確認しており、本発明では、このMPCポリマーで被覆した、MPCコートプレートを使用することを推奨する。
具体的な製品としては、日油株式会社が製造・販売する商品名:リピジュア−コート(登録商標)等が挙げられる。
(プレートの活性化)
コートプレートに洗浄液を加え、適当に振とうした後、洗浄液を除去して、プレート中の被覆層である重合体を水に馴染ませる。
(測定試料の添加)
評価対象とする測定試料を加え、一定時間静置あるいは振とうしてインキュベーションを促す。この段階で、コートプレートに特定の物質が結合することになる。本発明では、結合し易い物質が苦渋味発現傾向の強いもの、即ち苦渋味の強いものであり、結合し難い物質が苦渋味発現傾向の弱いもの、即ち苦渋味の弱いものと想定している。
(プレートの洗浄)
上記した活性化で実施した操作を実施してプレートを洗浄することで、結合しなかった物質が除去される。
レドックス・サイクリング染色法により、プレートに残った物質とグリシンおよび発色剤の化学反応により周囲の溶液を呈色させ、その度合いを評価する。
図3に示すように、カテコール構造を有する物質は、アルカリ性条件下で活性酸素種(ROS)を産生し、キノン化合物を生成する。生成したキノン化合物は、グリシン存在下でレドックス・サイクルを形成し、再びROSを産生するので、1分子のポリフェノールから産生するROSの量が増幅される。水溶性の発色剤であるWST-8などの水溶性テトラゾリウムは、ROSを還元すると共に自身は酸化され水溶性ホルマザンとなり、460 nmにおいて極大吸収を持ち、上記したレドックス・サイクリング下では増幅したROSの量に比例して染色強度、即ち吸光度が増加するので、プレートに結合した物質毎に吸光度の差が大きく出ることになる。
従って、本発明では、レドックス・サイクリング下での水溶性ホルマザンによる染色により少量の試料にも対応可能としている。
定性的に簡易検査する場合には目視で十分であるが、定量にしたい場合には、予め用意しておいた検量線を利用して、測定試料の吸光度を基に結合量を算出すればよい。
試料は、カテキン類である、エピガロカテキン(EGC)とエピガロカテキンガレート(EGCg)とした。没食子酸がエステル結合したガレート基を持つEGCgがガレート基を持たないEGCよりもリン脂質膜に対する親和性が高く相互作用がし易い物質であることが既に確認されていることから、本発明の評価方法の信頼性を確認するために、EGCとEGCgを使用することとした。
96穴マイクロタイタープレートにMPCポリマーを被覆したMPCポリマーコートプレート(商品名:リピジュア−コート)に洗浄液の一例であるPBS(=リン酸緩衝生理食塩水)を200 μL/wellずつ加えて30秒間振とうした後、洗浄液を完全に除去する操作を3回繰り返し実施して、プレート中のMPCを水に馴染ませた。
(測定試料の添加)
評価対象とする測定試料は、カテキン類(EGC(エピガロカテキン)、EGCg(エピガロカテキンガレート))を緩衝液(100 mM)に溶解したものとし、これを100 μL/wellずつ添加し、一定時間静置した。
(プレートの洗浄)
測定試料をwellから取り除き、さらに、上記した活性化工程で実施した操作を3回にわたって繰り返し実施した。
(レドックス・サイクリング染色)
水溶性テトラゾリウム(0.01%(w/v))を含む2.0 Mグリシン水溶液(pH 10.0)を使用する直前に調整し、プレートに200 μL/wellずつ加えて溶液を呈色させ、結合量を算出した。
pH 6.0のリン酸緩衝液 (PB) に溶解して濃度を5、10、50 μMとしたものを測定試料とし、これを添加して10分間静置した。発色時間は0〜30分とした。
図4に示すように、測定試料の濃度が5〜50 μMとかなり広い範囲で変動しても、EGCの吸光度は殆ど変動せず、EGCとEGCgの差は十分にあり、特に発色時間を延ばすことでその差は大きく出ることが確認された。
pH 6.0のPBに溶解して濃度を10 μMとしたものを測定試料とし、これを添加して0〜120分間静置してインキュベーションを促した。発色時間は15分とした。
図5に示すように、静置時間が10分程度でも、EGCの吸光度は殆ど変動せず、EGCとEGCgの差が十分に出ることが確認された。
pH 4.0 〜8.0の緩衝液(pH 6.0〜8.0はPB、pH 4.0〜5.0は酢酸緩衝液)に溶解してpHを調整したものを測定試料とし、これを添加して15分間静置した。発色時間は10分とした。
図6に示すように、飲料として提供される弱酸性〜中性のpH範囲では、EGCとEGCgの差が十分に出ることが確認された。
種々の塩濃度のpH 6.0のPBに溶解したものを測定試料とし、これを添加して15分間静置した。発色時間は15分とした。
図7に示すように、飲料として提供される可能性のある塩濃度の範囲では、EGCとEGCgの差が十分に出ることが確認された。
具体的には、各種市販飲料をそれぞれに対応した飲用温度で保持しながら、水で10倍に希釈したものを測定試料とし、これを飲料として摂取する際に口に含む時間を考慮して約1秒間接触させた。発光時間は15分とした。
図8に示すように、EGCgを含む飲料は十分な吸光度を示すことが確認された。
(1)ワインを80℃で湯煎してアルコールを飛ばし、常温に戻してから水で100倍に希釈して、これを測定試料とした。そして、各種試料について、実施例2と同様にして吸光度を測定した。
(2)柿1 gに対して水9 mLを加えて乳鉢中でよく磨り潰した後に、遠心分離に供し上澄みを回収して、これを測定試料とした。そして、各種試料について、実施例2と同様にして吸光度を測定した。
いずれも、ポジティブコントロールとしてタンニン酸(50 μM)を使用した。
図9、図10に示すように、いずれも、本発明の評価方法より算出された吸光度の数値の差はヒト官能試験の結果と一致した。
Claims (6)
- 基材にホスホリルコリン基を有する化合物を固定したものに、液状のポリフェノール類化合物を接触させ、接触の結果結合し易いものを苦渋味発現傾向の強いものと評価するポリフェノール類化合物の苦渋味の評価方法であって、接触の結果結合した化合物周囲の溶液を、レドックス・サイクリング染色法により呈色させて吸光度を増加させて、吸光度の度合いで苦渋味発現傾向を評価することを特徴とする評価方法。
- 請求項1に記載したポリフェノール類化合物の苦渋味の評価方法において、基材にホスホリルコリン基を有する重合体を被覆により固定したものを使用することを特徴とする評価方法。
- 請求項1または2に記載したポリフェノール類化合物の苦渋味の評価方法において、疎水性基材にホスホリルコリン基と少なくとも疎水性単量体を含む重合体を固定したものを使用することを特徴とする評価方法。
- 請求項1から3のいずれかに記載したポリフェノール類化合物の苦渋味の評価方法において、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを構成単位とする重合物を被覆したものを使用することを特徴とする評価方法。
- 請求項1から4のいずれかに記載したポリフェノール類化合物の苦渋味の評価方法において、ポリフェノール類化合物を水性液形態で接触させることを特徴とする評価方法。
- 請求項5に記載したポリフェノール類化合物の苦渋味の評価方法において、ポリフェノール類化合物を含む飲料またはその希釈液を接触させることを特徴とする評価方法。
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