[実施形態]
以下、本開示の一実施形態について説明する。以下の実施形態においては、ウエブ搬送装置の一例として、ロール状のウエブを一端側から送り出し(巻き出し)ながら、他端側で巻き取るように構成されたウエブ搬送装置について説明する。
図1において、ウエブ搬送装置2は、送出領域3Aと、中間領域3Bと、巻取領域3Cとの3つの領域に分けられた搬送路3を有する。また、ウエブ搬送装置2には、ウエブ搬送装置2の各部を制御するためのメインコントローラ4と、ウエブの搬送条件を探索するための搬送条件探索装置5とが設けられている。
送出領域3Aには、送出装置10と、複数の従動ローラ11A~11Cとが設けられている。送出装置10は、巻芯12、モータ13、および速度制御部14により構成されている。巻芯12は、図示しない支持台により回転自在に支持されている。巻芯12には、ウエブWがロール状に巻き上げられた送出ロールRLが取り付けられている。
モータ13は、巻芯12を回転駆動する。速度制御部14は、モータ13の回転を制御することにより、巻芯12を矢印Aの方向に回転させる。具体的には、速度制御部14は、メインコントローラ4から送信される速度の指示値にしたがって、巻芯12を回転させる。巻芯12が回転することによって、送出ロールRLからウエブWが送り出される。
従動ローラ11A~11Cは、搬送路3上に回転自在に設けられている。従動ローラ11A~11Cは、ウエブWを支持しながら、ウエブWの搬送に従動して回転する。
ウエブWは、可撓性の連続した帯状の膜厚が薄い部材(可撓性帯状部材)である。ウエブWには、樹脂フィルム、紙、金属薄膜、薄鋼板、レジンコーテッド紙、磁気テープ、または合成紙等が含まれる。樹脂フィルムの材質として、例えば、ポリオレフィン、ビニル重合体、ポリアミド、ポリエステル、およびセルロースアセテート等が挙げられる。ポリオレフィンには、ポリエチレン、およびポリプロピレン等が含まれる。ビニル重合体には、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、およびポリスチレン等が含まれる。ポリアミドには、6,6-ナイロン、および6-ナイロン等が含まれる。ポリエステルには、ポリエチレンテレフタレート、およびポリエチレン-2,6-ナフタレート等が含まれる。セルロースアセテートには、ポリカーボネート、セルローストリアセテート、およびセルロースダイアセテート等が含まれる。
従動ローラ11A~11Cのうち、例えば、従動ローラ11Aには張力検出部としての張力センサ15が接続されている。すなわち、送出領域3Aでは、従動ローラ11Aが張力測定ローラとして機能する。張力測定ローラとしての従動ローラ11Aには、ウエブWに張力に応じた加重が加わる。張力センサ15は、従動ローラ11Aに加わる荷重を検出することによって、送出領域3AにおけるウエブWの張力(以下、送出張力という。)T1を検出する。張力センサ15が検出した張力の検出値は、送出張力検出値T1としてメインコントローラ4に入力される。
送出張力は、巻芯12に接続されたパウダブレーキ(図示せず)のブレーキトルクによって制御される。メインコントローラ4は、一定の送出張力を保つために、送出張力検出値T1を監視しながら、送出ロールRLの巻径の減少に伴ってブレーキトルクを小さくする。
従動ローラ11A~11Cのうち、例えば、従動ローラ11Bには速度センサ16が接続されている。速度センサ16は、ロータリエンコーダ等で構成されている。速度センサ16が検出した従動ローラ11Bの回転速度の検出値は、送出従動ローラ速度検出値V1としてメインコントローラ4に入力される。
従動ローラ11Aと従動ローラ11Bとの間には、変位センサ17が設けられている。変位センサ17は、従動ローラ11Aと従動ローラ11Bとの間の搬送路3上を移動するウエブWの表面の変位量を検出する。変位センサ17は、例えば、レーザ式変位センサである。レーザ式変位センサには、反射型と透過型とがある。反射型レーザ式変位センサには、反射散乱方式、位相差検出方式、およびTOF(Time of Flight)方式等がある。
本実施形態では、変位センサ17として、例えば、反射散乱方式の反射型レーザ式変位センサを用いる。変位センサ17は、ウエブWが搬送されている間に、ウエブWの表面に生じるスジ状変形による変位量D1を検出してメインコントローラ4に入力する。
送出領域3Aと中間領域3Bとの間の搬送路3上には、ウエブWの張力をカットするための張力カットローラとしての駆動ローラ20が設けられている。駆動ローラ20は、送出領域3Aの従動ローラ11Cから搬送されたウエブWを抱いて中間領域3Bへ搬送する。駆動ローラ20は、送出領域3Aと中間領域3Bとの間でウエブWの張力を変化させる。なお、駆動ローラ20は、特許請求の範囲に記載の第2駆動ローラに対応する。
駆動ローラ20にはモータ21が接続されている。モータ21には速度制御部22が接続されている。モータ21は、駆動ローラ20を回転駆動する。速度制御部22は、モータ21の回転を制御することにより、駆動ローラ20を矢印Bの方向に回転させる。
駆動ローラ20には速度センサ23が接続されている。速度センサ23は、速度センサ23と同様に、ロータリエンコーダ等で構成されている。速度センサ23が検出した駆動ローラ20の回転速度の検出値は、駆動ローラ速度検出値Vdとしてメインコントローラ4に入力される。
中間領域3Bには、ダンサーローラ24と、ダンサー制御部25と、複数の従動ローラ26A~26Fとが設けられている。ダンサーローラ24は、駆動ローラ20の下流側の搬送路3上に回転自在に設けられている。
従動ローラ26A~26Fは、ダンサーローラ24の下流側の搬送路3上に回転自在に設けられている。従動ローラ26A~26Fは、ウエブWを支持しながら、ウエブWの移動に伴って回転する。
ダンサーローラ24には軸受部材24Aの一端が接続されている。軸受部材24Aの他端は位置検出部24Bに接続されている。ダンサーローラ24は、軸受部材24Aを回転半径として揺動自在に設けられている。ダンサーローラ24は、上流側および下流側のウエブWの搬送速度の変化によって揺動する。例えば、上流側の搬送速度が下流側の搬送速度よりも速くなると、ダンサーローラ24は下方に変位する。逆に、上流側の搬送速度が下流側の搬送速度よりも遅くなると、ダンサーローラ24は上方に変位する。このように、ダンサーローラ24は、上流側および下流側におけるウエブWの搬送速度の変化により生じるウエブWの張力の変動を抑制する。なお、ダンサーローラ24は、揺動するものに限られず、直線状に移動するものであってもよい。
位置検出部24Bは、ポテンショメータまたはロータリエンコーダ等で構成され、ダンサーローラ24の位置を検出する。位置検出部24Bによるダンサーローラ24の位置の検出値はダンサー制御部25に入力される。ダンサー制御部25は、位置検出部24Bから入力された検出値に基づいて速度制御部22に指示を与えることにより、駆動ローラ20の回転速度を制御する。例えば、ダンサー制御部25は、ダンサーローラ24の位置が下方に変位した場合には、駆動ローラ20の回転速度を下げる。逆に、ダンサー制御部25は、ダンサーローラ24の位置が上方に変位した場合には、駆動ローラ20の回転速度を上げる。このように、駆動ローラ20は、ダンサーローラ24の位置に応じて回転速度が制御される。
従動ローラ26A~26Fのうち、例えば、従動ローラ26Aには張力検出部としての張力センサ27が接続されている。すなわち、中間領域3Bでは、従動ローラ26Aが張力測定ローラとして機能する。張力測定ローラとしての従動ローラ26Aには、ウエブWに張力に応じた加重が加わる。張力センサ27は、前述の張力センサ15と同様に、従動ローラ26Aに加わる荷重を検出することによって、中間領域3BにおけるウエブWの張力(以下、中間張力という。)T2を検出する。張力センサ27が検出した張力の検出値は、中間張力検出値T2としてメインコントローラ4に入力される。
従動ローラ26A~26Fのうち、例えば、従動ローラ26Bには速度センサ28が接続されている。速度センサ28は、速度センサ16と同様の構成である。速度センサ28が検出した従動ローラ26Bの回転速度の検出値は、中間従動ローラ速度検出値V2としてメインコントローラ4に入力される。
従動ローラ26Aと従動ローラ26Bとの間には、変位センサ29が設けられている。変位センサ29は、従動ローラ26Aと従動ローラ26Bとの間の搬送路3上を移動するウエブWの表面の変位量を検出する。変位センサ29は、変位センサ17と同様の構成である。変位センサ29は、ウエブWが搬送されている間に、ウエブWの表面に生じるスジ状変形による変位量D2を検出してメインコントローラ4に入力する。
本実施形態では、例えば、中間領域3Bの従動ローラ26Dと従動ローラ26Eとの間における搬送路3に、ウエブWに対して処理を行う処理装置30が設けられる。処理装置30は、成膜装置、印刷装置、塗布装置、またはカレンダ装置等である。印刷装置は、例えばインクジェット方式である。塗布装置は、例えば、ギーサー方式である。
中間領域3Bと巻取領域3Cとの間の搬送路3上には、ウエブWの張力をカットするための張力カットローラとしての駆動ローラ40が設けられている。駆動ローラ40は、中間領域3Bの従動ローラ26Fから搬送されたウエブWを抱いて巻取領域3Cへ搬送する。駆動ローラ40は、中間領域3Bと巻取領域3Cとの間でウエブWの張力を変化させる。なお、駆動ローラ40は、特許請求の範囲に記載の第1駆動ローラに対応し、かつウエブを一定の搬送速度で搬送する搬送駆動部を構成するものである。
駆動ローラ40にはモータ41が接続されている。モータ41には速度制御部42が接続されている。モータ41は、駆動ローラ40を回転駆動する。速度制御部42は、モータ41の回転を制御することにより、駆動ローラ40を一定の回転速度(基準速度)Vbで矢印Cの方向に回転させる。基本的に、基準速度がウエブWの搬送速度と等しい。
巻取領域3Cには、巻取装置50と、複数の従動ローラ51A~51Cとが設けられている。巻取装置50は、巻芯52、モータ53、および速度制御部54により構成されている。巻芯52は、図示しない支持台により回転自在に支持されている。巻芯52には、ウエブWがロール状に巻き取られる。
モータ53は、巻芯52を回転駆動する。速度制御部54は、モータ53の回転を制御することにより、巻芯52を一定の回転速度で矢印Dの方向に回転させる。具体的には、速度制御部54は、メインコントローラ4から送信される速度の指示値にしたがって、巻芯52を回転させる。巻芯52が回転することによって、従動ローラ51A~51Cを介して搬送されてきたウエブWが巻き取られる。
従動ローラ51A~51Cは、搬送路3上に回転自在に設けられている。従動ローラ51A~51Cは、ウエブWを支持しながら、ウエブWの移動に伴って回転する。
従動ローラ51A~51Cのうち、例えば、従動ローラ51Bには張力検出部としての張力センサ55が接続されている。すなわち、巻取領域3Cでは、従動ローラ51Bが張力測定ローラとして機能する。張力測定ローラとしての従動ローラ51Bには、ウエブWに張力に応じた加重が加わる。張力センサ55は、従動ローラ51Bに加わる荷重を検出することによって、巻取領域3CにおけるウエブWの張力(以下、巻取張力という。)T3を検出する。張力センサ55が検出した張力の検出値は、巻取張力検出値T3としてメインコントローラ4に入力される。
巻取張力は、巻芯52とモータ53との間に接続されたパウダクラッチ(図示せず)によって制御される。メインコントローラ4は、ウエブWのたるみをなくして張力を発生させるために、パウダクラッチの入力回転速度が常に巻芯52の回転速度よりも速くなるようにモータ53の回転速度を設定する。このように、パウダクラッチの入力側と出力側で回転速度に差が生じるため、パウダクラッチにはスリップが発生する。メインコントローラ4は、一定の巻取張力を保つために、巻取張力検出値T3を監視しながら、ウエブWの巻太りに伴ってパウダクラッチのトルクを大きくする。
従動ローラ51A~51Cのうち、例えば、従動ローラ51Cには速度センサ56が接続されている。速度センサ56は、速度センサ16と同様の構成である。速度センサ56が検出した従動ローラ51Cの回転速度の検出値は、巻取従動ローラ速度検出値V3としてメインコントローラ4に入力される。
従動ローラ51Bと従動ローラ51Cとの間には、変位センサ57が設けられている。変位センサ57は、従動ローラ51Bと従動ローラ51Cとの間の搬送路3上を移動するウエブWの表面の変位量を検出する。変位センサ57は、変位センサ17と同様の構成である。変位センサ57は、ウエブWが搬送されている間に、ウエブWの表面に生じるスジ状変形による変位量D3を検出してメインコントローラ4に入力する。
なお、図1に示す速度制御部14,22,42,54およびダンサー制御部25は、例えば、IC(Integrated Circuit)により構成されている。
図2において、メインコントローラ4は、搬送制御部60と、搬送条件記憶部61とを備える。メインコントローラ4は、IC、または、CPU(Central Processing Unit)と、CPUを動作させるプログラムを記憶したメモリとで構成されている。なお、搬送条件記憶部61は、フラッシュメモリ等のストレージデバイスにより構成されている。
搬送条件記憶部61には、ウエブWの搬送条件として、基準速度Vb、送出張力Ts、中間張力Ti、および巻取張力Twが記憶されている。搬送制御部60は、搬送条件記憶部61に記憶された基準速度Vbに基づいて速度制御部42に指示を与えることにより、駆動ローラ40を基準速度Vbで回転させて、ウエブWを搬送させる。搬送路3におけるウエブWの搬送速度は、基本的に基準速度Vbとなる。以下、ウエブWの搬送速度を、搬送速度Vbと表記する。
また、搬送制御部60は、搬送条件記憶部61に記憶された送出張力Ts、中間張力Ti、および巻取張力Twに基づいて、パウダブレーキ、パウダクラッチ、およびダンサー制御部25を制御する。具体的には、搬送制御部60は、送出張力検出値T1が送出張力Tsに一致し、かつ、中間張力検出値T2が中間張力Tiに一致し、かつ、巻取張力検出値T3が巻取張力Twに一致するように、パウダブレーキ、パウダクラッチ、およびダンサー制御部25を制御する。
搬送条件記憶部61に記憶された送出張力Ts、中間張力Ti、および巻取張力Twは、後述する搬送条件探索装置5から供給される。なお、搬送速度Vbはオペレータ等により設定される設定値である。
また、メインコントローラ4は、第1スリップ定量化部62Aと、第2スリップ定量化部62Bと、第3スリップ定量化部62Cと、第4スリップ定量化部62Dとを備える。詳しくは後述するが、スリップとは、ウエブWがローラの表面で滑る現象である。
第1スリップ定量化部62Aは、下式(1)に基づいて、従動ローラ11Bの表面において生じるウエブWのスリップ量を定量化する。
S1=|V1-Vb|/ΔVth ・・・(1)
ここで、V1は、速度センサ16により検出された送出従動ローラ速度検出値である。Vbは、ウエブWの搬送速度である。また、ΔVthは、ローラの回転速度と搬送速度との許容される速度差の最大値である。この閾値ΔVthは、スリップにより生じる擦り傷の長さの最大許容量に対応する値であり、オペレータ等により予め設定される。なお、擦り傷の生じやすさはウエブWの材質等の材料物性に応じて異なるので、閾値ΔVthをウエブWの材料物性に応じて、オペレータ等が選択可能とするか、または、自動的に設定するように構成してもよい。
第1スリップ定量化部62Aは、上式(1)に基づいて算出した第1スリップ量S1を搬送条件探索装置5に入力する。第1スリップ量S1が大きいほど、従動ローラ11Bの表面におけるウエブWのスリップ量が大きいことを表す。なお、第1スリップ量S1が1より大きいことは、送出領域3AにおけるウエブWのスリップ量が許容量(以下、第1許容値という。)を超えていることを表す。
第2スリップ定量化部62Bは、下式(2)に基づいて、従動ローラ26Bの表面において生じるウエブWのスリップ量を定量化する。
S2=|V2-Vb|/ΔVth ・・・(2)
ここで、V2は、速度センサ28により検出された中間従動ローラ速度検出値である。VbおよびΔVthは上記と同様である。
第2スリップ定量化部62Bは、上式(2)に基づいて算出した第2スリップ量S2を搬送条件探索装置5に入力する。第2スリップ量S2が大きいほど、従動ローラ26Bの表面におけるウエブWのスリップ量が大きいことを表す。なお、第2スリップ量S2が1より大きいことは、中間領域3BにおけるウエブWのスリップ量が第1許容値を超えていることを表す。
第3スリップ定量化部62Cは、下式(3)に基づいて、従動ローラ51Cの表面において生じるウエブWのスリップ量を定量化する。
S3=|V3-Vb|/ΔVth ・・・(3)
ここで、V3は、速度センサ56により検出された巻取従動ローラ速度検出値である。VbおよびΔVthは上記と同様である。
第3スリップ定量化部62Cは、上式(3)に基づいて算出した第3スリップ量S3を搬送条件探索装置5に入力する。第3スリップ量S3が大きいほど、従動ローラ51Cの表面におけるウエブWのスリップ量が大きいことを表す。なお、第3スリップ量S3が1より大きいことは、巻取領域3CにおけるウエブWのスリップ量が第1許容値を超えていることを表す。
第4スリップ定量化部62Dは、下式(4)に基づいて、駆動ローラ20の表面において生じるウエブWのスリップ量を定量化する。
S4=|Vd-Vb|/ΔVth ・・・(4)
ここで、Vdは、速度センサ23により検出された駆動ローラ速度検出値である。VbおよびΔVthは上記と同様である。
第4スリップ定量化部62Dは、上式(4)に基づいて算出した第4スリップ量S4を搬送条件探索装置5に入力する。第4スリップ量S4が大きいほど、駆動ローラ20の表面におけるウエブWのスリップ量が大きいことを表す。なお、第4スリップ量S4が1より大きいことは、送出領域3Aと中間領域3Bとの間の張力カット部におけるウエブWのスリップ量が第1許容値を超えていることを表す。
図3を用いて、従動ローラ11Bの表面においてウエブWにスリップが発生する原理を説明する。ウエブWは、従動ローラ11Bの表面との間で生じるトラクションによって駆動される。このトラクションは、ウエブWと従動ローラ11Bの表面との間の摩擦係数に依存する。
ウエブWの搬送速度Vbの上昇に伴い、ウエブWと従動ローラ11Bの表面との間に空気が侵入しやすくなる。これにより、トラクションが低下して、やがてスリップが生じる。スリップが生じると、ウエブWの搬送速度と従動ローラ11Bの回転速度(送出従動ローラ速度検出値V1)との間に速度差が生じる。これにより、ウエブWに擦り傷等の欠陥が生じる。
その他のローラとウエブWとの間で生じるスリップの発生原理についても同様である。第1スリップ量S1、第2スリップ量S2、第3スリップ量S3、および第4スリップ量S4は、それぞれウエブWに生じ得る欠陥レベルを表す量である。
このようなウエブWのスリップを防止するには、ウエブWの搬送張力(図3ではT1)を高めることにより、トラクションを上げることが考えられる。しかし、ウエブWの張力を上げると、ウエブWにスジ状変形が生じる可能性がある。
メインコントローラ4は、第1スジ状変形定量化部63Aと、第2スジ状変形定量化部63Bと、第3スジ状変形定量化部63Cとを備える。第1スジ状変形定量化部63A、第2スジ状変形定量化部63B、および第3スジ状変形定量化部63Cは、それぞれ変位センサ17、変位センサ29、および変位センサ57から入力される変位量に基づいてスジ状変形を定量化する。
図4は、ウエブWに生じ得たスジ状変形STを模式的に示している。スジ状変形STは、ウエブWの張力が高い場合に搬送方向に沿って生じるスジ状の変形である。同図中のXは、ウエブWの搬送方向である。Yは、ウエブWの表面に平行で、かつ搬送方向に直交する方向である。変位センサ17は、ウエブWが従動ローラ11Bにラップする直前のウエブWの表面の変位量を検出する。
図5に示すように、スジ状変形STは、ウエブWがその表面に直交する方向へ変動している(すなわち、うねりが生じている)。本実施形態では、変位センサ17として、反射散乱方式の反射型レーザ式変位センサを用いる。変位センサ17は、ウエブWの表面に向けてレーザ光Lを出射することにより、ウエブWの表面から反射されてきた反射光Rを検出する。変位センサ17は、レーザ光Lの出射位置から反射光Rの入射位置までの距離M1を検出する。そして、変位センサ17は、検出した距離M1と、ウエブWの表面までの距離H、レーザ光Lに対する反射光Rのなす角度θとの関係に基づいて、ウエブWのうねりの深さを表す変位量D1を求めて第1スジ状変形定量化部63Aに入力する。
第1スジ状変形定量化部63Aは、下式(4)に基づいて、スジ状変形を定量化する。
E1=D1/Dth ・・・(4)
ここで、Dthは、許容される変位量D1の最大値(閾値)である。この閾値Dthは、後述する「折れしわ」が生じる際の変位量D1に対応する値であり、オペレータ等により予め設定される。なお、折れしわの生じやすさはウエブWの材質等の材料物性に応じて異なるので、閾値DthをウエブWの材料物性に応じて、オペレータ等が選択可能とするか、または、自動的に設定するように構成してもよい。
第1スジ状変形定量化部63Aは、上式(4)により算出した第1スジ状変形量E1を搬送条件探索装置5に入力する。第1スジ状変形量E1は、送出領域3AにおけるウエブWのスジ状変形量を表す。第1スジ状変形量E1が大きいほど、スジ状変形が大きいことを表す。なお、第1スジ状変形量E1が1より大きいことは、送出領域3AにおけるウエブWのスジ状変形量が許容量(以下、第2許容値という。)を超えていることを表す。
変位センサ29および変位センサ57は、変位センサ17と同様の構成である。また、第2スジ状変形定量化部63Bおよび第3スジ状変形定量化部63Cは、第1スジ状変形定量化部63Aと同様の構成である。
第2スジ状変形定量化部63Bは、中間領域3BにおけるウエブWのスジ状変形を下式(5)に基づいて定量化し、定量化した第2スジ状変形量E2を搬送条件探索装置5に入力する。
E2=D2/Dth ・・・(5)
第2スジ状変形量E2が大きいほど、スジ状変形が大きいことを表す。なお、第2スジ状変形量E2が1より大きいことは、中間領域3BにおけるウエブWのスジ状変形量が第2許容値を超えていることを表す。
第3スジ状変形定量化部63Cは、巻取領域3CにおけるウエブWのスジ状変形を下式(6)に基づいて定量化し、定量化した第3スジ状変形量E3を搬送条件探索装置5に入力する。
E3=D3/Dth ・・・(6)
第3スジ状変形量E3が大きいほど、スジ状変形が大きいことを表す。なお、第3スジ状変形量E3が1より大きいことは、巻取領域3CにおけるウエブWのスジ状変形量が第2許容値を超えていることを表す。
このようなウエブWのスジ状変形は、スジ状変形量が第2許容値を超えると、例えば、図6に示すように、下流側に配置されたローラの表面で折りたたまれ、いわゆる「折れしわ」となる。スジ状変形は、搬送張力を下げることで解消するが、折れしわは非可逆的な変形であるので、いったん折れしわが生じると搬送張力を下げてもウエブW上に永久歪みとして残存し、品質故障となる。したがって、折れしわを防止するには、スジ状変形量が一定値を超える前に搬送張力を下げる必要がある。
前述のように、ウエブWのスリップを抑制するためにはウエブWの搬送張力を上げる必要があるが、搬送張力を高めすぎるとスジ状変形が生じる。一方、折れしわは、スジ状変形が増大することにより生じるので、折れしわを抑制するためにはウエブWの搬送張力を下げる必要がある。このように、スリップとスジ状変形とは、搬送張力に関してトレードオフの関係にある。スリップとスジ状変形との両方を抑制するには、搬送張力を適切な値に設定する必要がある。
搬送条件探索装置5は、メインコントローラ4から入力されるスリップ量S1~S4と、スジ状変形量E1~E3と、張力検出値T1~T3とに基づいて、特定の搬送速度Vbに対して最適な搬送条件(送出張力Ts、中間張力Ti、および巻取張力Tw)を探索する。
搬送条件探索装置5は、コンピュータにより構成されている。図7において、搬送条件探索装置5を構成するコンピュータは、例えば、ストレージデバイス70、メモリ71、CPU(Central Processing Unit)72、通信部73、ディスプレイ74、および入力デバイス75を備えている。これらはバスライン76を介して相互接続されている。
ストレージデバイス70は、コンピュータに内蔵された、若しくはケーブル、ネットワークを通じて接続されたハードディスクドライブである。ストレージデバイス70は、ハードディスクドライブを複数台連装したディスクアレイであってもよい。ストレージデバイス70には、CPU72を各種の機能部として機能させるための作動プログラム77が記憶されている。なお、ハードディスクドライブに代えて、あるいは加えて、ソリッドステートドライブを用いてもよい。
メモリ71は、CPU72が処理を実行するためのワークメモリである。CPU72は、ストレージデバイス70に記憶された作動プログラム77をメモリ71へロードし、作動プログラム77にしたがった処理を実行することにより、コンピュータの各部を統括的に制御する。
通信部73は、ネットワークを介した各種情報の伝送制御を行うネットワークインターフェースである。搬送条件探索装置5は、通信部73を介してメインコントローラ4に接続されている。ディスプレイ74は各種画面を表示する表示装置である。コンピュータは、各種画面を通じて、入力デバイス75からの操作指示の入力を受け付ける。入力デバイス75は、キーボード、マウス、またはタッチパネル等である。
次に、CPU72により実現される各種機能部について説明する。図8において、CPU72には、入力受付部80、機械学習部81、探索部82、および出力部83が構成されている。
入力受付部80は、メインコントローラ4から入力されるデータを受け付ける。メインコントローラ4から入力されるデータには、スリップ量S1~S4と、スジ状変形量E1~E3と、張力検出値T1~T3と、搬送速度Vbとが含まれる。入力受付部80は、メインコントローラ4から入力されたデータを、教師データTDとしてストレージデバイス70に記憶させる。
教師データTDは、機械学習部81による機械学習に用いられる既知データである。図9に示すように、教師データTDは、目的変数群の値としてスリップ量S1~S4およびスジ状変形量E1~E3を含み、説明変数群の値として搬送速度Vbおよび張力検出値T1~T3を含む既知データである。すなわち、教師データTDは、既知の説明変数群の値と、説明変数群の値に対する既知の目的変数群の値とを含むデータである。
図9に示す例では、説明変数X1に搬送速度Vbを割り当て、かつ説明変数X2~X4に張力検出値T1~T3を割り当てている。また、目的変数Y1~Y4にスリップ量S1~S4を割り当て、かつ目的変数Y5~Y7にスジ状変形量E1~E3を割り当てている。
機械学習部81は、複数の教師データTDを用いて機械学習を行う。図10に示すように、機械学習部81は、ニューラルネットワークNNと、調整部84とを備えている。例えば、ニューラルネットワークNNは、入力層L1、第1中間層L2、第2中間層L3、および出力層L4を有する4層構成の全結合のニューラルネットワークである。入力層L1は、説明変数X1~X4に対応した4個のニューロン(ノード)を有する。出力層L4は、目的変数Y1~Y7に対応した7個のニューロン(ノード)を有する。
入力層L1には、教師データTDから説明変数X1~X4に対応する搬送速度Vbおよび張力検出値T1~T3が入力データとして入力される。入力層L1に入力された入力データは、重みが乗じられ、かつバイアスが加算された後、第1中間層L2に入力される。同様に、第1中間層L2に入力された入力データは、重みが乗じられ、かつバイアスが加算された後、第2中間層L3に入力される。そして、第2中間層L3に入力された入力データは、重みが乗じられ、かつバイアスが加算された後、出力層L4に入力される。
各ニューロンにおいて、重みおよびバイアスの値は任意に設定されている。各ニューロンにおいて、入出力変換を行う活性化関数として、例えば、ReLU(Rectified Linear Unit)が用いられる。
出力層L4は、スリップ量S1~S4およびスジ状変形量E1~E3に対応する出力結果ROを出力する。この出力結果ROは調整部84に入力される。また、調整部84には、教師データTDから目的変数Y1~Y7に対応するスリップ量S1~S4およびスジ状変形量E1~E3が入力される。
調整部84は、出力結果ROと、スリップ量S1~S4およびスジ状変形量E1~E3とを対比する。調整部84は、例えば、二乗和誤差を求める損失関数を用いる。調整部84は、複数の教師データTDのそれぞれについて二乗和誤差を求め、二乗和誤差の総和が最小になるように重みとバイアスとを調整する。調整部84は、調整後の最終的な重みおよびバイアスWBを出力する。
なお、ニューラルネットワークNNの中間層の層数、および各層のニューロンの個数は、特に限定されない。入力データのパラメータ数が多いほど、中間層の層数、および各層のニューロンの個数を増やすことが好ましい。また、機械学習部81は、いわゆるディープラーニングを可能とするものであってもよい。
図11は、機械学習部81により生成される学習済みモデルMを示している。学習済みモデルMは、図10に示すニューラルネットワークNNと同一の構成のニューラルネットワークに、調整部84により求めた最終的な重みおよびバイアスWBを各ニューロンに設定することによって学習済みモデルMを生成する。機械学習部81により生成された学習済みモデルMは、ストレージデバイス70に記憶される。
なお、機械学習部81は、図10に示すニューラルネットワークNNそのものに最終的な重みおよびバイアスWBを適用することによって学習済みモデルMを生成してもよい。
図12に示すように、探索部82は、初期データセット選択部90と、評価値算出部91と、判定部92と、選択淘汰処理部93と、交叉処理部94と、突然変異処理部95と、出力部96とを備えている。探索部82は、いわゆる遺伝的アルゴリズムにより構成されており、多目的最適化を行う。多目的最適化とは、制約条件下で、トレードオフの関係にある複数の目的関数を最適化(最小化または最大化)する処理である。
探索部82は、搬送速度Vbを既知の値とし、かつ張力検出値T1~T3を未知の値として、遺伝的アルゴリズムを用いて探索を行うことにより、搬送路3の領域ごとの最適な張力を探索する。
初期データセット選択部90は、初期データセットとして、例えば、ストレージデバイス70に記憶された既知の複数の教師データTDを選択する。また、初期データセット選択部90は、各教師データTDから張力検出値T1~T3を抽出して、それぞれ入力データとして学習済みモデルMに入力する。
また、学習済みモデルMには、入力デバイス75等を用いてオペレータ等により、新規に搬送するウエブWの搬送速度Vbが設定され、設定された搬送速度Vbが入力データの一部として学習済みモデルMに入力される。この搬送速度Vbは、探索処理において既知の値とされる。
学習済みモデルMからは、各入力データに応じた出力結果ROが複数出力される。この出力結果ROは、入力データに対応するスリップ量S1~S4およびスジ状変形量E1~E3の予測データである。評価値算出部91は、各出力結果ROに基づき、下式(7)を用いて評価値Gを算出する。
ここで、i=1~4,k=1~3である。上式(7)は、スリップ量とスジ状変形量との総和を表す関数である。上式(7)の右辺第1項は、搬送路3の領域ごとのスリップ量の和を表す目的関数である。上式(7)の右辺第2項は、搬送路3の領域ごとのスジ状変形量の和を表す目的関数である。両者はトレードオフの関係にある。なお、本実施形態では、評価値Gが小さいほど、よい搬送条件が得られる。
評価値算出部91は、出力結果ROを上式(7)に適用することにより評価値Gを算出する。このとき、評価値算出部91は、Si≦1およびEk≦1を制約条件とする。この制約条件は、スリップ量を第1許容値以下とし、かつスジ状変形量を第2許容値以下とすることを意味する。
評価値算出部91は、制約条件を満たさない場合には、評価値Gにペナルティを与える。例えば、評価値算出部91は、スリップ量S1~S4およびスジ状変形量E1~E3の予測データのうち値が1以上であるものについては、評価値Gにペナルティとして正の値(例えば「10」)を付加する。
図13は、学習済みモデルMに入力された複数の入力データの各出力結果ROに基づいて、評価値算出部91により評価値Gが生成される例を示している。
判定部92は、各評価値Gを予め定められた閾値Gthと比較することにより、評価値Gが閾値Gth以下であるものが存在するか否かを判定する。判定部92は、閾値Gth以下の評価値Gが存在する場合には、遺伝的アルゴリズムによる探索処理を終了させる。
本実施形態の遺伝的アルゴリズムでは、説明変数X2~X4に対応する入力データ(張力検出値T1~T3)を個体とし、選択淘汰、交叉、及び突然変異を繰り返すことにより、評価値Gの低い個体を生成する。
選択淘汰処理部93は、過去の複数の入力データのうち、評価値Gが大きいものを選択して除去する選択淘汰を行う。交叉処理部94は、選択淘汰処理部93により選択淘汰された後の複数の入力データから、任意の2組の入力データ間で一部の値を入れ替える交叉を行う。突然変異処理部95は、交叉処理部94により交叉が行われた後の複数の入力データの一部の値を変更することにより、突然変異を生じさせる。
図14に示すように、判定部92は、選択淘汰、交叉、及び突然変異が行われることにより、新たな複数の入力データが生成される。この新たな複数の入力データのそれぞれについて、評価値算出部91により評価値Gが算出される。判定部92は、閾値Gth以下の評価値Gが存在すると判定した場合には、当該評価値Gに対応する入力データを特定する。出力部96は、判定部92により特定された入力データを抽出して出力する。出力部96から出力された入力データは、最適搬送条件CCとしてストレージデバイス70に記憶される。
図8に戻り、搬送条件探索装置5の出力部83は、ストレージデバイス70に記憶された最適搬送条件CCをメインコントローラ4へ出力する。メインコントローラ4では、搬送条件探索装置5から入力された最適搬送条件CCに含まれる張力検出値T1~T3が、送出張力Ts、中間張力Ti、および巻取張力Twとして搬送条件記憶部61に記憶される(図2参照)。また、搬送条件記憶部61には、搬送条件探索時に設定された搬送速度Vb(図12参照)が記憶される。
メインコントローラ4は、搬送条件探索装置5から供給された最適搬送条件CCに基づいて速度制御部14,42,54およびダンサー制御部25を制御することにより、スリップとスジ状変形との両方を抑制した状態でウエブWを搬送することができる。これにより、ウエブWは、擦り傷および折れしわ等の欠陥の発生が抑制される。
なお、判定部92は、予め世代数を設定し、遺伝的アルゴリズムによる進化計算が当該世代数に達した場合に探索処理を終了させてもよい。この場合、出力部96は、各世代において最も低い評価値Gに対応する搬送条件を記録し、記録した複数の搬送条件から最も評価値Gが低い搬送条件を最適搬送条件CCとする。また、判定部92が記録した複数の搬送条件をディスプレイ74に表示し、最適搬送条件CCとする搬送条件を、オペレータが入力デバイス75により選択可能としてもよい。
次に、以上の構成を有する搬送条件探索装置5の作用を、図15に示すフローチャートを用いて説明する。フローは、学習フェーズと探索フェーズとに大別される。
学習フェーズでは、搬送条件探索装置5は、ウエブ搬送装置2によりウエブWを搬送することにより得られるスリップ量S1~S4、スジ状変形量E1~E3、張力検出値T1~T3、および搬送速度Vbを含むデータを取得する。搬送条件探索装置5は、取得したデータに基づいて教師データTD(図9参照)を生成する(ステップS10)。なお、教師データTDは、ウエブWを複数の搬送条件で搬送することにより複数作成される。作成された複数の教師データTDは、ストレージデバイス70に記憶される。
そして、機械学習部81が、ストレージデバイス70に記憶された複数の教師データTDに基づいた学習(図10参照)を行うことにより、学習済みモデルM(図11参照)を生成する(ステップS11)。
次に、探索フェーズに移行する。探索フェーズでは、まず、オペレータ等により新規に搬送するウエブWの搬送速度Vbが設定される(ステップS13)。次に、初期データセット選択部90により、初期データセットとして、例えば、ストレージデバイス70に記憶された既知の複数の教師データTDが選択される(ステップS14)。ここで、初期データセット選択部90により選択された各教師データTDから、張力検出値T1~T3が抽出される。抽出された入力データはそれぞれ学習済みモデルMに入力される。この結果、学習済みモデルMからは、各入力データに応じた出力結果RO(図13参照)が出力される。
次に、評価値算出部91により、複数の出力結果ROのそれぞれについて評価値G(図13参照)が算出される(ステップS15)。複数の評価値Gが算出されると、判定部92により、当該複数の評価値Gに、閾値Gth以下のものが存在するか否かが判定される(ステップS16)。例えば、閾値Gthを「5」とする。
判定部92により閾値Gth以下の評価値Gが存在しないと判定された場合には(ステップS16:NO)、選択淘汰処理部93により、評価値Gが大きい入力データを選択して除去する選択淘汰処理が行われる(ステップS17)。例えば、図13に示す例では、閾値Gth以下の評価値Gが存在しないと判定され、評価値Gが「9.7」である入力データNo.2が除去される。この後、交叉処理部94により、入力データに交叉処理が行われる(ステップS18)。そして、突然変異処理部95により入力データに突然変異処理が行われる(ステップS19)。こうして、新たな複数の入力データが生成される。
この後、ステップS15に戻り、評価値算出部91によって評価値Gの算出が行われる。判定部92により閾値Gth以下の評価値Gが存在しないと判定された場合には(ステップS16:NO)、再び、ステップS17~S19の処理が行われることにより、新たな複数の入力データが生成される。
判定部92により閾値Gth以下の評価値Gが存在すると判定された場合には(ステップS16:YES)、当該評価値Gに対応する入力データが特定される(ステップS20)。例えば、図14に示す例では、評価値Gが「3.0」である入力データNo.3が特定される。そして、特定された入力データは、出力部96から最適搬送条件CCとして出力される(ステップS21)。
以上のように、本開示の技術では、搬送速度および張力検出値を含む説明変数群と、スリップ量およびスジ状変形量を含む目的変数群との関係を表す学習済みモデルを用いて最適搬送条件の決定を行っている。学習済みモデルは、既知の説明変数群の値と、既知の説明変数群の値に対する既知の目的変数群の値とを教師データとして学習することにより生成されたものである。学習済みモデルに基づいて、トレードオフの関係にあるスリップ量とスジ状変形量とを最適化する説明変数群の値を探索することにより、最適搬送条件を容易に決定することができる。
特に、ウエブ搬送装置が、フィルム製膜工程のように搬送路が長い工程に適用される場合には、搬送機構が複雑化する傾向にある(例えば、ローラの数が多い)ので、従来の技術では、短時間に最適搬送条件を決定することが難しく、搬送テストを繰り返す必要があった。本開示の技術によれば、搬送路が長い場合においても最適搬送条件を短時間に容易に決定することができる。したがって、本開示の技術によれば、最適搬送条件を短時間に決定することにより、試作コストの低減と開発期間の短期化を図ることが可能となる。
また、本開示の技術では、折れしわが発生する前段階であるスジ状変形を検出対象としているため、実際の折れしわの発生を未然に防止することができる。
また、本開示の技術では、スリップ量を第1許容値以下とし、かつスジ状変形量を第2許容値以下とする制約条件下で、スリップ量とスジ状変形量検出値との和を評価値として、評価値を閾値以下とする説明変数群の値を探索している。これにより、トレードオフの関係にあるスリップ量とスジ状変形量とに関して、最適搬送条件を容易に決定することができる。
また、本開示の技術では、搬送路は、ウエブの搬送を駆動し、かつウエブの張力をカットする1以上の駆動ローラにより複数の領域に分けられている。張力検出部(張力センサ)、スリップ量定量化部、およびスジ状変形定量化部は、搬送路の領域ごとに、張力検出値、スリップ量、およびスジ状変形量を出力する。本開示の技術によれば、張力カットにより搬送路が複数の領域に分けられている場合には、搬送機構がより複雑化する傾向にあるが、このような場合においても、領域ごとに容易に最適搬送条件を決定することができる。
また、本開示の技術では、搬送速度を既知の値とし、かつ搬送路の領域ごとの張力検出値を未知の値として探索を行うことにより、各領域の最適な張力を探索するので、新規に搬送するウエブの搬送速度に対する最適搬送条件を容易に決定することができる。
また、本開示の技術では、遺伝的アルゴリズムを用いて探索を行うので、効率よく短時間に最適搬送条件の探索を行うことができる。また、遺伝的アルゴリズムを用いることにより、探索中に局所解に陥ることなく、大域的な最適解(最適搬送条件)を導出することができる。
[変形例]
以下、上記実施形態の各種変形例について説明する。
上記実施形態では、第1スジ状変形定量化部63Aは、図5に示すように、変位センサ17により検出されるウエブWの表面の変位量D1に基づいて、スジ状変形定量を定量化している。第1スジ状変形定量化部63Aは、図16に示すように、光源100により前記ウエブの表面に照明光が照射された状態でカメラ101により撮影された画像に基づいて変位量D1を求めることにより、スジ状変形定量を定量化してもよい。画像に現れる濃淡等に基づいて変形量を検出することが可能である。
第2スジ状変形定量化部63Bおよび第3スジ状変形定量化部63Cについても、第1スジ状変形定量化部63Aと同様の変形が可能である。
上記実施形態では、図9に示すように、搬送条件(搬送速度Vbおよび張力検出値T1~T3)を説明変数群に含めているが、搬送速度Vbおよび張力検出値T1~T3に加えて温湿度等の搬送条件を説明変数群に含めてもよい。さらに、搬送条件以外の条件を説明変数群に含めてもよい。例えば、図17に示すように、説明変数群に、ウエブWの材料特性値を含めてもよい。材料特性値には、ウエブの厚み、幅、弾性率、および摩擦係数等が含まれる。これらの材料特性値は、例えば、オペレータ等が入力デバイス75等を用いて入力可能とすることが好ましい。
この場合、学習フェーズでは、種々の材料特性値を教師データTDに含めて学習が行われる。探索フェーズでは、まず、オペレータ等により新規に搬送するウエブWの搬送速度Vbおよび材料特性値が設定される。そして、探索フェーズでは、搬送速度Vbおよび材料特性値を既知データとして、最適な張力の探索が行われる。
また、説明変数群に搬送条件以外の条件として、ウエブ搬送装置2の設備条件を含めてもよい。設備条件には、例えば、従動ローラの回転抵抗、および従動ローラ間のミスアライメント等が含まれる。
また、上記実施形態では、学習に用いる搬送速度Vb(図9参照)を、駆動ローラ40の回転速度(基準速度)としている。しかし、ウエブWの実際の搬送速度は、ウエブWが搬送中に伸長することにより、基準速度から変化することがあるため、速度センサ等による速度検出値を搬送速度Vbとしてもよい。例えば、搬送路3上の高温領域又は高量力領域においてウエブWが部分的に伸長することにより、各領域においてウエブWの搬送速度が異なる場合がある。例えば、基準速度Vbが10m/minである場合に、送出領域3Aの搬送速度(送出従動ローラ速度検出値V1)が10.2m/minとなり、中間領域3Bの搬送速度(中間従動ローラ速度検出値V2)が10.4m/minとなり、巻取領域3Cの搬送速度(巻取従動ローラ速度検出値V3)が10.6m/minとなる場合がある。このような場合において、ウエブWのスリップ量は、各領域における搬送速度とローラ速度との差により計算される。このスリップ量を目的変数群に含め、かつ搬送速度V1~V3を説明変数群に含めて機械学習を行ってよい。
また、上記実施形態では、各スリップ定量化部は、ローラの回転速度とウエブWの搬送速度との速度差に基づいてスリップ量の定量化を行っているが、スリップ量の定量化方法はこれに限られない。各スリップ定量化部は、ウエブWに生じる欠陥レベルを直接検出することによりスリップ量を定量化してもよい。
例えば、各スリップ定量化部は、センサ等によりスリップによりウエブの表面に生じる擦り傷の長さを検出し、この検出値に基づいてスリップ量を定量化してもよい。この場合、例えば、擦り傷の長さに比例する値をスリップ量とすればよい。また、ウエブWに対して処理を行う処理装置30としてカラー印刷装置を用いる場合には、センサ等による色間見当ずれ(色間のずれ)の検出値に基づいてスリップ量を定量化してもよい。この場合、例えば、色間見当ずれ量に比例する値をスリップ量とすればよい。
また、上記実施形態では、機械学習部81は、ニューラルネットワークを用いて機械学習を行っているが、ニューラルネットワークには限定されず、重回帰モデルまたは一般化加法モデル等を用いて学習を行ってもよい。
また、上記実施形態では、探索部82は、遺伝的アルゴリズムを用いて探索を行っているが、遺伝的アルゴリズムには限定されず、勾配降下法等を用いて探索を行ってもよい。
また、上記実施形態では、張力カット用の2つの駆動ローラ20,40により、搬送路を3つの領域に分割しているが、この領域の分割数は限定されない。すなわち、駆動ローラを設けないことにより、搬送路を分割しなくてもよい。また、1以上の駆動ローラを設けることにより、搬送路を2以上に分割してもよい。さらに、搬送路を分割する場合には、2以上の領域に、ウエブに対して処理を行う処理装置(工程)を設けてもよい。各領域における張力測定ローラ、変位センサ、および速度センサ等の位置および個数は適宜変更可能である。
また、上記実施形態では、ウエブ搬送装置2に送出装置10と巻取装置50とを設けているが、送出装置10と巻取装置50は必須ではなく、一方または両方が設けられていなくてもよい。例えば、ウエブ搬送装置の搬送路の下流側にウエブを切断する工程が設けられている場合には、巻取装置は不要である。また、送出装置に代えて、流延製膜工程に用いられる流延装置を用いてもよい。流延装置では、送出ロールに代えて、ドープを流出する流延ダイが設けられる。ドープは、フィルムを形成する樹脂材料である。さらに、送出装置に代えて、押出装置を用いてもよい。
また、上記実施形態では、メインコントローラ4と搬送条件探索装置5とをそれぞれ個別の装置としているが、両者を一体の装置として構成してもよい。
上記実施形態において、例えば、入力受付部80、機械学習部81、探索部82、および出力部83といった各種の処理を実行する処理部(Processing Unit)のハードウェア的な構造としては、次に示す各種のプロセッサ(Processor)を用いることができる。各種のプロセッサには、上述したように、ソフトウェア(作動プログラム)を実行して各種の処理部として機能する汎用的なプロセッサであるCPUに加えて、FPGA(Field Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なプロセッサであるPLD(Programmable Logic Device)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が含まれる。
1つの処理部は、これらの各種のプロセッサのうちの1つで構成されてもよいし、同種または異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGAの組み合わせ、および/または、CPUとFPGAとの組み合わせ)で構成されてもよい。また、複数の処理部を1つのプロセッサで構成してもよい。
複数の処理部を1つのプロセッサで構成する例としては、第1に、クライアントおよびサーバ等のコンピュータに代表されるように、1つ以上のCPUとソフトウェアの組み合わせで1つのプロセッサを構成し、このプロセッサが複数の処理部として機能する形態がある。第2に、システムオンチップ(System On Chip:SoC)等に代表されるように、複数の処理部を含むシステム全体の機能を1つのIC(Integrated Circuit)チップで実現するプロセッサを使用する形態がある。このように、各種の処理部は、ハードウェア的な構造として、上記各種のプロセッサの1つ以上を用いて構成される。
さらに、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造としては、より具体的には、半導体素子等の回路素子を組み合わせた電気回路(circuitry)を用いることができる。
本開示の技術は、上述の種々の実施形態と種々の変形例を適宜組み合わせることも可能である。また、上記実施形態に限らず、要旨を逸脱しない限り種々の構成を採用し得ることはもちろんである。さらに、本開示の技術は、プログラムに加えて、プログラムを非一時的に記憶する記憶媒体にもおよぶ。
以上に示した記載内容および図示内容は、本開示の技術に係る部分についての詳細な説明であり、本開示の技術の一例に過ぎない。例えば、上記の構成、機能、作用、および効果に関する説明は、本開示の技術に係る部分の構成、機能、作用、および効果の一例に関する説明である。よって、本開示の技術の主旨を逸脱しない範囲内において、以上に示した記載内容および図示内容に対して、不要な部分を削除したり、新たな要素を追加したり、置き換えたりしてもよいことはいうまでもない。また、錯綜を回避し、本開示の技術に係る部分の理解を容易にするために、以上に示した記載内容および図示内容では、本開示の技術の実施を可能にする上で特に説明を要しない技術常識等に関する説明は省略されている。
本明細書において、「Aおよび/またはB」は、「AおよびBのうちの少なくとも1つ」と同義である。つまり、「Aおよび/またはB」は、Aだけであってもよいし、Bだけであってもよいし、AおよびBの組み合わせであってもよい、という意味である。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願および技術規格は、個々の文献、特許出願および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。