以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
−エンジン−
図1は本発明を適用するターボチャージャ付き内燃機関(エンジン)の概略構成図である。なお、図1にはエンジンの各バンクの1気筒の構成のみを示している。
この例のエンジン1は、車両に搭載されるエンジンであって、5つの気筒11a・・11aを有する第1バンク(左バンク)11と、5つの気筒11b・・11bを有する第2バンク(右バンク)12とをV型に配置したV型10気筒ディーゼルエンジンである。
エンジン1には、クランクシャフト10の回転角度(クランク角)を検出するクランクポジションセンサ(エンジン回転数センサ)21が配置されており、このクランクポジションセンサ21の出力信号からエンジン回転数を認識することができる。また、エンジン1には、ウォータジャケット内の冷却水の水温を検出する水温センサ22が配置されている。
エンジン1の各気筒11a,12aには、燃焼室11b,12b内に燃料を直接噴射するインジェクタ131,132とグロープラグ141,142とが配置されている。インジェクタ131,132は、通電(電圧印加)が行われたときに開弁する電磁駆動式の開閉弁である。グロープラグ141,142は、エンジン1の始動直前に電流が流されることにより赤熱し、これに燃料噴霧の一部が吹きつけられることで着火・燃焼が促進される始動補助装置として機能する。これらインジェクタ131,132の開弁タイミング及びグロープラグ141,142の通電タイミングはECU900(図2参照)によって制御される。
エンジン1の燃料供給系は、第1バンク11側の第1コモンレール301、第2バンク12側の第2コモンレール302、サプライポンプ303、上記した各バンク11,12に配置のインジェクタ131,132など備えている。
サプライポンプ303は、燃料タンク304から燃料を汲み上げ、この汲み上げた燃料を高圧にして第1コモンレール301に供給する。第1コモンレール301の内部と第2コモンレール302内部とは連通管305を通じて連通しており、第1コモンレール301に供給された燃料は第2コモンレール302にも供給される。これら2つのコモンレール301,302は、サプライポンプ303から供給された高圧燃料を所定圧力に保持(蓄圧)する蓄圧室としての機能を有し、この蓄圧した燃料を各バンク11,12のインジェクタ131,132に分配する。第1コモンレール301には、この第1コモンレール301内(第2コモンレール302内)の高圧燃料の圧力(レール圧)を検出するためのレール圧センサ26が配置されている。
エンジン1の吸気系は、一対のバンク11,12の各気筒11a,12aに吸気を導くための共用の吸気通路101を備えている。吸気通路101には共用のエアクリーナ9及び吸入空気量(新規空気量)を検出するエアフロメータ23が配置されている。
吸気通路101は2方に分岐している。その一方の吸気通路111(以下、第1吸気通路111ともいう)に、後述するターボチャージャ51のコンプレッサインペラ512が配置されており、他方の吸気通路112(以下、第2吸気通路112ともいう)に、後述するターボチャージャ52のコンプレッサインペラ522が配置されている。これら2つの吸気通路(インタークーラ上流側の吸気通路)111,112は共通のインタークーラ6に接続されている。インタークーラ6は、各ターボチャージャ51,52での過給によって昇温した吸入空気を強制冷却するためのクーラである。このインタークーラ6の出口通路102には、吸入空気の温度を検出する吸気温センサ24が配置されている。
インタークーラ6の出口通路102には2つの吸気通路(インタークーラ下流側の吸気通路)121,122が接続されている。これら2つの吸気通路121,122にはそれぞれ電子制御式のスロットルバルブ(吸気絞り弁)41,42が配置される。各スロットルバルブ41,42を開閉駆動するスロットルモータ401,402はECU900(図2参照)によって制御される。また、第1バンク11側の吸気通路121には、インテークマニホールド100内の圧力(過給圧)を検出するインマニ圧センサ(過給圧センサ)25が配置されている。
上記インタークーラ6の下流側(吸入空気流れの下流側)の2つの吸気通路121,122は、共通のサージタンク110を介して共通のインテークマニホールド100に接続されており、各吸気通路121,122を通過した空気(ターボチャージャ51,52で過給され、インタークーラ6で冷却された後の空気)がサージタンク110内で合流し、インテークマニホールド100を通じて各気筒11a,12aに流入する。
エンジン1の排気系は、第1バンク11側のエキゾーストマニホールド201及び排気通路211と、第2バンク12側のエキゾーストマニホールド202及び排気通路222とを備えている。各排気通路211,222には、それぞれ、後述するターボチャージャ51,52のタービンホイール511,521が配置されている。
なお、図示はしないが、排気通路211,222におけるタービン51A,52Aの下流側(排気ガス流れの下流側)に、それぞれ、NOx吸蔵触媒(NSR触媒:NOx Storage Reduction触媒)、及び、DPNR触媒(Diesel Paticulate−NOx Reduction触媒)などが配置されている。
−ターボチャージャ−
エンジン1の第1バンク11及び第2バンク12にはそれぞれターボチャージャ51,52が配置されている。これらターボチャージャ51,52について以下に説明する。
各ターボチャージャ51,52は、排気系の排気通路211,222に配置されたタービンホイール511,521等を有するタービン51A,52A、吸気系の吸気通路111,112に配置されたコンプレッサインペラ512,522等を有するコンプレッサ51B,52B、及び、それらタービンホイール511,521とコンプレッサインペラ512,522とを回転一体に連結する連結シャフト513,523などによって構成されており、排気通路211,222に配置のタービンホイール511,521が排気のエネルギによって回転し、これに伴って吸気通路111,112に配置のコンプレッサインペラ512,522が回転する。そして、コンプレッサインペラ512,522の回転により吸入空気が過給され、エンジン1の各気筒11a,12aの燃焼室11b,12bに過給空気が強制的に送り込まれる。
この例のターボチャージャ51,52は、ともに可変ノズル式ターボチャージャであって、タービン51A,52A側に可変ノズルベーン機構(VN)514,524が設けられている。
可変ノズルベーン機構514,524は、タービンホイール511,521の外周側の排気ガス通路に配置された複数のノズルベーンを有し、それらノズルベーンの開度(互いに隣り合うノズルベーン間の流路面積(スロート面積))を変更することによって排気ガスの流れを調整する機構である。これら可変ノズルベーン機構514,524の開度(VN開度)をVNアクチュエータ515,525(図2参照)にて調整することによって、エンジン1の各バンク11,12の過給圧を調整することができる。可変ノズルベーン機構514,524の開度(VNアクチュエータ515,525の駆動)はECU900(図2参照)によって制御される。
また、この例のターボチャージャ51,52においては、それぞれ、タービンホイール511,521をバイパスする排気バイパス通路516,526が形成されており、その排気バイパス通路516,526を開閉するウエストゲートバルブ517,527が設けられている。この各ウエストゲートバルブ517,527の開度をWGVアクチュエータ518,528(図2参照)によって調整し、タービンホイール511,521をバイパスする排気ガス量を調整することによって、各ターボチャージャ51,52の過給圧を制御することができる。ウエストゲートバルブ517,527の開度(WGVアクチュエータ518,528の駆動)はECU900(図2参照)によって制御される。
なお、以下の説明において、第1バンク11側のターボチャージャ51を「第1ターボチャージャ51」という場合があり、また、第2バンク12側のターボチャージャ52を「第2ターボチャージャ52」という場合がある。
−EGR装置−
また、エンジン1には、第1バンク11側と第2バンク12側とに、それぞれ、EGR装置(Exhaust Gas Recirculation装置)71,72が配置されている。EGR装置71,72は、吸入空気に排気ガスの一部を導入することで、燃焼室11b,12b内の燃焼温度を低下させてNOxの発生量を低減させる装置である。
EGR装置71,72は、ターボチャージャ51,52のタービンホイール511,521よりも上流側(排気ガス流れの上流側)の排気通路211,222と、インタークーラ6の下流側(吸入空気流れの下流側)の吸気通路121,122とを連通するEGR通路711,721、この各EGR通路711,721に設けられたEGRクーラ712,722、及び、EGRバルブ713,723などによって構成されている。そして、このような構成のEGR装置71,72において、EGRバルブ713,723の開度を調整することにより、EGR率[EGR量/(EGR量+吸入空気量(新規空気量))(%)]を変更することができ、排気通路211,222から吸気通路121,122に導入されるEGR量(排気還流量)を調整することができる。なお、EGRバルブ713,723の開度はECU900(図2参照)によって制御される。
−ブローバイガス還流装置−
次に、ブローバイガス還流装置(PCV装置)8について説明する。
この例では、2つのバンク11,12のうち、第2バンク12(片方のバンク)側のみにブローバイガス還流装置8を設けている。ブローバイガス還流装置8は、クランクケース1a内に存在するブローバイガスを、第2バンク12の第2吸気通路112におけるターボチャージャ52(コンプレッサインペラ522)の上流側(吸気流れの上流側)に還流するPCV通路(ブローバイガス還流通路)81を備えている。このPCV通路81には、ブローバイガスの逆流防止及び流量調整を行うためのPCVバルブ82が設けられている。PCVバルブ82の開度はECU900(図2参照)によって制御される。
−ECU−
次に、ECU(Electronic Control Unit)900について説明する。
この例のECU900は、図2に示すように、CPU(Central Processing Unit)901、ROM(Read Only Memory)902、RAM(Random Access Memory)903、及び、バックアップRAM904などを備えている。
ROM902には、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。CPU901は、ROM902に記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて演算処理を実行する。また、RAM903はCPU901での演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリであり、バックアップRAM904はエンジン1の停止時にその保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
以上のCPU901、ROM902、RAM903及びバックアップRAM904は、バス907を介して互いに接続されるとともに、入力インターフェース905及び出力インターフェース906と接続されている。
入力インターフェース905には、クランクポジションセンサ(エンジン回転数センサ)21、水温センサ22、エアフロメータ23、吸気温センサ24、インマニ圧センサ25、レール圧センサ26、コンプレッサ出口温度センサ271,272、スロットル開度センサ281,282、アクセル開度センサ29、及び、大気の温度を検出する大気温度センサ30などが接続されており、これらの各センサの出力信号がECU900に入力される。
出力インターフェース906には、インジェクタ131,132、グロープラグ141,142、サプライポンプ303、スロットルバルブ41,42のスロットルモータ401,402、ターボチャージャ51,52の可変ノズルベーン機構514,524の開度を調整するVNアクチュエータ515,525、ウエストゲートバルブ517,527の開度を調整するWGVアクチュエータ518,528、EGR装置71,72のEGRバルブ713,723、及び、ブローバイガス還流装置8のPCVバルブ82などが接続されている。
ECU900は、上記した各種センサの出力信号に基づいて、エンジン1のスロットルバルブ41,42の開度制御、燃料噴射量・噴射時期制御(インジェクタ131,132の開閉制御)、及び、EGR制御などを含むエンジン1の各種制御を実行する。また、ECU900は、ターボチャージャ51,52の可変ノズルベーン機構514,524の開度制御、ウエストゲートバルブ517,527の開度制御、及び、ブローバイガス還流装置8のPCVバルブ82の開度制御などを実行する。さらに、ECU900は、下記の「過回転抑制制御」を実行する。
以上のECU900により実行されるプログラムによって本発明のターボチャージャ付きエンジンの制御装置が実現される。
−過回転抑制制御(1)−
まず、図1に示すエンジン1は、上述したように、第1バンク11及び第2バンク12にそれぞれターボチャージャ51,52が設けられているとともに、1つのエアクリーナ9及びサージタンク110を共有する構造のツインターボシステムのエンジンであって、片方のバンク(第2バンク12)側のみにブローバイガス還流装置8(PCV通路81)が設けられている。
このような構造のツインターボシステムのエンジン1にあっては、寒冷地等において使用される場合、PCV通路81を通じて戻されるブローバイガスに含まれる水分が、第2バンク12の第2吸気通路112内で氷結し、その第2吸気通路112(片方の吸気通路)がつまる(流路が狭くなる)場合がある。こうした状況になると、第2バンク12側に配置の第2ターボチャージャ52の回転数が上昇してしまい、第2ターボチャージャ52が過回転に至ることが懸念される。この点について以下に説明する。
まず、エアクリーナ9及びサージタンク110を共用する構造のツインターボシステムのエンジン1において、排気ガスは、それぞれ、第1ターボチャージャ51のタービン51A、及び、第2ターボチャージャ52のタービン52Aに供給される。また、このような構造のエンジン1において、第2バンク12の第2吸気通路112のみが氷結によりつまっている場合、第1バンク11側(氷結しない側)の第1ターボチャージャ51のコンプレッサ51Bを通過した空気が2つのバンク11,12の両方に供給される。
ここで、氷結により、第2バンク12の第2吸気通路112のみがつまっている場合、第1バンク11側の第1吸気通路111と第2バンク12側の第2吸気通路112との間において吸気抵抗のアンバランスが生じる。このため、高負荷運転時において、上記吸気抵抗が大きい側のコンプレッサ52Bつまり第2バンク12の第2吸気通路112に配置のコンプレッサ52Bの仕事量は、吸気抵抗が小さい側(第1バンク11側(氷結しない側)の第1吸気通路111に配置のコンプレッサ51Bの仕事量よりも少なくなる。そして、このような状態(片方のコンプレッサ52Bの仕事量が少ない状態)で、全体の排気ガスエネルギの半分が、それぞれ、各ターボチャージャ51,52(タービン51A,52A)に供給されると、上記吸気抵抗が大きい側の第2ターボチャージャ52の回転数が上昇してしまい、第2ターボチャージャ52が過回転に至るおそれがある。
このような点を考慮して、この例では、1つのエアクリーナ9及びサージタンク110を共有する構造のツインターボシステムのエンジンであって、片方のバンク(第2バンク12)側のみにブローバイガス還流装置8(PCV通路81)が設けられたエンジン1において、第2バンク12の第2吸気通路112のつまりを判定することができ、第2ターボチャージャ52の過回転を未然に防ぐことが可能な制御を実現する。
その制御(過回転抑止制御)の一例について、図3のフローチャートを参照して説明する。図3の制御ルーチンはECU900において所定時間毎(例えば数msec毎)に繰り返して実行される。
まず、ステップST101において、クランクポジションセンサ(エンジン回転数センサ)21、エアフロメータ23、インマニ圧センサ25、コンプレッサ出口温度センサ271,272、及び、大気の温度を検出する大気温度センサ30など各センサからの入力信号を処理して、エンジン回転数Ne、吸入空気量Ga、インマニ圧(過給圧)Pim、第1ターボチャージャ51のコンプレッサ出口温度T3_1、第2ターボチャージャ52のコンプレッサ出口温度T3_2、及び、大気温度Tatmなどを認識する。
ステップST102では、エンジン回転数Neに基づいてエンジン1が運転中であるか否かを判定し、その判定結果が否定判定(NO)である場合はリターンする。ステップST102の判定結果が肯定判定(YES)である場合はステップST103に進む。
ステップST103では、大気温度Tatmが0℃以下であるか否かを判定し、その判定結果が否定判定(NO)である場合はリターンする。ステップST103の判定結果が肯定判定(YES)である場合([大気温度Tatm≦0℃]である場合)はステップST104に進む。このステップST103は、PCV通路81を設けた側の第2吸気通路112に氷結が生じる環境下にあるか否かを判定するための判定ステップである。
ステップST104ではエンジン1の運転状態が高負荷領域であるか否かを判定する。具体的には、例えば、エンジン回転数Neと燃料噴射量Q(インジェクタ131,132への指令値)とに基づいて、予め実験・シミュレーション等によって設定されたマップを参照して、エンジン1の運転状態が高負荷領域であるか否かを判定し、その判定結果が否定判定である場合(ステップST104の判定結果が否定判定(NO)である場合)はリターンする。ステップST104の判定結果が肯定判定(YES)である場合はステップST105に進む。
ここで、「高負荷領域」とは、PCV通路81を設けた側の第2吸気通路112につまりが生じた場合(流路が狭くなった場合)に、第2ターボチャージャ52に過回転が生じる可能性のあるエンジン1の運転領域であって、例えば、図6に示すコンプレッサの特性線図([吸入空気量Ga−圧力比P3/P1]線図)上で表すと、ハッチングを付した領域が高負荷領域である。この高負荷領域は、エンジン回転数と燃料噴射量とをパラメータとして、上記ターボチャージャの過回転の発生の有無(コンプレッサ効率の低下度合い)を考慮して、予め実験・計算等によって求めることができる。そして、その結果を基に高負荷領域を判定する上記マップを作成すればよい。この高負荷領域判定用のマップはECU900のROM902内に記憶しておく。
なお、ステップST104の判定処理において、吸入空気量Gaとインマニ圧Pimとを用いて、予め実験・シミュレーション等によって設定されたマップを参照して、エンジン1の運転状態が高負荷領域であるか否かを判定するようにしてもよい。また、高負荷領域の判定は、他の手法で行うようにしてもよい。
ステップST105においては、現在の第2ターボチャージャ52のコンプレッサ出口温度T3_2と第1ターボチャージャ51のコンプレッサ出口温度T3_1との温度差ΔT(ΔT=T3_2−T3_1)を求め、その温度差ΔTが所定のつまり判定値α(例えば15℃)以上であるか否かを判定する。このステップST105の判定処理に用いるつまり判定値αについては後述する。
ステップST105の判定結果が否定判定(NO)である場合([ΔT<α℃]である場合)は通常制御を行い(ステップST106)、その後にリターンする。
なお、エンジン1の通常制御としては、例えば、エアフロメータ23によって検出された吸入空気量Gaとクランクポジションセンサ21によって検出されたエンジン回転数Neとに基づいて、燃費(燃料消費率)などを考慮したマップ(通常制御用のマップ)を参照して、インジェクタ131,132による燃料噴射量(指令値)を調整するという制御を行う。また、ターボチャージャ51,52の可変ノズルベーン機構514,524についても通常制御を行う。例えば、エンジン1(ターボチャージャ51,52)の運転状態に基づいて、燃費・エミッション・ターボ効率(過給効率)などを考慮したマップ(通常制御時の要求開度値マップ)を参照して、可変ノズルベーン機構514,524のVN開度を調整するという制御を行う。
一方、ステップST105の判定結果が肯定判定(YES)である場合([ΔT≧α℃]である場合)は、第2バンク12の第2吸気通路112(吸気系)につまりが生じている(流路が狭くなっている)と判定してステップST107に進む。
ステップST107では、第2ターボチャージャ52の可変ノズルベーン機構(VN)524を開く(VN開き制御)。具体的には、可変ノズルベーン機構524のVN開度を最大開度に設定する。このようにして、第2ターボチャージャ52の可変ノズルベーン機構524を開くことにより、可変ノズルベーン機構524のVN開度(互いに隣り合うノズルベーン間の流路面積(スロート面積))を大きくすることができ、タービンホイール521に向けて導入される排気ガスの流速を小さくすることができる。つまり、タービンホイール521に流入する排気ガス量(排気ガスエネルギ)を減らすことができる。これによって、タービンホイール521及びコンプレッサインペラ522の回転速度を小さくすることができ、第2ターボチャージャ52の過回転を抑制することができる。
次に、ステップST108において、判定待機時間が経過したか否かを判定する。ここで、判定待機時間は、下記のステップST109の判定処理を開始するまでの待機時間であって、例えば、上記VN開き制御による排気ガス量の低減効果を得るのに必要な時間(遅延時間等を含む)を実験・シミュレーション等によって取得し、その結果を基に適合した値(時間)を設定する。
上記ステップST108の判定結果が否定判定(NO)である場合は、ステップST109の判定処理の実行を保留し、ステップST108の判定結果が肯定判定(YES)になった時点で、ステップST109の判定処理を実行する。具体的には、ステップST109においては、現在の第2ターボチャージャ52のコンプレッサ出口温度T3_2と第1ターボチャージャ51のコンプレッサ出口温度T3_1との温度差ΔTが、上記つまり判定値α(例えば15℃)以上であるか否かを判定する。ステップST109の判定結果が否定判定(NO)である場合([ΔT<α℃]である場合)は、上記VN開き制御を実施したことにより、第2ターボチャージャ52の過回転が生じない状況になったと判断してリターンする。
ステップST109の判定結果が肯定判定(YES)である場合([ΔT≧α℃]である場合)は、上記VN開き制御を実施したのにも関らず、第2バンク12の第2吸気通路112のつまりが解消していないと判断して、ステップST110に進む。
ステップST110では、MIL(Malfunction Indicator Lamp;警告ランプ)を点灯して、吸気系につまりが生じている旨をユーザに報知し、ディーラ等での点検・修理等を促す。また、このようなMIL点灯とともに、エンジン1の運転状態を退避走行モードとする。退避走行モードとは、車両の走行状態を、第2ターボチャージャ52の過回転(第2吸気通路112のつまりに起因する過回転)を回避することが可能な範囲内に制限するエンジン1の運転モードであって、例えば、燃料噴射量やスロットル開度が制限される。
以上のように、この例の制御によれば、エンジン運転状態が高負荷領域であるときに、第2ターボチャージャ52のコンプレッサ出口温度T3_2と第1ターボチャージャ51のコンプレッサ出口温度T3_1との温度差ΔTがつまり判定値α(例えば、α=15℃)以上である場合には、第2バンク12の第2吸気通路112(吸気系)につまりが生じていると判定し、第2ターボチャージャ52のタービンホイール521に流入する排気ガス量を減らしているので、第2ターボチャージャ52の過回転を抑制することができる。しかも、コンプレッサ出口温度センサ271,272にて検出されるコンプレッサ出口温度T3_1及びT3_2を用いて吸気系のつまりを判定しているので、各ターボチャージャ51,52の回転数を検出する高価なターボ回転数センサを設けることなく、第2ターボチャージャ52の過回転を防止することができる。
−つまり判定値について−
つまり判定値の一例について説明する。
まず、上述したように、ターボチャージャにあっては、コンプレッサ効率ηcは、コンプレッサ入口温度T1、コンプレッサ出口温度T3、及び、コンプレッサ圧力比P3/P1(P3:コンプレッサ出口圧力、P1:コンプレッサ入口圧力)に関係があり(例えば特開2008−138623号公報、特開2006−009767号公報などを参照)、コンプレッサ効率ηcが低下すると、コンプレッサ出口温度T3が高くなる。
また、図1に示す構造のエンジン、つまり、1つのエアクリーナ及びサージタンクを共有する構造のツインターボシステムのエンジン1において、PCV通路81を設けた側の第2吸気通路112につまりが生じていない場合、各バンク11,12毎に設けた2つのターボチャージャ51,52のコンプレッサ効率ηc1,ηc2は同程度である。これに対し、第2バンク12側(PCV通路81を設けた側)の第2吸気通路112に氷結によるつまりが生じている場合、第2ターボチャージャ52のコンプレッサ52Bの仕事量が少なくなってコンプレッサ効率ηc2が低下するので、コンプレッサ出口温度T3_2が高くなり、第1バンク11側(PCV通路81を設けていない側)のコンプレッサ出口温度T3_1との間において差が生じる。しかも、その温度差ΔTは、第2ターボチャージャ52のコンプレッサ効率ηc2が低くなるほど大きくなる。この点について説明する。
まず、上記PCV通路81を設けた側の第2吸気通路112につまりが生じていない状態を基準状態とし、第2ターボチャージャ52のコンプレッサ効率ηc2が基準状態に対して5%低下した場合と、同コンプレッサ効率ηc2が基準状態に対して10%低下した場合とについて、第2ターボチャージャ52のコンプレッサ出口温度温度T3_2と第1ターボチャージャ51のコンプレッサ出口温度温度T3_1(コンプレッサ出口温度温度T3_1については同じ値(例えば15℃)とした)との温度差ΔTを、コンプレッサ圧力比P3/P1をパラメータとして計算したところ、図7に示すような結果が得られた。この図7の結果から明らかなように、コンプレッサ効率ηc2が低下するほど(第2吸気通路112のつまり度合いが大きくなるほど)、第2ターボチャージャ52のコンプレッサ出口温度温度T3_2と第1ターボチャージャ51のコンプレッサ出口温度温度T3_1との温度差ΔTが大きくなることが判る。
また、上記高負荷領域において、例えば、ターボチャージャのコンプレッサ効率ηcの基準状態に対する低下が10%程度になると、ターボチャージャの回転が上昇して過回転が生じる可能性があることが実験・経験的に判っている。一方、例えば、ターボチャージャのコンプレッサ効率ηcの基準状態に対する低下が5%程度である場合にはターボチャージャは問題なく回転する。
そして、そのような点及び上記図7の温度差変化に基づいて、高負荷領域においてコンプレッサ効率ηc2が基準状態に対して10%低下した場合には超えてしまう値(温度差ΔT)であり、高負荷領域であってもコンプレッサ効率ηc2が基準状態に対して5%低下の場合には生じない大きさの温度差ΔT(許容値)を考慮して、つまり判定値αを決定する。図7の例ではつまり判定値αを15℃としている。なお、つまり判定温度αは、「15℃」以外の値であってもよい。
なお、上記図7の温度差ΔTの計算において、第1ターボチャージャ51と第2ターボチャージャ52とにおいて、コンプレッサ入口温度T1(15℃)及びコンプレッサ圧縮比P3/P1は同じ値として計算を行っている。
−過回転抑制制御(2)−
過回転抑制制御の他の例について図4のフローチャートを参照して説明する。図4の制御ルーチンはECU900において実行される。
図4に示すフローチャートのステップST201〜ステップST206の各処理は、上記した図3のフローチャートのステップST101〜ステップST106の各処理と同じであるので、その詳細な説明は省略する。
この例においても、ステップST205において、現在の第2ターボチャージャ52のコンプレッサ出口温度T3_2と第1ターボチャージャ51のコンプレッサ出口温度T3_1との温度差ΔT(ΔT=T3_2−T3_1)が上記したつまり判定値α(例えば15℃)以上であるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定(YES)である場合にステップST207に進む。
ステップST207では、第2ターボチャージャ52のウエストゲートバルブ527を開く(WGV開き制御)。具体的には、ウエストゲートバルブ527のWGV開度を最大開度に設定する。このようにして、ウエストゲートバルブ527を開くことにより、タービンホイール521に流入する排気ガス量(排気ガスエネルギ)を減らすことができる。これによって、タービンホイール521及びコンプレッサインペラ522の回転速度を小さくすることができ、第2ターボチャージャ52の過回転を抑制することができる。
次に、ステップST208において、判定待機時間が経過したか否かを判定する。ここで、判定待機時間は、下記のステップST209の判定処理を開始するまでの待機時間であって、例えば、上記WGV開き制御による排気ガス量の低減効果を得るのに必要な時間(遅れ時間等を含む)を実験・シミュレーション等によって取得し、その結果を基に適合した値(時間)を設定する。
上記ステップST208の判定結果が否定判定(NO)である場合は、ステップST209の判定処理の実行を保留し、ステップST208の判定結果が肯定判定(YES)になった時点で、ステップST209の判定処理を実行する。具体的には、ステップST209においては、現在の第2ターボチャージャ52のコンプレッサ出口温度T3_2と第1ターボチャージャ51のコンプレッサ出口温度T3_1との温度差ΔTが、上記つまり判定値α(例えば15℃)以上であるか否かを判定する。ステップST209の判定結果が否定判定(NO)である場合([ΔT<α℃]である場合)は、上記WGV開き制御を実施したことにより、第2ターボチャージャ52の過回転が生じない状況になったと判断してリターンする。
ステップST209の判定結果が肯定判定(YES)である場合([ΔT≧α℃]である場合)は、上記WGV開き制御を実施したのにも関らず、第2バンク12の第2吸気通路112のつまりが解消していないと判断して、ステップST210に進む。
ステップST210では、MILを点灯して、吸気系につまりが生じている旨をユーザに報知し、ディーラ等での点検・修理等を促す。また、このようなMIL点灯とともに、エンジン1の運転状態を上記した退避走行モードとする。
以上のように、この例の制御においても、エンジン1の運転状態が高負荷領域であるときに、第2ターボチャージャ52のコンプレッサ出口温度T3_2と第1ターボチャージャ51のコンプレッサ出口温度T3_1との温度差ΔTがつまり判定値α(例えば、α=15℃)以上である場合に、第2バンク12の第2吸気通路112(吸気系)につまりが生じていると判定し、第2ターボチャージャ52のタービンホイール521に流入する排気ガス量を減らしているので、第2ターボチャージャ52の過回転を抑制することができる。しかも、コンプレッサ出口温度センサ271,272にて検出されるコンプレッサ出口温度T3_1及びT3_2を用いて吸気系のつまりを判定しているので、各ターボチャージャ51,52の回転数を検出する高価なターボ回転数センサを設けることなく、第2ターボチャージャ52の過回転を防止することができる。
−過回転抑制制御(3)−
過回転抑制制御の他の例について図5のフローチャートを参照して説明する。図5の制御ルーチンはECU900において実行される。
図5に示すフローチャートのステップST301〜ステップST306の各処理は、上記した図3のフローチャートのステップST101〜ステップST106の各処理と同じであるので、その詳細な説明は省略する。
この例においても、ステップST305において、現在の第2ターボチャージャ52のコンプレッサ出口温度T3_2と第1ターボチャージャ51のコンプレッサ出口温度T3_1との温度差ΔT(ΔT=T3_2−T3_1)が所定のつまり判定値α(例えば15℃)以上であるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定(YES)である場合にステップST307に進む。
ステップST307では、第2バンク(第2気筒群)12に噴射する燃料噴射量を通常制御時よりも減量する。このようにして、第2バンク(第2気筒群)12の各燃焼室12bに噴射する燃料噴射量を減量することにより、排気通路322に排出される排気ガスの量つまりタービンホイール521に流入する排気ガス量(排気ガスエネルギ)を減らすことができる。これによって、タービンホイール521及びコンプレッサインペラ522の回転速度を小さくすることができ、第2ターボチャージャ52の過回転を抑制することができる。
なお、エンジン1の通常制御は、例えば、現在のエンジン1の運転状態(吸入空気量Ga、エンジン回転数Ne等)とに基づいて、燃費(燃料消費率)などを考慮したマップ(通常制御用)を参照して、インジェクタ131,132による燃料噴射量(指令値)を決定して、燃料噴射量を調整する制御である。
次に、ステップST308において、判定待機時間が経過したか否かを判定する。ここで、判定待機時間は、下記のステップST309の判定処理を開始するまでの待機時間であって、例えば、上記燃料噴射量の減量による排気ガス量の低減効果を得るのに必要な時間(遅れ時間等を含む)を実験・シミュレーション等によって取得し、その結果を基に適合した値(時間)を設定する。
上記ステップST308の判定結果が否定判定(NO)である場合は、ステップST309の判定処理の実行を保留し、ステップST308の判定結果が肯定判定(YES)になった時点で、ステップST309の判定処理を実行する。具体的には、ステップST309においては、現在の第2ターボチャージャ52のコンプレッサ出口温度T3_2と第1ターボチャージャ51のコンプレッサ出口温度T3_1との温度差ΔTが、上記つまり判定値α(例えば15℃)以上であるか否かを判定する。ステップST309の判定結果が否定判定(NO)である場合([ΔT<α℃]である場合)は、上記燃料噴射量の減量を行ったことにより、第2ターボチャージャ52の過回転が生じない状況になったと判断してリターンする。
ステップST309の判定結果が肯定判定(YES)である場合([ΔT≧α℃]である場合)は、上記燃料噴射量の減量を行ったのにも関らず、第2バンク12の第2吸気通路112のつまりが解消していないと判断して、ステップST310に進む。
ステップST310では、MILを点灯して、吸気系につまりが生じている旨をユーザに報知し、ディーラ等での点検・修理等を促す。また、このようなMIL点灯とともに、エンジン1の運転状態を上記した退避走行モードとする。
以上のように、この例の制御においても、エンジン1の運転状態が高負荷領域であるときに、第2ターボチャージャ52のコンプレッサ出口温度T3_2と第1ターボチャージャ51のコンプレッサ出口温度T3_1との温度差ΔTがつまり判定値α(例えば、α=15℃)以上である場合に、第2バンク12の第2吸気通路112(吸気系)につまりが生じていると判定し、第2ターボチャージャ52のタービンホイール521に流入する排気ガス量を減らしているので、第2ターボチャージャ52の過回転を抑制することができる。しかも、コンプレッサ出口温度センサ271,272にて検出されるコンプレッサ出口温度T3_1及びT3_2を用いて吸気系のつまりを判定しているので、各ターボチャージャ51,52の回転数を検出する高価なターボ回転数センサを設けることなく、第2ターボチャージャ52の過回転を防止することができる。第2ターボチャージャ52の過回転を防止することができる。
ここで、本実施形態の制御において、第2ターボチャージャ52のコンプレッサ出口温度T3_2と第1ターボチャージャ51のコンプレッサ出口温度T3_1との温度差ΔTがつまり判定値α以上であり、第2吸気通路112(吸気系)につまりが生じていると判定した場合に、PCV通路82が設けられた側の第2ターボチャージャ52の過回転を抑制するにあたり、上記した[可変ノズルベーン機構524のノズルベーンを開く制御(VN開き制御)]、[ウエストゲートバルブ527を開く制御(WGV開き制御)]、及び、[第2バンク12への燃料噴射量を減量する制御]うちのいずれか2つの制御もしくは全ての制御を実行するようにしてもよい。
−他の実施形態−
以上の例では、2つのバンク11,12のうち、第2バンク12側の吸気通路112にブローバイガス還流装置8(PCV通路81)を設けた例について説明したが、本発明はこれに限られることなく、第1バンク11側の吸気通路111にブローバイガス還流装置8(PCV通路81)を設けたツインターボシステムのエンジン(内燃機関)の制御に適用可能である。
以上の例では、ターボチャージャ付きV型10気筒ディーゼルエンジンの制御に本発明を適用した例を示したが、本発明はこれに限られることなく、例えばV型6気筒やV型8気筒などの他の任意の気筒数のターボチャージャ付きV型多気筒ディーゼルエンジンの制御にも適用可能である。また、V型多気筒ディーゼルエンジンに限られることなく、ターボチャージャ付きV型多気筒ガソリンエンジンなどの制御にも適用可能である。