JP5754798B2 - ニクバエ科に属するハエへの遺伝子導入方法 - Google Patents
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Description
ニクバエ科に属するハエは、一般的に卵胎生であるため、従来の昆虫の遺伝子導入方法をニクバエ科に属するハエに適用することはできない。
[1] 羽化後0〜5日目のニクバエ科に属するハエ個体から採取した胚に目的遺伝子を導入することを特徴とする、遺伝子導入方法。
[2] 前記個体が、羽化後0〜5日目のものである、前記[1]に記載の方法。
[3] 前記個体が、羽化後4〜5日目のものである、前記[1]に記載の方法。
[4] 前記個体が、羽化後5日目のものである、前記[1]に記載の方法。
[5] 前記目的遺伝子は、トランスポゾン配列を有する発現ベクターに組み込まれたものである、前記[1]に記載の方法。
[6] 前記トランスポゾン配列が、ITR配列である、前記[5]に記載の方法。
[7] 前記発現ベクターが、piggyBacシステム発現ベクターである、前記[5]に記載の方法。
[8] 前記導入は、マイクロインジェクション法により行われる、前記[1]に記載の方法。
[9] 前記導入は、ガラス管を加熱し、引き伸ばす工程により作製されたガラスキャピラリーを介して行われる、前記[8]に記載の方法。
[10] 前記ガラスキャピラリーは、前記工程を少なくとも2回繰り返すことにより作製されたものである、前記[9]に記載の方法。
[11] 目的遺伝子が、DsRed、Green Fluorescent Protein、Yellow Fluorescent Protein、抗菌タンパク質、酵素又は生理活性を有するタンパク質をコードする遺伝子、及びRNA干渉用遺伝子からなる群から選択されるいずれか1つのものである、前記[1]に記載の方法。
[12] 前記目的遺伝子は、水に懸濁された状態のものである、前記[1]〜[11]のいずれか1項に記載の方法。
[13] 前記[1]〜[12]のいずれか1項に記載の方法により、目的遺伝子が導入された胚から発生したハエ。
[14] 前記[13]に記載のハエ又はその処理物を含む飼料。
[15] 家畜用飼料である、前記[14]に記載の飼料。
[16] 羽化後0〜5日目のニクバエ科に属するハエ個体から採取した胚に、目的タンパク質をコードする遺伝子を導入することにより、前記目的タンパク質を製造することを特徴とするタンパク質の製造方法。
[17] 前記目的タンパク質が、DsRed、Green Fluorescent Protein、Yellow Fluorescent Protein、抗菌タンパク質、酵素又は生理活性を有するタンパク質である、前記[16]に記載の方法。
[18] 前記[16]に記載の方法により製造されたタンパク質。
ニクバエの発生についての文献はないため詳細は不明であるが、ショウジョウバエに類似した発生様式をたどると考えられる。羽化後0〜5日目のハエ個体では、胚が発生の早期段階にあり、すべての核が共通の細胞質の中に存在していると考えられるため遺伝子導入効率が高くなるものと考えられる(図1Bの(a)接合子〜(c)シンシチウム胞胚の状態)。当該胚は、極細胞が形成される頃までに、羽化後0〜5日目の個体から採取することが好ましく(図1Bの(a)接合子〜(b)卵割の状態)、羽化後4〜5日目の個体から採取することがより好ましく(図1Bの(b)卵割〜(c)シンシチウム胞胚の状態)、羽化後5日目の個体から採取することが最も好ましい。羽化後4〜5日目の個体から採取された胚であれば、卵黄部分に目的遺伝子を導入しやすく、さらに、体外で発生させることができる。
胚の発生速度は、個体により差があることから、羽化後0〜5日目のハエから採取した胚であっても、極細胞が形成されていることも考えられる。胚に極細胞が形成されている場合には、目的遺伝子を透明膜に導入することにより、本発明の方法を実施することができる。
採取した胚は、遺伝子導入を行うまで、例えば、スライドガラス上に並べ、水分をふき取った後、シリカゲルを入れたタッパウェア内に1〜10分間程度放置し、シリコンオイルを塗布した状態で、室温にて保存することができる。
形質転換された胚は、上記マーカーにより容易に選択することができる。例えば、ネオマイシン耐性遺伝子をマーカーとして導入した胚であれば、G418を加えた培地中で培養することにより、一次セレクションを行うことができる。
ITR配列は、以下の塩基配列を有する。
5’Terminal Repeat: CATGCGTCAATTTTACGCAGACTATCTTTCTAGGG(配列番号1)
3’Terminal Repeat: CCCTAGAAAGATAATCATATTGTGACGTACGTTAAAGATAATCATGCGTAAAATTGACGCATG(配列番号2)
具体的には、遺伝子を導入した胚を培養するか、又は当該胚から発生したハエ個体を飼育した後、通常の方法(例えば、超音波、リゾチーム、凍結融解など)で前記胚若しくはハエ個体又はこれらから採取した細胞を破砕又は溶解し、得られた破砕物又は溶解物から通常の抽出方法(例えば、遠心分離、ろ過など)により目的タンパク質を含む粗抽出液を得ることができる。
このようにして得られた粗抽出液に含まれる目的タンパク質は、通常の分離・精製方法に従って精製することができる。分離・精製方法としては、例えば、硫酸アンモニウム沈殿、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相高速液体クロマトグラフィー、透析法及び限外ろ過法等を、単独で又は適宜組み合わせて用いることができる。
得られたタンパク質が目的のものであることは、例えば、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)等によって確認することができる。
センチニクバエは、日本大学内P1A飼育室で飼育した。飼育には、逃亡・臭気対策として、動物個別飼育装置を使用した。飼育装置内の温度は27℃とし、6 am〜10 pmの16時間を照明し、昼夜を作った。幼虫は、餌としてレバーを与え、レバーの中で4〜5日飼育した。最終齢である三齢幼虫をレバーから取り出し、木屑の中で蛹化させた。その後、蛹を成虫用の網カゴに移し、餌として砂糖、粉ミルク、水を与え、9日目に羽化させた。
本実施例で使用したpiggyBacトランスポゾンシステム(Fraser MJ, Ciszczon T, Elick T, Bauser C. 1996. Precise excision of TTAA-specific lepidopteran transposons piggyBac (IFP2) and tagalong (TFP3) from the baculovirus genome in cell lines from two species of Lepidoptera. Insect Mol Biol. 5(2):141-51.)は、Malcolm J. Fraser, Jr博士(University of Notre Dame、インディアナ州、米国)から分与していただいた。このpiggyBacシステムを基に、表1に示すプロモーター及び遺伝子を有するプラスミドを作製した。
羽化後4〜5日目のメスを氷上麻酔したのち、腹部を圧迫し、子宮口から胚を取り出した。取り出した胚の卵黄部に、ガラスキャピラリーを用いて、プラスミド(i)〜(iv)のいずれか1種類とプラスミド(v)及び(vi)のいずれか1種類とを水で懸濁した溶液(100 ng/μL)を微少量マイクロインジェクションした。遺伝子を導入した胚は、25℃で4日間保温した後、レバーに播種し、先に述べた飼育環境で成虫になるまで飼育した。
マイクロインジェクションには、ガラスキャピラリーを加熱して2回引き伸ばす(2段引き)ことにより先端を細くし、さらに研磨機(ナリシゲ、EG-400)で先端を研磨することにより作製するものを用いた。
導入した遺伝子が胚で発現しているかどうか、検討を行った。インジェクションから1日目に正常に発生していると判断される胚を回収し、導入遺伝子のmRNA発現をRT-PCR法で検出した。
-80℃で保存しておいた胚にRNA later ice(Ambion社)を添加し、-20℃に16時間以上放置した。RNAの抽出はHigh Pure RNA Tissue Kit(Roche社)を用い取扱説明書に従って行った。RT-PCR法は、Transcriptor One Step RT-PCR Kit(Roche社)を用い取扱説明書に従って行った。逆転写反応およびPCR反応には以下のプライマーを用いた。
DsRed mRNAの検出: phMGFP-F1, DsRed-R1
トランスポゼース mRNAの検出: phMGFP-F1, pBorf-R1もしくはpBorf-R2
GFP mRNAの検出: phMGFP-F1, phMGFP-R1もしくはphMGFP-R2
各プライマーの塩基配列は以下の通り。
phMGFP-F1: AGAAGTTGGTCGTGAGGC(配列番号3)
phMGFP-R1: GTCAGGTCCATAGTCTGC(配列番号4)
phMGFP-R2: CTTGGCGAAGACACGGTTA(配列番号5)
DsRed-R1:CTTCACGTACACCTTGGAG(配列番号6)
pBorf-R1:TATCGCTCTGGACGTCATC(配列番号7)
pBorf-R2:TGGCAAGGTCAAGATTCTG(配列番号8)
4日目生存率=4日目の生存胚の数/(遺伝子導入した胚の数−1日目に回収した胚の数)
また、インジェクション後4日目に、1日目と同様に導入遺伝子の発現をRT-PCRで確認した。生存率及び導入遺伝子の発現確認の結果を表2に示す。
プラスミド(iv)+(vi)の組み合わせを導入した胚について、インジェクションから3又は4日目に、蛍光顕微鏡を用いてDsRed蛍光タンパク質の発現を検出し、同時に、胚の発生率を確認した。その結果を表3に示す。
インジェクションした胚の発生能を確認するため、項目「1.センチニクバエの飼育」と同様の条件で胚を成虫になるまで飼育した。その結果、約10%程度の胚が成虫まで成長した。この成長率は、非インジェクション群と同程度のものであった。結果を表4に示す。
導入した遺伝子が、成虫の生殖器を含む組織で発現しているかどうかを確認するため、インジェクション群の成虫の生殖器周囲の組織を採取し、ゲノムDNAに対してGFP又はDs Red特異的プライマーを用いてPCRを行った。
DNAの抽出はWizard Genomic DNA Prufirication Kit(Promega社)を用い、説明書に従って行った。PCR法は、プライマーにphMGFP-F1とDsRed-R1を用い、Ex taq (Takara社)を用いて説明書に従って行った。反応液を94℃で5分間加熱した後、変性94℃、20秒-アニーリング60℃、10秒-伸長反応72℃、1分のサイクルを35回行い、72℃で10分間加熱した後4℃で保存した。PCR産物はアガロースゲル電気泳動により確認した。
インジェクション群と非インジェクション群とで胚の発生率が大きな差を示さなかったことから、インジェクションするDNA量を増加することを検討した。そこで、インジェクションするプラスミド懸濁液の濃度を100 ng/μLから500 ng/μLに増加させて、先と同様の条件で胚にマイクロインジェクションを行った。その結果を、表5に示す。
導入遺伝子が次世代の胚に受け継がれているかどうかを検討した。次世代の胚は、先の項目「6.インジェクション(プラスミド(iv)+(vi))した胚の成長」で発生させた個体を相互に掛け合わせることにより得られた。胚を2〜3個づつまとめ、Phire Animal Tissue Direct PCR Kit (Fynnzymes社)を用い説明書に従ってゲノムDNAを抽出し、このゲノムDNAを鋳型として、導入遺伝子に対しPCR増幅を行った。プライマーはphMGFP-F1とDsRed-R1を用いた。その結果、5個体の子宮から得た10サンプルのうち、2サンプルで、DsRed遺伝子の存在を示すバンドが確認された(図6)。従って、本発明の方法により導入した遺伝子は、次世代に受け継がれることが示された。
プラスミドの懸濁媒体を検討し、最終的に水のみを使用すると胚でDsRed蛍光が見られることが分かった。
配列番号4:合成DNA
配列番号5:合成DNA
配列番号6:合成DNA
配列番号7:合成DNA
配列番号8:合成DNA
Claims (14)
- 羽化後0〜5日目のニクバエ科に属するハエ個体から採取した胚に、水に懸濁された目的遺伝子をマイクロインジェクション法により導入することを特徴とする、遺伝子導入方法。
- 前記個体が、羽化後4〜5日目のものである、請求項1に記載の方法。
- 前記個体が、羽化後5日目のものである、請求項1に記載の方法。
- 前記目的遺伝子は、トランスポゾン配列を有する発現ベクターに組み込まれたものである、請求項1に記載の方法。
- 前記トランスポゾン配列が、ITR配列である、請求項4に記載の方法。
- 前記発現ベクターが、piggyBacシステム発現ベクターである、請求項4に記載の方法。
- 前記導入は、ガラス管を加熱し、引き伸ばす工程により作製されたガラスキャピラリーを介して行われる、請求項1に記載の方法。
- 前記ガラスキャピラリーは、前記工程を少なくとも2回繰り返すことにより作製されたものである、請求項7に記載の方法。
- 目的遺伝子が、DsRed、Green Fluorescent Protein、Yellow Fluorescent Protein、抗菌タンパク質、酵素又は生理活性を有するタンパク質をコードする遺伝子、及びRNA干渉用遺伝子からなる群から選択されるいずれか1つのものである、請求項1に記載の方法。
- 請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法により、目的遺伝子が導入された胚から発生したハエ。
- 請求項10に記載のハエ又はその処理物を含む飼料。
- 家畜用飼料である、請求項11に記載の飼料。
- 羽化後0〜5日目のニクバエ科に属するハエ個体から採取した胚に、目的タンパク質をコードする遺伝子であって水に懸濁された遺伝子をマイクロインジェクション法により導入することにより、前記目的タンパク質を製造することを特徴とするタンパク質の製造方法。
- 前記目的タンパク質が、DsRed、Green Fluorescent Protein、Yellow Fluorescent Protein、抗菌タンパク質、酵素又は生理活性を有するタンパク質である、請求項13に記載の方法。
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