JP5846074B2 - オーステナイト系耐熱合金部材およびその製造方法 - Google Patents

オーステナイト系耐熱合金部材およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、オーステナイト系耐熱合金部材およびその製造方法に関する。詳しくは、本発明は、発電用ボイラの主蒸気管や再熱蒸気管など、厚肉、大径の高温部材として好適に用いることができる、熱間加工性に優れるオーステナイト系耐熱合金部材およびその製造方法に関する。
なお、上記の「熱間加工性に優れる」とは、特に、部材の一部を高周波誘導加熱などの加熱装置によって局部的に加熱しながら曲げ加工を施した場合に、部材の表面に割れを生じることなく加工できることをいう。
近年、環境負荷軽減の観点から発電用ボイラなどでは運転条件の高温・高圧化が世界的規模で進められており、過熱器管や再熱器管の材料として使用されるオーステナイト系耐熱合金には、より優れた高温強度および耐食性を有することが求められている。
さらに、従来フェライト系耐熱鋼が使用されていた、主蒸気管や再熱蒸気管などの大径かつ厚肉の部材においても、オーステナイト系耐熱合金の適用が検討されている。
このような技術的背景のもと、種々のオーステナイト系耐熱合金に関する技術が提案されている。
具体的には、例えば、特許文献1に、表面加工を施して330HV以上となる塑性加工硬化層を表面に形成させた後、その硬化した表面部分に対して、十分な再結晶を生じさせるとともに再結晶粒内または粒界にCr炭化物を分散して析出させるための局部的な加熱処理を施して、耐粒界腐食性と耐応力腐食割れ性を高めた、オーステナイト系合金構造物とその製造法が開示されている。
また、特許文献2に、結晶粒の微細化を行うとともに、結晶粒界に析出するSを抑制することにより、熱間加工性を向上させた、高Ni、高Crステンレス鋼が開示されている。
さらに、特許文献3に、Ni基合金製品が提案されている。このNi基合金製品は、Wを活用して高温強度を高めるとともに、有効B量を管理することにより、熱間加工性を改善するとともに溶接割れを防止した、特に大型製品として好適なオーステナイト系耐熱合金製品である。
特許文献4に、Cr、TiとZrの活用によりα−Cr相を強化相としてクリープ強度を高めた、オーステナイト系耐熱合金ならびに、その合金からなる耐熱耐圧部材およびその製造方法が提案されている。
特許文献5に、多量のWを含有させるとともにAlとTiを活用して、固溶強化とγ’相の析出強化によって強度を高めた、Ni基耐熱合金が提案されている。
特開2000−265249号公報 特開2002−80942号公報 特開2011−63838号公報 国際公開第2009/154161号 国際公開第2010/038826号
オーステナイト系耐熱合金を構造物として使用するために、一般に、溶接や熱間での曲げ加工などが施される。
なお、溶接が施される場合、主に冶金的要因に起因した様々な割れが溶接部に発生しやすいことが知られている。
しかしながら、前記特許文献1は、耐粒界腐食性と耐応力腐食割れ性の向上を目的とする技術でしかなく、溶接部の割れ発生に配慮して開発されたものではない。さらに、熱間での曲げ加工性についても全く検討されていない。
特許文献2も同様に、溶接部の割れ発生に配慮して開発されたものではない。さらに、熱間での曲げ加工性について具体的な検討は行われていない。
これに対して、特許文献3〜5で開示されているオーステナイト系耐熱合金はいずれも、溶接割れ感受性が十分に低いため、溶接が施される構造物の素材として好適に用いることができる。
しかしながら、本発明者らが実施した詳細な調査から、特許文献3〜5で開示されたオーステナイト系耐熱合金を用いても、熱間で曲げ加工した部材、特に、厚肉の部材において、その外表面および表面近傍の内部に、これまでに確認されていなかった微細な割れが発生する場合のあることが明らかとなった。
したがって、オーステナイト系耐熱合金からなる厚みがほぼ5mm以上の部材を、特に、熱間で曲げ加工した場合に、部材の外表面に生ずる微細な割れを防止することが新たな課題となることが判明した。
本発明は、上記現状に鑑みてなされたもので、熱間曲げ加工時の耐割れ性、なかでも厚肉部材として熱間曲げ加工される場合の外表面および表面近傍の内部の耐割れ性に優れ、発電用ボイラの主蒸気管や再熱蒸気管などの厚肉、大径の高温部材に熱間加工して用いるのに好適な、オーステナイト系耐熱合金部材およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは前記した課題を解決するために、熱間で曲げ加工した部材の外表面および表面近傍の内部に生じた微細な割れについて詳細な調査を行った。その結果、下記(i)〜(iv)の事項が明らかになった。
(i)部材の結晶粒径が大きいほど、熱間で曲げ加工した部材に生じる割れのサイズは大きく、また割れの発生頻度が高い。
(ii)部材の外表面近傍の硬さが高いほど、熱間で曲げ加工した部材に生じる割れのサイズは大きく、また割れの発生頻度が高い。
(iii)割れは部材の外表面から5mm深さ程度の範囲において、結晶粒界(以下、単に「粒界」という。)に発生した。
(iv)割れには、部材の外表面を含むものと、表面近傍の内部に存在するものとの双方が認められた。
上記(i)〜(iv)から、本発明者らは、熱間で曲げ加工した部材の外表面および表面近傍の内部の微細な割れは、下記(a)〜(c)の機構により発生するものと推定した。
(a)熱間曲げ加工時には部材の外表面に大きな引張応力が発生し、部材の結晶粒径が大きくなるほど部材の変形能は小さくなることから、結晶粒が粗大であるほど粒界に応力が集中しやすくなる。
(b)部材の外表面は部材を製造する際の加工により転位が導入されて硬さが増大している。このため、結晶粒内(以下、単に「粒内」という。)の変形抵抗が大きくなる。さらに、曲げ加工中には粒内にも転位が導入され、その結果、粒内において動的析出が起こる。
(c)動的析出により著しく強化された粒内に対し、相対的に粒界は弱化する。このため、粒界で応力が集中する。その結果、粒界が開口して、微細な割れとなる。
上記の推定の下、本発明者らは熱間で曲げ加工した部材の外表面および表面近傍の内部に生じる微細な割れを防止するために詳細な検討を実施した。
その結果、上記の割れを防止するためには、部材を製造する際の表面の加工に起因する部材外表面部の硬さを、部材の結晶粒径に応じて特定の範囲に管理し、動的析出に伴う粒内強化によって相対的に生じる粒界の応力集中を軽減すること、具体的には、次の(d)の対策を講じればよいことが明らかになった。
(d)部材の外表面から5mm深さまでの領域における最高硬さHV0.1(max)と部材の平均結晶粒径d(μm)とが、下記の式を満足するように管理する。
HV0.1(max)≦(−1/6)×d+300
なお、上記の「HV0.1」は、試験力を0.9807N(100gf)としてマイクロビッカース硬さ試験を実施した場合の「硬さ記号」を意味する(JIS Z 2244(2009)参照)。
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、下記のオーステナイト系耐熱合金部材およびその製造方法にある。
(1)発電用ボイラに用いられるオーステナイト系耐熱合金部材であって、質量%で、C:0.03〜0.15%、Si:1%以下、Mn:2%以下、P:0.03%以下、S:0.01%以下、Ni:40〜55%、Cr:20〜35%、W:3〜10%、Ti:0.01〜1.2%、Al:0.3%以下、B:0.0001〜0.01%、N:0.02%以下およびO:0.01%以下を含み、残部がFeおよび不純物からなる化学組成であって、部材の平均結晶粒径d(μm)と、部材の外表面から5mm深さまでの領域における最高硬さHV0.1(max)とが、下記の[1]式を満足することを特徴とするオーステナイト系耐熱合金部材。
HV0.1(max)≦(−1/6)×d+300・・・[1]。
(2)Feの一部に代えて、質量%で、下記の第1群または第2群から選択される1種以上の元素を含有することを特徴とする上記(1)に記載のオーステナイト系耐熱合金部材。
第1群:Ca:0.05%以下およびREM:0.1%以下
第2群:Co:1%以下、Cu:1%以下、Mo:1%以下、V:0.5%以下、Nb:0.5%以下およびZr:0.5%以下。
(3)加工温度T(℃)とひずみ量ε(%)が下記の[2]式を満足する熱間曲げ加工に用いられることを特徴とする上記(1)または(2)に記載のオーステナイト系耐熱合金部材。
T≧200×log10ε+900・・・[2]。
(4)上記(1)〜(3)のいずれか一つに記載のオーステナイト系耐熱合金部材を製造する方法であって、切削バイトにより部材表面を切削加工した後、粒度が40番より細かい番手の砥石にて1回以上表面を研磨加工する、オーステナイト系耐熱合金部材の製造方法。
(5)上記(1)〜(3)のいずれか一つに記載のオーステナイト系耐熱合金部材を製造する方法であって、切削バイトにより部材表面を切削加工した後、900〜1200℃の温度域で0.1〜5h保持する熱処理を行う、オーステナイト系耐熱合金部材の製造方法。
(6)上記(1)〜(3)のいずれか一つに記載のオーステナイト系耐熱合金部材を製造する方法であって、切削バイトにより部材表面を切削加工した後、粒度が40番より細かい番手の砥石にて1回以上表面を研磨加工する工程と、900〜1200℃の温度域で0.1〜5h保持する熱処理を行う工程と、を備える、オーステナイト系耐熱合金部材の製造方法。
本発明のオーステナイト系耐熱合金部材は、熱間曲げ加工時の耐割れ性、なかでも厚肉部材として熱間曲げ加工される場合の外表面および表面近傍の内部の耐割れ性に優れる。このため、本発明のオーステナイト系耐熱合金部材は、発電用ボイラの主蒸気管や再熱蒸気管などの厚肉、大径の高温部材に熱間加工して用いるのに好適である。
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。なお、以下の説明における各元素の含有量の「%」表示は「質量%」を意味する。
(A)化学組成:
C:0.03〜0.15%
Cは、オーステナイトを安定にするとともに粒界に微細な炭化物を形成し、高温でのクリープ強度を向上させる。この効果を十分に得るためには、0.03%以上のC含有量が必要である。しかしながら、Cが過剰に含有された場合には、炭化物が粗大となり、かつ多量に析出するので、粒界の延性が低下し、さらに、靱性およびクリープ強度の低下も生じる。したがって、上限を設け、Cの含有量を0.03〜0.15%とする。C含有量の望ましい下限は0.04%、さらに望ましい下限は0.05%である。また、C含有量の望ましい上限は0.12%、さらに望ましい上限は0.10%である。
Si:1%以下
Siは、脱酸作用を有するとともに、高温での耐食性および耐酸化性の向上に有効な元素である。しかしながら、Siが過剰に含有された場合にはオーステナイトの安定性が低下して、靱性およびクリープ強度の低下を招く。そのため、Siの含有量に上限を設けて1%以下とする。Siの含有量は望ましくは0.8%以下、さらに望ましくは0.6%以下である。
なお、Siの含有量について特に下限を設ける必要はないが、極端な低減は脱酸効果が十分に得られず合金の清浄度が大きくなって清浄性が劣化するとともに、高温での耐食性および耐酸化性の向上効果も得難くなるし、製造コストも大きく上昇する。そのため、Si含有量の望ましい下限は0.02%、さらに望ましい下限は0.05%である。
Mn:2%以下
Mnは、Siと同様、脱酸作用を有する。Mnは、オーステナイトの安定化にも寄与する。しかしながら、Mnの含有量が過剰になると脆化を招き、さらに、靱性およびクリープ延性の低下も生じる。そのため、Mnの含有量に上限を設けて2%以下とする。Mnの含有量は望ましくは1.8%以下、さらに望ましくは1.5%以下である。
なお、Mnの含有量についても特に下限を設ける必要はないが、極端な低減は脱酸効果が十分に得られず合金の清浄性を劣化させるとともに、オーステナイト安定化効果が得難くなるし、製造コストも大きく上昇する。そのため、Mn含有量の望ましい下限は0.02%、さらに望ましい下限は0.05%である。
P:0.03%以下
Pは、不純物として合金中に含まれ、多量に含まれる場合には、熱間加工性および溶接性を著しく低下させ、さらに、長時間使用後のクリープ延性も低下させる。そのため、Pの含有量に上限を設けて0.03%以下とする。Pの含有量は、望ましくは0.025%以下、さらに望ましくは0.02%以下である。
なお、Pの含有量は可能な限り低減することが好ましいが、極度の低減は製造コストの増大を招く。そのため、P含有量の望ましい下限は0.0005%、さらに望ましい下限は0.0008%である。
S:0.01%以下
Sは、Pと同様に不純物として合金中に含まれ、多量に含まれる場合には、熱間加工性および溶接性を著しく低下させ、さらに、長時間使用後のクリープ延性も低下させる。そのため、Sの含有量に上限を設けて0.01%以下とする。Sの含有量は、望ましくは0.008%以下、さらに望ましくは0.005%以下である。
なお、Sの含有量は可能な限り低減することが好ましいが、極度の低減は製造コストの増大を招く。そのため、S含有量の望ましい下限は0.0001%、さらに望ましい下限は0.0002%である。
Ni:40〜55%
Niは、オーステナイトを得るために有効な元素であり、長時間使用時の組織安定性を確保するために必須の元素である。後述の20〜35%という本発明のCr含有量の範囲で、上記したNiの効果を十分に得るためには、40%以上のNi含有量が必要である。しかしながら、Niは高価な元素であり、多量の含有はコストの増大を招く。そのため、上限を設けて、Niの含有量を40〜55%とする。Ni含有量の望ましい下限は41%、さらに望ましい下限は42%である。また、Ni含有量の望ましい上限は54%、さらに望ましい上限は53%である。
Cr:20〜35%
Crは、高温での耐酸化性および耐食性の確保のために必須の元素である。上記40〜55%という本発明のNi含有量の範囲で、上記したCrの効果を得るためには、20%%以上のCr含有量が必要である。しかしながら、Crの含有量が35%を超えると、高温でのオーステナイトの安定性が劣化してクリープ強度の低下を招く。したがって、Crの含有量を20〜35%とする。Cr含有量の望ましい下限は20.5%、さらに望ましい下限は21%である。また、Cr含有量の望ましい上限は34.5%、さらに望ましい上限は34%である。
W:3〜10%
Wは、マトリックスに固溶して高温でのクリープ強度の向上に大きく寄与する元素である。その効果を十分に発揮させるためには少なくとも3%以上のW含有量が必要である。しかしながら、Wを過剰に含有させても効果は飽和し、かえってクリープ強度を低下させる場合もある。さらに、Wは高価な元素であるため、過剰のW含有はコストの増大を招く。そのため、上限を設けて、Wの含有量を3〜10%とする。W含有量の望ましい下限は3.5%、さらに望ましい下限は4%である。また、W含有量の望ましい上限は9.5%、さらに望ましい上限は9%である。
Ti:0.01〜1.2%
Tiは、微細な炭窒化物として粒内に析出し、高温でのクリープ強度に寄与する。その効果を得るためには0.01%以上のTi含有量が必要である。しかしながら、Tiの含有量が過剰になると炭窒化物として多量に析出し、クリープ延性および靱性の低下を招く。このため、上限を設けて、Tiの含有量を0.01〜1.2%とする。Ti含有量の望ましい下限は0.03%、さらに望ましい下限は0.05%である。また、Ti含有量の望ましい上限は1.0%、さらに望ましい上限は0.8%である。
Al:0.3%以下
Alは、脱酸作用を有する元素である。しかしながら、Alの含有量が過剰になると合金の清浄性が著しく劣化して、熱間加工性および延性が低下する。そのため、Alの含有量に上限を設けて0.3%以下とする。Alの含有量は望ましくは0.2%以下、さらに望ましくは0.1%以下である。
なお、Alの含有量について特に下限を設ける必要はないが、極端な低減は脱酸効果が十分に得られず合金の清浄性を逆に劣化させるとともに、製造コストの上昇を招く。そのため、Al含有量の望ましい下限は0.0005%である。Alの脱酸効果を安定して得、合金に良好な清浄性を確保させるためには、Al含有量の下限は0.001%とすることがより望ましい。
B:0.0001〜0.01%
Bは、高温での使用中に粒界に偏析して粒界を強化するとともに粒界炭化物を微細分散させることにより、クリープ強度を向上させるのに必要な元素である。この効果を得るためには0.0001%以上のB含有量が必要である。しかしながら、Bの含有量が過剰になると、溶接性が劣化することに加えて、熱間加工性が劣化する。そのため、上限を設けて、Bの含有量を0.0001〜0.01%とする。B含有量の望ましい下限は0.0005%、さらに望ましい下限は0.001%である。また、B含有量の望ましい上限は0.008%、さらに望ましい上限は0.006%である。
N:0.02%以下
Nは、オーステナイトを安定にするのに有効な元素であるものの、過剰に含有されると、高温での使用中に多量の微細窒化物が粒内に析出してクリープ延性および靱性の低下を招く。そのため、Nの含有量に上限を設けて0.02%以下とする。Nの含有量は望ましくは0.018%以下、さらに望ましくは0.015%以下である。
なお、Nの含有量について特に下限を設ける必要はないが、極端な低減はオーステナイトを安定にする効果が得難くなるし、製造コストも大きく上昇する。そのため、N含有量の望ましい下限は0.0005%、さらに望ましい下限は0.0008%である。
O:0.01%以下
O(酸素)は、不純物として合金中に含まれ、その含有量が過剰になると熱間加工性が低下し、さらに靱性および延性の劣化を招く。このため、Oの含有量に上限を設けて0.01%以下とする。Oの含有量は望ましくは0.008%以下、さらに望ましくは0.005%以下である。
なお、Oの含有量について特に下限を設ける必要はないが、極端な低減は製造コストの上昇を招く。そのため、O含有量の望ましい下限は0.0005%、さらに望ましい下限は0.0008%である。
本発明のオーステナイト系耐熱合金部材は、上述の各元素を含み、残部がFeおよび不純物からなる化学組成のものである。
なお、「不純物」とは、オーステナイト系耐熱合金部材を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップまたは製造環境などから混入するものを指す。
本発明のオーステナイト系耐熱合金部材には、上述のFeの一部に代えて、Ca、REM、Co、Cu、Mo、V、NbおよびZrから選択される1種以上の元素を含有させてもよい。
Ca:0.05%以下
Caは、熱間加工性を改善する作用を有する。このため、Caを含有させてもよい。しかしながら、Caの含有量が過剰になるとOと結合して、清浄性を著しく低下させ、却って熱間加工性を劣化させる。このため、Caを含有させる場合には、その含有量を0.05%以下とする。Ca含有量の上限は、望ましくは0.04%である。
一方、前記したCaの効果は、Caの含有量が0.0001%以上の場合に安定して得られる。
REM:0.1%以下
REMは、熱間加工性を改善する作用を有する。すなわち、REMは、Sとの親和力が強く、熱間加工性の向上に寄与する。このため、REMを含有させてもよい。しかしながら、REMの含有量が過剰になると、Oと結合して、清浄性を著しく低下させ、却って熱間加工性を劣化させる。このため、REMを含有させる場合には、その含有量を0.1%以下とする。REM含有量の上限は、望ましくは0.08%である。
一方、前記したREMの効果は、REMの含有量が0.001%以上の場合に安定して得られる。
なお、「REM」とは、Sc、Yおよびランタノイドの合計17元素の総称であり、REMの含有量はREMのうちの1種または2種以上の元素の合計含有量を指す。また、REMについては一般的にミッシュメタルに含有される。このため、例えば、ミッシュメタルの形で添加して、REMの量が上記の範囲となるように含有させてもよい。
上記のCaおよびREMは、そのうちのいずれか1種のみ、または2種の複合で含有させることができる。これらの元素を複合して含有させる場合の合計量は0.15%であってもよい。
Co:1%以下
Coは、クリープ強度を向上させる作用を有する。すなわち、Coは、Niと同様オ−ステナイト生成元素であり、相安定性を高めてクリープ強度の向上に寄与する。したがって、Coを含有させてもよい。しかしながら、Coは極めて高価な元素であるため、Coの過剰の含有は大幅なコスト増を招く。このため、Coを含有させる場合には、その含有量を1%以下とする。Co含有量の上限は、望ましくは0.8%である。
一方、前記したCoの効果は、Coの含有量が0.01%以上の場合に安定して得られる。
Cu:1%以下
Cuは、クリープ強度を向上させる作用を有する。すなわち、Cuは、NiおよびCoと同様オ−ステナイト生成元素であり、相安定性を高めてクリープ強度の向上に寄与する。したがって、Cuを含有させてもよい。しかしながら、Cuが過剰に含有された場合には熱間加工性の低下を招く。このため、Cuを含有させる場合には、その含有量を1%以下とする。Cu含有量の上限は、望ましくは0.8%である。
一方、前記したCuの効果は、Cuの含有量が0.01%以上の場合に安定して得られる。
Mo:1%以下
Moは、クリープ強度を向上させる作用を有する。すなわち、Moは、マトリックスに固溶して高温でのクリープ強度を向上させる作用を有する。したがって、Moを含有させてもよい。しかしながら、Moが過剰に含有された場合にはオーステナイトの安定性が低下して、却ってクリープ強度の低下を招く。そのため、Moを含有させる場合には、その含有量を1%以下とする。Mo含有量の上限は、望ましくは0.8%である。
一方、前記したMoの効果は、Moの含有量が0.01%以上の場合に安定して得られる。
V:0.5%以下
Vは、クリープ強度を向上させる作用を有する。すなわち、Vは、CまたはNと結合して微細な炭化物または炭窒化物を形成し、クリープ強度を向上させる作用を有する。したがって、Vを含有させてもよい。しかしながら、Vが過剰に含有された場合、炭化物または炭窒化物として多量に析出し、クリープ延性の低下を招く。そのため、Vを含有させる場合には、その含有量を0.5%以下とする。V含有量の上限は、望ましくは0.4%である。
一方、前記したVの効果は、Vの含有量が0.01%以上の場合に安定して得られる。
Nb:0.5%以下
Nbは、Vと同様にCやNと結合して微細な炭化物や炭窒化物として粒内に析出し、高温でのクリープ強度向上に寄与する。したがって、Nbを含有させてもよい。しかしながら、Nbの含有量が過剰になると炭化物や炭窒化物として多量に析出し、クリープ延性および靱性の低下を招く。そのため、Nbを含有させる場合には、その含有量を0.5%以下とする。Nb含有量の上限は、望ましくは0.4%である。
一方、前記したNbの効果は、Nbの含有量が0.01%以上の場合に安定して得られる。
Zr:0.5%以下
Zrは、クリープ強度を向上させる作用を有する。すなわち、Zrは、粒界強化元素であり、高温でのクリープ強度向上に寄与し、さらに、クリープ延性の向上にも寄与する。したがって、Zrを含有させてもよい。しかしながら、Zrの含有量が0.5%を超えると熱間加工性が低下する場合がある。そのため、Zrを含有させる場合には、その含有量を0.5%以下とする。Zr含有量の上限は、望ましくは0.4%である。
一方、前記したZrの効果は、Zrの含有量が0.01%以上の場合に安定して得られる。
上記のCo、Cu、Mo、V、NbおよびZrは、そのうちのいずれか1種のみ、または、2種以上の複合で含有させることができる。これらの元素を複合して含有させる場合の合計量は、4.5%であってもよい。
(B)部材の平均結晶粒径と部材外表面部の硬さ:
前述の(A)項に記載の化学組成を有する本発明のオーステナイト系耐熱合金部材は、部材の平均結晶粒径d(μm)と、部材の外表面から5mm深さまでの領域における最高硬さHV0.1(max)とが、下記の、
HV0.1(max)≦(−1/6)×d+300・・・[1]
式を満足するものでなければならない。
本発明のオーステナイト系耐熱合金部材は、製造時の表面疵や酸化皮膜の除去を目的に、表面を工具により切削加工されたり、グラインダーやベルターなどにより研磨加工されるので、部材外表面部には、上記の加工により転位が導入されて硬さが増大する。このため、粒内の変形抵抗が大きくなり、さらに、曲げ加工中にも転位が導入されるため、粒内において動的析出が生じる。上記の動的析出により著しく強化された粒内に対し、相対的に粒界は弱化する。また、熱間曲げ加工時には部材の外表面に大きな引張応力が発生し、部材の結晶粒径が大きくなるほど部材の変形能は小さくなる。このため、部材の結晶粒径が大きくなるほど粒界に応力が集中しやすくなり、その結果、粒界が開口して、微細な割れとなるからである。
上記の「HV0.1」は、試験力を0.9807N(100gf)としてマイクロビッカース硬さ試験を実施した場合の「硬さ記号」を意味する。
なお、部材の平均結晶粒径d(μm)と、部材の外表面から5mm深さまでの領域における最高硬さHV0.1(max)とが、上述した[1]式を満足するという条件は、例えば、(A)項に記載の化学組成を有する本発明のオーステナイト系耐熱合金を素材として、溶解、鍛造、熱間製管、溶体化熱処理により製造した後、さらに、次の<A>または<B>の処理を施すことによって、安定して達成することができる。
<A>切削バイトにより部材表面を切削加工した後、粒度が60番より細かい番手の砥石にて1回以上表面を研磨加工する。
<B>切削バイトにより部材表面を切削加工した後、900〜1200℃の温度域で0.1〜5h保持する熱処理を行う。
なお、上述のとおり、部材の平均結晶粒径d(μm)が大きくなればなるほど、粒界に応力が集中しやすくなって、微細な割れを生じやすい。このため、部材の平均結晶粒径dは、520μm以下であることが望ましい。
一方、前記した方法で、所望の部材を製造する場合、部材の平均結晶粒径dは、細粒になるとクリープ強度が低下するため、通常50μm程度が下限となる。
(A)項に記載の化学組成を有するとともに、前記[1]式を満足する本発明のオーステナイト系耐熱合金部材を用いて熱間で曲げ加工する場合の加工温度T(℃)とひずみ量ε(%)は、下記の、
T≧200×log10ε+900・・・[2]
式を満足するものであることが好ましい。
(A)項に記載の化学組成を有するとともに、前記[1]式を満足する本発明のオーステナイト系耐熱合金部材を用いて熱間で曲げ加工する場合であっても、加工温度T(℃)が低く、ひずみ量ε(%)が大きい場合には、動的析出する炭化物は、その量が多くなり、また、早く析出する。このため、粒内の変形能は低下し、その結果、著しく強化された粒内に対して相対的に粒界が弱化して割れが発生しやすくなる。
しかしながら、前記[1]式を満足する本発明のオーステナイト系耐熱合金部材を用いて熱間で曲げ加工する場合の加工温度T(℃)とひずみ量ε(%)が、前記の[2]式を満足すれば、曲げ加工した部材の外表面および表面近傍の内部における微細な割れの発生を安定して抑止することができる。
[2]式における加工温度T(℃)の下限は950℃であることが好ましく、また、その上限は1250℃であることが好ましい。
[2]式におけるひずみ量ε(%)の上限は、加工温度T(℃)が上記好ましい上限の1250℃となる場合の56%程度であってもよいが、40%であることが好ましい。一方、ひずみ量ε(%)の下限は、加工温度T(℃)が上記好ましい下限の950℃となる場合の1.8%程度であってもよい。
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
表1に示す化学組成を有するオーステナイト系耐熱合金を実験室溶解してインゴットを作製した。
Figure 0005846074
上記インゴットを用いて、熱間での鍛造と圧延による成形、固溶化熱処理および切削バイトによる表面切削加工を行い、各オーステナイト系耐熱合金について、厚さ15mm、幅100mm、長さ500mmの合金板を複数枚作製した。
その後、合金板の一部については、粒度40番または60番の砥石にて1〜4回研磨加工した。さらに、上記合金板の一部に対して、950℃で3h加熱してから空冷する熱処理、または1200℃で0.5h加熱してから水冷する熱処理を施した。
上記のようにして得た各合金板の厚さ方向中心部から、長手方向に平行で、さらに板の外表面が幅3mm程度含まれるような、直径が10mmで長さが130mmの試験片を複数本ずつ機械加工により作製した。
上記の直径が10mmで長さが130mmの試験片を用いて、先ず、試験片の平均結晶粒径d(μm)および試験片の外表面から中心部(つまり、5mm深さ)までの領域における最高硬さHV0.1(max)を調査した。
具体的には、試験片の平均結晶粒径d(μm)は、上記の試験片を横断面が被検面となるように切断し、鏡面研磨した後、王水で腐食して、倍率100倍で3視野光学顕微鏡観察して、切断法により平均粒切片長さを測定した。そして、上記の平均粒切片長さを1.128倍して平均結晶粒径d(μm)を求めた。
上記領域における最高硬さHV0.1(max)は、上記の試験片を横断面が被検面となるように切断し、鏡面研磨した後、外表面から中心部までのマイクロビッカース硬さを、試験力0.9807N(100gf)にてランダムに50点程度測定し,最も大きい値を最高硬さとした。
次に、上記直径が10mmで長さが130mmの試験片を用いて、実際のボイラ用配管の熱間曲げ加工の再現試験を行った。
具体的には、グリーブル試験機を用いて、上記の試験片を、加工温度T(℃)を種々変えて、10-4-1〜10-3-1の極低ひずみ速度で引張試験し、ひずみ量ε(%)が種々変わるように途中で引張試験を中断し、引張試験中断後の試験片を用いて、試験片表面部および内部の割れを調査した。
なお、グリーブル試験とは、前述の直径10mm、長さ130mmの試験片中央部を通電加熱しながら行う引張試験であり、加工温度T(℃)は、グリーブル試験片の中央部に熱電対を溶着して測定した。また、ひずみ量ε(%)は、引張試験中断後の試験片中央部の絞りRaを測定し、下記の式を用いて換算した結果とした。
ε={Ra/(1−Ra)}×100。
上記の引張試験中断後の試験片表面における割れの有無は、JIS Z 2343−1(2001)に規定される浸透探傷試験にて調査した。さらに、試験片内部の割れの有無は、引張試験中断後の試験片中央部を横断面が被検面となるように切断し、鏡面研磨した後、倍率100倍で光学顕微鏡観察して調査した。
上記調査の結果、試験片表面および試験片内部の双方に割れが認められなかったものを「良」、光学顕微鏡による観察で試験片内部に20μm以下の微少な割れは認められたものの浸透探傷試験では試験片表面に割れが認められなかったものを「可」、試験片表面および試験片内部の双方に割れが認められたものを「不可」として、熱間曲げ加工時の耐割れ性を評価した。表面に割れはないが、内部に微割れが存在しているにも拘わらず「可」と判定した理由は、非常に割れが小さいため、実プラントにおいて重大な事故につながる可能性は低いと考えられるためである。
表2に、各合金板に施した研磨加工および熱処理の条件とともに、上記各試験の結果を示す。
Figure 0005846074
表2から、本発明で規定する条件を満足する合金板から採取した試験片を用いて、実際のボイラ用配管の熱間曲げ加工の再現試験であるグリーブル試験を行った試験番号2〜6、8〜11、13、14、16〜19、22および24〜26の場合、試験片表面に割れが発生せず、熱間曲げ加工時の耐割れ性に優れることが明らかである。
上記の試験番号のうちでも、グリーブル試験の加工温度T(℃)とひずみ量ε(%)が下記の、
T≧200×log10ε+900・・・[2]
式を満足する試験番号9、19および26の場合、試験片表面だけではなく内部にも割れが発生せず、熱間曲げ加工時の耐割れ性に極めて優れることが明らかである。
これに対して、本発明で規定する条件を満足しない合金板から採取した試験片を用いてグリーブル試験を行った試験番号1、7、12、15、20、21および23の場合、試験片表面および試験片内部の双方に割れが認められており、少なくとも熱間加工性に劣っていることが明らかである。
本発明のオーステナイト系耐熱合金部材は、熱間曲げ加工時の耐割れ性、なかでも厚肉部材として熱間曲げ加工される場合の外表面および表面近傍の内部の耐割れ性に優れる。このため、本発明のオーステナイト系耐熱合金部材は、発電用ボイラの主蒸気管や再熱蒸気管などの厚肉、大径の高温部材に熱間加工して用いるのに好適である。

Claims (6)

  1. 発電用ボイラに用いられるオーステナイト系耐熱合金部材であって、
    質量%で、C:0.03〜0.15%、Si:1%以下、Mn:2%以下、P:0.03%以下、S:0.01%以下、Ni:40〜55%、Cr:20〜35%、W:3〜10%、Ti:0.01〜1.2%、Al:0.3%以下、B:0.0001〜0.01%、N:0.02%以下およびO:0.01%以下を含み、残部がFeおよび不純物からなる化学組成であって、部材の平均結晶粒径d(μm)と、部材の外表面から5mm深さまでの領域における最高硬さHV0.1(max)とが、下記の[1]式を満足することを特徴とするオーステナイト系耐熱合金部材。
    HV0.1(max)≦(−1/6)×d+300・・・[1]
  2. Feの一部に代えて、質量%で、下記の第1群または第2群から選択される1種以上の元素を含有することを特徴とする請求項1に記載のオーステナイト系耐熱合金部材。
    第1群:Ca:0.05%以下およびREM:0.1%以下
    第2群:Co:1%以下、Cu:1%以下、Mo:1%以下、V:0.5%以下、Nb:0.5%以下およびZr:0.5%以下
  3. 加工温度T(℃)とひずみ量ε(%)が下記の[2]式を満足する熱間曲げ加工に用いられることを特徴とする請求項1または2に記載のオーステナイト系耐熱合金部材。
    T≧200×log10ε+900・・・[2]
  4. 請求項1〜3のいずれか一つに記載のオーステナイト系耐熱合金部材を製造する方法であって、
    切削バイトにより部材表面を切削加工した後、粒度が40番より細かい番手の砥石にて1回以上表面を研磨加工する、オーステナイト系耐熱合金部材の製造方法。
  5. 請求項1〜3のいずれか一つに記載のオーステナイト系耐熱合金部材を製造する方法であって、
    切削バイトにより部材表面を切削加工した後、900〜1200℃の温度域で0.1〜5h保持する熱処理を行う、オーステナイト系耐熱合金部材の製造方法。
  6. 請求項1〜3のいずれか一つに記載のオーステナイト系耐熱合金部材を製造する方法であって、
    切削バイトにより部材表面を切削加工した後、
    粒度が40番より細かい番手の砥石にて1回以上表面を研磨加工する工程と、
    900〜1200℃の温度域で0.1〜5h保持する熱処理を行う工程と、
    を備える、オーステナイト系耐熱合金部材の製造方法。
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