JP5787335B2 - アセチルコリンエステラーゼ遺伝子 - Google Patents
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Description
アセチルコリンエステラーゼは動物において神経伝達に関わる酵素として知られており、アセチルコリンを加水分解し、コリンと酢酸を生成する加水分解酵素である。一方、微生物もアセチルコリンエステラーゼを生産することが知られており、その生産菌としてPseudomonas属細菌が知られている。本発明者は、新たな研究テーマとしてアセチルコリンエステラーゼを取り上げようとした。
(i)アセチルコリンエステラーゼ
本明細書において「アセチルコリンエステラーゼ」(AChE、真性コリンエステラー)とは、アセチルコリンをコリンと酢酸に分解する酵素活性を有する酵素を意味する。なお、本明細書において「アセチルコリンエステラーゼ」は、天然のアミノ酸配列のアセチルコリンエステラーゼのみならず、天然のアセチルコリンエステラーゼのアミノ酸配列を改変してなる変異アセチルコリンエステラーゼを含む概念であるものとする。また、本明細書において「アセチルコリンエステラーゼ遺伝子」は、天然の塩基配列のアセチルコリンエステラーゼ遺伝子のみならず、天然のアセチルコリンエステラーゼ遺伝子の塩基配列を改変してなる変異アセチルコリンエステラーゼ遺伝子を含む概念であるものとする。
本明細書において「シュードモナス・エルギノーザ」(別名:緑膿菌、Pseudomonas aeruginosa)とは、グラム陰性好気性桿菌に属する真正細菌の一種を意味する。2000年には、緑膿菌のPAO1株の全ゲノム解読が完了しているが、2010年現在の本願出願時でも未だPAO1株の全ゲノム上のどのORFがアセチルコリンエステラーゼ遺伝子であるのはか公知ではなかった。
本明細書において「相同性」とは、2つもしくは複数間のアミノ酸配列の同一のアミノ酸数の割合を、当該技術分野で公知の方法に従って算定したものである。割合を算定する前には、比較するアミノ酸配列群のアミノ酸配列を整列させ、同一の割合を最大にするために必要である場合はアミノ酸配列の一部に間隙を導入する。また、いかなる保存的置換も同一と考えない。また、最適に整列した状態において、オーバーラップするアミノ酸を含めた全アミノ酸残基に対する、同一のアミノ酸数の割合を意味する。整列のための方法、割合の算定方法、およびそれらに関連するコンピュータプログラムは、当該技術分野で従来からよく知られており、一般的な配列分析プログラム(例えば、GENETYX、GeneChip Sequence Analysisなど)を使用して測定することができる。また「相同性」は、2つもしくは複数間のDNA鎖、または2つもしくは複数間のRNA鎖において、同一の塩基の割合を、上記と同様に当該技術分野で公知の方法に従って算定したものである。
本明細書においてポリヌクレオチドに適用される場合の「ハイブリダイズ」とは、ヌクレオチドの塩基間の水素結合等によってヌクレオチド間の対ができる性質のことを表す。塩基対はワトソン・クリック型塩基対、フーグスティーン型塩基対、または任意の他の配列特異的な形で生じうる。塩基対は二本鎖構造を形成する二本鎖、複数本鎖複合体を形成する3本以上の鎖、単一の自己ハイブリダイズ鎖、またはこれらの任意の組み合わせを含む。ハイブリダイゼーション反応は、PCR反応の開始またはリボザイムによるポリヌクレオチドの酵素的切断のような場合にも起こりうる。ハイブリダイゼーションが2つの1本鎖ポリヌクレオチド間において逆平行配置で生じる場合、それらのポリヌクレオチドは「相補的である」または「相補鎖」と言われる。
本明細書において「ストリンジェントな条件」とは、例えば(1)洗浄のための低イオン強度と高温度、例えば、50℃において0.015Mの塩化ナトリウム/0.0015Mのクエン酸ナトリウム/0.1%のドデシル硫酸ナトリウムを用いる、(2)ハイブリダイゼーション中にホルムアミド等の変性剤、例えば、42℃において50%(vol/vol)ホルムアミドと0.1%ウシ血清アルブミン/0.1%フィコール/0.1%ポリビニルピロリドン/50mMリン酸ナトリウムバッファー(pH6.5)、および750mMの塩化ナトリウム、75mMクエン酸ナトリウムを用いる、(3)42℃において50%ホルムアミド、5×SSC(0.75MのNaCl、0.075Mのクエン酸ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH6.8)、0.1%のピロリン酸ナトリウム、5×デンハート液、超音波処理サケ精子DNA(50μg/ml)、0.1%SDS、および10%のデキストラン硫酸と、42℃において0.2xSSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)中での洗浄および55℃のホルムアミド、次いで55℃におけるEDTAを含む0.1×SSCからなるストリンジェントな洗浄を含む条件であっても良い。なお、ハイブリダイゼーション反応のストリンジェンシーは、当業者によって容易に決定でき、一般的にプローブ長、洗浄温度、および塩濃度に依存する。一般に、長いプローブは適当なアニーリングのために高温を必要とし、短いプローブは低温を必要とする。また一般に、ストリンジェンシーは塩濃度に逆比例する。
本明細書において「コールドショックプロモーター」とは、通常の培養温度から低温に移すとコールドショックを受け、制御する遺伝子の発現量を安定的に増加させるプロモーターをいう。具体的には、例えば、大腸菌では通常の培養温度(37℃)から低温(10〜15℃)に移すとコールドショックを受け、常温で発現している遺伝子の発現レベルが極端に減少し、コールドショックプロモーターが制御するコールドショックタンパク質の遺伝子の発現が増加する。
(vii)シャペロン
本明細書において「シャペロン」 (chaperone)とは、他のタンパク質分子が正しい折りたたみ(フォールディング)をして機能を獲得するのを助けるタンパク質の総称を意味する。大腸菌をはじめとする真正細菌で機能するシャペロンにGroEL(グループI型シャペロニン)がある。このシャペロンはコシャペロン(シャペロン補助因子)GroESの共存によって正常に機能することができる。GroELとGroESはシャペロニンとコシャペロニンと呼ばれることもある(シャペロンとして最初に明らかにされたためこう命名された)。
<実施形態1:アセチルコリンエステラーゼ遺伝子>
本実施形態に係るシュードモナス・エルギノーザのPA01株由来のアセチルコリンエステラーゼ遺伝子は、配列番号1で表される924残基の塩基配列からなる遺伝子である。この塩基配列からなる遺伝子は、後述する実施例で示すように、シュードモナス・エルギノーザ由来のアセチルコリンエステラーゼ遺伝子であり、アセチルコリンエステラーゼ活性を有するタンパク質をコードすることが実証されている。
MRTRLPALLLGVLLAGQACGHTSPL(配列番号5)
シュードモナス・フルオレセンス
AEPLKAVGAGEGQLDIVAWPGYIEA(配列番号6)
本実施形態に係るアセチルコリンエステラーゼ発現ベクターは、ベクターと、そのベクターに作動可能に連結されてなる上記のアセチルコリンエステラーゼの遺伝子(シュードモナス・エルギノーザのPA01株由来の天然のアセチルコリンエステラーゼ遺伝子およびその変異遺伝子を含む)と、を備える。このベクターは、後述する実施例で示すように、シュードモナス・エルギノーザ由来のアセチルコリンエステラーゼを好適に発現することが可能である。
本実施形態の形質転換体は、上記のアセチルコリンエステラーゼ発現ベクター(シュードモナス・エルギノーザのPA01株由来の天然のアセチルコリンエステラーゼ遺伝子の発現ベクターおよびその変異遺伝子の発現ベクターを含む)を細胞に導入してなる形質転換体である。この形質転換体は、後述する実施例で示すように、シュードモナス・エルギノーザ由来のアセチルコリンエステラーゼを好適に発現することが可能である。
ク質の発現量や可溶化率の向上が期待できる。シャペロンベクターとしては、例えば、tig配列、groESおよびgroELがシャペロンチームとして働くように構築されており、シャペロンチームの発現はPzt1プロモーター(テトラサイクリンで誘導)で制御されており、pACYCの複製開始点とクロラムフェニコール耐性遺伝子を利用しているため、大腸菌内でpColdベクターとの共存が可能である、プラスミドpG−Tf2などを好適に使用できる。
本実施の形態のアセチルコリンエステラーゼの生産方法は、上記の形質転換体を培養する工程と、その形質転換体またはその培地からアセチルコリンエステラーゼ(シュードモナス・エルギノーザのPA01株由来の天然のアセチルコリンエステラーゼおよび変異アセチルコリンエステラーゼを含む)を抽出する工程と、を含む。この生産方法によれば、後述する実施例で示すように、シュードモナス・エルギノーザのPA01株由来の天然のアセチルコリンエステラーゼまたはその変異アセチルコリンエステラーゼを好適に生産することが可能である。
アセチルコリンエステラーゼが大量生産されることになるためである。このとき、大量生産しすぎると大腸菌細胞内でアセチルコリンエステラーゼがインクルージョンボディーを形成することがあるが、シャペロンベクターを共発現させておけば、このようなインクルージョンボディーの発生を抑制し、アセチルコリンエステラーゼを可溶化して活性を維持した状態で大量生産が可能になる。
本実施形態に係るアセチル−L−カルニチンの分解に用いるアセチルコリンエステラーゼは、配列番号2で表される307個のアミノ酸配列からなるタンパク質であり、分子量は30kDa、等電点は、8.1である。このアミノ酸配列からなるアセチルコリンエステラーゼは、後述する実施例で示すように、アセチル−L−カルニチンを分解する活性を有することが実証されている。
(1)ショットガンクローニング
PA01株を培養し、集菌し、ゲノムDNAを抽出した。抽出したゲノムDNA、プラスミドpUC18(タカラ製)を、それぞれ制限酵素(cfrI)で処理した。反応処理の後、それぞれの反応液を混合しライゲーションを行った。ライゲーションの結果、得られたDNAを、大腸菌へと組み込み形質転換体を作成した。
LB培地に、カルベニシリン・Na及び0.1M IPTG 23.8mg/1mlを加えて、LBCI培地を調製した。0.5%リゾチームと10mM EDTAを100mM K−P bufferに加え、pH 8.0に調製し、溶解液を調製した。LBCI培地を分注器にて、約1.2mlずつ1.5mlエッペンドルフチューブに分注し、爪楊枝をあて、形質転換体の大腸菌をLCBI培地に植菌した。30℃、24時間で培養し、集菌した。集菌したエッペンドルフチューブに準備した溶解液を200μl加えボルテックスにかけた後、37℃の恒温槽で30分反応させた。
IPTGとカルベニシリンを入れたLBスラント培地を調製した。調製したLBスラント培地に作成した形質転換体である大腸菌を植菌し、25℃・24時間の条件で培養した。つぎに培養したLBスラント培地からLB液体培地に植菌し、25℃・24時間の条件で培養した。液体培養した菌体を集菌し凍結させた。菌体に0.3Mリン酸カリウムバッファー(pH7.4)を約10ml加えて、菌体を超音波破砕器により10℃以下の液温を保ちながら15分間破砕した。破砕物のpHを測定し、低い場合には1M水酸化ナトリウムで調製した。破砕物を遠心分離し、得られた上清を無細胞抽出液とした。
表1に記載するアセチルコリンエステラーゼ活性測定反応液を調製した。無細胞抽出液をアセチルコリンエステラーゼ活性測定反応液に加え反応させた。反応後のアセチルコリンエステラーゼ活性測定反応液を412nm波長での吸光度変化を測定した。得られた吸光度変化を基に、下記の反応式で、アセチルコリンエステラーゼ活性を計算した。
(1)シュードモナスPA01の培養
肉汁培地を、傾斜をつけスラント培地にし、一晩インキュベートした後にシュードモナスPA01をクリーンベンチ内で植菌して、30℃で2日間培養した。その後、スラント培地からコリン培養培地に植菌し、25℃で一晩培養した。さらに培養液を坂口フラスコに十倍希釈して25℃120回転/minで24時間培養した。ここで用いた肉汁培地とコリン培地の組成を表3に示す。
(1)シークエンス解析
E.coli AEA株からプラスミドDNAを抽出し、挿入断片(7kb)をPCRで反応させた。増幅させた塩基配列のシークエンス解析を行い、塩基配列を決定した。決定した塩基配列を配列番号2に示す。決定した塩基配列は、シュードモナスPA01のORFであるPA4921と一致した。PA4921の塩基配列を配列番号1に示す。
配列を決定したシュードモナス・エルギノーザ由来のアセチルコリンエステラーゼのアミノ酸配列と、電気ウナギのアセチルコリンエステラーゼのアミノ酸配列とホモロジーを解析した。その結果を図5に示す。図5を見ればわかるように、ホモロジーはアライメントが可能な領域でも30%以下と非常に低かった。
(1)大腸菌への形質転換
E.coli AEA株からプラスミドDNAを抽出し、挿入断片を切り出した。構築したプライマー(pAchE−U 5’GCCACATATGCGCACCCGTCT 3’(配列番号3), pAchE−L 5’TTCGGAATTCTCAGCGCGCGTA 3’ (配列番号4))を用いて、PCR法によりPA4921を増幅した。増幅したPA4921を、ベクターp−cold(製品番号 タカラ製)とライゲーションし、大腸菌に形質転換を行った。
アンピシリンで形質転換大腸菌を選択し、LBA液体培地で37℃の条件にて振とう培養し、OD600が0.5程度になったら、培養液を15℃に冷却し、30分放置した。0.1から1mMになるようにIPTGを加え、15℃で24時間培養を行った。
培養した培養液から集菌し、菌体を超音波破砕機によって10℃以下の液温を保ちながら15分間破砕した。破砕物を遠心し上清を用いて、実施例1の反応系を用いてアセチルコリンエステラーゼ活性を測定した。アセチルコリンエステラーゼ活性の測定結果から、Vmax,Km値を計算した。Km値は、0.0362mMであり、Vmax値は、0.0105mmol/minであった。
以下の表4の組成のアセチルカルニチン加水分解反応液及び表5のカルニチン定量反応液を調製した。
反応後のアセチルカルニチン加水分解反応液50μlを、カルニチン定量反応液に添加した。カルニチン定量反応液を1時間、30℃の条件で反応させた。
カルニチン定量のために、アセチルカルニチン加水分解反応液の他に、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5mMのカルニチン基質濃度の溶液を、カルニチン定量反応液にそれぞれ反応させた。反応させたカルニチン基質濃度の溶液を基に検量線を作成し、加水分解活性を計算した。なお、アセチル−L−カルニチンの加水分解反応は、酵素を入れなくても反応が進む場合があるため酵素なしの組成のものも用意した。酵素なしをブランクとして酵素ありの吸光度から引いて加水分解活性を求めた。このようにして測定した加水分解活性を以下の表6に示す。
本発明者は、上述のように、すでに全塩基配列が明らかになっているPseudomonas aeruginosa PA01を供試菌株とし、活性発現を指標としたショットガンクローニングによりアセチルコリンエステラーゼ遺伝子のクローニングに成功した。本発明者は、さらに本遺伝子を大量発現用ベクターに組換え、融合タンパク質として大量発現に成功した。
Claims (7)
- ベクターと、
アセチルコリンエステラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子と、
前記遺伝子の上流に作動可能に連結されてなるコールドショックプロモーターと、を備え、
前記遺伝子は、
(a)配列番号1で表される塩基配列、
(c)配列番号1で表される塩基配列がコードするアミノ酸配列のうち1または数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列をコードする塩基配列、のいずれかの塩基配列からなる、アセチルコリンエステラーゼ発現ベクター。 - 前記コールドショックプロモーターは、cspAプロモーターである、請求項1に記載のアセチルコリンエステラーゼ発現ベクター。
- 前記遺伝子がシュードモナス・エルギノーザ由来である、請求項1又は2に記載のアセチルコリンエステラーゼ発現ベクター。
- 請求項1から3のいずれかに記載のアセチルコリンエステラーゼ発現ベクターを細胞に導入してなる形質転換体。
- 前記アセチルコリンエステラーゼ発現ベクターと共発現する分子シャペロン発現ベクターをさらに導入されてなる、請求項4に記載の形質転換体。
- 前記細胞が大腸菌細胞である、請求項4又は5に記載の形質転換体。
- アセチルコリンエステラーゼを生産する方法であって、
請求項4乃至6いずれかに記載の形質転換体を培養する工程と、
前記形質転換体またはその培地からアセチルコリンエステラーゼを抽出する工程と、を含む生産方法。
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