以下、本発明を具体化した一実施形態にかかる内燃機関の制御装置について説明する。
図1に示すように、車両10には、駆動源としての内燃機関11が搭載されている。内燃機関11のクランクシャフト12は、クラッチ機構13、手動変速機14を介して車輪15に連結されている。車両10では乗員によってクラッチ操作部材(例えばクラッチペダル)が操作されると、上記クラッチ機構13がクランクシャフト12と手動変速機14との連結を解除する作動状態になる。
内燃機関11の気筒16には吸気通路17が接続されている。内燃機関11の気筒16内には吸気通路17を介して空気が吸入される。また、この内燃機関11としては複数(本実施形態では四つ[♯1〜♯4])の気筒16を有するものが採用されている。内燃機関11には、気筒16毎に、同気筒16内に燃料、本実施形態ではディーゼル燃料を直接噴射する直噴タイプの燃料噴射弁20が取り付けられている。この燃料噴射弁20の開弁駆動によって噴射された燃料は内燃機関11の気筒16内において圧縮加熱された吸入空気に触れて着火および燃焼する。そして内燃機関11では、気筒16内における燃料の燃焼に伴い発生するエネルギによってピストン18が押し下げられてクランクシャフト12が強制回転されるようになる。内燃機関11の気筒16において燃焼した燃焼ガスは排気として内燃機関11の排気通路19に排出される。
各燃料噴射弁20は分岐通路31aを介してコモンレール34に各別に接続されており、同コモンレール34は供給通路31bを介して燃料タンク32に接続されている。この供給通路31bには、燃料を圧送する燃料ポンプ33が設けられている。本実施形態では、燃料ポンプ33による圧送によって昇圧された燃料がコモンレール34に蓄えられるとともに各燃料噴射弁20の内部に供給される。また、各燃料噴射弁20にはリターン通路35が接続されており、同リターン通路35はそれぞれ燃料タンク32に接続されている。このリターン通路35を介して燃料噴射弁20内部の燃料の一部が燃料タンク32に戻される。
以下、燃料噴射弁20の内部構造について説明する。
図2に示すように、燃料噴射弁20のハウジング21の内部にはニードル弁22が設けられている。このニードル弁22はハウジング21内において往復移動(同図の上下方向に移動)することの可能な状態で設けられている。ハウジング21の内部には上記ニードル弁22を噴射孔23側(同図の下方側)に常時付勢するスプリング24が設けられている。またハウジング21の内部には、上記ニードル弁22を間に挟んで一方側(同図の下方側)の位置にノズル室25が形成されており、他方側(同図の上方側)の位置に圧力室26が形成されている。
ノズル室25には、その内部とハウジング21の外部とを連通する複数の噴射孔23が形成されており、導入通路27を介して上記分岐通路31a(コモンレール34)から燃料が供給されている。圧力室26には連通路28を介して上記ノズル室25および分岐通路31a(コモンレール34)が接続されている。また圧力室26は排出路30を介してリターン通路35(燃料タンク32)に接続されている。
上記燃料噴射弁20としては電気駆動式のものが採用されており、そのハウジング21の内部には駆動信号の入力によって伸縮する複数の圧電素子(例えばピエゾ素子)が積層された圧電アクチュエータ29が設けられている。この圧電アクチュエータ29には弁体29aが取り付けられており、同弁体29aは圧力室26の内部に設けられている。そして、圧電アクチュエータ29の作動による弁体29aの移動を通じて、連通路28(ノズル室25)と排出路30(リターン通路35)とのうちの一方が選択的に圧力室26に連通されるようになっている。
この燃料噴射弁20では、圧電アクチュエータ29に閉弁信号が入力されると、圧電アクチュエータ29が収縮して弁体29aが移動し、連通路28と圧力室26とが連通された状態になるとともに、リターン通路35と圧力室26との連通が遮断された状態になる。これにより、圧力室26内の燃料のリターン通路35(燃料タンク32)への排出が禁止された状態で、ノズル室25と圧力室26とが連通されるようになる。そのため、ノズル室25と圧力室26との圧力差がごく小さくなり、ニードル弁22がスプリング24の付勢力によって噴射孔23を塞ぐ位置に移動して、このとき燃料噴射弁20は燃料が噴射されない状態(閉弁状態)になる。
一方、圧電アクチュエータ29に開弁信号が入力されると、圧電アクチュエータ29が伸長して弁体29aが移動し、連通路28と圧力室26との連通が遮断された状態になるとともに、リターン通路35と圧力室26とが連通された状態になる。これにより、ノズル室25から圧力室26への燃料の流出が禁止された状態で、圧力室26内の燃料の一部がリターン通路35を介して燃料タンク32に戻されるようになる。そのため圧力室26内の燃料の圧力が低下して同圧力室26とノズル室25との圧力差が大きくなり、この圧力差によってニードル弁22がスプリング24の付勢力に抗して移動して噴射孔23から離れて、このとき燃料噴射弁20は燃料が噴射される状態(開弁状態)になる。
燃料噴射弁20には、上記導入通路27の内部の燃料圧力PQに応じた信号を出力する圧力センサ41が一体に取り付けられている。そのため、例えばコモンレール34(図1参照)内の燃料圧力などの燃料噴射弁20から離れた位置の燃料圧力が検出される装置と比較して、燃料噴射弁20の噴射孔23に近い部位の燃料圧力を検出することができ、燃料噴射弁20の開弁に伴う同燃料噴射弁20の内部の燃料圧力の変化を精度良く検出することができる。なお上記圧力センサ41は各燃料噴射弁20に一つずつ、すなわち内燃機関11の気筒16毎に設けられている。
図1に示すように、内燃機関11には、その周辺機器として、運転状態を検出するための各種センサ類が設けられている。それらセンサ類としては、上記圧力センサ41の他、例えばクランクシャフト12の回転位相および回転速度(機関回転速度NE)を検出するためのクランクセンサ42や、アクセル操作部材(例えばアクセルペダル)の操作量(アクセル操作量ACC)を検出するためのアクセルセンサ43が設けられている。また、車両10の走行速度を検出するための車速センサ44や、前記クラッチ操作部材の操作の有無を検出するためのクラッチスイッチ45、燃料タンク32内に備蓄されている燃料の量(備蓄燃料量SP)を検出するための備蓄量センサ46が設けられている。その他、内燃機関11の運転開始に際してオン操作されるとともに運転停止に際してオフ操作される運転スイッチ47なども設けられている。
また内燃機関11の周辺機器としては、例えばマイクロコンピュータを備えて構成された電子制御ユニット40なども設けられている。この電子制御ユニット40は、第1制御部および第2制御部として機能し、各種センサの出力信号を取り込むとともにそれら出力信号をもとに各種の演算を行い、その演算結果に応じて燃料噴射弁20の駆動制御(燃料噴射制御)などの内燃機関11の運転にかかる各種制御を実行する。
本実施形態の燃料噴射制御は、基本的には、以下のように実行される。
先ず、アクセル操作量ACCや機関回転速度NEなどに基づいて、内燃機関11の運転のための燃料噴射量についての制御目標値(要求噴射量TAU)が算出される。その後、要求噴射量TAUおよび機関回転速度NEに基づいて燃料噴射時期の制御目標値(要求噴射時期Tst)や燃料噴射時間の制御目標値(要求噴射時間Ttm)が算出される。そして、それら要求噴射時期Tstおよび要求噴射時間Ttmに基づいて各燃料噴射弁20の開弁駆動が実行される。これにより、そのときどきの内燃機関11の運転状態に見合う量の燃料が各燃料噴射弁20から噴射されて内燃機関11の各気筒16内に供給されるようになる。本実施形態では、要求噴射時期Tstおよび要求噴射時間Ttmに基づく各燃料噴射弁20の駆動制御が基本噴射制御として機能する。
なお本実施形態の燃料噴射制御では、アクセル操作部材の操作解除(アクセル操作量ACC=「0」)による車両10の走行速度および機関回転速度NEの減速中において同機関回転速度NEが所定の速度範囲内になると、内燃機関11の運転のための燃料噴射を一時的に停止させる制御(いわゆる燃料カット制御)が実行される。
また本実施形態の燃料噴射制御では、燃料のセタン価が低い領域(低セタン価領域)と中程度の領域(中セタン価領域)と高い領域(高セタン価領域)との三つの領域が設定されるとともに、それら領域毎に異なる実行態様で燃料噴射制御が実行される。例えば要求噴射時期Tstがセタン価の低い側の領域ほど進角側の時期に設定される。具体的には、三つのセタン価領域毎に、要求噴射量TAUおよび機関回転速度NEにより定まる機関運転状態とセタン価領域に見合う要求噴射時期Tstとの関係が各種の実験やシミュレーションの結果をもとに予め求められるとともに、同関係が演算マップ(ML,MM,MH)として電子制御ユニット40に記憶されている。そして、そのときどきの要求噴射量TAUおよび機関回転速度NEに基づいて、低セタン価領域であるときには演算マップMLから、中セタン価領域であるときには演算マップMMから、高セタン価領域であるときには演算マップMHから、それぞれ要求噴射時期Tstが算出される。
このようにして燃料噴射弁20からの燃料噴射を実行する場合、同燃料噴射弁20の初期個体差や経時変化などに起因して、その実行時期や噴射量に誤差が生じることがある。そうした誤差は、内燃機関11の出力トルクを変化させるため好ましくない。そのため本実施形態では、各燃料噴射弁20からの燃料噴射を内燃機関11の運転状態に応じたかたちで適正に実行するために、圧力センサ41により検出される燃料圧力PQをもとに燃料噴射率の検出時間波形を形成するとともに同検出時間波形に基づいて要求噴射時期Tstおよび要求噴射時間Ttmを補正する補正処理が実行される。この補正処理は、内燃機関11の各気筒16について各別に実行される。
燃料噴射弁20内部の燃料圧力は、燃料噴射弁20の開弁に伴って低下するとともにその後における同燃料噴射弁20の閉弁に伴って上昇するといったように、燃料噴射弁20の開閉動作に伴い変動する。そのため、燃料噴射の実行時における燃料噴射弁20内部の燃料圧力の変動波形を監視することにより、同燃料噴射弁20の実動作特性(例えば、実際の燃料噴射量や、開弁動作が開始される時期、閉弁動作が開始される時期など)を精度良く把握することができる。したがって、そうした燃料噴射弁20の実作動特性に基づいて要求噴射時期Tstや要求噴射時間Ttmを補正することにより、燃料噴射時期や燃料噴射量を内燃機関11の運転状態に応じたかたちで精度よく設定することができるようになる。
以下、そうした補正処理について詳しく説明する。
ここでは先ず、燃料噴射の実行時における燃料圧力の変動態様(本実施形態では、燃料噴射率の検出時間波形)を形成する手順について説明する。
図3に、燃料圧力PQの推移と燃料噴射率の検出時間波形との関係を示す。
同図3に示すように、本実施形態では、燃料噴射弁20の開弁動作(詳しくはニードル弁22の開弁側への移動)が開始される時期(開弁動作開始時期Tos)、燃料噴射率が最大になる時期(最大噴射率到達時期Toe)、燃料噴射率の降下が開始される時期(噴射率降下開始時期Tcs)、燃料噴射弁20の閉弁動作(詳しくはニードル弁22の閉弁側への移動)が完了する時期(閉弁動作完了時期Tce)がそれぞれ検出される。
先ず、燃料噴射弁20の開弁動作が開始される直前の所定期間T1における燃料圧力PQの平均値が算出されるとともに、同平均値が基準圧力Pbsとして記憶される。この基準圧力Pbsは、閉弁時における燃料噴射弁20内部の燃料圧力に相当する圧力として用いられる。
次に、この基準圧力Pbsから所定圧力P1を減算した値が動作圧力Pac(=Pbse−P1)として算出される。この所定圧力P1は、燃料噴射弁20の開弁駆動あるいは閉弁駆動に際してニードル弁22が閉弁位置にある状態であるにも関わらず燃料圧力PQが変化する分、すなわちニードル弁22の移動に寄与しない燃料圧力PQの変化分に相当する圧力である。
その後、燃料噴射の実行開始直後において燃料圧力PQが降下する期間における同燃料圧力PQの時間による一階微分値d(PQ)/dtが算出される。そして、この一階微分値が最小になる点つまり燃料圧力PQの下向きの傾きが最も大きくなる点における燃料圧力PQの時間波形の接線L1が求められるとともに同接線L1と上記動作圧力Pacとの交点Aが算出される。この交点Aを燃料圧力PQの下記の検出遅れ分だけ過去の時期に戻した点AAに対応する時期が開弁動作開始時期Tosとして特定される。なお上記検出遅れ分は、燃料噴射弁20のノズル室25(図2参照)の圧力変化タイミングに対する燃料圧力PQの変化タイミングの遅れに相当する期間であり、ノズル室25と圧力センサ41との距離などに起因して生じる遅れ分である。
また、燃料噴射の実行開始直後において燃料圧力PQが一旦降下した後に上昇する期間における同燃料圧力PQの一階微分値が算出される。そして、この一階微分値が最大になる点つまり燃料圧力PQの上向きの傾きが最も大きくなる点における燃料圧力PQの時間波形の接線L2が求められるとともに同接線L2と上記動作圧力Pacとの交点Bが算出される。この交点Bを検出遅れ分だけ過去の時期に戻した点BBに対応する時期が閉弁動作完了時期Tceとして特定される。
さらに、接線L1と接線L2との交点Cが算出されるとともに同交点Cにおける燃料圧力PQと動作圧力Pacとの差(仮想圧力低下分ΔP[=Pac−PQ])が求められる。また、この仮想圧力低下分ΔPに要求噴射量TAUに基づき設定されるゲインG1を乗算した値が仮想最大燃料噴射率VRt(=ΔP×G1)として算出される。さらに、この仮想最大燃料噴射率VRtに要求噴射量TAUに基づき設定されるゲインG2を乗算した値が最大噴射率Rt(=VRt×G2)として算出される。
その後、上記交点Cを検出遅れ分だけ過去の時期に戻した時期CCが算出されるとともに、同時期CCにおいて仮想最大燃料噴射率VRtになる点Dが特定される。そして、この点Dおよび開弁動作開始時期Tos(詳しくは、同時期Tosにおいて燃料噴射率が「0」になる点)を繋ぐ直線L3と前記最大噴射率Rtとの交点Eに対応する時期が最大噴射率到達時期Toeとして特定される。
また、上記点Dおよび閉弁動作完了時期Tce(詳しくは、同時期Tceにおいて燃料噴射率が「0」になる点)を繋ぐ直線L4と最大噴射率Rtとの交点Fに対応する時期が噴射率降下開始時期Tcsとして特定される。
さらに、開弁動作開始時期Tos、最大噴射率到達時期Toe、噴射率降下開始時期Tcs、閉弁動作完了時期Tceおよび最大噴射率Rtによって形成される台形形状の時間波形が燃料噴射における燃料噴射率についての検出時間波形として用いられる。
次に、図4および図5を参照しつつ、そうした検出時間波形に基づいて燃料噴射制御の各種制御目標値を補正する処理(補正処理)の処理手順について詳細に説明する。
なお図4は上記補正処理の具体的な処理手順を示すフローチャートである。このフローチャートに示される一連の処理は、補正処理の実行手順を概念的に示したものであり、実際の処理は所定周期毎の割り込み処理として電子制御ユニット40により実行される。また、図5は、検出時間波形と下記の基本時間波形との関係の一例を示している。
図4に示すように、この補正処理では先ず、上述したように燃料圧力PQに基づいて燃料噴射の実行時における検出時間波形が形成される(ステップS101)。また、アクセル操作量ACCおよび機関回転速度NEなどといった内燃機関11の運転状態に基づいて、燃料噴射の実行時における燃料噴射率の時間波形についての基本値(基本時間波形)が設定される(ステップS102)。本実施形態では、内燃機関11の運転状態と同運転状態に適した基本時間波形との関係が実験やシミュレーションの結果に基づき予め求められて電子制御ユニット40に記憶されている。ステップS102の処理では、そのときどきの内燃機関11の運転状態に基づいて上記関係から基本時間波形が設定される。
図5に示すように、上記基本時間波形(一点鎖線)としては、開弁動作開始時期Tosb、最大噴射率到達時期Toeb、噴射率降下開始時期Tcsb、閉弁動作完了時期Tceb、最大噴射率により規定される台形の時間波形が設定される。
そして、そうした基本時間波形と前記検出時間波形(実線)とが比較されるとともに、その比較結果に基づいて燃料噴射の開始時期の制御目標値(前記要求噴射時期Tst)を補正するための補正項K1と同燃料噴射の実行時間の制御目標値(要求噴射時間Ttm)を補正するための補正項K2とがそれぞれ算出される。具体的には、基本時間波形における開弁動作開始時期Tosbと検出時間波形における開弁動作開始時期Tosとの差ΔTos(=Tosb−Tos)が算出されるとともに同差ΔTosが補正項K1として記憶される(図4のステップS103)。また、基本時間波形における噴射率降下開始時期Tcsb(図5)と検出時間波形における噴射率降下開始時期Tcsとの差ΔTcs(=Tcsb−Tcs)が算出されるとともに、同差ΔTcsが補正項K2として記憶される(図4のステップS104)。
このようにして各補正項K1,K2が算出された後、本処理は一旦終了される。
燃料噴射制御の実行に際しては、要求噴射時期Tstを補正項K1によって補正した値(本実施形態では、要求噴射時期Tstに補正項K1を加算した値)が最終的な要求噴射時期Tstとして算出される。このようにして要求噴射時期Tstを算出することにより、基本時間波形における開弁動作開始時期Tosbと検出時間波形における開弁動作開始時期Tosとの間のずれが小さく抑えられるようになるため、燃料噴射の開始時期が内燃機関11の運転状態に応じたかたちで精度よく設定されるようになる。
また、要求噴射時間Ttmを上記補正項K2によって補正した値(本実施形態では、要求噴射時間Ttmに補正項K2を加算した値)が最終的な要求噴射時間Ttmとして算出される。このようにして要求噴射時間Ttmを算出することにより、基本時間波形における噴射率降下開始時期Tcsbと検出時間波形における噴射率降下開始時期Tcsとの間のずれが小さく抑えられるようになるために、燃料噴射において燃料噴射率が低下し始める時期が内燃機関11の運転状態に応じたかたちで精度よく設定されるようになる。
このように本実施形態では、燃料噴射弁20の実動作特性(詳しくは、検出時間波形)と予め定められた基本動作特性(詳しくは、基本時間波形)との差に基づいて要求噴射時期Tstや要求噴射時間Ttmが補正されるために、燃料噴射弁20の実動作特性と基本動作特性(標準的な特性を有する燃料噴射弁の動作特性)とのずれが抑えられる。そのため各燃料噴射弁20からの燃料噴射における噴射時期や噴射量がそれぞれ内燃機関11の運転状態に見合うように適正に設定されるようになる。
本実施形態では、内燃機関11での燃焼に供される燃料のセタン価指標値を検出する制御(指標値検出処理)が実行される。以下、この指標値検出処理の概要を説明する。
この指標値検出処理では、前述の燃料カット制御が実行されているとの条件(後述する[条件1])を含む実行条件が設定されている。そして、この実行条件の成立時に、予め定められた少量の所定量FQ(例えば、数立方ミリメートル)での内燃機関11への燃料噴射が実行されるとともに、その燃料噴射の実行に伴い発生する内燃機関11の出力トルクの指標値(後述する回転変動量ΣΔNE)が燃料のセタン価指標値として検出される。なお上記回転変動量ΣΔNEとしては、内燃機関11において大きな出力トルクが発生したときほど大きい値が検出される。
内燃機関11に供給される燃料のセタン価が高いときほど、燃料が着火し易く同燃料の燃え残りが少なくなるために、燃料の燃焼に伴って発生する機関トルクが大きくなる。本実施形態の推定制御では、そうした燃料のセタン価と内燃機関11の出力トルクとの関係をもとに同燃料のセタン価指標値が検出される。
以下、指標値検出処理の実行手順について詳細に説明する。
図6は、上記指標値検出処理の具体的な実行手順を示すフローチャートである。なお、このフローチャートに示される一連の処理は、指標値検出処理の実行手順を概念的に示したものであり、実際の処理は所定周期毎の割り込み処理として電子制御ユニット40により実行される。
図6に示すように、この処理では先ず、実行条件が成立しているか否かが判断される(ステップS201)。ここでは、以下の[条件1]〜[条件3]が全て満たされることをもって実行条件が成立していると判断される。
[条件1]前記燃料カット制御が実行されていること。
[条件2]クラッチ機構13がクランクシャフト12と手動変速機14との連結を解除する作動状態になっていること。具体的には、クラッチ操作部材が操作されていること。
[条件3]補正処理が適正に実行されていること。具体的には、補正処理において算出されている各補正項K1,K2が上限値にも下限値にもなっていないこと。
上記実行条件が成立していない場合には(ステップS201:NO)、以下の処理、すなわち燃料のセタン価指標値を検出する処理を実行することなく、本処理は一旦終了される。
その後、本処理が繰り返し実行されて上記実行条件が成立すると(ステップS201:YES)、燃料のセタン価指標値を検出する処理の実行が開始される。
具体的には先ず、予め定められた燃料噴射時期の制御目標値(目標噴射時期TQst)と燃料噴射時間の制御目標値(目標噴射時間TQtm)とが図4と図5で前述した補正処理により算出されている補正項K1,K2によって補正される(図6のステップS202)。詳しくは、補正項K1を目標噴射時期TQstに加算した値が新たな目標噴射時期TQstとして設定されるとともに、補正項K2を目標噴射時間TQtmに加算した値が新たな目標噴射時間TQtmとして設定される。
そして、目標噴射時期TQstおよび目標噴射時間TQtmに基づく燃料噴射弁20の駆動制御が実行されて、同燃料噴射弁20からの燃料噴射が実行される(ステップS203)。こうした燃料噴射弁20の駆動制御を通じて、回転変動量ΣΔNEのばらつきが抑えられるタイミングで所定量FQの燃料が燃料噴射弁20から噴射されるようになる。なお本実施形態では、ステップS203の処理における燃料噴射が複数の燃料噴射弁20のうちの予め定めたもの(本実施形態では、気筒16[♯1]に取り付けられた燃料噴射弁20)を用いて実行される。また、本処理において用いられる補正項K1,K2についても同様に、燃料噴射弁20のうちの予め定めたもの(本実施形態では、気筒16[♯1]に取り付けられた燃料噴射弁20)に対応して算出された値が用いられる。本実施形態では、このステップS203の処理による目標噴射時期TQstおよび目標噴射時間TQtmに基づく燃料噴射弁20の駆動制御が補助噴射制御として機能する。
その後、上記所定量FQでの燃料噴射に伴い発生した内燃機関11の出力トルクの指標値として前記回転変動量ΣΔNEが検出されて記憶された後(ステップS204)、本処理は一旦終了される。この回転変動量ΣΔNEの検出は具体的には次のように行われる。図7に示すように、本実施形態にかかる装置では、所定時間おきに機関回転速度NEが検出されるとともに、その検出の度に同機関回転速度NEと複数回前(本実施形態では、三回前)に検出された機関回転速度NEiとの差ΔNE(=NE−NEi)が算出される。そして、上記燃料噴射の実行に伴う上記差ΔNEの変化分についての積算値(同図7中に斜線で示す部分の面積に相当する値)が算出されるとともに、この積算値が上記回転変動量ΣΔNEとして記憶される。なお図7に示す機関回転速度NEや差ΔNEの推移は、回転変動量ΣΔNEの算出方法の理解を容易にするべく簡略化して示しているため実際の推移とは若干異なる。
本実施形態では、基本的に、指標値検出処理を通じて検出された回転変動量ΣΔNEに基づいて低セタン価領域、中セタン価領域および高セタン価領域のいずれの領域であるかが特定されるとともに、特定された領域が電子制御ユニット40に記憶される。詳しくは、回転変動量ΣΔNEが所定値PL以下である場合(ΣΔNE≦PL)には低セタン価領域であると判断され、所定値PLより大きく所定値PH以下である場合(PL<ΣΔNE≦PH)には中セタン価領域であると判断され、所定値PHより大きい場合(ΣΔNE>PH)には高セタン価領域であると判断される。そして、そのように特定されたセタン価領域に見合う実行態様(第1実行態様)で燃料噴射制御が実行される。
ここで燃料タンク32内に補給される燃料のセタン価は、必ずしも均一ではなく、国や地域によってはバラツキが大きい。そのため、燃料タンク32から内燃機関11に供給される燃料のセタン価も均一ではないと云え、そうしたセタン価のバラツキは燃料の燃焼状態の悪化を招く一因となる。そして、燃料補給に伴って燃料タンク32内の備蓄燃料のセタン価が変化すると、内燃機関11に供給される燃料のセタン価も変化するために、このとき電子制御ユニット40に記憶されているセタン価領域と実際の燃料に見合うセタン価領域との間に一時的にずれが生じてしまう。
本実施形態では、燃料タンク32への燃料補給が行われたときに、直後の実行期間(詳しくは、燃料補給が行われたと判断されてからセタン価領域が新たに特定されて記憶されるまでの期間)にわたり、電子制御ユニット40に記憶されているセタン価領域によることなく、低セタン価領域に応じた第2実行態様で燃料噴射制御が実行される。すなわち、燃料タンク32に補給される可能性がある燃料の中で最も低いセタン価に見合うセタン価領域を仮セタン価領域として、同仮セタン価領域に応じた第2実行態様で燃料噴射制御が実行される。
燃料噴射制御の実行に際して想定しているセタン価領域(想定セタン価領域)より実際に内燃機関11に供給される燃料が属するセタン価領域(実セタン価領域)が低セタン価側の領域である場合には、想定している着火遅れより実際の着火遅れが長くなるために、燃料の燃焼状態の悪化を招くおそれがある。その一方で、想定セタン価領域を実セタン価領域より低セタン価側の領域にすることにより、想定している着火遅れより実際の着火遅れを短くすることができるため、想定セタン価領域と実セタン価領域とのずれに起因する燃料の燃焼状態の悪化を抑えることが可能になる。
本実施形態では、燃料タンク32への燃料補給が行われたとき、すなわち電子制御ユニット40に記憶されているセタン価領域と実セタン価領域との間にずれが生じるおそれがあるときに、直後の実行期間にわたり、低セタン価領域に応じた第2実行態様で燃料噴射制御が実行される。これにより、燃料タンク32に補給される可能性がある燃料の中で最も低いセタン価に見合う低セタン価領域に応じた第2実行態様で燃料噴射制御を実行することができる。そのため、第2実行態様での燃料噴射制御の実行に際して、燃料タンク32内の備蓄燃料のセタン価が同燃料タンク32に補給される可能性がある燃料の中で最も低いセタン価と等しい場合には想定セタン価領域(本実施形態では低セタン価領域)と実セタン価領域とが等しくなり、それ以外の場合には想定セタン価領域が実セタン価領域より低くなる。したがって、想定セタン価領域より実セタン価領域が低セタン価側の領域になることを確実に抑えることができ、想定セタン価領域と実セタン価領域とのずれに起因する燃料の燃焼状態の悪化を好適に抑えることができる。
このように本実施形態の装置では、燃料タンク32への燃料補給の直後において、想定セタン価領域より実セタン価領域が低セタン価側の領域になった状態で燃料噴射制御が実行されることが回避される。しかしながら、燃料タンク32への燃料補給が行われる度に、一時的であるとはいえ、実セタン価領域が高セタン価領域あるいは中セタン価領域である状態である状況で低セタン価領域に応じた実行態様での燃料噴射制御が実行されることが避けられない。この場合には、窒素酸化物(NOx)の増加などといった排気性状の悪化を招いたり、燃料の燃焼音の増大による騒音の発生を招いたりするおそれがある。
また本実施形態の装置では、燃料カット制御が限られた状況、すなわちアクセル操作部材の操作解除による車両10の走行速度および機関回転速度NEの減速中において同機関回転速度NEが所定の速度範囲内になった状況において実行される。本実施形態では、セタン価領域の特定に用いる回転変動量ΣΔNEの検出のための補助噴射制御の実行条件が上記燃料カット制御が実行されているとの[条件1]を含んでいるために、補助噴射制御の実行機会が限られる。したがって、前記実行期間、すなわち燃料タンク32への燃料補給が行われてからセタン価領域が新たに特定されるまでの期間が長くなり易く、想定セタン価領域と実セタン価領域とのずれが大きくなる可能性のある期間も長くなり易いため、排気性状の悪化や燃焼音の増大による影響が大きくなり易いと云える。
この点をふまえて本実施形態では、判定回数(例えば数回、本実施形態では5回)だけ燃料タンク32への燃料補給が繰り返される期間にわたって高セタン価領域が特定される状態が継続されたときに、前記実行期間における低セタン価領域に応じた第2実行態様での燃料噴射制御の実行を禁止するようにしている。そして、このときには電子制御ユニット40に記憶されているセタン価領域に応じた第1実行態様で燃料噴射制御が実行される。
これにより、高いセタン価の燃料が繰り返し補給された場合には、以後においても高いセタン価の燃料が補給される可能性が高いと判断して、燃料補給の直後であっても第2実行態様での燃料噴射制御の実行を禁止して第1実行態様での燃料噴射制御を実行することができる。そのため、高いセタン価の燃料が補給された状況で低セタン価に見合う第2実行態様での燃料噴射制御が実行されることを抑えることができ、排気性状の悪化や燃焼音の増大などといった想定セタン価領域が実セタン価領域より高くなることによる不都合の発生を抑えることができる。
本実施形態では、判定回数だけ燃料タンク32への燃料補給が繰り返される期間にわたって高セタン価領域が特定される状態が継続されたことを、判定回数における燃料補給において連続して燃料補給の開始直前に電子制御ユニット40に記憶されていたセタン価領域が高セタン価領域であったことにより判断するようにしている。
燃料タンク32内の備蓄燃料のセタン価は基本的には同燃料タンク32への燃料補給が行われない限り変化しない。そのため、燃料補給が行われる度に一度だけ電子制御ユニット40に記憶されているセタン価領域を監視することにより、燃料タンク32内の備蓄燃料が属するセタン価領域の推移を把握することができる。本実施形態によれば、燃料タンク32への燃料補給が行われる度に同燃料補給の直前に記憶されていたセタン価領域が高セタン価領域であるか否かを判断するとともに、その判断をもとに、判定回数だけ燃料補給が繰り返される期間にわたって高セタン価領域が特定される状態が継続されたことを判定することができる。そのため、電子制御ユニット40に記憶されているセタン価領域を監視する回数を最小限に留めて、高セタン価領域が特定される状態が継続されたことを効率良く判定することができる。
以下、燃料タンク32への燃料補給直後において燃料噴射制御の実行態様を切り替える処理(切り替え処理)について詳しく説明する。
図8に切り替え処理の実行手順を示し、図9に切り替え処理の実行態様の一例を示す。なお図8のフローチャートに示す一連の処理は、所定周期毎の割り込み処理として、電子制御ユニット40により実行される。
図8に示すように、この処理では先ず、給油フラグがオン操作されているか否かが判断される(ステップS301)。この給油フラグは、後述する給油判定処理を通じて燃料タンク32への燃料補給有りと判定されたときにオン操作される。この給油判定処理は次のような考えのもとに実行される。本実施形態では、運転スイッチ47のオフ操作時に備蓄量センサ46によって検出された備蓄燃料量SPが、燃料補給の開始時において燃料タンク32内に備蓄されていた燃料の量(補給前備蓄量V1)として電子制御ユニット40に記憶されている。また、運転スイッチ47のオン操作時に備蓄量センサ46によって検出される備蓄燃料量SPが、燃料補給後に燃料タンク32内に備蓄されている燃料の量(補給後備蓄量VP)として用いられる。そして、運転スイッチ47のオン操作時に、それら補給前備蓄量V1および補給後備蓄量VPから、燃料タンク32に補給された燃料の量(燃料補給量V2[=VP−V1])と備蓄量変化率RP(=VP/V1)とがそれぞれ算出される。この燃料補給量V2が所定量以上であるときや、備蓄量変化率RPが所定値以上であるときに、燃料補給が行われたと判断される。
給油フラグがオン操作されている場合には(ステップS301:YES)、同給油フラグがオフ操作された後(ステップS302)、以下の処理(ステップS303〜ステップS308)が実行される。すなわち本処理では、燃料タンク32への燃料補給が行われる度に一度だけ以下の処理が実行される。
詳しくは先ず、このとき記憶されているセタン価領域が高セタン価領域であるか否かが判断される(ステップS303)。そして、このとき記憶されているセタン価領域が高セタン価領域以外の領域、すなわち中セタン価領域や低セタン価領域である場合には(ステップS303:NO)、連続カウンタのカウント値CNが「0」にリセットされるとともに(ステップS304)、低セタン価領域に応じた第2実行態様での燃料噴射制御の実行が開始される(ステップS305)。
図9に示す例では、その時刻t11以前において連続カウンタのカウント値CNが「0」になっているために、低セタン価燃料が補給された場合における燃料の燃焼状態の悪化を抑えるべく、燃料補給直後の実行期間において低セタン価領域に応じた第2実行態様での燃料噴射制御が実行される。
その後、高いセタン価の燃料が補給されて、給油フラグがオン操作されたときにおいて(図8のステップS301:YES)高セタン価領域が記憶されている状態になると(ステップS303:YES)、連続カウンタのカウント値CNがインクリメントされる(ステップS306)。
図9に示す例では、燃料タンク32内の備蓄燃料のセタン価が高い状態で燃料補給が行われることにより、時刻t11において給油フラグがオン操作される。このとき電子制御ユニット40に記憶されているセタン価領域が高セタン価領域であるために、連続カウンタのカウント値CNがインクリメントされて「1」になる。この場合には、燃料タンク32内に備蓄されていた燃料のセタン価が高いとはいえ、高セタン価燃料の補給が繰り返されているとまではいえないとして、燃料補給直後の実行期間において低セタン価領域に応じた第2実行態様での燃料噴射制御が実行される。
そして、連続カウンタのカウント値CNが所定値N(本実施形態では「5」)に達するまでの間は(図8のステップS307:NO)、低セタン価領域に応じた第2実行態様での燃料噴射の実行が開始される(ステップS305)。さらにその後において、高いセタン価の燃料が繰り返し補給されて連続カウンタのカウント値CNのインクリメントが繰り返されることにより(ステップS306)、同カウント値CNが所定値N以上になると(ステップS307:YES)、記憶されているセタン価領域(具体的には、高セタン価領域)に応じた第1実行態様での燃料噴射制御の実行が開始される(ステップS308)。
図9に示す例では、高セタン価燃料の補給が繰り返されるため、燃料補給有りと判定されて給油フラグがオン操作される度に(時刻t12,t13,t14,15)、連続カウンタのカウント値CNがインクリメントされる。そして時刻t15において、カウント値CNが所定値Nに達すると、高セタン価燃料の補給が繰り返されているためにこのときにも高セタン価燃料が補給された可能性が高いとして、直後の実行期間において電子制御ユニット40に記憶されているセタン価領域(本例では、高セタン価領域)に応じた第1実行態様で燃料噴射制御が実行される。
これにより、想定セタン価領域と実セタン価領域(本例では、高セタン価領域)とが一致するようになるため、排気性状の悪化や燃焼音の増大などといった想定セタン価領域が実セタン価領域より低セタン価側の領域になることに起因する不都合の発生が抑えられるようになる。
その後、高セタン価の燃料補給が繰り返される限り、燃料補給有りと判定されて給油フラグがオン操作された(時刻t16、t17)直後の実行期間において、低セタン価領域に応じた第2実行態様での燃料噴射制御が実行されることなく、電子制御ユニット40に記憶されているセタン価領域に応じた第1実行態様での燃料噴射制御が実行される。
以上説明したように、本実施形態によれば、以下に記載する効果が得られるようになる。
(1)燃料タンク32への燃料補給が行われたときに、直後の実行期間にわたり、低セタン価領域に応じた第2実行態様で燃料噴射制御を実行するようにしたために、想定セタン価領域と実セタン価領域とのずれに起因する燃料の燃焼状態の悪化を抑えることができる。しかも、判定回数だけ燃料タンク32への燃料補給が繰り返される期間にわたって高セタン価領域が特定される状態が継続されたときに、前記実行期間における第2実行態様での燃料噴射制御の実行を禁止するとともに、電子制御ユニット40に記憶されているセタン価領域に応じた第1実行態様での燃料噴射制御を実行するようにした。そのため、排気性状の悪化や燃焼音の増大などといった想定セタン価領域が実セタン価領域より高くなることによる不都合の発生を抑えることができる。したがって、燃料補給直後における機関運転を好適に行うことができる。
(2)判定回数だけ燃料タンク32への燃料補給が繰り返される期間にわたって高セタン価領域が特定される状態が継続されたことを、判定回数における燃料補給において連続して燃料補給の開始直前に電子制御ユニット40に記憶されていたセタン価領域が高セタン価領域であったことにより判断するようにした。そのため、電子制御ユニット40に記憶されているセタン価領域を監視する回数を最小限に留めて、高セタン価領域が特定される状態が継続されたことを効率良く判定することができる。
(3)燃料カット制御が実行されているとの[条件1]を補助噴射制御の実行条件が含み且つセタン価領域が新たに特定された時期が前記実行期間の終了時期であるために同実行期間が長くなり易い装置において、排気性状の悪化や燃焼音の増大などといった想定セタン価が実セタン価より高くなることによる不都合の発生を抑えることができる。
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
・燃料タンク32への燃料補給が行われたことを判定する方法は、例えば燃料タンク32の給油口が開閉されたことをもって燃料補給が行われたと判定するようにするなど、任意に変更することができる。
・第2実行態様としては、低セタン価領域に応じた実行態様を設定することに限らず、
電子制御ユニット40に記憶されているセタン価領域と同一の領域および同セタン価領域より低セタン価側の領域のいずれかになる仮セタン価領域に応じた実行態様であれば、任意の実行態様を採用することができる。例えば燃料補給の開始時に燃料タンク32内に備蓄されていた燃料の量(補給前備蓄量V1)と、燃料補給の開始時に記憶していた回転変動量ΣΔNE(セタン価指標値S1)と、燃料タンク32に補給された燃料の量(燃料補給量V2)とに基づいて仮セタン価を算出することができる。そして、この仮セタン価が属するセタン価領域を仮セタン価領域として設定するとともに、この仮セタン価領域に応じた燃料噴射制御の実行態様を第2実行態様とすればよい。こうした装置によれば、想定範囲内において最も低いセタン価の燃料が燃料タンク32に補給されたとの仮定のもとでの燃料補給後における燃料タンク32内の燃料のセタン価(詳しくは、回転変動量ΣΔNEに相当する値)を仮セタン価として算出することができ、同仮セタン価が属するセタン価領域を仮セタン価領域として設定することができる。具体的には、燃料タンク32に補給される可能性のある燃料のうちで最も低いセタン価の指標値(回転変動量ΣΔNEに相当する値)をセタン価指標値S2とすると、同セタン価指標値S2、セタン価指標値S1、補給前備蓄量V1、燃料補給量V2に基づいて、以下の関係式を満たす値を仮セタン価VSとして算出することができる。
VS=(V1×S1+V2×S2)/(V1+V2)
・燃料補給直後において低セタン価領域に応じた第2実行態様での燃料噴射制御を実行する実行期間として、燃料補給有りと判定されてからセタン価領域が新たに設定されるまでの期間を設定することに限らず、任意の期間を設定することができる。例えば燃料補給有りと判定されてから予め定められた一定時間が経過するまでの期間を実行期間としたり、燃料補給燃料補給有りと判定されてからセタン価領域が複数回更新されるまでの期間を実行期間としたりすることができる。
・判定回数だけ燃料タンク32内への燃料補給が繰り返される期間にわたって高セタン価領域が特定される状態(所定状態)が継続されたことは、燃料補給直前において電子制御ユニット40に記憶されているセタン価領域の監視を通じて判断する方法以外の方法によって判断することもできる。具体的には、燃料補給後において最初に特定されたセタン価領域の監視を通じて判断するなど、内燃機関11の運転中における任意のタイミングで特定されたセタン価領域を監視することによって判断することができる。
また、上記所定状態が継続されたことを判断するために、燃料タンク32への燃料補給の度に一度だけ電子制御ユニット40に記憶されているセタン価領域を監視することに限らず、特定されて電子制御ユニット40に記憶されるセタン価領域を複数回にわたり監視したり、同セタン価領域の全てを監視したりしてもよい。要は、判定回数だけ燃料タンク32への燃料補給が繰り返される期間にわたって高セタン価領域が電子制御ユニット40に記憶されている状態が継続されたことを適正に判断することができればよい。
・予め定められた所定回数だけ燃料タンク32内への燃料補給が繰り返される期間にわたって中セタン価領域が特定される状態が継続されたときに、燃料補給直後の実行期間において、電子制御ユニット40に記憶されているセタン価領域によることなく、中セタン価領域に応じた燃料噴射制御を実行するようにしてもよい。
・燃料噴射弁20の初期個体差や経時変化などに起因する燃料噴射時期や燃料噴射量の誤差が適正に抑えられるのであれば、目標噴射時期TQstと目標噴射時間TQtmとを補正項K1,K2によって補正する処理(図6のステップS202)を省略してもよい。
・上記実施形態にかかる制御装置は、燃料のセタン価の指標値(回転変動量ΣΔNE)によって区切られた二つのセタン価領域のいずれの領域であるかを判断する装置や四つ以上のセタン価領域のいずれの領域であるかを判断する装置にも、その構成を適宜変更したうえで適用することができる。
・電子制御ユニット40に記憶されているセタン価領域に応じて実行態様を変更する制御としては、要求噴射時期Tstを設定する制御を採用することに代えて、あるいは併せて、EGR制御やパイロット噴射制御などを採用してもよい。要は、内燃機関11における燃料の燃焼に関する燃焼制御、言い換えれば内燃機関11における燃料の燃焼状態を調節するための燃焼制御であれば、セタン価領域に応じて実行態様を変更する制御として採用することができる。そうした燃焼制御としてEGR制御が採用される装置では、同EGR制御を、低セタン価側の領域であるときほどEGR量が少なくなるように実行すればよい。また、燃焼制御としてパイロット噴射制御が採用される装置では、パイロット噴射制御を、例えば低セタン価側の領域であるときほどパイロット噴射量が多くなるように実行すればよい。
・上記実施形態にかかる制御装置は、回転変動量ΣΔNEに基づきセタン価領域を特定することなく同回転変動量ΣΔNEそのものに応じて燃料噴射制御の実行態様を定める装置にも、その構成を適宜変更したうえで適用することができる。こうした装置では、例えば回転変動量ΣΔNEをセタン価の指標となる値(推定セタン価)として用い、同推定セタン価に応じた第1実行態様で燃料噴射制御を実行するようにすればよい。また、燃料補給直後の実行期間においては、燃料タンク32に補給される可能性がある燃料の中で最も低いセタン価(あるいは、それより若干高いセタン価)に相当する値を仮セタン価として予め設定して、同仮セタン価に応じた第2実行態様で燃料噴射制御を実行するようにすればよい。なお仮セタン価としては、前記関係式を通じて算出される仮セタン価VSを採用することもできる。さらに、判定回数だけ燃料補給が繰り返される期間にわたって予め定めた判定セタン価より推定セタン価が高い状態が継続されたときに、実行期間における第2実行態様での燃料噴射制御の実行を禁止して第1実行態様での燃料噴射制御を実行するようにすればよい。
・上記実施形態にかかる制御装置は、回転変動量ΣΔNEに基づいて燃料のセタン価そのものを推定するとともにその推定したセタン価に見合う実行態様で燃料噴射制御を実行する装置にも、その構成を適宜変更したうえで適用することができる。こうした装置では、推定セタン価に応じた実行態様を第1実行態様として燃料噴射制御を実行するようにすればよい。また、燃料タンク32に補給される可能性がある燃料の中で最も低いセタン価(あるいは、それより若干高いセタン価)を仮セタン価として予め設定し、同仮セタン価に応じた実行態様を第2実行態様として燃料噴射制御を実行するようにすればよい。なお仮セタン価としては、前記関係式を通じて算出される仮セタン価VSを採用することもできる。さらに、判定回数だけ燃料補給が繰り返される期間にわたって予め定めた判定セタン価より推定セタン価が高い状態が継続されたときに、実行期間における第2実行態様での燃料噴射制御の実行を禁止して第1実行態様での燃料噴射制御を実行するようにすればよい。
・回転変動量ΣΔNE以外の値を内燃機関11の出力トルクの指標値として算出するようにしてもよい。例えば指標値検出処理の実行中において燃料噴射の実行時における機関回転速度NEと同燃料噴射の実行直前における機関回転速度NEとをそれぞれ検出するとともにそれら速度の差を算出して、同差を上記指標値として用いることができる。
・圧力センサ41の取り付け態様は、燃料噴射弁20の内部(詳しくは、ノズル室25内)の燃料圧力の指標となる圧力、言い換えれば同燃料圧力の変化に伴って変化する燃料圧力を適正に検出することができるのであれば、燃料噴射弁20に直接取り付けられる態様に限らず、任意に変更することができる。具体的には、圧力センサを分岐通路31aやコモンレール34に取り付けるようにしてもよい。
・圧電アクチュエータ29により駆動されるタイプの燃料噴射弁20に代えて、例えばソレノイドコイルなどを備えた電磁アクチュエータによって駆動されるタイプの燃料噴射弁を採用することもできる。
・上記実施形態にかかる制御装置は、クラッチ機構13と手動変速機14とが搭載された車両10に限らず、トルクコンバータと自動変速機とが搭載された車両にも適用することができる。こうした車両では、例えば[条件1]および[条件3]が満たされるときに燃料のセタン価の推定のための燃料噴射を実行するようにすればよい。なお、トルクコンバータとしてロックアップクラッチ内蔵のものが採用される車両においては、ロックアップクラッチが係合状態になっていないこととの[条件4]を新たに設定するとともに同[条件4]が満たされることを条件に燃料のセタン価指標値の検出のための燃料噴射を実行するようにすればよい。
・本発明は、セタン価の推定のための燃料噴射(補助燃料噴射)が実行される装置に限らず、内燃機関11に供給される燃料のセタン価を推定するとともに推定したセタン価に応じた実行態様で燃焼制御を実行する装置であれば、適用することができる。そうした装置としては、次のような装置を挙げることができる。すなわち先ず、所定の実行条件の成立時において内燃機関の運転のための燃料噴射の実行時において筒内圧センサによって同内燃機関の気筒内の圧力(筒内圧)を検出する。そして、この筒内圧に基づいて実際に燃料が着火した時期を算出するとともに、同時期に基づいて着火遅れ時間を算出する。その後、この算出した着火遅れ時間の平均値を算出するとともに同平均値に基づいてセタン価指標値を算出する。そして、このセタン価指標値に応じた実行態様で燃焼制御を実行する。
・四つの気筒を有する内燃機関に限らず、単気筒の内燃機関や、二つの気筒を有する内燃機関、三つの気筒を有する内燃機関、あるいは五つ以上の気筒を有する内燃機関にも、本発明は適用することができる。