JP5796138B2 - キシロースからエタノールを生産する酵母 - Google Patents
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Description
(1) キシロース還元酵素をコードする遺伝子、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子およびキシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子の3つの遺伝子を染色体上に挿入した形質転換酵母であり、
前記3つの遺伝子が、キシロース還元酵素をコードする遺伝子とキシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子とを連結した遺伝子、およびキシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子とキシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子とを連結した遺伝子として染色体上に挿入された、前記酵母。
(2) 前記遺伝子が当該酵母の内在性遺伝子である、(1)に記載の酵母。
(3) キシロース還元酵素をコードする遺伝子が、GRE3、YJR096w、YPR1、GCY1、ARA1およびYDR124wからなる群から選択される遺伝子である、(1)または(2)に記載の酵母。
(4) キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子が、SOR1、SOR2およびYLR070cからなる群からなる群から選択される遺伝子である、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の酵母。
(5) キシロース還元酵素をコードする遺伝子、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子およびキシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子が、それぞれGRE3、SOR1およびXKS1である、(1)〜(4)のいずれか1項に記載の酵母。
(6) 酵母がサッカロマイセス属に属する酵母である、(1)〜(5)のいずれか1項に記載の酵母。
(7) 酵母がサッカロマイセス・セレビシアである、(1)〜(6)のいずれか1項に記載の酵母。
(8) キシロースからエタノールを生産する能力を有するものである、(1)〜(7)のいずれか1項に記載の酵母。
(9) (1)〜(8)のいずれか1項に記載の形質転換酵母をキシロース含有培地で培養し、得られる培養物からエタノールを採取することを含む、エタノールの生産方法。
また、本発明は以下に関する。
[1] キシロース還元酵素をコードする遺伝子、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子およびキシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子の3つの遺伝子を染色体上に挿入した宿主酵母に、グルタミン酸脱水素酵素をコードする遺伝子およびキシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子から選ばれる少なくとも1つの遺伝子が発現可能に導入された形質転換酵母。
[2] 前記遺伝子が宿主酵母に由来するものである、請求項1に記載の酵母。
[3] 前記グルタミン酸脱水素酵素をコードする遺伝子およびキシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子から選ばれる少なくとも1つの遺伝子が、宿主酵母の染色体上に発現可能に挿入されたものである、[1]または[2]に記載の酵母。
[4] GRE3、SOR1およびXKS1の3つの遺伝子を染色体上に挿入した宿主酵母に、GDH2およびSOR1から選ばれる少なくとも1つの遺伝子が発現可能に導入された、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の形質転換酵母。
[5] キシロース還元酵素をコードする遺伝子、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子およびキシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子の3つの遺伝子を挿入される酵母が、サッカロマイセス属に属する酵母である、[1]〜[4]のいずれか1項記載の酵母。
[6] キシロース還元酵素をコードする遺伝子、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子およびキシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子の3つの遺伝子を挿入される酵母が、サッカロマイセス・セレビシアである、[1]〜[5]のいずれか1項記載の酵母。
[7] キシロースからエタノールを生産する能力を有するものである、[1]〜[6]のいずれか1項に記載の酵母。
[8] [1]〜[7]いずれか1項に記載の形質転換酵母をキシロース含有培地で培養し、得られる培養物からエタノールを採取することを含む、エタノールの生産方法。
[9] 前記形質転換酵母に導入される、グルタミン酸脱水素酵素をコードする遺伝子およびキシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子から選ばれる少なくとも1つの遺伝子が、グルタミン酸脱水素酵素をコードする遺伝子であるか、または、グルタミン酸脱水素酵素をコードする遺伝子およびキシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子の両方である、[8]に記載の方法。
[10]前記形質転換酵母に導入される、グルタミン酸脱水素酵素をコードする遺伝子およびキシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子から選ばれる少なくとも1つの遺伝子が、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子であり、前記培養工程がNAD+の存在下において行われる、[8]に記載の方法。
本発明の一態様において、本発明の形質転換酵母は酵母自身の有する遺伝子を使用して形質転換しているために遺伝子組換え体に該当せず、安全性や取り扱いの容易さの点で好ましい。
また、本発明の形質転換酵母は、キシロースからのエタノールへの優れた生産能を有するため、本発明の形質転換酵母を用いれば、キシロースからエタノールを効率よく生産することができる。
また、本発明の形質転換酵母は、キシリトールやグリセロールなどの副生成物の生産量減少が認められたことから、本発明の形質転換酵母を用いてエタノールを生産する際に、副生成物が蓄積するという問題を回避することができる。
また、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
本発明は、酵母自身に由来するキシロース資化内在性遺伝子の活性を高め、キシロース資化能を付与した宿主酵母にソルビトール脱水素酵素遺伝子1(SOR1)および/またはグルタミン酸脱水素酵素遺伝子2(GDH2)を過剰発現させた形質転換酵母が、優れたエタノール生産能を有するという知見に基づくものである。
また、本発明において、宿主酵母にGDH2を導入したGDH2過剰発現株では、キシリトールおよびグリセロールといった副生成物の生産量が減少することが見出された。GDH2は、NAD+の還元型であるNADHをNAD+に変換するグルタミン酸脱水素酵素の遺伝子であるため、NAD+が副生成物の生産抑制に関係することが示された。そのため、宿主酵母にSOR1を導入したSOR1過剰発現株をNAD+存在下に培養するか、あるいは、宿主酵母にSOR1とGDH2とを共発現させることによっても、GDH2過剰発現株と同様に副生成物の生産量が減少するといえる。
また、本発明の一の態様において、本発明の形質転換酵母は、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子および/またはグルタミン酸脱水素酵素をコードする遺伝子、好ましくはソルビトール脱水素酵素遺伝子1(SOR1)および/またはグルタミン酸脱水素酵素遺伝子2(GDH2)を宿主酵母に導入して作製されることを特徴の一つとするものである。本発明の別の態様において、宿主酵母に導入する遺伝子は宿主酵母に由来する遺伝子である。
また、本発明の別の態様において、本発明の形質転換酵母は、副生成物の生成量が低いという特徴を有するものである。
本発明の形質転換酵母は、キシロース資化性遺伝子を染色体上に導入した宿主酵母に、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子およびグルタミン酸脱水素酵素をコードする遺伝子から選ばれる少なくとも1つの遺伝子、好ましくはソルビトール脱水素酵素遺伝子1(SOR1)およびグルタミン酸脱水素酵素遺伝子2(GDH2)から選ばれる少なくとも1つの遺伝子をさらに発現可能に導入された酵母である。
また、本発明の形質転換酵母は、キシロース還元酵素をコードする遺伝子、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子およびキシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子を染色体上に挿入した酵母であってもよい。
本発明において、遺伝子導入または形質転換の対象となる酵母は、キシロースなどの五炭糖の資化能を有していない酵母であることが好ましい。前記酵母は遺伝子導入または形質転換の前に五炭糖資化能を有していないものであればよく、グルコースなどの六炭糖の資化能を有していてもよい。「五炭糖資化能」は、キシロースなどの五炭糖を炭素源として生育する能力をいう。五炭糖資化能を有する酵母は、炭素源として五炭糖のみを添加した培地中で生育可能であるため、五炭糖資化能は、炭素源として五炭糖のみを添加した培地中における酵母の生育程度を600 nmまたは660 nmなどの波長での濁度を測定することで確認することができる。
GRE3:U00059、YJR096w:Z49596、YPR1:X80642、GCY1:X13228、ARA1:M95580、YDR124w:Z48758。
本発明において、GRE3は、例えば、配列番号1で示される塩基配列を基にプライマーを設計し、酵母ライブラリー又はゲノムライブラリーから遺伝子増幅技術により得ることができる。
ハイブリダイゼーションは、公知の方法によって行うことができる。ハイブリダイゼーションの方法は、例えば、「Molecular Cloning, A Laboratory Manual 4th ed.」(Cold Spring Harbor Laboratory Press(2012))、「Current Protocols in Molecular Biology」(John Wiley & Sons(1987-1997))等を参照することができる。
SOR1:L11039、SOR2:Z74294、YLR070c:Z73242。
また、本発明で使用されるSOR1は、以下のSOR1タンパク質の変異体をコードする遺伝子であってもよい:(i) 配列番号4で示されるアミノ酸配列中の1〜数個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個)のアミノ酸が欠失したタンパク質、(ii) 配列番号4で示されるアミノ酸配列中の1〜数個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個)のアミノ酸が他のアミノ酸に置換したタンパク質、(iii) 配列番号4で示されるアミノ酸配列中に1〜数個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個)のアミノ酸が付加したタンパク質および(iv) それらの変異が組み合わされたタンパク質であって、かつキシリトール脱水素酵素活性を有するタンパク質。
また、本発明で使用されるXKS1は、以下のXKS1タンパク質の変異体をコードする遺伝子であってもよい:(i) 配列番号6で示されるアミノ酸配列中の1〜数個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個)のアミノ酸が欠失したタンパク質、(ii) 配列番号6で示されるアミノ酸配列中の1〜数個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個)のアミノ酸が他のアミノ酸に置換したタンパク質、(iii) 配列番号6で示されるアミノ酸配列中に1〜数個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個)のアミノ酸が付加したタンパク質および(iv) それらの変異が組み合わされたタンパク質であって、かつキシルロースリン酸化酵素活性を有するタンパク質。
キシロース資化性遺伝子の3遺伝子は、キシロース還元酵素をコードする遺伝子(XR)とキシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子(XDH)とをタンデムに連結させた遺伝子、およびキシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子(XDH)とキシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子(XK)とをタンデムに連結させた遺伝子として酵母の染色体に挿入してもよい。すなわち、本発明は、前記3種のキシロース資化性遺伝子を、キシロース還元酵素をコードする遺伝子とキシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子とを連結した遺伝子、およびキシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子とキシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子とを連結した遺伝子として染色体上に挿入された、形質転換酵母を含む。例えば、GRE3−SOR1の融合遺伝子を含むプラスミド、およびSOR1−XKS1の融合遺伝子を含むプラスミドを用いて、酵母の染色上にキシロース資化性遺伝子を導入することができる。融合遺伝子内の遺伝子の配置の順は特に限定されず、例えば、XRとXDHとを連結した遺伝子は、XR−XDHまたはXDH−XRのいずれでもよい。同様に、XDHとXKとを連結した遺伝子は、XDH−XKでもよいし、XK−XDHでもよい。上記連結させた遺伝子カセットを用いると、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子(SOR1)の発現量が特に増加する。このような形質転換酵母は、特に優れたキシロース資化能を有し、キシロールからエタノールを効率よく生成することができる。
また、本発明で使用されるプラスミドは、酵母の染色体に遺伝子を導入可能なものであれば、特に限定されず、例えばpUC18などの市販のベクターを使用することができる。
五炭糖資化能を有していない酵母は、キシロース還元酵素をコードする遺伝子、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子およびキシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子の3つの遺伝子を全て発現しないと、キシロース利用能が付与されない。したがって、上記のように遺伝子導入した酵母をキシロース含有(エタノール不含)培地で培養することにより、形質転換酵母を選択することができる。
本発明の宿主酵母は、好ましくは内在性のキシロース資化遺伝子、すなわち、内在性のGRE3、SOR1およびXKS1の3つの遺伝子を染色体上に含むため、GRE3、SOR1およびXKS1の発現が活性化され得る。ここで、「キシロース資化遺伝子の発現が活性化される」とは、宿主酵母内に存在する当該遺伝子が、発現可能な形で活性化され、目的タンパク質を適切に発現できる状態となっていることを意味する。また、本発明の宿主酵母では、キシロース資化遺伝子の発現が活性化され得るため、キシロース資化能を獲得し得る。したがって、本発明の宿主酵母は、キシロース資化能が付与された酵母、好ましくはキシロース資化能が付与された醸造用酵母であり得る。
本発明の形質転換酵母は、前述の宿主酵母に、グルタミン酸脱水素酵素をコードする遺伝子およびキシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子から選ばれる少なくとも1つの遺伝子、好ましくはGDH2(グルタミン酸脱水素酵素遺伝子2)および前述のSOR1(ソルビトール脱水素酵素遺伝子1)から選ばれる少なくとも1つの遺伝子が発現可能に導入された酵母である。
また、本発明で使用されるGDH2は、以下のGDH2タンパク質の変異体をコードする遺伝子であってもよい:(i) 配列番号8で示されるアミノ酸配列中の1〜数個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個)のアミノ酸が欠失したタンパク質、(ii) 配列番号8で示されるアミノ酸配列中の1〜数個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個)のアミノ酸が他のアミノ酸に置換したタンパク質、(iii) 配列番号8で示されるアミノ酸配列中に1〜数個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個)のアミノ酸が付加したタンパク質および(iv) それらの変異が組み合わされたタンパク質であって、かつグルタミン酸脱水素酵素活性を有するタンパク質。
ターミネーターは、目的遺伝子の下流に組み込むことができる。
本発明において、酵母で目的遺伝子を効率よく発現させるために、PGKプロモーター及び/又はPGKターミネーターを用いることが好ましい。
ベクターにロイシン、ヒスチジン、トリプトファンなどのアミノ酸合成遺伝子カセット又はウラシル合成遺伝子カセットが含まれる場合は、当該アミノ酸又はウラシルを含まない培地で酵母を培養することにより、形質転換酵母を選択することができる。
本発明の形質転換酵母は、キシロース資化能を付与された宿主酵母にグルタミン酸脱水素酵素をコードする遺伝子およびキシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子から選ばれる少なくとも1つの遺伝子、例えばSOR1および/またはGDH2を導入したものであるため、本発明の形質転換酵母はキシロースの資化能を有する。また、本発明の形質転換酵母は、キシロースからエタノールを生産することが可能である。
また、本発明の宿主酵母は、キシロース資化能を付与された酵母であるため、キシロースからエタノールを生産することが可能である。特に、キシロース還元酵素をコードする遺伝子とキシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子とを連結させた遺伝子、およびキシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子とキシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子とを連結させた遺伝子の両方を酵母染色体に導入した形質転換酵母は、キシロースからエタノールを生産することに特に適している。以下、本発明の形質転換酵母を例に挙げてエタノールの生産方法を説明するが、キシロースの資化能を有する本発明の形質転換酵母についても、同様にエタノールの生産方法に用いることができる。
エタノールを生産させる場合、キシロースの10〜150 g/L、好ましくは70 g/Lの存在下に本発明の形質転換酵母を培養する。本培養の前に、形質転換酵母を前培養しても良い。前培養は、例えば、本発明の形質転換酵母を少量の培地に接種し、12〜24時間培養すればよい。本培養の培養量の0.1〜10%、好ましくは1%の前培養液を本培養の培地に加え、本培養を開始する。本培養は、キシロース含有培地で、0.5〜200時間、好ましくは10〜150時間、より好ましくは24〜137時間、20〜40℃、好ましくは30℃で振盪培養する。
また、エタノールの生産量を測定することにより、本発明の形質転換酵母のエタノール生産能を確認することができる。
NAD+は培養の全期間において培養系に存在させてもよいし、培養の一定期間にのみ存在させることもできる。したがって、例えば、NAD+は、培養の開始前に培養系に添加してもよいし、培養開始から所定時間経過後に培養系に添加してもよい。
また、キシリトールおよびグリセロールの生産量を測定することにより、本発明の形質転換酵母の副生成物生産抑制能やエタノール生産効率を確認することができる。
配列番号2:サッカロマイセス・セレビシアGRE3タンパク質のアミノ酸配列を示す。
配列番号3:サッカロマイセス・セレビシアSOR1の塩基配列を示す。
配列番号4:サッカロマイセス・セレビシアSOR1タンパク質のアミノ酸配列を示す。
配列番号5:サッカロマイセス・セレビシアXKS1の塩基配列を示す。
配列番号6:サッカロマイセス・セレビシアXKS1タンパク質のアミノ酸配列を示す。
配列番号7:サッカロマイセス・セレビシアGDH2の塩基配列を示す。
配列番号8:サッカロマイセス・セレビシアGDH2タンパク質のアミノ酸配列を示す。
GRE3(アルドケト還元酵素3)のキシロース還元酵素活性、SOR1(ソルビトール脱水素酵素1)のキシリトール脱水素酵素活性、およびXKS1(キシルロースリン酸酵素1)のキシルロースリン酸酵素活性を、以下の条件で測定した。
粗抽出液は、酵母培養菌体からY-PER Protein Extraction Reagent(Pierce)を用いて調製した。
以下に示す組成の反応液を調製後、30℃で5分静置し、吸光度を測定した。GRE3およびXKS1についてはNADHの酸化に基づく340nmの吸光度の減少を測定し、SOR1についてはNAD+の還元に基づく340nmの吸光度の増加を測定することによって活性を測定した。
反応液の組成は以下のとおりである。
アルドケト還元酵素(GRE3):
50mM リン酸ナトリウム緩衝液 pH 6.8
0.2mM NADPH
100mM D−キシロース
粗抽出液
ソルビトール脱水素酵素(SOR1):
50mM Tris-HCl pH8.5
1mM NAD+
5mM MgCl2
100mM キシリトール
粗抽出液
キシルロースリン酸化酵素(XKS1):
20mM リン酸ナトリウム緩衝液 pH 6.8
100mM KCl
5mM MgCl2
5mM ATP
0.2mM NADH
1mM ホスホエノールピルビン酸
5U/ml ピルビン酸キナーゼ
7U/ml 乳酸脱水素酵素
5mM キシルロース
粗抽出液
醸造用酵母のキシロース資化内在性遺伝子GRE3(アルド・ケト還元酵素遺伝子:キシロース還元酵素遺伝子の代替として利用)、SOR1(ソルビトール脱水素酵素遺伝子:キシリトール脱水素酵素遺伝子の代替として利用)およびXKS1(キシルロースリン酸化酵素遺伝子)を、PGK1プロモーター支配下にタンデムに連結した発現カセットを作製した。作製した発現カセットを用いて上記遺伝子を染色体上XYL2部位に導入し、キシロース資化能付与醸造用酵母を得た。
市販の発現ベクターpAUR135(タカラバイオ株式会社)に、PGK1プロモーター支配下に置いたSOR1またはGDH2(グルタミン酸脱水素酵素遺伝子)を組み込んだ。得られた組換えベクターを用いて、上記1.で作製したキシロース資化能付与醸造用酵母の染色体上AUR1部位にSOR1またはGDH2を導入した。得られた株をそれぞれSOR1過剰発現株およびGDH2過剰発現株とした。また、ベクターのみを組み込んだ株を同様に作製し、以下の実験で対照株として用いた。
上記2.で作製した株は、YPD(グルコース2%含有)で前培養した後、5%キシロースを含む改変CBS培地(非特許文献H. B. Klinke et al., Biotechnol. Bioeng., 81, 738 (2003):pH 5.0)15 mlを含む50 ml容三角フラスコで、初期植菌量OD600 = 20、30℃、140 rpmで旋回培養し、経時的にサンプリングを行い、発酵性を評価した。発酵代謝物は、Shodex SUGAR SP0810カラムを用い、HPLCにより定量した。菌体濃度は、分光光度計(λ=600nm)で測定した。
結果を表1に示す。SOR1過剰発現株は、対照株と比べてキシロース消費速度は変わらず、エタノール生成量に向上が認められ、副生物のキシリトールおよびグリセロールの生成量はわずかに低下した。GDH2過剰発現株は、副生物のキシリトールおよびグリセロールの生成量が減少し、また、エタノール生成量が向上した。
市販ベクターpUC18をEcoRIおよびKpnIで切断し、酵母(協会7号)染色体より増幅したδ配列前半部分(1〜240bp)を導入した。得られたベクターをPstIおよびSphIで切断し、同じく酵母(協会7号)より増幅したδ配列後半部分(241〜334bp)を導入し、ベクターpUC-δを得た。pUC-δをSmaIで切断し、PGK1プロモーター支配下に2つの遺伝子をタンデムに連結したGRE3-SOR1およびXKS1-SOR1断片を導入し、それぞれpUC-δ-GRE3-SOR1ベクターおよびpUC-δ-XKS1-SOR1ベクターを得た。GRE3、SOR1およびXKS1の各遺伝子は、協会7号由来である。
1.で得られたpUC-δ-GRE3-SOR1およびpUC-δ-XKS1-SOR1ベクターをStuIで切断し、直鎖状の断片とした後、等量ずつ混ぜ、酢酸リチウム法により焼酎酵母S-2株に導入した。遺伝子断片を導入した酵母の培養液を、アミノ酸を含んだSD-キシロース寒天プレート(キシロース5%)に塗布し、30℃で7〜10日間インキュベーションし、染色体組込み株(改良株A〜G)を得た。SC-X(キシロース5%)液体培地で形質転換株を培養し(2ml/15ml培養チューブ、140rpm, 30℃)、生育の良好な株について、培養評価をおこなった。
また、対照株として、PGK1プロモーター支配下にタンデムに連結したGRE3-SOR1-XKS1をXYL2部位に導入し、キシロース資化能付与酵母(XYL2株)を作製した。この酵母(XYL2株)についても培養評価を行った。
上記2.で作製した株は、YPD(グルコース2%含有)で前培養した後、表2に示す組成の培地15 mLを含む50 mL容三角フラスコで、初期植菌量OD600 = 20、30℃、140 rpmで旋回培養し、経時的にサンプリングを行い、発酵性を評価した。発酵代謝物は、Shodex SUGAR SP0810カラムを用い、HPLCにより定量した。菌体濃度は、分光光度計で測定した。
結果を表3に示す。上記の手法により作製した改良株A〜Gは、高いエタノール収率を示した。改良株A〜Gは、PGK1プロモーター支配下にタンデムにGRE3-SOR1-XKS1をXYL2部位に導入して作製したキシロース資化能付与酵母(XYL2株)と比べ、エタノール生成量の向上が認められた。
協会7号酵母から得られたGRE3、SOR1およびXKS1の各遺伝子を用いて、実施例2 1.と同様の方法でpUC-δ-GRE3-SOR1ベクターおよびpUC-δ-XKS1-SOR1ベクターを得た。得られたpUC-δ-GRE3-SOR1およびpUC-δ-XKS1-SOR1ベクターおよび酵母(協会7号)を用いて、実施例2 2.と同様の方法でキシロース資化能付与酵母を作製した(改良株H〜M)。
本発明の一態様において、本発明の形質転換酵母は酵母自身の有する遺伝子を使用して形質転換しているために遺伝子組換え体に該当せず、安全性や取り扱いの容易さの点で好ましい。
また、本発明の形質転換酵母は、キシロースからのエタノールへの優れた生産能を有するため、本発明の形質転換酵母を用いれば、キシロースからエタノールを効率よく生産することができる。
また、本発明の形質転換酵母は、キシリトールやグリセロールなどの副生成物の生産量減少が認められたことから、本発明の形質転換酵母を用いてエタノールを生産する際に、副生成物が蓄積するという問題を回避することができる。
Claims (13)
- キシロース還元酵素をコードする遺伝子、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子およびキシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子の3つの遺伝子を染色体上に発現可能に挿入した形質転換酵母であり、
前記酵母はキシロースからエタノールを生産する能力を有し、
前記3つの遺伝子が、キシロース還元酵素をコードする遺伝子とキシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子とを連結した遺伝子、およびキシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子とキシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子とを連結した遺伝子として染色体上に挿入され、
前記キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子が、SOR1およびSOR2からなる群から選択される遺伝子である、前記酵母。 - 前記遺伝子が当該酵母の内在性遺伝子である、請求項1に記載の酵母。
- キシロース還元酵素をコードする遺伝子が、GRE3、YJR096w、YPR1、GCY1、ARA1およびYDR124wからなる群から選択される遺伝子である、請求項1または2に記載の酵母。
- キシロース還元酵素をコードする遺伝子、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子およびキシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子が、それぞれGRE3、SOR1およびXKS1である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の酵母。
- キシロース還元酵素をコードする遺伝子、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子およびキシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子の3つの遺伝子を染色体上に発現可能に挿入した宿主酵母に、グルタミン酸脱水素酵素をコードする遺伝子およびキシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子から選ばれる少なくとも1つの遺伝子が発現可能に導入された形質転換酵母であり、
前記キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子が、SOR1およびSOR2からなる群から選択される遺伝子であり、
キシロースからエタノールを生産する能力を有する前記酵母。 - 前記遺伝子が宿主酵母に由来するものである、請求項5に記載の酵母。
- 前記グルタミン酸脱水素酵素をコードする遺伝子およびキシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子から選ばれる少なくとも1つの遺伝子が、宿主酵母の染色体上に発現可能に挿入されたものである、請求項5または6に記載の酵母。
- GRE3、SOR1およびXKS1の3つの遺伝子を染色体上に挿入した宿主酵母に、GDH2およびSOR1から選ばれる少なくとも1つの遺伝子が発現可能に導入された、請求項5〜7のいずれか1項に記載の形質転換酵母。
- キシロース還元酵素をコードする遺伝子、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子およびキシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子の3つの遺伝子を挿入される酵母が、サッカロマイセス属に属する酵母である、請求項1〜8のいずれか1項記載の酵母。
- キシロース還元酵素をコードする遺伝子、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子およびキシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子の3つの遺伝子を挿入される酵母が、サッカロマイセス・セレビシアである、請求項1〜9のいずれか1項記載の酵母。
- 請求項1〜10のいずれか1項に記載の形質転換酵母をキシロース含有培地で培養し、得られる培養物からエタノールを採取することを含む、エタノールの生産方法。
- 請求項5〜10のいずれかに記載の形質転換酵母に導入される、グルタミン酸脱水素酵素をコードする遺伝子およびキシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子から選ばれる少なくとも1つの遺伝子が、グルタミン酸脱水素酵素をコードする遺伝子であるか、または、グルタミン酸脱水素酵素をコードする遺伝子およびキシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子の両方である、請求項11に記載の方法。
- 請求項5〜10のいずれかに記載の形質転換酵母に導入される、グルタミン酸脱水素酵素をコードする遺伝子およびキシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子から選ばれる少なくとも1つの遺伝子が、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子であり、前記培養工程がNAD+の存在下において行われる、請求項11に記載の方法。
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