本発明の一態様に係る実施の形態及び実施例について、図面を用いて詳細に説明する。但し、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更しうることは当業者であれば容易に理解される。従って、実施の形態及び実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、以下に説明する本発明の一態様において、同じ物を指し示す符号は異なる図面間において共通とする。
また、以下に説明する実施の形態及び実施例それぞれにおいて、特に断りがない限り、本明細書に記載されている他の実施形態及び実施例と適宜組み合わせて実施することが可能である。
(実施の形態1)
本実施の形態では、半導体層が設けられた基板の作製方法の一例について説明する。具体的には、絶縁層を介して単結晶シリコン層が設けられた基板の作製方法(SOI基板の作製方法)について説明する。
まず、単結晶半導体基板100とベース基板120とを準備する(図1(A−1)、(B−1)参照)。
単結晶半導体基板100としては、単結晶シリコン基板、単結晶ゲルマニウム基板、単結晶シリコンゲルマニウム基板等の第14族元素でなる単結晶半導体基板、またはガリウムヒ素、インジウムリン等の化合物半導体基板を用いることができる。市販のシリコン基板としては、直径5インチ(125mm)、直径6インチ(150mm)、直径8インチ(200mm)、直径12インチ(300mm)、直径16インチ(400mm)サイズの円形のものが代表的であり、いずれのサイズのシリコン基板も用いることができる。なお、単結晶半導体基板100の形状は円形に限られず、矩形状等に加工して用いることも可能である。本実施の形態では、単結晶半導体基板100として単結晶シリコン基板を用いる場合について説明する。
ベース基板120としては、絶縁基板を用いることが好ましい。絶縁基板の具体例としては、アルミノシリケートガラス、アルミノホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラスのような電子工業用に使われる各種のガラス基板や、石英基板、セラミック基板、サファイア基板、プラスチック基板が挙げられる。また、ベース基板120として単結晶半導体基板(例えば、単結晶シリコン基板)や多結晶半導体基板(例えば、多結晶シリコン基板)を用いることも可能であるが、量産性やコストの面を考慮すると、大面積化が可能で安価な絶縁基板を用いることが好ましい。本実施の形態では、ベース基板120として絶縁基板の一つであるガラス基板を用いる場合について説明する。
次に、単結晶半導体基板100の表面に絶縁層102を形成する(図1(A−2)参照)。
絶縁層102を形成する材料の具体例としては、酸化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜、窒化シリコン膜、窒化酸化シリコン膜等が挙げられる。そして、これらの材料を用いて形成される絶縁層は、単層構造としてもよいし、積層構造としてもよい。なお、本明細書において、「酸化窒化シリコン」とは、その組成として、窒素よりも酸素の含有量が多いものであって、好ましくは、ラザフォード後方散乱法(RBS:Rutherford Backscattering Spectrometry)及び水素前方散乱法(HFS:Hydrogen Forward Scattering)を用いて測定した場合に、濃度範囲として酸素が50〜70原子%、窒素が0.5〜15原子%、シリコンが25〜35原子%、水素が0.1〜10原子%の範囲で含まれるものをいう。また、本明細書において、「窒化酸化シリコン」とは、その組成として、酸素よりも窒素の含有量が多いものであって、好ましくは、RBS及びHFSを用いて測定した場合に、濃度範囲として酸素が5〜30原子%、窒素が20〜55原子%、シリコンが25〜35原子%、水素が10〜30原子%の範囲で含まれるものをいう。ただし、酸化窒化シリコンまたは窒化酸化シリコンを構成する原子の合計を100原子%としたとき、窒素、酸素、シリコン及び水素の含有比率が上記の範囲内に含まれるものとする。
また、絶縁層102の形成方法の具体例としては、熱酸化法、CVD法、またはスパッタリング法が挙げられる。
例えば、CVD法を用いて絶縁層102を形成する場合には、テトラエトキシシラン(略称;TEOS:化学式Si(OC2H5)4)等の有機シランを用いて作製される酸化シリコン膜を絶縁層102に用いることが生産性の点から好ましい。
また、熱酸化法を用いて絶縁層102(ここでは、SiOx膜)を形成する場合には、主成分のガスを酸素(O2)として、ハロゲンを含む酸化性雰囲気中で熱酸化することが好ましい。例えば、塩素(Cl)を含む酸化性雰囲気中で単結晶半導体基板100に熱酸化処理を行うことにより、塩素酸化された絶縁層102を形成する。この場合、絶縁層102は、塩素原子を含有する絶縁層となる。絶縁層102中に含有された塩素原子は、歪みを形成する。その結果、絶縁層102の水分に対する吸収割合が向上し、拡散速度が増大する。つまり、絶縁層102表面に水分が存在する場合に、当該表面に存在する水分を絶縁層102中に素早く吸収し、拡散させることができる。
熱酸化処理の一例としては、酸素に対し塩化水素(HCl)を0.5〜10体積%(代表的には3体積%)の割合で含む酸化性雰囲気中で、900℃〜1150℃の温度(代表的には1000℃)で行うことができる。処理時間は0.1〜6時間、好ましくは0.5〜1時間とすればよい。熱酸化処理により形成される酸化膜の膜厚は、10nm〜1000nm(好ましくは50nm〜300nm)、例えば100nmの厚さとすればよい。
本実施の形態では、塩素(Cl)を含む酸化性雰囲気中で単結晶半導体基板100に熱酸化処理を行うことにより、塩素原子の濃度が1×1017atoms/cm3〜1×1021atoms/cm3となるように絶縁層102を形成する。絶縁層102に塩素原子を含有させることによって外因性不純物である重金属(例えば、Fe、Cr、Ni、Mo等)を捕集し、単結晶半導体基板100の汚染を防止することができる。
また、絶縁層102にハロゲン原子を含ませることにより、単結晶半導体基板に悪影響を与える不純物(例えば、Na等の可動イオン)をゲッタリングすることができる。つまり、絶縁層102を形成した後に行われる熱処理により、単結晶半導体基板に含まれる不純物が絶縁層102に析出し、ハロゲン(例えば塩素)と反応して捕獲されることとなる。それにより絶縁層102中に捕集した当該不純物を固定して単結晶半導体基板100の汚染を防ぐことができる。また、絶縁層102はガラス基板と貼り合わせた場合に、ガラスに含まれるNa等の不純物を固定する膜として機能しうる。特に、絶縁層102として、HCl酸化等によって膜中に塩素原子等のハロゲン原子を含ませることは、半導体基板の洗浄が不十分である場合や、繰り返し再利用して用いられる半導体基板の汚染除去に有効となる。
なお、絶縁層102に含有させるハロゲン原子は塩素原子に限られず、例えば絶縁層102にフッ素原子を含有させてもよい。単結晶半導体基板100の表面をフッ素酸化するには、単結晶半導体基板100の表面をフッ酸に浸漬した後に酸化性雰囲気中で熱酸化処理を行うことや、NF3を酸化性雰囲気に添加して熱酸化処理を行えばよい。
次に、絶縁層102を介して運動エネルギーを有するイオン103を単結晶半導体基板100に照射することにより、単結晶半導体基板100の表面から所定の深さに結晶構造が損傷された脆化領域104を形成する(図1(A−3)参照)。
本発明の一態様においては、イオンドーピング装置を用いることで、質量分離されていないイオン103を単結晶半導体基板100に照射することを第1の特徴とする。イオンドーピング装置の代表的な装置は、プロセスガスをプラズマ励起して生成された全てのイオン種をチャンバー内に配置された被処理体に照射する非質量分離型の装置である。本明細書においては、イオンドーピング装置を用いて、ソースガス(原料ガス)から生成されるイオンを質量分離せず対象物(ここでは、単結晶半導体基板100)に照射する方法を「イオンドーピング法」と呼ぶ。
イオンドーピング装置の主要な構成は、被処理物を配置するチャンバーと、所望のイオンを発生させるイオン源と、イオンを加速し、照射するための加速機構である。イオン源は、所望のイオン種を生成するためのソースガスを供給するガス供給装置、ソースガスを励起して、プラズマを生成させるための電極等で構成される。プラズマを形成するための電極としては、フィラメント型の電極や容量結合高周波放電用の電極等が用いられる。加速機構は、引出電極、加速電極、減速電極、接地電極等の電極、及びこれらの電極に電力を供給するための電源等で構成される。加速機構を構成する電極には複数の開口やスリットが設けられており、イオン源で生成されたイオンは電極に設けられた開口やスリットを通過して加速される。なお、イオンドーピング装置の構成は上述したものに限定されず、必要に応じた機構が設けられる。
なお、イオンを照射する装置としては、イオンドーピング装置の他にイオン注入装置がある。イオン注入装置は、プラズマ中のイオン種を質量分離し、ある特定の質量のイオン種を被処理体に照射する装置(質量分離型の装置)であり、この点でイオンドーピング装置とは大きく異なるものである。
次に、脆化領域104の形成方法を説明する。
まず、イオンドーピング装置を用いてソースガス(原料ガス)を励起し、ソースガスのプラズマを生成する。そして、このプラズマに含まれるイオン103を質量分離しない状態のまま、電界の作用によりプラズマから引き出して、イオン103を加速する。この加速されたイオン103を単結晶半導体基板100に照射して、脆化領域104を形成する。
本実施の形態では、ソースガスとして水素を含むガス(例えば、H2)を用いる。すなわち、水素を含むガスを励起してプラズマを生成し、質量分離せずにプラズマ中に含まれるイオン103を加速し、この加速されたイオン103を単結晶半導体基板100に照射する。この場合、質量分離せずにプラズマ中に含まれるイオン種は、H+、H2 +、H3 +を含む。ここで、水素ガスから生成されるイオン種(H+、H2 +、H3 +)の総量に対してH3 +の割合が50%以上となるように単結晶半導体基板100にイオン103を照射することが好ましく、更に好ましくは、H3 +の割合を70%以上とする。上述したように、イオンドーピング装置は質量分離を行わないが、単結晶半導体基板100に対してできる限り同じ質量のイオン103を照射することで、単結晶半導体基板100の同じ深さに集中させてイオンを添加することができる。
脆化領域104が形成される領域の深さは、イオン103の運動エネルギー、質量と電荷、イオン103の入射角によって調節することができる。ここで、運動エネルギーは、加速電圧により調節することができる。脆化領域104は、イオン103の平均侵入深さとほぼ同じ深さの領域に形成されるため、イオン103を添加する深さにより、単結晶半導体基板100から分離される単結晶半導体層の厚さが決定される。本実施の形態では、単結晶半導体層の厚さが10nm以上500nm以下、好ましくは50nm以上200nm以下になるように、脆化領域104が形成される深さを調節する。
なお、脆化領域104を浅い領域に形成するためには、イオン103の加速電圧を低くする必要があるが、ソースガスとして水素を含むガスを用いた場合、プラズマ中のH3 +の割合を高くすることで、イオン103を効率よく、単結晶半導体基板100に照射できる。H3 +はH+の3倍の質量を持つことから、同じ深さに水素原子を添加する場合、H3 +の加速電圧は、H+の加速電圧の3倍にすることが可能となる。イオンの加速電圧を大きくすることができれば、イオンの照射工程のタクトタイムを短縮することが可能となり、生産性やスループットの向上を図ることができる。
また、イオンドーピング装置は廉価で、大面積処理に優れているため、このようなイオンドーピング装置を用いてH3 +を照射することで、大面積化、低コスト化、生産性向上等の顕著な効果を得ることができる。また、イオンドーピング装置を用いた場合、重金属も単結晶半導体基板100に同時に導入されるおそれがあるが、塩素原子を含有する絶縁層102を介してイオンの照射を行うことによって、重金属による単結晶半導体基板100の汚染を防ぐことができる。すなわち、本発明の一態様は、絶縁層102として塩素原子を含有する絶縁層を単結晶半導体基板100の表面に形成した後に、イオンドーピング装置を用いて脆化領域104を形成することが好ましい。
また、本発明の一態様においては、イオンドーピング装置を用いてイオンを単結晶半導体基板100に照射する際に、単結晶半導体基板100の温度を250℃よりも高い温度に設定することを第2の特徴とする。
イオンを単結晶半導体基板100に照射する際の単結晶半導体基板100の温度が所定の温度よりも低い場合、イオンのドーズ量と、イオンが照射された脆化領域104に含まれるイオンの濃度との関係は、概略比例関係を示す。一方、イオンを単結晶半導体基板100に照射する際の単結晶半導体基板100の温度が所定の温度よりも高くなればなるほど、比例関係を示さなくなり、イオンのドーズ量に対してイオンが照射された脆化領域104に含まれるイオンの濃度の方が徐々に低くなっていく傾向がある。これは、単結晶半導体基板100の温度が所定の温度よりも高くなると、照射したイオンの一部がガスとして単結晶半導体基板100の外部に拡散(放出)してしまう(外方拡散してしまう)ためと考えられる。
本発明者らは鋭意検討した結果、イオンドーピングの際にイオンの一部がガスとして外方拡散するように脆化領域を形成すると、SOI基板の歩留まりが向上することを見出した。そして、イオンドーピングの際にイオンの一部がガスとして外方拡散するようにするためには、単結晶半導体基板100の温度を250℃以上に設定するとよいことを見出した。
また、イオンドーピングの際に単結晶半導体基板100の温度を高く設定しすぎると、脆化領域104を形成すると同時に、脆化領域に亀裂が発生してしまうおそれがある。このため、イオンドーピングの際の単結晶半導体基板100の到達温度は、500℃以下、好ましくは460℃以下、更に好ましくは400℃以下とするとよい。
以上に説明した方法を用いることにより、歩留まりの高いSOI基板を製造する上で最適な脆化領域104を形成することができる。
次に、ベース基板120を準備する(図1(B−1)参照)。ベース基板120を用いるに際し、ベース基板120の表面を予め洗浄しておくことが好ましい。具体的には、ベース基板120の表面を、塩酸過水(HPM)、硫酸過水(SPM)、アンモニア過水(APM)、希フッ酸(DHF)等を用いて超音波洗浄を行う。このような洗浄処理を行うことによって、ベース基板120表面の平坦化や残存する研磨粒子を除去することができる。
次に、絶縁層102を介して単結晶半導体基板100とベース基板120とを貼り合わせる(図1(C)参照)。
次に、熱処理を行い脆化領域104において単結晶半導体基板100を分離することにより、絶縁層102を介してベース基板120上に単結晶半導体層124を設ける(図1(D)参照)。熱処理を行うことにより、脆化領域104に微小な孔が形成され、この微小な孔の中にイオンの照射により添加された元素が析出し、内部の圧力が上昇する。圧力の上昇によって脆化領域104の微小な孔に体積変化が起こり、脆化領域104に亀裂が生じるため、脆化領域104に沿って単結晶半導体基板100が分離する。この結果、単結晶半導体基板100から分離された単結晶半導体層124が、絶縁層102を介してベース基板120上に形成される。分離後に形成される単結晶半導体層124の膜厚は、例えば10nm以上500nm以下とすればよく、好ましくは50nm以上200nm以下とする。なお、熱処理を行うための加熱手段としては、抵抗加熱炉等の加熱炉、RTA(瞬間熱アニール、Rapid Thermal Anneal)装置、マイクロ波加熱装置等を用いることができる。例えば、RTA装置を用いる場合、加熱温度550℃以上730℃以下、処理時間0.5分以上60分以内で加熱すればよい。
本発明の一態様においては、上述した方法により脆化領域104を形成しているため、分離工程の際に半導体薄膜の一部の転載不良が生じることを抑制できる。また、分離工程の際に半導体薄膜の一部の転載不良が生じることを抑制できるとともに、分離工程直後の単結晶半導体層124の表面の凹凸を小さくすることができる。
次に、必要に応じて、単結晶半導体層124の表面を平坦化する工程(以下、「平坦化工程」という。)を行う。例えば、ベース基板120上に形成された単結晶半導体層124の表面にレーザ光130を照射することによって、単結晶半導体層124の表面を平坦化する(図2参照)。
レーザ光130の照射は、単結晶半導体層124のうち、平坦化を必要とする所望の領域に対してのみ行えばよい。したがって、単結晶半導体層124の全面にレーザ光130を照射して、単結晶半導体層124の全面を平坦化してもよいし、単結晶半導体層124の一部の領域にレーザ光130を照射し、このレーザ光130の照射領域を選択的に平坦化してもよい。また、レーザ光130の照射は、平坦化を必要とする所望の領域に対して1回行う構成としてもよいし、複数回(例えば、5〜20回)行う構成としてもよい。ただし、平坦化を必要とする所望の領域に対してレーザ光130を複数回照射する場合、レーザ光をスキャンせず(すなわち、オーバーラップ率が100%となるよう)に照射することが好ましい。
また、レーザ光130のビームスポットの形状は、特に限定されず、どのような形状としてもよい。例えば、矩形(線状)、正方形、楕円、正円とすればよいが、代表的には矩形(線状)とすればよい。
一般的に、分離後にベース基板120上に形成された単結晶半導体層124の表層部には、脆化領域104の形成及び脆化領域104での分離等の際に凹凸が形成され、平坦性が損なわれている。本実施の形態では、図2に示すように凹凸を有する単結晶半導体層124の表面側から単結晶半導体層124にレーザ光130を照射することによって、単結晶半導体層124の表層部を溶融させ、平坦性を向上させることができる。なお、単結晶半導体層124が設けられたベース基板120を加熱しながら、単結晶半導体層124にレーザ光を照射することもできる。この際の加熱温度は、ベース基板120の歪み点以下の温度を採用すればよい。例えば、ガラス基板であれば、300℃以上700℃以下の温度範囲で加熱すればよい。
また、平坦化工程において、単結晶半導体層124に照射するレーザ光130のエネルギー密度を、当該レーザ光130の照射により単結晶半導体層124の結晶構造が変化する際のエネルギー密度未満とすることが好ましい。これは、単結晶半導体層124に照射するレーザ光130のエネルギー密度が高すぎる場合には、単結晶半導体層124が完全に溶融(完全溶融)して結晶構造が変化(微結晶化)し、半導体膜の表面に凹凸が生じるためである。本明細書において、「完全溶融」とは、レーザ光130の照射により溶融する単結晶半導体層124の深さが、単結晶半導体層124と絶縁層102との界面から単結晶半導体層124表面までの深さ方向の距離(単結晶半導体層124の厚さ)と等しくなる現象をいう。換言すれば、単結晶半導体層124が層全体に亘って溶融し、液相となる状態をいう。
このように、平坦化工程においては、単結晶半導体層124を完全に溶融させるのではなく、部分的に溶融(部分溶融)させるようなエネルギー密度を有するレーザ光130を単結晶半導体層124の表面側から照射して、単結晶半導体層124表面の平坦化を行うことが好ましい。本明細書において、「部分溶融」とは、レーザ光130の照射により溶融する単結晶半導体層124の深さが、単結晶半導体層124と絶縁層102との界面から単結晶半導体層124表面までの深さ方向の距離(単結晶半導体層124の厚さ)よりも浅くなる現象をいう。つまり、単結晶半導体層124の上層は溶融して液相となる一方で、下層は溶けずに固相の単結晶半導体のままである状態をいう。
単結晶半導体層124を部分溶融させることにより、レーザ光130の照射により溶融した部分の結晶成長は、溶融していない単結晶半導体層の面方位に基づいて行われるため、完全に溶融する場合と比較して単結晶半導体層124の結晶構造が変化(微結晶化)することを抑制しつつ、表面を平坦化することができる。
また、単結晶半導体層124に照射するレーザ光のエネルギー密度は、レーザ光の波長、レーザ光の表皮深さ、単結晶半導体層124の膜厚等を考慮して、単結晶半導体層124が完全に溶融しない(すなわち、部分溶融する)程度のエネルギー密度とすることが好ましい。換言すると、単結晶半導体層124に照射するレーザ光のエネルギー密度は、単結晶半導体層124が完全溶融するのに必要な最小のエネルギー密度よりも小さくすることが好ましい。
具体的には、レーザ光の照射により単結晶半導体層124が完全溶融するのに必要な最小のエネルギー密度を100%としたとき、少なくとも100%を超えないようなエネルギー密度を有するレーザ光を単結晶半導体層124に照射することにより、単結晶半導体層124の完全溶融を防止することができる。そして、好ましくは98%を上限値とし、さらに好ましくは96%を上限値とする。このように上限値を定めることにより、レーザ光の照射によって単結晶半導体層124が完全溶融することを防止できるため、単結晶半導体層124の表面を十分に平坦化することができる。
そして、レーザ光の照射により単結晶半導体層124が完全溶融するのに必要な最小のエネルギー密度を100%としたとき、72%を下限値とすることが好ましく、さらに好ましくは85%を下限値とするとよい。少なくとも72%以上の値のエネルギー密度を有するレーザ光を照射することにより、単結晶半導体層124の表面を十分に平坦化することができる。
以上のように、単結晶半導体層124が完全溶融するのに必要な最小のレーザ光のエネルギー密度を100%としたとき、単結晶半導体層124に照射するレーザ光のエネルギー密度を72%以上98%以下とし、好ましくは85%以上96%以下とする。このように照射するレーザ光のエネルギー密度の条件を規定することにより、絶縁層102を介してベース基板120上に設けられた単結晶半導体層124の平坦化を十分に行うことができる。
なお、レーザ光を照射する際の雰囲気は、レーザ光を照射するチャンバー内における酸素濃度を極力低くして、平坦化工程において単結晶半導体層124に酸素が取り込まれることを抑制することが好ましい。雰囲気中の酸素が単結晶半導体層124に取り込まれてしまうと、単結晶半導体層124の表面に酸化膜が形成される。そして、表面に酸化膜が形成された単結晶半導体層124の領域にレーザ光を照射すると、単結晶半導体層124の表面の平坦性が著しく損なわれてしまう。このため、平坦化工程においてレーザ光を単結晶半導体層124の所定の領域に複数回照射する構成を採用する場合、十分な平坦化を行うためにチャンバー内における酸素濃度を極力低くして、単結晶半導体層124に酸素が取り込まれることを抑制することが特に好ましい。チャンバー内における酸素濃度を低くするための具体的な方法としては、チャンバー内の雰囲気を、真空雰囲気、還元性雰囲気、または不活性雰囲気(例えば、窒素雰囲気)とすればよい。そして、好ましくは真空雰囲気、還元性雰囲気、または不活性雰囲気中の酸素濃度を100ppm未満とし、より好ましくは1ppm未満とするとよい。
また、雰囲気中の酸素が単結晶半導体層124に取り込まれてしまうと、当該単結晶半導体層124を用いた素子(例えば、トランジスタ)の特性に悪影響を及ぼすおそれがある。このような悪影響を防止するためには、レーザ光を照射するチャンバー内の雰囲気を還元性雰囲気(例えば、水素雰囲気)または不活性雰囲気とし、還元性雰囲気または不活性雰囲気中の酸素濃度を1ppb未満とし、好ましくは1ppt未満とするとよい。
また、必要に応じて、平坦化工程を行った後に熱処理を行うことが好ましい。熱処理を行うことにより、単結晶半導体層124中の欠陥や、単結晶半導体層124と絶縁層102との界面の欠陥を修復することができる。
特に、レーザ光130を照射した後の単結晶半導体層124は溶融しなかった領域に多くの欠陥を含んでいるが、高い温度で熱処理を行うことにより、単結晶半導体層124中の結晶欠陥等を効果的に修復することができる。本実施の形態では、単結晶半導体層124の加熱温度を、後の工程における熱処理の温度より高い温度であって、好ましくは640℃以上(より好ましくは700℃以上)とし、且つ単結晶半導体層124を完全溶融させない温度であって、ベース基板120の歪み点より低い温度とする。例えばベース基板120としてガラス基板を用いる場合、640℃以上750℃以下の熱処理を行うとよい。なお、熱処理の際に用いる加熱手段の具体例としては、抵抗加熱炉等の加熱炉、RTA(瞬間熱アニール、Rapid Thermal Anneal)装置が挙げられる。
また、単結晶半導体層124にレーザ光130を照射した後、単結晶半導体層124をエッチングして、薄膜化してもよい。エッチング後の単結晶半導体層124の表面は、エッチング前の単結晶半導体層124の表面状態に依存するため、エッチング前にレーザ光130を照射して単結晶半導体層124の表面を平坦化しておくことにより、薄膜化後においても平坦性を有する単結晶半導体層124を得ることができる。
上述の薄膜化のプロセスにおけるエッチングには、ドライエッチング法またはウエットエッチング法を用いることができる。ドライエッチング法を用いる場合、エッチングガスとして、塩化硼素、塩化シリコンまたは四塩化炭素等の塩化物ガス、塩素ガス、弗化硫黄、弗化窒素等の弗化物ガス、酸素ガス等を用いればよい。ウエットエッチング法を用いる場合、エッチング液としてTMAH水溶液を用いればよい。
なお、単結晶半導体層124の薄膜化を行う場合、薄膜化した後の単結晶半導体層124の厚さは、後に単結晶半導体層124から形成される素子の特性に合わせて適宜決めることができる。例えば、薄膜化した後の単結晶半導体層124の厚さを5nm以上200nm以下、好ましくは10nm以上70nm以下とすればよい。
また、単結晶半導体層124の薄膜化を行う場合は、平坦化工程の後であって、熱処理の前に行うことが好ましい。すなわち、薄膜化処理の後に熱処理を行うことで、薄膜化処理のエッチングによる単結晶半導体層124表面の損傷を修復することができる。
以上に説明したように、本実施の形態では、脆化領域104を形成する工程において、イオンドーピングを用いるとともに、イオンドーピングの際の単結晶半導体基板100の温度を250℃以上に設定することにより、単結晶半導体基板100とベース基板120との分離を行う工程(転載プロセス)を行った際に、半導体薄膜の一部の転載不良を抑制するとともに、単結晶半導体層124の表面の凹凸を小さくすることができる。このため、SOI基板の歩留まりを向上させることができる。
(実施の形態2)
本実施の形態では、実施の形態1で説明したSOI基板の作製方法とは一部異なるSOI基板の作製方法について説明する。具体的には、単結晶半導体基板100とベース基板120との貼り合わせ方法に関して説明する。
まず、単結晶半導体基板100を準備する(図3(A−1)参照)。
次に、単結晶半導体基板100の表面に絶縁層102を形成する(図3(A−2)参照)。絶縁層102の材料や形成方法は、実施の形態1で説明した絶縁層102と同様とすればよい。本実施の形態では、単結晶半導体基板100に熱酸化処理を行うことにより、絶縁層102(ここでは、SiOx膜)を形成する。
次に、絶縁層102を介して、運動エネルギーを有するイオンを単結晶半導体基板100に照射することにより、単結晶半導体基板100の所定の深さに結晶構造が損傷された脆化領域104を形成する(図3(A−3)参照)。脆化領域104の形成方法については、実施の形態1で説明した方法を用いることができるが、本実施の形態では、イオンドーピング装置を用いたイオンドーピング法により、イオンを単結晶半導体基板100に添加する。そして、イオンドーピングの際の単結晶半導体基板100の温度を250℃以上に設定する。
次に、ベース基板120を準備する(図3(B−1)参照)。
次に、ベース基板120の表面に絶縁層121(例えば、窒化シリコン膜や窒化酸化シリコン膜等の窒素を含有する絶縁膜)を形成する(図3(B−2)参照)。本実施の形態において、絶縁層121は、単結晶半導体基板100上に設けられた絶縁層102と貼り合わされる層(接合層)となる。また、ベース基板としてガラス基板を用いる場合、絶縁層121は、後にベース基板上に単結晶構造を有する単結晶半導体層を設けた際に、ベース基板に含まれるNa(ナトリウム)等の不純物が単結晶半導体層に拡散することを防ぐためのバリア層として機能する。
また、絶縁層121は接合層となるため、接合不良を抑制するために絶縁層121の表面を平滑にしておくことが好ましい。具体的には、絶縁層121の表面の平均面粗さ(Ra)を0.5nm以下、自乗平均粗さ(Rms)を0.60nm以下、より好ましくは、平均面粗さを0.35nm以下、自乗平均粗さを0.45nm以下となるように絶縁層121を形成することが好ましい。絶縁層121の表面を平滑にするためには、例えばパルス変調した電力(高周波電力)を印加してプラズマを生成するプラズマCVD装置を用いて絶縁層121を形成することが好ましいが、必ずしもこの方法に限定されるものではなく、その他のCVD法、またはスパッタリング法等により形成してもよい。なお、絶縁層121の膜厚は、10nm以上200nm以下、好ましくは50nm以上100nm以下の範囲とするとよい。
次に、単結晶半導体基板100の表面とベース基板120の表面とを対向させ、絶縁層102の表面と絶縁層121の表面とを接合させる(図3(C)参照)。
本実施の形態では、単結晶半導体基板100とベース基板120とを、絶縁層102及び絶縁層121を介して密着させた後、単結晶半導体基板100の一箇所に30Pa〜5×106Pa、好ましくは1×102Pa〜1×106Pa、更に好ましくは5×102Pa〜5×104Pa程度の圧力を加える。圧力を加えた部分から絶縁層102と絶縁層121とが接合しはじめ、自発的に接合が形成され全面に及ぶ。この接合工程は、ファンデルワールス力や水素結合が作用しており、加熱処理を伴わず、常温で行うことができるため、ベース基板120としてガラス基板の如き耐熱温度が低い基板を用いることができる。
なお、単結晶半導体基板100とベース基板120との貼り合わせを行う前に、単結晶半導体基板100上に形成された絶縁層102と、ベース基板120上に形成された絶縁層121の表面処理を予め行うことが好ましい。
表面処理としては、プラズマ処理、オゾン処理、メガソニック洗浄、2流体洗浄(純水や水素添加水等の機能水を窒素等のキャリアガスとともに吹き付ける方法)、またはこれらの方法を適宜組み合わせて行うことができる。特に、絶縁層102、絶縁層121の少なくとも一方の表面にプラズマ処理を行った後に、オゾン処理、メガソニック洗浄、または2流体洗浄を行うことによって、絶縁層102、絶縁層121表面の有機物等のゴミを除去し、表面を親水化することができる。この結果、絶縁層102と絶縁層121の接合強度をさらに向上させることができる。
また、絶縁層102と絶縁層121を接合させた後、接合強度を増加させるための熱処理を行うことが好ましい。この熱処理の温度は、脆化領域104に亀裂を発生させない程度の温度とする。例えば、20℃以上500℃以下、好ましくは50℃以上480℃以下、更に好ましくは60℃以上300℃以下の温度範囲で熱処理する。また、この温度範囲で加熱しながら、絶縁層102と絶縁層121を接合させてもよい。熱処理の加熱手段としては、抵抗加熱炉等の加熱炉、RTA(瞬間熱アニール、Rapid Thermal Anneal)装置、マイクロ波加熱装置等を用いることができる。
一般的に、絶縁層102と絶縁層121を接合と同時または接合させた後に熱処理を行うと、接合界面において脱水反応が進行し、接合界面同士が近づき、水素結合の強化や共有結合が形成されることにより接合が強化される。脱水反応を促進させるためには、脱水反応により接合界面に生じる水分を高温で熱処理を行うことにより除去する必要がある。つまり、接合後の熱処理温度が低い場合には、脱水反応で接合界面に生じた水分を効果的に除去できないため、脱水反応が進まず接合強度を十分に向上させることが難しい。
一方で、絶縁層102として、塩素原子等を含有させた酸化膜を用いた場合、当該絶縁層102が水分を吸収し拡散させることができるため、接合後の熱処理を低温で行う場合であっても、脱水反応で接合界面に生じた水分を絶縁層102へ吸収、拡散させ脱水反応を効率良く促進させることができる。この場合、ベース基板120としてガラス等の耐熱性が低い基板を用いた場合であっても、絶縁層102と絶縁層121の接合強度を十分に向上させることが可能となる。また、バイアス電圧を印加してプラズマ処理を行うことにより、絶縁層102の表面近傍にマイクロポアを形成し、水分を効果的に吸収し拡散させ、低温であっても絶縁層102と絶縁層121の接合強度を向上させることができる。
次に、熱処理を行い脆化領域104にて分離することにより、ベース基板120上に、絶縁層121及び絶縁層102を介して単結晶半導体層124を設ける(図3(D)参照)。熱処理の具体的な方法等については、実施の形態1で説明した図1(D)における熱処理と同様とすることができるので、ここでは詳細な説明を省略する。
なお、上述した絶縁層102と絶縁層121との接合強度を増加させるための熱処理を行わず、図3(D)における熱処理のみを行うことにより、絶縁層102と絶縁層121との接合強度の増加の熱処理工程と、脆化領域104における分離の熱処理工程を同時に行ってもよい。
以上の工程の後は、実施の形態1で説明した単結晶半導体層124の表面を平坦化する工程等を適宜行うことにより、絶縁層121及び絶縁層102を介してベース基板120上に単結晶半導体層124が設けられたSOI基板を作製することができる。
本発明の一態様においては、上述した方法により脆化領域104を形成しているため、分離工程の際に半導体薄膜の一部の転載不良が生じることを抑制できる。また、分離工程の際に半導体薄膜の一部の転載不良が生じることを抑制できるとともに、分離工程直後の単結晶半導体層124の表面の凹凸を小さくすることができる。
また、本実施の形態で説明した貼り合わせ方法を用いることによって、絶縁層121を接合層として用いた場合であっても、ベース基板120と単結晶半導体層124との接合強度を向上させ、信頼性を向上させることができる。そして、ベース基板120としてガラス基板を用いた場合であっても、ベース基板120上に形成される単結晶半導体層124への不純物の拡散を抑制すると共に、ベース基板120と単結晶半導体層124とが強固に密着したSOI基板を形成することができる。
また、ベース基板側に窒素を含有する絶縁膜を形成し、半導体基板側に塩素等のハロゲンを有する酸化膜を形成することにより、ベース基板との貼り合わせ前に当該半導体基板へ不純物元素が侵入することを抑制することができる。また、半導体基板側に設ける接合層として塩素等のハロゲンを有する酸化膜を形成することにより、接合後の熱処理を低温で行う場合であっても、脱水反応が効率良く促進され、接合強度を向上させることができる。
なお、分離された単結晶半導体基板100は、再生処理を行うことにより、SOI基板の製造プロセスにおいて再利用することができる。再生処理の一例としては、分離が生じた面側からレーザ光を単結晶基板100に照射する方法が挙げられる。
なお、本実施の形態では、単結晶半導体基板100上に絶縁層102を形成し、ベース基板120上に絶縁層121を形成する場合について説明したが、本発明はこの構成に限定されない。例えば、単結晶半導体基板100上に絶縁層102と絶縁層121(例えば、窒素を含有する絶縁膜)を順に積層させて形成し、絶縁層102上に形成された絶縁層121の表面とベース基板120との表面とを接合させるようにしてもよい。この場合、絶縁層121は脆化領域104の形成前に設けてもよいし、脆化領域104の形成後に設けてもよい。また、絶縁層102上に形成された絶縁層121上に、さらに酸化膜(例えば、酸化シリコン膜)を形成し、当該酸化膜の表面とベース基板120の表面とを接合させるようにしてもよい。
また、ベース基板120から単結晶半導体層124への不純物の混入がさほど問題とならないような場合等には、ベース基板120上に絶縁層121を設けず、単結晶半導体基板100上に設けられた絶縁層102の表面とベース基板120の表面とを直接接合させることができる。この場合、絶縁層121を設ける工程が省略できるため、プロセスの削減による低コスト化を図ることができる。
(実施の形態3)
本実施の形態では、SOI基板を用いて半導体装置を作製する方法の一例を説明する。より具体的には、半導体装置として、nチャネル型のTFT、及びpチャネル型のTFTを作製する方法の一例を説明する。
図4(A)は、ベース基板201上に絶縁層202を介して単結晶半導体層203が設けられたSOI基板の断面図である。
まず、エッチングにより単結晶半導体層203を素子分離して、図4(B)に示すように半導体層251、252を形成する。
次に、図4(C)に示すように、半導体層251、252上に絶縁膜254を形成する。次に、絶縁膜254を介して半導体層251上にゲート電極255を形成し、半導体層252上にゲート電極256を形成する。ここで、絶縁膜254はゲート絶縁膜としての機能を有する。
なお、単結晶半導体層203のエッチングを行う前に、TFTのしきい値電圧を制御するために、ホウ素、アルミニウム、ガリウム等のp型を付与する不純物元素、またはリン、ヒ素等のn型を付与する不純物元素を単結晶半導体層203に添加することが好ましい。例えば、nチャネル型TFTが形成される領域にp型を付与する不純物元素を添加し、pチャネル型TFTが形成される領域にn型を付与する不純物元素を添加する。
次に、図4(D)に示すように半導体層251にn型の低濃度不純物領域257を形成し、半導体層252にp型の高濃度不純物領域259を形成する。
具体的には、pチャネル型TFTとなる半導体層252をレジストでマスクする。そして、ゲート電極255をマスクとして、イオンドーピング法またはイオン注入法によりn型を付与する不純物元素を半導体層251に添加し、自己整合的にn型の低濃度不純物領域257を形成する。なお、半導体層251のうち、ゲート電極255と重なる領域は、チャネル形成領域258となる。
次に、半導体層252を覆うマスクを除去した後、nチャネル型TFTとなる半導体層251をレジストでマスクする。そして、ゲート電極256をマスクとして、イオンドーピング法またはイオン注入法によりp型を付与する不純物元素を半導体層252に添加し、自己整合的にp型の高濃度不純物領域259を形成する。ここで、p型の高濃度不純物領域259は、ソース領域またはドレイン領域として機能する。また、半導体層252のうち、ゲート電極256と重なる領域はチャネル形成領域260となる。
また、ここでは、n型の低濃度不純物領域257を形成した後、p型の高濃度不純物領域259を形成する方法を説明したが、先にp型の高濃度不純物領域259を形成した後、n型の低濃度不純物領域257を形成することもできる。
次に、半導体層251を覆うレジストを除去した後、窒化シリコン等の窒素化合物や酸化シリコン等の酸化物を用いた単層構造または積層構造の絶縁膜をプラズマCVD法等によって形成する。
次に、この絶縁膜を、SOI基板の表面に対して概略垂直方向に異方性エッチングすることで、図5(A)に示すように、ゲート電極255、256の側面に接するサイドウォール絶縁膜261、262を形成する。この異方性エッチングにより、絶縁膜254もエッチングされる。
次に、図5(B)に示すように、半導体層252をレジスト265でマスクする。そして、ゲート電極255及びサイドウォール絶縁膜261をマスクとして、イオンドーピング法またはイオン注入法によりn型を付与する不純物元素を半導体層251に添加し、自己整合的にn型の高濃度不純物領域267を形成する。ここで、n型の高濃度不純物領域267は、ソース領域またはドレイン領域として機能する。
次に、不純物元素の活性化のために加熱処理を行う。以上の工程により、nチャネル型のTFTとpチャネル型のTFTを有する半導体装置を作製することができるが、必要に応じて、以下の工程を追加することが好ましい。
この加熱処理の後、図5(C)に示すように、水素を含む絶縁膜268を形成する。絶縁膜268を形成後、350℃以上450℃以下の温度による加熱処理を行い、絶縁膜268中に含まれる水素を半導体層251、252中に拡散させる。絶縁膜268の形成方法の一例としては、プロセス温度が350℃以下のプラズマCVD法により窒化シリコンまたは窒化酸化シリコンを堆積することで形成できる。半導体層251、252に水素を供給することで、半導体層251、半導体層252の層内や、半導体層251、半導体層252と絶縁膜254との界面において捕獲中心となるような欠陥を効果的に補償することができる。
次に、絶縁膜268を覆うように層間絶縁膜269を形成する。層間絶縁膜269を構成する材料の一例としては、酸化シリコン膜、BPSG(Boron Phosphorus Silicon Glass)膜等の無機材料でなる絶縁膜や、ポリイミド、アクリル等の有機樹脂膜を用いることができる。また、層間絶縁膜269は単層構造としてもよいし、積層構造としてもよい。
次に、層間絶縁膜269にコンタクトホールを形成した後、配線270を形成する。この配線270は、ソース領域またはドレイン領域に電気的に接続されている。また、配線270の形成方法の一例として、アルミニウム膜またはアルミニウム合金膜等の低抵抗金属膜をバリアメタル膜で挟んだ3層構造の導電膜で形成することができる。バリアメタル膜としては、モリブデン、クロム、チタン等を用いることができる。
本実施の形態では半導体装置の一例としてTFTの作製方法を説明したが、TFTに加えて、容量、抵抗等の半導体素子を一体として形成することで、高付加価値の半導体装置を作製することができる。
(実施の形態4)
本実施の形態では、半導体装置の一例として、マイクロプロセッサについて説明する。図6はマイクロプロセッサ500の構成例を示すブロック図である。
マイクロプロセッサ500は、演算回路501(Arithmetic logic unit。ALUともいう。)、演算回路用制御部502(ALU Controller)、命令解析部503(Instruction Decoder)、割り込み制御部504(Interrupt Controller)、タイミング制御部505(Timing Controller)、レジスタ506(Register)、レジスタ制御部507(Register Controller)、バスインターフェース508(Bus I/F)、読み出し専用メモリ509(ROM)、及びメモリインターフェース510(ROM I/F)を有している。
バスインターフェース508を介してマイクロプロセッサ500に入力された命令は、命令解析部503に入力され、デコードされた後、演算回路制御部502、割り込み制御部504、レジスタ制御部507、及びタイミング制御部505に入力される。演算回路制御部502、割り込み制御部504、レジスタ制御部507、及びタイミング制御部505は、デコードされた命令に基づき様々な制御を行う。
演算回路制御部502は、演算回路501の動作を制御するための信号を生成する。また、割り込み制御部504は、マイクロプロセッサ500のプログラム実行中に、外部の入出力装置や周辺回路からの割り込み要求を処理する回路であり、割り込み制御部504は、割り込み要求の優先度やマスク状態を判断して、割り込み要求を処理する。レジスタ制御部507は、レジスタ506のアドレスを生成し、マイクロプロセッサ500の状態に応じてレジスタ506の読み出しや書き込みを行う。タイミング制御部505は、演算回路501、演算回路制御部502、命令解析部503、割り込み制御部504、及びレジスタ制御部507の動作のタイミングを制御する信号を生成する。例えば、タイミング制御部505は、基準クロック信号CLK1を基に、内部クロック信号CLK2を生成する内部クロック生成部を備えている。図6に示すように、内部クロック信号CLK2は他の回路に入力される。
次に、非接触でデータの送受信を行う機能、及び演算機能を備えた半導体装置の一例を説明する。図7は、このような半導体装置の構成例を示すブロック図である。図7に示す半導体装置は、無線通信により外部装置と信号の送受信を行って動作するコンピュータ(以下、「RFCPU」という)と呼ぶことができる。
図7に示すように、RFCPU511は、アナログ回路部512とデジタル回路部513を有している。アナログ回路部512は、共振容量を有する共振回路514、整流回路515、定電圧回路516、リセット回路517、発振回路518、復調回路519、変調回路520、及び電源管理回路530を有している。デジタル回路部513は、RFインターフェース521、制御レジスタ522、クロックコントローラ523、インターフェース524(CPUインターフェース)、中央処理ユニット525(CPU)、ランダムアクセスメモリ526(RAM)、読み出し専用メモリ527(ROM)を有している。
RFCPU511の動作の概要は以下の通りである。アンテナ528が受信した信号は共振回路514により誘導起電力を生じる。誘導起電力は、整流回路515を経て容量部529に充電される。この容量部529はセラミックコンデンサーや電気二重層コンデンサー等のキャパシタで形成されていることが好ましい。容量部529は、RFCPU511を構成する基板に集積されている必要はなく、他の部品としてRFCPU511に組み込むこともできる。
リセット回路517は、デジタル回路部513をリセットし初期化する信号を生成する。例えば、電源電圧の上昇に遅延して立ち上がる信号をリセット信号として生成する。発振回路518は、定電圧回路516により生成される制御信号に応じて、クロック信号の周波数とデューティー比を変更する。復調回路519は、受信信号を復調する回路であり、変調回路520は、送信するデータを変調する回路である。
例えば、復調回路519はローパスフィルタで形成され、振幅変調(ASK)方式の受信信号を、その振幅の変動をもとに、二値化する。また、送信データを振幅変調(ASK)方式の送信信号の振幅を変動させて送信するため、変調回路520は、共振回路514の共振点を変化させることで通信信号の振幅を変化させている。
クロックコントローラ523は、電源電圧または中央処理ユニット525における消費電流に応じてクロック信号の周波数とデューティー比を変更するための制御信号を生成している。電源電圧の監視は電源管理回路530が行っている。
アンテナ528からRFCPU511に入力された信号は、復調回路519で復調された後、RFインターフェース521で制御コマンドやデータ等に分解される。制御コマンドは制御レジスタ522に格納される。制御コマンドには、読み出し専用メモリ527に記憶されているデータの読み出し、ランダムアクセスメモリ526へのデータの書き込み、中央処理ユニット525への演算命令等が含まれている。
中央処理ユニット525は、インターフェース524を介して読み出し専用メモリ527、ランダムアクセスメモリ526、制御レジスタ522にアクセスする。インターフェース524は、中央処理ユニット525が要求するアドレスより、読み出し専用メモリ527、ランダムアクセスメモリ526、制御レジスタ522のいずれかに対するアクセス信号を生成する機能を有している。
中央処理ユニット525の演算方式は、読み出し専用メモリ527にOS(オペレーティングシステム)を記憶させておき、起動とともにプログラムを読み出し実行する方式を採用することができる。また、専用回路で演算回路を構成して、演算処理をハードウェア的に処理する方式を採用することもできる。ハードウェアとソフトウェアを併用する方式では、専用の演算回路で一部の演算処理を行い、プログラムを使って、残りの演算を中央処理ユニット525が処理する方式を適用できる。
(実施の形態5)
本実施の形態では、SOI基板を用いて表示装置を作製する方法の一例について説明する。
図8は液晶表示装置を説明するための図面である。図8(A)は液晶表示装置の画素の平面図であり、図8(B)は、J−K切断線による図8(A)の断面図である。
図8(A)に示すように、画素は、単結晶半導体層320、単結晶半導体層320と交差している走査線322、走査線322と交差している信号線323、画素電極324、画素電極324と単結晶半導体層320を電気的に接続する電極328を有する。単結晶半導体層320は、ベース基板120上に設けられた単結晶半導体層から形成された層であり、画素のTFT325を構成する。
SOI基板には、上記実施の形態で示したSOI基板が用いられている。図8(B)に示すように、ベース基板120上に、酸化膜132及び絶縁層121を介して単結晶半導体層320が積層されている。ベース基板120としては、ガラス基板を用いることができる。TFT325の単結晶半導体層320は、SOI基板の単結晶半導体層をエッチングにより素子分離して形成された膜である。単結晶半導体層320には、チャネル形成領域340、不純物元素が添加されたn型の高濃度不純物領域341が形成されている。TFT325のゲート電極は走査線322に含まれ、ソース電極及びドレイン電極の一方は信号線323に含まれている。
層間絶縁膜327上には、信号線323、画素電極324及び電極328が設けられている。層間絶縁膜327上には、柱状スペーサ329が形成されている。信号線323、画素電極324、電極328及び柱状スペーサ329を覆って配向膜330が形成されている。対向基板332には、対向電極333、対向電極を覆う配向膜334が形成されている。柱状スペーサ329は、ベース基板120と対向基板332の隙間を維持するために形成される。柱状スペーサ329によって形成される隙間に液晶層335が形成されている。信号線323及び電極328と高濃度不純物領域341との接続部は、コンタクトホールの形成によって層間絶縁膜327に段差が生じるので、この接続部では液晶層335の液晶の配向が乱れやすい。そのため、この段差部に柱状スペーサ329を形成して、液晶の配向の乱れを防ぐ。
次に、エレクトロルミネセンス表示装置(以下、EL表示装置という。)について図9を参照して説明する。図9(A)はEL表示装置の画素の平面図であり、図9(B)は、J−K切断線による図9(A)の断面図である。
図9(A)に示すように、画素は、TFTでなる選択用トランジスタ401、表示制御用トランジスタ402、走査線405、信号線406、電流供給線407、及び画素電極408を含む。エレクトロルミネセンス材料を含んで形成される層(EL層)が一対の電極間に挟んだ構造の発光素子が各画素に設けられている。発光素子の一方の電極が画素電極408である。また、半導体層403は、選択用トランジスタ401のチャネル形成領域、ソース領域及びドレイン領域が形成されている。半導体層404は、表示制御用トランジスタ402のチャネル形成領域、ソース領域及びドレイン領域が形成されている。半導体層403、404は、ベース基板上に設けられた単結晶半導体層から形成された層である。
選択用トランジスタ401において、ゲート電極は走査線405に含まれ、ソース電極またはドレイン電極の一方は信号線406に含まれ、他方は電極410として形成されている。表示制御用トランジスタ402は、ゲート電極412が電極411と電気的に接続され、ソース電極またはドレイン電極の一方は、画素電極408に電気的に接続される電極413として形成され、他方は、電流供給線407に含まれている。
表示制御用トランジスタ402はpチャネル型のTFTである。図9(B)に示すように、半導体層404には、チャネル形成領域451、及びp型の高濃度不純物領域452が形成されている。なお、SOI基板には、上記実施の形態で作製したSOI基板が用いられている。
層間絶縁膜427は、表示制御用トランジスタ402のゲート電極412を覆うように形成されている。また、層間絶縁膜427上に、信号線406、電流供給線407、電極411、413等が形成されている。また、層間絶縁膜427上には、電極413に電気的に接続されている画素電極408が形成されている。画素電極408は周辺部が絶縁性の隔壁層428で囲まれている。画素電極408上にはEL層429が形成され、EL層429上には対向電極430が形成されている。補強板として対向基板431が設けられており、対向基板431は樹脂層432によりベース基板120に固定されている。
EL表示装置の階調の制御は、発光素子の輝度を電流で制御する電流駆動方式と、電圧でその輝度を制御する電圧駆動方式とがあるが、電流駆動方式は、画素ごとでトランジスタの特性値の差が大きい場合、採用することは困難であり、そのためには特性のばらつきを補正する補正回路が必要になる。しかしながら、本実施の形態におけるEL表示装置は、上記実施の形態で説明したSOI基板を用いて選択用トランジスタ401及び表示制御用トランジスタ402を形成しているため、各画素ごとに設けられた選択用トランジスタ401及び表示制御用トランジスタ402の特性のばらつきが抑制され、電流駆動方式を積極的に採用することができる。
(実施の形態6)
本実施の形態では、SOI基板を用いて作製される半導体装置を搭載した電子機器の具体例について説明する。
電子機器としては、ビデオカメラ、デジタルカメラなどのカメラ、ナビゲーションシステム、音響再生装置(カーオーディオ、オーディオコンポ等)、コンピュータ、ゲーム機器、携帯情報端末(モバイルコンピュータ、携帯電話機、携帯型ゲーム機、電子書籍等)、記録媒体中のデータを再生する機能を有する画像再生装置(具体的には、DVD(digital versatile disc)、ブルーレイディスク(Blu―ray Disk)等の記録媒体に記憶された音声データを再生し、かつ記憶された画像データを表示可能な表示装置)等が含まれる。それらの一例を図10に示す。
図10は、本発明を適用した携帯電話機の一例であり、図10(A)が正面図、図10(B)が背面図、図10(C)が2つの筐体をスライドさせたときの正面図である。携帯電話機700は、筐体701及び筐体702二つの筐体で構成されている。携帯電話機700は、携帯電話と携帯情報端末の双方の機能を備えており、コンピュータを内蔵し、音声通話以外にも様々なデータ処理が可能な所謂スマートフォンである。
携帯電話機700は、筐体701及び筐体702で構成されている。筐体701においては、表示部703、スピーカ704、マイクロフォン705、操作キー706、ポインティングデバイス707、表面カメラ用レンズ708、外部接続端子ジャック709及びイヤホン端子710等を備え、筐体702においては、キーボード711、外部メモリスロット712、裏面カメラ713、ライト714等により構成されている。また、アンテナは筐体701に内蔵されている。
また、携帯電話機700には、上記の構成に加えて、非接触型ICチップ、小型記録装置、赤外線通信機能、USBポート、テレビワンセグ受信機能、イヤホンジャック等を適宜備えたものであってもよい。
重なり合った筐体701と筐体702(図10(A)に示す)は、スライドさせることが可能であり、スライドさせることで図10(C)のように展開する。表示部703には、実施の形態5で説明した表示装置の作製方法を適用した表示パネルまたは表示装置を組み込むことが可能である。携帯電話機700は、表示部703と表面カメラ用レンズ708を同一の面に備えているため、テレビ電話としての使用が可能である。また、筐体702の裏面(図10(B))には、裏面カメラ713及びライト714が備えられており、表示部703をファインダーとして用いることで静止画及び動画の撮影が可能である。
また、表示部703にタッチパネルとしての機能を付加した場合、携帯電話機700の使用者は直感で操作することができるようになるため、好ましい。携帯電話機700を直感で操作できることにより、お年寄りや子供も容易に取り扱うことができるので、幅広い年齢層に利用してもらうことが可能となる。なお、表示部にタッチパネルとしての機能を付加する構成は、携帯電話機に限らず、表示部を有する電子機器であれば適用可能である。例えば、上述した電子機器である、ビデオカメラ、デジタルカメラなどのカメラ、ナビゲーションシステム、音響再生装置、コンピュータ、ゲーム機器、携帯情報端末、記録媒体中のデータを再生する機能を有する画像再生装置の表示部に適用可能である。
なお、表示部703にタッチパネルとしての機能を付加する方法の一例としては、上記実施の形態で説明した液晶表示装置またはEL表示装置において画素が設けられている領域内に、フォトセンサ等の素子を設ける方法が挙げられる。
図10において説明した電子機器は、上述したトランジスタ及び表示装置の作製方法を適宜用いて作製することができる。
本発明者らは、歩留まりの高いSOI基板を製造するために、単結晶半導体基板にイオンを照射する際の最適な条件について検討を行った。本実施例では、その検討結果について説明する。
(試料の作製方法)
まず、5インチ角の単結晶シリコン基板に対して熱酸化処理を行うことにより、単結晶シリコン基板の表面に塩素を含む酸化膜を形成した。なお、熱酸化処理は、塩素を含む酸化膜の膜厚が100nmとなるように行った。具体的には、酸素に対して塩化水素(HCl)を3体積%の割合で含む酸化性雰囲気中、950℃で210分間の熱酸化処理を行った。
次に、酸化膜を介して水素イオンを照射することにより、脆化領域を形成した。脆化領域の形成にあたり、イオンドーピング装置を用いて脆化領域を形成した試料(試料1〜4、比較試料1、比較試料3)と、イオン注入装置を用いて脆化領域を形成した試料(比較試料2)を用意した。
イオンドーピング装置を用いた試料(試料1〜4、比較試料1、3)のソースガスには100%水素ガスを用い、水素ガスを励起してプラズマを生成した。生成されたプラズマ中には、3種類のイオン種(H+、H2 +、H3 +)が含まれている。このイオン種を質量分離せずに電界で加速し、単結晶シリコン基板に照射した。なお、水素ガスから生成されたイオン種のうち、70%程度をH3 +とした。また、水素ガスの流量は、50sccmとした。また、加速電圧は、50kVとした。
また、イオン注入装置を用いた試料(比較試料2)のソースガスには100%PH3ガスを用い、PH3ガスを励起してプラズマを生成した。生成されたプラズマ中には、3種類のイオン種(H+、H2 +、H3 +)が含まれている。このイオン種を質量分離して、H+のみを単結晶シリコン基板に照射した。なお、PH3ガスの流量は、0.75sccmとした。また、加速電圧は、17kVとした。
イオンの照射条件は、試料1〜4、及び比較試料1におけるイオンの総照射数(ドーズ量)を2.5×1016cm−2とした。また、比較試料2におけるイオンの総照射数(ドーズ量)を5.0×1016cm−2とした。また、比較試料3におけるイオンの総照射数(ドーズ量)を1.7×1016cm−2とした。そして、単結晶シリコン基板の支持台として、比較試料1は静電チャックを用い、それ以外の試料はメカチャックを用いた。また、試料1〜4、及び比較試料1、3におけるイオン種の電流密度と、イオン照射時の単結晶シリコン基板の温度を表1に示す。なお、単結晶シリコン基板の温度の測定には、単結晶半導体基板に特定温度で示温部が変色する不可逆性サーモラベル(TMC(Thermographic Measurements Ltd)社製、商品名:THERMAX 6Level Mini Strips)を用いた。
なお、静電チャックは、支持台表面に誘電層を設け、支持台と単結晶シリコン基板の間に電圧を印加し、両者の間に発生した力によって単結晶シリコン基板を吸着する機構を有する。そして、静電チャックは、高い熱伝導性を有する材料によって形成されており、単結晶シリコン基板に対して高い冷却性能を備えている。一方、メカチャックは、静電チャックに比較して単結晶シリコン基板を吸着する力が弱いため、単結晶シリコン基板に対する冷却効果が低い。
また、他の測定条件が同じ場合、イオン種の電流密度は高いほどイオン照射時の基板の温度は高くなる。
また、比較試料2におけるイオン(H+)のビーム電流と、イオン照射時の単結晶シリコン基板の温度を表2に示す。
次に、フーリエ変換型赤外分光光度計(FT−IR:Fourier Transform Infrared Spectroscopy)を用いて、各試料(試料1〜4、比較試料1、2)の脆化領域に含まれるSi−H結合の評価を行った。評価結果を図11に示す。なお、図11において、縦軸は吸光度(任意単位)を表し、横軸は波数(cm−1)を表す。
図11に示すとおり、試料1〜4においては、いずれも2110cm−1付近または2155cm−1付近に最大ピークを有しており、それ以外には有意なピークが存在しないことがわかる。ここで、2110cm−1付近のピークは、(100)面プレートレット欠陥に存在するシリコンに結合した水素原子に由来し、2155cm−1付近のピークは、空孔1個の中に埋まっている3個の水素原子(図11中、「VH3」と表記している。)に由来するものと考えられている。一方、比較試料1においては、1830cm−1、1930cm−1、1980cm−1、2025cm−1、2050cm−1、2065cm−1、2206cm−1付近にピークを有しており、2110cm−1付近または2155cm−1付近には最大ピークを有していないことがわかる。また、比較試料2においても、2110cm−1付近または2155cm−1付近には最大ピークを有していないことがわかる。このように、試料1〜4と、比較試料1または比較試料2とを比較すると、スペクトルの違いが明確に読み取れる。
次に、試料3、比較試料2、3各々に対してガラス基板を貼り合わせた後、脆化領域において単結晶シリコン基板とガラス基板とを分離し、塩素を含む酸化膜を介してガラス基板上にシリコン層を形成した。なお、ガラス基板には旭硝子社製のガラス基板であるAN100を用いた。なお、分離する際の加熱処理には、縦型の加熱炉を用い、200℃で1時間アニールした後、さらに600℃で2時間アニールした。
次に、試料3、比較試料2、3を用いて作製したシリコン層の表面を光学顕微鏡により暗視野観察した。観察結果を図12に示す。なお、観察倍率は200倍とした。また、各試料の観察領域は、基板の中心部と、その中心部から約6cm離れた領域(4箇所)とした。
図12に示すとおり、試料3を用いて作製されたシリコン層は、比較試料2、3を用いて作製されたシリコン層に比べて表面の凹凸が少ないことがわかる。
次に、試料3、比較試料3を用いて作製したシリコン層表面の平均面粗さ(Ra)と、最大高低差(P−V:Peak to Valley)を、原子間力顕微鏡(AFM)を用いてそれぞれ測定した。測定結果を表3に示す。なお、試料3、比較試料3ともに4つずつサンプルを用意して測定し、それぞれ表2において、試料3−1〜試料3−4、比較試料3−1〜比較試料3−4と表記している。また、平均面粗さ(Ra)は、JISB0601:2001(ISO4287:1997)で定義されている中心線平均粗さRaを、測定面に対して適用できるよう三次元に拡張したものであり、基準面から指定面までの偏差の絶対値を平均した値で表現されるものである。また、最大高低差(P−V)は、指定面において、最も高い山頂の標高と最も低い谷底の標高の差で表現されるものである。山頂と谷底は、JISB0601:2001(ISO4287:1997)で定義されている「山頂」「谷底」を三次元に拡張したものであり、山頂とは指定面の山において最も標高の高い点を指し、谷底とは指定面において最も標高の低い点を指す。
表3に示すとおり、試料3を用いて作製されたシリコン層は、比較試料3を用いて作製されたシリコン層に比べて平均面粗さ(Ra)、最大高低差(P−V)共に極めて小さいことがわかる。
次に、試料3、比較試料2、3を用いて作製したシリコン層の表面欠陥の数を測定した。日立ハイテクノロジーズ社製の表面検査装置(製品名:GI−4600)を用いて測定した結果を表4に示す。なお、表4において、S、M、Lはそれぞれ欠陥の大きさで区分けしたものであり、Sは1μm以上3μm未満、Mは3μm以上5μm未満、Lは5μm以上の大きさの欠陥の数を示す。また、表4において、ゴミの総数は、S、M、及びLを足し合わせたものである。
表4に示すとおり、試料3を用いて作製されたシリコン層は、比較試料2、3を用いて作製されたシリコン層に比べて表面欠陥の数が極めて少ないことがわかる。
以上の結果から、試料1〜4を用いて作製されたシリコン層は、比較試料1、比較試料2、または比較試料3を用いて作製されたシリコン層に比べて、表面欠陥が少なく、かつ凹凸の少ない膜となっていることがわかった。すなわち、歩留まりのよいSOI基板を製造するためには、イオンを照射する際に質量分離されていないイオン種を用い、かつ、イオンを照射する際の単結晶半導体基板の温度を250℃以上にすると良いと言える。または、脆化領域を形成する工程において、前記脆化領域をフーリエ変換型赤外分光法によりSi−H結合の評価を行った際に、2110cm−1付近または2155cm−1付近に最大ピークを有するように水素イオンを照射すると良いと言える。