(多層構造体)
以下に、図を参照しながら、本発明の多層構造体を詳細に説明する。図1は、本発明の多層構造体の一例の断面図である。
本発明の多層構造体1は、図1に示されるように、交互に積層した少なくとも2種類の異なるバリア性樹脂組成物層(図1では2種類のバリア性樹脂組成物層2、3)を備えることを要し、該バリア性樹脂組成物層を合計した層数は7層以上であり、各バリア性樹脂組成物層の厚さT1、T2、T3・・・Tnが、いずれも0.01〜40μmの範囲であることを特徴とする。
前記少なくとも2種類(図1では2種類)の異なるバリア性樹脂組成物層2、3を、交互に7層以上積層することで、多層構造体1の高いガスバリア性を実現できる。また、空気透過抑制力は高いものの、弾性率が高く屈曲性に乏しいことから、従来クラックの起点となっていた前記バリア性樹脂組成物層2、3について、その厚さを、いずれも0.01〜40μmと薄厚にすることで、靱性化による効果が得られる結果、熱可塑性エラストマー層等の緩衝層を別途形成することなく、多層構造体1の耐クラック性を向上できる。さらに、前記バリア性樹脂組成物層2の薄厚化により、多層構造体1の大幅な軽量化が可能となる。
本発明の多層構造体1を構成する各バリア性樹脂組成物層2、3は、少なくとも2種類の異なる層である。その理由としては、異なるバリア性樹脂組成物層を交互に積層することで、各層間において剛性段差ができるため、靱性化による効果が得られる結果、耐クラック性の向上に寄与し、さらに、ガスバリア性の高い樹脂組成物層のみからなる積層構造であり、高いガスバリア性を実現できるからである。なお、前記バリア性樹脂組成物層2、3が、それぞれ異なるということは、各層2、3の配合組成が異なることを意味し、各層2、3厚さや表面粗さ等の条件が異なることを意味するものではない。同一のバリア性樹脂組成物層のみから構成される場合には、製造工程中に樹脂組成物層同士が溶融し、混ざり合う結果、界面が形成されず、所望の靱性効果を得ることができない。
前記バリア性樹脂組成物層2、3の合計層数については、7層以上であれば特に限定はされないが、さらに高いガスバリア性を実現する点から、11層以上であることが好ましく、15層以上であることがさらに好ましい。なお、前記バリア性樹脂組成物層2、3の合計層数の上限については、特に限定されないが、多層構造体1を軽量化する点からは、3000層以下であることが好ましい。
本発明の多層構造体において、前記バリア性樹脂組成物層2、3は、一層あたりの厚さT1、T2、T3・・・Tnが、いずれも0.001〜40μmの範囲である。前記バリア性樹脂組成物層2、3の厚さを上記範囲とすることで、靱性化による耐クラック性の向上が図れるとともに、多層構造体を構成する層の数を増やすことができるため、全体の厚さは同じであるが層数の少ない多層構造体と比べて、多層構造体のガスバリア性及び耐クラック性を向上できる。
例えば、従来バリア層に用いる材料の一例としてポリスチレンが挙げられるが、ポリスチレンは脆性な材料として知られており、このポリスチレンからなる層は、室温において1.5%程度の伸びにより破断してしまうおそれがある。しかしながら、「Polymer,1993,vol.34(10),2148−2154」では、延性な材料からなる層とポリスチレンからなる層とを積層させ、さらにポリスチレンからなる層の厚さをいずれも1μm以下とすることで、ポリスチレンからなる層が脆性から延性へ改質されることが報告されている。即ち、ポリスチレンのような脆性な材料からなる層であっても、該層の厚みを非常に薄くすることで、靭性に改質できると考えられる。本発明者らはこのような考え方に着目し、優れたガスバリア性及び耐クラック性の両立を達成できる多層構造体を見出した。
前記バリア性樹脂組成物層2、3は、図1に示すように、いずれも厚さT1、T2、T3・・・Tnの下限が、0.001μmであることを要し、0.005μmであることが好ましく、0.01μmであることがさらに好ましい。一方、前記バリア性樹脂組成物層2、3の厚さT1、T2、T3・・・Tnの上限は、いずれも40μmであること要し、さらに優れた耐クラック性を実現する点から、10μmが好ましく、5μmがより好ましく、3μmがさらに好ましく、1μmが一層好ましく、0.5μmがより一層好ましく、0.2μmがさらに一層好ましく、0.1μmが特に好ましく、0.05μmが最も好ましい。前記バリア性樹脂組成物層2、3の厚さが0.001μm未満では、均一な厚さで成形することが困難になり、多層構造体のガスバリア性及びクラック性が低下するおそれがある。一方、一層の平均厚さが10μmを超えると、多層構造体の厚さによっては多層構造体を構成するバリア層の数を十分に確保できなくなり、ガスバリア性及び耐クラック性が低下するおそれがあり、またバリア層に靭性を付与できない場合がある。
また、図1に示すように、本発明の多層構造体1の厚さTは、0.1〜1000μmの範囲が好ましく、0.5〜750μmの範囲がさらに好ましく、1〜500μmの範囲が一層好ましい。多層構造体の厚さが前記範囲内であれば、空気入りタイヤ用インナーライナーとして好適であり、またバリア層及びエラストマー層の一層の平均厚さを限定することとも相まって、ガスバリア性、耐クラック性等をさらに向上させることができる。
また、本発明の多層構造体1は、前記バリア性樹脂組成物層2、3が、活性エネルギー線の照射により架橋されてなる。活性エネルギー線の照射により前記バリア性樹脂組成物層2、3を架橋することで、積層される各層2、3間の親和性が向上し高い接着性を発現することができる。その結果、多層構造1体の層間接着性、延いてはガスバリア性及び耐クラック性を格段に向上させることができる。なお、前記活性エネルギー線は、電磁波又は荷電粒子線の中でエネルギー量子を有するものを意味し、具体例としては紫外線、γ線、電子線等が挙げられ、これらの中でも、層間接着性の向上効果の観点から、電子線が好ましい。活性エネルギー線として電子線を照射する場合、電子線源としては、例えばコックロフトワルトン型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、又は直線型、ダイナミトロン型、高周波型等の各種電子線加速器を使用でき、加速電圧は通常100〜500kVで、照射線量は通常5〜600kGyの範囲である。また、活性エネルギー線として紫外線を用いる場合、波長190〜380nmの紫外線を含むものを照射するのがよい。紫外線源としては、特に制限はなく、例えば高圧水銀灯、低圧水銀灯、メタルハライドランプ、カーボンアーク灯等が用いられる。
(バリア性樹脂組成物層)
本発明の多層構造体を構成する前記バリア性樹脂組成物層は、多層構造体にガスバリア性を付与するための層であり、樹脂からなる層又は樹脂がマトリクスとして存在する樹脂組成物からなる層である。なお、マトリクスとは、連続相を意味する。
また、前記バリア性樹脂組成物層の、20℃、65RH%における酸素透過度が、8.0×10−12cm3・cm/cm2・sec・cmHg以下であるのが好ましく、5.0×10−12cm3・cm/cm2・sec・cmHg以下であることがより好ましい。なお、空気透過度は、JIS K7126Aに準拠して測定される。
前記バリア性樹脂組成物層に用いる樹脂としては、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)、変性エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂(変性EVOH)、ポリアミド樹脂(PA)、ポリビニルアルコール樹脂(PVA)、ポリ塩化ビニリデン樹脂(PVDC)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリオキシメチレン等が挙げられ、これらの中でも、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアミド樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂及び変性エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂が好ましい。これらの樹脂は弾性率が低いことから、バリア性樹脂組成物層の弾性率を低下させ、靱性効果を得ることができる結果、耐クラック性等の耐久性を向上させることができる。なお、前記樹脂については、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記ポリビニルアルコール樹脂(PVA)は、合成樹脂の一種であり、親水性が非常に強く、温水に可溶という特徴を有する。前記インナーライナーのガスバリア性、溶融成形性及び層間接着性を向上させる観点から、けん化度が95mol%以下であることが好ましく、90mol%以下であることがさらに好ましい。
本発明において、前記ポリビニルアルコール樹脂は、例えば、酢酸ビニルモノマーを重合したポリ酢酸ビニルをケン化することにより得られる。
前記ポリアミド樹脂(PA)は、酸とアミンが反応してできるアミド結合を持つ高分子化合物の総称であり、機械特性が良く、引張り、圧縮、曲げ、衝撃に強いという特徴を有する。前記インナーライナーのガスバリア性、溶融成形性及び層間接着性を向上させる観点から、前記PAは、メルトフローレート(JIS K 7210 1999(230℃ 21.18N))において、100g/10分であることが好ましく、30g/10分であることがさらに好ましい。
前記ポリアミド樹脂の具体的な種類について、例えば、ナイロン6、ナイロン6−66、ナイロンMXD6、芳香族ポリアミド等が挙げられる。
前記エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂は、多層構造体のガスバリア性、溶融成形性及び層間接着性を向上させる観点から、エチレン含有量が3〜70モル%であることが好ましく、10〜60モル%であることがさらに好ましく、20〜55モル%であることが一層好ましく、25〜50モル%であることが特に好ましい。エチレン含有量が3モル%未満では、多層構造体の耐水性、耐熱水性、高湿度下でのガスバリア性及び溶融成形性が低下するおそれがあり、一方、70モル%を超えると、多層構造体のガスバリア性が低下するおそれがある。
前記エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂は、多層構造体のガスバリア性、耐湿性及び層間接着性を向上させる観点から、ケン化度が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがさらに好ましく、95%以上であることが一層好ましく、99%以上であることが特に好ましい。一方、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂のケン化度は、99.99%以下が好ましい。EVOHのケン化度が80%未満では、多層構造体の溶融成形性、ガスバリア性、耐着色性及び耐湿性が低下するおそれがある。
前記エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂は、ガスバリア性、耐屈曲性及び耐疲労性を得る観点から、メルトフローレート(MFR)が190℃、21.18N荷重下で0.1〜30g/10分であることが好ましく、0.3〜25g/10分であることがさらに好ましい。
前記エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂は、1,2−グリコール結合構造単位の含有量G(モル%)が下記式:
G ≦ 1.58−0.0244×E
[式中、Gは1,2−グリコール結合構造単位の含有量(モル%)であり、EはEVOH中のエチレン単位含有量(モル%)であり、但し、E ≦ 64である]の関係を満たし、且つ、固有粘度が0.05〜0.2L/gの範囲であることが好ましい。このようなEVOHを用いることで、得られる多層構造体は、ガスバリア性の湿度依存性が小さくなり、良好な透明性及び光沢を有し、他の樹脂からなる層への積層も容易になる。なお、1,2−グリコール結合構造単位の含有量は、「S.Aniyaら,Analytical Science Vol.1,91(1985)」に記載された方法に準じて、EVOH試料をジメチルスルホキシド溶液とし、温度90℃における核磁気共鳴法によって測定されることができる。
前記変性エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂は、エチレン単位及びビニルアルコール単位の他に、他の繰り返し単位(以下、構造単位ともいう)、例えばこれらの単位から誘導した繰り返し単位を1種又は複数種有する重合体である。なお、変性EVOHの好適なエチレン含有量、ケン化度、メルトフローレート(MFR)、1,2−グリコール結合構造単位の含有量及び固有粘度は、上述のEVOHと同様である。
前記変性EVOHは、例えば下記に示す構造単位(I)及び(II)から選ばれる少なくとも一種の構造単位を有することが好ましく、該構造単位を全構造単位に対して0.5〜30モル%の割合で含有することがさらに好ましい。かかる変性EVOHであれば、樹脂又は樹脂組成物の柔軟性及び加工特性、並びに多層構造体の層間接着性、延伸性及び熱成形性を向上させることができる。
上記式(I)中、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基又は水酸基を表す。また、R
1、R
2及びR
3のうちの一対が結合していてもよい(但し、R
1、R
2及びR
3のうちの一対が共に水素原子の場合は除く)。また、前記炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基は、水酸基、カルボキシ基又はハロゲン原子を有していてもよい。一方、上記式(II)中、R
4、R
5、R
6及びR
7は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基又は水酸基を表す。また、R
4とR
5又はR
6とR
7は結合していてもよい(但し、R
4とR
5又はR
6とR
7が共に水素原子の場合は除く)。また、前記炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基は、水酸基、アルコキシ基、カルボキシ基又はハロゲン原子を有していてもよい。
前記変性EVOHにおいて、上記構造単位(I)及び/又は(II)の全構造単位に対する含有量の下限は、0.5モル%が好ましく、1モル%がより好ましく、1.5モル%がさらに好ましい。一方、前記変性EVOHにおいて、上記構造単位(I)及び/又は(II)の全構造単位に対する含有量の上限は、30モル%が好ましく、15モル%がより好ましく、10モル%がさらに好ましい。前記構造単位(I)及び/又は(II)を前記特定した割合で含有することで、樹脂又は樹脂組成物の柔軟性及び加工特性、並びに多層構造体の層間接着性、延伸性及び熱成形性を向上させることができる。
上記構造単位(I)及び(II)において、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基としてはアルキル基、アルケニル基等が挙げられ、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基としてはシクロアルキル基、シクロアルケニル基等が挙げられ、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基としてはフェニル基等が挙げられる。
上記構造単位(I)において、前記R1、R2及びR3は、それぞれ独立して水素原子、メチル基、エチル基、水酸基、ヒドロキシメチル基又はヒドロキシエチル基であることが好ましく、これらの中でも、それぞれ独立に水素原子、メチル基、水酸基又はヒドロキシメチル基であることがさらに好ましい。かかるR1、R2及びR3であれば、多層構造体の延伸性及び熱成形性をさらに向上させることができる。
EVOH中に上記構造単位(I)を含有させる方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、エチレンとビニルエステルとの共重合において、さらに構造単位(I)に誘導される単量体を共重合させる方法等が挙げられる。該構造単位(I)に誘導される単量体としては、例えば、プロピレン、ブチレン、ペンテン、ヘキセン等のアルケン;3−ヒドロキシ−1−プロペン、3−アシロキシ−1−プロペン、3−アシロキシ−1−ブテン、4−アシロキシ−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−1−ブテン、3−アシロキシ−4−ヒドロキシ−1−ブテン、4−アシロキシ−3−ヒドロキシ−1−ブテン、3−アシロキシ−4−メチル−1−ブテン、4−アシロキシ−2−メチル−1−ブテン、4−アシロキシ−3−メチル−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−2−メチル−1−ブテン、4−ヒドロキシ−1−ペンテン、5−ヒドロキシ−1−ペンテン、4,5−ジヒドロキシ−1−ペンテン、4−アシロキシ−1−ペンテン、5−アシロキシ−1−ペンテン、4,5−ジアシロキシ−1−ペンテン、4−ヒドロキシ−3−メチル−1−ペンテン、5−ヒドロキシ−3−メチル−1−ペンテン、4,5−ジヒドロキシ−3−メチル−1−ペンテン、5,6−ジヒドロキシ−1−ヘキセン、4−ヒドロキシ−1−ヘキセン、5−ヒドロキシ−1−ヘキセン、6−ヒドロキシ−1−ヘキセン、4−アシロキシ−1−ヘキセン、5−アシロキシ−1−ヘキセン、6−アシロキシ−1−ヘキセン、5,6−ジアシロキシ−1−ヘキセン等の水酸基やエステル基を有するアルケンが挙げられる。それらの中でも、共重合反応性、及び得られる多層構造体のガスバリア性の観点から、プロピレン、3−アシロキシ−1−プロペン、3−アシロキシ−1−ブテン、4−アシロキシ−1−ブテン、及び3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが好ましい。具体的には、プロピレン、3−アセトキシ−1−プロペン、3−アセトキシ−1−ブテン、4−アセトキシ−1−ブテン、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンがさらに好ましく、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが特に好ましい。なお、エステルを有するアルケンを用いる場合は、ケン化反応の際に、前記構造単位(I)に誘導される。
上記構造単位(II)において、R4及びR5は共に水素原子であることが好ましい。特に、R4及びR5が共に水素原子であり、前記R6及びR7のうちの一方が炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基で、他方が水素原子であることがより好ましい。構造単位(II)中の脂肪族炭化水素基は、アルキル基又はアルケニル基が好ましい。また、多層構造体のガスバリア性を特に重視する観点から、R6及びR7のうちの一方がメチル基又はエチル基で、他方が水素原子であることが好ましい。さらに、前記R6及びR7のうちの一方が(CH2)hOHで表される置換基(但し、hは1〜8の整数である)で、他方が水素原子であることも好ましい。この(CH2)hOHで表される置換基においては、hが1〜4の整数であることが好ましく、1又は2であることがより好ましく、1であることが特に好ましい。
また、EVOH中に上記構造単位(II)を含有させる方法としては、特に限定されるものではないが、ケン化反応によって得られたEVOHに一価エポキシ化合物を反応させる方法等が挙げられる。一価エポキシ化合物としては、下記式(III)〜(IX)で表される化合物が好適に挙げられる。
上記式(III)〜(IX)中、R
8、R
9、R
10、R
11及びR
12は、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基(アルキル基又はアルケニル基等)、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基(シクロアルキル基又はシクロアルケニル基等)又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基(フェニル基等)を表す。なお、R
8及びR
9又はR
11及びR
12は、同一であってもよく、異なっていてもよい。また、i、j、k、p及びqは、1〜8の整数を表す。
上記式(III)で表される一価エポキシ化合物としては、例えば、エポキシエタン(エチレンオキサイド)、エポキシプロパン、1,2−エポキシブタン、2,3−エポキシブタン、3−メチル−1,2−エポキシブタン、1,2−エポキシペンタン、2,3−エポキシペンタン、3−メチル−1,2−エポキシペンタン、4−メチル−1,2−エポキシペンタン、4−メチル−2,3−エポキシペンタン、3−エチル−1,2−エポキシペンタン、1,2−エポキシヘキサン、2,3−エポキシヘキサン、3,4−エポキシヘキサン、3−メチル−1,2−エポキシヘキサン、4−メチル−1,2−エポキシヘキサン、5−メチル−1,2−エポキシヘキサン、3−エチル−1,2−エポキシヘキサン、3−プロピル−1,2−エポキシヘキサン、4−エチル−1,2−エポキシヘキサン、5−メチル−1,2−エポキシヘキサン、4−メチル−2,3−エポキシヘキサン、4−エチル−2,3−エポキシヘキサン、2−メチル−3,4−エポキシヘキサン、2,5−ジメチル−3,4−エポキシヘキサン、3−メチル−1,2−エポキシヘプタン、4−メチル−1,2−エポキシヘキサン、5−メチル−1,2−エポキシヘプタン、6−メチル−1,2−エポキシヘプタン、3−エチル−1,2−エポキシヘプタン、3−プロピル−1,2−エポキシヘプタン、3−ブチル−1,2−エポキシヘプタン、4−エチル−1,2−エポキシヘプタン、4−プロピル−1,2−エポキシヘプタン、6−エチル−1,2−エポキシヘプタン、4−メチル−2,3−エポキシヘプタン、4−エチル−2,3−エポキシヘプタン、4−プロピル−2,3−エポキシヘプタン、2−メチル−3,4−エポキシヘプタン、5−メチル−3,4−エポキシヘプタン、5−エチル−3,4−エポキシヘプタン、2,5−ジメチル−3,4−エポキシヘプタン、2−メチル−5−エチル−3,4−エポキシヘプタン、1,2−エポキシヘプタン、2,3−エポキシヘプタン、3,4−エポキシヘプタン、1,2−エポキシオクタン、2,3−エポキシオクタン、3,4−エポキシオクタン、4,5−エポキシオクタン、1,2−エポキシノナン、2,3−エポキシノナン、3,4−エポキシノナン、4,5−エポキシノナン、1,2−エポキシデカン、2,3−エポキシデカン、3,4−エポキシデカン、4,5−エポキシデカン、5,6−エポキシデカン、1,2−エポキシウンデカン、2,3−エポキシウンデカン、3,4−エポキシウンデカン、4,5−エポキシウンデカン、5,6−エポキシウンデカン、1,2−エポキシドデカン、2,3−エポキシドデカン、3,4−エポキシドデカン、4,5−エポキシドデカン、5,6−エポキシドデカン、6,7−エポキシドデカン、エポキシエチルベンゼン、1−フェニル−1,2−プロパン、3−フェニル−1,2−エポキシプロパン、1−フェニル−1,2−エポキシブタン、3−フェニル−1,2−エポキシペンタン、4−フェニル−1,2−エポキシペンタン、5−フェニル−1,2−エポキシペンタン、1−フェニル−1,2−エポキシヘキサン、3−フェニル−1,2−エポキシヘキサン、4−フェニル−1,2−エポキシヘキサン、5−フェニル−1,2−エポキシヘキサン、6−フェニル−1,2−エポキシヘキサン等が挙げられる。
上記式(IV)で表される一価エポキシ化合物としては、例えば、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、n−プロピルグリシジルエーテル、イソプロピルグリシジルエーテル、n−ブチルグリシジルエーテル、イソブチルグリシジルエーテル、tert−ブチルグリシジルエーテル、1,2−エポキシ−3−ペンチルオキシプロパン、1,2−エポキシ−3−ヘキシルオキシプロパン、1,2−エポキシ−3−ヘプチルオキシプロパン、1,2−エポキシ−4−フェノキシブタン、1,2−エポキシ−4−ベンジルオキシブタン、1,2−エポキシ−5−メトキシペンタン、1,2−エポキシ−5−エトキシペンタン、1,2−エポキシ−5−プロポキシペンタン、1,2−エポキシ−5−ブトキシペンタン、1,2−エポキシ−5−ペンチルオキシペンタン、1,2−エポキシ−5−ヘキシルオキシペンタン、1,2−エポキシ−5−フェノキシペンタン、1,2−エポキシ−6−メトキシヘキサン、1,2−エポキシ−6−エトキシヘキサン、1,2−エポキシ−6−プロポキシヘキサン、1,2−エポキシ−6−ブトキシヘキサン、1,2−エポキシ−6−ヘプチルオキシヘキサン、1,2−エポキシ−7−メトキシヘプタン、1,2−エポキシ−7−エトキシヘプタン、1,2−エポキシ−7−プロポキシヘプタン、1,2−エポキシ−7−ブトキシヘプタン、1,2−エポキシ−8−メトキシオクタン、1,2−エポキシ−8−エトキシオクタン、1,2−エポキシ−8−ブトキシオクタン、グリシドール、3,4−エポキシ−1−ブタノール、4,5−エポキシ−1−ペンタノール、5,6−エポキシ−1−ヘキサノール、6,7−エポキシ−1−ヘプタノール、7,8−エポキシ−1−オクタノール、8,9−エポキシ−1−ノナノール、9,10−エポキシ−1−デカノール、10,11−エポキシ−1−ウンデカノール等が挙げられる。
上記式(V)で表される一価エポキシ化合物としては、例えば、エチレングリコールモノグリシジルエーテル、プロパンジオールモノグリシジルエーテル、ブタンジオールモノグリシジルエーテル、ペンタンジオールモノグリシジルエーテル、ヘキサンジオールモノグリシジルエーテル、ヘプタンジオールモノグリシジルエーテル、オクタンジオールモノグリシジルエーテル等が挙げられる。
上記式(VI)で表される一価エポキシ化合物としては、例えば、3−(2,3−エポキシ)プロポキシ−1−プロペン、4−(2,3−エポキシ)プロポキシ−1−ブテン、5−(2,3−エポキシ)プロポキシ−1−ペンテン、6−(2,3−エポキシ)プロポキシ−1−ヘキセン、7−(2,3−エポキシ)プロポキシ−1−ヘプテン、8−(2,3−エポキシ)プロポキシ−1−オクテン等が挙げられる。
上記式(VII)で表される一価エポキシ化合物としては、例えば、3,4−エポキシ−2−ブタノール、2,3−エポキシ−1−ブタノール、3,4−エポキシ−2−ペンタノール、2,3−エポキシ−1−ペンタノール、1,2−エポキシ−3−ペンタノール、2,3−エポキシ−4−メチル−1−ペンタノール、2,3−エポキシ−4,4−ジメチル−1−ペンタノール、2,3−エポキシ−1−ヘキサノール、3,4−エポキシ−2−ヘキサノール、4,5−エポキシ−3−ヘキサノール、1,2−エポキシ−3−ヘキサノール、2,3−エポキシ−4,4−ジメチル−1−ヘキサノール、2,3−エポキシ−4,4−ジエチル−1−ヘキサノール、2,3−エポキシ−4−メチル−4−エチル−1−ヘキサノール、3,4−エポキシ−5−メチル−2−ヘキサノール、3,4−エポキシ−5,5−ジメチル−2−ヘキサノール、3,4−エポキシ−2−ヘプタノール、2,3−エポキシ−1−ヘプタノール、4,5−エポキシ−3−ヘプタノール、2,3−エポキシ−4−ヘプタノール、1,2−エポキシ−3−ヘプタノール、2,3−エポキシ−1−オクタノール、3,4−エポキシ−2−オクタノール、4,5−エポキシ−3−オクタノール、5,6−エポキシ−4−オクタノール、2,3−エポキシ−4−オクタノール、1,2−エポキシ−3−オクタノール、2,3−エポキシ−1−ノナノール、3,4−エポキシ−2−ノナノール、4,5−エポキシ−3−ノナノール、5,6−エポキシ−4−ノナノール、3,4−エポキシ−5−ノナノール、2,3−エポキシ−4−ノナノール、1,2−エポキシ−3−ノナノール、2,3−エポキシ−1−デカノール、3,4−エポキシ−2−デカノール、4,5−エポキシ−3−デカノール、5,6−エポキシ−4−デカノール、6,7−エポキシ−5−デカノール、3,4−エポキシ−5−デカノール、2,3−エポキシ−4−デカノール、1,2−エポキシ−3−デカノール等が挙げられる。
上記式(VIII)で表される一価エポキシ化合物としては、例えば、1,2−エポキシシクロペンタン、1,2−エポキシシクロヘキサン、1,2−エポキシシクロヘプタン、1,2−エポキシシクロオクタン、1,2−エポキシシクロノナン、1,2−エポキシシクロデカン、1,2−エポキシシクロウンデカン、1,2−エポキシシクロドデカン等が挙げられる。
上記式(IX)で表される一価エポキシ化合物としては、例えば、3,4−エポキシシクロペンテン、3,4−エポキシシクロヘキセン、3,4−エポキシシクロヘプテン、3,4−エポキシシクロオクテン、3,4−エポキシシクロノネン、1,2−エポキシシクロデセン、1,2−エポキシシクロウンデセン、1,2−エポキシシクロドデセン等が挙げられる。
前記一価エポキシ化合物の中では、炭素数が2〜8のエポキシ化合物が好ましい。特に、化合物の取り扱いの容易さ及びEVOHに対する反応性の観点から、一価エポキシ化合物の炭素数は、2〜6がより好ましく、2〜4がさらに好ましい。また、一価エポキシ化合物は、これらの式で表される化合物のうち式(III)又は(IV)で表される化合物であることが特に好ましい。具体的には、EVOHに対する反応性及び得られる多層構造体のガスバリア性の観点から、1,2−エポキシブタン、2,3−エポキシブタン、エポキシプロパン、エポキシエタン及びグリシドールが好ましく、これらの中でもエポキシプロパン及びグリシドールが特に好ましい。
本発明において、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂は、例えば、エチレンとビニルエステルとを重合してエチレン−ビニルエステル共重合樹脂を得、該エチレン−ビニルエステル共重合樹脂をケン化することにより得られる。また、変性エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂は、上述のとおり、(1)エチレンとビニルエステルとの重合において、さらに構造単位(I)に誘導される単量体を共重合させたり、(2)ケン化反応によって得られたEVOHに対して一価エポキシ化合物を反応させることにより得られる。ここで、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂及び変性エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂の重合方法は、特に限定されず、例えば溶液重合、懸濁重合、乳化重合、バルク重合のいずれであってもよい。また、連続式、回分式のいずれであってもよい。
前記重合に用いることができるビニルエステルとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル等の脂肪酸ビニル等が挙げられる。
また、変性エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂を製造する場合、エチレン及びビニルエステルの他に、これら単量体と共重合し得る単量体を好ましくは少量で用いることがある。この共重合し得る単量体としては、上述の構造単位(I)に誘導される単量体に加えて、他のアルケン;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸又はその無水物、塩、モノアルキルエステル若しくはジアルキルエステル等;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド;ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸又はその塩;アルキルビニルエーテル類、ビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等が挙げられる。また、ビニルシラン化合物を単量体として用いることもでき、共重合樹脂中に導入されるビニルシラン化合物の量は、0.0002モル%以上で且つ0.2モル%以下であることが好ましい。ビニルシラン化合物としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメトキシシラン等が挙げられる。これらビニルシラン化合物の中でも、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランが好ましい。
重合に使用できる溶媒は、エチレン、ビニルエステル及びエチレン−ビニルエステル共重合樹脂を溶解し得る有機溶剤であれば特に限定されない。具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノール等のアルコール;ジメチルスルホキシド等が挙げられる。それらの中でも、反応後の除去分離が容易である点で、メタノールが特に好ましい。
重合に使用できる開始剤としては、例えば2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス−(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス−(2−シクロプロピルプロピオニトリル)等のアゾニトリル系開始剤;イソブチリルパーオキサイド、クミルパーオキシネオデカノエート、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物系開始剤等が挙げられる。
重合温度は、通常20〜90℃程度であり、好ましくは40〜70℃である。重合時間は、通常2〜15時間程度であり、好ましくは3〜11時間である。重合率は、仕込みのビニルエステルに対して通常10〜90%程度であり、好ましくは30〜80%である。重合後の溶液中の樹脂分は、5〜85質量%程度であり、好ましくは20〜70質量%である。
所定時間の重合後又は所定の重合率に達した後、得られる共重合樹脂溶液に必要に応じて重合禁止剤を添加し、未反応のエチレンガスを蒸発除去し、その後、未反応のビニルエステルを除去する。未反応のビニルエステルを除去する方法としては、例えば、ラシヒリングを充填した塔の上部から共重合樹脂溶液を一定速度で連続的に供給し、塔の下部よりメタノール等の有機溶剤蒸気を吹き込み、塔頂部よりメタノール等の有機溶剤と未反応ビニルエステルの混合蒸気を留出させ、塔底部より未反応のビニルエステルを除去した共重合樹脂溶液を取り出す方法等が採用される。
次に、前記共重合樹脂溶液にアルカリ触媒を添加し、該溶液中に存在する共重合樹脂をケン化する。ケン化方法は、連続式、回分式のいずれも可能である。前記アルカリ触媒としては、例えば水酸化ナトリム、水酸化カリウム、アルカリ金属アルコラート等が挙げられる。また、ケン化の条件は、例えば回分式の場合、共重合樹脂溶液中のアルカリ触媒の濃度が10〜50質量%程度、反応温度が30〜65℃程度、触媒使用量がビニルエステル構造単位1モル当たり0.02〜1.0モル程度、ケン化時間が1〜6時間程度であることが好ましい。
ケン化反応後の(変性)EVOHは、アルカリ触媒、酢酸ナトリウムや酢酸カリウム等の副生塩類、その他不純物を含有するため、これらを必要に応じて中和、洗浄することにより除去することが好ましい。ここで、ケン化反応後の(変性)EVOHを、イオン交換水等の金属イオン、塩化物イオン等をほとんど含まない水で洗浄する際、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等を一部残存させてもよい。
前記バリア性樹脂組成物層に用いる樹脂組成物には、ラジカル架橋剤を配合してもよい。樹脂組成物がラジカル架橋剤を含むことで、活性エネルギー線照射時の架橋効果を高め、多層構造体の層間接着性をさらに向上させることができる。また、ラジカル架橋剤が樹脂組成物中に存在しない場合と比べて、活性エネルギー線の照射量を少なくすることも可能である。樹脂組成物中のラジカル架橋剤の含有量は、架橋効果と経済性のバランスの観点から、0.01〜10質量%が好ましく、0.05〜9質量%がさらに好ましく、0.1〜8質量%が一層好ましい。前記ラジカル架橋剤としては、例えば、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ネオフェニレングリコールジアクリレート等が挙げられる。なお、これらのラジカル架橋剤は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記バリア性樹脂組成物層に用いる樹脂組成物には、リン酸化合物、カルボン酸及びホウ素化合物から選ばれる1種又は複数種の化合物を配合してもよい。
具体的には、樹脂組成物中にリン酸化合物を含有することで、多層構造体の溶融成形時の熱安定性を改善することができる。リン酸化合物としては、特に限定されず、例えばリン酸、亜リン酸等の各種の酸やその塩等が挙げられる。リン酸塩は、例えば第1リン酸塩、第2リン酸塩、第3リン酸塩のいずれの形で含まれていてもよく、その対カチオン種としても特に限定されないが、アルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンが好ましい。特に、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素ナトリウム又はリン酸水素カリウムが、熱安定性改善効果が高い点で好ましい。
リン酸化合物の含有量(乾燥樹脂組成物中のリン酸化合物のリン酸根換算含有量)の下限としては、1質量ppmが好ましく、10質量ppmがより好ましく、30質量ppmがさらに好ましい。一方、リン酸化合物の含有量の上限としては、10,000質量ppmが好ましく、1,000質量ppmがより好ましく、300質量ppmがさらに好ましい。リン酸化合物の含有量が1質量ppmより小さいと、溶融成形時の着色が激しくなるおそれがある。特に、熱履歴を重ねるときにその傾向が顕著であるため、樹脂組成物ペレットを成形して得られた成形物が回収性に乏しいものとなるおそれがある。一方、リン酸化合物の含有量が10,000質量ppmを超えると、成形時のゲル・ブツが発生し易くなるおそれがある。
また、樹脂組成物中にカルボン酸を含有することで、樹脂組成物のpHを制御し、ゲル化を防止して熱安定性を改善する効果が得られる。カルボン酸としては、25℃におけるpKaが3.5以上であるものが好ましい。25℃におけるpKaが3.5未満であるシュウ酸、コハク酸、安息香酸、クエン酸のようなカルボン酸を含有すると、樹脂組成物のpHの制御が困難となり、耐着色性や層間接着性が十分に得られないおそれがある。かかるカルボン酸としては、コストなどの観点から、酢酸又は乳酸が特に好ましい。
カルボン酸の含有量(乾燥樹脂組成物中のカルボン酸の含有量)の下限としては、1質量ppmが好ましく、10質量ppmがより好ましく、50質量ppmがさらに好ましい。一方、カルボン酸の含有量の上限としては、10,000質量ppmが好ましく、1,000質量ppmがより好ましく、500質量ppmがさらに好ましい。カルボン酸の含有量が1質量ppmより小さいと、溶融成形時に着色が起こるおそれがある。一方、カルボン酸の含有量が10,000質量ppmを超えると、層間接着性が不充分となるおそれがある。
さらに、樹脂組成物中にホウ素化合物を含有することで、熱安定性の向上効果が得られる。詳細には、例えば(変性)EVOHのような樹脂にホウ素化合物を添加した場合、(変性)EVOHとホウ素化合物との間にキレート化合物が生成すると考えられ、かかる(変性)EVOHを用いることによって、通常の(変性)EVOHよりも熱安定性を改善し、機械的性質を向上させることが可能である。ホウ素化合物としては、特に限定されるものではなく、例えばホウ酸類、ホウ酸エステル、ホウ酸塩、水素化ホウ酸類等が挙げられる。具体的には、ホウ酸類としては、例えばオルトホウ酸(H3BO3)、メタホウ酸、四ホウ酸等が挙げられ、ホウ酸エステルとしては、例えばホウ酸トリエチル、ホウ酸トリメチル等が挙げられ、ホウ酸塩としては、前記各種ホウ酸類のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、ホウ砂等が挙げられる。これらの中でもオルトホウ酸が好ましい。
ホウ素化合物の含有量(乾燥樹脂組成物中のホウ素化合物のホウ素換算含有量)の下限としては、1質量ppmが好ましく、10質量ppmがより好ましく、50質量ppmがさらに好ましい。一方、ホウ素化合物の含有量の上限としては、2,000質量ppmが好ましく、1,000質量ppmがより好ましく、500質量ppmがさらに好ましい。ホウ素化合物の含有量が1質量ppmより小さいと、ホウ素化合物を添加することによる熱安定性の改善効果が得られないおそれがある。一方、ホウ素化合物の含有量が2,000質量ppmを超えると、ゲル化しやすく、成形不良となるおそれがある。
前記リン酸化合物、カルボン酸又はホウ素化合物を樹脂組成物に含有させる方法は、特に限定されるものではなく、例えば樹脂組成物のペレット等を調製する際に樹脂組成物に添加して混練する方法が好適に採用される。この樹脂組成物に添加する方法も、特に限定されないが、乾燥粉末として添加する方法、溶媒を含浸させたペースト状で添加する方法、液体に懸濁させた状態で添加する方法、溶媒に溶解させて溶液として添加する方法等を例示できる。これらの中でも、均質に分散させる観点から、溶媒に溶解させて溶液として添加する方法が好ましい。これらの方法に用いられる溶媒は特に限定されないが、添加剤の溶解性、コスト的メリット、取り扱いの容易性、作業環境の完全性等の観点から水が好適に用いられる。これらの添加の際、後述する金属塩やその他の添加剤等を同時に添加することができる。
また、リン酸化合物、カルボン酸又はホウ素化合物を含有させる他の方法としては、それらの物質が溶媒中に溶解した溶液に、押出機等により得られた樹脂組成物のペレット又はストランドを浸漬させる方法も、該物質を均質に分散させることができる点で好ましい。この方法においても、溶媒としては、同様の理由で水が好適に用いられる。この溶液に、後述する金属塩を溶解させることで、リン酸化合物等と同時に金属塩を含有させることができる。
前記バリア性樹脂組成物層に用いる樹脂組成物には、分子量1,000以下の共役二重結合を有する化合物を配合してもよい。かかる化合物を含有することによって、樹脂組成物の色相が改善され、外観の良好な多層構造体を製造することができる。かかる化合物としては、例えば2個の炭素−炭素二重結合と3個の炭素−炭素単結合とが交互に繋がった構造を有する共役ジエン化合物、3個の炭素−炭素二重結合と4個の炭素−炭素単結合とが交互に繋がった構造を有する共役トリエン化合物(好ましくは2,4,6−オクタトリエン)、4個以上の炭素−炭素二重結合と5個以上の炭素−炭素単結合とが交互に繋がった構造を有する共役ポリエン化合物等が挙げられる。また、共役二重結合を有する化合物には、共役二重結合が1分子中に独立して複数組あってもよく、例えば桐油のように共役トリエンが同一分子内に3個ある化合物も含まれる。
前記共役二重結合を有する化合物は、例えばカルボキシ基及びその塩、水酸基、エステル基、カルボニル基、エーテル基、アミノ基、イミノ基、アミド基、シアノ基、ジアゾ基、ニトロ基、スルホン基、スルホキシド基、スルフィド基、チオール基、スルホン酸基及びその塩、リン酸基及びその塩、フェニル基、ハロゲン原子、三重結合等の共役二重結合以外の各種官能基を有していてもよい。かかる官能基は、共役二重結合中の炭素原子に直接結合されていてもよく、共役二重結合から離れた位置に結合されていてもよい。また、前記官能基中の多重結合は、共役二重結合と共役可能な位置にあってもよく、例えばフェニル基を有する1−フェニルブタジエンやカルボキシ基を有するソルビン酸等も、ここでいう共役二重結合を有する化合物に含まれる。
前記共役二重結合を有する化合物の具体例としては、例えば2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、1,3−ジフェニル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、4−メチル−1,3−ペンタジエン、1−フェニル−1,3−ブタジエン、ソルビン酸、ミルセン等が挙げられる。
前記共役二重結合を有する化合物における共役二重結合とは、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、ソルビン酸のような脂肪族同士の共役二重結合のみならず、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、1,3−ジフェニル−1−ブテンのような脂肪族と芳香族との共役二重結合も含まれる。但し、外観がより優れた多層構造体を得る観点から、前記脂肪族同士の共役二重結合を含む化合物が好ましく、またカルボキシ基及びその塩、水酸基等の極性基を有する共役二重結合を含む化合物も好ましい。さらに極性基を有し且つ脂肪族同士の共役二重結合を含む化合物が特に好ましい。
前記共役二重結合を有する化合物の分子量としては、1,000以下が好ましい。分子量が1,000を超えると、多層構造体の表面平滑性、押出安定性等が悪化するおそれがある。
前記樹脂組成物における前記分子量が1,000以下の共役二重結合を有する化合物の含有量の下限としては、該化合物の添加により奏される効果を向上させる観点から、0.1質量ppmが好ましく、1質量ppmがより好ましく、3質量ppmがさらに好ましく、5質量ppmが特に好ましい。一方、かかる化合物の含有量の上限としては、該化合物の添加により奏される効果を向上させる観点から、3,000質量ppmが好ましく、2,000質量ppmがより好ましく、1,500質量ppmがさらに好ましく、1,000質量ppmが特に好ましい。
前記共役二重結合を有する化合物の樹脂組成物中への添加方法としては、特に限定されるものではないが、樹脂が(変性)EVOHである場合、重合後で且つケン化前にかかる化合物を添加する手法が、表面平滑性と押出安定性を改善する点で好ましい。この理由は必ずしも明らかではないが、共役二重結合を有する化合物が、ケン化前及び/又はケン化反応中の(変性)EVOHの変質を防止する作用を有することに基づくものと考えられる。
前記バリア性樹脂組成物層に用いる樹脂組成物には、前記樹脂、ラジカル架橋剤、リン酸化合物、カルボン酸、ホウ素化合物、共役二重結合を有する化合物の他に、後述する金属塩、熱安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、充填剤等の多種多様な添加剤を、本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して配合することができる。なお、前記樹脂組成物中の樹脂以外の添加剤の含有量は、50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。
また、前記樹脂又は樹脂組成物は、温度210℃及び剪断速度10/秒での溶融粘度(η1A)が1×102Pa・s以上1×104Pa・s以下、温度210℃及び剪断速度1,000/秒での溶融粘度(η2A)が1×101Pa・s以上1×103Pa・s以下であり、且つ、これらの溶融粘度比(η2A/η1A)が下記式(1A)を満たすことが好ましい。
−0.8≦(1/2)log10(η2A/η1A)≦−0.1 ・・・(1A)
溶融粘度(η1A)が1×102Pa・sより小さいと、溶融共押出しラミネートや溶融押出しなどによる押出し製膜時にネックインや膜揺れが著しくなり、得られる多層構造体や積層前のバリア性樹脂組成物層の厚み斑や幅の縮小が大きくなって、均質で目的寸法どおりの多層構造体を得ることができなくなるおそれがある。一方、溶融粘度(η1A)が1×104Pa・sを超えると、特に100m/分を超えるような高速引き取り条件下で溶融共押出しラミネートや溶融押出成形を行う場合に膜切れが起こり易くなり、高速成膜性が顕著に損なわれ、またダイスウエルが起こり易くなって薄肉の多層構造体や積層前のバリア性樹脂組成物層を得るのが困難になるおそれがある。
また、溶融粘度(η2A)が、1×101Pa・sより小さいと、溶融共押出しラミネートや溶融押出などによる押出し成膜時にネックインや膜揺れが著しくなって、得られる多層構造体や積層する前のバリア性樹脂組成物層の厚み斑や幅の縮小が大きくなるおそれがある。一方、溶融粘度(η2A)が、1×103Pa・sを超えると、押出機に加わるトルクが高くなりすぎ、押出し斑やウェルドラインが発生し易くなるおそれがある。
前記溶融粘度比(η2A/η1A)から算出される(1/2)log10(η2A/η1A)の値が−0.8より小さいと、溶融共押出しラミネートや溶融押出などによる押出し成膜時に膜切れを生じ易くなって高速成膜性が損なわれるおそれがある。一方、(1/2)log10(η2A/η1A)の値が−0.1を超えると、溶融共押出しラミネートや溶融押出による押出し成膜時にネックインや膜揺れが起こって、得られる多層構造体や積層前のバリア性樹脂組成物層に厚み斑や幅の縮小などを生じるおそれがある。かかる観点から、この(1/2)log10(η2A/η1A)の値は、−0.6以上であることがより好ましく、−0.2以下であることがより好ましい。なお、前記式における(1/2)log10(η2A/η1A)の値は、溶融粘度を縦軸とし、剪断速度を横軸とする両自然対数グラフにおける溶融粘度(η1A)及び溶融粘度(η2A)の2点を結ぶ直線の傾きとして求められる。
前記樹脂又は樹脂組成物は、樹脂の融点より10〜80℃高い温度の少なくとも1点における溶融混練時間とトルクの関係において、粘度挙動安定性(M100/M20、但しM20は混練開始から20分後のトルク、M100は混練開始から100分後のトルクを表す)の値が0.5〜1.5の範囲であることが好ましい。粘度挙動安定性の値は1に近いほど粘度変化が少なく、熱安定性(ロングラン性)に優れていることを示す。
本発明の多層構造体は、前記バリア性樹脂組成物層のうちの少なくとも1種に、金属塩を含むことが好ましい。この場合、多層構造体の層間接着性が大幅に向上でき、該多層構造体は、優れた耐久性を有する。金属塩の含有により層間接着性を向上できる理由としては、必ずしも明らかでないが、例えば前記バリア性樹脂組成物層同士の間で起こる結合生成反応が、金属塩の存在により加速されること等が考えられる。
前記金属塩としては、特に限定されるものではないが、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩又は周期律表の第4周期に属する遷移金属塩が、層間接着性をより高める観点から好ましい。これらの中でも、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩がさらに好ましく、アルカリ金属塩が特に好ましい。
前記アルカリ金属塩としては、特に限定されないが、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム等の脂肪族カルボン酸塩、芳香族カルボン酸塩、リン酸塩、金属錯体等が挙げられる。アルカリ金属塩として、具体的には、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、エチレンジアミン四酢酸のナトリウム塩等が挙げられる。これらの中でも、酢酸ナトリム、酢酸カリウム、リン酸ナトリウムが、入手容易である点から特に好ましい。
前記アルカリ土類金属塩としては、特に限定されないが、例えば、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ベリリウム等の酢酸塩又はリン酸塩が挙げられる。これらの中でも、マグネシウム又はカルシウムの酢酸塩又はリン酸塩が、入手容易である点から特に好ましい。かかるアルカリ土類金属塩を含有させると、溶融成形時における熱劣化した樹脂の成形機のダイへの付着量を低減できるという利点もある。
前記周期律表の第4周期に属する遷移金属の金属塩としては、特に限定されないが、例えばチタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛等のカルボン酸塩、リン酸塩、アセチルアセトナート塩等が挙げられる。
前記金属塩の含有量(多層構造体中の金属元素換算の含有量)の下限としては、1質量ppmが好ましく、5質量ppmがより好ましく、10質量ppmがさらに好ましく、20質量ppmが特に好ましい。一方、該金属塩の含有量の上限としては、10,000質量ppmが好ましく、5,000質量ppmがより好ましく、1,000質量ppmがさらに好ましく、500質量ppmが特に好ましい。金属塩の含有量が1質量ppmより小さいと、層間接着性の向上効果が低くなるおそれがある。一方、金属塩の含有量が10,000質量ppmを超えると、多層構造体の外観が悪化するおそれがある。
バリア性樹脂組成物層を形成する樹脂組成物又はエラストマー層を形成するエラストマー組成物に前記金属塩を含有する方法としては、特に限定されるものではなく、上述のような樹脂組成物中にリン酸化合物等を含有する方法と同様の方法が採用できる。
本発明の多層構造体は、異なるバリア性樹脂組成物層同士の剥離抗力が、層間接着性の観点から、好ましくは20N/25mm以上であり、より好ましくは25N/25mm以上であり、さらに好ましくは30N/25mm以上である。ここで、剥離抗力とは、JIS K 6854に準拠し、23℃、50%RH雰囲気下、引張り速度50mm/分でのT型剥離試験によって測定される値である。
(多層構造体の製造方法)
本発明の多層構造体の製造方法としては、2種類のバリア性樹脂組成物層が良好に積層・接着可能な方法であれば特に限定されるものではなく、例えば共押出し、はり合わせ、コーティング、ボンディング、付着等の公知の方法が挙げられる。その中でも、本発明の多層構造体の製造方法としては、複数の樹脂組成物を準備し、これら組成物を用いた多層共押出法によりバリア性樹脂組成物層を備える多層構造体を製造する方法が好ましい。生産性が高く、層間接着性に優れるためである。
前記多層共押出法においては、バリア性樹脂組成物層を形成する樹脂又は樹脂組成物が、加熱溶融され、異なる押出機やポンプからそれぞれの流路を通って押出ダイに供給され、押出ダイから多層に押し出された後に積層接着することで、本発明の多層構造体が形成される。この押出ダイとしては、例えばマルチマニホールドダイ、フィールドブロック、スタティックミキサー等を用いることができる。
また、本発明の多層構造体は、バリア性樹脂組成物層からなる積層体の両面又は片面に、該積層体を支持するための支持層が積層されてもよい。前記支持層としては、特に限定されず、例えば支持層として通常使用される合成樹脂層等が使用できる。なお、支持層のバリア性樹脂組成物層又はエラストマー層への積層方法としては、特に限定されず、例えば、接着剤による接着方法や押出ラミネート法等が挙げられる。
(インナーライナー)
次に、図面を参照しながら、本発明の空気入りタイヤ用インナーライナー及び本発明の空気入りタイヤを詳細に説明する。本発明の空気入りタイヤ用インナーライナーは、上述の多層構造体を用いることを特徴とし、本発明の空気入りタイヤは、該インナーライナーを備えることを特徴とする。
図2は、本発明の空気入りタイヤの一例の部分断面図である。図2に示すタイヤは、一対のビード部7及び一対のサイドウォール部8と、両サイドウォール部8に連なるトレッド部9とを有し、前記一対のビード部7間にトロイド状に延在して、これら各部7,8,9を補強するカーカス10と、該カーカス10のクラウン部のタイヤ半径方向外側に配置された2枚のベルト層からなるベルト11とを備え、さらに、該カーカス10の内側のタイヤ内面にはインナーライナー12が配置されている。
図示例のタイヤにおいて、カーカス10は、前記ビード部7内にそれぞれ埋設した一対のビードコア13間にトロイド状に延在する本体部と、各ビードコア13の周りでタイヤ幅方向の内側から外側に向けて半径方向外方に巻上げた折り返し部とからなるが、本発明のタイヤにおいて、カーカス10のプライ数及び構造は、これに限られるものではない。
また、図示例のタイヤにおいて、ベルト11は、2枚のベルト層からなるが、本発明のタイヤにおいては、ベルト11を構成するベルト層の枚数はこれに限られるものではない。ここで、ベルト層は、通常、タイヤ赤道面に対して傾斜して延びるコードのゴム引き層からなり、2枚のベルト層は、該ベルト層を構成するコードが互いに赤道面を挟んで交差するように積層されてベルト11を構成する。さらに、図示例のタイヤは、前記ベルト11のタイヤ半径方向外側でベルト11の全体を覆うように配置されたベルト補強層14を備えるが、本発明のタイヤは、ベルト補強層14を有していなくてもよいし、他の構造のベルト補強層を備えることもできる。ここで、ベルト補強層14は、通常、タイヤ周方向に対し実質的に平行に配列したコードのゴム引き層からなる。
(空気入りタイヤ)
本発明の空気入りタイヤは、インナーライナー12に上述した多層構造体を適用し、常法により製造することができる。なお、本発明の空気入りタイヤにおいて、タイヤ内に充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を変えた空気、又は窒素等の不活性ガスを用いることができる。
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
(合成例1:EVOH)
冷却装置及び攪拌機を有する重合槽に、酢酸ビニル20000質量部、メタノール1020質量部、重合開始剤として2,2’−アゾビス−(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)3.5質量部を仕込み、攪拌しながら窒素置換した後、エチレンを導入し、内温60℃、エチレン圧力5.9MPaに調節し、4時間その温度及び圧力を保持し、攪拌しながら重合を行った。次いで、ソルビン酸(SA)10質量部(仕込み酢酸ビニルに対して0.0005質量%)をメタノールに溶解して、1.5質量%ソルビン酸のメタノール溶液を調製し、これを添加した。重合率は、仕込み酢酸ビニルに対して30%であった。重合後に得られる共重合反応液を、ラシヒリングを充填した塔に供給し、塔下部からのメタノール蒸気の導入により未反応酢酸ビニルを塔頂より除去し、その後、共重合体の40質量%のメタノール溶液を得た。該共重合体は、エチレン単位含有量が44モル%で、酢酸ビニル単位含有量が56モル%であった。
得られた共重合体のメタノール溶液をケン化反応器に導入し、次いで水酸化ナトリウム/メタノール溶液(85g/L)を共重合体中の酢酸ビニル成分に対して0.5当量となるように添加し、さらにメタノールを添加して、溶液中の共重合体濃度が15質量%になるように調整した。反応器内温度を60℃に昇温し、反応器内に窒素ガスを吹き込みながら5時間反応を行った。その後、反応溶液を酢酸で中和し、反応を停止させ、内容物を反応器より取り出し、常温にて放置したところ、粒子状のEVOHが析出した。析出後の粒子を遠心分離機で脱液し、さらに大量の水を加え脱液するという操作を繰り返し行い、ケン化度99.5%のEVOHを得た。
得られたEVOHを、酢酸、リン酸及びオルトホウ酸(OBA)を含む水溶液(水溶液1L中、酢酸0.3g、リン酸0.06g、オルトホウ酸0.35gを溶解)により浴比20で処理し、乾燥後、押出機にてペレット化し、EVOHペレットを得た。EVOHペレットのMFRは4.6g/10分(190℃、21.18N荷重下)であった。また、ペレットの酢酸含有量は90質量ppm、リン酸化合物含有量はリン酸根換算で43質量ppm、ホウ素化合物の含有量はホウ素換算値で260質量ppmであった。
(実施例及び比較例のサンプル1〜13)
表1に示すバリア性樹脂組成物層(1)、(2)を形成するための樹脂組成物を準備し、バリア性樹脂組成物層が表1に示す層数で、交互に積層された多層構造体が形成されるように、210℃の溶融物を共押出機からフィードブロックへ供給し、フィードブロックから溶融物を押し出し合流させ、多層構造体を作製した。溶融物は、フィードブロック内にて各層の流路を表面側から中央側に向かうにつれ徐々に厚くなるように変化させることにより、多層構造体の各層の厚さが均一になるようにフィードブロックから押し出された。
また、隣接するバリア性樹脂組成物層とエラストマー層の層厚さがほぼ同じになるようにスリットの形状を設計した。このようにして得られた多層構造体を、表面温度25℃に保たれ静電印加したキャスティングドラム上で急冷固化した。急冷固化して得られたキャストフィルムを離型紙上に圧着し巻取りを行った。なお、溶融物を合流してからキャスティングドラム上で急冷固化されるまでの時間が約4分となるように流路形状及び総吐出量を設定した。
上記のようにして得られたキャストフィルムに関して、DIGITAL MICROSCOPE VHX−900(KEYENCE製)又は電子顕微鏡VE−8800(KEYENCE製)による断面観察を行い、各層の平均厚さ及び多層構造体の厚さを求めた。結果を表1に示す。
次いで、このキャストフィルムに対し、電子線加速機[日新ハイボルテージ(株)製、キュアトロンEB200−100]を用い、サンプルごとに、加速電圧200kVにて表1に示す照射線量の電子線を照射して、架橋された多層フィルム(多層構造体)のサンプルを得た。
次に、上記のようにして作製した多層フィルムのサンプルについて、ガスバリア性、耐クラック性、フィルム層内の剥離抗力、低温ドラム走行試験後の亀裂の有無、及び内圧保持性を下記の方法で評価した。結果を表1に示す。
(1)ガスバリア性
上記フィルムのサンプルを、20℃、65%RHで5日間調湿した。その後、調湿済みのフィルムを2枚使用し、GTRテック(株)製 GTR−10Xを用い、20℃、65%RHの条件下で、JIS K7126Aに準拠して、空気透過度の測定を行い、2枚のフィルムの平均を算出した。
評価については、サンプル2の平均値を100としたときの指数によって表示した。指数値が高い程、ガスバリア性に優れており、良好な結果を示す。
(2)耐クラック性
得られたフィルムのサンプルを、JISダンベル2号の形状(JISK 6251)に打ち抜き、−30℃雰囲気下で、定歪み疲労試験を行った。チャック間距離50mm、歪み50%、繰り返し引張周波数5Hzで行い、サンプル表面に亀裂が目視できるまでの繰り返し回数を測定した。
評価については、100万回以下を×とし、100万回以上を○とした。
(3)フィルム層内の剥離抗力
カーカス用のゴムにサンプルを貼りあわせ、それを145℃30分で加硫した。JIS Z 0237に準拠して、90°ピール、剥離速度300mm/minにて、接着性の測定(N/25mm)を行った。評価結果を表1に示す。
なお、評価については、サンプル2の値を100として、他の値を指数化して表した。数値が大きいほど剥離抗力が高く良好な結果であることを示す。
(4)低温ドラム走行試験後の亀裂の有無
上記フィルムをインナーライナーとして用いて、図2に示す構造の空気入りタイヤ(195/65R15)を常法に従って作製した。次いで、該タイヤを、−30℃の雰囲気の中、空気圧140kPaで、80km/hの速度に相当する回転ドラム上に加重6kNで押し付けて10,000km走行させた。ドラム走行後のタイヤのインナーライナー外観を目視観察して、亀裂の有無を評価した。
(5)内圧保持性
上記タイヤを、−30℃の雰囲気の中、空気圧140kPaで、80km/hの速度に相当する回転ドラム上に加重6kNで押し付けて10,000km走行させた。そして、走行させたタイヤ(試験タイヤ)を6JJ×15のリムに装着した後、内圧を240kPaとし、3ヶ月間放置した。3ヶ月後の内圧を測定し、下記式:
内圧保持性=((240−b)/(240−a))×100
[式中、aは試験タイヤの3ヶ月後の内圧(kPa)、bは比較例1の試験タイヤの3ヶ月後の内圧(kPa)である]を用いて内圧保持性を評価した。比較例1の値を100として他の値を指数化した。指数値が大きい程、内圧保持性に優れる。
*1 三菱エンジニアリングプラスチック(株),レニー.
*2 (株)クラレ製,ミクトロン.
*3 (株)東レ社製,(商品名)CM1061.
*4 (株)クラレ製,クラミロン.
*5 Solutias製,Acrilan16.
*6 旭ダウ(株)製,サラン.
*7 Sartomer製,Ricon 130MA8.
*8 (株)クラレ製,クラミロン.
表1の結果から、実施例の多層構造体は、比較例の多層構造体と比べて、ガスバリア性及び耐クラック性を両立できることが分かる。また、実施例の多層構造体は、低温での耐久性にも優れる。さらに、バリア性樹脂組成物層の厚さが薄いことから、タイヤの軽量化にも寄与することがわかる。