本発明の第1の実施形態について図1を参照して詳細に説明する。図1は本実施形態の電力増幅回路の構成の概要を示したものである。
本実施形態の電力増幅回路は分配器30と、合成器31と、第1の増幅器32と、第2の増幅器33と、第1の伝送線路34と、第2の伝送線路35からなる。
分配器30は電気信号を入力部21で受信し、出力部12と出力部22から送信する。出力部12から送信される電気信号は出力部22から送信される電気信号に比べて、90度位相が遅くなる。入力部11には終端抵抗が接続されている。
合成器31は電気信号を入力部15および入力部25で受信する。入力部15および入力部25で受信された電気信号は合成されて出力部16から送信される。入力部25で受信された電気信号は出力部16から送信されるまでの間に、入力部15で受信された電気信号に比べ、90度位相が遅い方向にずれる。出力部26は終端抵抗に接続されている。出力部16から送信された電気信号は送信設備36等へと送られる。出力部16から出力された電気信号は、その他の電気回路へと送られることもある。本実施形態で用いた分配器30および合成器31は結合度3dBのハイブリッド回路を使用しており、入力部と出力部の位置関係による経路の違いにより90度位相のずれが生じる。
第1の増幅器32は入力部13で受信した電気信号を増幅し出力部14から送信する。第2の増幅器33は入力部23で受信した電気信号を増幅し出力部24から送信する。また、第1の増幅器32および第2の増幅器33では、高周波の電気信号を受信すると受信した電気信号の周波数の整数倍の周波数の電気信号が同時に生成されて送信される。この整数倍の周波数の電気信号を高調波ともいう。
第1の伝送線路34は所定の周波数の電気信号で180度の位相に相当する電気長を有する遅延素子である。所定の周波数は、例えば、電力増幅器の仕様上の帯域で一番小さい周波数や、帯域の中心となる周波数などが設定される。第1の伝送線路34を通る所定の周波数の電気信号は、第1の伝送線路34が無いときと比較し180度位相が遅れる。所定の周波数をf、所定の周波数以外のある周波数をfaとすると、第1の伝送線路34を通過した周波数faの電気信号は、(180×fa÷f)度位相が遅れる。すなわち、第1の伝送線路34を通る所定の周波数の2倍の周波数の電気信号は、第1の伝送線路34が無いときと比較し360度位相が遅れる。第2の伝送線路35は所定の周波数の電気信号で180度の位相に相当する電気長を有する遅延素子である。第2の伝送線路35を通る所定の周波数の電気信号は、第2の伝送線路35が無いときと比較し180度位相が遅れる。他の周波数の電気信号の位相は第1の伝送線路34の場合と同様の位相のずれとなる。本実施形態では分配器30の出力部12から合成器31の入力部15までを第1の伝送路、分配器30の出力部22から合成器31の入力部25までを第2の伝送路と呼ぶ。
次に本実施形態の電力増幅回路において、電気信号の増幅が行われる際の動作について説明する。合成器30の入力部21で受信された信号は出力部22への信号と出力部12への信号とに分配される。出力部12へ向かう電気信号の方が経路は長く、出力部12からの電気信号は出力部22からの電気信号と比べて位相差が90度遅れる。
分配器30の出力部12から第1の伝送路へ送信された電気信号は、第1の増幅器32の入力部13によって受信される。第1の増幅器32は電気信号の増幅を行い出力部14から送信する。このとき、第1の増幅器32では入力部13で受信した電気信号の整数倍にあたる周波数の電気信号が生成され、入力部13で受信した周波数の電気信号とともに出力部14から送信される。第1の増幅器32の出力部14から送信された電気信号は、第1の伝送線路34を通り、合成器31の入力部15へと送られる。第1の伝送線路34では、電気信号の周波数に応じて位相のずれが生じる。例えば、所定の周波数の電気信号は第1の伝送線路がなかった場合に比べて180度位相が遅くなる。また、所定の周波数の2倍の周波数を持つ電気信号は360度位相が遅くなる。すなわち、第1の伝送路を通過する電気信号は、所定の周波数で180度、所定の周波数の2倍の周波数で360度の位相が遅くなる。
分配器30の出力部22から第2の伝送路へ送信された電気信号は、第2の伝送線路35を通過して、第2の増幅器33の入力部23で受信される。第2の伝送線路35では、電気信号の周波数に応じて位相のずれが生じる。例えば、所定の周波数の電気信号は第2の伝送線路35がなかった場合に比べて180度位相が遅くなる。第2の増幅器33の入力部23で受信された電気信号は増幅され出力部24から送信される。このとき、入力部23から受信した電気信号の周波数の整数倍にあたる周波数の電気信号が生成され、入力部23で受信した周波数の電気信号とともに出力部24から送信される。出力部24から送信された電気信号は合成器31の入力部25で受信される。第2の伝送路を通った電気信号は所定の周波数、その2倍の周波数の電気信号とも180度位相が遅くなったものとなっている。
第1の伝送路を通った電気信号と第2の伝送路を通った電気信号の、所定の周波数および増幅器で生成されたその2倍の周波数における位相差を考えることとする。第2の伝送路を通った電気信号のうち所定の周波数の信号を基準とすると、第1の伝送路を通った所定の周波数の電気信号は90度遅くなる。所定の周波数の電気信号にとって第1の伝送路と第2の伝送路は位相の遅延量が同じであり、分配器22の出力部22および出力部12での位相差がそのまま残っている。
第2の伝送路で合成器31の入力部25に到達した所定の周波数の2倍の周波数の電気信号は所定の周波数の電気信号と同じ位相の電気信号となっている。第2の伝送路では伝送線路35を通過した後に増幅が行われたためである。一方で、第1の伝送路での2倍の周波数の電気信号は、第1の伝送路の所定の周波数の電気信号に比べて180度、第2の伝送路の所定の周波数およびその2倍の周波数の電気信号に比べ270度位相が遅くなっている。第1の伝送路の電気信号は出力部12から送信された時点で90度位相が遅くなっており、さらに伝送線路34で180度位相が遅くなるためである。
合成器31の出力部16から送信される電気信号では、入力部25で受信される電気信号の方が、入力部15で受信される電気信号よりも経路が長いため90度位相が遅くなる。よって、所定の周波数の電気信号は入力部15と入力部25で受信された電気信号とで同位相となって、出力部16から送信される。一方で、2倍の周波数の電気信号は入力部15と入力部25で受信された信号との位相差が90度分縮まって180度となり逆位相となる。よって、出力部16では2倍の周波数の電気信号どうしが打ち消しあい、2倍の周波数の電気信号は出力部16からは送信されない。合成部31に入った2倍の周波数の電気信号は終端抵抗が接続されている出力部26側へと進む。以上から、本実施形態の電力増幅回路では、所定の周波数の電気信号が送信され、所定の周波数の2倍の周波数の電気信号は合成器31から送信されない。また、以上に説明した本実施形態の電力増幅回路の各箇所での所定の周波数およびその2倍の周波数の電気信号の位相差を図2の表にまとめた。図2の表に示す位相差は第2の伝送路の開始地点、すなわち、出力部22での所定の周波数の位相を基準に各箇所における位相差を示している。図2の表の括弧内の数値は360度以上の位相差の場合に、360度分を補正した値である。
本実施形態の電力増幅回路を用いた場合の、2倍の周波数の電気信号の低減量を図3に示した。図3に示した低減量はハイブリッド回路の分配器と合成器と各々増幅器を備えた2本の伝送路で構成された電力増幅回路を基準としている。比帯域は、所定の周波数と電気信号の周波数の差と電力増幅器の帯域の比を示している。ある電気信号の周波数がfcであるとする。第1および第2の伝送線路は所定の周波数で180度、その2倍の周波数で360度ずれる設計となっているが、電気信号の周波数fcと所定の周波数の差から伝送路での位相のずれには差が生じる。位相がずれた場合は2倍の周波数の電気信号が合成器31の出力部16で打ち消されず、出力部16から送信される要因となる。第1および第2の伝送路を通った周波数fcの2倍の周波数の電気信号の出力部16での位相のずれ量をθcとする。2倍の周波数の電気信号の位相差は逆位相、すなわち、180度であることが望ましい。2倍の周波数の電気信号が逆位相であるときと実際の位相差との差をθとすると、θはθ=θc−180度となる。このとき、θはθ=(周波数fcでの第1の伝送線路の電気長)−(周波数fcの2倍の周波数での第2の伝送線路での電気長)−180度で求められる。θが負の値となったときはその絶対値をθの値とする。片方の伝送路の増幅器で増幅された2倍の周波数の出力量をPとする。伝送線路を持たず単に増幅器のみを備えた回路での、合成器の出力部では第1および第2の伝送線路からの2倍の周波数の電気信号が合成され2×Pの電気信号が合成器の出力側から送信される。所定の周波数の場合との位相のずれの差がθであるとき、2倍の周波数の電気信号が合成器31の出力部16から送信される量はP×(1−cosθ)と表すことができる。よって、本実施形態の電力増幅回路を用いると、増幅器のみを有する電力増幅回路に対して、10×log(P×(1−cosθ)/(2×P))dB、すなわち、10×log((1−cosθ)/2)dBの低減量が期待できる。図3に示すとおり、本実施形態の電力増幅回路の低減量は増幅器のみを有する電力増幅回路に比べて、例えば、±6%付近では20dB程度の低減量が見られるなど、優れた低減特性が得られている。
本実施形態の電力増幅回路を用いると、電力損失や回路規模が増大することなく、増幅器で生じる2倍の高周波の影響を抑えて電力増幅をすることができる。また、共振回路等も使用していないので広帯域で利用することができる。
次に本発明の第2の実施形態について図4を用いて説明する。図4は本実施形態の電力増幅回路の構成の概要を示したものである。第1の実施形態と本実施形態の違いは第1の伝送路と第2の伝送路の各々において、増幅器と伝送線路の順番が第1の実施形態の電力増幅回路と逆の点である。
本実施形態の電力増幅回路は分配器30と、合成器31と、第1の増幅器32と、第2の増幅器33と、第1の伝送線路34と、第2の伝送線路35からなる。各部の構成や機能は第1の実施形態と同一である。
本実施形態においても分配器30の出力部12から合成器31の入力部15までを第1の伝送路、分配器30の出力部22から合成器31の入力部25までを第2の伝送路と呼ぶ。
次に本実施形態の電力増幅回路において、電気信号の増幅が行われる際の動作について説明する。合成器30の入力部21で受信された電気信号は出力部22への電気信号と出力部12への電気信号とに分配される。出力部12へ向かう電気信号の方が経路は長く、出力部12からの電気信号は出力部22からの電気信号と比べて位相差が90度遅れる。
分配器30の出力部12から第1の伝送路に入った電気信号は、第1の伝送線路34を通過して、第1の増幅器32の入力部13へと向かう。第1の伝送線路34では、第1の伝送線路34がない場合と比べて電気信号の位相にずれが生じる。例えば、所定の周波数の電気信号は第1の伝送線路34がなかった場合に比べて180度位相が遅くなる。第1の増幅器32の入力部13から受信された電気信号は、第1の増幅器32で増幅され出力部14から送信される。このとき、第1の増幅器32では入力部13で受信した電気信号の整数倍にあたる周波数の電気信号が生成され、受信した周波数の電気信号とともに出力部14から送信される。第1の増幅器32の出力部14から送信された電気信号は、合成器31の入力部15へと送られる。以上より、第1の伝送路を通過する電気信号は、所定の周波数および所定の周波数の2倍の周波数ともに180度位相が遅くなる。
分配器30の出力部22から第2の伝送路へ送信された電気信号は、第2の増幅器33の入力部23で受信される。第2の増幅器33では電気信号が増幅されるとともに、受信した電気信号の周波数の整数倍にあたる周波数の電気信号も生成される。受信した周波数の電気信号およびその整数倍の周波数の電気信号は出力部24から送信される。第2の増幅器33の出力部24から送信された電気信号は第2の伝送線路35を通って、合成器31の入力部25へと送られる。第2の伝送線路35では、第2の伝送線路35がない場合に比べ、位相のずれが生じる。例えば、所定の周波数の電気信号は伝送線路がなかったときと比較すると180度位相が遅れる。また、所定の周波数の2倍の周波数の電気信号は360度位相が遅れる。以上より、合成器31の入力部25で受信される第2の伝送路を通った電気信号は所定の周波数で180度、その2倍の周波数の電気信号で360度位相が遅くなったものとなっている。
第1の伝送路を通った電気信号と第2の伝送路を通った電気信号の、所定の周波数および増幅器で生成されたその2倍の周波数における位相差を考えることとする。第2の伝送路を通った電気信号のうち所定の周波数の信号を基準とすると、第1の伝送路を通った所定の周波数の電気信号は90度遅くなっている。所定の周波数の電気信号にとって第1の伝送路と第2の伝送路は位相の遅延量が同じであり、分配器22の出力部22および出力部12での位相差がそのまま残っている。
第1の伝送路で合成器31の入力部15に到達した2倍の周波数の電気信号は所定の周波数の電気信号と同位相である。第2の伝送路では所定の周波数の電気信号に比べ2倍の周波数の電気信号は180度位相が遅れている。よって、2倍の周波数の電気信号同士で比較した場合、第2の伝送路の電気信号は第2の伝送路の電気信号に比べ90度位相が遅い。
合成器31の出力部16から送信される電気信号では、入力部25で受信される電気信号の方が、入力部15で受信される電気信号よりも経路が長いため90度位相が遅くなる。よって、所定の周波数の電気信号は入力部15と入力部25で受信された電気信号とで同位相となって、出力部16から送信される。一方で、2倍の周波数の電気信号は入力部15と入力部25で受信された信号との位相差が90度広がって180度となり逆位相となる。よって、出力部16では2倍の周波数の電気信号どうしが打ち消しあい、2倍の周波数の電気信号は出力部16からは送信されない。以上より本実施形態の電力増幅回路では、所定の周波数の電気信号が送信され、その2倍の周波数の電気信号は送信されない。また、以上に説明した本実施形態の電力増幅回路の各箇所での電気信号の位相差を図5の表にまとめた。図5の表に示す位相差は第2の伝送路の開始地点、すなわち、出力部22での所定の周波数の位相を基準に各箇所における位相差を示している。表の括弧内の数値は360度以上の位相差の場合に、360度分を補正した値である。
合成器の出力部16から送信された電気信号は送信設備36や他の電子回路などに送られる。
本実施形態の電力増幅回路を用いると、第1の実施形態の電力増幅回路と同様に電力損失や回路規模が増大することなく、増幅器で生じる2倍の高周波の影響を抑えて電力増幅をすることができる。また、共振回路等も使用していないので広帯域で利用することができる。
本発明の第3の実施形態について図6を参照して詳細に説明する。図6は本実施形態の電力増幅回路の構成の概要を示したものである。
本実施形態の電力増幅回路は分配器30と、合成器31と、第1の増幅ユニット37と、第2の増幅ユニット38と、第1の伝送線路34と、第2の伝送線路35からなる。分配器30と、合成器31と、第1の伝送線路34と、第2の伝送線路35の構成および機能は第1の実施形態と同一である。
第1の増幅ユニット37は複数の増幅器が並列に備えられており、入力部16から受信する電気信号を増幅して出力部17から送信する。入力部16で受信した電気信号は同位相、同振幅で分配され各増幅器に送られる。また、各増幅器で増幅された電気信号は、位相の調整等はされずに合成され、出力部17から送信される。各増幅器は同一の設計でもよく、各々の設計が異なっていても良い。各々の増幅器の設計を変える場合は、例えば設計中心の周波数を変えた増幅器を用いる。設計の中心周波数を変えることより、増幅器の周波数依存性を抑制することができる。第2の増幅ユニット38は入力部26から受信した電気信号を増幅し、出力部27から送信する。第2の増幅ユニット38での電気信号の分配および合成方法、増幅器の構成は第1の増幅ユニット37と同一とする。また、第1および第2の増幅ユニットでは入力部16および入力部26で受信した周波数の電気信号の他に、受信した電気信号の周波数の整数倍にあたる周波数の電気信号が生成される。
本実施形態では、分配器30の出力部12から合成器31の入力部15までを第1の伝送路、分配器30の出力部22から合成器31の入力部25までを第2の伝送路と呼ぶ。
次に本実施形態の電力増幅回路において、電気信号の増幅が行われる際の動作について説明する。合成器30の入力部21で受信された信号は出力部22への信号と出力部12への信号とに分配される。出力部12へ向かう電気信号の方が経路は長く、出力部12からの電気信号は出力部22からの電気信号と比べて位相差が90度遅れる。
分配器30の出力部12から第1の伝送路へ送信された電気信号は、第1の伝送線路34を通過して、第1の増幅ユニット37の入力部16へと向かう。第1の伝送線路34では、電気信号の位相は第1の伝送線路がなかった場合と比べずれが生じる。例えば、所定の周波数の電気信号は伝送線路がなかった場合に比べて180度位相が遅くなる。第1の増幅ユニット37の入力部12から受信された電気信号は、第1の増幅ユニット37の各増幅器で増幅され出力部17から送信される。このとき、第1の増幅器32では入力部16で受信した電気信号の周波数の整数倍にあたる周波数の電気信号が生成され、受信した周波数の電気信号と出力部17から送信される。このとき生成される整数倍にあたる周波数の電気信号は元の電気信号と同位相である。第1の増幅ユニット37の出力部17から送信された電気信号は、合成器31の入力部15へと送られる。第1の伝送路を通過する電気信号は、所定の周波数、第1の増幅器ユニット37で生じた所定の周波数の2倍の周波数ともに、第1の伝送路に入ったときの電気信号に比べ180度位相が遅くなっている。
分配器30の出力部22から第2の伝送路に入った電気信号は、第2の増幅ユニット38の入力部26で受信される。第2の増幅ユニット38では電気信号が増幅されるとともに、受信した電気信号の周波数の整数倍にあたる周波数の電気信号も生成される。生成される整数倍の周波数の電気信号は基となる電気信号と同位相である。第2の増幅ユニット38で生成された整数倍の周波数の電気信号は、受信した周波数の電気信号とともに出力部27から送信される。第2の増幅ユニット38の出力部27から送信された電気信号は第2の伝送線路35を通って、合成器31の入力部25へと送られる。第2の伝送線路35では、第2の伝送線路35がない場合と比べ電気信号の位相にずれが生じる。例えば、所定の周波数の電気信号は伝送線路が無かったときと比較すると180度位相が遅れる。また、所定の周波数の2倍の周波数の電気信号は360度位相が遅れる。そのため合成器31の入力部25で受信される電気信号は、第2の伝送路を通る前と比べ所定の周波数で180度、その2倍の周波数の電気信号とも360度位相が遅くなったものとなっている。
第1の伝送路を通った電気信号と第2の伝送路を通った電気信号の、所定の周波数および増幅器で生成されたその2倍の周波数における位相差を考えることとする。第2の伝送路を通った電気信号のうち所定の周波数の信号を基準とすると、第1の伝送路を通った所定の周波数の電気信号は90度遅くなっている。所定の周波数の電気信号にとって第1の伝送路と第2の伝送路は位相の遅延量が同じであり、分配器22の出力部22および出力部12での位相差がそのまま残っている。
第1の伝送路で合成器31の入力部15に到達した2倍の周波数の電気信号は所定の周波数の電気信号と同位相である。第2の伝送路では所定の周波数の電気信号に比べ2倍の周波数の電気信号は180度位相が遅れている。第1と第2の伝送路の2倍の周波数の電気信号同士での位相差を、分配器の出力部での位相差90度も合わせて比較した場合、第2の伝送路の電気信号は第2の伝送路の電気信号に比べ90度位相が遅い。
合成器31の出力部16から送信される電気信号では、入力部25で受信される電気信号の方が、入力部15で受信される電気信号よりも経路が長いため90度位相が遅くなる。よって、所定の周波数の電気信号は入力部15と入力部25で受信された電気信号とで同位相となって、出力部16から送信される。一方で、2倍の周波数の電気信号は入力部15と入力部25で受信された信号との位相差が90度広がって180度となり逆位相となる。よって、出力部16では2倍の周波数の電気信号どうしが打ち消しあい、2倍の周波数の電気信号は出力部16からは送信されない。以上から、本実施形態の電力増幅回路では、所定の周波数の電気信号が送信され、2倍の周波数の電気信号は送信されない。また、以上に説明した本実施形態の電力増幅回路の各箇所での電気信号の位相差を図7の表にまとめた。図7の表に示す位相差は第2の伝送路の開始地点、すなわち、出力部22での所定の周波数の位相を基準に各箇所における位相差を示している。図7の表の括弧内の数値は360度以上の位相差の場合に、360度分を補正した値である。
合成器の出力部16から送信された電気信号は送信設備36や他の電子回路などに送られる。
本実施形態の電力増幅回路を用いると、複数の増幅器を組み合わせた場合においても経路上に電気信号の位相を遅延させる伝送線路を設置するだけで、増幅器で生じる2倍の高周波の影響を抑えて電気信号の増幅を行うことができる。そのため、規模の大きな新たな回路素子が不要であり回路の大型化を抑制しつつ、使用する電気信号の周波数に最適な増幅器を組み合わせることが可能となる。また、共振回路等も使用していないので広帯域で利用することができる。
本発明の第4の実施形態について図8を参照して詳細に説明する。図8は本実施形態の電力増幅回路の構成の概要を示したものである。
本実施形態の電力増幅回路は分配器39と、合成器40と、第1の増幅器41と、第2の増幅器42と、第1の伝送線路43と、第2の伝送線路44からなる。
分配器39および合成器40としては、例えば、ウィルキンソン型の分配器および合成器が用いられる。分配器39は電気信号を入力部50で受信し、出力部51と出力部61へと電気信号を分配して送信する。出力部51および出力部61から送信される電気信号は同位相で同振幅である。
合成器40は電気信号を入力部54および入力部64で受信する。入力部54および入力部64で受信された電気信号は合成されて出力部55から送信される。合成器54内での入力部54と入力部64から合成するまでの経路は位相の遅延量が同じである。合成された電気信号は出力部55から送信され、送信設備36や他の電気回路などへと送られる。
第1の増幅器41は入力部52で受信した電気信号を増幅し出力部53から送信する。第2の増幅器42は入力部62で受信した電気信号を増幅し出力部63から送信する。また、第1の増幅器41および第2の増幅器42では、高周波の電気信号を増幅すると受信した電気信号の周波数の整数倍の周波数の電気信号が生成され、受信した周波数の電気信号とともに出力される。
第1の伝送線路43は所定の周波数の電気信号で180度の位相に相当する電気長を有する遅延素子である。第1の伝送線路43を通る電気信号は、第1の伝送線路43が無いときと比較し、所定の周波数の電気信号では180度位相が遅れる。第2の伝送線路44は所定の周波数の電気信号で180度の位相に相当する電気長を有する遅延素子である。第2の伝送線路44を通る電気信号は、第2の伝送線路44が無いときと比較し180度位相が遅れる。それ以外の周波数の電気信号においても、第1の実施形態の伝送線路と同様の位相のずれが生じる。本実施形態では分配器39の出力部51から合成器40の入力部54までを第1の伝送路、分配器39の出力部61から合成器40の入力部64までを第2の伝送路と呼ぶ。
次に本実施形態の電力増幅回路において、電気信号の増幅が行われる際の動作について説明する。分配器39の入力部50で受信された電気信号は出力部51への信号と出力部61への電気信号とに分配される。電気信号は同位相、同振幅で出力部51および出力部61から送信される。
分配器39の出力部51から第1の伝送路に入った電気信号は、増幅器41の入力部52で受信される。増幅器41は電気信号の増幅を行い出力部53から送信する。このとき、増幅器41では入力部52で受信した電気信号の整数倍にあたる周波数の電気信号が生成され、受信した周波数の電気信号とともに出力部53から送信される。増幅器41の出力部53から送信された電気信号は、第1の伝送線路43を通り、合成器40の入力部54へと送られる。第1の伝送線路43では、第1の伝送線路43がなかった場合に比べ、電気信号の位相のずれが生じる。例えば、所定の周波数の電気信号は第1の伝送線路43がなかった場合に比べて180度位相が遅くなる。また、所定の周波数の2倍の周波数を持つ電気信号は360度位相が遅くなる。第1の伝送路を通過する電気信号は、第1の伝送路を通過することによって所定の周波数で180度、所定の周波数の2倍の周波数で360度の位相が遅くなる。
分配器39の出力部61から第2の伝送路に入った電気信号は、第2の伝送線路44を通過して、第2の増幅器42の入力部62で受信される。第2の伝送線路44では、第2の伝送線路44がない場合に比べ、電気信号の位相のずれが生じる。例えば、所定の周波数の電気信号は第1の伝送線路44がなかった場合に比べて180度位相が遅くなる。第2の増幅器42では入力部62で受信した電気信号が増幅され出力部63から送信される。このとき、入力部62から受信した電気信号の周波数の整数倍にあたる周波数の電気信号が生成され、受信した周波数の電気信号とともに出力部63から送信される。出力部63から送信された電気信号は合成器40の入力部25で受信される。第2の伝送路を通った電気信号は所定の周波数、その2倍の周波数の電気信号とも180度位相が遅くなったものとなっている。
第1の伝送路を通って合成器40の入力部54に到達した電気信号と、第2の伝送路を通って合成器40の入力部64に到達した所定の周波数およびその2倍の周波数の電気信号の位相差を考えることとする。第1の伝送路を通った所定の周波数の電気信号と第2の伝送路を通った所定の周波数の電気信号とも伝送路に入る前に比べ180度位相が遅くなっており同位相である。所定の周波数の電気信号にとって第1の伝送路と第2の伝送路は位相の遅延量が同じであるためである。よって、所定の周波数の電気信号は合成器40で合成され、出力部55から送信される。
第1の伝送路を通った2倍の周波数の電気信号と第2の伝送路を通った2倍の周波数の電気信号は、伝送路に入る前と比べ第1の伝送路を通った電気信号が180度、第2の伝送路を通った電気信号は360度位相が遅くなっている。そなわち、2倍の周波数の電気信号は、180度の位相差があり逆位相となっている。従って、2倍の周波数の電気信号は合成器40で互いに打ち消しあうため出力されない。以上から、本実施形態の電力増幅回路では、所定の周波数の電気信号が送信され、2倍の周波数の電気信号は送信されない。また、以上に説明した本実施形態の電力増幅回路の各箇所での所定の周波数およびその2倍の周波数の電気信号の位相差を表9にまとめた。表9に示す位相差は第2の伝送路の開始地点、すなわち、出力部22での所定の周波数の位相を基準に各箇所における位相差を示している。表の括弧内の数値は360度以上の位相差の場合に、360度分を補正した値である。
本実施形態の電力増幅回路を用いると、ハイブリッド回路の分配器や合成器を用いなくとも電力損失や回路規模が増大することなく、増幅器で生じる2倍の高周波の影響を抑えて電力増幅をすることができる。通常の分配器および合成器を用いているため装置簡略化および小型化が可能である。また、共振回路等も使用していないので広帯域で利用することができる。
第1から第3の実施形態において、ハイブリッド回路の合成器は、所定の周波数をfとしたとき、所定の周波数fと2倍の周波数2fのどちらでも結合度3dBを満たすように、センター周波数を(f+2f)/2として設計されていることが望ましい。
第1から第4の実施形態において、増幅器に入力された電気信号の周波数の2倍の周波数の電気信号を抑制した電力増幅回路を示したが、合成器の出力部より後ろに3倍以上の整数倍の周波数を抑制するローパスフィルタを設置してもよい。2倍の周波数の電気信号を抑制するためにローパスフィルタを用いるとフィルタの遮蔽する周波数帯域が使用したい帯域にかかる可能性がある。一方で3倍以上の周波数は所定の周波数との差が大きくフィルタの遮蔽する帯域と使用したい帯域が重なる可能性は2倍の周波数の場合と比べて少なく影響は小さく、組み合わせにより高調波の影響を抑制できる。
本発明の第5の実施形態について図10を用いて説明する。図10は本実施形態の電力増幅装置の構成の概要を示したものである。
本実施形態の電力増幅回路は、分配器71と、合成器72と、第1の増幅器73と、第2の増幅器74と、第1の遅延素子75と、第2の遅延素子76からなる。
分配器71は入力された信号を第1及び第2の出力信号に分け各々第1及び第2の出力端子から出力する。第1の増幅器73は第1の出力信号を増幅した第1の増幅信号を出力する。第1の遅延素子75は第1の増幅信号に含まれる所定の周波数の信号の位相を180度遅延させた第1の遅延信号を出力する。第2の遅延素子76は第2の出力信号に含まれる前記所定の周波数の信号の位相を180度遅延させた第2の遅延信号を出力する。第2の増幅器74は第2の遅延信号を増幅した第2の増幅信号を出力する。合成器72は所定の周波数における第1及び第2の出力端子からの位相の遅延量が略等しい第1の遅延信号及び第2の増幅信号を合波し端子から出力する。
本実施形態の電力増幅回路を用いると、電力損失や回路規模が増大することなく、増幅器で生じる2倍の高周波の影響を抑えて電力増幅をすることができる。また、広帯域で利用することができる。