JP5130150B2 - 高周波焼入れ方法および軸受部品 - Google Patents

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Description

本発明は、ミクロ組織を微細化し、表層硬度を高くして、長寿命化をはかった高周波焼入れ方法、およびその高周波焼入れ方法を適用した鋼部品に関するものである。
高周波焼入れ技術は、必要な部分だけを硬化することができ、エネルギーロスが少ないので、現在も盛んに用いられているが、エコロジー重視の傾向から、今後さらに多用されてゆく技術である。転がり軸受部品に対して高周波焼入れ法が適用される場合があるが、高周波焼入れが用いられる鋼は、元来、JISのS53Cのような中炭素鋼である。このような中炭素鋼は、化学成分上の制約から、通常の軸受用鋼であるCrを含むSUJ2等に比べて短寿命になりやすい。高周波焼入れ品を長寿命化するためには、従来から、化学成分を高合金化する方策がとられてきた。
しかしながら、合金化すると、コストの上昇や加工性の劣化を招く欠点があった。また、高合金鋼では焼入性が高いため、わずかな加熱条件の違いで焼入温度が異なり、残留オーステナイトが過剰になり、所定の表層硬度が得られなかったり、焼き割れが発生するなどの問題を生じる。
高周波焼入れ法では、短時間の加熱とそれに引き続く焼入れ処理のため、通常の炭素鋼の場合、炭化物が充分に素地に炭素として溶け込まない。溶け込みを促進するために、投入電力を高めたり、長時間加熱すると、高周波パターンが崩れたり、結晶粒が粗くなってしまい、転動寿命や割れ強度が向上しにくかった。また、最悪の場合には、オーバーヒート状態となって、焼き割れが発生する可能性もある。
本発明は、高周波焼入れ方法を見直し、ミクロ組織を微細化し、高い表層硬度を得て、長寿命等を得ることができる高周波焼入れ方法およびその方法を適用した鋼部品を提供することを目的とする。
本発明の高周波焼入れ方法は、鋼からなる軸受部品に対して高周波焼入れ処理を施す方法において、高周波加熱して焼入れる焼入工程と、焼入工程の前に、少なくとも1回、A変態点を超えて高周波加熱して一定温度に保持することにより炭素を素地に溶け込ませた後、変態点以下に冷却する工程とを備える(請求項1)。以後の説明で、A変態点およびA変態点を、それぞれ、A点およびA点と記す。
上記の構成の予備加熱において、あらかじめワークである鋼のA点を超えて加熱し、オーステナイト単相にすることにより、炭化物を固溶させて炭素を素地に溶け込ませることができる。
冷却工程において、A点を切る温度まで冷却し、再び焼入れ加熱することにより、結晶粒を微細化し、安定して高硬度を得ることができる。この冷却工程で、たとえば、炭素が素地に溶け込む温度域を時間をかけて冷却する場合には、ワークがこの温度域を冷却されてゆく間にも炭素は素地に溶け込むことが可能となる。また、この冷却工程では、たとえば、水冷などを適用することにより、スピードアップをはかり製造能率を向上させることができる。この結果、転動寿命と割れ強度とに優れた高周波焼入れ部品を高能率で製造することが可能となる。なお、上記の高周波焼入れでは、表層部への焼入れを前提にしているので、上記の処理は、表層部を対象にしている。また、A点は、高周波加熱において略オーステナイト単相になる温度であり、A点は、残留オーステナイト等を除いて、冷却時にオーステナイトからのパーライト変態がおよそ終了する温度である。
上記本発明の高周波焼入れ方法では、たとえば、A点以下に冷却する工程では、高周波電源を切って放置する処理、および強制的に冷却する強制冷却処理のうちの少なくとも1つの処理により、軸受部品を冷却することができる。
炭素を素地に溶け込ませた後にA点以下に冷却することにより、その後で、焼入れ温度に加熱した際に生じるオーステナイト粒度をはじめミクロ組織を微細にすることができる。上記したように、放置処理には、高周波コイルに囲まれた状態で空冷される場合、高周波コイルまたはワークを移動させて、ワークの周りから高周波コイルをなくした状態で空冷される場合等が含まれる。
本発明の高周波焼入れ方法では、少なくとも1回、A 変態点を超えて高周波加熱して一定温度に保持することにより炭素を素地に溶け込ませた後、A 変態点以下に冷却する工程で、焼入れ温度に高周波加熱して焼き入れる処理を1回以上行なうことができる。
焼入れを繰り返すことにより、素地への炭素の溶け込みを十分行なうとともに、A点を繰り返し上下する熱処理パターンによって最終的な焼入温度を下げても充分に炭素が固溶しているためオーステナイト結晶粒度、ミクロ組織を細かくして、硬度、転動寿命、割れ強度に優れる高周波鋼部品を得ることができる。また、焼入れ回数を所定回数以内にすることにより、第1の局面の高周波焼入れ方法よりも、スピードアップをはかることができる場合がある。
上記本発明の高周波焼入れ方法では、高周波焼入れが行なわれたワークに対してさらに焼戻しを行なうことが望ましい。焼戻しにより、固溶した炭素を析出させて、安定化させることにより、寸法等の経年変化を無くしたり、靭性を向上させたり、残留応力等を除去することができる。焼戻しを低温域で行なうことにより、硬度の低下は最小限に抑えることができる。
本発明の軸受部品は、上記のいずれかの高周波焼入れ方法を適用して得られた軸受部品であって、軸受部品の表層部の、JIS規格G0551に規定されるオーステナイト結晶粒度番号が平均9番以上である。
オーステナイト結晶粒を細かくすることにより、硬度を上昇させ、また、細かいオーステナイト結晶粒独自の効果により、転動疲労や割れ強度を改善することができる。
上記本発明の軸受部品では、炭素を0.5質量%以上含み、さらに表層硬度HV700以上を備えることができる。
炭素を0.5質量%以上含むことにより、繰り返し変態によるミクロ組織の微細化を促進し、かつ硬度を高くすることができる。また、このような高硬度を得ることにより、耐摩耗性、転動疲労、割れ強度等を改善することができる。
次に、本発明の実施例について説明する。図1(a)と図1(b)とに、本実施例で用いた2種類の高周波焼入れ方法のヒートパターンを示す。これらの高周波焼入れ方法を適用した鋼を表1に示す。
Figure 0005130150
また、図1(c)に比較のための高周波焼入れのヒートパターンを示す。本実施例の2種類の高周波焼入れのヒートパターンは、次のものである。
(A)いったん、所定温度まで高周波加熱(予備加熱工程)後、空冷または空冷後水冷して、A点以下まで降温し、その後、再度、焼入れ温度まで高周波加熱し、焼入れを行なう。(Aパターン)
(B)焼入温度まで高周波加熱した後水冷する操作を1サイクルとして、複数サイクル繰り返す。(Bパターン)
一方、比較のための熱処理ヒートパターンは、図1(c)に示すように、通常の高周波焼入れ法であるが、炭化物の溶け込みが十分生じるように保持時間を変化させた。(C、D、Eパターン)
表2〜表4に高周波焼入れの詳細な条件を示す。
Figure 0005130150
Figure 0005130150
Figure 0005130150
高周波焼入れを適用する鋼としては、表1に示すJISの炭素鋼S53CおよびS53Cに対して若干の合金元素を含有させた鋼を用いた。表1に示す鋼について、直径12mmの円筒転動試験片、リング回転割れ試験片、ミクロ組織試験片を採取して、それぞれに上記A〜Eパターンの高周波焼入れ処理を施し、それぞれ、転動試験、回転割れ試験、ミクロ組織検査の試験を行なった。なお、パターンAの高周波焼入れ条件を示す表2の欄の「空冷時間」は、高周波コイルの電源を切って、高周波コイルが試験片を取り囲んだ状態で冷却した時間を表わす。高周波加熱の場合、表層のみに電力が投入されるので、高周波電源を切って放置することにより、熱が内部に伝導し、また外部に放散されるので、比較的大きな冷却速度を得ることができる。また、実施例および比較例ともに、高周波焼入れ装置における加熱コイル、焼入れ装置は同じであり、上記のようにヒートパターンを変化させた。焼戻しはいずれも150℃で行なった。それぞれの試験の条件は次のとおりである。
(1)転動疲労試験
転動疲労試験は、所定の高周波焼入れ深さを得た試験片を高面圧、高負荷速度の条件下で、加速的にサンプルを疲労させて評価する試験である。この試験では、サンプル数Nを10とし、疲労強度をL10寿命(サンプルの90%が破損しない負荷回数)により評価した。詳細な条件は次のとおりである。
・試験片寸法 :外径12mm、長さ22mm
・相手鋼球寸法 :直径19.05mm
・接触応力Pmax:5.88GPa
・負荷速度 :46240回/分
・硬化深さ :2mm〜2.5mm(外径部を表面から高周波焼入れ後、研磨して確認)
(2)割れ強度試験
割れ強度試験は、静的および動的な割れ強度を確認するための試験である。詳細な条件は次のとおりである。
・試験片寸法 :φ60×φ45×L15リング
・硬化深さ :2.1±0.1mm(内径、外径から高周波焼入れ後に研磨して確認)
・静的割れ試験:アムスラ試験機で静的に圧壊。試験数3個
・動的疲労割れ試験
(a)試験機 :リング回転割れ疲労試験機
(b)荷重 :9.8kN
(c)負荷速度 :8000回/分(回転速度4000rpm)
(d)応力振幅 :-410MPa〜+627MPa
(e)潤滑 :タービンVG68
(f)試験個数 :4個
上記の転動試験および割れ強度試験の結果を、併せて表5に示す。
Figure 0005130150
(転動疲労試験結果): 比較例は通常の高周波焼入れを1回行なったものであるが、標準条件のパターンCでは短寿命である。加熱時間を長くすると、パターンDのように長寿命になる傾向があるが、時間が長すぎると表層硬度を得にくく、パターンEのように転動寿命も低下する傾向にある。これに対して、実施例のうち、パターンAにおいて、いったんA点以上の所定温度まで加熱後、16秒間空冷し、その後、再び焼入れ温度まで加熱して焼き入れたものは、安定して長寿命である。このパターンAでは、熱処理時間はやや長くなるが、炭化物が十分溶け込む時間があるので、表層硬度が安定してくるため長寿命が確保される。また、パターンBの複数回高周波焼入れを行なったものは、表層硬度はさほど向上しないが、転動寿命はやや長寿命になる傾向がある。この長寿命の傾向は、繰り返し回数が多くなるほど促進される。
表6に示すミクロ組織や表層硬度の結果から、パターンAとパターンBとは、どちらも硬度むらができ難く、オーステナイト結晶粒度番号は9以上で、かつ表層硬度HV700以上が得られている。このため、結晶粒度、ミクロ組織が微細であることが転動疲労寿命や割れ強度に好影響を与えている。
Figure 0005130150
(割れ強度試験結果): 比較例である標準的な高周波焼入れ品(パターンC)に比べ、実施例のパターンAやパターンBは、静的強度で1.2倍以上、疲労寿命で2倍以上となっている。表6のミクロ組織や表層硬度の結果によれば、パターンA、パターンBのいずれも、硬度むらが生じにくく、オーステナイト結晶粒度番号9番以上、かつ表層硬度HV700以上が得られている。このように、結晶粒度、ミクロ組織が細かく表層硬度が高いことが、割れ強度試験に好影響を及ぼしていると判断できる。
本実施例では、パターンAとして、高周波加熱後に空冷する例を示したが、十分な炭素や合金元素の溶け込みが得られれば、変態点を切る速度は本発明の効果に影響はなく、水冷やガス冷却等を採用することができる。また、パターンBでは、3サイクルの焼入れ処理の例を示したが、結晶粒度が細かくなる複数回の焼入れ処理であるかぎり、回数によらず採用することができる。また、鋼の代表例としてS53C鋼をベースとして実験を組み立てたが、炭素含有率0.5質量%以上の鋼ならば、本実施例の熱処理パターンを用いることにより、表層硬度HV700以上、オーステナイト結晶粒度番号9番以上を得ることができる。このため、炭素含有率0.5質量%以上であるかぎり、化学成分上の制約はほとんどないといえる。
上記において、本発明の実施の形態について説明を行なったが、上記に開示された本発明の実施の形態は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれら発明の実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
本発明の実施例における高周波焼入れパターンを示す図である。(a)は本発明の実施例のパターンAであり、(b)は本発明の他の実施例のパターンBであり、(c)は比較のためのパターンC,D,Eである。 オーステナイト結晶粒度を示す図である。(a)は、本発明の実施例のオーステナイト結晶粒を示す図であり、(b)は比較材のオーステナイト結晶粒を示す図である。

Claims (4)

  1. 鋼からなる軸受部品に対して高周波焼入れ処理を施す方法において、
    高周波加熱して焼入れる焼入工程と、
    前記焼入工程の前に、少なくとも1回、A変態点を超えて高周波加熱して一定温度に保持することにより炭素を素地に溶け込ませた後、変態点以下に冷却する工程とを備える、高周波焼入れ方法。
  2. 前記A変態点以下に冷却する工程では、高周波電源を切って放置する処理、および強制的に冷却する強制冷却処理のうちの少なくとも1つの処理により、前記軸受部品を冷却する、請求項1に記載の高周波焼入れ方法。
  3. 少なくとも1回、A 変態点を超えて高周波加熱して一定温度に保持することにより炭素を素地に溶け込ませた後、A 変態点以下に冷却する工程では、焼入れ温度に高周波加熱して焼き入れる処理を1回以上行なう、請求項1に記載の高周波焼入れ方法。
  4. 前記請求項1〜のいずれかに記載の高周波焼入れ方法を適用して得られた軸受部品であって、
    前記軸受部品の表層部の、JIS規格G0551に規定されるオーステナイト結晶粒度番号が平均9番以上である、軸受部品。
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