JP5817173B2 - ガス焼入れ方法 - Google Patents

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Description

本発明は、鋼の熱処理におけるガス焼入れ方法に関する。
従来の焼入れでは、例えば冷却能の異なる油を用途に応じて使い分けている。冷却能は、ホット油、セミホット油、コールド油の順で高くなる。
コールド油で焼入れをすると、焼入れ品の有効硬化層が深く得られ、内部硬度が高くなる。一方、ホット油で焼入れをすると、有効硬化層が浅くなり、内部硬度が低くなる。
また、油ではなくガスによる焼入れ方法として、特許文献1〜3に記載のものがある。
特許文献1には、不完全焼入れを生じさせることなく、寸法精度の高い焼入れ材を製造することが可能な、低ひずみ焼入れ材の製造方法が記載されている。すなわち、鋼材を800〜1200℃に加熱する加熱工程、加熱された前記鋼材を、加圧ガス冷却を用いて、0.1〜50℃/secの冷却速度で100〜500℃の等温保持温度まで急冷し、30sec〜120min等温保持し、その後鋼材を室温まで冷却する低ひずみ焼入れ材の製造方法が開示されている。
特許文献2には、塩や油などの冷媒を用いなくとも表面硬化処理による熱処理歪が少なく、寸法精度の高い肌焼き鋼について記載されている。所定の成分の鋼材であって、該鋼材を用いて成形された部品を焼入れ処理する際における該部品の芯部温度がAr変態点以下600℃以上の範囲を非酸化性ガスを用いた冷却によって行うときのP及びK値が所定の関係式を満たすように成分調整された肌やき鋼である。
特許文献3には、低い圧力において従来の装置では困難であった肌焼き鋼に対して焼入れを行うことができる、鋼部品のガス冷却方法が開示されている。
特開2008−121064号公報 特開2002−294396号公報 特開2000−87136号公報
ところで、歯車などでは、表面を硬化させつつ内部には靭性が必要とされる。冷却能に優れるコールド油を用いて単純に有効比率(有効硬化層深さ/全浸炭深さ)を向上させるだけでは、内部(芯部)硬度が高くなって靭性に乏しく、歯車等としては好ましくない。
また、塩や油を使用した焼入れ方法においては、塩や油の除去のために煩雑な作業が必要とされ、除去に伴う汚染物質の排出が避けられず、廃液処理の問題も生じるので、このような面で問題のないガスによる焼入れ方法が好ましい。
特許文献1には、100〜500℃の温度まで急冷し、30sec〜120min保持した後、室温まで冷却する、低ひずみ焼入れ材の製造方法が開示されており、特許文献2には、鋼材の成分を調整して熱処理歪の少ない肌焼用鋼が開示されており、また特許文献3には、ガス圧が従来装置と比べて小さく、ガス流速が比較的大きいガス冷却方法が開示されている。しかしこれらの焼入れ方法または冷却方法で有効比率を向上させつつ内部硬度を維持することはできず、それらを可能にする技術は、前記特許文献には開示も示唆もない。
本発明は、前記の如き事情に鑑みてなされたものであり、有効比率(有効硬化層深さ/全浸炭深さ)が高く、且つ、内部(芯部)の靭性に優れる焼入れ品を得ることができる、ガス焼入れ方法を提供しようとするものである。
前記課題を解決するため、本発明に係るガス焼入れ方法は、鋼部材からなるワークを浸炭処理した後、該ワークを減圧密閉容器内に配置し、該減圧密閉容器に冷却ガスを供給し、前記減圧密閉容器の上部中央に設けたファンにより、前記減圧密閉容器内で前記ワークの側面部に均一に冷却ガスを接触させて前記ワークをガス冷却する鋼部材のガス焼入れ方法であって、焼入れ温度からワークの芯部がワークの芯部のMs点より高い第1の温度域まで第1の冷却速度でガス冷却する第1の冷却工程と、その後、前記第1の温度域より低い温度域において第1の冷却速度より小さい第2の冷却速度でガス冷却する第2の冷却工程と、を備え、前記第1の冷却速度が、コールド油でワークを冷却するときのワークの冷却速度であり、前記第2の冷却速度が、ホット油でワークを冷却するときのワークの冷却速度であり、焼入れ後にワークの表面がマルテンサイト組織となり、且つ、ワークの有効硬化層深さが、ワークを焼入れ温度から室温まで第2の冷却速度でガス冷却した場合よりも大きく、ワークを焼入れ温度から室温まで第1の冷却速度でガス冷却した場合と同じか又は小さく、且つ、ワークの芯部の硬度が、ワークを焼入れ温度から室温まで第2の冷却速度で冷却した場合のワークの芯部の硬さに対し、ロックウェル硬さで±2以内の範囲になるように、前記ファンの回転数によるガス流速の制御によって前記第1の冷却速度と前記第2の冷却速度とを制御することを特徴とする(請求項1)。なお、本発明における芯部とは全浸炭深さ(カーボン濃度が母材と同じとなるワーク表面からの距離、全硬化層深さと同等)の境界位置とする。
好適な実施の一形態として、ワークの表面が連続冷却変態線図において、全てマルテンサイト変態するように、前記第1の冷却速度と前記第2の冷却速度とを制御する態様を例示する(請求項2)。
好適な実施の一形態として、前記ワークの有効硬化層深さとなるように前記第1の冷却速度を制御する態様を採用することもできる(請求項3)。
好適な実施の一形態として、前記第1の冷却工程と前記第2の冷却工程との間に、ワークの芯部の温度を前記第1の温度域で所定の保温時間保持する保温工程を備え、ワークの芯部の硬さが所定の硬さとなるように前記保温時間を制御する態様を例示する(請求項4)。
本発明に係るガス焼入れ方法によれば、ワーク表面の有効比率(有効硬化層深さ/全浸炭深さ)がコールド油で冷却したと同等の冷却速度であるため高い焼入れ品が得られ、ワークの内部(芯部)硬度がホット油で冷却したと同等の小さい、靭性に優れた焼入れ品が得られる。すなわち、全浸炭深さの同じワークであれば、有効硬化層深さ(ECD)がより大きく、芯部の硬度が小さい、じん性に優れた焼入れ品を得ることができる。
前記ガス焼入れ方法によれば、冷却速度を制御することにより、塩や油を使用することなく要求される品質に合わせた焼入れが可能となる。
なお、「ホット油」及び「ホット油でワークを冷却するときのワークの冷却速度(ホット油本来の冷却速度)」とは、JIS K 2242「熱処理油」における JIS 2種 の油を使用し、該JISに記載された条件で冷却することを指す。また、「コールド油」及び「コールド油でワークを冷却するときのワークの冷却速度(コールド油本来の冷却速度)」とは、JIS K 2242 における JIS 1種 の油を使用し、該JISに記載された条件で冷却することを指す。特に本発明において「ホット油(本来)の冷却速度」とは、流速が毎秒0.6m以下のホット油でワークを冷却したときの冷却速度を意味する。
また、鋼材の焼入温度とは、一般に実施されているようにA3線およびA1線より30〜50℃程度高い温度である。
本発明の焼入れ方法で得られる硬度分布の模式図である。 SCM420試験片0.8mass%CのCCT線図(表面相当)である。 SCM420試験片0.5mass%CのCCT線図である。 SCr435試験片0.35mass%CのCCT線図である。 SCr415試験片0.2mass%CのCCT線図(芯部相当)である。 本発明の方法を実施するのに好適なガス冷却装置(ガス焼入れ装置)の説明図である。 図6のガス冷却装置における減圧密閉容器の縦断正面図である。 図7の減圧密閉容器における内部ダクトの平面図である。 図8の内部ダクトの正面図である。 図7の減圧密閉容器の一部の横断平面図である。
本願発明者は、有効比率(有効硬化層深さ/全浸炭深さ)が高く、且つ、内部(芯部)の靭性に優れる焼入れ品を得ることができる焼入れ方法について、鋭意検討と試験を繰り返し、本願発明を見いだした。
従来の油焼入れ方法では冷却能の異なる焼入れ油を用途に応じて使い分けている。焼入れ油としてはコールド油、セミホット油、ホット油があり、コールド油が最も冷却能が大きく、ホット油が最も冷却能が小さい。
コールド油とホット油での焼入れの違いは、同じ鋼部材、すなわち同形状・同材質・同じ深さ方向のカーボンプロファイル(カーボン濃度分布)の鋼部材においてコールド油では有効硬化層が深く得られるが内部硬度が高く、ホット油では有効硬化層が浅くなるが内部硬度は低い。
歯車などは表面を硬化させ内部に靭性が必要なため、単純に冷却能を上げて有効比率を上げるだけでは靭性に優れた製品を製造することはできない。ホット油で焼入れされた製品の内部硬度はそのままで、有効硬化層だけを深く得る焼入れができれば優れた表面硬度と靭性を併せ持つ製品となる。すなわち、有効比率(有効硬化層深さ/全浸炭深さ)が高く、且つ、内部(芯部)の硬度がホット油で冷却した程度である靭性に優れる焼入れ品について、発明者らは検討を重ねた。
まず、本発明の焼き入れ方法で目標とする鋼部材の硬度分布の例として、鋼部材SCr420(浸炭品)の焼入れ品の深さ方向の硬度分布について、図1に模式図を示した。図1に示されるとおり、SCr420をコールド油で焼入れした場合はECD(有効硬化層深さ)が0.8mm(ビッカース硬度Hvが513のときの深さ、JISに準拠)であり、芯部の硬さがHRC35である。また、SCr420をホット油で焼入れした場合はECDが0.65mm(ビッカース硬度Hvが513のときの深さ、JISに準拠)であり、芯部の硬さがHRC30である。本発明の焼入れ方法においては、ECDをコールド油の焼入れと同様の0.8mm程度に保持したまま、芯部硬さをホット油と同様のHRC30程度とするものを目標とする。
本発明者は上記特性が得られる方法として、まず、1回の焼入れにおいて、コールド油とホット油を使用し、冷却時間(冷却速度)をコントロールすることで、有効硬化層深さはコールド油焼入れ並み、芯部硬度はホット油焼入れ程度に制御することができるか試験を行った。
<予備試験>
(1)サンプル及び試験方法
鋼種SCr420、直径18mm、長さ40mmの試験片を準備し、以下の5つの方法で焼入れ処理を実施した。なお、コールド油(日本グリース製:ハイスピードクエンチ 1070)は60℃、ホット油(日本グリース製:光輝マルテンパー油 S)は130℃に加熱したものを、それぞれステンレス製バケツに10L準備した。また、試験片の中心部と外周部から1.5mmの距離の部分に直径1mm、深さ20mmの穴を開け、熱電対を挿入して温度プロファイルを測定した。
予備試験1: 浸炭品である試験片を850℃まで加熱し、850℃で15分保持した後、コールド油に浸漬して600℃まで冷却(第1の冷却工程)した後にコールド油から取り出し、1秒保持(保温工程)後、該試験片をホット油に浸漬する(第2の冷却工程)手順で焼入れを実施した。
予備試験2: 浸炭品である試験片を850℃まで加熱し、850℃で15分保持した後、コールド油に浸漬して600℃まで冷却(第1の冷却工程)した後にコールド油から取り出し、3秒保持(保温工程)後、該試験片をホット油に浸漬する(第2の冷却工程)手順で焼入れを実施した。なお、予備試験1および予備試験2の焼入れ前に測定した試験片の深さ方向のカーボンプロファイルは図1と同じである。
(2)結果
予備試験1及び予備試験2:
コールド油冷却曲線からホット油冷却曲線に移行させることができた。芯部の温度をコールド油冷却曲線上の500℃付近(Ms点を超える温度)でホット油冷却に切り替えれば、ホット油の冷却速度に変更でき、芯部はマルテンサイト変態の量を抑制することができる。
コールド油冷却から600℃ですぐ(約1秒;予備試験1)ホット油冷却に切り替える(約500℃)と、表面硬度および有効硬化層深さはコールド油と同等、芯部硬度はホット油と同等となった。
コールド油冷却から600℃保持3秒(予備試験2)にてホット油冷却に切り替える(約500℃)ことで、表面硬度および有効硬化層深さはコールド油と同等、芯部硬度はホット油と同等となった。
なお、本願の有効硬化層深さ(ECD)はJIS G 0557「鋼の浸炭硬化層深さ測定法方」に準拠して測定し、限界硬さはビッカース硬さ513とした。
以上より、有効比率(有効硬化層深さ/全浸炭深さ)が高く、且つ、内部(芯部)の硬度がホット油で冷却した程度である靭性に優れる焼入れ品が得られることがわかった。
(3)考察
浸炭品(浸炭領域、予備試験1、予備試験2)であればCCT線図におけるノーズに引っかかることがないため、表面はコールド油と同等が得られると推定される。以下、CCT線図と関連づけて考察する。
a.上記予備試験1、予備試験2においては浸炭拡散処理において、表面のカーボン濃度が0.8mass%となっている。芯部温度を約600℃までコールド油で冷却し、1〜3秒保持した後ホット油で冷却した場合、表面は全てマルテンサイト変態となった。図2のCCT線図(カーボン濃度0.8mass%)に示すとおり、フェライト、ベイナイトノーズが右に寄っているため、マルテンサイト変態となったと考えられる(図2の鋼種はSCM420であるが、傾向は類似しているため説明のため代用した)。
b.次にカーボン濃度が0.5mass%の箇所(表面から約0.52mmの深さの部分)における冷却を検討してみる。約600℃までコールド油で冷却し、1〜3秒保持した後ホット油で冷却した場合、カーボン濃度が0.5mass%の部分はマルテンサイト変態となった。図3のCCT線図(カーボン濃度0.5mass%)に示すとおり、フェライト、ベイナイトノーズが右に寄っているため、全てマルテンサイト変態となったと考えられる(図3の鋼種はSCM420であるが、傾向は類似しているので説明のため代用した)。
c.次にカーボン濃度が0.35mass%の箇所(表面から約0.71mmの深さの部分)における冷却を検討してみる。約600℃までコールド油で冷却し、1〜3秒保持(保温工程)した後ホット油で冷却した場合、ベイナイトを含むマルテンサイトの組織となった。図4のCCT線図(カーボン濃度0.35mass%)に示すとおり、ベイナイトノーズのかぶり量(ベイナイトの量)によって、大きなECD(Hv513)が得られるか得られないかが決まると考えられる。コールド油の冷却曲線であればHv550、ホット油の冷却曲線でHv430となる。したがって、試験片内部(芯部)はMs点直上でホット油の冷却曲線にのせ、且つカーボン濃度が0.35mass%付近の浸炭層をいかに早く冷却してベイナイトノーズのかぶりを少なくしてマルテンサイト変態させるかが本発明のポイントとなると考えられる(図4の鋼種はSCr435であるが、傾向は類似しているため説明のため代用した)。
d.次に、カーボン濃度が約0.2mass%の箇所(表面から約1.5mmの深さの部分、芯部)における冷却を検討してみる。約600℃までコールド油で冷却し、1〜3秒保持した後ホット油で冷却した場合、フェライトとセメンタイトを含むマルテンサイトなどの組織となった。本試験片の場合、コールド油での焼入れ硬度(ロックウェル硬度)はHRC35であり、ホット油の焼入れ硬度はHRC30である。図5のCCT線図(カーボン濃度0.2mass%)に示すとおり、初期冷却速度はコールド油並みに速くしてもMs変態線より高い温度で冷却速度をホット油程度に落とすことで内部硬度HRC30に近づけることが可能となると考えられる(図5の鋼種はSCr415であるが、傾向は類似しているため説明のため代用した)。
なお、コールド油からホット油への切り替え時間が長すぎると芯部の保有熱により表面温度が復温し、Ms点より低くなった箇所が再度Ms点以上に復温した場合、硬度低下が懸念される。
上述の通り、コールド油とホット油を使用することにより、図1に示される目標とした深さ方向の硬度プロファイル、すなわち有効硬化層深さはコールド油焼入れ並み、芯部硬度はホット油焼入れ程度が得られることがわかった。
以上の予備試験及び冷却に関する考察より、また、本発明はガス焼入れであることから、本発明に係るガス焼入れ方法として、次の方法が得られる。すなわち、鋼部材からなるワークを浸炭処理した後、冷却する鋼部材の焼入れ方法であって、焼入れ温度からワークの芯部がワークの芯部のMs点より高い第1の温度域まで第1のガス冷却速度で冷却する第1の冷却工程と、その後、前記第1の温度域より低い温度域において第1の冷却速度より小さい第2の冷却速度でガス冷却する第2の冷却工程と、を備え、焼入れ後にワークの表面がマルテンサイト組織となり、且つ、ワークの有効硬化層深さが、ワークを焼入れ温度から室温まで第2の冷却速度でガス冷却した場合よりも大きく、ワークを焼入れ温度から室温まで第1の冷却速度でガス冷却した場合と同じか又は小さく、且つ、ワークの芯部の硬度が、ワークを焼入れ温度から室温まで第2の冷却速度でガス冷却した場合と同等になるように、前記第1の冷却速度と前記第2の冷却速度とを制御することを特徴とする、焼入れ方法である。
さらに、前記第1の冷却工程と前記第2の冷却工程との間に、ワークの芯部の温度を前記第1の温度域で所定の保温時間保持する保温工程を備え、ワークの芯部の硬さが所定の硬さとなるように前記保温時間を制御しても良い。
前記第1の温度域とはワークの芯部がMs点より高い温度であり、具体的にはMs点温度+200℃の温度域であることが好ましい。
また、前述の、ワークの芯部の硬度が、ワークを焼入れ温度から室温まで第2の冷却速度で冷却した場合と“同等”になるように、とは、ワークを焼入れ温度から室温まで第2の冷却速度で冷却した場合のワークの芯部の硬さに対し、本発明の焼入れ方法で作製したワークの芯部の硬度がロックウェル硬さ(HRC)で概ね±2以内の範囲であれば“同等”といえる。
本発明においてワークの深さ方向のカーボン濃度の測定は、まずワークを硬化面に垂直に切断し、切断面を研磨仕上げして被検面とした。被検面について、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)を用いて表面に垂直な深さ方向のカーボン(C)濃度を測定した。図1のC濃度(カーボンプロファイル)はこのようにして測定した。また、カーボンプロファイルにおいて、浸炭前のワーク(母材)のC濃度と同じになる深さ(表面からの距離)を全浸炭深さとし、本発明においては、この位置(境界部)を芯部とした。
なお、本願における芯部のロックウェル硬さの測定は、前述のようにワークの切断し、断面研磨したサンプルにおける芯部の部分を、JIS Z 2245「ロックウェル硬さ試験−試験方法」のロックウェル硬さ、Cスケールに準拠して測定した。
また、本願におけるワーク表面のビッカース硬さの測定は、JIS Z 2244「ビッカース硬さ試験−試験方法」に準拠して試験力300g(2.942N)で測定した。
有効硬化層深さ(ECD)は、JIS G 0557「鋼の浸炭硬化層深さ測定方法」に準拠して、前述のようにワークの切断し、断面研磨したサンプルについてビッカース硬さを測定した。
前記保持時間はワークの大きさ、形状、目的とする硬さにもよるが、概ね20秒以内、好ましくは10秒以内、さらには5秒以内で良い。
以下、添付図面を参照して、前記ガス焼入れ方法を実施するための具体的な態様として、本発明の実施の一形態に係るガス焼入れ方法について説明する。
本発明の実施の一形態に係るガス焼入れ方法をするに際し、まずガス冷却装置について説明する。
図6に示すように、減圧密閉容器1と、真空ポンプ2と、この真空ポンプ2と上記容器1間を接続する排気路3と、この排気路3に介挿した排気バルブ4と、冷却ガスを貯蔵したリザーバタンク5と、このリザーバタンク5と上記容器1間を接続する冷却ガス導入路6と、この冷却ガス導入路6に介挿した導入バルブ7とにより、鋼部品(ワーク)のガス冷却装置を構成する。
前記減圧密閉容器1は、図7に示すように外筒8と内筒9とより成る二重筒構造とし、この二重筒間に冷却水通路10を形成し、例えばリング状の被処理鋼部品11を支持台12によって前記内筒9の中心部13で保持せしめると共に、前記内筒9と前記支持台12間に中間筒状体14を配置し、この中間筒状体14と前記内筒9間、前記容器1の上蓋15間及び底板16間に夫々流体通路17〜19を形成し、前記中間筒状体14の内周面には、上記中心部13で最も狭くなり、これより上下方向に向って次第に広がる逆円錐台状及び円錐台状の断面形状の空間20及び21が形成されるようにした形状の環状壁22を設ける。
また、前記中間筒状体14内の上部中央には循環ファン23を配置し、前記上蓋15に載置したモータ24によって回転せしめる。
また、前記循環ファン23の下面と前記支持台12間における前記空間20内には、前記空間20を流れる流体を整流するための内部ダクト25を配置し、この内部ダクト25は図8及び図9に示すように、前記空間20の上部から前記中心部13に向って延びる逆円錐台状断面のコア部26と、このコア部26の外周面に互に円周方向に離間して上下方向及び半径方向外方に延び、その上端が互に同一円周方向に弧状に湾曲する複数のガイド片27とにより構成し、このガイド片27の任意のものを前記中間筒状体14の壁22に固定せしめる。
更に前記内筒9の内周面には、図10に示すように、半径方向内方にV字状に開いて上下方向に延びる鋼製の伝熱フィン28を複数個取り付けると共に、前記容器1の底板16上には、その中央部29が円錐状に上方に盛り上がり、周辺部30が弧状に上方に湾曲する下部整流板31を配置し、前記上蓋15の下面には、その中央部32が逆円錐台状に下方に突出する上部整流板33を配置し、この中央部を貫通して前記モータ24の回転軸34が前記循環ファン23に向って延びるようにする。
なお、35は、前記上蓋15と前記モータ24の回転軸34間に形成した磁気シール、36は、前記底板16と、前記支持台12の支持棒37間に形成した真空シールである。
本発明の鋼部品からなるワークのガス焼入れ方法(ガス冷却方法)においては、減圧密閉容器1内を真空ポンプ2により排気バルブ3を介して内部圧力が1Pa程度(ワークが焼き入れ温度で酸化されない圧力)になるまで真空排気し、図示しない隣接する減圧された容器(例えば減圧浸炭室)から浸炭済のワーク(被処理鋼部品11)が搬送され、前記減圧密閉容器1内の所定の位置に被処理鋼部品11を保持した後、排気バルブ4を閉じてから前記減圧密閉容器1内に外部に設置したリザーバタンク5に蓄えた冷却ガスを導入バルブ7を開いて所定の圧力例えば1MPa〜0.6MPaになるまで導入する。導入バルブ7を閉じて容器1内に冷却ガスを封入した後、被処理鋼部品11の上部に設けた循環ファン23をモータ24で駆動し、図7中に矢印で示すように、冷却ガスを空間20,21、流体通路19,17,18を介して循環せしめる。
所定の時間、循環ファン23を駆動させ被処理鋼部品11を冷却し、その間、冷却ガスを水冷された伝熱フィン28を有する内筒9を介して冷却する。
前記冷却ガスとしては、一種の不活性ガス、一種或いは二種以上の混合不活性ガス、または水素ガス単体或いは水素ガスと不活性ガスの混合ガスを用いる。
前記循環ファン23としては軸流ファンを用い、駆動モータ24の出力をインバータ等により調節し、その回転数を変えることにより被処理鋼部品に最適な熱履歴を与えるようにする。
<実施例1>
図6に示す本発明のガス冷却装置内に、被処理鋼部品11として前工程で約870℃に加熱した外径190mm、内径140mm、厚さ25mm、重さ2.4Kgの角状断面のリング状鋼部品(浸炭品)を入れ焼入れを行う。鋼部品の材質は一般的な肌焼き鋼であるSCM420とし、冷却ガスは窒素単体、導入圧力は0.6MPaとする。
循環ファン駆動モータ24としては出力18.5kwの2極汎用モータを用い、運転周波数はインバータ変換により90Hzとし、循環ファン23の回転数を5400rpmとして10秒間冷却した後、回転数を3600rpmに落として冷却する。これにより、本発明の焼入れを実現でき、循環ファンの回転数が5400rpmのときが前述のコールド油での冷却速度に相当し、回転数が3600rpmのときが前述のホット油での冷却速度に相当する。
ファン起動時の被処理鋼部品の温度は搬送中に降温し約850℃であったが、ファン起動後は10秒後で450℃、20秒後で300℃、30秒後で200℃、40秒後で140℃、50秒後で100℃である。
焼き入れの結果、被処理鋼部品の芯部硬さはロックウェル硬さでHRC32であった。また、ECDは1.0mmである。
<比較例1>
循環ファン23の回転数を冷却の初めから終了まで3600rpmとした以外は実施例1と同様の方法で被処理品の焼入れを実施する。
ファン起動時の被処理鋼部品の温度は搬送中に降温し約850℃であったが、ファン起動後は10秒後で750℃、20秒後で610℃、30秒後で540℃、40秒後で460℃、50秒後で380℃、120秒後で100℃である。
焼き入れの結果、被処理鋼部品の芯部硬さはロックウェル硬さでSCM420材がHRC32であった。また、ECDは0.8mmである。
1 減圧密閉容器
23 ファン(循環ファン)

Claims (4)

  1. 鋼部材からなるワークを浸炭処理した後、該ワークを減圧密閉容器内に配置し、該減圧密閉容器に冷却ガスを供給し、前記減圧密閉容器の上部中央に設けたファンにより、前記減圧密閉容器内で前記ワークの側面部に均一に冷却ガスを接触させて前記ワークをガス冷却する鋼部材のガス焼入れ方法であって、
    焼入れ温度からワークの芯部がワークの芯部のMs点より高い第1の温度域まで第1の冷却速度でガス冷却する第1の冷却工程と、
    その後、前記第1の温度域より低い温度域において第1の冷却速度より小さい第2の冷却速度でガス冷却する第2の冷却工程と、を備え、
    前記第1の冷却速度が、コールド油でワークを冷却するときのワークの冷却速度であり、
    前記第2の冷却速度が、ホット油でワークを冷却するときのワークの冷却速度であり、
    焼入れ後にワークの表面がマルテンサイト組織となり、且つ、ワークの有効硬化層深さが、ワークを焼入れ温度から室温まで第2の冷却速度でガス冷却した場合よりも大きく、ワークを焼入れ温度から室温まで第1の冷却速度でガス冷却した場合と同じか又は小さく、且つ、ワークの芯部の硬度が、ワークを焼入れ温度から室温まで第2の冷却速度で冷却した場合のワークの芯部の硬さに対し、ロックウェル硬さで±2以内の範囲になるように、前記ファンの回転数によるガス流速の制御によって前記第1の冷却速度と前記第2の冷却速度とを制御することを特徴とする、ガス焼入れ方法。
  2. ワークの表面が連続冷却変態線図において、全てマルテンサイト変態するように、前記第1の冷却速度と前記第2の冷却速度とを制御することを特徴とする、請求項1に記載のガス焼入れ方法。
  3. 前記ワークの有効硬化層深さとなるように前記第1の冷却速度を制御することを特徴とする、請求項1又は2に記載のガス焼入れ方法。
  4. 前記第1の冷却工程と前記第2の冷却工程との間に、ワークの芯部の温度を前記第1の温度域で所定の保温時間保持する保温工程を備え、ワークの芯部の硬さが所定の硬さとなるように前記保温時間を制御することを特徴とする、請求項1,2又は3に記載のガス焼入れ方法。
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