(構成)
図1は、本発明の実施形態に係る固体酸化物形燃料電池(SOFC)の構造体を示す。このSOFCの構造体は、長手方向(x軸方向)を有する平板状の支持基板10の上下面(互いに平行な両側の主面(平面))のそれぞれに、電気的に直列に接続された複数(本例では、4つ)の同形の発電素子部Aが長手方向において所定の間隔をおいて配置された、所謂「横縞型」と呼ばれる構成を有する。
このSOFCの構造体の全体を上方からみた形状は、例えば、長手方向の辺の長さが50〜500mmで長手方向に直交する幅方向(y軸方向)の長さが10〜100mmの長方形である。このSOFCの構造体の全体の厚さは、1〜5mmである。このSOFCの構造体の全体は、厚さ方向の中心を通り且つ支持基板10の主面に平行な面に対して上下対称の形状を有する。以下、図1に加えて、このSOFCの構造体の図1に示す2−2線に対応する部分断面図である図2を参照しながら、このSOFCの構造体の詳細について説明する。図2は、代表的な1組の隣り合う発電素子部A,Aのそれぞれの構成(の一部)、並びに、発電素子部A,A間の構成を示す部分断面図である。その他の組の隣り合う発電素子部A,A間の構成も、図2に示す構成と同様である。
支持基板10は、電子伝導性を有さない多孔質の材料からなる平板状の焼成体である。後述する図6に示すように、支持基板10の内部には、長手方向に延びる複数(本例では、6本)の燃料ガス流路11(貫通孔)が幅方向において所定の間隔をおいて形成されている。本例では、各凹部12は、支持基板10の材料からなる底壁と、全周に亘って支持基板10の材料からなる周方向に閉じた側壁(長手方向に沿う2つの側壁と幅方向に沿う2つの側壁)と、で画定された直方体状の窪みである。
支持基板10は、例えば、CSZ(カルシア安定化ジルコニア)から構成され得る。或いは、NiO(酸化ニッケル)とYSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)とから構成されてもよいし、NiO(酸化ニッケル)とY2O3(イットリア)とから構成されてもよいし、MgO(酸化マグネシウム)とMgAl2O4(マグネシアアルミナスピネル)とから構成されてもよい。
支持基板10は、「遷移金属酸化物又は遷移金属」と、絶縁性セラミックスとを含んで構成され得る。「遷移金属酸化物又は遷移金属」としては、NiO(酸化ニッケル)又はNi(ニッケル)が好適である。遷移金属は、燃料ガスの改質反応を促す触媒(炭化水素系のガスの改質触媒)として機能し得る。
また、絶縁性セラミックスとしては、MgO(酸化マグネシウム)、又は、「MgAl2O4(マグネシアアルミナスピネル)とMgO(酸化マグネシウム)の混合物」が好適である。また、絶縁性セラミックスとして、CSZ(カルシア安定化ジルコニア)、YSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)、Y2O3(イットリア)が使用されてもよい。
このように、支持基板10が「遷移金属酸化物又は遷移金属」を含むことによって、改質前の残存ガス成分を含んだガスが多孔質の支持基板10の内部の多数の気孔を介して燃料ガス流路11から燃料極に供給される過程において、上記触媒作用によって改質前の残存ガス成分の改質を促すことができる。加えて、支持基板10が絶縁性セラミックスを含むことによって、支持基板10の絶縁性を確保することができる。この結果、隣り合う燃料極間における絶縁性が確保され得る。
支持基板10の厚さは、1〜5mmである。支持基板10の気孔率は、後述する「還元処理」の後において20〜60%である。なお、以下、他の部材の気孔率の値も、還元処理後の値である。なお、気孔率の測定は,樹脂埋めしたサンプル(還元処理後)の断面を研磨し、同断面についてのSEM(走査型電子顕微鏡)による画像(2次電子像)を解析することによって行われた。SEMの加速電圧は5kV、SEMの倍率は5000倍、又は7500倍に設定された。気孔率の測定は、サンプルの任意の10箇所の断面について行われ、それらの平均値が気孔率の値として採用された。
以下、この構造体の形状が上下対称となっていることを考慮し、説明の簡便化のため、支持基板10の上面側の構成についてのみ説明していく。支持基板10の下面側の構成についても同様である。
図2及び図3に示すように、支持基板10の上面(上側の主面)に形成された各凹部12には、燃料極集電部21の全体が埋設(充填)されている。従って、各燃料極集電部21は直方体状を呈している。各燃料極集電部21の上面(外側面)には、凹部21aが形成されている。各凹部21aは、燃料極集電部21の材料からなる底壁と、全周に亘って燃料極集電部21の材料からなる周方向に閉じた側壁(長手方向に沿う2つの側壁と、幅方向に沿う2つの側壁)と、で画定された直方体状の窪みである。
各凹部21aには、燃料極活性部22の全体が埋設(充填)されている。従って、各燃料極活性部22は直方体状を呈している。燃料極集電部21と燃料極活性部22とにより燃料極20が構成される。燃料極20(燃料極集電部21+燃料極活性部22)は、電子伝導性を有する多孔質の材料からなる焼成体である。各燃料極活性部22の4つの側面と底面とは、凹部21a内で燃料極集電部21と接触している。
燃料極活性部22は、例えば、NiO(酸化ニッケル)とYSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)とから構成され得る。或いは、NiO(酸化ニッケル)とGDC(ガドリニウムドープセリア)とから構成されてもよい。燃料極集電部21は、例えば、NiO(酸化ニッケル)とYSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)とから構成され得る。或いは、NiO(酸化ニッケル)とY2O3(イットリア)とから構成されてもよいし、NiO(酸化ニッケル)とCSZ(カルシア安定化ジルコニア)とから構成されてもよい。燃料極活性部22の厚さは、5〜30μmであり、燃料極集電部21の厚さ(即ち、凹部12の深さ)は、50〜500μmである。燃料極集電部21の気孔率は、25〜50%であり、燃料極活性部22の気孔率も、25〜50%である。
このように、燃料極集電部21は、電子伝導性を有する物質を含んで構成される。燃料極活性部22は、電子伝導性を有する物質と酸化性イオン(酸素イオン)伝導性を有する物質とを含んで構成される。燃料極活性部22における「気孔部分を除いた全体積に対する酸素イオン伝導性を有する物質の体積割合」は、燃料極集電部21における「気孔部分を除いた全体積に対する酸素イオン伝導性を有する物質の体積割合」よりも大きい。
各燃料極集電部21の上面(外側面)における凹部21aを除いた部分には、凹部21bが形成されている。各凹部21bは、燃料極集電部21の材料からなる底壁と、全周に亘って燃料極集電部21の材料からなる周方向に閉じた側壁(長手方向に沿う2つの側壁と、幅方向に沿う2つの側壁)と、で画定された直方体状の窪みである。
各凹部21bには、インターコネクタ30、並びに、シール部35(前記「第2シール部」に対応)が埋設(充填)されている。具体的には、図3に示すように、各凹部21b内において、インターコネクタ30は、凹部21bにおける中央部に埋設(配置)されている。各インターコネクタ30は、長手方向に沿う2つの側壁と幅方向に沿う2つの側壁とを有する直方体状を呈している。シール部35は、凹部21bにおけるインターコネクタ30の周囲に位置する周縁部にて、凹部21bの側壁(内壁)の全周、及び、インターコネクタ30の外周の側壁の全周と接触するように埋設(充填)されている。即ち、各シール部35は四角の枠状を呈している。各インターコネクタ30の側面は燃料極20(集電部21)と接触していない一方で、各インターコネクタ30の底面の全域は、燃料極20(集電部21)と接触している。
インターコネクタ30は、電子伝導性を有する緻密な材料からなる焼成体である。インターコネクタ30は、例えば、ランタンクロマイト(LC)から構成され得る。ランタンクロマイトの化学式は、La1−xAxCr1−y−zByO3(ただし、A:Ca,Sr,Baから選択される少なくとも1種類の元素、B:Co,Ni,Mg,Alから選択される少なくとも1種類の元素、0.05≦x≦0.2、0.02≦y≦0.22、0≦z≦0.05)で表わされる。
或いは、インターコネクタ30は、チタン酸化物から構成され得る。チタン酸化物の化学式は、(A1−x,Bx)1−z(Ti1−y,Dy)O3(ただし、A:アルカリ土類元素から選択される少なくとも1種類の元素、B:Sc,Y,及びランタノイド元素から選択される少なくとも1種類の元素、D:第4周期、第5周期、第6周期の遷移金属、及びAl,Si,Zn,Ga,Ge,Sn,Sb,Pb,Biから選択される少なくとも1種類の元素、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5、−0.05≦z≦0.05)で表わされる。この場合、(Sr,La)TiO3(ストロンチウムチタネート)から構成され得る。インターコネクタ30の厚さは、10〜100μmである。インターコネクタ30の気孔率は、10%以下である。
シール部35は、電気絶縁性を有する緻密な材料からなる焼成体である。シール部35は、例えば、金属酸化物を含有し、好ましくは金属酸化物を主成分とする。具体的には、上記金属酸化物として、(AE)ZrO3、MgO、MgAl2O4、及びCexLn1−xO2からなる群より選択される少なくとも1種類の酸化物を含有してもよい。ここで、AEは、アルカリ土類金属であり、Lnは、Y及びランタノイドからなる群より選択される少なくとも1種類の元素であり、xは0<x≦0.3を満たす。AEに該当する元素としては、Mg,Ca,Sr,及びBaが挙げられる。また、微量成分として、遷移金属酸化物(例えば、NiO、Mn3O4、Fe2O3、Cr2O3、CoO)が含まれても良い。これらの成分は、酸化物として存在していても良いし、上記「(AE)ZrO3、MgO、MgAl2O4、及びCexLn1−xO2からなる群より選択される少なくとも1種類の酸化物」に固溶する形で存在していても良い。金属酸化物の平均粒径は0.1〜5.0μmが好ましく、さらに好ましくは0.3〜4.0μmである。シール部35の厚さは、10〜100μmである。シール部35の気孔率は、10%以下である。
燃料極20(燃料極集電部21及び燃料極活性部22)の上面(外側面)と、インターコネクタ30の上面(外側面)と、シール部35の上面(外側面)と、支持基板10の主面とにより、1つの平面(凹部12が形成されていない場合の支持基板10の主面と同じ平面)が構成されている。即ち、燃料極20の上面とインターコネクタ30の上面とシール部35の上面と支持基板10の主面との間で、段差が形成されていない。
燃料極20、インターコネクタ30、及びシール部35がそれぞれの凹部12に埋設された状態の支持基板10における長手方向に延びる外周面(主面を含む)において複数のシール部35及びインターコネクタ30に対応する部分を除いた全面は、固体電解質膜40により覆われている。より具体的には、図4に示すように、固体電解質膜40は、シール部35の外側面の周縁部の全周を覆うように、支持基板10の主面上に形成されている。この結果、シール部35とインターコネクタ30とが接触し、シール部35と固体電解質膜40とが接触する一方で、インターコネクタ30と固体電解質膜40とは接触していない。
固体電解質膜40は、イオン伝導性を有し且つ電子伝導性を有さない緻密な材料からなる焼成体である。固体電解質膜40は、例えば、YSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)から構成され得る。或いは、LSGM(ランタンガレート)から構成されてもよい。固体電解質膜40の厚さは、3〜50μmである。固体電解質膜40の気孔率は、10%以下である。
即ち、燃料極20がそれぞれの凹部12に埋設された状態の支持基板10における長手方向に延びる外周面の全面は、インターコネクタ30とシール部35と固体電解質膜40とからなる緻密層により覆われている。この緻密層は、緻密層の内側の空間を流れる燃料ガスと緻密層の外側の空間を流れる空気との混合を防止するガスシール機能を発揮する。
なお、図2に示すように、本例では、固体電解質膜40が平坦化されている。この結果、固体電解質膜40に段差が形成される場合に比して、応力集中に起因する固体電解質膜40でのクラックの発生が抑制され得、固体電解質膜40が有するガスシール機能の低下が抑制され得る。
固体電解質膜40における各燃料極活性部22と接している箇所の上面には、反応防止膜50を介して空気極60が形成されている。反応防止膜50は、緻密な材料からなる焼成体であり、空気極60は、電子伝導性を有する多孔質の材料からなる焼成体である。反応防止膜50及び空気極60を上方からみた形状は、燃料極活性部22と略同一の長方形である。
反応防止膜50は、例えば、GDC=(Ce,Gd)O2(ガドリニウムドープセリア)から構成され得る。反応防止膜50の厚さは、3〜50μmである。空気極60は、例えば、LSCF=(La,Sr)(Co,Fe)O3(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)から構成され得る。或いは、LSF=(La,Sr)FeO3(ランタンストロンチウムフェライト)、LNF=La(Ni,Fe)O3(ランタンニッケルフェライト)、LSC=(La,Sr)CoO3(ランタンストロンチウムコバルタイト)等から構成されてもよい。また、空気極60は、LSCFからなる第1層(内側層)とLSCからなる第2層(外側層)との2層によって構成されてもよい。空気極60の厚さは、10〜100μmである。
なお、反応防止膜50が介装されるのは、SOFC作製時又は作動中のSOFC内において固体電解質膜40内のYSZと空気極60内のSrとが反応して固体電解質膜40と空気極60との界面に電気抵抗が大きい反応層が形成される現象の発生を抑制するためである。
ここで、燃料極20と、固体電解質膜40と、反応防止膜50と、空気極60とが積層されてなる積層体が、「発電素子部A」に対応する(図2を参照)。即ち、支持基板10の上面には、複数(本例では、4つ)の発電素子部Aが、長手方向において所定の間隔をおいて配置されている。
各組の隣り合う発電素子部A,Aについて、一方の(図2では、左側の)発電素子部Aの空気極60と、他方の(図2では、右側の)発電素子部Aのインターコネクタ30とを跨ぐように、空気極60、固体電解質膜40、及び、インターコネクタ30の上面に、空気極集電膜70が形成されている。空気極集電膜70は、電子伝導性を有する多孔質の材料からなる焼成体である。空気極集電膜70を上方からみた形状は、長方形である。
空気極集電膜70は、例えば、LSCF=(La,Sr)(Co,Fe)O3(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)から構成され得る。或いは、LSC=(La,Sr)CoO3(ランタンストロンチウムコバルタイト)から構成されてもよい。或いは、Ag(銀)、Ag−Pd(銀パラジウム合金)から構成されてもよい。空気極集電膜70の厚さは、50〜500μmである。空気極集電膜70の気孔率は、20〜60%である。
このように各空気極集電膜70が形成されることにより、各組の隣り合う発電素子部A,Aについて、一方の(図2では、左側の)発電素子部Aの空気極60と、他方の(図2では、右側の)発電素子部Aの燃料極20(特に、燃料極集電部21)とが、電子伝導性を有する「空気極集電膜70及びインターコネクタ30」を介して電気的に接続される。この結果、支持基板10の上面に配置されている複数(本例では、4つ)の発電素子部Aが電気的に直列に接続される。ここで、電子伝導性を有する「空気極集電膜70及びインターコネクタ30」が前記「電気的接続部」に対応し、インターコネクタ30が前記「電気的接続部の第1部分」に対応し、空気極集電膜70が前記「電気的接続部の第2部分」に対応する。また、緻密な材料からなる「インターコネクタ30、シール膜35、及び、固体電解質膜40」が前記「ガスシール部」に対応する。なお、本願では、「緻密な材料」とは、ガスシール機能を有する程度に小さい気孔率を有する材料を指し、典型的には、その材料の気孔率が10%以下である。
以上、説明した「横縞型」のSOFCの構造体に対して、図5に示すように、支持基板10の燃料ガス流路11内に燃料ガス(水素ガス等)を流すとともに、支持基板10の上下面(特に、各空気極集電膜70)を「酸素を含むガス」(空気等)に曝す(或いは、支持基板10の上下面に沿って酸素を含むガスを流す)ことにより、固体電解質膜40の両側面間に生じる酸素分圧差によって起電力が発生する。更に、この構造体を外部の負荷に接続すると、下記(1)、(2)式に示す化学反応が起こり、電流が流れる(発電状態)。
(1/2)・O2+2e−→O2− (於:空気極60) …(1)
H2+O2−→H2O+2e− (於:燃料極20) …(2)
発電状態においては、図6に示すように、各組の隣り合う発電素子部A,Aについて、電流が、矢印で示すように流れる。この結果、図5に示すように、このSOFCの構造体全体から(具体的には、図5において最も手前側の発電素子部Aのインターコネクタ30と最も奥側の発電素子部Aの空気極60とを介して)電力が取り出される。
(製造方法)
次に、図1に示した「横縞型」のSOFCの構造体の製造方法の一例について図7〜図16を参照しながら簡単に説明する。図7〜図16において、各部材の符号の末尾の「g」は、その部材が「焼成前」であることを表す。
先ず、図7に示す形状を有する支持基板の成形体10gが作製される。この支持基板の成形体10gは、例えば、支持基板10の材料(例えば、CSZ)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、押し出し成形、切削等の手法を利用して作製され得る。以下、図7に示す8−8線に対応する部分断面を表す図8〜図16を参照しながら説明を続ける。
図8に示すように、支持基板の成形体10gが作製されると、次に、図9に示すように、支持基板の成形体10gの上下面に形成された各凹部に、燃料極集電部の成形体21gがそれぞれ埋設・形成される。次いで、図10に示すように、各燃料極集電部の成形体21gの外側面に形成された各凹部に、燃料極活性部の成形体22gがそれぞれ埋設・形成される。各燃料極集電部の成形体21g、及び各燃料極活性部22gは、例えば、燃料極20の材料(例えば、NiとYSZ)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して埋設・形成される。
続いて、図11に示すように、各燃料極集電部の成形体21gの外側面における「燃料極活性部の成形体22gが埋設された部分を除いた部分」に形成された各凹部の中央部に、直方体状のインターコネクタの成形体30gがそれぞれ埋設・形成される。各インターコネクタの成形体30gは、例えば、インターコネクタ30の材料(例えば、LaCrO3)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して埋設・形成される。
次いで、図12に示すように、前記各凹部の成形体30gの周囲に位置する周縁部に、シール材の成形体35gがそれぞれ埋設・形成される。各シール材の成形体35gは、例えば、シール部35の材料(例えば、MgO、或いは、MgOとCaZrO3のコンポジット材料)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して埋設・形成される。
次に、図13に示すように、複数の燃料極の成形体(21g+22g)及び複数の成形体30g、35gがそれぞれ埋設・形成された状態の支持基板の成形体10gにおける長手方向に延びる外周面において複数の成形体30g、35gが形成されたそれぞれの部分を除いた全面に、固体電解質膜の成形膜40gが形成される。固体電解質膜の成形膜40gは、例えば、固体電解質膜40の材料(例えば、YSZ)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法、ディッピング法等を利用して形成される。
次に、図14に示すように、固体電解質膜の成形体40gにおける各燃料極の成形体22gと接している箇所の外側面に、反応防止膜の成形膜50gが形成される。各反応防止膜の成形膜50gは、例えば、反応防止膜50の材料(例えば、GDC)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して形成される。
そして、このように種々の成形膜が形成された状態の支持基板の成形体10gが、空気中にて1500℃で3時間焼成される。これにより、図1に示したSOFCの構造体において空気極60及び空気極集電膜70が形成されていない状態の構造体が得られる。
次に、図15に示すように、各反応防止膜50の外側面に、空気極の成形膜60gが形成される。各空気極の成形膜60gは、例えば、空気極60の材料(例えば、LSCF)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して形成される。
次に、図16に示すように、各組の隣り合う発電素子部について、一方の発電素子部の空気極の成形膜60gと、他方の発電素子部のインターコネクタ30とを跨ぐように、空気極の成形膜60g、固体電解質膜40、インターコネクタ30、及びシール部35の外側面に、空気極集電膜の成形膜70gが形成される。各空気極集電膜の成形膜70gは、例えば、空気極集電膜70の材料(例えば、LSCF)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して形成される。
そして、このように成形膜60g、70gが形成された状態の支持基板10が、空気中にて1050℃で3時間焼成される。これにより、図1に示したSOFCの構造体が得られる。なお、この時点では、酸素含有雰囲気での焼成により、支持基板10、及び燃料極20中のNi成分が、NiOとなっている。従って、燃料極20の導電性を獲得するため、その後、支持基板10側から還元性の燃料ガスが流され、NiOが700〜1000℃で1〜100時間に亘って還元処理される。なお、この還元処理は発電時に行われてもよい。以上、図1に示したSOFCの構造体の製造方法の一例について説明した。
(ガスシール部の構成)
図17に模式的に示すように、上記実施形態では、「インターコネクタ30とシール部35と固体電解質膜40とが連続して接続されてなる緻密層」が、燃料ガスと空気との混合を防止するガスシール機能を発揮している。燃料極20(集電部21)の外側面に形成された凹部21bの周縁部に配置されたシール部35の外側面の一部(周縁部)が固体電解質膜40で覆われている一方で、凹部21bの中央部に配置されたインターコネクタ30の外側面は固体電解質膜40で覆われていない。
ここで、上記実施形態と比較するための従来例として、図18に示すように、燃料極の外側面に形成された凹部の全体にインターコネクタが埋設(充填)される態様を考える。この場合、ガスシール性の低下の抑制のため、図18に示すように、インターコネクタの外側面の周縁部が電解質膜で覆われる場合が多い。一般に、インターコネクタ(特に、ランタンクロマイトで構成されるインターコネクタ)は、上述した還元処理の際に膨張する性質を有する(還元膨張)。この還元膨張に起因して、インターコネクタの外側面の周縁部と電解質膜の内側面との界面において剥離が発生し、「ガスシール機能」の低下が発生し易いという問題があった。これに対し、上記実施形態では、上述のように、インターコネクタ30の外側面上には緻密膜(固体電解質膜40)が設けられていない。従って、上述したインターコネクタの還元膨張による剥離に起因する「ガスシール機能」の低下が発生しない。即ち、「ガスシール機能」の低下を確実に抑制し得る。
また、上記実施形態では、図17に示すように、直方体状のインターコネクタ30の底面の全域が燃料極20(集電部21)と接触しているが、図19に示すように、直方体状のインターコネクタ30の底面における中央部が燃料極20(集電部21)と接触し、インターコネクタ30の底面における前記中央部の周囲に位置する周縁部がシール部35と接触するように構成されてもよい。また、図20に示すように、シール部35の底面における周縁部の一部がインターコネクタ30と接触するように構成されてもよい。
また、図21に示すように、インターコネクタ30の底面と燃料極20(集電部21)との間に中間層38が介装されてもよい。中間層38は、インターコネクタ30より導電率が大きい導電材料で構成され、例えば、NiOとY2O3(イットリア)の混合粉末、NiOとGDC(ガドリニアドープセリア)の混合粉末、NiOとLaCrO3の混合粉末、等から構成され得る。この中間層38を挿入することによって、インターコネクタ30と燃料極集電部21との間に存在する界面抵抗を大幅に減少することができる。従って、電流が、「面積が小さいインターコネクタ30の側面」ではなく「面積が大きいインターコネクタ30の底面」を通るように、電流の経路を制御することができ、SOFC全体としての電気抵抗を小さくすることができる。
図21に示す構成において、固体電解質膜40における「シール部35(前記「第2シール部」に対応)の外側面の周縁部の全周を覆う部分」は、固体電解質膜40に代えて、固体電解質膜40とは構成材料が異なる緻密膜37(前記「第1シール部」に対応)で構成されてもよい。緻密膜37は、例えば、GDC=(Ce,Gd)O2(ガドリニウムドープセリア)で構成され得る。
この場合、前記「ガスシール部」における燃料極20(集電部21)の外側面を覆う部分では、前記「ガスシール部」は、前記発電素子部の一部としての固体電解質膜40と、固体電解質膜40と接続されるとともに固体電解質膜40とは異なる構成材料からなる緻密膜37(前記「第1シール部」に対応)と、緻密膜37と接続されるとともに緻密膜37とは異なる緻密な構成材料からなるシール部35(前記「第2シール部」に対応)と、シール部35と接続されたインターコネクタ30と、から構成される。この場合、緻密膜37とインターコネクタ30とが接触せず、且つ、固体電解質膜40とシール部35とが接触しない。
また、図21に示す構成では、燃料極20(集電部21)の外側面に形成された凹部21bにシール部35及びインターコネクタ30が埋設されているが、図22に示すように、凹部21bに、インターコネクタ30のみ(及び、中間層38)が埋設されていてもよい。或いは、図23に示すように、凹部21bにシール部35のみ(及び、中間層38)が埋設されていてもよい。或いは、図24に示すように、燃料極20(集電部21)の外側面に凹部21bが形成されず、インターコネクタ30及びシール部35が支持基板10の主面上に形成されてもよい。
図21に示す構成と同様、図22〜図24に示す構成でも、前記「ガスシール部」における燃料極20(集電部21)の外側面を覆う部分では、前記「ガスシール部」は、「前記発電素子部の一部としての固体電解質膜40」と、「固体電解質膜40と接続されるとともに固体電解質膜40と同じ構成材料からなる緻密膜40又は異なる構成材料からなる緻密膜37」(前記「第1シール部」に対応)と、「緻密膜40又は37と接続されるとともに緻密膜40又は37とは異なる緻密な構成材料からなるシール部35」(前記「第2シール部」に対応)と、「シール部35と接続されたインターコネクタ30」と、から構成される。
図21に示す構成と同様、図22〜図24に示す構成でも、前記「第1シール部」が緻密膜40(=固体電解質膜40)である場合、緻密膜40(=固体電解質膜40)とインターコネクタ30とが接触しない。前記「第1シール部」が緻密膜37(≠固体電解質膜40)である場合、緻密膜37(≠固体電解質膜40)とインターコネクタ30とが接触せず、且つ、固体電解質膜40とシール部35とが接触しない。
(シール部と燃料極集電部との界面)
以下、シール部35(特に、シール部35の底面)と燃料極集電部21との界面、即ち、緻密層と多孔質層との境界に着目する。図25は、上記還元処理後の本発明の実施形態に係るシール部35と燃料極集電部21とを含む断面(積層方向(膜の厚さ方向)に沿う断面、各要素(各膜)の平面方向に垂直の断面)を電子顕微鏡で拡大して得られた画像の一例をスケッチした図である。
本明細書では、この断面においてシール部35(緻密層)と燃料極集電部21(多孔質層)との界面に対応する線(図25に示した例では、線分L)を「境界線」と呼ぶ。この境界線は、例えば、以下のように定義され得る。即ち、断面上において、多孔質層に含まれる多数の気孔のうちで緻密層に面して存在する複数の気孔が抽出される。抽出された複数の気孔のそれぞれについて、気孔内に対応する領域において最も緻密層側の点(図25に示した例では、気孔内に対応する領域において最も上側の点)がプロットされる(図25に示した例では、複数の黒いドットを参照)。プロットされた複数の点と周知の統計的手法の一つ(例えば、最小二乗法)とを用いて、プロットされた複数の点のそれぞれの近傍を通る線(直線、又は曲線)が決定される。この線(図25に示した例では、線分L)が「境界線」となる。なお、図25に示した例では、シール部35が平板状であるために「境界線」が直線になっているが、例えば、シール部35が反っている場合、或いは、湾曲している場合には、「境界線」は曲線となる。また、「境界線」が、直線と曲線との組み合わせで構成されていてもよい。
このように定義された「境界線」に対して、「接合率」及び「接合幅」を以下のように定義する。「接合率」は、「境界線」の長さ(図25に示した例では、図中の線分Lの長さ)に対する、「境界線」上においてシール部35と燃料極集電部21とが接触している「複数の部分」(気孔に対応しない複数の部分)の長さの合計の割合、と定義される。「接合幅」は、上記「複数の部分」の長さの平均、と定義される。
本発明者は、上記還元処理後において、「接合率」が36〜78%である場合、「接合率」が36〜78%でない場合と比べて、「シール部と燃料極集電部との界面」において、接合強度が大きくなることを見出した。以下、このことを確認した試験Aについて説明する。
(試験A)
試験Aでは、本実施形態に係る燃料電池の一部である、シール部と燃料極集電部との接合体(以下、「接合体」と呼ぶ。)について、シール部、燃料極集電部の材質、及び、「接合率」の組み合わせが異なる複数のサンプルが作製された。具体的には、表1に示すように、10種類の水準(組み合わせ)が準備された。各水準に対して20個のサンプル(N=20)が作製された。
各サンプル(接合体)としては、上方からみた形状が円形(直径:約2cm)で厚さが約1mmのシール部と、上方からみた形状が円形(直径:約1cm)で厚さが約100μmの燃料極集電部と、が積層された積層体が使用された。各サンプル(接合体)は、シール部と燃料極集電部とが共焼成されて作製された。「接合率」の調整は、燃料極集電部の焼成に使用される粉末(NiO粉末等)の粒径及び比表面積、有機成分(バインダー、造孔材)の量、並びに、シール部及び燃料極集電部の共焼成温度等を調整することにより達成された。
具体的には、粉末の平均粒径は、0.5〜5μmの範囲内で調整された。粉末の比表面積は、3〜30m2/gの範囲内で調整された。有機成分の量(重量)は、粉体の全重量に対して10〜50%の範囲内で調整された。造孔材としては、セルロース、カーボン、PMMA等が使用された。共焼成温度は、850〜1300℃の範囲内で調整された。焼成時間は、1〜20時間の範囲内で調整された。この焼成後に、各サンプルに対して上記還元処理が行われた。この還元処理は、各サンプルを800℃の水素雰囲気に5時間曝すことによって行われた。
そして、各サンプル(接合体、還元処理後)について、引張強度が測定された。この測定は以下のようになされた。即ち、サンプル(接合体)の上下面(シール部の上面、及び燃料極集電部の下面)にそれぞれ、引張試験用の治具が貼り付けられた。上下の治具に対して上下方向に引き離す力(引っ張り力)が加えられ、この引っ張り力が徐々に増大された。サンプル(接合体)の接合部位(シール部と燃料極集電部との界面近傍の部位)が剥離する際の引っ張り力の大きさ(以下、「引張強度」と呼ぶ。)が測定された。引張強度の測定結果は表1に示すとおりである。測定結果としては、各水準についてN=20の平均値が採用された。
表1から理解できるように、「接合率」が36%未満である場合、引張強度が小さい。
また、「接合率」が78%より大きい場合も引張強度が小さい。これは、理由は明確ではないが、以下のように考えられる。つまり、「接合率」が大きくなるということは、即ち、接合界面におけるシール部と燃料極集電部との焼結が進行したことを意味する。焼結が進行すると、それぞれの元素は相互に拡散し、接合界面に異なる組成の相が生成される。係る異相が生成されると、それが接合界面の剥離の基点となり得る。
以上のことから、「接合率」が大きいと、上述した「接合率」が小さい場合と同様、引張強度が小さくなる、と考えられる。
一方、「接合率」が36〜78%である場合、「接合率」が36〜78%でない場合と比べて、引張強度が大きい。即ち、上記還元処理後において、「接合率」が36〜78%である場合、「接合率」が36〜78%でない場合と比べて、「シール部と燃料極集電部との界面」において、接合強度が大きい、ということができる。
また、本発明者は、上記還元処理後において、「接合率」が36〜78%である場合において、「接合幅」が0.3〜3.3μmであると、「シール部と燃料極集電部との界面」において、特に接合強度が大きくなることも見出した。以下、このことを確認した試験Bについて説明する。
(試験B)
試験Bでも、試験Aと同様、本実施形態に係る燃料電池の一部である、シール部と燃料極集電部との「接合体」について、シール部の材質、燃料極集電部の材質、「接合率」、及び「接合幅」の組み合わせが異なる複数のサンプルが作製された。具体的には、表2に示すように、10種類の水準(組み合わせ)が準備された。各水準に対して20個のサンプル(N=20)が作製された。各サンプル(接合体)の形状は試験Aのものと同形とされた。各サンプル(接合体、還元処理後)の「接合率」は全て、36〜78%の範囲内となっている。「接合幅」の調整も、「接合率」の調整と同様、燃料極集電部の焼成に使用される粉末(NiO粉末等)の粒径及び比表面積、有機成分(バインダー、造孔材)の量、及び、共焼成温度等を調整することにより達成された。粉末の平均粒径、粉末の比表面積、有機成分の量(重量)、焼成温度、並びに焼成時間のそれぞれの調整範囲は、上述した試験Aの場合と同じである。還元処理の条件も、上述した試験Aの場合と同じである。
そして、各サンプル(接合体、還元処理後)について、試験Aと同様の手法により、引張強度が測定された。この測定結果は、表2に示すとおりである。表2から理解できるように、「接合率」が36〜78%である場合、「接合幅」が0.3〜3.3μmであると、「接合幅」が0.3〜3.3μmでない場合に比して、引張強度が大きい。即ち、還元処理後において、「接合率」が36〜78%である場合、「接合幅」が0.3〜3.3μmであると、「シール部と燃料極集電部との界面」において、接合強度が特に大きい、ということができる。
なお、「接合率が36〜78%」(及び接合幅が0.3〜3.3μm)は、シール部及び燃料極集電部を含む任意の1つの断面について成立していればよい。或いは、「接合率が36〜78%」(及び接合幅が0.3〜3.3μm)は、シール部及び燃料極集電部を含む任意の複数の断面(例えば、或る方向に平行な2つの断面と、その方向に直交する方向に平行な2つの断面)のそれぞれについて成立している必要がある。
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、燃料電池を構成する積層体は、単独で存在しているが(図1を参照)、この積層体が、或る装置全体の一部分として存在していてもよい。また、上記実施形態では、図7等に示すように、支持基板10に形成された凹部12の平面形状(支持基板10の主面に垂直の方向からみた場合の形状)が、長方形になっているが、例えば、正方形、円形、楕円形、長穴形状等であってもよい。
また、上記実施形態においては、平板状の支持基板10の上下面のそれぞれに複数の凹部12が形成され且つ複数の発電素子部Aが設けられているが、図26に示すように、支持基板10の片側面のみに複数の凹部12が形成され且つ複数の発電素子部Aが設けられていてもよい。
また、上記実施形態においては、燃料極20が燃料極集電部21と燃料極活性部22との2層で構成されているが、燃料極20が燃料極活性部22に相当する1層で構成されてもよい。