JP5780958B2 - ハロゲン安定化インスリン - Google Patents

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Description

関連出願の相互参照
本出願は、2008年7月31日に出願された米国仮出願第61/085,212号の利益を主張する。
連邦政府により支援された研究または開発に関する陳述
本発明は、契約番号DK40949およびDK074176で米国立衛生研究所により授与された協力協定の下で政府の支援によって行われた。米国政府は、本発明に対して特定の権利を有し得る。
本発明は、熱分解に対して耐性のポリペプチド類似体に関する。より具体的には、本発明は、熱安定化されたインスリン類似体に関する。さらにより具体的には、本発明は、フッ素、塩素または臭素元素をインスリン類似体のアミノ酸に組み込むことにより化学的および熱的に安定化されたインスリン類似体に関する。これらの元素は、ハロゲンに分類され、それらの原子半径、電気陰性度、部分電荷の立体電子分布、および分子内の隣接する原子の立体電子特性に対する波及効果により、タンパク質の通常の構成成分とは区別される。
治療薬およびワクチンを含む超安定タンパク質を工学的に作製することは、電気および冷蔵を常に利用できるわけではない開発途上の地域において、広い社会的な利点を有し得る。熱分解しやすい治療用タンパク質の例は、インスリンである。アフリカおよびアジアにおける真性糖尿病の流行が切迫しており、インスリンの化学的および物理的な分解が深刻な問題になっている。インスリン類似体の化学分解速度はそれらの相対的安定性と逆比例するので、超安定製剤の設計は、このような課題のある地域におけるインスリン補充療法の安全性および有効性を向上させ得る。
小さい有機分子内のフルオラス置換の利用は、医薬品化学において知られている。フッ素化官能基は、コレステロール生合成の阻害薬であるアトルバスタチン(Liptor(商標))ならびにうつおよび他の感情障害の治療に用いられる選択的セロトニン再取り込み阻害薬であるフルオキセチン塩酸塩(Prozac(商標))のような広く処方されている小分子の有効性にとって重要である。フッ素の原子半径は水素と類似しているが、その大きい誘起効果はこれらの薬物の立体電子特性を改変し、よって、それらの生物活性を増進する。塩素および臭素のようなより大きいハロゲン原子を組み込むことについても、物理有機化学的に同様のことが考えられる。小分子であるモンテルカストナトリウム(Singulair(商標))は、ロイコトリエン阻害薬であり、その薬学的特性は、塩素原子の共有的な取り込みにより増進される。
多フッ素化脂肪族側鎖(例えばトリフルオロ−γ−CF−Val、トリフルオロ−δ−CF−Val、トリフルオロ−δ−CF−Ile、ヘキサフルオロ−γ1,2−CF−Valおよびヘキサフルオロ−δ1,2−CF−Leu)を用いて、この改変に伴う疎水性の増加を最大限にすることに以前は焦点が当てられていた。その例は、αヘリックスモチーフモデルであるホモ2量体コイルドコイルの安定化である。その界面の脂肪族鎖をトリフルオロ類似体で同時に置換すると、安定性が0.3〜2.0kcal/モル増進されたフルオラスコアが創出される。フッ素原子あたりの安定化の程度は、0.1kcal/モル未満である。フッ素原子あたりのより著しい安定化は、単一の内部Pheをペンタフルオロ−Phe(F−Phe)に置換することにより、無関係のαヘリックスドメインにおいて達成された(5個のフッ素原子あたりΔΔG 0.6kcal/モル)。安定化は、タンパク質中の1つの特定の位置でのみ生じ、このことは、この機構が特定の空間的環境を必要とすることを示唆する。関係するF−Phe改変ドメインの構造は、未改変のドメインのものと同一である。しかし、構造安定化は、生物活性ポリペプチドにとって要件のほんの一部分である。少なくとも活性の大部分も維持されなければならない。
多数の文献が、タンパク質のフッ素標識を19F−NMRプローブとして用いることを記載している。このような標識は非撹乱性であると広くみなされているが、タンパク質工学におけるフッ素化アミノ酸の応用により、それらの変更された物理化学特性を活用しようとしている。単一F−Phe置換を含有するαヘリックス折り畳み(ビリンヘッドピースサブドメイン)モデルの研究は、このような改変がタンパク質の安定性に影響するかどうかおよびその影響の程度が、詳細には構造的環境に依存することを示している。実際に、この折り畳みモデルの見かけの安定性は、コアにおいて試験した7つの部位のうち1つのみでF−Phe置換により増進された。しかし、この安定化効果は、フッ素化部位の近くの主鎖中に硫黄原子を含有する非標準的なポリペプチド類似体において示されただけであることに注意すべきである。本発明者らの手によると、天然ポリペプチド主鎖を有するビリンヘッドピースサブドメイン内の全く同じF−Phe置換は、その安定性に影響しない。つまり、発明者らの知るところによると、上記の非標準的なもの以外の天然のタンパク質において芳香族残基のハロゲン化によるタンパク質安定性の増進を示す真のデータは、これまでに報告されていない。これらの観察結果は、全般的に疎水性の環境それ自体が、改変により安定化することを保証するわけではないことを示唆する。タンパク質内部は、特定の距離および角度に依存する芳香族間相互作用によりしばしば安定化されるので、安定化F−Phe置換のサブセットは、特に好ましいペルフルオロアリール/アリールの形状を採用し得る。このような相互作用は、これらの芳香族系における部分電荷の非対称分布から生じる。改変アミノ酸への塩素または臭素原子の部位特異的組み込みによるタンパク質の化学的、物理的および生物学的な特性の調節は、フッ素原子の組み込みによる上記の効果の他には、科学的文献においてあまり特徴付けされていない。
芳香族側鎖は、隣接する芳香環だけでなく正または負の静電位の他の供給源も含む、種々の弱極性の相互作用に携わり得る。例は、ペプチド結合中の主鎖のカルボニルおよびアミド基を含む。
インスリンの投与は、真性糖尿病の治療として長く確立されている。インスリンは、脊椎動物における代謝の中心的な役割を演じる小さい球状タンパク質である。インスリンは、2つの鎖、すなわち21残基を含むA鎖と、30残基を含むB鎖とを含む。このホルモンは、Zn2+安定化6量体として膵臓β細胞内に貯蔵されているが、血流中ではZn2+を有さない単量体として機能する。インスリンは、単鎖前駆体であるプロインスリンの生成物であり、プロインスリンでは、連結領域(35残基)がB鎖のC末端残基(残基B30)をA鎖のN末端残基と結合している(図1A)。プロインスリンの構造は決定されていないが、これがインスリン様のコアおよび不規則な連結ペプチド(図1B)からなることを示す様々な証拠がある。3つの特定のジスルフィド架橋(A6−A11、A7−B7およびA20−B19;図1Aおよび1B)の形成は、粗面小胞体(ER)でのプロインスリンの酸化的折り畳みと連動すると考えられている。プロインスリンは、ERからゴルジ装置へ輸送されたすぐ後に、集合して、可溶性Zn2+配位6量体を形成する。エンド型タンパク質分解消化と、インスリンへの変換は、未熟分泌顆粒において起こり、その後、形態的凝縮が生じる。成熟貯蔵顆粒内の亜鉛インスリン6量体の結晶配列は、電子顕微鏡(EM)により視覚化されている。
インスリン中でのアミノ酸置換が、熱力学的安定性および生物活性に対する効果について研究されている。安定性と活性との間の一貫した関係は観察されていない。熱力学的安定性を増進し、インスリン受容体との結合も増進させる置換もあれば、安定性を増進し、このような結合を妨げる置換もある。いくつかの別のアミノ酸によるThrA8の置換の効果が、野生型ヒトインスリンにおいて研究され、B鎖におけるそれとは別の3つの置換(HisB10→Asp、ProB28→LysおよびLysB29→Pro)を含む工学的に作製されたインスリン単量体の関連において報告されている。吸収の時間経過を促進または遅延させる置換の例も、当該技術分野において知られている。このような置換(例えばNovalog(登録商標)におけるAspB28およびHumalog(登録商標)における[LysB28、ProB29])は、より迅速な繊維形成およびより乏しい物理的安定性と関連し得、かつしばしば関連する。実際に、繊維形成しやすさについて、AspB28−インスリンおよびAspB10−インスリンを含むヒトインスリンの一連の10個の類似体が試験されている。10個全てが、pH7.4および37℃にてヒトインスリンよりも繊維形成しやすいことが見出された。10個の置換は、インスリン分子の様々な部位にあり、古典的な熱力学的安定性の多様な変化と関連するようである。様々な影響が観察されたが、活性と熱力学的安定性との間に相関関係は存在しない。
インスリンは、化学合成および半合成を非常に行いやすい小さい球状タンパク質であり、これにより、非標準的な側鎖の取り込みが容易になる。インスリンは、3つのフェニルアラニン残基(B1位、B24位およびB25位)と、B26位にて構造的に類似したチロシンとを含む。脊椎動物のインスリンおよびインスリン様成長因子の間で保存されているPheB24の芳香環は、疎水性コア側に密集して(しかしコア内には含まれない)、B鎖の超2次構造を安定化する。PheB24は、古典的な受容体結合表面にあり、受容体結合の際の高次構造の変化を導くことが提案されている。PheB25は、インスリン単量体の表面から突き出しているが、TyrB26は、コアの一端にて脂肪族側鎖(IleA2、ValA3およびValB12)付近に密集している。B24に関連する高次構造変化は、PheB25およびTyrB26がインスリン受容体の別のドメインと接触することを可能にすることが提案されている。
タンパク質繊維形成の現在の理論は、繊維形成の機構が、部分的に折り畳まれた中間体の状態を経て進行し、これが次いで集合して、アミロイド形成性の核を形成すると仮定する。この理論では、天然状態を安定化するアミノ酸置換が、部分的に折り畳まれた中間状態を安定化し得るまたはし得ないこと、および天然状態と中間状態との間の自由エネルギーの障壁を増加(または減少)させ得るまたはし得ないことが考えられる。よって、現在の理論は、インスリン分子中の所与のアミノ酸置換が繊維形成の危険性を増加または減少させる傾向が、非常に予測困難であることを示す。
糖尿病治療用のインスリンおよびインスリン類似体の製造、貯蔵および使用における重大な問題である繊維形成は、高温、低pH、撹拌、または尿素、グアニジン、エタノール共溶媒もしくは疎水性表面の存在により増進される。現在の米国薬品規則は、1パーセント以上のレベルで繊維形成が生じた場合に、インスリンを廃棄することを要求している。繊維形成は高温で増進されるので、糖尿病者は、最も有利には、使用前にインスリンを冷蔵保存しなければならない。インスリンまたはインスリン類似体の繊維形成は、少量のインスリンまたはインスリン類似体が患者の体内に一定の間隔で注入される外付けインスリンポンプを用いる糖尿病患者にとって特に問題となり得る。このような使用において、インスリンまたはインスリン類似体は、ポンプ装置内で冷蔵保存されず、インスリンの繊維形成が、インスリンまたはインスリン類似体を体内に注入するために用いられるカテーテルの閉塞をもたらすことがあり、予測困難な血糖値の変動またはさらには危険な高血糖をもたらす可能性がある。少なくとも1つの最近の報告が、リスプロインスリン(残基B28およびB29が、野生型ヒトインスリン中でのそれらの位置と比較して交換されている類似体;商品名Humalog(登録商標))が、特に繊維形成しやすく、インスリンポンプカテーテルの閉塞をもたらし得ることを示している。
インスリン繊維形成は、インスリンが1〜3カ月にわたって高濃度でかつ外付けポンプのような周囲温度ではなく生理的温度(すなわち37℃)にてインプラント内に含まれる埋め込み型インスリンポンプにおいて、さらにより大きな問題である。さらに、通常の運動により引き起こされる撹拌も、インスリンの繊維形成を促進しやすい。インスリン繊維形成の可能性の増加にもかかわらず、埋め込み型インスリンポンプは、このようなシステムの潜在的な利点のために、いまだに研究努力の対象である。これらの利点は、門脈循環系へのインスリンの腹腔内送達を含み、これは、皮下注射よりも密接にインスリンの通常の生理的送達を模倣し、このことにより、インスリンが全身循環系を介して患者に提供される。腹腔内送達は、注射部位ごとに様々な吸収および分解を提供し得る皮下注射と比較してより迅速かつ一貫したインスリンの吸収を提供する。埋め込み型ポンプによるインスリンの投与は、潜在的に、患者の利便性も増加させる。リザーバーへの界面活性剤の添加などによる繊維形成の防止のための努力がいくらかの改良をもたらしているが、これらの改良は、これまでのところは、厳密に監視された臨床試験外の糖尿病患者における埋め込み型インスリンポンプの信頼できる使用を可能にするには不十分であるとみなされている。
上記のように、開発途上国は、薬物およびワクチンの安全な貯蔵、送達および使用に関する問題に直面している。この問題は、電気および冷蔵を常に使用できるわけではないアフリカおよびアジア地域での温度感受性インスリン製剤の使用を困難にし、この問題は、開発途上国における糖尿病の流行が切迫することよってさらに深刻になるようである。インスリンは、25℃を超える温度において10℃の増加ごとに10倍以上の分解速度の増加を示し、ガイドラインは、30℃未満の温度および好ましくは冷蔵での貯蔵を命じている。より高温では、インスリンは化学分解(イソアスパラギン酸の形成、ジスルフィド架橋の再編成および共有結合ポリマーの形成などの共有結合構造の変化)および物理的分解(非天然凝集および繊維形成)をともに受ける。
タンパク質を安定化するが、インスリン受容体(IR)へのその結合とインスリン様成長因子(IGFR)の相同受容体へのその交差結合とを、発癌の危険性を与えるように増加させるアミノ酸置換が、インスリンにおいて記載されている。当該技術分野において知られる例は、HisB10のアスパラギン酸による置換である。AspB10−インスリンは、安定性および薬物動態に関して好ましい薬学的特性を示すが、その増進された受容体結合特性は、Sprague−Dawleyラットにおける腫瘍形成に関連していた。AspB10−インスリンまたは関連する類似体に導入して、IRおよびIGFRへのその結合を、ヒトインスリンのものと同様のレベルまで低減することができるAまたはB鎖における多くの可能性のある置換が存在するが、このような置換は、通常、インスリン(またはインスリン類似体)の安定性を損ない、その化学的および物理的分解に対する感受性を増加させる。受容体結合親和性の「調整」を可能にし、同時に、安定性および繊維形成に対する耐性を増進する、インスリンおよびインスリン類似体の改変方法を見出すことが望まれている。このような応用は、その受容体結合特性が超活性な類似体の潜在的発癌性を相殺するようにIRおよびIGFRへの結合を様々な程度まで低減させる一連の安定化改変を必要とするだろう。
したがって、非標準的な官能基としてハロゲン原子を含有する非標準的なアミノ酸の組み込みにより安定化される一方、類似体の生物活性の少なくとも一部分を維持するインスリン類似体が必要とされている。
よって、本発明の一態様は、アミノ酸におけるハロゲン置換により、高い安定性を与え、そのうえ、対応する非ハロゲン化インスリンまたはインスリン類似体の生物活性の少なくとも一部分を維持するインスリン類似体を提供する。
全般的に、本発明は、B24位、B25位またはB26位にてハロゲン化フェニルアラニンが組み込まれたB鎖ポリペプチドを含むインスリン類似体を提供する。一実施形態において、ハロゲン化フェニルアラニンは、B24位にある。別の実施形態において、ハロゲン化フェニルアラニンは、オルト−モノフルオロ−フェニルアラニン、オルト−モノブロモ−フェニルアラニンまたはオルト−モノクロロ−フェニルアラニンである。別の実施形態において、インスリン類似体は、ヒトインスリンの類似体などの哺乳動物インスリン類似体である。ある特定の一連の実施形態において、B鎖ポリペプチドは、配列番号4〜8およびその3つ以下のさらなるアミノ酸置換を有するポリペプチドからなる群より選択されるアミノ酸配列を含む。
B24位、B25位またはB26位にてハロゲン化フェニルアラニンが組み込まれたB鎖ポリペプチドを含むインスリン類似体をコードする核酸も提供される。一例において、ハロゲン化フェニルアラニンは、核酸配列TAGなどの停止コドンによりコードされる。発現ベクターは、このような核酸を含むことができ、宿主細胞は、このような発現ベクターを含有することができる。
本発明は、患者を治療する方法も提供する。この方法は、生理的有効量のインスリン類似体またはその生理的に許容される塩を患者に投与することを含み、該インスリン類似体またはその生理的に許容される塩が、B24位、B25位またはB26位にてハロゲン化フェニルアラニンが組み込まれたB鎖ポリペプチドを含有する。一実施形態において、患者に投与されるインスリン類似体中のハロゲン化フェニルアラニンは、B24位にある。別の実施形態において、ハロゲン化フェニルアラニンは、オルト−モノフルオロ−フェニルアラニン、オルト−モノブロモ−フェニルアラニンまたはオルト−モノクロロ−フェニルアラニンである。さらに別の実施形態において、インスリン類似体は、ヒトインスリンの類似体などの哺乳動物インスリン類似体である。ある特定の一連の実施形態において、B鎖ポリペプチドは、配列番号4〜8およびその3つ以下のさらなるアミノ酸置換を有するポリペプチドからなる群より選択されるアミノ酸配列を含む。
A鎖およびB鎖と、隣接する2塩基性切断部位(黒丸)およびCペプチド(白丸)で示す連結領域とを含むヒトプロインスリン配列の模式図である。 インスリン様部分および不規則な連結ペプチド(点線)からなるプロインスリンの構造モデルである。 B鎖中の残基B24の位置を示すヒトインスリン配列の模式図である。 3つのジスルフィド架橋に関連してPheB24の芳香族残基を示すインスリン単量体のリボンモデルである。LeuB15(矢印)およびPheB24の隣り合わせの側鎖を示す。A鎖およびB鎖は、それ以外の部分については、それぞれ薄い灰色および濃い灰色で示し、システインの硫黄原子は丸で示す。 疎水性コアの端のポケット内のPheB24側鎖を示すインスリンの空間充填モデルである。 ペンタフルオロ−フェニルアラニン(F−Phe)を表す図である。 オルト−モノフルオロ−フェニルアラニン(2F−Phe)を表す図である。 メタ−モノフルオロ−フェニルアラニン(3F−Phe)を表す図である。 パラ−モノフルオロ−フェニルアラニン(4F−Phe)を表す図である。 遠紫外波長についての一連の4つの円2色性(CD)スペクトルである。パネルA:DKP−インスリン(黒の実線)および2F−PheB24−DKP−インスリン(□);パネルB:DKP−インスリン(黒の実線)および3F−PheB24−DKP−インスリン(▲);パネルC:DKP−インスリン(黒の実線)および4F−PheB24−DKP−インスリン(▼);パネルD:DKP−インスリン(黒の実線)およびF−PheB24−DKP−インスリン(●)。 CDにより検出されたグアニジン変性研究についての一連の4つのグラフである。パネルA:DKP−インスリン(黒の実線)および2F−PheB24−DKP−インスリン(□);パネルB:DKP−インスリン(黒の実線)および3F−PheB24−DKP−インスリン(▲);パネルC:DKP−インスリン(黒の実線)および4F−PheB24−DKP−インスリン(▼);パネルD:DKP−インスリン(黒の実線)およびF−PheB24−DKP−インスリン(●)。 インスリン類似体の受容体結合研究の結果を示すグラフである。相対活性は、受容体結合125I標識ヒトインスリンが、漸増濃度のDKP−インスリン(■)またはその類似体:ペンタフルオロ−PheB24(▲)、2F−PheB24(▼)、3F−PheB24(◆)および4F−PheB24(●)により置き換えられる競合的結合アッセイにより決定する。 インスリン類似体の受容体結合研究の結果を示すグラフである。相対活性は、受容体結合125I標識ヒトインスリンが、漸増濃度のKP−インスリン(■)またはその類似体:2Br−PheB24−KP−インスリン(▲)、2Cl−PheB24−KP−インスリン(▼)、2F−PheB24−KP−インスリン(◆)および4F−PheB24−KP−インスリン(●)により置き換えられる競合的結合アッセイにより決定する。アッセイは、インスリン受容体のBアイソフォームと、トレーサーとして125I−TyrA14−ヒトインスリンを用いた。 ヒトインスリン(実線)、KP−インスリン(点線;「親」)、2F−PheB24−KP−インスリン(▲)、3F−PheB24−KP−インスリン(■)および4F−PheB24−KP−インスリン(○)のモノフルオラス置換を含むKP−インスリン類似体のCDにより検出されたグアニジン変性研究についてのグラフである。 ヒトインスリン(実線)、KP−インスリン(点線;「親」)、2−Cl−PheB24−KP−インスリン(▼)および2−Br−PheB24−KP−インスリン(△)のCDにより検出されたグアニジン変性研究についてのグラフである。 700MHzで32℃およびpD7.0にて記録された、DKP−インスリンに関してPheB24の2位、3位および4位でのフルオロ置換を比較するDKP−インスリン類似体についてのH−NMRスペクトルである。 700MHzで32℃およびpD7.0にて記録された、KP−インスリンに関してPheB24の2位でのフルオロ、ブロモおよびクロロ置換を比較するKP−インスリン類似体についてのNMRスペクトルである。
本発明は、アミノ酸におけるハロゲン置換により、高い安定性を与え、そのうえ、対応する非ハロゲン化インスリンまたはインスリン類似体の生物活性の少なくとも一部分を維持するインスリン類似体を対象とする。特に、本発明は、アミノ酸における単一のハロゲンの置換により、高い安定性を与え、そのうえ、対応する非ハロゲン化インスリンまたはインスリン類似体の生物活性の少なくとも一部分を維持するインスリン類似体を提供する。一例において、本発明は、アミノ酸におけるフッ素、塩素または臭素置換により、高い安定性を与え、そのうえ、対応する非ハロゲン化インスリンまたはインスリン類似体の生物活性の少なくとも一部分を維持するインスリン類似体を提供する。1つの可能性のある応用は、インスリン類似体の生物活性の一部分を維持しながら、インスリン類似体の化学的および物理的安定性を増すことである。別の応用は、ヒトインスリンの特性を超えないようにインスリン類似体の受容体結合特性を較正することである。これらのために、本発明は、ハロゲン化フェニルアラニン(Phe)残基を置換基としてB24位、B25位またはB26位に含有するインスリン類似体を提供する。B24またはB25でのハロゲン化フェニルアラニンへの置換はインスリンまたはインスリン類似体の根本的なアミノ酸配列を変更しないが、インスリンのB26位のハロゲン化フェニルアラニンは、インスリンの野生型配列中で見出されるチロシン(Tyr)を置換しなければならない。
本発明は、しかし、ヒトインスリンおよびその類似体に限定されない。これらの置換は、限定しない例として、ブタ、ウシ、ウマおよびイヌのインスリンなどの動物インスリンにおいて行ってもよいことも構想される。
さらに、ヒトインスリンと動物インスリンとの間の類似性、およびヒト糖尿病患者での動物インスリンの過去の使用に鑑みて、インスリンの配列中の別の小規模な改変、特に、「保存的」と考えられる置換を導入してよいことも構想される。例えば、アミノ酸のさらなる置換を、本発明から逸脱することなく、類似の側鎖を有するアミノ酸の群の中で行ってよい。これらは、中性疎水性アミノ酸:アラニン(AlaまたはA)、バリン(ValまたはV)、ロイシン(LeuまたはL)、イソロイシン(IleまたはI)、プロリン(ProまたはP)、トリプトファン(TrpまたはW)、フェニルアラニン(PheまたはF)およびメチオニン(MetまたはM)を含む。同様に、中性極性アミノ酸は、グリシン(GlyまたはG)、セリン(SerまたはS)、スレオニン(ThrまたはT)、チロシン(TyrまたはY)、システイン(CysまたはC)、グルタミン(GluまたはQ)およびアスパラギン(AsnまたはN)の群の中で互いを置換してよい。塩基性アミノ酸は、リジン(LysまたはK)、アルギニン(ArgまたはR)およびヒスチジン(HisまたはH)を含むと考えられる。酸性アミノ酸は、アスパラギン酸(AspまたはD)およびグルタミン酸(GluまたはE)である。別途記載されている、または文脈から明らかな場合を除き、本明細書に記載されるアミノ酸は、L−アミノ酸とみなされる。一例において、本発明のインスリン類似体は、本発明のハロゲン化Phe置換以外に3つ以下の保存的置換を含む。別の例において、本発明のインスリン類似体は、本発明のハロゲン化Phe置換以外に1つ以下の保存的置換を含む。
本明細書および特許請求の範囲において用いる場合、インスリンまたはインスリン類似体中の種々のアミノ酸は、問題のアミノ酸残基と、その後の、任意選択で上付きのアミノ酸の位置により記載される。問題のアミノ酸の位置は、置換があるインスリンのA鎖またはB鎖を含む。つまり、PheB24は、インスリンのB鎖の24番目のアミノ酸であるフェニルアラニンを表し、PheB25は、インスリンのB鎖の25番目のアミノ酸であるフェニルアラニンを表し、PheB26は、インスリンのB鎖の26番目のアミノ酸であるチロシンについてのフェニルアラニン置換を表す。フッ素化アミノ酸は、接頭辞「F−」を用いて示すことができ、臭素化アミノ酸は、接頭辞「Br−」を用いて示すことができ、塩素化アミノ酸は、接頭辞「Cl−」を用いて示すことができる。よって、フッ素化フェニルアラニンは「F−Phe」と省略でき、塩素化フェニルアラニンは「Cl−Phe」と省略でき、臭素化フェニルアラニンは「Br−Phe」と省略できる。フェニルアラニンの場合、ハロゲン置換基またはフェニル側鎖上の置換基の位置は、ハロゲンが結合する炭素の番号によりさらに示すことができる。よって、オルト−モノフルオロ−フェニルアラニン(図2Bに示す)は「2F−Phe」と省略され、メタ−モノフルオロ−フェニルアラニン(図2Cに示す)は「3F−Phe」と省略され、パラ−モノフルオロ−フェニルアラニン(図2Dに示す)は、4F−Pheと省略される。ペンタフルオロ−フェニルアラニン(図2Aに示す)は「F−Phe」と省略される。同様に、オルト−モノブロモ−フェニルアラニンは「2Br−Phe」と省略でき、オルト−モノクロロ−フェニルアラニンは「2Cl−Phe」と省略できる。
B24のフェニルアラニンは、機能的インスリン中の不変アミノ酸であり、芳香族側鎖を含む。インスリン中のPheB24の生物学的重要性は、ヒトの真性糖尿病の原因となる臨床変異(SerB24)により示される。図1Dおよび1Eに示すように、また理論に結び付けられることを望まないが、PheB24は、古典的な受容体結合表面での疎水性コアの端に密集していると考えられる。モデルは、結晶学的プロトマーに基づく(2−Zn分子1;プロテインデータバンク識別子4INS)。B鎖のC末端β鎖内にあって(残基B24〜B28)、PheB24は、中央のαヘリックス(残基B9〜B19)と接する。芳香環の一方の面と端は、LeuB15とCysB19により輪郭を示される浅いポケット内にある。他方の面と端は、溶媒にさらされている(図1E)。このポケットは、主鎖のカルボニルおよびアミド基により部分的に囲まれ、よって、複雑で非対称な静電環境を創出する。インスリン安定性に対する、単一のオルト−、メタ−またはパラ−フルオラス置換(それぞれ2F−Phe、3F−Pheまたは4F−Pheと示す、図2B〜2D)を含む「不均衡な」類似体のものとともに、近対称置換基であるテトラフルオロ−フェニルアラニン(F−PheB24)(全般的な疎水性の増進とフルオロアリール−アリール相互作用を有する)(図2A)の効果が提供される。
PheB25は、インスリン単量体の表面にあると考えられ、溶液構造においては、PheB24のものよりも小さい構造秩序を有して溶媒中に突出する。その生物学的重要性は、同様に、ヒト糖尿病の原因となる臨床変異(LeuB25)により示される。TyrB26は、PheB24と同様に、非極性残基IleA2、ValA3およびValB12付近に密集している疎水性コアの端にある。光架橋研究は、残基B24、B25およびB26の側鎖がそれぞれインスリン受容体と接触することを示唆する。インスリン残基の2量体および6量体において、残基B24〜B26および対称関係にある残基B24’〜B26’は、分子間逆平行βシートに関与すると考えられる。これらの位置での芳香族側鎖は、このβシート界面での単量体間の密集を安定化すると考えられる。
本発明の置換は、いくつかの既存のインスリン類似体のいずれにおいて作製してもよいことが構想される。例えば、本明細書で提供されるハロゲン化フェニルアラニン(X−Phe)置換は、ヒトインスリンに加えて、リスプロインスリン、インスリンアスパルト、他の改変インスリンもしくはインスリン類似体などのインスリン類似体において、または正規のインスリン、NPHインスリン、レンテインスリンもしくはウルトラレンテインスリンなどの種々の医薬製剤において作製してよい。アスパルトインスリンは、AspB28置換を含み、Novalog(登録商標)として販売され、リスプロインスリンは、LysB28およびProB29置換を含み、Humalog(登録商標)の名称のもとで知られ、販売されている。これらの類似体は、その開示が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,149,777号および第5,474,978号に記載されている。これらの類似体はともに、速効型インスリンとして知られている。
B24、B25および/またはB26でのハロゲン化Phe置換は、以下により詳細に記載されるDKPインスリン、またはB鎖のC末端残基とA鎖のN末端残基との間の通常の35アミノ酸連結領域の代わりにインスリンのA鎖部分とB鎖部分の間にジペプチドリンカー(Ala−Lys)を含むプロインスリン類似体であるミニプロインスリンなどの、以前に臨床的に用いられていないが、実験的にはなお有用であるヒトインスリンの類似体に導入してもよい。DKP−インスリン(またはAspB10を含むかもしくはヒトインスリンよりも高い受容体結合親和性を示す他のインスリン類似体)におけるB24位、B25位またはB26位でのハロゲン化芳香族残基の組み込みは、それらの受容体結合親和性を、ヒトインスリンと同様またはそれ未満まで低減できるので、臨床的使用を潜在的に可能にする。このようにして、インスリン類似体の、分裂促進的IGFRへの交差結合も低減できる。
ヒトプロインスリンのアミノ酸配列を、比較の目的のために、配列番号1として示す。
配列番号1(プロインスリン)
Figure 0005780958
ヒトインスリンのA鎖のアミノ酸配列を、配列番号2として示す。
配列番号2(A鎖)
Figure 0005780958
ヒトインスリンのB鎖のアミノ酸配列を、配列番号3として示す。
配列番号3(B鎖)
Figure 0005780958
ヒトインスリンのB鎖のアミノ酸配列は、B24位、B25位またはB26位でのハロゲン化Pheの置換を用いて改変してよい。このような配列の例を、配列番号4(ここで、XaaはTyrまたはPheであり得る)として示す。これらの置換のいずれかにおいて用いられるハロゲンは、例えばフッ素、塩素または臭素であり得る。
配列番号4
Figure 0005780958
他の置換のさらなる組合せも、本発明の範囲内である。本発明の置換を、従来知られるインスリン類似体の置換と組み合わせてもよいことも構想される。例えば、ハロゲン化Phe置換の1つも導入されていてよいリスプロインスリン(Humalog(登録商標))のLysB28ProB29置換を含むヒトインスリンのB鎖の類似体のアミノ酸配列を、配列番号5として示す。同様に、F−PheB24置換が導入されていてもよいアスパルトインスリンのAspB28置換を含むヒトインスリンのB鎖の類似体のアミノ酸配列を、配列番号6として示す。
配列番号5
Figure 0005780958
配列番号6
Figure 0005780958
F−PheB24置換は、その開示が参照により本明細書に組み込まれる同時係属中の国際特許出願第PCT/US07/00320号および米国特許出願第12/160,187号により詳細に記載される、残基A4、A8および/またはB1にてHis置換を含むヒトインスリンの類似体などの他のインスリン類似体置換と組み合わせて導入してもよい。例えば、F−PheB24置換は、[HisA4、HisA8]および/またはHisB1置換とともに、配列番号7に示すアミノ酸配列を有するインスリン類似体またはプロインスリン類似体中に存在してよい。
配列番号7
Figure 0005780958
(式中、R1はHisまたはPheであり;R2はTyrまたはPheであり、R3はPro、LysまたはAspであり;R4はLysまたはProであり;R5はHisまたはGluであり;R6はHisまたはThrであり;Xaa0−35は0〜35個の任意のアミノ酸またはアミノ酸鎖中の休止であり;
さらに、以下のアミノ酸置換の群から選択される少なくとも1つの置換が存在する:
R1はHisである;
R6はHisである;
R5とR6とはともにHisである)。
B24、B25またはB26でのハロゲン化Phe置換は、その開示が参照により本明細書に組み込まれる同時係属中の米国仮特許出願第60/828,153号に開示される単鎖インスリン類似体に導入してもよい。
フッ素置換を、AspB10(D)、LysB28(K)およびProB29(P)の置換を含むDKP−インスリンと表される高活性の工学的に作製されたインスリン単量体に導入した。B鎖の表面上のこれらの3つの置換は、2量体および6量体の形成を妨げると考えられる。工学的に作製された単量体の使用は、安定性アッセイにおける自己集合による交絡効果を回避する。DKP−インスリンの構造は、結晶学的プロトマーに非常によく似ている。DKPインスリンについてのB鎖ポリペプチドの配列を、配列番号8(ここで、XaaはTyrまたはPheである)として示す。
配列番号8(DKP B鎖配列)
Figure 0005780958
DKP−インスリンの類似体を、トリプシン触媒半合成により調製し、高速液体クロマトグラフィーにより精製した(Mirmira,R.G.およびTager,H.S.、1989、J.Biol.Chem.264:6349〜6354)。このプロトコルは、(i)残基(N)−GFFYTKPTを表す合成オクタペプチド(改変残基(F)と「KP」置換(下線)とを含む;配列番号9)と、(ii)切断型類似体デスオクタペプチド[B23〜B30]−AspB10−インスリン(配列番号16)とを用いる。オクタペプチドは、ProB28およびLysB29(斜体)の交換により、野生型B23〜B30配列(GFFYTPKT;配列番号10)とは異なるので、リジンε−アミノ基の保護は、トリプシン処理中に必要でない。簡単に述べると、デスオクタペプチド(15mg)およびオクタペプチド(15mg)を、10mM酢酸カルシウムおよび1mMエチレンジアミン4酢酸(EDTA)を含有するジメチルアセトアミド/1,4−ブタンジオール/0.2M Tris酢酸(pH8)(35:35:30、v/v、0.4mL)の混合物中に溶解した。最終pHを7.0に、10μLのN−メチルモルホリンを用いて調整した。溶液を12℃まで冷却し、1.5mgのTPCK−トリプシンを加え、12℃にて2日間インキュベートした。さらに1.5mgのトリプシンを、24時間後に加えた。反応物を、0.1%トリフルオロ酢酸を用いて酸性にし、分取逆相HPLC(C4)により精製した。マトリクス支援レーザ脱離/イオン化飛行時間型(MALDI−TOF;Applied Biosystems、Foster City、CA)を使用した質量分析法は、それぞれの場合において、予期された値を示した(示さず)。固相合成の一般的なプロトコルは、記載されたとおりである(Merrifieldら、1982.Biochemistry 21:5020〜5031)。9−フルオレン−9−イル−メトキシカルボニル(F−moc)保護フェニルアラニン類似体は、Chem−Impex International(Wood Dale、IL)から購入した。
円2色性(CD)スペクトルを、4℃および25℃にて、Aviv分光旋光計を用いて得た(Weissら、Biochemistry 39:15429〜15440)。試料は、およそ25μMのDKP−インスリンまたは類似体を、50mMリン酸カリウム(pH7.4)中に含んでいた。試料を、25℃でのグアニジン誘導変性研究のために5μMに希釈した。アンフォールディングの自由エネルギーを抽出するために、変性遷移を、非線形最小2乗法により、Sosnickら、Methods Enzymol.317:393〜409に記載されている2相モデルにあてはめた。簡単に述べると、CDデータθ(x)(式中、xは変性剤の濃度を示す)を、
Figure 0005780958
(式中、xはグアニジンの濃度であり、θおよびθは未変性のほどかれた状態におけるベースライン値である)に従って、非線形最小2乗法プログラムによりあてはめた。ベースラインは、遷移前および遷移後の直線θ(x)=θ H2O+mxおよびθ(x)=θ H2O+mxにより近似させた。変異型のアンフォールディング遷移のあてはめにより得られるmの値は、野生型アンフォールディング曲線のあてはめにより得られるmの値よりも低い。この差およびΔGにおける見かけの変化が、完全にほどかれた状態からのCDシグナルを測定できないことに起因するかを試験するために、データを、より高濃度のグアニジンでのプラトーCDの値に外挿するシミュレーションを行った。ΔGおよびmの本質的に同一の推定値が得られた。
相対活性は、特異的に結合した125I−ヒトインスリンの50パーセントを置き換えるのに必要な野生型ヒトインスリンに対する類似体の割合として定義される。インスリン受容体(IR)を含むヒト胎盤膜調製物を、当該技術分野において知られるようにして用いた。膜フラグメント(0.025mgタンパク質/チューブ)を、125I標識インスリン(およそ30,000cpm)と、選択された濃度の未標識類似体の存在下で18時間、4℃にて、0.25mlの最終容量のpH8の0.05M Tris−HClおよび0.25パーセント(w/v)ウシ血清アルブミン中でインキュベートした。インキュベーションの後に、混合物を1mlの氷冷緩衝液で希釈し、4℃にて5分間遠心分離する(10,000g)。次いで、上清を吸引により除去し、膜ペレットを放射活性について計測する。データを、非特異的結合(1μMヒトインスリンの存在下で結合した膜に残存する放射活性の量)について補正する。全てのアッセイにおいて、競合リガンドの非存在下で結合したトレーサーのパーセンテージは、リガンド欠乏アーチファクトを回避するために、15%未満であった。インスリン類似体の37℃でのインキュベーション期間中の活性の変化を監視するためのさらなるインスリン受容体結合アッセイを、当該技術分野において知られるようにして、マイクロタイタープレート抗体捕捉を用いて行った。マイクロタイターストリッププレート(Nunc Maxisorb)を、4℃にて1晩、AU5 IgG(リン酸緩衝食塩水中の40mg/mlを100μl/ウェル)とインキュベートした。結合データは、2部位逐次モデルにより分析した。IGF I型受容体を用いる対応するマイクロタイタープレート抗体アッセイを行って、この相同受容体への交差結合を評価した。
一フッ素化類似体の遠紫外円2色性(CD)スペクトルは、親の類似体のものと本質的に同一である(図3)。F−PheB24類似体のスペクトルにおいて、わずかな歪みが観察される(図3、パネルD)。類似体の安定性および受容体結合活性を、表1に示す。改変B24残基を、DKP−インスリンの関係において導入した。示される活性の値は、ヒトインスリンに対するホルモン−受容体解離定数の比率に基づく。よって、ヒトインスリンの活性は、定義によると1.0である。活性の値における標準誤差は、全般的に、25%未満であった。25℃におけるアンフォールディングの自由エネルギー(ΔG)を、ゼロ変性剤濃度に外挿して、2相モデルに基づいて見積もった。遅延時間は、37℃の亜鉛非含有リン酸緩衝食塩水(pH7.4)中で穏やかな撹拌においてタンパク質繊維形成の開始に必要とされる時間(日数)を示す。
Figure 0005780958
PheB24のF−Pheによる置換は、DKP−インスリンの安定性を、25℃にて0.8±0.1kcal/モル増大させる(図4、パネルD)。安定性に対するこのような好ましい効果にもかかわらず、類似体の活性はごくわずかである(親の類似体に対して1%未満の受容体結合親和性;表1および図5)。この減損は、標準的な単一アミノ酸置換について通常観察されるものよりも著しい。これとは対照的に、1置換類似体はそれぞれ、著しい活性を保持する:オルト(ヒトインスリンに対して37%)、メタ(100%)およびパラ(43%)。このような活性はそれぞれ、通常、治療効力の予測となる10%(1nM未満のホルモン−受容体解離定数に相当する)の閾値を超える。さらに、3F−PheB24および4F−PheB24インスリン類似体は、親の類似体よりも、もはや安定でない(そしておそらく安定性がわずかにより低い)(図4および表1)が、2F−PheB24−DKP−インスリンは、F−Phe類似体と少なくとも同程度に安定である(ΔΔG0.9±0.1kcal/モル)。類似体の物理的安定性を、pH7.4の60μMリン酸緩衝食塩水(PBS)中で37℃にて穏やかな撹拌の下でのインキュベーション中に、3連で評価した。試料を、20日間、または沈殿もしくはガラスバイアルのフロスティングの徴候が観察されるまで観察した。F−、2F−および3F−PheB24−DKP−インスリン類似体(しかし4F−PheB24−DKP−インスリンではない)はそれぞれ、タンパク質繊維形成の開始前に、遅延時間の増加を示す(親の類似体と比較して)(表1)。よって、単一のフッ素原子の置換は、低減されているが臨床的に著しい活性を保持して、単量体インスリン類似体の安定性を増大させることができる。改変は、pH7.4および37℃での穏やかな撹拌において、タンパク質繊維形成の前の遅延時間を延長することもできる。
−PheB24置換は高い安定性を与えるが、このインスリン類似体は、本質的に生物活性を有さない。特に、位置特異的改変2F−PheB24は、同様に安定性を与えるが、インスリン受容体に対する(低減されているが)実質的な親和性を保持する。
フッ素置換を、リスプロインスリン(つまり、LysB28、ProB29置換も含むインスリン類似体(Humalog(登録商標)の名称で販売される))中のB24位、B25位およびB26位にてオルト−、メタ−、パラ−およびペンタ−フッ素化フェニルアラニンが導入されたことを除いて、本質的に上記のようにして導入した。B24位でのオルト−、メタ−、パラ−およびペンタ−フッ素化フェニルアラニン置換を含む類似体を、それぞれ2F−PheB24−KP−インスリン、3F−PheB24−KP−インスリン、4F−PheB24−KP−インスリン、F−PheB24−KP−インスリンと表す。B25位でのオルト−、メタ−、パラ−およびペンタ−フッ素化フェニルアラニン置換を含む類似体を、それぞれ2F−PheB25−KP−インスリン、3F−PheB25−KP−インスリン、4F−PheB25−KP−インスリン、F−PheB25−KP−インスリンと表す。B26位でのオルト−、メタ−、パラ−およびペンタ−フッ素化フェニルアラニン置換(チロシンの置換)を含む類似体を、それぞれ2F−PheB26−KP−インスリン、3F−PheB26−KP−インスリン、4F−PheB26−KP−インスリン、F−PheB26−KP−インスリンと表す。さらに、オルト−ブロモおよびオルト−クロロフェニルアラニンを、リスプロインスリン中のB24位に置換した。これらの類似体を、それぞれ2Br−PheB24−KP−インスリンおよび2Cl−PheB24−KP−インスリンと表す。KP−インスリンおよびDKP−インスリンのそれぞれの類似体の表記を、表および図において、簡約のために「インスリン」を省略して、KPおよびDKPと省略する。
より具体的には、B24でのハロゲン化フェニルアラニン置換のために、残基(N)−GFFYTKPTを表す合成オクタペプチド(「F」と表されるハロゲン化フェニルアラニン残基および「KP」置換(下線);配列番号9)と、切断型類似体デスオクタペプチド[B23〜B30]−インスリン(B10位において野生型、配列番号17)とを用いた。B25でのフッ素化フェニルアラニン置換のために、残基(N)−GFFYTKPTを表す合成オクタペプチド(ここでもまた「F」と表されるフッ素化フェニルアラニンおよび「KP」置換(下線);配列番号9)と、切断型類似体デスオクタペプチド[B23〜B30]−インスリン(B10位において野生型;配列番号17)とを用いた。B26でのフッ素化フェニルアラニン置換のために、残基(N)−GFFFTKPTを表す合成オクタペプチド(ここでもまた「F」と表されるフッ素化フェニルアラニンおよび「KP」置換(下線);配列番号18)と、切断型類似体デスオクタペプチド[B23〜B30]−インスリン(B10位において野生型;配列番号17)とを用いた。同様に、B24でのクロロ−およびブロモ−フェニルアラニン置換(2Clおよび2Br)のために、残基(N)−GFFYTKPTを表す合成オクタペプチド(「F」と表されるハロゲン化フェニルアラニン残基および「KP」置換(下線);配列番号9)と、切断型類似体デスオクタペプチド[B23〜B30]−インスリン(B10位において野生型;配列番号17)とを用いた。典型的には、デスオクタペプチド(15mg)およびオクタペプチド(15mg)を、10mM酢酸カルシウムおよび1mMエチレンジアミン4酢酸(EDTA)を含有するジメチルアセトアミド/1,4−ブタンジオール/0.2M Tris酢酸(pH8)(35:35:30、v/v、0.4mL)の混合物中に溶解した。最終pHを7.0に、10μLのN−メチルモルホリンを用いて調整した。溶液を12℃まで冷却し、1.5mgのTPCK−トリプシンを加え、12℃にて2日間インキュベートした。さらに1.5mgのトリプシンを、24時間後に加えた。反応物を、0.1%トリフルオロ酢酸を用いて酸性にし、分取逆相HPLC(C4)により精製した。マトリクス支援レーザ脱離/イオン化飛行時間型(MALDI−TOF;Applied Biosystems、Foster City、CA)を使用した質量分析法は、それぞれの場合において、予期された値を示した。相対活性および解離定数は、上記のようにして決定した。
得られたデータを、インスリンのB24位でのフッ素化フェニルアラニンの置換について表2に示す。比較の目的のために、野生型インスリンおよび2F−PheB24−DKP−インスリンを、37℃にて同じ条件下で試験した。37℃での試験のデータは、以下の表3に示す。B24位、B25位およびB26位でのフッ素化フェニルアラニンの置換、ならびにリスプロインスリン類似体バックグラウンドでのブロモおよびクロロ置換フェニルアラニンの置換についてのデータは、以下の表4に示す。
Figure 0005780958
Figure 0005780958
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競合的置き換えによるリスプロインスリンの類似体についての受容体結合データは、図6にも示す。アッセイは、インスリン受容体のBアイソフォームと、トレーサーとして125I−TyrA14−ヒトインスリンを用いた。
B24にてクロロまたはブロモ置換フェニルアラニンのいずれかを含むリスプロインスリン類似体(それぞれ2Cl−PheB24−KP−インスリンおよび2Br−PheB24−KP−インスリン)を、非ハロゲン化リスプロ(KP)インスリンと比較して、糖尿病ラットにおいて血糖を低下させる能力について試験した。雄のLewisラット(体重約250g)を、ストレプトゾトシンを用いて糖尿病にした。リスプロインスリン類似体である2Cl−PheB24−KP−インスリンおよび2Br−PheB24−KP−インスリンを、HPLCにより精製し、粉末に乾燥し、インスリン希釈剤(Eli Lilly Corp)に溶解した。ラットに、時間=0にて、100μlの希釈剤中の20μgまたは6.7μgのインスリン類似体を皮下注射した。血液を、時間0でおよび90分までの10分ごとに、切断した尾の先端から得た。血糖を、Hypoguard Advance Micro−Draw計を用いて測定した。血糖濃度変化(時間(h)あたりデカリットル(dL)あたりのミリグラム(mg))を、表5および6に列挙する(これらの研究は、異なる組のラットを用いて行ったので、KP−インスリン(各表の最初の行)の対照注射に対するベースライン薬物動態応答において差を示す)。
Figure 0005780958
Figure 0005780958
表5および6からわかるように、ハロゲン化フェニルアラニン含有インスリン類似体は、2F−PheB24−KP−インスリン以外は、リスプロ(Humalog(登録商標))インスリンと同等またはそれより大きい効力を有した。2F−PheB24インスリン類似体の効力は、AspB10置換を2F−PheB24−DKP−インスリン類似体に含めることによりKP−インスリンの効力まで回復できる(表6の2行目)。さらに、B24位でのハロゲン化フェニルアラニンの存在は、繊維形成遅延時間を3倍〜4倍増加させる。つまり、上記の実験条件下でのKP−インスリンは約3日間の遅延時間を示すが、PheB24を2F−PheB24、2Cl−PheB24または2Br−PheB24のいずれかに置換することにより、遅延時間が10〜12日まで延長される。これらの改変は、熱力学的安定性も0.5〜1kcal/mol増加させる(グアニジン変性により調べられるように)(表4)。
解離定数(K)を、WhittakerおよびWhittaker(2005.J.Biol.Chem.280:20932〜20936)により記載されるようにして、125I−TyrA14−インスリン(Novo−Nordiskにより親切にも提供された)と、精製され可溶化されたインスリン受容体(アイソフォームB)とを、わずかに改変したマイクロタイタープレート抗体捕捉アッセイにおいて用いる競合的置き換えアッセイにより決定した。形質移入受容体を、それらのC末端にて、FLAGエピトープ(DYKDDDDK;配列番号11)の3重反復によってタグ付加し、マイクロタイタープレートを、抗FLAG M2モノクローナル抗体(Sigma)により被覆した。競合リガンドの非存在下で結合したトレーサーのパーセンテージは、リガンド欠乏アーチファクトを回避するように、15%未満であった。結合データを、異種競合モデル(Wang、1995、FEBS Lett.360:111〜114)を用いる非線形回帰により解析して、解離定数を得た。
Figure 0005780958
IGF受容体への選択されたインスリン類似体の交差結合の測定を、表7にまとめる。これらの条件下でのヒトインスリンのIGFRへの結合は、IGF−Iが結合するよりも260倍弱い。AspB10−インスリンの交差結合は2倍増加するが、広く臨床的に用いられている類似体であるArgB31、ArgB32、GlyA21−インスリン(インスリンglargine(商標);Lantus(商標))による交差結合は3倍増加する。IGFR交差結合のこのような増加は望ましくない。なぜなら、AspB10−インスリンを用いるSprague−Dawleyラットの処理は、乳房腫瘍の発生率の増加と関連するが、最近の臨床研究は、ヒトへのLantusの使用が、多様な癌の危険性の用量依存的な増加を与える可能性を示唆するからである。(IGF−Iの配列は、GluをB10位に含み、AspB10と同様に負電荷である。理論に結び付けられることを望まないが、Lantusによる交差結合は、B鎖のC末端での2つの塩基性残基により増えると考えられる。IGF−IもLysをB28位に、そしてProをB29位に含むので、KP−インスリンが交差結合のわずかな増加を示すことも考えられるが、上記のデータは、このことを確立するために十分に正確でない。)DKP−インスリンは、IGFR交差結合において6倍の増加を示す。重要なことに、この増加は、B24位でのオルト−モノフルオロ置換により相殺される:2F−PheB24−DKP−インスリンは、野生型ヒトインスリンと同じ低い交差結合レベルを示す。糖尿病ラットにおけるその血糖降下効力も、ヒトインスリンのものと同じである(表6)。2F−PheB24−DKP−インスリンは、0.5mMを超えるタンパク質濃度でさえも単量体であるので、よって、この類似体は、臨床使用のための超速効型超安定インスリン製剤として利用できる可能性がある。2Cl−PheB24−KP−インスリンおよび2Br−PheB24−KP−インスリンの交差結合親和性も、ヒトインスリンのものと同様の低いレベルである。これらの類似体も、糖尿病ラットにおいて十分に活性である(表5)。
CDスペクトルを、ヒトインスリン、KP−インスリン(リスプロ)およびハロゲン化PheB24インスリン類似体について、上記のようにして決定した。CDにより検出されたタンパク質変性は、図7Aおよび7B中にグアニジン塩酸塩の濃度の関数として示す。図7Aは、ヒトインスリン(実線)およびKP−インスリン(点線;「親」)の、2位、3位または4位(それぞれ黒三角、黒四角および白丸)でのPheB24のモノフルオラス置換を含むKP−インスリン類似体との比較を示す。図7Bは、ヒトインスリン(実線)およびKP−インスリン(点線;「親」)の、PheB24の2−Clまたは2−Br改変(それぞれ黒逆三角および白三角)を含む類似体との比較を示す。推定熱力学的パラメータを、上記の表4に示す。断片的なアンフォールディングを、222nmにて25℃での平均残基分子楕円率により監視した。
ハロゲン置換がインスリンにうまく適応され、高次構造の混乱の伝達の原因にならないことを示すために、選択されたインスリン類似体のNMR構造を得た。H−NMRスペクトルを、図8Aおよび8Bに示す。溶液中の単量体としての2Cl−PheB24−KP−インスリンのNMR構造は、このように、KP−インスリンのものと同様である;同様に、2F−PheB24−DKP−インスリン(これもまた溶液中の単量体)のNMR構造は、DKP−インスリンのものと同様である。2F−PheB24−KP−インスリンおよび2Br−PheB24−KP−インスリンのNMRスペクトルの定性分析は、同様に、天然様の構造を示す。
防腐剤フェノールの存在下での亜鉛安定化6量体としての2F−PheB24−KP−インスリンおよび4F−PheB24−KP−インスリンの結晶構造を決定した(データは示さず)。構造は、フェノールの存在下での亜鉛安定化6量体としてのKP−インスリンについて以前に報告されたものと同様である。それぞれの場合において、6量体の高次構造は、2つの軸方向の亜鉛イオンと、3つの結合したフェノール分子とを含むT である。ハロゲン原子の電子密度が容易に観察される。2量体および3量体形成表面の構造は、ハロゲン化類似体で保存され、このことは、KP−インスリンおよび他の速効型インスリン類似体について用いられるものと同様の医薬製剤を得ることができるであろうことを示唆する。
患者を治療する方法は、ハロゲン置換インスリン類似体を患者に投与することを含む。ある例において、ハロゲン置換インスリン類似体は、フルオロ、クロロまたはブロモ置換フェニルアラニンなどのハロゲン置換フェニルアラニンを含有するインスリン類似体である。1つの具体的な例において、ハロゲン置換フェニルアラニンは、2F−PheB24、2F−PheB25または2F−PheB26である。別の例において、ハロゲン置換インスリン類似体は、体内での類似体の作用の速度を変更するように設計された1つまたは複数の置換を、インスリン分子内の他の位置にさらに含有する。さらに別の例において、インスリン類似体は、外付けまたは埋め込み型インスリンポンプにより投与される。本発明のインスリン類似体は、その開示が参照により本明細書に組み込まれる同時係属中の国際特許出願第PCT/US07/080467号により詳細に記載される、B鎖のC末端とA鎖のN末端との間のテザーなどの他の改変も含んでよい。
医薬組成物は、このようなインスリン類似体を含んでよく、これは任意選択により亜鉛を含んでよい。亜鉛イオンは、このような組成物中に、インスリン類似体の6量体あたり2.2〜3.0のモル比のレベルで含まれ得る。このような製剤において、インスリン類似体の濃度は、典型的に、約0.1〜約3mMである。3mMまでの濃度は、インスリンポンプのリザーバーにおいて用いてよい。食事時間のインスリン類似体の改変は、(a)Humulin(商標)(Eli Lilly and Co.)、Humalog(商標)(Eli Lilly and Co.)、Novalin(商標)(Novo−Nordisk)およびNovalog(商標)(Novo−Nordisk)ならびにヒトへの使用が現在承認されている他の速効型インスリン製剤の「正規」製剤、(b)上記のおよび他のインスリン類似体の「NPH」製剤、ならびに(c)このような製剤の混合物について記載されるようにして処方してよい。
賦形剤は、グリセロール、グリシン、他の緩衝剤および塩、ならびにフェノールおよびメタ−クレゾールなどの抗菌防腐剤を含んでよい。後者の防腐剤は、インスリン6量体の安定性を増進することが知られている。このような医薬組成物は、生理的有効量の組成物を患者に投与することにより、真性糖尿病または他の病状を有する患者を治療するために用いてよい。
B24位、B25位またはB26位にフッ素化フェニルアラニンを有するインスリンのB鎖を少なくともコードする配列を含むインスリン類似体をコードするポリペプチドをコードする配列を含む核酸も構想される。これは、B24位に停止コドン(アンバーコドンTAGなど)を、サプレッサーtRNA(アンバーコドンを用いる場合はアンバーサプレッサー)と、以前に記載された(Furter、1998、Protein Sci.7:419〜426;Xieら、2005、Methods.36:227〜238)停止コドンに応答してポリペプチド中に非標準的なアミノ酸を組み込む対応するtRNA合成酵素とともに導入することにより達成できる。具体的な配列は、核酸配列が導入される種の好ましいコドン使用に依存し得る。核酸は、野生型インスリンの他の改変もコードしてよい。核酸配列は、ポリペプチドまたは改変プロインスリン類似体の他の位置に無関係の置換または伸長を含む改変A鎖またはB鎖配列をコードしてよい。核酸は、発現ベクターの一部分であってもよく、このベクターは、大腸菌細胞系などの原核宿主細胞、あるいはS.セレビシエ(cereviciae)またはピスチア・パストリス(Pischia pastoris)株もしくは細胞系などの真核細胞系などの宿主細胞に挿入してよい。
例えば、酵母ピシア・パストリス(Piscia pastoris)および他の微生物におけるB鎖ポリペプチドの発現を導くように合成遺伝子を合成してよいことが構想される。B24位にてハロゲン化フェニルアラニンを組み込む目的でこの位置にて停止コドンを用いるB鎖ポリペプチドのヌクレオチド配列は、以下のいずれかまたはその変異型であってよい:
(a)ヒトコドン優先性を有する:
Figure 0005780958
(b)ピチアコドン優先性を有する:
Figure 0005780958
同様に、ヒトコドン優先性を有し、B24位にてハロゲン化フェニルアラニンを組み込む目的でこの位置にて停止コドンを用いる全長プロインスリンcDNAは、配列番号14の配列を有してよい。
Figure 0005780958
同様に、B24位にてハロゲン化フェニルアラニンを組み込む目的でこの位置にて停止コドンを用い、P.パストリスが好むコドンを有する全長ヒトプロインスリンcDNAは、配列番号15の配列を有してよい。
Figure 0005780958
同様に、B25位にてハロゲン化フェニルアラニンを組み込む目的でこの位置にて停止コドンを用いるB鎖ポリペプチドのヌクレオチド配列は、以下のいずれかまたはその変異型であってよい:
(b)ヒトコドン優先性を有する:
Figure 0005780958
(b)ピチアコドン優先性を有する:
Figure 0005780958
ヒトコドン優先性を有し、B25位にてフッ素化フェニルアラニンなどのハロゲン化フェニルアラニンを組み込む目的でこの位置にて停止コドンを用いる全長プロインスリンcDNAは、配列番号21の配列を有してよい。
Figure 0005780958
同様に、B25位にてフッ素化フェニルアラニンのようなハロゲン化フェニルアラニンを組み込む目的でこの位置にて停止コドンを用い、P.パストリスが好むコドンを有する全長ヒトプロインスリンcDNAは、配列番号22の配列を有してよい。
Figure 0005780958
同様に、B26位にてハロゲン化フェニルアラニンを組み込む目的でこの位置にて停止コドンを用いるB鎖ポリペプチドのヌクレオチド配列は、以下のいずれかまたはその変異型であってよい:
(c)ヒトコドン優先性を有する:
Figure 0005780958
(b)ピチアコドン優先性を有する:
Figure 0005780958
ヒトコドン優先性を有し、B26位にてハロゲン化フェニルアラニンを組み込む目的でこの位置にて停止コドンを用いる全長プロインスリンcDNAは、配列番号25の配列を有してよい。
Figure 0005780958
同様に、B26位にてハロゲン化フェニルアラニンを組み込む目的でこの位置にて停止コドンを用い、P.パストリスにより優先されるコドンを有する全長ヒトプロインスリンcDNAは、配列番号26の配列を有してよい。
Figure 0005780958
遺伝子コードのシノニムを考慮すれば、同じポリペプチド配列をコードするこれらの配列の他の変異型が可能である。
上記の開示に基づいて、ハロゲン置換インスリン類似体が上記の目的を達成することが、ここで明らかになったはずである。つまり、これらのインスリン類似体は、熱力学的安定性の増進、繊維形成への耐性、および血糖値を低減させる効力を示す。ハロゲン置換フェニルアラニン含有インスリン類似体は、インスリン様成長因子(IGFR)への交差反応性も低減させる。よって、特許請求される発明の範囲内に明らかに含まれる任意の変形形態、およびしたがって特定の構成要素の選択も、本明細書に開示され記載される本発明の精神を逸脱することなく決定できることを理解されたい。
以下の文献は、本明細書に記載される試験およびアッセイ方法が当業者に理解されることを示すために引用される。
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Claims (11)

  1. B24位にてオルト−モノフルオロ−フェニルアラニン、オルト−モノブロモ−フェニルアラニンまたはオルト−モノクロロ−フェニルアラニンが組み込まれたB鎖ポリペプチドを含むインスリン類似体。
  2. 哺乳動物インスリンの類似体である、請求項1に記載のインスリン類似体。
  3. ヒトインスリンの類似体である、請求項2に記載のインスリン類似体。
  4. 配列番号4〜8からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項2に記載のインスリン類似体。
  5. 請求項2に記載のインスリン類似体をコードする核酸。
  6. オルト−モノフルオロ−フェニルアラニン、オルト−モノブロモ−フェニルアラニンまたはオルト−モノクロロ−フェニルアラニンが、停止コドンによりコードされている、請求項5に記載の核酸。
  7. 停止コドンが、核酸配列TAGである、請求項6に記載の核酸。
  8. 請求項5、6または7に記載の核酸配列を含む発現ベクター。
  9. 請求項8の発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
  10. インスリン類似体またはその生理的に許容される塩であって、B24位にてオルト−モノフルオロ−フェニルアラニン、オルト−モノブロモ−フェニルアラニンまたはオルト−モノクロロ−フェニルアラニンが組み込まれたB鎖ポリペプチドを含有する、薬剤として使用するインスリン類似体またはその生理的に許容される塩。
  11. 配列番号4〜8からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項10に記載のインスリン類似体またはその生理的に許容される塩。
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