本発明は、数10μm以下の厚さの薄いプラスチックシートなどの非常に剛性の低いシート部材においても、しわ無く安定したハンドリングや巻取りが可能な方法および装置の提供を目的としている。剛性の低いシートほど、低張力で大きく伸びることから、しわを防止するためには、より低張力に安定に制御することが求められる。
特許文献1および特許文献2などで開示されているダンサーロールなどを用いる方法は、ダンサーロール自身がシートの摩擦負荷になることから、ダンサーロールによる張力変動が発生してしまう。さらに、シートの加減速時においては、ダンサーロールなどの接触ロール部材のイナーシャ(慣性力)がシートに張力変動を発生させてしまうという課題を有する。特に、急激な加減速を必要とする場合ほど、大きな張力変動をシートに与えてしまう。
特許文献3には、上記ダンサーロール方式などの課題も記載されている。原反ロールの偏心による巻出し速度の脈動が大きい場合、ダンサーロールが上下動することで、著しい張力変動を生じることがある。そこで、特許文献3では、原反ロールの原反ロールの偏心を検出して、原反軸の回転に1回転ごとの周期的変動を与えることで、原反の概略等速巻出しを実現している。しかし、この回転速度制御にも限界があるために、ダンサーロールを併用して張力の補正を行うことが前提の方式となっている。
特許文献4は、巻出し側のテープ供給軸の直径が小さくなることによる巻出し速度変化を補正するものであるが、巻取ったテープ長さや巻出し軸の回転数からテープ供給軸側の直径を推定するなどの方法は、どうしても推定誤差が生じてしまう。本公知例も、現実的にはダンサーロールなどを併用することを前提とした過張力防止方式が必要であり、特許文献内の実施例でも、ダンサーロールが配置されている。
特許文献5は、巻出し装置と巻取り装置の間に、ダンサーロールなどの位置の可動するローラ部材を配置していない構成である。代わりに、巻出し装置と巻取り装置を、トルク可調整電動機で構成している。そして、引取り装置なるものを、巻出し装置と巻取り装置の間に、配置してシートの速度を検出し、このシート速度が目標値となるように、巻出し装置と巻取り装置の駆動トルクを制御することで、シート張力を安定化させるものである。
しかし、特許文献5でも引取り装置の摩擦や慣性力での張力変動は避けられない。また、トルク可調整電動機によるシートの張力制御性にも限界がある。駆動トルクによる制御では、モータや軸受けなどの摩擦などによるトルクロスが変わると、シートに伝達されるトルクは変化する。つまり、張力が変化することは容易に推察できる。しかし、このような経時的に変化する摩擦などにトルクロスを正確に把握することは困難である。このため、モータのトルクによる張力制御方式も、薄いプラスチックシートなど低剛性シートのための低張力ハンドリングとしては限界がある。
本発明の目的は、数10μm以下の厚さの薄いプラスチックシートなど低剛性シートにおいてもしわ無くシートハンドリング可能なシートハンドリング装置を提供することにある。
上記目的を達成するために、シート張力制御区間であるシート張架区間の上流側に設けられ、上流側搬送ローラと上流側押圧ローラとを有し、上流側搬送ローラと上流側押圧ローラとの間にシートを挟み、上流側搬送ローラの回転でシート張架区間にシートを送り入れるシート送入手段と、前記シート張架区間の下流側に設けられ、下流側搬送ローラと下流側押圧ローラとを有し、下流側搬送ローラと下流側押圧ローラとの間にシートを挟み、下流側搬送ローラの回転でシート張架区間からシートを送り出すシート送出手段と、前記上流側搬送ローラの単位時間当たりの回転角度を制御可能な上流側搬送ローラの回転駆動手段と、前記下流側搬送ローラの単位時間当たりの回転角度を制御可能な下流側搬送ローラの回転駆動手段と、前記上流側搬送ローラの回転駆動手段による単位時間当たりのシートの搬送量であるシート搬送速度を規定値に制御するための単位時間当たりの回転角度を算出し、前記上流側搬送ローラの回転駆動手段によるシート搬送速度を制御する上流側搬送ローラの回転量制御手段と、前記下流側搬送ローラの回転駆動手段による単位時間当たりのシートの搬送量であるシート搬送速度を規定値に制御するための単位時間当たりの回転角度を算出し、前記下流側搬送ローラの回転駆動手段によるシート搬送速度を制御する下流側搬送ローラの回転量制御手段と、前記上流側搬送ローラの回転量制御手段及び前記下流側搬送ローラの回転量制御手段に搬送すべきシートの搬送量情報を提供するシート搬送量制御手段を具備するとともに、該シート搬送量制御手段は、規定のシート搬送速度比を有し、前記下流側搬送ローラの回転駆動手段によるシート搬送速度よりも前記上流側搬送ローラの回転駆動手段によるシート搬送速度が小さくなるように、上流側搬送ローラの搬送量指令信号及び下流側搬送ローラの搬送量指令信号を形成し、前記上流側搬送ローラの回転量制御手段及び前記下流側搬送ローラの回転量制御手段に指令するように構成する。
さらに、前記シート搬送量制御手段は、前記シート搬送速度比を、搬送シート種類や周囲環境などの条件により、変更可能とする。
また、前記シート張架区間に配置される非駆動制御ローラなどの接触部材が、シートと接触する巻角度は、60度以下とする。
さらに、前記シート張架区間内のシート張力が、規定値以上もしくは、規定値以下、破断の少なくとも一つ以上の状態に至ったことを検知するシート張力異常検出手段を配置する。
さらに、前記シート張架区間内のシートのたるみを検知する手段を有するとともに、前記シート搬送量制御手段は、前記シート張架区間内に、弛みが生じている状態から規定張力状態にするための初期張力設定モードを有する。そして、前記初期張力設定モードは、前記下流側搬送ローラの回転駆動手段のみを駆動もしくは、前記上流側搬送ローラの回転駆動手段及び前記下流側搬送ローラの回転駆動手段を既定の張力に制御するシート搬送速度比よりも大きなシート搬送速度比となるように制御することで、シート初期弛みを粗除去するシートたるみ除去動作と、シートたるみが粗除去された後にシート張力を規定値に安定化させるために、前記上流側搬送ローラの回転駆動手段及び前記下流側搬送ローラの回転駆動手段を規定のシート搬送速度比で規定時間駆動するように制御する張力安定化駆動動作より構成する。
また、前記シート張架区間に、規定張力でのシートの張架パスに近接したロールおよびプレート部材からなるシートパスガイド手段を配置する。そして、シートパスが経時的に変化する場合は、シートパスガイド手段に、シートパスの変化を検知して、所定の近接距離を保持するように可動する可動機構を設ける。
さらに、前記上流側搬送ローラ及び前記下流側搬送ローラのうち少なくとも一つ以上は、搬送ローラの回転角度を制御可能な回転駆動手段とともに、搬送ローラの回転を減速させる回転減速ブレーキ手段を合わせて具備する。そして、該回転減速ブレーキ手段は、ブレーキ強度が可変であるとともに、回転速度・減速速度・減速加速度の一つ以上のパラメータを用いて、ブレーキ強度を可変制御するブレーキ強度制御手段を設ける。また、該回転減速ブレーキ手段は、誘導モータなどのトルク制御可能なモータであるとともに、無負荷状態でのモータの回転速度が、目標速度より遅くなるように制御することで、ブレーキ力を制御する。加えて、該回転減速ブレーキ手段は、ブレーキ力を電力として回収可能な回生ブレーキ手段とする。
さらに、前記上流側搬送ローラまたは前記下流側搬送ローラは、単位時間当たりのシート搬送量である前記上流側搬送ローラまたは前記下流側搬送ローラに進入するもしくは前記上流側搬送ローラまたは前記下流側搬送ローラから排出する単位時間当たりのシート長を検出する搬送量検出手段を具備し、該搬送量検出手段により検出された単位時間当たりのシート長が前記シート搬送量制御手段から逐次指示される指令値と一致するように、前記上流側搬送ローラまたは前記下流側搬送ローラの回転量制御手段が前記上流側搬送ローラまたは前記下流側搬送ローラの回転駆動手段の単位時間当たりの回転角度を逐次算出制御するように構成する。また、前記搬送量検出手段は、剛体ロールとした。加えて、前記搬送量検出手段は、ロール状部材とし、該ロール状部材の前記上流側搬送ローラまたは前記下流側搬送ローラへの押圧を制御可能なロール押圧制御手段を設け、シート搬送速度およびシート搬送加速度のうち少なくとも一方を用いて、前記ロール状部材の押圧を制御する。また、前記ロール状部材は、その外周長が、前記シート張架区間の長さの数分の1以下とした。
さらに、前記搬送量検出手段によって検出される単位時間当たりのシート搬送量と前記上流側搬送ローラまたは前記下流側搬送ローラの回転角度位置を検出記憶して、前記上流側搬送ローラまたは前記下流側搬送ローラの偏心パターンを検出記憶する搬送ローラ偏心記憶手段を有するとともに、前記上流側搬送ローラの回転量制御手段または前記下流側搬送ローラの回転量制御手段は、前記搬送ローラ偏心記憶手段の情報に従って、前記上流側搬送ローラの回転駆動手段または前記下流側搬送ローラの回転駆動手段の単位時間当たりの回転角度を補正制御するようにする。また、前記搬送量検出手段が、ロール状部材の場合、該ロール状部材よりなる搬送量検出手段の回転偏心を記憶する検出ロール偏心記憶手段を有するとともに、前記上流側搬送ローラの回転量制御手段または前記下流側搬送ローラの回転量制御手段は、前記検出ロール偏心記憶手段の情報を用いて、前記上流側搬送ローラの回転駆動手段または前記下流側搬送ローラの回転駆動手段の単位時間当たりの回転角度を補正制御するようにする。
さらに、シートハンドリング装置をシート巻取装置とし、上流側搬送ローラを、シートを巻出駆動し供給する原反ロールとした場合、シート走行位置を制御するために、シート走行領域のいずれかの位置でシートの幅方向の走行位置を検出するシート走行位置検出手段と、シートを巻出駆動し供給する前記原反ロールの回転軸方向の位置を変更可能な原反ロール位置可変手段を具備し、前記シート走行位置検出手段の検出結果によって、原反ロール位置可変手段を制御する。
また、シート張架区間のシート張力を制御するために、前記シート張架区間の上流側もしくは下流側の少なくとも一方に、シート張力を零もしくは、前記シート張架区間よりも十分小さい張力に制御する無張力制御区間を配置し、前記シート張架区間および無張力制御区間の上流側に、シートの幅方向の走行位置を制御する走行位置制御区間を具備するように構成した。
上記本発明の構成によれば、シートを搬送するための上流側搬送ローラ及び下流側搬送ローラと該上流側搬送ローラ及び下流側搬送ローラの単位時間当たりの回転角度を各々独立して制御可能な上流側搬送ローラの回転駆動手段及び下流側搬送ローラの回転駆動手段を配し、該各回転駆動手段によるシートの単位時間当たりの搬送量を規定値に制御するための単位時間当たりの回転角度を算出し、各回転駆動手段によるシートの搬送量を制御する上流側搬送ローラの回転量制御手段及び下流側搬送ローラの回転量制御手段と該各回転量制御手段に搬送すべきシートの搬送量情報を提供するシート搬送量制御手段を設けた。そして、該シート搬送量制御手段は、既定のシート搬送速度比を有する上流側搬送ローラ及び下流側搬送ローラへの搬送量指令信号を形成し、上流側搬送ローラ及び下流側搬送ローラの回転量制御手段に指令するように構成することで、一組の搬送ローラ(上流側搬送ローラと下流側搬送ローラ)間のシート張架区間に、供給するシート長と排出するシート長を制御できる。
さらに、本発明の構成によれば、シート搬送量制御手段は、規定のシート搬送速度比を有し、上流側搬送ローラの回転駆動手段による単位時間当たりのシートの搬送量を、下流側搬送ローラの回転駆動手段による単位時間当たりのシートの搬送量よりも、少なくなるように制御する様に構成することで、シート張力制御区間に、張架されているシートの伸び量を正確に規定値にコントロールすることが可能となり、シートの有する弾性率から算出される張力値に正確に張力制御することができる。
加えて、本発明の構成によれば、シート搬送速度比を、搬送シート種類や周囲環境などの条件により変更可能とすることで、シート張架区間におけるシート張力を搬送シート種類や周囲環境などに関わらず規定値に安定化することができる。
さらに、本発明の構成では、該シート張架区間に非駆動制御ローラなどの接触部材が配置される場合においても、シートとの接触角を60度以下とすることで、非駆動制御ローラへのシートの押圧力は、シート張力以下となることから、非駆動制御ローラのシート張力への影響を最小限に抑制できる。
上記した本発明の方式では、シートの張力を直接的に制御するのではなく、単位時間当たりのシートの搬送量を制御することでシート張力を高精度に制御するので、制御異常を検知しにくい。そこで、本発明の構成では、シート張架区間内のシート張力が、規定値以上もしくは、規定値以下、破断の少なくとも一つ以上の状態に至ったことを検知するシート張力異常検出手段を配置することで、異常動作を防止することで安全性を確保ができる。
同様に、発明の方式では、張力付与機構などを用いずに、単位時間当たりのシートの搬送量を制御することから、シート設置直後などの状態では、シートに張力が付加されない状態となる。
そこで、本発明の構成では、シート張架区間内のシートのたるみを検知する手段を有するとともに、該張力制御対象となる該シート張架区間内に、弛みが生じている状態から規定張力状態にするための初期張力設定モードを設ける。そして、該初期張力設定モードは、該シート張架区間内の下流側の回転駆動手段のみを駆動もしくは、上下流の両回転駆動手段を既定の張力に制御するシート搬送速度比よりも大きなシート搬送速度比となるように制御することで、シート初期弛みを粗除去するシートたるみ除去動作と、シートたるみが粗除去された後にシート張力が規定値に安定化させるために、該シート張架区間内の上下流の両回転駆動手段を既定のシート搬送速度比で規定時間もしくは規定シート長だけ駆動するように制御する張力安定化駆動動作より構成する。これによって、本発明の構成では、シート設置直後などの状態ではシートに張力が付加されない状態から、シート張架区間内のシート張力を、自動的かつスムーズに、規制値に安定化できる。
さらに、本発明の構成によれば、シート張架区間に、規定張力でのシートの張架パスに近接したロールおよびプレート部材からなるシートパスガイド手段を配置することで、シート張架区間のシート張力が低いために発生する加減速時などのシート振動が発生した場合も、振動したシート面が、シートパスガイド手段に接触することで、共振などを防止し、効果的に不要な振動を抑制することができる。加えて、シートパスが経時的に変化する場合においても、シートパスガイド手段に、シートパスの変化を検知して、所定の近接距離を保持するように可動する可動機構を設けることで、簡単な構成で、同様の効果を得ることが可能である。
さらに、本発明における前記付加的構成として、搬送ローラの回転角度を制御可能な回転駆動手段とともに、搬送ローラの回転を減速させる回転減速ブレーキ手段を合わせて設けるとともに、該回転減速ブレーキ手段のブレーキ強度を可変とし、回転速度・減速速度・減速加速度の一つ以上のパラメータを用いて、ブレーキ強度を可変制御するブレーキ強度制御手段を設けることで、回転慣性力の大きな原反や搬送ロールなどを駆動する場合に、回転角度を制御可能な回転駆動手段として、出力トルクが小さく低コストなモータを選定することが可能となる。また、該回転減速ブレーキ手段は、誘導モータなどのトルク制御可能なモータとし、無負荷状態でのモータの回転速度が、目標速度より遅くなるように制御することで、ブレーキ力を制御するとともに、該回転減速ブレーキ手段は、ブレーキ力を電力として回収可能な回生ブレーキ手段とすることで、よりエネルギー効率の高い運転を可能とする。
さらに、本発明における前記付加的構成として、該シートを搬送するために配置された複数の搬送ローラ(上流側搬送ローラと下流側搬送ローラ)において、該搬送ローラに進入する単位時間当たりのシート長もしくは排出する単位時間当たりのシート長の少なくとも一方を検出する搬送量検出手段を設け、該搬送量検出手段による単位時間当たりのシート長(搬送量)がシート搬送量制御手段から逐次指示される指令値と一致するように、上流側搬送ローラまたは下流側搬送ローラの回転量制御手段が回転駆動手段の単位時間当たりの回転角度を逐次算出制御するように構成することで、上流側搬送ローラまたは下流側搬送ローラの偏心などの影響を受けることなく、高精度なシート搬送量制御を可能とし、更なる高精度低張力シート張架制御が可能となる。
加えて、本発明の構成では、搬送量検出手段を剛体ロールとすることで、直径変動を抑え安定した搬送量検出を可能とする。さらに加えて、搬送量検出手段としてロール状部材と該ロール状部材を上流側搬送ローラ又は下流側搬送ローラへの押圧を制御可能なロール押圧制御手段を設け、シート搬送速度およびシート搬送加速度のうち少なくとも一方を用いて、ロール状部材の押圧を制御することで、搬送量検出手段である剛体ロールの加減速時のスリップなどによる測定精度低下を防止するとともに、上流側搬送ローラ又は下流側搬送ローラや原反ロールへの剛体ロール押しつけによる影響を最小限に抑制することができる。
また、本発明の構成では、搬送量検出手段であるロール状部材の外周長を、隣接する搬送ローラ間のシート張力制御区間長の数分の1以下とすることで、搬送量検出手段であるロール状部材の偏心による張力変動誤差を数分の1以下に抑制することができる。これは、偏心による搬送量の最大変動値が、シート張力制御区間における張架シート長さの数分の1以下となることから、シート張力制御区間のシート張力への影響が数分の1以下に抑制されることによる。
さらに、本発明の構成では、搬送量検出手段によって検出されるシート搬送量と上流側搬送ローラ又は下流側搬送ローラの回転角度位置から、上流側搬送ローラ又は下流側搬送ローラの偏心パターンを検出し記憶する搬送ローラ偏心記憶手段を有するとともに、上流側搬送ローラの回転量制御手段または下流側搬送ローラの回転量制御手段は、搬送ローラ偏心記憶手段の情報に従って、上流側搬送ローラの回転駆動手段または下流側搬送ローラの回転駆動手段の単位時間当たりの回転角度を補正制御するようにする。また、搬送量検出手段が、ロール状部材の場合、該ロール状部材よりなる搬送量検出手段の回転偏心を記憶する検出ロール偏心記憶手段を有するとともに、上流側搬送ローラの回転量制御手段または前記下流側搬送ローラの回転量制御手段は、検出ロール偏心記憶手段の情報を用いて、上流側搬送ローラの回転駆動手段または下流側搬送ローラの回転駆動手段の単位時間当たりの回転角度を補正制御するようにすることで、搬送ローラ(上流側搬送ローラと下流側搬送ローラ)によるシート搬送量誤差としての最大要因の一つである搬送ローラや原反ロールさらに、搬送量検出用に設けた検出ロールの偏心の影響を防止することが可能となり、搬送量を高精度に制御することが可能となる。これによって、シート張架区間の高精度な低張力制御が可能となる。
さらに、本発明の構成では、シート走行位置を制御するために、シート走行領域のいずれかの位置でシートの幅方向の走行位置を検出するシート走行位置検出手段と、シートを巻出駆動し供給する原反ロールの回転軸方向の位置を変更可能な原反ロール位置可変手段を設け、シート走行位置検出手段の検出結果によって、原反ロール位置可変手段を制御することで、搬送シート位置が幅方向への変動を抑制し、搬送中のシートが既定の範囲を超えて、幅方向に蛇行することを防止することができる。
また、本発明の基本的構成として、シート張架区間のシート張力を制御するために、シート張架区間の上流側もしくは下流側の少なくとも一方に、シート張力を零もしくは、シート張架区間よりも十分小さい張力に制御する無張力制御区間を配置することで、シート張架区間のシート張力への上流側もしくは下流側の張力値の影響を抑制することができる。さらに、シート張架区間および無張力制御区間の上流側に、シートの幅方向の走行位置を制御する走行位置制御区間を設けることで、シートの幅方向の走行位置の安定化も容易に実現可能となる。
上記説明した理由により、本発明の構成を適用すれば、数10μm以下の厚さの薄いプラスチックシートなどの低剛性シートにおいてもしわ無くシートハンドリング可能な低張力シートハンドリング方法を提供することができるとともに、既方式を応用することで、低張力シートハンドリング装置並びにシート巻取装置を提供することが可能である。
以下、本発明の原理および実施形態を図1から図9を用いて説明する。なお、以下の説明では、シート搬送速度、即ち、単位時間当たりのシート搬送量を、簡略化して「シート搬送量」と表現している。また、同様に、「単位時間当たりの搬送量(送入量、送出量)」や「単位時間当たりの回転角(回転角度)」、「単位時間当たりの回転量」なども簡略化して、「搬送量(送入量、送出量)」や「回転角(回転角度)」、「回転量」などと表現している。
図1は、本発明を実現するためのシートハンドリング装置の基本的構成要素を説明するための一実施例を示す図である。はじめに、本発明のシートハンドリング装置の基本的構成とシート状部材張力の高精度制御を可能とする基本原理を説明する。図1の装置では、中央付近のシート張架区間が高精度微小張力制御区間1である。高精度張力制御区間1は、該区間にシートを送り入れるシート送入手段8と該区間からシートを送り出すシート送出手段12の2つのシート搬送手段によってシートが張架された区間である。該区間上流端のシート送入手段8および該区間下流端のシート送出手段12は、該区間へのシートの送入搬送量と送出搬送量を高精度に制御可能な搬送手段である。
まず初めに、図1の該シート送入手段8および該シート送出手段12で、高精度なシート搬送量を実現する構成の一実施例について説明する。説明のために、図1の装置では、シート送入手段8および送出手段12で異なる構成とした。
一つ目の高精度なシート搬送方式の実施例として、シート送出手段側の構成について説明する。図1のシート送出手段12は、金属などの剛体からなる搬送ロール12に、表面に弾性層を設けた押圧ロール11を押しつけた構成である。搬送ロール12と押圧ロール11で、シートを挟み剛体ロール12の回転量によってシートの送出搬送量を制御する。搬送ロール側が剛体であることから、シートを挟んでいる領域でもロール直径が変化しないために、剛体ロール12の回転量を制御することで、比較的正確にシート搬送量を制御することができる構成となっている。押圧ロール11表面層を弾性層としているのは、シートを安定かつ確実に、保持搬送するためである。
このような構成の場合においても、搬送ロール12の持つ偏心等によって、シート搬送量に誤差が生じる懸念がある。搬送ロールの偏心の影響を補正する構成として、図1のシート送出手段では、搬送ロールの偏心を検出する偏心検出手段14と偏心を記憶する偏心記憶手段15を設けている。搬送ロール12偏心の検出は、光学式非接触距離センサ14等を用いることで、比較的容易に実現可能である。事前にまたは、リアルタイムで、搬送ロールの偏心を偏心検出手段14で検出し、偏心記憶手段15に一時記憶する。そして、検出した偏心パターンから、偏心による搬送量の変動をキャンセルするような搬送ロールの駆動パターンをモータ駆動パターン制御手段13で生成し、送出側搬送ロール駆動モータ47を制御する。送出側搬送ロールの駆動モータ47には、エンコーダを設けており、生成されたモータ駆動パターンに従って、モータの回転量を高精度に制御する。これによって、搬送ロール偏心も補正した高精度なシート送出量制御を実現することが可能である。
もう一つの高精度なシート搬送方式の実施例として、図1のシート送入手段側の構成について説明する。シート送入手段8は、表面に弾性層を設けた搬送ロール8に、金属などの剛体からなる押圧ロール7を押しつけた構成としている。この方式では、シートを挟んでいる位置で、搬送ロールが変形するために、搬送ロール8の回転角のみでは、シート搬送量を高精度に制御しきれない。そこで、搬送ロール8に対向する押圧ロール7を剛体ロールとし、該押圧ロール7の回転量を検出する手段を設けた。剛体の押圧ロールは、ほとんど変形しないので、その回転量からシートの搬送量を比較的正確に検出することができる。このシート搬送量の検知結果によって、シート送入ロールの駆動モータの駆動パターンをモータ駆動パターン制御手段10により生成する。この構成では、押圧ロール7で、シート搬送量を直接検出していることから、シート搬送ロールの偏心の影響も含めたシート搬送量制御が可能である。但し、押圧ロール側の偏心の大きい場合、搬送量の検出誤差となる。押圧ロール7の偏心量が、搬送量計測に問題となるレベルの場合は、本実施例の送出側搬送ロールで開示したのと同様の方法で、押圧ロールの偏心を検出・記憶し、搬送ロール8のモータ駆動パターン制御手段10によるモータの駆動パターンに補正反映することで、さらなる高精度化が実現できる。図1の実施例では、シート送入手段の押圧ロール7の偏心検出制御手段については、設けていない。
後述する巻取装置(図6)においては、原反ロール51自体を駆動する。この場合は、原反ロール51が上記搬送ロール8に相当し、原反ロール51の駆動直径は確定できないので、上記した弾性体の搬送ロール8を用いる構成と同様に、表面に剛体の押圧ロール7を押しつけて、搬送量を検出する方法が有効である。本発明を適用した巻取装置の詳細については、後述する。次に、上記した高精度シート搬送手段で張架されたシート区間1の張力を、高精度に制御する方法について説明する。図1に示すように、高精度微小張力制御区間の上下流端に配置されシート送入出手段8,12における各モータ駆動パターン制御手段10,13は、高精度送り量制御手段16からの指令によって、該区間へのシート送入量と該区間からのシート送出量を制御するように構成されている。該高精度送り量制御手段16は、シート送出量よりシート送入量が規定の速度比だけ、少なくなるように各モータ駆動パターン制御手段に搬送量を指令する。この搬送速度比を適正に制御することで、高精度微小張力制御区間1の張力を、高精度に制御することを可能とするものである。
図2および図3a〜dは、実際にシート送出量とシート送入量に差(速度比)を設けた場合の張架区間の張力変化を説明する模式図である。図2のようなシート送入ロールとシート送出ロールで張架されたシート区間1で、初期的に図中の一点鎖線36のように弛んでいるシートがどのように変化するかを図3a〜dで説明する。
図3aは、送入および送出ロールによるシート搬送速度を示す。シート送出速度を基準に、シート送入速度が、+0.5%,-0.5%,-1.0%の3種について示した。図3bは、それぞれのシート送入速度において、シート張架区間に存在するシートの無張力時の長さを示している。シート送入ロールとシート送出ロール間の距離1は、変わらないので実際のシートは伸ばされる。図3bで、シート張架区間に存在するシートの無張力時の長さが時間経過とともに、一定長さに収束しているが、これは張架区間のシート34が伸びることによって、送出ロール12によって、送出されるシート量が減少することに起因し、送入ロールにより張架区間1に搬送されるシート長とつりあった時点で、シート張架区間1に存在するシートの無張力時の長さが安定する。図3cは、張架区間のシート伸びを示しており、こちらも一定伸びで安定する。図3dは、シート伸びとシートの弾性率から予測されるシート張力を示しており、一定の張力に安定する。図3では、説明の上、模式的に示したが、いくつかの種類のシートで行った実験および解析的においても、この張力が一定に収束する現象を確認できた。
このように、張架区間1のシート送入量とシート送出量に差(速度比)を設けた状態で、一定以上の長さシート搬送を行うことで、張架区間の張力を既定の張力値に安定化することができる。本発明の手法を用いることで、従来よりも張力を高精度に制御することができる。
前記公知例等で開示したように、従来の張力制御方法としては、ダンサーロール等の接触部材を用いての張力制御や検知する手法が適用されている。これらの接触部材を用いる方法では、張力を検知したり制御するためのシートへの接触部材の摩擦負荷などのために、対象区間のシート張力が影響を受けてしまう。特に、シートの加減速動作時においては、接触部材の慣性力も影響することから、さらなる張力変動要因となってしまう。また、シートの張力を制御するために、モータのトルクを制御する方式なども開示されているが、モータトルクは、直接シート張力に反映されるわけではない。モータの軸受け部などを含む各所に発生する摩擦などが、モータトルクとシート張力間における相関関係を乱す外乱となるために、シート張力を高精度に制御することは難しい。
これらの従来方式に比較して、本方式は張力制御区間における張力の外乱となりうる接触部材を配置する必要が無い。また、シートの搬送速度比をもって該当区間の張力制御することから、各部の摩擦などの変動を受けることが無い。これらの理由により、該当区間に送入および送出されるシートの搬送速度比を制御することで、張力を規定値とする本発明の方式は、高精度高安定な張力制御区間を提供できる。さらに、本発明の方式では、シート自身の質量以外は慣性力とならないために、急激な加減速時においても、きわめて安定した張力を維持することが可能となる。
本発明の方法によって高精度張力制御区間を実現するためには、前記した該当区間へのシート送入量と送出量の高精度制御システムのほかに、該当区間前後のシートハンドリングにも工夫が必要である。
次に、本発明において、高精度張力制御区間を実現するための該当区間前後の必要条件について説明する。
前記したように、本発明の高精度張力制御区間は、該区間へのシート送入手段とシート搬出手段によって構成され、シート送入手段とシート搬出手段により、高精度なシート搬送量の制御を実現することで、該当区間の張力を制御する手法である。シート送入手段およびシート搬出手段が、図1に示したような搬送ロールの場合、シート送入ロールの上流側およびシート搬出ロールの下流側のシート張力が、シート搬送量に影響を与えてしまう。シート送入手段およびシート搬出手段で、安定なシート搬送量を実現するためには、高精度張力制御区間の上下流域のシート張力を規定値に制御することが必要である。上下流
域のシート張力は、制御対象である高精度張力制御区間と同等以上の精度が必要になる。このため、現実的な方法として、無張力もしくは、高精度張力制御区間に対して十分小さい張力に制御することが良い。
図1では、無張力もしくは極微張力制御区間2,3を形成する一実施例として、シートのたるみを設けた区間を作る方式を開示している。図の方法は、シートを張架ロール間でたるみを持たせて、たるみを検知しながらその量を制御することで、無張力区間を形成する方式である。
さらに、本発明の高精度張力制御区間とその前後に配置された無張力もしくは微張力制御区間2,3のみでは、シートの幅方向の移動、いわゆるシート蛇行が発生する可能性が高い。これを防止する方法としては、上流シートの幅方向位置を制御する幅方向走行位置制御区間4を設ける方法が有効である。図1では、シートの幅方向位置制御手段の一実施例として、ある程度張力を与えたシート区間に、傾斜させたロール、いわゆるステアリングロール32を当接させる方式を示している。張力を付加した状態で、張架ロール間の並行度がずれることで、容易にシートの横方向への移動(蛇行)を発生させることができることは知られている。幅方向への移動速度の大きさは、シートの張力,張架ロールへのシート巻き角度と張架ロールの傾斜角で決まる。これらのパラメータの詳細は、使用するシートの物性などを踏まえて決める必要があることは言うまでもない。
図1における幅方向位置制御区間の一実施例では、シートの幅方向を検知するセンサ30の信号に従って、張架ロールの一つ(ステアリングロール32)を傾斜させるように構成した。また、ロールを張架シートに押しつけることで、該当区間のシートに張力を付加する手段31を設けた。
高精度張力制御区間1や張力もしくは微張力制御区間2,3における張力は、十分の小さいので、横方向へシートを移動(蛇行)させる力は小さい。このため、上記したような上記幅方向走行位置制御区間4を上流側に配置することで、シート走行位置を容易に制御することが可能となる。この幅方向走行位置制御区間4のシート張力は、高精度張力制御区間1や張力もしくは微張力制御区間2,3に比べて十分大きくする必要があることは言うまでもない。
次に、シートの搬送量で張架シート張力を高精度に制御する本発明のシート駆動制御方式を適用する装置において、必要となる各種部材および機構について3点ほど説明する。
まず1点目として、シート張架区間のシート振動防止手段である。本発明の装置では、シート送入ロールとシート送出ロール間に張架されたシート張力を高精度に制御する。そして、前記したようにこの張力制御区間のシートに、接触する部材を設けないことで、シート搬送速度の加減速時においてもシート張架張力を高精度かつ安定に保持できる。しかし、シートの加減速時や外部振動の伝達などによって、張架区間のシートが振動することが予測される。特に張架シート部の共振振動数に相当する外力が加われば、張架区間の大きな振動が発生する。シートの振動は、張架区間の長さ変動となるため、そのままシート張力変動となってしまう。また、シートの振動は、シート張架面に何らかの処理をするプロセスなどを設ける場合の障害になってしまう。このため、このような振動の発生は、抑制または防止することが必要である。
このようなシート張架部分の振動を防止する方法としては、シートの張架パスに近接して、棒状または面上の部材を配置することが有効である。
シート張架パスに近傍に部材を配置することで、振動を開始したシートが接触して、振動が拡大することを防止し、シート張架パスが安定する。この振動防止部材19は、振動発生時に振幅が大きくなる腹部分に設置すると、より効果的であることは、いうまでもない。
次に2点目として、異常検知手段である。本発明の方式では、送入出ロールのみでシートを張架し、搬送するシート量のみで、張架区間のシート張力を制御する。このため、シート張架区間に異常が生じたことを検知する手段を設けることが必要である。異常モードとしては、張力過大,過小とシート破断である。張架区間のシートに接触せずに、張力過大を検出する方法としては、シートに発生するしわを光学式センサ20などで、検出する方法が有効である。本発明のシートハンドリング装置では、シート面にしわなどの発生しない微小張力に高精度に安定させることが目的である。シートに一方向の張力を加えると幅方向は縮もうとすることから、しわが発生する。しわが発生すれば、光の反射方向や透過方向がずれるので、透過または反射式の光学センサ20で検知することが可能となる。この方式であれば、微小なシート面変形を生じる微小張力変動も検知することができた。張力過小については、張架パス近傍に配置したガイド部材などへのシート接触を検知するセンサを設けることで対応できる。センサとしては、光学式距離センサ等が利用できる。破断についても、一般的透過もしくは反射式光学センサが利用できる。
図1に示した本発明の一実施例では、張力制御をするシート張架区間の張架ける区間パスに近接して、光学式センサ20を配置したガイドプレート18を配置している。ガイドプレート18には、数ヵ所の突起19を設けることで、シートの振動発生を抑制するように構成した。また、複数個所に反射光学式センサ20を配置し、シートのしわ,たわみ,破断を検出できるように構成している。本発明の装置には、高精度張力制御区間1には、このようなセンサ20を内蔵したガイド部材18を配置することが必要である。センサ20で検出された張力過大・過小・破断などの異常検知結果は、高精度送り量制御手段16もしくは、システムの全体制御手段17に送信し、非常停止や異常通知等を行うように装置制御することが必要である。
最後に3点目として、高精度張力制御区間に規定張力を付加するための装置立上げ方法についてである。本発明のシートハンドリング装置では、高精度張力制御区間のシート張架部に、いわゆるテンショナーなどの直接張力を付加する機構が無い。このため、初期のシートセッティング時などにおいては、高精度張力制御区間1のシートに全く張力を付与できず、シートは弛んだ状態となる。そこで、本発明のシートハンドリング装置では、高精度張力制御区間のシート張力を規定値に安定させるまでの初期張力設定モードが必要である。本発明のシートハンドリング装置では、シートを搬送することで高精度張力制御区間のシート張力を制御する。そのため、シートの無駄を防ぎ、少ないシート送り量で、高精度張力制御区間1のシート張力を規定張力に到達させる必要がある。
図1に示した本発明の一実施例の装置では、高精度張力制御区間1に、シートの振動防止と異常検知のために、光センサを内蔵したガイドプレート18を配置している。初期のシートセッティング時などの張力が付与されていないシートは、該ガイドプレート18に配置した光センサ20で検知可能である。
本発明の装置では、初期張力設定モードとして、まず、高精度張力制御区間の下流側搬送ロールつまり送出ロール12のみを低速駆動し、センサの張力過小検知外までシートを送る。その後、規定の張力を付与するのに必要な搬送長だけ、高精度張力制御区間1の上下流の搬送ロールつまり送入ロール8と送出ロール12を規定の搬送速度比を持って駆動する。上記プロセス完了後、規定張力セッティング完了信号を発生する。
前記は、シートがたるんだ状態つまり張力過小状態からの動作である。本発明の実施例におけるガイドプレートのセンサは、しわによって張力過大も検知できる。張力過大の場合においても、高精度張力制御区間の上流側搬送ロールつまり送入ロール8のみを低速駆動し、張力を規定張力近くに調整してから、上下流の搬送ロール8,12を規定の搬送速度比を持って駆動することで、同様の規定張力セッティングを実施できる。
本実施例では、搬送ロールの駆動方向を一方向としているが、ロールの逆転が許される構成の場合は、送入ロール8の逆転での弛み除去,送出ロール12の逆転による過大張力解除が可能であることは言うまでもない。
本発明のガイドプレートは、高精度張力制御区間1のシートのしわやたわみが検知できるので、このような制御を実施することで、少ないシート搬送量でシート張力制御区間内のシート張力を適正値にすることが可能となる。
図1の本発明の実施例に記載したガイドプレート18は、高精度張力制御区間1におけるシートの振動防止,異常検知,初期張力セッティング動作上重要な部材である。さらにガイドプレート18は、破断シートの装置内への落下防止や初期シートセッティング作業を容易にするシート仮置台としての機能も有するものである。
最後に、上記規定の張力を付与するのに必要な搬送長の考え方について、簡単に説明する。図4は、無張力のシートが、搬送速度比駆動によってシート張力安定化するまでの挙動を模式的に示したものである。高精度張力制御区間のシート張架長さが長いほど、規定のシート張力に到達するまでの搬送時間または搬送長が長くなる。図中の1Sは、1Mに対してシート張架長さが半分の場合を示し、1Lは、1Mに対してシート張架長さが2倍の場合を示す。
図5は、送入ロールおよび送出ロールの搬送量に偏心振動がある場合の搬送速度比駆動によってシート張力安定化するまでの挙動を模式的に示したものである。搬送ロールの偏心による張力変動は、シート張架長さが長いほど、その影響が少なくなる。図中では、送出ロールの速度変動を41、送入速度の速度変動を42とした時、シート張架部におけるシート張力にどのように影響するかを示す。最もシート張架長さが短い1Sの張力変動が最も大きく、最もシート張架長さが長い1Mの張力変動が最も小さくなる。
本発明の装置では、必要とされる張力精度を考慮して、搬送ロールの駆動精度やシート張架長さを決める必要がある。その上で、高精度張力制御区間の規定張力付与までのシート搬送長および搬送時間を決定する必要がある。
次に、図1から図5を用いて説明した本発明の高精度シート張力制御方式を用いたシートハンドリング装置技術を、シート巻取装置に応用展開した一実施例について説明する。
図6は、本発明の高精度シート張力制御方式を適用したシート巻取装置の一実施例を説明するための図である。本実施例では、シート厚さ数10μmで幅数10cm程度の薄いプラスチックフィルムの原反51から、小巻ロール53にシートを巻取る装置に応用した例を用いて説明する。図の装置では、原反ロール51軸と巻取りドラム軸52に、2つの回転駆動手段46,47が配置されている。原反ロール51側は、シート送出し位置に押圧ロール7を配置している。また、巻取ドラム側のシート巻取位置にも押圧ロール48を配置している。原反ロールと巻取ドラム間にシート張架領域1が形成される。
このシート張架領域が、高精度張力制御区間1に相当し、張力を適正値に制御することでシートにしわの無い均一面を形成する。均一平面を形成されたシートは、巻取ドラム52上の押圧ロール11下流側で、巻取ドラム52上に張付き、その後、小巻ロール53に巻取られる。
本実施例の巻取装置で、シート34をしわ無く小巻ロール53に巻取るためには、原反ロール51と巻取ドラム52間に形成したシート張架領域1で、しわの無い均一面を形成することが最重要である。そのためには、このシート張架領域1におけるシート張力を、高精度に制御することが必要である。
次に、しわの無い均一な面を形成するためのシート張力について簡単に説明する。図7は、一般的なプラスチックシートの引張試験時の応力-歪線図の例を示している。シートに付加する張力を増加するとシートは伸びる。ある程度以上の張力以上をかけるとシートは、クリープなどが発生して、シートが塑性変形してしまう。シートの塑性変形が、顕著な領域の張力をシートに付与するとシート面にしわが発生する。実際に、しわの無い均一面を形成可能な張力は、歪量が1%以下の極めて変形の少ない領域55であった。シート材質や厚さにもよるが、シート種によっては0.1%〜0.2%以下の歪量となる張力に制御しなければ、しわの発生を防止できないものもあった。
本実施例の装置で扱うシートとして、想定している数10μm厚程度の極薄プラスチックフィルムの場合、シート材質で異なるものの一般的には、シートのしわを予防してシート平面を作るために必要な応力は約1MPa程度またはそれ以下となり、厚10μm幅30cmを仮定すると、約300gf以下(約3N以下)に張力値を安定制御することが必要となる。より薄いシートやより弾性率の小さいシートでは、数10gf程度の張力に調整が必要な場合もありえる。
従来シートハンドリングで用いられるシート張架ける面にテンショナー等を当接させる方式や駆動トルクで張力を制御する方式では、このレベルの張力を安定に保持制御して、シート搬送を行うことは、現実的には不可能である。
図6の本発明の一実施例の巻取装置では、原反ロール側に設置された押圧ロール7は剛体ロールであり、その回転角度を検出するエンコーダ45が取付けられている。該エンコーダ45で剛体ロール7の回転角を検出することで、原反からのシートの搬出量を検出することができる。原反からの搬出長さが規定値となるように、原反ロール軸に取付けられた回転駆動手段を制御する。フィルムシートの巻きものである原反はその直径が、不確定であるので、本実施例では、シート送出位置に設けられた押圧ロールでシートの搬出量検出することで、搬出シート長の精度を確保した。
また、本実施例の原反ロール51上に配置された搬出量検知用の押圧ロール7の押圧力48は、原反ロールの高加減速時や高速駆動時には大きく、低速運転時・等速運転時・停止時などは、小さくするように制御した。これによって、加速時などに押圧ロールに滑りが生じて、搬送長の測定に誤差が生じることを防止できるとともに、停止時などに必要以上の押圧力を付加することで、原反ロール51などが変形することを防止できる。
本実施例以外の別の原反ロール51の駆動方法として、押圧ロール7で直接原反ロールを駆動する方式も考えられる。この方法は、本実施例の方式より構成は簡単になるが、押圧ロール7で、高い駆動力を原反ロール51に与える必要があることから、押圧力48を大きくすることが必要になるとともに、押圧ロール7表面に摩擦力を確保するための弾性層を形成することなどが必要となる。押圧ロール7表面に弾性層を形成した場合、原反ロール51からのシートの搬出量の検出精度は低下することになる。また、押圧ロール表面に弾性層を形成しない場合は、駆動力を原反ロール51に伝達するのが難しくなるために、急加速や急減速などのシートハンドリングが難しくなる。
これらのことを考慮して、本実施例の構成では、押圧ロールを剛体ロールとしてシートの搬出量を検出し、原反軸そのものを駆動する構成とした。
一方、巻取ドラム52側は、巻取りドラム自身を金属などの剛体ドラムにすることができることから、本実施例では押圧ロール48の表面を弾性体として、シートと巻取りドラム表面の密着性を確保した。巻取りドラム52側の押圧ロール48は、シートに与える影響が少ないことから、本発明の実施例では、前記原反ロール51側の押圧ロール7のような押圧力制御は適用していない。
巻取りドラムによるシートの巻取長さ制御は、巻取りドラム自身の回転角度を駆動モータ47のエンコーダで検知し、巻取りドラム52の回転角度を制御する方式とした。これは、巻取りドラム52は剛体構成とできているために、巻取り量を比較的良く制御できるためである。もちろん、さらに高精度に巻取り量を制御する必要がある場合は、図1で開示した様に、巻取りドラム52の偏心を検出するセンサを設けて、偏心の影響を補正してもよい。そのほかに、直接巻取り量を高精度に検出可能なセンサを設けて、巻取りドラムの回転量を制御する方法もあり得る。
次に、搬出および巻取り長さを検知している原反ロール側の押圧ロール7と巻取りロール52の径について説明する。前記したように、これらのロールの偏心はシートの搬出および巻取り長さに影響を与える。偏心が、シート張架領域の張力に影響を与える場合は、これを検出制御してシートの搬送量を制御する必要がある。しかし、シート張力の目標値に対して、偏心の影響を小さくすることができれば、偏心の検出制御機構を用いる必要が無く、装置構成を簡略化できる。偏心のシート張力に与える影響は、偏心量以外にロール直径や張架長さによって変化する。
前記しているように、原反ロール51や巻取りロール52の偏心は、シート送入量や送出量などの搬送量に、影響を与える。図6の装置の原反側のように、押圧ロール7の回転角を検出することで、シート搬出量を求めて原反ロール51の回転速度にフィードバックする方法では、シート搬出量を検出する押圧ロール7の偏心も影響を与えることは容易に想像できるとおりである。
偏心による搬送量や検出量の変動は、搬送ロールや検出ロールの1回転の周期で発生することは言うまでもない。つまり、搬送ロールや検出ロールが1回転した時の搬送量や検出量には、誤差は生じない。半周ごとに規定値より多い搬送量と少ない搬送量が繰り返される。このため、シート張架部の長さが長いほどその影響は小さくなる。
搬送ロールの偏心量が0.5%とすると、半周ごとに約±0.5%搬送量変動が発生する。搬送ロールの外周長をLとすると、搬送量L/2ごとに搬送量が変動する。シート張架長を1mとして、搬送ロール直径約31.8mm,外周径を100mmとすると、搬送量変動は50mmごとつまり、シート張架長さの5%分で起こることになる。この場合の搬送ロール偏心量0.5%の張架長さに及ぼす影響は、0.025%となる。
搬送ロール直径31.8mmにおける0.5%の偏心は、約160μmに相当し、現状の加工技術で十分に対応可能なレベルである。このレベル搬送ロール偏心量の場合、搬送ローラの外周径をシート張力制御区間長の数分の1以下とすることで、張架長さに及ぼす影響は、0.1%以下程度になる。しわの無いシート面を形成するための張力によるシート伸び量の目標値を0.数%程度とした場合、他に変動要因がほとんどない場合は、搬送ロールの偏心補正を行わなくとも目標張力制御が可能となる。
搬送ロール径,シート張架長さ等は、装置構成上の制約もあるので、搬送ロール偏心量,搬送ロール径,シート張架長さと目標とするシート張力を与えるシート伸び量を考慮して、搬送ロールの偏心制御をおこなうか否かを決定することが必要である。
また、検出ロールについては、その偏心が検出精度に影響を与えないような偏心レベルと直径を選定することが必要である。検出ロールの偏心の影響は、前記搬送ロールの偏心の影響をほぼ同様であるので、説明を割愛する。
次に、搬送ロールの偏心や搬送量を検出する検出ロールの位置についての他の実施例を説明する。図1および図6における送入ロール8および原反ロール51は、押圧ロール7の回転によって、偏心および搬送量を検出して制御するように構成している。しかし、図1および図6における送出ロール12および巻取りドラム52では、押圧ロール11の表層が弾性層のロールであるために、押圧ロール11による偏心および搬送量の検出には、測定誤差が発生する。図1では、送出ロール表面の位置を検出するセンサ14を設けて、その位置変動から送出ロール12の偏心を検出する手段を開示したが、他の方法として、押圧ロールを検出ロールとして用いるのではなく、搬送ロールの他の位置に検出ロールを設けることでも、搬送ロールの偏心および搬送量を検出することも可能である。但し、搬送ロールのシート送り位置と検出ロールの設置位置の角度分だけ、搬送速度に位相差が生じることは明らかであるので、これを補正することが必要である。また、検出ロールの直径については、前記したように、検出ロールの偏心レベル,シート張架長さおよび目標張力レベルなどから決定することも重要である。
次に、ガイドプレートについてである。図6の実施例の装置も、図1と同様にシート張架部に、光センサ20を内蔵したガイドプレート18を配置している。但し、図6の実施例の装置は、ガイドプレート18が送出側に設けた回転可動部49を中心に、回転するように構成している。これは、図6の装置では、シートを原反から巻き取るに従って原反直径が縮小するために、シートパスが変化するためである。図6に示した実施例の装置では、原反ロール表面の押圧ロール7の位置を検知し、それに連動して、ガイドプレート18を傾斜させるように構成した。これによって、巻取りに伴う原反直径縮小によるシートパスが変化しても、ガイドプレート18をシートパスに近接保持することができ、張架シートの振動防止や異常検出などのガイドプレート機能を確保できるものである。
また、シートを原反から巻取って原反直径が縮小すると、シート張架長も変化する。シート張架長が変化は、シート張力に影響を与える。しかし、本発明の方法では、シート張架長に関わらず、基本的にシート搬送速度比のみでシート張力が制御できる。このため、急激にシート張架長が変化しなければ、張力はほぼ規定の張力に安定する。原反のシート巻取りによる原反直径が縮小によるシート張架長変化は、それほど急激ではないので、現実的には、シート張架領域の張力には、ほとんど影響を及ぼさない。
次に、図6の実施例の巻取装置における高精度張力制御区間1以外の領域について、図1の実施例との比較を説明する。図6の実施例の巻取装置では、しわの無いシート面を形成する高精度張力制御区間の上流側の区間は、原反表面であり、この部分ではシート張力はほとんど付加されていないので、図1のシートの領域の無張力もしくは極微張力制御区間2と同等である。また、高精度張力制御区間の下流側の区間では、シートは巻取りドラム表面に巻きついた状態で特に張力が付与されていないので、この領域も、図1の下流側の無張力もしくは極微張力制御区間3と同等である。さらに、下流プロセス6として小巻ロール53への巻取りがある。小巻ロール53は、巻取ドラム52に押圧され従動することで、シートを巻取る構成であり、特にシートに張力を付与するものではない。
図1の実施例では、上流側の無張力もしくは極微張力制御区間2のさらに上流側には、幅方向走行位置制御手段4が設けられている。図6の実施例の巻取装置でも、小巻ドラム53の規定位置にシートを巻取ることが必要であるので、シート走行位置を適正位置に制御することが必要となる。図6の実施例の巻取装置では、原反の位置を幅方向に移動可能に構成した。これによって、原反から巻出される位置を調整可能となり、小巻ロールの規定位置へのシート巻き取りを実現している。
次に、シート搬送速度の加減速動作について説明する。本発明におけるシート張力制御のもう一つの大きな特徴として、急激な加減速時においても、シート張架区間のシート張力が変化しない点がある。前記した従来の各種方式では、加減速動作中に各種部材に発生する慣性力などがシート張架領域に影響を与えるために、張力変動を発生してしまう。しかし、本発明の方式では、シート張架領域にローラなどの接触部材を接触させないとともに、搬送手段も搬送量の制御であり、正確な搬送量制御さえできれば、慣性力として作用するのは、シート自身の重さのみとなる。このことから、本発明のシート駆動制御方式を適用すれば、急激な加減速中においても、シート張架区間のシート張力を安定に保持できる。
つまり、本発明の方式では、搬送ロールによるシート搬送量を高精度に制御することが極めて重要となる。特に、急減速時は慣性力に逆らって、搬送量を減少させる必要がある。このため、搬送ロール駆動用のサーボモータなどが大型化する傾向にある。これを解決する方法として、搬送ロールに搬送量制御用のサーボモータなどの駆動モータとともに、ブレーキ手段を取り付ける方法が有効である。減速動作に合わせてブレーキ力をコントロールすることで、搬送量制御用の駆動モータへの慣性力の影響を軽減することが可能となる。ブレーキ手段としては、摩耗やブレーキ力の制御性を考慮すると非接触で、負荷を制御できる方式が望ましい。たとえば、比較的構造の簡単なトルクモータの電圧と電流を制御することで、トルク負荷と回転数を制御したブレーキとしても利用できる。さらには、モータをブレーキとして用いることで、回生ブレーキ化が可能であり、加減速時のエネルギーの有効利用にも効果がある。もちろん、搬送ロールに搬送量制御用の駆動モータも回生ブレーキとして使うことも有効である。
最後に、本発明のシート駆動制御方式を利用したシート巻取装置の他の実施例を簡単に説明する。図8は、シート巻取装置の他の実施例を示す図である。図8の実施例の装置は、図6の実施例の装置のシート張架区間に、2本の中間ローラ57,58を配置したものである。これに伴って、原反51の回転方向が逆となっている。このような中間ローラ57,58の配置は、本発明における張力制御区間におけるシート張力制御性には、マイナスの影響を与えるのは、前記したとおりである。しかし、このような中間ローラを配置することで、いくつかのメリットも生じるので、巻取装置の一実施例構成として、図8の構成も示した。
まず、中間ローラを配置することで、図6よりも図8の装置のほうが、シート張架区間1の長さが長くなっている。図6の構成で、図8のシート張架長を実現すると、原反ロールと巻取りドラム間に距離が必要であり、装置サイズが大きくなってしまう。また、前記したように、シート張架長が長いほど、搬送ロールの偏心の影響を受けにくくなる。
しかし、シート張架長が長いほど、シート面が振動しやすくなるという課題もある。特に、シート張架張力が小さい場合は、より大きな振幅の振動が生じやすい。もちろん、前記したガイドプレート18などを近接させることでも防止できるが、中間ロール57,58の配置はさらに効果がある。
また、中間ロール57の配置によって、原反の直径減少に伴うシートパスの変化を少なくすることができる。図8の実施例の装置では、図中央部の傾斜シートパス領域に、ガイドプレート18を設けているが、このガイドプレートは、図6の実施例のように、稼働させる必要はない。
但し、中間ロール等の配置は、シート張力精度に影響を与えるのは、これまで説明してきたとおりである。特に、経時的変化や急激な加減速の場合は、その影響は大きくなる。
少しでも、その影響を少なくするためには、張架領域のシートへの張力負荷を少なくすることが必要である。テフロン(登録商標)やシリコーンなどの低摩擦抵抗の表面材料を用いることや少しでも軽くして慣性力を小さくすることが必要である。また、巻きつけ角の大きな中間ロールは避けるべきである。特に、巻きつけ角が60度を超えると張力と同じ力のロール押圧が発生する。どうしても、高精度シート張力制御を必要とする区間に中間ロールを配置する必要がある場合、本発明の張力高精度制御の効果を確保するために、中間ロールへのシート巻きつけ角を、少なくとも60度以下にすることが望ましい。
以上説明したように、本発明によれば、シート張力制御区間に張架されているシートの伸び量を正確に制御することで、シート張力値に高精度にすることができる。それによって、薄いプラスチックシートなど低剛性シートにおいても、しわの発生しないシートハンドリングが実現でき、高速・高精度シート巻取装置などの各種装置を提供することができる。