(構成)
図1は、本発明の実施形態に係る固体酸化物形燃料電池(SOFC)を示す。このSOFCは、長手方向(x軸方向)を有する平板状の支持基板10の上下面(互いに平行な両側の主面(平面))のそれぞれに、電気的に直列に接続された複数(本例では、4つ)の同形の発電素子部Aが長手方向において所定の間隔をおいて配置された、所謂「横縞型」と呼ばれる構成を有する。
このSOFCの全体を上方からみた形状は、例えば、長手方向の辺の長さが50〜500mmで長手方向に直交する幅方向(y軸方向)の長さが10〜100mmの長方形である。このSOFCの全体の厚さは、1〜5mmである。このSOFCの全体は、厚さ方向の中心を通り且つ支持基板10の主面に平行な面に対して上下対称の形状を有する。以下、図1に加えて、このSOFCの図1に示す2−2線に対応する部分断面図である図2を参照しながら、このSOFCの詳細について説明する。図2は、代表的な1組の隣り合う発電素子部A,Aのそれぞれの構成(の一部)、並びに、発電素子部A,A間の構成を示す部分断面図である。その他の組の隣り合う発電素子部A,A間の構成も、図2に示す構成と同様である。
支持基板10は、電子伝導性を有さない多孔質の材料からなる平板状の焼成体である。後述する図6に示すように、支持基板10の内部には、長手方向に延びる複数(本例では、6本)の燃料ガス流路11(貫通孔)が幅方向において所定の間隔をおいて形成されている。本例では、支持基板10の上下面における複数の発電素子部Aに対応する位置に、凹部12がそれぞれ形成されている。各凹部12は、支持基板10の材料からなる底壁と、全周に亘って支持基板10の材料からなる周方向に閉じた側壁(長手方向に沿う2つの側壁と幅方向に沿う2つの側壁)と、で画定された直方体状の窪みである。各凹部12の長さ(x軸方向の寸法)は5〜50mmであり、幅(y軸方向の寸法)は2〜95mmであり、深さ(z軸方向の寸法)は0.03〜1.5mmである。
支持基板10は、例えば、CSZ(カルシア安定化ジルコニア)から構成され得る。或いは、NiO(酸化ニッケル)とYSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)とから構成されてもよいし、NiO(酸化ニッケル)とY2O3(イットリア)とから構成されてもよいし、MgO(酸化マグネシウム)とMgAl2O4(マグネシアアルミナスピネル)とから構成されてもよい。
支持基板10は、「遷移金属酸化物又は遷移金属」と、絶縁性セラミックスとを含んで構成され得る。「遷移金属酸化物又は遷移金属」としては、NiO(酸化ニッケル)又はNi(ニッケル)が好適である。遷移金属は、燃料ガスの改質反応を促す触媒(炭化水素系のガスの改質触媒)として機能し得る。
また、絶縁性セラミックスとしては、MgO(酸化マグネシウム)、又は、「MgAl2O4(マグネシアアルミナスピネル)とMgO(酸化マグネシウム)の混合物」が好適である。また、絶縁性セラミックスとして、CSZ(カルシア安定化ジルコニア)、YSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)、Y2O3(イットリア)が使用されてもよい。
このように、支持基板10が「遷移金属酸化物又は遷移金属」を含むことによって、改質前の残存ガス成分を含んだガスが多孔質の支持基板10の内部の多数の気孔を介して燃料ガス流路11から燃料極に供給される過程において、上記触媒作用によって改質前の残存ガス成分の改質を促すことができる。加えて、支持基板10が絶縁性セラミックスを含むことによって、支持基板10の絶縁性を確保することができる。この結果、隣り合う燃料極間における絶縁性が確保され得る。
支持基板10の厚さは、1〜5mmである。支持基板10の気孔率は、後述する「還元処理」の後において20〜60%である。なお、以下、他の部材の気孔率の値も、還元処理後の値である。なお、気孔率の測定は,樹脂埋めしたサンプル(還元処理後)の断面を研磨し、同断面についてのSEM(走査型電子顕微鏡)による画像(2次電子像)を解析することによって行われた。SEMの加速電圧は5kV、SEMの倍率は5000倍、又は7500倍に設定された。気孔率の測定は、サンプルの任意の10箇所の断面について行われ、それらの平均値が気孔率の値として採用された。
以下、この構造体の形状が上下対称となっていることを考慮し、説明の簡便化のため、支持基板10の上面側の構成についてのみ説明していく。支持基板10の下面側の構成についても同様である。
図2及び図3に示すように、支持基板10の上面(上側の主面)に形成された各凹部12には、燃料極集電部21の全体が埋設(充填)されている。従って、各燃料極集電部21は直方体状を呈している。
各燃料極集電部21の上面(外側面)には、凹部21aが形成されている。各凹部21aは、燃料極集電部21の材料からなる底壁と、全周に亘って燃料極集電部21の材料からなる周方向に閉じた側壁(長手方向に沿う2つの側壁と、幅方向に沿う2つの側壁)と、で画定された直方体状の窪みである。
各凹部21aには、燃料極活性部22の全体が埋設(充填)されている。従って、各燃料極活性部22は直方体状を呈している。燃料極集電部21と燃料極活性部22とにより燃料極20が構成される。燃料極20(燃料極集電部21+燃料極活性部22)は、電子伝導性を有する多孔質の材料からなる焼成体である。各燃料極活性部22の4つの側面と底面とは、凹部21a内で燃料極集電部21と接触している。
各燃料極集電部21の上面(外側面)における凹部21aを除いた部分には、凹部21bが形成されている。各凹部21bは、燃料極集電部21の材料からなる底壁と、全周に亘って燃料極集電部21の材料からなる周方向に閉じた側壁(長手方向に沿う2つの側壁と、幅方向に沿う2つの側壁)と、で画定された直方体状の窪みである。
各凹部21bには、インターコネクタ30が埋設(充填)されている。従って、各インターコネクタ30は直方体状を呈している。インターコネクタ30は、電子伝導性を有する緻密な材料からなる焼成体である。各インターコネクタ30の4つの側面と底面とは、凹部21b内で燃料極集電部21と接触している。
燃料極20(燃料極集電部21及び燃料極活性部22)の上面(外側面)と、インターコネクタ30の上面(外側面)と、支持基板10の主面とにより、1つの平面(凹部12が形成されていない場合の支持基板10の主面と同じ平面)が構成されている。即ち、燃料極20の上面とインターコネクタ30の上面と支持基板10の主面との間で、段差が形成されていない。
燃料極活性部22は、例えば、NiO(酸化ニッケル)とYSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)とから構成され得る。或いは、NiO(酸化ニッケル)とGDC(ガドリニウムドープセリア)とから構成されてもよい。燃料極集電部21は、例えば、NiO(酸化ニッケル)とYSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)とから構成され得る。或いは、NiO(酸化ニッケル)とY2O3(イットリア)とから構成されてもよいし、NiO(酸化ニッケル)とCSZ(カルシア安定化ジルコニア)とから構成されてもよい。燃料極活性部22の厚さは、5〜30μmであり、燃料極集電部21の厚さ(即ち、凹部12の深さ)は、50〜500μmである。燃料極集電部21の気孔率は、25〜50%であり、燃料極活性部22の気孔率も、25〜50%である。
このように、燃料極集電部21は、電子伝導性を有する物質を含んで構成される。燃料極活性部22は、電子伝導性を有する物質と酸素イオン伝導性を有する物質とを含んで構成される。燃料極活性部22における「気孔部分を除いた全体積に対する酸素イオン伝導性を有する物質の体積割合」は、燃料極集電部21における「気孔部分を除いた全体積に対する酸素イオン伝導性を有する物質の体積割合」よりも大きい。
インターコネクタ30は、例えば、LaCrO3(ランタンクロマイト)から構成され得る。或いは、(Sr,La)TiO3(ストロンチウムチタネート)から構成されてもよい。インターコネクタ30の厚さは、10〜100μmである。インターコネクタ30の気孔率は、10%以下である。
図2に示すように、インターコネクタ30と燃料極20(の集電部21)との境界部のうち、インターコネクタ30の底面と燃料極20(の集電部21)との境界部のみに、中間膜35が介装されている。中間膜35は、例えば、NiOとY2O3(イットリア)の混合粉末、NiOとGDC(ガドリニアドープセリア)の混合粉末、NiOとLaCrO3の混合粉末、から構成される。
燃料極集電部21の導電率は100〜1000S/cmであり、インターコネクタ30の導電率は0.5〜30S/cmであり、中間膜35の導電率は200〜2000S/cmである。即ち、中間膜35の導電率は、インターコネクタ30の導電率より大きい。また、中間膜35の導電率は、燃料極集電部21の導電率より大きくても小さくても良いが、燃料極集電部21の導電率より大きいことが好ましい。中間膜35の厚さは、2〜20μmである。中間膜35の気孔率は、10〜60%である。中間膜35は、インターコネクタ30の底面の全域に存在していてもよいし、インターコネクタ30の底面の一部にのみ存在していてもよい。
燃料極20及びインターコネクタ30がそれぞれの凹部12に埋設された状態の支持基板10における長手方向に延びる外周面において複数のインターコネクタ30が形成されたそれぞれの部分の長手方向中央部を除いた全面は、固体電解質膜40により覆われている。固体電解質膜40は、イオン伝導性を有し且つ電子伝導性を有さない緻密な材料からなる焼成体である。固体電解質膜40は、例えば、YSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)から構成され得る。或いは、LSGM(ランタンガレート)から構成されてもよい。固体電解質膜40の厚さは、3〜50μmである。固体電解質膜40の気孔率は、10%以下である。
即ち、燃料極20がそれぞれの凹部12に埋設された状態の支持基板10における長手方向に延びる外周面の全面は、インターコネクタ30と固体電解質膜40とからなる緻密層により覆われている。この緻密層は、緻密層の内側の空間を流れる燃料ガスと緻密層の外側の空間を流れる空気との混合を防止するガスシール機能を発揮する。なお、本願において「緻密」とは、「ガスが通過しない程度に高密度であること」を指し、具体的には、「気孔率が10%以下であること」を指す。
なお、図2に示すように、本例では、固体電解質膜40が、燃料極20(集電部21+活性部22)の上面、インターコネクタ30の上面における長手方向の両側端部、及び支持基板10の主面を覆っている。ここで、上述したように、燃料極20の上面とインターコネクタ30の上面と支持基板10の主面との間で段差が形成されていない。従って、固体電解質膜40が平坦化されている。この結果、固体電解質膜40に段差が形成される場合に比して、応力集中に起因する固体電解質膜40でのクラックの発生が抑制され得、固体電解質膜40が有するガスシール機能の低下が抑制され得る。
固体電解質膜40における各燃料極活性部22と接している箇所の上面には、反応防止膜50を介して空気極60が形成されている。反応防止膜50は、緻密な材料からなる焼成体であり、空気極60は、電子伝導性を有する多孔質の材料からなる焼成体である。反応防止膜50及び空気極60を上方からみた形状は、燃料極活性部22と略同一の長方形である。
反応防止膜50は、例えば、GDC=(Ce,Gd)O2(ガドリニウムドープセリア)から構成され得る。反応防止膜50の厚さは、3〜50μmである。空気極60は、例えば、LSCF=(La,Sr)(Co,Fe)O3(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)から構成され得る。或いは、LSF=(La,Sr)FeO3(ランタンストロンチウムフェライト)、LNF=La(Ni,Fe)O3(ランタンニッケルフェライト)、LSC=(La,Sr)CoO3(ランタンストロンチウムコバルタイト)等から構成されてもよい。また、空気極60は、LSCFからなる第1層(内側層)とLSCからなる第2層(外側層)との2層によって構成されてもよい。空気極60の厚さは、10〜100μmである。
なお、反応防止膜50が介装されるのは、SOFC作製時又は作動中のSOFC内において固体電解質膜40内のYSZと空気極60内のSrとが反応して固体電解質膜40と空気極60との界面に電気抵抗が大きい反応層が形成される現象の発生を抑制するためである。
ここで、燃料極20と、固体電解質膜40と、反応防止膜50と、空気極60とが積層されてなる積層体が、「発電素子部A」に対応する(図2を参照)。即ち、支持基板10の上面には、複数(本例では、4つ)の発電素子部Aが、長手方向において所定の間隔をおいて配置されている。
各組の隣り合う発電素子部A,Aについて、一方の(図2では、左側の)発電素子部Aの空気極60と、他方の(図2では、右側の)発電素子部Aのインターコネクタ30とを跨ぐように、空気極60、固体電解質膜40、及び、インターコネクタ30の上面に、空気極集電膜70が形成されている。空気極集電膜70は、電子伝導性を有する多孔質の材料からなる焼成体である。空気極集電膜70を上方からみた形状は、長方形である。
空気極集電膜70は、例えば、LSCF=(La,Sr)(Co,Fe)O3(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)から構成され得る。或いは、LSC=(La,Sr)CoO3(ランタンストロンチウムコバルタイト)から構成されてもよい。或いは、Ag(銀)、Ag−Pd(銀パラジウム合金)から構成されてもよい。空気極集電膜70の厚さは、50〜500μmである。
このように各空気極集電膜70が形成されることにより、各組の隣り合う発電素子部A,Aについて、一方の(図2では、左側の)発電素子部Aの空気極60と、他方の(図2では、右側の)発電素子部Aの燃料極20(特に、燃料極集電部21)とが、電子伝導性を有する「空気極集電膜70及びインターコネクタ30」を介して電気的に接続される。この結果、支持基板10の上面に配置されている複数(本例では、4つ)の発電素子部Aが電気的に直列に接続される。ここで、電子伝導性を有する「空気極集電膜70及びインターコネクタ30」が、「電気的接続部」に対応する。
なお、インターコネクタ30は、「電気的接続部」における「緻密な材料で構成された第1部分」に対応し、気孔率は10%以下である。空気極集電膜70は、「電気的接続部」における「多孔質の材料で構成された第2部分」に対応し、気孔率は20〜60%である。
以上、説明した「横縞型」のSOFCに対して、図4に示すように、支持基板10の各燃料ガス流路11内に、長手方向の一方向(同じ方向)に燃料ガス(水素ガス等)を流すとともに、支持基板10の上下面(特に、各空気極集電膜70)を「酸素を含むガス」(空気等)に曝す(或いは、支持基板10の上下面に沿って酸素を含むガスを流す)ことにより、固体電解質膜40の両側面間に生じる酸素分圧差によって起電力が発生する。更に、この構造体を外部の負荷に接続すると、下記(1)、(2)式に示す化学反応が起こり、電流が流れる(発電状態)。
(1/2)・O2+2e−→O2− (於:空気極60) …(1)
H2+O2−→H2O+2e−
(於:燃料極20) …(2)
発電状態においては、図5に示すように、各組の隣り合う発電素子部A,Aについて、電流が、矢印で示すように流れる。この結果、図4に示すように、このSOFC全体から(具体的には、図4において最も手前側の発電素子部Aのインターコネクタ30と最も奥側の発電素子部Aの空気極60とを介して)電力が取り出される。
(製造方法)
次に、図1に示した「横縞型」のSOFCの製造方法の一例について図6〜図15を参照しながら簡単に説明する。図6〜図15において、各部材の符号の末尾の「g」は、その部材が「焼成前」であることを表す。
先ず、図6に示す形状を有する支持基板の成形体10gが作製される。この支持基板の成形体10gは、例えば、支持基板10の材料(例えば、CSZ)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、押し出し成形、切削等の手法を利用して作製され得る。以下、図6に示す7−7線に対応する部分断面を表す図7〜図15を参照しながら説明を続ける。
図7に示すように、支持基板の成形体10gが作製されると、次に、図8に示すように、支持基板の成形体10gの上下面に形成された各凹部に、燃料極集電部の成形体21gがそれぞれ埋設・形成される。次いで、図9に示すように、各燃料極集電部の成形体21gの外側面に形成された各凹部に、燃料極活性部の成形体22gがそれぞれ埋設・形成される。各燃料極集電部の成形体21g、及び各燃料極活性部22gは、例えば、燃料極20の材料(例えば、NiとYSZ)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して埋設・形成される。
続いて、図10に示すように、各燃料極集電部の成形体21gの外側面における「燃料極活性部の成形体22gが埋設された部分を除いた部分」に形成された各凹部に、先ず、中間膜の成形体35gがそれぞれ埋設・形成される。各中間膜の成形体35gは、例えば、中間膜35の材料(NiOとY2O3の混合粉末)にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して埋設・形成される。
次に、図11に示すように、中間膜35が埋設・形成された前記各凹部に、インターコネクタの成形体30gがそれぞれ埋設・形成される。このインターコネクタの成形体30gの形成については後述する。
次に、図12に示すように、複数の燃料極の成形体(21g+22g)、複数のインターコネクタの成形体30g、及び、複数の中間膜の成形体35gがそれぞれ埋設・形成された状態の支持基板の成形体10gにおける長手方向に延びる外周面において複数のインターコネクタの成形体30gが形成されたそれぞれの部分の長手方向中央部を除いた全面に、固体電解質膜の成形膜40gが形成される。固体電解質膜の成形膜40gは、例えば、固体電解質膜40の材料(例えば、YSZ)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法、ディッピング法等を利用して形成される。
次に、図13に示すように、固体電解質膜の成形体40gにおける各燃料極の成形体22gと接している箇所の外側面に、反応防止膜の成形膜50gが形成される。各反応防止膜の成形膜50gは、例えば、反応防止膜50の材料(例えば、GDC)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して形成される。
そして、このように種々の成形膜が形成された状態の支持基板の成形体10gが、空気中にて1500℃で3時間焼成される。これにより、図1に示したSOFCにおいて空気極60及び空気極集電膜70が形成されていない状態の構造体が得られる。
次に、図14に示すように、各反応防止膜50の外側面に、空気極の成形膜60gが形成される。各空気極の成形膜60gは、例えば、空気極60の材料(例えば、LSCF)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して形成される。
次に、図15に示すように、各組の隣り合う発電素子部について、一方の発電素子部の空気極の成形膜60gと、他方の発電素子部のインターコネクタ30とを跨ぐように、空気極の成形膜60g、固体電解質膜40、及び、インターコネクタ30の外側面に、空気極集電膜の成形膜70gが形成される。各空気極集電膜の成形膜70gは、例えば、空気極集電膜70の材料(例えば、LSCF)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して形成される。
そして、このように成形膜60g、70gが形成された状態の支持基板10が、空気中にて1050℃で3時間焼成される。これにより、図1に示したSOFCが得られる。以上、図1に示したSOFCの製造方法の一例について説明した。
なお、この時点では、酸素含有雰囲気での焼成により、支持基板10、及び燃料極20中のNi成分が、NiOとなっている。従って、燃料極20の導電性を獲得するため、その後、支持基板10側から還元性の燃料ガスが流され、NiOが800〜1000℃で1〜10時間に亘って還元処理される。なお、この還元処理は発電時に行われてもよい。
(中間膜の介装)
上記実施形態では、上述のように、インターコネクタ30の底面と燃料極20(の集電部21)との境界部に、インターコネクタ30より導電率の大きい中間膜35が介装されている。以下、このことによる作用・効果について説明する。先ず、この作用・効果を説明するための準備として、図16に示すように、上記実施形態に対して上記中間膜35が介装されていないことのみが異なる比較例を想定する。
この比較例では、各インターコネクタ30は、対応する燃料極集電部21における「発電素子部Aを構成する部分(即ち、固体電解質40及び空気極60が積層された部分)から支持基板10の平面方向に延設された部分」の外側面に埋設されている。一般に、空気極集電膜70、及び燃料極集電部21の導電率は、インターコネクタ30の導電率より約1桁〜2桁程度大きい。更に、インターコネクタ30と燃料極集電部21との界面は、異種材料が接合する領域であるため、界面抵抗が存在する。これらの条件下、この比較例では、電流は、インターコネクタ30内の経路が最短となるようにインターコネクタ30内を流れる。即ち、図16の黒矢印で示すように、空気極集電膜70を流れる電流は、「インターコネクタ30の側面と燃料極集電部21との界面」(図中のZ部を参照)に近い位置からインターコネクタ30に進入し、インターコネクタ30内を最短経路で通過した後、「インターコネクタ30の側面と燃料極集電部21との界面」(図中のZ部を参照)を通って、燃料極集電部21(ひいては、燃料極集電部21における「発電素子部Aを構成する部分」、図中右方向)へ流れようとする。
このように、電流がインターコネクタ30の側面と燃料極集電部21との界面を通る構成では、燃料電池が長時間に亘って稼働された際、前記界面に剥離が発生することがあった。これは、以下の理由に基づくと考えられる。即ち、上述のように、この例では、各インターコネクタ30は、極薄の板状(平面形状が大きく且つ厚さが小さい形状)を呈し、その側面の面積が非常に小さい。従って、電流がインターコネクタ30の側面と燃料極集電部21との界面を通る際、電流が過剰に集中してジュール熱が多く発生し易い。このジュール熱によって前記界面近傍に局所的な温度分布が生じ、この結果、前記界面に剥離が発生し易いものと考えられる。
これに対し、上記実施形態では、図17に示すように、インターコネクタ30の底面にインターコネクタ30より導電率が大きい中間膜35が設けられている。この層を挿入することによって、インターコネクタ30と燃料極集電部21間に存在する界面抵抗を大幅に減少することができる。従って、電流が、「面積が小さいインターコネクタ30の側面」ではなく「面積が大きいインターコネクタ30の底面」を通るように、電流の経路を制御することができる(図17の黒矢印を参照)。この結果、電流が「面積が小さいインターコネクタ30の側面」と燃料極集電部21との界面を通る際のジュール熱の発生に起因する前記界面の剥離の発生が抑制され得る。
(インターコネクタ内の元素分布)
上記実施形態では、各インターコネクタ30の内部において、ニッケルNi、及び、イットリウムYの元素濃度が均一となっていない。より具体的には、図18に示すように、インターコネクタ30は、インターコネクタ30の厚さ方向(凹部21bの深さ方向)において、インターコネクタ30の上面に近い側(凹部21bの底壁から遠い側)から順に、a層、b層、c層、d層、及びe層の5層から構成されている。
図19は、インターコネクタ30の内部における、ニッケルNi、及び、イットリウムYの元素濃度の分布の一例を示す。図19に示すように、インターコネクタ30内のNi元素濃度、並びに、Y元素濃度は、a層に近いほど小さくなり、e層に近いほど大きくなる。換言すれば、凹部21bの底壁に近い側のインターコネクタ30内のNi元素濃度は、凹部21bの底壁から遠い側のインターコネクタ30内のNi元素濃度より大きく、且つ、凹部21bの底壁に近い側のインターコネクタ30内のY元素濃度は、凹部21bの底壁から遠い側のインターコネクタ30内のY元素濃度より大きい。
図19に示すように5層からなるインターコネクタ30は、例えば、以下のように形成される。先ず、インターコネクタ30の材料(例えば、LaCrO3)の粉末に、NiO粉末、Y2O3粉末、バインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法、ディッピング等を利用して、「e層に対応する成形体」が、凹部21bの底部に埋設・形成される。次いで、凹部21bにおける「e層に対応する成形体」の上面に、「e層に対応する成形体」用の上記スラリーよりNiO粉末及びY2O3粉末の含有割合が小さいスラリーを用いて、印刷法、ディッピング等を利用して、「d層に対応する成形体」が埋設、形成される。次いで、凹部21bにおける「d層に対応する成形体」の上面に、「d層に対応する成形体」用の上記スラリーよりNiO粉末及びY2O3粉末の含有割合が小さいスラリーを用いて、印刷法、ディッピング等を利用して、「c層に対応する成形体」が埋設、形成される。次いで、凹部21bにおける「c層に対応する成形体」の上面に、「c層に対応する成形体」用の上記スラリーよりNiO粉末及びY2O3粉末の含有割合が小さいスラリーを用いて、印刷法、ディッピング等を利用して、「b層に対応する成形体」が埋設、形成される。最後に、凹部21bにおける「b層に対応する成形体」の上面に、「b層に対応する成形体」用の上記スラリーよりNiO粉末及びY2O3粉末の含有割合が小さいスラリーを用いて、印刷法、ディッピング等を利用して、「a層に対応する成形体」が埋設、形成される。これにより、5層からなるインターコネクタの成形体30g(図11を参照)が形成される。
その後、5層からなるインターコネクタの成形体30gが、支持基板の成形体10g、燃料極の成形体(21g+22g)、及び、中間膜の成形体35gと、共焼成される(図13→図14を参照)。この結果、図19に示す5層からなるインターコネクタ30(焼成体)が得られる。
なお、図19に示すインターコネクタ30では、凹部21bの底壁に近い側から遠い側に向かって、インターコネクタ30内のNi元素濃度及びY元素濃度が、5段階に小さくなるように構成されているが、凹部21bの底壁に近い側から遠い側に向かって、インターコネクタ30内のNi元素濃度及びY元素濃度が、無段階に徐々に小さくなるように構成されてもよい。
本発明者は、インターコネクタ30の内部においてニッケルNi、及び、イットリウムYの元素濃度が上記のように分布する構成を採用することによって、「燃料極20の凹部21bに埋設されたインターコネクタ30におけるニッケルNi及びイットリウムYの元素の濃度が深さ方向において均一である態様」と比べて、理由は不明であるが、上記還元処理時にて、「燃料極20とインターコネクタ30との境界部」に剥離が発生し難くなる、ことを見出した。
(インターコネクタ内の元素分布の適正な範囲)
上記実施形態に係るSOFCでは、通常の環境下で稼働される場合には、インターコネクタ30にクラックが発生しない。しかしながら、このSOFCが熱応力的に過酷な環境下で稼働されると、インターコネクタ30にクラックが発生する場合があった。
以下、図19に示すように、インターコネクタ30内のa層(即ち、凹部21bの底壁から遠い側の端部)のNi元素濃度をXn1、インターコネクタ30内のe層(即ち、凹部21bの底壁に近い側の端部)のNi元素濃度をXn2とする。本発明者は、係るクラックの発生が、値「Xn2/Xn1」と強い相関があることを見出した。以下、このことを確認した試験Aについて説明する。
(試験A)
この試験Aでは、図1に示したSOFCについて、Xn1、及び、Xn2の組み合わせが異なる(即ち、値「Xn2/Xn1」が異なる)複数のサンプルが作製された。具体的には、表1に示すように、7種類の水準(組み合わせ)が準備された。各水準に対して10個のサンプル(N=10)が作製された。各サンプルについて、Xn1、Xn2の値は、EPMA(Electron Probe Micro Analyser)を用いてサンプルの断面についての各元素の含有量をそれぞれ測定・定量化し、それらの組成比を算出することによって計算された。表1に記載されたXn1、Xn2の値は、上記還元処理後の値(N=10の平均値)である。
各サンプル(図1に示すSOFCのスタック構造体)にて、インターコネクタ30は、上述した図18に示すように5層とされた。燃料極集電部21は、「NiO(酸化ニッケル)とYSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)」、或いは、「NiO(酸化ニッケル)とY2O3(イットリア)」によって構成された。中間膜35は、「NiOとY2O3(イットリア)」によって構成された。中間膜35は、インターコネクタ30の底面の全域に存在していた。燃料極20(集電部21+活性部22)、インターコネクタ30、及び、中間膜35は、共焼成され、その後、その焼成体に対して還元処理が施されることよって形成された。値Xn1の調整は、「a層に対応する成形体」用のスラリーに添加されるNiO粉末の含有割合を調整することによってなされ、値Xn2の調整は、「e層に対応する成形体」用のスラリーに添加されるNiO粉末の含有割合を調整することによってなされた。
そして、上記還元処理後の各サンプルについて、「燃料極20に還元性の燃料ガスを流通させながら、雰囲気温度を常温から750℃まで2時間で上げた後に750℃から常温まで4時間で下げるパターン」を100回繰り返す熱サイクル試験を行った。そして、各サンプルについて、インターコネクタ30におけるクラック(又は、剥離)の発生の有無が確認された。この確認は、目視、並びに、顕微鏡を使用した観察によってなされた。この結果は表1に示すとおりである。
表1から理解できるように、熱応力的に過酷な上記熱サイクル試験を行った後では、値「Xn2/Xn1」が1.3より小さい、又は、3.5より大きいと、理由は不明であるが、インターコネクタ30にクラックが発生し易く、「Xn2/Xn1」が1.3〜3.5の範囲内であると、理由は不明であるが、インターコネクタ30にクラックが発生し難い。以上より、値「Xn2/Xn1」が1.3〜3.5の範囲内であると、前記クラックが発生し難い、ということができる。
なお、本発明者は、通常の条件・環境下(例えば、常温から750℃まで4時間で上げた後に750℃から常温まで12時間で下げるパターン)にて上記実施形態が使用される場合、値「Xn2/Xn1」が1.3〜3.5の範囲外であっても、インターコネクタ30にクラックが発生しないことを別途確認している。
以下、図19に示すように、インターコネクタ30内のa層(即ち、凹部21bの底壁から遠い側の端部)のY元素濃度をXy1、インターコネクタ30内のe層(即ち、凹部21bの底壁に近い側の端部)のY元素濃度をXy2とする。本発明者は、上述したインターコネクタ30のクラックの発生が、値「Xy2/Xy1」と強い相関があることも見出した。以下、このことを確認した試験Bについて説明する。
(試験B)
この試験Bでは、図1に示したSOFCについて、Xy1、及び、Xy2の組み合わせが異なる(即ち、値「Xy2/Xy1」が異なる)複数のサンプルが作製された。具体的には、表2に示すように、8種類の水準(組み合わせ)が準備された。各水準に対して10個のサンプル(N=10)が作製された。各サンプルについて、Xy1、Xy2の値は、上述したXn1、Xn2と同様、EPMAを用いてサンプルの断面についての各元素の含有量をそれぞれ測定・定量化し、それらの組成比を算出することによって計算された。表2に記載されたXy1、Xy2の値は、上記還元処理後の値(N=10の平均値)である。
各サンプル(図1に示すSOFCのスタック構造体)にて、インターコネクタ30は、上述した図18に示すように5層とされた。燃料極集電部21は、「NiO(酸化ニッケル)とYSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)」、或いは、「NiO(酸化ニッケル)とY2O3(イットリア)」によって構成された。中間膜35は、「NiOとY2O3(イットリア)」によって構成された。中間膜35は、インターコネクタ30の底面の全域に存在していた。燃料極20(集電部21+活性部22)、インターコネクタ30、及び、中間膜35は、共焼成され、その後、その焼成体に対して還元処理が施されることよって形成された。値Xy1の調整は、「a層に対応する成形体」用のスラリーに添加されるY2O3粉末の含有割合を調整することによってなされ、値Xy2の調整は、「e層に対応する成形体」用のスラリーに添加されるY2O3粉末の含有割合を調整することによってなされた。
そして、上記還元処理後の各サンプルについて、「燃料極20に還元性の燃料ガスを流通させながら、雰囲気温度を常温から750℃まで2時間で上げた後に750℃から常温まで4時間で下げるパターン」を100回繰り返す熱サイクル試験を行った。そして、各サンプルについて、インターコネクタ30におけるクラック(又は、剥離)の発生の有無が確認された。この確認は、目視、並びに、顕微鏡を使用した観察によってなされた。この結果は表2に示すとおりである。
表2から理解できるように、熱応力的に過酷な上記熱サイクル試験を行った後では、値「Xy2/Xy1」が2より小さい、又は、10より大きいと、理由は不明であるが、インターコネクタ30にクラックが発生し易く、「Xy2/Xy1」が2〜10の範囲内であると、理由は不明であるが、インターコネクタ30にクラックが発生し難い。以上より、値「Xy2/Xy1」が2〜10の範囲内であると、前記クラックが発生し難い、ということができる。
なお、本発明者は、通常の条件・環境下(例えば、常温から750℃まで4時間で上げた後に750℃から常温まで12時間で下げるパターン)にて上記実施形態が使用される場合、値「Xy2/Xy1」が2〜10の範囲外であっても、インターコネクタ30にクラックが発生しないことを別途確認している。
なお、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、インターコネクタ30の底面と燃料極20(の集電部21)との境界部に中間膜35が介装されているが、図20に示すように、前記境界部に中間膜35が介装されていなくてもよい。
また、上記実施形態では、平板状の支持基板10の上下面のそれぞれに複数の凹部12が形成され且つ複数の発電素子部Aが設けられているが、図21に示すように、支持基板10の片側面のみに複数の凹部12が形成され且つ複数の発電素子部Aが設けられていてもよい。
加えて、上記実施形態においては、燃料極20が燃料極集電部21と燃料極活性部22との2層で構成されているが、燃料極20が燃料極活性部22に相当する1層で構成されてもよい。