JP2008303425A - 耐アルミニウム溶湯溶損性鋳鉄の製造方法及び耐アルミニウム溶湯溶損性鋳鉄 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】平均組成が質量%で、C:3.0〜3.7%、Si:2.0〜3.4%、Mn:0.5〜1.0%、P:0.02〜0.20%、S:0.08%以下、Cr:0.3〜2.0%、Mo:0.2〜0.8%を含み、残部がFe及び不可避不純物からなる組成の溶湯を鋳込み、鋳込んだ鋳鉄品を表面加工し、その後に熱処理を施して表面に開口する微細な空孔を含む脱炭層を形成する。
【選択図】図3
Description
Cは、Siとともに耐浸食性の原点になる黒鉛を晶出する重要な成分元素である。外気からの酸素は、脱黒鉛の周辺に金属酸化物を生成して、アルミニウム合金溶湯に対する防壁を構成する。その反面、還元用元素としてのCが過剰であると、浸入酸素を吸収して、COガスとして酸素を放出する。そのためC含有量に関しては厳重な管理が必要である。C含有量が3.0%未満では、溶湯の流動性が悪く、鋳造性が劣化する。一方、C含有量が3.7%を超えると、高Si含有量との相乗作用により粗大な初晶黒鉛を晶出するとともに、過剰に存在する場合でも溶湯の流動性が低下する。よって、本発明では3.0%以上3.7%以下のCを含有することが望ましい。
Siは、セメンタイト共晶を防ぎつつ、黒鉛共晶組織を確保する重要な成分であって、耐溶損性の向上に極めて重要な成分である。その含有量はCrとの相互作用で決定される。本発明の鋳鉄は、Crを0.3〜2.0%含有するため、Si含有量が2.0%未満では白銑化する傾向にあり、耐溶損性に不可欠な黒鉛の晶出量が減少する。また、黒皮面に発生する急冷セメンタイト共晶を防ぐためには、黒鉛共晶に転化させるだけの高Siを必要とする。セメンタイト共晶は酸素の侵入を阻止し、耐溶損性を損なう不健全層である。この組織は、初期の溶損を促進させるばかりでなく、その後の耐溶損性に悪影響を及ぼすものである。しかし、Si含有量が3.4%を超えると、耐衝撃性が劣化して脆くなる。よって、本発明では2.0%以上3.4%以下のSiを含有することが望ましい。
Mnは、Sとの相互作用のなかでその含有量が決定されるものである。Mn含有量が0.5%未満であると、黒鉛の微細化を阻害するSの悪影響を除き、鋳型から浸入するSによる酸素の放出を緩和する効果が得られない。一方、Mn含有量が1.0%を超えると、組織が白銑化して、黒鉛の晶出量が低下する。よって、本発明では0.5%以上1.0%以下のMnを含有することが望ましい。
一般に機械的性質を重視する汎用のねずみ鋳鉄では、Pの含有量を最小限に抑える努力がなされる。しかし、本発明の鋳鉄の場合は、微量のPを含有すると、オーステナイト又はパーライト・フェライト基地組織の結晶粒界に晶出してリン共晶を生成し、酸素の侵入口を広げる効果がある。但し、P含有量が0.20%を超えると、機械的性質(引張強度や靭性など)が損なわれる。一方、P含有量が0.02%未満では、上記の効果を得ることができない。よって、本発明では0.02%以上0.20%以下のPを含有することが望ましい。
Crは、必要な高温強度を確保するとともに、溶湯に接触したときの耐溶損性を増大させる重要な元素であって、特に耐溶損性についてSiとの間に交互作用を有する元素として重要である。Cr含有量が2.0%を超えると、黒鉛の晶出量が不足する傾向があるため本発明の効果を奏することができない。一方、Cr含有量が0.3%未満では、熱処理後の機械的性質の低下が著しくなる。よって、Cr含有量は0.3〜2.0%の範囲とすることが好ましい。さらに、Cr含有量の上限値を1.5%まで絞り込むと、必要かつ十分な黒鉛の晶出量を確保することができ、耐溶損性が更に向上する。特にCrを0.8%含む鋳鉄では、CrとSiとの間の交互作用が有効にはたらき、優れた耐アルミニウム溶湯溶損性を示すことが認められている。
Moは、基地組織中に固溶して微細な結晶粒を安定化し、酸素の結晶粒界侵入を促進する。また、Moは、本発明の鋳鉄に特有の高Si含有による耐衝撃性の低下を補うための補償元素として有効である。耐衝撃性の補償効果があらわれるためには0.2%以上のMoを添加する必要がある。しかし、Mo含有量が0.8%を超えると、炭化物を晶出する傾向となり、黒鉛の晶出量が減少する。よって、Mo含有量は0.2〜0.8%の範囲とすることが好ましい。
Niは、鋳鉄の基本的な特性である高温特性(高温引張強度や高温耐食性)を高める元素である。Ni含有量が3.0%を超えると、鋳造性が悪くなる。一方、Ni含有量が0.5%未満では、高温特性の向上効果が不十分になる。
Cuは、黒鉛の微細化を促進する元素である。Cu含有量が1.5%を超えると、硬くなり、加工性が低下する。一方、Cu含有量が0.15%未満では、黒鉛の微細化の効果が不十分になる。
その他の元素としてTi,N,B,Sn,Pb,Al,Zn,As,Sbを添加することができる。これらのうちTiは、微量の添加により結晶粒を微細化する効果があるので、0.10%以下を限度として添加することが好ましい。特にチタン酸アルカリの形態でTiを添加すると、マトリックス中への均一分散を達成できるので好ましい。
不可避不純物は、スクラップ等の製造ライン中の種々の要素から不可避的に混入してくるものであり、総量で0.01%未満に抑えることが望ましい。不可避不純物には、耐アルミニウム溶湯溶損性に有害なもの、高温強度などの機械的特性に有害なもの、その効果が不明なものなど種々の元素が混在している。具体的な不純物としてはLi,Be,Na,K,Ca,La,Hf,W,Nb,Ta,Bi,Sr,V,Co,S,O,N,Hなどがあげられる。これらの不可避不純物のうち次に述べるSは特に重要である。
Sは、溶製原料から溶湯中に混入するもののみに限られず、鋳型から侵入するものも黒鉛の微細化を損なうため、可能なかぎり低く抑えることが望ましい。S含有量が0.08%を超えると、黒鉛の微細化が阻害される。よって、S含有量は0.08%以下に抑える。
本発明の鋳鉄は、高周波誘導炉を用いて溶製する。その理由は、溶解速度が大きいこと、および成分調整が容易であることによる。本発明の鋳鉄は各種合金成分の調整を必要とし、特に不可避的に混入するSに関しては、その量を狭い範囲に調整する必要がある。そのため一般には誘導電気炉(高周波誘導炉)を用いて溶解する。本発明では鋳造品の熱処理過程における酸素侵入を重視するものである。
本発明では、熱処理による黒鉛の脱炭と酸化形骸化および基地組織の酸素拡散が必須である。一般に汎用鋳鉄品は鋳放しの状態(as cast)で熱処理されるが、本発明の鋳鉄のように高度の耐溶損性を要求される場合に限り、熱処理前にフライス盤などの機械加工手段を用いて表面を切削する。切削深さは少なくとも500μm以上とすることが好ましい。この表面加工により鋳鉄品の表面から酸化被膜(黒皮)が除去され、これにより黒鉛の断面が鋳鉄品の表面に幅広に露出し、次の熱処理において大気中の酸素が黒鉛のなかに侵入して拡散しやすくなる。その結果、表面から比較的深いところまで黒鉛が費消され、表面に開口する多数の空孔が形成される。
脱炭層の厚みは200μm以上1000μm以下とすることが好ましい。脱炭層の厚みが200μm未満になると、耐アルミニウム溶湯溶損性が不足して所望の寿命を得ることができない。脱炭層の厚みを200μm以上1000μm以下の範囲に調整するためには、熱処理の条件を所望の範囲に制御する必要がある。上記の熱処理条件では厚みが1000μmを超える脱炭層を生成することができない。また、仮に1000μmを超える厚みの脱炭層を形成したとしても、寿命延長の効果は実質的に飽和してしまうため不経済になるおそれがある。脱炭層の厚みは、300μm以上800μm以下とすることがさらに好ましく、350μm以上450μm以下とすることが最も好ましい。
次に、図6〜図8を参照して本発明の実施例サンプルの金属組織について説明する。これらの金属組織は、サンプルを光学顕微鏡で3視野以上につき観察したもののうち代表的なものを示した。
次に、耐アルミニウム溶湯溶損性の評価に用いた試験方法について図9と図10を参照して説明する。
6…鋳型、
8…黒皮(初期の酸化被膜)、
8A…酸化被膜(黒皮除去→熱処理後の酸化被膜)、81…空孔または間隙、
10…侵食試験装置、
12…溶解るつぼ、
13…アルミニウム合金溶湯、
18…試験片、
91…黒鉛、
92…空孔または間隙。
Claims (5)
- 平均組成が質量%で、C:3.0〜3.7%、Si:2.0〜3.4%、Mn:0.5〜1.0%、P:0.02〜0.20%、S:0.08%以下、Cr:0.3〜2.0%、Mo:0.2〜0.8%を含み、残部がFe及び不可避不純物からなる組成の溶湯を鋳込み、鋳込んだ鋳鉄品を表面加工し、その後に熱処理を施して表面に開口する微細な空孔を含む脱炭層を形成することを特徴とする耐アルミニウム溶湯溶損性鋳鉄の製造方法。
- 前記熱処理は、大気雰囲気の熱処理炉内において700〜1100℃の温度範囲に1〜20時間保持した後に炉冷又は空冷することを特徴とする請求項1記載の製造方法。
- 前記表面加工は、鋳造した鋳鉄品の表面を切削して酸化被膜を除去することを特徴とする請求項1記載の製造方法。
- 平均組成が質量%で、C:3.0〜3.7%、Si:2.0〜3.4%、Mn:0.5〜1.0%、P:0.02〜0.20%、S:0.08%以下、Cr:0.3〜2.0%、Mo:0.2〜0.8%を含み、残部がFe及び不可避不純物からなる組成を有し、鋳造表面を表面加工後に熱処理することにより形成された表面に開口する微細な空孔を含む脱炭層を有することを特徴とする耐アルミニウム溶湯溶損性鋳鉄。
- 前記脱炭層に含まれる微細な空孔は、前記熱処理により組織中の黒鉛が大気中の酸素と反応して、前記黒鉛が費消することにより形成されたものであることを特徴とする請求項4記載の耐アルミニウム溶湯溶損性鋳鉄。
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