ところで、自動二輪車等の二輪車は、特に、停車時あるいは低速走行時に、車体の姿勢の安定性を高めることが望まれる。
そこで、本発明は、前輪又は後輪の操舵によって車体の姿勢の安定性を高めることができる移動体を提供することを目的とする。
まず、本発明に係わる基礎的な技術事項について図1〜図10を参照して説明しておく。
図1は、車体2と、車体2の前後方向に間隔を存して配置された前輪3f及び後輪3rとを備える移動体としての二輪車1(詳しくは、後述する基準姿勢状態での二輪車1)を側面視で模式的に示している。なお、図1においては、側面視の二輪車1の図の他、該二輪車1の図の左側には、二輪車1の後方側から見た後輪3rを図示し、該二輪車1の図の右側には、二輪車1の前方側から見た前輪3fを図示している。
前輪3fは、車体2の前部に設けられた前輪支持機構4に回転自在に軸支されている。前輪支持機構4は、フロントフォーク等により構成される。そして、前輪3fは、後傾した操舵軸線Csfのまわりに操舵可能(転向可能)な操舵輪となっている。
なお、操舵軸線Csfが後傾しているというのは、該操舵軸線Csfが、その下方側よりも上方側の方が相対的に車体2の前後方向における後方側になるように、車体2の前後方向及び上下方向に対して傾いて延在していることを意味する。
後輪3rは、車体2の後部に設けられた後輪支持機構5に回転自在に軸支されている。後輪支持機構5は、スイングアーム等により構成される。この後輪3rは非操舵輪である。
ここで、図示の如く、水平な接地面110上に直進姿勢で起立して静止している状態の二輪車1を一つの剛体とみなした場合を想定する。なお、二輪車1が直進姿勢で起立して静止している状態というのは、前輪3f及び後輪3rが接地面110に直立姿勢で接地して静止しており、且つ、前輪3f及び後輪3rのそれぞれの車軸中心線(回転軸心)Cf,Crが、車体2の前後方向と直交する方向に互いに平行に延在している状態を意味する。以降、二輪車1が、上記の如く直進姿勢で起立して静止している状態を、二輪車1の基準姿勢状態という。
基準姿勢状態の二輪車1を一つの剛体とみなした場合における二輪車1の全体の質量(以降、単に全質量ということがある)をm、二輪車1の全体重心Gの高さ(以降、単に重心高さということがある)をh、全体重心Gを通って車体2の前後方向に延在する前後軸Crol(以降、重心ロール軸Crolという)のまわりでの二輪車1の全体の慣性モーメント(以降、単に全体イナーシャということがある)をIと表記する。
m:全質量
h:重心高さ
I:全体イナーシャ
ここで、次式(1)により定義される長さLbを全体慣性半径と称する。なお、本明細書では、“*”は乗算を示す算術記号を意味する。
I=m*Lb*Lb ……(1)
Lb:全体慣性半径
このような全体慣性半径Lbを定義した場合、全質量がm、且つ、全体イナーシャがI、且つ、重心高さがhである系(二輪車1を一つの剛体とみなした系。以降、二輪車剛体系ということがある)は、図2(a)に示すモデル(以降、第1モデルという)によって表される。
この第1モデルは、二輪車剛体系を、互いに等しいm/2の質量を有する2つの質点121,122により構成される系(質点系)として表すモデルである。第1モデルでは、2つの質点121,122は、それらの間の中点の接地面110からの高さ(両質点121,122の重心の高さ)が全体重心Gの重心高さhに一致し、且つ、各質点121,122と、当該中点との距離が前記式(1)により規定される全体慣性半径Lbに一致するように配置されている。
上記第1モデルは、図2(b)に示すモデル(以降、第2モデルという)に等価変換することができる。
この第2モデルは、二輪車剛体系を、第1質点123及び第2質点124からなる2つの質点により構成される系(質点系)として表すモデルである。この場合、第2質点124は、接地面110上にある。すなわち、第2質点124の接地面110からの高さは“0”である。
以下に示すように、この第2モデルの第1質点123の質量をm1、第2質点124の質量をm2、第1質点123の接地面110からの高さをh’、この高さh’と全体重心Gの重心高さhとの差(=h’−h)をc(ただし、c>0)とする。換言すれば、第1質点123の接地面110からの高さh’を(h+c)とする。
m1:第1質点123の質量
m2:第2質点124の質量
h’:第1質点123の高さ
c:第1質点123の高さh’と重心高さhとの差(ただし、c>0)
第2モデルにおける全体質量が、第1モデルにおける全体質量(=全質量m)に一致するという条件は、次式(2)により表される。
m1+m2=m ……(2)
第2モデルにおける両質点123,124の重心の高さが、第1モデルにおける両質点121,122の重心の高さ(=重心高さh)と一致するという条件は、次式(3)により表される。
m1*c=m2*h ……(3)
第2モデルにおける全体重心のまわりの慣性モーメント(詳しくは、前記重心ロール軸Crolまわりの慣性モーメント)が、第1モデルにおける両質点121,122の重心のまわりの慣性モーメント(=全体イナーシャI)に一致するという条件は、次式(4)により表される。
m1*c*c+m2*h*h=I ……(4)
上記式(1)〜(4)によって、次式(5a),(6a),(7a)が得られる。
c=Lb*Lb/h ……(5a)
m1=(h/(h+Lb*Lb/h))*m ……(6a)
m2=((Lb*Lb/h)/(h+Lb*Lb/h))*m ……(7a)
c、m1、m2の値を上記の如く設定すれば、第2モデルは、第1モデルを等価変換したものとなる。従って、二輪車剛体系は、第1モデルの代わりに、第2モデルによって表すこともできる。
なお、前記式(1)によりLb*Lb=I/mであるから、式(5a),(6a),(7a)は、それぞれ、次式(5b),(6b),(7b)に書き換えられる。従って、第2モデルは、換言すれば、接地面110からの高さh’が基準姿勢状態の二輪車1の重心高さhよりも高い第1質点123と、接地面110上の第2質点124(接地面110からの高さが“0”である質点124)とを有し、第1質点123の高さh’と重心高さhとの差(=h’−h)と、質量m1,m2とが、二輪車1の全質量m、全体イナーシャI、及び重心高さhに応じて次式(5b),(6b),(7b)により設定された二輪車剛体系のモデルである。
c=I/(m*h) ……(5b)
m1=(h/(h+I/(m*h)))*m ……(6b)
m2=((I/(m*h))/(h+I/(m*h)))*m ……(7b)
次に、図3は、前記基準姿勢状態とその近傍の姿勢状態(基準姿勢状態に近い姿勢状態)での二輪車1の動力学を近似的に表現する近似動力学モデルを示す図である。この近似動力学モデルは、二輪車1を、前記第2モデルの質点123,124を有する二輪車剛体系であるとみなして構築されたモデルである。
二輪車1の基準姿勢状態での全体重心Gを接地面110に対して垂直方向(上下方向)に投影してなる投影点を原点、二輪車1の車体2の前後方向をX軸方向、左右方向(車幅方向)をY軸方向、鉛直方向をZ軸方向と定義した3軸直交座標系(XYZ座標系)を想定する。この場合、X軸、Y軸、Z軸の各軸の正の向きは、それぞれ、前向き、左向き、上向きである。
そして、回転又は角度に関するX軸まわりの方向をロール方向、Y軸まわりの方向をピッチ方向、Z軸まわりの方向をヨー方向と呼ぶ。ロール方向、ピッチ方向、ヨー方向のそれぞれの正の向きは、それぞれ、右ねじをX軸、Y軸、Z軸の正方向に進むように回転させた場合の該右ねじの回転の向きであると定める。
なお、基準姿勢状態から二輪車1の微小な運動を行う場合には、前輪3f及び後輪3rのそれぞれの車軸中心線Cf,Crまわりの回転が微小である。そのため、以降の考察では、前輪3f及び後輪3rのそれぞれの車軸中心線Cf,Crまわりの回転(微小回転)によるジャイロ効果は無視できるものとみなす。
また、前輪3fのキャスター角(基準姿勢状態での前輪3fの操舵軸線Csfの傾斜角度(上下方向に対する傾斜角度))をθcfと表記する。この場合、前輪3fの操舵軸線Csfが図1に示した如く後傾となる場合のキャスター角θcfが正の角度であると定義する。
補足すると、実際の二輪車1においては、一般に、前輪3fの重心が、操舵軸線Csfから偏心していることに起因して、前輪3fの操舵(操舵軸線Csfまわりの転向)に伴い、前輪3fの重心にY軸方向の並進力(慣性力)が発生する。
その並進力の大きさは、前輪3fの重心の操舵軸線Csfからの偏心量と、前輪3fの質量と、操舵角加速度(操舵軸線Csfまわりの回転角加速度)との積の大きさとなる。ただし、前輪3fの質量が全質量mに比べて十分に小さいので、当該並進力の影響は無視できるものとみなす。
また、キャスター角θcfが“0”でないことに起因して、前輪3fを操舵軸線Csfのまわりに操舵した時に、前輪3fのロール方向の回転運動成分が発生する。これにより、前輪3fの慣性力モーメント(詳しくは、慣性力によるX軸まわり方向のモーメント)が発生する。
その慣性力モーメントの大きさは、前輪3fの重心を通ってX軸に平行な軸まわりの前輪3fの慣性モーメント(イナーシャ)と、キャスター角θcfの正弦値sin(θcf)と、前輪3fの操舵角加速度との積の大きさとなる。ただし、前輪3fの上記慣性モーメントは、全体イナ−シャIに比べて十分に小さい。従って、当該慣性力モーメントの影響も無視できるものとみなす。
二輪車1の基準姿勢状態から、前輪3fの操舵角(以降、単に前輪操舵角ということがある)を“0”から瞬間的にδf(≠0)に変化させた場合を想定する。なお、前輪操舵角は、基準姿勢状態(前輪3fの非操舵状態)において“0”であると定義する。そして、操舵軸線Csfまわりの前輪操舵角(回転角)の正の向きは、前輪3fの前端が車体2の左側に向く(二輪車1の前進時に左旋回する)こととなる回転の向きであると定義する。
図4に示すように、前輪操舵角を“0”から瞬間的にδf(≠0)に変化させた直後に発生する車体2のロール方向の傾斜角(以降、ロール角ということがある)をφb、第2質点124のY軸方向の移動量をqと表記する。
動力学的関係により、接地面110から二輪車1が受ける反力と、両質点123,124の運動による慣性力との合力がX軸まわりに発生させるモーメントは、“0”である。
ここで、接地面110から二輪車1が受ける反力は、鉛直方向反力(接地荷重)と水平方向の摩擦力とから成る。ただし、摩擦力は、原点まわりにロール方向のモーメントを生成しない。
また、接地点(鉛直方向反力の作用点)は、前輪操舵角を変化させることにより、有限の距離だけ移動する。ただし、前輪操舵角を瞬間的に変化させた直後では、時間経過が無限小であるから、鉛直方向反力によって発生するロール方向のモーメントを時間積分した値は、無限小となる。すなわち、前輪操舵角を瞬間的に変化させた直後では、両質点123,124の運動による原点まわりのトータルの角運動量(ロール方向の角運動量)は、無限小となる。
ところで、第2質点124の高さは“0”であり、かつ、第2質点124の運動は横方向に限定される。このため、第2質点124の運動による原点まわりの角運動量は“0”である。
以上より、第1質点123の運動による原点まわりの角運動量は、無限小となる。すなわち、瞬間的には、第1質点123は、静止状態に保たれる。結果的に、質点123を中心として、車体2のロール方向の回転(ロール角の変化)が行なわれる。換言すれば、基準姿勢状態から前輪3fの操舵角を変化させた瞬間では、第1質点123の位置は不動点であるとみなすことができる。
この場合、第2質点124のY軸方向の移動量q(以降、単に横移動量qという)は、次式(8)により表される。
q=(c+h)*φb ……(8)
なお、式(8)では、φbの大きさは十分に小さく、sin(φb)≒φbであるとみなしている。
前輪3fのロール角をφf、後輪3rのロール角をφrと表記する。
キャスター角θcfが“0”でないことから、前輪3fの操舵によって、前輪3fにロール方向の回転運動成分が発生する。このため、前輪3fのロール角φfは、近似的に次式(9)により与えられる。なお、式(9)では、δfの大きさは、十分に小さいものとみなしている。
φf=−sin(θcf)*δf+φb ……(9)
また、後輪3rのロール角φrは、次式(10)により与えられる。
φr=φb ……(10)
さらに、図1に示すように、基準姿勢状態での前輪3fの接地点と、二輪車1の全体重心Gとの間の前後方向距離(X軸方向距離)をLf、基準姿勢状態での後輪3rの接地点と二輪車1の全体重心Gとの間の前後方向距離(X軸方向距離)をLrと表記する。すなわち、Lfは、基準姿勢状態における二輪車1の全体重心Gと前輪3fの車軸中心点との間の前後方向距離であり、Lrは、基準姿勢状態における二輪車1の全体重心Gと後輪3rの車軸中心点との間の前後方向距離である。
また、基準姿勢状態において、前輪3fの車軸中心点と接地点とを結ぶ直線と、操舵軸線Csfとの交点をEf、該交点Efの高さ(接地面110からの高さ)をaと表記する。
なお、交点Efの高さaは、交点EfのZ軸方向位置(Z座標)を示すものであり、該交点Efが接地面110よりも上側に存在する場合にはa>0、該交点Efが接地面110よりも下側に存在する場合にはa<0である。また、キャスタ角θcfが正の角度である場合、前記高さaが正であることは、トレール長(図1に示すt)が正であることを意味し、前記高さaが負であることは、トレール長tが負であることを意味する。
また、図1に示すように、基準姿勢状態における、後輪3rの車軸中心点と接地点を結ぶ直線上で、接地面110からの高さが前記高さaに一致する点をErと表記する。点Efと点Erとは、車体2に対して固定された点である。そして、これらの点Ef,Erを結ぶ線分は、質点123,124を結ぶ線分(すなわち、X軸に直交し全体重心Gを通る線分)と交わる。その交点を図1に示す如くEと表記する。
基準姿勢状態から前輪3fを瞬間的に操舵したときの点EfのY軸方向の移動量(横移動量)をef、点ErのY軸方向の移動量(横移動量)をerと表記する。これらのef,erは、次式(11)、(12)により表される。
ef=−a*φf ……(11)
er=−a*φr ……(12)
なお、式(11)、(12)では、φf,φrの大きさは、十分に小さく、sin(φf)≒φf、sin(φr)≒φrであるとみなしている。
点EのY軸方向の移動量(横移動量)をeと表記する。点Eは点Efと点Erの内分点であるので、点Eの横移動量eは次式(13)により表される。
e=(Lr/(Lf+Lr))*ef+(Lf/(Lf+Lr))*er ……(13)
一方、図4に示すごとく、点Eと第2質点124を結ぶ線分の傾斜は、車体2のロール角φbに等しい。そして、点Eの高さはaである。したがって、次式(14)が成立する。なお、式(14)では、φbの大きさは、十分に小さく、sin(φb)≒φbであるとみなしている。
q=e+a*φb ……(14)
以上の式(9)〜(14)によって、次式(15)が得られる。
q=Lr/(Lf+Lr)*a*sin(θcf)*δf ……(15)
式(5a)、(8)及び(15)により、次式(16)が得られる。
φb=a*(Lr/((Lf+Lr)/(h+Lb*Lb/h)))*sin(θcf)*δf ……(16)
図1又は図3に示す如く、基準姿勢状態における前輪3fの接地点の位置での該前輪3fの横断面形状の曲率半径をRfと表記する。同様に、基準姿勢状態における後輪3rの接地点の位置での該後輪3rの横断面形状の曲率半径をRrと表記する。
なお、前輪3fの上記横断面形状というのは、より詳しくは、前輪3fの車軸中心線Cfと接地点とを含む横断面で見た接地部分の形状(これは前輪3fのタイヤの接地部分の横断面形状に相当する)を意味する。そして、その横断面形状において接地面110に接する点での曲率半径が上記Rfである。後輪3rについても同様である。
接地面110から前輪3fに作用する鉛直方向反力と、後輪3rに作用する鉛直方向反力との合力の接地面110上の作用点としての接地圧中心点をCOPと表記し、COPのY軸方向の移動量(横移動量)をpと表記する。
図5に示す如く、前輪3fの接地点のY軸方向の移動量は、(−Rf*φf)、後輪3rの接地点のY軸方向の移動量は、(−Rr*φr)となる。なお、図5は、φr>0、φf<0である場合についての例である。
そして、図5に示す如く、COPは、前輪3fの接地点と後輪3rの接地点を結ぶ線分とY軸との交点である。したがって、COPの横移動量pは、次式(17)により表される。
p=−(Lr/(Lf+Lr))*Rf*φf−(Lf/(Lf+Lr))*Rr*φr ……(17)
式(9)、(10)、(17)によって、次式(18)が得られる。
p=(Lr/(Lf+Lr))*Rf*sin(θcf)*δf
−((Lf/(Lf+Lr))*Rr+(Lr/(Lf+Lr))*Rf)*φb ……(18)
補足すると、式(18)の右辺第1項の(Lr/(Lf+Lr))*Rfの部分は、前輪3fの操舵に起因して生じるロール角に対応する、全体重心Gの直下位置での仮想的なタイヤ半径(X軸に直交する面上で見たタイヤ半径)に相当すると解釈することができる。
また、式(18)の右辺第2項の((Lf/(Lf+Lr))*Rr+(Lr/(Lf+Lr))*Rf)の部分は、車体2のロール角に対応する、全体重心Gの直下位置での仮想的なタイヤ半径(X軸に直交する面上で見たタイヤ半径)に相当すると解釈することができる。
ここで、基準姿勢状態の二輪車1の前輪3fの操舵角を、任意の初期時刻t0においてステップ状に“0”からδf(≠0)に変化させた直後における原点(XYZ座標系の原点)まわりのモーメントのつり合いについて考察する。
この時の動力学的な挙動は、図6に示すモデルによって表現することができる。
このモデルは、仮想的な構成要素として、Y軸方向に移動可能な台車131上に支持された基体リンク132と、基体リンク132に移動可能に支持された可動部133とを備える。基体リンク132と可動部133とは、車体2に相当するものである。
Y軸は、台車131を支える床134より上方に設定されている。床134は、二輪車1が接地する実際の接地面110に相当するものでない。すなわち、床134は、単に台車131が水平に移動し得るように該台車131を支える仮想的な面である。実際の接地面110は、Y軸の高さ位置(Z座標(Z軸方向の位置の座標)が“0”となる位置)に存在する。
図6に示すモデルの全ての構成要素は、その慣性モーメントが“0”に設定されている。また、このモデルの構成要素のうち、基体リンク132と可動部133とを除く構成要素は全て、その質量が“0”に設定されている。
基体リンク132は、横方向に延在するレール部132aと、レール部132aから上方に向って延在する起立部132bとを有する。そして、起立部132bの上部に質量m1の第1質点123を有する。初期時刻t0以前は、第1質点123の位置のY座標は“0”、Z座標は(h+c) (=h+Lb*Lb/h=h+I/(m*h))である。
基体リンク132は、床134に固定された部材135にリンク136を介して連結されている。このため、基体リンク132は、そのY軸方向の移動が拘束されて、Y軸方向に移動できないようになっている。なお、初期時刻t0以前は、基体リンク132のレール部132aはY軸方向に延在する。
可動部133は、基体リンク132のレール部132aに沿って移動し得るように該レール部132aに支持されている。この可動部133のY軸方向の位置(Y座標)は、可動部133と基体リンク132の起立部132bとの間に介装されたアクチュエータ137により制御される。
また、可動部133は、質量m2の第2質点124を有する。初期時刻t0以前では、質点124の位置のZ座標は“0”である。
基体リンク132を支える台車131は床134上を水平に移動自在である。この台車131は、その上端に備える車輪131aを介して基体リンク132に接触(点接触)して、該基体リンク132を下方から支えている。台車131の車輪131aと基体リンク132との接点が前記COPである。このCOPを支点として基体リンク132が、X軸まわり方向(ロール方向)に傾斜可能である。
COPの位置のZ座標は、常に“0”である。また、COPの位置のY座標は、基体リンク132のレール部132aの下部と台車131との間に介装されたアクチュエータ138により制御される。補足すると、第1質点123と第2質点124とを結ぶ線分のX軸まわり方向(ロール方向)の傾斜は、車体2のX軸まわり方向(ロール方向)の傾斜に相当する。
初期時刻t0以前では、COPの位置のY座標と、第2質点124の位置のY座標とは、共に“0”である。
初期時刻t0における前輪操舵角のステップ状の変化(“0”からδfへの変化)によって、瞬間的に、アクチュエータ138によりCOPの位置のY座標がpとなり、且つ、アクチュエータ137により、第2質点124の位置のY座標がqになったものと仮定する。
初期時刻t0以前は、第1質点123の位置のY座標は“0”である。また、第1質点123は、前記したように瞬間的には不動点とみなすことができる。このため、初期時刻t0の直後において、第1質点123に作用する重力によって原点まわりに発生するロール方向のモーメントは“0”である。
また、第2質点124に作用する重力によって原点まわりに発生するロール方向のモーメントM2(以降、重力モーメントM2ということがある)は、次式(19)により与えられる。なお、gは重力加速度定数(>0)である。また、重力モーメントM2は、後述する本発明における第2重力モーメントに相当するものである。
M2=−m2*g*q ……(19)
また、接地面110からCOPに作用する鉛直方向の路面反力(接地荷重)によって原点まわりに発生するロール方向のモーメントMp(以降、路面反力モーメントMpということがある)は、次式(20)により与えられる。
Mp=m*g*p ……(20)
動力学的な関係によって、上記モーメントM2,Mpの総和のモーメントは、第1質点123及び第2質点124の運動によって原点まわりに発生するロール方向のトータルの慣性力モーメントMaの符号(極性)を反転させたものに一致する。すなわち、次式(21)が成立する。
Ma+M2+Mp=0 ……(21)
上記慣性力モーメントMaについて、以下に考察する。
第1質点123及び第2質点124の運動は、アクチュエータ137によって発生する運動と、基体リンク132がCOPを中心としてロール方向に傾斜(回転)することによって発生する運動とから成る。
アクチュエータ137によって発生する第2質点124の加速度の方向は、第2質点124と原点を結ぶ直線の方向である。このため、アクチュエータ137による第2質点124の運動に起因して原点まわりに発生するロール方向の慣性力モーメントは“0”である。
ここで、COPを中心としてロール方向に傾斜する基体リンク132の回転角速度をω、その微分値(すなわち回転角加速度)をωdotと表記する。この回転運動に起因する両質点123,124の運動によって原点まわりに発生するロール方向の慣性力モーメントは、第1質点123と原点との間の距離の二乗に、質量m1とωdotとを乗じたものと、第2質点124と原点との距離の二乗に、質量m2とωdotとを乗じたものとの和の(−1倍)になる。
ただし、原点と第2質点124との間の距離は、初期時刻t0以前では“0”である。そして、初期時刻t0以降でも原点と第2質点124との間の距離(=qの絶対値)は、原点と第1質点123との間の距離(=h+c=h+Lb*Lb/h)に比べて十分に短いと考えられる。また、一般に、質量m2は質量m1より小さい。
従って、第2質点124の運動による慣性力モーメントの大きさは、第1質点123の運動による慣性力モーメントの大きさに比べて十分に小さいので、第2質点124の運動による慣性力モーメントは無視して差し支えない。従って、Maは、車体2の傾斜に伴う第1質点123の運動によって発生する慣性力モーメントに相当するものとなる。
よって、原点まわりに発生するロール方向のトータルの慣性力モーメントMaは、次式(22)により与えられる。
Ma=−m1*(h+Lb*Lb/h)*(h+Lb*Lb/h)*ωdot ……(22)
式(21)及び式(22)によって、次式(23)が得られる。
m1*(h+Lb*Lb/h)*(h+Lb*Lb/h)*ωdot=Mp+M2
……(23)
式(23)は、質量がm1、質点高さが(h+Lb*Lb/h)であって、支点が原点にある倒立振子の支点にモーメント(Mp+M2)を加えたときの倒立振子の傾斜の挙動を表していると解釈できる。そこで、以降、第1質点123を倒立振子質点123ということがある。
なお、基体リンク132がCOPを中心としてロール方向に傾斜しても、基体リンク132の原点位置は、ほとんど横に移動しない。したがって、倒立振子質点123の傾斜は、基体リンク132のロール方向の傾斜に一致する。
また、倒立振子質点123の支点位置は、前述の3軸直交座標系の原点(二輪車1の基準姿勢状態での全体重心Gを接地面110に対して垂直方向(上下方向)に投影してなる投影点)に相当する。
また、第1質点(倒立振子質点)123と第2質点124とは、車体2の対称面(車体2が左右対称であるとみなしたときの対称面)上に存在するので、第1質点123と第2質点124を結ぶ線分のロール方向の傾斜は、二輪車1の車体2のロール方向の傾斜に相当する。
また、式(15)からわかるように、第2質点124のY軸方向の移動量qは、操舵角δfから一義的に定まる量である。なお、移動量qは、後述する実施形態の二輪車1A等の実際の実際の二輪車では、操舵角δfから非線形な関数によって決定される値である。
以上より、操舵角δfを安定化しつつ倒立振子質点123の運動状態を安定化することは、操舵角δfを安定化しつつ二輪車1の車体2のロール方向の傾斜を安定化することと等価になる。
上記式(23)により、初期時刻t0の直後の瞬間における基体リンク132のロール方向の回転角加速度ωdot(換言すれば、原点と倒立振子質点123を結ぶ線分のロール方向の回転角加速度、さらに換言すれば、原点から見た倒立振子質点123のロール方向の回転角加速度)は、接地面110からCOPを介して二輪車1に作用する鉛直方向反力に起因して原点まわりに発生する前記路面反力モーメントMpと、第2質点124に作用する重力に起因して原点まわりに発生する前記重力モーメントM2とに依存して決定されることがわかる。
従って、(Mp+M2)を、倒立振子質点123の運動状態を制御するための操作モーメントとして用いることができることとなる。ひいては、(Mp+M2)を、二輪車1の車体2の姿勢(ロール方向の傾斜角)を目標とする所要の姿勢に制御するための操作モーメントとして用いることができることとなる。そこで、以降、(Mp+M2)を、次式(24)の如くMsumと表記する共に、姿勢制御用操作モーメントと称する。
Msum=Mp+M2 ……(24)
この姿勢制御用操作モーメントMsumは、前記式(1)、(7)、(15)、(16)、(18)、(19)、(20)、(24)によって、次式(25)により表される。
Msum=−(((Rg+I/(m*h))/(h+I/(m*h)))*a−Rf)
*(Lr/(Lf+Lr))*m*g*sin(θcf)*δf
……(25)
但し、Rg=(Lr/(Lf+Lr))*Rf+(Lf/(Lf+Lr))*Rr ……(25a)
なお、Rgは、前記式(18)から判るように、基準姿勢状態から車体2のロール角を微小量だけ変化させた場合における、該ロール角の変化量に対するCOPの横移動量pの変化量の比(ロール角の微小変化に対するCOPの横移動量pの変化の感度)に相当する。
一方、重力モーメントM2は、前記式(1)、(7)、(15)、(19)によって、次式(26)により表される。
M2=−((I/(m*h))/(h+I/(m*h)))
*(Lr/(Lf+Lr))*a*m*g*sin(θcf)*δf ……(26)
また、路面反力モーメントMpは、前記式(1)、(16)、(18)、(20)及び(25a)によって、次式(27)により表される。
Mp=−((Rg/(h+I/(m*h)))*a−Rf)
*(Lr/(Lf+Lr))*m*g*sin(θcf)*δf ……(27)
ここで、以下のように、a_sum、k_sum、a_p、k_pおよびk_mを定義する。
a_sum=((h+I/(m*h))/(Rg+I/(m*h)))*Rf ……(28)
k_sum=−((Rg+I/(m*h))/(h+I/(m*h)))
*(Lr/(Lf+Lr))*m*g*sin(θcf) ……(29)
k_m=−((I/(m*h))/(h+I/(m*h)))
*(Lr/(Lf+Lr))*m*g*sin(θcf) ……(30)
a_p=((h+I/(m*h))/Rg)*Rf ……(31)
k_p=−((Rg/(h+I/(m*h)))*(Lr/(Lf+Lr))*m*g*sin(θcf)
……(32)
式(25),(28),(29)より次式(33)が得られる。
Msum=k_sum*(a−a_sum)*δf ……(33)
また、式(26)、(30)より次式(34)が得られる。
M2=k_m*a*δf ……(34)
また、式(27)、(31)、(32)より次式(35)が得られる。
Mp=k_p*(a−a_p)*δf ……(35)
式(33),(34),(35)から判るように、Msum,M2およびMpは、操舵角δfに比例する。
なお、式(28)及び(31)から、a_sumとa_pとの間には、次の大小関係が成立する。
0<a_sum<a_p ……(36)
図7は、高さaと、Msum/δf、M2/δfおよびMp/δfのそれぞれとの間の関係(式(33),(34),(35)により示される関係)を示すグラフである。
以下では、図7を用いて、高さaの設定値と静止時の二輪車1の安定性との関連性を考察する。
まず、aが、式(28)で定まるa_sumに一致している場合(a=a_sumである場合)を想定する。
図8(c)は、この場合における第2質点124とCOPとの位置関係を例示している。ただし、図示例は、δf>0ある場合の例である。このことは、後述する図8(a)、図8(b)、図8(d)、図9(a)、図9(b)、図9(c)、図9(d)についても同様である。
a=a_sumである場合には、前記式(33)によって求められる姿勢制御用操作モーメントMsumは、前輪操舵角の変化によらずに常に“0”となる。従って、Msumによって、倒立振子質点123の運動状態(ひいては、二輪車1の車体2の姿勢(ロール方向の傾斜角))を制御することはできない。
次に、高さaが、次式(37)で示す如く、a_sumよりも大きく、且つ、a_pよりも小さい場合を想定する。
a_sum<a<a_p ……(37)
図8(b)は、この場合における第2質点124とCOPとの位置関係を例示している(ただし、図示例ではδf>0)。この場合、図7に示すように、Msum/δfは負となる。したがって、操舵角δfが正の場合、Msumは負となり、操舵角δfが負の場合、Msumは正となる。
このため、前輪操舵角を操作することによって、原理的には、二輪車1の車体2の姿勢(ロール方向の傾斜角)を制御することができることとなる。しかしながら、この場合、本願発明者の実験及び検討によれば、以下のような不都合を生じることが判明した。
すなわち、a_sum<a<a_pである場合、図7に示す如く、M2/δfとMp/δfとは、互いに極性が異なり、且つ、M2/δfの絶対値がMp/δfの絶対値よりも大きいものとなる。
したがって、前輪操舵角を操作することによって得られる姿勢制御用操作モーメントMsumは、主にM2に依存することとなる。そして、Mpは、M2と同じ向きに発生するMsumによる二輪車1の車体2の姿勢の制御を阻害する(Msumの絶対値をM2の絶対値よりも減少させる)ように機能する。
このため、Mpが二輪車1の車体2の姿勢の制御を阻害しないと仮定した場合(Mp=0であるか、もしくは、MpがM2と同極性である場合)よりも、前輪操舵角を大きく操作しなければ、車体2の姿勢の制御のために十分な大きさの姿勢制御用操作モーメントMsumを発生させることができない。
すなわち、a_sum<a<a_pである場合には、二輪車1の車体2の姿勢(ロール方向の傾斜角)が目標とする所要の姿勢からずれた場合に、該車体2の姿勢を所要の姿勢(倒立振子質点123を安定化させ得る姿勢)に復元させる復元力を発生させるためには、二輪車1の車体2のロール方向の傾斜角の変化に対して、前輪操舵角を変化させるためのフィードバックゲインの絶対値を非常に大きくする必要がある。
ところで、二輪車1の基準姿勢状態から前輪操舵角を変化させることによって第2質点124が二輪車1の左右方向に加速する場合、その加速によって第2質点124が発生する慣性力は、接地面110から二輪車1に作用する摩擦力と平衡する。
そして、前輪3f及び後輪3rに備えられるタイヤは、一般には、接地面110から受ける摩擦力によって横方向にせん断変形する。このため、一般には、前輪操舵角の変化に対する第2質点124の挙動の応答遅れが生じ、ひいては、前輪操舵角の変化に対する重力モーメントM2の変化の応答遅れが生じる。
このため、二輪車1の車体2の傾斜角の変化に対して、前輪操舵角を変化させるためのフィードバックのゲインの絶対値を大きく設定すると、前輪操舵角の変化に対する重力モーメントM2の変化の応答遅れと二輪車1の車体2のロール方向の傾斜角の応答遅れとに起因して、制御系の発振現象が生じやすくなる。すなわち、前輪操舵角の操作による車体2の姿勢の制御のロバスト性が低下する。
このように、姿勢制御用操作モーメントMsumが、M2に対する依存性の高いものとなると、前輪3f及び後輪3rに備えられるタイヤのせん断変形に起因するM2の変化の応答遅れの影響によって、制御系の発振現象が発生し易くなる。すなわち、a_sum<a<a_pである場合には、タイヤのせん断変形に起因するM2の変化の応答遅れの影響によって、制御系の発振現象が発生し易くなる。
また、a_sum<a<a_pである場合には、操舵角δfの絶対値が大きい時に二輪車1の姿勢の制御を安定化することが難しい。この理由を以下に説明する。
操舵角δfの絶対値が大きい時には、操舵輪(前輪3f)の接地点を含みX軸方向(車体2の前後方向)を法線とする断面で見た該操舵輪(前輪3f)の接地部位の曲率半径は、操舵角δfが“0”である場合の曲率半径よりも大きくなる。従って、操舵角δfの絶対値が大きくなるに伴い、実質的なRfが大きくなる。また、Mpは、前記式(27)に示される如くRfに対して依存性を有する。
図10は、Rfの大きさの違いによるMp/δfのグラフの違いを例示している。Rfが標準値(基準姿勢状態における前輪3fの接地点の位置での該前輪3fの横断面形状の曲率半径)である場合のMp/δfのグラフの例が直線α1であり、Rfが標準値よりも大きい場合のMp/δfのグラフの例が直線α2である。直線α1,α2にそれぞれ対応するa_p(Mp/δfが“0”であるときのaの値)が、a_p1、a_p2である。
図10に示すように、Rfが大きい場合のa_pの値a_p2は、Rfが小さい場合のa_pの値a_p1よりも大きくなる。また、Rfが大きい場合の直線α2の傾きは、Rfが小さい場合の直線α1の傾きよりも大きくなる。
このため、Rfが大きくなると、aがa_sum<a<a_pを満足する値である場合において、Mp/δfが正の方向に増加する(すなわち、M2/δfと逆極性の方向に変化する)。このため、Msum/δfが“0”に近づき、二輪車1の車体2の姿勢を目標とする所要の姿勢に復元させる復元力が低下する。あるいは、Msum/δfの極性が負から正に反転し、車体2の姿勢の制御を安定化することが難しい。
このように、a_sum<a<a_pである場合には、操舵角δfの絶対値が大きい場合に、実質的なRfが、基準姿勢状態におけるRf(標準値)からずれることに起因して、倒立振子質点123の運動状態の制御(ひいては、二輪車1の車体2の姿勢の制御)を安定化することが難しい。
次に、aが、次式(38)の如く、a_p以上の値である場合を想定する。
a≧a_p ……(38)
図8(a)は、この場合における第2質点124とCOPとの位置関係を例示している(ただし、図示例ではδf>0)。この場合、図7に示す如く、Msum/δfは負となる。したがって、a_sum<a<a_pである場合(図8(b)の場合)と同様に、操舵角δfが正の場合、Msumは負となり、操舵角δfが負の場合、Msumは正となる。
このため、前輪操舵角を操作することによって、原理的には、倒立振子質点123の運動状態を制御することができることとなる。ひいては、二輪車1の車体2の姿勢(ロール方向の傾斜角)を、前輪操舵角の操作によって制御することができる。
また、この場合には、M2/δfとMp/δfとは、逆極性になることはない。すなわち、a=a_pである場合は、Mp/δf=0、M2/δf<0となる。また、a>a_pである場合は、M2/δfとMp/δfとは、互いに同極性である。したがって、M2のみによって、あるいは、M2とMpとの協調によって、姿勢制御用操作モーメントMsumを発生させることができる。
そのため、a_sum<a<a_pである場合(図8(b)の場合)よりも、車体2の姿勢制御のフィードバックゲインの絶対値を小さめに設定することは可能である。
ただし、図7に示すように、M2/δfの絶対値がMp/δfの絶対値よりも大きいことから、Msumは、M2に対する依存性が高い。また、高さaが大きいために、第2質点124の横加速度(Y軸方向の加速度)が大きくなりがちである。
このため、a_sum<a<a_pである場合(図8(b)の場合)と同様に、前輪3f及び後輪3rに備えられるタイヤのせん断変形の影響が大きくなる。その結果、前輪操舵角の変化に対する重力モーメントM2の変化の応答遅れが生じやすいことから、制御系の発振現象が生じやすくなる。
次に、次式(39)が成立することとなるaの値をa_sと表記する。
Msum=−M2 ……(39)
この式(39)が成立する状態は、M2が、Msumによる二輪車1の車体2の姿勢の制御を阻害する(M2がMsumの向きと逆向きになる)ように機能し、且つ、M2の絶対値とMsumの絶対値とが互いに等しい状態である。
式(25)、(27)によって、上記a_sは、次式(40)により表される。
a_s=((h+I/(m*h))/(Rg+2*I/(m*h)))*Rf ……(40)
式(40)の右辺のパラメータがすべて正の値であることと、前記式(28)、(40)とから、次式(41)の関係が得られる。
0<a_s<a_sum ……(41)
次に、aが、次式(42)に示す如く、a_sよりも大きく、且つ、a_sumよりも小さい場合を想定する。
a_s<a<a_sum ……(42)
図8(d)は、この場合における第2質点124とCOPとの位置関係を例示している(ただし、図示例ではδf>0)。この場合、Msum/δf(=Mp/δf+M2/δf)は正となる。換言すれば、Mp/δf>−M2/δfとなる。
したがって、操舵角δfが正の場合、姿勢制御用操作モーメントMsumは正となり、操舵角δfが負の場合、姿勢制御用操作モーメントMsumは負となる。従って、前輪操舵角を操作することによって、原理的には、倒立振子質点123の運動状態を制御することができることとなる。ひいては、二輪車1の車体2の姿勢(X軸まわり方向の傾斜角)を、前輪操舵角の操作によって制御することができる。
ただし、a_s<a<a_sumである場合には、a>a_sumである場合よりはM2の絶対値が小さくなって、前輪3f及び後輪3rのタイヤのせん断変形に起因する車体2の姿勢の制御の発振が抑制されるものの、後述する0<a≦a_sである場合よりは、前輪3f及び後輪3rのタイヤのせん断変形に起因して、車体2の姿勢の制御が発振しやすい。以下にその理由を述べる。
aが式(42)を満足する値である場合、Msum/δfとM2/δfは、図7に示すように、互いに極性が異なる。すなわち、M2は、Msumによる車体2の姿勢の制御を阻害するように機能する。しかも、前述のごとく、M2は、第2質点124の移動による横加速度を伴うため、前輪3f及び後輪3rのタイヤのせん断変形を発生させる。ひいては、該せん断変形に起因する応答遅れによって、制御系の発振現象が生じやすくなる。
また、aが式(42)を満足する値である場合、Msum/δfの絶対値は、M2/δfの絶対値よりも小さい。すなわち、車体2の姿勢制御を阻害し、且つ、制御系の発振現象の原因となるM2の絶対値よりも、姿勢制御用操作モーメントMsumの絶対値の方が小さくなる。したがって、フィードバックゲインの絶対値を、制御系の発振現象を防止し得るように小さめの大きさに設定すると、姿勢制御用操作モーメントMsumの大きさが不足したものとなりやすい。
次に、aが、次式(43)の如く、“0”よりも大きく、且つ、a_s以下である場合を想定する。
0<a≦a_s ……(43)
図9(a)はa=a_sである場合における第2質点124とCOPとの位置関係を例示している(ただし、図示例ではδf>0)。また、図9(b)は0<a<a_sである場合における第2質点124とCOPとの位置関係を例示している(ただし、図示例ではδf>0)。
0<a≦a_sである場合には、図7に示すように、Msum/δfは正となる。したがって、操舵角δfが正の場合、Msumは正となり、操舵角δfが負の場合、Msumは負となる。
また、この場合、a_s<a<a_sumである場合と同様に、Msum/δfとM2/δfとは、互いに極性が異なる。すなわち、M2は、Msumによる車体2の姿勢の制御を阻害するように機能する。
しかしながら、aが式(43)を満足する値である場合、Msum/δfの絶対値は、M2/δfの絶対値以上の大きさとなる。換言すれば、Msum/δf>−M2/δfとなる。すなわち、車体2の姿勢制御を阻害し、且つ、制御系の発振現象の原因となるM2の絶対値は、姿勢制御用操作モーメントMsumの絶対値以下の大きさに留まる。
したがって、車体2の姿勢(ロール方向の傾斜角)を所要の姿勢に復元させるために十分な大きさの姿勢制御用操作モーメントMsumを発生させるように、フィードバックゲインの絶対値を大きめに設定しても、制御系の発振が生じにくくなる。すなわち、前輪操舵角の操作による倒立振子質点123の運動状態の制御の安定性(ひいては、二輪車1の車体2の姿勢制御の安定性)を高めることが可能となる。
次に、aが“0”である場合(a=0である場合)を想定する。
図9(c)は、この場合における第2質点124とCOPとの位置関係を例示している(ただし、図示例ではδf>0)。この場合、図7に示すように、Msum/δfは正となる。したがって、操舵角δfが正の場合、Msumは正となり、操舵角δfが負の場合、Msumは負となる。
また、この場合、M2は常に“0”である。したがって、前輪操舵角を操作することによって発生する姿勢制御用操作モーメントMsumは、すべてMpによって発生する。そして、この場合、基準姿勢状態から前輪操舵角を操作しても、第2質点124のY軸方向の移動量が“0”であるので、接地面110から二輪車1に作用する摩擦力は発生しない。
したがって、前輪3f及び後輪3rのタイヤのせん断変形が発生しない。よって、タイヤのせん断変形に起因する制御系の発振現象が生じ難いものとなるので、aの値が前記式(43)を満足する値である場合よりも、より一層、前記フィードバックゲインの絶対値を大きくして、倒立振子質点123の運動状態を所要の状態に復元させる復元力を高めることができると共に、該運動状態の制御の安定性を高めることができる。ひいては、車体2の姿勢を所要の姿勢に復元させる復元力を高めることができると共に、該姿勢の制御の安定性を高めることができる。
また、aの値が前記式(43)を満足する値である場合よりも、前輪操舵角の単位変化量あたりに発生させ得るMsumの大きさが大きくなるので、車体2の姿勢を所要の姿勢に復元させるために必要な前輪操舵角の変化量の大きさを小さくすることもできる。
次に、aが負である場合(a<0である場合)を想定する。
図9(d)は、この場合における第2質点124とCOPとの位置関係を例示している(ただし、図示例ではδf>0)。この場合、図7に示すように、Msum/δfは正となる。したがって、操舵角δfが正の場合、姿勢制御用操作モーメントMsumは正となり、操舵角δfが負の場合、姿勢制御用操作モーメントMsumは負となる。
また、この場合、M2/δfとMp/δfとは、互いに同極性である。したがって、M2とMpとを協調させて姿勢制御用操作モーメントMsumを発生することができる。故に、a=0である場合よりも、前輪操舵角の単位変化量あたりに発生させ得るMsumの大きさが大きくなるので、より一層、車体2の姿勢を所要の姿勢に復元させるために必要な前輪操舵角の変化量の大きさを小さくすることができる。
以上のことから、二輪車1の前輪3fの操舵によって、該二輪車1の車体2の姿勢(ロール方向の傾斜角)を所要の姿勢に制御しようとする場合(該二輪車1の動力学モデルにおける倒立振子質点123の運動状態を制御しようとする場合)、前輪3f(操舵輪)の車軸中心点と前輪3fの接地点とを結ぶ直線と、前輪3f(操舵輪)の後傾した操舵軸線Csfとの交点Efの高さaが、式(28)により定義したa_sumよりも小さくなるように、操舵軸線Csfの配置位置を設定することが、倒立振子質点123の運動状態(ひいては、車体2の姿勢)を安定に制御するための必要条件と言える。
さらには、タイヤのせん断変形に起因する制御系の発振現象を抑制するためには、高さaが式(40)により定義したa_s以下となるように、操舵軸線Csfの配置位置を設定しておくことが好ましい。
さらには、より一層、車体2の姿勢を所要の姿勢に復元させるために必要な前輪操舵角の変化量の大きさを小さくする上では、高さaが“0”又は負の値となるように操舵軸線Csfの配置位置を設定しておくことが好ましい。
以上説明した事項は、車体2の姿勢を制御するために、前輪3fの操舵を行なう場合についての事項である。ただし、当該事項は、後輪を操舵可能な二輪車(移動体)において、車体の姿勢(ロール方向の傾斜角)を制御するために後輪を操舵する場合についても同様に成立する事項である。
以下、後輪を操舵可能な二輪車に関して説明する。図11は、車体202と、車体202の前後方向に間隔を存して配置された前輪203f及び後輪203rとを備え、且つ、後輪203rを操舵可能な移動体としての二輪車201(基準姿勢状態での二輪車201)の側面視の図と、該二輪車201の後方側から見た後輪203rの図と、該二輪車1の前方側から見た前輪203fの図とを図1の場合と同様に模式的に示している。
なお、この二輪車201の基準姿勢状態は、図1の二輪車1の基準姿勢状態と同様の状態、すなわち、前輪203f及び後輪203rが接地面110に直立姿勢で接地して静止しており、且つ、前輪203f及び後輪203rのそれぞれの車軸中心線(回転軸心)Cf,Crが、車体202の前後方向と直交する方向に互いに平行に延在している状態(二輪車201が、直進姿勢で起立して静止している状態)を意味する。
後輪203rは、車体202の後部に設けられた後輪支持機構205に回転自在に軸支されている。この後輪支持機構205は、フロントフォークと同様の機構等、後輪203rの操舵を可能とする機構により構成されている。その機構によって、後輪203rは操舵軸線Csrのまわりに転向可能(操舵可能)な操舵輪となっている。
この後輪203rの操舵軸線Csrは後傾されている。すなわち、操舵軸線Csrが、その下方側よりも上方側の方が相対的に車体202の前後方向における後方側になるように、車体202の前後方向及び上下方向に対して傾いて延在している。
また、前輪203fは、図1に示した二輪車1と同様に、車体202の前部に設けられたフロントフォーク等により構成される前輪支持機構204に回転自在に軸支されている。そして、前輪3fは、後傾した操舵軸線Csfのまわりに転向可能(操舵可能)な操舵輪となっている。
ただし、後輪203rを操舵可能な図11の二輪車201では、前輪203fの操舵軸線Csfが後傾していることは必須ではない。また、前輪203fが操舵輪であることも必須ではない。
上記の如く後輪203rを操舵可能な二輪車201(以降、後輪操舵型二輪車201ということがある)においても、図1の二輪車1(以降、前輪操舵型二輪車1ということがある)の場合と同様に、基準姿勢状態の後輪操舵型二輪車201を、図12に示す如く、質量m1の第1質点123と、質量m2の第2質点124との2つの質点により構成される剛体系(二輪車剛体系)とみなすことができる。
その質点123,124の質量m1,m2と、質点123の高さと重心高さhとの差cとは、図1の前輪操舵型二輪車1と同様に、前記式(5a),(6a),(7a)又は式(5b),(6b),(7b)により定義される。
なお、図12のXYZ座標系の設定の仕方は、前輪操舵型二輪車1の場合と同様である。
そして、この場合、後輪操舵型二輪車201の基準姿勢状態から、前輪203fを操舵することに代えて、後輪203rの操舵角(操舵軸線Csrまわりの回転角)を“0”からステップ状に変化させた場合の動力学的挙動(XYZ座標系のX軸まわり方向(ロール方向)で原点まわりに発生するモーメントに関する動力学的挙動)は、前輪操舵型二輪車1の場合と同様である。
さらに詳細には、後輪203rのキャスター角(基準姿勢状態での後輪203rの操舵軸線Csrの傾斜角度(上下方向に対する傾斜角度))をθcrと表記する。この場合、図12に示したように後輪203rの操舵軸線Csrが後傾となる場合のキャスター角θcr正の角度であると定義する。
また、後輪203rの操舵角(以降、単に後輪操舵角ということがある)のステップ状の変化後の値をδrと表記する。この場合、後輪操舵角は、基準姿勢状態(後輪203rの非操舵状態)において“0”であると定義する。そして、後輪操舵角の正の向きは、後輪203rの前端が車体202の左側に向く(二輪車201の前進時に右旋回する)こととなる回転の向きであると定義する。
また、図12に示すように、後輪操舵型二輪車201の基準姿勢状態において、後輪203rの車軸中心点と接地点とを結ぶ直線と、操舵軸線Csrとの交点Er'の高さ(接地面110からの高さ)をa’と表記する。
なお、交点Er'の高さa’は、Z軸方向位置(Z座標)を示すものであり、該交点Er'が接地面110よりも上側に存在する場合にはa'>0、該交点Er'が接地面110よりも下側に存在する場合にはa'<0である。そして、後輪203rのキャスタ角θcrが正の角度である場合(すなわち、操舵軸線Csrが後傾している場合)、高さa’が正であることは、トレール長(図12に示すt’)が正であることを意味し、前記高さa’が負であることは、トレール長t’が負であることを意味する。
また、図11及び図12において、Ef'は、基準姿勢状態において、前輪203fの車軸中心点と接地点を結ぶ直線上で、接地面110からの高さが前記高さa’に一致する点、E'は、点Ef',Er’を結ぶ線分と、質点123,124を結ぶ線分(補足すると、この線分は、X軸に直交し全体重心Gを通る)との交点である。
後輪操舵型二輪車201にあっては、前輪操舵型二輪車1に関する前記の各式におけるパラメータθcf、δf、aを、それぞれ、上記θcr、δr、a’に置き換え、且つ、Lf,Lr,Rf,Rr,φf,φr,ef,erの添え字のrとfとを入れ替えることで、後輪操舵型二輪車201に対応する式が得られる。
例えば、前輪操舵型二輪車1に関するMsum、M2、Mp、a_sum、a_p、a_sに対応する後輪操舵型二輪車201での値を、それぞれ、Msum’、M2’、Mp’、a_sum’、a_p'、a_s’と表記する。このとき、Msum、M2、Mp、a_sum、a_p、a_sに関する前記式(25)、(26)、(27)、(28)、(31)、(40)にそれぞれ対応して、Msum’、M2’、Mp’、a_sum’、a_p'、a_s’に関する次式(25)’、(26)’、(27)’、(28)’、(31)'、(40)’が得られる。
Msum'=−(((Rg+I/(m*h))/(h+I/(m*h)))*a'−Rr)
*(Lf/(Lf+Lr))*m*g*sin(θcr)*δr
……(25)'
但し、Rg=(Lr/(Lf+Lr))*Rf+(Lf/(Lf+Lr))*Rr ……(25a)
M2'=−((I/(m*h))/(h+I/(m*h)))
*(Lf/(Lf+Lr))*a'*m*g*sin(θcr)*δr ……(26)'
Mp'=−((Rg/(h+I/(m*h)))*a'−Rr)
*(Lf/(Lf+Lr))*m*g*sin(θcr)*δr ……(27)'
a_sum'=((h+I/(m*h))/(Rg+I/(m*h)))*Rr ……(28)'
a_p'=((h+I/(m*h))/Rg)*Rr ……(31)'
a_s'=((h+I/(m*h))/(Rg+2*I/(m*h)))*Rr ……(40)'
なお、これらの式におけるm、I、h、Lf、Lr、Rf、Rr、gの意味は、前輪操舵型二輪車1の場合と同様である。また、後輪操舵型二輪車201においては、前記式(11)、(12)、(13)により表されるef,er,eは、それぞれ図11又は図12に示す点Ef'、Er'、E'のY軸方向の移動量を示すものとなる。
以上のことから、後輪操舵型二輪車201の後輪操舵角を操作した場合の挙動は、前輪操舵型二輪車1の前輪操舵角を操作した場合の挙動と同様になる。このため、後輪操舵型二輪車201の後輪203rの操舵によって、該二輪車201の車体202の姿勢(ロール方向の傾斜角)を目標とする所要の姿勢に制御しようとする場合、その制御の安定性とa’の値との関係は、前輪操舵型二輪車1における車体2の姿勢の制御の安定性とaの値との関係と同様になる。
従って、後輪操舵型二輪車201の後輪203rの操舵によって、該二輪車201の車体202の姿勢(ロール方向の傾斜角)を所要の姿勢に制御しようとする場合(該二輪車201の動力学モデルにおける倒立振子質点123の運動状態を制御しようとする場合)、後輪203r(操舵輪)の車軸中心点と後輪203rの接地点とを結ぶ直線と、後輪203r(操舵輪)の後傾した操舵軸線Csrとの交点Er'の高さa'が、式(28)'により定義したa_sum'よりも小さくなるように、後輪203r(操舵輪)の操舵軸線Csrの配置位置を設定することが、倒立振子質点123の運動状態を安定化する(ひいては、車体202の姿勢を安定に制御する)ための必要条件と言える。
さらには、タイヤのせん断変形に起因する制御系の発振現象を抑制するためには、高さa'が式(40)'により定義したa_s'以下となるように、後輪203r(操舵輪)の操舵軸線Csrの配置位置を設定しておくことが好ましい。
さらには、より一層、車体202の姿勢を所要の姿勢に復元させるために必要な後輪操舵角の変化量の大きさを小さくする上では、高さa'が“0”又は負の値となるように後輪203r(操舵輪)の操舵軸線Csrの配置位置を設定してとくことが好ましい。
補足すると、前輪操舵型二輪車1に関して、前記式(25)のMsum、式(26)のM2、式(27)のMpのそれぞれは前輪3fの操舵角δfに対して線形である。同様に、後輪操舵型二輪車201に関しても、前記式(25)’のMsum'、式(26)’のM2'、式(27)’のMp'のそれぞれは後輪203rの操舵角δrに対して線形である。
したがって、前輪及び後輪の両輪の操舵によって二輪車の車体の姿勢を制御する場合における姿勢制御用操作モーメントは、式(25)のMsumと式(25)’のMsum'との和になる。同様に、前輪及び後輪の両輪を操舵する場合の重力モーメント(重力によって原点まわりに発生するロール方向のモーメント)は、式(26)のM2と式(26)’のM2'との和になる。さらに、前輪及び後輪の両輪を操舵する場合の路面反力モーメント(接地面110からの鉛直方向反力によって原点まわり発生するロール方向のモーメント)は、式(27)のMpと、式(27)’のMp'との和になる。
ところで、前記前輪操舵型二輪車1又は後輪操舵型二輪車201において、重心高さhが、前記式(25a)により定義したRg以下となることは、事実上有り得ないと考えてよい。
仮に、重心高さhが、Rg以下であったとしても、この場合は、二輪車1又は201の基準姿勢状態において、操舵輪(前輪3f又は後輪203r)の操舵による姿勢制御を行わなくとも、動力学的に安定になる。したがって、操舵による車体2又は202の姿勢制御の安定性を議論する上では、重心高さhが、Rgよりも大きな値である場合だけを考えればよい。
この場合、例えば前輪操舵型二輪車1に関し、((h+I/(m*h))/(Rg+I/(m*h)))の値は、1よりも大きくなるので、式(28)の右辺は、Rfよりも大きくなる。すなわち、式(28)によって決定されるa_sumの値は、hがRgよりも大きい限り、任意のh、Iおよびmに対して、必ずRfよりも大きくなる。
一方、前輪操舵型二輪車1に関し、前述のごとく、高さaがa_sumよりも小さければ、Mp/δfは正、且つ、Mp/δf>(−M2/δf)、且つ、Msum/δfは正となる。
以上より、aをRf以下に設定すれば、hがRgよりも大きい限り、任意のh、Iおよびmに対して、Mp/δfは正、且つ、Mp/δf>(−M2/δf)、且つ、Msum/δfは正となる。
すなわち、aをRf以下に設定すれば、h、Iおよびmの値が設計上で算出されていない場合、あるいは、h、Iおよびmの値が測定できていない場合、あるいは、任意の物が移動体に搭載あるいは装着される可能性があって、h、Iおよびmの値が変化するような場合でも、hがRgよりも大きい限り、必ず、Mp/δfは正、且つ、Mp/δf>(−M2/δf)、且つ、Msum/δfは正となる。ひいては、h、Iおよびmの値に依存することなく、車体2の姿勢(ロール方向の傾斜角)を所要の姿勢に復元させる姿勢制御用操作モーメントMsumを、適切な方向に発生させることができる。
姿勢制御用操作モーメントMsumが、十分な大きさの値であるか否かは、h、Iおよびmの値を知らない限り判断はできないが、h、Iおよびmが未知であっても、aがRf以下であるか否かを調べるだけで、所要の姿勢に復元させる姿勢制御用操作モーメントMsumを適切な方向に発生させることができるか否かを判定できる。従って、aがRf以下になるようにすることを、二輪車1の設計における指針にできる。
以上のことは、後輪操舵型二輪車201においても同様に言える事項である。すなわち、高さa’をRr以下に設定すれば、hがRgよりも大きい限り、必ず、Mp’/δrは正、且つ、Mp’/δr>(−M2’/δr)、且つ、Msum’/δrは正となる。ひいては、h、Iおよびmの値に依存することなく、車体202の姿勢(ロール方向の傾斜角)を所要の姿勢に復元させる姿勢制御用操作モーメントMsum’を、適切な方向に発生させることができる。
図1に示した前輪操舵型二輪車1の前述のモデルにおいては、前輪3fと前輪支持機構4とから成る操舵可動部が、前輪3fの操舵に伴って車体2に対して相対的な運動をすることに起因して発生する該操舵可動部の慣性力と該操舵可動部に作用する重力とを無視し、車体2に質量と慣性モーメント(イナーシャ)とを集中させていた。
同様に、図11に模式的に示した後輪操舵型二輪車201のモデルにおいても、後輪203rと後輪支持機構205とから成る操舵可動部が、後輪203rの操舵に伴って車体202に対して相対的な運動をすることに起因して発生する該操舵可動部の慣性力と該操舵可動部に作用する重力とを無視し、車体202に質量と慣性モーメント(イナーシャ)とを集中させていた。
一般的な二輪車に対しては、これらのようなモデルに基づく操舵輪(前輪3f又は後輪203r)の操舵制御によって、車体2又は202の十分な姿勢安定化制御が可能である。
ただし、前輪支持機構4(又は後輪支持機構205)に音響機器などの付帯的な機器が装着されることにより、前記操舵可動部の質量が増えたり、操舵軸線Csf(又はCsr)まわりの前記操舵可動部の慣性モーメントが増加したり、前記操舵可動部の重心が操舵軸線Csf(又はCsr)から大きくずれたりする場合がある。
このような場合に対しては、前輪3fと前輪支持機構4とから成る操舵可動部(又は後輪203rと後輪支持機構205とから成る操舵可動部)が車体2(又は車体202)に対して相対的な運動をすることに起因して発生する該操舵可動部の慣性力と該操舵可動部に作用する重力とをさらに考慮して二輪車のモデル化を行うことにより、より精度の高い姿勢制御が可能となる。
以下では、図1に示す前輪操舵型二輪車1と同様の機構的構造を有する二輪車1について、前輪3fと前輪支持機構4とから成る操舵可動部(以降、前輪側操舵可動部という)の慣性力と、該前輪側操舵可動部に作用する重力とを考慮して、車体2の姿勢を制御するための動力学モデルについて図13〜図15を参照して説明する。
図13は、図1に示した前輪操舵型二輪車1と同様の機構的構造を有する二輪車1を示している。ただし、図13の二輪車1では、そのモデル化のために設定される質量及び慣性モーメントの配置形態が図1の二輪車1と相違する。
図1の二輪車1のモデルでは、前輪側操舵可動部の質量が車体2に含まれるものとされ、該前輪側操舵可動部には質点が設定されていない。これに対して、図13の二輪車1のモデルにおいては、前輪側操舵可動部の質量が車体2から分離され、前輪側操舵可動部と車体2とにそれぞれ質点が設定されている。
具体的には、図13の二輪車1のモデルでは、前輪側操舵可動部は、質量m3の質点125(以降、第3質点125という)を持つものとされている。この第3質点125は、前輪3fの操舵角δfの変化に伴い、前輪側操舵可動部と共に車体2に対して相対的に移動する。
また、図13の二輪車1のモデルでは、図1の二輪車1と同様に、車体2に、質量mbの質点126と慣性モーメントIb(質点126を通って前後方向(X軸方向)に延在する前後軸Crolまわりの慣性モーメント)とが設定されている。
ただし、図13の二輪車1のモデルでは、前輪側操舵可動部の質量m3が車体2に含まれていないので、質点126の質量mb及び位置、並びに、慣性モーメントIbは、それぞれ、図1の二輪車1の全質量m、全体重心Gの位置(質量mの質点の位置)、慣性モーメントIと相違する。
ここで、図13の二輪車1の質量及び慣性モーメントの配置を、図14(a)に示すように、質量m1の第1質点123と、質量m2の第2質点124、質量m3の第3質点125との3つの質点により構成される質点系に等価変換することを想定する。
ただし、第3質点125は、図13の二輪車1の前輪側操舵可動部に対応する質点である。該第3質点125の高さをh3と表記する。
また、図1の二輪車1に関して、図2(b)に示す第2モデルのように等価変換した方法と同様の方法によって、図13の二輪車1の前輪操舵可動部を除く部分(質量mbの質点126及び慣性モーメントIbを有する部分)を、質量がm1、高さがh’(=hb+c)の第1質点123と、質量がm2、高さが“0”の第2質点124とに等価変換する。
この場合、図14(a)におけるh’とhb(=図13に示す質点126の高さ)との差c(=h’−hb)、並びに、m1、m2の値は、式(5b)、(5b)、(5c)の右辺のI、m、hをそれぞれ、Ib、mb、hbに置き換えた式によって決定される。
なお、図1の二輪車1の場合と同様に、図13の二輪車1における第1質点123及び第2質点124は、該二輪車1の車体2の対称面(車体2が左右対称であるとみなしたときの対称面)上に存在するので、第1質点123と第2質点124とを結ぶ線分のロール方向の傾斜は、図13の二輪車1の車体2のロール方向の傾斜に相当する。
次に、図14(a)の質量配置を図14(b)のように等価変換することを考える。ただし、図14(b)の第2質点124の質量及び位置は、それぞれ、図14(a)の第2質点124の質量、位置と同一である。
また、図14(b)の第5質点128は、接地面110上にある。すなわち、第5質点128の接地面110からの高さは“0”である。また、第4質点127の高さh4は、一定である。
以下では、まず、図14(a)の第1質点123及び第3質点125の組が、図14(b)の第4質点127及び第5質点128の組に等価変換できることを示す。
この等価変換は、以下に示す6つの条件を満たすように行なえばよい。
すなわち、等価変換における第1の条件は、第1質点123及び第3質点125の組の質量和が、第4質点127及び第5質点128の組の質量和に一致するという条件である。以降、この条件を質量和条件と呼ぶ。
また等価変換における第2の条件は、第1質点123及び第3質点125の組の重心の高さが、第4質点127及び第5質点128の組の重心の高さに一致するという条件である。以降、この条件を重心高さ条件と呼ぶ。
また等価変換における第3の条件は、第1質点123及び第3質点125の組の原点まわりの慣性モーメントが、第4質点127及び第5質点128との組の原点まわりの慣性モーメントに一致するという条件である。以降、この条件を慣性モーメント条件と呼ぶ。
また等価変換における第4の条件は、第1質点123及び第3質点125の組の原点まわりの角運動量が、第4質点127及び第5質点128の組の原点まわりの角運動量に一致するという条件である。以降、この条件を角運動量条件と呼ぶ。
また等価変換における第5の条件は、図13の前輪操舵型二輪車1の基準姿勢状態において、第4質点127及び第5質点128が車体2の対称面上に存在するという条件である。すなわち、第5の条件は、前記基準姿勢状態において、第4質点127及び第5質点128のY軸方向の移動量(横方向位置)は、“0”であるという条件である。この条件を基準時移動量条件と呼ぶ。
また等価変換における第6の条件は、第1質点123及び第3質点125の組に作用する重力によって、原点まわりにX軸まわり方向(ロール方向)で発生するモーメント(重力モーメント)が、第4質点127及び第5質点128の組に作用する重力によって、原点まわりにX軸まわり方向(ロール方向)で発生するモーメント(重力モーメント)に一致するという条件である。以降、この条件を重力モーメント条件と呼ぶ。
上記質量和条件、重心高さ条件、慣性モーメント条件、角運動量条件、基準時移動量条件、重力モーメント条件の6つの条件の全体を総称的に動力学条件と呼ぶ。なお、条件に関する議論を、質点が3個以上の系に拡張した場合でも、同様に、質量和条件、重心高さ条件、慣性モーメント条件、角運動量条件、基準時移動量条件、重力モーメント条件、および動力学条件と呼ぶ。
以下では、上記動力学条件を満足するように、第1質点123と第3質点125のY軸方向の移動量(横方向位置)の組に応じて第4質点127と第5質点128のY軸方向の移動量(横方向位置)の組を決定する関係式と、第4質点127の高さh4(一定値)とを決定することを考える。
ここで、xn(ただし、n=1,2,3,4,5)を、第n質点のY軸方向の移動量と定義する。
質量和条件、重心高さ条件、慣性モーメント条件によって、それぞれ、次式(101)、(102)、(103)が成立する。
m1+m3=m4+m5 ……(101)
m1*h’+m3*h3=m4*h4 ……(102)
m1*h’*h’+m3*h3*h3=m4*h4*h4 ……(103)
上記式(102)及び式(103)から、次のようにh4、m4が求められる。
h4=(m1*h’*h’+m3*h3*h3)/(m1*h’+m3*h3)
……(104)
m4=(m1*h’+m3*h3)*(m1*h’+m3*h3)
/(m1*h’*h’+m3*h3*h3)
……(105)
式(101)、(104)、(105)から、次のようにm5が求められる。
m5=m1*m3*(h’−h3)*(h’−h3)
/(m1*h’*h’+m3*h3*h3)
……(106)
以上により、質量和条件、重心高さ条件および慣性モーメント条件を満足するように、構造パラメータh4、m4、およびm5を決定できる。以下では、さらに、未知変数であるx4,x5を求める。
質量和条件、重心高さ条件および慣性モーメント条件を満足した上で、基準時移動量条件と角運動量条件とを満足するならば、第1質点123と第3質点125との組の原点まわりの角運動量の積分値は、第4質点127と第5質点128の組の原点まわりの角運動量の積分値に一致する。したがって、次式(107)が成立する。
m1*h’*x1+m3*h3*x3=m4*h4*x4 ……(107)
式(102)、(107)より、次のようにx4が求められる。
x4=(m1*h’*x1+m3*h3*x3)/(m1*h’+m3*h3)
……(108)
一方、重力モーメント条件より、次式(109)が成立する。
m1*x1+m3*x3=m4*x4+m5*x5 ……(109)
式(108)、(109)より、次のようにx5が求められる。
x5=(m1*x1+m3*x3−m4*x4)/m5 ……(110)
ところで、x3は、車体2のロール角φbと前輪3fの操舵角δfとから一義的に決定される。そこで、車体2のロール角φbと前輪3fの操舵角δfとからx3を決定する関数をf3(φb,δf)と表記し、次式(111)が成立するものとする。
x3=f3(φb,δf) ……(111)
f3(φb,δf)は、実験的に決定してもよいが、二輪車1の幾何学的構造から、解析的に三角関数を用いて表現することができる。
さらに、φbが十分に小さい場合には、sin(φb)≒φbと近似できることなどから、f3(φb,δf)は、次式(112)で表されるように、φbに起因する成分とδfに起因する成分との和で近似できる。
f3(φb,δf)=h3*φb+f33(δf)……(112)
ただし、f33(δf)は、δfに起因する成分を表す関数である。前輪3fの操舵軸線Csfからの第3質点125のずれを図13に示す如くbsf(前輪3fの操舵軸線Csfより前上にずれる場合を正とする)と置くと、f33(δf)は、bsf*sin(δf)に比例した成分と、高さaに比例した成分との和になる。なお、式(112)の右辺のφbをsin(φb)で置き換えてもよい。
x1も、車体2のロール角φbと前輪3fの操舵角δfとから一義的に決定される。そこで、車体2のロール角φbと前輪3fの操舵角δfとからx1を決定する関数をf1(φb,δf)と表記し、次式(113)が成立するものとする。
x1=f1(φb,δf) ……(113)
さらに、φbが十分に小さい場合には、f3(φb,δf)と同様に、f1(φb,δf)は、次式(114)で表されるように、φbに起因する成分とδfに起因する成分との和で近似できる。
f1(φb,δf)=h’*φb+f11(δf)……(114)
なお、式(114)の右辺のφbをsin(φb)で置き換えてもよい。
式(104)、(108)、及び(111)〜(114)から、次式(115)が得られる。
x4=h4*φb+(m1*h’/(m1*h’+m3*h3))*f11(δf)
+(m3*h3/(m1*h’+m3*h3))*f33(δf)
……(115)
ここで、次式(116)により関数f4(δf)を定義する。
f4(δf)=(m1*h’/(m1*h’+m3*h3))*f11(δf)
+(m3*h3/(m1*h’+m3*h3))*f33(δf)
……(116)
このとき、式(115)は、次式(117)に書き換えられる。
x4=h4*φb+f4(δf) ……(117)
なお、式(117)の右辺のφbをsin(φb)で置き換えてもよい。
式(102)、(110)〜(114)、及び(117)から、次式(118)が得られる。
x5=(m1/m5)*f11(δf)+(m3/m5)*f33(δf)−(m4/m5)*f4(δf)
……(118)
したがって、x5は、次式(119)の形式で表される。
x5=f5(δf) ……(119)
なお、f5(δf)は、式(118)の右辺により表される関数(δfの関数)を意味する。
以上のように、図14(a)の第1質点123及び第3質点125の組は、図14(b)の第4質点127及び第5質点128の組に等価変換できる。したがって、第1質点123と第2質点124と第3質点125とから成る系(図14(a)により示される系)は、第4質点127と第2質点124と第5質点128とから成る系(図14(b)により示される系)に等価変換できる。
したがって、図13に示す如く前輪操舵型二輪車1に質量を設定した場合、前記基準姿勢状態とその近傍の姿勢状態(基準姿勢状態に近い姿勢状態)での該二輪車1の動力学を近似的に表現する近似動力学モデルは、図14(b)に示す系の動力学モデルに等価変換できる。
ただし、図14(b)の第2質点124の位置及び質量m2は、図14(a)の第2質点124と同一である。なお、図14(a),(b)の第2質点124の質量m2は、図1に示す如く質量を設定した前輪操舵型二輪車1(前輪側操舵可動部に質点を持たないものとした二輪車)の場合とは、一般的には異なる値となる。
図14(b)の第2質点124及び第5質点128の組は、さらに、次式(120)、(121)によって、質量m6を有する第6質点129に等価変換できる。式(120)は、第6質点129の質量m6が、第2質点124及び第5質点128のそれぞれの質量m2,m5の総和に一致するという条件、式(121)が、第6質点129の位置が、第2質点124及び第5質点128の組の重心位置に一致するという条件を示すものである。
m6=m2+m5 ……(120)
x6=(m2/m6)*x2+(m5/m6)*x5 ……(121)
したがって、図14(b)に示す系の動力学モデルは、図14(c)に示す系の動力学モデルに等価変換できる。ただし、図14(c)の第4質点127の質量及び位置は、それぞれ、図14(b)の第4質点127と同一である。
一方、x2(これは、前記qに相当する)は、前記式(15)のようにδfの関数で表され、x5は、前記式(119)のようにδfの関数f5(δf)で表される。このため、x6は、次式(112)の形式のように、δfの関数f(δf)として表される。
x6=f6(δf)……(122)
前輪側操舵可動部に質点125を設定した図13の二輪車1に対応する質点系である図14(c)の系は、前輪側操舵可動部に質点を持たない図1の二輪車1に対応する質点系(すなわち図2(b)の系)と同様に、車体2のロール方向の傾きと前輪3fの操舵角とに応じて移動する質点(第4質点127)と、車体2のロール方向の傾きに依存せずに、前輪3fの操舵角に応じて接地面110上を移動する質点(第6質点129)とから成る。
この場合、第4質点127は、図2(b)の第1質点(倒立振子質点)123に対応し、第6質点129は、図2(b)の第2質点124に対応するものとみなすことができる。
したがって、前輪側操舵可動部に質点125が設定された図13の二輪車1の動力学的な挙動は、該前輪側操舵可動部に質点を持たない図1の二輪車1の場合と同様に、図6に示した動力学モデルと同一形式の動力学によって表現することができる。
前輪側操舵可動部に複数の質点が設定された二輪車1(例えば、図15に例示する如く、前輪側操舵可動部に質量m7の質点と質量m8の質点とが設定された二輪車1等)の動力学的な挙動も、図6に示した動力学モデルにより表現される挙動に等価変換することができる。
具体的には、まず、前輪側操舵可動部の質点のうちのひとつの質点と、車体2の質点及び慣性モーメント(イナーシャ)とから構成される系の動力学的な挙動を、図6に示す動力学モデルの挙動に等価変換する。さらに、前輪側操舵可動部の残りの質点のうちのひとつの質点と、上記等価変換した系とを合せた系の動力学的な挙動を、再び、図6に示す動力学モデルの挙動に等価変換する。
以降、この手順を、前輪側操舵可動部のすべての質点がなくなるまで繰り返す。以上の手順により、前輪側操舵可動部に複数の質点が設定された二輪車1の動力学的な挙動も、車体2のロール方向の傾斜角と前輪3fの操舵角とに応じて移動する質点(倒立振子質点)と、車体2のロール方向の傾斜角に依存せずに、前輪3fの操舵角に応じて接地面110上を移動する質点とから成る系の動力学的な挙動に等価変換できる。
したがって、前輪側操舵可動部に質点が設定された二輪車1の動力学的な挙動も、図6に示す動力学モデルと同一形式の動力学によって表現することができる。
さらに、前輪側操舵可動部に質点と該質点まわりの慣性モーメントとが設定された二輪車1の場合では、該質点と慣性モーメントとを有する系を、複数の質点からなる系に等価変換することができる。例えば、図2(a)に示した場合と同様の手法によって、前輪側操舵可動部に設定した質点(以降、ここでは元質点という)から上方と下方に、それぞれ慣性半径だけ離れた位置に該元質点の半分の質量を持つ質点を配置することにより、該元質点及び該元質点まわりの慣性モーメントを有する系を、前輪側操舵可動部に複数の質点を設定した系に等価変換できる。
したがって、前輪側操舵可動部に質点(元質点)と該質点まわりの慣性モーメントとが設定された二輪車1の動力学的な挙動も、車体2のロール方向の傾斜角と前輪3fの操舵角とに応じて移動する質点(倒立振子質点)と、車体2のロール方向の傾斜角に依存せずに、前輪3fの操舵角に応じて接地面110上を移動する質点とから成る系の動力学的な挙動に等価変換できる。その動力学的な挙動は、図6に示す動力学モデルと同一形式の動力学によって表現することができる。
以上説明した事項を要約すると、前輪3fと前輪支持機構4とから成る操舵可動部(前輪側操舵可動部)に、質点及び慣性モーメントのうちの少なくとも一方が設定されている場合でも、二輪車1の動力学的な挙動を、車体2のロール方向の傾斜角と前輪3fの操舵角とに応じて移動する質点と、車体2のロール方向の傾斜角に依存せずに、前輪3fの操舵角に応じて接地面110上を移動する質点とから成る系の挙動に等価変換できる。
したがって、前輪側操舵可動部に、質点及び慣性モーメントのうちの少なくとも一方が設定された二輪車1の動力学的な挙動も、図6に示す動力学モデルと同一形式の動力学によって表現することができる。
すなわち、前輪側操舵可動部に、質点及び慣性モーメントのうちの少なくとも一方が設定されている場合と、質点及び慣性モーメンが両方とも設定されていない場合とのいずれの場合でも、二輪車1の動力学的な挙動を、車体2のロール方向の傾斜角と前輪3f(操舵輪)の操舵角とに応じて移動する質点(倒立振子質点。以降、この質点を総称的に質点Aということがある)と、車体2のロール方向の傾斜角に依存せずに、前輪3f(操舵輪)の操舵角に応じて接地面110上を移動する質点(以降、この質点を総称的に質点Bということがある)とから成る系の動力学的な挙動に等価変換することができる。
この系の動力学的な挙動は、より詳しくは、前記質点A(倒立振子質点)に作用する重力によって原点まわりに発生する重力モーメントと、前記質点Bに作用する重力によって原点まわりに発生する重力モーメントと、接地圧中心点COPの移動によって原点まわりに発生する路面反力モーメントとを受けて、質点Aが加減速する系の動力学的な挙動、すなわち、図6に示す動力学モデルと同一形式の動力学によって表現される。
例えば、前輪側操舵可動部に、ひとつの質点が設定された場合(図13に示す二輪車1の場合)の動力学的な挙動は、図6における質量m1の第1質点123(倒立振子質点123)を、図14(c)に示した質量m4の第4質点127(これは上記質点Aに相当する)に置き換え、図6における質量m2の第2質点124を、図14(c)に示した質量m6の第6質点129(これは上記質点Bに相当する)に置き換えた動力学モデルによって、表現することができる。
図11に示した構造の後輪操舵型二輪車201の場合でも、前輪操舵型二輪車1と同様の事項が成立する。したがって、後輪203rと後輪支持機構205とから成る操舵可動部(以降、後輪側操舵可動部という)に、質点及び慣性モーメントのうちの少なくとも一方が設定されている場合と、質点及び慣性モーメンが両方とも設定されていない場合とのいずれの場合でも、二輪車201の動力学的な挙動を、車体202のロール方向の傾斜角と後輪202r(操舵輪)の操舵角とに応じて移動する質点A(倒立振子質点)と、車体202のロール方向の傾斜角に依存せずに、後輪203r(操舵輪)の操舵角に応じて接地面110上を移動する質点Bとから成る系の動力学的な挙動に等価変換することができる。
この系の動力学的な挙動は、前記質点Aに作用する重力によって原点まわりに発生する重力モーメントと、前記質点Bに作用する重力によって原点まわりに発生する重力モーメントと、接地圧中心点COPの移動によって原点まわりに発生する路面反力モーメントとを受けて、質点Aが加減速する系の動力学的な挙動、すなわち、図6に示す動力学モデルと同一形式の動力学により表現される。
以上をまとめると、前輪側操舵可動部(又は後輪側操舵可動部)に質点及び慣性モーメントが両方とも設定されていない場合(以降、基本形態の場合ということがある)と、前輪側操舵可動部(又は後輪側操舵可動部)に質点及び慣性モーメントの両方もしくは一方が設定されている場合(以降、拡張形態の場合ということがある)とのいずれの場合でも、二輪車1(又は二輪車201)の動力学的な挙動は、基本形態の場合に対応する図6に示す動力学モデルと同一形式の挙動となる。
ただし、基本形態の場合では、第1質点123と第2質点124とを結ぶ線分のX軸まわり方向(ロール方向)の傾斜が、車体2のX軸まわり方向(ロール方向)の傾斜に相当した。
これに対して、前輪側操舵可動部(又は後輪側操舵可動部)に質点及び慣性モーメントの両方もしくは一方が設定されている場合には、2つの質点(上記質点A,B)を結ぶ線分のX軸まわり方向(ロール方向)の傾斜が、車体2のX軸まわり方向(ロール方向)の傾斜に相当するとは限らない。
しかしながら、上記質点A(倒立振子質点)の移動量に関して、前記式(117)を拡張したような形式の関係が成立する。具体的には、車体2のX軸まわり方向(ロール方向)の傾斜角φb又はその正弦値sin(φb)に比例した値(φb又はsin(φb)の定数倍の値)と、操舵角δf,δrの一方又は両方に関する所定の非線形な関数の値との和によって、上記質点Aの移動量(例えば、位置(Y軸方向の位置)または角度(X軸まわり方向の角度)の次元の量)を求めることができる。
上記非線形な関数は、操舵輪が前輪のみ又は後輪のみである場合には、それぞれ、操舵角δf又はδrに関する関数(f(δf)又はf(δr)の形式の関数)であり、前輪及び後輪の両方が操舵可能な車輪である場合には、操舵角δf,δrの両方に関する関数(例えばfa(δf,δr)の形式の関数、あるいはfb(δf)+fc(δr)の形式の関数)である。
すなわち、車体2のX軸まわり方向(ロール方向)の傾斜角φbと、操舵角δf,δrの一方又は両方とに関する所定の関数(f(φb,δf,δr)、又はf(φb,δf)、又はf(φb,δr)という形式の関数)によって、上記質点Aの移動量を求めることができる。
あるいは、車体2のX軸まわり方向(ロール方向)の傾斜φbと、操舵角δfに関する所定の関数(f(δf)という形式の関数)と、操舵角δrに関する所定の関数(f(δr)という形式の関数)とを合成した関数(例えば、φbとf(δf)とf(δr)とを線形結合してなる関数)によって、上記質点Aの移動量を求めることができる。
なお、接地面110上の質点Bの移動量(Y軸方向の移動量)は、操舵輪が前輪のみ又は後輪のみである場合には、それぞれ、操舵角δf又はδrに関する関数(f(δf)、又はf(δr)という形式の関数)により求めることができる。また、前輪及び後輪の両方が操舵可能な車輪である場合には、接地面110上の質点Bの移動量(Y軸方向の移動量)は、操舵角δf,δrの両方に関する関数(f(δf,δr)という形式の関数)により求めることができる。
また、前記したように、前記基本形態の場合及び前記拡張形態の場合のいずれの場合でも、二輪車1(又は二輪車201)の動力学的な挙動は、基本形態の場合に対応する図6に示す動力学モデルと同一形式の挙動となることから、車体2(又は202)の姿勢の制御に関して、図6に示す動力学モデルと同様の議論展開ができる。
すなわち、前記拡張形態の場合でも、前記基本形態の場合と同様の動力学的な事項が成立する。ただし、前記拡張形態の場合では、前輪操舵型二輪車1に関するMsum、M2、Mp、a_sum、a_p、a_s、および、後輪操舵型二輪車201に関するMsum’、M2’、Mp’、a_sum’、a_p'、a_s’に関する式などは、基本形態の場合の式に比べてより複雑な式となる。
しかし、通常の一般的な構造の二輪車においては、前記拡張形態の場合の当該式の値と、前記基本形態の場合の当該式の値との差はわずかである。より詳細には、前記拡張形態の場合におけるa_sum、a_p、a_s、およびa_sum’、a_p'、a_s’の式の値は、基本形態の場合における式の値より、若干低め(下側)になる傾向がある。
したがって、前記拡張形態の場合には、前記した如く定義される高さaに関する条件(車体2又は202の姿勢を安定に制御するための条件)が、前記基本形態の場合よりも、若干厳しい条件となる。すなわち、高さaに関して、前記拡張形態の場合に算出される条件は、前記基本形態の場合に算出される条件よりも、若干厳しくなる。したがって、高さaに関して、前記基本形態の場合に算出される条件は、二輪車1(又は201)の車体2(又は202)の姿勢を良好に制御する上での、必要条件となる。
補足すると、前輪側操舵可動部と、後輪側操舵可動部との両方を備える二輪車(例えば、図11に示す構造の二輪車201)で、前輪側操舵可動部及び後輪側操舵可動部の両方に、質点及び慣性モーメントの少なくとも一方を設定した場合には、前輪側操舵可動部と後輪側操舵可動部と車体との全体の質点および慣性モーメントからなる系を、前輪側操舵可動部に複数の質点が設定された場合、あるいは、前輪側操舵可動部に質点と慣性モーメントとが設定された場合に関して前記した手順と同様の手順によって2つの質点(質点A,B)からなる系に等価変換すればよい。
この場合、車体のX軸まわり方向(ロール方向)の傾斜角φbまたはその正弦値sin(φb)に比例した値(φb又はsin(φb)の定数倍の値)と、操舵角δf及びδrの両方に関する所定の非線形な関数の値との和によって、上記質点Aの移動量(例えば、位置(Y軸方向の位置)または角度(Z軸まわり方向の角度)の次元の量)を求めることができる。
すなわち、車体のX軸まわり方向(ロール方向)の傾斜角φbと、操舵角δf,δrの両方に関する所定の非線形な関数とによって、上記質点Aの移動量を求めることが求まる。また、この場合、上記質点Bの移動量は、操舵角δf及びδrに関する所定の関数によって求めることができる。
なお、上記質点Aの移動量を以上のごとく求めることができることは、前輪側操舵可動部または後輪側操舵可動部に操舵用のアクチュエータを備えなくても成立する事項である。また、前輪側操舵可動部と、後輪側操舵可動部との両方を備える二輪車では、前輪側操舵可動部及び後輪側操舵可動部の一方又は両方に、質点及び慣性モーメントが設定されていない場合でも、上記質点Aの移動量を、上記の如く求めることができる。
以上説明した事項が、本発明に係わる基礎的な技術事項である。
以上を踏まえて、以下に本発明を説明する。
本発明の移動体は、車体と、該車体の前後方向に間隔を存して配置された前輪及び後輪とを備える移動体であって、
前記前輪及び後輪のいずれか一方は、後傾した操舵軸線のまわりに操舵可能な操舵輪であり、
前記操舵輪を操舵する駆動力を発生する操舵アクチュエータと、
少なくとも前記車体のロール方向の傾斜角の観測値に応じて、該車体の姿勢を安定化するように前記操舵アクチュエータを制御する制御装置とを備え、
当該移動体の前輪及び後輪の両方が直立姿勢で接地面に接地して静止しており、且つ、前輪及び後輪のそれぞれの車軸中心線が車体の前後方向と直交する方向に互いに平行に延在している状態を基準姿勢状態と定義したとき、
前記基準姿勢状態での前記操舵輪の車軸中心点と該操舵輪の接地点とを結ぶ仮想直線と、前記操舵輪の操舵軸線との交点の前記接地面からの高さaが、次の(第1条件)を満足するように設定されていることを特徴とする(第1発明)。
(第1条件):
当該移動体の接地面の上方で前記車体のロール方向の傾斜角と前記操舵輪の操舵角とに応じて水平方向に移動する質点Aと、前記車体のロール方向の傾斜角に依存せずに、前記操舵輪の操舵角に応じて当該移動体の接地面を水平に移動する質点Bとから構成される系であって、所定の原点上で前記基準姿勢状態で静止している当該移動体の前記操舵輪を操舵角δだけ操舵した場合における当該移動体の動力学と等価な動力学的特性を有するように、前記質点Aの質量、前記質点Bの質量、前記質点Aの接地面からの高さ、前記車体のロール方向の傾斜角と前記操舵輪の操舵角と前記質点Aの変位との間の関係、及び前記操舵輪の操舵角と前記質点Bの変位との間の関係が設定されていると共に、前記質点Aに作用する重力によって前記原点まわりに発生するモーメントである第1重力モーメントと、前記質点Bに作用する重力によって前記原点まわりに発生するモーメントである第2重力モーメントと、当該移動体の前輪及び後輪の全体の接地圧中心点に作用する鉛直方向の路面反力によって前記原点まわりに作用するモーメントである路面反力モーメントとを受けて、前記質点Aが加減速するように構成された系において、前記基準姿勢状態の当該移動体を上方から見たときに、前記操舵輪の前端が左に向くように該操舵輪を操舵されたときの該操舵輪の操舵角を正の操舵角、前記車体を右に傾けるモーメントを正のモーメントと定義し、前記原点上で前記基準姿勢状態で静止している当該移動体の前記操舵輪を瞬間的に操舵角δだけ操舵した時に前記質点Bの移動によって発生する前記第2重力モーメントをM2と表記し、前記原点上で前記基準姿勢状態で静止している当該移動体の前記操舵輪を瞬間的に操舵角δだけ操舵した時に前接地圧中心点の移動によって前記原点まわりに発生する前記路面反力モーメントをMpと表記した場合に、Mp/δ>−M2/δとなるという条件。
なお、第1発明において、「車体の姿勢を安定化する」ということは、車体のロール方向の姿勢を目標とする姿勢(例えば前記基準姿勢状態の姿勢)に収束もしくは近づけるように、当該移動体に作用するモーメント(ロール方向のモーメント)を発生させることを意味する。
ただし、車体の目標とする姿勢は、基準姿勢状態以外の姿勢であってもよい。例えば、当該目標とする姿勢は、前記操舵輪の操舵を移動体の運転者が行なうことができるようにするための操縦ハンドルが移動体に備えられている場合、あるいは、前記操舵アクチュエータにより操舵可能な操舵輪と異なる車輪が操舵用のアクチュエータを備えない操舵輪である場合には、運転者の操作によって上記操縦ハンドルに付与される力もしくは該操縦ハンドルの操作量、あるいは、アクチュエータを備えない操舵輪の操舵角などに応じて決定されたものであってもよい。
上記第1発明によれば、前記操舵輪の操舵軸線の配置(操舵輪に対する相対的な配置)により規定される前記高さaが前記第1条件を満たすように設定されている。
ここで、前記基準姿勢状態での前記操舵輪の操舵に応じて移動体に作用するロール方向のモーメントのうち、前記第2重力モーメントM2及び前記路面反力モーメントMpは、前記高さaに対して依存性を有する。このため、前記高さaを適切に設定することで、Mp/δ>−M2/δという前記第1条件を満たすようにすることができる。
そして、第1発明によれば、上記のように前記高さaが前記第1条件を満たすように設定されているので、前記第2重力モーメントM2と、前記路面反力モーメントMpとの総和のモーメント(Mp+M2)、すなわち、前記姿勢制御用操作モーメントMsumに相当するモーメントは、前記操舵角δが正の微小な操舵角であれば、正方向のモーメントとなり、前記操舵角δが負の微小な操舵角であれば、負方向のモーメントとなる。
また、この総和のモーメント(Mp+M2)は、路面反力モーメントMpと同じ向きのモーメントなり、この路面反力モーメントMpが、車体の姿勢の制御に寄与することとなる。
この状況は、前記した図8及び図9における質点123,124をそれぞれ、前記質点A、Bとみなしたとき、図8(d)、図9(a)〜(d)のいずれかと同様の状況である。
このため、前記制御装置により、少なくとも前記車体のロール方向の傾斜角の観測値に応じて、該車体の姿勢を安定化するように前記操舵アクチュエータを制御することで、車体の姿勢が、目標とする姿勢(以降、安定車体姿勢ということがある)からずれた場合に、前記操舵輪の操舵によって、該車体の姿勢を目標とする安定車体姿勢に安定に復元させることが可能となる。
よって、第1発明によれば、操舵輪である前輪又は後輪の操舵によって車体の姿勢の安定性を高めることができる。
補足すると、前記質点A、Bを有する系において、前記所定の原点上で基準姿勢状態で静止している当該移動体の前記操舵輪を、瞬間的に微小な操舵角δだけ操舵した場合にあっては、前記質点Aの位置は、前記操舵輪の操舵角に対する直達項を有しないので、該質点Aは、不動点となるとみなすことができる。
すなわち、前記操舵輪を微小な操舵角δだけ操舵した瞬間における前記質点Aの変位は、“0”に維持される。このため、この瞬間における前記車体のロール方向の傾斜角は、前記車体のロール方向の傾斜角と前記操舵輪の操舵角と前記質点Aの変位との間の前記関係において、前記質点Aの変位に“0”を代入することによって得られる。
さらに、この瞬間の前記車体のロール方向の傾斜角と前記操舵輪の微小な操舵角δを基に、前記操舵輪の姿勢角(ロール方向の角度とヨー方向の角度との組)が求められる。さらに、この操舵輪の姿勢角(ロール角方向の角度とヨー方向の角度との組)を基に、移動体の接地圧中心点(COP)の位置(車体の左右方向での位置)が求められる。
最後に、該接地圧中心点(COP)の位置に前記操舵輪の接地荷重(鉛直方向の路面反力)を乗じることによって、前記所定の原点上で基準姿勢状態で静止している移動体の操舵輪が、瞬間的に微小な操舵角δだけ操舵した時に、該接地圧中心点COPの移動によって前記所定の原点まわりに作用する路面反力モーメントMpを求めることができる。
前記第1発明において、前記(第1条件)を満足するように前記高さaを設定するためには、例えば、次のように該高さaを設定するようにすればよい。
すなわち、前記第1発明において、前記高さaは、前記(第1条件)を満足するために、例えば次式(A)により決定される第1所定値a_sumよりも小さくなるように設定される(第2発明)。
a_sum=((h+(I/m)/h)/(Rg+(I/m)/h))×Rs ……(A)
ただし、
aの極性:前記交点が接地面よりも高い場合にa>0、前記交点が接地面よりも低い場合にa<0
I:移動体の慣性モーメント
m:移動体の質量
h:移動体の基準姿勢状態での該移動体の重心の前記接地面からの高さ
Rg≡((Lr/(Lf+Lr))×Rf+((Lf/(Lf+Lr))×Rr
Lf:移動体の基準姿勢状態における該移動体の重心と前輪の車軸中心点との間の前後方向距離
Lr:移動体の基準姿勢状態における該移動体の重心と後輪の車軸中心点との間の前後方向距離
Rf:移動体の基準姿勢状態における前輪の接地点の位置での該前輪の横断面形状の曲率半径
Rr:移動体の基準姿勢状態における後輪の接地点の位置での該後輪の横断面形状の曲率半径
Rs:曲率半径Rf,Rrのうち、前記操舵輪に対応する曲率半径
この第2発明では、移動体の前記操舵輪が前輪である場合には、式(A)のRsは、前輪に関する曲率半径Rfに一致する(Rs=Rfである)。
従って、この場合には、式(A)の右辺により定義される第1所定値a_sumは、前記した図1の前輪操舵型二輪車1に関する前記式(28)のa_sumに一致する。
また、この場合には、第2発明における前記交点は、図1の前輪操舵型二輪車1に関して前記した交点Efに相当する。従って、第2発明における前記交点の高さaは、前記交点Efの高さに相当する。
また、第2発明の移動体の操舵輪が後輪である場合には、式(A)のRsは、後輪に関する曲率半径Rrに一致する(Rs=Rrである)。
従って、この場合には、式(A)により定義される第1所定値a_sumは、前記した図11の後輪操舵型二輪車201に関する前記式(28)’のa_sum'に一致する。
また、この場合には、第2発明における前記交点は、図11の後輪操舵型二輪車201に関して前記した交点Er'に相当する。従って、第2発明における前記交点の高さaは、前記交点Er'の高さに相当する。
このため、第2発明において、前記交点の高さaが前記式(A)により決定されるa_sumよりも小さいということは、前記操舵輪が前輪である場合には、図1の前輪操舵型二輪車1において、交点Efの高さaが前記式(28)のa_sumよりも小さいということに相当し、前記操舵輪が後輪である場合には、図11の後輪操舵型二輪車201において、交点Er’の高さa’が前記式(28)’のa_sum’よりも小さいということに相当する。
従って、第2発明によれば、前記(第1条件)を満足するように前記交点の高さaを設定することが可能となる。ひいては、車体の姿勢が、前記安定車体姿勢からずれた場合に、前記操舵輪の操舵によって、該車体の姿勢を安定車体姿勢に安定に復元させることが可能となる。
前記第1発明では、前記高さaは、次の(第2条件)をさらに満足するように設定されていることがより好ましい(第3発明)。
(第2条件):
前記第2重力モーメントM2と、前記路面反力モーメントMpとの和のモーメントをMsumと表記した場合に、Msum/δ>−M2/δとなるという条件。
この第3発明によれば、制御系の発振現象の原因となりやすい第2重力モーメントM2の絶対値は、前記和のモーメントMsum(=Mp+M2)、すなわち、前記姿勢制御用操作モーメントに相当するモーメントMsumの絶対値以下の大きさに留まる。
このため、制御系の発振現象を抑制しつつ、車体の姿勢制御の安定性を高めることが可能となる。
前記第3発明において、前記(第1条件)及び(第2条件)を満足するように前記高さaを設定するためには、例えば、次のように該高さaを設定するようにすればよい。
すなわち、前記3発明において、前記高さaは、前記(第1条件)及び(第2条件)を満足するために、例えば次式(B)により決定される第2所定値a_s以下となるように設定される(第4発明)。
a_s=((h+(I/m)/h)/(Rg+2×(I/m)/h))×Rs ……(B)
なお、aの極性と、I、m、h、Rg、Rsの意味とは、前記第2発明と同じである。
この第4発明において、前記交点の高さaが前記式(B)により決定されるa_s以下となるということは、前記操舵輪が前輪である場合には、図1の前輪操舵型二輪車1において、交点Efの高さaが前記式(40)のa_s以下となるということに相当し、前記操舵輪が後輪である場合には、図11の後輪操舵型二輪車201において、交点Er’の高さa’が前記式(40)’のa_s’以下となるということに相当する。
従って、第4発明によれば、前記(第1条件)及び(第2条件)を満足するように前記交点の高さaを設定することが可能となる。ひいては、制御系の発振現象を抑制しつつ、車体の姿勢制御の安定性を高めることを適切に実現できる。
また、本発明の移動体は、車体と、該車体の前後方向に間隔を存して配置された前輪及び後輪とを備える移動体であって、
前記前輪及び後輪のいずれか一方は、後傾した操舵軸線のまわりに操舵可能な操舵輪であり、
前記操舵輪を操舵する駆動力を発生する操舵アクチュエータと、
少なくとも前記車体のロール方向の傾斜角の観測値に応じて、該車体の姿勢を安定化するように前記操舵アクチュエータを制御する制御装置とを備え、
当該移動体の前輪及び後輪の両方が直立姿勢で接地面に接地して静止しており、且つ、前輪及び後輪のそれぞれの車軸中心線が車体の前後方向と直交する方向に互いに平行に延在している状態を基準姿勢状態と定義し、当該移動体の前記基準姿勢状態における前記操舵輪の接地点の位置での該操舵輪の横断面形状の曲率半径をRsと表記した場合に、
前記基準姿勢状態での前記操舵輪の車軸中心点と該操舵輪の接地点とを結ぶ仮想直線と、前記操舵輪の操舵軸線との交点の前記接地面からの高さaが、前記曲率半径Rs以下の高さとなるように設定されていることを特徴とするものであってもよい(第5発明)。
すなわち、前記したように、図1の前記前輪操舵型二輪車1又は図11の後輪操舵型二輪車201において、重心高さhが、前記式(25a)により定義したRg以下となることは、事実上有り得ないと考えてよい。
そして、この場合、前記交点の高さaが、前記基準姿勢状態における前記操舵輪の接地点の位置での該操舵輪の横断面形状の曲率半径である前記曲率半径Rs以下の高さとなるように設定されておれば、前述のごとく、結果的に前記第1発明における(第1条件)を満足するように交点の高さaが設定されていることとなる。
従って、第5発明によれば、第1発明と同様に、車体の姿勢が、安定車体姿勢からずれた場合に、前記操舵輪の操舵によって、該車体の姿勢を安定車体姿勢に安定に復元させることが可能となる。
よって、第5発明によれば、操舵輪である前輪又は後輪の操舵によって車体の姿勢の安定性を高めることができる。
この第5発明では、前記高さaは、前記接地面よりも低い高さとなるように設定されていることがより好ましい(第6発明)。
この第6発明によれば、結果的に、前記第3発明における(第2条件)を満たすようにすることができる。
加えて、操舵輪の操舵角の変化によって発生させ得る車体の姿勢の前記安定車体姿勢への復元力(モーメント)の感度を高めることができる。
このため、制御系の発振現象が生じないようにしつつ、車体の姿勢の制御の安定性を高めることを好適に実現することができる。
なお、上記第1〜第6発明では、前記制御装置による前記操舵輪の操舵制御(操舵アクチュエータの制御)の処理は、前記質点A,Bを有する動力学モデルを前提として構築された処理でなくてもよい。
前記制御装置は、一例として次のような構成を採用することができる。すなわち、前記制御装置は、例えば、前記車体のロール方向の傾斜角の観測値、あるいは、該観測値に応じて推定される状態量(前記質点Aの運動状態量等、車体のロール方向の姿勢に関する状態量)と、該車体の姿勢を安定化するための目標値(前記安定車体姿勢に対応する目標値)との偏差に応じて、該偏差をゼロに近づけるようにフィードバック制御則により前記操舵アクチュエータの動作目標(目標操舵角加速度等)を決定するアクチュエータ動作目標決定手段を備え、前記決定された動作目標に応じて前記操舵アクチュエータを制御するように構成される。
補足すると、本明細書においては、移動体に関する任意の状態量(車体のロール方向の傾斜角等)の「観測値」は、該状態量の実際の値の検出値又は推定値を意味する。この場合、「検出値」は、当該状態量の実際の値を適宜のセンサにより検出してなる値を意味する。また、「推定値」は、当該状態量と相関性を有する他の1つ以上の状態量の検出値を用いて該相関性に基づいて推定した値、あるいは、当該状態量の実際の値に一致もしくはほぼ一致するとみなすことができる擬似的な推定値を意味する。
「擬似的な推定値」に関しては、例えば、当該状態量の実際の値が、当該状態量の目標値に高い追従性を有することが予測される場合に、該目標値を当該状態量の実際の値の擬似的な推定値として採用することができる。
[第1実施形態]
次に、本発明の第1実施形態を図16〜図32を参照して説明する。
図16を参照して、本実施形態の移動体1Aは、図1に示した前輪操舵型二輪車1をより具体化した構造の二輪車である。本実施形態の説明においては、便宜上、移動体1Aの構成要素のうち、図1に示した前輪操舵型二輪車1と同一の機能の構成要素については、図1と同一の参照符号を使用する。
この移動体1A(以降、二輪車1Aという)は、車体2と、車体2の前後方向に間隔を存して配置された前輪3f及び後輪3rとを備える。
車体2の上面部には、運転者が跨るように着座するシート6が装着されている。
車体2の前部には、前輪3fを軸支する前輪支持機構4と、シート6に着座した運転者が把持するための操縦ハンドル7と、前輪3fを操舵するための駆動力を発生するアクチュエータ8と、前輪3fの操舵に連動させて操縦ハンドル7を動かすための駆動力を発生するアクチュエータ9とが組み付けられている。
前輪支持機構4は、例えばダンパー等のサスペンション機構を含むフロントフォークにより構成される。その機構的な構造は、例えば通常の自動二輪車の前輪支持機構と同様の構造とされている。この前輪支持機構4の端部(車体2の前方側の端部)に、前輪3fが、その直径方向に直交する方向(図16の紙面に垂直な方向)に延在する車軸中心線Cf(前輪3fの回転軸線)のまわりに回転し得るようにベアリング等を介して軸支されている。
本実施形態では、前輪3fの車軸には、該前輪3fをその車軸中心線Cfのまわりに回転駆動するアクチュエータ10が装着されている。アクチュエータ10は、二輪車1Aの推進力を発生する原動機としての機能を有するものである。このアクチュエータ10(以降、前輪駆動用アクチュエータ10ということがある)は、本実施形態では、電動モータ(減速機付きの電動モータ)により構成される。
なお、アクチュエータ10は、電動モータの代わりに、例えば油圧式のアクチュエータにより構成されていてもよい。あるいは、アクチュエータ10は内燃機関により構成されていてもよい。また、アクチュエータ10を前輪3fの車軸から離れた位置で車体2に搭載し、アクチュエータ10と前輪3fの車軸とを適宜の動力伝達装置で接続するようにしてもよい。
また、前輪支持機構4は、後傾した操舵軸線Csfのまわりに回転し得るように車体2の前部に組み付けられている。これにより、前輪3fは、前輪支持機構4と共に操舵軸線Csfのまわりに回転可能、すなわち操舵可能な操舵輪となっている。そして、操舵軸線Csfが後傾しているので、前輪3fのキャスター角θcfは正の角度となっている。
この場合、本実施形態の二輪車1Aでは、その基準姿勢状態において、前輪3fの車軸中心点と接地点とを結ぶ直線と、操舵軸線Csfとの交点Efが、図16に示す如く、接地面110よりも下側に存在するように、該基準姿勢状態における操舵軸線Csfと前輪3fとの相対的な配置が設定されている。このため、当該交点Efの接地面110からの高さaは負の値となっている。
なお、二輪車1Aの基準姿勢状態は、図1の二輪車1の基準姿勢状態と同様に、前輪3f及び後輪3rが接地面110に直立姿勢で接地して静止しており、且つ、前輪3f及び後輪3rのそれぞれの車軸中心線(回転軸心)Cf,Crが、車体2の前後方向と直交する方向に互いに平行に延在している状態である。
前記アクチュエータ8は、前輪3fの操舵を行なうための駆動力として、操舵軸線Csfのまわりに前輪3fを回転させる回転駆動力を発生するものである。このアクチュエータ8は、本実施形態では、電動モータ(減速機付きの電動モータ)により構成される。そして、アクチュエータ8(以降、前輪操舵用アクチュエータ8ということがある)は、操舵軸線Csfのまわりの回転駆動力を前輪支持機構4に付与するように、該前輪支持機構4に接続されている。
従って、前輪操舵用アクチュエータ8から前輪支持機構4に回転駆動力を付与することで、前輪支持機構4が操舵軸線Csfのまわりに前輪3fと共に回転駆動される。これにより、前輪3fが、前輪操舵用アクチュエータ8の回転駆動力によって操舵される。
なお、アクチュエータ8は、電動モータに限らず、例えば油圧式のアクチュエータにより構成されていてもよい。
操縦ハンドル7は、前輪3fの操舵軸線Csfと平行なハンドル軸線Chのまわりに回転し得るように車体2の前部に組み付けられている。詳細な図示は省略するが、この操縦ハンドル7には、通常の自動二輪車のハンドルと同様に、アクセルグリップ、ブレーキレバー、方向指示器スイッチ等が組み付けられている。
前記アクチュエータ9は、操縦ハンドル7を動かす駆動力として、ハンドル軸線Chのまわりに操縦ハンドル7を回転させる回転駆動力を発生するものである。このアクチュエータ9は、本実施形態では、電動モータ(減速機付きの電動モータ)により構成される。そして、アクチュエータ9(以降、ハンドル駆動用アクチュエータ9ということがある)は、ハンドル軸線Chのまわりの回転駆動力を操縦ハンドル7に付与するように、該操縦ハンドル7に接続されている。
なお、本実施形態の二輪車1Aでは、図16に示す如く、操縦ハンドル7のハンドル軸線Chは、前輪3fの操舵軸線Csfに対してオフセットされている。ただし、ハンドル軸線Chは、操舵軸線Csfと同軸心に配置されていてもよい。あるいは、ハンドル軸線Chは、操舵軸線Csfに対して傾いていてもよい。
また、アクチュエータ9は、電動モータの代わりに、例えば油圧式のアクチュエータにより構成されていてもよい。
車体2の後部には、後輪3rを回転自在に軸支する後輪支持機構5が組み付けられている。後輪支持機構5は、スイングアーム11と、コイルスプリング及びダンパー等により構成されるサスペンション機構12とを備えている。これらの機構的な構造は、例えば通常の自動二輪車の後輪支持機構と同様の構造とされている。
そして、スイングアーム11の端部(車体2の後方側の端部)に、後輪3rが、その直径方向に直交する方向(図16の紙面に垂直な方向)に延在する車軸中心線Cr(後輪3rの回転軸心)のまわりに回転し得るようにベアリング等を介して軸支されている。なお、後輪3rは非操舵輪である。
二輪車1Aは、以上の機構的構成の他、図17に示すように、前記前輪操舵用アクチュエータ8、ハンドル駆動用アクチュエータ9、及び前輪駆動用アクチュエータ10の動作制御(ひいては車体2の姿勢等の制御)のための制御処理を実行する制御装置15を備えている。
さらに、二輪車1Aは、制御装置15の制御処理に必要な各種状態量を検出するためのセンサとして、車体2のロール方向の傾斜角φbを検出するための車体傾斜検出器16と、前輪3fの操舵角δf(操舵軸線Csfまわりの回転角度)を検出するための前輪操舵角検出器17と、操縦ハンドル7の回転角(ハンドル軸線Chまわりの回転角度)であるハンドル角δhを検出するためのハンドル角検出器18と、操縦ハンドル7にハンドル軸線Chまわりで作用するトルクであるハンドルトルクThを検出するためのハンドルトルク検出器19と、前輪3fの回転速度(角速度)を検出するための前輪回転速度検出器20と、後輪3rの回転速度(角速度)を検出するための後輪回転速度検出器21と、操縦ハンドル7のアクセルグリップの操作量(回転量)であるアクセル操作量に応じた検出信号を出力するアクセル操作検出器22とを備えている。
なお、前輪3fの操舵角δfは、より詳しくは、前輪3fの非操舵状態(前輪3fの車軸中心線Cfの方向が車体2の前後方向と直交する方向(Y軸に平行な方向)となる状態)での操舵角(中立操舵角)からの回転角を意味する。従って、前輪3fの非操舵状態での操舵角δfは“0”である。そして、前輪3fの操舵角δfの正の向きは、図1に示した二輪車1の場合と同様に、前輪3fの前端が車体2の左側に向くこととなる回転の向き(換言すれば、二輪車1Aを上方から見たときに前輪3fが操舵軸線Csf周りに反時計周り方向に回転する向き)である。
また、操縦ハンドル7のハンドル角δhは、前輪3fの非操舵状態に対応する操縦ハンドル7の姿勢状態からの回転角を意味する。そして、ハンドル角δhの正の向きは、二輪車1Aを上方から見たときに操縦ハンドル7がハンドル軸線Ch周りに反時計周り方向に回転する向きである。
制御装置15は、CPU、RAM、ROM、インターフェース回路等から構成される電子回路ユニットであり、車体2に組み付けられている。そして、この制御装置15に、上記の各検出器16〜22の出力(検出信号)が入力されるようになっている。
なお、制御装置15は、複数のCPU又はプロセッサを備えていてもよい。また、制御装置15は、相互に通信可能な複数の電子回路ユニットにより構成されていてもよい。
車体傾斜検出器16は、例えば加速度センサとジャイロセンサ(角速度センサ)とから構成されており、車体2に組み付けられている。この場合、制御装置15は、これらの加速度センサ及びジャイロセンサの出力に基づいて演算処理を行うことで、車体2のロール方向の傾斜角(より詳しくは、鉛直方向(重力方向)に対するロール方向の傾斜角)を計測する。その計測手法としては、例えば特許4181113号にて本願出願人が提案した手法を採用することができる。
前輪操舵角検出器17は、例えば、前記操舵軸線Csf上で前輪操舵用アクチュエータ8(電動モータ)に装着されたロータリエンコーダにより構成される。
ハンドル角検出器18は、例えば、前記ハンドル軸線Ch上でハンドル駆動用アクチュエータ9(電動モータ)に装着されたロータリエンコーダにより構成される。
ハンドルトルク検出器19は、例えば、操縦ハンドル7とハンドル駆動用アクチュエータ9との間に介装された力センサにより構成される。
前輪回転速度検出器20は、例えば、前輪3fの車軸に装着されたロータリエンコーダにより構成される。
後輪回転速度検出器21は、例えば、後輪3rの車軸に装着されたロータリエンコーダにより構成される。
アクセル操作検出器22は、例えば、操縦ハンドル207に内蔵されたロータリエンコーダあるいはポテンショメータにより構成される。
上記制御装置15の機能について、図18を参照してさらに説明する。なお、以降の説明におけるXYZ座標系は、図1の二輪車1の場合と同様に、二輪車1Aの基準姿勢状態において、鉛直方向(上下方向)をZ軸方向、車体2の前後方向をX軸方向、車体2の左右方向をY軸方向、二輪車1Aの全体重心Gの直下の接地面110上の点を原点として定義される座標系である(図16を参照)。
また、以降の説明では、状態量の参照符号に付する添え字“_act”は、実際の値、又はその観測値(検出値もしくは推定値)を示す符号として使用する。なお、目標値には、添え字“_cmd”を付する。
制御装置15は、実装されたプログラムをCPUが実行することにより実現される機能(ソフトウェアにより実現される機能)又はハードウェアにより実現される機能として、図18に示すように、二輪車1Aの倒立振子質点123(=第1質点123)のY軸方向(車体2の左右方向)の移動量である倒立振子質点横移動量Pb_diff_yの実際の値Pb_diff_y_actの推定値(以降、倒立振子質点横移動量推定値Pb_diff_y_actという)を算出する倒立振子質点横移動量推定値算出部31と、倒立振子質点123のY軸方向(車体2の左右方向)の並進速度である倒立振子質点横速度Vbyの実際の値Vby_actの推定値(以降、倒立振子質点横速度推定値Vby_actという)を算出する倒立振子質点横速度推定値算出部32と、二輪車1Aの走行速度Voxの実際の値Vox_actの推定値(以降、走行速度推定値Vox_actという)を算出する走行速度推定値算出部33と、倒立振子質点横移動量Pb_diff_yの目標値Pb_diff_y_cmd(以降、目標倒立振子質点横移動量Pb_diff_y_cmdという)と倒立振子質点横速度Vbyの目標値Vby_cmd(以降、目標倒立振子質点横速度Vby_cmdという)を決定する目標姿勢状態決定部34と、車体2の姿勢制御のための複数のゲインK1,K2,K3,K4,Khの値を決定する制御ゲイン決定部35と、前輪3fの回転移動速度Vf(前輪3fが接地面110上を転動することによる該前輪3fの並進移動速度)の目標値Vf_cmd(以降、目標前輪回転移動速度Vf_cmdという)を決定する目標前輪回転移動速度決定部36とを備える。
さらに、制御装置15は、車体2の姿勢制御のための演算処理を実行することによって、前輪3fの操舵角δfの目標値δf_cmd(以降、目標前輪操舵角δf_cmdという)、該操舵角δfの時間的変化率である操舵角速度δf_dotの目標値δf_dot_cmd(以降、目標前輪操舵角速度δf_dot_cmdという)及び該操舵角速度δf_dotの時間的変化率である操舵角加速度δf_dot2の目標値δf_dot2_cmd(以降、目標前輪操舵角加速度δf_dot2_cmdという)を決定する姿勢制御演算部37と、操縦ハンドル7のハンドル角δhの目標値δh_cmd(以降、目標ハンドル角δh_cmdという)及び該ハンドル角δhの時間的変化率であるハンドル角速度δh_dotの目標値δh_dot_cmd(以降、目標ハンドル角速度δh_dot_cmdという)を決定する目標ハンドル角決定部38とを備える。
制御装置15は、上記各機能部の処理を所定の制御処理周期で逐次実行する。そして、制御装置15は、姿勢制御演算部37により決定した目標前輪操舵角δf_cmd、目標前輪操舵角速度δf_dot_cmd及び目標前輪操舵角加速度δf_dot2_cmdに応じて前輪操舵用アクチュエータ8を制御する。
また、制御装置15は、目標前輪回転移動速度決定部36により決定した目標前輪回転移動速度Vf_cmdに応じて前輪駆動用アクチュエータ10を制御する。
また、制御装置15は、目標ハンドル角決定部38により決定した目標ハンドル角δh_cmd及び目標ハンドル角速度δh_dot_cmdに応じてハンドル駆動用アクチュエータ9を制御する。
以下に、制御装置15の制御処理の詳細を説明する。
制御装置15は、各制御処理周期において、まず、倒立振子質点横移動量推定値算出部31の処理を実行する。なお、本実施形態における倒立振子質点横移動量推定値算出部31の処理のアルゴリズムは、一例として、二輪車1Aの動力学的な挙動が、図1の二輪車1のように、二輪車1Aの車体2だけに質点及び慣性モーメントを設定してなる系を、図2(b)に示した前記第1質点123(倒立振子質点)と第2質点124とからなる系に等価変換した場合に得られる動力学的な挙動により表現されるものとして構築されている。
倒立振子質点横移動量推定値算出部31には、図18に示すように、車体2のロール角(X軸まわり方向(ロール方向)の傾斜角)φbの実際の値φb_actの検出値(以降、ロール角検出値φb_actという)と、前輪3fの操舵角δfの実際の値δf_actの検出値(以降、前輪操舵角検出値δf_actという)とが入力される。
上記ロール角検出値φb_actは、車体傾斜検出器16の出力により示される検出値(観測値)、前輪操舵角検出値δf_actは、前輪操舵角検出器17の出力により示される検出値(観測値)である。
ここで、二輪車1Aの車体2だけに質点及び慣性モーメントを設定して、該二輪車1Aの動力学的な挙動が、第1質点123(倒立振子質点)及び第2質点124からなる質点系の挙動によって表現されるものとした場合、前述のごとく、第1質点123及び第2質点124は、車体2の対称面(車体2が左右対称であるとみなしたときの対称面)上に存在する。このため、第1質点123と第2質点124とを結ぶ線分のロール方向の傾斜は、二輪車1Aの車体2のロール方向の傾斜に相当する。
従って、二輪車1Aの車体2のロール方向の傾斜角φbが十分に小さい場合、第1質点123のY軸方向の移動量と第2質点124のY軸方向の移動量との差は、車体2のロール方向の傾斜角φbに第1質点123の高さh’を乗じた値になる。
また、本実施形態の二輪車1Aでは、前輪3fだけが操舵輪であるので、第2質点124のY軸方向の移動量qは、前述のごとく、前輪3fの操舵角δfから一義的に定まる量である。
よって、倒立振子質点としての第1質点123のY軸方向の移動量は、二輪車1Aの車体2のロール方向の傾斜に起因する成分と前輪3fの操舵角δfに起因する成分との和になる。
倒立振子質点横移動量推定値算出部31は、この関係を用いて、上記ロール角検出値φb_actと前輪操舵角検出値δf_actとを基に、倒立振子質点横移動量推定値Pb_diff_y_actを算出するものである。
具体的には、倒立振子質点横移動量推定値算出部31は、図19のブロック線図で示す処理によって、倒立振子質点横移動量推定値Pb_diff_y_actを算出する。
この処理は、車体2のロール方向の傾斜に起因して生じる倒立振子質点123のY軸方向の実際の移動量の推定値としての第1の横移動量成分推定値Pb_diff_y_act_1と、前輪3fの操舵に起因して生じる倒立振子質点123のY軸方向の実際の移動量の推定値としての第2の横移動量成分推定値Pb_diff_y_act_2とを加え合わせることによって、倒立振子質点横移動量推定値Pb_diff_y_actを算出するように構成されている。
図19において、処理部31−1は、上記第1の横移動量成分推定値Pb_diff_y_act_1を求める処理部、処理部31−2は、上記第2の横移動量成分推定値Pb_diff_y_act_2を求める処理部、処理部31−3は、第1の横移動量成分推定値Pb_diff_y_act_1と第2の横移動量成分推定値Pb_diff_y_act_2とを加え合わせる処理部を表している。
上記処理部31−1は、現在時刻でのロール角検出値φb_actに応じて第1の横移動量成分推定値Pb_diff_y_act_1を決定する。具体的には、処理部31−1は、ロール角検出値φb_act([rad]の単位での角度値)に倒立振子質点123の高さh’(=c+h)の(−1)倍を乗じることによって、第1の横移動量成分推定値Pb_diff_y_act_1(=φb_act*(−h’))を算出する。
従って、第1の横移動量成分推定値Pb_diff_y_act_1は、車体2のロール角φbに対する線形な関数値(φbの定数倍の値)として、ロール角検出値φb_actに応じて算出される。また、Pb_diff_y_act_1は、φb_act=0となる状態(車体2が右側又は左側に傾いていない状態)でゼロとなるので、当該状態での倒立振子質点123の位置を基準とするY軸方向の移動量である。
なお、処理部31−1の算出処理では、近似的に、sin(φb_act)≒φb_actとされている。また、h’(又はc,hの値)は、二輪車1Aにおいて、あらかじめ設定された値であり、制御装置15のメモリに記憶保持されている。その値は、例えば、二輪車1Aの基準姿勢状態での全体重心Gの高さhと、二輪車1Aの全体イナーシャI(全体重心Gを通って、Y軸方向に平行な軸まわりの慣性モーメント)と、二輪車1Aの全質量mとから、前記式(5b)の関係(c(=h’−h)=I/(m*h)という関係)を満たすように設定されている。
ただし、h’の値は、各種実験、シミュレーション等を基に、最適な制御特性が得られるように、上記式(5b)の関係を満たす値に概ね近似する値に設定してもよい。
図19の処理部31−2は、現在時刻での前輪操舵角検出値δf_actに応じて第2の横移動量成分推定値Pb_diff_y_act_2を決定する。具体的には、処理部31−2は、現在時刻での前輪操舵角検出値δf_actから、あらかじめ設定された変換関数Plfy(δf)によって、前記第2の横移動量成分推定値Pb_diff_y_act_2(=Plfy(δf_act))を求める。すなわち、処理部31−2は、δf_actに応じた変換関数Plfy(δf)の値Plfy(δf_act)を求め、この値を前記第2の横移動量成分推定値Pb_diff_y_act_2として決定する。
上記変換関数Plfy(δf)は、例えばマップもしくは演算式により構成される。この変換関数Plfy(δf)は、図19中の処理部31−2に記載したグラフで例示されるように、前輪3fの操舵角δfの増加に対して単調に変化し(本実施形態では、単調に減少する)、且つ、前輪3fの操舵角δfの大きさ(絶対値)が比較的大きなものとなる領域では、操舵角δfの大きさが小さいものとなる領域(δfがゼロに近い領域)よりも、操舵角δfに対するPlfy(δf)の変化率(δfの単位増加量に対するPlfy(δf)の変化量)の大きさが、相対的に小さくなるようにあらかじめ設定された非線形関数である。
従って、第2の横移動量成分推定値Pb_diff_y_act_2は、前輪3fの操舵角δfに対する非線形な関数値として、前輪操舵角検出値δf_actに応じて決定される。
倒立振子質点横移動量推定値算出部31は、上記の如く算出した第1の横移動量成分推定値Pb_diff_y_act_1と第2の横移動量成分推定値Pb_diff_y_act_2とを処理部31−3において加え合せることにより、倒立振子質点横移動量推定値Pb_diff_y_actを決定する。
従って、倒立振子質点横移動量推定値Pb_diff_y_actは、次式(51)により決定される。
Pb_diff_y_act=Pb_diff_y_act_1+Pb_diff_y_act_2
=φb_act*(−h’)+Plfy(δf_act) ……(51)
上記式(51)の右辺第1項が、ロール角検出値φb_actに対して線形な項、右辺第2項が、前輪操舵角検出値δf_actに対して非線形な項である。
なお、前輪3fの実際の操舵角δf_actに応じた前記変換関数Plfy(δf)の値Plfy(δf_act)の大きさが十分に小さい場合(δf_actの大きさが小さい場合)は、式(51)の右辺の第2項は無視してもよい。そして、その場合には、倒立振子質点横移動量推定値Pb_diff_y_actの代わりに、車体2のロール角検出値φb_actを用いてもよい。
このようにした場合には、倒立振子質点横移動量推定値算出部31の処理が不要となり、制御装置15の演算負荷を低減できる。
制御装置15は、次に、倒立振子質点横速度推定値算出部32の処理を実行する。
倒立振子質点横速度推定値算出部32には、図18に示すように、倒立振子質点横移動量推定値算出部31で算出された倒立振子質点横移動量推定値Pb_diff_y_actと、前輪操舵角検出値δf_actと、前輪3fの回転移動速度Vfの実際の値Vf_actの推定値(以降、前輪回転移動速度推定値Vf_actという)とが入力される。
なお、前輪回転移動速度推定値Vf_actは、前記前輪回転速度検出器20の出力により示される前輪3fの回転角速度の検出値(観測値)に該前輪3fの既定の有効回転半径を乗じることで算出される速度である。
そして、倒立振子質点横速度推定値算出部32は、図20のブロック線図で示す処理によって、倒立振子質点横速度推定値Vby_actを算出する。
この処理は、二輪車1Aに対して前記の如く設定されるXYZ座標系の原点から見た倒立振子質点123のY軸方向の実際の移動速度(原点に対する相対移動速度)の推定値としての第1の横速度成分推定値Vby_act_1と、前輪3fが操舵中である場合(前輪3fの実際の操舵角が“0”でない場合)の前輪3fの転動に伴う二輪車1Aの並進移動に起因して生じる倒立振子質点123のY軸方向の実際の移動速度(=XYZ座標系の原点の移動速度)の推定値としての第2の横速度成分推定値Vby_act_2とを加え合わせることによって、倒立振子質点横速度推定値Vby_actを算出するように構成されている。
図20において、処理部32−1は、上記第1の横速度成分推定値Vby_act_1を求める処理部、処理部32−2は、上記第2の横速度成分推定値Vby_act_2を求める処理部、処理部32−3は、第1の横速度成分推定値Vby_act_1と第2の横速度成分推定値Vby_act_2とを加え合わせる処理部を表している。
上記処理部32−1は、倒立振子質点横移動量推定値算出部31により逐次算出される倒立振子質点横移動量推定値Pb_diff_y_actの現在時刻での時間的変化率Pb_diff_y_dot_act(単位時間当たりの変化量)を、第1の横速度成分推定値Vby_act_1として算出する。すなわち、処理部32−1は、Pb_diff_y_actの微分値Pb_diff_y_dot_actを、Vby_act_1として算出する。
また、処理部32−2は、処理部32−2−1において、現在時刻での前輪操舵角検出値δf_actに前輪3fのキャスター角θcfの余弦値cos(θcf)を乗じることによって、ヨー方向での前輪3fの回転角に相当する前輪有効操舵角δ'fの実際の値δ'f_actの推定値(以降、前輪有効操舵角推定値δ'f_actという)を算出する。
補足すると、前輪有効操舵角δ'fは、操舵輪である前輪3fの回転面(前輪3fの車軸中心点を通って車軸中心線Cfに直交する面)と接地面110との交線が、車体2の前後方向(X軸方向)に対してなす角度である。
そして、前輪有効操舵角推定値δ'f_actは、車体2のロール角φbが比較的小さい場合に、近似的に、次式(52)によって算出することができる。上記処理部32−2−1の処理は、この式(52)によって、δ'f_actを近似的に算出する処理である。
δ'f_act=cos(θcf)*δf_act ……(52)
なお、δ'f_actの精度をより高めるために、δf_actからマップによりδ'f_actを求めるようにしてもよい。あるいは、δ'f_actの精度をより一層高めるために、δf_actとロール角検出値φb_actとからマップ(2次元マップ)等によりδ'f_actを求めるようにしてもよい。
処理部32−2は、さらに、処理部32−2−2及び処理部32−2−3において、算出した上記前輪有効操舵角推定値δ'f_actの正弦値sin(δ’f_act)に、現在時刻での前輪回転移動速度推定値Vf_actを乗算することで、前輪3fの接地部分のY軸方向の移動速度(換言すれば、Vf_actのY軸方向成分)を算出する。
さらに、処理部32−2は、処理部32−2−4において、処理部32−2−3の算出結果の値に(Lr/L)(ただし、L=Lf+Lr)を乗じることによって、第2の横速度成分推定値Vby_act_2(=Vf_act*sin(δ’f_act)*(Lr/L))を求める。
なお、この処理における上記Lr、Lfの意味は、図1の二輪車1の場合と同じである。すなわち、Lrは、二輪車1Aの基準姿勢状態での全体重心Gと、後輪3rの接地点とのX軸方向の距離、Lfは、二輪車1Aの基準姿勢状態での全体重心Gと前輪3fの接地点とのX軸方向の距離である。
これらのLr、Lfの値は、二輪車1Aにおいて、あらかじめ設定された値であり、制御装置15のメモリに記憶保持されている。
また、処理部32−2の処理に用いるキャスタ角θcfの値も、Lf,Lrの値と同様に、二輪車1Aにおいて、あらかじめ設定された値であり、制御装置15のメモリに記憶保持されている。
倒立振子質点横速度推定値算出部32は、上記の如く算出した第1の横速度成分推定値Vby_act_1と、第2の横速度成分推定値Vby_act_2とを処理部32−3において加え合わせることにより、倒立振子質点横速度推定値Vby_actを算出する。
従って、倒立振子質点横速度推定値Vby_actは、次式(53)により算出される。
Vby_act=Vby_act_1+Vby_act_2
=Pb_diff_y_dot_act+Vf_act*sin(δ'f_act)*(Lr/L)
=Pb_diff_y_dot_act+Vf_act*sin(δf_act*cos(θcf))*(Lr/L)
……(53)
なお、前輪3fの実際の操舵角δf_actに応じた前記変換関数Plfy(δf)の値の大きさが十分に小さい場合(δf_actの大きさが小さい場合)は、式(53)に用いるPb_diff_y_dot_actとして、式(51)において右辺の第2項を無視することによって得られるPb_diff_y_actの値の微分値を採用してもよい。すなわち、式(53)において、Pb_diff_y_dot_actの代わりに、車体2のロール角検出値φb_actの微分値の(−h’)倍の値を用いてもよい。このようにした場合には、制御装置15の演算負荷を低減できる。
制御装置15は、次に、走行速度推定値算出部33の処理を実行する。
図18に示すように、この走行速度推定値算出部33には、前記前輪回転移動速度推定値Vf_actと、前記前輪操舵角検出値δf_actとが入力される。
そして、走行速度推定値算出部33は、図21のブロック線図で示す処理によって、走行速度推定値Vox_actを算出する。
図21において、処理部33−1は、現在時刻での前輪操舵角検出値δf_actに前輪3fのキャスター角θcfの余弦値を乗じることによって(すなわち、前記式(52)により)、前記倒立振子質点横速度推定値算出部32の処理部32−2に関して説明した前輪有効操舵角推定値δ'f_actを求める処理部、処理部33−2は、この前輪有効操舵角推定値δ'f_actの余弦値cos(δ’f_act)を求める処理部、処理部33−3は、現在時刻での前輪回転移動速度推定値Vf_actに上記余弦値cos(δ’f_act)を乗じることによって走行速度推定値Vox_actを算出する処理部を表している。
従って、走行速度推定値算出部33は、δ'f_actの余弦値cos(δ’f_act)を、Vf_actに乗じることによって、Vox_actを算出するように構成されている。すなわち、Vox_actは、次式(54)により算出される。
Vox_act=Vf_act*cos(δ'f_act)
=Vf_act*cos(δf_act*cos(θcf)) ……(54)
このように算出される走行速度推定値Vox_actは、前輪回転移動速度推定値Vf_actのX軸方向成分に相当する。
なお、前輪有効操舵角推定値δ'f_actは、倒立振子質点横速度推定値算出部32により算出された値をそのまま使用してもよい。その場合には、走行速度推定値算出部33に前輪操舵角検出値δf_actを入力する必要は無いと共に、処理部33−1は不要である。
また、現在時刻での前輪操舵角検出値δf_act及び前輪回転移動速度推定値Vf_actの代わりに、それぞれ、前回の制御処理周期において後述する姿勢制御演算部37により算出された目標前輪操舵角δf_cmdの値(前回値)δf_cmd_p、前回の制御処理周期において後述する目標前輪回転移動速度決定部36により算出された目標前輪回転移動速度Vf_cmdの値(前回値)Vf_cmd_pを使用して、前記式(54)の右辺の演算と同様の演算を行なうことで算出される値(=Vf_cmd_p*cos(δf_cmd_p*cos(θcf)))を、走行速度推定値Vox_actの代わりの擬似的な推定値(代用的な観測値)として得るようにしてもよい。
また、走行速度推定値Vox_actの代わりの擬似的な推定値(代用的な観測値)を得る際に、現在時刻での前輪操舵角検出値δf_actの代わりにδf_cmd_pを使用し、前輪回転移動速度推定値Vf_actはそのまま使用してもよい。逆に、現在時刻での前輪回転移動速度推定値Vf_actの代わりにVf_cmd_pを使用し、前輪操舵角検出値δf_actはそのまま使用してもよい。
また、後輪回転速度検出器21の出力に基づき推定される後輪3rの実際の回転移動速度の値(具体的には、後輪回転速度検出器21の出力により示される後輪3rの回転角速度に後輪3rの既定の有効回転半径を乗じてなる値)を、走行速度推定値Vox_actとして得るようにしてもよい。
制御装置15は、次に、目標前輪回転移動速度決定部36の処理を実行する。
目標前輪回転移動速度決定部36には、図18に示すように、前記アクセル操作検出器22の出力により示されるアクセル操作量の実際の値の検出値が入力される。
そして、目標前輪回転移動速度決定部36は、図25のブロック線図に示す処理、すなわち、処理部36−1の処理によって、目標前輪回転移動速度Vf_cmdを決定する。
処理部36−1は、現在時刻でのアクセル操作量の検出値から、あらかじめ設定された変換関数によって、目標前輪回転移動速度Vf_cmdを決定する。
上記変換関数は、例えばマップもしくは演算式により構成される関数である。この変換関数は、基本的には、該変換関数により決定されるVf_cmdが、アクセル操作量の増加に対して単調増加するように設定されている。
例えば図25中のグラフで例示するような傾向で、該変換関数が設定されている。この場合、アクセル操作量の検出値が、ゼロから所定の第1アクセル操作量A1までの不感帯の範囲内(ゼロ近辺の範囲内)の値であるときには、処理部36−1は、Vf_cmdをゼロに決定する。
また、アクセル操作量の検出値が、第1アクセル操作量A1から所定の第2アクセル操作量A2(>A1)までの範囲内の値であるときには、処理部36−1は、アクセル操作量の増加に対して、Vf_cmdが単調に増加すると共に、Vf_cmdの増加率(アクセル操作量の単位増加量当たりのVf_cmdの増加量)が滑らかに大きくなるように、Vf_cmdを決定する。
また、アクセル操作量の検出値が、第2アクセル操作量A2から所定の第3アクセル操作量A3(>A2)までの範囲内の値であるときには、処理部36−1は、Vf_cmdがアクセル操作量の増加に対して、一定の増加率で単調に増加していくように、Vf_cmdを決定する。
さらに、アクセル操作量の検出値が、第3アクセル操作量A3を超えると、処理部36−1は、Vf_cmdを一定値(A3に対応する値)に維持するように決定する。
制御装置15は、次に、制御ゲイン決定部35の処理を実行する。制御ゲイン決定部35には、図18に示すように、制御装置15の前回の制御処理周期で姿勢制御演算部37により決定された目標前輪操舵角δf_cmdの値(前回値)である前回目標前輪操舵角δf_cmd_pが遅延要素39を介して入力されると共に、今回の制御処理周期で走行速度推定値算出部33により算出された走行速度推定値Vox_actが入力される。
そして、制御ゲイン決定部35は、例えば図22のブロック線図で示す処理によって、車体2の姿勢制御のための複数のゲインK1,K2,K3,K4,Khの値を決定する。
その詳細は後述するが、各ゲインK1,K2,K3,K4,Khの値は、δf_cmd_pと、Vox_actとに応じて、又はVox_actに応じて可変的に決定される。
制御装置15は、次に、目標姿勢状態決定部34の処理を実行する。目標姿勢状態決定部34は、倒立振子質点横移動量Pb_diff_yの目標値である目標倒立振子質点横移動量Pb_diff_y_cmdと、倒立振子質点横速度Vbyの目標値である目標倒立振子質点横速度Vby_cmdとを決定する。本実施形態では、目標姿勢状態決定部34は、一例として、Pb_diff_y_cmdとVby_cmdとを共にゼロに設定する。
制御装置15は、次に、姿勢制御演算部37の処理を実行する。この姿勢制御演算部37には、図18に示すように、目標姿勢状態決定部34で決定された目標倒立振子質点横移動量Pb_diff_y_cmd及び目標倒立振子質点横速度Vby_cmdと、倒立振子質点横移動量推定値算出部31で算出された倒立振子質点横移動量推定値Pb_diff_y_actと、倒立振子質点横速度推定値算出部32で算出された倒立振子質点横速度推定値Vby_actと、制御ゲイン決定部35で決定されたゲインK1,K2,K3,K4,Khと、前記ハンドルトルク検出器19の出力により示されるハンドルトルクThの実際の値の検出値Th_act(以降、ハンドルトルク検出値Th_actという)とが入力される。
姿勢制御演算部37は、上記の入力値を用いて、図26のブロック線図に示す処理を実行することによって、目標前輪操舵角δf_cmdと、目標前輪操舵角速度δf_dot_cmdと、目標前輪操舵角加速度δf_dot2_cmdとを決定する。
図26において、処理部37−1は、Th_actにゲインKhを乗じることで、Th_actを前輪3fの操舵角の角加速度の要求値に変換する処理部、処理部37−2は、Pb_diff_y_cmdとPb_diff_y_actとの偏差を求める処理部、処理部37−3は、処理部37−2の出力にゲインK1を乗じる処理部、処理部37−4は、Vby_cmdとVby_actとの偏差を求める処理部、処理部37−5は、処理部37−4の出力にゲインK2の乗じる処理部、処理部37−6は、δf_cmd_pにゲインK3を乗じる処理部、処理部37−7は、前回の制御処理周期で姿勢制御演算部37が決定した目標前輪操舵角速度δf_dot_cmdの値である前回目標前輪操舵角速度δf_dot_cmd_pにゲインK4を乗じる処理部、処理部37−8は処理部37−3,37−5のそれぞれの出力と、処理部37−6,37−7のそれぞれの出力の(−1)倍の値とを加え合わせた値を算出する処理部、処理部37−9は、処理部37−8の出力と処理部37−1の出力とを加え合わせることによって、目標前輪操舵角加速度δf_dot2_cmdを算出する処理部を表している。
また、処理部37−10は、処理部37−9の出力を積分することにより目標前輪操舵角速度δf_dot_cmdを求める処理部、処理部37−11は、前回の制御処理周期での処理部37−10の出力(すなわち、前回目標前輪操舵角速度δf_dot_cmd_p)を処理部37−7に出力する遅延要素、処理部37−12は、処理部37−10の出力を積分することにより目標前輪操舵角δf_cmdを求める処理部、処理部37−13は、前回の制御処理周期での処理部37−12の出力(すなわち、前回目標前輪操舵角δf_cmd_p)を処理部37−6に出力する遅延要素を表している。
従って、姿勢制御演算部37は、次式(55)により、目標前輪操舵角加速度δf_dot2_cmdを算出する。
δf_dot2_cmd=(K1*(Pb_diff_y_cmd−Pb_diff_y_act)
+K2*(Vby_cmd−Vby_act)
−K3*δf_cmd_p−K4*δf_dot_cmd_p)+Kh*Th_act
……(55)
上記式(55)において、K1*(Pb_diff_y_cmd−Pb_diff_y_act)は、偏差(Pb_diff_y_cmd−Pb_diff_y_act)を“0”に近づける機能を有するフィードバック操作量、K2*(Vby_cmd−Vby_act)は、偏差(Vby_cmd−Vby_act)を“0”に近づける機能を有するフィードバック操作量、−K3*δf_cmd_pは、δf_cmdを“0”に近づける機能を有するフィードバック操作量、−K4*δf_dot_cmd_pは、δf_dot_cmdを“0”に近づける機能を有するフィードバック操作量である。
また、Kh*Th_actは、運転者により操縦ハンドル7に付与される実際のハンドルトルク(ハンドルトルク検出値Th_act)に応じたフィードフォワード操作量である。
そして、姿勢制御演算部37は、上記式(55)により決定したδf_dot2_cmdを積分することにより、目標前輪操舵角速度δf_dot_cmdを決定する。さらに、姿勢制御演算部37は、このδf_dot_cmdを積分することにより、目標前輪操舵角δf_cmdを決定する。
なお、式(55)の演算で用いるδf_cmd_p、δf_dot_cmd_pは、それぞれ、現在時刻での前輪3fの実際の操舵角、操舵角速度の擬似的な推定値(代用的な観測値)としての意味を持つものである。従って、δf_cmd_pの代わりに、現在時刻での前輪操舵角検出値δf_actを使用してもよい。また、δf_dot_cmd_pの代わりに、前記前輪操舵角検出器17の出力に基づく前輪操舵角速度検出値δf_dot_act(前輪3fの実際の操舵角速度の検出値)を使用してもよい。
以上が姿勢制御演算部37の処理である。
この姿勢制御演算部37の処理によって、目標前輪操舵角加速度δf_dot2_cmdは、操縦ハンドル7にハンドルトルクThが付与されていない場合では、基本的には、二輪車1Aの実際の倒立振子質点横移動量(倒立振子質点横移動量推定値Pb_diff_y_act)が目標倒立振子質点横移動量Pb_diff_y_cmdからずれた状態、あるいは、二輪車1Aの実際の倒立振子質点横速度(倒立振子質点横速度推定値Vby_act)が目標倒立振子質点横速度Vby_cmdからずれた状態では、それらのずれを、前輪3fの操舵角δfを操作することによって解消するように(ひいては、実際の二輪車1Aの倒立振子質点横移動量あるいは横速度を目標倒立振子質点横移動量Pb_diff_y_cmdあるいは目標倒立振子質点横速度Vby_cmdに復元させるように)決定される。
また、目標倒立振子質点横移動量Pb_diff_y_cmdが本実施形態では“0”であるので、二輪車1Aの実際の倒立振子質点横移動量が目標倒立振子質点横移動量Pb_diff_y_cmdに一致もしくはほぼ一致する値に保持されている状態では、目標前輪操舵角加速度δf_dot2_cmdは、前輪3fの実際の操舵角を“0”もしくはほぼ“0”に保持するように決定される。
さらに、操縦ハンドル7にハンドルトルクThが付与された場合には、ハンドルトルク検出値Th_actに応じたフィードフォワード操作量が、目標前輪操舵角加速度δf_dot2_cmdに付加される。
なお、ハンドルトルク検出値Th_actに応じたフィードフォワード操作量を、上記の如くδf_dot2_cmdに付加することに代えて、ハンドルトルク検出値Th_actに応じたフィードフォワード操作量(Th_actにゲインを乗じた値)を、目標前輪操舵角速度δf_dot_cmd又は目標前輪操舵角δf_cmdに付加するようにしてもよい。
あるいは、ハンドルトルク検出値Th_actに応じたフィードフォワード操作量を、δf_dot2_cmdに付加することに代えて、例えば図27のブロック線図で示すように、目標倒立振子質点横移動量Pb_diff_y_cmdをTh_actに応じて補正し、その補正後の目標倒立振子質点横移動量をPb_diff_y_cmdの代わりに用いるようにしてもよい。
図27のブロック線図で示す姿勢制御演算部37の処理では、図26に示した処理部37−9に代えて、処理部37−14が備えられている。この処理部37−14は目標倒立振子質点横移動量Pb_diff_y_cmdから、処理部37−1の出力(=Kh*Th_act)を減算することで、Pb_diff_y_cmdを補正する。なお、この場合にTh_actに乗じるゲインKhの値は、一般には、図26のブロック線図の処理部37−1で使用するゲインKhの値とは異なる。
そして、処理部37−14は、この補正後の目標倒立振子質点横移動量(=Pb_diff_y_cmd−Kh*Th_act)を、Pb_diff_y_cmdの代わりに処理部37−2に入力する。
また、図27のブロック線図の処理では、処理部37−8の出力がそのまま目標前輪操舵角加速度δf_dot2_cmdとして決定されると共に、処理部37−10に入力される。
図27のブロック線図で示す処理は、以上説明した事項以外は、図26に示したものと同じである。
従って、図27に示す姿勢制御演算部37の処理では、次式(56)により、目標前輪操舵角加速度δf_dot2_cmdが算出される。
δf_dot2_cmd=K1*((Pb_diff_y_cmd−Kh*Th_act)−Pb_diff_y_act)
+K2*(Vby_cmd−Vby_act)
−K3*δf_cmd_p−K4*δf_dot_cmd_p ……(56)
図26のブロック線図の処理部37−1で使用するゲインKhの値をゲインK1で除した値の(−1)倍の値を図27のブロック線図の処理部37−1で使用するゲインKhに用いると、図27のブロック線図は、図26のブロック線図と等価になる。
図26のブロック線図又は図27のブロック線図において、処理部37−10の出力にハンドルトルク検出値Th_actに所定のゲインを乗じたものを加えるようにしてもよい。
あるいは、図26のブロック線図又は図24のブロック線図において、処理部37−12の出力にハンドルトルク検出値Th_actに所定のゲインを乗じたものを加えるようにしてもよい。
あるいは、ハンドルトルク検出値Th_actをそのまま用いる代わりに、周波数特性を調整するフィルタにハンドルトルク検出値Th_actを通した値を用いるようにしてもよい。以上のような処理を加えることで、ハンドルトルクに対する制御系の応答特性を、より一層、二輪車1Aの運転者の嗜好に合わせることができる。
ここで、前記式(55)の演算によりδf_dot2_cmdを算出する場合に用いるゲインK1〜K4(式(55)の右辺の各フィードバック操作量に係わるフィードバックゲイン)およびゲインKhは、前記制御ゲイン決定部35で決定されるものである。そこで、以下に、制御ゲイン決定部35の処理を詳細に説明する。
制御ゲイン決定部35は、入力される走行速度推定値Vox_actと、前回目標前輪操舵角δf_cmd_pとから図22のブロック線図で示す処理によって、ゲインK1〜K4およびKhの値を決定する。
図22において、処理部35−1は、Vox_actとδf_cmd_pとに応じてゲインK1を決定する処理部、処理部35−2は、Vox_actとδf_cmd_pとに応じてゲインK2を決定する処理部である。
本実施形態では、処理部35−1は、Vox_actとδf_cmd_pとから、あらかじめ設定された2次元マップ(2変数の変換関数)によりゲインK1を決定する。同様に、処理部35−2は、Vox_actとδf_cmd_pとから、あらかじめ設定された2次元マップ(2変数の変換関数)によりゲインK2を決定する。
これらの2次元マップは、Vox_actとδf_cmd_pとに対するゲインK1の値の変化の傾向と、Vox_actとδf_cmd_pとに対するゲインK2の値の変化の傾向とが、概ね同様の傾向で設定されている。
具体的には、処理部35−1,35−2のそれぞれの2次元マップは、図22中の処理部35−1,35−2に記載したグラフで例示されるように、該2次元マップにより決定されるゲインK1,K2の大きさが、δf_cmd_pを任意の値に固定した場合にVox_actの増加に対して単調減少する傾向を持つように設定されている。
従って、二輪車1Aの車体2のロール方向の姿勢を安定化させる(倒立振子質点横移動量推定値Pb_diff_y_actと、倒立振子質点横速度推定値Vby_actとをそれぞれPb_diff_y_cmd、Vby_cmdに収束させる)機能を有するフィードバック操作量に係るフィードバックゲインとしてのゲインK1,K2は、二輪車201Aの実際の走行速度(走行速度推定値Vox_act)が大きくなるに伴い、ゲインK1,K2のそれぞれの大きさが小さくなるように決定される。
換言すれば、Pb_diff_y_actとVby_actとをそれぞれPb_diff_y_cmd、Vby_cmdに収束させるように前輪3fの操舵制御を行うことで、車体2のロール方向の姿勢を安定化させる制御機能が、二輪車1Aの実際の走行速度(走行速度推定値Vox_act)が高速側の速度である場合には、低速側の速度である場合よりも弱まるように、ゲインK1,K2が決定される。
このため、二輪車1Aの実際の走行速度(走行速度推定値Vox_act)が比較的高速である場合、すなわち、車体2のロール方向の姿勢のふらつきが生じにくい状況では、通常の二輪車(車体のロール方向の姿勢制御機能を持たない二輪車)と同様に、運転者の体重移動等によって車体2のロール方向の姿勢(ロール角φb)を変化させることを、二輪車1Aの運転者が容易に行なうことができるようになっている。
なお、K1及びK2を決定する2次元マップは、それぞれ、走行速度推定値Vox_actがある程度大きくなると、決定されるK1,K2の値が、“0”もしくはほぼ“0”となるように設定されていてもよい。
このようにした場合には、二輪車1Aの実際の走行速度(走行速度推定値Vox_act)が比較的大きい場合に、車体2のロール方向の姿勢制御機能が実質的にOFFになる。二輪車1Aの実際の走行速度が高速である場合に、二輪車1Aの挙動特性を、通常の二輪車と同等の特性に近づけるようにすることができる。
さらに、処理部35−1,35−2のそれぞれの2次元マップは、それにより決定されるゲインK1,K2が、Vox_actを任意の値に固定した場合に、δf_cmd_pの大きさ(絶対値)の増加に対して、単調減少する傾向を持つように設定されている。
従って、二輪車1Aの車体2のロール方向の姿勢を安定化させる機能を有するフィードバック操作量に係るゲインとしてのゲインK1,K2は、前輪3fの実際の操舵角に相当するδf_cmd_pの大きさが大きくなるに伴い、K1,K2のそれぞれの大きさが小さくなるように決定される。
上記の如くゲインK1,K2の大きさを変化させる理由を以下に述べる。すなわち、前述のごとく、前輪3fの実際の操舵角の大きさが大きい場合には、小さい場合に較べて、操舵輪(前輪3f)の接地点を含みX軸方向(車体2の前後方向)を法線とする断面で見た該操舵輪(前輪3f)の接地部位の曲率半径は、大きくなる。
したがって、前輪3fの実際の操舵角の大きさが大きい場合には、小さい場合に較べて、その操舵の変化に応じた前輪3fの接地点の移動量の変化が大きくなる。このことに起因して、仮に、ゲインK1,K2の大きさを、実際の操舵角に依存しないように設定すると、二輪車1Aの車体2のロール方向の姿勢の制御の発振が生じやすくなる。
しかるに、上記の如く、δf_cmd_pの大きさに応じてゲインK1,K2の大きさを変化させるようにすることで、前輪3fの実際の操舵角の大きさ(絶対値)が大きい場合でも、上記発振を防止することができる。
また、図22のブロック線図において、処理部35−3,35−4は、それぞれ、ゲインK3,K4をVox_actに応じて決定する処理部を表している。
本実施形態では、処理部35−3,35−4は、それぞれ、Vox_actから、あらかじめ設定されたマップ(又は演算式)により構成される変換関数によって、ゲインK3,K4を決定する。
これらの変換関数は、図22中の処理部35−3,35−4に記載したグラフで例示されるように、基本的には、Vox_actの増加に対して、ゲインK3,K4のそれぞれが、所定の上限値と下限値との間で、単調増加するように設定されている。
この場合、処理部35−3,35−4の変換関数では、Vox_actが“0”に近い値となる領域では、K3,K4はそれぞれ下限値に維持される。また、Vox_actが十分に大きい値となる領域では、K3,K4はそれぞれ上限値に維持される。
上記のようにゲインK3,K4が決定されるので、二輪車1Aの実際の走行速度(走行速度推定値Vox_act)が比較的大きい場合(高速域の速度である場合)には、前輪3fの操舵角δfをゼロに近づける機能を有するフィードバック操作量に係るフィードバックゲインとしてのゲインK3,K4の大きさが、二輪車1Aの実際の走行速度が比較的小さい場合(低速域の速度(“0”を含む)である場合)に較べて相対的に大きくなるようにK3,K4が決定される。
ここで、通常の二輪車では、比較的高速での走行時に、操舵輪は、非操舵状態又はそれに近い状態に保たれることが一般的である。このため、上記のようにゲインK3,K4を設定することで、二輪車1Aの実際の走行速度が比較的大きい場合における二輪車1Aの前輪3fの操舵特性を、通常の二輪車の特性に近づけるようにすることができる。
また、図22において、処理部35−5は、ゲインKhをVox_actに応じて決定する処理部を表している。
本実施形態では、処理部35−5は、ゲインK3,K4と同様に、Vox_actから、あらかじめ設定されたマップ(又は演算式)により構成される変換関数によって、ゲインKhを決定する。
この変換関数は、図22中の処理部35−5に記載したグラフで例示されるように、基本的には、Vox_actが小さい場合よりも大きい場合の方が相対的に、ゲインKhの大きさが大きくなるように設定されている。
この場合、処理部35−5の変換関数は、Vox_actの増加に対して、ゲインKhが、所定の上限値と下限値との間で、単調増加するように設定されている。また、該変換関数は、それにより決定されるKhが、Vox_actに対して飽和特性を有するように設定されている。すなわち、該変換関数により決定されるKhは、Vox_actが“0”に近い値となる低速領域(“0”を含む)と、Vox_actが十分に大きい高速領域とで、Vox_actに対するKhの値の変化率(Vox_actの単位増加量当たりのKhの増加量)の大きさが、上記低速領域及び高速領域の間の中速領域での当該変化率の大きさよりも、小さくなるように決定される。
このようにゲインKhをVox_actに応じて決定することで、二輪車1Aの実際の走行速度が比較的大きい場合に、ゲインK1に対するゲインKhの大きさを大きくすることができる。
このため、運転者が、操縦ハンドル7が動かそうとして、操縦ハンドル7にハンドル軸線Ch周りのトルクを付与すると、ハンドルトルク検出値Thをゼロにするように、目標前輪操舵角加速度δf_dot2_cmdが決定される。ひいては、運転者自身が、操縦ハンドル7を動かすことに対する前輪3fの操舵の追従性が高まる。
その結果、二輪車1Aの高速域での走行時に、操縦ハンドル7の操作による前輪3fの操舵を、通常の二輪車と同様に行なうようにすることができる。
以上が、本実施形態における制御ゲイン決定部35の処理の詳細である。
なお、前記処理部35−1,35−2の処理では、それぞれ2次元マップを用いて、Vox_actとδf_cmd_pとに応じてゲインK1,K2を決定したが、2次元マップを使用しない手法で、ゲインK1,K2を決定するようにしてもよい。
例えば、図23又は図24のブロック線図の処理部35−6,35−7の処理によって、ゲインK1,K2を決定するようにしてもよい。なお、図23及び図24のブロック線図の処理では、処理部35−6,35−7以外の処理は、図22のブロック線図の処理と同じである。
図23における処理部35−6は、ゲインK1の値を調整するための第1調整パラメータKv_1を、Vox_actから、あらかじめ設定された変換関数によって決定する処理部35−6−1と、ゲインK1の値を調整するための第2調整パラメータKδ_1を、δf_cmd_pから、あらかじめ設定された変換関数によって決定する処理部35−6−2と、これらの調整パラメータKv_1,Kδ_1を掛け合わせることによって、合成調整パラメータ(=Kv_1*Kδ_1)を決定する処理部35−6−3と、この合成調整パラメータをゲインK1の所定の基準値(下限値)K0_1に加え合せることによって、ゲインK1(=Kv_1*Kδ_1+K0_1)を決定する処理部35−6−4とを有する。
また、処理部35−7は、ゲインK2の値を調整するための第1調整パラメータKv_2を、Vox_actから、あらかじめ設定された変換関数によって決定する処理部35−7−1と、ゲインK2の値を調整するための第2調整パラメータKδ_2を、δf_cmd_pから、あらかじめ設定された変換関数によって決定する処理部35−7−2と、これらの調整パラメータKv_2,Kδ_2を掛け合わせることによって、合成調整パラメータ(=Kv_2*Kδ_2)を決定する処理部35−7−3と、この合成調整パラメータをゲインK2の所定の基準値(下限値)K0_2に加え合せることによって、ゲインK2(=Kv_2*Kδ_2+K0_2)を決定する処理部35−7−4とを有する。
この場合、処理部35−6−1,35−7−1,35−6−2,35−7−2のそれぞれの変換関数は、例えばマップ(1次元マップ)又は演算式により構成される。
そして、処理部35−6−1,35−7−1のそれぞれの変換関数は、図23中の処理部35−6−1,35−7−1に記載したグラフで例示されるように、それぞれにより決定されるKv_1,Kv_2が、Vox_actが大きくなるに伴い、所定の上限値(>0)から単調減少する(ゼロに近づく)ように設定されている。
従って、Vox_actが比較的小さい低速領域で、Kv_1,Kv_2が、有効性のある(ある程度以上の大きさを有する)正の値に設定される。
また、処理部35−6−2,35−7−2のそれぞれの変換関数は、図23中の処理部35−6−2,35−7−2に記載したグラフで例示されるように、それぞれにより決定されるKδ_1,Kδ_2が、δf_cmd_pの大きさ(絶対値)の増加に伴い、単調減少するように設定されている。
より詳しくは、Kδ_1,Kδ_2は、それぞれ、δf_cmd_pの大きさが“0”である場合に、所定の上限値(>0)となり、且つ、δf_cmd_pの大きさが“0”から大きくなるに伴い、Kδ2_1,Kδ2_2がそれぞれ所定の下限値(>0)まで小さくなるように決定される。
従って、図23に示す処理部35−6,35−7によって、Vox_actとδf_cmd_pとに対するK1,K2の変化の傾向が、図22の処理部35−1,35−2によりそれぞれ決定されるK1,K2と同様の傾向となるように、ゲインK1,K2をそれぞれ決定することができる。
また、図24における処理部35−6,35−7は、それぞれの一部の処理だけが図23のものと相違するものである。
具体的には、図24における処理部35−6は、ゲインK1の値を調整するための第1調整パラメータKv_1をVox_actに応じて決定する処理部として、図23に示した処理部35−6−1の代わりに、処理部35−6−5を採用したものである。そして、図24の処理部35−6は、処理部35−6−5以外の構成は、図23のものと同じである。
同様に、図24に示す処理部35−7は、ゲインK2の値を調整するための第1調整パラメータKv_2をVox_actに応じて決定する処理部として、図23に示した処理部35−7−1の代わりに、処理部35−7−5を採用したものである。そして、図24の処理部35−7は、処理部35−7−5以外の構成は、図23のものと同じである。
上記処理部35−6−5,35−7−5では、それぞれ、Kv_1,Kv_2を決定するための変換関数(マップ又は演算式)が図23のものと相違する。
具体的には、処理部35−6−5,35−7−5のそれぞれの変換関数は、図24中の処理部35−6−5,35−7−5に記載したグラフで例示されるように、それぞれにより決定されるKv_1,Kv_2が、Vox_actの増加に伴い、単調減少することに加えて、Vox_actが大きなものとなる高速領域で、Kv_1,Kv_2がゼロ(もしくはほぼゼロ)になるように設定されている。
なお、図24に示す処理部35−6におけるゲインK1の基準値(下限値)K0_1と、図24の処理部35−7におけるゲインK2の基準値(下限値)K0_2とは、それぞれゼロもしくはそれに近い値に設定されている。
従って、図24に示す処理部35−6,35−7によって、Vox_actとδf_cmd_pとに対するK1,K2の変化の傾向が、図22の処理部35−1,35−2によりそれぞれ決定されるK1,K2と同様の傾向となるように、ゲインK1,K2をそれぞれ決定することができる。
加えて、二輪車1Aの実際の走行速度が大きい高速領域では、ゲインK1,K2の両方がゼロもしくはほぼゼロに決定される。このため、二輪車1Aの実際の走行速度が高速である場合に、二輪車1Aの挙動特性を、通常の二輪車と同等の特性により一層近づけるようにすることができる。
なお、ゲインK1,K2を決定するための変換関数は、Vox_act,δf_cmd_pに対して上述したような傾向で決定できるものであれば、他の形態の変換関数を採用してもよい。同様に、ゲインK3,K4,Khを決定するための変換関数は、Vox_actに対して上述したような傾向で決定できるものであれば、他の形態の変換関数を採用してもよい。
補足すると、前回目標前輪操舵角δf_cmd_pは、現在時刻での前輪3fの実際の操舵角の擬似的な推定値(代用的な観測値)としての意味を持つものである。
従って、各ゲインK1,K2,K3,K4,Khを決定するために、δf_cmd_pの代わりに、前記前輪操舵角検出値δf_actを用いてもよい。
また、前輪駆動用アクチュエータ10の応答が十分に速い場合には、上記前回目標前輪操舵角δf_cmd_pと、前回目標前輪回転移動速度Vf_cmd_p(前回の制御処理周期で目標前輪回転移動速度決定部36で決定された目標前輪回転移動速度Vf_cmd)とから、前記式(54)の演算と同様の演算によって算出される走行速度の値(=Vf_cmd_p*cos(δf_cmd_p*cos(θcf))。以降、これを前回目標走行速度Vox_cmd_pと表記する)は、現在時刻での二輪車1Aの実際の走行速度の擬似的な推定値(代用的な観測値)としての意味を持つ。
従って、ゲインK1,K2,K3,K4,Khを決定するために、Vox_actの代わりに、上記前回目標走行速度Vox_cmd_pを用いてもよい。
制御装置15は、前記した如く姿勢制御演算部37により目標前輪操舵角δf_cmdを決定した後、目標ハンドル角決定部38の処理を実行する。
この目標ハンドル角決定部38には、図18に示す如く、走行速度推定値算出部33で算出された走行速度推定値Vox_actと、姿勢制御演算部37で決定された目標前輪操舵角δf_cmdとが入力される。
そして、目標ハンドル角決定部38は、これらの入力値を用いて、図28のブロック線図で示す処理を実行することによって、目標ハンドル角δh_cmdと目標ハンドル角速度δh_dot_cmdとを決定する。
図28において、処理部38−1は、δf_cmdを補正する補正係数Kh_vを走行速度推定値Vox_actに応じて決定する処理部、処理部38−2は、δf_cmdに処理部38−1の出力(補正係数Kh_v)を乗じることによりδf_cmdを補正する処理部、処理部38−3は、処理部38−2の出力(=Kh_v*δf_cmd)から目標ハンドル角δh_cmdを決定する処理部、処理部38−4は、処理部38−3の出力(δh_cmd)の時間的変化率(単位時間当たりの変化量)を、目標ハンドル角速度δh_dot_cmdとして算出する処理部である。
従って、目標ハンドル角決定部38は、δf_cmdをVox_actに応じて補正してなる補正値(=Kh_v*δf_cmd。以降、この補正値を補正後目標前輪操舵角δf_cmd_cという)に応じて目標ハンドル角δh_cmdを決定する。また、このδh_cmdを微分することで、目標ハンドル角速度δh_dot_cmdを決定する。
この場合、補正係数Kh_vは、1以下の正の値である。そして、補正係数Kh_vは、走行速度推定値Vox_actから、あらかじめ設定された変換関数によって決定される。その変換関数は、例えばマップ又は演算式により構成される。そして、該変換関数は、図28中の処理部38−1に記載したグラフで例示されているような傾向で設定されている。
ここで、二輪車1Aの静止時及び極低速時では、前輪3fの単位操舵舵角当たりの車体2のロール方向の姿勢の復元力が弱いため、該姿勢を安定化するために、前輪3fを比較的大きく操舵する必要がある。
その場合、前輪の操舵軸に操縦ハンドルが直結されている通常の二輪車のように、前輪3fの操舵角δfとハンドル角δhとが同一になるようにした場合には、前輪3fの大きな操舵に伴い、操縦ハンドル7が大きく回転し、二輪車1Aの運転者に違和感を与えてしまう。あるいは、操縦ハンドル7と車体2の操縦ハンドル7寄りの部分とが干渉してしまうおそれがある。
これを解決するために、本実施形態では、処理部38−1の変換関数は、図示例のグラフで示すように、Vox_actが小さくなる(二輪車1Aの実際の走行速度が小さくなる)に伴い、補正係数Kh_vが小さくなるようにした。
この補正係数Kh_vは、基本的には、前輪3fの操舵角δfの単位変化量に対するハンドル角δhの変化量の比率、すなわち、所謂、ステアリングギア比を、Vox_actに応じて変化させる機能を有するものである。このため、Vox_actが小さくなるに伴い、上記比率が小さくなるように設定されることとなる。
より詳しくは、Vox_actが所定速度以上になると、上記比率(補正係数Kh_v)が“1”もしくはほぼ“1”になり、且つ、Vox_actが所定速度よりも小さくなると、上記比率が“1”よりも小さくなるように、処理部38−1の変換関数が設定されている。
この結果、二輪車1Aの静止時及び極低速時において、車体2の姿勢の安定化のために、前輪3fの操舵角が大きな操舵角になっても、ハンドル角δhが小さな角度に抑制される。そのため、二輪車1Aの運転者の違和感を低減することができ、また、操縦ハンドル7と車体2との干渉も防ぐことができる。
さらに、本実施形態では、δf_cmdを補正係数Kh_vにより補正してなる補正後目標前輪操舵角δf_cmd_cから、目標ハンドル角δh_cmdを決定する処理部38−3は、δf_cmd_cに対してδh_cmdが飽和特性を持つようにあらかじめ設定された変換関数によって、δh_cmdを決定する。該飽和特性は、δh_cmd_cの大きさが大きい場合に、δf_cmd_cに対するδh_cmdの変化率(δf_cmd_cの単位変化量当たりのδh_cmdの変化量)の大きさが、δh_cmd_cの大きさが小さい場合よりも小さくなるという特性である。
このような飽和特性を持つ処理部38−3の変換関数は、例えばマップ又演算式により構成される。そして、該変換関数は、例えば図25中の処理部38−3に記載したグラフで例示されるように設定されている。
この例では、δh_cmdは、δf_cmd_cの大きさ(絶対値)が所定値以下である場合には、δf_cmd_c(又はδf_cmd)の正側又は負側への変化に対して、それぞれ、正側の上限値、負側の下限値までδh_cmdが単調に変化するように決定される。この状況では、δh_cmdは、例えば、δf_cmd_cに一致もしくはほぼ一致するように決定される。
そして、δf_cmd_cの大きさ(絶対値)が所定値を超えると、δh_cmdは、正側の上限値、又は負側の下限値で一定に保持される。
このように、δf_cmd_cに対して飽和特性を持つようにδh_cmdを決定することで、実際のハンドル角(ハンドル角検出値δh_act)が過大な大きさのハンドル角になるのを防止できる。
なお、δf_cmd_cから、δh_cmdを決定する処理は、例えば図29のブロック線図に示す処理部38−5に記載したグラフで例示されるような変換関数(飽和特性をもつ変換関数)を用いて行なうようにしてもよい。この変換関数は、マップ又は演算式により構成され、δf_cmd_cに対するδh_cmdの変化率の大きさが、δf_cmd_cの大きさが大きくなるに伴い、連続的に小さくなるように、設定されている。なお、上記変化率の大きさの最小値は、ゼロより大きくてもよい。
このように処理部38−5の変換関数を設定した場合には、δf_cmdに対するδh_cmdの変化率(δf_cmdの単位増加量あたりのδh_cmdの変化量)を、連続的に変化させるようにすることができる。ひいては、実際のハンドル角の角加速度を連続的に変化させることができる。そのため、操縦ハンドル7の回転角速度(ハンドル軸線Ch周りの角速度)の急激な変化が抑制され、より一層、操縦ハンドル7の操作における運転者の違和感を低減することができ、また、ハンドル駆動用アクチュエータ9の負荷も低減することができる。
なお、δh_cmdは、δf_cmdと、Vox_actとから2次元マップにより決定するようにしてもよい。また、δh_cmdを決定するためのVox_actとして、後輪回転速度検出器21の出力に基づき推定される後輪3rの実際の回転移動速度の値を用いてもよい。あるいは、前回目標前輪操舵角δf_cmdと前回目標前輪回転移動速度Vf_cmd_pとから前記式(54)の右辺の演算と同様の演算によって算出される前記前回目標走行速度Vox_cmd_pをVox_actの代わりに用いてもよい。
次に、前記前輪操舵用アクチュエータ8、ハンドル駆動用アクチュエータ9、前輪駆動用アクチュエータ10の制御について説明する。
制御装置15は、図18に示した機能の他の機能として、図30に示す前輪操舵用アクチュエータ制御部41、図31に示す前輪駆動用アクチュエータ制御部42、図32に示すハンドル駆動用アクチュエータ制御部43をさらに備えている。
前輪操舵用アクチュエータ制御部41は、例えば図30のブロック線図で示す制御処理によって、前輪3fの実際の操舵角(前輪操舵角検出値δf_act)を目標前輪操舵角δf_cmdに追従させるように、前輪操舵用アクチュエータ8の駆動制御を行なう。
この例では、前輪操舵用アクチュエータ制御部41には、姿勢制御演算部37で前記した如く決定された目標前輪操舵角δf_cmd、目標前輪操舵角速度δf_dot_cmd及び目標前輪操舵角加速度δf_dot2_cmdと、前輪操舵角検出値δf_actと、前輪3fの実際の操舵角速度の検出値である前輪操舵角速度検出値δf_dot_actとが入力される。
なお、前輪操舵角速度検出値δf_dot_actは、前輪操舵角検出器17の出力に基づき認識される操舵角速度の値、又は、前輪操舵角検出値δf_actの時間的変化率を算出することで得られる値である。
前輪操舵用アクチュエータ制御部41は、電流指令値決定部41−1の処理によって、上記の入力値から、前輪操舵用アクチュエータ8(電動モータ)の通電電流の目標値である電流指令値I_δf_cmdを決定する。
この電流指令値決定部41−1は、次式(57)で示される如く、δf_cmdとδf_actとの偏差に所定値のゲインKδf_pを乗じてなるフィードバック操作量成分と、δf_dot_cmdとδf_dot_actとの偏差に所定値のゲインKδf_vを乗じてなるフィードバック操作量成分と、δf_dot2_cmdに所定値のゲインKδf_aを乗じてなるフィードフォワード操作量成分とを加え合わせることにより、電流指令値I_δf_cmdを決定する。
I_δf_cmd=Kδf_p*(δf_cmd−δf_act)
+Kδf_v*(δf_dot_cmd−δf_dot_act)
+Kδf_a*δf_dot2_cmd ……(57)
そして、前輪操舵用アクチュエータ制御部41は、モータドライバ等により構成される電流制御部41−2によって、前輪操舵用アクチュエータ8(電動モータ)の実際の通電電流を、電流指令値I_δf_cmdに一致する電流に制御する。
これにより、前輪3fの実際の操舵角が、目標前輪操舵角δf_cmdに追従するように制御される。この場合、電流指令値I_δf_cmdは、上記式(57)の右辺の第3項、すなわち、フィードフォワード操作量成分を含むので、上記制御の追従性が高くなる。
なお、前輪3fの実際の操舵角を目標前輪操舵角δf_cmdに追従させるように前輪操舵用アクチュエータ8を制御する手法は、上記の手法に限らず、他の手法を用いてよい。その手法としては、例えば、電動モータに関する公知の種々様々のサーボ制御手法(電動モータのロータの実際の回転角度を目標値に追従させるフィードバック制御手法)を採用できる。
次に、前輪駆動用アクチュエータ制御部42は、例えば図31のブロック線図で示す制御処理によって、前輪3fの実際の回転移動速度を目標前輪回転移動速度Vf_cmdに追従させるように(又は、前輪3fの実際の回転角速度をVf_cmdに対応する目標回転角速度に追従させるように)、前輪駆動用アクチュエータ10の駆動制御を行なう。
この例では、前輪駆動用アクチュエータ制御部42には、目標前輪回転移動速度決定部36で前記した如く決定された目標前輪回転移動速度Vf_cmdと、前輪回転移動速度推定値Vf_actとが入力される。
前輪駆動用アクチュエータ制御部42は、電流指令値決定部42−1の処理によって、上記の入力値から、前輪駆動用アクチュエータ10(電動モータ)の通電電流の目標値である電流指令値I_Vf_cmdを決定する。
この電流指令値決定部42−1は、次式(58)で示される如く、Vf_cmdとVf_actとの偏差に所定値のゲインKVf_vを乗じてなるフィードバック操作量成分を電流指令値I_Vf_cmdとして決定する。
I_Vf_cmd=KVf_v*(Vf_cmd−Vf_act) ……(58)
なお、上記式(58)によりI_Vf_cmdを決定する代わりに、例えば、Vf_cmdを前輪3fの有効回転半径で除算した値(すなわち、前輪3fの回転角速度の目標値)と、前輪回転速度検出器20の出力により示される前輪3fの実際の回転角速度の検出値との偏差に所定値のゲインを乗じることによって、I_Vf_cmdを決定するようにしてもよい。
そして、前輪駆動用アクチュエータ制御部42は、モータドライバ等により構成される電流制御部42−2によって、前輪駆動用アクチュエータ10(電動モータ)の実際の通電電流を、電流指令値I_Vf_cmdに一致する電流に制御する。
これにより、前輪3fの実際の回転移動速度が、目標前輪回転移動速度Vf_cmdに追従するように(又は、実際の回転角速度が、Vf_cmdに対応する回転角速度の目標値に追従するように)制御される。
なお、前輪3fの実際の回転移動速度を、目標前輪回転移動速度Vf_cmdに追従させるように前輪駆動用アクチュエータ10を制御する手法は、上記の手法に限らず、他の手法を用いてよい。その手法としては、例えば、電動モータに関する公知の種々様々の速度制御手法(電動モータのロータの実際の回転角速度を目標値に追従させるフィードバック制御手法)を採用できる。
次に、ハンドル駆動用アクチュエータ制御部43は、例えば図32のブロック線図で示す制御処理によって、操縦ハンドル7の実際の回転角(ハンドル角)を目標ハンドル角δh_cmdに追従させるように、ハンドル駆動用アクチュエータ9の駆動制御を行なう。
この例では、ハンドル駆動用アクチュエータ制御部43には、目標ハンドル角決定部38で前記した如く決定された目標ハンドル角δh_cmd及び目標ハンドル角速度δh_dot_cmdと、操縦ハンドル7の実際の回転角の検出値であるハンドル角検出値δh_actと、操縦ハンドル7の実際の回転角速度の検出値であるハンドル角速度検出値δh_dot_actとが入力される。
なお、ハンドル角検出値δh_act及びハンドル角速度検出値δh_dot_actは、それぞれ、ハンドル角検出器18の出力に基づき認識されるハンドル角の値、及び、その時間的変化率の値である。
ハンドル駆動用アクチュエータ制御部43は、電流指令値決定部43−1の処理によって、上記の入力値から、ハンドル駆動用アクチュエータ9(電動モータ)の通電電流の目標値である電流指令値I_δh_cmdを決定する。
この電流指令値決定部43−1は、次式(59)で示される如く、δh_cmdとδh_actとの偏差に所定値のゲインKδh_pを乗じてなるフィードバック操作量成分と、δh_dot_cmdとδh_dot_actとの偏差に所定値のゲインKδh_vを乗じてなるフィードバック操作量成分とを加え合わせることにより、電流指令値I_δh_cmdを決定する。
I_δh_cmd=Kδh_p*(δh_cmd−δh_act)
+Kδh_v*(δh_dot_cmd−δh_dot_act) ……(59)
そして、ハンドル駆動用アクチュエータ制御部43は、モータドライバ等により構成される電流制御部43−2によって、ハンドル駆動用アクチュエータ9(電動モータ)の実際の通電電流を、電流指令値I_δh_cmdに一致する電流に制御する。
これにより、操縦ハンドル7の実際のハンドル角が、目標ハンドル角δh_cmdに追従するように制御される。
なお、操縦ハンドル7の実際のハンドル角を目標ハンドルδh_cmdに追従させるようにハンドル駆動用アクチュエータ9を制御する手法は、上記の手法に限らず、種々様々な公知のサーボ制御手法等を採用してもよい。
以上が、本実施形態における制御装置15の制御処理の詳細である。
ここで、本実施形態と本発明との対応関係について説明しておく。本実施形態では、前輪3fが、本発明における操舵輪に相当し、前輪操舵用アクチュエータ8(電動モータ)が本発明における操舵アクチュエータに相当する。
また、二輪車1Aにおける倒立振子質点123(第1質点123)及び第2質点124が、それぞれ、本発明における質点A,Bに相当する。そして、倒立振子質点123(第1質点123)及び第2質点124を有する系の動力学的な挙動は、具体的には、前記式(19)〜(27)により表現される。
また、本実施形態では、車体2の姿勢を安定化するために、倒立振子質点123の運動状態量としての倒立振子質点横移動量及び倒立振子横速度を、それぞれの目標値(Pb_diff_y_cmd、Vby_cmd)としてのゼロに近づける(収束させる)と共に、操舵輪(前輪3f)の操舵角の運動状態量としての操舵角及び操舵角速度を、それぞれの目標値としてのゼロに近づける(収束させる)ように、前輪操舵用アクチュエータ8(電動モータ)が制御される。
具体的には、姿勢制御演算部37の処理で、倒立振子質点横移動量推定値Pb_diff_y_act、倒立振子質点横速度推定値Vby_act、操舵角δfの擬似的な推定値としての前回目標前輪操舵角δf_cmd_p、操舵角速度δf_dot_cmdの擬似的な推定値としての前回目標前輪操舵角速度δf_dot_cmd_pのそれぞれと目標値との偏差をゼロに収束させるようにフィードバック制御則により、前輪操舵用アクチュエータ8(操舵アクチュエータ)の動作目標としての目標前輪操舵角加速度δf_dot2_cmdが決定される。
さらに、このδf_dot2_cmdの積分を2回、繰り返すことで決定した目標前輪操舵角δf_cmdに前輪3fの実際の操舵角を追従させるように前輪操舵用アクチュエータ8の駆動力が、前記前輪操舵用アクチュエータ制御部41により制御される。
これにより、倒立振子質点123の運動状態量及び操舵輪(前輪3f)の操舵角の運動状態量とを安定化し、ひいては、車体2の姿勢(ロール方向の姿勢)を安定化するように、前輪操舵用アクチュエータ8が制御される。
また、本実施形態では、二輪車1Aの基準姿勢状態において、操舵輪である前輪3fの接地点と車軸中心点とを結ぶ仮想的な直線と、前輪3fの操舵軸線Csfとの交点Efが接地面110よりも低い位置になるように(すなわち、交点Efの接地面110からの高さaがa<0となるように)、操舵軸線Csfの配置(前輪3fに対する相対的な配置)が設定されている。
このため、前記式(28)により定義されるa_sumに対して、a<a_sumという条件(ひいては、本発明における前記(第1条件))が必然的に満たされる。さらには、前記式(40)により定義されるa_sに対して、a≦a_sという条件(ひいては、本発明における(第2条件))も必然的に満たされる。さらには、二輪車1Aの基準姿勢状態での操舵輪(前輪3f)の横断面形状の曲率半径Rfに対して、a≦Rfという条件も必然的に満たされる。
以上説明した本実施形態によれば、二輪車1Aの基準姿勢状態において、操舵輪である前輪3fの接地点と車軸中心点とを結ぶ仮想的な直線と、前輪3fの操舵軸線Csfとの交点Efの高さaが、前記した如くa<0(ひいては、a<a_aum、a≦a_s、a≦Rf)となるように設定されている。結果的に、該高さaは、前記(第1条件)及び(第2条件)を満たすように設定されている。
従って、二輪車1Aの実際の倒立振子質点横移動量(倒立振子質点横移動量推定値Pb_diff_y_act)が、目標倒立振子質点横移動量Pb_diff_y_cmdからずれた場合(換言すれば、車体2の実際の姿勢が、Pb_diff_y_act=0となるような目標姿勢からずれた場合)に、運転者が意図的に操縦ハンドル7を動かしたりせずとも、前輪操舵用アクチュエータ8の駆動力による前輪3fの操舵によって、二輪車1Aの実際の倒立振子質点横移動量を目標倒立振子質点横移動量Pb_diff_y_cmdに円滑に復元させ得るモーメント(ロール方向のモーメント)を車体2に作用させることができる。すなわち、車体2の姿勢を安定化させるロール方向のモーメントを車体2に作用させることができる。
そのモーメントにより車体2の実際のロール角が変化して、実際の倒立振子質点横移動量が目標倒立振子質点横移動量Pb_diff_y_cmdに復元することとなる。なお、実際の倒立振子質点横移動量が目標倒立振子質点横移動量Pb_diff_y_cmdに復元するということは、より詳しくは、車体2の実際のロール角と、前輪3fの実際の操舵角とから前記式(51)によって算出される倒立振子質点横移動量推定値Pb_diff_y_actが、目標倒立振子質点横移動量Pb_diff_y_cmdに一致するように、車体2の実際のロール角と前輪3fの実際の操舵角とが制御されることを意味する。
また、このとき、前輪3fの操舵角の変化に対して発生する上記モーメントの感度が比較的高いので、前輪3fの操舵角の過剰な変化を生じることなく、二輪車1Aの実際の倒立振子質点横移動量を目標倒立振子質点横移動量Pb_diff_y_cmdに復元させることができる。
また、前記式(55)によって目標前輪操舵角加速度δf_dot2_cmdを算出することで、運転者が操縦ハンドル7を意図的に動かそうとしていない状態で、二輪車1Aの目標倒立振子質点横移動量Pb_diff_y_cmdと現在の実際の倒立振子質点横移動量の観測値としての倒立振子質点横移動量推定値Pb_diff_y_actとの偏差(Pb_diff_y_cmd−Pb_diff_y_act)、二輪車1Aの目標倒立振子質点横速度Vby_cmdと現在の実際の倒立振子質点横速度の観測値としての倒立振子質点横速度推定値Vby_actとの偏差(Vby_cmd−Vby_act)、前輪3fの現在の実際の操舵角(中立操舵角からの操舵角)の擬似的な推定値としての前回目標前輪操舵角δf_cmd_p、並びに、前輪3fの現在の実際の操舵角の角速度の擬似的な推定値としての前回目標前輪操舵角速度δf_dot_cmd_pを“0”に近づけるように、目標前輪操舵角加速度δf_dot2_cmd(前輪操舵用アクチュエータ8の動作目標)が決定される。
このため、前輪3fの実際の操舵角が中立操舵角から乖離しないようにしつつ(最終的に中立操舵角に収束するようにしつつ)、実際の倒立振子質点横移動量及び倒立振子質点横速度がそれぞれの目標値(本実施形態ではゼロ)に収束するように、前輪3fの操舵角が制御される。
このため、特に二輪車1Aの停車時又は低速走行時等において、車体2の姿勢を円滑に安定化することができる。また、車体2の姿勢が安定した状態で二輪車1Aの発進を円滑に行うことができる。
また、運転者が操縦ハンドル7を動かそうとして、該操縦ハンドル7に回転力(ハンドル軸線Chのまわりの回転力)を付与した場合には、フィードフォワード操作量Th_act*Khによって、操縦ハンドル7に付与される回転力の大きさの度合いに応じた角加速度で前輪3fの操舵角を制御することができる。
また、車体2のロール方向の姿勢制御に係わるフィードバックゲインとしてのゲインK1,K2が、前記した如く、二輪車1Aの現在の実際の走行速度(X軸方向の移動速度)の観測値としての走行速度推定値Vox_actと、前輪3fの現在の実際の操舵角の擬似的な推定値としての前回目標前輪操舵角δf_cmd_pとに応じて可変的に決定される。また、前輪3fの操舵角の制御に係わるフィードバックゲインとしてのゲインK3,K4とが、前記した如く走行速度推定値Vox_actに応じて可変的に決定される。
このため、二輪車1Aの停車時又は低速走行時等において、二輪車1Aの実際の倒立振子質点横移動量を素早く目標倒立振子質点横移動量Pb_diff_y_cmdに近づけるように前輪3fの操舵を行なうことができる。
また、二輪車1Aの走行速度が大きい状況では、前輪3fの操舵角が中立操舵角に保たれやすくなる。また、車体2が傾いても、二輪車1Aの実際の倒立振子質点横移動量を目標倒立振子質点横移動量Pb_diff_y_cmdに近づけるような、前輪3fの操舵制御が行われないか、もしくは、当該操舵制御が抑制される。ひいては、運転者は、通常の二輪車と同様に、自身の体重移動によって車体2を傾けるようにして二輪車1Aの旋回を行なうようにすることを容易に行なうことができる。
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態を図33〜図45を参照して説明する。
図33を参照して、本実施形態の移動体201Aは、図11に示した後輪操舵型二輪車201をより具体化した構造の二輪車である。本実施形態の説明においては、便宜上、移動体201Aの構成要素のうち、図11に示した後輪操舵型二輪車201と同一の機能の構成要素については、図11と同一の参照符号を使用する。
この移動体201A(以降、二輪車201Aという)は、車体202と、車体202の前後方向に間隔を存して配置された前輪203f及び後輪203rとを備える。
車体202の上面部には、運転者が跨るように着座するシート206が装着されている。
車体202の前部には、前輪203fを軸支する前輪支持機構204と、シート206に着座した運転者が把持するための操縦ハンドル207とが組み付けられている。
前輪支持機構204は、例えばダンパー等のサスペンション機構を含むフロントフォークにより構成される。その機構的な構造は、例えば通常の自動二輪車の前輪支持機構と同様の構造とされている。この前輪支持機構204の端部(車体202の前方側の端部)に、前輪203fが、その直径方向に直交する方向(図33の紙面に垂直な方向)に延在する車軸中心線Cf(前輪203fの回転軸線)のまわりに回転し得るようにベアリング等を介して軸支されている。
また、前輪支持機構204は、後傾した操舵軸線Csfのまわりに回転し得るように車体202の前部に組み付けられている。これにより、前輪203fは、前輪支持機構4と共に操舵軸線Csfのまわりに回転可能、すなわち操舵可能な操舵輪となっている。
操縦ハンドル207は、前輪203fの操舵軸線Csfのまわりに前輪支持機構204と一体に回転し得るように車体202の前部に組み付けられている。詳細な図示は省略するが、この操縦ハンドル207には、通常の自動二輪車のハンドルと同様に、アクセルグリップ、ブレーキレバー、方向指示器スイッチ等が組み付けられている。
車体202の後部は、後輪203rの上方まで延在されている。そして、この車体202の後端部に、後輪203rを回転自在に軸支する後輪支持機構205と、後輪203rを操舵するための駆動力を発生するアクチュエータ208とが組み付けられている。
後輪支持機構205は、スイングアーム、ダンパー等を含むサスペンション機構により構成され、車体202の後端部から下方側に延設されている。
そして、後輪支持機構205の下端部に、後輪203rが、その直径方向に直交する方向(図33の紙面に垂直な方向)に延在する車軸中心線Cr(後輪203rの回転軸線)のまわりに回転し得るようにベアリング等を介して軸支されている。
本実施形態では、後輪203rの車軸には、該後輪203rをその車軸中心線Crのまわりに回転駆動するアクチュエータ209が装着されている。アクチュエータ209は、二輪車201Aの推進力を発生する原動機としての機能を有するものである。このアクチュエータ209(以降、後輪駆動用アクチュエータ209ということがある)は、本実施形態では、電動モータ(減速機付きの電動モータ)により構成される。
なお、アクチュエータ209は、電動モータの代わりに、例えば油圧式のアクチュエータにより構成されていてもよい。あるいは、アクチュエータ209は内燃機関により構成されていてもよい。また、アクチュエータ209を後輪203rの車軸から離れた位置で車体202に搭載し、アクチュエータ209と後輪203rの車軸とを適宜の動力伝達装置で接続するようにしてもよい。
また、後輪支持機構205は、後傾した操舵軸線Csrのまわりに回転し得るように車体202に組み付けられている。これにより、後輪203rは、後輪支持機構205と共に操舵軸線Csrのまわりに回転可能、すなわち操舵可能な操舵輪となっている。そして、操舵軸線Csrが後傾しているので、後輪203rのキャスター角θcrは正の角度となっている。
この場合、本実施形態の二輪車201Aでは、その基準姿勢状態において、後輪203rの車軸中心点と接地点とを結ぶ直線と、操舵軸線Csrとの交点Er'が、図33に示す如く、接地面110よりも下側に存在するように、該基準姿勢状態における操舵軸線Csrと後輪203rとの相対的な配置が設定されている。このため、当該交点Er'の接地面110からの高さa’は負の値となっている。
なお、二輪車201Aの基準姿勢状態は、図11の二輪車201の基準姿勢状態と同様に、前輪203f及び後輪203rが接地面110に直立姿勢で接地して静止しており、且つ、前輪203f及び後輪203rのそれぞれの車軸中心線(回転軸心)Cf,Crが、車体202の前後方向と直交する方向に互いに平行に延在している状態である。
前記アクチュエータ208は、後輪203rの操舵を行なうための駆動力として、操舵軸線Csrのまわりに後輪203rを回転させる回転駆動力を発生するものである。このアクチュエータ208は、本実施形態では、電動モータ(減速機付きの電動モータ)により構成される。そして、アクチュエータ208(以降、後輪操舵用アクチュエータ208ということがある)は、操舵軸線Csrのまわりの回転駆動力を後輪支持機構205に付与するように、該後輪支持機構205に接続されている。
従って、後輪操舵用アクチュエータ208から後輪支持機構205に回転駆動力を付与することで、後輪支持機構205が操舵軸線Csrのまわりに後輪203rと共に回転駆動される。これにより、後輪203rが、後輪操舵用アクチュエータ208の回転駆動力によって操舵される。
なお、アクチュエータ208は、電動モータに限らず、例えば油圧式のアクチュエータにより構成されていてもよい。
二輪車201Aは、以上の機構的構成の他、図34に示すように、前記後輪操舵用アクチュエータ208及び後輪駆動用アクチュエータ209の動作制御(ひいては車体202の姿勢等の制御)のための制御処理を実行する制御装置215を備えている。
さらに、二輪車201Aは、制御装置215の制御処理に必要な各種状態量を検出するためのセンサとして、車体202のロール方向の傾斜角φbを検出するための車体傾斜検出器216と、前輪203fの操舵角δf(操舵軸線Csfまわりの回転角度)を検出するための前輪操舵角検出器217と、後輪203rの操舵角δr(操舵軸線Csrまわりの回転角度)を検出するための後輪操舵角検出器218と、前輪203fの回転速度(角速度)を検出するための前輪回転速度検出器219と、後輪203rの回転速度(角速度)を検出するための後輪回転速度検出器220と、操縦ハンドル207のアクセルグリップの操作量(回転量)に応じた検出信号を出力するアクセル操作検出器221とを備えている。
なお、後輪203rの操舵角δrは、より詳しくは、後輪203rの非操舵状態(後輪203rの車軸中心線Crの方向が車体202の前後方向と直交する方向(Y軸に平行な方向)となる状態)での操舵角(中立操舵角)からの回転角を意味する。従って、後輪203rの非操舵状態での操舵角δrは“0”である。このことは、前輪203fの操舵角δfについても同様である。
そして、後輪203rの操舵角δrの正の向きは、図11に示した二輪車201の場合と同様に、後輪203rの前端が車体2の左側に向くこととなる回転の向き(換言すれば、二輪車201Aを上方から見たときに後輪203rが操舵軸線Csr周りに反時計周り方向に回転する向き)である。このことは、前輪203fの操舵角δfについても同様である。
制御装置215は、CPU、RAM、ROM、インターフェース回路等から構成される電子回路ユニットであり、車体202に組み付けられている。そして、この制御装置215に、上記の各検出器216〜221の出力(検出信号)が入力されるようになっている。
なお、制御装置215は、複数のCPU又はプロセッサを備えていてもよい。また、制御装置215は、相互に通信可能な複数の電子回路ユニットにより構成されていてもよい。
車体傾斜検出器216は、例えば加速度センサとジャイロセンサ(角速度センサ)とから構成されており、車体202に組み付けられている。この場合、制御装置215は、これらの加速度センサ及びジャイロセンサの出力に基づいて演算処理を行うことで、車体202のロール方向の傾斜角(より詳しくは、鉛直方向(重力方向)に対するロール方向の傾斜角)を計測する。その計測手法としては、例えば特許4181113号にて本願出願人が提案した手法を採用することができる。
前輪操舵角検出器217は、例えば、前記操舵軸線Csf上で前輪支持機構204(又は操縦ハンドル207)の回転軸に装着されたロータリエンコーダにより構成される。
後輪操舵角検出器218は、例えば、前記操舵軸線Csr上で後輪操舵用アクチュエータ208に装着されたロータリエンコーダにより構成される。
前輪回転速度検出器219は、例えば、前輪203fの車軸に装着されたロータリエンコーダにより構成される。
後輪回転速度検出器220は、例えば、後輪203rの車軸に装着されたロータリエンコーダにより構成される。
アクセル操作検出器221は、例えば、操縦ハンドル207に内蔵されたロータリエンコーダあるいはポテンショメータにより構成される。
上記制御装置215の機能について、図35を参照してさらに説明する。なお、以降の説明におけるXYZ座標系は、図11の二輪車201の場合と同様に、二輪車201Aの基準姿勢状態において、鉛直方向(上下方向)をZ軸方向、車体202の前後方向をX軸方向、車体202の左右方向をY軸方向、二輪車201Aの全体重心Gの直下の接地面110上の点を原点として定義される座標系である(図33を参照)。
制御装置215は、実装されたプログラムをCPUが実行することにより実現される機能(ソフトウェアにより実現される機能)又はハードウェアにより実現される機能として、図35に示すように、二輪車201Aの倒立振子質点123(=第1質点123)のY軸方向(車体202の左右方向)の移動量である倒立振子質点横移動量Pb_diff_yの実際の値Pb_diff_y_actの推定値(以降、倒立振子質点横移動量推定値Pb_diff_y_actという)を算出する倒立振子質点横移動量推定値算出部231と、倒立振子質点123のY軸方向(車体202の左右方向)の並進速度である倒立振子質点横速度Vbyの実際の値Vby_actの推定値(以降、倒立振子質点横速度推定値Vby_actという)を算出する倒立振子質点横速度推定値算出部232と、二輪車201Aの走行速度Voxの実際の値Vox_actの推定値(以降、走行速度推定値Vox_actという)を算出する走行速度推定値算出部233と、倒立振子質点横移動量Pb_diff_yの目標値Pb_diff_y_cmd(以降、目標倒立振子質点横移動量Pb_diff_y_cmdという)と倒立振子質点横速度Vbyの目標値Vby_cmd(以降、目標倒立振子質点横速度Vby_cmdという)を決定する目標姿勢状態決定部234と、車体202の姿勢制御のための複数のゲインK1,K2,K3,K4の値を決定する制御ゲイン決定部235と、後輪203rの回転移動速度Vr(後輪203rが接地面110上を転動することによる該後輪203rの並進移動速度)の目標値Vr_cmd(以降、目標後輪回転移動速度Vr_cmdという)を決定する目標後輪回転移動速度決定部236とを備える。
さらに、制御装置215は、車体202の姿勢制御のための演算処理を実行することによって、後輪203rの操舵角δrの目標値δr_cmd(以降、目標後輪操舵角δr_cmdという)、該操舵角δrの時間的変化率である操舵角速度δr_dotの目標値δr_dot_cmd(以降、目標後輪操舵角速度δr__dot_cmdという)及び該操舵角速度δr_dotの時間的変化率である操舵角加速度δr_dot2の目標値δr_dot2_cmd(以降、目標後輪操舵角加速度δr_dot2_cmdという)を決定する姿勢制御演算部237を備える。
制御装置215は、上記各機能部の処理を所定の制御処理周期で逐次実行する。そして、制御装置215は、姿勢制御演算部237により決定した目標後輪操舵角δr_cmd、目標後輪操舵角速度δr_dot_cmd及び目標後輪操舵角加速度δr_dot2_cmdに応じて後輪操舵用アクチュエータ208を制御する。
また、制御装置215は、目標後輪回転移動速度決定部236により決定した目標後輪回転移動速度Vr_cmdに応じて後輪駆動用アクチュエータ209を制御する。
以下に、制御装置215の制御処理の詳細を説明する。
制御装置215は、各制御処理周期において、まず、倒立振子質点横移動量推定値算出部231の処理を実行する。なお、本実施形態における倒立振子質点横移動量推定値算出部231の処理のアルゴリズムは、一例として、二輪車201Aの動力学的な挙動が、図11の二輪車201のように、二輪車201Aの車体202だけに質点及び慣性モーメントを設定してなる系を、図2(b)に示した前記第1質点123(倒立振子質点)と第2質点124とからなる系に等価変換した場合に得られる動力学的な挙動により表現されるものとして構築されている。
倒立振子質点横移動量推定値算出部231には、図35に示すように、車体202のロール角(X軸まわり方向(ロール方向)の傾斜角)φbの実際の値φb_actの検出値(以降、ロール角検出値φb_actという)と、前輪203fの操舵角δfの実際の値δf_actの検出値(以降、前輪操舵角検出値δf_actという)と、後輪203rの操舵角δrの実際の値δr_actの検出値(以降、後輪操舵角検出値δr_actという)とが入力される。
上記ロール角検出値φb_actは、車体傾斜検出器216の出力により示される検出値(観測値)、前輪操舵角検出値δf_actは、前輪操舵角検出器217の出力により示される検出値(観測値)、後輪操舵角検出値δr_actは、後輪操舵角検出器218の出力により示される検出値(観測値)である。
ここで、二輪車201Aの車体202だけに質点及び慣性モーメントを設定して、該二輪車201Aの動力学的な挙動が、第1質点123(倒立振子質点)及び第2質点124からなる質点系の挙動によって表現されるものとした場合、前述のごとく、第1質点123と第2質点124は、車体202の対称面(車体202が左右対称であるとみなしたときの対称面)上に存在するので、第1質点123と第2質点124を結ぶ線分のロール方向の傾斜は、二輪車201Aの車体202のロール方向の傾斜に相当する。
従って、二輪車201Aの車体202のロール方向の傾斜角φbが十分に小さい場合、第1質点123のY軸方向の移動量と第2質点124のY軸方向の移動量との差は、二輪車201Aの車体202のロール方向の傾斜角φbに第1質点123の高さh’を乗じた値になる。
また、本実施形態の二輪車201Aでは、前輪203f及び後輪203rの両方が操舵輪であるので、第2質点124のY軸方向の移動量qは、前輪203fの操舵角δfと後輪203rの操舵角δrとから一義的に定まる量である。
よって、倒立振子質点としての第1質点123のY軸方向の移動量は、二輪車201Aの車体202のロール方向の傾斜に起因する成分と前輪203fの操舵角δfに起因する成分と後輪203rの操舵角δrに起因する成分との和になる。
倒立振子質点横移動量推定値算出部231は、この関係を用いて、上記ロール角検出値φb_actと前輪操舵角検出値δf_actと後輪操舵角検出値δr_actとを基に、倒立振子質点横移動量推定値Pb_diff_y_actを算出するものである。
具体的には、倒立振子質点横移動量推定値算出部231は、図36のブロック線図で示す処理によって、倒立振子質点横移動量推定値Pb_diff_y_actを算出する。
この処理は、車体202のロール方向の傾斜に起因して生じる倒立振子質点123のY軸方向の実際の移動量の推定値としての第1の横移動量成分推定値Pb_diff_y_act_1と、前輪203fの操舵に起因して生じる倒立振子質点123のY軸方向の実際の移動量の推定値としての第2の横移動量成分推定値Pb_diff_y_act_2と、後輪203rの操舵に起因して生じる倒立振子質点123のY軸方向の実際の移動量の推定値としての第3の横移動量成分推定値Pb_diff_y_act_3とを加え合わせることによって、倒立振子質点横移動量推定値Pb_diff_y_actを算出するように構成されている。
図36において、処理部231−1は、上記第1の横移動量成分推定値Pb_diff_y_act_1を求める処理部、処理部231−2は、上記第2の横移動量成分推定値Pb_diff_y_act_2を求める処理部、処理部231−3は、上記第3の横移動量成分推定値Pb_diff_y_act_3を求める処理部、処理部231−4は、第1の横移動量成分推定値Pb_diff_y_act_1と第2の横移動量成分推定値Pb_diff_y_act_2と第3の横移動量成分推定値Pb_diff_y_act_3とを加え合わせる処理部を表している。
上記処理部231−1は、現在時刻でのロール角検出値φb_actに応じて第1の横移動量成分推定値Pb_diff_y_act_1を決定する。具体的には、処理部231−1は、ロール角検出値φb_act([rad]の単位での角度値)に倒立振子質点123の高さh’(=c+h)の(−1)倍を乗じることによって、第1の横移動量成分推定値Pb_diff_y_act_1(=φb_act*(−h’))を算出する。
従って、第1の横移動量成分推定値Pb_diff_y_act_1は、車体202のロール角φbに対する線形な関数値(φbの定数倍の値)として、ロール角検出値φb_actに応じて算出される。また、Pb_diff_y_act_1は、φb_act=0となる状態(車体202が右側又は左側に傾いていない状態)でゼロとなるので、当該状態での倒立振子質点123の位置を基準とするY軸方向の移動量である。
なお、処理部231−1の算出処理では、近似的に、sin(φb_act)≒φb_actとされている。また、h’(又はc,hの値)は、二輪車201Aにおいて、あらかじめ設定された値であり、制御装置215のメモリに記憶保持されている。その値は、例えば、二輪車201Aの基準姿勢状態での全体重心Gの高さhと、二輪車201Aの全体イナーシャI(全体重心Gを通って、Y軸方向に平行な軸まわりの慣性モーメント)と、二輪車201Aの全質量mとから、前記式(5b)の関係(c(=h’−h)=I/(m*h)という関係)を満たすように設定されている。
ただし、h’の値は、各種実験、シミュレーション等を基に、最適な制御特性が得られるように、上記式(5b)の関係を満たす値に概ね近似する値に設定してもよい。
図36の処理部231−2は、現在時刻での前輪操舵角検出値δf_actに応じて第2の横移動量成分推定値Pb_diff_y_act_2を決定する。具体的には、処理部231−2は、現在時刻での前輪操舵角検出値δf_actから、あらかじめ設定された変換関数Plfy(δf)によって、前記第2の横移動量成分推定値Pb_diff_y_act_2(=Plfy(δf_act))を求める。すなわち処理部231−2は、δf_actに応じた変換関数Plfy(δf)の値Plfy(δf_act)を求め、この値を前記第2の横移動量成分推定値Pb_diff_y_act_2として決定する。
上記変換関数Plfy(δf)は、例えばマップもしくは演算式により構成される。この変換関数Plfy(δf)は、図36中の処理部231−2に記載したグラフで例示されるように、Plfy(δf)が、前輪203fの操舵角δfの増加に対して単調に変化し(本実施形態では、単調に増加する)、且つ、前輪203fの操舵角δfの大きさ(絶対値)が比較的大きなものとなる領域では、操舵角δfの大きさが小さいものとなる領域(δfがゼロに近い領域)よりも、操舵角δfに対するPlfy(δf)の変化率(δfの単位増加量に対するPlfy(δf)の変化量)の大きさが、相対的に小さくなるようにあらかじめ設定された非線形関数である。
従って、第2の横移動量成分推定値Pb_diff_y_act_2は、前輪203fの操舵角δfに対する非線形な関数値として、前輪操舵角検出値δf_actに応じて決定される。
図36の処理部231−3は、現在時刻での後輪操舵角検出値δr_actに応じて第3の横移動量成分推定値Pb_diff_y_act_3を決定する。具体的には、処理部231−3は、現在時刻での後輪操舵角検出値δr_actから、あらかじめ設定された変換関数Plry(δr)によって、前記第3の横移動量成分推定値Pb_diff_y_act_3(=Plry(δr_act))を求める。すなわち、処理部231−3は、δr_actに応じた変換関数Plry(δr)の値Plry(δr_act)を求め、この値を前記第3の横移動量成分推定値Pb_diff_y_act_3として決定する。
上記変換関数Plry(δr)は、例えばマップもしくは演算式により構成される。この変換関数Plry(δr)は、図36中の処理部231−3に記載したグラフで例示されるように、Plry(δr)が、後輪203rの操舵角δrの増加に対して単調に変化し(本実施形態では、単調に減少する)、且つ、後輪203rの操舵角δrの大きさ(絶対値)が比較的大きなものとなる領域では、操舵角δrの大きさが小さいものとなる領域(δrがゼロに近い領域)よりも、操舵角δrに対するPlry(δr)の変化率(δrの単位増加量に対するPlry(δr)の変化量)の大きさが、相対的に小さくなるようにあらかじめ設定された非線形関数である。
従って、第3の横移動量成分推定値Pb_diff_y_act_3は、後輪203rの操舵角δrに対する非線形な関数値として、後輪操舵角検出値δr_actに応じて算出される。
倒立振子質点横移動量推定値算出部231は、上記の如く算出した第1の横移動量成分推定値Pb_diff_y_act_1と第2の横移動量成分推定値Pb_diff_y_act_2と第3の横移動量成分推定値Pb_diff_y_act_3とを処理部231−4において加え合せることにより、倒立振子質点横移動量推定値Pb_diff_y_actを決定する。
従って、倒立振子質点横移動量推定値Pb_diff_y_actは、次式(71)により決定される。
Pb_diff_y_act=Pb_diff_y_act_1+Pb_diff_y_act_2+Pb_diff_y_act_3
=φb_act*(−h’)+Plfy(δf_act)+Plry(δr_act) ……(71)
上記式(71)の右辺第1項が、ロール角検出値φb_actに対して線形な項、右辺第2項が、前輪操舵角検出値δf_actに対して非線形な項、右辺第3項が、後輪操舵角検出値δr_actに対して非線形な項である。
なお、前輪203fの実際の操舵角δf_actに応じた前記変換関数Plfy(δf)の値Plfy(δf_act)の大きさが十分に小さい場合(δf_actの大きさが小さい場合)は、式(71)の右辺の第2項は無視してもよい。
同様に、後輪203rの実際の操舵角δr_actに応じた前記変換関数Plry(δr)の値Plry(δr_act)の大きさが十分に小さい場合(δr_actの大きさが小さい場合)は、式(71)の右辺の第3項は無視してもよい。
さらに、Plfy(δf_act),Plry(δr_act)の両方の大きさが十分に小さい場合には、倒立振子質点横移動量推定値Pb_diff_y_actの代わりに、車体202のロール角検出値φb_actを用いてもよい。このようにした場合には、倒立振子質点横移動量推定値算出部231の処理が不要となり、制御装置215の演算負荷を低減できる。
制御装置215は、次に、倒立振子質点横速度推定値算出部232の処理を実行する。
倒立振子質点横速度推定値算出部232には、図35に示すように、倒立振子質点横移動量推定値算出部231で算出された倒立振子質点横移動量推定値Pb_diff_y_actと、前輪操舵角検出値δf_actと、前輪203fの回転移動速度Vfの実際の値Vf_actの推定値(以降、前輪回転移動速度推定値Vf_actという)と、後輪操舵角検出値δr_actと、後輪203rの回転移動速度Vrの実際の値Vr_actの推定値(以降、後輪回転移動速度推定値Vr_actという)とが入力される。
なお、前輪回転移動速度推定値Vf_actは、前記前輪回転速度検出器219の出力により示される前輪203fの回転角速度の検出値(観測値)に該前輪203fの既定の有効回転半径を乗じることで算出される速度である。同様に、後輪回転移動速度推定値Vr_actは、前記後輪回転速度検出器220の出力により示される後輪203rの回転角速度の検出値(観測値)に該後輪203rの既定の有効回転半径を乗じることで算出される速度である。
そして、倒立振子質点横速度推定値算出部232は、図37のブロック線図で示す処理によって、倒立振子質点横速度推定値Vby_actを算出する。
この処理は、二輪車201Aに対して前記の如く設定されるXYZ座標系の原点から見た倒立振子質点123のY軸方向の実際の移動速度(原点に対する相対移動速度)の推定値としての第1の横速度成分推定値Vby_act_1と、前輪203fが操舵中である場合(前輪203fの実際の操舵角が“0”でない場合)の前輪203fの転動に伴う二輪車201Aの並進移動に起因して生じる倒立振子質点123のY軸方向の実際の移動速度(=XYZ座標系の原点の移動速度)の推定値としての第2の横速度成分推定値Vby_act_2と、後輪203rが操舵中である場合(後輪203rの実際の操舵角が“0”でない場合)の後輪203rの転動に伴う二輪車201Aの並進移動に起因して生じる倒立振子質点123のY軸方向の実際の移動速度(=XYZ座標系の原点の移動速度)の推定値としての第3の横速度成分推定値Vby_act_3とを加え合わせることによって、倒立振子質点横速度推定値Vby_actを算出するように構成されている。
図37において、処理部232−1は、上記第1の横速度成分推定値Vby_act_1を求める処理部、処理部232−2は、上記第2の横速度成分推定値Vby_act_2を求める処理部、処理部232−3は、上記第3の横速度成分推定値Vby_act_3を求める処理部、処理部232−4は、第1の横速度成分推定値Vby_act_1と第2の横速度成分推定値Vby_act_2と第3の横速度成分推定値Vby_act_3とを加え合わせる処理部を表している。
上記処理部232−1は、倒立振子質点横移動量推定値算出部231により逐次算出される倒立振子質点横移動量推定値Pb_diff_y_actの現在時刻での時間的変化率Pb_diff_y_dot_act(単位時間当たりの変化量)を、第1の横速度成分推定値Vby_act_1として算出する。すなわち、処理部232−1は、Pb_diff_y_actの微分値Pb_diff_y_dot_actを、Vby_act_1として算出する。
また、処理部232−2は、処理部232−2−1において、現在時刻での前輪操舵角検出値δf_actに前輪203fのキャスター角θcfの余弦値cos(θcf)を乗じることによって、ヨー方向での前輪203fの回転角に相当する前輪有効操舵角δ'fの実際の値δ'f_actの推定値(以降、前輪有効操舵角推定値δ'f_actという)を算出する。
補足すると、前輪有効操舵角δ'fは、操舵輪である前輪203fの回転面(前輪203fの車軸中心点を通って車軸中心線Cfに直交する面)と接地面110との交線が、車体202の前後方向(X軸方向)に対してなす角度である。
そして、前輪有効操舵角推定値δ'f_actは、車体202のロール角φbが比較的小さい場合に、近似的に、次式(72a)によって算出することができる。上記処理部232−2−1の処理は、この式(72a)によって、δ'f_actを近似的に算出する処理である。
δ'f_act=cos(θcf)*δf_act ……(72a)
なお、δ'f_actの精度をより高めるために、δf_actからマップによりδ'f_actを求めるようにしてもよい。あるいは、δ'f_actの精度をより一層高めるために、δf_actとロール角検出値φb_actとからマップ(2次元マップ)等によりδ'f_actを求めるようにしてもよい。
処理部232−2は、さらに、処理部232−2−2及び処理部232−2−3において、上記前輪有効操舵角推定値δ'f_actの正弦値sin(δ’f_act)に、現在時刻での前輪回転移動速度推定値Vf_actを乗算することで、前輪203fの接地部分のY軸方向の移動速度(換言すれば、Vf_actのY軸方向成分)を算出する。
さらに、処理部232−2は、処理部232−2−4において、処理部232−2−3の算出結果の値に(Lr/L)(ただし、L=Lf+Lr)を乗じることによって、第2の横速度成分推定値Vby_act_2(=Vf_act*sin(δ’f_act)*(Lr/L))を求める。
なお、この処理における上記Lr、Lfの意味は、図11の二輪車201の場合と同じである。すなわち、Lrは、二輪車201Aの基準姿勢状態での全体重心Gと、後輪203rの接地点とのX軸方向の距離、Lfは、二輪車201Aの基準姿勢状態での全体重心Gと後輪203rの接地点とのX軸方向の距離である。
これらのLr、Lfの値およびキャスター角θcfは、二輪車201Aにおいて、あらかじめ設定された値であり、制御装置215のメモリに記憶保持されている。
また、処理部232−3は、処理部232−3−1において、現在時刻での後輪操舵角検出値δr_actに後輪203rのキャスター角θcrの余弦値cos(θcr)を乗じることによって、ヨー方向での後輪203rの回転角に相当する後輪有効操舵角δ'rの実際の値δ'r_actの推定値(以降、後輪有効操舵角推定値δ'r_actという)を算出する。
補足すると、後輪有効操舵角δ'rは、操舵輪である後輪203rの回転面(後輪203rの車軸中心点を通って車軸中心線Crに直交する面)と接地面110との交線が、車体202の前後方向(X軸方向)に対してなす角度である。
そして、後輪有効操舵角推定値δ'r_actは、車体202のロール角φbが比較的小さい場合に、近似的に、次式(72b)によって算出することができる。上記処理部232−3−1の処理は、この式(72b)によって、δ'r_actを近似的に算出する処理である。
δ'r_act=cos(θcr)*δr_act ……(72b)
なお、δ'r_actの精度をより高めるために、δr_actからマップによりδ'r_actを求めるようにしてもよい。あるいは、δ'r_actの精度をより一層高めるために、δr_actとロール角検出値φb_actとからマップ(2次元マップ)等によりδ'r_actを求めるようにしてもよい。
処理部232−3は、さらに、処理部232−3−2及び処理部232−3−3において、上記後輪有効操舵角推定値δ'r_actの正弦値sin(δ’r_act)に、現在時刻での後輪回転移動速度推定値Vr_actを乗算することで、後輪203rの接地部分のY軸方向の移動速度(換言すれば、Vr_actのY軸方向成分)を算出する。
さらに、処理部232−3は、処理部232−3−4において、処理部232−3−3の算出結果の値に(Lf/L)(ただし、L=Lf+Lr)を乗じることによって、第3の横速度成分推定値Vby_act_3(=Vr_act*sin(δ’r_act)*(Lf/L))を求める。
なお、処理部232−3の処理に用いるキャスタ角θcrの値も、Lf,Lr,θcfの値と同様に、二輪車201Aにおいて、あらかじめ設定された値であり、制御装置215のメモリに記憶保持されている。
倒立振子質点横速度推定値算出部232は、上記の如く算出した第1の横速度成分推定値Vby_act_1と、第2の横速度成分推定値Vby_act_2と、第3の横速度成分推定値Vby_act_3とを処理部232−4において加え合わせることにより、倒立振子質点横速度推定値Vby_actを算出する。
従って、倒立振子質点横速度推定値Vby_actは、次式(73)により算出される。
Vby_act=Vby_act_1+Vby_act_2+Vby_act_3
=Pb_diff_y_dot_act+Vf_act*sin(δ'f_act)*(Lr/L)
+Vr_act*sin(δ'r_act)*(Lf/L)
=Pb_diff_y_dot_act+Vf_act*sin(δf_act*cos(θcf))*(Lr/L)
+Vr_act*sin(δr_act*cos(θcr))*(Lf/L)
……(73)
なお、前輪3fの実際の操舵角δf_actに応じた前記変換関数Plfy(δf),Plry(δr)の値の大きさが十分に小さい場合(δf_act,δr_actの大きさが小さい場合)には、式(73)に用いるPb_diff_y_dot_actとして、式(71)において右辺の第2項と第3項を無視することによって得られるPb_diff_y_actの値の微分値を採用してもよい。すなわち、式(73)において、Pb_diff_y_dot_actの代わりに、車体202のロール角検出値φb_actの微分値の(−h’)倍の値、又は、車体202のロール角速度(ロール角の時間的変化率)の検出値の(−h’)倍の値を用いてもよい。このようにした場合には、制御装置215の演算負荷を低減できる。
制御装置215は、次に、走行速度推定値算出部233の処理を実行する。
図35に示すように、この走行速度推定値算出部233には、前記後輪回転移動速度推定値Vr_actと、前記後輪操舵角検出値δr_actとが入力される。
そして、走行速度推定値算出部233は、図38のブロック線図で示す処理によって、走行速度推定値Vox_actを算出する。
図38において、処理部233−1は、現在時刻での後輪操舵角検出値δr_actに後輪203rのキャスター角θcrの余弦値を乗じることによって(すなわち、前記式(72b)により)、前記倒立振子質点横速度推定値算出部232の処理部232−2に関して説明した後輪有効操舵角推定値δ'r_actを求める処理部、処理部233−2は、この後輪有効操舵角推定値δ'r_actの余弦値cos(δ’r_act)を求める処理部、処理部233−3は、現在時刻での後輪回転移動速度推定値Vr_actに上記余弦値cos(δ’r_act)を乗じることによって走行速度推定値Vox_actを算出する処理部を表している。
従って、走行速度推定値算出部233は、δ'r_actの余弦値cos(δ’r_act)を、Vr_actに乗じることによって、Vox_actを算出するように構成されている。すなわち、Vox_actは、次式(74b)により算出される。
Vox_act=Vr_act*cos(δ'r_act)
=Vr_act*cos(δr_act*cos(θcr)) ……(74b)
このように算出される走行速度推定値Vox_actは、後輪回転移動速度推定値Vr_actのX軸方向成分に相当する。
なお、走行速度推定値Vox_actは,前記式(72a)により算出される前輪有効操舵角推定値δ'f_actの余弦値cos(δ’f_act)を、前輪回転移動速度推定値Vf_actに乗じることによって、Vox_actを算出するようにしてもよい。すなわち、すなわち、次式(74a)によりVox_actを算出してもよい。
Vox_act=Vf_act*cos(δ'f_act)
=Vf_act*cos(δf_act*cos(θcf)) ……(74a)
また、Vox_actの算出処理では、後輪有効操舵角推定値δ'r_act(又は、前輪有効操舵角推定値δ'f_act)は、倒立振子質点横速度推定値算出部232により算出された値をそのまま使用してもよい。その場合には、走行速度推定値算出部233に後輪操舵角検出値δr_act(又は、前輪有効操舵角推定値δ'f_act)を入力する必要は無いと共に、処理部233−1は不要である。
また、現在時刻での後輪操舵角検出値δr_act及び後輪回転移動速度推定値Vr_actの代わりに、それぞれ、前回の制御処理周期において後述する姿勢制御演算部237により算出された目標後輪操舵角δr_cmdの値(前回値)δr_cmd_p、前回の制御処理周期において後述する目標後輪回転移動速度決定部236により算出された目標後輪回転移動速度Vr_cmdの値(前回値)Vr_cmd_pを使用して、前記式(74b)の右辺の演算と同様の演算を行なうことで算出される値(=Vr_cmd_p*cos(δr_cmd_p*cos(θcr)))を、走行速度推定値Vox_actの代わりの擬似的な推定値(代用的な観測値)として得るようにしてもよい。
また、走行速度推定値Vox_actの代わりの擬似的な推定値(代用的な観測値)を得る際に、現在時刻での後輪操舵角検出値δr_actの代わりにδr_cmd_pを使用し、前輪回転移動速度推定値Vf_actはそのまま使用してもよい。逆に、現在時刻での前輪回転移動速度推定値Vf_actの代わりにVf_cmd_pを使用し、後輪操舵角検出値δr_actはそのまま使用してもよい。
制御装置215は、次に、目標後輪回転移動速度決定部236の処理を実行する。
目標後輪回転移動速度決定部236には、図35に示すように、前記アクセル操作検出器221の出力により示されるアクセル操作量の実際の値の検出値が入力される。
そして、目標後輪回転移動速度決定部236は、図42のブロック線図に示す処理、すなわち、処理部236−1の処理によって、目標後輪回転移動速度Vr_cmdを決定する。
処理部236−1は、現在時刻でのアクセル操作量の検出値から、あらかじめ設定された変換関数によって、目標後輪回転移動速度Vr_cmdを決定する。
上記変換関数は、例えばマップもしくは演算式により構成される関数である。この変換関数は、基本的には、該変換関数により決定されるVr_cmdが、アクセル操作量の増加に対して単調増加するように設定されている。
例えば図42中のグラフで例示するような傾向で、該変換関数が設定されている。この場合、アクセル操作量の検出値が、ゼロから所定の第1アクセル操作量A1までの不感帯の範囲内(ゼロ近辺の範囲内)の値であるときには、処理部236−1は、Vr_cmdをゼロに決定する。
また、アクセル操作量の検出値が、第1アクセル操作量A1から所定の第2アクセル操作量A2(>A1)までの範囲内の値であるときには、処理部236−1は、アクセル操作量の増加に対して、Vr_cmdが単調に増加すると共に、Vr_cmdの増加率(アクセル操作量の単位増加量当たりのVr_cmdの増加量)が滑らかに大きくなるように、Vr_cmdを決定する。
また、アクセル操作量の検出値が、第2アクセル操作量A2から所定の第3アクセル操作量A3(>A2)までの範囲内の値であるときには、処理部236−1は、Vr_cmdがアクセル操作量の増加に対して、一定の増加率で単調に増加していくように、Vr_cmdを決定する。
さらに、アクセル操作量の検出値が、第3アクセル操作量A3を超えると、処理部236−1は、Vr_cmdを一定値(A3に対応する値)に維持するように決定する。
制御装置215は、次に、制御ゲイン決定部235の処理を実行する。制御ゲイン決定部235には、図35に示すように、制御装置215の前回の制御処理周期で姿勢制御演算部237により決定された目標後輪操舵角δr_cmdの値(前回値)である前回目標後輪操舵角δr_cmd_pが遅延要素238を介して入力されると共に、今回の制御処理周期で走行速度推定値算出部233により算出された走行速度推定値Vox_actが入力される。
そして、制御ゲイン決定部235は、例えば図39のブロック線図で示す処理によって、車体202の姿勢制御のための複数のゲインK1,K2,K3,K4の値を決定する。
その詳細は後述するが、各ゲインK1,K2,K3,K4の値は、δr_cmd_pと、Vox_actとに応じて、又はVox_actに応じて可変的に決定される。
制御装置215は、次に、目標姿勢状態決定部234の処理を実行する。目標姿勢状態決定部234は、倒立振子質点横移動量Pb_diff_yの目標値である目標倒立振子質点横移動量Pb_diff_y_cmdと、倒立振子質点横速度Vbyの目標値である目標倒立振子質点横速度Vby_cmdとを決定する。本実施形態では、目標姿勢状態決定部234は、一例として、Pb_diff_y_cmdとVby_cmdとを共にゼロに設定する。
制御装置215は、次に、姿勢制御演算部237の処理を実行する。この姿勢制御演算部237には、図35に示すように、目標姿勢状態決定部234で決定された目標倒立振子質点横移動量Pb_diff_y_cmd及び目標倒立振子質点横速度Vby_cmdと、倒立振子質点横移動量推定値算出部231で算出された倒立振子質点横移動量推定値Pb_diff_y_actと、倒立振子質点横速度推定値算出部232で算出された倒立振子質点横速度推定値Vby_actと、制御ゲイン決定部235で決定されたゲインK1,K2,K3,K4とが入力される。
姿勢制御演算部237は、上記の入力値を用いて、図43のブロック線図に示す処理を実行することによって、目標後輪操舵角δr_cmdと、目標後輪操舵角速度δr_dot_cmdと、目標後輪操舵角加速度δr_dot2_cmdとを決定する。
図43において、処理部237−1は、Pb_diff_y_cmdとPb_diff_y_actとの偏差を求める処理部、処理部237−2は、処理部237−1の出力にゲインK1を乗じる処理部、処理部237−3は、Vby_cmdとVby_actとの偏差を求める処理部、処理部237−4は、処理部237−3の出力にゲインK2の乗じる処理部、処理部237−5は、δr_cmd_pにゲインK3を乗じる処理部、処理部237−6は、前回の制御処理周期で姿勢制御演算部237が決定した目標後輪操舵角速度δr_dot_cmdの値である前回目標後輪操舵角速度δr_dot_cmd_pにゲインK4を乗じる処理部、処理部237−7は処理部237−2,237−4のそれぞれの出力と、処理部237−5,237−6のそれぞれの出力の(−1)倍の値とを加え合わせることによって目標後輪操舵角加速度δr_dot2_cmdを算出する処理部を表している。
また、処理部237−8は、処理部237−7の出力を積分することにより目標後輪操舵角速度δr_dot_cmdを求める処理部、処理部237−9は、前回の制御処理周期での処理部237−8の出力(すなわち、前回目標後輪操舵角速度δr_dot_cmd_p)を処理部237−6に出力する遅延要素、処理部237−10は、処理部237−8の出力を積分することにより目標後輪操舵角δr_cmdを求める処理部、処理部237−11は、前回の制御処理周期での処理部237−10の出力(すなわち、前回目標後輪操舵角δr_cmd_p)を処理部237−5に出力する遅延要素を表している。
従って、姿勢制御演算部237は、次式(75)により、目標後輪操舵角加速度δr_dot2_cmdを算出する。
δr_dot2_cmd=K1*(Pb_diff_y_cmd−Pb_diff_y_act)
+K2*(Vby_cmd−Vby_act)
−K3*δr_cmd_p−K4*δr_dot_cmd_p ……(75)
上記式(75)において、K1*(Pb_diff_y_cmd−Pb_diff_y_act)は、偏差(Pb_diff_y_cmd−Pb_diff_y_act)を“0”に近づける機能を有するフィードバック操作量、K2*(Vby_cmd−Vby_act)は、偏差(Vby_cmd−Vby_act)を“0”に近づける機能を有するフィードバック操作量、−K3*δr_cmd_pは、δr_cmdを“0”に近づける機能を有するフィードバック操作量、−K4*δr_dot_cmd_pは、δr_dot_cmdを“0”に近づける機能を有するフィードバック操作量である。
そして、姿勢制御演算部237は、上記式(75)により決定したδr_dot2_cmdを積分することにより、目標後輪操舵角速度δr_dot_cmdを決定する。さらに、姿勢制御演算部237は、このδr_dot_cmdを積分することにより、目標後輪操舵角δr_cmdを決定する。
なお、式(75)の演算で用いるδr_cmd_p、δr_dot_cmd_pは、それぞれ、現在時刻での後輪203rの実際の操舵角、操舵角速度の擬似的な推定値(代用的な観測値)としての意味を持つものである。従って、δr_cmd_pの代わりに、現在時刻での後輪操舵角検出値δr_actを使用してもよい。また、δr_dot_cmd_pの代わりに、前記後輪操舵角検出器218の出力に基づく後輪操舵角速度検出値δr_dot_act(後輪203rの実際の操舵角速度の検出値)を使用してもよい。
以上が姿勢制御演算部237の処理である。
この姿勢制御演算部237の処理によって、目標後輪操舵角加速度δr_dot2_cmdは、基本的には、二輪車201Aの実際の倒立振子質点横移動量(倒立振子質点横移動量推定値Pb_diff_y_act)が目標倒立振子質点横移動量Pb_diff_y_cmdからずれた状態、あるいは、二輪車201Aの実際の倒立振子質点横速度(倒立振子質点横速度推定値Vby_act)が目標倒立振子質点横速度Vby_cmdからずれた状態では、それらのずれを、後輪203rの操舵角δrを操作することによって解消するように(ひいては、実際の二輪車201Aの倒立振子質点横移動量を目標倒立振子質点横移動量Pb_diff_y_cmdに復元させるように)決定される。
また、目標倒立振子質点横移動量Pb_diff_y_cmdが本実施形態では“0”であるので、二輪車201Aの実際の倒立振子質点横移動量が目標倒立振子質点横移動量Pb_diff_y_cmdに一致もしくはほぼ一致する値に保持されている状態では、目標後輪操舵角加速度δr_dot2_cmdは、後輪203rの実際の操舵角を“0”もしくはほぼ“0”に保持するように決定される。
ここで、前記式(75)の演算によりδr_dot2_cmdを算出する場合に用いるゲインK1〜K4(式(75)の右辺の各フィードバック操作量に係わるフィードバックゲイン)は、前記制御ゲイン決定部235で決定されるものである。そこで、以下に、制御ゲイン決定部235の処理を詳細に説明する。
制御ゲイン決定部235は、入力される走行速度推定値Vox_actと、前回目標後輪操舵角δr_cmd_pとから図39のブロック線図で示す処理によって、ゲインK1〜K4の値を決定する。
図39において、処理部235−1は、Vox_actとδr_cmd_pとに応じてゲインK1を決定する処理部、処理部235−2は、Vox_actとδr_cmd_pとに応じてゲインK2を決定する処理部である。
本実施形態では、処理部235−1は、Vox_actとδr_cmd_pとから、あらかじめ設定された2次元マップ(2変数の変換関数)によりゲインK1を決定する。同様に、処理部235−2は、Vox_actとδr_cmd_pとから、あらかじめ設定された2次元マップ(2変数の変換関数)によりゲインK2を決定する。
これらの2次元マップは、Vox_actとδr_cmd_pとに対するゲインK1の値の変化の傾向と、Vox_actとδr_cmd_pとに対するゲインK2の値の変化の傾向とが、概ね同様の傾向で設定されている。
具体的には、処理部235−1,235−2のそれぞれの2次元マップは、図39中の処理部235−1,235−2に記載したグラフで例示されるように、該2次元マップにより決定されるゲインK1,K2の大きさが、δr_cmd_pを任意の値に固定した場合にVox_actの増加に対して単調減少する傾向を持つように設定されている。
従って、二輪車201Aの車体202のロール方向の姿勢を安定化させる(倒立振子質点横移動量推定値Pb_diff_y_actと、倒立振子質点横速度推定値Vby_actとをそれぞれPb_diff_y_cmd、Vby_cmdに収束させる)機能を有するフィードバック操作量に係るフィードバックゲインとしてのゲインK1,K2は、二輪車201Aの実際の走行速度(走行速度推定値Vox_act)が大きくなるに伴い、ゲインK1,K2のそれぞれの大きさが小さくなるように決定される。
換言すれば、Pb_diff_y_actとVby_actとをそれぞれPb_diff_y_cmd、Vby_cmdに収束させるように後輪203rの操舵制御を行うことで、車体202のロール方向の姿勢を安定化させる制御機能が、二輪車201Aの実際の走行速度(走行速度推定値Vox_act)が高速側の速度である場合には、低速側の速度である場合よりも弱まるように、ゲインK1,K2が決定される。
このため、二輪車201Aの実際の走行速度(走行速度推定値Vox_act)が比較的高速である場合、すなわち、車体202のロール方向の姿勢のふらつきが生じにくい状況では、通常の二輪車(車体のロール方向の姿勢制御機能を持たない二輪車)と同様に、運転者の体重移動等によって車体202のロール方向の姿勢(ロール角φb)を変化させることを、二輪車201Aの運転者が容易に行なうことができるようになっている。
なお、K1及びK2を決定する2次元マップは、それぞれ、走行速度推定値Vox_actがある程度大きくなると、決定されるK1,K2の値が、“0”もしくはほぼ“0”となるように設定されていてもよい。
このようにした場合には、二輪車201Aの実際の走行速度(走行速度推定値Vox_act)が比較的大きい場合に、車体202のロール方向の姿勢制御機能が実質的にOFFになる。二輪車201Aの実際の走行速度が高速である場合に、二輪車201Aの挙動特性を、通常の二輪車と同等の特性に近づけるようにすることができる。
さらに、処理部235−1,235−2のそれぞれの2次元マップは、それにより決定されるゲインK1,K2が、Vox_actを任意の値に固定した場合に、δr_cmd_pの大きさ(絶対値)の増加に対して、単調減少する傾向を持つように設定されている。
従って、二輪車201Aの車体202のロール方向の姿勢を安定化させる機能を有するフィードバック操作量に係るゲインとしてのゲインK1,K2は、後輪203rの実際の操舵角に相当するδr_cmd_pの大きさが大きくなるに伴い、K1,K2のそれぞれの大きさが小さくなるように決定される。
上記の如くゲインK1,K2の大きさを変化させる理由を以下に述べる。すなわち、前述のごとく、後輪203rの実際の操舵角の大きさが大きい場合には、小さい場合に較べて、操舵輪(後輪203r)の接地点を含みX軸方向(車体202の前後方向)を法線とする断面で見た該操舵輪(後輪203r)の接地部位の曲率半径は、大きくなる。
したがって、後輪203rの実際の操舵角の大きさが大きい場合には、小さい場合に較べて、その操舵の変化に応じた後輪203rの接地点の移動量の変化が大きくなる。このことに起因して、仮に、ゲインK1,K2の大きさを、実際の操舵角に依存しないように設定すると、二輪車201Aの車体202のロール方向の姿勢の制御の発振が生じやすくなる。
しかるに、上記の如く、δr_cmd_pの大きさに応じてゲインK1,K2の大きさを変化させるようにすることで、後輪203rの実際の操舵角の大きさ(絶対値)が大きい場合でも、上記発振を防止することができる。
また、図39のブロック線図において、処理部235−3,235−4は、それぞれ、ゲインK3,K4をVox_actに応じて決定する処理部を表している。
本実施形態では、処理部235−3,235−4は、それぞれ、Vox_actから、あらかじめ設定されたマップ(又は演算式)により構成される変換関数によって、ゲインK3,K4を決定する。
これらの変換関数は、図39中の処理部235−3,235−4に記載したグラフで例示されるように、基本的には、Vox_actの増加に対して、ゲインK3,K4のそれぞれが、所定の上限値と下限値との間で、単調増加するように設定されている。
この場合、処理部235−3,235−4の変換関数では、Vox_actが“0”に近い値となる領域では、K3,K4はそれぞれ下限値に維持される。また、Vox_actが十分に大きい値となる領域では、K3,K4はそれぞれ上限値に維持される。
上記のようにゲインK3,K4が決定されるので、二輪車201Aの実際の走行速度(走行速度推定値Vox_act)が比較的大きい場合(高速域の速度である場合)には、後輪203rの操舵角δrをゼロに近づける機能を有するフィードバック操作量に係るフィードバックゲインとしてのゲインK3,K4の大きさが、二輪車201Aの実際の走行速度が比較的小さい場合(低速域の速度(“0”を含む)である場合)に較べて相対的に大きくなるようにK3,K4が決定される。
ここで、通常の二輪車では、比較的高速での走行時に、操舵輪は、非操舵状態又はそれに近い状態に保たれることが一般的である。このため、上記のようにゲインK3,K4を設定することで、二輪車201Aの実際の走行速度が比較的大きい場合における二輪車201Aの後輪203rの操舵特性を、通常の二輪車の特性に近づけるようにすることができる。
以上が、本実施形態における制御ゲイン決定部235の処理の詳細である。
なお、前記処理部235−1,235−2の処理では、それぞれ2次元マップを用いて、Vox_actとδr_cmd_pとに応じてゲインK1,K2を決定したが、2次元マップを使用しない手法で、ゲインK1,K2を決定するようにしてもよい。
例えば、図40又は図41のブロック線図の処理部235−6,235−7の処理によって、ゲインK1,K2を決定するようにしてもよい。なお、図40及び図41のブロック線図の処理では、処理部235−6,235−7以外の処理は、図39のブロック線図の処理と同じである。
図40における処理部235−6は、ゲインK1の値を調整するための第1調整パラメータKv_1を、Vox_actから、あらかじめ設定された変換関数によって決定する処理部235−6−1と、ゲインK1の値を調整するための第2調整パラメータKδ_1を、δr_cmd_pから、あらかじめ設定された変換関数によって決定する処理部235−6−2と、これらの調整パラメータKv_1,Kδ_1を掛け合わせることによって、合成調整パラメータ(=Kv_1*Kδ_1)を決定する処理部235−6−3と、この合成調整パラメータをゲインK1の所定の基準値(下限値)K0_1に加え合せることによって、ゲインK1(=Kv_1*Kδ_1+K0_1)を決定する処理部235−6−4とを有する。
また、処理部235−7は、ゲインK2の値を調整するための第1調整パラメータKv_2を、Vox_actから、あらかじめ設定された変換関数によって決定する処理部235−7−1と、ゲインK2の値を調整するための第2調整パラメータKδ_2を、δr_cmd_pから、あらかじめ設定された変換関数によって決定する処理部235−7−2と、これらの調整パラメータKv_2,Kδ_2を掛け合わせることによって、合成調整パラメータ(=Kv_2*Kδ_2)を決定する処理部235−7−3と、この合成調整パラメータをゲインK2の所定の基準値(下限値)K0_2に加え合せることによって、ゲインK2(=Kv_2*Kδ_2+K0_2)を決定する処理部235−7−4とを有する。
この場合、処理部235−6−1,235−7−1,235−6−2,235−7−2のそれぞれの変換関数は、例えばマップ(1次元マップ)又は演算式により構成される。
そして、処理部235−6−1,235−7−1のそれぞれの変換関数は、図40中の処理部235−6−1,235−7−1に記載したグラフで例示されるように、それぞれにより決定されるKv_1,Kv_2が、Vox_actが大きくなるに伴い、所定の上限値(>0)から単調減少する(ゼロに近づく)ように設定されている。
従って、Vox_actが比較的小さい低速領域で、Kv_1,Kv_2が、有効性のある(ある程度以上の大きさを有する)正の値に設定される。
また、処理部235−6−2,235−7−2のそれぞれの変換関数は、図40中の処理部235−6−2,235−7−2に記載したグラフで例示されるように、それぞれにより決定されるKδ_1,Kδ_2が、δr_cmd_pの大きさ(絶対値)の増加に伴い、単調減少するように設定されている。
より詳しくは、Kδ_1,Kδ_2は、それぞれ、δr_cmd_pの大きさが“0”である場合に、所定の上限値(>0)となり、且つ、δr_cmd_pの大きさが“0”から大きくなるに伴い、Kδ2_1,Kδ2_2がそれぞれ所定の下限値(>0)まで小さくなるように決定される。
従って、図40に示す処理部235−6,235−7によって、Vox_actとδr_cmd_pとに対するK1,K2の変化の傾向が、図39の処理部235−1,235−2によりそれぞれ決定されるK1,K2と同様の傾向となるように、ゲインK1,K2をそれぞれ決定することができる。
また、図42における処理部235−6,235−7は、それぞれの一部の処理だけが図41のものと相違するものである。
具体的には、図42における処理部235−6は、ゲインK1の値を調整するための第1調整パラメータKv_1をVox_actに応じて決定する処理部として、図41に示した処理部235−6−1の代わりに、処理部235−6−5を採用したものである。そして、図42の処理部235−6は、処理部235−6−5以外の構成は、図41のものと同じである。
同様に、図42に示す処理部235−7は、ゲインK2の値を調整するための第1調整パラメータKv_2をVox_actに応じて決定する処理部として、図41に示した処理部235−7−1の代わりに、処理部235−7−5を採用したものである。そして、図42の処理部235−7は、処理部235−7−5以外の構成は、図41のものと同じである。
上記処理部235−6−5,235−7−5では、それぞれ、Kv_1,Kv_2を決定するための変換関数(マップ又は演算式)が図41のものと相違する。
具体的には、処理部235−6−5,235−7−5のそれぞれの変換関数は、図42中の処理部235−6−5,235−7−5に記載したグラフで例示されるように、それぞれにより決定されるKv_1,Kv_2が、Vox_actの増加に伴い、単調減少することに加えて、Vox_actが大きなものとなる高速領域で、Kv_1,Kv_2がゼロ(もしくはほぼゼロ)になるように設定されている。
なお、図42に示す処理部235−6におけるゲインK1の基準値(下限値)K0_1と、図42の処理部235−7におけるゲインK2の基準値(下限値)K0_2とは、それぞれゼロもしくはそれに近い値に設定されている。
従って、図42に示す処理部235−6,235−7によって、Vox_actとδr_cmd_pとに対するK1,K2の変化の傾向が、図39の処理部235−1,235−2によりそれぞれ決定されるK1,K2と同様の傾向となるように、ゲインK1,K2をそれぞれ決定することができる。
加えて、二輪車201Aの実際の走行速度が大きい高速領域では、ゲインK1,ゲインK2の両方がゼロもしくはほぼゼロに決定される。このため、二輪車201Aの実際の走行速度が高速である場合に、二輪車201Aの挙動特性を、通常の二輪車と同等の特性により一層近づけるようにすることができる。
なお、ゲインK1,K2を決定するための変換関数は、Vox_act,δr_cmd_pに対して上述したような傾向で決定できるものであれば、他の形態の変換関数を採用してもよい。同様に、ゲインK3,K4を決定するための変換関数は、Vox_actに対して上述したような傾向で決定できるものであれば、他の形態の変換関数を採用してもよい。
補足すると、前回目標後輪操舵角δr_cmd_pは、現在時刻での後輪203rの実際の操舵角の擬似的な推定値(代用的な観測値)としての意味を持つものである。
従って、各ゲインK1,K2,K3,K4を決定するために、δr_cmd_pの代わりに、前記後輪操舵角検出値δr_actを用いてもよい。
また、後輪駆動用アクチュエータ209の応答が十分に速い場合には、上記前回目標後輪操舵角δr_cmd_pと、前回目標後輪回転移動速度Vr_cmd_p(前回の制御処理周期で目標後輪回転移動速度決定部236で決定された目標後輪回転移動速度Vr_cmd)とから、前記式(74b)の演算と同様の演算によって算出される走行速度の値(=Vr_cmd_p*cos(δr_cmd_p*cos(θcr))。以降、これを前回目標走行速度Vox_cmd_pと表記する)は、現在時刻での二輪車201Aの実際の走行速度の擬似的な推定値(代用的な観測値)としての意味を持つ。
従って、ゲインK1,K2,K3,K4を決定するために、Vox_actの代わりに、上記前回目標走行速度Vox_cmd_pを用いてもよい。
次に、前記後輪操舵用アクチュエータ208、後輪駆動用アクチュエータ209の制御について説明する。
制御装置215は、図35に示した機能の他の機能として、図44に示す後輪操舵用アクチュエータ制御部241、図45に示す後輪駆動用アクチュエータ制御部242をさらに備えている。
後輪操舵用アクチュエータ制御部241は、例えば図44のブロック線図で示す制御処理によって、後輪203rの実際の操舵角(後輪操舵角検出値δr_act)を目標後輪操舵角δr_cmdに追従させるように、後輪操舵用アクチュエータ208の駆動制御を行なう。
この例では、後輪操舵用アクチュエータ制御部241には、姿勢制御演算部237で前記した如く決定された目標後輪操舵角δr_cmd、目標後輪操舵角速度δr_dot_cmd及び目標後輪操舵角加速度δr_dot2_cmdと、後輪操舵角検出値δr_actと、後輪203rの実際の操舵角速度の検出値である後輪操舵角速度検出値δr_dot_actとが入力される。
なお、後輪操舵角速度検出値δr_dot_actは、後輪操舵角検出器218の出力に基づき認識される操舵角速度の値、又は、後輪操舵角検出値δr_actの時間的変化率を算出することで得られる値である。
後輪操舵用アクチュエータ制御部241は、電流指令値決定部241−1の処理によって、上記の入力値から、後輪操舵用アクチュエータ208(電動モータ)の通電電流の目標値である電流指令値I_δr_cmdを決定する。
この電流指令値決定部241−1は、次式(77)で示される如く、δr_cmdとδr_actとの偏差に所定値のゲインKδr_pを乗じてなるフィードバック操作量成分と、δr_dot_cmdとδr_dot_actとの偏差に所定値のゲインKδr_vを乗じてなるフィードバック操作量成分と、δr_dot2_cmdに所定値のゲインKδr_aを乗じてなるフィードフォワード操作量成分とを加え合わせることにより、電流指令値I_δr_cmdを決定する。
I_δr_cmd=Kδr_p*(δr_cmd−δr_act)
+Kδr_v*(δr_dot_cmd−δr_dot_act)
+Kδr_a*δr_dot2_cmd ……(77)
そして、後輪操舵用アクチュエータ制御部241は、モータドライバ等により構成される電流制御部241−2によって、後輪操舵用アクチュエータ208(電動モータ)の実際の通電電流を、電流指令値I_δr_cmdに一致する電流に制御する。
これにより、後輪203rの実際の操舵角が、目標後輪操舵角δr_cmdに追従するように制御される。この場合、電流指令値I_δr_cmdは、上記式(77)の右辺の第3項、すなわち、フィードフォワード操作量成分を含むので、上記制御の追従性が高くなる。
なお、後輪203rの実際の操舵角を目標後輪操舵角δr_cmdに追従させるように後輪操舵用アクチュエータ208を制御する手法は、上記の手法に限らず、他の手法を用いてよい。その手法としては、例えば、電動モータに関する公知の種々様々のサーボ制御手法(電動モータのロータの実際の回転角度を目標値に追従させるフィードバック制御手法)を採用できる。
次に、後輪駆動用アクチュエータ制御部242は、例えば図45のブロック線図で示す制御処理によって、後輪203rの実際の回転移動速度を目標後輪回転移動速度Vr_cmdに追従させるように(又は、後輪203rの実際の回転角速度をVr_cmdに対応する目標回転角速度に追従させるように)、後輪駆動用アクチュエータ209の駆動制御を行なう。
この例では、後輪駆動用アクチュエータ制御部242には、目標後輪回転移動速度決定部236で前記した如く決定された目標後輪回転移動速度Vr_cmdと、後輪回転移動速度推定値Vr_actとが入力される。
後輪駆動用アクチュエータ制御部242は、電流指令値決定部242−1の処理によって、上記の入力値から、後輪駆動用アクチュエータ209(電動モータ)の通電電流の目標値である電流指令値I_Vr_cmdを決定する。
この電流指令値決定部242−1は、次式(78)で示される如く、Vr_cmdとVr_actとの偏差に所定値のゲインKVf_vを乗じてなるフィードバック操作量成分を電流指令値I_Vr_cmdとして決定する。
I_Vr_cmd=KVr_v*(Vr_cmd−Vr_act) ……(78)
なお、上記式(78)によりI_Vr_cmdを決定する代わりに、例えば、Vr_cmdを後輪203rの有効回転半径で除算した値(すなわち、後輪203rの回転角速度の目標値)と、後輪回転速度検出器220の出力により示される後輪203rの実際の回転角速度の検出値との偏差に所定値のゲインを乗じることによって、I_Vr_cmdを決定するようにしてもよい。
そして、後輪駆動用アクチュエータ制御部242は、モータドライバ等により構成される電流制御部242−2によって、後輪駆動用アクチュエータ209(電動モータ)の実際の通電電流を、電流指令値I_Vr_cmdに一致する電流に制御する。
これにより、後輪203rの実際の回転移動速度が、目標後輪回転移動速度Vr_cmdに追従するように(又は、実際の回転角速度が、Vr_cmdに対応する回転角速度の目標値に追従するように)制御される。
なお、後輪203rの実際の回転移動速度を、目標後輪回転移動速度Vr_cmdに追従させるように後輪駆動用アクチュエータ209を制御する手法は、上記の手法に限らず、他の手法を用いてよい。その手法としては、例えば、電動モータに関する公知の種々様々の速度制御手法(電動モータのロータの実際の回転角速度を目標値に追従させるフィードバック制御手法)を採用できる。
以上が、本実施形態における制御装置215の制御処理の詳細である。
ここで、本実施形態と本発明との対応関係について説明しておく。本実施形態では、後輪203rが、本発明における操舵輪に相当し、後輪操舵用アクチュエータ208(電動モータ)が本発明における操舵アクチュエータに相当する。
また、二輪車201Aにおける倒立振子質点123(第1質点123)及び第2質点124が、それぞれ、本発明における質点A,Bに相当する。そして、倒立振子質点123(第1質点123)及び第2質点124を有する系の動力学的な挙動は、具体的には、前記式(19)〜(27)により表現される。
また、二輪車201Aにおける倒立振子質点123(第1質点123)及び第2質点124を有する質点系の動力学モデルが本発明における動力学モデルに相当する。その動力学モデルは、具体的には、前記式(19)〜(27)により表現される。
また、本実施形態では、車体202の姿勢を安定化するために、倒立振子質点123の運動状態量としての倒立振子質点横移動量及び倒立振子横速度を、それぞれの目標値(Pb_diff_y_cmd、Vby_cmd)としてのゼロに近づける(収束させる)と共に、操舵輪(後輪203r)の操舵角の運動状態量としての操舵角及び操舵角速度を、それぞれの目標値としてのゼロに近づける(収束させる)ように、後輪操舵用アクチュエータ208(電動モータ)が制御される。
具体的には、姿勢制御演算部237の処理で、倒立振子質点横移動量推定値Pb_diff_y_act、倒立振子質点横速度推定値Vby_act、操舵角δrの擬似的な推定値としての前回目標後輪操舵角δr_cmd_p、操舵角速度δr_dot_cmdの擬似的な推定値としての前回目標後輪操舵角速度δr_dot_cmd_pのそれぞれと目標値との偏差をゼロに収束させるようにフィードバック制御則により、後輪操舵用アクチュエータ208(操舵アクチュエータ)の動作目標としての目標後輪操舵角加速度δr_dot2_cmdが決定される。
さらに、このδr_dot2_cmdの積分を2回、繰り返すことで決定した目標後輪操舵角δr_cmdに後輪203rの実際の操舵角を追従させるように後輪操舵用アクチュエータ208の駆動力が、前記後輪操舵用アクチュエータ制御部241により制御される。
これにより、倒立振子質点123の運動状態量及び操舵輪(後輪203r)の操舵角の運動状態量とを安定化し、ひいては、車体202の姿勢(ロール方向の姿勢)を安定化するように、後輪操舵用アクチュエータ208が制御される。
また、本実施形態では、二輪車201Aの基準姿勢状態において、操舵輪である後輪203rの接地点と車軸中心点とを結ぶ仮想的な直線と、後輪203rの操舵軸線Csrとの交点Er'が接地面110よりも低い位置になるように(すなわち、交点Er'の接地面110からの高さa’がa’<0となるように)、操舵軸線Csrの配置(後輪203rに対する相対的な配置)が設定されている。
このため、前記式(28)’により定義されるa_sum'に対して、a’<a_sum'という条件(ひいては、本発明における前記(第1条件))が必然的に満たされる。さらには、前記式(40)’により定義されるa_s'に対して、a’≦a_s'という条件(ひいては、本発明における(第2条件))も必然的に満たされる。さらには、二輪車201Aの基準姿勢状態での操舵輪(後輪203r)の横断面形状の曲率半径Rrに対して、a’≦Rrという条件も必然的に満たされる。
以上説明した本実施形態によれば、二輪車201Aの基準姿勢状態において、操舵輪である後輪203rの接地点と車軸中心点とを結ぶ仮想的な直線と、後輪203rの操舵軸線Csrとの交点Er'の高さa’が、前記した如くa’<0(ひいては、a’<a_aum'、a’≦a_s')となるように設定されている。結果的に、該高さa’は、前記(第1条件)及び(第2条件)を満たすように設定されている。
従って、二輪車201Aの実際の倒立振子質点横移動量(倒立振子質点横移動量推定値Pb_diff_y_act)が、目標倒立振子質点横移動量Pb_diff_y_cmdからずれた場合(換言すれば、車体202の実際の姿勢が、Pb_diff_y_act=0となるような目標姿勢からずれた場合)に、運転者が意図的に操縦ハンドル207を動かしたりせずとも、後輪操舵用アクチュエータ208の駆動力による後輪203rの操舵によって、二輪車201Aの実際の倒立振子質点横移動量を目標倒立振子質点横移動量Pb_diff_y_cmdに円滑に復元させ得るモーメント(ロール方向のモーメント)を車体202に作用させることができる。すなわち、車体202の姿勢を安定化させるロール方向のモーメントを車体2に作用させることができる。
そのモーメントにより車体202の実際のロール角が変化して、実際の倒立振子質点横移動量が目標倒立振子質点横移動量Pb_diff_y_cmdに復元することとなる。なお、実際の倒立振子質点横移動量が目標倒立振子質点横移動量Pb_diff_y_cmdに復元するということは、より詳しくは、車体202の実際のロール角と、前輪203fの実際の操舵角と、後輪203rの実際の操舵角とから前記式(71)によって算出される倒立振子質点横移動量推定値Pb_diff_y_actが、目標倒立振子質点横移動量Pb_diff_y_cmdに一致するように、車体202の実際のロール角と後輪203rの実際の操舵角とが制御されることを意味する。
また、このとき、後輪203rの操舵角の変化に対して発生する上記モーメントの感度が比較的高いので、後輪203rの操舵角の過剰な変化を生じることなく、二輪車201Aの実際の倒立振子質点横移動量を目標倒立振子質点横移動量Pb_diff_y_cmdに復元させることができる。
また、前記式(75)によって目標後輪操舵角加速度δr_dot2_cmdを算出することで、二輪車201Aの目標倒立振子質点横移動量Pb_diff_y_cmdと現在の実際の倒立振子質点横移動量の観測値としての倒立振子質点横移動量推定値Pb_diff_y_actとの偏差(Pb_diff_y_cmd−Pb_diff_y_act)、二輪車201Aの目標倒立振子質点横速度Vby_cmdと現在の実際の倒立振子質点横速度の観測値としての倒立振子質点横速度推定値Vby_actとの偏差(Vby_cmd−Vby_act)、後輪203rの現在の実際の操舵角(中立操舵角からの操舵角)の擬似的な推定値に相当する前回目標後輪操舵角δr_cmd_p、並びに、後輪203rの現在の実際の操舵角の角速度の擬似的な推定値に相当する前回目標後輪操舵角速度δr_dot_cmd_pを“0”に近づけるように、目標後輪操舵角加速度δr_dot2_cmd(後輪操舵用アクチュエータ208の動作目標)が決定される。
このため、後輪203rの実際の操舵角が中立操舵角から乖離しないようにしつつ(最終的に中立操舵角に収束するようにしつつ)、実際の倒立振子質点横移動量及び倒立振子質点横速度がそれぞれの目標値(本実施形態ではゼロ)に収束するように、後輪203rの操舵角が制御される。
このため、特に二輪車201Aの停車時又は低速走行時等において、車体202の姿勢を円滑に安定化することができる。また、車体202の姿勢が安定した状態で二輪車201Aの発進を円滑に行うことができる。
また、車体202のロール方向の姿勢制御に係わるフィードバックゲインとしてのゲインK1,K2が、前記した如く、二輪車201Aの現在の実際の走行速度(X軸方向の移動速度)の観測値としての走行速度推定値Vox_actと、後輪203rの現在の実際の操舵角の擬似的な推定値としての前回目標後輪操舵角δr_cmd_pとに応じて可変的に決定される。また、後輪203rの操舵角の制御に係わるフィードバックゲインとしてのゲインK3,K4とが、前記した如く走行速度推定値Vox_actに応じて可変的に決定される。
このため、二輪車201Aの停車時又は低速走行時等において、二輪車201Aの実際の倒立振子質点横移動量を素早く目標倒立振子質点横移動量Pb_diff_y_cmdに近づけるように後輪203rの操舵を行なうことができる。
また、二輪車201Aの走行速度が大きい状況では、後輪203rの操舵角が中立操舵角に保たれやすくなる。また、車体202が傾いても、二輪車201Aの実際の倒立振子質点横移動量を目標倒立振子質点横移動量Pb_diff_y_cmdに近づけるような、後輪203rの操舵制御が行われないか、もしくは、当該操舵制御が抑制される。ひいては、運転者は、通常の二輪車と同様に、自身の体重移動によって車体202を傾けるようにして二輪車201Aの旋回を行なうようにすることを容易に行なうことができる。
[変形態様]
次に前記第1実施形態又は第2実施形態に係わる変形態様をいくつか説明する。
前記第1実施形態では、後輪3rは非操舵輪であるが、後輪3rは、例えば接地面110からの反力によって受動的に操舵されるようになっていてもよい。その場合、倒立振子質点横移動量推定値Pb_diff_y_actと倒立振子質点横速度推定値Vby_actは、それぞれ、前記第2実施形態の倒立振子質点横移動量推定値算出部231、倒立振子質点横速度推定値算出部232と同様の処理によって、前輪3fの操舵角δfに応じた成分だけでなく、後輪3rの操舵角δrに応じた成分を含むように決定してもよい。
また、前記各実施形態では、制御対象の状態量の構成要素である倒立振子質点123の運動状態量として、倒立振子質点横移動量Pb_diff_yと、倒立振子質点横速度Vbyとを用いたが、いずれか一方だけを倒立振子質点123に関する制御対象の状態量として、当該一方の状態量を目標値に近づけるように操舵アクチュエータ(前輪操舵用アクチュエータ8又は後輪操舵用アクチュエータ208)を制御するようにしてもよい。
さらに、制御対象の状態量の他の構成要素である操舵輪の操舵角の運動状態量として、その操舵角の値(δf又はδr)と、その角速度(δf_dot又はδr_dot)とを用いたが、いずれか一方だけを操舵輪の操舵角に関する制御対象の状態量として、当該一方の状態量を目標値に近づけるように操舵アクチュエータ(前輪操舵用アクチュエータ8又は後輪操舵用アクチュエータ208)を制御するようにしてもよい。
なお、倒立振子質点123の運動状態量(倒立振子質点横移動量Pb_diff_yと、倒立振子質点横速度Vby)の目標値は、倒立振子質点123を安定化させ、ひいては、車体2の姿勢を安定化させる(車体2のロール方向の姿勢がふらつかないようにする)ことができるような目標値である限り、ゼロ以外の目標値に設定してもよい。
さらに、操舵輪の操舵角の運動状態量(操舵角δf又はδr、操舵角速度δf_dot又はδr_dot)の目標値は、ゼロに設定すればよい。なお、倒立振子質点123を安定化させ、ひいては、車体2の姿勢を安定化させる(車体2のロール方向の姿勢がふらつかないようにする)ことができるような目標値である限り、操舵輪の操舵角の運動状態量の目標値は、ゼロ以外の目標値に設定してもよい。
倒立振子質点123の運動状態量(倒立振子質点横移動量Pb_diff_yと、倒立振子質点横速度Vby)の目標値、あるいは、操舵輪の操舵角の運動状態量(操舵角δf又はδr、操舵角速度δf_dot又はδr_dot)の目標値は、例えば、運転者によって操縦ハンドル7(又は207)に付与される力もしくは該操縦ハンドル7(又は207)の操作量などに応じて決定された目標値であってもよい。
また、前記各実施形態では、倒立振子質点横移動量推定値算出部31又は231の処理において、前輪3fの実際の操舵角の大きさが十分に小さい場合に、第2の横移動量成分推定値Pb_diff_y_act2を、前輪3fの操舵角に対して線形な成分として算出するようにしてもよい。同様に、倒立振子質点横速度推定値算出部32又は232の処理において、前輪3fの実際の操舵角の大きさが十分に小さい場合に、第2の横速度成分推定値Vby_act2を、前輪3fの操舵角に対して線形な成分として算出するようにしてもよい。
さらに、前記第2実施形態では、倒立振子質点横移動量推定値算出部231の処理において、後輪203rの実際の操舵角の大きさが十分に小さい場合に、第3の横移動量成分推定値Pb_diff_y_act3を、後輪203rの操舵角に対して線形な成分として算出するようにしてもよい。同様に、倒立振子質点横速度推定値算出部232の処理において、後輪203rの実際の操舵角の大きさが十分に小さい場合に、第3の横速度成分推定値Vby_act3を、後輪203rの操舵角に対して線形な成分として算出するようにしてもよい。
また、前記各実施形態では、倒立振子質点横移動量Pb_diff_y及び倒立振子質点横速度Vbyを制御する代わりに、車体2又は202のロール角φb及びその角速度の目標値を設定し、車体2又は202の実際のロール角(ロール角検出値φb_act)を、目標値に近づけるように、操舵アクチュエータ(前輪操舵用アクチュエータ8又は後輪操舵用アクチュエータ208)を制御することで、車体2の姿勢を安定化するようにしてもよい。
例えば、前記式(55)又は(75)において、偏差(Pb_diff_y_cmd−Pb_diff_y_act)及び(Vby_cmd−Vby_act)の代わりに、それぞれ、車体2又は202のロール角の目標値とロール角検出値φb_actとの偏差、ロール角の角速度の目標値と該角速度の検出値もしくは推定値(ロール角検出値φb_actの時間的変化率等)との偏差を用いることで、操舵アクチュエータ(前輪操舵用アクチュエータ8又は後輪操舵用アクチュエータ208)の動作目標としての操舵角加速度(δf_dot2_cmd又はδr_dot2_cmd)を決定するようにしてもよい。
さらに、この場合、ロール角φbの目標値を決定するに当たって、二輪車1A又は201Aの旋回時の遠心力を考慮して、該目標値を決定するようにしてもよい。すなわち、二輪車1A又は201Aの全体重心Gに作用する重力によって、X軸まわり方向(ロール方向)でXYZ座標系の原点まわりに発生するモーメントと、該全体重心Gに作用する遠心力によってX軸まわり方向(ロール方向)でXYZ座標系の原点まわりに発生するモーメントとが釣り合う(両モーメントの総和が“0”になる)ように、ロール角φbの目標値を決定するようにしてもよい。
この場合、ロール角φbの目標値(以降、目標ロール角φb_cmdという)は、例えば、次のように決定できる。以降、全体重心Gに作用する重力と遠心力とによって、それぞれXYZ座標系の原点まわりに発生するモーメントが釣り合う状態でのロール角φbをバランスロール角φb_leanと称する。
このバランスロール角φb_leanは、近似的に次式(81)により求められる。
φb_lean=−Vox_act*ωz_act/g ……(81)
ここで、ωz_actは、車体2又は202の鉛直軸回りの旋回角速度(ヨーレート)である。その値としては、例えば、角速度センサを含む前記車体傾斜検出器16又は216の出力により示されるヨーレートの検出値を用いればよい。
あるいは、例えば、前記前輪有効操舵角δ'fの実際の値(前輪有効操舵角推定値δ’f_act)と、後輪有効操舵角δ'rの実際の値(後輪有効操舵角推定値δ’r_act)と二輪車1A又は201Aの走行速度Voxの実際の値(走行速度推定値Vox_act)から次式(82)により求めるようにしてもよい。
ωz_act=Vox_act*((Lr/L)*tan(δ’f_act)−(Lf/L)*tan(δ’r_act))
……(82)
なお、前記第1実施形態の如く、後輪3rが非操舵輪である場合には、δ'r_act=0として、式(82)の演算を行なうようにすればよい。
そして、上記の如く算出したバランスロール角φb_leanを目標ロール角φb_cmdの目標値として決定すればよい。あるいは、φb_leanに1以下の正の定数を乗じた値を、目標ロール角φb_cmdとして決定するようにしてもよい。
なお、二輪車1A又は201Aの発進前の停車時、あるいは、走行速度Voxが十分に小さい場合には、目標ロール角φb_cmdは“0”でよい。
また、ロール角φbの角速度の目標値は、ゼロに設定すればよい。なお、車体2の姿勢を安定化させる(車体2のロール方向の姿勢がふらつかないようにする)ことができるような目標値である限り、ロール角φbの角速度の目標値は、ゼロ以外の目標値に設定してもよい。
例えば、ロール角φbの角速度の目標値を、運転者によって操縦ハンドル7(又は207に付与される力もしくは該操縦ハンドル7(又は207)の操作量などに応じて決定してもよい。
また、前記各実施形態では、姿勢制御演算部37又は237の処理において、操舵アクチュエータ(前輪操舵用アクチュエータ8又は後輪操舵用アクチュエータ208)の動作目標として目標前輪操舵角加速度δf_dot2_cmd又は目標後輪操舵角加速度δr_dot2_cmdを決定するようにした。
ただし、第1実施形態における姿勢制御演算部37の処理において、目標前輪操舵角加速度δf_dot2_cmdの代わりに(あるいは目標前輪操舵角加速度δf_dot2_cmdと併せて)、操舵輪(前輪3f)の操舵軸線Csfのまわりのトルクの目標値を決定してもよい。そして、前記前輪操舵用アクチュエータ制御部41において、前記操舵軸線Csfのまわりの実際のトルクを目標値に一致させるように、前輪操舵用アクチュエータ8の駆動力(トルク)を制御するようにしてもよい。
同様に、第2実施形態における姿勢制御演算部237の処理において、目標後輪操舵角加速度δr_dot2_cmdの代わりに(あるいは目標後輪操舵角加速度δf_dot2_cmdと併せて)、操舵輪(後輪203r)の操舵軸線Csrのまわりのトルクの目標値を決定してもよい。そして、前記後輪操舵用アクチュエータ制御部241において、前記操舵軸線Csrのまわりの実際のトルクを目標値に一致させるように、後輪操舵用アクチュエータ208の駆動力(トルク)を制御するようにしてもよい。
また、前記第1実施形態では、前記交点Efの高さaが負の値となる(交点Erが接地面110の下側になる)ように前輪3fの操舵軸線Csrの配置を設定した。ただし、前記式(28)により定義されるa_sum、あるいは、前記式(40)により定義されるa_sに対して、交点Efが接地面110の上側となる状態で、a<a_sum、あるいは、a≦a_sとなるように、前輪3fの操舵軸線Csfの配置を設定してもよい。
同様に、前記第2実施形態では、前記式(28)’より定義されるa_sum'あるいは、前記式(40)’より定義されるa_s'対して、交点Er'が接地面110の上側となる状態で、該交点Er'の高さa'<a_sum'あるいは、a'≦a_s'なるように、後輪203rの操舵軸線Csrの配置を設定してもよい。
補足すると、二輪車1A又は201Aの全質量m、全体イナーシャI、全体重心Gの高さhは、二輪車1A又は201Aの搭載物の影響で、ある程度のばらつきを生じる。
その場合、第1実施形態の二輪車1Aにあっては、m、I、hの想定されるばらつきの範囲内で、前記式(28)により定義されるa_sumの最小値、あるいは、前記式(40)により定義されるa_sの最小値をあらかじめ求めておく。
そして、交点Erの高さaを、そのa_sumの最小値よりも小さくなるように、あるいは、a_sの最小値以下となるように、前輪3fの操舵軸線Csfの配置位置を設定しておくようにすればよい。
同様に、第2実施形態の二輪車201Aにあっては、m、I、hの想定されるばらつきの範囲内で、前記式(28)’により定義されるa_sum'の最小値、あるいは、前記式(40)’により定義されるa_s'の最小値をあらかじめ求めておく。
そして、交点Er'の高さa’を、そのa_sum'の最小値よりも小さくなるように、あるいは、a_s'の最小値以下となるように、後輪203rの操舵軸線Csrの配置位置を設定しておくようにすればよい。
なお、二輪車1Aにおけるa_sumの最小値、もしくは、a_sの最小値を求める場合には、あるいは、二輪車201Aにおけるa_sum'の最小値、もしくは、a_s'の最小値を求める場合には、二輪車1A又は二輪車201Aに人等の搭載物が無い条件下で行なうようにすればよい。
また、前記各実施形態では、車体2又202にだけ質量と慣性モーメントとを設定した場合を例にとって説明したが、先に図13及び図14を参照し説明したように、操舵輪にも質量又は慣性モーメントを設定してもよい。これらの場合でも、前述の等価変換によって、倒立振子質点(質点A)と、接地面上質点(質点B)とから構成される系に変換することで、前記各実施形態と同様に車体2又は202の姿勢を制御することができる。
また、質点の位置に関する変数は、質点と原点を結ぶ線分の角度に関する変数に変換できるように、実施形態で用いられた変数や定数は、これに1対1に対応する他の変数や定数に置き換えて用いることもできる。このような置き換えができる場合は、いずれの場合も等価とみなすことができる。
さらに、実施形態で示した手法、あるいは、手段、アルゴリズムも結果が同一となるように等価変換したものは、同一とみなすことができる。