本発明の有機顔料組成物は、質量換算でトリアリールメタン顔料(A)100部当たり、側鎖の炭素原子数が異なる(メタ)アクリル酸エステル2種以上の共重合体(B)不揮発分0.1〜15部を含有することを特徴とする。
トリアリールメタン顔料(A)としては、例えば、C.I.ピグメントブルー1や、下記構造のトリアリールメタン顔料を挙げることが出来る。
〔但し、式(I)中、アニオンX
−は(P
2Mo
yW
18−yO
62)
6−/6かつy=3〜1で表されるか、または(SiMoW
11O
40)
4−/4で表されるヘテロポリオキソメタレートである。〕
本発明における式(I)のトリアリールメタン顔料は、いずれも水不溶性の有機顔料であり、X−からなるアニオン部分と、X−を除いた部分である、塩基性トリアリールメタン染料カチオンからなる。本発明における特定トリアリールメタン顔料と、従来公知のトリアリールメタン顔料であるC.I.ピグメントブルー1とは、アニオンである、ヘテロポリオキソメタレートアニオンの化学構造の点で相違する。
塩基性トリアリールメタン染料カチオンは、市販品染料である、例えばビクトリアピュアブルーBO(ベーシックブルー7)、ビクトリアブルーB(ベーシックブルー26)、ビクトリアブルーR(ベーシックブルー11)、ビクトリアブルー4R(ベーシックブルー8)等から容易に調製することが出来る。カッコ内はカチオン部分の構造が同一である、対応する染料のカラーインデックス番号を指す。これらのカチオン構造だけ見れば、これらはいずれも公知である。
X−が塩化物イオンである塩基性トリアリールメタン染料は、予め4,4’−ビス(ジ置換アミノ)ベンゾフェノン化合物を調製した後、それと、芳香環、複素環またはアミノ基に置換基を有していても良い、アミノナフタレン化合物またはインドール化合物とを、無水溶媒中で、オキシ塩化リン(塩化ホスホリル)等の脱水触媒下にて、100〜150℃で1〜5時間、加熱することで調製することが出来る。
こうして得られたトリアリールメタン染料の塩化物イオンを、後記するヘテロポリ酸アニオンで置換することで、特定トリアリールメタン顔料を得ることが出来る。
本発明における式(I)のトリアリールメタン顔料は、対アニオンX−が、特定のアニオンであることに特徴がある。アニオン部分が特定構造を有することにより、従来のトリアリールメタン顔料に無い、際立った耐熱性が発現される。特定トリアリールメタン顔料は、上記したカチオンと、リンモリブデン酸及び/又はケギン型リンタングステンモリブデン酸以外のヘテロポリ酸アニオンとからなる。本発明では、ヘテロポリ酸アニオンを、ヘテロポリオキソメタレートアニオンという。
ヘテロポリ酸は、有機構造を含まない比較的大きな分子量の無機酸であり、塩酸や硫酸の様な低分子の無機酸や有機酸に無い、特異な性質を発現させることが出来る。その第一は、カチオンのヘテロポリ酸によるレーキ化で水不溶のトリアリールメタン顔料を生成することである。第二は、レーキ化に用いるヘテロポリ酸を選択することで、得られるトリアリールメタン顔料の耐熱性や耐光性を向上させうる余地があることである。ヘテロポリ酸は、有機構造を含ませない或いは金属を含めた上で分子量も比較的大きく出来るが故に、それを適切に選択することで、高温や光線に曝された場合でも、アニオン構造に由来するトリアリールメタン顔料の変質を大きく抑制することが可能となる。
本発明において、C.I.ピグメントブルー1より遥かに高い耐熱性を有する、式(I)のトリアリールメタン顔料は、X−が、(P2MoyW18−yO62)6−/6で表され、y=1,2または3の整数であるヘテロポリオキソメタレートアニオンか、(SiMoW11O40)4−/4で表されるヘテロポリオキソメタレートアニオンから選ばれる少なくとも一種のアニオンのトリアリールメタン顔料である。
ヘテロポリ酸またはそのアルカリ金属塩としては、例えば、H6(P2MoyW18−yO62)、Na6(P2MoyW18−yO62)、H4(SiMoW12O40)、Na4(SiMoW12O40)、H6(P2W18O62)、Na6(P2W18O62)、H10(P2W17O61)及びNa10(P2W17O61)等を用いることが出来る。
H6(P2MoyW18−yO62)といったヘテロポリ酸は、例えば、Inorganic Chemistry, vol47, p3679に記載された方法に従って、容易に得ることが出来る。具体的には、タングステン酸アルカリ金属塩とモリブデン酸アルカリ金属塩とを水に溶解させ、これに燐酸を加え、加熱撹拌しながら5〜10時間加熱還流することで得ることが出来る。こうして得られたヘテロポリ酸は、アルカリ金属塩化物と反応させることで、上記と同様にして、ドーソン型ヘテロポリオキソメタレートアルカリ金属塩であるNa6(P2MoyW18−yO62)とすることが出来る。
モリブデン(Mo)とタングステン(W)の仕込みモル比を変えること、すなわちタングステン酸アルカリ金属塩とモリブデン酸アルカリ金属塩のモル比を調整することで、上記ヘテロポリオキソメタレートアニオンにおけるモリブデン数yを、1〜3の範囲に調製することが出来る。
別法としては、モリブデン酸アルカリ金属塩を水に溶解させ、これに塩酸を加え、次いで、K10(α2型P2W17O61)の様な、α2型の欠損ドーソン型リンタングステン酸アルカリ金属塩を加えて、10〜30℃にて、30分〜2時間撹拌することで得ることが出来る。こうして得られたヘテロポリ酸は、アルカリ金属塩化物と反応させることで、上記と同様にして、ドーソン型ヘテロポリオキソメタレートアルカリ金属塩とすることが出来る。
例えば、P2W18O62より加水分解反応でα2型P2W17O61を調製して、これにMoを反応させることで、P2Mo1W17O62のみを得ることも出来る。こうすることで、yの数値に分布の無い上記したヘテロポリ酸やそのアルカリ金属塩を得ることが出来る。
H4(SiMoW11O40)といったヘテロポリ酸、ヘテロポリオキソメタレートアルカリ金属塩は、例えばJournal of American Chemical Society, 104(1982) p3194 に記載された方法に従って、容易に得ることが出来る。具体的には、硝酸水溶液とモリブデン酸アルカリ金属塩水溶液を混合撹拌し、これにK8(α型SiW11O39)を加え、2〜6時間撹拌することで得ることが出来る。こうして得られたヘテロポリ酸は、アルカリ金属塩化物と反応させることで、上記と同様にして、ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアルカリ金属塩とすることが出来る。
本発明における式(I)のトリアリールメタン顔料は、例えば、上記した対応する染料と、上記した対応するヘテロポリ酸またはヘテロポリオキソメタレートアルカリ金属塩とを反応させることで容易に製造することが出来る。アニオンが塩化物イオンの上記染料を用いかつヘテロポリ酸を用いる場合には、脱塩化水素反応により、アニオンが塩化物イオンの上記染料を用いかつヘテロポリオキソメタレート金属塩を用いる場合には、脱アルカリ金属塩化物反応により、塩置換することで製造することが出来る。
上記ヘテロポリ酸を用いる脱塩化水素反応に比べて、ヘテロポリ酸をいったんヘテロポリオキソメタレートアルカリ金属塩としてから脱アルカリ金属塩化物反応を行う方が、塩置換を確実に行うことが出来、より収率高く特定トリアリールメタン顔料が得られるばかりでなく、副生成物がより少ない純度の高い特定トリアリールメタン顔料が得られるので好ましい。勿論、ヘテロポリオキソメタレートアルカリ金属塩は、再結晶等により精製してから用いることも出来る。
反応液からの沈殿が得れら難い場合には、当該反応液を冷却するなどして溶解度を低下させることにより、対応するヘテロポリオキソメタレートアルカリ金属塩をより収率高く得ることが出来る。
染料由来のカチオンは、一価であることから、アニオン源である、ヘテロポリ酸またはヘテロポリオキソメタレートアルカリ金属塩の使用量は、それらのイオン価に応じて、等モル数となる様に仕込んで上記反応を行うことが好ましい。
本発明における式(I)のトリアリールメタン顔料は、ヘテロポリ酸でレーキ化(水不溶化)する工程を含むので(或いはヘテロポリ酸でレーキ化(水不溶化)されているので)、製造工程中または製造後の何らかの工程で水を用いる場合、より確実な反応を行ったり、得られた化合物のレーキ構造が破壊されないようにするには、例えば、精製水、イオン交換水、純水等のような、金属イオンやハロゲンイオンの含有率が極力少ない水を用いることが好ましい。
本発明における式(I)のトリアリールメタン顔料は、それ自体公知のカチオン構造と、それ自体公知のアニオン構造とを選択し組み合わせた構造を有することから、上記製造方法に従って得られた生成物について、上記カチオン構造とアニオン構造とがいずれも含まれていることを確認することで、容易に同定することが出来る。生成物の赤外線吸収スペクトルを測定することで、上記反応に用いた原料の構造が残っていることを確認できる。また生成物には、反応に用いた原料の、染料のアニオンやヘテロポリオキソメタレートのカチオンが含まれていないことから、蛍光X線分析による原料に固有のピーク強度の低下やピーク消失により、上記レーキ化反応が行われたことを確認することが出来る。(必要であれば、生成物について元素分析を行うことで、より確実な同定が可能となる。)
本発明における式(I)のトリアリールメタン顔料は、その構造が堅牢性に大きく寄与しており、カチオンとアニオンから構成されていたとしても染料である場合には、本発明の優れた技術的効果は発揮できない。また、本発明における式(I)のトリアリールメタン顔料は、1〜10個の結晶水を持つ水和物であっても良いし、結晶水を持たない無水物であっても良い。
本発明における式(I)のトリアリールメタン顔料は、レーキ構造を有し水不溶であることから顔料である。こうして得られたトリアリールメタン顔料は、そのままで、合成樹脂等の着色剤として用いることが出来るが、必要であれば、公知慣用の粉砕や増粒により、粒子径を調整することで、各種の用途に最適な着色剤とすることが出来る。着色剤は、乾燥粉体において、一次粒子の平均粒子径100nm以下であると、より鮮明な青色の着色物を得られやすいので好ましい。
本発明において一次粒子の平均粒子径とは、次の様に測定される。まず、透過型電子顕微鏡または走査型電子顕微鏡で視野内の粒子を撮影する。そして、二次元画像上の、凝集体を構成する一次粒子の50個につき、個々の粒子の内径の最長の長さ(最大長)を求める。個々の粒子の最大長の平均値を一次粒子の平均粒子径とする。
一方、上記したトリアリールメタン顔料と共に用いられる、側鎖の炭素原子数が異なる(メタ)アクリル酸エステル2種以上の共重合体(B)は、公知慣用のものをいずれも用いることが出来る。(メタ)アクリル酸エステルとは、(メタ)アクリル酸とその他の各種アルコールとから形成される様なエステル結合を含有する化合物であり、上記アルコールに由来する、エステル結合COOの末端に炭素原子鎖を含有するものを言う。典型的には、前記炭素鎖がアルキル基であるものが、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと称されている。(メタ)アクリル酸アルキルエステルで言えば、側鎖はアルキル基を意味する。当業界では、(メタ)アクリル酸アルキルエステルばかりでなく、上記炭素鎖がアルキル基以外の化合物もよく知られていることから、本発明においては(メタ)アクリル酸アルキルエステルだけでなく、炭素鎖が、アルキル基以外の化合物を含めて、(メタ)アクリル酸エステルと称するものとする。
この様な(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、iso−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート〔ラウリル(メタ)アクリレート〕、オクタデシル(メタ)アクリレート〔ステアリル(メタ)アクリレート〕等のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等の脂環基を含有する(メタ)アクリル酸エステル;
メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール#400(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルカルビトール(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、p−ノニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、p−ノニルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のエーテル基を含有する(メタ)アクリル酸エステル;ベンジル(メタ)アクリレート等の芳香環を含有する(メタ)アクリル酸エステル;
などを挙げることが出来る。
本発明において、側鎖の炭素原子数が異なる(メタ)アクリル酸エステル2種以上の共重合体(B)とは、上記した様な各種(メタ)アクリル酸エステルの中から側鎖の炭素原子数が異なるものを2種以上選択して組み合わせて共重合させることにより得られた重合体を意味する。
共重合体(B)としては、ガラス転移温度(Tg)が出来るだけ高い方が、それ自体の耐熱性に優れるものの、有機顔料(A)と併用した際に、相互作用により優れた耐熱性を発揮できる点で、Tg0〜150℃である共重合体がより好ましい。
共重合体(B)としては、どの様な分子量のものでも用いることは出来るが、具体的には、重量平均分子量5,000〜100,000の共重合体が、有機顔料(A)に対する親和性が大きく、耐熱性の向上効果もより大きいことから好ましい。
共重合体(B)は、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の従来より公知の種々の反応方法によって合成することが出来る。この際には、公知慣用の重合開始剤、界面活性剤及び消泡剤を併用することも出来る。
共重合体(B)は、上記した側鎖の炭素原子数が異なる(メタ)アクリル酸エステル2種以上を必須単量体として、それらに共重合可能なその他の共単量体を併用して共重合させたものであっても良い。
この様な共単量体としては、例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、第3級カルボン酸ビニル等のビニルエステル類;ビニルピロリドン等の複素環式ビニル化合物;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化オレフィン類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアノ基含有単量体;エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;メチルビニルケトン等のビニルケトン類;エチレン、プロピレン等のα−オレフィン類;ブタジエン、イソプレン等のジエン類;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、ジメチルスチレン、tert−ブチルスチレン、クロロスチレン等のスチレン系単量体が挙げられる。
本発明者等によれば、共重合体(B)は、(メタ)アクリル酸エステル2種以上に由来する、異なる炭素原子数の側鎖のみならず、更にエポキシ基をも含有する共重合体の方が、異なる炭素原子数の側鎖のみを含有する共重合体よりも、熱履歴を受けてもより色相が変化し難く、耐熱性に優れていることを知見した。
前記したエポキシ基の共重合体への導入方法としては、特に限定されず、エポキシ基を含有したラジカル重合性単量体を必須成分として重合しても、先に合成した共重合体に後からエポキシ基修飾をしても良いが、導入が容易であることから、側鎖の炭素原子数が異なる(メタ)アクリル酸エステル2種以上とエポキシ基を含有した単量体を必須成分として重合する方が好ましい。
エポキシ基を有する単量体としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル等のエポキシ基含有単量体が挙げられる。
共重合体(B)として、好適な、前記した側鎖の炭素原子数が異なる(メタ)アクリル酸エステル2種以上とエポキシ基を含有した単量体を必須成分として重合した共重合体としては、共重合体(B)を構成する全単量体を質量換算で100%としたときに、エポキシ基を有する単量体が全単量体の3〜35質量%である共重合体が、側鎖の炭素原子数が異なる(メタ)アクリル酸エステル2種以上のみからの共重合体に比べても、より高い耐熱性が得られると共に、着色が必要な被着色媒体への分散性も良好となることから好ましい。
エポキシ基を有する単量体が全単量体の3〜35質量%である共重合体においては、エポキシ基を有する単量体の占める量が多いほど、熱履歴を受けた際の彩度や色度の変化が小さくなる傾向にある。
本発明の有機顔料組成物は、質量換算でトリアリールメタン顔料(A)100部当たり、側鎖の炭素原子数が異なる(メタ)アクリル酸エステル2種以上の共重合体(B)不揮発分が0.1〜15部となる様に含有されていれば良いが、中でも有機顔料(A)100部当たり0.5〜12部、特に1〜10部であると、共重合体(B)を含有させることより、本発明における技術的効果、被着色媒体への分散性や分散安定性等のその他の技術的効果、経済性等の最もバランスが取れた有機顔料組成物と出来るので好ましい。
この様な本発明の有機顔料組成物は、トリアリールメタン顔料(A)と共重合体(B)とを任意の手段で混合することで調製することが出来る。トリアリールメタン顔料は、フタロシアニン顔料ほどはそれ自体の耐久性が高くはないことから、加圧加熱法やソルベントソルトミリング法を適用するのには適していない。このため調製方法としては、例えば、トリアリールメタン顔料(A)と共重合体(B)不揮発分とを混合する方法、共重合体(B)の液媒体溶液中にトリアリールメタン顔料(A)を混合し撹拌し、濾過乾燥する方法等がある。
トリアリールメタン顔料(A)と共重合体(B)不揮発分とを均一に混合するために、例えばトリアリールメタン顔料(A)と共重合体(B)不揮発分以外の有機溶剤などを含む混合物は、例えば冷却し、そこから液媒体を除去し、必要に応じて、固形物を洗浄、濾過、乾燥、粉砕等をすることにより、トリアリールメタン顔料(A)と共重合体(B)不揮発分とを含有する本発明の有機顔料組成物の粉体を得ることが出来る。
上記した通り、トリアリールメタン顔料はフタロシアニン顔料ほどにはその化学構造の耐久性が無いことから、著しい高温で乾燥させたり、強い機械的応力をかけて粉砕したりすることは好ましくない。
洗浄としては、水洗、湯洗のいずれも採用できる。洗浄回数は、1〜5回の範囲で繰り返すことも出来る。洗浄することで、トリアリールメタン顔料(A)に吸着していない共重合体(B)を容易に除去することが出来る。有機顔料組成物に含有された、有効成分である、共重合体(B)不揮発分の量(いわゆる歩留まり)は、例えば有機顔料組成物の溶媒抽出による共重合体抽出量から、或いは、仕込共重合体(B)に対する濾液中の流出量から求めることが出来る。
上記した濾別、洗浄後の乾燥としては、例えば、減圧乾燥を行うことが好ましい。また、乾燥後の粉砕は、比表面積を大きくしたり一次粒子の平均粒子径を小さくするための操作ではなく、例えば箱型乾燥機、バンド乾燥機を用いた乾燥の場合のように顔料がランプ状等のとなった際に顔料を解して粉末化するために行うものであり、例えば、乳鉢、ハンマーミル、ディスクミル、ピンミル、ジェットミル等による粉砕等が挙げられる。こうして、トリアリールメタン顔料(A)と共重合体(B)とを含有する有機顔料組成物を主成分として含む乾燥粉末が得られる。
本発明の有機顔料組成物は、遊離金属、遊離金属イオン源の様な不純物を含んでいても良いが、それをカラーフィルタの画素部の着色に用いる様な場合は、前記した不純物は出来るだけ少ない方が好ましい。
本発明における有機顔料組成物は、液媒体中への分散性、分散安定性が高く、後記する顔料分散液の粘度は低く、かつ微細な粒子に分散していることからニュートン流動性も高いまま安定し、例えばこれからカラーフィルタ画素部を製造した場合には、均質な塗膜を形成して輝度、コントラストおよび光透過率のいずれもが高いカラーフィルタを得ることができる。
こうして得られた本発明の有機顔料組成物は、被着色媒体を着色した際の着色物は鮮明で彩度に優れ、熱履歴を長時間に亘り受けても着色物の色相が大きく変化せずに耐熱性に優れている。従って、カラーフィルタの画素部の着色をはじめとして、塗料、プラスチック、印刷インク、ゴム、レザー、捺染、電子写真用トナー、インクジェットインキ、熱転写インキなどの着色にも適する。
本発明の有機顔料組成物をカラーフィルタの画素部を形成するために用いる場合には、必要に応じて、ε型銅フタロシアニン顔料やジオキサジン顔料を更に含有させることが出来る。
更には、本発明の有機顔料組成物には、ビックケミー社のディスパービック130、ディスパービック161、ディスパービック162、ディスパービック163、ディスパービック170、ディスパービック171、ディスパービック174、ディスパービック180、ディスパービック182、ディスパービック183、ディスパービック184、ディスパービック185、ディスパービック2000、ディスパービック2001、ディスパービック2020、ディスパービック2050、ディスパービック2070、ディスパービック2096、ディスパービック2150、ディスパービックLPN21116、ディスパービックLPN6919エフカ社のエフカ46、エフカ47、エフカ452、エフカLP4008、エフカ4009、エフカLP4010、エフカLP4050、LP4055、エフカ400、エフカ401、エフカ402、エフカ403、エフカ450、エフカ451、エフカ453、エフカ4540、エフカ4550、エフカLP4560、エフカ120、エフカ150、エフカ1501、エフカ1502、エフカ1503、ルーブリゾール社のソルスパース3000、ソルスパース9000、ソルスパース13240、ソルスパース13650、ソルスパース13940、ソルスパース17000、18000、ソルスパース20000、ソルスパース21000、ソルスパース20000、ソルスパース24000、ソルスパース26000、ソルスパース27000、ソルスパース28000、ソルスパース32000、ソルスパース36000、ソルスパース37000、ソルスパース38000、ソルスパース41000、ソルスパース42000、ソルスパース43000、ソルスパース46000、ソルスパース54000、ソルスパース71000、味の素株式会社のアジスパーPB711、アジスパーPB821、アジスパーPB822、アジスパーPB814、アジスパーPN411、アジスパーPA111等の分散剤や、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、アルキッド系樹脂、ウッドロジン、ガムロジン、トール油ロジン等の天然ロジン、重合ロジン、不均化ロジン、水添ロジン、酸化ロジン、マレイン化ロジン等の変性ロジン、ロジンアミン、ライムロジン、ロジンアルキレンオキシド付加物、ロジンアルキド付加物、ロジン変性フェノール等のロジン誘導体等の、室温で液状かつ水不溶性の合成樹脂を含有させることが出来る。これら分散剤や、樹脂の添加は、フロッキュレーションの低減、顔料の分散安定性の向上、分散体の粘度特性を向上にも寄与する。
本発明の有機顔料組成物は、公知慣用の用途にいずれも使用できるが、カラーフィルタの画素部に含有させる場合には、それは、特に一次粒子の平均粒子径が0.01〜0.10μmであると、顔料凝集も比較的弱く、着色すべき合成樹脂等への分散性がより良好となる。
上記した本発明の有機顔料組成物を、カラーフィルタのB画素部に含有させることで、カラーフィルタとすることが出来る。また、例えばC.I.ピグメントレッド254の様なジケトピロロピロール顔料からはR画素を、C.I.ピグメントグリーン36や同58の様なハロゲン化金属フタロシアニン顔料からはG画素を得ることが出来る。
上記した通り、本発明の有機顔料組成物は、公知の方法でカラーフィルタのB画素部のパターンの形成に用いることが出来る。典型的には、本発明のカラーフィルタ用顔料組成物と、感光性樹脂とを必須成分して含むカラーフィルタ画素部用感光性組成物を得ることが出来る。
カラーフィルタの製造方法としては、例えば、本発明の有機顔料組成物を感光性樹脂からなる分散媒に分散させた後、スピンコート法、ロールコート法、インクジェット法等でガラス等の透明基板上に塗布し、ついでこの塗布膜に対して、フォトマスクを介して紫外線によるパターン露光を行った後、未露光部分を溶剤等で洗浄して各色パターンを得る、フォトリソグラフィーと呼ばれる方法が挙げられる。
その他、電着法、転写法、ミセル電解法、PVED(Photovoltaic Electrodeposition)法の方法で各色画素部のパターンを形成して、カラーフィルタを製造してもよい。本発明の有機顔料組成物は、熱履歴を受けても色相変化が小さいため、例えば、ベーキングを工程に含む様なカラーフィルタの製造方法においては、極めて有用である。
カラーフィルタ画素部用感光性組成物を調製するには、例えば、本発明の有機顔料組成物と、感光性樹脂と、光重合開始剤と、前記樹脂を溶解する有機溶剤とを必須成分として混合する。その製造方法としては、本発明の有機顔料組成物と有機溶剤と必要に応じて分散剤を用いて分散液を調製してから、そこに感光性樹脂等を加えて調製する方法が一般的である。
必要に応じて用いる分散剤としては、例えばビックケミー社のディスパービック(DisperbyK登録商標)130、ディスパービック161、ディスパービック162、ディスパービック163、ディスパービック170、エフカ社のエフカ46、エフカ47等が挙げられる。また、レベンリグ剤、カップリング剤、カチオン系の界面活性剤なども併せて使用可能である。
有機溶剤としては、例えばトルエンやキシレン、メトキシベンゼン等の芳香族系溶剤、酢酸エチルや酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等の酢酸エステル系溶剤、エトキシエチルプロピオネート等のプロピオネート系溶剤、メタノール、エタノール等のアルコール系溶剤、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、ヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶剤、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクタム、N−メチル−2−ピロリドン、アニリン、ピリジン等の窒素化合物系溶剤、γ−ブチロラクトン等のラクトン系溶剤、カルバミン酸メチルとカルバミン酸エチルの48:52の混合物のようなカルバミン酸エステル、水等がある。有機溶剤としては、特にプロピオネート系、アルコール系、エーテル系、ケトン系、窒素化合物系、ラクトン系、水等の極性溶媒で水可溶のものが適している。
本発明の有機顔料組成物100質量部当たり、300〜1000質量部の有機溶剤と、必要に応じて0〜100質量部の分散剤及び/又は0〜20質量部のフタロシアニン誘導体とを、均一となる様に攪拌分散して分散液を得ることができる。次いでこの分散液に、本発明の有機顔料組成物1質量部当たり、3〜20質量部の感光性樹脂、感光性樹脂1質量部当たり0.05〜3質量部の光重合開始剤と、必要に応じてさらに有機溶剤を添加し、均一となる様に攪拌分散してカラーフィルタ画素部用感光性組成物を得ることができる。
この際に使用可能な感光性樹脂としては、例えばウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド酸系樹脂、ポリイミド系樹脂、スチレンマレイン酸系樹脂、スチレン無水マレイン酸系樹脂等の熱可塑性樹脂や、例えば1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ビス(アクリロキシエトキシ)ビスフェノールA、3−メチルペンタンジオールジアクリレート等のような2官能モノマー、トリメチルロールプロパトントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアネート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート等のような多官能モノマー等の光重合性モノマーが挙げられる。
光重合開始剤としては、例えばアセトフェノン、ベンゾフェノン、ベンジルジメチルケタノール、ベンゾイルパーオキサイド、2−クロロチオキサントン、1,3−ビス(4'−アジドベンザル)−2−プロパン、1,3−ビス(4'−アジドベンザル)−2−プロパン−2'−スルホン酸、4,4'−ジアジドスチルベン−2,2'−ジスルホン酸等がある。
こうして調製されたカラーフィルタ画素部用感光性組成物は、フォトマスクを介して紫外線によるパターン露光を行った後、未露光部分を有機溶剤やアルカリ水等で洗浄することによりカラーフィルタとなすことができる。
以下、合成例、比較合成例、実施例、比較例を用いて、本発明を具体的に示す。これらの例中、「%」は質量パーセントを意味するものとする。
(合成例1)
合成例1と同様の4つ口フラスコに、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート1540部を仕込み、窒素気流下で110℃に昇温した後、メチルメタクリレート597部、n−ブチルメタクリレート261部、グリシジルメタクリレート142部及びTBPEH18部からなる混合液を4時間かけて滴下した。滴下終了後、110℃にて7時間反応させて、不揮発分39.8%、重量平均分子量15,000の共重合体(B−1)の溶液を得た。
(合成例2)
<ドーソン型(P2MoW17O62)6−ヘテロポリオキソメタレートでレーキされたトリアリールメタン顔料の合成>
「K6(P2MoW17O62)」の調整
Na2WO4・2H2O(和光純薬工業株式会社製試薬)44.0g、Na2MoO4・2H2O(関東化学株式会社製試薬)1.90gを精製水230gに溶解した。この溶液に攪拌しながら85%リン酸64.9gを滴下ロートを用いて添加した。得られた溶液を8時間、加熱還流した。反応液を室温に冷却し、臭素水1滴を加え、攪拌しながら塩化カリウム45.0gを添加することで、K6(P2MoW17O62)を得た。
さらに、1時間攪拌後、生じた黄色の沈殿K6(P2MoW17O62)を濾別した。得られた個体を90℃で乾燥し、収量29.4gを得た。
FT−IR分析結果:(KBr/cm−1)
1091,960,915,783,530。
上記FT−IR分析結果から、この乾燥物は、K6(P2MoW17O62)であることを確認した。
C.I.ベーシックブルー7(東京化成株式会社製試薬)5.30gを精製水350gに投入し、40℃で攪拌させて溶解した。次に、上記調製例1の方法で得たK6(P2MoW17O62)10.0gを精製水40.0gに溶解した後、C.I.ベーシックブルー7溶液にゆっくりと加え、そのまま40℃で1時間攪拌した。次いで、内温を80℃に上げ、さらに該温度で1時間攪拌した。冷却後ろ過し、300gの精製水で3回洗浄した。得られた固体を90℃で乾燥させた後、黒青色固体が10.4g得られた。該固体を市販のジューサーにて粉砕して、上記式(I)においてR1がいずれもエチル基であり、X−が(P2MoW17O62)/6で表されるヘテロポリオキソメタレートからなるアニオンであるトリアリールメタン顔料を得た。
FT−IR分析結果:(KBr/cm−1)
2970,1579,1413,1342,1273,1185,1155,1073,954,911,786。
C.I.ベーシックブルー7のFT−IRの分析結果、及びK6(P2MoW17O62)のFT−IR分析結果及び上記生成物のFT−IRの分析結果から、この生成物は、C.I.ベーシックブルー7のカチオン構造とK6(P2MoW17O62)のアニオン構造が維持されていることを確認した。一次粒子の平均粒子径は、100nm以下であった。