JP5888936B2 - 調色木質材の製造方法 - Google Patents
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また、オークの無垢材等、家具や建具として古くから使われている木質材においては、製材直後の色調よりもむしろ、使い古した、より自然な風合いに色づけをされた色調(いわゆるアンティーク調)が好まれるのが現状である。
一方、湿熱処理の場合、乾熱処理の場合と比べて無垢材の物理特性が損なわれ難い。しかしながら、密閉容器を備える大型で複雑な処理装置が必要であるため、湿熱処理は、乾熱処理よりも処理コストが高いという問題を有する。
ここで、木質材は、無垢材又は合板等である。また、多価カルボン酸は、マレイン酸、クエン酸、又はリンゴ酸等である。
この理由は、水溶液中の多価カルボン酸と、木質材を構成する成分の内、熱による暗色化に寄与する成分(ヘミセルロース又はリグニン等。以下、変色成分という)とが化学反応を起こすからである、と考えられる。多価カルボン酸と反応した変色成分は、多価カルボン酸と反応していない変色成分よりも、熱による化学変化を起こし易い状態になる。そして、変色成分が熱によって化学変化すると、木質材が暗色化する。
例えば熱盤を用いて加熱しつつ加圧すると、熱盤と木質材の表面とが緊密に接触するため、木質材の表面が効率よく加熱される。故に、木質材の表面温度の上昇速度が向上する。従って、木質材が暗色化し易くなる。
多価カルボン酸の水溶液の濃度が高ければ(又は低ければ)、変色成分と反応する多価カルボン酸の官能基が多くなる(又は少なくなる)。従って、木質材が大幅に暗色化された調色木質材を得るために、製造者は、高濃度の多価カルボン酸の水溶液が付着した木質材を加熱する。一方、木質材が小幅に暗色化された調色木質材を得るために、製造者は、低濃度の多価カルボン酸の水溶液が付着した木質材を加熱する。
仮に、多価カルボン酸の水溶液の濃度が1%未満であると、変色成分と反応する水溶液中の多価カルボン酸の官能基が過剰に少なくなるため、木質材が暗色化し難い。一方、多価カルボン酸の水溶液の濃度が50%を超過していても、変色成分とは反応しない余分な多価カルボン酸が多くなるだけであるため、多価カルボン酸の水溶液のコストが無益に増大する。
なお、多価カルボン酸の水溶液の濃度は、数%以上であることが更に好ましい。
表面温度が高ければ(又は低ければ)、変色成分の、熱による化学変化が促進される(又は抑制される)。従って、木質材が大幅に暗色化された調色木質材を得るために、製造者は、多価カルボン酸の水溶液が付着した木質材を高温で加熱する。一方、木質材が小幅に暗色化された調色木質材を得るために、製造者は、多価カルボン酸の水溶液が付着した木質材を低温で加熱する。
表面温度が120 ℃未満であると、変色成分の、熱による化学変化が促進され難い。一方、加熱時間が240℃を超過すると、木質材を構成する成分の熱分解等によって木質材の物理特性が損なわれ易くなり、また、加熱に要するコストが増大する。
なお、表面温度は160 ℃以上200 ℃以下であることが更に好ましい。
木質材を加熱する加熱時間が長ければ(又は短ければ)、変色成分の、熱による化学変化が促進される(又は抑制される)。従って、木質材が大幅に暗色化された調色木質材を得るために、製造者は、多価カルボン酸の水溶液が付着した木質材を長時間加熱する。一方、木質材が小幅に暗色化された調色木質材を得るために、製造者は、多価カルボン酸の水溶液が付着した木質材を短時間加熱する。
加熱時間が30秒未満であると、変色成分の、熱による化学変化が促進され難い。一方、加熱時間が120 秒を超過すると、木質材を構成する成分の熱分解等によって木質材の物理特性が損なわれ易くなり、また、加熱に要するコストが増大する。
故に、従来の乾熱処理に係る問題、即ち、高温又は長時間の加熱によって木質材の物理特性が損なわれ易いという問題を、解決することができる。
また、低温且つ短時間の加熱によって、木質材の風合いを効率よく向上させることができる。更にまた、木質材の色調を効率よく統一することができる。
しかも、低温且つ短時間の加熱は、高温且つ長時間の加熱よりも安価に行なうことができる。
図1は、本発明の実施の形態1に係る調色木質材の製造方法の手順を説明するための模式図である。
図1A中の11は木質材であり、木質材11はスギの無垢板材である。木質材11の横幅Bは120 mm、縦長さ(ここでは紙面に垂直方向の長さ)は1840mm、厚さDは16mmである。
製造者は、まず、図1Aに示すように、刷毛21を用いて、濃度30%のマレイン酸水溶液を、木質材11の一面11aに塗布する。
一面11aにマレイン酸水溶液が塗布されることによって、一面11aに含まれる変色成分(具体的には、ヘミセルロース又はリグニン等)とマレイン酸とが化学反応を起こす。この結果、一面11aは、マレイン酸水溶液が塗布されていない他面11bと比べて、加熱による化学変化を起こし易くなる。従って、一面11aは、加熱されると暗色化し易くなる。
棚31に載置されている木質材11の一面11aからは、余分な水分が蒸発していく。製造者は、木質材11を、一面11aがべとつかなくなるまで(例えば一昼夜)、室温で放置する。即ち、木質材11は、自然乾燥によって予備乾燥される。
また、予備乾燥は省いてもよい。ただし、予備乾燥を省いた場合には、後述する熱圧締処理において、木質材11を暗色化させるために熱エネルギが使われるのみならず、一面11aに含まれている余分な水分を蒸発させるためにも大量の熱エネルギが使われてしまう。このため、例えば表面温度を高くするか、又は加熱時間を長くしなければ、所望の色調変化が得られない虞がある。
熱盤プレス機41は、夫々横姿勢で配されている熱盤411,412及びディスタンスバー413,413を備える。
熱盤411は、熱盤411の下面と熱盤412の上面とが平行に対面するよう熱盤412の上方に配される。熱盤411は、熱盤412に対して上下方向に接離する。
また、熱盤412の上面には、木質材11の両側方に位置するようディスタンスバー413,413が配される。ディスタンスバー413,413の厚さdは15mmである。
最後に、製造者は、図1Dに示すように、木質材11に対して熱盤プレス機41による熱圧締処理を施す。このとき、熱盤411,412は夫々200 ℃に加熱され、熱盤411の下面がディスタンスバー413,413の上面に接触するまで下降することによって、熱盤411,412に木質材11が挟持される。木質材11の挟持は30秒間継続される。このとき、木質材11の厚さDは、16mmから15mmへ減少する。
熱圧締処理の終了後、調色木質材61は、熱盤プレス機41から取り出され、そのまま、又は適宜のサイズに加工されてから、フローリング用の建材(即ち床材)として用いられる。調色木質材61の表側の面及び裏側の面は、木質材11の一面11a及び他面11bに相当する。
換言すれば、マレイン酸水溶液の濃度が低いか、表面温度が低いか、又は加熱時間が短ければ、木質材11の暗色化が抑えられる。逆に、マレイン酸水溶液の濃度が高いか、又は表面温度が高いか、又は加熱時間が長ければ、木質材11の暗色化が促進される。
ここで、調色木質材61の表側の面と裏側の面とを比べれば、表側の面の方が裏側の面よりも暗い。何故ならば、調色木質材61の裏側の面に相当する他面11bは、マレイン酸水溶液の塗布なしに加熱されたからである。
なお、他面11bを暗色化させる必要がないのであれば、一面11aに接触する熱盤411は加熱するが、他面11bに接触する熱盤412は加熱しない状態で、木質材11に対する熱圧締処理が施されてもよい。
ところで、多価カルボン酸は比較的安価である。このため、一面11aに多価カルボン酸水溶液を付着させることによるコストアップは最小限に抑えられる。
しかも、湿熱処理で用いられる密閉容器は不要であるため、調色木質材61の製造コストを低減させることができる。
仮に、木質材11に従来の乾熱処理を施した場合、表面温度が200 ℃のとき、加熱時間が10分でも、一面11aは十分に暗色化せず、加熱時間が60分であれば、濃度30%のマレイン酸水溶液を塗布してから200 ℃30秒間の熱圧締処理を施した場合と同様に暗色化する。つまり、表面温度が同じでも、マレイン酸水溶液の塗布の有無によって、加熱時間は大幅に異なる。そして、従来の乾熱処理では、表面温度が240 ℃の場合でも、一面11aが十分に暗色化する加熱時間は10分である。
木質材11に熱圧締処理を施す場合、木質材11に加えるべき圧力は、木質材11の厚さDを少なくとも6%前後減少させる程度の圧力であればよい。
ただし、木質材11の暗色化のみならず、硬質化も目的とするのであれば、熱圧締処理時に木質材11に加えるべき圧力は、木質材11の厚さDを50%前後減少させる程度の圧力であってもよい。
次に、多価カルボン酸の使用について説明する。
本実施の形態に係る調色木質材の製造方法で用いるべき多価カルボン酸は、マレイン酸に限定されず、クエン酸、又はリンゴ酸等であってもよい。
木質材11の表面温度は、120 ℃以上240 ℃以下であればよい。更に好ましくは、表面温度は160 ℃以上200 ℃以下であればよい。120 ℃以上240 ℃以下(又は160 ℃以上200℃以下)の範囲においても、表面温度が低い方が、木質材11の物理特性が損なわれることを抑制することができ、更に、加熱に要するコストを低減させることができる。ただし、表面温度が高い方が、木質材11の暗色化の度合いが大きくなる傾向にある。
このような表面温度は、従来の乾熱処理における一般的な表面温度以下であり、従来の湿熱処理における一般的な表面温度以下にすることもできる。
このような加熱時間は、従来の乾熱処理はもとより、従来の湿熱処理における一般的な加熱時間と比べても大幅に短い。
多価カルボン酸水溶液の濃度と表面温度と加熱時間とは、木質材11の暗色化前の色調及び暗色化後の色調、並びに調色木質材61の製造コスト等の兼ね合いで、適宜に設定すればよい。
具体的には、木質材11に比べてかなり暗い色調の調色木質材61を得るためには、多価カルボン酸水溶液の濃度を高めにすること、表面温度を高めにすること、及び加熱時間を長めにすること等、使用する多価カルボン酸の種類、調色処理を行なう木質材樹種の種類に応じて、適宜に設定すればよい。
従って、例えば同程度の色調の木質材11,11から、高い表面温度及び短い加熱時間で得られた調色木質材61の色調と、低い表面温度及び長い加熱時間で得られた調色木質材61の色調とが同程度である場合もある。
ところで、複数の木質材11,11,…の色調を統一する必要がある場合には、本実施の形態に係る調色木質材の製造方法の手順に従って、木質材11,11,…夫々から調色木質材61,61,…を得ればよい。
逆に、木質材11,11,…夫々の色調とは無関係に、同一の処理条件が用いられてもよい。この場合、例えば、濃褐色に統一された調色木質材61,61,…を得るために、淡褐色の木質材11に対しても褐色の木質材11に対しても、高濃度の多価カルボン酸水溶液が用いられる。
以上のような調色木質材の製造方法は、従来の乾熱処理又は湿熱処理による調色木質材の製造方法に比べて、低温且つ短時間で調色木質材61を得ることができる。この結果、加熱による木質材11の物理特性の劣化を抑制しつつ、調色木質材61を効率よく得ることができる上に、調色木質材61の製造コストを低減させることができる。
調色木質材61の用途は、床材に限定されず、天井用又は内壁用等の建材でもよい。また、調色木質材61の用途は、建材に限定されるものではない。
図2は、本発明の実施の形態2に係る調色木質材の製造方法の手順を説明するための模式図である。
実施の形態1では、製造者が調色木質材61を製造する場合を説明したが、本実施の形態では、自動的に調色木質材62が製造される場合を説明する。
図2中の12は木質材であり、木質材12はスギの無垢板材である。木質材12の寸法は、木質材11の寸法に等しい。従って、木質材12の厚さDは16mmである。ただし、木質材12の縦長さLは、実施の形態1の木質材11の縦長さより長尺でもよい。
まず、噴霧装置22が、自身の内部を通過する木質材12の一面12aに、濃度30%のマレイン酸水溶液を満遍なく散布する。
次に、乾燥機32が、木質材12を予備乾燥させる。このとき、乾燥機32は、自身の内部を通過する木質材12の一面12aに、50℃以下の温風を吹き付ける。
ロールプレス機42へ搬送された木質材12は、回転する加熱ローラ421〜423によって挟持されて搬送されつつ、熱圧処理を施される。このとき、木質材12の厚さDは、16mmから15mmへ減少する。
ロールプレス機42の外部へ送り出された調色木質材62は、そのまま、又は適宜のサイズに加工されてから、床材として用いられる。
図3〜図6は、多価カルボン酸水溶液の濃度と暗色化との関係を示すグラフである。図3〜図6夫々の横軸は多価カルボン酸水溶液の濃度(%)を示しており、縦軸は後述する色差ΔE*abを示している。
図3は、スギからなる木質材の一面に、マレイン酸水溶液を塗布してから、木質材に熱圧締処理を施した場合を示している。マレイン酸水溶液の濃度は1%、3%、5%、10%、30%、又は50%である。熱圧締処理における表面温度は160 ℃(図中「○」)、180 ℃(図中「△」)、又は200 ℃(図中「□」)であり、加熱時間は120秒で一定である。
図5(及び図6)は、針葉樹であるスギに替えて広葉樹であるオークを用いていることを除いては、図3(及び図4)と同様である。
図7は、スギからなる木質材の一面に、クエン酸水溶液を塗布してから、木質材に熱圧締処理を施した場合を示している。加熱時間は30秒、60秒、及び120 秒、クエン酸水溶液の濃度は30%で一定である。熱圧締処理における表面温度は160 ℃(図中「○」)、180 ℃(図中「△」)、又は200 ℃(図中「□」)である。
図8は、スギに替えてオークを用いていることを除いては、図7と同様である。
ΔE*ab={ΔL2 +Δa2 +Δb2 }1/2 …(1)
調色木質材の色調は木質材の色調よりも暗色である。従って、色差ΔE*abが大きい(又は小さい)場合、熱圧締処理の前後で色調がかなり(又はやや)暗色化している、といえる。
図3〜図6を参照すれば、表面温度及び加熱時間が共に等しい場合、高濃度の多価カルボン酸水溶液を塗布したときの色差ΔE*abは、低濃度の多価カルボン酸水溶液を塗布したときの色差ΔE*abよりも大きい(換言すれば、多価カルボン酸水溶液の濃度が高いほど、木質材の色調はより暗色化する)ことがわかる。
ここから、多価カルボン酸の種類又は木質材の樹種を問わず、木質材の色調を大幅に(又は小幅に)暗色化したい場合は、多価カルボン酸水溶液の濃度を高く(又は低く)すればよい、といえる。
図3〜図6を参照すれば、多価カルボン酸水溶液の濃度及び加熱時間が共に等しい場合、表面温度が高いときの色差ΔE*abは、表面温度が低いときの色差ΔE*abよりも大きい(換言すれば、表面温度が高いほど、木質材の色調はより暗色化する)ことがわかる。
ここから、多価カルボン酸の種類又は木質材の樹種を問わず、木質材の色調を大幅に(又は小幅に)暗色化したい場合は、表面温度を高く(又は低く)すればよい、といえる。
図7及び図8を参照すれば、多価カルボン酸水溶液の濃度及び表面温度が共に等しい場合、加熱時間が長いときの色差ΔE*abは、加熱時間が短いときの色差ΔE*abよりも大きい(換言すれば、加熱時間が長いほど、木質材の色調はより暗色化する)ことがわかる。
ここから、木質材の樹種を問わず、木質材の色調を大幅に(又は小幅に)暗色化したい場合は、加熱時間を長く(又は短く)すればよい、といえる。
また、本発明の効果がある限りにおいて、調色木質材の製造方法に、実施の形態1〜3に開示されていない構成要素が含まれていてもよい。
11a,12a 一面(木質材の表面)
61,62 調色木質材
Claims (7)
- 木質材を加熱することによって、その色調が前記木質材の色調よりも暗く調節された調色木質材を製造する方法において、
前記木質材を加熱する前に、該木質材の表面に多価カルボン酸の水溶液を付着させ、
ローラを用いて前記木質材を搬送すると共に、前記木質材の少なくとも前記多価カルボン酸の水溶液が付着した面を、加熱しつつ加圧することを特徴とする調色木質材の製造方法。 - 前記木質材の色調が暗くなる度合いを大きく/小さくするために、
前記多価カルボン酸の水溶液の濃度を高く/低くすることを特徴とする請求項1に記載の調色木質材の製造方法。 - 前記多価カルボン酸の水溶液の濃度が1%以上50%以下であることを特徴とする請求項2に記載の調色木質材の製造方法。
- 前記木質材の色調が暗くなる度合いを大きく/小さくするために、
加熱された前記木質材の表面温度を高く/低くすることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の調色木質材の製造方法。 - 加熱された前記木質材の表面温度が120 ℃以上240 ℃以下であることを特徴とする請求項4に記載の調色木質材の製造方法。
- 前記木質材の色調が暗くなる度合いを大きく/小さくするために、
前記木質材を加熱する加熱時間を長く/短くすることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の調色木質材の製造方法。 - 前記木質材を加熱する加熱時間が30秒以上120 秒以下であることを特徴とする請求項6に記載の調色木質材の製造方法。
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