JP5818623B2 - 低水和熱セメントクリンカおよび低水和熱セメント組成物 - Google Patents

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Description

本発明は、水和熱の低いセメントクリンカと、これを含む低水和熱セメント組成物に関する。
ダムや橋梁などのマスコンクリートは、セメントの水和熱により躯体の内部と表面の温度差が大きくなるため、内部拘束による温度ひび割れが発生しやすい。このひび割れを抑制するために、マスコンクリートには水和熱が小さい中庸熱ポルトランドセメント(以下「中庸熱セメント」という。)や、低熱ポルトランドセメント(以下「低熱セメント」という。)等が用いられている。
低熱セメントは水和熱の低いCSを40質量%以上と多く含むため、中庸熱セメントと比べ総発熱量が少ないという長所がある一方で、このCSが多い分、材齢初期の強度発現に寄与するCSが少なくなるため、初期強度発現性は中庸熱セメントより低いという短所がある。
低熱セメントの初期強度発現性を改善する手段として、例えば、特許文献1では、40重量(質量)%以上のCSと、6重量(質量)%以下のCSとを含有する高ビーライトセメント、および、硬化促進剤であるギ酸カルシウムとを含む、低熱セメント組成物が提案されている。この組成物は、高ビーライトセメント単独と比べ、材齢7日における圧縮強さが150%程度向上するとされている(表2の実施例3〜5)。しかし、一般に、初期強度発現性が高い場合、セメントの水和促進により水和熱は上昇することから、材齢7日における強度増進率がこれ程までに高いと、該強度増進に相応して該組成物の水和熱は高くなり、水和熱が小さいという高ビーライトセメント(低熱セメント)の利点が損なわれるという問題がある。
このほか、既存のセメントの水和熱を抑制するセメント混和材が知られている。例えば、特許文献2には、ギ酸カルシウムを含むギ酸類と、デキストリンとを含有してなるセメント混和材が提案されている。そして、該混和材では、低熱セメントにおいて必要な貯蔵設備の増設が不要とされている。
しかし、該混和材は添加量が多いと、コンクリートの強度発現性が阻害されて硬化不良を招くおそれがあり、一方、添加量が少ないと水和熱抑制効果が不十分になって、コンクリートの温度ひび割れが発生するおそれがある。したがって、前記混和材の使用に際し、事前の試験により、単位セメント量などに応じて該混和材の適切な添加量を決めなければならないため手間がかかる。もっとも、かかる手間を省くために、該混和材とセメントのプレミックス品の造り置きも考えられるが、これでは、サイロ等の貯蔵設備が必要になる点で低熱セメントと何ら変わるところはない。
特開平11−343163号公報 特開2001−019519号公報
したがって、本発明は、水和熱が低熱セメントに近く、強度発現性が中庸熱セメントと同等以上の低水和熱セメント組成物を提供することを目的とする。
本発明者は、前記目的のために種々検討したところ、セメント鉱物、バリウムおよびSOを特定の割合で含むセメント組成物は、前記目的を達成できることを見い出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の[1]および[2]を提供する。なお、以下、「%」は特に示さない限り「質量%」である。
[1]CSを40〜50質量%、CSを30〜40質量%、CAを3〜5質量%、CAFを9〜13質量%、SO0.36質量%、および、Baを0.075質量%含み、ケイ酸率が2.95〜3.15である低水和熱セメントクリンカ
[2]前記[1]に記載の低水和熱セメントクリンカ100質量部に対し、石膏をSO換算で1.5〜5.0質量部含む、低水和熱セメント組成物。
本発明の低水和熱セメント組成物は、水和熱が低熱セメントと同程度で、強度発現性が中庸熱セメントと同等以上である。
以下に、本発明の低水和熱セメントクリンカ(以下「クリンカ」という。)、低水和熱セメント組成物、および、これらの製造方法について詳細に説明する。
1.クリンカ
(1)セメント鉱物等の組成
本発明のクリンカは、CSを40〜50%、CSを30〜40%、CAを3〜5%、CAFを9〜13%、SOを0.15〜0.55%、および、Baを0.015〜0.15%含むものである。セメント鉱物等の組成が該範囲にあれば、水和熱が低熱セメントと同程度であり、強度発現性が中庸熱セメントと同等以上であるクリンカが得られる。
本発明のクリンカのセメント鉱物組成は、好ましくは、CSが42〜48%、CSが32〜38%、CAが3〜4%およびCAFが10〜13%である。
また、本発明のクリンカ中のSOの含有率は、好ましくは0.17〜0.5%、より好ましくは0.2〜0.47%である。
さらに、本発明のクリンカ中のBaの含有率は、好ましくは0.02〜0.13%、より好ましくは0.03〜0.1%である。
また、本発明のクリンカにおいて、水硬率は、好ましくは1.9〜2.1、より好ましくは1.95〜2.07であり;ケイ酸率は、好ましくは2.9〜3.2、より好ましくは2.95〜3.15であり;鉄率は、好ましくは0.85〜1.2、より好ましくは0.9〜1.15である。
さらに、本発明のクリンカの中でも、下記(1)式の関係を満たすBaの含有率とSOの含有率を有するクリンカは、水和熱の低減効果および強度発現性の向上効果のいずれも最大限に発揮することができるため、特に好ましい。
Ba<−0.3125×SO+0.1929 ・・・(1)
(式中、Baはクリンカ中のBaの含有率を、SOはクリンカ中のSOの含有率を表す。)
ここで、前記CS、CS、CAおよびCAFの含有率は、下記のボーグ式(i)〜(iv)を用いて算出する。
S(%)=4.07×CaO(%)−7.60×SiO(%)−6.72×Al(%)−1.43×Fe(%)−2.85×SO(%) ・・・(i)
S(%)=2.87×SiO(%)−0.754×CS(%) ・・・(ii)
A(%)=2.65×Al(%)−1.69×Fe(%) ・・・(iii)
AF(%)=3.04×Fe(%) ・・・(iv)
(式中の化学式は、クリンカの原料中またはクリンカ中における、化学式が表す化合物の含有率を表す。)
2.低水和熱セメント組成物
該組成物は、前記クリンカ100質量部に対し、石膏をSO換算で、1.5〜5.0質量部、好ましくは2.0〜4.0質量部含むものである。石膏の含有量が1.5〜5.0質量部の範囲であれば、強度発現性が高く、流動性も良好である。
ここで石膏は、特に制限されず、例えば、天然二水石膏、排煙脱硫石膏、リン酸石膏、チタン石膏、フッ酸石膏、精錬石膏、半水石膏および無水石膏等から選ばれる、少なくとも1種以上が挙げられる。また、石膏のブレーン比表面積は、2000〜5000cm/gが好ましく、3000〜4000cm/gがより好ましい。該値が2000〜5000cm/gの範囲を外れると、強度発現性が低下したり、水和熱が大きくなるおそれがある。
前記低水和熱セメント組成物は、さらに高炉スラグ、フライアッシュ、シリカヒューム、石灰石粉末などの混合材を含むこともできる。
3.低水和熱セメント組成物等の製造方法
該製造方法は、以下の(1)原料調合工程、(2)焼成工程、および、(3)仕上工程を含むものである。
(1)原料調合工程
該工程では、カルシウム原料、ケイ素原料、アルミニウム原料、鉄原料、イオウ原料およびバリウム原料などのクリンカ原料を、前記(i)〜(iv)式のボーグ式を用いて、前記セメント鉱物等の組成の範囲になるように調合する。ここで、カルシウム原料として石灰石、生石灰、消石灰等が、ケイ素原料として珪石、粘土等が、アルミニウム原料として粘土等が、鉄原料として鉄滓、鉄ケーキ等が、イオウ原料として石膏等が、また、バリウム原料として、水酸化バリウム、酸化バリウム、炭酸バリウム、塩化バリウム、硫酸バリウム、バリウム金属等が挙げられる。
前記クリンカ原料は、天然原料のほか、産業廃棄物、一般廃棄物および/または建設発生土を、クリンカ原料の一部代替として用いることができる。かかる産業廃棄物として、例えば、石炭灰、生コンクリートスラッジ、建設汚泥、製鉄汚泥等の各種汚泥、ボーリング廃土、各種焼却灰、鋳物砂、ロックウール、高炉二次灰、建設廃材、および、コンクリート廃材等が挙げられる。また、一般廃棄物として、例えば、浄水汚泥、下水汚泥、下水汚泥乾粉、都市ごみ焼却灰、貝殻、および、バリウム源としてのブラウン管パネルガラスや下水汚泥焼却灰等が挙げられる。また、建設発生土として、建設現場や工事現場等から発生する土壌や残土等が挙げられる。
なお、調合原料の粉末度を調整する必要がある場合は、ボールミル等の原料粉砕機で所定の粉末度になるまで粉砕して調整する。
本発明においては、廃棄物等の有効利用の観点から、クリンカ原料の一部として、前記産業廃棄物や一般廃棄物等を使用することが好ましい。
(2)焼成工程
前記調合原料をロータリーキルン等の焼成炉で焼成した後、エアー・クエンチングクーラーなどで冷却することにより、本発明のクリンカが得られる。
ここで、焼成温度は、1000〜1450℃が好ましく、1200〜1400℃がより好ましい。該温度が1000〜1450℃の範囲であれば、水硬性の高いセメント鉱物が生成する傾向がある。また、焼成時間は、30〜120分が好ましく、40〜60分がより好ましい。該時間が30分未満では焼成が十分でなく、120分を超えると生産性が低下する。
(3)仕上工程
前記クリンカに石膏を添加し、ボールミルやロッドミル等の粉砕機を用いて粉砕することにより、低水和熱セメント組成物が得られる。該組成物の粉末度は、強度発現性、作業性およびコストなどの観点から、ブレーン比表面積で3000〜4000cm/gが好ましく、3100〜3500cm/gがより好ましい。なお、混合方法として、前記の混合粉砕のほかに、クリンカと石膏を別々に粉砕した後に、両者を混合してもよい。
また、前記の粉砕の操作において、クリンカと石膏をそのまま粉砕してもよいが、好ましくは、粉砕効率を高めるために粉砕助剤を添加して粉砕する。該粉砕助剤として、ジエチレングリコール、トリエタノールアミンおよびトリイソプロパノールアミン等が挙げられる。これらの中でも、トリイソプロパノールアミンは、低水和熱セメント組成物の強度発現性が向上するため、より好ましい。これらの粉砕助剤の添加比率は、クリンカ100質量部に対し0.01〜1質量部が好ましい。
なお、本発明の低水和熱セメント組成物は、さらに、高炉スラグ粉末、フライアッシュ、石灰石粉末、石炭灰、シリカ粉末、シリカフュームなどを、本発明の効果を奏する範囲内で含んでもよい。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
1.クリンカの製造
クリンカ原料は、石灰石、粘土、鉄滓、下水汚泥、無水石膏(関東化学社製
試薬1級)、および、炭酸バリウム(関東化学社製 試薬1級)を用いた。また、クリンカの焼成は、小型のロータリーキルンを用い、焼成温度が1450℃で、焼成時間はクリンカ中のフリーライム(f−CaO)量が0.2±0.2%になるように調整して行った。得られたクリンカ1〜6のセメント鉱物組成等を表1に示す。
2.低水和熱セメント組成物の製造
表1のクリンカ1〜6に対し、外割で、二水石膏(関東化学社製 試薬1級)を1.3質量%(SO3換算)および半水石膏(関東化学社製 試薬1級)を1.3質量%(SO3換算)を添加した後、小型ミルで粉砕して、ブレーン比表面積が3200±200cm/gのセメント組成物を製造した。
3.低水和熱セメント組成物の水和熱と圧縮強度の測定
前記セメント組成物の水和熱と圧縮強度を、それぞれJIS R 5201とJIS R 5203に準じて測定した。これらの測定結果を表1に示す。
Figure 0005818623
(1)水和熱について
表1に示すように、クリンカ1〜4を含むセメント組成物の水和熱は、材齢7日で230〜244J/g、材齢28日で289〜305J/gである。また、参考例である低熱セメントの水和熱は、材齢7日で218J/g、材齢28日で280J/gである。したがって、本発明のセメント組成物の水和熱は、低熱セメントの水和熱に近く、ほぼ同程度といえる範囲にある。
特に、前記(1)式を満たすクリンカ1とクリンカ2を含むセメント組成物の水和熱は、他のセメント組成物の水和熱よりも低く、低熱セメントの水和熱と同等である。
一方、比較例2のクリンカ6(SOの含有率が0.60%と高い)を含むセメント組成物の水和熱は、前記実施例や参考例の水和熱と比べ、いずれの材齢においても約40J/g以上も高くなっている。
(2)圧縮強度について
表1に示すように、クリンカ1〜4を含む本発明のセメント組成物の圧縮強度は、材齢3日で20.5〜21.2N/mm、材齢7日で30.2〜31.1N/mm、材齢28日で56.9〜58.3N/mmである。また、中庸熱セメントの圧縮強度は、材齢3日で20.2N/mm、材齢7日で30.3N/mm、材齢28日で56.0N/mmである。したがって、本発明のセメント組成物の圧縮強度は、中庸熱セメントの圧縮強度と同等以上である。
一方、比較例1のクリンカ5(Baの含有率が0.170%と高い)を含むセメント組成物の圧縮強度は、前記実施例や参考例の圧縮強度と比べ、いずれの材齢においても約6N/mm以上も低くなっている。

Claims (2)

  1. Sを40〜50質量%、CSを30〜40質量%、CAを3〜5質量%、CAFを9〜13質量%、SO0.36質量%、および、Baを0.075質量%含み、ケイ酸率が2.95〜3.15である低水和熱セメントクリンカ
  2. 請求項1に記載の低水和熱セメントクリンカ100質量部に対し、石膏をSO換算で1.5〜5.0質量部含む、低水和熱セメント組成物。
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