以下、本発明のディスクブレーキ装置に係る実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
まず、図1〜図22を参照して、第1の実施形態に係るディスクブレーキ装置について説明する。ここで、図1は、本実施形態に係るディスクブレーキ装置の正面図である。また、図2は、本実施形態に係るディスクブレーキ装置の右側面断面図である。また、図3は、本実施形態に係るディスクブレーキ装置の部分断面平面図である。また、図4は、本実施形態に係るディスクブレーキ装置の背面図である。また、図5は、本実施形態に係るディスクブレーキ装置の右下側斜視図である。さらに、図6は、本実施形態に係るディスクブレーキ装置の右上側斜視図である。なお、図7〜図22は、本実施形態に係るディスクブレーキ装置を構成する各要素単位の図面であり、詳細は後述することとする。
本実施形態に係るディスクブレーキ装置10は、サポート12とキャリパ30、インナ側ブレーキパッド60、アウタ側ブレーキパッド80、およびロータ100を基本として構成される。ここで、その全容を図示しないロータ100は、車輪(不図示)と共に供回りするリング状の摩擦板であり、詳細を後述するインナ側ブレーキパッド60、およびアウタ側ブレーキパッド80により摩擦面を挟み込むことで、摺動面に摩擦力を生じさせ、車輪の回転を抑制し、制動力を得る。
サポート12は、図7〜図10に示すように、一対のインナ側トルク受け部14a,14bと、インナ側ブリッジ部28、ロータパス部22a,22b、および一対のアウタ側トルク受け部24a,24bを基本として構成される。なお、図面において図7はサポートの正面図、図8は、右側面図、図9は平面図、図10は背面図をそれぞれ示す。
インナ側トルク受け部14a,14b、アウタ側トルク受け部24a,24bは共に、詳細を後述するインナ側ブレーキパッド60あるいはアウタ側ブレーキパッド80による制動トルクを受け止め、制動力を生じさせる役割を担う。
インナ側トルク受け部14a,14bは、ロータの回周面に沿ってロータの回入側と回出側にそれぞれ配置される。ロータ回入側に配置されたインナ側トルク受け部14bとロータ回出側に配置されたインナ側トルク受け部14aとの間には、両者を接続するインナ側ブリッジ部28が設けられ、正面からの投影面が略U字型を成すように構成されている(例えば図7参照)。
インナ側トルク受け部14a,14bには、取り付け孔16と、ガイド穴18a,18b、およびトルク受け面20a,20bが形成されている。取り付け孔16は、サポート12を車両に固定するための孔であり、本実施形態の場合には、一対のインナ側トルク受け部14a,14bの下部側にそれぞれ設けられている。取り付け孔16を複数設けることで、固定されたサポート12の回り止めを成すことができる。なお、取り付け孔16には、ネジ山が形成されており、雌ネジ孔の体を成す。
ガイド穴18a,18bは、詳細を後述するキャリパ30をロータ軸方向へスライドさせるためのガイドピン50a,50bを挿入可能な袋穴である。ガイド穴18a,18bは、ディスクブレーキ装置10を組付けた状態においてロータ100の外周側に位置する個所に設けられる。また、ガイド穴18a,18bは、ロータ100の外周側に配置されるロータパス部22a,22bにまで穿孔されることで、ガイドピン50a,50bへのダストの付着を防止すると共に、ガイドピン50a,50bのスライド量を確保することができる。
トルク受け面20a,20bは、ロータ100の回入側と回出側に配置されたインナ側トルク受け部14a,14bの対向面に形成される切削面である。本実施形態の場合、インナ側トルク受け部14a,14bにおけるトルク受け面20a,20bは、ガイド穴18a,18b形成箇所の下部側に設け、その上部に段差部を設け、インナ側ブレーキパッド60の逃げ面を構成することとした。トルク受け面20a,20bの形成位置をインナ側トルク受け部14a,14bとインナ側ブリッジ部28との接続部に近付けることで、制動トルク付加時におけるサポート12の歪みを抑制することができる。また、トルク受け面20a,20bを、ロータ回入側と回出側において対向する一面のみとすることで、切削面を当該対向面のみとすることができる。
アウタ側トルク受け部24a,24bは、トルク受け面26a,26bを有する。本実施形態に係るサポート12におけるアウタ側トルク受け部24a,24bは、ガイド穴18a,18bが穿孔されているロータパス部22a,22bの先端側延設部により構成される。アウタ側トルク受け部24a,24bの構成を簡素化することにより、サポート12の小型化、軽量化を図ることができる。
アウタ側トルク受け部24a,24bにおけるトルク受け面26a,26bは、アウタ側トルク受け部24a,24bを構成するロータパス部22a,22bにおけるロータ回入側と回出側の対向面を互いに平面切削することで構成される。このようにしてトルク受け面26a,26bを形成することによれば、加工を必要とする面がアウタ側ブレーキパッド80と接触することとなる一面だけとなる。
上記のような構成のサポート12では、インナ側トルク受け部14a,14b、アウタ側トルク受け部24a,24b共に切削による加工面を1面のみとしている。このため、汎用機器での加工が容易となり、従来の溝加工のような特殊工具によるブローチ加工や、フライスによる加工が不要となり、加工性が向上し、加工時間、および加工費用の低減を図ることができる。
キャリパ30は、図11〜図13に示すように、キャリパ本体32、爪部44a,44b、およびブリッジ部42を基本として構成されている。なお、図面において図11はキャリパの正面図、図12はキャリパの右側面図、図13はキャリパの背面図をそれぞれ示す。
キャリパ本体32は、ロータ100のインナ側に配置され、シリンダ34、およびアーム部38a,38bを備える。シリンダ34には図2に示すように、オイルシール34aやダストシール34bを設けるための溝が形成されると共に、カップ状のピストン36が配置される。なお、ピストン36は、カップ底部をシリンダ34の底部側へ向けて配置される。このような構成とすることで、シリンダ34への作動油の流入に伴い、ピストン36がロータ100側へ押し出されることとなる。なお、シリンダ34の配置位置は、キャリパ30をサポート12へ組付けた状態で、ロータ100の摺動面と対向する位置とすることが望ましい。ロータ100に押し付けるインナ側ブレーキパッド60への力の伝達にロスや偏りが生じ難くなるからである。
アーム部38a,38bは、キャリパ30をサポート12へ組み付ける際の基点であり、シリンダ34の外壁を基点として、ロータ100の回入側と回出側の双方に対を成すように延設されている。アーム部38a,38bの先端部には、詳細を後述するガイドピン50a,50bを螺合するための雌ネジ孔40a,40bが形成されている。ガイドピン50a,50bが、上述したガイド穴18a,18bに挿入されることで、キャリパ30の軸方向への摺動が可能となるため、サポート12におけるガイド穴18a,18bの中心ピッチと、アーム部38a,38bにおける雌ネジ孔40a,40bの中心ピッチとは、両者が一致するように構成する。
ガイドピン50a,50bは、摺動部52a,52bと固定部54a,54b、およびボルト頭56a,56bを備えたピンである(図3参照)。摺動部52a,52bは、サポート12におけるガイド穴18a,18bの直径より僅かに小さな直径を有し、その長さは、少なくともキャリパ30の摺動距離以上とすれば良い。これにより、ガイド穴18a,18bに対するガイドピン50a,50bの挿入、および摺動が可能となる。固定部54a,54bは、アーム部38a,38bに設けられた雌ネジ孔40a,40bに螺合可能な雄ネジを有する。このような構成とすることで、ボルト頭56a,56bを介して締め付けを行うことにより、ガイドピン50a,50bをアーム部38a,38bに固定することができる。なお、組付けの構造上、固定部54a,54bよりも摺動部52a,52bの直径を小さくすることは言うまでもない。本実施形態では、摺動部52a,52bと固定部54a,54bとの境界位置に括れ部58を形成し、組み付け状態においてガイド穴18a,18bの入口と括れ部58との間を覆うブーツ59を設ける構成としている。ブーツ59は、ゴムなどの弾性部材により蛇腹状に形成された被覆部材であり、ガイドピン50a,50bの摺動に合わせてロータ100の軸方向に伸縮することで、ガイド穴18a,18bに出入りする摺動部52a,52bに塵埃が付着することを防止する役割を担う。
爪部44a,44bは、ロータ100のアウタ側に配置され、キャリパ本体32におけるシリンダ34の対向位置を挟み込むように、ロータ100の回入側と回出側に一対設けられる反力受けである。ロータ100の回入側に配置された爪部44bには回入側に、ロータ100の回出側に配置された爪部44aには回出側に、それぞれ張り出したフランジ部46b,46aが形成されている。フランジ部46a,46bは、爪部44a,44bに比べて、その厚みを薄く形成されており、キャリパ30の重量の増加を抑制している。フランジ部46a,46bには、詳細を後述するアウタ側ブレーキパッド80における凸部88a,88bが遊嵌される遊嵌部(凹部や貫通孔等を含む。なお、以下の説明では、特に具体例を示さない限り図示に倣い、貫通孔48a,48bと称す。)が設けられている。貫通孔48a,48bに凸部88a,88bを遊嵌させることで、アウタ側ブレーキパッド80の保持と回り止めの双方の役割を果たすことが可能となる。
フランジ部46a,46bは、図11、図13から読み取れるように、その投影面がキャリパ本体32におけるシリンダ34の外壁を避ける位置に設けられている。具体的には、キャリパ30の中心を基点として、ロータ100の回入側に設けられたフランジ部46bは、シリンダ34の外壁よりも回入側に、ロータ100の回出側に設けられたフランジ部46aは、シリンダ34の外壁よりも回出側にそれぞれ設けられ、シリンダ34の形成位置と重ならないように構成されている。このような構成とすることで、貫通孔48a,48bの形成を、キャリパ本体32側から行うことが容易となる。キャリパ本体32側から貫通孔48a,48bの形成を行うことによれば、フランジ部46a,46bのロータ対向面に、貫通孔形成時のバリが生ずることが無いからである。
また、爪部44a,44bの回入側と回出側にそれぞれフランジ部46a,46bを設け、このフランジ部46a,46bに貫通孔48a,48bを設ける構成としたことにより、爪部44a,44bに直接貫通孔や凹部を設ける構成に比べて貫通孔48a,48b間のピッチを長くすることができる。アウタ側ブレーキパッド80を保持するための貫通孔48a,48b間のピッチを長くすることによれば、図25に示すようにアウタ側ブレーキパッド80を回転させる方向のガタツキを小さくすることができ、いわゆるラトル音の抑制に寄与することができる。
具体的には、爪部44a,44bに凹部、または貫通孔を設けた場合の中心間ピッチをL0、本実施形態にかかる貫通孔48a,48b間のピッチをL1、凸部の半径をr、凸部と凹部(貫通孔)との間の隙間をΔr(片側当たり)とした場合、それぞれの回転角度θ0、θ1について、次のような計算が成り立つ。なお、図25においては、凸部中心点O0と中点O、および凸部頂点Pa0の成す角をθa0、凹部中心点(凸部中心点O0)と、中点O、および凹部頂点Pb0の成す角をθb0とする。また、凸部中心点O1と中点O、および凸部頂点Pa1の成す角をθa1、貫通孔中心点(凸部中心点O1)と中点O、および貫通孔頂点Pb1の成す角をθb1とする。
三角関数の基本式によれば、
が成り立つ。そして、中心間距離(ピッチ)をL
0とした場合の回転角度θ
0と、中心間距離(ピッチ)をL
1とした場合の回転角度θ
1は、それぞれ数式2のようにして求めることができる。
上記数式1に、θ
a0、θ
b0を求めるための半径距離(rまたはr+Δr)と中心間距離(ピッチL
0)を代入し、これを数式2に適用すると、中心間距離L
0の場合における回転角度θ
0を求める式である数式3を得ることができる。
一方、数式1に、θ
a1、θ
b1を求めるための半径距離(rまたはr+Δr)と中心間距離(ピッチL
1)を代入し、これを数式2に適用すると、中心間距離L
1の場合における回転角度θ
1を求める式である数式4を得ることができる。
数式3と数式4の比較において、L1>L0が前提要件として存在するため、θ0とθ1との関係は、θ0>θ1となる。したがって、アウタ側ブレーキパッド80における凸部88a,88bとの間のロータ半径方向の隙間(遊び=Δr)が同等であった場合でも、キャリパ30の中心からの距離(中心間距離)が長い分、アウタ側ブレーキパッド80を回転させる方向のガタを小さくすることができる。
また、本実施形態では、例えば図13に示すように、貫通孔48a,48bのロータ半径方向位置を、シリンダ34におけるロータ半径方向位置よりもロータ半径方向内側に配置する構成としている。アウタ側ブレーキパッド80を遊嵌するための貫通孔(凹部)を爪部44a,44bに設ける場合、貫通孔の配置箇所をロータ100の半径方向内側に位置させるほど、キャリパ30の剛性低下への影響が少ない。一方、爪部44a,44bは、その形態的特性から、先端、すなわちロータ100の半径方向内側ほど、ロータ100の円周方向に沿った幅が狭くなるように構成されている。このため、爪部44a,44bに直接貫通孔を設ける構成では、貫通孔周囲に必要とされる最低肉厚の不足、爪部44a,44bの剛性不足といった問題が生じ、爪部44a,44bの肉厚増加や、幅増加といった手段を採る必要があった。これに対し、本実施形態では、爪部44a,44bとは別に構成されたフランジ部46a,46bに貫通孔48a,48bを設ける構成としたため、爪部44a,44bの肉厚や幅を増加させること無く、従来よりもロータ100の半径方向内側に貫通孔48a,48bを設けることが可能となった。
また、本実施形態に係るディスクブレーキ装置10では、フランジ部46a,46bにおけるアウタ側ブレーキパッド80との対向面と、爪部44a,44bにおけるアウタ側ブレーキパッド80との対向面との間に、段差部を設けるようにしている。段差部は、フランジ部46a,46bとアウタ側ブレーキパッドとの間に間隙を設けるように形成されている。
アウタ側ブレーキパッド80には、詳細を後述するように、プレッシャプレート82のプレート本体82aに、フランジ部46a,46bの貫通孔48a,48bに遊嵌される凸部88a,88bが形成されている。凸部88a,88bは、エンボスなどのプレス加工により形成されるため、凸部88a,88bの周囲の板面の平面度は悪化するという傾向がある。こうした実状から、フランジ部46a,46bと爪部44a,44bとの間に設ける段差部は、凸部88a,88bの周囲の歪みの高さよりも高く、凸部88a,88bの高さよりも低いものであれば良い。
このような構成とすることにより、凸部88a,88b形成のために平面度が悪化したアウタ側ブレーキパッド80における凸部88a,88bの周囲の面(プレート本体82a)と貫通孔48a,48bを設けたフランジ部46a,46bの対向面とが面接触せず、アウタ側ブレーキパッド80の押圧は、爪部44a,44bのみで行われることとなる。このため、不安定接触に伴うノイズや、アウタ側ブレーキパッド80の押圧バランスの崩れが抑制される。このような効果に起因して、凸部88a,88bの周囲の平面度管理を厳しく行う必要が無くなり、アウタ側ブレーキパッド80の製造コストの上昇を抑えることが可能となる。
ブリッジ部42は、ロータ100の外周を跨いでキャリパ本体32と爪部44a,44bを連結する連結部である。ブリッジ部42の中央には、開口部42aが設けられ、所謂オープンバック構造のキャリパ30を構成している。開口部42aは、制動時に生ずる摩擦熱の放熱や、詳細を後述するブレーキパッドにおけるライニングの減り具合を視認するための役割を担う。
インナ側ブレーキパッド60は、キャリパ本体32におけるピストン36に保持されるブレーキパッドである。インナ側ブレーキパッド60は図14〜図16に示すように、プレッシャプレート62と、ライニング72を基本として構成される。なお、図面において図14はインナ側ブレーキパッドの正面図、図15はインナ側ブレーキパッドの右側面図、図16はインナ側ブレーキパッドの背面図をそれぞれ示す。
インナ側ブレーキパッド60におけるプレッシャプレート62は、プレート本体62aと耳部70a,70bを有する。プレート本体62aの正面投影形状は、ロータ100の摺動面の形状に沿った円弧状を成し、ライニング貼付面には、ライニング72のズレ防止のための凹溝64が複数(実施形態の例では2つ)設けられている。一方、ライニング貼付面(以下、表面と称す)と反対側の面(以下、裏面と称す)には、組付け用バネ74(図2参照)を固定するための凸状のバネ組付け部66が形成されている。なお、バネ組付け部66の形成は、エンボス加工によれば良い。プレート本体62aのロータ回出側と回入側にはそれぞれ、当接面68a,68bが形成されている。当接面68a,68bは、サポート12に形成されたトルク受け面20a,20bに接触することで、制動トルクをサポート12に伝達する役割を担う。インナ側ブレーキパッド60における当接面68a,68bは、インナ側トルク受け部14a,14bにおけるトルク受け面20a,20bに対向させるため、ブレーキパッドの重心位置よりも下側に設けられている。
耳部70a,70bは、上述したプレート本体62aにおける当接面68a,68bの上部に、ロータ100の回入側、回出側それぞれに張り出すように設けられる。サポート12におけるトルク受け面20a,20bとガイド穴18a,18bを有するロータパス部22a,22bとの間の段差に引っ掛かる形態となる。
ライニング72は、ロータ100における摺動面との接触を成す摩擦部材である。ライニング72の正面投影形状は、ロータ100の摺動面の形状に沿った扇形としている。ライニング72におけるロータ対向面は平坦に形成されており、必要に応じて、ダストの排出や放熱を目的とした溝(不図示)が形成される。ライニング72におけるプレート本体62aの対向面には、プレート本体62aに形成した凹溝64に嵌り込む凸部が形成されている。なお、ライニング72とプレート本体62aとの接合は、耐熱性接着剤などにより行えば良い。
このような基本構成を有するインナ側ブレーキパッド60は、図2に示すように、プレート本体62aに形成したバネ組付け部66に組付け用バネ74を組み付け、この組付け用バネ74をカップ状のピストン36の凹部内壁に付勢させることでキャリパ30に保持される。
アウタ側ブレーキパッド80は、爪部44a,44b(爪部44a,44bにおけるフランジ部46a,46b)に形成された貫通孔48a,48bを基点として、蝶バネ96により保持されるブレーキパッドである。アウタ側ブレーキパッド80もインナ側ブレーキパッド60と同様に、プレッシャプレート82とライニング94を基本として構成される。図17〜図20は、アウタ側ブレーキパッドの構成を示す図面であり、図17はアウタ側ブレーキパッドの正面図、図18はアウタ側ブレーキパッドのA−A断面図、図19はアウタ側ブレーキパッドのB−B断面図、図20はアウタ側ブレーキパッドの背面図をそれぞれ示す。
プレッシャプレート82は、プレート本体82aと耳部90a,90bにより構成されている。プレート本体82aにおけるライニング貼付面(以下、表面と称す)には、インナ側ブレーキパッド60と同様に、ライニング94を貼付するための凹溝84が設けられている。一方、ライニング貼付面と反対側の面(以下、裏面と称す)には、アウタ側ブレーキパッド80を保持するための蝶バネ96を固定するための凸状のバネ組付け部86と、爪部44a,44bのフランジ部46a,46bに形成した貫通孔48a,48bに遊嵌させる凸部88a,88bが形成されている。
本実施形態に係るアウタ側ブレーキパッド80では、凸部88a,88bの形態を長円形状としている。具体的には、ロータ100の半径方向に沿って配される軸を長軸、円周方向に沿って配される軸を短軸とした長円としている。このような構成とすることで、フランジ部46a,46bに形成された円形の貫通孔48a,48bとの関係において、ロータ100の半径方向に設けられる隙間と、円周方向に設けられる隙間とを異ならせることができる。本実施形態に係る凸部88a,88bの場合、ロータ100の半径方向に設けられる隙間よりも、円周方向に設けられる隙間の方が大きくなる。なお、バネ組付け部86や凸部88a,88bは、エンボス加工により形成することができる。また、エンボス加工によりバネ組付け部86や凸部88a,88bを形成した場合には、表面における対応位置には、バネ組付け部86や凸部88a,88bの形成位置に凹部が形成されることとなる。
耳部90a,90bは、プレート本体82aにおけるロータ回入側端部と回出側端部のそれぞれから、回入側、回出側へ向けて延設されている。アウタ側ブレーキパッド80は、耳部90a,90bに当接面92a,92bを形成する。このため、耳部90a,90bの配置高さをロータパス部22a,22bの先端に形成されたアウタ側トルク受け部24a,24bのトルク受け面26a,26bに合わせる必要がある。よって、アウタ側ブレーキパッド80における耳部90a,90bは、ロータ100の半径方向外側に向けた傾斜を持って延設され、その回出側端部、および回入側端部をそれぞれ当接面92a,92bとしている。このため、アウタ側ブレーキパッド80における当接面92a,92bは、ロータ100の外周側、すなわちブレーキパッドの中心よりも半径方向外側に配置されることとなる。
アウタ側ブレーキパッド80の爪部44a,44bへの組み付けは、凸部88a,88bをフランジ部46a,46bの貫通孔48a,48bへ遊嵌させると共に、蝶バネ96を利用してアウタ側ブレーキパッド80を爪部44a,44bへ付勢させることで成す。具体的には、アウタ側ブレーキパッド80におけるプレート本体82aの裏面と、蝶バネ96との間に爪部44a,44bを挟み込むようにすれば良い。本実施形態のように、蝶バネ96による爪部44a,44bの挟み込み位置と、凸部88a,88bの遊嵌位置を平面的にズラすことで、蝶バネの挟み込み位置と凸部の遊嵌位置とが一致する場合に比べ、組み付け性が格段に上昇するといった効果を得ることができる。
次に、上記のような構成のディスクブレーキ装置10における制動時の動作について説明する。
まず、キャリパ30におけるキャリパ本体32のシリンダ34内に作動油が供給される。作動油の供給に伴ってシリンダ34内に収容されているピストン36がロータ100側へ突出する。ピストン36が突出することにより、ピストン36に保持されたインナ側ブレーキパッド60がロータ100の摺動面へと押し付けられる。
インナ側ブレーキパッド60がロータ100の摺動面に押し付けられると、その反力を受け、ガイドピン50a,50bを基点としてキャリパ本体32が、ロータ100と離間する方向へと移動する。キャリパ本体32の移動に伴い、ブリッジ部42で接続された爪部44a,44bは、ロータアウタ側において、ロータ100の摺動面側へと引き付けられる。爪部44a,44bには、アウタ側ブレーキパッド80が保持されているため、ロータ100は、インナ側ブレーキパッド60とアウタ側ブレーキパッド80の双方により挟持される。
ロータ100がインナ側ブレーキパッド60とアウタ側ブレーキパッド80により挟持されると、インナ側ブレーキパッド60とアウタ側ブレーキパッド80はそれぞれロータ100との間に摩擦力を生じさせ、ロータ100と共に供回りする方向の力を受ける。そして、インナ側ブレーキパッド60は、ロータ回出側に配置されたインナ側トルク受け部14aのトルク受け面20aに接触し、制動トルクがサポート12へと伝達される。
アウタ側ブレーキパッド80も、制動初期の段階ではロータ回出側に配置されたアウタ側トルク受け部24aのトルク受け面26aに接触する。その後、制動トルクが増大した場合には、ロータ回出側に設けられたアウタ側トルク受け部24aがロータ回出側へ僅かに撓むように移動する。ロータ回出側に設けられたアウタ側トルク受け部24aが僅かに撓むことにより、アウタ側ブレーキパッド80が、撓み分だけロータ回出側へ移動する。この移動に伴い、フランジ部46a,46bに形成した貫通孔48a,48bのロータ回出側内周面に、アウタ側ブレーキパッド80に形成された凸部88a,88bが接触する。アウタ側ブレーキパッド80における凸部88a,88bがフランジ部46a,46bにおける貫通孔48a,48bの内周面に接触すると、制動トルクがキャリパ30に伝達されてキャリパ30がロータ回出方向に移動する。
キャリパ30がロータ100の回出方向へ移動すると、キャリパ30におけるロータ回入側のアーム部38bに固定されたガイドピン50bがサポート12に形成されたガイド穴18bの内周面(ロータ回出側内周面)に接触する。この接触により、制動トルクがサポート12へと伝達される。
サポート12は、取り付け孔16を介して車両本体に固定されているため、ブレーキパッドから伝達された制動トルクを受け止めることができる。
このように、アウタ側トルク受け部24a,24bに付加された制動トルクの分散を図るためには、アウタ側トルク受け部24a(24b)のトルク受け面26a(26b)とアウタ側ブレーキパッド80の当接面92a(92b)との隙間をA、アウタ側ブレーキパッド80の凸部88a,88bと爪部44a,44bにおけるフランジ部46a,46bの貫通孔48a,48bとのロータ円周方向隙間をB、ロータ回入側におけるガイドピン50bとガイド穴18bとの間の隙間をCとし、制動トルク付加時におけるアウタ側トルク受け部24aの撓み量をΔAとした場合、それぞれ次のような大小関係を持つようにすると良い(図22参照)。
まず、隙間Aと隙間Bとの関係において、隙間A<隙間Bの関係を有する。すなわち、隙間A<隙間Bの関係を持つことにより、貫通孔48a,48bと凸部88a,88bが接触するよりも先に、トルク受け面26aに当接面92aが接触することとなる。
次に、(隙間B−隙間A)が、撓み量ΔAよりも小さくなる関係を持つ(即ち、(B−A)<ΔAの関係を持つ)。このような関係を有することにより、制動トルクの増加に伴ってアウタ側トルク受け部24aがロータ回出側に撓んだ際に、アウタ側ブレーキパッド80がロータ回出側へ移動する。これに伴い、貫通孔48a,48bにおけるロータ回出側内周面に凸部88a,88bが接触し、キャリパ30に制動トルクが入力されることとなる。
そして、(撓み量ΔA−(隙間B−隙間A))が、隙間Cよりも大きくなるようにする(即ち、(ΔA−(B−A))>Cの関係を持つ)。このような関係を持つことにより、撓み量ΔAの範囲でガイドピン50bがガイド穴18bの内周面に接触することとなり、制動トルクがロータ回入側のアウタ側トルク受け部24b(サポート12)に入力されることとなる。
このような構成、作用を有するディスクブレーキ装置10では、アウタ側ブレーキパッド80における凸部88a,88bを遊嵌させる貫通孔48a,48b間の距離(中心間距離)を従来よりも広げるようにすることで、貫通孔48a,48bと凸部88a,88bにおけるロータ半径方向の隙間(クリアランス)が同じであっても、アウタ側ブレーキパッド80のガタつき角度を小さくすることができ、ラトル音の抑制に寄与することができる。
また、投影面においてシリンダ34の外壁に掛からない位置にフランジ部46a,46bを設け、当該フランジ部46a,46bに貫通孔48a,48bを設ける構成としたため、キャリパ30のインナ側からであっても、特別な工具や設備を使用することなく穴加工を行うことが可能となる。よって、生産性が向上し、加工コストも抑制することができる。
また、爪部44a,44bに直接穴加工を行う事無く、爪部44a,44bにフランジ部46a,46bを設け、このフランジ部46a,46bに穴加工を施すことにより、穴加工による爪部44a,44bの剛性低下を防ぐことができる。さらに、貫通孔48a,48bを設けた箇所は、反力受けである爪部44a,44bによるアウタ側ブレーキパッドに対する押圧に寄与しない。このため、アウタ側ブレーキパッド80においては、ライニング94の貫通孔対応箇所(プレッシャプレート82における凸部形成箇所対応面)は、摺動面としての面圧が小さくなる。本実施形態に係るディスクブレーキ装置10では、こうした面圧が小さくなる部位をアウタ側ブレーキパッド80のロータ円周方向端部側に配置することで、ブレーキの引き摺りによる騒音である所謂鳴きの抑制に寄与することができる。
その他の効果として、サポート12に対する制動トルクの入力が、制動トルクの大きさに応じて段階的に分散して制動トルクが入力されることとなり、サポート12のアウタ側ブリッジが不要となる。
サポート12のアウタ側ブリッジが不要となることにより、サポート12の小型・軽量化、すなわち、ディスクブレーキ装置10の小型・軽量化を図ることができる。また、本実施形態に係るディスクブレーキ装置10のサポート12は、アウタ側トルク受け部24a,24bをロータパス部22a,22bの先端部に設けている。このため、インナ側トルク受け部とアウタ側トルク受け部、およびロータパス部が側面視形態を逆U字状としていた従来のサポートに比べ、鋳物の形成が容易となる。さらに、インナ側トルク受け部14a,14b、アウタ側トルク受け部24a,24b共に切削面は、ブレーキパッドが接触する1面のみとすることができ、加工性が良い。また、サポート12の切削加工に際し、複雑な溝加工が無いため、特殊工具を用いたブローチ加工や、フライス加工における複雑な制御が不要となる。
また、アウタ側ブレーキパッド80における凸部88a,88bを長軸をロータ100の半径方向、短軸を円周方向とした長円とすることで、円形の貫通孔48a,48bに対し、半径方向のガタは小さくし、円周方向のガタを大きくすることができる。このため、貫通孔48a,48bと凸部88a,88bのクリアランスを調整することで、サポート12に対する制動トルクを分散入力させるタイミングを調整することができる。
上記実施形態では、アウタ側ブレーキパッド80に設ける凸部88a,88bを長円としていたが、凸部88a,88bの形状はこれに限らず、図23に示すような楕円形状としても良い。凸部88a,88bの形状を楕円とした場合であっても、上記実施形態に係るディスクブレーキ装置10と同様な効果を奏することができるからである。
また、上記実施形態では、凸部88a,88bを長円形、貫通孔48a,48bを円形としていたが、これは、量産時における加工性を重視した場合の一例であり、例えば図24に示すように、凸部88a,88bを円形、貫通孔48a,48bを長円形とした場合であっても、上記実施形態に係るディスクブレーキ装置10と同様な効果を奏することができる。ここで、長円形とする貫通孔48a,48bは、長軸をロータ100の円周方向、短軸をロータ100の半径方向として形成する。これにより、正面投影形状を円形とする凸部88a,88bのロータ半径方向の動きを制限しつつ、円周方向に自由度を持たせることができるようになるからである。
また、本発明における課題を解決するためには、アウタ側ブレーキパッド80を遊嵌させる一対の貫通孔48a,48b(凹部)間の距離を、従来よりも広くし、望ましくはロータ100のインナ側から穴加工を行うことができる構成とすれば良い。このため、爪部44a,44bに設ける貫通孔の形態や、アウタ側ブレーキパッド80のプレッシャプレート82に設ける凸部の形態については特に限定する必要は無く、例えば貫通孔と凸部が互いに円形であったとしても、本発明の一実施形態とすることができる。また、フランジ部を形成する爪部の形態についても、2本一対の形態に限定するものでは無い。