JP5853453B2 - リポソームを製造する方法 - Google Patents
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Description
このうち、ダブルエマルションとして、W/O/WエマルションおよびO/W/Oエマルション等が挙げられる。たとえば水の中に均一に散らばっている小さい油滴の中に、さらに小さい水滴が均一に散らばっている状態、つまり水滴粒子を内部に閉じこめた油滴粒子が水中に分散している状態のものが、W/O/Wエマルション(Water−in−Oil−in−Water)である。一分子膜と一分子膜の間に油相が存在するために膜厚はその分厚いのが特徴である。ダブルエマルションの製造は、古典的な機械的乳化法あるいはSPG (Shirasu Porous Glass)膜乳化法を利用した「二段階乳化法」を用いるのが一般的である。さらに最近では、特許文献1に記載されているように、マイクロ流路に交互に流れる混合しない2種類の流体(WとO)を別の流体に押し出すことで、W/O/WエマルションあるいはO/W/Oエマルションを作成する方法が知られている。
[1]下記工程(1)〜(4)を含む、体積平均粒径50nm以上200nm以下の単胞リポソームを製造する方法
(1)脂質成分(F1)を揮発性の炭化水素系有機溶媒(o)に溶解または分散した油相液(O)と、内包対象薬剤(D)を水性溶媒(w1)に溶解して得られる水相液(W1)とを混合乳化することによりW1/Oエマルションを調製する一次乳化工程;
(2)前記工程(1)を経て得られたW1/Oエマルションと、非結晶性の脂質成分(FN)を添加した水相液(W2)とを混合乳化することによりW1/O/W2エマルションを調製する二次乳化工程;
(3)前記工程(2)を経て得られたW1/O/W2エマルションから前記揮発性の炭化水素系有機溶媒(o)を除去することによりリポソーム分散液を調製する溶媒除去工程;
(4)前記工程(3)を経て得られたリポソーム分散液から水相液(W2)を除去し、当該除去した水相液(W2)よりも少量の水相液(W3)を添加して、リポソーム製剤を調製する水相置換工程;
ここで、
前記揮発性の炭化水素系有機溶媒(o)は、4℃以上100℃未満の沸点を有しており、
前記工程(2)における二次乳化は、下記式(e1)の条件を満たす撹拌乳化により実施される:
0.02385 <r×n/L' < 0.1431 (e1)
上記式(e1)において、rは攪拌子の半径[m],L'はW1/Oエマルションの粒径[nm],nは攪拌子の毎分回転数[rpm]を表す。
前記工程(2)において前記混合乳化の前にW1/Oエマルションに非結晶性の脂質成分(FN)を添加する、
前記[1]記載の方法。
脂質成分(F1)・(F2)
一次乳化工程で有機溶媒(o)に溶解する脂質成分(F1)は主としてリポソームの脂質二重膜の内膜を構成し、場合によっては外膜の構成にも寄与する。一方、必要に応じて二次乳化工程で添加する脂質成分(F2)は主としてリポソームの外膜を構成する。脂質成分(F1)および(F2)は、同一の組成であっても、異なる組成であってもよい。
非結晶性の脂質成分(FN)
本発明においては、二段階乳化を円滑に進めるために、二次乳化工程において非結晶性の脂質成分(FN)が用いられる。
このような非結晶性の脂質成分(FN)の配合組成としては、非結晶性の成分を用いることを除いては、いずれも上記脂質成分(F1)および(F2)の場合と同様の配合組成を適用することができる。例えば、特公平6−74205号公報に記載されている方法により得られる混合脂質を用いることができる。したがって、本発明においては、非結晶性の脂質成分(FN)が、単一の脂質からなるものであってもよいし、複数の脂質からなるもの(混合脂質成分)であってもよい。
一次乳化工程(1)で用いられる水相液(W1)はW1/Oエマルションの水相を構成し、二次乳化工程(2)で用いられる水相液(W2)はW1/O/W2エマルションの外水相を構成し、水相置換工程で用いられる水相液(W3)は、最終的なリポソーム含有製剤(リポソーム分散液)の外水相を構成する。
二次乳化工程で用いられる油相液(O)はW1/Oエマルションの油相を構成する。本発明において、この油相液(O)を構成する溶媒として、揮発性の炭化水素系有機溶媒(o)が用いられる。ここで、油相液(O)は、揮発性の炭化水素系有機溶媒(o)のみからなるものでもよいし、必要に応じて揮発性の炭化水素系有機溶媒(o)に脂質成分(f2)等を溶解することにより調製されたものでもよい。
本発明における、リポソームに内包させる物質(「内包対象薬剤」と称する。)は特に限定されるものではなく、リポソームの用途に応じて医薬品、化粧品、食品などの分野で知られている各種の物質を用いることができる。本発明においては、内包対象薬剤(D)として、水溶性の物質(「水溶性薬剤類」と称する。)」が好適に用いられる。ここで、本発明で用いられる上記各種脂質成分が水溶性を有する場合もありうるが、本明細書にいう「水溶性薬剤類」には、そのような各種脂質成分は包含されない。
リポソームを構成する脂質成分(F)に対する内包対象薬剤(D)の重量比(D/F)は大きい方が好ましい、つまり、より少量の脂質成分(F)を用いてより多量の内包対象薬剤(D)をリポソームに内包させることが好ましい。
薬剤重量比=リポソームに内包されている内包対象薬剤(D)の質量/リポソームを構成する脂質成分(F)の質量。
水溶性薬剤を内包させる目的は、水溶性薬剤を内水相としての水相液(W1)に溶解することによって達成される。したがって水溶性の高い薬剤類は、水相液(W1)に高濃度で溶解すれば、内包される絶対量は増やすことができる。一方、水相液(W1)の量は適宜変えることができ、所定の粒径の粒子(W1/O)を作成しようとすれば、それに必要な脂質の量(個数)は計算できる。たとえば、100 nm のW1/Oエマルション(粒子体積0.0005 μm3)を形成する場合、水相液(W1)(内水相) 1.0 mLで製造すれば2.0 x1015個のW1/O粒子が生成する計算である。一方、100 nm のW1/Oナノエマルション(粒子表面積2500 nm2)はリン脂質分子(レシチン表面積0.7 nm2) 0.4 x105個で構成されている、と計算される。したがって、薬液 1.0 mL の一次乳化に必要な脂質量は、2.0 x1015個x0.4 x105個=0.8 x1020個、すなわち0.132 mmolである。レシチン以外の脂質分子も、その表面積はおおよそ0.7 nm2として差し支えないため、脂質類の総量として0.132 mmolが100 nm のW1/Oナノエマルションを作成するのに必要最少量と考えられる。リポソームを作成するには、その倍の0.264 mmolが必要であり、代表的なリン脂質のDPPCで分子量換算すると193 mgが必要である。
水溶性の高い薬剤類を内包対象薬剤(D)として高濃度で溶解した水相液(W1)を得る工夫は、薬剤が過飽和状態で溶解した水相液(W1)を用意することでも実現できる。この方法で、内包される薬剤の絶対量をさらに増やすことができる。アモルファス状態の薬剤を用意して溶解する、ナノ粒子状結晶薬剤を用意して溶解するあるいは溶解助剤を添加する、と言った方法で過飽和状態を実現できる。ただし、過飽和状態からの薬剤結晶の析出は容易に進行するので、過飽和状態での実験作業は数時間以内に限られるのが一般的である。しかしながら、析出のメカニズムの研究が進むにつれ、過飽和技術も進歩して工業化に耐えうるようになってきたので、長時間に及ぶ実験作業も現実味を帯びてきている。すなわち、析出のメカニズムとしては、溶液中で析出が起こるバルク析出機構(bulk precipitation mechanism: BPM)と固体表面で析出が起こる表面析出機構(surface precipitation mechanism: SPM)の2種類が提唱されており、内包対象薬剤(D)がどちらに属するかを判別して、適切な過飽和化を実現できるようになってきている。実際に、結晶化の刺激となる埃などの要因を排除すれば、実験作業は半日以上問題ないケースもある。
本発明のリポソーム、典型的には以下に説明するような本発明の製造方法により得られるリポソームは、非結晶性の脂質成分(FN)が添加されている水相液(W2)を外水相とするものであり、非結晶性の脂質成分(FN)が添加されていない水相液(W2)を外水相とするものに比べてW/O/Wエマルション形成をより円滑に進めることができる。
本発明のリポソームの製造方法は、少なくとも下記工程(1)〜(4)を含み、必要に応じてその他の工程をさらに含むことができるものである。そして、これらの工程を得ることで、平均粒径50nm以上200nm以下の単胞リポソームが得られるのである。
一次乳化工程は、脂質成分(F1)を揮発性の炭化水素系有機溶媒(o)に溶解または分散した油相液(O)と、内包対象薬剤(D)を水性溶媒(w1)に溶解して得られる水相液(W1)とを混合乳化することによりW1/Oエマルションを調製する工程である。
二次乳化工程は、上記一次乳化工程(1)により得られたW1/Oエマルションと、非結晶性の脂質成分(FN)を添加した水相液(W2)とを混合乳化することによりW1/O/W2エマルションを調製する工程である。本発明では、水相液(W2)中に非結晶性の脂質成分(FN)が添加されているので、結晶状態の脂質成分が添加されている場合と比べて、リポソームに内包される内包対象薬剤(D)の内包率が向上する利点がある。これは、脂質の配列速度が向上し、目的の構造体が早く得られるため、配列途中の構造体が崩壊する速度に勝っていることが要因と考察できる。
上記式(e1)において、rは攪拌子の半径[m],L'はW1/Oエマルションの粒径[nm],nは攪拌子の毎分回転数[rpm]を表す。
τ (せん断力) = μ (粘度) x v(速度)/ L (長さ) (e2)
および以下に示すいくつかの仮説に基づいて考案し、実験により確からしさを検証したものである。
液滴が直径17.8μmで生成していることからSugiuraらの系での界面張力は、2.5×102 [Pa]と算出される。
流体に働く力として界面張力が支配的なマイクロチャネルの乳化条件と、せん断力が支配的な撹拌の乳化条件を同列の扱うことには無理があり、次の仮説を数学的に検証することは困難ではあるが、最終的には実験的な検証から式(e1)の妥当性が判明した。その仮説とは、この界面張力を同等の力を、攪拌におけるせん断力として与えることにより同様のちぎれ現象が起こるとの仮定である。すなわち、せん断力をτ=2.5×102 [Pa]と仮定し、粘度μについて、水とヘキサンの中間の値としてμ=0.0005(=0.5×10-3) [PaS]と仮定し、LがW1/Oエマルション粒径の10倍であると仮定すると、上記式(e2)は、攪拌子の半径r[m],W1/Oエマルションの粒径L'[nm],攪拌子の毎分回転数n[rpm]を用いて、
2.5×102 = 0.0005×(2π×r×n/60)/(10×L'×10 -9 ) (e2’)
と表すことができる。ここで、LをW1/Oエマルションの10倍と仮定したのは、W1/Oエマルション粒径の10倍程度の粒径を有する粒子をせん断する力であれば、W1/Oエマルションはせん断されないと推定したからである。
r×n/L' = (2.5×102)×(10×10 -9 )/(0.0005×2π)×60 ≒ 0.0478
と算出される。
0.0478×0.5 <r×n/L' < 0.0478×3
すなわち、
0.02385 <r×n/L' < 0.1431 (e1)
と導き出される。
さらに、小型観賞用水槽のエアレーション装置や工業用スプレードライ装置等、粘度の低い流体では攪拌子を使わずに、槽の流体や外気を槽外に設置したポンプで加圧して槽内にいきよい良く吹き込むことで槽内を攪拌する装置も存在する。また、ミルと呼ばれる粉砕機としてハンマーミル、ピンミル、オングミル、コボルミル、アスペックミル、ボールミル、ジェットミル、ロールミル、コロイドミル、ディスパーミルなどがあるが、これらは、圧縮力・圧搾力・膨張力・せん断力・衝撃力・キャビテーション力などの機械的な力の作用により流体を混合するものである。したがって、本発明においては、攪拌子による攪拌の代わりに、これらの装置を用いて攪拌を行っても良い。さらに、こうした機械的な方法以外にも、電気的な撹拌方法を使用することもできる。
上記非イオン性界面活性剤としては、オクチルグルコシド等のアルキルグリコシド、ポリアルキレンオキサイド系の化合物、たとえば「Tween 80」(東京化成工業株式会社,ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート,分子量1309.68)や「プルロニック F-68」(BASF、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール、数平均分子量9600)の製品や、重量平均分子量が1000〜100000のポリエチレングリコール類などが挙げられる。ポリエチレングリコール(PEG)類は、製品として「ユニルーブ」(日油株式会社)、GL4-400NP、GL4-800NP(日油株式会社)、PEG200,000(和光純薬)、マクロゴール(三洋化成工業株式会社)などが挙げられる。
溶媒除去工程は、上記二次乳化工程(2)を経て得られたW1/O/W2エマルションから有機溶媒、具体的には揮発性の炭化水素系有機溶媒(o)(以下、単に「有機溶媒(o)」と称する場合がある。)を除去することによりリポソーム分散液を調製する工程である。これにより、脂質成分(F1)(および必要に応じて添加される(F2))からなる脂質膜を内水相の周囲に形成し、リポソームを得ることができる。有機溶媒の除去の進行につれて、リポソームを構成する脂質の水和が進み、多胞リポソームが解けて単胞のリポソーム状態にばらけるか、またはW1/O/W2エマルションの界面に近い位置から単胞のリポソームがちぎれて形成されるものと考えられる。
溶媒除去は、W1/O/W2エマルションを開放容器内に静置したままでも行うことができるが、撹拌すればより均一に溶媒除去が進み、気液界面が広がることで溶媒除去にかかる時間も短縮される。二次乳化工程(2)において撹拌乳化法によりW1/O/W2エマルションを調製した場合は、その後さらに撹拌を継続して溶媒を除去するといったように、二次乳化工程(2)と溶媒除去工程(3)とを連続的に行うことも可能である。
水相置換工程は、上記溶媒除去工程(3)を経て得られたリポソーム分散液から水相液(W2)を除去し、水相液(W3)を添加して、リポソーム製剤を調製する工程である。この水相置換工程は、水相液(W2)に含まれることがある乳化剤(R)を除去することを主な目的としている。ただ、本発明では、この水相置換工程において、除去する水相液(W2)の量よりも、添加する水相液(W3)の量を少なくする場合がある。そのような場合、この水相置換工程は、実質的に濃縮工程としての性格をも有する。
上記工程(1)〜(4)のほか、本発明において必要に応じて行われるその他の工程としては、たとえば分離工程、整粒工程や乾燥粉末化工程が挙げられる。
W1/Oエマルションはヘキサン/ジクロロメタン混合有機溶媒(体積比:1/1)で10倍に希釈した後、一方リポソーム分散液はそのまま、動的光散乱式ナノトラック粒度分析計(UPA−EX150、日機装株式会社)を用いて粒度分布を測定した。その結果に基づき、W1/Oエマルションまたはリポソームの体積平均粒径を算出した。
各実施例および比較例において、W1に溶解している水溶性薬剤(シタラビン、siRNA)を以下のように定量した。すなわち、一次乳化工程で得られたW1/OエマルジョンにおいてW1に溶解している薬剤、二次乳化工程で得られたW1/O/W2エマルジョンにおいてW1に溶解している薬剤、および溶媒除去工程で得られたリポソームの内水相W1に溶解している薬剤は、超遠心装置を用いてO相と分離されたW1相、W2相と分離されたW1/Oエマルジョン、および外水相(上澄)と分離されたリポソーム(固形分)をそれぞれ分析してその量を決定した。
以下の比較例1−1,1−2および1−3並びに実施例1−1および参考例1−2により、非結晶性の脂質成分(FN)が添加された水相液を水相液(W2)として用いる効果について検討した。ここで、参考例1−2においては、非結晶性の脂質成分としてフィルム状脂質を用いている。
本比較例では、非結晶性の脂質成分(FN)を用いることなく、脂質成分(F1)を用いてリポソームの製造を行った。
ホスファチジルコリン(DPPC, 日油株式会社)0.3g、コレステロール(Chol, 日油株式会社)0.152gおよびオレイン酸(OA)0.108gを含むヘキサン15mLを油相液(O)とし、シタラビン(0.4mM:分子量243.22)を含むトリス−塩酸緩衝液(pH8、50mmol/L)5mLを内水相用の水相液(W1)とした。50mLのビーカーにこれらの混合液を入れ、直径20mmのプローブをセットした超音波分散装置(UH−600S、株式会社エスエムテー)により、25℃にて15分間超音波を照射し(出力5.5)、乳化処理を行った。上記方法に従って測定したところ、この一次乳化工程で得られたW1/Oエマルションは体積平均粒径約168nmの単分散W1/Oエマルションであることが確認された。このW1/Oエマルションにおけるシタラビンの内包率は55%であった。
続いて、半径16mmの攪拌子を用いたマグネチックスターラーにより、0.1%プルロニックを含むトリス−塩酸緩衝液(pH8、50mmol/L)である水相液(W2)を強く撹拌しているところに(回転数1000rpm)、上記一次乳化工程により得られたW1/Oエマルションの一部を供給し、W1/OとW2の容積比が1:3となる比率で混合撹拌してW1/O/W2エマルションを製造した。その結果、微細で粒度分布が正規分布を示すリポソーム粒子の分散液が得られ、この粒子内にはシタラビンが含まれていることが確認された。このW1/O/W2エマルションにおけるシタラビンの内包率は48%であった。
次に、上記W1/O/W2エマルションを蓋のない開放ガラス製容器に移し替え、室温下で約20時間、攪拌子により撹拌し、ヘキサンを揮発させた。溶媒除去後のシタラビンの内包率は46%であった。
得られたリポソーム溶液を超遠心分離に付し、上澄みの水相液(W2)を除去しながら、水相液(W3)としてトリス−塩酸緩衝液(pH8、50mmol/L)を添加して、水相液(W2)に含まれるシタラビンを排除した。最終的に内水相用の水相液(W1)5mLの倍の体積である、10 mLのリポソーム製剤を調製した。得られたリポソーム製剤におけるリポソームの体積平均粒径は、165nmであった。
本比較例では、非結晶性の脂質成分(FN)を用いることなく、脂質成分(F1)および脂質成分(F2)を用いてリポソーム製剤の調製を行った。
外水相用の水相液(W2)として、上記ホスファチジルコリンおよび上記コレステロールの添加量をそれぞれ半量の0.15gおよび0.075gをさらに添加したものを用いたことを除いて、上記比較例1−1で行った方法と同じ条件を用いて、一次乳化工程によるW1/Oエマルションの製造、二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造、溶媒除去工程によるリポソームの製造、および、水相置換工程によるリポソーム製剤の調製の各工程を行うことにより、リポソーム製剤を調製した。得られたリポソーム製剤におけるリポソームの体積平均粒径は、169nmであった。
本実施例では、脂質成分(F2)に代えて非結晶性の脂質成分(FN)を用いるとともに、脂質成分(F1)も用いてリポソーム製剤の調製を行った。
外水相用の水相液(W2)として、特開平2−167218号公報記載の方法に従ってホスファチジルコリンおよびコレステロールがそれぞれ0.15gおよび0.075g含まれるように調製された多孔質状の脂質をさらに添加したものを用いたことを除いて、上記比較例1−1で行った方法と同じ条件を用いて、一次乳化工程によるW1/Oエマルションの製造、二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造、溶媒除去工程によるリポソームの製造、および、水相置換工程によるリポソーム製剤の調製の各工程を行うことにより、リポソーム製剤を調製した。得られたリポソーム製剤におけるリポソームの体積平均粒径は、154nmであった。
なお、実施例1−1および比較例1−1における二次乳化工程を撹拌乳化に代えてSPG膜乳化で実施した場合にも同様の結果が得られた。
本参考例では、非結晶性の脂質成分(FN)として、多孔質状の脂質に代えてフィルム状脂質を用いてリポソームの製造を行った。ここで、本参考例では、シタラビンに代えてsiRNAを内包対象薬剤として用いている。
siRNA(ランダム配列:分子量13000)10mgを等張PBS溶液0.25mL溶解させて内水相用の水相液(W1)とし、DPPC(ジパルミトイルホスファチジルコリン、「MC-6060」、日油株式会社)50mg、およびDPPG(ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、「COATSOME MG-6060LA」、日油株式会社)10mgを含むヘキサン1.25mLを油相液(O)とした。3.5mLのサンプル瓶にこれらの混合液を入れ、φ7mmのプローブをセットした超音波分散装置(UH−600S、株式会社エスエムテー)により、20℃にて15分間超音波を照射し乳化処理を行うことにより、W1/Oエマルションを得た。この一次乳化工程で得られたW1/Oエマルションは体積平均粒径約102nmの単分散W1/Oエマルションであることが確認された。このW1/OエマルションにおけるsiRNAの内包率は67%であった。
あらかじめDPPCおよびDPPGがそれぞれ25 mgおよび5 mg含まれるように調製しておいたフィルム状脂質および0.1%のプルロニックF68を含む等張PBS溶液を水相液(W2)として用いた。この水相液(W2)15mL中に、上記一次乳化工程によって得られたW1/Oエマルションを供給しながら、半径16mm(すなわち、0.016m)の攪拌子を用いて回転数1000rpmで15分間撹拌して、W1/O/W2エマルションを製造した。このW1/O/W2エマルションにおけるsiRNAの内包率は67%であった。
得られたW1/O/W2エマルションを密閉容器に移し替え、20℃・500mbarの減圧条件下で約8時間攪拌し、次いで20℃・180mbarの減圧条件下で約8時間撹拌し、段階的に溶媒を揮発させた。得られたリポソーム分散液は半透明の黄色であり、この粒子内にはsiRNAが含まれていることが確認された。リポソームのsiRNAの内包率は66%であった。
得られたリポソーム溶液を超遠心分離に付し、上澄みの水相液(W2)を除去しながら、水相液(W3)として等張PBS溶液を添加した。最終的に内水相用の水相液(W1)0.25mLの4倍の体積である、1.0mLのリポソーム製剤を調製した。得られたリポソーム製剤におけるリポソームの体積平均粒径は、110nmであった。
本比較例では、上記参考例1−2に対応する比較例として、非結晶性の脂質成分(FN)を用いることなく、脂質成分(F1)のみを脂質成分として用いてリポソームの製造を行った。
以上の実施例1−1及び比較例1−1の結果から、添加したが未溶解状態であったホスファチジルコリン(DPPC, 日油株式会社)およびコレステロール(Chol)は、膜形成に関与していないことが推測され、混合した脂質成分の比率どおりに膜構成脂質の比率が形成されていない可能性が高いことが示唆される。
上記実施例1−1及び、下記に示す実施例2から4−2および比較例2−1から3−2により、攪拌乳化における攪拌子の半径と回転数による二次乳化への効果について検討した。
本実施例では、一次乳化の内水相用の水相液(W1)および外水相用の水相液(W2)のそれぞれに非結晶性の脂質成分(FN)を添加して、リポソーム製剤の調製を行った。
実施例3−1〜3−2,および比較例3−1〜3−2については、二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造において、攪拌子の半径および攪拌時の回転数を表1に示す値としたこと、および、製造容器を相似形として適宜製造スケールを上下させたことを除き、上記実施例1−1と同様の反応条件でリポソーム製剤を調製した。
実施例4−1〜4−2,および比較例2−1〜2−2については、二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造において、攪拌子の半径および攪拌時の回転数を表1に示す値としたこと、および、製造容器を相似形として適宜製造スケールを上下させたことを除き、上記実施例2と同様の反応条件でリポソーム製剤を調製した。
以下の実施例5−1及び5−2として、脂質成分(F)に対する内包対象薬剤(D)の重量比(D/F)が0.5以上のリポソーム製剤の製造を行った。ここで、実施例5−2は、水相液(W1)として、内包対象薬剤(D)を過飽和状態で溶解させたものを用いた場合に該当する。
(一次乳化工程によるW1/Oエマルションの製造)
siRNA(ランダム配列)40mgを等張PBS溶液0.125mL溶解させて内水相(W1)とし、DPPC(ジパルミトイルホスファチジルコリン、「MC-6060」、日油株式会社)25mg、およびDPPG(ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、「COATSOME MG-6060LA」、日油株式会社)5mgを含むヘキサン1.25mLを有機溶媒相(O)とした。3.5mLのサンプル瓶にこれらの混合液を入れ、φ7mmのプローブをセットした超音波分散装置(UH−600S、株式会社エスエムテー)により、20℃にて15分間超音波を照射し乳化処理を行うことにより、W1/Oエマルションを得た。この一次乳化工程で得られたW1/Oエマルションは体積平均粒径約131nmの単分散W/Oエマルションであることが確認された。このW1/OエマルションにおけるsiRNAの内包率は71%であった。
あらかじめDPPCおよびDPPGがそれぞれ12.5 mgおよび2.5 mg含まれるように調製しておいた多孔質脂質(日本精化社製)および0.1%のプルロニックF68を含む等張PBS溶液を水相液(W2)として用いた。この水相液(W2)15mL中に、上記一次乳化工程によって得られたW1/Oエマルションを供給しながら、半径16mm(すなわち、0.016m)の攪拌子を用いて回転数1000rpmで室温下15分間撹拌して、W1/O/W2エマルションを製造した。このW1/O/W2エマルションにおけるsiRNAの内包率は71%であった。
得られたW1/O/W2エマルションを密閉容器に移し替え、20℃・500mbarの減圧条件下で約8時間攪拌し、次いで20℃・180mbarの減圧条件下で約8時間撹拌し、段階的に溶媒を揮発させた。得られたリポソーム分散液は半透明の黄色であり、この粒子内にはsiRNAが含まれていることが確認された。リポソームのsiRNAの内包率は70%であった。
得られたリポソーム溶液を室温下超遠心分離に付し、上澄みの水相液(W2)を除去しながら、水相液(W3)として等張PBS溶液を添加した。最終的に内水相用の水相液(W1)0.125mLの4倍の体積である、1.0mLのリポソーム製剤を調製した。得られたリポソーム製剤におけるリポソームの体積平均粒径は、133nmであった。
(一次乳化工程によるW1/Oエマルションの製造)
シタラビン(1000mM)の等張PBS溶液0.25mLを内水相(W1)とし、DPPC(ジパルミトイルホスファチジルコリン、「MC-6060」、日油株式会社)25mg、コレステロール(Chol, 日油株式会社)7.3mgおよびDSPE-PEG2000(ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール、日油株式会社)11mgを含むヘキサン1.25mLを有機溶媒相(O)とした。3.5mLのサンプル瓶にこれらの混合液を入れ、φ7mmのプローブをセットした超音波分散装置(UH−600S、株式会社エスエムテー)により、20℃にて15分間超音波を照射し乳化処理を行うことにより、W1/Oエマルションを得た。この一次乳化工程で得られたW1/Oエマルションは体積平均粒径約112nmの単分散W/Oエマルションであることが確認された。このW1/Oエマルションにおけるシタラビンの内包率は58%であった。
あらかじめDPPCおよびコレステロールがそれぞれ12.5mgおよび3.7mg含まれるように調製しておいた多孔質脂質および0.1%のプルロニックF68を含む等張PBS溶液を水相液(W2)として用いた。この水相液(W2)15mL中に、上記一次乳化工程によって得られたW1/Oエマルションを供給しながら、半径16mm(すなわち、0.016m)の攪拌子を用いて回転数1000rpmで15分間撹拌して、W1/O/W2エマルションを製造した。このW1/O/W2エマルションにおけるシタラビンの内包率は58%であった。
得られたW1/O/W2エマルションを密閉容器に移し替え、20℃・500mbarの減圧条件下で約8時間攪拌し、次いで20℃・180mbarの減圧条件下で約8時間撹拌し、段階的に溶媒を揮発させた。得られたリポソーム分散液は半透明の黄色であり、この粒子内にはシタラビンが含まれていることが確認された。リポソームのシタラビンの内包率は55%であった。
得られたリポソーム溶液を超遠心分離に付し、上澄みの水相液(W2)を除去しながら、水相液(W3)として等張PBS溶液を添加した。最終的に内水相用の水相液(W1)0.25mLの4倍の体積である、1.0mLのリポソーム製剤を調製した。得られたリポソーム製剤におけるリポソームの体積平均粒径は、103nmであった。
一次乳化工程、二次乳化工程、溶媒除去工程および水相置換工程の全てを低温で行うことができるかどうかを確認するため、上記実施例5−1に示した製造方法を低温で実施した。
その結果、上記実施例5−1と同等の結果を得ることができた。
プルロニックF68以外の乳化剤を用いることができるかどうかを確認するため、上記実施例5−2の二次乳化工程においてプルロニックF68(分子量9600)を添加する代わりに、ゼラチン(新田ゼラチン、コラーゲンペプチド2000、分子量2000)を0.5%濃度で添加したことを除き、実施例5−2に示した通りの製造方法を実施した。
その結果、上記実施例5−2と同等の結果を得ることができた。
プルロニックF68以外の乳化剤を用いることができるかどうかを確認するもう一つの実施例として、上記実施例5−2の二次乳化工程においてプルロニックF68(分子量9600)を添加する代わりに、デキストラン60000(和光純薬、分子量60000)を3%濃度で添加したことを除き、実施例5−2に示した通りの製造方法を実施した。
その結果、上記実施例5−2と同等の結果を得ることができた。
Claims (9)
- 下記工程(1)〜(4)を含む、体積平均粒径50nm以上200nm以下の単胞リポソームを製造する方法:
(1)脂質成分(F1)を揮発性の炭化水素系有機溶媒(o)に溶解または分散した揮発性の油相液(O)と、内包対象薬剤(D)を水性溶媒(w1)に溶解して得られる水相液(W1)とを混合乳化することによりW1/Oエマルションを調製する一次乳化工程;
(2)上記工程(1)を経て得られたW1/Oエマルションと、非結晶性の脂質成分(FN)を添加した水相液(W2)とを混合乳化することによりW1/O/W2エマルションを調製する二次乳化工程;
(3)上記工程(2)を経て得られたW1/O/W2エマルションから炭化水素系有機溶媒(o)を除去することによりリポソーム分散液を調製する溶媒除去工程;
(4)上記工程(3)を経て得られたリポソーム分散液から水相液(W2)を除去し、水相液(W3)を添加して、リポソーム製剤を調製する水相置換工程;
ここで、
前記揮発性の炭化水素系有機溶媒(o)は、4℃以上100℃未満の沸点を有しており、
前記工程(2)における二次乳化は、下記式(e1)の条件を満たす撹拌乳化により実施される:
0.02385 <r×n/L' < 0.1431 (e1)
上記式(e1)において、rは攪拌子の半径[m],L'はW1/Oエマルションの粒径[nm],nは攪拌子の毎分回転数[rpm]を表す。 - 前記工程(1)において脂質成分(F1)の代わりに非結晶性の脂質成分(FN)を用いるか、あるいは、前記工程(2)において非結晶性の脂質成分(FN)を添加した水相液(W2)と混合乳化する前にW1/Oエマルションに非結晶性の脂質成分(FN)を添加する、請求項1記載の方法。
- 前記内包対象薬剤(D)が核酸である請求項1または2に記載の方法。
- 前記工程(4)を経て得られるリポソーム製剤が、リポソームを構成する脂質成分(F)に対する該内包対象薬剤(D)の重量比(D/F)が0.05以上であるものである、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
- 前記リポソーム製剤における前記重量比(D/F)が0.5以上である請求項4記載の方法。
- 前記工程(1)において、水性溶媒(w1)に上記内包対象薬剤(D)が過飽和状態で溶解した水相液(W1)を用いる、請求項4または5に記載の方法。
- 前記工程(2)において、乳化剤(R)が溶解した水相液(W2)を用いる、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
- 前記工程(1)〜(4)のすべての工程を5−10℃の範囲の温度で実施する、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
- 前記工程(1)における混合乳化をパルス超音波で実施する、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
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