[第1実施形態]
[ガスバリア性積層フィルムの評価方法]
以下、図1〜図3を参照しながら、本発明の第1実施形態に係るガスバリア性積層フィルムの検査方法について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてある。
図1から図3は、本実施形態のガスバリア性積層フィルムの検査方法に係る説明図であり、図1は概略斜視図、図2は図1の線分A−Aにおける矢視断面図であり、図3は概略工程図である。
図1に示すように、本実施形態のガスバリア性積層フィルムの検査方法では、測定用光源21と検出器22とにY型分岐ファイバー14を介して接続された光ファイバー10を有する測定装置100を用い、ガスバリア膜3の屈折率を測定することで、ガスバリア膜3の欠陥部分を検出する。以下、詳細に説明する。
ガスバリア性積層フィルム1は、長尺の基材2と、当該基材2の一面に形成されたガスバリア膜3とを含んで構成されている。本実施形態のガスバリア性積層フィルムの検査方法では、光ファイバー10の先端部を、ガスバリア性積層フィルム1のガスバリア膜3が形成された面に向けて、ガスバリア膜3の屈折率を測定する。ガスバリア性積層フィルム1の構成については、後に詳述する。
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、ガスバリア膜3の水蒸気透過度(ガス透過度)と、ガスバリア膜3の屈折率との間に一定の対応関係があるという事実を見出した。そして、ガスバリア膜3の屈折率を測定し、当該屈折率の測定値と、予め測定したガスバリア膜3の水蒸気透過度とガスバリア膜3の屈折率との関係とから、ガスバリア膜3のガスバリア性を判定するという本発明を完成させた。
すなわち、本発明のガスバリア性積層フィルムの検査方法においては、予め、ガスバリア膜3の水蒸気透過度とガスバリア膜3の屈折率とを測定し、ガスバリア膜3の水蒸気透過度とガスバリア膜3の屈折率との関係を求めておくことにより、その後に、ガスバリア膜3の屈折率を測定するだけで、当該屈折率の測定値と予め求めておいた前記関係とから、ガスバリア膜3のガスバリア性を判定することが可能となる。
先ず、予め、ガスバリア膜3の水蒸気透過度およびガスバリア膜3の屈折率を測定する。例えば、ガスバリア膜3の水蒸気透過度の測定装置は、水蒸気透過度測定機(GTRテック社製、機種名「GTRテック−3000」)を用いることができる。ガスバリア膜3の屈折率の測定装置は、反射分光膜厚計(大塚電子社製、機種名「FE−3000」)を用いることができる。なお、ガスバリア膜3の屈折率の測定装置は、これに限らず、分光エリプソメーターを用いることもできる。
次いで、ガスバリア膜3の水蒸気透過度とガスバリア膜3の屈折率との関係を求める。当該関係は、例えば、ガスバリア膜3の屈折率をガスバリア膜3上で複数個所測定し、次いで、当該複数個所でガスバリア膜3の水蒸気透過度を測定し、測定した各屈折率に対応する各水蒸気透過度を、横軸を屈折率、縦軸を水蒸気透過度としたグラフにプロットすることにより求めることができる。
そして、ガスバリア膜3の屈折率を測定する。以下、本実施形態に係るガスバリア膜3の屈折率の測定方法について説明する。
図1に示すように、光ファイバー10は、基端部がファイバーホルダ11に取り付けられている。ファイバーホルダ11は、トラバースユニット12に設けられたガイドレール上に配設されている。トラバースユニット12は、長尺の基材2の延在方向と直交する方向に長手を有しており、基材2を挟んで対向するL字状の支柱13に固定されている。ファイバーホルダ11は、図示しない駆動モーターによってガイドレール上をその延在方向に摺動する。すなわち、光ファイバー10は、ファイバーホルダ11の摺動に従って、長尺の基材2の延在と直交する方向に移動可能に構成されている。このような状態で、測定装置100を用い、ガスバリア膜3の屈折率を測定する。
この際、ガスバリア性積層フィルム1を自身の長手方向に搬送することにより、光ファイバー10はトラバースユニット12のガイドレールに沿って移動してガスバリア性積層フィルム1上を走査し、複数個所においてガスバリア膜3の屈折率を測定する。
なお、ガスバリア膜3の屈折率を測定する際の光ファイバー10から射出する光の波長は、予めガスバリア膜3の屈折率を測定する際の光ファイバー10から射出する光の波長と合わせる。例えば、予めガスバリア膜3の屈折率を測定する際に光ファイバー10から射出する光の波長を750nm程度とし、実際にガスバリア膜3の屈折率を測定する際に光ファイバーから射出する光の波長についても750nm程度とする。なお、光ファイバーから射出する光の波長は750nmに限らず、750nm以下や750nm以上に適宜設定することができる。このように光ファイバーから射出する光の波長を変えたとしても、ガスバリア膜3の水蒸気透過度と、ガスバリア膜3の屈折率との間には、上述した一定の対応関係が存在する。
図2に示すように、ガスバリア膜3に成膜不良部分(欠陥部分3x)が存在すると、欠陥部分3xの屈折率は、欠陥部分3xが存在しない部分の屈折率と異なる値を示す。すなわち、測定装置100では、ガスバリア膜3の屈折率を測定するところ、欠陥部分3xではガスバリア膜3の密度が欠陥部分3xとは異なる部分での密度と異なるため、屈折率が異なる値を示す。
例えば、ガスバリア膜3の成膜時に、パーティクル(ガスバリア膜の形成材料により生成された粒子)が飛散して成膜面に付着し、当該パーティクルを取り込んでしまい欠陥部分3xをなしているような場合、当該欠陥部分3xの密度が小さくなり、欠陥部分3xで測定される屈折率の値は、他の位置で測定される屈折率の値よりも小さくなると考えられる。また、欠陥部分3xがピンホールである場合、当該欠陥部分3xに空気層が介在することとなり、欠陥部分3xで測定される屈折率の値は、他の位置で測定される屈折率の値よりも小さくなると考えられる。
そして、ガスバリア膜3の屈折率の測定値と、予め求めた前記関係とから、ガスバリア膜3のガスバリア性を判定する。当該判定は、ガスバリア膜3の屈折率の測定値と、予め設定したガスバリア膜3の屈折率のしきい値とを比較し、当該比較結果に基づいてガスバリア膜3のガスバリア性を判定する。例えば、ガスバリア膜3の屈折率の測定値が、前記しきい値未満であるときはガスバリア膜3のガスバリア性が異常であると判定し、前記しきい値以上であるときはガスバリア膜3のガスバリア性が正常であると判定する。したがって、測定装置100による測定値を用いて、ガスバリア膜3に欠陥部分3xが存在するか否かを判断することができる。
ガスバリア膜3の屈折率の測定は、例えば、光の干渉効果による膜厚解析により行うことができる。光の干渉効果を利用した方法には、ピークバレー法(PV法)がある。PV法の原理は、膜の表面で反射した光と膜の裏面で反射した光が互いに干渉し、光の位相が一致すると強度が強まり、光の位相がずれると強度が弱まるという性質を利用している。以下、PV法を用いたガスバリア膜3の屈折率の測定方法について説明する。
図3(a)に示すように、光ファイバー10により、基材2上へのガスバリア膜3に向けて第1の光L1を射出する。この際、第1の光L1の波長を所定の波長範囲内で変化させる。なお、第1の光L1の伝達速度の大きさは、ガスバリア膜3に入射する前に比べてガスバリア膜3に入射した後のほうが小さくなる。
図3(b)に示すように、第1の光L1の一部の第2の光L2は、ガスバリア膜3の表面3aで反射される。なお、ガスバリア膜3の表面3aで反射された第2の光L2の伝達速度の大きさは、ガスバリア膜3に入射する前の第1の光L1の伝達速度の大きさと略同じ大きさである。
一方、第1の光L1の残りの一部の第3の光L3は、図3(c)に示すように、ガスバリア膜3を透過し、ガスバリア膜3の裏面3b(基材2の表面)で反射される。なお、ガスバリア膜3の裏面3bで反射された第3の光L3のガスバリア膜3の膜中における伝達速度の大きさは、ガスバリア膜3に入射した後の第1の光L1の伝達速度の大きさと略同じ大きさである。
そして、第2の光L2と第3の光L3とを干渉させる。干渉光のスペクトルは、第1の光L1の波長の変化に伴い、強度が変化する波打った形状となる。干渉光のスペクトルの波長のピーク波長(極大値)とバレー波長(極小値)とからガスバリア膜3の膜厚dを求める。
各波長での干渉光の強度は、第2の光L2が反射されるガスバリア膜3の表面3aと第3の光L3が反射されるガスバリア膜3の裏面3bとの距離によって決まる。すなわち、各波長での干渉光の強度が分かれば、ガスバリア膜3の膜厚dを求めることができる。例えば、干渉光を図示しない分光器で波長ごとに分光しCCDに結像させることで波長の強度分布が得られ、それを解析することでガスバリア膜3の膜厚dを求める。
また、第3の光L3は、ガスバリア膜3を2回通過することとなる。そのため、ガスバリア膜3の屈折率をn、ガスバリア膜3の膜厚をdとすると、第2の光L2の光路長と第3の光L3の光路長との光路差が2ndだけ生じる。
このように光の干渉効果を利用することにより、ガスバリア膜3の膜厚dと、前記光路差とに基づいて、ガスバリア膜3の屈折率nを測定することができる。
なお、ガスバリア膜3の屈折率の測定は、複素屈折率の解析、分光エリプソ法により行うこともできる。
以上のようなガスバリア性積層フィルムの検査方法によれば、従来用いられるJISのガスクロマト法、カルシウム法と比べ、極めて早く評価結果を得ることができる。そのため、例えば製造したガスバリア性積層フィルムの品質評価に適用した場合、短時間のうちに高精度にガスバリア性を評価することが可能となり、出荷可否を判断するための品質確認に要する時間を短くすることができる。
また、本実施形態においては、マーカー部を作製するために新たな工程を加える必要が無い。そのため、マーカー部を有する機能素子を用いた方法に比べて、生産性が向上し、生産コストを低減させることができる。さらに、検査方法の過程で基材に対してダメージが与えることもない。
なお、本実施形態においては、ガスバリア性積層フィルム1を搬送することにより、光ファイバー10を走査してガスバリア膜3の屈折率を測定することとして説明したが、光ファイバー10に対してガスバリア性積層フィルム1が相対的に移動するならばこれに限らない。すなわち、ガスバリア性積層フィルム1を固定しておき、当該ガスバリア性積層フィルム1の面内を移動可能な光ファイバーを用いて、ガスバリア膜3の屈折率を測定することとしても構わない。
[第2実施形態]
図4は、本発明の第2実施形態に係るガスバリア性積層フィルムの検査方法の説明図である。本実施形態のガスバリア性積層フィルムの検査方法は、第1実施形態のガスバリア性積層フィルムの検査方法と一部共通しているため、本実施形態において第1実施形態と共通する構成要素については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
図4に示すように、本実施形態のガスバリア性積層フィルムの検査方法では、測定用光源21と検出器22とにY型分岐ファイバー14を介して接続された複数の光ファイバー10を有する測定装置200を用い、ガスバリア膜3の屈折率を測定することで、ガスバリア膜3の欠陥部分を検出する。
複数の光ファイバー10は、長尺の基材2の延在方向(ガスバリア性積層フィルム1の搬送方向)と直交する方向に配列されている。複数の光ファイバー10は、基端部がそれぞれY型分岐ファイバー14に取り付けられている。各Y型分岐ファイバー14の一端は、測定用光源21の側の連結ユニット16に接続されており、一本のファイバーを介して測定用光源21に接続されている。各Y型分岐ファイバー14の他端は、多分岐ファイバーユニット15を介して検出器22の側の連結ユニット17に接続されており、一本のファイバーを介して検出器22に接続されている。
すなわち、第1実施形態の測定装置100では1つの光ファイバー10を走査することでガスバリア膜3の屈折率をガスバリア膜3上で複数個所測定していたが、本実施形態の測定装置200では複数の光ファイバー10を長尺の基材2の延在方向(ガスバリア性積層フィルム1の搬送方向)と直交する方向に配列することによりガスバリア膜3の屈折率をガスバリア膜3上で複数個所測定する構成となっている。
以上のようなガスバリア性積層フィルムの検査方法であっても、短時間のうちに高精度にガスバリア性を評価することが可能となり、出荷可否を判断するための品質確認に要する時間を短くすることが可能となる。
[ガスバリア性積層フィルムの製造方法]
図5から図8は、上述のガスバリア性積層フィルムの検査方法を用いたガスバリア性積層フィルムの製造方法を説明する説明図である。以下の説明においては、まず、ガスバリア性積層フィルムについて説明した後、上述のガスバリア膜を形成する成膜装置の説明を行うことにより、本実施形態のガスバリア性積層フィルムの製造方法について説明する
図5は、ガスバリア性積層フィルム1を示す模式図である。図5に示すように、ガスバリア性積層フィルム1は、基材2上にガスバリア膜3が形成されている。
基材2としては、樹脂または樹脂を含む複合材料からなるフィルムまたはシートが好適に用いられる。このような樹脂フィルムまたはシートは、透光性を有していてもよく、また、不透明であってもよい。
基材2を構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル樹脂;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、環状ポリオレフィン等のポリオレフィン樹脂;ポリアミド樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリスチレン樹脂;ポリビニルアルコール樹脂;エチレン−酢酸ビニル共重合体のケン化物;ポリアクリロニトリル樹脂;アセタール樹脂;ポリイミド樹脂;ポリエーテルサルファイド(PES)が挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を組み合わせて用いることもできる。透明性、耐熱性、線膨張性等の必要な特性に合わせて、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂から選ばれることが好ましく、PET、PEN、環状ポリオレフィンがより好ましい。また、樹脂を含む複合材料としては、ポリジメチルシロキサン、ポリシルセスキオキサンなどのシリコーン樹脂、ガラスコンポジット基板、ガラスエポキシ基板などが挙げられる。これらの樹脂の中でも、耐熱性及び線膨張率が高いという観点から、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ガラスコンポジット基板、ガラスエポキシ基板が好ましい。また、これらの樹脂は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
基材2の厚みは、基材2を製造する際の安定性等を考慮して適宜設定されるが、真空中においても基材2の搬送が容易であることから、5μm〜500μmであることが好ましい。さらに、本実施形態で採用するガスバリア膜の形成では、後述するように基材2を通して放電を行うことから、基材2の厚みは50μm〜200μmであることがより好ましく、50μm〜100μmであることが特に好ましい。
なお、基材2は、形成するガスバリア膜との密着性の観点から、その表面を清浄するための表面活性処理を施してもよい。このような表面活性処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理が挙げられる。
ガスバリア膜3は、以下に説明するプラズマCVD成膜装置を用い、有機ケイ素化合物と酸素とのプラズマ反応にて形成されるものである。図5では、完全酸化反応によって形成されるSiO2を多く含む第1層3A、不完全酸化反応によって生じるSiOxCyを多く含む第2層3B、で示し、ガスバリア膜3を第1層3Aと第2層3Bとが交互に積層された3層構造であることとして示している。
ただし、図5は膜組成に分布があることを模式的に示したものであり、実際には第1層3Aと第2層3Bとの間は明確に界面が生じているものではなく、組成が連続的に変化している。
図6は、本実施形態のガスバリア性積層フィルムの製造方法で用いるプラズマCVD成膜装置8の一例を示す模式図である。図6に示すプラズマCVD成膜装置8は、送り出しロール811,812と、第1成膜ロール831および第2成膜ロール832と、ガス供給管841と、プラズマ発生用電源851と、第1成膜ロール831の内部に設置された磁場形成装置(第1磁場形成手段)861と、第2成膜ロール832の内部に設置された磁場形成装置(第2磁場形成手段)862と、巻取りロール871,872と、を備えており、これらが真空チャンバー881の内部に配置されている。また、真空チャンバー881は真空ポンプ891が接続されており、かかる真空ポンプ891により真空チャンバー881内の圧力を適宜調整することが可能となっている。
この装置を用いると、プラズマ発生用電源851を制御することにより、第1成膜ロール831と第2成膜ロール832との間の空間に、ガス供給管841から供給される成膜ガスの放電プラズマを発生させることができ、発生する放電プラズマを用いてプラズマCVD成膜を行うことができる。
送り出しロール811には、成膜前の基材2Aが巻き取られた状態で設置され、基材2を長尺方向に巻き出しながら送り出しする。また、基材2Aの端部側には巻取りロール871が設けられ、成膜が行われた後の基材2Aを牽引しながら巻き取り、ロール状に収容する。
第1成膜ロール831と第2成膜ロール832とは、平行に延在して対向配置されている。両ロールは導電性材料で形成され、それぞれ回転しながら基材2A、基材2Bを搬送する。また、第1成膜ロール831と第2成膜ロール832とは、相互に絶縁されていると共に、共通するプラズマ発生用電源851に接続されている。プラズマ発生用電源851から印加すると、第1成膜ロール831と第2成膜ロール832との間の空間Sに電場が形成される。
さらに、第1成膜ロール831と第2成膜ロール832は、内部に磁場形成装置861,862が格納されている。磁場形成装置861,862は、空間Sに磁場を形成する部材であり、第1成膜ロール831および第2成膜ロール832と共には回転しないようにして格納されている。
磁場形成装置861,862は、第1成膜ロール831および第2成膜ロール832の延在方向と同方向に延在する中心磁石861a,862aと、中心磁石861a,862aの周囲を囲みながら第1成膜ロール831および第2成膜ロール832の延在方向と同方向に延在して配置される円環状の外部磁石861b,862bと、を有している。磁場形成装置861では、中心磁石861aと外部磁石861bとを結ぶ磁力線(磁界)が、無終端のトンネルを形成している。磁場形成装置862においても同様に、中心磁石862aと外部磁石862bとを結ぶ磁力線が、無終端のトンネルを形成している。
この磁力線と、第1成膜ロール831と第2成膜ロール832との間に形成される電界と、が交叉するマグネトロン放電によって、成膜ガスの放電プラズマが生成される。すなわち、詳しくは後述するように、空間Sは、プラズマCVD成膜を行う成膜空間として用いられ、基材2Aにおいて第1成膜ロール831に接しない面(成膜面)には、成膜ガスを形成材料とするガスバリア膜が形成される。同様に、基材2Bにおいて第1成膜ロール832に接しない面(成膜面)には、成膜ガスを形成材料とするガスバリア膜が形成される。
空間Sの近傍には、空間SにプラズマCVDの原料ガスなどの成膜ガスを供給するガス供給管841が設けられている。ガス供給管841は、第1成膜ロール831及び第2成膜ロール832の延在方向と同一方向に延在する管状の形状を有しており、複数箇所に設けられた開口部から空間Sに成膜ガスを供給する。図6では、ガス供給管841から空間Sに向けて成膜ガスを供給する様子を矢印で示している。
原料ガスは、形成するバリア膜の材質に応じて適宜選択して使用することができる。原料ガスとしては、例えばケイ素を含有する有機ケイ素化合物を用いることができる。このような有機ケイ素化合物としては、例えば、ヘキサメチルジシロキサン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、ビニルトリメチルシラン、メチルトリメチルシラン、ヘキサメチルジシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジエチルシラン、プロピルシラン、フェニルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、ジメチルジシラザン、トリメチルジシラザン、テトラメチルジシラザン、ペンタメチルジシラザン、ヘキサメチルジシラザンが挙げられる。これらの有機ケイ素化合物の中でも、化合物の取り扱い性や得られるバリア膜のガスバリア性等の観点から、ヘキサメチルジシロキサン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンが好ましい。また、これらの有機ケイ素化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。さらに、原料ガスとして、上述の有機ケイ素化合物の他にモノシランを含有させ、形成するバリア膜のケイ素源として使用することとしてもよい。
成膜ガスとしては、原料ガスの他に反応ガスを用いてもよい。このような反応ガスとしては、原料ガスと反応して酸化物、窒化物等の無機化合物となるガスを適宜選択して使用することができる。酸化物を形成するための反応ガスとしては、例えば、酸素、オゾンを用いることができる。また、窒化物を形成するための反応ガスとしては、例えば、窒素、アンモニアを用いることができる。これらの反応ガスは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができ、例えば酸窒化物を形成する場合には、酸化物を形成するための反応ガスと窒化物を形成するための反応ガスとを組み合わせて使用することができる。
成膜ガスとしては、原料ガスを真空チャンバー内に供給するために、必要に応じて、キャリアガスを用いてもよい。さらに、成膜ガスとしては、放電プラズマを発生させるために、必要に応じて、放電用ガスを用いてもよい。このようなキャリアガス及び放電用ガスとしては、適宜公知のものを使用することができ、例えば、ヘリウム、アルゴン、ネオン、キセノン等の希ガス;水素を用いることができる。
真空チャンバー内の圧力(真空度)は、原料ガスの種類等に応じて適宜調整することができるが、空間Sの圧力が0.1Pa〜50Paであることが好ましい。気相反応を抑制する目的により、プラズマCVDを低圧プラズマCVD法とする場合、通常0.1Pa〜10Paである。また、プラズマ発生装置の電極ドラムの電力は、原料ガスの種類や真空チャンバー内の圧力等に応じて適宜調整することができるが、0.1kW〜10kWであることが好ましい。
基材2A,2Bの搬送速度(ライン速度)は、原料ガスの種類や真空チャンバー内の圧力等に応じて適宜調整することができるが、0.1m/min〜100m/minであることが好ましく、0.5m/min〜20m/minであることがより好ましい。ライン速度が下限未満では、基材2A,2Bに熱に起因する皺の発生しやすくなる傾向にあり、他方、ライン速度が上限を超えると、形成されるガスバリア膜の厚みが薄くなる傾向にある。
以上のようなプラズマCVD成膜装置8においては、以下のようにして基材2A,2Bに対し成膜が行われる。
まず、真空チャンバー881内を減圧環境とし、第1成膜ロール831および第2成膜ロール832に印加して空間Sに電界を生じさせる。第1成膜ロール831および第2成膜ロール832からは真空チャンバー881内に電子が放出される。
この際、磁場形成装置861,862では上述した無終端のトンネル状の磁場を形成しているため、成膜ガスを導入することにより、該磁場と空間Sに放出される電子とによって、該トンネルに沿ったドーナツ状の成膜ガスの放電プラズマが形成される。この放電プラズマは、数Pa近傍の低圧力で発生可能であるため、真空チャンバー881内の温度を室温近傍とすることが可能になる。
一方、磁場形成装置861,862が形成する磁場に高密度で捉えられている電子の温度は高いので、当該電子と成膜ガスとの衝突により生じる放電プラズマが生じる。すなわち、空間Sに形成される磁場と電場により電子が空間Sに閉じ込められることにより、空間Sに高密度の放電プラズマが形成される。より詳しくは、無終端のトンネル状の磁場と重なる空間においては、高密度の(高強度の)放電プラズマが形成され、無終端のトンネル状の磁場とは重ならない空間においては低密度の(低強度の)放電プラズマが形成される。これら放電プラズマの強度は、連続的に変化するものである。
放電プラズマが生じると、ラジカルやイオンを多く生成してプラズマ反応が進行し、成膜ガスに含まれる原料ガスと反応ガスとの反応が生じる。例えば、原料ガスである有機ケイ素化合物と、反応ガスである酸素とが反応し、有機ケイ素化合物の酸化反応が生じる。ここで、高強度の放電プラズマが形成されている空間では、酸化反応に与えられるエネルギーが多いため反応が進行しやすく、主として有機ケイ素化合物の完全酸化反応を生じさせることができる。一方、低強度の放電プラズマが形成されている空間では、酸化反応に与えられるエネルギーが少ないため反応が進行しにくく、主として有機ケイ素化合物の不完全酸化反応を生じさせることができる。
なお、本明細書において「有機ケイ素化合物の完全酸化反応」とは、有機ケイ素化合物と酸素との反応が進行し、有機ケイ素化合物が二酸化ケイ素(SiO2)と水と二酸化炭素にまで酸化分解されることを指す。「有機ケイ素化合物の不完全酸化反応」とは、有機ケイ素化合物が完全酸化反応をせず、SiO2ではなく構造中に炭素を含むSiOxCy(0<x<2,0<y<2)が生じる反応となることを指す。
上述のように放電プラズマは、第1成膜ロール831および第2成膜ロール832の表面にドーナツ状に形成されるため、第1成膜ロール831の表面を搬送される基材2A、第2成膜ロール832の表面を搬送される基材2Bは、高強度の放電プラズマが形成されている空間と、低強度の放電プラズマが形成されている空間と、を交互に通過することとなる。そのため、第1成膜ロール831および第2成膜ロール832の表面を通過する基材2A,2Bの表面には、完全酸化反応によって生じるSiO2と不完全酸化反応によって生じるSiOxCyとが、交互に形成される。
これらに加えて、高温の2次電子が磁場の作用で基材2A,2Bに流れ込むのが防止され、よって、基材2A,2Bの温度を低く抑えたままで高い電力の投入が可能となり、高速成膜が達成される。膜の堆積は、主に基材2A,2Bの成膜面のみに起こり、成膜ロールは基材2A,2Bに覆われて汚れにくいために、長時間の安定成膜ができる。
このようにして形成されるガスバリア膜3は、珪素、酸素及び炭素を含有するガスバリア膜3が、該層の膜厚方向における該層の表面からの距離と、珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する珪素原子の量の比率(珪素の原子比)、酸素原子の量の比率(酸素の原子比)及び炭素原子の量の比率(炭素の原子比)との関係をそれぞれ示す珪素分布曲線、酸素分布曲線及び炭素分布曲線において、下記条件(i)〜(iii)の全てを満たしている。
(i)まず、ガスバリア膜3が、珪素の原子比、酸素の原子比及び炭素の原子比が、該層の膜厚の90%以上(より好ましくは95%以上、特に好ましくは100%)の領域において下記式(1):
(酸素の原子比)>(珪素の原子比)>(炭素の原子比)・・・(1)
で表される条件を満たすこと、或いは、珪素の原子比、酸素の原子比及び炭素の原子比が、該層の膜厚の90%以上(より好ましくは95%以上、特に好ましくは100%)の領域において下記式(2):
(炭素の原子比)>(珪素の原子比)>(酸素の原子比)・・・(2)
で表される条件を満たしている。
ガスバリア膜3における珪素の原子比、酸素の原子比及び炭素の原子比が、(i)の条件を満たす場合には、得られるガスバリア性積層フィルムのガスバリア性が十分なものとなる。
(ii)次に、このようなガスバリア膜3は、炭素分布曲線が少なくとも1つの極値を有するものである。
このようなガスバリア膜3においては、炭素分布曲線が少なくとも2つの極値を有することがより好ましく、少なくとも3つの極値を有することが特に好ましい。炭素分布曲線が極値を有さない場合には、得られるガスバリア性積層フィルムのフィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性が不十分となる。また、このように少なくとも3つの極値を有する場合においては、炭素分布曲線の有する一つの極値及び該極値に隣接する極値におけるガスバリア膜3の膜厚方向におけるガスバリア膜3の表面からの距離の差の絶対値がいずれも200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。
なお、本実施形態において極値とは、ガスバリア膜3の膜厚方向におけるガスバリア膜3の表面からの距離に対する元素の原子比の極大値又は極小値のことをいう。また、本明細書において極大値とは、ガスバリア膜3の表面からの距離を変化させた場合に元素の原子比の値が増加から減少に変わる点であって且つその点の元素の原子比の値よりも、該点からガスバリア膜3の膜厚方向におけるガスバリア膜3の表面からの距離を更に20nm変化させた位置の元素の原子比の値が3at%以上減少する点のことをいう。さらに、本実施形態において極小値とは、ガスバリア膜3の表面からの距離を変化させた場合に元素の原子比の値が減少から増加に変わる点であり、且つその点の元素の原子比の値よりも、該点からガスバリア膜3の膜厚方向におけるガスバリア膜3の表面からの距離を更に20nm変化させた位置の元素の原子比の値が3at%以上増加する点のことをいう。
(iii)更に、このようなガスバリア膜3は、炭素分布曲線における炭素の原子比の最大値及び最小値の差の絶対値が5at%以上である。
このようなガスバリア膜3においては、炭素の原子比の最大値及び最小値の差の絶対値が6at%以上であることがより好ましく、7at%以上であることが特に好ましい。絶対値が5at%未満では、得られるガスバリア性積層フィルムのフィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性が不十分となる。
本実施形態においては、ガスバリア膜3の酸素分布曲線が少なくとも1つの極値を有することが好ましく、少なくとも2つの極値を有することがより好ましく、少なくとも3つの極値を有することが特に好ましい。酸素分布曲線が極値を有さない場合には、得られるガスバリア性積層フィルムのフィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性が低下する傾向にある。また、このように少なくとも3つの極値を有する場合においては、酸素分布曲線の有する一つの極値及び該極値に隣接する極値におけるガスバリア膜3の膜厚方向におけるガスバリア膜3の表面からの距離の差の絶対値がいずれも200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。
また、本実施形態においては、ガスバリア膜3の酸素分布曲線における酸素の原子比の最大値及び最小値の差の絶対値が5at%以上であることが好ましく、6at%以上であることがより好ましく、7at%以上であることが特に好ましい。絶対値が下限未満では、得られるガスバリア性積層フィルムのフィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性が低下する傾向にある。
本実施形態においては、ガスバリア膜3の珪素分布曲線における珪素の原子比の最大値及び最小値の差の絶対値が5at%未満であることが好ましく、4at%未満であることがより好ましく、3at%未満であることが特に好ましい。絶対値が上限を超えると、得られるガスバリア性積層フィルムのガスバリア性が低下する傾向にある。
また、本実施形態においては、ガスバリア膜3の膜厚方向における該層の表面からの距離と珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する酸素原子及び炭素原子の合計量の比率(酸素及び炭素の原子比)との関係を示す酸素炭素分布曲線において、酸素炭素分布曲線における酸素及び炭素の原子比の合計の最大値及び最小値の差の絶対値が5at%未満であることが好ましく、4at%未満であることがより好ましく、3at%未満であることが特に好ましい。絶対値が上限を超えると、得られるガスバリア性積層フィルムのガスバリア性が低下する傾向にある。
ここで、珪素分布曲線、酸素分布曲線、炭素分布曲線及び酸素炭素分布曲線は、X線光電子分光法(XPS:Xray Photoelectron Spectroscopy)の測定とアルゴン等の希ガスイオンスパッタとを併用することにより、試料内部を露出させつつ順次表面組成分析を行う、いわゆるXPSデプスプロファイル測定により作成することができる。このようなXPSデプスプロファイル測定により得られる分布曲線は、例えば、縦軸を各元素の原子比(単位:at%)とし、横軸をエッチング時間(スパッタ時間)として作成することができる。なお、このように横軸をエッチング時間とする元素の分布曲線においては、エッチング時間は膜厚方向におけるガスバリア膜3の膜厚方向におけるガスバリア膜3の表面からの距離に概ね相関することから、「ガスバリア膜3の膜厚方向におけるガスバリア膜3の表面からの距離」として、XPSデプスプロファイル測定の際に採用したエッチング速度とエッチング時間との関係から算出されるガスバリア膜3の表面からの距離を採用することができる。また、このようなXPSデプスプロファイル測定に際して採用するスパッタ法としては、エッチングイオン種としてアルゴン(Ar+)を用いた希ガスイオンスパッタ法を採用し、そのエッチング速度(エッチングレート)を0.05nm/sec(SiO2熱酸化膜換算値)とすることが好ましい。
また、本実施形態においては、膜面全体において均一で且つ優れたガスバリア性を有するガスバリア膜3を形成するという観点から、ガスバリア膜3が膜面方向(ガスバリア膜3の表面に平行な方向)において実質的に一様であることが好ましい。本明細書において、ガスバリア膜3が膜面方向において実質的に一様とは、XPSデプスプロファイル測定によりガスバリア膜3の膜面の任意の2箇所の測定箇所について酸素分布曲線、炭素分布曲線及び酸素炭素分布曲線を作成した場合に、その任意の2箇所の測定箇所において得られる炭素分布曲線が持つ極値の数が同じであり、それぞれの炭素分布曲線における炭素の原子比の最大値及び最小値の差の絶対値が、互いに同じであるかもしくは5at%以内の差であることをいう。
さらに、本実施形態においては、炭素分布曲線は実質的に連続であることが好ましい。
本明細書において、炭素分布曲線が実質的に連続とは、炭素分布曲線における炭素の原子比が不連続に変化する部分を含まないことを意味し、具体的には、エッチング速度とエッチング時間とから算出されるガスバリア膜3の膜厚方向における該層の表面からの距離(x、単位:nm)と、炭素の原子比(C、単位:at%)との関係において、下記数式(F1):
|dC/dx|≦1 ・・・(F1)
で表される条件を満たすことをいう。
本実施形態の方法により製造されるガスバリア性積層フィルムは、上記条件(i)〜(iii)を全て満たすガスバリア膜3を少なくとも1層備えるが、そのような条件を満たす層を2層以上を備えていてもよい。さらに、このようなガスバリア膜3を2層以上備える場合には、複数のガスバリア膜3の材質は、同一であってもよく、異なっていてもよい。また、このようなガスバリア膜3を2層以上備える場合には、このようなガスバリア膜3は基材の一方の表面上に形成されていてもよく、基材の両方の表面上に形成されていてもよい。また、このような複数のガスバリア膜3としては、ガスバリア性を必ずしも有しないガスバリア膜3を含んでいてもよい。
また、珪素分布曲線、酸素分布曲線及び炭素分布曲線において、珪素の原子比、酸素の原子比及び炭素の原子比が、該層の膜厚の90%以上の領域において式(1)で表される条件を満たす場合には、ガスバリア膜3中における珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する珪素原子の含有量の原子比率は、25at%〜45at%であることが好ましく、30at%〜40at%であることがより好ましい。また、ガスバリア膜3中における珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する酸素原子の含有量の原子比率は、33at%〜67at%であることが好ましく、45at%〜67at%であることがより好ましい。さらに、ガスバリア膜3中における珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する炭素原子の含有量の原子比率は、3at%〜33at%であることが好ましく、3at%〜25at%であることがより好ましい。
さらに、珪素分布曲線、酸素分布曲線及び炭素分布曲線において、珪素の原子比、酸素の原子比及び炭素の原子比が、該層の膜厚の90%以上の領域において式(2)で表される条件を満たす場合には、ガスバリア膜3中における珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する珪素原子の含有量の原子比率は、25at%〜45at%であることが好ましく、30at%〜40at%であることがより好ましい。また、ガスバリア膜3中における珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する酸素原子の含有量の原子比率は、1at%〜33at%であることが好ましく、10at%〜27at%であることがより好ましい。さらに、ガスバリア膜3中における珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する炭素原子の含有量の原子比率は、33at%〜66at%であることが好ましく、40at%〜57at%であることがより好ましい。
また、ガスバリア膜3の厚みは、5nm〜3000nmの範囲であることが好ましく、10nm〜2000nmの範囲であることより好ましく、100nm〜1000nmの範囲であることが特に好ましい。ガスバリア膜3の厚みが下限未満では、酸素ガスバリア性、水蒸気バリア性等のガスバリア性が劣る傾向にあり、他方、上限を超えると、屈曲によりガスバリア性が低下しやすくなる傾向にある。
また、本実施形態のガスバリア性積層フィルムが複数のガスバリア膜3を備える場合には、それらのガスバリア膜3の厚みの合計値は、通常10nm〜10000nmの範囲であり、10nm〜5000nmの範囲であることが好ましく、100nm〜3000nmの範囲であることより好ましく、200nm〜2000nmの範囲であることが特に好ましい。ガスバリア膜3の厚みの合計値が下限未満では、酸素ガスバリア性、水蒸気バリア性等のガスバリア性が劣る傾向にあり、他方、上限を超えると、屈曲によりガスバリア性が低下しやすくなる傾向にある。
このようなガスバリア膜3を形成するには、成膜ガスに含まれる原料ガスと反応ガスの比率としては、原料ガスと反応ガスとを完全に反応させるために理論上必要となる反応ガスの量の比率よりも、反応ガスの比率を過剰にし過ぎないことが好ましい。反応ガスの比率を過剰にし過ぎてしまうと、上記条件(i)〜(iii)を全て満たすガスバリア膜3が得られなくなってしまう。
以下、成膜ガスとして、原料ガスとしてのヘキサメチルジシロキサン(HMDSO:(CH3)6Si2O:)と反応ガスとしての酸素(O2)を含有するものを用い、ケイ素−酸素系の薄膜層を製造する場合を例に挙げて、成膜ガス中の原料ガスと反応ガスの好適な比率等についてより詳細に説明する。
原料ガスとしてのHMDSOと、反応ガスとしての酸素とを含有する成膜ガスをプラズマCVDにより反応させてケイ素−酸素系の薄膜層を作製する場合、その成膜ガスにより下記反応式(1)に記載のような反応が起こり、二酸化ケイ素が製造される。
[化1]
(CH3)6Si2O+12O2→6CO2+9H2O+2SiO2 …(1)
このような反応においては、HMDSO1モルを完全酸化するのに必要な酸素量は12モルである。そのため、成膜ガス中に、HMDSO1モルに対して酸素を12モル以上含有させて完全に反応させた場合には、均一な二酸化ケイ素膜が形成されてしまうため、上記条件(i)〜(iii)を全て満たすガスバリア膜3を形成することができなくなってしまう。そのため、本実施形態のガスバリア膜3を形成する際には、上記(1)式の反応が完全に進行してしまわないように、HMDSO1モルに対して酸素量を化学量論比の12モルより少なくする必要がある。
なお、プラズマCVD成膜装置8の真空チャンバー881内の反応では、原料のHMDSOと反応ガスの酸素は、ガス供給部から成膜領域へ供給されて成膜されるので、反応ガスの酸素のモル量(流量)が原料のHMDSOのモル量(流量)の12倍のモル量(流量)であったとしても、現実には完全に反応を進行させることはできず、酸素の含有量を化学量論比に比して大過剰に供給して初めて反応が完結すると考えられる(例えば、CVDにより完全酸化させて酸化ケイ素を得るために、酸素のモル量(流量)を原料のHMDSOのモル量(流量)の20倍以上程度とする場合もある)。そのため、原料のHMDSOのモル量(流量)に対する酸素のモル量(流量)は、化学量論比である12倍量以下(より好ましくは、10倍以下)の量であることが好ましい。
このような比でHMDSO及び酸素を含有させることにより、完全に酸化されなかったHMDSO中の炭素原子や水素原子がガスバリア膜3中に取り込まれ、上記条件(i)〜(iii)を全て満たすガスバリア膜3を形成することが可能となって、得られるガスバリア性積層フィルムに優れたバリア性及び耐屈曲性を発揮させることが可能となる。
なお、成膜ガス中のHMDSOのモル量(流量)に対する酸素のモル量(流量)が少なすぎると、酸化されなかった炭素原子や水素原子がガスバリア膜3中に過剰に取り込まれるため、この場合はバリア膜の透明性が低下する。このようなガスバリア性積層フィルムは有機ELデバイスや有機薄膜太陽電池などのような透明性を必要とするデバイス用のフレキシブル基板には利用できなくなってしまう。このような観点から、成膜ガス中のHMDSOのモル量(流量)に対する酸素のモル量(流量)の下限は、HMDSOのモル量(流量)の0.1倍より多い量とすることが好ましく、0.5倍より多い量とすることがより好ましい。
このように、有機ケイ素化合物が完全酸化するか否かは、成膜ガス中の原料ガスと反応ガスとの混合比の他に、第1成膜ロール831および第2成膜ロール832に印加する印加電圧によっても制御することができる。
このような放電プラズマを用いたプラズマCVD法により、第1成膜ロール831および第2成膜ロール832に巻き掛けた基材2A,2Bの表面に対してガスバリア膜の形成を行うことができる。
本実施形態のプラズマCVD成膜装置8においては、第1成膜ロール831と巻き取りロール871との間の基材2Aの搬送経路上に、測定装置100の光ファイバー10が配置されている。すなわち、ガスバリア膜3が形成された基材2Aを連続的に搬送しながらガスバリア膜3の欠陥部分を検査する構成となっている。
得られるガスバリア性積層フィルムについて、上述の検査方法を用いてガスバリア膜の成膜不良を検査することで、品質の確認を短時間で行うことができ、生産性の高いガスバリア性積層フィルムの製造を実現することができる。すなわち、以上のようなガスバリア性積層フィルムの製造方法においては、上述の検査方法を採用して検査する工程を有することにより、高品質のガスバリア性積層フィルムを安定的に製造することが可能となる。
なお、本実施形態においては、第1成膜ロール831と巻き取りロール871との間の基材2Aの搬送経路上に、測定装置100の光ファイバー10を配置した構成を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、第2成膜ロール832と巻き取りロール872との間の基材2Bの搬送経路上に、測定装置100の光ファイバー10を配置した構成であってもよい。
図7は、プラズマCVD成膜装置の第1変形例を示す説明図である。
本変形例のプラズマCVD成膜装置8Aは、上述したプラズマCVD成膜装置8と一部共通しているため、本変形例において図6で示した構成と共通する構成要素については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
図7に示すように、本変形例のプラズマCVD成膜装置8Aにおいては、マーキング装置30を有する測定装置100Aの一部が組み込まれている。具体的には、第1成膜ロール831と巻き取りロール871との間の基材2Aの搬送経路上に、測定装置100Aの光ファイバー10が配置され、この光ファイバー10よりも基材2Aの搬送経路下流側にマーキング装置30が配置されている。
マーキング装置30は制御装置23を介して検出器22に接続されている。マーキング装置30は、ガスバリア膜3の欠陥部分が検査された後に、ガスバリア膜3の屈折率の測定値が予め設定されたガスバリア膜3の屈折率のしきい値よりも小さい屈折率を有するガスバリア膜3に対してマーキングする。
すなわち、ガスバリア膜3の屈折率の測定値と、予め設定されたガスバリア膜3の屈折率のしきい値とを比較し、当該比較結果に基づいてガスバリア膜3のガスバリア性が異常と判定された場合には、制御装置23からマーキング装置30へ駆動信号が伝わり、マーキング装置30からガスバリア膜3に向けてレーザー光が射出されることにより、ガスバリア膜3に対してマーキングが施される。
以上のようなガスバリア性積層フィルムの製造方法においては、上述の検査方法を採用して検査する工程を有することにより、ガスバリア膜3の欠陥部分が視認しやすくなる。よって、ガスバリア性積層フィルムのガスバリア膜のガスバリア性を容易に判定することができる。
図8は、プラズマCVD成膜装置の第2変形例を示す説明図である。
本変形例のプラズマCVD成膜装置9は、上述したプラズマCVD成膜装置8と一部共通しているため、本変形例において図6で示した構成と共通する構成要素については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
図8に示すように、プラズマCVD成膜装置9は、送り出しロール911と、搬送ロール921,922,923,924と、第1成膜ロール931、第2成膜ロール932と、ガス供給管941と、プラズマ発生用電源951と、第1成膜ロール931及び第2成膜ロール932の内部に設置された磁場発生装置961,962と、巻取りロール971と、を備えており、これらが真空チャンバー981の内部に配置されている。また、真空チャンバー981は真空ポンプ991に接続されており、かかる真空ポンプ991により真空チャンバー981内の圧力を適宜調整することが可能となっている。
プラズマCVD成膜装置9において、送り出しロール911から送り出された長尺の基材2は、搬送ロール921を介して第1成膜ロール931に達する。第1成膜ロール931と第2成膜ロール932との間では、ガス供給管941から供給される成膜ガスの放電プラズマを生じさせ、基材2が第1成膜ロール931上を通過する際に、基材2の一面(成膜面2a)に成膜ガスを形成材料として薄膜が形成される。
第2成膜ロール932においては、第1成膜ロール931と同様に、第1成膜ロール931と第2成膜ロール932との間に生じさせる放電プラズマにより成膜面2aに薄膜が形成される。成膜された基材2は、搬送ロール924を介して巻取りロール971に送られ、巻き取りロール971では、成膜が行われた後の基材2を牽引しながら巻き取り、ロール状に収容する。プラズマCVD成膜装置9では、このようにして長尺の基材2に連続してCVD成膜を行う。
なお、本変形例のプラズマCVD成膜装置9においても、第1成膜ロール931,第2成膜ロール932に内蔵された磁場形成装置により、無終端のトンネル状の磁場を形成し、ドーナツ状の放電プラズマを発生させることにより、上述のような構造のガスバリア膜を成膜することが可能である。
本変形例のプラズマCVD成膜装置9においては、搬送ロール924と巻き取りロール971との間の基材2の搬送経路上に、測定装置100の光ファイバー10が配置されている。すなわち、ガスバリア膜3が形成された基材2を連続的に搬送しながらガスバリア膜3の欠陥部分を検査する構成となっている。
本変形例のプラズマCVD成膜装置9により得られるガスバリア性積層フィルムについても、上述の検査方法を用いてガスバリア膜の成膜不良を検査することで、品質の確認を短時間で行うことができ、生産性の高いガスバリア性積層フィルムの製造を実現することができる。すなわち、以上のようなガスバリア性積層フィルムの製造方法においては、上述の検査方法を採用して検査する工程を有することにより、高品質のガスバリア性積層フィルムを安定的に製造することが可能となる。
なお、本変形例のプラズマCVD成膜装置9においては、搬送ロール924と巻き取りロール971との間の基材2の搬送経路上に、測定装置100の光ファイバー10が配置された構成を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、第2成膜ロール932と搬送ロール924との間の基材2の搬送経路上に、測定装置100の光ファイバー10が配置された構成であってもよい。
このように形成されるガスバリア性積層フィルムは、樹脂フィルムを基材2として用い、フレキシブルな製品の部材として使用可能である。また、ガスバリア膜を有するため、有機EL素子、有機薄膜層太陽電池、液晶ディスプレイ、アモルファスシリコン太陽電池、電子ペーパー、タッチパネル、をはじめとするガスバリア性が必要とされる各種製品の部材(電子デバイス)として好適に用いることができる。
なお、上述した検査方法は、前記ガスバリア性積層フィルムを用いたガスバリア性積層フィルム付電子デバイスに対しても行うことができる。また、前記検査工程を含む電子デバイスの製造方法においても適用することができる。
また、上述した検査方法においては、予めガスバリア膜の水蒸気透過度を測定していたが、これに限らない。例えば、酸素透過度や窒素透過度など、水蒸気以外のガス透過度を測定することにより行うこともできる。
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、ガスバリア性積層フィルムのガスバリア膜の水蒸気透過度、屈折率は以下の方法により測定した。
[水蒸気透過度の測定]
温度40℃、低湿度側の湿度0%RH、高湿度側の湿度90%RHの条件において、水蒸気透過度測定機(GTRテック社製、機種名「GTRテック−3000」)を用いて、JIS K 7129.2008「プラスチック−フィルム及びシート−水蒸気透過度の求め方(機器測定法)」附属書C「ガスクロマトグラフ法による水蒸気透過度の求め方」(以下、JISのガスクロマト法という場合がある。)に従い、ガスバリア性積層フィルムの水蒸気透過度を測定した。
[屈折率の測定]
反射分光膜厚計(大塚電子社製、機種名「FE−3000」)を用いて、ガスバリア性積層フィルムの屈折率を測定した。先ず、ガスバリア膜を成膜していない基材の絶対反射率をアルミニウムの標準反射板を用いて測定し、基材の屈折率と消衰係数とを材料データとして登録した。次に、ガスバリア膜が成膜された基材の絶対反射率をアルミニウムの標準反射板を用いて測定し、ガスバリア膜の屈折率を求めた。
前述の図8に示すプラズマCVD成膜装置を用いてガスバリア性積層フィルムを製造した。すなわち、2軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム(PENフィルム、厚み:100μm、幅:700mm、帝人デュポンフィルム(株)製、商品名「テオネックスQ65FA」)を基材2として用い、これを送り出しロ−ル911に装着した。そして、第1成膜ロール931と第2成膜ロール932との間に磁場を印加すると共に、第1成膜ロール931と第2成膜ロール932にそれぞれ電力を供給して第1成膜ロール931と第2成膜ロール932との間に放電してプラズマを発生させ、このような放電領域に成膜ガス(原料ガスとしてのヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)と反応ガスとしての酸素ガス(放電ガスとしても機能する)の混合ガス)を供給して、下記条件にてプラズマCVD法による薄膜形成を行った。この工程を3回行うことにより、ガスバリア性積層フィルムを得た。
(成膜条件)
成膜ガスの混合比(ヘキサメチルジシロキサン/酸素):100/1000[単位:sccm(Standard Cubic Centimeter per Minute)、0℃、1気圧基準]
真空チャンバー内の真空度:3Pa
プラズマ発生用電源からの印加電力:1.6kW
プラズマ発生用電源の周波数:70kHz
フィルムの搬送速度:0.5m/min。
このようにして得られた通常品のガスバリア性積層フィルムの一例(サンプルNo.1)としては、ガスバリア層の厚みは1.02μmであり、温度40℃、低湿度側の湿度0%RH、高湿度側の湿度90%RHの条件におけるガスバリア層の水蒸気透過度は2×10−5g/m2/day)であった。
また、反射分光膜厚計によるガスバリア層の屈折率は、波長750nmにおいて1.536であった。
一方、アウトガスなどによる異常品のガスバリア性積層フィルムの一例(サンプルNo.7)としては、ガスバリア層の厚みは1.09μmであり、温度40℃、低湿度側の湿度0%RH、高湿度側の湿度90%RHの条件におけるガスバリア層の水蒸気透過度は2×10−3g/m2/day)であった。
また、反射分光膜厚計によるガスバリア層の屈折率は、波長750nmにおいて1.497であった。
表1に、ガスバリア性積層フィルムのガスバリア膜を複数個所(サンプルNo.1〜7)で測定したときのガスバリア膜の膜厚、水蒸気透過度、波長750nmにおける屈折率、サンプルNo.2の屈折率とサンプルNo.3の屈折率との間にしきい値を設定したときの通常品・異常品の区別を示す。
表2に、波長750nmにおけるガスバリア膜の屈折率と水蒸気透過度との関係を示す。片対数グラフの横軸は屈折率であり、縦軸は水蒸気透過度である。
表1および表2から明らかなように、同じ成膜条件で成膜したガスバリア膜どうしにおいて膜厚がほぼ一定であるにもかかわらず、ガスバリア膜の水蒸気透過度は大きく異なる。ガスバリア膜の水蒸気透過度と屈折率とは一定の対応関係(水蒸気透過度が小さくなると屈折率が小さくなる関係)にある。このため、予めしきい値を設定してガスバリア膜の屈折率を測定することにより、非破壊でガスバリア性の良い通常品とガスバリア性の悪い異常品とを判別することができる。例えば、サンプルNo.2の屈折率とサンプルNo.3の屈折率との間にしきい値を設定することにより、当該しきい値よりも小さい屈折率を有するサンプルNo.3〜7を異常品と判別することができる。なお、しきい値の設定位置はサンプルNo.2の屈折率とサンプルNo.3の屈折率との間に限らず、適宜、所望の位置に設定することができる。