JP5768326B2 - 触媒の製造方法およびメタクリル酸の製造方法 - Google Patents
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Description
メタクリル酸製造用触媒の製造方法としては、モリブデン、リンおよびバナジウムを含む触媒前駆体(固形物)を調製する工程と、該触媒前駆体に対し、ガス流通下で加熱する熱処理を施す工程を有する方法が知られている。メタクリル酸製造用触媒は、該熱処理により触媒としての機能を発現する。
(1)酸素濃度0.1〜10容量%のガス流通下で、触媒前駆体を加熱する方法(特許文献1)。
(2)不活性ガス流通下で、触媒前駆体を400〜500℃で加熱する方法(特許文献2)。
(3)触媒前駆体に対し、ガス流通下にて350〜500℃で1〜30時間加熱する熱処理を少なくとも2回行い、各回の熱処理の間に触媒前駆体を250℃以下まで一旦冷却し、かつ、各回の熱処理の温度の差を30℃以内とする方法(特許文献3)。
しかし、熱処理工程中にガス流通機構や加熱器等に問題が発生した場合等には、熱処理工程を一旦中断しなければならないことがある。熱処理工程を一旦中断し、その後に再開する場合には、下記の問題(i)〜(iii)が生じる。
(i)再開後の熱処理が過度になると、その触媒の活性が、中断せずに熱処理した触媒の活性に比べて高くなる。このように活性の異なる触媒をメタクロレインの気相接触酸化反応に同時に用いると、反応時に反応管内で局部的な発熱を伴うため、工場の運転の制御が困難になる。
(ii)再開後の熱処理がさらに過度になると、触媒が失活するため、その触媒が使用できなくなる。
(iii)再開後の熱処理が不足すると、その触媒の活性が、中断せずに熱処理した触媒の活性に比べて低くなる。活性の低い触媒が混入した状態でメタクロレインの気相接触酸化反応を行うと、反応管内で部分的に活性が低い場所が生じてメタクリル酸の収率が低下する。触媒の活性の低下に合わせて運転条件を最適化することは工場の運転を困難にする上、不必要な用役が生じ、製造コストが増大する。また、活性が低い触媒に対しては再度熱処理を行うことも考えられるが、その期間は工場を停止することになり、また再度の熱処理に伴う新たなコストが発生する。
方法(1)〜(3)では、予め各種条件を設定して開始した熱処理を一旦中断した後に再開することは想定されていない。
(4)プロパンまたはイソブタンの気相接触酸化反応または気相接触アンモ酸化反応に用いる酸化物触媒の触媒前駆体の熱処理において、加熱を1時間以上停止する場合を中断とみなし、その中断中には、窒素ガス等の不活性ガスを流通させて触媒前駆体を酸素濃度1000ppm以下の雰囲気下で保持する方法(特許文献4)。
中断後の触媒前駆体における再開後の熱処理条件と、それにより得られる触媒の活性との関係を調べれば、方法(4)のように再開後の熱処理条件を最適化することは可能である。
しかし、加熱を停止しても触媒前駆体の温度はすぐには下がらないため、中断した時点や、焼成管の種類等の諸条件によって中断後の触媒前駆体の熱処理の進行度合はその都度異なる。そのため、この方法は、中断後の触媒前駆体それぞれに対し熱処理条件の最適化が必要であるので、不測の事態によって中断する必要が生じた場合の対策としては不充分である。
また、本発明は、前記製造方法により得られたメタクリル酸製造用触媒を用いたメタクリル酸の製造方法の提供を目的とする。
[1]触媒前駆体に、ガス流通下に所定の熱履歴で加熱する熱処理を施して触媒を得る熱処理工程を有する、触媒の製造方法であって、ガス流通機構および加熱器のいずれか一方またはその両方に問題が発生し、実施中の前記触媒前駆体の熱処理を途中で一旦停止する必要が生じて前記熱処理工程を中断する場合に、下記時点Aを中断の開始時、下記時点Bを熱処理工程の再開時とし、時点B以降の熱履歴を、前記所定の熱履歴における時点A以降の熱履歴に相当する熱履歴とすることを特徴とする触媒の製造方法。
時点A:前記所定の熱履歴の途中でガス流通を停止する時点。
時点B:時点A以降で、ガス流通を再開すること、および前記触媒前駆体の温度を前記時点Aにおける触媒前駆体の温度とすることの両方が満たされた時点。
[2]前記熱処理工程の中断期間中の触媒前駆体の温度を、前記時点Aにおける触媒前駆体の温度以下とする、前記[1]に記載の触媒の製造方法。
[3]前記触媒前駆体が、メタクロレインを気相接触酸化してメタクリル酸を得る反応に用いる、モリブデン、リンおよびバナジウムを含むメタクリル酸製造用触媒の熱処理前の触媒前駆体である、前記[1]または[2]に記載の触媒の製造方法。
[4]触媒前駆体を、メタクリル酸の製造に用いる反応器の反応管に充填し、ガス流通下に熱処理する、前記[3]に記載の触媒の製造方法。
[5]前記[3]または[4]に記載の製造方法で製造された触媒の存在下で、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化する、メタクリル酸の製造方法。
また、本発明は、前記製造方法により得られたメタクリル酸製造用触媒を用いたメタクリル酸の製造方法を提供する。
本発明の触媒の製造方法は、触媒前駆体に、ガス流通下に所定の熱履歴で加熱する熱処理を施して触媒を得る熱処理工程を有する方法であり、該熱処理工程を中断する場合に適用する方法である。つまり、例えばガス流通機構、加熱器に問題が発生した場合等、予め設定した条件で行っている触媒前駆体の熱処理を、途中で一旦停止する必要が生じたときに適用する方法である。
時点A:前記ガス流通を停止した時点。
時点B:前記時点A以降において、ガス流通を再開すること、および触媒前駆体の温度を前記時点Aにおける触媒前駆体の温度とすることの両方が満たされた時点。
本発明において「ガス流通を停止する」とは、流通させるガスの流量を所定値の10%以下にすることを意味する。
加熱器等に問題がない場合であれば、中断中の触媒前駆体の温度は、熱処理を容易に再開できる点から、時点Aにおける触媒前駆体の温度でそのまま保持することが特に好ましい。
中断中にガスを流通させる場合のガスの流量は、熱処理工程におけるガス流量の所定値の10%以下であることが好ましい。
所定流量のガスの流通を再開したときの触媒前駆体の温度が、時点Aにおける触媒前駆体の温度である場合、ガス流通を再開した時点が熱処理工程の再開時(時点B)である。
所定流量のガスの流通を再開したときの触媒前駆体の温度が、時点Aにおける触媒前駆体の温度未満である場合、触媒前駆体の温度が時点Aにおける触媒前駆体の温度に達した時点が熱処理工程の再開時(時点B)である。
熱処理工程を一旦中断して再開する場合、以上説明したように中断、再開を行うことにより、熱処理工程をどの時点で中断した場合であっても、熱処理工程を中断せずに得た触媒と同等の活性を有する触媒を簡便かつ安定に製造できる。
焼成管は、触媒前駆体を充填でき、かつ熱処理に耐えられる材質のものであればよく、公知の焼成管が用いられる。焼成管の材質は、焼成管の腐食、触媒への影響等を考慮して適宜選定できる。
焼成管の形状は特に限定されず、管状、円筒状、多角筒状等が挙げられる。また、焼成管の形状はその他の不定形の断面形状であってもよい。
この場合、内径10〜40mm、長さ300〜10000mmの炭素鋼またはステンレス鋼からなる反応管を有する反応器を使用することが好ましい。
また、前記反応器は、メタクリル酸の生産性が向上する点から、複数本の反応管を有する反応器が好ましい。ただし、複数本の反応管を有する反応器には限定されず、単一の反応管を有する反応器であってもよい。
MoaPbCucVdXeYfOg (1)
(式中、Mo、P、Cu、VおよびOは、それぞれモリブデン、リン、銅、バナジウムおよび酸素であり、Xは鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、クロム、タングステン、マンガン、銀、ホウ素、ケイ素、スズ、鉛、ヒ素、アンチモン、ビスマス、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、インジウム、イオウ、セレン、テルル、ランタンおよびセリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、Yはカリウム、ルビジウム、セシウムおよびタリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素である。a、b、c、d、e、fおよびgは、各元素の原子比率を表し、a=12のとき、b=0.5〜3、c=0.01〜3、d=0.01〜2、e=0〜3、f=0.01〜3であり、gは前記各元素の原子価を満足するのに必要な酸素の原子比率である。)
触媒前駆体の形状は特に限定されず、球状、円柱状、リング状、星形状等が挙げられる。また、触媒前駆体の大きさも特に限定されない。
触媒前駆体は、メタクリル酸製造用触媒の触媒前駆体の製造に通常用いられる打錠成形機、押出成形機、造粒機等で成形されたものが用いられる。
触媒前駆体は無担体であってもよく、前記形状を有する担体に触媒前駆体を担持した担持触媒であってもよい。前記担体としては、例えば、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、シリコンカーバイト等の不活性担体が挙げられる。
触媒前駆体を製造する方法は、公知の触媒前駆体の製造方法が使用できる。
触媒前駆体の熱処理を、メタクリル酸の製造に用いる反応器を用いて行う場合、熱処理工程におけるガス流通は、メタクロレインの気相接触酸化反応時における分子状酸素の流通方向と逆方向に、反応管あたり100〜5000NL/時で流通させることが好ましい。
触媒前駆体の熱処理をメタクリル酸の製造に用いる反応器を用いて行う場合は、メタクリル酸の製造後の反応器の反応管に触媒前駆体を充填し、メタクリル酸の製造時に発生する反応熱を除去する熱媒を、触媒前駆体の加熱に用いることが好ましい。
本発明のメタクリル酸の製造方法は、前述の本発明の製造方法により得られるメタクリル製造用触媒の存在下で、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する方法である。
すなわち、本発明のメタクリル酸の製造方法は、本発明の製造方法により得られるメタクリル酸製造用触媒を用いる以外は、公知のメタクリル酸の製造方法が適用できる。
反応圧力は、常圧(0MPa−G(ゲージ圧))から数気圧(例えば0.3MPa)の範囲内が好ましい。
反応温度は、230〜450℃が好ましく、250〜400℃がより好ましい。
原料ガスの流量は特に限定されないが、通常、原料ガスをメタクリル製造用触媒との接触時間が1.5〜15秒となる流量が好ましく、該接触時間が2〜5秒となる流量がより好ましい。
触媒層は、メタクリル製造用触媒と、他の添加成分とを混合して形成した層であってもよい。他の添加成分としては、不活性担体が挙げられる。不活性担体としては、例えば、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、シリコンカーバイト等が挙げられる。
原料ガス中には分子状酸素が必要であり、分子状酸素源としては空気を用いることが経済的に有利であるが、必要に応じて純酸素で富化した空気等を用いてもよい。
原料ガス中の酸素量は、メタクロレインに対して、0.3〜4倍モルが好ましく、0.4〜2.5倍モルが特に好ましい。
水蒸気の存在下で気相接触酸化反応を行うことで、より高収率でメタクリル酸が得られる。
原料ガス中の水蒸気の濃度は、0.1〜50容量%が好ましく、1〜40容量%がより好ましい。
本実施例におけるメタクロレインの反応率、生成するメタクリル酸の選択率および単流収率は、それぞれ下記式で定義される。
メタクロレインの反応率(%)=X/Y×100
メタクリル酸の選択率(%)=Z/X×100
メタクリル酸の収率(%)=Z/Y×100
式中、Xは反応したメタクロレインのモル数、Yは供給したメタクロレインのモル数、Zは生成したメタクリル酸のモル数を表す。
原料ガスおよび生成ガスの分析はガスクロマトグラフィーにより行った。
パラモリブデン酸アンモニウム100部、メタバナジン酸アンモニウム2.8部および硝酸セシウム9.2部を純水100部に溶解し、この溶液に、85質量%リン酸水溶液8.2部を純水30部に溶解した溶液を加えた。さらに、硝酸銅1.1部を純水30部に溶解した溶液を加え、その混合液を加熱攪拌しながら蒸発乾固した。得られた固形物を130℃で16時間乾燥し、その後に加圧成型(直径5mm、長さ5mmの円柱状)した。この成型体100部に対して、メチルセルロースを4質量%含む水溶液を7.5部噴霧して乾燥し、触媒前駆体を得た。
得られた触媒前駆体を、管径22mmの管型焼成管に約145g充填した。その後、水分率0.83%の空気を40L/hで流通させながら、下記(ア)〜(エ)の条件で熱処理工程を行った。すなわち、中断することなく熱処理を行った。焼成管内の熱履歴(所定の熱履歴)を図1に示す。
(ア)焼成管内温度を室温から290℃まで27時間かけて昇温した。
(イ)290℃から377℃まで25℃/hで昇温した。
(ウ)377℃で16時間保持した。
(エ)377℃から200℃まで39.3℃/hで降温した。
前記熱処理工程後の触媒9gを、管径16mmの反応管に、充填長が約10cmとなるようにアルミナ球を用いて希釈充填し、メタクロレイン5%、酸素10%、水蒸気10%、窒素75%(容量%)からなる原料ガスを、流量0.02N・m3/h、反応温度285℃で流通させて気相接触酸化反応を行い、反応ガスを捕集して分析を行った。
熱処理工程を下記条件に変更した以外は参考例1と同様にして熱処理を行った。
(ア)焼成管内温度を室温から290℃まで27時間かけて昇温した。
(イ)290℃から377℃まで25℃/hで昇温した。
(オ)377℃で8時間保持した。
(カ)空気の流通を停止し(時点A)、377℃で8時間保持した。
(キ)熱処理工程開始時と同じ流量で空気の流通を再開し(時点B)、377℃で8時間保持した。
(ク)377℃から200℃まで39.3℃/hで降温した。
焼成管内の熱履歴を図2に示す。ただし、図2における破線部は、空気の流通を停止している期間を示す(以下、同じ。)。また、図2中の「○」は時点A、「●」は時点Bを示す。
また、得られた触媒を用いて、参考例1と同様にして、メタクロレインの気相接触酸化反応を行い、反応ガスを捕集して分析を行った。
前記工程(ア)を行った後、すなわち熱処理工程開始から27時間後に空気の流通を停止し(時点A)、空気の流通を停止している間は焼成管内温度を290℃以下とした。そして、空気の流通の停止から8.83時間後に空気の流通を停止前と同じ流量で再開し、かつその時点で焼成管内温度が290℃となるようにした(時点B、熱処理工程開始から35.83時間後)。その後、参考例1と同様にして、前記工程(イ)、(ウ)、(エ)の熱処理工程を行った。焼成管内の熱履歴を図3に示す。図3中の「○」は時点A、「●」は時点Bを示す。
また、得られた触媒を用いて、参考例1と同様にして、メタクロレインの気相接触酸化反応を行い、反応ガスを捕集して分析を行った。
実施例1と同様にして工程(カ)まで行った後、空気の流通を停止したまま、377℃で8時間保持し、377℃から200℃まで39.3℃/hで降温して熱処理工程を行った。焼成管内の熱履歴を図4に示す。
また、得られた触媒を用いて、参考例1と同様にして、メタクロレインの気相接触酸化反応を行い、反応ガスを捕集して分析を行った。
実施例、比較例および参考例のメタクリル酸の製造の分析結果を表1に示す。また、熱処理工程全体に要した総熱処理工程時間Ttot、ガス流通を停止した時点Aから、熱処理を再開した時点Bまでの時間Tstop、TtotからTstopを差し引いた時間Tcalの各値を表1に示す。
これに対し、熱処理において工程(カ)以降を、ガス流通を停止した状態で処理した比較例1の触媒は、参考例1の触媒に比べてその性能が著しく低かった。
Claims (5)
- 触媒前駆体に、ガス流通下に所定の熱履歴で加熱する熱処理を施して触媒を得る熱処理工程を有する、触媒の製造方法であって、
ガス流通機構および加熱器のいずれか一方またはその両方に問題が発生し、実施中の前記触媒前駆体の熱処理を途中で一旦停止する必要が生じて前記熱処理工程を中断する場合に、
下記時点Aを中断の開始時、下記時点Bを熱処理工程の再開時とし、
時点B以降の熱履歴を、前記所定の熱履歴における時点A以降の熱履歴に相当する熱履歴とすることを特徴とする触媒の製造方法。
時点A:前記所定の熱履歴の途中でガス流通を停止する時点。
時点B:時点A以降で、ガス流通を再開すること、および前記触媒前駆体の温度を前記時点Aにおける触媒前駆体の温度とすることの両方が満たされた時点。 - 前記熱処理工程の中断期間中の触媒前駆体の温度を、前記時点Aにおける触媒前駆体の温度以下とする、請求項1に記載の触媒の製造方法。
- 前記触媒前駆体が、メタクロレインを気相接触酸化してメタクリル酸を得る反応に用いる、モリブデン、リンおよびバナジウムを含むメタクリル酸製造用触媒の熱処理前の触媒前駆体である、請求項1または2に記載の触媒の製造方法。
- 触媒前駆体を、メタクリル酸の製造に用いる反応器の反応管に充填し、ガス流通下に熱処理する、請求項3に記載の触媒の製造方法。
- 請求項3または4に記載の製造方法で製造された触媒の存在下で、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化する、メタクリル酸の製造方法。
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