JP5825086B2 - α−置換−β−アミノ酸エステル誘導体不斉加水分解酵素 - Google Patents

α−置換−β−アミノ酸エステル誘導体不斉加水分解酵素 Download PDF

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Description

本発明は、α−置換−β−アミノ酸エステル誘導体不斉加水分解酵素等に関する。
光学活性なα−置換−β−アミノ酸誘導体は、医薬原体化合物、農薬及び生理活性物質を製造するための製造用原料又は中間体化合物として有用である。例えば特許文献1には抗菌剤の製造用原料としての光学活性なα−置換−β−アミノ酸誘導体が記載されている。また、非特許文献1及び2には、cytotoxic depsipeptide cryptophycin(腫瘍選択的サイトトキシン(細胞毒素)デプシペプチドであるクリプトフィシン)の中間原料として光学活性α−置換−β−アミノ酸誘導体が記載されている。
加水分解酵素は、基質を加水分解する能力を有し、近年、例えば、医農薬の有効成分となる化合物やその中間体、特に光学活性化合物やその中間体等を製造する為の有機合成反応に利用されている。そして、例えば、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有し、かつ、基質を加水分解する能力を有する酵素(加水分解酵素)が知られている(例えば、特許文献2参照)。
このような、光学活性化合物やその中間体等を製造する為に工業的に利用される加水分解酵素は、当該酵素による加水分解反応における反応生成物の光学純度が高いこと、基質の絶対立体配置に対する当該酵素の認識性が高いこと、温度・pH・溶媒・圧力等の各種反応条件に対する安定性が高いこと等の性能を備えていることが望ましい。中でも反応生成物の光学純度が高いと(即ち、加水分解酵素の光学選択性が高いと)、酵素反応後の精製工程が不要であり、良好な生産性で光学活性化合物が合成できる。
国際特許公開02/102790号公報
J.Am.Chem.Soc.1995, 117,2479. J.Chem.Soc.,Perkin Trans.1, 2000, 1461. 特許第3875283号
そこで、反応工程の短縮および生産性の向上を図るうえで、高い光学選択性を有する加水分解酵素の開発が切望されている。
本発明者らは、このような状況下鋭意検討を行った結果、ある種の加水分解酵素のアミノ酸配列を有する加水分解酵素が優れた光学選択性を示すことを見い出し、本発明に至った。
即ち、本発明は、
1)下記(a)又は(b)の酵素(以下、本発明酵素と記すこともある。);
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、少なくとも1番目から362番目で示されるアミノ酸配列を有し、277番目のチロシンがアラニン、トリプトファン、イソロイシン、または、ヒスチジンに置換されていることを特徴とする酵素
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、少なくとも1番目から362番目で示されるアミノ酸配列を有し、277番目のチロシンがチロシンとは異なるアミノ酸に置換され、かつ、基質を加水分解する能力を有することを特徴とする酵素;
2)前項1記載の酵素が有するアミノ酸配列をコードする塩基配列を有することを特徴とするポリヌクレオチド(以下、本発明遺伝子と記すこともある。);
3)前項2記載のポリヌクレオチドを含有することを特徴とするベクター(以下、本発明ベクターと記すこともある。);
4)前項2記載のポリヌクレオチドが導入されることを特徴とする形質転換体(以下、本発明形質転換体と記すこともある。);
5)前項3記載のベクターを含有することを特徴とする形質転換体;
6)前項4又は5記載の形質転換体を培養することを特徴とする酵素の製造方法;
7)配列番号1で示されるアミノ酸配列を有する酵素の改変方法であり、配列番号1で示されるアミノ酸配列において、277番目のチロシンをアラニン、トリプトファン、イソロイシン、または、ヒスチジンに置換する工程を含むことを特徴とする方法(以下、本発明酵素改変方法と記すこともある。);
8)配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するポリヌクレオチドの改変方法であり、配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列において、829番目から831番目までの、チロシンをコードするコドンを、アラニン、トリプトファン、イソロイシン、または、ヒスチジンをコードするコドンに置換する工程を含むことを特徴とする方法(以下、本発明遺伝子改変方法と記すこともある。);
本発明により、医農薬の有効成分となる光学活性化合物やその中間体、特に光学活性なα−置換−β−アミノ酸誘導体等を製造する為の有機合成反応に利用される、光学選択性に優れた加水分解酵素等が提供可能となる。
本明細書に記載される発明は記載されている特定の方法論、プロトコール、及び、試薬に限定されず、可変であると考えられる。また、本明細書で用いる用語は単に特定の実施形態を記載するためのものであり、本発明の範囲を何ら限定するものではないと考えられる。
特に断りの無い限り、本明細書で用いる全ての技術用語、及び、化学用語は、本発明が属する技術分野の熟練者に共通に理解されているものと同じ意味を持つ。本発明を実施又は試験する上で、本明細書に記載されているものと同様又は同等の方法、及び、材料のいずれを用いてもよいが、以下、好ましい方法、装置、及び、材料を記載する。
以下、更に詳細に本発明を説明する。
本出願において、例えば「277I」とは、配列番号1で示されるアミノ酸配列において、277番目(「277」:アミノ酸配列のN末端からの位置番号)のチロシンがイソロイシン(「I」:一文字表記)に置換されるアミノ酸変異を有すること以外には配列番号1で示されるアミノ酸配列と同等なアミノ酸配列を有する酵素を意味している。
本発明酵素において「基質を加水分解する能力」(以下、加水分解酵素活性と記すこともある。)は、例えば、水の存在下、酵素と、基質となるα−置換−β−アミノ酸エステル誘導体(具体的には例えば、2−n−ブチル−3−[(N−ベンジルオキシ−N−ホルミル)アミノ]プロパン酸エチルエステル)を混合し、次いで当該混合物を25℃で保温した後、得られた反応液中のα−置換−β−アミノ酸誘導体(具体的には例えば、2−n−ブチル−3−[(N−ベンジルオキシ−N−ホルミル)アミノ]プロパン酸)の光学純度および化学純度を高速液体クロマトグラフィーにて定量することにより測定することができる。
本発明酵素は、下記(a)又は(b)の酵素である。
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、少なくとも1番目から362番目で示されるアミノ酸配列を有し、277番目のチロシンがアラニン、トリプトファン、イソロイシン、または、ヒスチジンに置換されていることを特徴とする酵素。
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、少なくとも1番目から362番目で示されるアミノ酸配列を有し、277番目のチロシンがチロシンとは異なるアミノ酸に置換され、かつ、基質を加水分解する能力を有することを特徴とする酵素。
尚、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有する酵素(野生型加水分解酵素)は、クロモバクテリウム(Chromobacterium)SC−YM−1株(FERM BP−6703)由来の公知の加水分解酵素である。また、野生型加水分解酵素を組換え大腸菌で生産させると、完全長加水分解酵素以外に加水分解活性を有するC末端アミノ酸が8個欠失した(C末端アミノ酸は362 Glu)加水分解酵素分解物が生じるために、配列番号1で示されるアミノ酸のうち、少なくとも1番目から362番目のアミノ酸配列を有する加水分解酵素であればよい。
本発明酵素のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するポリヌクレオチド(即ち、本発明遺伝子と記すこともある。)を取得するには、例えば、以下の方法を用いればよい。
まず、野生型加水分解酵素のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するポリヌクレオチド(以下、野生型遺伝子と記すこともある。)を取得する。例えば、J.Sambrook、E.F.Fritsch、T.Maniatis著;モレキュラー クローニング 第2版(Molecular Cloning 2nd edition)、コールドスプリングハーバー ラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory)発行、1989年、等に記載される通常の遺伝子工学的手法に準じて、クロモバクテリウム(Chromobacterium)SC−YM−1株(工業技術院 生命工学技術研究所 寄託番号 FERM BP−6703)から取得することができる。具体的には、クロモバクテリウム(Chromobacterium)SC−YM−1株(工業技術院 生命工学技術研究所 寄託番号 FERM BP−6703)から通常の方法に準じて、ゲノムDNAを抽出する。微生物菌体を超音波破砕等の通常の方法によって破壊して、そしてプロテアーゼ処理等を行った後、ゲノムDNAを抽出する。得られたゲノムDNAを適当な制限酵素で切断し、例えば、ファージベクターであるλgt11、あるいはプラスミドベクターであるpUC19などにリガーゼを用いて挿入することによりゲノムDNAライブラリーを作製する。それを例えば、エステラーゼに対する抗体を用いた免疫学的方法、エステラーゼの部分アミノ酸配列に対応した合成DNAプローブを用いたハイブリダイゼーション法、エステラーゼの活性を測定する方法等のスクリーニング法により、野生型遺伝子を取得することができる。また、適切なプライマーを用いてPCRを行うことにより、配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するポリヌクレオチド、配列番号1で示されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するポリヌクレオチド等を増幅することにより、野生型遺伝子を調製することができる。
次いで、得られた野生型遺伝子に下記の部位特異的変異を導入することによって、本発明遺伝子を調製することができる。部位特異的変異導入法は、原型の遺伝子(ここでは野生型遺伝子である。)が組み込まれたプラスミドの1本鎖DNAを鋳型にして、変異を導入する塩基配列を含む合成オリゴヌクレオチドをプライマーとして変異型の遺伝子(ここでは本発明遺伝子である。)を合成するものである。本発明では、配列番号1で示されるアミノ酸配列において277番目のアミノ酸がチロシンとは異なるアミノ酸に置換されるように変異プライマーを調製し、PCR法による増幅を行えばよい。好ましくは、277番目のアミノ酸がアラニン、トリプトファン、イソロイシン、または、ヒスチジンに置換されるような特異的変異が良い。
ここで「部位特異的変異導入法」としては、例えば、 Olfert Landt ら(Gene 96 125−128 1990)、Smithら(Genetic Engineering 3 1 Setlow,J.and Hollaender,A Plenum:New York)、Vlasukら(Experimental Manipulation of Gene Expression,Inouye,M.:Academic Press,New York)、Hos.N.Huntら(Gene 77 51 1989)等の方法や、Mutan−Express Km(宝酒造社製)、TaKaRa La PCR in vitro Mutagenesis Kit(宝酒造社製)、QuickChange II Site−Directed Mutagenesis Kit(STRATAGNEN社製)等の市販キットの利用を挙げることができる。
具体的には例えば、Olfert Landtら(Gene 96 125−128 1990)の方法を用いて、
配列番号1で示されるアミノ酸配列において、少なくとも1番目から362番目で示されるアミノ酸配列を有し、277番目のチロシンがチロシンとは異なるアミノ酸に置換されたアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを調製するには、まず、野生型遺伝子が組み込まれたベクター(DNA)を、例えば、J.sambrook、E.F.Fritsch、T.Maniatis著;モレキュラー クローニング 第2版(Molecular Cloning 2nd edition)、コールドスプリング ハーバー ラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory)発行、1989年等に記載される方法に準じて調製する。
次いで、得られたベクター(DNA)を鋳型にして、例えば、配列番号1で示されるアミノ酸配列における277番目のチロシンがアラニン、トリプトファン、イソロイシン、または、ヒスチジンに置換されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むオリゴヌクレオチド(例えば、配列番号2で示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチド)をセンスプライマーとして用い、配列番号3で示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドをアンチセンスプライマーとして用いて、PCR法によるDNA断片の増幅を行う。ここで、PCR反応の条件としては、例えば、95℃にて1分間保温した後、95℃にて50秒間、次いで55℃にて1分間、更に68℃にて5分間保温する処理を12サイクル行い、最後に4℃で保温する条件等を挙げることができる。このようにして増幅されたDNA断片を含むPCR反応液に、DpnI restriction enzymeを添加した後、37℃で1時間保温後、本発明遺伝子が組み込まれたベクター(DNA)にて大腸菌を形質転換し、得られた形質転換体からベクターを精製することにより、目的とする本発明遺伝子を得ることができる。
本発明酵素としては、アミノ酸変異を含むが、例えば、配列番号1で示されるアミノ酸配列において、277番目のチロシンがチロシンとは異なるアミノ酸に置換されるアミノ酸変異を含むことができる。また、配列番号1で示されるアミノ酸のうち、少なくとも1番目から362番目のアミノ酸配列を有する加水分解酵素であってもよい。
前記の「チロシンとは異なるアミノ酸」とは、タンパク質を構成する20種類のアミノ酸からチロシンを除いたいずれかのアミノ酸を意味し、例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、リシン、アルギニン、ヒスチジン、プロリン、フェニルアラニン、または、トリプトファンを挙げることができ、アラニン、トリプトファン、イソロイシン、または、ヒスチジンが好ましい。
本発明酵素を取得するには、本発明遺伝子を微生物等の宿主細胞中で発現させることができるベクターを調製し、これを宿主細胞に導入して宿主細胞を形質転換させることにより形質転換体を作製する。次いで作製された形質転換体を通常の細胞培養方法に従い培養すればよい。このようにして、本発明酵素を大量に製造し、取得することができる。
本発明ベクターは、本発明遺伝子を含有する。
本発明ベクターの調製は、本発明遺伝子を、本発明遺伝子が導入される宿主細胞において利用可能なベクター例えば、宿主細胞中で複製可能な遺伝情報を含み、自立的に増殖でき、宿主細胞からの単離、精製が可能であり、検出可能なマーカーを持つベクター(以下、基本ベクターと記すこともある。)に通常の遺伝子工学的手法に準じて、組み込むことにより構築すればよい。
ここで「基本ベクター」としては、大腸菌を宿主細胞とする場合には、例えば、ベクターpUC119(宝酒造社製)、ファージミドpBluescriptII(Stratagene社製)等を挙げることができる。また、出芽酵母を宿主細胞とする場合には、例えば、ベクターpGBT9、pGAD424、pACT2(Clontech社製)等を挙げることができる。また、哺乳類動物細胞を宿主細胞とする場合には、例えば、pRc/RSV、pRc/CMV(Invitrogen社製)等のベクター、ウシパピローマウイルスベクターpBPV(アマシャムファルマシアバイオテク社製)、EBウイルスベクターpCEP4(Invitrogen社製)等のウイルス由来の自律複製起点を含むベクター、ワクシニアウイルス等のウイルス等を挙げることができる。また、昆虫類動物細胞を宿主細胞とする場合には、例えば、バキュロウイルス等の昆虫ウイルスを挙げることができる。
尚、本発明ベクターを、自律複製起点を含むベクター(具体的には例えば、酵母用ベクターpACT2、ウシパピローマウイルスベクターpBPV、EBウイルスベクターpCEP4等)を用いて構築すると、当該ベクターは宿主細胞に導入された際にエピソームとして細胞内に保持される。
本発明遺伝子を微生物等の宿主細胞中で発現させることができるベクターを、宿主細胞に導入して宿主細胞を形質転換させることにより、形質転換体を作製する。次いで作製された形質転換体を通常の細胞培養方法に従い培養することにより、本発明酵素を大量に製造し、取得することができる。
本発明遺伝子を微生物等の宿主細胞中で発現させることができるベクターは、本発明遺伝子の上流に、微生物等の宿主細胞で機能可能なプロモーターを機能可能な形で結合させ、これを上記のような基本ベクターに組み込むことにより調製すればよい。
ここで、「機能可能な形で結合させ(る)」とは、本発明遺伝子が導入される微生物等の宿主細胞において、プロモーターの制御下に本発明遺伝子が発現されるように、当該プロモーターと本発明遺伝子とを結合させることを意味する。宿主細胞で機能可能なプロモーターとしては、導入される宿主細胞内でプロモーター活性を示すDNAを挙げることができる。例えば、宿主細胞が大腸菌である場合には、大腸菌のラクトースオペロンのプロモーター(lacP)、トリプトファンオペロンのプロモーター(trpP)、アルギニンオペロンのプロモーター(argP)、ガラクトースオペロンのプロモーター(galP)、tacプロモーター、T7プロモーター、T3プロモーター、λファージのプロモーター(λ−pL、λ−pR)等を挙げることができる。また、宿主細胞が動物細胞や分裂酵母である場合には、例えば、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、シミアンウイルス(SV40)の初期又は後期プロモーター、マウス乳頭腫ウイルス(MMTV)プロモーター等を挙げることができる。また、宿主細胞が出芽酵母である場合には、例えば、ADH1プロモーター(尚、ADH1プロモーターは、例えば、ADH1プロモーター及び同ターミネーターを保持する酵母発現ベクターpAAH5 〔Washington Research Fundation から入手可能、Ammerer ら、Method in Enzymology、101 part(p.192−201)〕から通常の遺伝子工学的方法により調製することができる。)等を挙げることができる。
また、宿主細胞において機能するプロモーターを予め保有する基本ベクターを使用する場合には、前記プロモーターと本発明遺伝子とが機能可能な形で結合するように、上記のプロモーターの下流に本発明遺伝子を挿入すればよい。例えば、pRc/RSV、pRc/CMV等である場合には、動物細胞で機能可能なプロモーターの下流にクローニング部位が設けられている。当該クローニング部位に本発明遺伝子を挿入することにより得られるベクターを動物細胞へ導入することにより、当該動物細胞において本発明遺伝子を発現させることができる。これらのベクターには予めSV40の自律複製起点(ori)が組み込まれているため、oriを欠失したSV40ゲノムで形質転換された培養細胞、例えば、COS細胞等に当該ベクターを導入すると、細胞内でベクターのコピー数が非常に増大し、結果として当該ベクターに組み込まれた本発明遺伝子を大量発現させることもできる。また上記の酵母用ベクターpACT2はADH1プロモーターを有しており、当該ベクター又はその誘導体のADH1プロモーターの下流に本発明遺伝子を挿入すれば、本発明遺伝子を、例えば、CG1945(Clontech社製)等の出芽酵母内で大量発現させることが可能なベクターが構築できる。さらには本発明遺伝子上流にリボゾーム結合領域を連結することにより、より高発現が可能となる。リボゾーム結合領域としてはGuarente.Lら(Cell 20 p543(1980)) の報告や谷口ら(Genetics of Industrial Microorganismsp202 (1982) 講談社)の報告が知られているが、望ましくは本発明遺伝子の発現に適したリボゾーム結合領域を設計し、合成してもよい。
宿主細胞としては、微生物の場合には、例えば、真核生物、原核生物等を挙げることができる。好ましくは、例えば、大腸菌等を挙げることができる。当該宿主細胞に、通常の遺伝子工学的方法により、上記のようなベクターを導入することにより、宿主細胞を形質転換することができる。
本発明ベクターを宿主細胞へ導入する方法は、宿主細胞に応じた通常の導入方法を適用すればよい。大腸菌を宿主細胞とする場合には、例えば、J.Sambrook, E.F.Frisch, T.Maniatis著;「 モレキュラー・クローニング 第2版(Molecular Cloning 2nd edition)、コールドスプリングハーバーラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory発行、1989年)等に記載される塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法等の通常の方法を挙げることができる。また、哺乳類動物細胞又は昆虫類動物細胞を宿主細胞とする場合には、例えば、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法等の通常の遺伝子導入法を挙げることができる。また、酵母を宿主細胞とする場合には、例えば、Yeast transformation kit(Clontech社製)等で用いられるリチウム法の通常の方法を挙げることができる。尚、ウイルスをベクターとして用いる場合には、上記のように一般的な遺伝子導入法によりウイルスのゲノムを宿主細胞に導入できるほか、本発明遺伝子の挿入されたウイルスのゲノムを含有するウイルス粒子を、宿主細胞へ感染させることによっても、当該ウイルスのゲノムを宿主細胞に導入することができる。
本発明形質転換体を選抜するには、例えば、本発明ベクターと同時にマーカー遺伝子が導入された宿主細胞を、マーカー遺伝子の性質に応じた方法によって培養すればよい。例えば、マーカー遺伝子が、宿主細胞に致死活性を示す選抜薬剤に対する薬剤耐性を付与する遺伝子である場合には、当該選抜薬剤が添加された培地を用いて、本発明ベクターが導入された宿主細胞を培養すればよい。薬剤耐性を付与する遺伝子と選抜薬剤との組み合わせとしては、例えば、ネオマイシン耐性付与遺伝子とネオマイシンとの組み合わせ、ハイグロマイシン耐性付与遺伝子とハイグロマイシンとの組み合わせ、ブラストサイジンS耐性付与遺伝子とブラストサイジンSとの組み合わせ等をあげることができる。また、マーカー遺伝子が宿主細胞の栄養要求性を相補する遺伝子である場合には、当該栄養要求性に対応する栄養素を含まない最少培地を用いて、本発明ベクターが導入された細胞を培養すればよい。また本発明遺伝子を宿主細胞で発現させることが可能な本発明ベクターを導入した場合には、本発明酵素の酵素活性に基づく検出方法を用いることもできる。
本発明遺伝子が宿主細胞の染色体内に位置する本発明形質転換体を取得するには、例えば、まず本発明ベクターとマーカー遺伝子を有するベクターとを制限酵素等で消化することにより直鎖状にした後、これらを前述の方法で宿主細胞に導入する。次いで当該細胞を通常数週間培養した後、導入されたマーカー遺伝子の発現量に基づき目的とする形質転換体を選抜し取得すればよい。また、例えば、まず上記のような選抜薬剤を付与する遺伝子をマーカー遺伝子として有する本発明ベクターを前述の方法によって宿主細胞に導入する。次いで当該細胞を選抜薬剤が添加された培地で数週間以上継代培養した後、コロニー状に生き残った選抜薬剤耐性クローンを純化培養することにより、本発明遺伝子が宿主細胞の染色体に導入されてなる本発明形質転換体を選抜し取得することもできる。導入された本発明遺伝子が宿主細胞の染色体に組み込まれたことを確認するには、当該細胞のゲノムDNAを通常の遺伝子工学的方法に準じて調製し、調製されたゲノムDNAから、導入された本発明遺伝子の部分塩基配列を有するDNAをプライマーやプローブとしたPCR、サザンハイブリダイゼーション等の方法を利用して、前記本発明遺伝子の存在を検出すればよい。当該形質転換体は、凍結保存が可能であり必要に応じて起眠して使用することができるので、実験毎の形質転換体作製の手間を省くことができ、また、あらかじめ性質や取扱い条件の確認された形質転換体を用いて試験を実施することが可能となる。
本発明遺伝子又は本発明ベクターを含有する形質転換体(即ち、本発明形質転換体)の培養は、通常の細胞培養方法によって行えばよい。
本発明形質転換体が微生物である場合には、例えば、当該形質転換体は、一般微生物における通常の培養に使用される炭素源や窒素源、有機ないし無機塩等を適宜含む各種の培地を用いて培養することができる。
炭素源としては、例えば、グルコース、デキストリン、シュークロース等の糖類、グリセロール等の糖アルコール、フマル酸、クエン酸、ピルビン酸等の有機酸、動物油、植物油及び糖蜜が挙げられる。これらの炭素源の培地への添加量は培養液に対して通常0.1〜30%(w/v)程度である。
窒素源としては、例えば、肉エキス、ペプトン、酵母エキス、麦芽エキス、大豆粉、コーン・スティープ・リカー(Corn Steep Liquor)、綿実粉、乾燥酵母、カザミノ酸等の天然有機窒素源、アミノ酸類、硝酸ナトリウム等の無機酸のアンモニウム塩、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸のアンモニウム塩、フマル酸アンモニウム、クエン酸アンモニウム等の有機酸のアンモニウム塩及び尿素が挙げられる。これらのうち有機酸のアンモニウム塩、天然有機窒素源、アミノ酸類等は多くの場合には炭素源としても使用することができる。これらの窒素源の培地への添加量は培養液に対して通常0.1〜30%(w/v)程度である。
有機塩や無機塩としては、例えば、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、鉄、マンガン、コバルト、亜鉛、銅等の塩化物、硫酸塩、酢酸塩、炭酸塩及びリン酸塩を挙げることができる。具体的には、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、塩化コバルト、硫酸亜鉛、硫酸銅、酢酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸水素一カリウム及びリン酸水素二カリウムが挙げられる。これらの有機塩及び/又は無機塩の培地への添加量は培養液に対して通常0.0001〜5%(w/v)程度である。
更に、tacプロモーター、trcプロモーター及びlacプロモーター等のアロラクトースで誘導されるタイプのプロモーターと本発明遺伝子とが機能可能な形で接続されてなる遺伝子が導入されてなる形質転換体の場合には、本発明酵素の生産を誘導するための誘導剤として、例えば、isopropyl thio-β-D-galactoside(IPTG)を培地中に少量加えることもできる。
本発明形質転換体の培養は、微生物等の宿主細胞の培養に通常使用される方法に準じて行えばよい。例えば、試験管振盪式培養、往復式振盪培養、ジャーファーメンター(Jar Fermenter)培養、タンク培養等の液体培養及び固体培養が挙げられる。
培養温度は、当該形質転換体が生育可能な範囲で適宜変更できるが、通常約15℃〜約40℃である。培地のpHは約6〜約8の範囲が好ましい。培養時間は、培養条件によって異なるが通常約1日〜約5日が好ましい。
本発明形質転換体の培養物から本発明酵素を精製する方法としては、通常のタンパク質の精製において使用される方法を適用すればよい。例えば、次のような方法を挙げることができる。
まず、形質転換体の培養物から遠心分離等により細胞を集めた後、これを超音波処理、ダイノミル処理、フレンチプレス処理等の物理的破砕法又は界面活性剤若しくはリゾチーム等の溶菌酵素を用いる化学的破砕法等によって破砕する。得られた破砕液から遠心分離、メンブレンフィルター濾過等により不純物を除去することにより無細胞抽出液を調製し、これを陽イオン交換クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、金属キレートクロマトグラフィー等の分離精製方法を適宜用いて分画することによって、本発明酵素を精製することができる。
クロマトグラフィーに使用する担体としては、例えば、カルボキシメチル(CM)基、ジエチルアミノエチル(DEAE)基、フェニル基若しくはブチル基を導入したセルロース、デキストリン又はアガロース等の不溶性高分子担体が挙げられる。市販の担体充填済カラムを用いることもでき、かかる市販の担体充填済カラムとしては、例えば、Q-Sepharose FF、Phenyl-Sepharose HP(商品名、いずれもGEヘルスケア・ジャパン社製)、TSK−gel G3000SW(商品名、東ソー社製)等が挙げられる。
尚、本発明酵素を含む画分を選抜するには、例えば、本発明における加水分解酵素活性の存在有無又はその程度に基づき選抜すればよい。勿論、基質となるα−置換−β−アミノ酸エステル誘導体(具体的には例えば、2−n−ブチル−3−[(N−ベンジルオキシ−N−ホルミル)アミノ]プロパン酸エチルエステル)を不斉加水分解して対応するカルボン酸を優先的に生産する能力を測定することにより選抜してもよい。
本発明酵素は、α−置換−β−アミノ酸エステル誘導体に、本発明形質転換体又はその処理物を作用させて対応する光学活性カルボン酸を優先的に生産する。
α−置換−β−アミノ酸エステル誘導体のα位の炭素原子上に結合する置換基(以下、α−置換基と略記する)としては、炭素数1〜20の炭化水素基であり、該炭化水素基は、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基、並びにそれらの組み合わせのいずれでもよい。α−置換基の炭化水素基はその炭素数が1〜7であると好ましく、3〜6であるとさらに好ましい。該脂肪族炭化水素基は典型的にはアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基及びイコシル基などが挙げられ、これらは直鎖でも分岐鎖であってもよい。該脂環式炭化水素基としては、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、シクロデシル基、ノルボルニル基及びアダマンチル基などが挙げられる。該芳香族炭化水素基としては典型的にはアリール基であり、該アリール基としては例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基及びビフェニル基などが挙げられる。また、これらα−置換基の炭化水素基は置換基を有していてもよく、該置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基などが挙げられる。
α−置換−β−アミノ酸エステル誘導体のα−置換基としては、上述のとおり、脂肪族炭化水素基及び脂環式炭化水素基の組み合わせ、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基の組み合わせ、又は脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基の組み合わせでありうる。脂肪族炭化水素基及び脂環式炭化水素基の組み合わせとしては典型的には、シクロアルキル基とアルカンジイル基との組み合わせが挙げられる。具体的には、シクロペンチルメチル基、シクロペンチルエチル基、シクロペンチルプロピル基、シクロペンチルブチル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基、シクロヘキシルプロピル基、シクロヘキシルブチル基、シクロオクチルメチル基、シクロオクチルエチル基、シクロオクチルプロピル基及びシクロオクチルブチル基などが挙げられる。脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基の組み合わせとしては典型的には、アラルキル基であり、ベンジル基及びナフチルメチル基などが挙げられる。脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基の組み合わせとしては、フェニルシクロペンチル基、フェニルシクロへキシル基、ナフチルシクロペンチル基及びナフチルシクロへキシル基などである。また、α−置換基はα位炭素原子上に1個ないしはそれぞれ相異なって2個結合していてもよいが、好ましくは1個である。
以上、α−置換−β−アミノ酸エステル誘導体のα−置換基について、その具体例を挙げて説明したが、これらの中でも、α−置換基は脂肪族炭化水素基であると好ましく、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル基、n−ペンチル基であるとさらに好ましく、n−ブチル基、n−ペンチル基であると特に好ましい。α−置換基がメチル基、n−プロピル基であるα−置換−β−アミノ酸エステル誘導体からは、前記非特許文献1及び2記載のα−置換−β−アミノ酸誘導体のような生理活性物質の製造用中間原料を容易に得ることができ、また、α−置換基がn−ブチル基、n−ペンチル基であるα−置換−β−アミノ酸エステル誘導体からは、前記特許文献1記載のα−置換−β−アミノ酸誘導体のような医農薬の有効成分となる光学活性化合物やその中間体を容易に得ることができる。
α−置換−β−アミノ酸エステル誘導体のβ位のアミノ基は置換基を有していてもよく、そのアミノ基の置換基としては例えば一般的なアミノ保護基が挙げられ、該アミノ保護基は例えばGreenら、Protective Groups in Organic Synthesis, 3rd Edition, 1999, John Wiley & Sons, Inc.などを参照し、適宜選択することもできる。
該アミノ基の置換基もしくはアミノ保護基としては例えば、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜10のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数7〜20のアラルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜15のアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜15のアルケニルオキシカルボニル基、置換基を有していてもよい炭素数8〜20のアラルキルオキシカルボニル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のベンジリデン基、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のスルホニル基、カルボキシル基(−COOH)、カルボキサミド基(−CONH2)、ヒドロキシル基(−OH)、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜10のアルケニルオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数7〜20のアラルキルオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜15のアシルオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜15のアルコキシカルボニルオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜15のアルケニルオキシカルボニルオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数8〜20のアラルキルオキシカルボニルオキシ基又は置換基を有していてもよい炭素数4〜10の環状エーテニルオキシ基を示す。
該アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などが挙げられ、これらは直鎖、分岐鎖及び環状のいずれでもよい。
該アルケニル基としては例えば、ビニル基、アリル基などが挙げられ、これらは直鎖、分岐鎖及び環状のいずれでもよい。
該アラルキル基としては例えば、ベンジル基、4−メトキシベンジル基、ジフェニルメチル基、トリフェニルメチル基などが挙げられる。
該アシル基としては例えば、ホルミル基、アセチル基、クロロアセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ピバロイル基、ベンゾイル基、フタロイル基などが挙げられ、これらは直鎖、分岐鎖及び環状のいずれでもよい。
該アルコキシカルボニル基としては例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、2,2,2−トリクロロエトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基などが挙げられ、これらは直鎖、分岐鎖及び環状のいずれでもよい。
該アルケニルオキシカルボニル基としては例えば、ビニルオキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基などが挙げられ、これらは直鎖、分岐鎖及び環状のいずれでもよい。
該アラルキルオキシカルボニル基としては例えば、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、4−メトキシベンジルオキシカルボニル基、4−ニトロベンジルオキシカルボニル基などが挙げられる。
該ベンジリデン基としては例えば、ベンジリデン基、4−メトキシベンジリデン基、ジフェニルメチレン基などが挙げられる。
該スルホニル基としては例えば、ベンゼンスルホニル基、4−トルエンスルホニル基、2−ニトロベンゼンスルホニル基、4−ニトロベンゼンスルホニル基などが挙げられる。
該アルコキシ基としては例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などが挙げられ、これらは直鎖、分岐鎖及び環状のいずれでもよい。
該アルケニルオキシ基としては例えば、ビニルオキシ基、アリルオキシ基などが挙げられ、これらは直鎖、分岐鎖及び環状のいずれでもよい。
該アラルキルオキシ基としては例えば、ベンジルオキシ基、4−メトキシベンジルオキシ基などが挙げられる。
該アリールオキシ基としては例えば、フェノキシ基、ナフチルオキシ基などが挙げられる。
該アシルオキシ基としては例えば、アセチルオキシ基、クロロアセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基などが挙げられ、これらは直鎖、分岐鎖及び環状のいずれでもよい。
該アルコキシカルボニルオキシ基としては例えば、メトキシカルボニルオキシ基、エトキシカルボニルオキシ基、2,2,2−トリクロロエトキシカルボニルオキシ基、プロポキシカルボニルオキシ基、ブトキシカルボニルオキシ基などが挙げられ、これらは直鎖、分岐鎖及び環状のいずれでもよい。
該アルケニルオキシカルボニルオキシ基としては例えば、ビニルオキシカルボニルオキシ基、アリルオキシカルボニルオキシ基などが挙げられ、これらは直鎖、分岐鎖及び環状のいずれでもよい。
該アラルキルオキシカルボニルオキシ基としては例えば、9−フルオレニルメチルオキシカルボニルオキシ基、ベンジルオキシカルボニルオキシ基、4−メトキシベンジルオキシカルボニルオキシ基、4−ニトロベンジルオキシカルボニルオキシ基などが挙げられる。
該環状エーテニルオキシ基としては例えば、テトラヒドロ−2H−ピラン−2−イルオキシ基、テトラヒドロフラン−2−イルオキシ基、1,4−ジオキサン−2−イルオキシ基などが挙げられる。
また、これらアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アルケニルオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、ベンジリデン基、スルホニル基、アルコキシカルボニル基、カルボキサミド基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アルケニルオキシカルボニルオキシ基、アラルキルオキシカルボニルオキシ基及び環状エーテニルオキシ基はさらに置換基を有していてもよく、該置換基としては、α−置換基の炭化水素基の置換基として例示したものと同じである。
該アミノ保護基は0個、1個あるいは2個置換されていてもよく、2個の場合はそれぞれ同一もしくは異なった置換基でもよい。
以上、β位のアミノ基の置換基について、その具体例を挙げて説明したが、これらの中でも、β位のアミノ基の置換基は水素原子、炭素数1〜10のアシル基又は炭素数7〜20のアラルキルオキシ基であると好ましく、ホルミル基又はベンジルオキシ基であると一層好ましく、ホルミル基とベンジルオキシ基の組み合わせであると特に好ましい。
β位の炭素原子上に結合するアミノ基以外の置換基は特に限定されるものではないが、好ましくは水素原子である。
α−置換−β−アミノ酸エステル誘導体のエステル結合を有する基は、置換基を有していてもよい炭素数2〜10のアルコキシカルボニル基であり、該アルコキシカルボニル基は、直鎖状でも、分岐鎖でもよい。また、該アルコキシカルボニル基の具体例はその炭素数が2〜10の範囲で、β位のアミノ基の置換基又は保護基のアルコキシカルボニル基で説明したものと同じである。かかるアルコキシカルボニル基は、その炭素数が2〜4であるとさらに好ましく、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基であると特に好ましい。なお、アルコキシカルボニル基が任意に有する置換基は、α−置換基が任意に有する置換基として例示したものと同じである。
ここで、好適なα−置換−β−アミノ酸エステル誘導体として、具体的には2−n−ブチル−3−[(N−ベンジルオキシ)アミノ]プロパン酸メチルエステル、2−n−ブチル−3−[(N−ベンジルオキシ)アミノ]プロパン酸エチルエステル、2−n−ペンチル−3−[(N−ベンジルオキシ)アミノ]プロパン酸メチルエステル、2−n−ペンチル−3−[(N−ベンジルオキシ)アミノ]プロパン酸エチルエステル、2−n−ブチル−3−[(N−ベンジルオキシ−N−ホルミル)アミノ]プロパン酸メチルエステル、2−n−ブチル−3−[(N−ベンジルオキシ−N−ホルミル)アミノ]プロパン酸エチルエステル、2−n−ペンチル−3−[(N−ベンジルオキシ−N−ホルミル)アミノ]プロパン酸メチルエステル、2−n−ペンチル−3−[(N−ベンジルオキシ−N−ホルミル)アミノ]プロパン酸エチルエステル等が挙げられる。中でも2−n−ブチル−3−[(N−ベンジルオキシ−N−ホルミル)アミノ]プロパン酸メチルエステル、2−n−ブチル−3−[(N−ベンジルオキシ−N−ホルミル)アミノ]プロパン酸エチルエステルが特に好ましい。
前記のα−置換−β−アミノ酸エステル誘導体の光学異性体混合物は公知の製造方法により得ることができる。例えば、この製造方法としては、ARKICOV 2010(iX)196〜205頁などに記載されている。
光学活性α−置換−β−アミノ酸エステル誘導体は、ラセミ体であってもよく、光学異性体同士が任意の割合で混じった混合物であってもよい。これらのラセミ体や混合物は新たに調製されたものでもよく、分割後のものでもよい。
α−置換−β−アミノ酸エステル誘導体に、本発明形質転換体又はその処理物を作用させて得られる光学活性なα−置換−β−アミノ酸誘導体として、具体的には(R)−2−n−ブチル−3−[(N−ベンジルオキシ)アミノ]プロパン酸、(R)−2−n−ペンチル−3−[(N−ベンジルオキシ)アミノ]プロパン酸、(R)−2−n−ブチル−3−[(N−ベンジルオキシ−N−ホルミル)アミノ]プロパン酸、(R)−2−n−ペンチル−3−[(N−ベンジルオキシ−N−ホルミル)アミノ]プロパン酸等および、上記の(R)が(S)に置き換わった化合物等が挙げられる。
α−置換−β−アミノ酸エステル誘導体に、本発明形質転換体又はその処理物を作用させて、対応する光学活性カルボン酸を生産する反応は、通常、水の存在下に行われる。この際に用いられる水は、緩衝水溶液であってもよい。当該緩衝水溶液に用いられる緩衝剤としては、例えば、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等のリン酸アルカリ金属塩、酢酸ナトリウム水溶液、酢酸カリウム等の酢酸アルカリ金属塩及びこれらの混合物を挙げることができる。
上記反応においては、水に加えて有機溶媒を共存させることもできる。共存させることができる有機溶媒としては、例えば、t−ブチルメチルエーテル、ジイソプロプルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類、ギ酸エチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル等のエステル類、トルエン、ヘキサン、シクロへヘキサン、ヘプタン、イソオクタン等の炭化水素類、メタノール、エタノール、2−プロパノール、ブタノール、t−ブチルアルコール等のアルコール類、ジメチルスルホキシド等の有機硫黄化合物、アセトン等のケトン類、アセトニトリル等のニトリル類及びこれらの混合物を挙げることができる。
上記反応は、例えば、水、α−置換−β−アミノ酸エステル誘導体を、本発明酵素或いはそれを産生する形質転換体又はその処理物とともに、必要により更に有機溶媒等を含有した状態で、攪拌、振盪等により混合することにより行われる。
上記反応時のpHは適宜選択することができるが、通常pH3〜10の範囲である。また反応温度は適宜選択することができるが、原料及び生成物の安定性、反応速度の点から通常0〜60℃の範囲である。
反応の終点は、例えば、反応液中のα−置換−β−アミノ酸誘導体の量を液体クロマトグラフィー等により追跡することにより決めることができる。反応時間は適宜選択することができるが、通常0.5時間から10日間の範囲である。
反応終了後の反応液には、不斉加水分解反応の生成物であるα−置換−β−アミノ酸誘導体と、残存するα−置換−β−アミノ酸エステル誘導体とが含まれる。この両者を分離するには、例えば、水/疎水性有機溶媒による抽出操作を行い、残存α−置換−β−アミノ酸エステル誘導体を有機層(疎水性有機溶媒層)に、α−置換−β−アミノ酸誘導体を水層にそれぞれ分配させ、該有機層と該水層とを分液するといった方法が採用される。
目的物である光学活性α−置換−β−アミノ酸誘導体と酵素や緩衝剤やその他の水溶性成分と分離するには疎水性有機溶媒を用いて有機層に光学活性α−置換−β−アミノ酸誘導体を抽出し水層と分液すればよい。
かかる疎水性有機溶媒としては例えばtert−ブチルメチルエーテル、イソプロピルエーテルなどのエーテル類、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタンなどの炭化水素類、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチルなどのエステル類などが挙げられる。反応時にこれらの疎水性有機溶媒を使用した場合は、反応終了後の反応液が有機層と水層とに分離するときには、そのまま分液操作を行なうこともできる。また、反応時に疎水性有機溶媒を用いなかった場合や、疎水性有機溶媒又は水の使用量が少ないために反応液が容易に有機層と水層とに分液されない場合には、あるいは水の使用量が少ないために容易には分液できない場合には、疎水性有機溶媒または水などを適宜加えた後に分液すればよい。疎水性有機溶媒の使用量は特に限定されるものではないが、通常α−置換−β−アミノ酸エステル誘導体の光学異性体の重量を基準に対して0.1〜200重量倍、好ましくは0.2〜100重量倍程度の範囲である。
かかる目的物の抽出時のpHは通常2〜10程度の範囲、好ましくは4〜8程度の範囲である。
溶液をかかるpHに調整するために酸および塩基を適宜使用することもできる。ここで用いる酸又は塩基の具体例は、本製造方法の反応系のpH調整用として例示したものと同じである。水層からの目的物の抽出が不十分な場合、同じ抽出、分液操作を複数回繰り返してもよい。また、同様に有機層からの水溶性成分の除去が不十分な場合も、同じ抽出、分液操作を複数回繰り返してもよい。
上記の抽出により、不斉加水分解物であるカルボン酸と分離された残存エステルは、油層中の有機溶媒を留去することにより単離することができる。得られた光学活性α−置換−β−アミノ酸エステル誘導体は、ラセミ化の処理に供することによって、α−置換−β−アミノ酸エステル誘導体の光学異性体混合物として再利用することができる。
上記の油層中の有機溶媒を留去することにより単離された残存エステルは、カラムクロマトグラフィー等によって、さらに精製されてもよい。
上記の抽出により、不斉加水分解物である光学活性なα−置換−β−アミノ酸誘導体は、分液後の水層に含まれており、これは、水を留去すること、あるいは中和処理後に有機溶媒を用いて抽出すること等によって、容易に水層から取り出すことができる。分離されたα−置換−β−アミノ酸誘導体は、油層中の有機溶媒を留去することにより単離することができる。
かくして得られた光学活性なα−置換−β−アミノ酸誘導体は、さらにカラムクロマトグラフィー、再結晶、再沈殿などの精製操作によってさらに精製してもよい。また、再結晶や再沈殿などの精製操作においては、光学活性なα−置換−β−アミノ酸誘導体をさらに適当な塩基で塩とした後、この塩を再結晶や再沈殿で精製し、精製した塩を再び適当な方法により、光学活性なα−置換−β−アミノ酸誘導体に戻すこともできる。
本発明酵素、それを産生する形質転換体又はその処理物は種々の形態で上記方法に用いることができる。
具体的な形態としては、例えば、本発明形質転換体の培養物、かかる形質転換体の処理物、無細胞抽出液、粗精製タンパク質、精製タンパク質等及びこれらの固定化物を挙げることができる。ここで、形質転換体の処理物としては、例えば、凍結乾燥形質転換体、有機溶媒処理形質転換体、乾燥形質転換体、形質転換体摩砕物、形質転換体の自己消化物、形質転換体の超音波処理物、形質転換体抽出物、形質転換体のアルカリ処理物を挙げることができる。また、固定化物を得る方法としては、例えば、担体結合法(シリカゲルやセラミック等の無機担体、セルロース、イオン交換樹脂等に本発明酵素等を吸着させる方法)及び包括法(ポリアクリルアミド、含硫多糖ゲル(例えばカラギーナンゲル)、アルギン酸ゲル、寒天ゲル等の高分子の網目構造の中に本発明酵素等を閉じ込める方法)を挙げることができる。
尚、本発明形質転換体を用いた工業的な生産を考慮すれば、未処理状態の形質転換体を用いる方法よりも当該形質転換体を死滅化させた処理物を用いる方法の方が製造設備の制限が少ないという点では好ましい。そのための死菌化処理方法としては、例えば、物理的殺菌法(加熱、乾燥、冷凍、光線、超音波、濾過、通電)や、化学薬品を用いる殺菌法(アルカリ、酸、ハロゲン、酸化剤、硫黄、ホウ素、砒素、金属、アルコール、フェノール、アミン、サルファイド、エーテル、アルデヒド、ケトン、シアン、抗生物質)を挙げることができる。一般的には、これらの殺菌法のうちできるだけ本発明酵素の還元酵素活性を失活させず、且つ、反応系への残留、汚染等の影響が少ない処理方法を選択することが望ましい。
本発明酵素改変方法は、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有する酵素の改変方法であり、配列番号1で示されるアミノ酸配列において、277番目のチロシンをアラニン、トリプトファン、イソロイシン、または、ヒスチジンに置換する工程を含む。
本発明酵素改変方法に含まれる工程は、前述の説明(例えば、本発明酵素及び本発明遺伝子の調製に関する説明)及び後述の実施例(例えば、本発明遺伝子の作製:部位特異的変異の導入)と同様な方法に準じて行なえばよい。
本発明遺伝子改変方法は、配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するポリヌクレオチドの改変方法であり、配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列において、829番目から831番目までの、チロシンをアラニン、トリプトファン、イソロイシン、または、ヒスチジンをコードするコドンに置換する工程を含む。
本発明遺伝子改変方法に含まれる工程は、前述の説明(例えば、本発明酵素及び本発明遺伝子の調製に関する説明)及び後述の実施例(例えば、本発明遺伝子の作製:部位特異的変異の導入)と同様な方法に準じて行なえばよい。
以下、実施例を挙げて更に詳細に本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
遺伝子のクローニング、プラスミドの構築の方法は「Molecular Cloning: A Laboratory Manual 2nd edition」(1989), Cold Spring Harbor Laboratory Press, ISBN 0−87969−309−6、「Current Protocols in Molecular Biology」(1987), John Wiley & Sons, Inc. ISBN O−471−50338−X等に記載されている方法を参考として引用できる。以下に、クローニング等の工程の詳細を説明する。
実施例1 (本発明遺伝子の作製:部位特異的変異の導入)
(1−1) 部位特異的変異導入操作
277番目のチロシンをアラニン、トリプトファン、イソロイシン、または、ヒスチジンに変換するための変異プライマーとして、配列番号2から9に示すように、各アミノ酸に対応する各種合成オリゴヌクレオチド(変異プライマー)を合成した。置換アミノ酸と対応する配列番号及び塩基配列を表1に示す。
Figure 0005825086
配列番号2で示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと配列番号3で示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドとをプライマーに用いて、特許第3875283号に記載のベクターpCC101を鋳型にして、以下の反応液組成、反応条件でPCRを行った(STRATAGENE社製のQuikChange II Site−Directed Mutagenesis Kitを使用)。得られたPCR反応液をPCR反応液(A)と記す。
[反応液組成]
pCC101ベクター溶液 1.7μl
dNTP mix(上記Kitに付属) 1μl
センスプライマー(50μM) 0.4μl
アンチセンスプライマー(50μM) 0.4μl
10xbuffer(上記Kitに付属) 5μl
PfuUltra (上記Kitに付属) 1μl
超純水 41.5μl
[PCR反応条件]
上記反応液組成の反応液が入った容器を、PERKIN ELMER−GeneAmp PCR System2400にセットし、95℃で1分間保温した後、95℃(50秒間)−55℃(1分間)−68℃(5分間)のサイクルを12回行った後、4℃で保存した。
得られたPCR反応液(A)に、DpnI restriction enzyme(上記Kitに付属)を1μl添加した後、37℃で1時間保温した。得られた保温液を用いてE.coli JM109を形質転換した。同様に、配列番号4と配列番号5、配列番号6と配列番号7、配列番号8と配列番号9をそれぞれ用いてPCRを実施し、E.coli JM109を形質転換した。
(1−2) 変異体の塩基配列決定
(1−1)で得られた形質転換体の各々からベクターを抽出した後、ダイデオキシ法により変異箇所の塩基配列を決定し、設計どおりの変異が導入されていることを確認した。このようにして、変異型ベクター(本発明ベクター277A、277W、277Iおよび277H)を含有する形質転換体(即ち、本発明形質転換体)を取得した。
実施例2 形質転換体微生物による本発明酵素の生産
実施例1によって得られた4種類の本発明酵素発現プラスミドの組換え体大腸菌をLB培地(トリプトン1%,酵母エキス0. 5%,NaCl0. 5%)に接種後、37℃で培養し、対数増殖期にIPTG(イソプロピルーβーDーチオガラクトピラノシド)を終濃度1mMになる様に添加して、加水分解酵素(本発明酵素)の発現を誘導した。培養終了後、遠心分離(8000g、10分、4℃)により菌体を回収し、ガラスビーズを用いて破砕後、破砕液の遠心分離上清液の一部をSDS−PAGEに供したところ、4種すべてのサンプルにおいて、分子量約40000の位置に加水分解酵素が主バンドとして認められ、大腸菌内で本発明酵素がいずれも高発現していた。
実施例3〜6
光学活性2−n−ブチル−3−[(N−ベンジルオキシ−N−ホルミル)アミノ]プロパン酸の製造
実施例2によって得られた4種類の本発明酵素を含む酵素液のそれぞれを、表2に示した量で容器中に量り取り、そこに0.1Mリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)5mLと、2−n−ブチル−3−[(N−ベンジルオキシ−N−ホルミル)アミノ]プロパン酸エチルエステルの光学異性体混合物(ラセミ体)40.0mgを加えた。この溶液を25℃で、48時間攪拌した後、3.4%リン酸水溶液1mL及びtert−ブチルメチルエーテル10mLを添加して混合した。静置した後、tert−ブチルメチルエーテル層を高速液体クロマトグラフィー〔カラム:CHIRALPAK AD−H 、4.6mmφ×25cm、5μm(ダイセル化学社製)〕にて光学純度を分析し、また、高速液体クロマトグラフィー〔カラム:Cadenza CD−18、4.6mmφ×15cm、3μm(Imtakt社製)〕にて化学純度を分析して、得られた光学活性2−n−ブチル−3−[(N−ベンジルオキシ−N−ホルミル)アミノ]プロパン酸の変換率及び鏡像異性体過剰率を求めた。結果を表2に示す。
Figure 0005825086
変換率(%)=生成物量/(基質量+生成物量)×100
鏡像異性体過剰率(%ee)=(A−B)/(A+B)×100(A及びBは対応する鏡像異性体量を表わし、A>Bである)。
本発明により、医農薬の有効成分となる化合物やその中間体、特に光学活性化合物やその中間体等を製造する為の有機合成反応に利用される、光学選択性に優れた加水分解酵素等が提供可能となる。
[配列表フリ−テキスト]
配列番号:1に記載されるアミノ酸配列は、クロモバクテリウム(Chromobacterium)SC−YM−1株(FERM BP−6703)由来の加水分解酵素のアミノ酸配列
配列番号:2に記載される塩基配列は、変異型遺伝子を増幅するためのPCR用プライマー
配列番号:3に記載される塩基配列は、変異型遺伝子を増幅するためのPCR用プライマー
配列番号:4に記載される塩基配列は、変異型遺伝子を増幅するためのPCR用プライマー
配列番号:5に記載される塩基配列は、変異型遺伝子を増幅するためのPCR用プライマー
配列番号:6に記載される塩基配列は、変異型遺伝子を増幅するためのPCR用プライマー
配列番号:7に記載される塩基配列は、変異型遺伝子を増幅するためのPCR用プライマー
配列番号:8に記載される塩基配列は、変異型遺伝子を増幅するためのPCR用プライマー
配列番号:9に記載される塩基配列は、変異型遺伝子を増幅するためのPCR用プライマー

Claims (8)

  1. 下記(a)又は(b)の酵素。
    (a)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、少なくとも1番目から362番目で示されるアミノ酸配列を有し、277番目のチロシンがアラニン、トリプトファン、イソロイシン、または、ヒスチジンに置換されていることを特徴とする酵素
    (b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、少なくとも1番目から362番目で示されるアミノ酸配列を有し、277番目のチロシンがチロシンとは異なるアミノ酸に置換され、かつ、α-置換-β-アミノ酸エステル誘導体を不斉加水分解する能力を有することを特徴とする酵素
  2. 請求項1記載の酵素が有するアミノ酸配列をコードする塩基配列を有することを特徴とするポリヌクレオチド。
  3. 請求項2記載のポリヌクレオチドを含有することを特徴とするベクター。
  4. 請求項2記載のポリヌクレオチドが導入されることを特徴とする形質転換体。
  5. 請求項3記載のベクターを含有することを特徴とする形質転換体。
  6. 請求項4又は5記載の形質転換体を培養することを特徴とする酵素の製造方法。
  7. 配列番号1で示されるアミノ酸配列を有する酵素の改変方法であり、配列番号1で示されるアミノ酸配列において、277番目のチロシンをアラニン、トリプトファン、イソロイシン、または、ヒスチジンに置換する工程を含むことを特徴とする方法。
  8. 配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するポリヌクレオチドの改変方法であり、配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列において、829番目から831番目までの、チロシンをコードするコドンを、アラニン、トリプトファン、イソロイシン、または、ヒスチジンをコードするコドンに置換する工程を含むことを特徴とする方法。
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