<第1実施形態>
図1はこの発明にかかる基板処理装置の第1実施形態を示す図である。また、図2は図1の基板処理装置の制御構成を示すブロック図である。この基板処理装置は半導体ウエハ等の基板Wの表面Wfに付着しているパーティクル等の汚染物質を除去するための基板洗浄処理を実行可能な枚葉式の基板洗浄装置としての基板処理装置である。
この基板処理装置は、基板Wに対して洗浄処理を施す処理空間をその内部に有する処理チャンバー1を備え、処理チャンバー1内の処理空間SPに、基板表面Wfを上方に向けた状態で基板Wを略水平姿勢に保持して回転させるスピンチャック2と、スピンチャック2に保持された基板Wの表面Wfに向けて液膜を冷却し凍結させるための冷却ガスを吐出する冷却ガスノズル3と、基板表面Wfに処理液の液滴を供給する二流体ノズル5と、スピンチャック2に保持された基板Wの表面Wfに向けて薬液を吐出する薬液吐出ノズル6と、スピンチャック2に保持された基板Wの表面Wfに対向配置された遮断部材9とが設けられている。処理液としては、薬液または純水やDIW(deionized water;脱イオン水)等の洗浄液などが用いられる。
スピンチャック2は、回転支軸21がモータを含むチャック回転機構22の回転軸に連結されており、チャック回転機構22の駆動により回転中心A0を中心に回転可能となっている。回転支軸21の上端部には、円盤状のスピンベース23が一体的にネジなどの締結部品によって連結されている。したがって、装置全体を制御する制御ユニット4(図2)からの動作指令に応じてチャック回転機構22を駆動させることによりスピンベース23が回転中心A0を中心に回転する。
スピンベース23の周縁部付近には、基板Wの周縁部を把持するための複数個のチャックピン24が立設されている。チャックピン24は、円形の基板Wを確実に保持するために3個以上設けてあればよく、スピンベース23の周縁部に沿って等角度間隔で配置されている。チャックピン24のそれぞれは、基板Wの周縁部を下方から支持する基板支持部と、基板支持部に支持された基板Wの外周端面を押圧して基板Wを保持する基板保持部とを備えている。各チャックピン24は、基板保持部が基板Wの外周端面を押圧する押圧状態と、基板保持部が基板Wの外周端面から離れる解放状態との間を切り替え可能に構成されている。
そして、スピンベース23に対して基板Wが受渡しされる際には、複数個のチャックピン24を解放状態とし、基板Wに対して洗浄処理を行う際には、複数個のチャックピン24を押圧状態とする。押圧状態とすることによって、複数個のチャックピン24は基板Wの周縁部を把持してその基板Wをスピンベース23から所定間隔を隔てて略水平姿勢に保持することができる。これにより、基板Wはその表面(パターン形成面)Wfを上方に向け、裏面Wbを下方に向けた状態で保持される。
スピンチャック2の外方には、第1の回動モータ31が設けられている。第1の回動モータ31には、第1の回動軸33が接続されている。また、第1の回動軸33には、第1のアーム35が水平方向に延びるように連結され、第1のアーム35の先端に冷却ガスノズル3が取り付けられている。そして、制御ユニット4からの動作指令に応じて第1の回動モータ31が駆動されることで、第1のアーム35を第1の回動軸33回りに揺動させることができる。
冷却ガスノズル3はガス供給部64(図2)と接続されており、制御ユニット4からの動作指令に応じてガス供給部64から冷却ガスが冷却ガスノズル3に供給される。より具体的には、ガス供給部64に設けられた窒素ガス貯留部641から供給される窒素ガスが熱交換器642によりDIWの凝固点よりも低い温度まで冷やされる。こうして冷やされた窒素ガスが冷却ガスとして、熱交換器642から第1のアーム35内を経て冷却ガスノズル3まで配設された供給経路643に沿って冷却ガスノズル3に供給される。冷却ガスノズル3が基板表面Wfに対向配置されると、冷却ガスノズル3下面に設けられた吐出口30から基板表面Wfに向けて局部的に冷却ガスが吐出される。冷却ガスノズル3から冷却ガスを吐出させた状態で、制御ユニット4が基板Wを回転させながら該冷却ガスノズル3を基板の回転中心から外周部に向けて移動させることで、冷却ガスを基板表面Wfの全面にわたって供給できる。このとき、後述するように基板表面WfにDIWによる液膜が予め形成されていると、該液膜の全体を凍結させて基板表面Wfの全面にDIWの凍結膜を生成可能となっている。
第1の回動モータ31は、図1に点線で示すように、冷却ガスノズル3を基板Wの上方よりも外側に設定された待機位置へ位置決めすることができる。待機位置に位置決めされる冷却ガスノズル3の下方にはガス回収ユニット300が設けられている。ガス回収ユニット300は、冷却ガスノズル3の直下に開口302を有する受入部301と、開口302を介して受入部301に案内された気体を通送するためのガス回収管303と、該ガス回収管303の末端に設けられた排気ポンプ309と、受入部301から排気ポンプ309に至るガス回収管303の経路上にこの順番で設けられた排気バルブ307および気液分離ボックス308とを備えている。
受入部301は、その上面が上向きの開口302となった空洞を内部に有しており、待機位置に位置決めされた冷却ガスノズル3から吐出される冷却ガスを開口302から受け入れてガス回収管303へ送る。ガス回収管303内の気体は制御ユニット4に制御される排気ポンプ309により処理空間SPから外部へ排出される。この排気経路上に排気バルブ307が設けられ、制御ユニット4からの制御指令に応じて排気ポンプ309によるガス回収管303内の排気をオン・オフする。気液分離ボックス308は、ガス回収管303を通して排出される排気から液体成分を分離して図示しない排液回収部へ排出する。
また、スピンチャック2の外方に第2の回動モータ51が設けられている。第2の回動モータ51には、第2の回動軸53が接続され、第2の回動軸53には、第2のアーム55が連結されている。また、第2のアーム55の先端に二流体ノズル5が取り付けられている。そして、制御ユニット4からの動作指令に応じて第2の回動モータ51が駆動されることで、二流体ノズル5を第2の回動軸53回りに揺動させることができる。この二流体ノズルは、処理液としてのDIWと窒素ガスとを空中(ノズル外部)で衝突させてDIWの液滴を生成する、いわゆる外部混合型の二流体ノズルである。
また、スピンチャック2の外方には、第3の回動モータ67が設けられている。第3の回動モータ67には、第3の回動軸68が接続されている。また、第3の回動軸68には、第3のアーム69が水平方向に延びるように連結され、第3のアーム69の先端に薬液吐出ノズル6が取り付けられている。そして、制御ユニット4からの動作指令に応じて第3の回動モータ67が駆動されることで、薬液吐出ノズル6を基板Wの回転中心A0の上方の吐出位置と吐出位置から側方に退避した待機位置との間で往復移動させることができる。薬液吐出ノズル6は薬液供給部61と接続されており、制御ユニット4からの動作指令に応じてSC1溶液(アンモニア水と過酸化水素水との混合水溶液)等の薬液が薬液吐出ノズル6に圧送される。
なお、冷却ガスノズル3、二流体ノズル5および薬液吐出ノズル6ならびにこれらに付随するアームやその回動機構としては、例えば前記した特許文献1(特開2008−071875号公報)に記載されたものと同一構造のものを用いることができる。そこで、本明細書ではこれらの構成についてのより詳しい説明は省略する。
スピンチャック2の上方には、中心部に開口を有する円盤状の遮断部材9が設けられている。遮断部材9は、その下面(底面)が基板表面Wfと略平行に対向する基板対向面となっており、その平面サイズは基板Wの直径と同等以上の大きさに形成されている。遮断部材9は略円筒形状を有する支持軸91の下端部に略水平に取り付けられ、支持軸91は水平方向に延びるアーム92により基板Wの中心を通る鉛直軸回りに回転可能に保持されている。また、アーム92には、遮断部材回転機構93と遮断部材昇降機構94が接続されている。
遮断部材回転機構93は、制御ユニット4からの動作指令に応じて支持軸91を基板Wの中心を通る鉛直軸回りに回転させる。また、遮断部材回転機構93は、スピンチャック2に保持された基板Wの回転に応じて基板Wと同じ回転方向でかつ略同じ回転速度で遮断部材9を回転させるように構成されている。
また、遮断部材昇降機構94は、制御ユニット4からの動作指令に応じて、遮断部材9をスピンベース23に近接して対向させたり、逆に離間させることが可能となっている。具体的には、制御ユニット4は遮断部材昇降機構94を作動させることで、基板処理装置に対して基板Wを搬入出させる際には、スピンチャック2の上方の離間位置(図1に示す位置)に遮断部材9を上昇させる。その一方で、基板Wに対して所定の処理を施す際には、スピンチャック2に保持された基板Wの表面Wfのごく近傍に設定された対向位置まで遮断部材9を下降させる。
支持軸91は中空に仕上げられ、その内部に遮断部材9の開口に連通したガス供給路95が挿通されている。ガス供給路95は、ガス供給部64と接続されており、窒素ガス貯留部641から熱交換器を通さずに供給される窒素ガスが乾燥ガスとして供給される。この実施形態では、基板Wに対する洗浄処理後の乾燥処理時に、ガス供給路95から遮断部材9と基板表面Wfとの間に形成される空間に窒素ガスを供給する。また、ガス供給路95の内部には、遮断部材9の開口に連通した液供給管96が挿通されており、液供給管96の下端にノズル97が結合されている。液供給管96には適宜の処理液が通送されて、基板Wの表面Wfに処理液を供給する。
DIW供給部62はDIW貯留部621を有しており、熱交換器622はDIW貯留部621から供給されるDIWをその凝固点近傍温度まで冷却する。すなわち、DIW供給部62はDIW貯留部621から供給される常温のDIW、または熱交換器622により凝固点近傍温度まで冷却された低温のDIWを供給可能となっている。
スピンチャック2の回転支軸21は中空軸からなる。回転支軸21の内部には、基板Wの裏面Wbに処理液を供給するための処理液供給管25が挿通されている。そして、回転支軸21の内壁面と処理液供給管25の外壁面の隙間は、円筒状のガス供給路29を形成している。処理液供給管25およびガス供給路29は、スピンチャック2に保持された基板Wの下面(裏面Wb)に近接する位置まで延びており、その先端には基板Wの下面中央部に向けて処理液およびガスを吐出する下面ノズル27が設けられている。
処理液供給管25は薬液供給部61およびDIW供給部62と接続されており、薬液供給部61から供給されるSC1溶液等の薬液またはDIW供給部62から供給されるDIWなどの各種の液体が選択的に供給される。一方、ガス供給路29はガス供給部64と接続されており、スピンベース23と基板裏面Wbとの間に形成される空間にガス供給部64からの窒素ガスを供給することができる。
また、スピンチャック2の周囲を取り囲むようにスプラッシュガード20が設けられており、スピンベース23の回転により回転する基板から飛散する処理液を受け止めて図示しない排液回収部へ案内する。
上記のように構成された基板処理装置では、処理チャンバー1内の処理空間SPに搬入された基板Wがスピンチャック2によって保持され、必要に応じて所定の薬液処理が実行される。また、基板Wに対して、その表面Wfに液膜を形成してこれを凍結させた後、凍結膜とともに付着物を除去する凍結洗浄処理が行われる。上記構成の装置における凍結洗浄処理の基本的な原理については特許文献1(特開2008−071875号公報)に記載されているので詳しい説明は省略する。
図3はこの実施形態における凍結洗浄処理の態様を示すフローチャートである。また、図4は図3の処理における動作を模式的に示す図である。この装置では、未処理の基板Wが装置内に搬入されると、制御ユニット4が装置各部を制御して該基板Wに対して一連の洗浄処理が実行される。ここでは、予め基板Wが表面Wfを上方に向けた状態で処理チャンバー1内に搬入されてスピンチャック2に保持され、遮断部材9がその下面を基板上面に近接対向配置されているものとする。
このとき、待機位置に位置決めした冷却ガスノズル3から予め少量の冷却ガスを吐出させてアイドリングを行っておく(ステップS101)。これは、ガス供給部64から冷却ガスノズル3へのガス送出を完全に停止させてしまうと供給経路の温度が上昇してしまい、冷却ガスノズル3から所定の温度まで冷却された冷却ガスが吐出されるのに時間がかかるのを防止するためである。また、少量であっても吐出口30からガスを吐出させておくことで、処理空間SP内の高湿度雰囲気が供給経路内に入り込んで結露するのを未然に防止することができる。なお、アイドリング時の冷却ガスは供給経路の温度維持を目的とするので、このとき吐出口から吐出されるガスの温度が、液膜を構成する液体の凝固点以下である必要は必ずしもない。
ただし、少量とは言え低温の冷却ガスを高湿度の処理空間SP内に放出することは、処理空間SP内の水蒸気を結露させてミストの原因となり、さらには微小な氷粒を生じさせる原因となる。このようなミストや氷粒が処理中の基板に付着すると基板表面Wfにウォーターマークを生じさせてしまう。そこで、この実施形態では、前述したガス回収ユニット300を冷却ガスノズル3の待機位置の近傍に配置し、待機状態(アイドリング状態)の冷却ガスノズル3から吐出される冷却ガスを回収するようにしている。こうすることにより、アイドリングによるガス供給経路の冷却および周囲雰囲気の侵入を防止しつつ、併せて処理空間SP内にミストや氷粒が生成するのを防止している。
続いて、制御ユニット4がチャック回転機構22を駆動させてスピンチャック2を回転させるとともに、ノズル97から常温のDIWを基板表面Wfに供給する。基板表面に供給されたDIWには、基板Wの回転に伴う遠心力が作用し、基板Wの径方向外向きに均一に広げられ、その一部が基板外に振り切られる。これによって、基板表面Wfの全面にわたって液膜の厚みを均一にコントロールして、基板表面Wfの全体に所定の厚みを有する液膜(水膜)が形成される(ステップS102)。なお、液膜形成に際して、上記のように基板表面Wfに供給されたDIWの一部を振り切ることは必須の要件ではない。例えば、基板Wの回転を停止させた状態あるいは基板Wを比較的低速で回転させた状態で基板WからDIWを振り切ることなく基板表面Wfに液膜を形成してもよい。
液膜形成が終了すると、制御ユニット4は遮断部材9を離間位置に退避させる。この状態では、図4(a)に示すように、基板Wの表面Wfに所定厚さのパドル状液膜LPが形成されている。ここで、パドル状の液膜LPは、例えば薬液吐出ノズル6から供給されるSC1液によって形成されてもよい。前記したように、このとき冷却ガスノズル3は基板上方から側方へ離間した待機位置(図4(a)に示す位置)にあり、吐出口30から吐出される少量の冷却ガスはガス回収ユニット300の受入部301に回収される。
続いて、冷却ガスノズル3を待機位置から基板の回転中心AOの上方に移動させる(ステップS103)。そして、図4(b)に示すように、回転する基板Wの表面Wfに向けて冷却ガスノズル3からアイドリング時よりも多量の冷却ガスを吐出させることで動作状態としながら、冷却ガスノズル3を徐々に基板Wの端縁位置に向けてスキャン移動させていく(ステップS104)。
これにより、基板表面Wfの表面領域に形成された液膜LPが冷やされて部分的に凍結し、図4(c)に示すように、凍結した領域(凍結領域FR)が基板表面Wfの中央部に形成される。そして、方向Dn1へのノズル3のスキャンによって凍結領域FRは基板表面Wfの中央部から周縁部へと広げられ、図4(d)に示すように、最終的には基板表面Wfの液膜全面が凍結する。液膜全体が凍結すると、冷却ガスノズル3を待機位置まで退避させる。このとき冷却ガスノズル3からの冷却ガス吐出量を低下させてアイドリング状態に戻しておく(ステップS105)。
ここで、冷却ガスとしては、例えば−150℃、50L/minの窒素ガスを用いることができる。また、凍結後の液膜の目標到達温度としては、例えば−30℃とすることができる。冷却ガスのスキャンが終了すると、遮断部材9を再び基板表面Wfに近接配置し(ステップS106)、さらに遮断部材9に設けられたノズル97から基板表面Wfの凍結した液膜に向けて常温のDIWを供給してリンス処理を行う(ステップS107)。
ここまでの処理が実行された時点では、基板Wが遮断部材9とスピンベース23との間に挟まれながら回転する状態で、基板Wの表面にDIWが供給されている。ここで、基板表面Wfに常温のDIWを供給するのに代えて、二流体ノズル5からDIWの液滴を供給するようにしてもよい。続いて基板へのDIWの供給を停止し、基板を高速回転により乾燥させるスピン乾燥処理を行う(ステップS108)。すなわち、遮断部材9に設けられたノズル97およびスピンベース23に設けられた下面ノズル27から窒素ガスを吐出させながら基板Wを高速度で回転させることにより、基板Wに残留するDIWを振り切り基板Wを乾燥させる。このときに供給される窒素ガスは乾燥ガスとしての作用をするものであり、熱交換器を通さない常温のガスである。こうして乾燥処理が終了すると、処理済みの基板Wを搬出することによって1枚の基板に対する処理が完了する。
上記処理によって得られる洗浄効果について説明する。上記のようにして液膜を凍結させると、基板表面Wfとパーティクルの間に入り込んだ液膜の体積が増加(摂氏0℃の水が摂氏0℃の氷になると、その体積はおよそ1.1倍に増加する)し、パーティクルが微小距離だけ基板表面Wfから離れる。その結果、基板表面Wfとパーティクルとの間の付着力が低減され、さらにはパーティクルが基板表面Wfから脱離することとなる。このとき、基板表面Wfに微細パターンが形成されている場合であっても、液膜の体積膨張によってパターンに加わる圧力はあらゆる方向に等しく、つまりパターンに加えられる力が相殺される。そのため、パターンの剥離や倒壊を防止しながら、パーティクルのみを基板表面Wfから剥離させることができる。そして、新たに供給するDIWによって凍結した液膜を除去することにより、パーティクル等についても基板表面Wfから取り除くことができる。
図5はこの凍結洗浄処理における装置各部の動作を示すタイミングチャートである。処理開始当初においては、冷却ガスノズル3は供給経路643を低温に維持できる程度の低流量で冷却ガスを吐出しており、その位置は待機位置である。このときガス回収ユニット300の排気バルブ307は開かれており、冷却ガスノズル3から吐出される冷却ガスはガス回収ユニット300により回収されて処理空間SP外へ排出されている。この状態が保たれた図5において符号Aで示す期間中に、外部から基板Wが搬入されスピンベース23に保持させる。
その後の時刻T1からT2までの期間Bにおいて、基板表面Wfに液膜が形成される。このとき、冷却ガスノズル3からの冷却ガスの流量を増大させておく。基板表面Wfが液膜で覆われた状態では、ミスト等に起因する基板の汚染は問題とならない。また冷却ガス流量を増大させておくことで、後のスキャン動作において十分に低温が維持された冷却ガスを吐出させることができる。
時刻T2に冷却ガスノズル3の移動が開始され、時刻T3までの期間Cにおいて、冷却ガスノズル3は待機位置から基板Wの回転中心AOの上方まで移送される。そして、基板中心から周縁に向けた冷却ガスノズル3のスキャンが行われる(期間D)。時刻T4において冷却ガスノズル3が基板周縁の上方に達すると、冷却ガスの流量は再び低流量とされ、冷却ガスノズル3は待機位置に戻される(期間E)。またこの期間に遮断部材9の基板近接位置への下降が行われる。
冷却ガスノズル3が基板表面Wfをスキャンする期間Dにおける排気バルブ307の取り扱いとしては、冷却ガスノズル3から基板表面Wfに供給される冷却ガスの流れを乱さないという意味においては図5に実線で示すように閉じておいてもよく、また同図に破線で示すように処理空間SP内の高湿度雰囲気を排出する目的で開いたままとしてもよい。このとき、冷却ガスの吐出量よりも多くの気体をガス回収ユニット300が回収するようにしておくと、ガス回収ユニット300が確実に冷却ガスを回収した上で、さらに周囲雰囲気も排出することができる。なお、ガス回収ユニット300に取り込まれた高湿度雰囲気中の液体成分については、気液分離ボックス308により排気から分離して処理することが可能である。
ノズル移動が終了する時刻T5から続くT6までの期間Fにおいてリンス処理が行われるとともに、時刻T7までの期間Gにスピン乾燥処理が行われる。その後の期間Hにおいて、処理後の基板の搬出が行われる。これらの期間中、待機位置に位置決めした冷却ガスノズル3から少量の冷却ガスを吐出しアイドリング状態としておくことで、ガス供給経路の温度上昇を抑制することができる。また、このとき吐出される冷却ガスをガス回収ユニット300で回収することにより、処理空間SP内でのミストや氷粒の基板への付着を抑制することができる。
以上のように、この実施形態では、冷却ガスノズル3を基板表面Wfに沿ってスキャン移動させ基板表面Wfに冷却ガスを供給するとき以外にも、少量の冷却ガスを冷却ガスノズル3から吐出させるアイドリングを行う。こうすることによって、供給経路643の温度上昇を抑えるとともに、処理空間内の雰囲気がガス経路に侵入するのを防止する。
このとき、吐出された冷却ガスに処理空間内の高湿度雰囲気が触れるの防止するために、待機状態の冷却ガスノズル3の近傍にガス回収ユニット300を配置して、アイドリングのために吐出される冷却ガスを回収する。こうすることで、高湿度雰囲気が冷却ガスに触れてミストや結露、霜、氷粒等が発生し基板に付着してウォーターマークとなるのを抑制することができる。特に、吐出された冷却ガスが排出される経路を基板表面から離れたものとすることによって、基板への影響を最小限にすることができる。
なお、この実施形態においては、待機位置の冷却ガスノズル3の吐出口30の近傍に開口302を有するガス回収ユニット300を配置している。しかしながら、これに代えて、ガス回収ユニットがカバー状またはキャップ状の部材により冷却ガスノズル3の吐出口の周囲を完全に閉塞するようにしてもよい。こうすることで、アイドリング中に冷却ガスノズル3から吐出される冷却ガスは処理空間SP内の雰囲気に触れることなく排出されるので、ミスト等に起因するウォーターマークの発生をより確実に防止することができる。この場合には、吐出口30から吐出されるガスをその吐出圧によって排出することができるので、排気ポンプを必ずしも必要としない。
以上説明したように、この実施形態においては、スピンチャック2が本発明の「基板保持手段」として機能しており、冷却ガスノズル3が本発明の「冷却ガス吐出手段」として機能している。そのうち吐出口30が本発明の「ガス吐出口」に相当している。また、ガス回収ユニット300が本発明の「ガス回収手段」として機能している。このガス回収ユニット300では、受入部301および開口302がそれぞれ本発明の「受入部」および「開口」に相当している。また、排気バルブ307および排気ポンプ309が本発明の「排出部」として機能している。
また、この実施形態では、第1の回動モータ31が、冷却ガスノズル3を基板W上に位置決めすることで冷却ガスノズル3を「動作状態」とする一方、該ノズル3を待機位置に位置決めすることで「待機状態」に切り換えており、本発明の「状態切換手段」として機能している。
さらに、この実施形態では、基板Wを回転させるスピンチャック2および遮断部材9に設けられて基板Wに向けてDIWを供給するノズル97が、本発明の「液膜形成手段」および「除去手段」として機能している。
<第2実施形態>
図6はこの発明にかかる基板処理装置の第2実施形態の主要部を示す図である。より具体的には、図6(a)はこの実施形態における冷却ガスノズルの構造を示す図であり、図6(b)はこの実施形態による凍結洗浄処理における装置各部の動作を示すタイミングチャートである。第2実施形態における冷却ガスノズル310では、ノズル310が取り付けられた回動自在のアーム315の内部に、ノズル内部に設けられて吐出口311と連通する先端空間312に、冷却ガスを送り込むための供給経路313と、先端空間312内の気体を排出するための排出経路314とが設けられている。
供給経路313は窒素ガス供給部64に接続されており、窒素ガス供給部64から熱交換器642を介して送出される低温の冷却ガスをノズルの先端空間312に送り込む。一方、排出経路314は排気バルブ317を介して排気ポンプ319に接続されており、排気バルブ317が開かれているときには、先端空間312に面した開口部314aから先端空間312内の気体を取り込んで排気ポンプ319に案内する。供給経路313を介して供給されるガスの流量と排出経路314を介して排出されるガスの流量とでは、ほぼ同量、もしくは供給経路313から供給されるガスの流量の方が僅かに大きくなるように設定されることが望ましい。
このように、第2実施形態の装置においては、第1実施形態におけるガス回収ユニット300と同様の作用をする構成が冷却ガスノズル310と一体的に組み込まれているという特徴がある。その他の装置構成は第1実施形態のものと共通とすることができるので、他の部分については詳しい説明を省略する。
図6(b)に示すように、各部の動作も基本的には第1実施形態のものと同じである。
ただし、第2実施形態では、冷却ガスノズル310が待機位置にあるときのアイドリングにおいて、供給経路313を介して供給される少量の冷却ガスが排出経路314を介して排出される点で第1実施形態とは相違している。すなわち、冷却ガスノズル310を基板上でスキャンさせるとき(期間D)には冷却ガスの流量を高くするとともに排気バルブ317を閉じているので、図6(a)において実線矢印で示すように、供給経路313から先端空間312に送り込まれた冷却ガスは吐出口311から基板表面Wfの液膜に向けて吐出される。
一方、アイドリング期間、具体的には液膜形成を開始するまでの期間Aおよびスキャン終了後の期間EないしHでは、供給経路313を介して先端空間312に供給される冷却ガスの量は低く抑えられ、かつ排気バルブ317が開かれている。このため、図6(a)において破線矢印で示すように、先端空間312に供給された冷却ガスは排出経路314を介して外部に排出される。
その結果、アイドリングのために冷却ガスノズル310に供給される冷却ガスは、その流通方向において吐出口311よりも上流側で回収されてほとんど処理空間SPに放出されなくなる。したがって、第1実施形態と同様に、アイドリングによりガス供給経路の温度を低く維持するとともに、処理空間SP内の高湿度雰囲気と触れることでミストや結露、氷粒等が発生するのを防止し、基板にウォーターマークが発生するのを効果的に抑制することができる。
なお、排出経路314を介して排出されるガスの流量よりも供給経路313を介して供給されるガスの流量を僅かに大きくした場合の効果は次の通りである。先端空間312に送り込まれるガスの量を該空間から排出されるガスの量よりも多くすることで、送り込まれたガスの一部が排出しきれずに吐出口311から放出されるため、高湿度の周囲雰囲気が吐出口311から排出経路314に流れ込んで吐出口311の周辺に霜が発生するのを防止する効果が得られる。
また、この実施形態ではアイドリング時の冷却ガスを冷却ガスノズル310内で回収しているので、任意のノズル位置でアイドリングを行うことが可能である。この意味では第1実施形態のようにアイドリング時に待機位置へ位置決めすることは必須でない。しかしながら、吐出口311の周辺に生じた霜等が基板上に落下するのを防止するために、やはり基板上方から離れた位置に冷却ガスノズル310を位置決めした状態でアイドリングを行うことが好ましい。
この実施形態では、アーム315内に設けられた供給経路313が本発明の「供給経路」に相当しており、同じくアーム315内に設けられた排出経路314と、排気バルブ317、排気ポンプ319等とが一体として本発明の「ガス回収手段」として機能している。また、この実施形態では、排気バルブ317がその開閉により排出経路314を通じた排気をオン・オフすることで、冷却ガスノズル310の動作状態・待機状態の切換を行っており、本発明の「状態切換手段」として機能している。また、吐出口311が本発明の「ガス吐出口」に相当する一方、先端空間312に開口する開口部314aが、本発明の「ガス回収口」に相当している。
<第3実施形態>
図7はこの発明にかかる基板処理装置の第3実施形態の主要部を示す図である。より具体的には、図7(a)はこの実施形態における冷却ガスノズルの構造を示す図であり、図7(b)はこの実施形態による凍結洗浄処理における装置各部の動作を示すタイミングチャートである。
この実施形態は第2実施形態の装置に新たな部材を付加したものであり、その点を除く構成は第2実施形態と同じであるので、同一構成には同一符号を付して説明を省略する。この第3実施形態では、図7(a)に示すように、待機位置に位置決めされた冷却ガス吐出ノズル310の吐出口311を覆うように、ただし僅かな隙間を設けてプレート状のキャップ部材321が設けられる。図7(b)に示すように、この装置における動作は第2実施形態とほぼ同じである。
すなわち、冷却ガスノズル310を基板上でスキャンさせるとき(期間D)には冷却ガスの流量を高くするとともに排気バルブ317を閉じているので、図7(a)において実線矢印で示すように、供給経路313から先端空間312に送り込まれた冷却ガスは吐出口311から基板に向けて吐出される。
一方、液膜形成を開始するまでの期間Aおよびスキャン終了後の期間EないしHでは、供給経路313を介して先端空間312に供給される冷却ガスの量は低く抑えられ、かつ排気バルブ317が開かれている。さらに、待機位置に位置決めされた冷却ガスノズル310の吐出口311にはキャップ部材321が近接配置されている。このため、吐出口311からのガス吐出が大幅に規制されており、図7(a)において破線矢印で示すように、先端空間312に供給された冷却ガスは排出経路314を介して外部に排出される。この場合、吐出口311の大部分を塞いでいることから、供給経路313からの冷却ガスの供給圧を利用して冷却ガスを排出経路314から外部へ排出することが可能であり、排気ポンプを省くことができる。また、排出経路314を介して排出されるガスの流量よりも供給経路313を介して供給されるガスの流量が僅かに大きく設定された場合には、一部の冷却ガスがノズル310とキャップ部材321との隙間を通じて処理空間SP内に放出される。これにより、処理空間SPからの雰囲気の流入が回避される。したがって、ガス回収経路から気液分離ボックスを省くことが可能となる。
このような態様によっても、上記した第1実施形態および第2実施形態と同様に、アイドリングによりガス供給経路の温度を低く維持するとともに、ミスト等の発生に起因する基板へのウォーターマークの発生を抑制することができる。また、待機状態の冷却ガスノズル310の吐出口311にキャップ部材321を近接させることで、処理空間SP内の雰囲気と冷却ガスとが触れるのをより効果的に抑制することができる。また、以下に説明する第4および第5実施形態に比べると、ノズルまたはキャップ部材の上下動を必要としないため、装置構成としてはより簡単なものを用いることが可能である。
この実施形態では、排気バルブ317の開閉とキャップ部材321の近接・離間とによって、冷却ガスノズル310を待機状態・動作状態の間で切り換えており、排気バルブ317およびキャップ部材321が本発明の「状態切換手段」として機能している。また、キャップ部材321は本発明の「規制部材」としての機能も有している。
<第4実施形態>
図8はこの発明にかかる基板処理装置の第4実施形態の主要部を示す図である。より具体的には、図8(a)はこの実施形態における冷却ガスノズルの構造を示す図であり、図8(b)はこの実施形態による凍結洗浄処理における装置各部の動作を示すタイミングチャートである。この第4実施形態は第3実施形態の一部を改変したものであるので、共通の構成には同一符号を付して説明を省略する。
この実施形態では、待機位置に位置決めされた冷却ガスノズル310を図示しない任意の昇降機構により所定の範囲で上下動可能とする。これにより、待機位置では、図8(a)に示すようにキャップ部材321が冷却ガスノズル310の吐出口311を完全に閉塞して、アイドリングのための冷却ガスが処理空間SPに漏れ出すのを防止する。
具体的な動作の態様は図8(b)に示す通りである。すなわち、待機状態ではノズル高さを低くしてキャップ部材321を冷却ガスノズル310に当接させておく。そして、ノズルを待機位置から基板中心へ向けて移動開始する時刻T2と同時またはそれより少し前に、昇降機構により冷却ガスノズル310の高さを上げる。この状態でノズルを基板上へ移動させてスキャン動作を行い、待機位置に戻す時に(時刻T5)、またはその少し後に、ノズルを下降させて再びキャップ部材321を冷却ガスノズル310に当接させる。
その他の装置構成や動作、それにより得られる作用効果については第3実施形態と同様であるが、アイドリング時に吐出口311をキャップ部材321で閉塞することにより、冷却ガスと処理空間SP内の雰囲気とがより確実に分離され、ミスト等に起因するウォーターマークの防止効果をより高めることができる。
<第5実施形態>
図9はこの発明にかかる基板処理装置の第5実施形態の主要部を示す図である。より具体的には、図9(a)はこの実施形態における冷却ガスノズルの構造を示す図であり、図9(b)はこの実施形態による凍結洗浄処理における装置各部の動作を示すタイミングチャートである。この第5実施形態は、第4実施形態の一部を改変したものであるので、共通の構成には同一符号を付して説明を省略する。
第4実施形態では待機位置において冷却ガスノズル310を昇降させたが、この第5実施形態では、これに代えてキャップ部材321を昇降機構で昇降させることにより、冷却ガスノズル310の吐出口を閉塞およびその解除を行うようにしている。すなわち、図9(b)に示すように、待機状態ではキャップ部材321を高い位置に位置決めすることで冷却ガスノズル310に当接させておく。そして、ノズルを待機位置から基板中心へ向けて移動開始する時刻T3と同時またはそれより少し前に、図示しない昇降機構によりキャップ部材321を下降させて冷却ガスノズル310から離間させる。この状態でノズルをスキャンさせ待機位置に戻すと同時に(時刻T5)、またはその少し後に、再びキャップ部材321を上昇させて冷却ガスノズル310に当接させる。その他の装置構成や動作、それにより得られる作用効果については第4実施形態と同様である。
このような構成では、冷却ガスノズル310の上下動は必要なく、単にキャップ部材321を昇降させるだけであるので、より簡単な装置構成で上記動作を実現することが可能である。また、ノズル昇降に伴うパーティクルや水滴、霜等の落下を防止することができる。
<その他>
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば上記実施形態では、DIWによって本発明の「液膜」を形成しているが、液膜を構成する液体はこれに限定されない。例えば、炭酸水、水素水、希薄濃度(例えば1ppm程度)のアンモニア水、希薄濃度の塩酸などを用いたり、DIWに少量の界面活性剤を加えたものを用いてもよい。
また、上記実施形態では、冷却ガスとして液膜を構成する液体(DIW)の凝固点よりも低温にした窒素ガスを用いているが、冷却ガスは窒素ガスに限定されない。例えば、アルゴンガスのような希ガスや他の不活性ガス、乾燥空気等を用いてもよい。
また、上記実施形態の基板処理装置は、DIW貯留部621および窒素ガス貯留部641をいずれも装置内部に内蔵しているが、処理液およびガスの供給源については装置の外部に設けられてもよく、例えば工場内に既設の処理液やガスの供給源を利用するようにしてもよい。また、これらを冷却するための既設設備がある場合には、該設備によって冷却された液体やガスを利用するようにしてもよい。
また、上記第3ないし第5実施形態では、排出経路314に取り込まれた気体を、供給経路313からの冷却ガスの供給圧を利用して外部へ排気することで排気ポンプを省略しているが、必要に応じて排出経路上に排気ポンプを設けても構わない。また、気液分離ボックスを排出経路に設けてもよい。
また、上記各実施形態では、待機状態においても冷却ガスノズルから少量の冷却ガスを吐出するアイドリングを行うものである。しかしながら、このようなアイドリングを行わない、つまり待機状態ではガス吐出を停止させる構成においても、供給経路内に残存する低温のガスが吐出口から漏れ出すこともある。したがって、このように冷却ガス吐出によるアイドリングを行わない装置に対しても、本発明は有効である。
また、上記実施形態の基板処理装置は、基板Wの上方に近接配置される遮断部材9を有するものであるが、本発明は遮断部材を有しない装置にも適用可能である。また、この実施形態の装置は基板Wをその周縁部に当接するチャックピン24によって保持するものであるが、基板の保持方法はこれに限定されるものではなく、他の方法で基板を保持する装置にも、本発明を適用することが可能である。