JP5812832B2 - 薄肉球状黒鉛鋳鉄部材およびその製造方法、並びに、車両用部品 - Google Patents

薄肉球状黒鉛鋳鉄部材およびその製造方法、並びに、車両用部品 Download PDF

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Description

本発明は、車両用部品などに用いられ、部分的に薄肉部を有する薄肉球状黒鉛鋳鉄部材に関する。
球状黒鉛鋳鉄は、優れた引張強度と延性を有することから、近年、自動車をはじめとする車両用部品や機械部品などに広く用いられている。特に、ブレーキキャリパなどの自動車部品用の球状黒鉛鋳鉄には、高いレベルでの強度・延性バランス、剛性、制振性および被削性などが求められる場合が多い。特に最近は車両用部品の軽量化や小型化が進み、これに用いられる球状黒鉛鋳鉄部材にも、高強度化および薄肉化が強く要請されている。しかしながら、一般に、車両用部品などに用いられる、部分的に薄肉部を有する薄肉球状黒鉛鋳鉄部材の場合、薄肉部における冷却速度が速くなることに起因して、薄肉部におけるチル相の発生(チル化)、引け巣の増加などの問題が生じている。
従来、このチル化の抑制のため、球状黒鉛鋳鉄を製造する際に、黒鉛球状化剤(以下、球状化剤という。)を用いた球状化処理のほか、接種剤を用いた複数回の接種処理を施すことによって、黒鉛化を促進させている。しかしながら、黒鉛化が進むと、マトリックス中のフェライト相が増え、製品の引張強度が低下する傾向となる。一方、高強度化の観点から、マトリックスのパーライト化を促進させようとすると、溶湯のチル化傾向が強まり、製品の延性も低下する。このようなチル化の抑制および延性の向上を図るために、溶湯中のSi量を増加させたり、接種剤中のCa量を増加させたりすることが行われているが、これらの量を増加させすぎると、湯流れ性の低下やドロスの増加などの問題が発生する可能性が高くなる。
また、引張強度の向上やチル化抑制のためには、鋳造後の熱処理が有効とされており、たとえば、フェライト焼鈍やオーステンパなどの処理を施すことが行われている。しかしながら、このような熱処理は、設備コストを含む経費や工程数などが大幅に増え、経済性の面で問題がある。このため最近では、チル化の抑制および引張強度の向上に対して、添加元素を活用する対策が主流になっている。具体的には、溶湯へのNi、Mo、Snの添加(特許文献1)、球状化剤や接種剤への希土類元素、Zr、Bi、Baなどの添加(特許文献2〜7)などが行われている。これらの文献によれば、溶湯中へのNi、Moの添加は、引張強度や延性の向上に効果がある。また、接種剤または球状化剤中への各元素の添加に関して、希土類元素は、チル化抑制や黒鉛球状化率向上、フェーディング抑制などの効果があり、ZrやBaはチル化防止や延性向上、湯流れ性の向上に効果があり、Biは黒鉛粒数や炭化物形成促進によりチル化抑制や延性向上に効果があるとされている。
しかし、これらの添加元素は目的の改善には有効であるものの、添加量、添加方法によっては他の特性を劣化させる場合が多く、その適用には十分な注意が必要である。さらに、これらの添加元素はいずれも非常に高価であり、しかも大部分が地球上の限られた地域に偏在しているため、生産国や製造企業の都合により価格や生産量が大幅に変化する。
したがって、車両用部品、特に重要保安部品であるブレーキキャリパなどの部分的に薄肉部を有する部材の生産量および品質を確保するために、その特性を維持しつつ、これらの高価な添加元素を使用しない球状黒鉛鋳鉄の開発が危急の課題になっている。
特開2004−124225号公報 特開2007−118073号公報 特開平10−237528号公報 特開平07−242987号公報 特開2003−286538号公報 特開平06−279917号公報 特開平08−333650号公報
本発明は、以上のような実情に鑑みてなされたもので、高価な添加元素を使用しなくても、引張強度・延性バランス、剛性、黒鉛球状化率、被削性、制振性などの特性をいずれも高いレベルで確保し、さらに経済性および鋳造性に優れた、薄肉球状黒鉛鋳鉄部材を提供することを目的としている。
本発明の薄肉球状黒鉛鋳鉄部材は、質量比で、C:3.0〜4.5%、Si:3.0〜4.5%、Mn:0.2〜0.4%、S:0.006〜0.020%、Cu:0.08〜0.30%、Sn:0.020〜0.040%、Mg:0.015〜0.050%、Zn:0.01%以下含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる球状黒鉛鋳鉄により形成され、引張強度が450MPa以上、破断伸び(以下、伸びという)が15%以上、黒鉛球状化率が85%以上、ヤング率が170GPa以上、対数減衰率1.0×10-3以上であって、製品肉厚が6mm以下の薄肉部にチル相が存在しないことを特徴とする。
前記薄肉球状黒鉛鋳鉄部材は、取鍋にて、溶湯に対して、質量比で、Ca:1.0〜2.0%含有するFe−Si−Mg−Ca系合金からなる球状化剤を、溶湯に対する投入量を、質量比で0.8〜2.0%投入して球状化処理を行うとともに、Fe−Si系接種剤を用いて接種処理を行い、その後、質量比で、Si:45〜75%、Ca:1.0〜3.0%含有するFe−Si系接種剤を、溶湯に対する投入量を、質量比で0.20〜0.40%として注湯流接種処理を行う工程を経て得られた球状黒鉛鋳鉄により形成されることが好ましい。
このような薄肉球状黒鉛鋳鉄部材の用途としては、特に、自動車用もしくは鉄道車両用のブレーキキャリパなどの車両用部品を挙げることができる。
本発明の薄肉球状黒鉛鋳鉄部材は、安価で安定供給が可能な成分からなる球状化剤および接種剤を使用しており、引張強度・延性バランス、剛性、被削性、制振性および鋳造性のいずれについても、従来の球状黒鉛鋳鉄と同等以上の特性を有しつつ、薄肉部でのチル相の発生を抑制できる。さらには、経済性も向上し、かつ、原材料の入手可能性の問題も解消するものである。したがって、小型の車両用部材、特に、薄肉で重要保安部品であるブレーキのキャリパなどの自動車用部品としての用途に好適に使用することができる。さらに、本発明は、安定供給が常に求められる薄肉球状黒鉛鋳鉄を用いた製品に対して、広く適用することが可能であることから、その工業的意義はきわめて大きいといえる。
図1は、原材料の溶解から車両用部品を完成するまでの工程を表した概略フロー図である。 図2は、本発明の予備試験で使用した楔型チル試験片のモールドおよび破面の概略斜視図である。 図3(a)は、溶湯に対するMnの添加量と引張強度の関係を示すグラフである。 図3(b)は、溶湯に対するMnの添加量とチル深さの関係を示すグラフである。 図4(a)は、溶湯に対するCuの添加量と引張強度の関係を示すグラフである。 図4(b)は、溶湯に対するSnの添加量と引張強度の関係を示すグラフである。 図5(a)は、溶湯に対するCuの添加量と伸びの関係を示すグラフである。 図5(b)は、溶湯に対するSnの添加量と伸びの関係を示すグラフである。 図6(a)は、溶湯に対するCuの添加量と黒鉛球状化率の関係を示すグラフである。 図6(b)は、溶湯に対するSnの添加量と黒鉛球状化率の関係を示すグラフである。 図7(a)は、溶湯に対するSの添加量とチル深さの関係を示すグラフである。 図7(b)は、溶湯に対するSの添加量と黒鉛球状化率の関係を示すグラフである。 図8(a)は、球状化剤中のMgの含有量とチル深さの関係を示すグラフである。 図8(b)は、球状化剤中のMgの含有量と黒鉛球状化率の関係を示すグラフである。 図8(c)は、球状化剤中のMgの含有量と伸びの関係を示すグラフである。 図9(a)は、球状化剤中のCaの含有量とチル深さの関係を示すグラフである。 図9(b)は、球状化剤中のCaの含有量と黒鉛球状化率の関係を示すグラフである。 図9(c)は、球状化剤中のCaの含有量と引張強度の関係を示すグラフである。 図9(d)は、球状化剤中のCaの含有量と伸びの関係を示すグラフである。 図10(a)は、球状化剤の投入量とチル深さの関係を示すグラフである。 図10(b)は、球状化剤の投入量と引張強度の関係を示すグラフである。 図10(c)は、球状化剤の投入量と伸びの関係を示すグラフである。 図11は、注湯流接種剤中のCaの含有量とチル深さの関係を示すグラフである。 図12(a)は、注湯流接種剤の投入量とチル深さの関係を示すグラフである。 図12(b)は、注湯流接種剤の投入量と伸びの関係を示すグラフである。 図12(c)は、注湯流接種剤の投入量と黒鉛球状化率の関係を示すグラフである。 図13(a)は、注湯流接種処理の有無による、球状化処理から鋳型への鋳込み時間と黒鉛球状化率の関係を示すグラフである。 図13(b)は、注湯流接種処理の有無による、球状化処理から鋳型への鋳込み時間と関係を示すグラフである。 図14(a)は、黒鉛球状化率と引張強度の関係を示すグラフである。 図14(b)は、黒鉛球状化率とヤング率の関係を示すグラフである。 図14(c)は、黒鉛球状化率と対数減衰率の関係を示すグラフである。
車両用部品、特にブレーキキャリパに要求される特性としては、引張強度、延性、剛性、被削性、制振性などがあり、これらの特性を確保するためには、その材料である球状黒鉛鋳鉄において、組織因子である黒鉛球状化率(以下、球状化率という)、延性の指標である伸び、剛性の指標であるヤング率、被削性に影響するチル相の生成、内部欠陥生成に影響する鋳造性、振動や騒音の防止能力に影響する制振性の指標である対数減衰率などを制御する必要がある。一般に、球状黒鉛鋳鉄において、特性の1つを向上させる目的で添加元素を入れた場合、他の特性も同時に変化する場合が多く、しかも劣化する方向に変化することも多い。たとえば、引張強度向上のためCu、Snが添加されるが、これらは黒鉛球状化(以下、球状化という)阻害元素でもあるため、球状化率を低下させる可能性がある。また、球状化率を向上させるために、球状化剤中のMg量を増加させると、対数減衰率が低下する傾向が見られる。さらに、引張強度を向上させるために、溶湯中にCuやSnを添加すると伸びが減少する傾向が見られる。したがって、添加元素の種類や量の選択、球状化や接種処理の実施条件は、各特性への影響を十分調査した上で総合的に判断して決める必要がある。
ところで、薄肉部を有する球状黒鉛鋳鉄を得るための球状化剤や接種剤から、希土類元素、Zr、Bi、Baなどの添加元素を削減または削除した場合に、製品の特性上の問題点として、
(1)チル相(異常組織)の発生およびチル化傾向の増大による被削性(機械加工性)の低下、
(2)球状化率の低下およびそれに伴う引張強度、伸び、ヤング率の低下、
(3)フェーディングの増大(フェーディング開始時間の短時間化)、
(4)引け巣、内部欠陥の増加、
が挙げられる。ここで、チル相とは、球状黒鉛鋳鉄などで溶湯の凝固過程で急冷されて生成する組織である。この組織は、炭素が黒鉛ではなく、セメンタイト(Fe3C)の形で晶出したものであり、破面が白色を呈する。また、フェーディングとは、球状化処理や接種処理のために添加した元素が、時間経過に伴って酸化または他の元素と反応し消費されるため、減少してしまい、時間経過につれて球状化や接種が進まなくなる現象である。これらの問題が生じた場合、薄肉部を有する球状黒鉛鋳鉄製の部品の特性に大きな影響を及ぼすことになる。たとえば、チル相の発生は被削性(機械加工性)の低下に、球状化率の低下は引張強度、伸びおよびヤング率の低下に、フェーディングは球状化率の低下やチル化傾向の増大につながる。これらに対して、対数減衰率は球状化率とは相反する関係にある。
一方、上記(1)〜(4)の問題を防止する手段としては、従来から、溶湯成分やその組成比、鋳造鋳型の方案、鋳造後の熱処理方法などの数多くの提案がなされている。しかしながら、これらの対策のほとんどはコストアップにつながるもので、本発明の目的である高価な添加元素を削減する経済的なメリットを生かすことができない。
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、希土類元素、Zr、Bi、Ba、Ni、Moなどの高価な添加成分を使用せず、上記(1)〜(4)の問題を解決するためには、溶湯成分、球状化剤および接種剤の基本成分や投入量を的確に制御することが必要と考え、量産設備をシミュレートした小型鋳造設備を使用し、これらの因子の影響を詳細かつ系統的に検討した。以下、その検討の詳細を具体的に示す。
まず、小型の高周波誘導炉を用いて、実機ラインと同じ鉄くずを溶解し、標準的なFCD400−450(JISG5502)相当の溶湯を調整し、主要元素であるMnの含有量、添加元素のCu、Snの添加量、および不純物のSの含有量をそれぞれ変化させて、その影響を調査した。また、実機ラインの条件に合わせて、取鍋でのサンドイッチ法による球状化処理を実施し、球状化剤の投入量のほか、球状化剤中のMg、Caの量を変化させた。その際、取鍋内で市販のFe−Si系接種剤による1次接種処理も同時に行った。取鍋の底のポケットに配置した球状化剤と接種剤の上部には、実機ラインと同様に、Fe−Si系のカバー剤を置き完全に被覆した。さらに、鋳型(シェルモールド)への鋳込み時に、溶湯中に接種剤を投入する注湯流接種(湯流れ接種)を手動で行い、接種剤の投入量や接種剤中のCaなどの含有量の影響を検討した。なお、基本的工程は、図1に示すフロー図に沿って行われることとなる。鋳型としては、楔型チル試験片とノックオフ(Kb)型試験片(25mmφ)を使用した。また、量産時のフェーディング効果を評価するため、取瓶中での球状化処理から鋳型への鋳込みまでの時間(以下、経過時間という)を最大15分間まで変化させた試験片を作製し、各特性を測定した。
チル試験片は、常温で楔型試験片を破断し、デジタルスコープで破面先端からチル相の存在する深さ(チル深さ)を測定した(図2参照)。チル深さが小さいほど、チル化傾向が抑制されていることになる。また、球状化率や黒鉛粒数などは、ノックオフ(Kb)型試験片の丸棒端部(25mmφ)を切断し、光学顕微鏡で断面中央部付近を観察して測定した。引張特性は、25mmφの丸棒からJIS4号試験片を各2本採取して測定した。
この予備試験の結果、溶湯に対するCu、Sn、Sの添加量と、球状化剤中のMgおよびCaの含有量、並びに、球状化剤および注湯流接種剤中のCaの含有量とその投入量を的確に制御することにより、高価な添加元素を含有しない球状化剤または接種剤を用いた場合であっても、薄肉の球状黒鉛鋳鉄の鋳放し材におけるチル相の発生、球状化率の低下、伸びの低下、フェーディングによるチル化傾向の増大などの課題を、相反する関係にある特性を低下させることなく、すべて解決できるとの知見が得られた。以下、図を参照しながら予備試験の結果について詳述する。
[溶湯に対するMn、Cu、Sn、Sの影響]
図3に、Fe−Si−Mg−Ca系合金の球状化剤を用いた場合における、溶湯に対するMnの添加量と、球状黒鉛鋳鉄の(a)引張強度および(b)チル深さとの関係を示す。Mnは、パ−ライト化促進元素で、引張強度への影響は重要であるといわれているが、本予備試験の範囲内では、チル化および引張強度への影響は、あまり見られなかった。
図4および5に、Fe−Si−Mg−Ca系合金の球状化剤を用いた場合における、溶湯に対するCuおよびSnの添加量と球状黒鉛鋳鉄の機械的特性(引張強度、伸び)との関係を示す。一般にCu、Snともに、添加量が増加するに伴い、引張強度向上の効果が認められており、本予備試験でも両者とも引張強度を向上する効果が認められた(図4(a)、(b)参照)。特に、Snの添加量の増加に伴い、引張強度が著しく向上していた。一方、伸びについては、Cu、Snのいずれの場合も、添加量の増加に伴い低下する傾向があり、その低下量はCuの方が少ないことが確認された(図5(a)、(b)参照)。また、Cu、Snは、いずれも球状化阻害元素であり、図6に示すように、Cu、Snの添加量の増大に伴い、球状化率は低下することが確認された。以上の予備試験により、CuおよびSnの添加量に関しては、引張強度に限らず、伸び、球状化率、チル化傾向などの特性に及ぼす影響をも総合的に考慮して、設定する必要があることがわかった。
図7は、溶湯に対するSの添加量と、チル深さおよび球状化率の関係を示す。Sは、一般にMgやCaと硫化物を作って、これらの元素を消耗させるため、球状化率や接種効果を低減させる不純物と考えられている。このため、現在では、電気炉の適用やスクラップの選択によりSの添加量を低く抑える処置がとられているが、Sの添加量が低すぎると、接種や球状化効果が抑制されてしまうとの実験結果もある。すなわち、黒鉛の球状化を阻害せずにチル発生を抑制させるためには、Sの添加量を最適な範囲に規制する必要がある。このような観点から、Fe―Si―Mg―Ca系合金の球状化剤を用いた場合の最適なSの添加量について予備試験を行った結果、チル深さを最小にするためには、Sの添加量を、質量比で0.012%前後とすることが好ましいことがわかった(図7(a)参照)。
[球状化剤中のMg、Ca含有量の影響]
図8に、球状化剤中のMgの含有量と、チル深さ、球状化率および伸びとの関係を示す。図8(b)および(c)より、球状化元素であるMgは、球状化率の向上に顕著な効果があることが確認されたが、同時に、図8(a)より、チル化傾向を増大する元素でもあることが確認された。
また、図9に、球状化剤中のCaの含有量と、チル深さ、球状化率、引張強度とおよび伸びとの関係を示す。球状化率については、図9(b)より、含有量が1.3%程度までは急激に向上し、また、伸びについては、図9(d)より、含有量が2.0%程度まで緩やかに向上することが確認された。さらに、図9(c)より、この範囲では、引張強度も僅かながら向上していることが確認された。これらは、球状化剤中のCaの黒鉛化促進効果が優位に働いているためと考えられる。これに対して、チル深さは、図9(a)より、含有量が1.3%程度までは良好な傾向を示すものの、それ以上になると悪化する傾向があることが確認された。
以上より、MgおよびCa含有量の適正範囲は、各特性に及ぼす影響を総合的に判断して決める必要がある。
[球状化剤の投入量]
図10に球状化剤の投入量と、(a)チル深さ、(b)引張強度、(c)伸びの関係を示す。これらの図10(a)および(b)より、球状化剤の投入量が増加すると引張強度は向上する傾向を示すが、これに伴い、チル化傾向も増加することが確認された。これに対して、図10(c)より、伸びについては、経過時間にかかわらず、引張強度が上昇してもほぼ一定値を維持されることが確認された。これは、球状化剤の増加によるSi、Caの黒鉛化促進効果や、CaによるMg球状化反応抑制効果が進んだことによるものと推測される。
[注湯流接種剤中のCa含有量の影響]
図11を参照すると、注湯流接種剤中のCaの含有量は、3%までの範囲では緩やかにチル化抑制効果が得られることが確認されるが、それ以上では顕著な効果が見られなかった。また、この範囲では、伸びや球状化率への影響は、ほとんど確認されなかった。一方、Caの含有量が5%を超えると、溶湯との吸熱反応による溶け込み不良の発生やスラグの増加による不良率の増加などの問題が生じるため、適正範囲を決める際には十分な検討が必要である。
[注湯流接種剤の投入量]
図12に、本発明の範囲にある注湯流接種剤の投入量と、(a)チル深さ、(b)伸びおよび(c)球状化率の関係を示す。これらの図を参照することにより、注湯流接種剤の投入量の増加に伴い、チル化傾向が抑制され、チル深さが減少すること、伸びや球状化率が向上することが確認される。
[経過時間]
図13に、注湯流接種処理の有無による球状化処理が終了してから鋳型への鋳込みまでの時間(経過時間)と、(a)黒鉛球状化率、(b)黒鉛粒数、の関係を、それぞれ示す。この結果より、適切な条件で注湯流接種処理を行うことによって、球状化率の低下は抑制され、黒鉛粒数は時間と共に増加することが明らかになり、注湯流接種によりフェーディングが抑制可能であることが確認された。
また、一般に球状黒鉛鋳鉄においては、剛性(ヤング率)、引張強度および減衰特性と、球状化率は相関があることが知られているが、今回の予備試験においても、球状化率を変化させた試料を作成し、その影響を確認した。図14に示されるように、球状化率の増加に伴い、(a)引張強度および(b)ヤング率は、一様に向上する傾向を示し、85%以上ではほぼ一定となった(図14(a)、(b)参照)。一方、(c)対数減衰率は、球状化率が40%となるまで急激に低下し、その後はほぼ一定となる。このように、対数減衰率は、基本的には、球状化率と相反する関係にあることが確認された。
次に、本発明者は、量産ラインと同様の装置を使用して、自動車用ブレーキキャリパを製造し、予備試験の結果を考慮した製造条件で実製品による確認試験を実施した。その結果、高価な各種添加成分を含有しない場合でも、溶解成分、球状化剤および接種剤の基本成分量や投入量を同時にかつ的確に制御すれば、鋳放し状態、または、多少の機械加工を施した状態においても引張強度が450MPa以上、伸びが15%以上、球状化率が85%以上、ヤング率が170GPa以上、対数減衰率1.0×10-3以上、製品肉厚6mm以下の薄肉部のチル相がなく、鋳造性および経済性、さらには制振性に優れた車両用部品が製造できるとの知見を得て、本発明に至った。
以下、本発明の球状黒鉛鋳鉄およびこれを用いた車両用部品の製造における具体的な実施形態について説明する。
本発明で使用する溶解原料としては、熱延鋼板系または冷間圧延系のスクラップや銑鉄、社内のリターン材などを使用することができるが、O、S、P、Zn、Pbなどの不純物量が低い材料を使用することが好ましい。ただし、これらの不純物量が多い場合であっても、脱硫処理やフラックス処理をすることにより、不純物量を低減すれば、問題なく使用することができる。溶解炉としては、特に限定されるものではないが、電気炉、特に高周波誘導炉を使用することが好ましい。原料を溶解した後、C、Si、Mn、S、Cu、Snを適宜添加し、溶湯成分の調整を行う。出湯前の溶解炉、球状化処理の後の取鍋からのノロ取りは、溶湯表面に浮上してきた介在物などのスラグを除去する上で重要であり、確実に実行することが望ましい。
溶湯の組成は、後述する最終組成への調整を容易に行う観点から、質量比でC:3.0〜4.5%、Si:2.0〜3.0%、Mn:0.2〜0.4%、S:0.006〜0.020%、Cu:0.08〜0.30%、Sn:0.020〜0.040%、Zn:0.01%以下、残部がFeおよび不可避不純物からなるようにすることが好ましい。なお、溶解時および成分調整時の溶湯温度は1480〜1580℃とすることが好ましい。
その後、溶解炉を傾斜させ、取鍋により溶湯を注湯するが、この際、球状化剤、接種剤およびカバー剤を添加し、球状化処理および1次接種処理を行う。
球状化処理の方法としては、サンドイッチ法、その他の公知の手段を用いることができるが、球状化剤中のMg濃度やMgの歩留まりのほか、特別な設備を必要とせず、安定して黒鉛球状化が可能であることから、通常はサンドイッチ法が採用される。
球状化剤としては、Fe−Si−Mg−Ca系などのMg系の球状化剤を用いることができるが、質量比で、Ca:1.0〜2.0%含有するものを用いることが好ましく、1.2〜1.8%含有するものを用いることがより好ましい。Caは、一般にMgの反応抑制のために添加されるものであり、また、適正範囲の添加であれば、球状化率や伸びを向上させるとともに、球状化率の向上に伴う対数減衰率の低下を抑制する効果を示す。しかしながら、予備試験で示したように、この適正範囲から外れた場合には、チル化傾向を増大させてしまう。1.0%未満では添加効果が十分に期待できず、2%を超えるとチル化傾向が顕著となり、さらに、スラグが増大するなどの問題が生じる。また、球状化剤の溶湯に対する投入量は、チル化を抑制し、対数減衰率を向上させるとともに、引張強度を確保する観点から、質量比で、0.8〜2.0%であることが好ましい。0.8%未満では十分な球状化率が得られず、2.0%を超える場合は球状化剤に解け残りが生じる可能性がある。
本発明では、このように球状化剤中のCa含有量および溶湯に対する投入量を適正範囲とすることで、球状化率を所定値以上とし、引張強度、剛性の向上ばかりでなく、溶湯中へのCuやSnの添加を抑制した場合でも、伸びの向上を図っている点に特徴がある。さらに、高い球状化率を達成した場合であっても、対数減衰率が過度に低下することを防止している。
球状化剤の粒径は、解け残りと溶湯との均一混合の観点から、0.05〜5mm程度とすることが好ましい。
なお、サンドイッチ法では、溶湯が取鍋の規定位置に達するまでの反応を抑制する観点から、球状化剤および接種剤の上に、カバー剤を入れて直接溶湯と接触しないようにする。カバー剤としては、Fe−Si系が用いられる。
取鍋での1次接種処理に用いられる接種剤としては、Fe−Si系またはCa―Si系の接種剤を用いることができるが、通常は、Si:45〜75%のFe−Si系のものが使用される。なお、接種剤の粒径は、解け残りと溶湯との均一混合の観点から、0.05〜5mm程度とすることが好ましい。
1次接種処理に用いられる接種剤は、取鍋の底のポケットに球状化剤ともに配置される。球状化処理と接種処理は同時に行う必要はなく、球状化処理後に上記接種剤を単独で取鍋に投入するようにしてもよい。ただし、鋳型に鋳込む直前に行う注湯流接種の接種効果を十分に発揮させるために、1次接種処理は球状化処理のすぐ後に速やかに実施することが好ましい。
本発明では、その後、上記の球状化処理が終了した溶湯を鋳型に鋳込む前に、または、鋳込み後に鋳型内において、注湯流接種を行う。注湯流接種剤としては、Fe―Si系接種剤を使用する。具体的には、各成分が質量比でSi:45〜75%、Ca:1.0〜3.0%を含有するものを用いることが必要である。
Siは、接種剤の主要元素であり、その含有量は、フェロシリコン系原料を使用する場合の標準量である45〜75%程度とする。45%未満ではノロやスラグの発生が多くなり、75%を超えると溶解性が悪くなるという問題が生じる。
Caは、前述したように、マトリックスの黒鉛化促進、黒鉛の球状化促進によりチル化抑制や球状化率向上の効果がある。Caの含有量は、1.0〜3.0%とする必要があり、1.2〜2.2%とすることが好ましい。1%未満では、接種効果が発揮できずに黒鉛の微細化や球状化が進まず、3%を超えると、硬質なCaOが増加し、スラグの発生や被削性劣化を招く。
また、注湯流接種剤の溶湯に対する投入量は、チル化傾向を抑制し、球状化率および伸びを向上させる観点から、質量比で0.2〜0.4%であることが必要であり、0.25〜0.3%であることが好ましい。投入量が0.4%を超えると、解け残りの増大やスラグの増大を招き、0.2%未満では接種による十分な効果が得られず、所望の特性向上が期待できないうえ、投入歩留りも低下する。
注湯流接種は鋳型に鋳込む直前に行う場合には、自動切り出し装置などを用いて均一速度で、かつ、溶湯中に確実に均一混合できるようにする。また、鋳型内に接種剤を設置する鋳型内接種法により行うことも可能であるが、その場合には、接種剤の解け残りがなく、溶湯と均一に混合するように鋳型方案などを十分に工夫する必要がある。また、所望の材料特性をすべて満足させるためには、最終の注湯流接種処理が大きな影響を及ぼすため、投入した接種剤が確実に溶湯と均一混合し、その効果を発揮する必要がある。この観点から、接種剤の粒径は、0.05〜5mmとすることが好ましい。
このようにして、得られる球状黒鉛鋳鉄は、高価な添加元素を実質的に含有せず、質量比で、C:3.0〜4.5%、Si:3.0〜4.5%、Mn:0.2〜0.4%、S:0.006〜0.020%、Cu:0.08〜0.30%、Sn:0.020〜0.040%、Mg:0.015〜0.050%、Zn:0.01%以下含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなることが必要である。ここで、添加元素とは、溶湯、球状化剤および接種剤の各成分に使用されるNi、Mo、レアアース、Zr、BiまたはBaなどの比較的高価な添加元素を意味する。また、実質的に含有しないとは、意図的な添加は行わないが、不可避的不純物として0.001%以下の含有は許容されるという意味である。
Cの含有量は、3.0〜4.5%とすることが必要であり、3.2〜4.2%とすることが好ましい。3.0%未満では、球状黒鉛鋳鉄の黒鉛量が不足し、チル化傾向が増大するうえに、溶湯の流動性が悪くなる。一方、4.5%を超えると、Cが過剰となり、キャッシュ黒鉛が出やすくなるため、鋳鉄材料自体が脆くなり、所定の強度を得ることができない。
Siの含有量は、3.0〜4.5%とすることが必要であり、3.2〜4.2%とすることが好ましい。3.0%未満では、球状黒鉛鋳鉄の溶湯の流動性が悪くなるばかりでなく、チル組織の増加し、基地組織にセメンタイトが析出しやすくなり、目的とする伸びを得ることができない。一方、4.5%を超えると、材料の均質性が悪くなるとともに、シリコフェライトが多くなり、脆化し、伸びが著しく低下する。
Mnは、パーライト化促進元素で、強度への影響は重要である。Mnの含有量は、0.2〜0.4%とすることが必要であり、0.25〜0.35%とすることが好ましい。0.2%未満では、微視組織中のパーライト量が減少し、フェライトが増加するため所定の強度が得られない。一方、0.4%を超えると、マトリックス中にセメンタイトやパーライトなどの組織が増加し、チルが生じやすくなり被削性に悪影響を及ぼす。
Sの含有量は、0.006〜0.020%とすることが必要であり、0.008〜0.014%とすることが好ましい。0.006%未満では、接種や球状化効果が抑制される。一方、0.020%を超えるとMgやCaと硫化物を作って、これらの元素を消耗させるため、球状化率や接種効果を低下してしまう。
CuとSnは、前述したように、マトリックスを強化し、引張強度を向上させる目的で添加されるパーライト化元素であるが、黒鉛の球状化を阻害する元素でもある。また、Cuは、Snに比べて強度向上の効果はSnの約1/10といわれており、また、価格的にはCuが1/10程度である。したがって、強度向上、伸びの減少、球状化率の減少、チル化傾向増大に対する添加効果と経済的な観点から、Cuの含有量は、0.08〜0.30%とすることが必要であり、0.10〜0.20%とすることが好ましい。同様に、Snの含有量は0.02〜0.040%とすることが必要であり、0.025〜0.035%とすることが好ましい。なお、CuおよびSnの成分調整は、溶解炉内における添加、取鍋内での添加、さらには、注湯流接種と同時の添加のいずれでもよい。
Mgは、黒鉛を球状化させるために球状化剤に添加される元素であり、球状化処理後に残留する。Mgの含有量は、0.015〜0.050%とすることが必要であり、0.035〜0.045%とすることが好ましい。0.015%未満では、黒鉛の球状化が十分に進まないため、目的とする強度、剛性が得られない。一方、Mgは非常に酸化しやすい元素であるため、0.050%を超えると、引け巣やマトリックス中のMg酸化物が増加し、強度を低下させる傾向がある。また、前述したようにチル相が生じやすくなり、被削性を悪化させる。
これらの成分のほか、表面処理鋼板や快削鋼に見られるように、近年の鋼板の高級化・機能化により、溶解材料に用いられる鉄くずからPb、Znなどの球状黒鉛鋳鉄の製造に有害な不純元素が混入する場合がある。これらの有害元素が混入すると、黒鉛の球状化が妨げられたり、ピンホールなどの鋳造欠陥を発生させて、品質が低下するという問題が生じる。これらの有害元素の中で、Znは、鉄くず中のメッキ鋼板などの付着成分として混入する可能性が高く、その含有量が0.01%を超えると前述の問題が多発する。このような観点から、Znの含有量は、0.01%以下にする必要がある。
次に、本発明の製造方法により得られた球状黒鉛鋳鉄を、自動車用ブレーキ部材などの車両用部品に適用する場合について説明する。本発明の製造方法により得られた球状黒鉛鋳鉄は、製品の肉厚や大きさを問わず適用することができるが、以下の説明では、一般的な乗用車または商用車を想定し、3〜40mm程度の肉厚の自動車用ブレーキキャリパに適用する場合を例に挙げて説明する。なお、自動車用ブレーキキャリパ部品に要求される強度レベルはその用途に応じて異なるが、本発明は、特にJIS FCD400−FCD500で規定されるキャリパに好適に用いることができる。
まず、上述した注湯接種処理後、得られた溶湯を鋳型(砂型)に鋳込む必要があるが、このときの鋳込温度は1300〜1450℃であることが好ましい。なお、フェーディング効果の影響を避けるため、球状化処理から鋳込みまでの時間を15分以下とすることが好ましく、12分以下と速やかに行うことがより好ましい。
鋳込み後、共析変態点以下になるまで十分冷却した後、型ばらしを行う。本発明により得られた自動車用ブレーキキャリパは、湯口や押湯を除去した後、熱処理などを行わずに、鋳放しで使用することを前提としているが、この場合、寸法精度、組織および硬さなどを一定に保つ観点から、鋳込んでから型ばらしまでの時間を一定とする必要がある。
その後、穴あけや表面切削などの簡単な機械加工を実施する必要があるが、微視組織中の異常組織、特に、チル相の存在はその時の切削性に大きく影響する。
最終的に得られる本発明の球状黒鉛鋳鉄のマトリックスは、パーライトとフェライトの混合組織である。マトリックス(黒鉛部除去)に占めるパーライト率は、面積率で一般的には30〜60%である。また、その引張強度は450MPa以上、伸びは15%以上、球状化率は85%以上、ヤング率が170GPa以上、対数減衰率が1.0×10-3以上、製品肉厚を6mm以下の薄肉部とした場合であっても、チル相が存在しないことを特徴とする。なお、チル相が存在しないとは、表層付近の組織観察によりチル相の面積率が1%未満のことを意味する。
以下、本発明の鋳放し薄肉球状黒鉛鋳鉄を用いて、自動車用ブレーキキャリパに製造した実施例に基づいて、さらに詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されることはない。
本実施例の球状黒鉛鋳鉄(実施例1〜16、比較例1〜9)は、原材料として鋳鉄のリターン材と鉄くず材を使用した。このときのリターン材と鉄くず材との比率は、概ね1:1であった。この原材料を、高周波溶解炉を用いて溶解した後、添加元素としてC、Si、Mn、S、CuおよびSnを適宜追加して、FCD450相当の成分、すなわち、溶湯の組成を、質量比で、C:3.0〜4.5%、Si:2.0〜3.0%、Mn:0.2〜0.4%、S:0.006〜0.020%、Cu:0.08〜0.30%、Sn:0.020〜0.040%、Zn:0.01%以下の範囲で、残部がFeおよび不可避不純物となるように調整した。このとき、比較例4を除いてZnの含有量が質量比で0.01%以下となるように鉄屑の調整を行った。また、比較例1〜3および7については、これらの成分の1つまたは2つが上記の質量比の範囲外になるように調整した。その後、出湯温度を1500℃に調整して取鍋に出湯した。
この際、取鍋の底のポケットに、注湯する溶湯に対してFe−Si−Mg−Ca系球状化剤を載置し、その上部に注湯する溶湯に対して0.45%のFe−Si系カバー材を置き、サンドイッチ法で球状化処理を行い、その後除滓をした。処理後の溶湯を小型の取鍋に分湯する際に、置き注ぎ法で1次接種処理を行い、その後除滓をした。1次接種剤としては、通常使用されているFe―Si系合金のものを使用した。さらに、1次接種処理後の溶湯を砂型に鋳込む直前に、Fe−Si系接種材を用い自動注入装置による注湯流接種処理を行い、球状黒鉛鋳鉄(実施例1〜16、比較例1〜9)を得た。表1に実施例1〜16、比較例1〜9の球状黒鉛鋳鉄の組成、使用した球状化剤と接種剤を示す。なお、表1では、基本成分のSiに関しては、球状化処理前のSi量と最終製品時のSi量の両者を示した。また、不可避的不純物については省略してある。また、表2に使用した球状化剤および注湯流接種剤の組成および投入量を示す。球状化剤1〜7および注湯流接種剤1〜4は、組成および添加量のいずれもが本発明の範囲内のものであり、球状化剤8〜10と注湯流接種剤5、6は組成または投入量が本発明の範囲外のものである。
Figure 0005812832
Figure 0005812832
得られた球状黒鉛鋳鉄を、砂型に鋳込んだ後、共析変態点以下になるまで十分冷却し、型ばらしを行った。なお、いずれの実施例においても、球状化処理から鋳込みまでの時間は12分以内とした。その後ショットブラスト処理および湯口、堰、バリ取りなどの仕上げ処理を行った。
得られた自動車用ブレーキキャリパから引張試験片(全長60mm)を採取し、これを用いて、常温にて引張試験を行い、引張特性を評価した(JIS Z 2241)。また、短冊状試験片を使用して、自由振動法によりヤング率および対数減衰率を評価した(JIS G 0602)。対数減衰率は金属製品の制振特性の評価指標の一つで、自動車部品の振動やノイズ発生と密接な相関がある。また、製品各部所から試験片を採取し、球状化率などを測定した(JIS G 5502)。さらに、チル相の出やすい各薄肉部分からも試験片を採取し、表層付近の組織観察を実施し、チル相の存在の有無を確認した。その他、製品中の内部欠陥評価のため、外観検査、断面マクロ検査、PT検査なども実施した。なお、チル相については、チル面積率が1%を超える場合に「有」と、1%未満の場合には「なし」と評価した。また、内部欠陥については、マクロ断面検査で2mm以上の欠陥が見つかった場合に「有」と、それ以外の場合には「なし」と評価した。表3にこれらの評価の結果を示す。
Figure 0005812832
表3に示すように、実施例1は、引張強度、伸び、ヤング率、球状化率および対数減衰率のいずれも目標値以上であり、チル相、内部欠陥も確認されなかった。実施例2、3は溶湯中のS量が、実施例4、5はCu量が、実施例6、7はSn量が、それぞれ本発明の範囲内で変化しているが、引張強度、伸び、ヤング率(剛性)および対数減衰率は、いずれも目標値以上の値が得られた。また、薄肉部にチル相は認められず、内部欠陥の発生もなく、自動車用ブレーキキャリパ部品として優れた特性を示している。実施例8、9、10、11は、球状化剤のMg量または投入量を変化させているが、いずれも球状化率は良好で、チル相や内部欠陥はなく、その他の特性も目標値以上が得られた。実施例12、13は球状化剤のCa量、実施例14〜16は注湯流接種剤のCa量または投入量を変化させているが、引張強度と伸び、ヤング率、球状化率、対数減衰率およびチル化傾向、内部欠陥の有無、いずれも良好であり、自動車用ブレーキキャリパ部品として問題がないことが確認された。特に、本発明の各実施例では、球状化剤中のCa量を適切に規制することにより、この範囲から外れた添加量の場合と比較して、伸びが向上し、かつ、15%以上の伸びを常に達成できていることが確認された。さらに、球状化率を85%以上に向上させた場合でも、対数減衰率が1.0×10-3未満に低下してしまうことを抑制することができていることが確認された。
一方、比較例1は、強度向上のため溶湯に添加したCu量が多すぎたため、球状化率や伸びが大幅に低下した。比較例2は、溶湯中のS量が多すぎたためチル相が発生し、球状化率も低下し、引張強度、伸びが目標値より不足している。比較例3は、溶湯中に添加するCu量が少なすぎたため、引張強度が大幅に低下した。比較例4は、溶湯中のZn量が増加したため内部欠陥やチル相が発生し、球状化率や対数減衰率も目標値以下となった。比較例5は、球状化剤のCa量が少なすぎたため、球状化処理が不十分となり、球状化率や伸びが不足したほか、チル相や内部欠陥が発生している。比較例6も、球状化剤の投入量が不足したため球状化効果が不十分で、球状化率、伸びが低下し、チル相も発生している。比較例7は、逆に球状化剤の投入量が多すぎたため、内部欠陥、チル相が発生し、伸びや対数減衰率が低下している。比較例8は、注湯流接種剤中のCa量が多すぎたため、内部欠陥が発生し、球状化率およびヤング率が低下している。比較例9は、注湯流接種量が多すぎたため、内部欠陥およびチル相が発生し、球状化率や引張強度が低下している。
以上のように、本発明の範囲外で製造した場合には、上記各特性の少なくとも1つ以上に目標値未達の問題が生じることが確認された。

Claims (3)

  1. 質量比で、C:3.0〜4.5%、Si:3.0〜4.5%、Mn:0.2〜0.4%、S:0.006〜0.020%、Cu:0.08〜0.30%、Sn:0.020〜0.040%、Mg:0.015〜0.050%、Zn:0.01%以下、含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる球状黒鉛鋳鉄により形成され、引張強度が450MPa以上、伸びが15%以上、黒鉛球状化率が85%以上、ヤング率が170GPa以上、対数減衰率が1.0×10-3以上であって、製品肉厚が6mm以下の薄肉部にチル相が存在しないことを特徴とする薄肉球状黒鉛鋳鉄部材。
  2. 請求項1に記載の薄肉球状黒鉛鋳鉄部材の製造方法であって、取鍋にて、溶湯に対して、質量比で、Ca:1.0〜2.0%含有するFe−Si−Mg−Ca系合金からなる球状化剤を、溶湯に対する投入量を、質量比で0.8〜2.0%として、球状化処理を行うとともに、Fe−Si系接種剤を用いて接種処理を行い、その後、質量比で、Si:45〜75%、Ca:1.0〜3.0%含有するFe−Si系接種剤を、溶湯に対する投入量が、質量比で0.20〜0.40%として注湯流接種処理を行う工程を経て得られた球状黒鉛鋳鉄により薄肉球状黒鉛鋳鉄部材を形成することを特徴とする、薄肉球状黒鉛鋳鉄部材の製造方法。
  3. 請求項1に記載の薄肉球状黒鉛鋳鉄部材を使用したことを特徴とする車両用部品。
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