JP5869288B2 - 曲げ加工性に優れた異方性の少ない異形断面銅合金板及びその製造方法 - Google Patents
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一般的に、この異形断面銅合金板は、銅合金鋳塊から板幅方向に一定の厚さを有する平板を製造する平板加工工程と、その平板を用いて板幅方向に厚さの異なる異形断面板を製造する異形加工工程とにより製造される。平板加工工程は、銅合金鋳塊の均熱、熱間圧延、冷間圧延、焼鈍、続いて必要に応じて行われる冷間圧延の各工程からなる。異形加工工程は、平板加工工程によって製造された平板を最終製品形状に加工するにあたり、必要とされる幅に切断した後に、粗冷間加工、焼鈍、仕上げ冷間加工、スリッタ加工、必要に応じて行われる矯正の各工程からなる。この場合、冷間加工の中間で焼鈍を行わず、仕上げ冷間加工後に焼鈍を行うこともある。また、異形加工工程における冷間加工は、異形ロールによる冷間圧延、或いは、異形金型による冷間圧延や鍛造などにより行われ、異なる加工方法が組み合わされることもある。
異形断面銅合金板の素材としては、Cu−Fe−P系銅合金、Cu−Ni−Si系銅合金等が多用されているが、最近の電気・電子部品の更なる小型化に伴って、その内部に組み込まれている接点部材や擦動部材等に流される電流密度がますます高くなってきており、導電率及び強度に優れたCu−Zr−Cr系銅合金も使用され始めている。
また、W1/W2を1.4〜2.3とし、異形圧延加工後の異形断面銅合金板の平均送り速度をA(mm/分)、異形断面銅合金板の薄肉部の板厚をT(mm)、圧延ロールの往復回数をB(回/分)とした場合に、(A/B)/Tを1.5〜70にて実施することにより、形成される異形部の寸法精度の公差(バラツキ)を小さくできることも見出した。
Zrは、銅合金を溶体化処理後、時効処理を施すことにより、銅母相中に析出し、強度を向上させると共に耐熱性を向上させる合金元素である。Zrの含有量は、形成される析出粒子の量や大きさに影響を与えて、導電率と強度とのバランスを変化させるが、0.05〜0.2質量%にて含有させることにより、導電率と強度とを共に高い次元でバランスさせることができる。Zrの含有量が0.05質量%未満では、析出作用による効果が不充分で、耐応力緩和性も低下し、0.2質量%を超えるとCu−Zr析出物の形状が粗大になり易く、強度向上の効果が得られず、曲げ加工性低下の原因ともなる。
BadWay方向の曲げ加工性R2、GoodWay方向の曲げ加工性R1との比であるR2/R1が0.8未満、或いは、1.7を超えると、曲げ加工性の異方性が大きくなり、特に、プレスにて打抜き加工や曲げ加工時に支障を来たすことが多くなる。
Siは、Zrと併せて添加することにより、全体的な強度を更に向上させる。Siの含有量が0.005質量% 未満では、効果が充分ではなく、0.03質量%を超えると、導電性が低下し、曲げ加工性にも悪影響を及ぼす。
異形圧延加工は、往復する圧延ロールとダイの成形面との間に前記平板状銅合金素材を挟みこんで連続圧延加工し、被圧延銅合金素材の幅方向の伸びをW1、加工方向の伸びをW2とした場合に、W1/W2を1.4〜2.3にて実施する。
W1/W2が1.4未満では、R2/R1が1.7を超え、寸法精度の公差(バラツキ)も悪くなる傾向があり、W1/W2が2.3を超えると、圧延組織が繊維状に圧延方向に形成され易く、R2/R1が0.8未満となって曲げ加工性の異方性が大きくなる。
仕上げ圧延加工は、曲げ加工性の異方性には影響を与えない圧延加工であり、表面硬度に分布が生じることがなく、厚肉部及び薄肉部において均一な物性の異形断面合金板を得る為にも、段付きロールと平ロールとからなる圧延ロールによる冷間圧延加工にて実施することが好ましい。
時効処理は、平板状銅合金素材を製造する段階ではなく、異形加工工程の後に実施することにより、厚肉部及び薄肉部における析出粒子の析出状態をそれぞれに調整することができ、厚肉部及び薄肉部の引張強度、導電率等の特性を所定の範囲に調整することが可能となり、この効果を高める為にも、仕上げ圧延加工後に実施することが好ましい。
本発明の異形断面銅合金板1は、厚肉部2と薄肉部3とが幅方向に並んだ異形断面銅合金板(図1参照)であり、図示例では、厚肉部2の両側に薄肉部3が配置され、厚肉部2と薄肉部3との間は、所定の立ち上げ傾斜角度βの傾斜部4とされている。
Crは、銅合金を溶体化処理後、時効処理を施すことにより、銅母相中に析出し、強度を向上させる合金元素である。Crの含有量が0.2質量%未満では、析出作用による効果が不充分であり、0.4質量%を超えると、強度向上の効果が得られない。
Zrは、銅合金を溶体化処理後、時効処理を施すことにより、銅母相中に析出し、強度を向上させると共に耐熱性を向上させる合金元素である。Zrの含有量は、形成される析出粒子の量や大きさに影響を与えて、導電率と強度とのバランスを変化させるが、0.05〜0.2質量%にて含有させることにより、導電率と強度とを共に高い次元でバランスさせることができる。Zrの含有量が0.05質量%未満では、析出作用による効果が不
充分で、耐応力緩和性も低下し、0.2質量%を超えるとCu−Zr析出物の形状が粗大になり易く、強度向上の効果が得られず、曲げ加工性低下の原因ともなる。
Siは、Zrと併せて添加することにより、全体的な強度を更に向上させる。Siの含有量が0.005質量% 未満では、効果が充分ではなく、0.03質量%を超えると、導電性が低下し、曲げ加工性にも悪影響を及ぼす。
BadWay方向の曲げ加工性R2、GoodWay方向の曲げ加工性R1との比であるR2/R1が0.8未満、或いは、1.7を超えると、曲げ加工性の異方性が大きくなり、特に、プレスにて打抜き加工や曲げ加工時に支障を来たすことが多くなる。
上記組成の平板状銅合金素材10を用意し、冷間圧延後の平板状銅合金素材10に、異形圧延加工、仕上げ圧延加工、時効処理をこの順で含む工程で施して異形断面銅合金板1を製造する。
異形圧延加工では、図2及び図3に示すような成形面21となる凹凸面を有する平板状のダイ22と、このダイ22の成形面21に対向して成形面21に沿って往復移動される圧延ロール23とにより、平板状銅合金素材10を冷間にて異形圧延加工して、粗厚肉部12と粗薄肉部13とが幅方向に並んだ粗異形断面銅合金板11を得る。図示例では、ダイ22の成形面21は、粗薄肉部13を成形する二つの凸部24の間に粗厚肉部12を成形する凹部25が形成されており、粗異形断面銅合金板11は、粗厚肉部12の両側に粗薄肉部13が配置され、粗厚肉部12と粗薄肉部13との間が所定の立ち上げ傾斜角度の傾斜部14とされる(図1参照)。
この異形圧延加工は、平板状銅合金素材10の幅方向の伸びをW1(%)、圧延加工方向の伸びをW2(%)とした場合に、W1/W2が1.4〜2.3となるように実施する。幅方向の伸びW1(%)は、平板状銅合金素材10の幅Waに対する粗異形断面銅合金板11の幅Wbの差を百分率で表した(Wb−Wa)/Waであり、圧延加工方向の伸びW2(%)は、平板状銅合金素材10の長さLaに対する粗異形断面銅合金板10の長さLbの差を百分率で表した(Lb−La)/Laである。
W1/W2が1.4未満では、R2/R1が1.7を超え、寸法精度の公差(バラツキ)も悪くなる傾向があり、W1/W2が2.3を超えると、圧延組織が繊維状に圧延方向に形成され易く、R2/R1が0.8未満となって曲げ加工性の異方性が大きくなる。
また、この異形圧延加工において、異形圧延加工後の粗異形断面銅合金板11の平均送り速度をA(mm/分)、粗異形断面銅合金板11の粗薄肉部13の板厚をT(mm)、圧延ロール23の往復回数をB(回/分)とした場合に、(A/B)/Tを1.5〜70にて実施する。(A/B)/Tが1.5未満、或いは、70を超えると、形成される異形断面銅合金板1の厚肉部2及び薄肉部3の寸法精度の公差(バラツキ)が大きくなる。平均送り速度は、間欠送りされる異形断面加工における単位時間当たりの送り速度の平均値である。
仕上げ圧延加工工程では、図4に示すような段付きロール31と平ロール32とからなる仕上げ圧延ロール33により、粗異形断面銅合金板11を冷間にて仕上げ圧延加工して異形断面銅合金板1を得る。段付きロール31は、薄肉部3を成形する一対の大径部34の間に厚肉部2を成形する小径部35が配置された形状とされ、この仕上げ圧延加工により、厚肉部2の両側に薄肉部3が配置され、厚肉部2と薄肉部3との間が所定の立ち上げ傾斜角度βの傾斜部4とされた異形断面銅合金板1が得られる(図1参照)。この仕上げ圧延加工は、曲げ加工性の異方性には影響を与えない圧延加工であり、表面硬度に分布が生じることがなく、厚肉部2及び薄肉部3において均一な物性の異形断面合金板1を得る為にも、段付きロール31と平ロール32とからなる圧延ロール33による冷間圧延加工にて実施することが好ましい。
以上の製造方法により、曲げ加工の異方性の少ない異形断面銅合金板1を得ることができる。
これらの異形断面銅合金板につき、BadWay方向の曲げ加工性R2とGoodWay方向の曲げ加工性R1の比、厚肉部と薄肉部の引張強度の比、厚肉部と薄肉部のビッカース硬さの比を求め、厚肉部と薄肉部の厚みの寸法公差を測定した。
GoodWayの曲げ加工性R1は、板材を幅10mm×長さ60mmに切出し、曲げR=0〜0.4mmの0.025mm単位として、GW(GoodWay:圧延方向)の90°W曲げを行い、曲げ部における割れの有無を50倍の光学顕微鏡で観察し、割れの生じない最小の曲げ半径Rと銅合金板の板厚tの比をR/tとして評価した。いずれも、厚肉部、薄肉部について複数個ずつ切り出して評価し、その平均値を求めた。
引張強度は、JIS5号試験片にて測定した。
ビッカース硬さの測定は、マイクロビッカース硬度計にて、4.9N(0.5kgf)の加重を加えて行った。
これら結果を表2に示す。
また、実施例のものは、引張強度比が1.08〜1.12であり、ビッカース硬さ比が1.01〜1.03であり、いずれも比較例より小さい値であった。
2 厚肉部
3 薄肉部
4 傾斜部
10 平板状銅合金素材
11 粗異形断面銅合金板
12 粗厚肉部
13 粗薄肉部
14 傾斜部
21 成形面
22 ダイ
23 圧延ロール
31 段付きロール
32 平ロール
33 仕上げ圧延ロール
Claims (3)
- 厚肉部と薄肉部とが幅方向に並んだ異形断面銅合金板であって、質量%でZr:0.05〜0.2%、Cr:0.2〜0.4%、残部はCu及び不可避的不純物からなる組成を有し、JIS H3110に準拠した90°W曲げ試験において割れが発生しない最小曲げ半径Rと板厚tとの比(R/t)である曲げ加工性について、BadWay方向の曲げ加工性(R/t)をR2、GoodWay方向の曲げ加工性(R/t)をR1とした場合に、R2/R1が0.8〜1.7であることを特徴とする曲げ加工性に優れた異方性の少ない異形断面銅合金板。
- 更に質量%でSi:0.005〜0.03%を含有することを特徴とする請求項1に記載の曲げ加工性に優れた異方性の少ない異形断面銅合金板。
- 請求項1または請求項2に記載の曲げ加工性に優れた異方性の少ない異形断面銅合金板の製造方法であって、冷間圧延後の平板状銅合金素材に、異形圧延加工、仕上げ圧延加工、時効処理をこの順で含む工程で施して前記異形断面銅合金板を製造するに際して、前記異形圧延加工を、往復する圧延ロールとダイの成形面との間に前記平板状銅合金素材を挟みこんで連続圧延加工し、前記異形圧延加工後の異形断面銅合金板の平均送り速度をA(mm/分)、異形断面銅合金板の薄肉部の板厚をT(mm)、前記圧延ロールの往復回数をB(回/分)とした場合に、(A/B)/Tを1.5〜70にて実施することにより、幅方向の伸びをW1(%)、圧延加工方向の伸びをW2(%)とした場合に、W1/W2を1.4〜2.3にて実施することを特徴とする曲げ加工性に優れた異方性の少ない異形断面銅合金板の製造方法。
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