JP5868728B2 - スポット溶接固定強度評価方法およびスポット溶接固定強度評価装置 - Google Patents

スポット溶接固定強度評価方法およびスポット溶接固定強度評価装置 Download PDF

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Description

本発明は、鋼材を含む金属材料のスポット溶接固定強度を、簡易且つ高精度に非破壊検査することが可能なスポット溶接固定強度評価方法および装置に関する。
複数の金属材料、例えば2枚以上の薄鋼板を重ねた板組みを接合する際には、スポット溶接が広く採用されている。スポット溶接は、複数の金属材料を一対の電極で挟み、加圧しながら通電して、複数の金属材料同士を接合する技術であり、自動車や鉄道車両をはじめとした薄板構造物の組み立て工程における必須の技術である。スポット溶接では、金属材料に通電した時に発生する抵抗発熱と電極への抜熱のバランスによって、電極間中央部付近が溶融し、図15に示すように点状の溶接部1が得られる。
この点状の溶接部1のうち、複数の金属材料(図15の場合、2枚の薄板)2が互いに溶融固化した塊部分はナゲットNと呼ばれ、ナゲットNの周囲には、複数の金属材料が固相接合したコロナボンドCが形成される。
ここで、図15に示すように、スポット溶接した金属材料2同士は、実質的に溶接部1のみで接合されていることから、スポット溶接部材に荷重を負荷すると、溶接部1に応力が集中し、溶接部1から破断が開始する。そのため、自動車などの溶接構造材の安全性や信頼性の観点から、スポット溶接部材の溶接部における接合強度(スポット溶接固定強度)を正しく評価する技術の確立が切望されている。
従来、スポット溶接固定強度の評価方法は、スポット溶接部材(現品)、または同等金属材料をスポット溶接した試験片を用いて引きはがしなどの破壊試験により実測することが最も一般的な方法とされていた。しかしながら、このような破壊試験による方法は、被試験材料の準備や引きはがし試験などに多大な経済的、時間的損失を伴うものであった。そこで、非破壊的にスポット溶接固定強度を評価する方法が望まれるようになり、現在までに様々な技術が提案されている。
例えば、特許文献1では、上板と下板とをスポット溶接した板材に対し、上板表面から下板方向に超音波ビームを送信すると共に反射超音波を受信し、該超音波ビームを板材に対して相対的に走査しながら得られる反射超音波の強度変化からスポット溶接部の走査方向の大きさを検査することで、スポット溶接部の接合強度を評価する技術が提案されている。
特許文献2では、金属材料表面の任意の2点間に所定の電流を加える一対の電極針、および前記電流によって前記金属材料表面に生じる電位を検出する一対の電圧電極針を具備した探針プローブを用い、スポット溶接した金属材料の溶接領域に前記探針プローブを当接させて該溶接領域の電気抵抗を測定すると共に、前記金属材料の前記溶接領域から離れた非溶接領域に前記探針プローブを当接させて該非溶接領域の電気抵抗を測定し、これらの電気抵抗の比に基づいて前記溶接領域の接合強度を評価する技術が提案されている。
特許文献3では、鋼材表面の任意の2点間に一定の電流または電圧を印加する一対の電極針および前記電流または電圧によって前記鋼材に生じる表面電位を検出する少なくとも一対の電圧電極針を備えた探針プローブを用いて、スポット溶接された鋼材の表面を所定のラインに沿って走査し、この走査に伴って前記一対の電圧電極針により検出される電圧の前記走査方向に亘る変化のプロフィールから、その電圧が前記鋼材におけるスポット溶接領域を外れた部位での検出電圧を超える2つの特異点を検出し、これらの特異点を検出した走査位置から前記スポット溶接により前記鋼材に形成されたナゲットの径を求める技術が提案されている。
また、特許文献3では、前記探針プローブとして複数の探触針を一定のピッチで直線配列したものを用い、複数の探触針の中から前記一対の電極針および前記一対の電圧電極針として用いる探触針をそれぞれ選択すると共に、前記電極針および前記電圧電極針として選択する探触針をその配列方向に順次切り換えることで、スポット溶接された鋼材の表面を探針プローブによって走査する技術が提案されている。そして、特許文献3で提案された技術によると、検出された電圧変化のプロフィールに対する簡易な解析処理だけで、スポット溶接された鋼材におけるナゲットの径を、簡易且つ高精度に、しかも再現性良く非破壊検査することができるとされている。
特開平6−265529号公報 特開2008−254005号公報 特開2008−241419号公報
しかしながら、特許文献1で提案された技術では、超音波集束ビームを形成且つ走査する手段としてアレイ型超音波探触子を具えた装置を用いているが、このような装置は高価であり、且つビームの焦点距離の調整等、煩雑な操作を要する。すなわち、特許文献1で提案された技術では、特殊な装置が必要となるうえ測定手順も複雑となり、スポット溶接部の接合強度を簡易かつ高精度に評価することが困難である。
これに対し、所謂4探針法により金属材料の電気抵抗を測定する特許文献2で提案された技術では、一般的に使用されている4探針プローブを適用することができるため、スポット溶接の接合強度を特殊な装置を用いることなく比較的安価に評価することができる。しかしながら、特許文献2で提案された技術では、金属材料の非溶接領域および溶接領域における電気抵抗を測定するに際し、4探針プローブを金属材料の非溶接領域から溶接領域へ移動させる必要があるため、測定手順が複雑となり、スポット溶接部の接合強度を簡易に評価することができない。
また、特許文献2で提案された技術では、金属材料の溶接領域における電気抵抗と非溶接領域における電気抵抗との比(電気抵抗比)とナゲット径とが相関関係を有することから、上記電気抵抗比を測定することでナゲット径を求め、該ナゲット径に基づきスポット溶接の接合せん断力を評価している。しかしながら、上記電気抵抗比とナゲット径との間では、ある程度の相関関係は認められるものの完全な一対一の関係は認められない。そのため、異なるナゲット径が同一の電気抵抗比を示す場合もあり、特許文献2で提案された技術では、ナゲット径、並びにスポット溶接の接合強度を正確に評価することが困難である。
一方、特許文献3で提案された技術においもて4探針法を用いているが、この技術では、探針プローブとして複数の探触針を一定のピッチで直線配列したものを用いることから、探針プローブを金属材料の非溶接領域から溶接領域へ移動させる必要がない。そのため、特許文献3で提案された技術によると、測定時間が短縮化され、ナゲット径を安価かつ簡易に測定することができる。しかしながら、特許文献3で提案された技術では、以下の理由によりナゲット径を高精度に測定することが困難である。
特許文献3で提案された技術では、スポット溶接された鋼材における表面電位変化を測定し、非溶接領域で測定される電位よりも若干高い電位が測定される2つの位置を特異点とし、この2つの特異点間の距離をナゲット径と見なしている。しかしながら、特異点では若干高い電位が測定されるものの、その電位上昇量は微量であり、特異点が明確に現れない。そのため、特許文献3で提案された技術では、特異点の特定が困難となり、ナゲット径を求めることができない場合がある。
また、特許文献3で提案された技術では、測定されたナゲット径(特異点間の距離)とスポット溶接の接合強度との相関関係について検討されていない。そして、本発明者らが上記相関関係について検討した結果、特許文献3で提案された技術によって測定されたナゲット径とスポット溶接の接合強度との間では、必ずしも良好な相関関係が見られなかった。
以上のように、従来技術では、非破壊的にスポット溶接の接合強度を評価するに際し、特殊な測定装置や長時間の測定などを必要としてスポット溶接作業に即対応できるものではなかった。また、測定・評価精度にも問題があり、改善の余地があった。
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、金属材料のスポット溶接固定強度を簡易に、しかも精度よく非破壊検査するに有用なスポット溶接固定強度評価方法及び装置を提供することにある。
図15に示すように、スポット溶接した金属材料同士は、実質的に溶接部のみで接合されていることから、スポット溶接固定強度はナゲットの大きさ(ナゲット径)に依存する。そして、従来技術が示すように、スポット溶接された金属材料の表面電位分布とナゲット径との間では相関関係があるものと推測される。したがって、スポット溶接された金属材料の表面電位分布から正確なナゲット径を求めることができれば、この表面電位分布からスポット溶接固定強度を高精度に評価することができる。
また、特許文献3で提案された4探針法を用いた非破壊検査による技術、すなわち、探針プローブとして複数の探触針を一定のピッチで直線配列したものを用い、複数の探触針の中から一対の電極針および一対の電圧電極針として用いる探触針をそれぞれ選択すると共に、前記電極針および前記電圧電極針として選択する探触針をその配列方向に順次切り換え、スポット溶接された金属材料の表面を探針プローブで走査する技術によると、金属材料の表面電位分布を短時間で測定することができる。
そこで、本発明者らは、上記の如く複数個の探針を配列した多探針ヘッドを用いてスポット溶接した金属材料の表面電位分布を測定し、測定された表面電位分布から正確なナゲット径を求めるとともに、この表面電位分布からスポット溶接固定強度を高精度に評価する手段について鋭意検討した。
先述のとおり、特許文献3で提案された技術では、測定されたナゲット径とスポット溶接の接合強度との間に、必ずしも良好な相関関係が見られない。本発明者らは先ず、このように良好な相関関係が見られない理由について検討した。その結果、特許文献3で提案された技術では、図15に示すナゲットNのみならず、ナゲットNの周囲に形成されたコロナボンドCを含む領域の径Dcを、ナゲット径として測定していることが明らかになった。そして、図15に示すようにコロナボンドCを含む領域の径Dcからは、正確なスポット溶接固定強度を求めることができないことを知見した。
スポット溶接された金属材料に形成される溶接部のうち、ナゲット部では、金属材料同士が強固に溶融固化している。これに対し、コロナボンド部では、金属材料同士が単に固相接合した状態にあるため、ナゲット部に比べて接合強度がはるかに低く、スポット溶接固定強度に対する寄与率は認められない。以上の理由により、図15に示すようにコロナボンドCを含む領域の径Dcと、スポット溶接固定強度との間では、明確な相関関係が得られないものと推測される。
これに対し、本発明者が、図15に示すようにコロナボンドCを含まない領域のナゲット径(以下、有効ナゲット径という)Deffと、スポット溶接固定強度との関係について調査した結果、両者間に良好な相関関係が見られることが判明した。そこで、本発明者らは更に検討を進め、スポット溶接された金属材料の表面電位分布から、図15に示すようにコロナボンドCを含まない領域のナゲット径Deffを求める手段について検討した。
その結果、スポット溶接された金属材料の表面電位分布の半値巾が、図15に示す有効ナゲット径Deffにほぼ一致することを知見した。そして、前記のとおり、有効ナゲット径Deffとスポット溶接固定強度との間に良好な相関関係が見られることから、スポット溶接された金属材料の表面電位分布を測定して該表面電位分布の半値巾を求めるという簡易な手段により、スポット溶接固定強度の高精度評価が可能であることを知見した。
本発明は上記の知見に基づき完成されたものであり、その要旨は次のとおりである。
[1] 複数個の探針を配列した多探針ヘッドをスポット溶接された金属材料のスポット溶接領域を含む表面に当接し、該金属材料の表面の2点間に所定の電流を加える一対の電流電極針用探針および前記電流により前記金属材料の表面に生じる電位を検出する一対の電圧検出用探針の4探針を、前記複数個の探針から選択するとともに、前記選択する4探針を前記複数の探針の配列方向に電気的に順次切り替え、選択した4探針毎に4探針法により前記金属材料の表面電位を測定することで前記金属材料の表面電位分布を測定し、該表面電位分布の半値巾から前記スポット溶接の有効ナゲット径および溶接固定強度を前記金属材料と同一材料について予め求められた表面電位分布の半値巾と最大引張せん断強さとの関係に基づいて非破壊的に評価することを特徴とするスポット溶接固定強度の評価方法。
] 前記[1]において、前記電流電極針用探針および前記電圧検出用探針の4探針を、前記電流電極針用探針と前記電圧検出用探針との間の距離が0.8mm以上であり、前記電圧検出用探針同士の間の距離が1.6mm以上となるように選択することを特徴とするスポット溶接固定強度の評価方法。
] スポット溶接された金属材料の表面に当接する複数個の探針を配列した多探針ヘッドと、前記金属材料の表面の2点間に所定の電流を加える一対の電流電極針用探針および前記電流により前記金属材料の表面に生じる電位を検出する一対の電圧検出用探針の4探針を前記複数個の探針から選択する4探針選択制御手段と、前記選択する4探針を前記複数の探針の配列方向に電気的に順次切り替える4探針切替手段と、前記選択した4探針の一対の電流電極用探針に電流を供給する電流供給手段と、前記選択した4探針毎に4探針法により前記金属材料の表面電位を測定する電位測定手段とを有する表面電位分布測定手段と、
該表面電位分布測定手段で測定された表面電位分布の半値巾を求める半値巾算出手段と、
該半値巾算出手段により求められた半値巾から前記スポット溶接の有効ナゲット径および予め求められたスポット溶接された金属材料の表面電位分布の半値巾と最大引張せん断強さとの相関関係を記憶する記憶手段を具え、前記半値巾算出手段により求められた半値巾と前記記憶手段に記憶された相関関係に基づき溶接固定強度を非破壊的に評価する評価手段と
を具えることを特徴とするスポット溶接固定強度評価装置。
] 前記[]において、前記4探針選択制御手段が、前記電流電極針用探針および前記電圧検出用探針の4探針を、前記電流電極針用探針と前記電圧検出用探針との間の距離が0.8mm以上であり、前記電圧検出用探針同士の間の距離が1.6mm以上となるように選択する機能を具えることを特徴とするスポット溶接固定強度評価装置。
] 前記[または4]において、前記多探針ヘッドが、前記複数個の探針を前記金属材料の表面に当接する際の接触圧力を均一にするための接触圧力調整手段を具えることを特徴とするスポット溶接固定強度評価装置。
] 前記[]ないし[]のいずれかにおいて、前記評価手段により評価されたスポット溶接の固定強度を表示する溶接固定強度表示手段を具えることを特徴とするスポット溶接固定強度評価装置。
] 前記[]ないし[]のいずれかにおいて、スポット溶接の固定強度の閾値を予め設定し、前記評価手段により評価されたスポット溶接の固定強度が前記閾値以上であるか否かを判定する判定手段と、該判定手段により得られた結果を表示する表示手段とを具えることを特徴とするスポット溶接固定強度評価装置。
本発明によると、スポット溶接された金属材料の表面に多探針ヘッドを当接して自動的に上記金属材料の表面電位分布を測定し、該表面電位分布の半値巾を求めるという簡便な手段により、被測定部を破壊することなくスポット溶接固定強度を高精度且つ短時間で評価することができる。したがって、本発明によると、スポット溶接作業に即反映し活用することができ、産業上格段の効果を奏する。
本発明の一実施形態に係るスポット溶接固定強度評価装置の概略構成図である。 (a)本発明の一実施形態に係るスポット溶接固定強度評価装置における多探針ヘッドの一例を示す概略構成図である。(b)本発明の一実施形態に係るスポット溶接固定強度評価装置における多探針ヘッドの他の例を示す概略構成図である。(c)多探針ヘッドをスポット溶接された金属材料の表面に当接した状態を示す図である。 (a)多探針ヘッドをスポット溶接された金属材料の表面に当接する際の多探針ヘッド位置を示す図(側面図)である。(b)多探針ヘッドをスポット溶接された金属材料の表面に当接する際の多探針ヘッド位置を示す図(断面図)である。 本発明の一実施形態に係るスポット溶接固定強度評価装置における多探針ヘッドを示す概略構成図である。 スポット溶接された金属材料の表面電位分布およびその半値巾と、有効ナゲット径との関係を示す図である。 本発明の一実施形態に係るスポット溶接固定強度評価装置を用いて板厚の異なるSPCC材の表面電位を測定した場合における、測定結果と探針電極間隔仕様との関係を示す図である。 多探針ヘッドの電極間隔仕様検討用試験片の概略図である。 多探針ヘッドによる電極間隔仕様検討用試験片の表面電位分布測定結果の一例を示す図である。((a)は、隣り合う電流電極針用探針と電圧検出用探針との間の距離を1mmとし、電圧検出用探針同士の間の距離を1mmとした場合。(b)は、隣り合う電流電極針用探針と電圧検出用探針との間の距離を2mmとし、電圧検出用探針同士の間の距離を3mmとした場合。) 隣り合う電流電極針用探針と電圧検出用探針との間の距離を2mmとし、電圧検出用探針同士の間の距離を3mmとした場合における電極間隔仕様検討用試験片の表面電位分布の半値巾の測定結果を示す図である。 有効ナゲット径と板厚を変化させたスポット溶接試験片における表面電位の測定結果を示す図である。 有効ナゲット径と板厚を変化させたスポット溶接試験片における引張試験結果を示す図である。 ナゲット径と板厚を変化させたスポット溶接試験片における最大引張強さと実測ナゲット径の関係を示す図である。 ナゲット径と板厚を変化させた2mm以下の板厚のスポット溶接試験片における表面電位半値巾と最大引張強さの関係を示す図である。 SPCC材(溶融亜鉛めっき材、裸材)の表面電位と板厚の関係を示す図である。 スポット溶接された金属材料(薄板)の溶接部の概略断面図である。
以下、図面を参照して本発明の一実施形態に係るスポット溶接固定強度評価方法及び装置について説明する。
本発明は、複数個の探針を配列した多探針ヘッドをスポット溶接された金属材料の表面に当接し、該金属材料の表面の2点間に所定の電流を加える一対の電流電極針用探針および前記電流により前記金属材料の表面に生じる電位を検出する一対の電圧検出用探針の4探針を、前記複数個の探針から選択するとともに、前記電流電極針用探針および前記電圧検出用探針として選択する4探針を前記複数の探針の配列方向に電気的に順次切り替え、選択した4探針毎に4探針法により前記金属材料の表面電位を測定することで前記金属材料の表面電位分布を測定し、該表面電位分布の半値巾から前記スポット溶接の有効ナゲット径および溶接固定強度を非破壊的に評価することを特徴とする。
本発明では、スポット溶接された金属材料、例えば2枚の金属板を重ね合わせ、重ね合わせ部をスポット溶接した金属材料を対象とする。金属板の種類は特に問わず、SPCCをはじめとする各種鋼板や、これらの鋼板に亜鉛めっき等のめっきを施しためっき鋼板、アルミ合金板等が例示される。また、金属板の板厚も特に限定されないが、後述するように、評価精度の観点から板厚は2mm以下とすることが好ましい。
本発明では、上記金属材料の表面電位分布を4探針法により求めるが、表面電位分布を測定するに際しては、図1に例示するようなスポット溶接固定強度評価装置100を用いる。スポット溶接固定強度評価装置100は、表面電位分布測定手段と、表面電位分布測定手段で測定された表面電位分布の半値巾を求める半値巾算出手段120と、半値巾算出手段120により求められた半値巾から前記スポット溶接の有効ナゲット径および溶接固定強度を非破壊的に評価する評価手段130とを具える。
スポット溶接固定強度評価装置100の表面電位分布測定手段は、スポット溶接された金属材料のスポット溶接領域を含む表面の電位分布を4探針法により測定する手段であり、多探針ヘッド20、4探針選択制御手段30、4探針切替手段40、電流供給手段50および電位測定手段60を有する。
表面電位分布測定手段の多探針ヘッド20は、図2(a)に示すように、例えば一定間隔dで直線配列した複数個の探針21を、探針支持ブロック22の下部に収容した構成を有する。探針21の個数や探針同士の間隔dは、評価対象物となる金属材料の大きさ等によって適宜設定することができ、例えば12〜30個の探針を間隔d:0.5〜1.5mmとして直線配列することができる。
探針21としては、例えば断面直径が0.5〜1.2mmで、先端が角錐状または円錐状であるような探針を用いることができる。また、探針21の材質は、例えばSKまたは同等の硬さを有するものとすることが好ましく、表面にロジウムメッキなどの処理を施したものとすることがより好ましい。
多探針ヘッド20は、複数個の探針21を金属材料の表面に当接する際の接触圧力を均一にするための接触圧力調整手段を具えることが好ましい。接触圧力調整手段としては、図2(b)に示すように、探針支持ブロックとして下方が開放した凹状のハウジング22Hを用い、ハウジング22Hの凹部に複数個の探針収容部22Haを設けるとともに、探針21の上部にバネ機構を具え、バネ機構を介して探針収容部22Haと探針21とを固定することで、ハウジング22Hに対して探針21が弾性的に上下に可動できるように支持する手段が一例として挙げられる。
バネ機構としては、例えば、図2(b)に示すように、内部にコイルばね21aを有するパイプ21bを用いることができ、パイプ21b内に探針21の上部を挿入して組み込み、コイルばね21aの一端をパイプ21bに固定するとともにコイルばね21aの他端を探針21に固定し、パイプ21bを探針収容部22Haに埋め込むことで探針21を弾性的に上下可動とすることができる。
複数個の探針21の下端部は、図2(b)に示すように、ハウジングの端部22Hbから突出した状態となるように支持する。このように構成された多探針ヘッドを金属材料の表面に当接すると、図2(c)に示すように探針21の上部に設けられたコイルばね21aが縮むため、探針−金属材料表面間に接触圧力が生じる。また、ハウジングの端部22Hbが金属材料2の表面に当接すると、コイルばね21aの縮み量が均一となるため、金属材料表面と各探針との接触圧力を均一にすることができる。なお、コイルばね21aの接触圧力は0.1〜0.5Nとし、上記縮み量は0.5〜1.5mmとすることが好ましい。
以上のような接触圧力調整手段を具えることで、金属材料表面に対する探針の不均一接触に起因した測定精度の低下を防止することができる。
表面電位分布測定手段の4探針選択制御手段30は、多探針ヘッド20に具えられた複数個の探針21から、4探針法に用いる探針、すなわち、金属材料の表面の2点間に所定の電流を供給する一対の電流電極針用探針と、前記電流により前記金属材料の表面に生じる電位を検出する一対の電圧検出用探針の計4本の探針を選択する機能を有する。4探針選択制御手段30としては、例えば、4探針を選択する順番や、選択する4探針の電流電極針用探針と電圧検出用探針との間の距離、電圧検出用探針同士の間の距離等を制御するためのプログラムを用いることができ、このような制御プログラムを記憶したPC(パーソナルコンピュータ)などにより制御することができる。また、上記の如き制御プログラムを記憶したソフトウェアを格納したPCによって制御してもよい。
また、表面電位分布測定手段の4探針切替手段40は、4探針選択制御手段30の制御プログラムに従い、選択する4探針を探針21の配列方向に電気的に順次切り替える機能を有する。表面電位分布測定手段の電流供給手段50は、4探針選択制御手段30および4探針切替手段40により選択した4探針の、一対の電流電極用探針に電流を供給する機能を有する。表面電位分布測定手段の電位測定手段60は、電流供給手段50で一対の電流電極用探針に電流を供給することで生じる金属材料の表面電位を一対の電圧検出用探針で検出する機能を有する。
なお、4探針切替手段40としては、例えば多探針ヘッド20に具えられた複数個の探針21から一対の電流電極針用探針を選択して電流供給手段50に接続する電子スイッチと、多探針ヘッド20に具えられた複数個の探針21から一対の電圧検出用探針を選択して電位測定手段60に接続する電子スイッチなどを用いることができる。
図3(a)および図3(b)に、多探針ヘッドをスポット溶接された金属材料の表面に当接する様子を示す。図3(a)は、多探針ヘッド20がスポット溶接領域を含む金属材料の表面に当接した状態を示す側面図である。このように、多探針ヘッド20がスポット溶接領域を含む金属材料の表面に当接することで、多探針ヘッド20に具えられた全探針は金属材料表面に接触する。一方、図3(b)は、図3(a)のA−A断面の図である。多探針ヘッド20を金属材料の表面に当接するに際しては、直線状に配列した多探針ヘッド20の探針21が、図3(b)に示すナゲットNの中心点Oの上方に位置するように当接するように調節する。また、図3(a)に示すように、表面電位分布を測定する範囲Lを、有効ナゲット径Deffの約3倍以上とすることが好ましい。
図4に例示する本発明の多探針ヘッド20では、23個の探針P1、P2、・・・P23が、一定間隔d=1mmで直線状に配列した複数個の探針を具えている。図4中、aは隣り合う電流電極針用探針と電圧検出用探針との間の距離であり、bは電圧検出用探針同士の間の距離である。したがって、図4の多探針ヘッド20によると、探針電極間隔a、b共に1 mmの場合は20 mmの範囲の表面電位分布を測定することができる。一方、a=2mm、b=3 mmの場合、表面電位分布の測定範囲は18 mmに減少する。しかしながら、通常のスポット溶接のナゲット径は3〜6mm程度であることから、a=2 mm、b=3 mmとした場合であっても、所定の表面電位変化領域を十分カバーし得る。
4探針法に用いる探針を選択するに際しては、多探針ヘッド20の一端に位置する探針P1から多探針ヘッド20の他端に位置する探針P23に向けて順次選択するように、4探針選択制御手段30の制御プログラムを設定することが好ましい。
例えば、探針電極間隔a=b=1mmとする場合、先ず4探針として探針P1、P2、P3、P4を選択し、探針P1−P4間に電流を流し(電流供給手段50)、該電流により金属材料の表面に生じた電位を探針P2、P3で検出する(電位測定手段60)。そして、探針P2、P3での電位検出後、4探針選択制御手段30および4探針切替手段40によって選択する探針を切り替え、4探針として探針P2、P3、P4、P5を選択し、探針P2−P5間に電流を流し(電流供給手段50)、該電流により金属材料の表面に生じた電位を探針P3、P4で検出する(電位測定手段60)。このような作業を繰り返し、最終的に4探針として探針P20、P21、P22、P23を選択し、探針P20−P23間に電流を流し(電流供給手段50)、該電流により金属材料の表面に生じた電位を探針P21、P22で検出する(電位測定手段60)。
また、探針電極間隔をa=2mm、b=3mmとする場合、先ず4探針として探針P1、P3、P6、P8を選択し、探針P1−P8間に電流を流し(電流供給手段50)、該電流により金属材料の表面に生じた電位を探針P3、P6で検出する(電位測定手段60)。そして、探針P3、P6での電位検出後、4探針選択制御手段30および4探針切替手段40によって選択する探針を切り替え、4探針として探針P2、P4、P7、P9を選択し、探針P2−P9間に電流を流し(電流供給手段50)、該電流により金属材料の表面に生じた電位を探針P4、P7で検出する(電位測定手段60)。このような作業を繰り返し、最終的に4探針として探針P16、P18、P21、P23を選択し、探針P16−P23間に電流を流し(電流供給手段50)、該電流により金属材料の表面に生じた電位を探針P18、P21で検出する(電位測定手段60)。
各探針間の間隔を0.8mm未満に狭めると、探針電極間の漏えい電流の増加などにより測定が不安定になり易い。したがって、4探針法に用いる探針を選択するに際しては、各探針間の間隔を0.8mm以上とすることが好ましい。また、隣り合う電流電極針用探針と電圧検出用探針との間の距離aが0.8mm以上、電圧検出用探針同士の間の距離bが1.6mm以上となるように選択することがより好ましい。但し、上記距離a、bが大きくなり過ぎると、表面電位変化に対する検出感度が低下するおそれがあるため、aは2.5mm以下、bは3.5mm以下とすることが好ましい。
また、4探針毎に金属材料の表面電位を測定するに際し、一対の電流電極用探針に供給する電流Iを0.1〜1.5Aとし、その通電時間を0.1〜0.6sとすることが好ましい。電流Iが0.1A未満、或いは通電時間が0.1s未満になると、発生する表面電位の低下などにより測定が不安定になるおそれがある。一方、電流Iが1.5A超、或いは通電時間が0.6sを超えると、過大電流による発熱の問題が懸念され、また、大容量の電流発生回路の設置が必要になる等、設備コスト面で不利となる場合がある。
以上のように、表面電位分布測定手段では、選択した4探針毎に4探針法により前記金属材料の表面電位を測定することで、前記金属材料の表面電位分布を測定することができる。測定される表面電位分布は、図5のように谷型の分布を示し、ナゲットNの中心点O付近の領域で表面電位が最小値となる。
スポット溶接固定強度評価装置100の半値巾算出手段120は、表面電位分布測定手段で測定された表面電位分布の半値巾を求める機能を有する。半値巾算出手段120では、図5のような表面電位分布曲線から、表面電位の最大値Vmaxと最小値Vminとを求め、下式により半値巾Hwを算出する。
半値巾Hw=(Vmax+Vmin)/2
半値巾算出手段120としては、上記最大値Vmax、最小値Vminおよび半値巾Hwを算出するための演算用プログラムを用いることができ、このような演算プログラムを記憶したPCなどにより演算することができる。また、上記の如き演算プログラムを記憶したソフトウェアを格納したPCによって演算を行ってもよい。なお、上記最大値Vmaxおよび最小値Vminは、例えばデータクラスタリング(K平均法)を用い、複数のデータをクラスタで自動的に分け、そのクラスタの平均が最も大きい最大値をVmax、最も小さい値を最小値Vminとする等、一般的な解析法により求めることができる。
スポット溶接固定強度評価装置100の評価手段130は、半値巾算出手段120により求められた半値巾から、前記スポット溶接の有効ナゲット径および溶接固定強度を非破壊的に評価する機能を有する。
先述のとおり、本発明者らは、上記のようにして得られた表面電位分布の半値巾が、有効ナゲット径Deffとほぼ一致することを知見した。そして、スポット溶接固定強度とは有効ナゲット径Deffとの間に良好な相関関係が見られることから、半値巾算出手段120により求められた半値巾を有効ナゲット径Deffとみなし、スポット溶接固定強度を評価することができる。
ここで、スポット溶接された金属材料のスポット溶接固定強度を評価するに際しては、評価の対象とされるスポット溶接金属材料と同一材料について予め求められた表面電位分布の半値巾と最大引張せん断強さとの関係に基づいて評価することが好ましい。例えば、評価の対象とされるスポット溶接金属材料と同一材料を用いてスポット溶接試験片を作製し、該試験片の表面電位分布の半値巾と最大引張せん断強さとの相関関係について予め求めておけば、評価の対象とされるスポット溶接金属材料の表面電位分布の半値巾を求め、該半値巾と予め求めた相関関係とを対比するだけで、スポット溶接金属材料のスポット溶接固定強度を簡易に評価することができる。
したがって、評価手段130は、予め求められたスポット溶接された金属材料の表面電位分布の半値巾と最大引張せん断強さとの関係を記憶する記憶手段を具え、前記半値巾算出手段により求められた半値巾と前記記憶手段に記憶された相関関係に基づきスポット溶接の固定強度を評価する手段とすることが好ましい。記憶手段としては、例えばスポット溶接された金属材料の表面電位分布の半値巾と最大引張せん断強さとの相関関係を、金属材料の種類や寸法毎に求め、これらの相関関係をPCの記憶部に記憶する手段が挙げられる。また、これらの相関関係を記憶したソフトウェアを格納したPCを用いてもよい。
上記に加えて更に、本発明のスポット溶接固定強度評価装置には、前記評価手段により評価されたスポット溶接の固定強度を表示する溶接固定強度表示手段を具えてもよい。また、評価の対象とされるスポット溶接された金属材料について、そのスポット溶接固定強度の閾値を設定し、前記した評価手段により評価されたスポット溶接の固定強度が前記閾値以上であるか否かを判定する判定手段と、該判定手段により得られた結果を表示する表示手段とを具えてもよい。これらの手段を具えることで、得られたスポット溶接固定強度の評価結果をスポット溶接作業において即有用な情報として用いることが可能となり、スポット溶接固定強度評価装置の利便性をより一層高めることができる。
以下、実施例に基づき、更に本発明を具体的に説明する。
尚、以下の実施例に示す結果は、スポット溶接された金属材料として、2枚の冷間圧延鋼板(SPCC)材をスポット溶接した試験片を用いた場合の結果であり、材料が異なれば勿論、図中の各種値も異なる。
(実施例1)
図15に示すように、スポット溶接した金属材料(薄板)のナゲット形成部は、見かけ上は重ねられた裏側の材料(図中、2枚の薄板のうちの下側の薄板)の厚さだけ板厚が増加したことになる。したがって、スポット溶接した金属材料の表面電位分布を測定すると、ナゲット形成部分において、電路が増大することにより表面電位が低下するような谷型の分布が得られ、本発明では、このような谷型表面電位分布の半値巾を求めることでスポット溶接固定強度を評価する。
以上の理由により、スポット溶接固定強度を評価するうえでは、ナゲット形成部分における表面電位の低下量が大きいこと、すなわち、表面電位の板厚依存性が大きいことが好ましい。表面電位の板厚依存性が小さいと、ナゲット形成部分において明確な谷型表面電位分布が現れず、表面電位分布の半値巾を求めることが困難となり、スポット溶接固定強度の評価精度が低下するためである。
そこで、スポット溶接される金属材料の厚さ(図15に示す各々の薄板の板厚)と表面電位の関係について、以下の手法により調査した。
種々の板厚(0.5〜3.2mm)を有する幅40mm×長さ126mmの冷間圧延鋼板(SPCC)を用意し、これらの鋼板の表面電位分布を、本発明のスポット溶接固定強度評価方法・装置によって測定した。多探針ヘッドとしては、図4に示す多探針ヘッド(探針の個数:23個、探針同士の間隔d=1mm)を用いた。また、探針としては、SK材からなり表面にロジウムメッキした探針であって、断面直径:0.6mmであり、先端が角錐状のものを用いた。
鋼板の表面電位分布を測定するに際しては、選択する4探針の、隣り合う電流電極針用探針と電圧検出用探針との間の距離a、および電圧検出用探針同士の間の距離bを、様々な値に設定して測定した。また、選択した4探針毎に、一対の電流電極用探針に1Aの電流を0.5s間供給することで、一対の電圧検出用探針間の電位を測定した。
図6は、上記測定の結果から得られた鋼板の表面電位と板厚との関係を示す図であり、横軸は鋼板の板厚を示す。なお、上記の試験片はスポット溶接された試験片ではないため、表面電位分布は図5のような谷型を示さない。したがって、図6の縦軸は、選択した4探針毎に測定された表面電位の平均値とした。また、図6中に付された数値(1-1-1等)は、4探針の、隣り合う電流電極針用探針と電圧検出用探針との間の距離a、および電圧検出用探針同士の間の距離bの値(a-b-a)を示し、例えば「1-1-1」は「a=1mm,b=1mm」、「1-2-1」は「a=1mm,b=2mm」である。
図6に示すように、板厚が2mm超になると、表面電位の変化量は低下していることから、表面電位分布の検出感度の低下が予測される。したがって、金属材料の種類がSPCCである場合には、その板厚を2mm以下とすることで、本発明の効果が顕著となる。また、選択する4探針の探針間距離aおよびb、特に電圧検出用探針同士の間の距離bが狭い場合には、板厚が増した時の変化量が低下していることから、表面電位分布の検出感度の低下が予測される。
(実施例2)
ナゲット形成部分において表面電位が低下することは先述のとおりであるが、ナゲット形成部分における表面電位低下量は、有効ナゲット径Deffの大きさにも依存することが予想される。そこで、有効ナゲット径Deffの大きさと表面電位の関係について調査すべく、以下の手法により模擬実験を行った。
板厚1mmのSPCC材を2枚重ねてスポット溶接したことを想定して、図7に示すように板厚2mmのSPCC材1枚(幅40mm×長さ200mm)を用い、裏側(下面側)から板厚方向1mmの領域において、ナゲット部を想定した領域として一辺の長さがWmm(W=1〜9mm)である正方形領域を残し、その周囲を削り落した表面電位測定評価用の試験片を作製した。これらの試験片について、表面側(上面側)の表面電位分布を測定した。
表面電位分布を測定するに際しては、実施例1と同様の測定条件とした。但し、選択する4探針の、隣り合う電流電極針用探針と電圧検出用探針との間の距離a、および電圧検出用探針同士の間の距離bは、「a=b=1mm」または「a=2mm、b=3mm」とした。なお、表面電位分布を測定するに際しては、多探針ヘッドの直線状に配列した23個の探針のうち中心に位置する探針(すなわち、12番目の探針)が、正方形領域の中心点の上方に位置するように、多探針ヘッドを試験片表面に当接した。また、探針の配列方向が、正方形領域の一辺の方向と一致するように、多探針ヘッドを試験片表面に当接した。
図8(a)は、「a=b=1mm」とした場合の測定結果を示す図であり、図8(b)は、「a=2mm、b=3mm」とした場合の測定結果を示す図である。また、図8(a)、(b)のいずれにおいても、横軸は削り残し領域、すなわちナゲット部を想定した正方形領域の中心点からの距離を示し、縦軸は表面電位を示す。また、図中、測定点の種類を説明する数値(1〜9)は、正方形領域の一辺の長さWを示している。
図8(a)、(b)に示すように、Wが1mmから9mmへと大きくなるにつれ表面電位の変化量も大きくなるが、電極仕様が「a=b=1mm」の場合はナゲット部を想定した正方形領域の表面電位変化が適切に測定されていないことが判る。一方、電極仕様が「a=2mm、b=3mm」の場合には、ナゲット部を想定した正方形領域の表面電位変化が適切に測定されていることが判る。
図9は、電極仕様が「a=2mm、b=3mm」の場合について、測定した表面電位分布の半値巾(mm)を求め、ナゲット部を想定した正方形領域の一辺の長さW(mm)と表面電位分布の半値巾(mm)との関係を示す図である。図9に示すように、ナゲット部を想定した正方形領域の一辺の長さWが3mm以上の領域において、表面電位分布の半値巾とWとの間で比例関係が認められる。以上の結果から、板厚が1mmの板同士をスポット溶接したSPCC材の場合、スポット溶接部の有効ナゲット径が3mm以上になると本発明の効果が顕著となると云える。また、最適な探針電極間隔の仕様が「a=2mm、b=3mm」であることも判る。
本発明の更に具体的な有効性を示すために、板厚を変えたSPCC材をスポット溶接した試験片を用い、本発明に従い試験片の表面電位分布を測定するとともに、引っ張り試験によるスポット溶接固定強度の実測、および有効ナゲット径の実測を行い、表面電位分布の半値巾、有効ナゲット径、スポット溶接固定強度の相関関係について調査した。
(実施例3)
用いたSPCC材は、長さ125 mm、幅40 mmであり、板厚tが0.5 mm、1.0 mm、1.5mm、2.0mm、2.6mm、3.2mmの6種類である。それぞれ同一の厚さ2枚を長さ方向に40mm重ね合わせてスポット溶接した。スポット溶接条件を表1に示す。スポット溶接で形成される有効ナゲット径Deffは、(1)式で示す範囲に収まるように電極チップ径、溶接電流値、加圧力などを調節し、Deffが5〜10 mmとなるようにした。なお、(1)式のtはSPCC材の板厚t(mm)である。
4√t ≦ Deff ≦ 6√t … (1)
Figure 0005868728
それぞれの試験片の表面電位分布を測定するに際しては、実施例1と同様の測定条件とした。但し、選択する4探針の、隣り合う電流電極針用探針と電圧検出用探針との間の距離a、および電圧検出用探針同士の間の距離bは「a=2mm、b=3mm」とした。なお、表面電位分布を測定するに際しては、多探針ヘッドの直線状に配列した23個の探針のうち中心に位置する探針(すなわち、12番目の探針)が、ナゲットの中心点(図3(b)の点O)の上方に位置するように、多探針ヘッドを試験片表面に当接した。また、探針の配列方向が、試験片の幅方向と一致するように、多探針ヘッドを試験片表面に当接した。
探針の個数が23個であり、選択する4探針の、隣り合う電流電極針用探針と電圧検出用探針との間の距離a、および電圧検出用探針同士の間の距離bが「a=2mm、b=3mm」である本実施例では、合計16組の4探針を選択し、選択された4探針毎に0.5s間電流を流して表面電位を測定することになる。したがって、試験片毎の表面電位分布測定時間は、約8秒(0.5s×16)となる。なお、同一の試験片について、従来技術(例えば特許文献2で提案された技術)にしたがい表面電位分布を測定すると、約10分かかる。すなわち、本発明によると、表面電位分布の測定効率が飛躍的に向上する。
図10は、上記により測定された各試験片の表面電位分布を示す図であり、横軸はナゲット中心点からの距離を示し、縦軸は表面電位を示す。また図10中、測定点の種類を説明する表示(0.5t,φ5等)は、SPCC材の板厚tおよびスポット溶接に用いた電極チップ径φを示す。なお、後述する図11〜図13中の、測定点の種類を説明する表示(1.0t,φ6等)も同様である。図10から明らかであるように、板厚が2 mm以下の場合では、表面電位分布に十分な変化が見られ、本発明の効果が顕著となる。一方、板厚が2 mm以上の場合はナゲット部の表面電位の谷が認められるものの、さらに板厚が増すと検出感度が低下し、十分な結果が得られないことが判る。板厚が増加につれて検出感度が低下する理由としては、図6に示すように、板厚が増加するにつれて表面電位の鋼板板厚依存性が小さくなり、ナゲット部の板厚の増加に伴う表面電位の変化量が低下することが推測される。
なお、実際のスポット溶接品のスポット溶接部は溶接電極圧接によるクボミ、チリ、酸化膜などにより測定精度が低下し表面電位分布の測定値に影響を及ぼす。このような観点から、表面電位分布を求めるに際しては、測定誤差の低減のために複数回の測定を実施し、平均化して用いるなどして測定バラツキの低減を図ることが好ましい。ここで、従来技術による表面電位分布測定では測定時間が長いため、複数回の測定を行うには莫大な時間を要する。一方、本発明によると、測定時間が大幅に短縮されるため、複数回の測定を実施して測定バラツキを低減する等、測定精度向上の改良が容易である。
(実施例4)
スポット溶接された金属材料のスポット溶接固定強度を明らかにするために、実施例3で作製した試験片(表面電位分布を測定した各試験片)について、引張試験を行い、スポット溶接部の引張りせん断強さFを評価した。引張試験は、日本工業規格JIS Z 3136(抵抗スポット及びプロジェクション溶接継手のせん断試験に対する試験片寸法及び試験方法)に準拠して行った。また、引張試験を行った後の破断した試験片について、ナゲット部の破面を観察し、有効ナゲット径Deffを実測した。引張り試験の結果を図11に示す。
また、図11の引張せん断強さ−伸び曲線から最大引張せん断強さFmaxを求めた。上記有効ナゲット径Deffと最大引張りせん断強さFmaxとの関係を図12に示す。図12から明らかであるように、最大引張りせん断強さFmax(kN)と有効ナゲット径Deff(mm)の間には良好な相関関係が認められ、この相関関係は(2)式の近次式で示すことができる。
Fmax = 4.2Deff−11.3 … (2)
(実施例5)
実施例3および実施例4で得られた各試験片のうち板厚tが2mm以下である試験片について、表面電位分布の半値巾Hwと最大引張りせん断強さFmaxとの関係を図13に示す。図13から明らかであるように、板厚2 mm以下であるSPCC材の場合、表面電位分布の半値幅Hw(mm)と最大引張りせん断強さFmax(kN)には良好な相関関係が認められ、(3)式の近似式で示すことができる。
Fmax = 4.2Hw−11.0 … (3)
以上の結果から、本発明に従い、スポット溶接された金属材料の表面電位分布を測定し、その半値巾を求めることで、有効ナゲット径およびスポット溶接固定強度(スポット溶接された金属材料の最大引張せん断強さ)を非破壊的に精度よく、しかも効率的に評価できることが確認される。
なお、実施例3が示すように、金属材料がSPCC材である場合には、その板厚が2mm超になると精度が多少劣る。しかしながら、板厚が2mm以下であれば極めて精度よく評価することができ、自動車部材用鋼板の多くが板厚2mm以下の薄鋼板であることを踏まえると、本発明は依然として産業上極めて有効なものと云える。また、スポット溶接される金属材料の種類が異なれば、勿論、高精度に評価できる板厚の厚さも異なり、その種類によっては板厚2mm超の場合であっても高い評価精度を示すものもある。
(実施例6)
自動車部材用鋼板の多くは、耐食性を確保する目的でめっき処理が施されて使用される。そこで、板厚0.65〜1.8mmのSPCC材(溶融亜鉛めっき材、および裸材)から幅40 mm×長さ125 mmの試験片を切り出し、これらの試験片を用いて上記実施例1と同様の測定・評価を行った。なお、溶融亜鉛めっき材の試験片は、SPCC材(裸材)にめっき厚さ約40μmの溶融亜鉛めっき処理を施して作製した。
図14は、実施例1における図6と同様の手法により求めた図である。なお、図中の式(V=44.8/t+17)は、VmaxおよびVminの各データを用いることにより得られた近似式である。図14に示すように、溶融亜鉛めっき処理を施したSPCC材の場合においても、板厚が2 mm以下であれば表面電位分布に十分な変化が見られる。以上の結果から、本発明の評価方法・装置は、めっき処理を施した金属材料についても所望の効果が得られることが判る。
1 … 溶接部
N … ナゲット
C … コロナボンド
2 … 金属材料(薄鋼板)
20 … 多探針ヘッド
21 … 探針
30 … 4探針選択制御手段
40 … 4探針切替手段
50 … 電流供給手段
60 … 電位測定手段
100 … スポット溶接固定強度評価装置
120 … 半値巾算出手段
130 … 評価手段

Claims (7)

  1. 複数個の探針を配列した多探針ヘッドをスポット溶接された金属材料のスポット溶接領域を含む表面に当接し、該金属材料の表面の2点間に所定の電流を加える一対の電流電極針用探針および前記電流により前記金属材料の表面に生じる電位を検出する一対の電圧検出用探針の4探針を、前記複数個の探針から選択するとともに、前記選択する4探針を前記複数の探針の配列方向に電気的に順次切り替え、選択した4探針毎に4探針法により前記金属材料の表面電位を測定することで前記金属材料の表面電位分布を測定し、該表面電位分布の半値巾から前記スポット溶接の有効ナゲット径および溶接固定強度を前記金属材料と同一材料について予め求められた表面電位分布の半値巾と最大引張せん断強さとの関係に基づいて非破壊的に評価することを特徴とするスポット溶接固定強度の評価方法。
  2. 前記電流電極針用探針および前記電圧検出用探針の4探針を、前記電流電極針用探針と前記電圧検出用探針との間の距離が0.8mm以上であり、前記電圧検出用探針同士の間の距離が1.6mm以上となるように選択することを特徴とする請求項1に記載のスポット溶接固定強度の評価方法。
  3. スポット溶接された金属材料の表面に当接する複数個の探針を配列した多探針ヘッドと、前記金属材料の表面の2点間に所定の電流を加える一対の電流電極針用探針および前記電流により前記金属材料の表面に生じる電位を検出する一対の電圧検出用探針の4探針を前記複数個の探針から選択する4探針選択制御手段と、前記選択する4探針を前記複数の探針の配列方向に電気的に順次切り替える4探針切替手段と、前記選択した4探針の一対の電流電極用探針に電流を供給する電流供給手段と、前記選択した4探針毎に4探針法により前記金属材料の表面電位を測定する電位測定手段とを有する表面電位分布測定手段と、
    該表面電位分布測定手段で測定された表面電位分布の半値巾を求める半値巾算出手段と、
    該半値巾算出手段により求められた半値巾から前記スポット溶接の有効ナゲット径および予め求められたスポット溶接された金属材料の表面電位分布の半値巾と最大引張せん断強さとの相関関係を記憶する記憶手段を具え、前記半値巾算出手段により求められた半値巾と前記記憶手段に記憶された相関関係に基づき溶接固定強度を非破壊的に評価する評価手段と
    を具えることを特徴とするスポット溶接固定強度評価装置。
  4. 前記4探針選択制御手段が、前記電流電極針用探針および前記電圧検出用探針の4探針を、前記電流電極針用探針と前記電圧検出用探針との間の距離が0.8mm以上であり、前記電圧検出用探針同士の間の距離が1.6mm以上となるように選択する機能を具えることを特徴とする請求項に記載のスポット溶接固定強度評価装置。
  5. 前記多探針ヘッドが、前記複数個の探針を前記金属材料の表面に当接する際の接触圧力を均一にするための接触圧力調整手段を具えることを特徴とする請求項3または4に記載のスポット溶接固定強度評価装置。
  6. 前記評価手段により評価されたスポット溶接の固定強度を表示する溶接固定強度表示手段を具えることを特徴とする請求項ないしのいずれかに記載のスポット溶接固定強度評価装置。
  7. スポット溶接の固定強度の閾値を予め設定し、前記評価手段により評価されたスポット溶接の固定強度が前記閾値以上であるか否かを判定する判定手段と、該判定手段により得られた結果を表示する表示手段とを具えることを特徴とする請求項ないしのいずれかに記載のスポット溶接固定強度評価装置。
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