JP3875283B2 - エステラーゼ遺伝子 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、エステル加水分解反応、エステル合成反応、エステル交換反応等に用いられるエステラーゼのアミノ酸配列をコードする遺伝子、該遺伝子を含有するプラスミド、該プラスミドを含有する微生物、さらには該微生物を培養し、該微生物によってエステラーゼを生産させることを特徴とするエステラーゼの製造法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、有機合成反応、例えば加水分解反応にエステラーゼ等の酵素を利用する試みが盛んに行われている。かかる目的に使用される微生物由来のエステラーゼとしては、例えば、Arthrobacter globiformis IFO 12958(特開平1ー181788)、Bacillus stearothermophilus(Archiv.Biochem.Biophys. 160、504ー513(1974))、Geotrichum candidum(Agric.Biol.Chem.37(6)、1457ー1464(1973))、Pseudomonas aeruginosa(J.Biochem.86、643ー656(1979))、Pseudomonas fluorescens(J.Biochem.95、1047ー1054(1984))等に由来するものが知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、これらを生産する微生物における酵素の生産性は必ずしも充分なものとは言えなかった。
【0004】
【課題を解決するための手段】
この様な状況下で、本発明者らは、鋭意検討を行った結果、ある種の微生物由来のエステラーゼ遺伝子を含有するDNA断片を見い出し、そして該DNA断片をベクターDNAに組み込んだプラスミドを構築し、微生物に導入することにより、形質転換体微生物におけるエステラーゼの生産性を飛躍的に増大することに成功し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、配列番号1で示されるアミノ酸配列のうち、少なくとも1番目から362番目で示されるアミノ酸配列をコードするエステラーゼ遺伝子(以下、本発明遺伝子と記す)、該遺伝子を含有するプラスミド(以下、本発明プラスミドと記す)、該プラスミドを含有する微生物(以下、本発明微生物と記す)および該微生物を培養し、該微生物によってエステラーゼを生産させることを特徴とするエステラーゼの製造方法(以下、本発明製造方法と記す)を提供するものである。
【0005】
以下、さらに詳細に本発明を説明する。
本発明遺伝子は、クロモバクテリウム(Chromobacterium)属に属する微生物由来のものであり、これがコードするエステラーゼは、以下の性質を有する。
分子量:39348,pI:3. 9,反応至適pH:9. 0、反応至適温度:40℃ さらに本酵素はグルタル酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、ピメリン酸ジメチル、シス−イミダゾリシンジカルボン酸メチルエステルなどのカルボン酸エステル類,トリプロピオニンなどのトリグリセライドエステル類あるいはグルタミン酸ジエチルエステルなどのアミノ酸エステル類の化合物に対して活性を示す。なお、クロモバクテリウム属に属する微生物は、Chromobacterium SC-YM-1 (FERM P−14009)として工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託されている。
【0006】
本発明遺伝子は、例えばJ.Sambrook、 E.F.Fritsch 、 T.Maniatis著;モレキュラー クローニング 第2版(Molecular Cloning 2nd edition) 、コールドスプリング ハーバー ラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory) 発行、1989年、等に記載の通常の遺伝子工学的手法に準じて得られる。
すなわち、エステラーゼのN末端アミノ酸配列を決定するためには、微生物を通常の培養方法によって培養し、該微生物が産生するエステラーゼを精製する。なお、培養は、例えば、培地としてグルコース,デンプン加水分解物,糖蜜等の炭素源、酵母エキス,肉エキス,ポリペプトン,トリプトン等の窒素源、無機イオンさらに必要に応じ硫酸塩、リン酸塩等を含有する通常のものを用いて、好気条件下、適宜培地のpHおよび温度を調節することにより行うことができる。培養時間は培地中のエステラーゼ活性が最高になるところまで行うことが望ましいが、必ずしもその必要はない。得られた培養菌体を超音波破砕し、硫安分画した後、イオン交換,疎水,ゲルろ過等の各種クロマトグラフィーを用いた通常の単離・精製の方法によりエステラーゼを精製する。得られたエステラーゼをアミノ酸配列アナライザーにかけ、N末端アミノ酸配列を決定し、そのアミノ酸配列情報から合成DNAプローブを作製する。
別に培養して得た微生物菌体を超音波破砕等の通常の方法によって破壊し、そしてプロテアーゼ処理等を行った後、ゲノムDNAを抽出する。得られたゲノムDNAを適当な制限酵素で切断し、例えば、ファージベクターであるλgt11、あるいはプラスミドベクターであるpUC19などにリガーゼを用いて挿入することによりゲノムDNAライブラリーを作製する。それを例えば、エステラーゼに対する抗体を用いた免疫学的方法、エステラーゼの部分アミノ酸配列に対応した合成DNAプローブを用いたハイブリダイゼーション法、エステラーゼの活性を測定する方法等のスクリーニング法により、本発明遺伝子を取得することができる。
この様にして取得した本発明遺伝子を利用すれば、通常の遺伝子工学的方法に準じて、エステラーゼを大量に製造、取得することができる。より詳細には、本発明遺伝子が宿主微生物細胞中で発現できるようなプラスミドを作製し、これを宿主微生物細胞に導入して形質転換し、該形質転換体微生物を培養すればよい。上記のプラスミドとしては、宿主微生物細胞中で複製可能な遺伝情報を含み、自立的に増殖できるものであって、宿主微生物細胞からの単離・精製が容易であり、検出可能なマーカーをもつ発現ベクターに、本発明遺伝子を導入したものを好ましくあげることができる。なお、発現ベクターは各種のものが既に市販されており、これに本発明遺伝子を導入するために用いられる発現ベクター切断用制限酵素も市販されている。例えば、大腸菌での発現には、lac,trp,tacなどのプロモーターを含む発現ベクター(これらは、発現ベクターとしてあるいはプロモーターカートリッジとしてファルマシアPL社より市販されている)を用いることができる。さらには本発明遺伝子上流にリボゾーム結合領域を連結することにより、より高発現が可能となる。リボゾーム結合領域としてはGuarente.Lら(Cell 20 p543(1980))による報告や谷口ら(Genetics of Industrial Microorganisms p202 (1982) 講談社)による報告のものが知られているが、望ましくは、たとえば後述のSD−1やSD−2をあげることができる。このように、本発明遺伝子の発現に適したリボゾーム結合領域を設計し、合成してもよい。宿主微生物細胞に上記プラスミドを導入するには、通常の遺伝子工学的方法が用いられる。
宿主微生物細胞としては、真核生物および原核生物のいずれも用いることができ、好ましくは、例えば大腸菌等を挙げることができる。
前記のプラスミドを導入した宿主微生物細胞は、該微生物において通常用いられる培養方法によって培養することができる。たとえば、大腸菌の場合、適当な炭素源、窒素源およびビタミン等の微量栄養物を適宜含む通常の培地中で培養を行う。培養方法としては、固体培養、液体培養のいずれでも可能であるが、好ましくは、通気攪拌された液体培養方法をあげることができる。
この様にして得られた本発明微生物の培養菌体からのエステラーゼの採取は、適宜通常の単離・精製の方法を組み合わせて実施すれば良く、例えば、培養終了後、菌体を遠心分離等で集め、破砕または溶菌せしめ、イオン交換,疎水,ゲルろ過等の各種クロマトグラフィーを用いた工程を組み合わせて精製すれば良い。こうして製造したエステラーゼを産生する組換え菌体は、エステル加水分解を行うバイオリアクターとして、例えば医薬品,農薬品の中間体など有用な化合物の生産に利用することが可能である。
また、本発明微生物を培養することによってエステラーゼを大量に蓄積させた培養菌体を得て、これをそのままエンザイムリアクターとして利用することもできる。
【実施例】
以下に、実施例をあげ、さらに詳細に本発明を説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0007】
実施例1 (エステラーゼの分離およびN末端アミノ酸配列の決定)
クロモバクテリウム属に属する菌株であるChromobacterium SC-YM-1 を、5mlの前培養用培地(グルコース1%(W/V) 、酵母エキス1%(W/V) 、K2 HPO4 0. 1%(W/V) 、MgSO4 0. 02%(W/V) 、pH7. 3)で、30℃、24時間振盪培養した後、得られた培養液を1000mlの本培養用培地(グルコース1%(W/V) 、酵母エキス1%(W/V) 、K2 HPO4 0. 1%(W/V) 、MgSO4 0. 02%(W/V) 、pH7. 3)に接種し、30℃で培養し、OD 660 が10に達するまで培養し、遠心分離(8000g、10分、4℃)により菌体を回収した。回収された菌体を0. 1Mリン酸緩衝液(1mM EDTA、5mMMgCl2 、pH7. 5)800mlに懸濁し、フレンチプレス処理(2000psi)により破砕した。この菌体破砕液を遠心分離(8000g、10分、4℃)し、その上清を得た。さらにこれを超遠心分離(110000g、60分、4℃)して、その上清を得た。この上清液に硫安(25%(W/V) 飽和)を加え、4℃、2時間放置した後、生じた沈澱を遠心分離(10000g、15分、4℃)によって除去した。続いて得られた上清にさらに硫安(55%(W/V) 飽和)を加え、4℃、2時間放置した後、生じた沈澱を遠心分離(10000g、15分、4℃)し、沈澱物を回収した。この沈澱物を0. 01Mリン酸緩衝液(pH7. 5)に懸濁した後、これを150mlを陰イオン交換樹脂(DEAE−Sepharose fastflow、ファルマシア社製)200mlを充填したカラムに通し、目的酵素を担体に吸着させた。0. 15M NaCl+0. 01Mリン酸緩衝液(pH7. 5)でカラムを充分に洗浄し、非吸着分を除去した後、0. 15- 0. 35M NaCl直線濃度勾配法にて目的酵素を溶出した。目的酵素であるエステラーゼの活性画分を集め、疎水性樹脂(Butyl- Toyopearl650S、東洋曹達工業社製)200mlを充填したカラムに通した。10%(W/V) (NH4 2 SO4 +0. 01Mリン酸緩衝液(pH7. 5)でカラムを充分に洗浄し、非吸着分を除去した後、10- 0%(W/V) 飽和硫酸アンモニウム直線濃度勾配法にて目的酵素を溶出した。目的酵素であるエステラーゼの活性画分を集め、ゲルろ過(SephacrylS−200、ファルマシア社製)カラムクロマトグラフィーにかけ、0. 01Mリン酸緩衝液(pH7. 5)で溶出させた。目的酵素であるエステラーゼの活性画分を集め、精製エステラーゼを得た。
なお、エステラーゼ活性は、一般的な基質であるp−ニトロフェニルアセテート(pNPA)に対する活性を測定した。活性測定は2%(W/V) アセトンに溶解した基質40μMを含む0. 1Mリン酸緩衝液(pH7. 2)に酵素液を加え、37℃でインキュベートし、遊離するp−ニトロフェノール量を405nmの吸光度の増加から測定して行った。活性は1分間に1μmolのp−ニトロフェノールを遊離させる酵素量を1ユニットとした。
精製エステラーゼ1ngを蒸留水30μlに溶解し、気相シークエンサー(アプライドバイオシステムズ社製モデル373A)にてN末端アミノ酸配列を決定したところ、下記の通りのアミノ酸配列(配列番号1で示されるアミノ酸配列のうち、2番目から32番目で示されるもの)であった。
Thr Leu Phe Asp Gly Ile Thr Ser Arg Ile Val Asp Thr Asp Arg Leu Thr Val Asn Ile Leu Glu Arg Ala Ala Asp Asp Pro Gln Thr Pro
【0008】
実施例2 (本発明遺伝子クローンの単離:ゲノムDNAの調製)
クロモバクテリウム属に属する菌株であるChromobacterium SC-YM-1 を、5mlの前培養用培地(グルコース1%(W/V) 、酵母エキス1%(W/V) 、K2 HPO4 0. 1%(W/V) 、MgSO4 0. 02%(W/V) 、pH7. 3)で、30℃ 24時間振盪培養した後、得られた培養液を1000mlの本培養用培地(グルコース1%(W/V) 、酵母エキス1%(W/V) 、K2 HPO4 0. 1%(W/V) 、MgSO4 0. 02%(W/V) 、pH7. 3)に接種し、30℃で培養した。その際、OD 660 が3. 4に達した時点で、ペニシリンGを最終濃度として2ユニット/ml培養液になるように添加し、OD 660 が10に達するまで培養を継続した。
遠心分離(8000g、10分、4℃)により菌体を回収し、80mlの10mMトリス塩酸緩衝液(pH8. 0)、25%(W/V) ショ糖溶液に卵白リゾチーム(生化学工業社製)を最終濃度が5mg/mlになるように添加して、37℃で30分間インキュベートした。次に10mlの10%(W/V) SDSを添加し、さらにプロテアーゼK(ベーリンガー社製)を最終濃度200μg/mlになるように添加し、37℃で3時間インキュベートした。その後、等量の0.1Mトリス飽和フェノールで3回、エーテルで2回抽出を行った後、水層に2倍容のエタノールを添加し、核酸を沈澱させ、遠心分離(12000g、30分、4℃)した。得られた核酸を乾燥後、20mlのトリスEDTA緩衝液(10mMトリス塩酸、1mM EDTA、pH8. 3)に溶解し、CsCl−EtBr平衡密度勾配超遠心分離(275000g、18時間、25℃)し、DNAのバンドを回収し、それをトリスEDTA緩衝液(10mMトリス塩酸、1mM EDTA、pH8. 3)に対し透析し、約5. 4mg のゲノムDNAを得た。
【0009】
実施例3 (本発明遺伝子クローンの単離:ゲノムDNAライブラリーの作製)実施例2で得たゲノムDNA100μgをXhoI(宝酒造社製制限酵素)で消化し、ゲノムDNA断片を得た。一方、λファージλZAPII(ストラタジーン社製)1μgを同じくXhoIで消化後、前記ゲノムDNA断片と混合し、リガーゼ(宝酒造社製)を加え、16℃一夜反応した。
つぎにこの反応液をインビトロパッケージングキット(ストラタジーン社製)を用いて大腸菌XL−1blue株(キットに添付)にパッケージングし、ゲノムDNAライブラリーを作製した。
【0010】
実施例4 (本発明遺伝子クローンの単離:ゲノムDNAライブラリーのスクリーニング)
▲1▼合成DNAプローブの作製およびアイソトープ標識
実施例1で決定されたエステラーゼのN末端アミノ酸配列をもとに下記に示す44merのオリゴヌクレオチド(混合プローブ)を合成した。
Figure 0003875283
オリゴヌクレオチドの合成は、DNA自動合成機(アプライド バイオシステムズ モデル380A)を用いて行った。
このプローブDNA50pmolに3μlの0. 5Mトリス塩酸(pH7.6)、0. 1M MgCl2 、0. 05M DTT、0. 001M EDTA、10unitsT4ポリヌクレオチドカイネース(宝酒造社製)、10μl[γ32P]ATP(アマーシャム社製)を混合し、37℃、60分反応させた後、セファデックスG−50(ファルマシア社製)によるゲルろ過を行うことによりアイソトープ標識したDNAプローブを調製した。
▲2▼ゲノムDNAライブラリーのスクリーニング
実施例3で示したように、インビトロパッケージングキット(ストラタジーン社製)を用いて、ファージで感染させた大腸菌をプレーティングし、プレートを4℃に冷やした後、表面にニトロセルロースフィルターを密着させてファージをフィルター上に移した。フィルターを1. 5M NaCl- 0. 5M NaOH溶液に浸し、付着したDNAを変性させ、ついで1. 5M NaCl- 0. 5Mトリス塩酸(pH8. 0)溶液で中和した。その後0. 36M NaCl- 20mM NaH2 PO4 (pH7. 5)- 2mM EDTA(pH7. 5)でフィルターを洗浄した後、乾燥させた。
次に、上記のようにして調製したエステラーゼのN末端アミノ酸配列に対応するアイソトープ標識したDNAプローブを用いて、実施例3で作製されたゲノムDNAライブラリーを以下の方法に従いプラークハイブリダイゼーションを行った。すなわち、フィルターを1)4xSSC,1%(W/V) SDS、10xデンハルト(0. 2%(W/V) フィコール、0. 2%(W/V) ポリビニルピロリドン、0. 2%(W/V) ウシ血清アルブミン)を含む溶液で60℃、30分インキュベートした後、2)5xSSC、5xデンハルト、100μg/mlサケ精巣DNAを含む溶液で、60℃、5時間インキュベートし、反応を行った。ハイブリダイゼーションは、プラスティックバックにフィルターと上記2)の溶液を加え、アイソトープ標識したDNAプローブをフィルター1枚当たり約5x105 cpm 添加して、60℃で一夜行った。
ハイブリダイゼーションを行ったフィルターは、1)2xSSC、0. 5%(W/V)SDSを含む溶液で60℃、15分 2)2xSSC、0. 5%(W/V) SDSを含む溶液で25℃、30分 3)2xSSC、0. 5%SDS(W/V) を含む溶液で60℃、15分の順に洗浄した後、風乾し、X線フィルム(FUJI RX)と増感紙をあて、−80℃、一夜オートラジオグラムをとった。この結果、ポジティブシグナルを与えるpCC3株を得た。
ダイデオキシ法により、塩基配列を決定した結果、得られたクローン株は、エステラーゼ遺伝子の全長をコードしてはいなかった。そこでその配列の一部をDNAプローブとして再度、プラークハイブリダイゼーションによるスクリーニングを行った。その際ゲノムDNAをSau3AIで部分消化し、同様にλファージλZAPII(ストラタジーン社製)に連結して作製したライブラリーを使用した。
その結果、ポジティブシグナルを与える本発明遺伝子クローンを9株取得した。
【0011】
実施例5 (本発明遺伝子の制限酵素地図および全塩基配列の決定)
実施例4で得られた本発明遺伝子クローンについてインサートDNAの制限酵素地図を作製した。
λZAPIIにクローン化したインサートDNAは、J.Sambrook、 E.F.Fritsch 、 T.Maniatis著;モレキュラー クローニング 第2版(Molecular Cloning 2nd edition) 、コールドスプリング ハーバー ラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory) 発行、1989年等に記載される通常の方法を用いて、ヘルパーファージR408を感染させることにより、プラスミドベクターを含む形でin vivoで切り出され、サブクローン化された。
この様にして得られたプラスミドpCC6(図4参照)を種々の制限酵素で切断し、DNA断片を1%アガロースゲル及び5%ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分析した。種々のDNA断片の鎖長を比較することにより制限酵素地図を作製した。
ベクターpCC6に存在するプローブDNAと親和性のある領域を含む約1.8kbpのDNA断片について、DEAZAシークエンスキット(宝酒造社製)を用いて、塩基配列を決定した。
決定した塩基配列を図1から図3および配列番号2に示す。該塩基配列中から、オープンリーディングフレームを検索した結果、図1から図3および配列番号1に示すように、塩基番号343番目のATGから1452番目のGACまでが唯一のオープンリーディングフレームであることが判明した。
また、実施例1によって決定されたエステラーゼのN末端のアミノ酸配列と、上記のオープンリーディングフレームの開始コドン以下のアミノ酸配列が一致したことから、このオープンリーディングフレームがエステラーゼをコードするものであることが明かになった。その結果、エステラーゼは370アミノ酸残基からなる分子量39348の蛋白質であることが判明した。
【0012】
実施例6 (本発明遺伝子を含有する発現プラスミド)
発現ベクターpKK223−3(Boyer ら、 Prot.Natl.Acad.Sci.USA,80,21ー25(1983) 、ファルマシア社製)をBamHI により部分分解し、次にT4DNAポリメラーゼにより平滑末端化し、ライゲーションを行うことによりBamHI 部位を1カ所欠失させたpKK223−4を作製した。
一方、本発明遺伝子の開始コドン周辺とその5’上流側の塩基配列を大腸菌での遺伝子発現に適した配列に変換するため、下記の塩基配列のDNA断片をアプライド社DNA合成機モデル380Aを用いて合成した。
LP−1 (配列番号3に示す)
LP−2 (配列番号4に示す)
ES−1 (配列番号5に示す)
ES−2 (配列番号6に示す)
ES−3 (配列番号7に示す)
ES−4 (配列番号8に示す)
ES−5 (配列番号9に示す)
ES−6 (配列番号10に示す)
ES−7 (配列番号11に示す)
合成したLP−2,ES−1,ES−2,ES−3,ES−5,ES−6およびES−7断片の5’末端をリン酸化し、それぞれの未処理の断片とライゲーション、アニーリングを行って、下記の2種類の2本鎖DNA断片(SD−1,SD−2)を作製した。作製した2本鎖DNA断片(SD−1,SD−2)は、その両端をリン酸化した。
Figure 0003875283
一方、pCC6中のSacI断片(約3. 5kbp)をpUC118(宝酒造社製)へサブクローニングしたpCC30を作製した。このpCC30をEco52I、およびSacIで消化することによりエステラーゼの翻訳領域(約1. 2Kbp)を切り出した。一方lacプロモーターを有するpUC118をEcoRIとSacIで消化し、アルカリフォスファターゼ処理を行った。ついでこのpUC118のEcoRIとSacI部位の間に、前記DNA断片(SD−1あるいはSD−2)および、本発明遺伝子翻訳領域を含むEco52IーSacI断片をDNAライゲーションキット(宝酒造社製)を用いて連結することにより、pCC100およびpCC101を作製した(図5参照)。続いてこのpCC100およびpCC101をEcoRIとHindIIIで消化し、エステラーゼの翻訳領域(約1.3Kbp)を切り出した。一方、tacプロモーターを有するpKK223−4をEcoRIとHindIIIで消化し、アルカリフォスファターゼ処理を行った。ついでこのpKK223−4のEcoRIとHindIII部位の間に、エステラーゼ翻訳領域を含むEcoRIーHindIII断片(1.3Kbp)をDNAライゲーションキット(宝酒造社製)を用いて連結することにより、pCC200およびpCC201を作製した(図5参照)。この様にしてlacおよびtacプロモーターの下流に改変された5’末端塩基配列を有する4種類の大腸菌用発現プラスミドpCC100(SD−1,pUC118)、pCC101(SD−2,pUC118)、pCC200(SD−1,pKK223−4)およびpCC201(SD−2,pKK223−4)を得た。
Figure 0003875283
【0013】
実施例7 (本発明遺伝子を導入した形質転換体微生物によるエステラーゼ生産)
実施例6で得られた4種類の発現プラスミドをそれぞれ通常の遺伝子工学的方法に準じて、大腸菌JM109に形質転換し、組換え体微生物を作製した。組換え体微生物をLB培地(トリプトン1%(W/V) 、酵母エキス0. 5%(W/V) 、NaCl0. 5%(W/V) )に接種後、37℃で培養し、対数増殖期にIPTG(イソプロピルーβーDーチオガラクトピラノシド)を終濃度1mMになるように添加して、エステラーゼの発現を誘導した。
培養終了後、遠心分離(8000g、10分、4℃)により菌体を回収し、その一部をSDS−PAGEに供したところ、分子量約4万の位置に、エステラーゼが主バンドとして認められ、微生物内で該酵素がいずれも高発現していることが判明した。
そこで、エステラーゼの一般的な基質であるp−ニトロフェニルアセテート(pNPA)に対する、これらの形質転換体微生物のエステラーゼ生産量を測定した。生産量測定は2%(W/V) アセトンに溶解した基質40μMを含む0. 1Mリン酸緩衝液(pH7. 2)に酵素液を加え、37℃でインキュベートし、遊離するp−ニトロフェノール量を405nmの吸光度の増加から測定して行った。活性は1分間に1μmolのp−ニトロフェノールを遊離させる酵素量を1ユニットとした。その結果を表1に示す。
【表1】
Figure 0003875283
さらに前記の4種類の発現プラスミドをそれぞれ大腸菌JM105およびJM103に形質転換し、同様にして、LB培地に接種後、37℃で培養し、対数増殖期にIPTG(イソプロピルーβーDーチオガラクトシド)を終濃度1mMになるように添加して、エステラーゼの発現を誘導した。
これらの形質転換体微生物体のエステラーゼ生産量を上記と同様の方法にて測定した。その結果を表2に示す。
【表2】
Figure 0003875283
【0014】
実施例8 (本発明遺伝子を導入した形質転換体微生物産生エステラーゼの精製およびその性質)
実施例7で示した方法で培養を行った組換え体微生物(pCC101/JM105)を超音波破砕(20KHz、15分、4℃)後、遠心分離(12000g、30分、4℃)を行い、その上清を得た。得られた上清150mlを陰イオン交換樹脂(DEAE−Sepharose fastflow ファルマシア社製)200mlを充填したカラムに通し、目的酵素を担体に吸着させた。0. 15M NaCl+10mMトリス塩酸緩衝液(pH7. 5)でカラムを充分に洗浄し、非吸着分を除去した後、0. 15ー 0. 35MNaCl直線濃度勾配法にて目的酵素を溶出した。目的酵素であるエステラーゼの活性画分を集め、疎水性樹脂(Butylー Toyopearl650S、東洋曹達工業社製)200mlを充填したカラムに通した。10%(W/V) の(NH4 2 SO4 +10mMトリス塩酸緩衝液(pH7. 5)でカラムを充分に洗浄し、非吸着分を除去した後、10ー 0%(W/V) 飽和硫酸アンモニウム直線濃度勾配法にて目的酵素を溶出した。目的酵素であるエステラーゼの活性画分を集め、精製エステラーゼを得た。活性測定は実施例1に記載した方法に従った。得られた精製エステラーゼをESI(electrospry ionization)マススペクトルによる質量分析および酵素法によるC末端アミノ酸分析を行ったところ、分子量39348の完全長エステラーゼ(以下L体と記す)と分子量38508のC末端アミノ酸が8個欠失したエステラーゼ分解物(以下S体と記す)が検出された。
得られた完全長エステラーゼ(L体)を用い、下記の活性測定法により、各種脂肪酸エステル類、トリグリセライド類およびアミノ酸エステル類の化合物に対する基質特異性を調べた。加水分解活性測定は、それぞれの基質0.5Mを含む0.2Mリン酸緩衝液(pH8. 0)に酵素液を加えて35℃で反応させ、生成した脂肪酸、アミノ酸をフェノールフタレインを指示薬として、0. 05N NaOH溶液で滴定・定量することにより行った。活性は1分間に1μmolの脂肪酸・アミノ酸を遊離する酵素量を1ユニットとした。
その結果を表3に示す。なお表3における酵素活性は、グルタル酸ジメチルに対する活性を100とした時の相対値(%)で示した。
また、得られたエステラーゼ分解物(S体)もほぼ同様な効果が得られた。
【表3】
Figure 0003875283
【0015】
【発明の効果】
本発明遺伝子を含有するDNA断片をベクターに組み込んだプラスミドを構築し、微生物に導入することにより、形質転換体微生物におけるエステラーゼの生産性を飛躍的に増大することに成功し、エステラーゼを効率良く製造することができるようになった。
【0016】
【配列表】
配列番号 :1
配列の長さ:370
配列の型 :アミノ酸
トポロジー:直鎖状
配列の種類:タンパク質
配列
Figure 0003875283
Figure 0003875283
【0017】
配列番号 :2
配列の長さ:1110
配列の型 :核酸
鎖の数 :二本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:genomic DNA
起源 生物名;クロモバクテリウム(Chromobacterium )
株名 ;SC−YM−1
配列の特徴:
特徴をあらわす記号:CDS
存在位置:1...1110
特徴を決定した方法:E
配列
Figure 0003875283
【0018】
配列番号 :3
配列の長さ:20
配列の型 :核酸
鎖の数 :一本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:他の核酸 合成DNA
配列
Figure 0003875283
【0019】
配列番号 :4
配列の長さ:26
配列の型 :核酸
鎖の数 :一本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:他の核酸 合成DNA
配列
Figure 0003875283
【0020】
配列番号 :5
配列の長さ:29
配列の型 :核酸
鎖の数 :一本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:他の核酸 合成DNA
配列
Figure 0003875283
【0021】
配列番号 :6
配列の長さ:36
配列の型 :核酸
鎖の数 :一本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:他の核酸 合成DNA
配列
Figure 0003875283
【0022】
配列番号 :7
配列の長さ:30
配列の型 :核酸
鎖の数 :一本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:他の核酸 合成DNA
配列
Figure 0003875283
【0023】
配列番号 :8
配列の長さ:45
配列の型 :核酸
鎖の数 :一本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:他の核酸 合成DNA
配列
Figure 0003875283
【0024】
配列番号 :9
配列の長さ:29
配列の型 :核酸
鎖の数 :一本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:他の核酸 合成DNA
配列
Figure 0003875283
【0025】
配列番号 :10
配列の長さ:37
配列の型 :核酸
鎖の数 :一本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:他の核酸 合成DNA
配列
Figure 0003875283
【0026】
配列番号 :11
配列の長さ:30
配列の型 :核酸
鎖の数 :一本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:他の核酸 合成DNA
配列
Figure 0003875283

【図面の簡単な説明】
【図1】ベクターpCC6のインサートDNAの1番目から642番目の塩基配列と、それから類推されるエステラーゼのアミノ酸配列を示す図である。スクリーニングに用いたプローブDNAは、塩基番号346から390番目に相当する。
【図2】ベクターpCC6のインサートDNAの643番目から1074番目の塩基配列と、それから類推されるエステラーゼのアミノ酸配列を示す図である。
【図3】ベクターpCC6のインサートDNAの1075番目から1639番目の塩基配列と、それから類推されるエステラーゼのアミノ酸配列を示す図である。
【図4】プラークハイブリダイゼーションで得られたベクターpCC6の制限酵素地図を示す図である。図中白抜きは、クロモバクテリウム属に属する微生物由来の本発明遺伝子を、斜線部はエステラーゼの翻訳領域を示す。
【図5】本発明遺伝子を含有する発現プラスミドpCC100、pCC101、pCC200およびpCC201の構築ストラテジーを示す図である。図中、矢印はlacあるいはtacプロモーターを示す。

Claims (5)

  1. 配列番号1で示されるアミノ酸配列のうち、少なくとも1番目から362番目で示されるアミノ酸配列をコードするエステラーゼ遺伝子。
  2. 配列番号2で示される塩基配列のうち、少なくとも1番目から1086番目で示される塩基配列を有する請求項1記載のエステラーゼ遺伝子。
  3. 請求項1または請求項2記載のエステラーゼ遺伝子を有するプラスミド。
  4. 請求項3記載のプラスミドを含有する微生物。
  5. 請求項4記載の微生物を培養し、該微生物によってエステラーゼを生産させることを特徴とするエステラーゼの製造方法。
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