車両用排ガス浄化触媒において、触媒層内のガス拡散性の向上は、加速時など高空間速度条件下で、活性点である貴金属粒子と排気ガスとの接触率を上げることに繋がる。そのため、触媒層内のガス拡散性の向上は、触媒性能の向上に必須の条件である。
そして、排ガス浄化触媒におけるガス拡散性を向上させる手法は、主に2つに分けられる。1つ目は触媒層内の細孔容積の拡大である。例えば、触媒層内の細孔容積は、触媒層を構成する触媒粒子のサイズを大きくすることで、間接的に粒子間空隙を拡大し、細孔容積を増加させることができる。また、触媒層の製造過程における最終焼成時などで消失する高分子材料などの造孔材を用いて触媒層に直接空隙を生成することにより、細孔容積を増加させることができる。そして、このようにして形成される触媒層の細孔サイズは数ミクロンオーダーであり、主に水銀ポロシメータ等で細孔径及び細孔容積を測定することが可能である。
そして、ガス拡散性を向上させる手法の2つ目は、本発明の主眼である、触媒粒子個々の内部に存在する細孔の容積の拡大である。以下、このような手法を適用した本発明の排ガス浄化触媒の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
[排ガス浄化触媒]
図1に示すように、本実施形態に係る排ガス浄化触媒1(以下、触媒ともいう。)は、図2に示す触媒粒子2を複数備えている。つまり、排ガス浄化触媒1は、触媒粒子2の二次粒子(凝集体)からなるものである。そして、触媒粒子2は、図1及び図2に示す包接構造を有する。具体的には、触媒粒子2は、貴金属粒子3とアンカー粒子4とを含有している。アンカー粒子4は、貴金属粒子3のアンカー材として貴金属粒子3を表面に担持している。さらに触媒粒子2は、貴金属粒子3とアンカー粒子4との複合粒子5を包接し、隣接する複合粒子5の間を互いに隔てる包接材6を含有する。
触媒粒子2では、貴金属粒子3とアンカー粒子4とが接触して担持することにより、アンカー粒子4が化学的結合のアンカー材として作用し、貴金属粒子3の移動を抑制する。また、貴金属粒子3が担持されたアンカー粒子4を包接材6で覆い、内包する形態とすることにより、貴金属粒子3が包接材6により隔てられた区画を越えて移動することを物理的に抑制する。さらに、包接材6により隔てられた区画内にアンカー粒子4を含むことにより、包接材6により隔てられた区画を越えてアンカー粒子4同士が接触し凝集することを抑制する。これによって、アンカー粒子4が凝集することを防止するだけでなく、アンカー粒子4に担持された貴金属粒子3同士が凝集することも防止できる。その結果、触媒粒子2は、製造コストや環境負荷を大きくすることなく、貴金属粒子3の凝集による触媒活性の低下を抑制することができる。また、アンカー粒子4による貴金属粒子3の活性向上効果を維持することができる。
このように、貴金属粒子3及びアンカー粒子4の両方が包接材6で内包されることにより、貴金属粒子3の凝集を抑制することが可能となる。ただ、貴金属粒子3及びアンカー粒子4の周囲が包接材6により覆われることから、排気ガスが活性点である貴金属粒子3に到達し難くなる可能性がある。
これに対し、本実施形態の排ガス浄化触媒1では、触媒粒子2の二次粒子の内部に、伸長した細孔7が形成されている。その結果、複合粒子5の周囲に排気ガスが到達しやすくなる。さらに後述のように、包接材6には複数の微細孔6aが存在することから、活性点である貴金属粒子3に対し排気ガスが接触しやすくなり、浄化性能を向上させることが可能となる。
より詳細に説明すると、本実施形態の排ガス浄化触媒では、触媒粒子2の二次粒子の内部に形成された細孔7が、円筒形や直方体、円盤状など、球に対し伸長した形状となっている。このため、二次粒子の径、重量及び細孔容積を一定とした場合、球状に比べ伸長形状の場合には細孔同士の接点が相対的に増加する。つまり、断面における長径(D)と短径(L)との比(D/L)が1の細孔が二次粒子内に均等に分布している状態に比べ、当該比(D/L)が1を超えるシンメトリーでない細孔が二次粒子内に均等に分布している状態では、細孔同士の接点が増加する。この接点の数は、細孔の断面形状における長径(D)と短径(L)との比(D/L)に対し指数的に増加する。その結果、細孔間の繋がりが増大することから、二次粒子の内部に存在する触媒粒子2の貴金属粒子3に対し、より排気ガスが到達しやすくなる。そのため、触媒粒子2における活性点と排気ガスとの接触率が上昇し、触媒性能が向上する。
そして、本実施形態において、触媒粒子2の二次粒子内の細孔7の断面における長径(D)と短径(L)との比(D/L)に関する頻度分布の平均値が2.0以上であることが好ましい。つまり、触媒粒子2の二次粒子の内部に存在する全細孔7に関し、細孔径(短径)に対して細孔長(長径)が2倍以上のものが最も多く存在していることが好ましい。これにより、細孔間の接点がより増加するため、二次粒子内での排気ガスの拡散性が向上する。また、二次粒子内でのガス拡散性が向上するため、たとえ二次粒子の粒子径が増大したとしても、二次粒子内部の貴金属粒子と排気ガスとの接触率を向上させることができる。
なお、触媒粒子2の二次粒子の内部には、断面における長径(D)と短径(L)との比(D/L)が2.0以上である長細孔が複数存在し、当該長細孔同士は連通していることが好ましい。つまり、前記長細孔同士が接触していることが好ましい。これにより、二次粒子内での排気ガスの拡散性が大幅に向上し、二次粒子内部の貴金属粒子と排気ガスとが効率的に接触することができる。
なお、細孔7の頻度分布の平均値は2以上であることが好ましいが、平均値は2以上10以下であることがより好ましく、2以上5以下であることが特に好ましい。細孔7の平均値が10を超える場合であっても本願発明の効果を得ることができるが、平均値が10を超える場合では二次粒子内の細孔を基点として二次粒子の破壊が生じ、二次粒子の粒子径が必要以上に微小化する虞がある。なお、細孔7の平均値が10以下、特に5以下である場合には、二次粒子の破壊の発生をより抑制することが可能となる。
ここで、触媒粒子2の二次粒子の内部に形成された細孔7の断面における長径(D)と短径(L)との比(D/L)の頻度分布は、次のように求めることができる。
(1)まず、後述する排ガス浄化触媒構造体を切断し、樹脂により包埋し、図3(a)のように二次粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮像する。このとき、当該構造体における触媒層の上端部、中央部及び下端部等に測定点が偏らないよう複数撮像することが望ましい。また、各構造体中でも複数のセルを撮影することが望ましい。なお、触媒粒子内部の細孔を観察するために、ミクロトーム処理を行い、超薄膜切片を作成することで、より明瞭に断面画像を得ることが可能である
(2)次に、触媒粒子の二次粒子を拡大する。つまり、SEM像の倍率を上げ、二次粒子中の細孔の長径及び短径が測定可能な倍率にする。
(3)さらに、拡大後のSEM像における細孔部分を二値化抽出する。通常のSEM像では触媒粒子のない部分、つまり試料の前処理時に樹脂が充填された部分は電子線を反射しないため、黒く写る。そのため、図3(b)に示すように、この画像の白黒を反転させ、さらに二値化処理を行うと、細孔部分が白く抽出される。
(4)その後、白く抽出された部分の輪郭抽出を行い、各細孔の長径(D)と短径(L)から比(D/L)を算出する。
(5)得られたデータについて、横軸に当該比(D/L)、縦軸に頻度を取ると、二次粒子中の細孔に関する比(D/L)の頻度分布が得られる。そして、このグラフ中の平均値を読み取る。
なお、図4に示すように、長径7aは細孔7の輪郭形状における外周上の最大2点間距離をいい、短径7bは、長径7aの中点を通り長径7aの方向に直角な線が、細孔7の輪郭を横切る長さをいう。
ここで、本実施形態に係る排ガス浄化触媒は、上記頻度分布を有していることに加え、複数の触媒粒子2における、細孔径が0.1〜10μmの範囲の前記細孔に係る細孔容積の合計値が0.5cc/g以上であることを特徴とする。触媒粒子2からなる触媒粉末の細孔容積を0.5cc/g以上とすることにより、触媒粒子内部の細孔容積の絶対量が増加する。そのため、触媒粒子内部に排気ガスが拡散しやすくなり、触媒反応を向上させることが可能となる。
本実施形態では、複数の触媒粒子2における上記細孔容積の合計値が0.5cc/g以上であることが好ましいが、細孔容積の合計値が0.5cc/g以上0.7cc/g以下であることが特に好ましい。細孔容積の合計値が0.7cc/gを超える場合であっても本願発明の効果を得ることができるが、0.7cc/gを超える場合では二次粒子の破壊が生じ、二次粒子の粒子径が必要以上に微小化する虞がある。なお、細孔径が0.1〜10μmの範囲の細孔に係る細孔容積は、窒素ガス吸着法により測定することが好ましいが、水銀圧入法でも測定することができる。
また、触媒粒子2の二次粒子は、平均粒子径(D50)が6μm以下であることが好ましい。触媒粒子2の二次粒子が6μmを超える場合であっても本願発明の効果を得ることができるが、6μmを超える場合、ハニカム担体へのコート時に触媒層の剥離や偏りなどが起き易くなる。触媒粒子2の二次粒子の平均粒子径は、剥離を抑制できる3μm〜6μmの範囲であることがより好ましい。なお、触媒粒子2の二次粒子の平均粒子径は、これらの粒子を含有するスラリーをレーザー回折式粒度分布測定装置にかけることにより求めることができる。また、この場合の平均粒子径とは、メジアン径(D50)をいう。
ここで、本実施形態の排ガス浄化触媒に係る触媒粒子2について、さらに詳細に説明する。図2に示した触媒粒子2において、包接材6により隔てられた領域内では、貴金属粒子3と、アンカー粒子4の一次粒子が凝集した二次粒子とを含有した触媒ユニット8が包接されている。しかし、アンカー粒子4は、包接材6により隔てられた領域内において一次粒子として存在しても良い。つまり、触媒ユニット8は、貴金属粒子3とアンカー粒子4の一次粒子とを含有したものであっても良い。
貴金属粒子3としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、金(Au)、銀(Ag)、イリジウム(Ir)及びルテニウム(Ru)の中からなる群から選ばれる少なくとも一つを使用することができる。そして、これらの貴金属の中でも、白金(Pt)、パラジウム(Pd)及びロジウム(Rh)が最も費用対効果が高く、排ガス浄化触媒に用いる貴金属として適当である。
また、アンカー粒子4は、遷移金属を含有することが好ましい。特に、アンカー粒子4は、セリウム(Ce)及びジルコニウム(Zr)の少なくとも一方を含有することが好ましい。アンカー粒子が少なくともCe及びZrから選ばれる1つ以上の元素を含むことで、貴金属粒子に対するアンカー機能が向上し、耐久後の貴金属粒子の凝集を抑制することができる。
なお、アンカー粒子4としては、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化セリウム(CeO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化イットリウム(Y2O3)及び酸化ネオジム(Nd2O3)の中から選ばれる少なくとも一つを主成分とすることができる。この中でも、CeO2やZrO2は高温耐熱性に優れ、高い比表面積を維持できるため、アンカー粒子4としてCeO2やZrO2を主成分とすることが好ましい。なお、本明細書において、主成分とは粒子中の含有量が50モルパーセント以上の成分のことをいう。
包接材6はアルミニウム(Al)及びケイ素(Si)の少なくともいずれか一方を含むことが好ましい。包接材6としては、アンカー粒子を包接でき、かつ、ガス透過性を確保できる材料が好ましい。このような観点から、Al及びSiの少なくとも一つを含む化合物、例えばアルミナ(Al2O3)及びシリカ(SiO2)などは細孔容積が大きく、高いガス拡散性を確保することができる。また、これらの化合物は、アンカー粒子同士の凝集を抑制するための包接機能を有している。そのため、包接材6は、Al2O3及びSiO2を主成分とすることが好ましい。なお、包接材は、Al及びSiの複合化合物であっても良い。
ここで、触媒粒子2における、アンカー粒子4の重量比が30〜70wt%であり、包接材6の重量比が70〜30wt%であることが好ましい。アンカー粒子の重量比が30wt%以上であることにより、アンカー粒子上に担持される貴金属の密度が低下する。つまり、1つのアンカー粒子に担持される貴金属量が低減されるため、耐久後にアンカー粒子上で貴金属粒子が凝集したとしても、貴金属粒子が大幅に肥大化しない。その結果、貴金属粒子の表面積の低下を抑制することができる。また、アンカー粒子の重量比が70wt%以下であることにより、包接材量が低下することを抑制できる。そのため、耐久後であってもアンカー粒子同士の凝集及びこれに伴う貴金属粒子同士の凝集を抑制することができる。
ここで、触媒粒子2で使用される包接材6は、触媒ユニット8の周囲を完全に包囲するわけではない。つまり、包接材6は、触媒ユニット8の物理的移動を抑制する程度に覆いつつも、排気ガスや活性酸素が透過できる程度の微細孔を有している。具体的には、図2に示すように、包接材6は、触媒ユニット8を適度に包接し、それぞれのユニット同士の凝集を抑制している。さらに、包接材6は、複数の微細孔6aを有しているため、排気ガスや活性酸素が通過することができる。この微細孔6aの細孔径は、30nm以下が好ましく、10nm〜30nmがより好ましい。なお、この細孔径は、窒素ガス吸着法により求めることができる。
上述のように、このような包接材6としては、アルミナ(Al2O3)やシリカ(SiO2)を使用することができる。包接材がアルミナからなる場合、前駆体としてベーマイト(AlOOH)を使用することが好ましい。つまり、貴金属粒子3を担持したアンカー粒子4を、ベーマイトを水等の溶媒に分散させたスラリーに投入し、攪拌する。これにより、アンカー粒子4の周囲にベーマイトが付着する。そして、この混合スラリーを乾燥及び焼成することにより、アンカー粒子4の周囲でベーマイトが脱水縮合し、ベーマイト由来のγアルミナからなる包接材が形成される。このようなベーマイト由来のアルミナからなる包接材は、アンカー粒子4を覆いつつも30nm以下の微細孔を多く有しているため、ガス透過性にも優れている。
同様に、包接材がシリカからなる場合には、前駆体としてシリカゾルとゼオライトを使用することが好ましい。つまり、貴金属粒子3を担持したアンカー粒子4を、シリカゾル及びゼオライトを溶媒に分散させたスラリーに投入し、攪拌し、乾燥及び焼成することにより、シリカからなる包接材が形成される。このようなシリカゾル及びゼオライト由来のシリカからなる包接材も、アンカー粒子4を覆いつつも30nm以下の微細孔を多く有しているため、ガス透過性に優れている。
なお、包接材6により隔てられた区画内に含まれる触媒ユニット8の平均粒子径は300nm以下であることが好ましい。そのため、触媒ユニット8に含まれるアンカー粒子4の平均二次粒子径も300nm以下であることが好ましい。この場合には、貴金属を微粒子状態に維持することができる。より好ましい触媒ユニット8の平均粒子径及びアンカー粒子の平均二次粒子径は200nm以下である。これにより、アンカー粒子の二次粒子上に担持される貴金属量がさらに減るため、貴金属の凝集を抑制することができる。なお、触媒ユニット8の平均粒子径及びアンカー粒子4の平均二次粒子径の下限は特に限定されないが、例えば5nmとすることができる。ただ、後述するように、触媒ユニット8の平均粒子径が包接材6に形成されている微細孔6aの平均細孔径より大きいことが好ましい。そのため、触媒ユニット8の平均粒子径及びアンカー粒子4の平均二次粒子径は、30nmを超えることがより好ましい。
アンカー粒子の平均二次粒子径は、触媒粒子を含有するスラリーを、レーザー回折式粒度分布測定装置にかけることにより求めることができる。なお、この場合の平均二次粒子径とは、メジアン径(D50)をいう。また、得られた触媒粉末の透過型電子顕微鏡(TEM)の写真より、アンカー粒子の平均二次粒子径や後述する貴金属粒子の粒子径を測定することもできる。さらに、触媒ユニット8の平均粒子径もTEM写真より測定することができる。
また、貴金属粒子3の平均粒子径は2nm以上10nm以下の範囲内にあることが望ましい。貴金属粒子3の平均粒子径が2nm以上である場合には、貴金属粒子3自身の移動によるシンタリングを低減することができる。また、貴金属粒子3の平均粒子径が10nm以下である場合には、排気ガスとの反応性の低下を抑えることができる。
ここで、貴金属粒子3とアンカー粒子4とを含有した触媒ユニット8に関し、その触媒ユニット8の平均粒子径Daと、触媒ユニット8を内包する包接材6に形成されている微細孔6aの平均細孔径Dbとが、Db<Daの関係を満たすことが好ましい。つまり、図2に示すように、Db<Daは、触媒ユニット8の平均粒子径Daが、包接材6の微細孔6aの平均細孔径Dbよりも大きいことを意味している。Db<Daであることにより、貴金属粒子3とアンカー粒子4との複合粒子5が、包接材6に形成されている微細孔6aを通して移動することが抑制される。従って、他の区画に包接される複合粒子5との凝集を低減することができる。
なお、上記不等式Db<Daの効果は、本発明者らの実験により確認されている。図5は、排気耐久試験前の複合粒子5の平均粒子径Daと包接材の平均細孔径Dbとの比Da/Dbを横軸に、排気耐久試験後のアンカー粒子4としてのセリアの結晶成長比及び貴金属粒子3としての白金の表面積を縦軸にして、これらの関係を示すグラフである。図5から、Da/Dbが1を超える場合にはCeO2の結晶成長比が顕著に低下し、CeO2の焼結が少ないことが分かる。また、耐久試験後でもPtの表面積が高い状態で維持され、Ptの凝集が抑制されていることが分かる。
さらに、貴金属粒子3の80%以上はアンカー粒子4に接触していることが望ましい。
アンカー粒子4と接触している貴金属粒子3の割合が80%未満の場合であっても本願発明の効果を得ることができる。しかし、当該割合が80%未満であると、アンカー粒子4上に存在しない貴金属粒子3が増加するため、貴金属粒子3の移動によってシンタリングが進むことがある。
また、アンカー粒子4は、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)及びニッケル(Ni)から選ばれる少なくとも一つをさらに含む酸化物であることが好ましい。つまり、上述のように、アンカー粒子4はセリアやジルコニアを主成分としている。そして、アンカー粒子に上記遷移金属を添加物として含有することが望ましい。これらの遷移金属を少なくとも一つを含有することで、遷移金属が有する活性酸素により触媒性能、特にCO及びNOx浄化率を向上させることができる。
また、アンカー粒子4は、バリウム(Ba),マグネシウム(Mg),カルシウム(Ca),ストロンチウム(Sr)及びナトリウム(Na)から選ばれる少なくとも一つのNOx吸着材をさらに含むことが好ましい。これらの元素を含む化合物は、いずれもNOx吸着材として作用する。そのため、アンカー粒子にNOx吸着材を含むことで、NOx浄化性能を向上させることができる。これはNOx吸着反応がガスの接触に非常に感度があるためである。これらのNOx吸着材を含む触媒は、理論空燃比付近で燃焼させるエンジンよりも大量にNOxが生じるリーンバーンエンジン用の触媒として好適である。なお、ストイキ雰囲気での燃焼を主としたガソリンエンジンに用いる場合にはこの限りではない。
さらに、包接材6は、セリウム(Ce)、ジルコニウム(Zr)、ランタン(La)、バリウム(Ba)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)及びナトリウム(Na)の少なくともいずれか一つを含有する酸化物であることが好ましい。セリウムを含有することにより、包接材にも酸素吸蔵放出能を与え、排気ガス浄化性能を向上させることができる。また、ジルコニウム及びランタンを含有させることで、包接材の耐熱性を向上させることができる。さらに、包接材にバリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びナトリウムのようなNOx吸着材を含有させることで、NOx浄化性能を向上させることができる。なお、ストイキ雰囲気での燃焼を主としたガソリンエンジンに用いる場合にはこの限りではない。また、これらの元素は包接材の前駆体スラリーにこれらの元素の硝酸塩や酢酸塩等を混合することにより、含有させることができる。
また、包接材6により隔てられた区画内には、貴金属粒子3を合計で8×10−20モル以下の量で含有することが好ましい。つまり、一つの触媒ユニット8内において、貴金属粒子3のモル数は8×10−20モル以下であることが好ましい。包接材6により隔てられた区画内では、高温状態において複数個の貴金属粒子3が移動し、互いに凝集する場合がある。この場合、貴金属粒子3はアンカー粒子4の効果によって包接材6には移動せず、アンカー粒子4の表面で一つ又は複数個の貴金属粒に凝集する。
ここで、一つの触媒ユニット8内で貴金属粒子3が凝集した場合に、凝集した貴金属粒子3の粒径が10nm以下であれば、充分な触媒活性を示し、凝集による劣化を抑制することができる。図6は、貴金属としての白金やパラジウムに関し、粒子径と表面積との関係を示すグラフである。なお、図6では白金とパラジウムの場合でほぼ同じ曲線を示すので、一つの曲線として示している。図6から明らかなように、貴金属の粒子径が10nm以下であれば表面積が大きいため、凝集による触媒活性の劣化を抑制することができる。
そして、図7は、貴金属としての白金やパラジウムに関し、粒子径と原子数との関係を示すグラフである。なお、図7では白金とパラジウムの場合でほぼ同じ曲線を示すので、一つの曲線として示している。図7から明らかなように、粒子径が10nmであるとき、貴金属の原子数は約48000であり、この値をモル数に換算すると約8×10−20モルとなる。これらの観点から、触媒ユニット8内の貴金属量を制限し、8×10−20モル以下とすることで、たとえ触媒ユニット8内で貴金属が1個に凝集しても、触媒活性の劣化を抑制することができる。なお、触媒ユニット8内に含まれる貴金属量を8×10−20モル以下にする方法としては、貴金属粒子3を担持するアンカー粒子4の粒径を小さくすることが挙げられる。
さらに、触媒粒子2において、貴金属粒子3のアンカー粒子4への吸着安定化エネルギーがEaであり、貴金属粒子3の包接材6への吸着安定化エネルギーがEbであるとき、EaがEbよりも小さい値であること(Ea<Eb)が好ましい。貴金属粒子3のアンカー粒子4への吸着安定化エネルギーEaが、貴金属粒子3の包接材6への吸着安定化エネルギーEbよりも小さいことにより、貴金属粒子3が包接材6に移動することを抑制できる。その結果、貴金属粒子3の凝集をさらに低減することができる。
また、貴金属粒子3のアンカー粒子4への吸着安定化エネルギーEaと、貴金属粒子3の包接材6への吸着安定化エネルギーEbとの差(Eb−Ea)が、10.0cal/molを超えることがより好ましい。吸着安定化エネルギー差が10.0cal/molを超えることにより、貴金属粒子3が包接材6に移動することをより確実に抑制することができる。
なお、貴金属粒子3のアンカー粒子4への吸着安定化エネルギーEaや、貴金属粒子3の包接材6への吸着安定化エネルギーEbは、いずれも密度汎関数法を用いたシミュレーションにより算出することができる。この密度汎関数法は、多電子間の相関効果を取り入れたハミルトニアンを導入して、結晶の電子状態を予測する方法である。その原理は、系の基底状態の全エネルギーを電子密度汎関数法で表すことができるという数学的定理に基づいている。そして、密度汎関数法は、結晶の電子状態を計算する手法として信頼性が高い。
このような密度汎関数法は、アンカー粒子4や包接材6と貴金属粒子3との界面における電子状態を予測するのに適している。そして、実際のシミュレーション値を基に選択した貴金属粒子、アンカー粒子及び包接材の組み合わせを基に設計した本実施形態の触媒は、貴金属粒子の粗大化が生じにくく、高温耐久後も高い浄化性能を維持することが確認されている。このような密度汎関数法を用いたシミュレーションのための解析ソフトウェアは市販されており、解析ソフトの計算条件の一例としては、以下のものが挙げられる。
プリ/ポスト:Materials studio 3.2 (Accelrys社製)、ソルバ:DMol3 (Accelrys社製)、温度:絶対零度、近似:GGA近似
[排ガス浄化触媒構造体]
図8では、本実施形態に係る排ガス浄化触媒構造体20を示す。排ガス浄化触媒構造体20は、図8(a)に示すように、複数のセル21aを有するハニカム担体(耐火性無機担体)21を備えている。排気ガスは、矢印Fに沿って各セル21a内を流通し、そこで触媒層22と接触することにより浄化される。
そして、排ガス浄化触媒構造体20では、図8(b)に示すように、ハニカム担体21の内表面上に触媒層22が形成されている。そして、触媒層22は、排ガス浄化触媒1、つまり触媒粒子2の二次粒子(凝集体)により形成されている。このような構成の排ガス浄化触媒構造体20が内燃機関の排気ガス流路に設置された場合には、内燃機関から排出される排気ガスと触媒層22中の貴金属粒子3との接触率を高めることが可能となる。
ハニカム担体21としては、コージェライト製ハニカム担体を用いることができる。コージェライト製ハニカム担体は、耐熱性、耐衝撃性及び製造コストに優れ、自動車用排ガス浄化触媒の担体として一般的に用いられる。流路(セル21a)の断面形状は四角形や六角形などがあるが、本実施形態ではいずれの形状でも使用することができる。また、耐火性無機担体21としては、ステンレス製のメタル担体も用いることができる。メタル担体は、壁厚を薄く加工できることから、圧力損失の低減が要求される高出力車を中心に採用される。メタル担体は、波状に加工されたステンレス箔を同心円状に巻き取る加工するため、流路形状は主として3箇所に隅部をもつ不定形な形状となる。本実施形態ではこの形状の担体にも使用することができる。
さらに本実施形態における排ガス浄化触媒構造体20の触媒層22は、図8(b)に示すように、複数の触媒層22a及び22bが積層された構造とすることができる。触媒層22を複数設けることで、触媒性能を向上させることが可能となる。例えば、白金(Pt)、パラジウム(Pd)及びロジウム(Rh)は互いに合金化しやすく、また合金化することで高温時の凝集が進行し易くなる。このため、各貴金属を担持する層を分けることで、合金化を抑制することが可能となる。
なお、排ガス浄化触媒構造体に複数の触媒層を設けた場合、各触媒層に含有する触媒粒子の細孔容積は、触媒層ごとに異なるようにしても良い。具体的には、ハニカム担体に隣接する内層触媒層中の触媒粒子の細孔容積よりも、表層触媒層中の触媒粒子の細孔容積を増加させても良い。これにより、表層触媒層から内層触媒層へのガス拡散性をより向上させることができる。逆に表層触媒層中の触媒粒子の細孔容積よりも、内層触媒層中の触媒粒子の細孔容積を増加させても良い。
ここで、ガソリンエンジンを搭載する車両の排ガス浄化システムは、搭載される車両の仕向け及び排気規制に拠るが、マニホールド触媒構造体と床下触媒構造体の2つの触媒を備えることが多い。マニホールド触媒構造体は、エンジンのエキゾーストマニホールドに直結される、又はエキゾーストマニホールドの直下に配置される触媒である。そして、床下触媒構造体は、車両床下部に配置され、マニホールド触媒構造体に対し排気下流側に配置される触媒である。
一般的に、マニホールド触媒構造体は、エンジン出口より排出されるHC,CO及びNOxの95〜97%を浄化し、特にエンジン始動直後の低温時における排気ガス浄化の機能を担う。これに対し、床下触媒構造体は、マニホールド触媒構造体で浄化できなかった成分を、最終的に排気規制値を満足できる値にまで浄化することが求められており、特に近年の排気ガス規制に対しては、NOx浄化率に対する機能がより求められる傾向にある。
しかしながら、マニホールド触媒構造体と床下触媒構造体の排気ガス処理量は、一般的にマニホールド触媒構造体の1/10〜1/50程度であり、処理量としてはマニホールド触媒構造体が圧倒的に多い。また、地球環境への配慮及び車両コスト低減の観点から、排ガス浄化触媒に使用する貴金属量の低減が求められている。しかし、マニホールド触媒構造体は床下触媒構造体に対し排気ガス処理量が多いこともあり、従来、マニホールド触媒構造体中の貴金属量の低減と排気ガス浄化性能との両立が極めて難しい状況にあった。
これに対し、本実施形態における排ガス浄化触媒構造体は、触媒層を形成している触媒粒子2の二次粒子の内部に、伸長した細孔7が多数形成されている。その結果、触媒粒子2の二次粒子内部での排気ガス拡散性が向上するため、活性点である貴金属粒子3に対し排気ガスが接触しやすくなり、排気ガスを効率的に浄化することができる。そして、このような排ガス浄化触媒構造体をマニホールド触媒構造体として用いることにより、貴金属量を低減しつつも排気ガス浄化性能を向上させることが可能となる。
[排ガス浄化触媒の製造方法]
次に、本実施形態に係る排ガス浄化触媒の製造方法について説明する。本実施形態の製造方法は、貴金属粒子とアンカー粒子とを含む触媒ユニットを調製する工程を有する。さらに、調製された前記触媒ユニットを、前記包接材の前駆体と、断面における長径(D)と短径(L)との比(D/L)が2.0以上である消失材とを含有したスラリーに混合し、乾燥及び焼成する工程を有する。
本実施形態の製造方法では、最初に、貴金属粒子とアンカー粒子とを含む触媒ユニットを調製する。具体的には、まず、アンカー粒子4に貴金属粒子3を担持する。このとき、貴金属粒子3は含浸法により担持することができる。そして、貴金属粒子3を表面に担持したアンカー粒子4をビーズミル等を用いて粉砕し、所望の粒子径とする。アンカー粒子4の粒子径としては、上述のように、例えば300nmとすることができる。なお、アンカー粒子4の原料として、酸化物コロイド等の微細な原料を用いることにより、破砕工程を省略することができる。
次に、包接材6の前駆体を含有した包接材スラリーを調製する。包接材6の前駆体としては、上述のように、包接材がアルミナを主成分とする場合にはベーマイト(AlOOH)を使用することが好ましく、シリカを主成分とする場合にはシリカゾルとゼオライトを使用することが好ましい。そして、上記包接材スラリーは、包接材6の前駆体を水等の溶媒に混合した後、攪拌することにより調製することができる。
次に、上記包接材スラリーに、貴金属粒子3を担持したアンカー粒子4を粉砕したものを投入し、攪拌する。これにより、触媒ユニット8(複合粒子5)の周囲に包接材6の前駆体が付着した触媒前駆体スラリーを得ることができる。
その後、調製した触媒前駆体スラリーに消失材を混合する。触媒前駆体スラリーにこのような消失材を混合し、その後の工程において焼失させることで、消失材の形状と同じ形状の細孔を触媒粒子2の二次粒子内に造ることが可能となる。このようにして得られた細孔は排気ガスの拡散流路となり、特に加速時など急激にガス流速が増大する際に、触媒性能を向上させることができる。
ただ、触媒粒子2の二次粒子中に伸長した細孔7を多数形成するためには、伸長形状の消失材を混合する必要がある。具体的には、消失材の断面における長径(D)と短径(L)との比(D/L)に関する頻度分布の平均値は、2以上である必要がある。このような消失材を使用することにより伸長形状の細孔7が形成されるため、触媒粒子2の二次粒子内のガス拡散性を向上させることができる。
ここで、消失材の断面における当該比(D/L)に関する頻度分布の平均値は、細孔7の平均値と同様に求めることができる。つまり、電子顕微鏡などを用いて消失材の長径と短径を求め、長径(D)と短径(L)との比(D/L)を算出する。そして、得られたデータについて、横軸に当該比(D/L)、縦軸に頻度を取ると、消失材に関する長径(D)と短径(L)との比(D/L)の頻度分布が得られ、このグラフ中の平均値を読み取る。なお、消失材の長径及び短径の定義は、細孔7と同様とする。具体的には、消失材の長径は消失材の輪郭形状における外周上の最大2点間距離をいい、消失材の短径は、消失材の長径の中点を通り長径方向に直角な線が、消失材の輪郭を横切る長さをいう。
その後、消失材を混合した触媒前駆体スラリーを乾燥させることにより、図9(a)に示す触媒前駆体1aを調製する。そして、本実施形態では、得られた触媒前駆体1a中の消失材30の少なくとも一部を焼失させる。具体的には、図9(b)に示すように、得られた触媒前駆体を空気中で焼成することにより消失材を消失させて、触媒粒子2の二次粒子中に細孔7を形成することができる。なお、この際の焼成温度は、消失材が消失する温度で焼成すれば良いが、例えば400℃以上の温度で1時間以上焼成することにより、触媒前駆体中の消失材を焼失させることができる。なお、この焼成工程により、包接材前駆体がベーマイトの場合には、アンカー粒子4の周囲でベーマイトが脱水縮合し、ベーマイト由来のアルミナからなる包接材が形成される。また、包接材前駆体がシリカゾルとゼオライトの場合には、シリカゾル及びゼオライト由来のシリカからなる包接材が形成される。
ここで、得られた排ガス浄化触媒が未使用の状態において、触媒粒子の二次粒子中の消失材は完全に焼失されていることが好ましい。ただ、未使用の状態において、二次粒子中の消失材は完全に焼失されていなくても良い。つまり、未使用の状態で二次粒子中の消失材が残存していたとしても、触媒が内燃機関の排気ガス流路に設置され、使用されることにより、触媒の温度を上昇させ、消失材を焼失させることも可能である。
このように、消失材を混合した後に、焼失させる工程を経ない、または一部しか焼失させないで製造を終了することも可能である。ただ、触媒の使用条件によっては、実際の運転中に、消失材が焼失するまでの温度に到達しない場合があるため、製造工程中で焼失させることが好ましい。
上述のように、消失材としては、断面における長径(D)と短径(L)との比(D/L)に関する頻度分布の平均値が2以上であり、かつ、空気気流下にて焼失することが可能な物質を使用する必要がある。このような消失材としては、カーボン、高分子化合物、多糖類及び炭水化物の少なくとも一つを用いることが好ましい。また、混合する消失材中には、触媒被毒や活性点への被覆など、触媒性能を低下させる成分を含まないことが望ましい。具体的には、カリウム(K)、リン(P)、亜鉛(Zn)及び塩素(Cl)を極力含まない材料であることが望ましい。
消失材としては、具体的には、カーボンやセルロース、ポリカーボネート、ブドウ糖、ポリアクリル酸などが好ましい。これらは触媒性能の低下が起きにくく、また比較的低温(200〜400℃)にて焼失するため、貴金属に対しシンタリング等の熱影響を与えにくいことから、好適な材料である。この中でも特にセルロースが好ましい。セルロースは低温で焼失しやすく、さらに当該比(D/L)が2以上であるものが得られやすい。
消失材として使用するセルロースの大きさは、繊維長が1.0μm〜50μm、繊維径が0.1μm〜5μm程度であることが好ましい。これにより、焼成後に長径が0.6μm〜3μm、短径が0.1μm〜0.5μmの伸長形状の細孔7を得ることができる。なお、ここで述べているセルロースの大きさは触媒前駆体スラリーへ投入する際の値をいう。
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
(Rh触媒粉末の調製)
まず、比表面積が約70m2/gの活性ジルコニウム−セリウム複合酸化物(ZrO2‐CeO2)の基材粉末に、硝酸ロジウム溶液を、ロジウム担持濃度が1.0wt%となるように担持した。この溶液を150℃で一昼夜乾燥後、400℃で1時間焼成して、ロジウムを1.0wt%担持したジルコニウム−セリウム複合酸化物を得た。次に、Rhを担持したジルコニウム−セリウム複合酸化物を粉砕し、平均粒子径(D50)を150nmとした。なお、平均粒子径の測定には、株式会社堀場製作所製レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920を用いた。
次に、ベーマイトと、硝酸と、水とを混合し、1時間攪拌した。そして、この溶液中に、粉砕したRh担持ジルコニウム−セリウム複合酸化物にゆっくりと投入し、高速攪拌機を用いて更に2時間攪拌することにより、触媒前駆体スラリーを調製した。
そして、得られた触媒前駆体スラリーに、別途粉砕した消失材を混合し、高速攪拌機を用いて更に2時間攪拌した。その後、得られたスラリーを急速乾燥し、150℃で一昼夜更に乾燥させて水分を除去した。そして、550℃で3時間、空気中で焼成し、実施例1のRh触媒粉末を得た。なお、当該消失材は、表1に示す細孔のD/L平均値が得られる伸長形状のセルロースを使用した。また、次式1より求めた当該消失材の混合量も表1に示す。
(Pd触媒粉末の調製)
まず、比表面積が約70m2/gのジルコニア基材粉末(ZrO2)に、硝酸パラジウム溶液を、担持濃度が8.0wt%となるように担持した。この溶液を150℃で一昼夜乾燥後、400℃で1時間焼成して、パラジウムを8.0wt%担持したZrO2粉末を得た。次に、Pdを担持したZrO2粉末を粉砕し、平均粒子径(D50)を150nmとした。
次に、ベーマイトと、硝酸と、水とを混合し、1時間攪拌した。そして、この溶液中に、粉砕したPd担持ZrO2粉末をゆっくりと投入し、高速攪拌機を用いて更に2時間攪拌することにより、触媒前駆体スラリーを調製した。
そして、得られた触媒前駆体スラリーに、別途粉砕した消失材を混合し、高速攪拌機を用いて更に2時間攪拌した。その後、得られたスラリーを急速乾燥し、150℃で一昼夜更に乾燥させて水分を除去した。そして、550℃で3時間、空気中で焼成し、実施例1のPd触媒粉末を得た。なお、使用した前記消失材の種類及び混合量は、上記Rh触媒粉末の場合と同じである。
(触媒層の調製)
上記Rh触媒粉末200g、CeO2‐ZrO2粉末25g、アルミナゾル25g、水230g及び硝酸10gを磁性ボールミルに投入し、混合し粉砕することによりRh触媒スラリーを調製した。
次に、上記Pd触媒粉末175g、CeO2‐ZrO2粉末50g、アルミナゾル25g、水230g及び硝酸10gを磁性ボールミルに投入し、混合し粉砕することによりPd触媒スラリーを調製した。
そして、上記Rh触媒スラリーに、長径(D)と短径(L)との比(D/L)の平均が2.5の市販のセルロース粉末を別途粉砕したものを混合した。その後、セルロースを含むRh触媒スラリーをコーデェライト質モノリス担体(0.12L,900セル)に付着させて、空気流にてセル内の余剰のスラリーを取り除いた。さらに、スラリー付き担体を130℃で乾燥した後、400℃で1時間焼成して、Rh触媒層を調製した。
さらに、Pd触媒スラリーに、長径(D)と短径(L)との比(D/L)の平均が2.5の市販のセルロース粉末を別途粉砕したものを混合した。その後、セルロースを含むPd触媒スラリーをRh触媒層が担持されたモノリス担体に付着させて、空気流にてセル内の余剰のスラリーを取り除いた。さらに、スラリー付き担体を130℃で乾燥した後、400℃で1時間焼成して、Pd触媒層を調製した。このようにして、表層としてPd触媒層を設け、内層としてRh触媒層を設けた実施例1の触媒構造体を調製した。
[実施例2〜6]
貴金属種並びに消失材の混合量及び種類を表1のように変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2〜6の触媒構造体を調製した。なお、実施例3において、活性ジルコニウム−セリウム複合酸化物の基材粉末にパラジウムを担持する際の溶液としては、硝酸パラジウム溶液を使用した。さらに、ジルコニア基材粉末にロジウムを担持する際の溶液としては、硝酸ロジウム溶液を使用した。また、実施例6において、ジルコニア基材粉末に白金を担持する際の溶液としては、ジニトロジアミン白金溶液を使用した。
[実施例7]
貴金属種並びに消失材の混合量及び種類を表1のように変更した以外は実施例1と同様にして、実施例7の触媒構造体を調製した。つまり、表層の貴金属種として白金を用い、さらに表層に用いたPt触媒粉末及び内層に用いたRh触媒粉末を調製する際の消失材の混合量を、表1のように変更した。なお、実施例7において、ジルコニア基材粉末に白金を担持する際の溶液としては、ジニトロジアミン白金溶液を使用した。
[比較例1〜3]
消失材の混合量及び種類を表1のように変更した以外は実施例1と同様にして、比較例1及び2の触媒構造体を調製した。また、比較例3については、消失材を使用しないこと以外は実施例1と同様にして、比較例3の触媒構造体を調製した。
[触媒構造体の細孔観察]
実施例1〜7及び比較例1〜3の触媒構造体を切断し、上述の方法により、触媒粒子の二次粒子の内部に形成された細孔の断面における長径(D)と短径(L)との比(D/L)の頻度分布を求めた。
さらに、実施例1〜7及び比較例1〜3の触媒構造体における表層の触媒層及び内層の触媒層を掻き取り、触媒層の粉末を採取した。その後、窒素ガス吸着法により、当該触媒層の粉末における、細孔径が0.1〜10μmの範囲の細孔に係る細孔容積を測定した。各実施例及び比較例における、上記頻度分布の平均値及び細孔容積の測定結果も表1に示す。
[触媒構造体の耐久試験]
排気量3500ccのガソリンエンジンの排気系に実施例1〜7及び比較例1〜3の各触媒構造体を装着し、入口温度を920℃として、50時間運転し、各触媒構造体を劣化させた。その後、排気量3500ccのガソリンエンジンの排気系に劣化後の各触媒構造体を装着し、入口温度を480℃とし、触媒構造体の入口及び出口の炭化水素濃度から、次式2より炭化水素の転化率(HC転化率)を測定した。
実施例1〜7及び比較例1〜3の耐久試験後のHC転化率も表1に示す。さらに、実施例1〜7及び比較例1〜3の貴金属種、貴金属担持基材種も表1に示す。なお、表1の貴金属担持基材における「ZrO2‐CeO2/Al2O3」は、アンカー粒子としてZrO2‐CeO2を用い、包接材としてAl2O3を用いたことを表す。同様に「ZrO2/Al2O3」は、アンカー粒子としてZrO2を用い、包接材としてAl2O3を用いたことを表す。
図10は、実施例1及び比較例1における、細孔の長径(D)と短径(L)との比(D/L)の頻度分布を示す。また、図11(a)は実施例1における触媒粒子の二次粒子のSEM写真を示し、図11(b)は比較例1における触媒粒子の二次粒子のSEM写真を示す。図10に示すように、実施例1の触媒では頻度分布の平均値が2.5であり、さらに図11(a)より、伸長形状の細孔7が複数形成されていることが分かる。さらに、伸長形状の細孔同士が接触し、連通していることも確認できる。これに対し、比較例1の触媒では頻度分布の平均値が1.4であり、さらに図11(b)より、球状に近い細孔7Aが多数形成されていることが分かる。
図12は、実施例1及び2並びに比較例1〜3における、細孔容積とHC転化率との関係を示す散布図である。図12より、細孔径が0.1〜10μmの範囲の細孔に係る細孔容積が0.5cc/g以上である実施例1及び2は、比較例1〜3と比べ、HC転化率が上昇していることが分かる。
ここで、図12に示すように、比較例1〜3のプロットに基づく回帰直線を延長したとき、実施例1及び2のプロットに基づく回帰直線と符号Aの分だけHC転化率に差が生じることが分かる。つまり、比較例のような略球状の細孔を単に増加し、細孔容積を増大させたとしても、細孔同士が十分に連通しないため、二次粒子内部のガス拡散性が向上しにくい。これに対し、実施例のように、伸長形状の細孔を増加させた場合には、細孔同士が連通するため、二次粒子内部のガス拡散性が向上し、二次粒子内部の貴金属粒子と排気ガスとが効率的に接触することができる。そのため、HC転化率が大幅に向上したものと推測される。
このように、細孔のD/Lに関する頻度分布の平均値が2.0以上であり、かつ、細孔容積の合計値が0.5cc/g以上の場合には、伸長形状の細孔と増加した細孔容積の相乗効果により、高い排気ガス浄化性能が得られることが分かる。
以上、本発明を実施例及び比較例によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。