本願発明の実施形態を説明する前に、幾つかの構成要素の形態について予め述べておく。
図7は、各種光カプラ構成の等価変換を示す図である。光カプラの構成には、方向性結合器やマルチモード干渉計(Multimode Interference:MMI)型、或いは、後述の実施例で用いている波長無依存カプラ(Wavelength Insensitive Coupler:WINC)と呼ばれるMZIの一種で構成された光カプラ(非特許文献8)など幾つかの構成が知られているが、基本的にはいずれの構成を用いても構わない。方向性結合器ではバー経路に対するクロス経路の相対位相がπ/2遅れ、マルチモード干渉計ではπ/2進むなど、細かな点で異なるが、これらの相対位相を補正することで、相互に置き換えることができる。例えば、図7(a)での3dBカプラの例では、方向性結合器で構成される3dBカプラを、前後に±π/2の移相器703、704を設けたMMIカプラ702に置き換えても、同じ透過特性を得ることができる。本実施形態では、特に断りが無ければ基本的に方向性結合器を用いた場合で説明を行っていく。
また、以下の実施形態では、1入力2出力分岐器、或いは、2入力1出力合流器には、主にY分岐回路を用いた場合で説明を行っていくが、2入力2出力光カプラを用いて1ポートを未接続とした構成を用いてもよい。但し、2入力2出力光カプラを用いる場合は、上述のように、ポート間でπ/2の相対位相ズレが生じるので、この補正を行なう。具体的には、図7(b)に示すように、Y分岐カプラ711を有する1入力2出力分岐器は、クロス経路側に、π/2の移相器714を設けた3dB方向性結合器713に置き換えることができる。なお、2入力2出力光カプラを用いた場合は、未接続(不要)ポート712をモニターポートやテストポートとして活用してもよい。このことについては、固定結合比率の光カプラだけでなく、結合比率可変の可変光カプラについても同様である。
可変光カプラは、二つの2入力2出力3dB光カプラ712、723を2個の可変移相器を介して接続したMZIで構成されている。光カプラ721をこの可変カプラに置き換える場合の等価変換則を図7(c)に示しておく。この可変移相器の移相量を変えることで、MZI全体を光カプラとしてみた場合の結合率を動的に変えることができる。勿論、可変光カプラはこのようなMZI構成だけでなく、方向性結合器の結合部の屈折率を変えることで結合器としての結合率を変える構成など他の構成を用いてもよい。
また、干渉計中に設けられている移相器は、干渉計の各経路を伝搬する光の相対位相変化を設定する為のものなので、絶対値が重要なのではなく各経路間での相対値が意味をもつ。従って、例えばAとBの2経路の干渉計、即ち2光束干渉計において、B経路の伝搬光の位相変化に対してA経路の伝搬光の位相変化をφだけ大きくする場合、A経路にのみ+φの移相器を設けても良いし、A経路に+φ/2の移相器を、B経路に−φ/2の移相器を設けても良い。また、位相量には2πの任意性がある。これらをまとめると、相対位相変化量φを設定する場合、A経路には+φ+ψ+2π・aの移相器を、B経路には+ψ+2π・bの移相器を設ければ良い。ここで、ψは任意数、a,bは任意整数である。本明細書の説明では、この任意性に関しては特に記載せず、例えば「A経路にのみ+φの移相器を設ける」といった分かりやすい記載とするが、この任意性が含まれていることを予め断っておく。また、ある一本の経路において伝搬光が受ける位相変化量は経路中の要素で受ける位相変化量の総和になるので、総位相変化量は各要素の順序には依らない。よって、一本の経路中にある移相器や遅延線等の順序は入れ替えることができることも予め断っておく。これら移相器における移相量の相対性や移相器の順序の交換性については、移相量固定の移相器だけでなく、移相量を可変にした可変移相器に関しても勿論当てはまる。
また、移相器の実現手段には、僅かな長さの遅延線を用いるもの、導波媒体の実効屈折率を変えるものなど、幾つかの手段があるがいずれを用いても良い。導波媒体の実効屈折率を変える手段としては、熱光学効果や電気光学効果、光弾性効果等の物理現象による導波媒体を構成する物質の物性屈折率変化を利用しても良いし、導波媒体が導波路である場合は、導波路幅等の導波路サイズや構造を変えることによる構造屈折率変化を利用しても良い。
また、以下で述べる実施形態、実施例では、主に合分波器の合分波数Mが2のべき乗(M=2m;mは自然数)であるとして例示/説明を行う。これは、本発明の合分波器の構成上、ポート数が2のべき乗であると、全体構成が過不足の無い構成になる為、都合が良いからである。然しながら、ポート数が2のべき乗以外の場合でも、ポート数がM’=2m’(ここで、m’は、M<2m’である最小の自然数)である構成を基本構成として、一部のポート、及び、この一部のポートのみに関連する回路要素を省く構成とすれば、本発明の構成を適用できる。
また、各種の実施形態、実施例では主に分波器の場合で図示/説明するが、入出力を入れ替えることで、これら実施形態、実施例は合波器/分波器いずれの構成にもなることを予め断っておく。また、本明細書の説明では入出力ポートを一般化して合波ポート、分波ポートという名称を用いることがあるが、分波器では合波ポートは入力ポート、分波ポートは出力ポート、また、合波器ではこの逆で合波ポートは出力ポート、分波ポートは入力ポートのことをそれぞれ指している。
[第1の実施形態:基本形態]
本願発明の第1の実施形態である合分波器800の構成を図8に示す。本図においては、合分波数、すなわち、分波ポート数M=8の場合で図示している。合分波器800は、光カプラ801と経路長差M・ΔLの遅延回路811〜813が交互に多段に接続して構成された(N−1)段のラティス型2光束干渉計と、この干渉計の出力に接続された2組の1入力(M/2)出力光カプラ814と、この光カプラの出力に接続されて、すべての経路長がΔLずつ異なるMアレイ遅延回路815と、この遅延回路に接続されたM入力M出力光カプラ816からなる。なお、ΔL=c/(n・M・Δf)(cは光速、nは経路媒質の実効屈折率、Δfは合分波周波数間隔)である。M入力M出力光カプラ816は、m段接続されたM/2アレイの2入力2出力光カプラ802で構成され、k段目j番(kは1〜mの整数、jは1〜M/2の自然数)の2入力2出力光カプラ802がx番目の経路とy番目の経路を結合するように接続する。ここで、m=log2(M)であり、
である。なお、(j−1)div 2m−kは(j−1)を2m−kで割った商を、(j−1)mod 2m−kは(j−1)を2m−kで割った余りを表している。Mアレイ遅延回路815は、上記j、kをパラメータとして上式で指定されるx番目の遅延経路とy番目の遅延経路において、両遅延経路の経路長差が2m−k・ΔLの関係となるようにする。なお、図8には、Mアレイ遅延回路815の経路長が下方から上方に向かってΔLずつ増加している構成を代表例として示している。
なお、ラティス型2光束干渉計各段の2入力2出力光カプラ801の前後には、設計に応じて移相器803を配置する。同様に、M入力M出力光カプラ816を構成する2入力2出力光カプラ801、802の間を接続する経路にも移相器804を配置する。なお、図8では、Mアレイ遅延回路815の前後の移相器を配置していないが、実施例1等で説明するように配置する場合もある。
また、図8では、1入力M/2出力光カプラ814は、複数の1入力2出力光カプラを二分木状に接続して構成しているが、1入力M/2出力のMMI型光カプラ等の他の構成でも勿論良い。MMI型の光カプラを用いた場合の設計例は、別の実施形態の中で改めて説明する。
合分波器800の合分波動作を見通し良く理解する為に、まず合分波器800とは構成が異なるものの透過特性が同じである等価回路900を用いて、その動作を説明する。合分波器800の等価回路900を図9に示す。なお、図9の回路900が図8に示した合分波器800と同じ透過特性を持つ等価回路であることの証明については後で説明する。等価回路900は、ラティス型ILF910の出力に、複数のMZI型フィルタ920、930、950、960、970を二分木状に接続した構成となっている。ラティス型ILF910の遅延回路の経路長差は、1段目から(N−1)段目の遅延回路ではM・ΔL、最終段であるN段目の遅延回路では(M・ΔL)/2となっている。合分波最終段のMZI型フィルタ940、950、960、970のMZI経路長差はΔL、最終段側から2段目のMZI型フィルタ920、930のMZI経路長差は2ΔLとなっている。M=8以外の場合も考慮した一般表現をすると、ラティス型ILF910の出力にMZI型フィルタが二分木状にlog2(M/2)段接続され、最終段側からs段目のMZI型フィルタのMZI経路長差は2s−1・ΔLになる。尚、ラティス型ILFや各MZI型フィルタの出力ポート名は、図中には明記していないがいずれの場合も、上方の出力がポートA、下方の出力がポートBであるとする。
このラティス型ILF910は、各段の光カプラの結合位相角θ0〜θN、及び移相器の位相シフト量φ1〜φNを適切な値、例えばN=3の場合は図10(a)の表の「単独パターン設定」の欄に示す値、に設定することで、図11(a)に示す計算透過特性を持ち、偶数チャンネルと奇数チャンネルを櫛歯状に合分波する合分波周波数ピッチΔfのILFとして動作する。ここで、結合位相角θiは光カプラの光結合係数を角度表現した量であり、(sin(θi))2が結合率のパワー比、即ちクロス経路へのパワー分配比になる。各MZI型フィルタは、移相器902の各位相シフト量ψ’1,1〜ψ’2,4を例えば図10(b)の表の「昇順」の欄に示す値に設定することで、図11(b)及び(c)に示すSin形状の計算透過特性を持ち、MZI型フィルタ920、930は合分波周波数ピッチ2ΔfのILF、MZI型フィルタ940、950、960、970は合分波周波数ピッチ4ΔfのILFとして動作する。
即ち、等価回路900は、全体構成としては図6に示した構成、即ちILFを二分木状に多段接続した構成になっている。相違点は、図6の2段目以降のILFに、ラティス型ILFではなく単純なMZI型フィルタ920、930、940、950、960、970を適用した点である。単純なMZI型フィルタを適用することで、多段構成の干渉計フィルタであるラティス型ILFを適用した場合と比べて回路サイズを削減することが出来る。一方、単純なMZI型フィルタは、ラティス型ILFと比べて通過域が平坦ではなく、また、通過域と阻止域の間の急峻性が悪い他、阻止域で十分な消光特性が得られる領域も狭いので、合分波器全体構成としての特性に問題を生じる可能性が懸念される。
しかしながら、通過域と阻止域の間の急峻性は基本的に隣接チャンネル間の問題であるため、隣接チャンネルを合分波する合分波周波数ピッチΔfのILF、即ち図6で示す所の一段目のILF601が、等価回路900のようにラティス型ILF910であれば問題ない。また、通過域の平坦性に関しては、1段目のILFであるラティス型ILF910が任意の通過特性を設計しやすいという利点を活かして、2段目以降のILFであるMZI型フィルタ920、930、940、950、960、970の特性を補正することで解決できる。ポート数が多い場合、即ち二分木接続の段数が多い場合はMZI型フィルタを適用したILFが多くなるが、下段に位置するMZI型フィルタほど、MZI型フィルタのFSRは大きくなり、通過チャンネルにおけるMZI型フィルタの透過特性は平坦になっていくので、補正すべき量は飽和する傾向にある。また、阻止域の消光特性に関しても、今回想定しているマルチキャリア送受信機で用いられる合分波器では、以下に述べるように大きな消光比の特性を得る必要がないので問題にならない。送信機においては、変調器から出力される送信光信号は基本的にキャリア周波数の周辺にしかスペクトルが広がらないので、合波器の消光特性は隣接のチャンネルで、ある程度の消光比が得られていれば十分である。受信機においては、コヒーレント検波の過程で低域通過の電気フィルタ回路によって、他チャンネルの信号を排除することが可能なので、基本的には分波器が大きな消光比の特性を持つ必要はない。このように等価回路900は、前述の懸念事項が問題になることは無く、回路サイズ削減のメリットのみを受けることができることがわかる。
上述の通過域平坦化補正を行った場合の、N=3におけるラティス型ILFの光カプラの結合位相角θ0〜θN、及び移相器の位相シフト量φ1〜φNの設定例を図10(a)の表の「補正パターン設定、昇順」に示し、この設定時のラティス型ILFの計算透過特性を図12(a)に、等価回路全体の計算透過特性を図12(b)に、通過域の計算特性の拡大図を図12(c)の「補正あり」に示す。なお、図12(c)には、MZI型フィルタ部のみを通過したときの計算特性も「MZIs」に示す。更に、通過域平坦化補正を行っていない場合のラティス型ILF単独の計算特性を「ILF単独」に、その時の等価回路全体の計算特性を「補正なし」に併せて示しておく。このように図12(c)に示した各特性から、平坦化補正を行っていない場合はMZI型フィルタの特性の影響で通過域の平坦性がラティス型ILF単独の特性と比べて劣化していたものが、平坦化補正を行うことでラティス型ILF単独と同等の平坦特性を実現できることが分かる。また、平坦化補正に伴う損失の劣化は0.2dB程度と僅かであることが分かる。また、図12(b)と、図11(d)に示す通過域平坦化補正を行っていない場合の等価回路全体の全ポートの計算特性の比較から、平坦化補正に伴う阻止域の特性差も殆ど無いことが分かる。
このように、本等価回路で示す合分波器は、原理損失が小さく低損失であり、通過域は広帯域で平坦性に優れていることが分かる。また、本回路で用いられているあらゆる干渉計の経路長差がΔLの整数倍であることから、FSR=c/(n・ΔL)での完全周回動作が担保されている。また、上述のように回路サイズの大幅な増加を招くことなく、多ポート化を行うことが可能になっている。
なお、出力ポート番号と出力チャンネルの関係は、ラティス型ILFのN段目の移相器の設定、及び、各MZI型フィルタの移相器の設定を変更することである程度、自由に入れ替えることができることを追記しておく。即ち、ラティス型ILFやMZI型フィルタは移相器の設定により周波数特性をシフトさせることができるので、各段において出力ポートAとBに出力させるチャンネル群を入れ替えることができる。例えば、図12(b)で示した出力チャンネルのポート番号順は、図10の表の「降順」欄に示した値に設定することで、図12(d)に示すように入れ替えることができる。
次に、図9に示した回路900が図8に示した合分波器800と同じ透過特性を持つ等価回路であることを説明する。最初に、基本要素回路の交換則について説明する。図13に基本要素回路を抽象化して表した等価交換則1を示す。図13(a)は2入力2出力要素1301の2出力にそれぞれ1入力2出力要素1302が接続された回路を示している。ここで、二つの1入力2出力要素1302は同一特性とする。一方、図13(b)は2つの1入力2出力要素1302のそれぞれの2出力にそれぞれ2入力2出力要素1301が編み込まれる様に接続された回路を示している。ここでも、二つの1入力2出力要素1302、二つの2入力2出力要素1301はそれぞれ同一特性とする。図において、要素中に記載している行列は、ぞれぞれの要素の伝達行列を表している。図中の破線で囲った、二つの1入力2出力要素、二つの2入力2出力要素の伝達行列は、それぞれ、
と表されるので、これらの伝達行列を用いて、図13(a)の回路全体の伝達行列Hを表すと、
となり、同様に、図13(b)の回路全体の伝達行列Gは、
となる。従って、両回路は同じ伝達行列を持つので、伝達特性的には等価な回路となっていることが分かる。
また、自明と思われるが、図14に等価交換則2を、図15に等価交換則3を記載しておく。図14の等価変換則は1入力1出力要素1401及び1入力2出力要素1402を使用した回路の等価交換則であり、図15の等価変換則は1入力1出力要素1501及び2入力2出力要素1502を使用した回路の等価交換則である。図14(a)の回路全体の伝達行列H2は、
であり、図14(b)の回路全体の伝達行列G2は、
であるので、この両回路も同じ伝達行列を持ち、伝達特性的には等価な回路である。同様に、図15(a)の回路全体の伝達行列H3は、
であり、図15(b)の回路全体の伝達行列G3は、
であるので、この両回路も同じ伝達行列を持ち、伝達特性的には等価な回路である。
これら基本要素回路の交換側を用いて、図9に示した等価回路が図8に示した合分波器に変形できることを次に説明する。図16(a)は図9に示した等価回路を改めて記載したものである。ラティス型ILFの遅延回路の経路長差については、M=8の場合で記載している。図16(a)の破線で囲んだ3箇所の部分1601〜1603が、等価交換側1を用いて、図16(b)の破線で囲んだ部分1604〜1606に示したように変換できる。次に、ラティス型ILFのN段目の遅延長4ΔLの遅延回路を、等価交換側2を用いて、2分岐回路の後段に移動し、MZI型フィルタの遅延回路であった遅延長2ΔL、ΔLの遅延回路部分をそれぞれ、等価交換側3を用いて、光カプラの前段に移動することで、図16(c)の構成に変形できる。図16(c)の構成において、破線で囲んだ2箇所の部分1607、1608が、やはり等価交換側1を用いて、図16(d)の破線で囲んだ部分1609、1610に示したように変換できる。そして、ΔLの遅延回路部分を、等価交換側3を用いて、更に光カプラの前段に移動することで、図16(e)の構成に変形できる。最後に、集められた遅延回路を、経路毎に集約することで、図16(f)の構成になる。この図16(f)の構成は、まさに図8に示した合分波器の構成である。従って、図8に示した合分波器は、図9に示した等価回路と見た目の構成は異なっているが、伝達特性としては等価な回路であり、同じ透過特性を持つことが分かる。なお、図8に示した合分波器のM×Mカプラ816内の各移相器804の設定位相シフト量は、図16(f)を見てわかるように、ψ1,1=ψ1,2=ψ’1,1、ψ1,5=ψ1,6=ψ’1,2、ψ2,1=ψ’2,1、ψ2,3=ψ’2,2、ψ2,5=ψ’2,3、ψ2,7=ψ’2,4、ψ1,3=ψ1,4=ψ1,7=ψ1,8=ψ2,2=ψ2,4=ψ2,6=ψ2,8=0であるとしている。ただし、前述したように、位相設定は相対的なものであるので、同じ透過特性が得られる他の組み合せも存在する。
第1の実施形態における、図8に示した合分波器800は、図9に示した等価回路900と比べて、干渉計の段数が更に少なくなっている。等価回路900では、干渉計の段数は、ラティス型ILFでN段、MZI型フィルタで(m−1)段なので、合計で(N+m−1)段になる。ここで、m=log2(M)、Mは分波ポート数である。従って、分波ポート数Mを多くしていくと、大幅な増加ではないが回路全体での干渉計の段数が増えてしまうことに変わりは無い。一方、図8に示した合分波器800の構成では、等価回路900でのMZI型フィルタ920、930、940、950,960、970がラティス型ILFのN段目に全て繰り込まれた構成になっており、分波ポート数Mが増えても、回路全体の干渉計の段数は増えることはなく常にN段で一定になる。従って、図8に示した合分波器800は、等価回路900と比べても、回路サイズを更に削減することができ、特に多ポート時には大幅な回路サイズの削減が可能になり、多ポート化をより容易に行うことができる。もちろん、回路長が短くて済むので、伝搬損失の点でも有利な構成であると言える。
なお、上述の等価交換側を用いると、図16(g)〜(i)に示すように、本実施形態の合分波器の構成を更に変形することができる。図16(i)は、(N−1)段目の干渉計部分まで変形を進めた図であるが、更に(N−2)段目、(N−3)段目と前段に進めることもできる。これら変形を更に進めた回路においても、等価回路900と同じ特性になり、干渉計の段数も増えることなくN段で構成できるので、合分波器800と同様の利点を得ることができる。ただし、干渉経路数が不用意に多くなる点が、合分波器800と比べた欠点になる。具体的には、合分波器800では(N−1)段目の干渉計部分の干渉経路数が2本であるが、図16(i)に示した回路構成ではM本(本図ではM=8)に増えている。変形を更に進めた場合は、変形を進めた前段の干渉計部分においても同様に干渉経路数が増加する。この様な不必要な経路数の増加は、製造歩留を低下させる他、干渉計の位相調整などの負担が増えるので好ましくない。従って、図16(f)の変形までに留めた、即ち図8に示した構成が一番良い構成であると言える。
等価回路900での計算特性と一部重複するが、第1の実施形態の図8に示した合分波器800の計算透過特性を次に示す。計算に用いた回路パラメータ例を図17に示す。尚、ポート数はM=8、出力チャンネルのポート番号順は「昇順」とした。図17の表中の「N=3、平坦特性優先設定」に記載したパラメータは、図10に示した等価回路における平坦化補正有りのパラメータと同じであり、その時の計算特性を図18(a)に示す。また、通過域特性の拡大図を図18(b)の「平坦」に示す。この様に、本特性は、図12に示した等価回路での特性と全く同じであることが分かる。
合分波800は、等価回路での構成を考えて分かるように、等価回路上におけるラティス型ILF部の設定自由度を利用しパラメータθi、φj(i=0〜N、j=1〜N)を変えることで、通過域の特性を変えることができる。例えば、広帯域性、或いは低損失性を優先した通過域の特性にする場合には、図17の表中の「N=3、広帯域特性優先設定」、「N=3、低損失特性優先設定」に記載したパラメータを用いることで、全体特性としてはそれぞれ図18(c)、(d)に示した特性を、通過域の詳細特性としてはそれぞれ図18(b)の「広帯域」、「低損失」に示した特性を得ることができる。これらの図を見て分かるように、広帯域性を優先した設計では、平坦性を優先した通常の設計と比べて、広い帯域幅を得ることができる。一方、低損失性、平坦性に関しては通常の設計と比べて劣った特性となっている。また、低損失性を優先した設計では、通常の設計と比べて、低い損失特性を得ることができている。一方、広帯域性に関しては通常の設計と比べて劣った特性となっている。
また、これらの設計自由度は、等価回路上におけるラティス型ILF部の段数を増やすこと、即ち、ラティス型2光束干渉計の段数を増やすことで、増加させることができる。図8や図9の回路図で示した段数Nを変えた場合の例として、N=2とN=4において広帯域特性を優先して設計した場合のパラメータ設定例を図17の表中の「N=2」、「N=4」の欄に示し、そのパラメータでの本合分波器の計算特性を、図19(a)、(b)にそれぞれ示す。また、通過域の詳細特性を、N=3の場合も含め、図19(c)に示す。このように、段数Nが多く、設計自由度が多い合分波器ほど、通過域平坦性の高い特性を得ることができることが分かる。
以上、説明したように、本願発明の第1の実施形態の合分波器800の構成を用いれば、低損失性、通過域広帯域平坦性や通過域設計自由度に優れ、周回動作、多ポート化が可能な合分波器をコンパクトな回路構成で実現することができる。
なお、図8に示した本実施形態の合分波器800の構成では、Mアレイ遅延回路の遅延長が下方から上方に向かって順にΔLずつ増加する遅延回路になっているが、必ずしもこの順である必要はなく、前述したように、j、kをパラメータとして前式で指定されるx番目の遅延経路とy番目の遅延経路において、両遅延経路の経路長差が2m−k・ΔLとなる関係を満たしていれば他の順番でも良い。この理由については、等価回路900及びその変形過程を考えることで次のように理解できる。図9に示した等価回路900ではMZI型フィルタの向きが光路長の長い側が上方になる向きになっているが、各チャンネルが出力される出力ポートの並びが変わることを許容すれば、MZI型フィルタの向きを上下反転させて光路長の長い側が下方になる向きになっても良い。但し、図16に示したような干渉計段数の削減変形を可能にする為には、その向きがMZI型フィルタの各段で揃っていることが必要十分条件となる。即ち、MZI型フィルタ920とMZI型フィルタ940の向きは揃っている必要は無いが、MZI型フィルタ920とMZI型フィルタ930の向きは同じである必要があり、また、MZI型フィルタ940、950、960、970の4つのMZI型フィルタも同じ向きである必要がある。このようにMZI型フィルタの向きが各段で揃っていれば、図16(b)から(c)への変形の際や、図16(d)から(e)への変形の際に等価交換則3を適用することができる。そして、変形を行った後の図16(e)から分かるように、上記、x番目の遅延経路とy番目の遅延経路の経路長差には、最終段側からs段目即ち(m−k+1)段目の遅延長差2s−1・ΔL即ち2m−k・ΔLが反映されることになる。ここで、s=mの場合は、MZI型フィルタではなくラティス型ILFの最終段であるN段目の遅延回路の遅延長差(M・ΔL)/2即ち2m−1・ΔLが反映される。尚、MZI型フィルタの向きが各段で揃っていないと、この等価交換則3を適用できなくなるので、干渉計段数の削減変形を行うことができなくなる。
他の順番のMアレイ遅延回路の具体例を示すと、等価回900においてMZI型フィルタ920とMZI型フィルタ930の向きのみが光路長の長い側が下方になる向きである場合、図8に示した合分波器のMアレイ遅延回路の遅延長は下方から上方に向かって、2ΔL、3ΔL、0、ΔL、6ΔL、7ΔL、4ΔL、5ΔLとなる。
以降の実施例でも、特に明記しないが、このMアレイ遅延回路において各種遅延長の遅延経路を別の順に並べることが可能であることを予め断っておく。
[第2の実施形態:偶/奇ch個別特性形態]
本願発明の第2の実施形態である合分波器2000の構成を図20に示す。本図においても、合分波数M=8の場合で図示している。本実施形態の合分波器2000の構成は、2組の1入力(M/2)出力光カプラ2014と、Mアレイ遅延回路2015と、M入力M出力光カプラ2016は、第一の実施形態と同一であるが、ラティス型2光束干渉計の各段の遅延回路2011〜2013の経路長差が(M・ΔL)/2であり、第1の実施形態での経路長差の半分である点が異なる。
このことは、第1の実施形態と同様に等価回路で考えてみると、第1の実施形態では等価回路900におけるラティス型ILFの遅延回路の経路長差が、1〜(N−1)段目の遅延回路ではM・ΔL、最終段であるN段目の遅延回路では(M・ΔL)/2となっており、最終段MZIの後段の光カプラの結合率は50%になっているのに対して、第2の実施形態では等価回路におけるラティス型ILFの遅延回路の経路長差がすべての段において(M・ΔL)/2となっており、各光カプラの光結合率の制約も特にないことを意味する。従って、第1の実施形態の等価回路900におけるラティス型ILFは背景技術でも述べたように二つの出力ポートの強度特性は繰り返し周期の半分ずらして相互一致するのに対して、第2の実施形態の等価回路におけるラティス型ILFは、より一般的なラティス型干渉計の構成であり、二つの出力ポートの特性が相互一致しない設計も可能になる。即ち、合分波器全体で見てみると、第1の実施形態では、各ポートの出力強度特性が相対的に全て同じ特性になるのに対して、本第2の実施形態では、偶数チャンネルと奇数チャンネルで異なった特性を与えることができる。
具体例として、図20に示した本第2の実施形態の合分波器2000において、図21に示す設計パラメータを用いた場合の計算特性を図22に示す。段数は、N=3とN=5の場合において計算を行った。また、M×Mカプラ内の各移相器2004の設定位相シフト量ψ1,1〜ψ2,8は図17に示した第1の実施形態で用いた値と同じとした。本特性図を見て分かるように、奇数チャンネルである出力ポート1〜4までの透過特性と、偶数チャンネルである出力ポート5〜8までの透過特性を変えることができている。今回の設計では、帯域幅を偶数チャンネルと奇数チャンネルで変えた設計とした。
このように、本願発明の第2の実施形態の合分波器の構成を用いれば、第2の実施形態の合分波器で得られた利点に加え、偶数チャンネルと奇数チャンネルで例えば帯域幅を異ならせるなどの特性を与えることができる。
[第3の実施形態:べき乗展開形態]
本願発明の第3の実施形態である合分波器2300の構成を図23に示す。本図においても、合分波数M=8の場合で図示している。本実施形態の合分波器2300の構成は、ラティス型2光束干渉計の遅延回路2311〜2313の経路長差が(N−1)段目でM・ΔL(2311)、(N−2)段目で2M・ΔL(2312)、(N−3)段目(2313)で4M・ΔLなっており、段を遡る毎に経路長差が2倍に増えている点が第1の実施形態と異なるが、2組の1入力(M/2)出力光カプラ2314と、Mアレイ遅延回路2315と、M入力M出力光カプラ2316は、第一の実施形態と同一である。即ち、第1の実施形態の仲間ではあるが、一部の光カプラの結合率をゼロにした特殊形態と言える。
第1の実施形態と同様に等価回路で考えてみると、等価回路におけるラティス型ILFの遅延回路の経路長差が、N段目、(N−1)段目、と段を遡る毎に経路長差が2倍に増えていることになる。このラティス型ILFにおいて入力ポートから出力ポートまでに辿る全ての遅延回路の経路の組み合わせを考えて経路長を整理すると、このラティス型ILFは0、M・ΔL/2、2M・ΔL/2、…、2N・M・ΔL/2、即ち、M・ΔL/2ずつ異なる2N通りの経路長を持っていることが分かる。一方、第1の実施形態では同様に経路長を整理すると幾つか重複する経路長があり、等価回路におけるラティス型ILFは0、M・ΔL/2、2M・ΔL/2、…、2(N−1)・M・ΔL/2、即ち、M・ΔL/2ずつ異なる2N通りの経路長を持っている。同様に第2の実施形態では、等価回路におけるラティス型ILFは0、M・ΔL、2M・ΔL、…、N・M・ΔL、即ち、M・ΔLずつ異なる(N+1)通りの経路長を持っている。このように、本第3の実施形態では、段数に対して効率良く複数の経路長を持つことができる。この経路長が異なる経路の数はトランスバーサルフィルタでのタップ数に相当し、経路数が多いほどより複雑な透過特性、ここでは特により広帯域な通過特性、を設定することができる。
具体例として、図23に示した本第3の実施形態の合分波器2300において、図24の表中の「実施形態3」の欄に示す設計パラメータを用いた場合の計算特性を図25(a)、(b)に示す。尚、図25(a)は段数N=3の時の、図25(b)は段数N=4の時の特性である。また、これらの通過域の詳細特性を図25(c)に示す。図25(c)には、第1の実施形態の「N=3、平坦特性優先設定」での特性も参考として併せて記載してある。また、M×Mカプラ2316内の各移相器2304の設定位相シフト量ψ1,1〜ψ2,8は図17に示した第1の実施形態で用いた値と同じとしている。第1の実施形態では、図18で示したように、広帯域特性を得ようとすると損失が増えるだけでなく、通過域特性にリップルが生じ平坦性が悪くなる。第3の実施形態では、図25(c)の「N=3(実施形態3)」を見て分かるように、若干損失が増えるものの通過域特性にリップルを生じることなく広帯域化を図ることができる。また、図25(c)の「N=4(実施形態3、4)」を見て分かるように、第3の実施形態においても段数Nを増やすと、より通過域平坦性の高い特性が得ることができる。
このように、本第3の実施形態では、同じ段数で構成された第1実施形態に比べて、リップルを生じることなく、より広帯域な通過域特性を得ることができる。
[第4の実施形態:逆べき乗展開形態]
本願発明の第4の実施形態である合分波器2600の構成を図26に示す。本図においても、合分波数M=8の場合で図示している。本実施形態の合分波器2600の構成の考え方は、第3の実施形態と基本的には同じである。第3の実施形態では前述のようにラティス型2光束干渉計の遅延回路の経路長差が段を遡る毎に経路長差が2倍に増えているが、本第4の実施形態ではラティス型2光束干渉計の遅延回路2611〜2612の経路長差が1段目でM・ΔL/2、2段目で2M・ΔL/2、3段目で4M・ΔL/2となっており、段を経る毎に経路長差が2倍に増えており、Mアレイ遅延回路において上方半分の遅延経路に(2N−2−1/2)・M・ΔLの遅延長が上乗せされている点が第3の実施形態と異なる。本実施例においても第1の実施形態と同様に等価回路で考えてみる。ここで、図27は、本実施形態の等価回路2700を示す回路である。等価回路2700を見て分かるように、ラティス型ILF2710の遅延回路の経路長差が、N段目、(N−1)段目、と段を経る毎に経路長差が2倍に増えていることになる。即ち、第3の実施形態と本実施形態では等価回路のラティス型ILF2710の入出力が逆向きになっている点だけが異なり、後は等価回路としては同じであることが分かる。
一般に、磁気光学素子などの非相反な素子を含まない光回路では相反定理が成り立ち、入出力を入れ替えた特性は同じ特性になる。即ち、2入力2出力回路においては、例えば、入力ポート1から出力ポート1への経路の特性は、出力ポート1から入力ポート1への逆経路の特性と同じになる。また、この回路が伝搬損等の損失が無い理想的な回路であると仮定すると、エネルギー保存則から、入力ポート1から出力ポート1への透過強度特性と入力ポート1から出力ポート2への透過強度特性の和は常に1になり、出力ポート1から入力ポート1への透過強度特性と出力ポート1から入力ポート2への透過強度特性の和も常に1となる。従って、入力ポート1から出力ポート2への透過強度特性と出力ポート1から入力ポート2への透過強度特性も同じになる。以上から、第4の実施形態の透過強度特性と第2の実施形態の透過強度特性は同じ特性になっていることが分かる。
実際に、図26に示した第4の実施形態の合分波器2600において、図24の表中の「実施形態4、N=4」に示した設計パラメータを用いた場合の計算特性は、図25(b)、及び、図25(c)の「N=4、実施形態3、4」に示した特性に一致した。尚、本設計パラメータは同表中の「実施形態3、N=4」に示した設計パラメータの順番を入れ替えたものであり、第3の実施形態の合分波器2300の等価回路においてラティス型ILFの入出力を逆向きにしたことに相当する。また、M×Mカプラ2615内の各移相器2604の設定位相シフト量ψ1,1〜ψ2,8は図17に示した第1の実施形態で用いた値と同じとしている。
[第5の実施形態:一般形態]
本願発明の第5の実施形態である合分波器2800の構成を図28に示す。本図においても、合分波数M=8の場合で図示している。本実施形態は、第1〜4の実施形態を一般化した構成になっている。ラティス型2光束干渉計の遅延回路2811〜2813のi段目の経路長差はM・ΔL/2の整数倍kiになっており、Mアレイ遅延回路において上方半分の遅延経路に(kN−1)・M・ΔL/2の遅延長が上乗せされている。この一般化構成で見ると、N=3の場合において、第1の実施形態はk1=k2=2、k3=1、第2の実施形態はk1=k2=k3=1、第3の実施形態はk1=4、k2=2、k3=1、第4の実施形態はk1=1、k2=2、k3=4であったと言える。
本願発明の合分波器の構成において、ラティス型2光束干渉計の遅延回路2811〜2813のi段目の経路長差の整数倍kiは、これら第1〜4の実施形態で示した整数倍の組に限られるものではなく、設計に応じて他の組み合せも採りうる。例えば、4段構成において、k1=4、k2=4、k3=2、k4=1の組み合わせでも、図29に示したパラメータを用いることで、図25(d)や図25(c)の「N=4(実施形態5)」に示した特性を得ることができる。尚、本計算例でも、M×Mカプラ内の各移相器2804の設定位相シフト量ψ1,1〜ψ2,8は図17に示した第1の実施形態で用いた値と同じとしている。
第3、或いは4の実施形態で示したように、ラティス型2光束干渉計のi段目の遅延回路の経路長差の整数倍kiをべき乗の組にすると段数Nに対して効率良く複数の経路数を持つことができる。しかしながら、2N通りの経路を持つことができるのに対して、設定できるパラメータθi、φj(i=0〜N、j=1〜N)の数は、概ねNに比例する数しかない。従って、2N通りの経路のパワー比、位相を独立に設定することができないので、完全に任意の通過域特性の設計を行うことはできない。一方、第2の実施形態では、(N+1)の経路数に対して、設定できるパラメータは同数であるので、概ね任意の通過域特性の設計を行うことができる。また、第1の実施形態では、経路数が2N通りであり、設定パラメータの2倍であるが、これは偶数チャンネルと奇数チャンネルが相互一致する特性になるという制約をもたらすに過ぎないので、通常の合分波器設計においては、十分な設計自由度を持っているといえる。従って、kiを第3、或いは4の実施形態で示したべき乗の組に近い組み合せにするか第1、或いは2の実施形態で示したような一定値の組に近い組み合せにするかは、広帯域を得る為の段数効率を優先するか、設計自由度を優先するかで決めれば良い。
さて、ここまでの実施形態では、合分波数Mが2のべき乗(M=2m;mは自然数)の場合で説明を行ってきたが、ここで、Mが2のべき乗以外の場合にどのような構成とするかについて簡単に説明しておく。
第5の実施形態を例にM=6の場合の合分波器3000の構成を図30に示す。前述したように、Mが2のべき乗以外の場合は、ポート数がM’=2m’(ここで、m’は、M<2m’である最小の自然数)である構成を基本構成として、一部のポート、及び、この一部のポートのみに関連する回路要素を省く構成となっている。図30の例では、M=6なので、M’=8の構成が基本構成となっている。図に示したように、使用しない出力ポート、及び、光カプラ、移相器を省略している。省略したポートに出力されるチャンネルは利用できないこととなってしまうが、移相器2803の各設定位相シフト量をψ0,1〜ψ2,Mを可変移相器にして、これらの位相を周回動作毎に適切に設定し、省略ポートに出力されるチャンネルを別のポートに出力させることで、周回動作を担保することができる。
[第6の実施形態:帯域優先形態]
本願発明の第6の実施形態である合分波器の構成を図31に示す。本図においても、合分波数M=8の場合で図示している。本実施形態では、ラティス型2光束干渉計部分は、第5の実施形態と同じであるが、その後の構成が、ラティス型2光束干渉計の出力に接続された2組の1入力2出力光カプラ3114と、これら光カプラの出力に接続された4アレイ遅延回路3115と、この遅延回路に接続された4入力4出力光カプラ3116と、この光カプラ3116に接続された4組の1入力(M/4)出力光カプラ3117と、これら光カプラに接続された2組の(M/2)アレイ遅延回路3118と、これら遅延回路に接続された2組の(M/2)入力(M/2)出力光カプラ3119からなる。4入力4出力光カプラ3116と(M/2)入力(M/2)出力光カプラ3119の詳細構成は、第1の実施形態で説明したM入力M出力光カプラ816と同じ考えの構成である。各遅延回路の遅延長は、図31に記載した関係になっている。
本実施形態の合分波器の等価回路3200を図32に示す。図32に示した構成から図31に示した構成への等価変換の考え方は、第1の実施形態で説明した考えと同じである。この等価回路を見て分かるように、第1或いは第5の実施形態の等価回路においてMZI型フィルタで構成されていたMZI型フィルタ920、及び、MZI型フィルタ930が、本実施形態の等価回路では、ラティス型フィルタ3220、及び、ラティス型フィルタ3230に置き換わっており、この点が両形態で大きく異なっている。これらラティス型フィルタは、2段構成のラティス型フィルタであり、各段における遅延回路の遅延長は、M・ΔL/4の整数倍ki,j(ここでi,j=1,2)になっている。
第1の実施形態で説明したように、本願発明では図6に示したILFの二分木接続構成において、2段目以降のILF602〜607を単純なMZI型フィルタに置き換えることによって、大幅な回路サイズの削減を行っている。その代償としてMZIフィルタの透過特性の影響で通過域の平坦性が劣化し、この平坦性劣化を1段目のILFであるラティス型ILFの通過域特性の設計で補正している。しかしながら、図12(c)を見て分かるように、この補正は基本的に通過域の損失を部分的にせよ増やして行っているため、僅かながら、原理的な損失が発生する。
そこで、本第6の実施形態では2段目のILFを単純なMZIフィルタではなく、段数を2段に抑えたラティス型フィルタ3220〜3270ですることで、この僅かな原理損失の発生も抑える構成とした。第1の実施形態で説明したように、下段に位置するMZI型フィルタほど、MZI型フィルタのFSRは大きくなり、通過チャンネルにおけるMZI型フィルタの透過特性は平坦になる。よって、3段目以降のILFは単純なMZI型フィルタのまま据え置いても、比較的効率良くMZIフィルタによる平坦性劣化を抑えることができ、2段目のILFをラティス型フィルタに置き換えるだけで、補正による原理損失増加を効果的に抑制できる。また、各チャンネルの広帯域性の確保は1段目のILFであるラティス型ILF3210で行っているので、置き換えたラティス型フィルタにおいて広帯域な特性を確保する必要は無いので、このラティス型フィルタの段数は2段もあれば通常は十分である。
図31に示した本第6の実施形態の合分波器3100のN=4に場合で、図33に記載した設計パラメータを用いた場合の計算特性を図34に示す。図34(b)には、第3の実施形態で、等価回路のラティス型ILFの段数Nが同じN=4の場合の透過特性も併せて記載する。なお、M×Mカプラ3119内の各移相器3103の設定位相シフト量ψ1,1〜ψ2,8は図17に示した第1の実施形態で用いた値と同じである。図34を見て分かるように、本実施形態の合分波器3100の通過域特性は、第3の実施形態の合分波器2300の通過域特性と比べて、平坦性は同等で有りながら、損失は低くなっていることが分かる。また、副次的な効果として非隣接チャンネルのクロストークも低減されている。
このように、本第6の実施形態の合分波器3100は、広帯域、低損失、低クロストークの特性を最小限の回路サイズの増加で得ることができる。
[第7の実施形態:逆群遅延形態]
ここまで、特性に関しては主に透過強度特性のみに着目して説明を行ってきたが、実際に伝送光信号を合分波器に通す場合は、群速度分散、或いは群遅延リップルといった指標で表される透過位相特性も問題になる場合がある。背景技術で述べたコヒーレント検波器では現在、デジタル信号処理技術を用いて復調処理を行う方法が主流になっており、群速度分散により生じた信号歪みは、このデジタル信号処理によりある程度補正することができる。しかし、群速度分散に大きな周波数依存性がある場合、即ち群遅延リップルが大きい場合などは、補正処理を行う回路規模が大きくなるという問題がある。また、デジタル信号処理技術を用いずに直接検波受信を行うような信号方式の場合は、群速度分散/群遅延リップルの影響をそのまま受けてしまう。従って、伝送信号を通す合分波器は、群速度分散がゼロであること、即ち、群遅延が通過域において一定でリップルを持たないことが望ましい。
第3の実施形態のN=3における相対群遅延特性を計算してみると、図25(e)のようになり、通過域において群遅延特性にリップルを持つ。通過域における詳細特性を、図36(d)の「実施形態3」に示す。尚、これらの図において、周波数が規格化されているので、群遅延量もそれに合わせて規格化して図示している。実際の数値に換算するには、周波数単位がfunit[Hz]である場合は、群遅延単位を1/funit[s]と見なせばよい。例えば、周波数単位が50GHzである場合は、群遅延単位は20psになるので、本図の通過域におけるリップル量は約6psになる。
一般に、3dBカプラと遅延回路で構成されたMZI型フィルタでは通過域において群遅延リップルは生じないのに対して、ラティス型干渉計では群遅延リップルが生じる。即ち、図36(d)に見られる群遅延リップルは、等価回路におけるラティス型ILF部で生じている。
さて、図9に示す等価回路におけるラティス型ILF部のような、1段目から(N−1)段目までの遅延回路の経路長差が2ΔLであり、最終段であるN段目の遅延回路の経路長差がΔLであり、最終段遅延回路の後段の光カプラの結合率が50%であるN段のラティス型ILFの伝達行列は、変数
(遅延回路における遅延時間差
cは光速、nは経路媒質の実効屈折率;FSRはΔLで決まるフリースペクトルレンジ)を用いて、
で表される(非特許文献4)。下添字*は
で定義されるパラ複素共役を表し、上添字*は複素共役を表す。また、jは虚数単位である。この伝達行列を周波数fの伝達行列に表し直すと、
となる。ここで、
とした。また、このラティス型ILFはFSRの繰り返し特性を持つので、
(mは整数)である。
この伝達行列から、透過強度特性に関しては、
であることが確認できると共に、位相特性Φが
であることが導かれる。ここで、各添字はラティス型ILFの入力/出力ポート番号(上側ポートが若番)の組を表している。更にこの位相特性から、群遅延特性GDが、
であることが導かれる。各添字に関しては位相特性の場合と同様であり、次の群速度分散特性でも同様である。群速度分散特性σを単位周波数当たりの群遅延変化量と定義すると、
となる。
これらの式から、ラティス型ILFにおいて、経路12(入力ポート1から出力ポート2へ経路)の伝達特性は、透過強度特性と群遅延特性共に経路11(入力ポート1から出力ポート1へ経路)での特性を、周波数軸上でFSR/2だけずらした特性と同一であることが分かる。従って、本ラティス型ILFは、適切なパラメータ設定により入力ポート1から入力したFSR/2間隔の複数の光信号を奇数チャンネルと偶数チャンネルで出力ポート1と出力ポート2に選り分けるインターリーブフィルタとして動作することが理解できる。一方、経路21(入力ポート2から出力ポート1へ経路)と経路22(入力ポート2から出力ポート2へ経路)の透過強度特性は、経路12と経路11の透過強度特性とそれぞれ同じであるものの、群速度分散特性は共に正負の値が逆になり、群遅延リップルの生じ方が逆になっていることが分かる。従って、本ラティス型ILFは、入力ポート2から光信号を入力してもやはりインターリーブフィルタとして動作するが、入力ポート1から入力した場合と比べて、群速度分散特性が逆になることと、奇数チャンネルと偶数チャンネルの出力ポートが入れ替わる点が異なる。
奇数チャンネルと偶数チャンネルの入れ替わりは、次のようにパラメータの設定を変更することで元に戻すことができる。ラティス型ILFにおいて、周波数特性に影響を及ぼす要素は各段における遅延回路と移相器である。光カプラも厳密には周波数依存性をもつが、通常、比較的緩やかな周波数依存性なので多くの場合で無視できる。遅延長がk・ΔL;ここでkは整数;の遅延回路の伝達行列D、及び、位相シフト量がφの移相器の伝達行列Pはそれぞれ
であり、遅延回路と移相器を併せた伝達特性P・Dは
となる。奇数チャンネルと偶数チャンネルを入れ替えるには、周波数特性をFSR/2シフトさせれば良い。上式においてf→f−FSR/2とするには、φ→φ+k・πとすれば良いので、各段の移相器の設定にk・πを上乗せすれば良いことが分かる。図9に示す等価回路900におけるラティス型ILF部910の場合、1段目から(N−1)段目までの遅延回路はk=2、最終段であるN段目の遅延回路はk=1であるので、結局、最終段の移相器の設定にのみπを上乗せすれば良い。
以上のことから、図9に示す等価回路900におけるラティス型ILF部においては、入力ポートを入れ替え、かつ、最終段移相器の位相をπシフトさせれば、群速度分散特性のみが逆になった特性を得ることができる。図28に示した本願一般構成において、図35に記載の設計パラメータ、ここで移相器位相シフト量については「逆分散」に示した設計パラメータ、を用いた場合の入力ポート2からの入力光に対する計算特性を図36に示す。図35には図28に示した本願一般構成における第3の実施形態の設計パラメータも併せて記載しておく。この設計パラメータを見て分かるように、第3の実施形態と本第7の実施形態の設計上の違いは、Mアレイ遅延回路の前に配置されている移相器の位相φ3と入力ポートのみである。図25(a)と図36(a)の比較、及び図36(b)に示す通過域における透過光強度特性の詳細特性を見て分かるように、第3の実施形態と本第7の実施形態において透過強度特性は同じである。一方、図25(e)と図36(c)の比較、及び図36(d)に示す通過域における相対群遅延特性の詳細特性を見て分かるように群遅延リップルの生じ方が丁度逆、即ち群速度分散の正負が逆になることが分かる。
一般に通信システムの中では、合波器と分波器は対で使用することが多い。例えば、背景技術で述べた光マルチキャリア方式の送受信では、送信機では合波器が受信機では分波器が用いられる。従って、図37(a)に示すように、送信機側では第3の実施形態のような順分散特性の合波器3701を、受信機側では本第7の実施形態のような逆分散特性の分波器3702を用いるといった具合に、送信側と受信側で順分散特性の合分波器と逆分散特性の合分波器を組み合せることで、システム全体の特性において群速度分散を相殺し、群遅延リップルが生じないようにすることができる。図37(a)のシステムにおいて送信機の各入力ポートから受信機の各出力ポートまでの通しでの透過光強度特性を図37(b)に、通過域における詳細特性を図37(c)に示す。群遅延リップルが相殺されて平坦な群遅延特性、即ち群速度分散がゼロになっていることが分かる。
ここで、分散相殺できる構成の組み合せに関して一般化しておく。図38は、等価回路におけるラティス型ILF部の各種構成とこの各種構成における分波ch及び分散特性の関係を簡単にまとめたものである。先ず、図38(a)を基本構成とした。ここで、k1〜k N-1 は2kNの倍数とし、θN=π/4即ち最終段の光カプラは3dBカプラとしている。図38(a)の基本構成において使用する入力ポートを変えた場合の各出力ポートでの分波ch及び分散特性の関係を図38(b)に、そしてこれらの最終段の移相器の位相φNをπシフトさせた構成においての各出力ポートでの分波ch及び分散特性の関係をそれぞれ図38(c),(d)に示している。更には、相反定理を用いて、これらの入出力を入れ替えた構成においての各出力ポートでの分波ch及び分散特性の関係をそれぞれ図38(e)〜(h)に列記してある。前述の例では、送信機側合波器の等価回路におけるラティス型ILF部に図38(a)の構成を、受信機側分波器の等価回路におけるラティス型ILF部に図38(d)の構成を用いていることになる。
然しながら、この組み合せ以外であっても、出力ポートと分波される奇数ch/偶数chの関係と分散特性の関係を踏まえて組み合わせを選択して合分波器を構成すれば、送受信機で分散を相殺できる組み合わせとして問題無く用いることができる。例えば図38(b)の構成を等価回路におけるラティス型ILF部として用いる場合は、このラティス型ILF部の後段に接続されているMZI型フィルタ920以降とMZI型フィルタ930以降を出力ポートまで含めてそのままそっくり交換して接続した構成を等価回路での構成とすれば、透過特性は変わらず、群速度分散特性のみが逆になった特性を得ることができるので、前述の受信機側分波器として用いることができる。また、図38(e)の構成を送信機の合波器の等価回路におけるラティス型ILF部として用いた場合は、受信機の分波器の等価回路としては、図38(f)又は(g)の構成をラティス型ILF部に用い、このラティス型ILF部の後段に接続されているMZI型フィルタ920以降とMZI型フィルタ930以降を出力ポートまで含めてそのままそっくり交換して接続した構成を用いればよい。
但し、送信機側合波器と受信機側分波器で各ポートに出力されるチャンネルの並び順を同じにしたい場合には、前述の図38(a),(d)の構成の組み合わせか、図38(b),(c)の構成の組み合わせを用いることになる。
[第8の実施形態:順分散1×Mと逆分散M連1×1]
第7の実施形態では、群速度分散が正負逆になる特性の合分波器の形態、及び、それを用いてシステム全体で群速度分散をゼロにする方法に関して述べてきたが、合分波器の使用方法或いは通信システムでの仕様によっては、送信機側、或いは、受信機側単体で群速度分散をゼロにしたいという要望もありえる。そこで、第8の実施形態では送信機側、或いは、受信機側単体で群遅延リップルを抑制する、即ち群速度分散をゼロにする方法を説明する。
前述したように、群遅延リップルは等価回路におけるラティス型ILF部で生じる。従って、前述の合分波器の分波ポートそれぞれに、逆分散特性を持つラティス型ILFを付加すれば良い。図39にその回路構成を第8の実施形態として示す。主合分波器3910は実施形態5である図28に示した本願一般構成の合分波器である。主合分波器3910は、入力ポート1を入力ポートとして用い、群速度分散特性が順分散特性となるようにする。付加フィルタ3920は、主合分波器の等価回路におけるラティス型ILF部と同じ構成の回路であり、群速度分散特性が逆分散特性になるように、移相器の位相シフト量を設定し、且つ入力ポート2を用いる。主合分波器3910の出力ポートに接続されるそれぞれの付加フィルタ3920は全て同じものであるが、付加フィルタ3920の出力ポートは、主合分波器3910の等価回路におけるラティス型ILF部の出力ポートと同じ側を使用する。即ち、合分波器全体の出力ポート番号が1〜(M/2)になる付加フィルタ3920については、上側の出力ポートを使用し、合分波器全体の出力ポート番号が(M/2+1)〜Mになる付加フィルタ3920については、下側の出力ポートを使用する。この様に使用することで、主合分波器3910の等価回路におけるラティス型ILF部の分散特性と付加フィルタの分散特性を相殺することができる。
図40にN=3の時の各部の設計パラメータを記載する。ここで、光カプラの結合位相角については、最も適した設計パラメータの考え方を説明する為に、三つのパターンで記載する。パターンAは、主合分波器の設計パラメータが第3及び第7の実施形態と同じで、付加フィルタの設計パラメータが付加フィルタ単体として通過域が平坦になるようにした場合の設計パラメータである。そのときの付加フィルタ3920単体の計算特性を図41(a)に、合分波器全体の計算特性を図41(b)、(c)に示す。パターンAの場合、合分波器全体の透過強度特性は通過域で確かに平坦特性が得られるが、群速度分散特性が完全に相殺せず、群遅延リップルが残ってしまっていることが分かる。これは、主合分波器3910の等価回路におけるラティス型ILF部の設計パラメータが付加フィルタ3920と同じでないことに原因である。パターンBは、主合分波器3910の設計パラメータはパターンAと同じく主合分波器3910の設計パラメータが第7の実施形態と同じであり、また付加フィルタの設計パラメータを主合分波器3910の設計パラメータと同じにした場合の設計パラメータである。そのときの合分波器全体の計算特性を図41(d)、(e)に示す。パターンBの場合、群速度分散特性は完全に相殺しており群遅延リップルは生じていないが、透過強度特性の通過域平坦性が損なわれていることが分かる。これは、主合分波器3910の等価回路におけるラティス型ILF部の設計パラメータが、第1の実施形態で説明したように等価回路におけるMZI型フィルタの通過域の非平坦性を補正する設計パラメータになっており、ラティス型ILF部単体では平坦な通過域特性になっていない為である。従って、図39に示す本第8の実施形態の合分波器では、第7の実施形態での設計パラメータを流用するのではなく、新たに設計パラメータを最適化する必要がある。具体的には、群速度分散特性を完全に相殺させる為の必要条件として、主合分波器3910の等価回路におけるラティス型ILF部の設計パラメータと付加フィルタ3920の設計パラメータ同じにする必要があり、その上で、主合分波器3920の等価回路におけるMZI型フィルタの通過域の非平坦性を主合分波器3910の等価回路におけるラティス型ILF部と付加フィルタ3920で分担して補正する必要がある。そのようにして最適化した設計パラメータがパターンCである。そのときの合分波器全体の計算特性を図41(f)、(g)に示す。パターンCの場合、合分波器全体の透過強度特性は通過域で平坦な特性となっていると共に、群速度分散特性も完全に相殺されゼロになっており、群遅延リップルが生じていないことが分かる。
また、本実施形態では、主合分波器3910の等価回路におけるラティス型ILF部と付加フィルタ3920の双方で隣接チャンネルの透過を阻止するので、隣接チャンネルのクロストークが第3の実施形態と比べて大きく低減できるという副次的な効果も得られる。
ここで、本実施形態でも分散相殺できる構成の組み合せの一般化に関して言及しておく。図38で示した分類を流用して整理すると、上述の実施形態では、主合分波器の等価回路におけるラティス型ILF部には図38(a)の構成を、付加フィルタには図38(d)の構成を用いていることになる。然しながら、主合分波器の等価回路におけるラティス型ILF部と付加フィルタにおいて、偶数ch/奇数chといった透過チャンネルの関係が整合し、且つ分散が相殺される関係であれば、他の組み合わせを適用してももちろん良い。例えば、付加フィルタを図38(b)の構成に変更する場合は、偶数ch/奇数chが出力されるポートを勘案して、合分波器全体の出力ポート番号が1〜(M/2)の付加フィルタでは下側の出力ポートを使用し、合分波器全体の出力ポート番号が(M/2)+1〜Mの付加フィルタでは上側の出力ポートを使用すればよい。更には、各付加フィルタが全て同じ構成の付加フィルタである必要もないことも付記しておく。
また、本実施形態では前述したように、隣接チャンネルのクロストークが低減できるという効果がある。この効果は、付加フィルタがインターリーブフィルタとして隣接チャンネルのクロストークを低減する強度透過特性によって得られている。付加フィルタの強度透過特性に関しては、図38に示したいずれの構成によっても同じように得られる。従って、分散相殺の必要が無く、隣接チャンネルのクロストークの低減を得ることだけが目的であるならば、前述の組み合わせに囚われることなく、図38に示したいずれの構成の付加フィルタを用いて良いことを付記しておく。
〔第9の実施形態:逆分散組み込み型形態〕
第8の実施形態では、群速度分散がゼロになる合分波器の形態として、主合分波器の分波ポートに逆分散特性を持つ付加フィルタを接続し、主合分波器と付加フィルタで分散特性を相殺させる方法について述べてきた。しかし、この方法では、分波ポート全てに付加フィルタであるラティス型ILFを接続する為、回路規模がかなり大規模になるという問題が生じる。そこで、第9の実施形態では、この付加フィルタを接続する位置を工夫することにより、接続する付加フィルタの数を大幅に減らす構成を説明する。
図42は、本発明の第9の実施形態の合分波器4200の回路構成を示す図である。本図においても、分波ポート数M=8の場合で図示している。本実施形態では、ラティス型2光束干渉計部分は、第5の実施形態と同じであるが、その後の構成が、ラティス型2光束干渉計の出力に接続された2組の光カプラと、これら光カプラの出力に接続された4アレイ遅延回路4213と、この遅延回路4213に接続された4入力4出力光カプラ4214と、この光カプラ4214の出力に接続された2組のラティス型2光束干渉計(遅延回路4215〜4218を含む)と、2組の2アレイ1入力(M/2)出力カプラ4219、4220と、2組のMアレイ遅延回路4221、4222と、2組のM×(M/2)カプラ4223、4224とが順に接続された構成になっている。4入力4出力光カプラ4214の詳細構成は、第一の実施例で説明したM入力M出力光カプラと同じ考えの構成である。M×(M/2)カプラ4223、4224の詳細構成は、第一の実施例で説明したM入力M出力光カプラを基本構成として出力ポートを半分にし、使用しない半分の出力ポート、及び、その出力ポートにのみに関連する内部の光カプラや移相器を省略した構成になっている。各遅延回路の遅延長は、図42に記載した表に示した関係になっている。
ここで、第9の実施形態の合分波器の等価回路4300の構成を図43に示す。図43に示した構成から図42に示した構成への等価変換の考え方は、第1の実施形態で説明した考えと同じである。この等価回路4300を見て分かるように、第1或いは第5の実施形態の等価回路において、ラティス型ILF910とMZI型フィルタ920及びMZI型フィルタ930の間にラティス型ILF910の逆分散特性を持つ新たなラティス型ILF4320、4330が挿入されている。即ち、第8の実施形態では主合分波器の出力に接続されていた付加フィルタを、本実施例では主合分波器の中に持ってきている。尚、図43に示したダミー回路4321、4322は、図42の回路への等価変換の際に必要となるため加えてある。この部分は、等価変換後に図42のM×(M/2)カプラ4223、3224で記載している省略した出力ポートや、光カプラ、移相器に該当する部分、及びMアレイ遅延回路4221、4222の一部分になっている。
第8の実施形態でも述べたように、群速度分散は等価回路におけるラティス型ILF部で生じているので、この出力部分で逆分散特性を持つラティス型ILF4320、4330を設けることで、第8の実施形態と同様に本実施形態でも合分波回路全体での分散特性を相殺させることができる。しかも、第8の実施形態と異なり等価回路におけるラティス型ILF(4310)部の出力に逆分散特性を持つラティス型ILF(4320、4330)を設けるだけなので、付加フィルタとしてのラティス型ILFの数は出力ポート数Mに依存せずに2回路のみでよい。従って、特に出力ポート数Mが多い合分波器の場合は、第8の実施形態の合分波器と比べて本実施形態では大幅に回路規模を削減することができる。また、第8の実施形態の合分波器では干渉計段数が、主合分波器でN段、付加フィルタでN段の合計2N段であったが、本実施形態では図42に示したように(2N−1)段であり、干渉計の段数も削減できている。
回路パラメータの設計の考え方は、第8の実施形態と同じである。即ち、付加フィルタの位置が変わっただけなので、基本的には第8の実施形態と同じパラメータを用いればよい。具体的には、主合分波器由来の各遅延線の遅延長倍数k0,i、各光カプラの結合位相角θ0,i、各移相器の移相量φ0,iには、図40(a)のパターンCのパラメータki、θi、φiを、付加フィルタ由来の各遅延線の遅延長倍数k1,i、各光カプラの結合位相角θ1,i、各移相器の移相量φ1,iには、図40(b)のパターンCのパラメータki、θi、φiを用いる。但し、φ1,Nのみには0を用いる。これは、第8の実施形態で説明したのと同様、図38で示した分類を流用して整理すると、等価回路における主合分波器由来の順分散ラティス型ILF4310部分には図38(a)の構成を、付加フィルタ由来の逆分散ラティス型ILF4320、4330部分には図38(b)の構成を用いていることになるからである。もちろん、等価回路における主合分波器由来のラティス型ILF4310部分の構成と付加フィルタ由来のラティス型ILF4320、4330部分の構成は、第8の実施形態と同様に他の組み合わせを用いても構わない。例えば、図43に示した等価回路において付加フィルタ由来の逆分散ラティス型ILF4320、4330部分には図38(d)の構成を用いても良い。その場合は、付加フィルタ由来の逆分散ラティス型ILF部における偶数ch/奇数chの出力ポートが逆転するので、付加フィルタ由来の逆分散ラティス型ILF4320、4330部分に接続されているMZI型光フィルタ4340以降とダミー回路4321、及びMZI型光フィルタ4350以降とダミー回路4322を、それぞれにおいて入れ替えることになる。
上述のパラメータを用いた時の本合分波器の計算特性は、図41(f),(g)に示した第8の実施形態で得られた特性と同じ特性になった。このように、本実施形態は第8の実施形態と同じ透過特性を持ちながら、実質的な付加フィルタの回路規模を大きく削減することができている。
ここで、4×4カプラを構成する2×2カプラアレイの順序交換について述べておく。図44は、2×2カプラアレイの順序交換側を抽象化して説明する為の図である。図44(a)は、同じ伝達特性を持つ二つの要素Pの後段に、Pとは別の同じ伝達特性を持つ二つの要素Qが編込み接続された回路を示している。要素P、要素Q共に2入力2出力の要素である。一方、図44(b)は、このPとQの接続順番を入れ替えた回路を示している。これら図において要素中に記載している行列は、それぞれの要素の伝達行列を表している。図中において破線で囲って示した、編込み部及び二つの要素Pをまとめた要素アレイRの伝達行列、二つの要素Qをまとめた要素アレイSの伝達行列は、それぞれ
と表される。これらの伝達行列を用いて図44(a)の回路全体の伝達行列Hを表すと、
となり、同様に図44(b)の回路全体の伝達行列Gは
となる。従って、両回路は同じ伝達行列を持つので、伝達特性的には等価な回路になっている、即ち、要素アレイRと要素アレイSは、伝達特性を保ったまま、順序を入れ替えることができることが分かる。
4×4カプラは、要素アレイRと要素アレイSの間に移相器がある構成になっているので、上記交換側をそのまま適用することはできない。この交換側を適用するには、これら移相器を要素Pや要素Qに完全に繰り込むことが可能である、という条件を満たす必要がある。より一般化して4つある移相器の伝達関数を上の移相器から順番にΞ1,Ξ2,Ξ3,Ξ4と表す。ここで、Ξi=exp(j・ξi)、jは虚数単位である。もしξ1=ξ2、ξ3=ξ4であるならば、上側の要素Pに1番目と3番目の移相器を、下側の要素Pに2番目と4番目の移相器を繰り込み、要素Pを二つとも同じ伝達行列P’
を持つ新たな要素P’として見ることで、移相器を完全に繰り込ことができる。また、もしξ1=ξ3、ξ2=ξ4であるならば、上側の要素Qに1番目と2番目の移相器を、下側の要素Qに3番目と4番目の移相器を繰り込み、要素Qを二つとも同じ伝達行列Q’
を持つ新たな要素Q’として見ることで、移相器を完全に繰り込ことができる。この移相器の繰り込みは、要素Pと要素Qで分担して行っても勿論良いし、必要に応じてこの4×4カプラの前段、或いは後段に、別の移相器アレイを設けることで繰り込みを行っても良い。いずれにしても、図44に示した構成に実質的に変形できるかどうかが、順序交換できるかどうかを決める。
本実施例での4×4カプラでは、ξ1=ξ3=φ1,1、ξ2=ξ4=0であるので、要素Q側にこれら移相器を繰り込んで上記交換側を適用することができ、2×2カプラアレイの順番を入れ替えることができる。図45にその入れ替えの様子を示す。図45(a)が図42に示していた元の構成で、図45(b)が交換側を用いて2×2カプラアレイの順番を入れ替えた構成である。更にこの構成は、図45(c)に示すように2×2カプラアレイとその後段の遅延回路を入れ替えることも可能であることが分かる。従って、これらの入れ替えを更に後段の回路要素に適用することで、2組のラティス型2光束干渉計を結合させている結合位相角θ0,Nの2×2カプラアレイは、この2組のラティス型2光束干渉計中の任意の位置に置くことができることが分かる。
〔第10の実施形態:MMIカプラ形態〕
図46は、本発明の第10の実施形態の合分波器4600の回路構成を示す図である。本図においても、分波ポート数M=8の場合で図示している。第1〜9までの実施形態では、光カプラに主に方向性結合器を用いた構成で本願発明を説明してきた。第10の実施形態では、光カプラにMMI型光カプラを用いた構成の本願発明の例を説明する。本図には、第5の実施形態を基にして、各光カプラにMMI型光カプラを用いた場合の構成を示している。但し、kN=1としている。MMI型光カプラは1×MカプラやM×Mカプラ等の多ポートのカプラであっても1回路で実現できる。従って、特に多ポートのカプラにおいては小型のサイズで実現することができるというメリットがある。また、2×2光カプラにおいても、方向性結合器では光結合させる光導波路を極めて近接して並べる必要があるため、材料によっては安定に作製することが難しいことがあるが、MMI型光カプラでは、光結合部がマルチモードのコア幅の広い導波路であり、この導波路に接続する入出力の導波路間隔も設計により比較的広く取る事が可能である為、製造トレランスを緩くできる場合があるというメリットがある。
先ず、任意結合率の2×2光カプラに関して説明する。MMI型光カプラは、通常、等分配の結合率となる。従って、結合率が50%以外の2入力2出力光カプラを構成するには、MZI構成を実質的には用いる必要がある。図47にMMI型光カプラを用いたMZI構成の任意結合率の2×2光カプラの構成例を示す。図47(a)では、2個の2入力2出力MMI光カプラ4711、4712を導波路長差ΔLの2本の導波路アームで接続している。2入力2出力MMI光カプラは上述の様に等分配、即ち、3dB光カプラになるので、図7(c)に示した可変光カプラの動作と同様に、適切な導波路長差ΔLを設け、2本の導波路アームの位相差Δη=−2π・n・ΔL/λを設定することで、任意結合率の2×2光カプラを実現することができる。ここで、nは導波路の実効屈折率、λは動作波長である。図47(b)では、上記位相差Δηを、導波路長差ΔLではなく、導波路ギャップによる実行屈折率の違いにより設けている。導波路ギャップ部の屈折率はクラッドの屈折率であり、導波路コアの屈折率よりも低い為、光が早く進む。これにより、位相差ηを制御する。図47(c)では、MMIカプラ4631は、図47(b)の2個のMMIカプラ4621、4622を近接して配置し、そのMMI間を上方のみコアとし、下方をクラッドのままギャップとしている。即ち、図47(b)の導波路アーム長をゼロにして、上記の導波路ギャップをMMI型光カプラ間のギャップとした構成と考えれば良い。回路のサイズは、図47(a)よりも(b)の方が、更に(b)よりも(c)の方が小さくなる。図46の合分波器4600では、図47(c)の回路を用いた構成を図示してある。
次に、1×(M/2)カプラに関して説明する。MMI型光カプラを用いた1入力m出力カプラでは、Y分岐カプラを用いた1入力m出力カプラと異なり、各出力ポート間の位相関係は一般的には等位相ではない。設計にもよるが、MMIにおけるセルフイメージ長の1/4mの長さのMMI型光カプラを用いた1入力m出力カプラの場合、p番目(pは0〜m−1の整数)の出力ポートからの出力光の位相は
となることが知られている。従って、Y分岐カプラからの置き換えを行うためには、各ポート間でのこの位相差を補正する必要がある。図48に例としてm=4の場合における1×mカプラの等価変換回路を示す。図48(a)に示したように、必要に応じて上記位相差を補正する移相器をMMI型光カプラの出力に設けることで、Y分岐カプラを用いた1入力m出力カプラ4821を、MMI型光カプラを用いた1入力m出力カプラ4811に置き換えることができる。
次に、M×Mカプラに関して説明する。図49にM×Mカプラの等価変換を説明する図を示す。図49(a)は、本実施形態で使用している単一MMIで構成したM×Mカプラ4911である。尚、等価変換の説明の便宜上、前段に補正用移相器を配置しており、その値は図中の表に記載した値としている。図49(b)は、第5の実施形態等で用いてきた2×2光カプラを編み込んで構成したM×Mカプラを示している。尚、こちらも説明の便宜上、初段の2×2光カプラアレイの前にも移相器を配置している。各移相器の位相ψx,yは図中の表に記載した値となっている。図50は、これら移相器も含めたM×Mカプラの各入出力ポート間の経路における出力光の相対位相関係を示した表である。MMI型M×Mカプラ単体の入出力ポート間の経路における出力光の位相関係は、
となることが知られている。ここで、p、qは、MMI型M×Mカプラのそれぞれ入力ポート番号、出力ポート番号であり、0〜M−1の整数である。単体図50(a)の表は、この式を基に前段の補正用移相器も加味して計算してある。また、図50(b)の表は、M×Mカプラを構成している個別の2×2光カプラに於ける入出力ポート間の位相関係、及び、各移相器の移相量から計算している。
さて、図50(b)の表から2×2光カプラを編み込んで構成したM×Mカプラの動作を解釈してみる。出力ポート8の欄を見てみると、いずれの入力ポートから光を入力しても全て同じ位相で出力されていることが分かる。一方、出力ポート4欄を見てみると、入力ポートを一つずらすと出力光の位相が0.25πずつ増えることが分かる。従って、各入力ポートに等位相で光を入力すると、出力ポート8に対しては位相が揃って出力され、光が強め合って出力されるのに対して、出力ポート4に対しては、入力ポート1からの光と入力ポート5からの光が反位相になっているため打ち消し合い、同様に入力ポート2からの光と入力ポート8からの光が打ち消し合うといった具合に、各入力ポート間で光が打ち消し合う。他の出力ポートにおいても、同様に各入力ポート間で光が打ち消し合い、結局、出力ポート8からのみ光が出力される。ここで、各入力ポートに位相を−0.25πずつずらして光を入力すると、今度は出力ポート4においては、上述の入力ポート間の位相ズレと入力光の位相ズレの関係が丁度かみ合って、出力光の位相が揃い、出力光が強め合って出力される。逆に、出力ポート8においては、各入力ポートからの光の位相ズレがそのまま反映されて出力される為、結局、打ち消し合ってしまう。他の出力ポートにおいても、各入力ポートからの光の位相ズレと入力光の位相ズレの関係がかみ合わずに、やはり各入力ポート間で光が打ち消し合い、結局、出力ポート4からのみ光が出力される。同様の解釈で、各入力ポートに位相を−0.5πずつずらして光を入力すると、今度は出力ポート6からのみ光が出力されるといった具合に、各入力ポートに入力される光の位相ズレ量に応じて、光が出力されるポートが変わる。2×2光カプラを編み込んで構成したM×Mカプラはこのような動作をしている。
本願発明の合分波器において、M×Mカプラの前段にあるMアレイ遅延回路は、入力される光の周波数fに応じて、各遅延線で位相差−2π・f・n・ΔL/cである位相ズレを引き起こす。ここで、cは光束、nは導波路の実効屈折率である。つまり、このMアレイ遅延回路とM×Mカプラの組み合せにより、基本的な合分波動作が引き起こされていることになる。
一方、図49(a)に示した構成のMMI型M×Mカプラの各入出力ポート間の経路における出力光の相対位相関係は、図50(a)の表に示した様に入出力ポートの並び順は異なるものの、2×2光カプラを編み込んで構成したM×Mカプラのそれと同じ関係であることが分かる。従って、適切な補正移相器を備え、且つ、M×Mカプラの入出力ポートの並び順を適宜並べ替えれば、2×2光カプラを編み込んで構成したM×Mカプラと置き換えることができる。
これらのことを加味して、各光カプラをMMI型の光カプラに置き換えた合分波器の回路が、図46に示した合分波器4600である。上述した1×(M/2)カプラでの位相補正やM×Mカプラでの位相補正を行うために、MMI型M×Mカプラ4617の前段に移相器を設けている。また、MMI型M×Mカプラ4617への置き換えによって生じる入力ポートの並び順の変換を補正する為に、移相器とMアレイ遅延回路4615の間に接続交換回路4616を設けている。なお、MMI型M×Mカプラ4617への置き換えによって生じる出力ポートの並び順の変換に関しては、補正を行っていないので、第5の実施形態での各出力ポートからの出力チャンネルの関係は異なることになる。接続交換回路では、導波路が交差することになるが、図46の下図に示すように、Mアレイ遅延回路4618は、Mアレイ遅延回路4615の下半分の向きを変えることで、ある程度、交差の数を減らすことができる。
図46に示した本実施形態の合分波器の具体的な設計パラメータの例をN=3、M=8の場合で図51に示す。ラティス型2光束干渉計部分の設計は、基本的に第3の実施形態の値を踏襲しているが、光カプラに関しては上述の様にMZI構成を実質的に用いているので、図7で示したように変換を行い、そのMZIの光路長差を決める位相差Δηiはπ−2θiとする。また、接続交換回路での接続先の移相器要素番号、及び、補正用位相器の位相ζyは、図46に示した構成の場合、図51の表中のパターンAに示した値になる。
本設計パラメータを用いた場合の計算特性を図52(a)に示す。また、通過域特性の拡大図を図52(c)に示す。図52(c)には第3の実施形態の「N=3」での特性も参考として併せて記載してある。図25(a)に記載した第3の実施形態での特性と比較して分かるように、各出力ポートからの出力チャンネルの関係は異なっているが、透過波形の形状は全く同じになっていることが分かる。図52に示した通過域特性の拡大図においても、本実施形態と第3の実施形態で全く同じであることが分かる。
また、図51(a)で示したMMI型M×Mカプラの入出力ポート間相対位相関係は、出力ポート8で各入力ポート間の位相差が0になるように、図49(a)で示した補正移相器の位相を設定したが、他の出力ポートで各入力ポート間の位相差が0になるように選んでももちろん良い。その場合は、補正用移相器への位相設定をそれに併せて変更すると共に、M×Mカプラの入出力ポートの並び順も適宜入れ替えることになる。図51のパターンBに示したパラメータは、その一例として出力ポート3で位相差を0にした場合のパラメータある。このパターンBを用いた時の計算特性を図52(b)に示す。パターンBに於いても各出力ポートからの出力チャンネルの関係が更に異なっているが、透過波形の形状は全く同じになっていることが分かる。また、通過域の詳細特性もパターンAの場合と同じであった。
尚、ここまでの第10の実施形態の合分波器では、全ての光カプラをMMI型の光カプラに置き換えたが、部分的な置き換えであっても勿論良い。例えば、回路サイズへの影響が比較的大きいM×Mカプラ及び1×(M/2)カプラのみをMMI型光カプラに置き換えて、ラティス型2光束干渉計部分の光カプラは方向性結合器型光カプラのままにしても良い。
次に、光カプラにMMI型光カプラを用いた場合のもう一つの大きなメリットについて説明する。第5の実施形態の様に1×(M/2)カプラにY分岐カプラを用いたり、M×Mカプラに2×2光カプラを編み込み構成を用いたりした場合、基本的には出力ポート数は2のべき乗になる。2のべき乗以外のポート数を実現する場合は、第5の実施形態で説明したように一部の出力ポートを未使用にする形態になる為、回路としてはやや無駄のある構成となってしまう。然しながら、MMI型の光カプラは、10×10カプラや1×5カプラなど任意のポート数の光カプラを単体で構成できるので、無駄な回路を備えることなく、この2のべき乗の制限を外すことができる。これは、光カプラにMMI型光カプラを用いる見逃せないメリットの一つである。
具体例として分波ポート数をM=10とした場合について述べる。基本的な回路構成は図46に示した通りであり、MMI型1×(M/2)カプラ4614には1×5カプラが、MMI型M×Mカプラ4617には10×10カプラが配置されることになる。パラメータ例を図51のM=10の欄に示す。ラティス型2光束干渉計部分の設計はM=8の場合と同じにしてある。本設計パラメータを用いた場合の計算特性を図52(d)に示す。また、通過域特性の拡大図も図52(c)に示す。図52(d)の計算特性を見て分かるように、分波ポート数が10の場合であっても、ポート数8の場合と同じ等に所望の合分波特性が得られていることが分かる。また、図52(c)に示した通過域特性の拡大図をみても、分波ポート数が8の場合と基本的には変わらない特性が得られていることが分かる。
[実施例]
上記の実施形態のうち幾つかの構成において、実際に作製した合分波器を実施例として説明する。尚、以下の実施例では、多チャンネルILF回路の実現手段として、石英系平面光波回路(石英系PLC)を用いている。これは、石英系PLCが、低挿入損失性、設計自由度、信頼性、量産性に優れ、背景技術で述べたAWG型合分波器のような受動回路の実用基盤技術として確立しているからである。しかしながら、本願発明は、回路構成に関する発明であるので、実現技術には基本的に異存しないことは明らかである。従って、他の材料系の導波路、例えば、シリコン、高分子、多元系酸化物材料や半導体材料等を用いた導波回路で実現しても、本実施例等で示した効果が同様に得られることに変わりは無い。更には、光カプラ、遅延線といった構成要素は、導波路デバイスだけでなく、空間光学デバイスでも実現できることから、本発明の構成を空間光学デバイスで実現しても勿論良い。
また、実際に回路を設計する際には、回路パターンレイアウト上の都合や、素子の特性バラツキを抑えるためなどの理由により、これまで説明した実施形態の回路をそのまま用いるとは限らず、必要に応じて回路構成の変形等を行う。ここでは、先ずこの変形規則に関して説明する。
図53(a)、(b)は、光カプラの一種である方向性結合器に関する変換則を説明した図である。図53(a)は、結合位相角がθである方向性結合器を示している。この方向性結合器の伝達行列Cpは
で表される。これまで説明してきた設計では、θは0〜π/2の範囲の値で設計されている。前述したように光パワーの結合率は、(sin(θ))2で表されるので、この範囲のθで結合率は0〜100%の値を取ることができる。一般に、θが大きくなるほど、方向性結合器の結合部の物理長は長くなり、また、作製誤差の影響も受けやすくなる。
一方、図53(b)に示す回路の伝達行列Fは、入力側の移相器、交差、結合位相角θ’=π/2−θの方向性結合器、出力側の移相器、のそれぞれの伝達行列Ps1、Xw、Cp’、Ps2を用いて
となる。行列の前に掛かっているjは、回路全体に掛かる一定の位相シフト量になるだけなので、2ポート干渉回路としては特に考慮しなくても良い。従って、図53(b)に示す回路の伝達行列Fは、図53(a)に示す方向性結合器5301の伝達行列Cpと基本的に同じ伝達行列を持つので、伝達特性的には等価な回路であることが分かる。両回路の方向性結合器の結合位相角の間にはθ’=π/2−θの関係があることから、設計パラメータとしてのθが0〜π/4の場合は、図53(a)の通常の構成を、θがπ/4〜π/2の場合には、θ’に換算すると0〜π/4となる図53(b)の構成を用いることによって、実際に用いる方向性結合器5302の結合位相角を常に0〜π/4とすることができる。このように、図53(a)と図53(b)を使い分けることによって、方向性結合器の結合部の物理長を短く抑えることができ、従って、作製誤差の影響も受けにくくなる。
また、この等価変換は、交差導波路によるポートの並びの入れ替えが可能であることを示しているので、この入れ替えを利用する例を次に示す。図53(c)は前述の実施形態のラティス型2光束干渉計部分の一部を抜き出して示したものである。ここに示した2個の光カプラ即ち方向性結合器5304、5305は、上述の方向性結合器の変換則を用いて図53(d)の破線部5307、5308の形に等価変換できる。更に、図53(d)において交差導波路を解くように、経路長差ΔLの遅延回路及び移相器のレイアウトを上下反転させると、図53(e)の構成に変形ができる。尚、図53(d)で遅延回路前後にある位相シフト量πの移相器は、2本の干渉導波路に同じ位相シフトをもたらしているので、これは回路全体に掛かる一定の位相シフト量になるだけである。従って、2ポート干渉回路としては影響がないので、この変形の過程において省略した。このように方向性結合器に関する変換則を用いることで、ラティス型2光束干渉計部分における遅延回路を各段で個別に上下のレイアウトを入れ替えることができる。
[実施例1:4ch合分波器 その1]
第1の実施例として作製した4チャンネルの合分波器5400の構成を図54に示す。本実施例は、構成としては第3及び第7の実施形態に該当し、分波ポート数は4ポート、即ちM=4、回路段数は3段タイプ、即ちN=3になる。各段の遅延回路の遅延長の係数はそれぞれk1=4、k2=2、k3=1である。即ち、ラティス型2光束干渉計部分の1段目5411、2段目5412の遅延回路の遅延長はそれぞれ8ΔL、4ΔLになる。また、4アレイ遅延回路5413の遅延差はΔLになる。今回、各チャンネルの周波数間隔は50GHzとし、また、石英PLCの実効屈折率は約1.45なので、ΔLの値は約1mmになる。
ラティス型2光束干渉計部分の光カプラ5401〜5403は、透過特性をある程度可変にできるように可変光カプラとした。ラティス型2光束干渉計部分の初段の遅延回路5411は、後述するレイアウトの都合により、長い方の経路が下側になるように上下反転した構成とした。ラティス型2光束干渉計部分の1段目の移相器5404、及び2段目の移相器5405は相対位相調節器として上下両経路に備えた。また、4アレイ遅延回路5413の後には、遅延回路での光路長誤差即ち位相誤差を修正する為に、各経路に位相調整器ψ0,1〜ψ0,4を備えた4アレイ相対位相調整器5414を置いた。実施形態で示した移相器φN、即ち等価回路におけるラティス型ILF部の最終段の移相器に相当する移相器は、本実施例では、この4アレイ相対位相調整器5414で兼ねることにした。即ち、ψ0,1、ψ0,2の値を両方ともφN分同時に変化させることで、実施形態で示した移相器φNの動作を兼ねている。尚、各相対位相調整器は、製造誤差による位相誤差の修正や周波数特性における周波数シフトの調整も兼ねて用いる。実施形態で示したM×Mカプラを構成している各光カプラ、即ち本実施例で4アレイ相対位相調節器5415の前後の光カプラ5416は、広い波長域において3dB結合特性を得る為にWINC型の光カプラとした。
前述してきた各種の等価変換則を考慮した設計パラメータを図54に示した表に記載する。表には平坦特性を重視した設計パラメータ「平坦通過域設計」とわざと通過域の端の透過特性を持ち上げた設計パラメータ「高域ブースト設計」の2種類を記載している。いずれの設計においても可変光カプラの結合率は50%以下の設計にすることができている。
石英系PLC上での、実際の回路レイアウトを図55に示す。前述したようにラティス型2光束干渉計部分の初段の遅延回路を上下反転した構成にしているので、本図のように回路全体をコンパクトな九十九折のレイアウトに無理なく行うことができる。
各位相調整器や可変カプラの可変移相器は、熱光学移相器5503を用いている。熱光学移相器は、導波路クラッド上に設けた薄膜ヒータによって局所的に導波路の温度を制御し、熱光学効果により薄膜ヒータ直下の導波路の屈折率、即ち導波光の位相を制御するものである。尚、図中には示していないが、熱光学移相器5503の薄膜ヒータの両側のクラッドには熱光学移相器5503の消費電力を低減する為の断熱溝を設けている。また、各薄膜ヒータへは駆動連流を給電するための電気配線パターンが回路チップ5505上に形成されている。
石英系PLCの導波路は複屈折性がある。従って、遅延回路においては、縦偏光モードの導波光と横偏光モードの導波光で光路長が異なる。これは、各偏光モードで合分波周波数のズレを引き起こすことになるので望ましくない。本実施例では、この偏光依存性を解消する為に遅延回路の中間地点に偏波回転器5502を備える構成としている。偏波回転器5502は、45°に主軸を傾けた半波長板をチップ上に形成した溝5501に挿入することで実現している。この偏波回転器5502により、導波光の偏光モードが入れ替わるので複屈折による光路長差ズレを相殺することができる。また、相対位相調節器5404〜5405、及び4アレイ位相調節器5414も、これら調節器で位相調整時に生じる僅かな複屈折の変動を相殺する為に、偏波回転器の前後に分割して配置した。
この合分波回路チップは、火炎堆積(FHD)法等のガラス膜堆積技術と反応性イオンエッチング(RIE)等の微細加工技術の組み合わせを用いて作製した。具体的には、シリコン基板上に下部クラッド層となるガラス膜を堆積/透明化し、引き続き、屈折率がクラッド層よりもやや高いコア層を堆積した。次に、光導波回路となるコアパターンを微細加工技術によりパターン化し、上部クラッド層となるガラス膜を堆積/透明化することで埋め込み型の光導波路を作製した。そして、上部クラッド表面に薄膜ヒータとなる金属を真空蒸着法等で堆積し、これを微細加工技術でパターン化し、熱光学移相器を装荷した。更に、熱光学移相器の断熱溝を微細加工技術により形成した。波長板挿入溝をダイシングソーにより形成し、その溝に半波長板を挿入して接着剤固定した。最後に、入出力ポートには光ファイバーを接続し、温度調節器付きのケースにチップを収納し、合分波モジュールとした。導波路のコアとクラッドの比屈折率差は1.5%である。チップサイズは約30×13mmとコンパクトに合分波器を実現できた。
設計パラメータ「平坦通過域設計」を用いた時の本合分波器の計算特性を図56に示す。図56(a)は、「順分散動作設定」のパラメータを用い時に入力ポート1に入力光を入射した時、即ち順分散動作時の分波特性である。図56(b)は、「逆分散動作設定」のパラメータを用いた時に入力ポート2に入力光を入射した時、即ち逆分散動作時の分波特性である。
作製した合分波器において、設計パラメータ「平坦通過域設計」となるように可変カプラの可変移相器、及び各相対位相調節器を微調整した時の実測分波特性を図57に示す。順分散動作時、逆分散動作時共に、ポート間のバラツキもなく1500〜1600nmの広い波長範囲で良好な繰り返し特性の分波特性が得られている。また、1550nm付近での各ポートの実測通過域特性の詳細を図58に示す。透過率特性、相対群遅延特性共に図56に示した設計特性とほぼ同じで所望の特性になっていることが分かる。各ポートの挿入損失はファイバー接続損も含めて3.2dBと低損失の値が得られた。これは、背景技術で述べた光マルチキャリア送受信機内に用いる光信号合分波器に従来方法である合流カプラや分岐カプラを用いた時に生じる原理損失6dBよりも2.8dBも損失が低いことを示している。通常、市販の光カプラは0.2dB程度の過剰損失があるので、合計で3dB以上損失が低いといえる。透過強度特性における0.5dB帯域幅は、約38GHzであり、チャンネル間隔50GHzに対する帯域占有率は76%を越えていた。また、透過強度特性において通過域の中で大きなリップルは見られず、通過域平坦性は非常に良好であった。通過域における群遅延リップルは、順分散動作時、逆分散動作時共に約7.7psであり、そのリップルの生じ方は順分散動作時、逆分散動作時で丁度逆特性になっている。
以上のように作製した第一の実施例の合分波器は、低損失性、通過域の広帯域平坦性に優れ、また、良好な周回動作を示していることが分かる。本実施例では4ポートへの多ポート化の実証に成功したが、前述の実施形態の説明で述べたように、更なる多ポート化も容易であることがわかる。また、通過域における相対群遅延特性が、順分散動作時、逆分散動作時で丁度逆の特性になっているので、第7の実施形態で示したように送信機側合波器と受信機側分波器でこれらの動作を使い分けることで、群遅延リップルを相殺することが可能であることも分かる。
次に、設計パラメータ「高域ブースト設計」で且つ「順分散動作設定」のパラメータを用いた時の本合分波器の計算特性を図59に示す。このように設計パラメータを変えることで、通過域の形状をある程度変えることができる。
作製した同じ合分波器において、「高域ブースト設計」の設計パラメータになるように可変光カプラの可変移相器、及び各相対位相調節器を調整した時の実測分波特性を図60に示す。1550nm付近だけの評価ではあるが「平坦通過域設計」の時と同様に良好な繰り返し特性が得られていることが分かる。また、図54に示した設計特性とほぼ同じで所望の特性が得られていることも分かる。このような通過域の端の透過特性を持ち上げた特性は、送信機の変調器や受信機の受光器の帯域不足等の周波数特性補償/補正に用いることができる。
以上のように、本願発明の第1の実施例の合分波器の構成を用いれば、低損失性、通過域広帯域平坦性や通過域設計自由度に優れ、周回動作、多ポート化が可能な合分波器をコンパクトな回路構成で実現することができる。
[実施例2:4ch合分波器 その2]
第2の実施例として作製した4チャンネルの合分波器6100の構成を図61に示す。本実施例も、構成としては第3及び第7の実施形態に該当し、分波ポート数は4ポート、即ちM=4、回路段数は2段タイプ、即ちN=2になる。各段の遅延回路の遅延長の係数はそれぞれk1=2、k2=1である。即ち、ラティス型2光束干渉計部分の遅延回路6112の遅延長は4ΔLになる。また、4アレイ遅延回路6115の遅延差はΔLになる。今回も、各チャンネルの周波数間隔は50GHzとした。
回路段数を2段にしたことが、実施例1と大きく異なる他、4アレイ遅延回路6115の前段にある2組の光カプラをY分岐カプラではなく、WINC型の光カプラ6118とし2入力2出力のカプラとした点が異なっている。WINC型光カプラ6118のラティス型2光束干渉計から接続されていない側の入力は、モニターポートとし4アレイ相対位相器6117の調整に用いた。レイアウト変換や可変カプラ6111、6114の適用などのその他の点に関しては実施例1と同じである。
本実施例で用いた設計パラメータを図61に示した表に記載する。本合分波器も石英系PLCを用いて実現した。実際の回路レイアウトを図62に示す。本実施例でも回路全体をコンパクトな九十九折のレイアウトに無理なく行うことができる。チップサイズは約26×13mmとコンパクトに合分波器を実現できた。
本合分波器の計算特性を図63に示す。図63(a)は、「順分散動作設定」のパラメータを用い時に入力ポート1に入力光を入射した時、即ち順分散動作時の分波特性である。図63(b)は、「逆分散動作設定」のパラメータを用いた時に入力ポート2に入力光を入射した時、即ち逆分散動作時の分波特性である。
作製した合分波器の分波特性を図64に示す。順分散動作時、逆分散動作時共に、良好な繰り返し特性の分波特性が得られ、透過率特性、相対群遅延特性共に図63に示した設計特性とほぼ同じで所望の特性になっていることが分かる。各ポートの挿入損失はファイバー接続損も含めて2.8dBと低損失の値が得られた。透過強度特性における0.5dB帯域幅は、約30GHzであり、理論通り段数に応じて帯域幅が変化することがわかる。
以上のように、本願発明の第2の実施例の合分波器の構成においても、低損失性、段数に応じた通過域広帯域平坦性が得られており、周回動作、多ポート化が可能な合分波器をコンパクトな回路構成で実現することができる。
今回の実施例では移相器を位相調節器、即ち可変移相器で構成したが、所定の導波路長差や導波路幅を部分的に変えて実行屈折率を変えることで実現する固定移相器で構成しても良い。固定移相器を用いた場合、製造精度上、光路長調整が必要な場合は紫外光誘起恒久屈折率変化等を利用したトリミング技術を用いて合わせ込みを行えば良いことを付記しておく。