JP5897847B2 - 誘導加熱コイルの設計支援用シミュレーション方法および設計支援用シミュレーション装置 - Google Patents
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Description
ところで、ワークを均一に加熱する上で重要なことは、誘導加熱コイルの設計である。すなわち、誘導加熱コイルを、ワークの形状などに応じて適切に設計しなければ、ワークを均一に加熱することが難しい。このようなワーク形状に対応した誘導加熱コイルの形状は、これまでは、ベテラン設計者が過去の経験などを踏まえて試行錯誤しながら設計することが多かった。このため、誘導加熱コイルに関する経験や知識が少ない者がコイル設計に従事した場合、設計作業に時間やコストが嵩み、さらにコイルの試作回数も増大してコストがさらに増大するという問題があった。
この特許文献1に記載の方法は、スリット付きの複雑形状の平板表面を有するワークを効率的に加熱する誘導加熱コイルを設計するためのシミュレーション方法であり、そのようなワークであれば適切な誘導加熱コイルを容易に設計することができる。
特に、突起部を有するワークのように、立体的なワークを均一に加熱するための誘導加熱コイルは、平板ワーク用とは大きく相違し、設計が非常に難しいという問題があった。特に、突起部を有する薄肉のワークは、均一に加熱することが難しいため、ベテラン設計者であっても試行錯誤を繰り返して誘導加熱コイル形状を設計しなければならず、設計作業に時間やコストが嵩むという問題があった。
次に、このワークの温度分布結果が、あらかじめ設定された目標とする温度範囲内に該当するか否かを判定工程で判定する。そして、判定工程で目標温度範囲外と判定された場合は、その温度分布結果に基づいて誘導加熱コイル設計工程で誘導加熱コイルおよびコアを設計する。
このため、本発明では、標準モデルでシミュレーションした温度分布結果を参照して誘導加熱コイル、コアを設計し直すことができる。特に、突起部を有するワークにおいては、突起部の先端はコイルを近接配置しにくいため温度も上昇し難い。一方、突起部の先端以外はコイルを近接配置できるので、温度が上昇しやすい。たとえば、ワークの平面から突起部が上方に突出している場合、前記突起部の先端(上面)は温度が上昇し難い。これに対し、前記突起の先端(上面)からワーク平面(突起部の基端部)までの間に形成される突起部の側面や、前記ワークの平面は、コイルを近接配置できるので、温度が上昇しやすい。特に、突起部の肉厚寸法が小さい場合、容易に温度が上昇する。以上のため、ワークの温度分布にばらつきが生じる。
本発明は、誘導加熱コイルの標準モデルを用いた場合の温度分布をシミュレーションしてから誘導加熱コイル設計工程を実行する。このため、コイル設計時にワークにおいてどこが温度上昇し難いのかなどを把握できるので、コイルおよびコアの設計を適切に行える。
一方、低温部以外の場所は前記低温部に比べて加熱しやすい場所であるため、コアを設けずに誘導加熱コイルのターン数や配置位置を設定することで、目標温度範囲に加熱することができる。例えば、コアを無くした状態でも目標温度範囲よりも温度が高い場所は、誘導加熱コイルのターン数を少なくし、ターン間隔をあけることで、磁束を少なくして目標温度範囲に収めることができる。また、コアを無くした状態では目標温度範囲よりも温度が低い場所は、ターン数を増やし、ターン間隔を詰めた誘導加熱コイルとすることで、磁束を多くして目標温度範囲に収めることができる。
この際、コイルの断面形状やサイズも合わせて選定するように構成してもよい。コイルのターン数や配置位置に加えて、コイルの断面形状やサイズも選定すれば、より適切なコイル設計が可能となる。
このコアの設計時に、コアの種類の選定を同時に行ってもよい。例えば、異方性コアおよび無方向性コアの選択や、コアの透磁率の大きさの設定(磁束の集中のしやすさ)なども行えば、コアをより適切に設計することができる。
図1は、本実施形態における誘導加熱コイルの設計支援用シミュレーション装置1の構成を示すブロック図である。
設計支援用シミュレーション装置1は、RAMで構成される記憶部10と、CPU等の制御手段を備えたコンピュータで構成されている。そして、コンピュータでソフトウェアを実行することにより実現されるCADデータ読込部2、標準モデル読込部3、シミュレーション実行部4、判定部5、誘導加熱コイル設計部6を備えている。
さらに、設計支援用シミュレーション装置1は、キーボードやマウスなどの入力装置7と、液晶ディスプレイなどの表示装置8とを備えている。
すなわち、CADデータ読込部2は、作業者が入力装置7を用いて指定した被加熱部材(ワーク)のCADデータを読み込んで記憶部10に記憶するCADデータ読込工程S1を実行する。CADデータの読込は、ワークの設計コンピュータからネットワークを介して読み込んでもよいし、USBメモリなどの記憶媒体を介して読み込んでもよい。
図3には、ワーク20の突起部22の一例の断面図が示されている。このワーク20は、金属製のワークである。突起部22は、側面部221と、側面部221の上端間に設けられる上面部222とを備える。
そして、ワーク20の肉厚は、例えば5mm以下の薄肉とされている。このため、突起部22の側面部221間には空間23が形成され、この空間23は図示を略すが突起部22の下端側で開口している。
具体的には、設計支援用シミュレーション装置1によって、ワーク20の設計シミュレーションを初めて実行する場合は、誘導加熱コイルの初期設定の標準モデルを読み込む。
ワーク20に対する誘導加熱コイルの初期設定の標準モデル例を図3に示す。この標準モデルでは、誘導加熱コイル31と、コア32とが設定される。一般的なワーク内面加熱用の誘導加熱コイルは、ワークの内側に配置して加熱するものであり、本発明では、ワーク20の内部に誘導加熱コイル31を配置している。
このため、初期モデルでは、誘導加熱コイル31内にコア32を配置することでワーク20に磁束が集中するように構成し、加熱効率を向上させた。コア32は、側面部221に沿って2本設けられている。
なお、角管311を用いているのは、上面部222の幅寸法が小さいため、複数本のコイルを巻いて上面部222に沿って配置することがコイルの加工上難しいためである。そこで、丸管312に比べて面積が大きな角管311を用い、1本でも上面部222に加える磁束を大きくできるようにしたものである。
なお、通常の誘導加熱処理では、ワークを1000℃前後程度まで加熱することが一般的であるが、本実施形態は、ワーク20の表面に塗布された接着剤や塗装材を乾燥させるためなどの目的で加熱するものであり、目標温度範囲も誘導加熱処理では低い200〜240℃に設定している。
また、前記均一加熱領域や目標温度範囲は、上記の例に限定されず、ワーク20の種類や突起部22の形状、加熱目的などに応じて適宜設定すればよい。
具体的には、図3の標準モデルでは、200〜240℃を突起部22の均一加熱温度の目標範囲としていたが、突起部22の上面部222は40℃程度までしか温度が上昇しなかった。一方、突起部22の側面部221は、上面部222から下端側に向かうにしたがって温度が上昇し、その中間部分で約240℃であった。
すなわち、突起部22の側面部221は高い温度に上昇しているが、上面部222の温度が上昇せず、目標温度範囲の下限値に比べて所定値(例えば下限値の50%)以上低い温度であった。このため、上面部222は、本発明の低温部となる。
一方で、側面部221は、突起先端の上面部222に比べて加熱しやすいため、側面部221に磁束を加えるコアは設けていない。このため、誘導加熱コイル31Aのターン数を増やすことで温度低下を防止した。
この誘導加熱コイル設計部6による新たなモデル作成は、基本的な変更ルールを設定しておき、自動化してもよいし、作業者が入力装置7を利用して変更できるようにしてもよい。この際、特に磁場解析を行って、空間部位の磁束密度やベクトルポテンシャルと、ワーク20の各部位の電流分布または発熱分布を分析し、誘導加熱コイル31Aのターン数や配置位置、コア32Aのサイズや配置位置を設計すればよい。さらに、誘導加熱コイル31Aの断面形状やサイズ、コア32Aの選定(異方性コア、無方向性コアの選択や、透磁率の設定)も合わせて設定してもよい。
一方、判定工程S4で温度分布が均一であると判定された場合は、誘導加熱コイル設計部6は、その際の誘導加熱コイル31A、コア32Aを、新たな標準モデルとして記憶部10に記憶する標準モデル記憶工程S6を実行する。
例えば、図5のワーク20Bは、上面部222Bの幅寸法が前記ワーク20と異なるが、他の構成は類似している。このため、標準モデル読込工程S2では、図4の標準モデルを読み込み、ワーク20Bに合わせて微調整した誘導加熱コイル31Bおよびコア32Bを設定する。すなわち、ワーク20Bは、上面部222Bの幅寸法が大きくなっているので、コア32Bの幅寸法も大きくされている。また、コア32Bの幅寸法が大きくなったことに伴い、コア32Bの上面にも角管311を配置している。
一方、ワーク20Bの均一加熱領域で温度分布が均一であれば、その際の誘導加熱コイル31B、コア32Bを新たな標準モデルとして記憶する標準モデル記憶工程S6を行う。
本実施形態によれば、ワーク20の突起部22を均一に加熱するための誘導加熱コイルを設計する際に、標準モデルでシミュレーションした温度分布結果を参照して誘導加熱コイル31A、コア32Aを設計することができる。
このため、ワーク20の突起部22において、どこが加熱しやすく、どこが加熱しにくいかを判断でき、誘導加熱コイル31Aおよびコア32Aの設計を適切に行える。例えば、前記実施形態のワーク20では、突起部22の上面部222が加熱しにくく、温度が上昇しないことをシミュレーションで把握できる。
そこで、誘導加熱コイル設計部6は、低温部である上面部222に磁束を集中させるためにコア32Aをこの上面部222に対向する部分のみに配置し、側面部221に対向する部分は誘導加熱コイル31Aのターン数を増やしてコアが無くても目標温度範囲に達するように設計できる。
従って、ワーク20の突起部22に最適な誘導加熱コイル31Aおよびコア32Aを設計できる。
次に、本発明の第2実施形態について、図6を参照して説明する。
第2実施形態は、誘導加熱コイル設計部6が、ワーク20用のコア32Cの形状を磁場解析結果に基づいて行ったものである。
すなわち、前記実施形態では、コア32A、32Bの断面形状は矩形状であった。これに対し、本実施形態は、コア32Cの断面形状を、コア32Cの図面左側面325の高さ寸法を、右側面326の高さ寸法よりも長く設計する。このため、コア32Cの断面形状は左右対称ではなく、台形状に設計されている。
一方、角管311に接続された丸管312は、突起部22の内部をコイル状に巻かれている。このため、丸管312を流れる電流は、突起部22の右側の側面部221に沿って設けられた丸管312と、左側の側面部221に沿って設けられた丸管312とで逆方向になる。電流が流れることで発生する磁束線の方向も左右の丸管312で逆方向となるため、左右の丸管312の中央部(突起部22の幅方向中央部)では磁束線が打ち消しあって、磁束密度が0になる境界線40が存在する。ただし、突起部22の上端側では、角管311が幅方向中央に設けられているので、角管311によって発生する磁束線が存在する。従って、前記磁束密度が0になる境界線40は、角管311で発生する磁束線の影響で、角管311の下方から角管311の電流方向と逆方向の丸管312側に曲がっている。本実施形態では、図面左側の丸管312が角管311と逆方向の電流であるため、境界線40も図面左側に曲がっている。
この磁束密度が0の部分では、ワーク20を加熱することができない。そこで、本実施形態では、コア32Cの厚さ寸法(高さ寸法)を境界線40が曲がる方向、つまり角管311と逆方向の電流が流れる丸管312側を大きくし、コア32Cによって境界線40部分にも磁束が流れるようにすることで、その部分を他の部分と同様に加熱できるようにしたものである。
なお、本発明は前記実施形態の構成に限らない。
たとえば、突起部を有するワーク用の誘導加熱コイルを初めて設計する場合、記憶部10に作業者が設計した標準モデルを記憶しておいてもよいが、設計支援用シミュレーション装置1がワークのCADデータに基づいて、コイルの標準モデルを自動的に作成してもよい。この場合、作業者が予め標準モデルを用意しておく必要が無く、設計作業性を向上できる。
この自動作成される標準モデルは、図3に示すモデルと同様に、誘導加熱コイル31を等間隔に配置したものにすればよい。
Claims (6)
- 突起部を有する被加熱部材を、前記突起部に沿って配置した誘導加熱コイルで加熱する場合の前記誘導加熱コイルの設計を支援するためにコンピュータで実行する設計支援用シミュレーション方法であって、
前記被加熱部材のCADデータをコンピュータに読み込むCADデータ読込工程と、
前記誘導加熱コイルの標準モデルをコンピュータに読み込む標準モデル読込工程と、
前記CADデータの突起部に沿って、前記標準モデルの誘導加熱コイルを配置して加熱した際の被加熱部材の温度分布をコンピュータでシミュレーションするシミュレーション実行工程と、
前記シミュレーション実行工程で求めた被加熱部材の温度分布結果が目標とする温度範囲内になったかを判定する判定工程と、
前記判定工程で目標とする温度範囲から外れたと判定された場合に、前記温度分布結果に基づいて、前記誘導加熱コイルおよび磁束を収束させる部材であるコアを設計する誘導加熱コイル設計工程と、
を備えることを特徴とする誘導加熱コイルの設計支援用シミュレーション方法。 - 請求項1に記載の誘導加熱コイルの設計支援用シミュレーション方法において、
前記誘導加熱コイル設計工程は、前記シミュレーション実行工程で求めた被加熱部材の温度分布結果において、目標温度範囲に比べて所定値以上温度が低い低温部がある場合は、被加熱部材の低温部に磁束を収束させるコアを配置し、被加熱部材の低温部以外にはコアは配置せずに誘導加熱コイルのターン数および配置位置を設定する
ことを特徴とする誘導加熱コイルの設計支援用シミュレーション方法。 - 請求項1または請求項2に記載の誘導加熱コイルの設計支援用シミュレーション方法において、
前記誘導加熱コイル設計工程は、磁場解析を行い、その解析によって得られる前記被加熱部材の渦電流分布および発熱分布に基づいて前記コアのサイズおよび形状を設計する
ことを特徴とする誘導加熱コイルの設計支援用シミュレーション方法。 - 請求項1から請求項3のいずれかに記載の誘導加熱コイルの設計支援用シミュレーション方法において、
前記シミュレーション実行工程は、前記誘導加熱コイル設計工程で誘導加熱コイルおよびコアが設計された場合、その設計された誘導加熱コイルおよびコアを前記CADデータの突起部に沿って配置して加熱した際の被加熱部材の温度分布をコンピュータでシミュレーションし、
前記判定工程で、前記シミュレーション実行工程で求めた被加熱部材の温度分布結果が目標とする温度範囲内になった場合に、そのシミュレーションで用いられた誘導加熱コイルおよびコアを標準モデルとして記憶する標準モデル記憶工程を備える
ことを特徴とする誘導加熱コイルの設計支援用シミュレーション方法。 - 請求項1から請求項4のいずれかに記載の誘導加熱コイルの設計支援用シミュレーション方法において、
前記標準モデル読込工程は、標準モデルが設定されていない場合、前記CADデータ読込工程で読み込まれたCADデータに基づいて、誘導加熱コイルを等間隔に配置した標準モデルを作成して読み込む
ことを特徴とする誘導加熱コイルの設計支援用シミュレーション方法。 - 突起部を有する被加熱部材を、前記突起部に沿って配置した誘導加熱コイルで加熱する場合の前記誘導加熱コイルの設計を支援するためのシミュレーションを実行する設計支援用シミュレーション装置であって、
前記被加熱部材のCADデータを読み込むCADデータ読込部と、
前記誘導加熱コイルの標準モデルを読み込む標準モデル読込部と、
前記CADデータの突起部に沿って、前記標準モデルの誘導加熱コイルを配置して加熱した際の被加熱部材の温度分布をシミュレーションするシミュレーション実行部と、
前記シミュレーション実行部で求めた被加熱部材の温度分布結果が目標とする温度範囲内になったかを判定する判定部と、
前記判定部で目標とする温度範囲から外れたと判定された場合に、前記温度分布結果に基づいて、前記誘導加熱コイルおよびコアを設計する誘導加熱コイル設計部と、
を備えることを特徴とする誘導加熱コイルの設計支援用シミュレーション装置。
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