以下に、本願の開示する通信性能測定装置、通信性能測定システム、及び通信性能測定方法の実施例を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の実施例により本願の開示する通信性能測定装置、通信性能測定システム、及び通信性能測定方法が限定されるものではない。
図1は、通信性能測定システム1の構成を示す図である。図1に示すように、通信性能測定システム1は、2つの通信性能測定装置10、20を有する。通信性能測定装置10、20は、伝搬環境Eに形成された無線チャネルを介して、相互に各種信号やデータの送受信が可能な様に接続されている。通信性能測定装置10、20は、数メートル(例えば3m程度)の間隔で設置されている。通信性能測定装置10と通信性能測定装置20とは、上記伝搬環境Eにおいて、異なる複数の無線通信方式(例えば、Bluetooth、Zigbee)による通信が可能である。ここで、伝搬環境Eとは、通信性能測定試験を行うための実験室内や人体上など、無線通信装置の使用が想定され得る、あらゆる環境を指す。また、伝搬環境Eを決定する要因としては、例えば、各装置周辺における人や物体の動き、干渉の程度、遮蔽物や反射物の有無がある。
図2は、通信性能測定装置10の機能構成を示す図である。図2に示すように、通信性能測定装置10は、パラメータ設定部11とパケット生成部12とパケット受信成功率測定部13と第1通信モジュール14と第2通信モジュール15と回路消費電力測定部16とを有する。これら各構成部分は、一方向又は双方向に、信号やデータの入出力が可能なように接続されている。
パラメータ設定部11は、伝搬環境におけるドップラ周波数の測定や、伝搬環境が略一定とみなすことができる程に充分短い時間(以下、「コヒーレンス時間」と記す。)の算出を行う。また、パラメータ設定部11は、複数の無線通信方式によるパケットの送受信がコヒーレンス時間内に完了する様なパケット長L(単位はbits)及びデータレートR(単位はbps)を選択する。コヒーレンス時間は、周囲の人の存否や動作等、通信性能測定装置10の周辺環境やその変動状況に応じて異なるが、2.45GHzの周波数帯域では、例えば100ms程度である。
パケット生成部12は、データ伝達時間の測定開始を通信性能測定装置20に通知するためのパケットを生成する。また、パケット生成部12は、性能測定の開始を通信性能測定装置20に通知するためのパケットを生成する。更に、パケット生成部12は、パラメータ設定部11から入力されたパラメータに基づき、指定されたパケット長及びデータレートで送受信可能なデータパケットを生成する。また、パケット生成部12は、データパケットの送受信に要する時間が上記コヒーレンス時間よりも短くなるように、データパケットのデータ長またはデータレートを変更する。
パケット受信成功率測定部13は、事前に格納されているデータパケットと受信されたデータパケットとを照合して、各無線通信方式の性能指標となるPERやスループットを、無線通信方式毎に測定する。
第1通信モジュール14は、通信性能測定装置20との間で、第1の無線通信方式(例えば、Bluetooth)により、通知用パケット、測定用パケット等、各種パケットの送受信を行う。第2通信モジュール15は、通信性能測定装置20との間で、第2の無線通信方式(例えば、Zigbee)により、各種パケットの送受信を行う。特に、第1通信モジュール14と第2通信モジュール15とは、データパケットの送受信に際しては、コヒーレンス時間内に、双方の無線通信方式による往復又は片道のパケット通信を完了する。第1通信モジュール14と第2通信モジュール15とは、入力側と出力側とに設けられたアナログのスイッチSW1、SW2を切り替えることにより、1つのアンテナA1を共用することで、空間的な伝搬環境の時間方向における同一性を確保する。
回路消費電力測定部16は、通信性能測定装置20との間におけるデータパケットの送受信により消費された電力を、各無線通信方式毎に測定する。例えば、回路消費電力測定部16は、性能測定処理の実行に際し、第1通信モジュール14からACKの受信を通知されると、これを契機として、第1の無線通信方式によるデータパケットの送信時から受信時迄に消費される電力の測定を開始する。また、回路消費電力測定部16は、性能測定処理の実行に際し、第2通信モジュール15への切替えを通知されると、これを契機として、第2の無線通信方式によるデータパケットの送信時から受信時迄に消費される電力の測定を開始する。各無線通信方式に対する消費電力の測定は、対応する無線通信方式により受信されたデータパケットの保存に伴い終了する。
次に、通信性能測定装置10のハードウェア構成を説明する。図3は、異なる複数の通信モジュールを装置内に有する通信性能測定装置10のハードウェア構成を示す図である。図3に示すように、通信性能測定装置10は、プロセッサ10aと、入力装置10bと、メモリ10cと、ROM(Read Only Memory)10dと、表示装置10eと、第1通信モジュール10fと、第2通信モジュール10gとが、デジタルバスB1、B2を介して、各種信号やデータの入出力が可能なように接続されている。
プロセッサ10aは、例えば、CPU(Central Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)であり、通信性能測定装置10を統括的に制御する。入力装置10bは、例えば、キーボード、マウス、タッチパネルにより構成され、パケット長L及びデータレートRの初期値あるいは後述するαの値を入力する。メモリ10cは、例えば、HD(Hard Disk)、フラッシュメモリ等の不揮発性記憶装置の他、SDRAM(Synchronous Dynamic Random Access Memory)等のRAMを含む。メモリ10cは、例えば、PER、消費電力値、スループットログを格納する。ROM10dは、例えば、ドップラ周波数の測定結果、コヒーレンス時間の算出結果、及びパケット生成用のデータを事前に格納する。表示装置10eは、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)、ELD(Electro Luminescence Display)により構成される。
図2に示したパラメータ設定部11及びパケット生成部12は、ハードウェアとしてのROM10dとプロセッサ10aとにより実現される。パケット受信成功率測定部13は、ハードウェアとしてのプロセッサ10aにより実現される。また、第1通信モジュール14と第2通信モジュール15とは、ハードウェアとしての第1通信モジュール10fと第2通信モジュール10gとにより、それぞれ実現される。回路消費電力測定部16は、ハードウェアとしての消費電力測定装置10hにより実現される。なお、第2通信モジュール10gの内部構成は、第1通信モジュール10fの内部構成と同様であるので、共通する構成部分には、必要に応じて、末尾が同一の参照符号(例えば、CPU10f−1の場合、CPU10g−1)を用いると共に、その図示及び詳細な説明は省略する。
以上、通信性能測定装置10の構成を説明したが、対峙する通信性能測定装置20の構成は、通信性能測定装置10と同様である。したがって、共通する構成部分には、必要に応じて、末尾が同一の参照符号を用いると共に、その図示及び詳細な説明は省略する。
次に、動作を説明する。動作説明の前提として、本実施例では、通信性能測定装置10が、より汎用性の高いn個(nは2以上の整数)の無線通信方式間における性能の比較を行うケースを想定する。この場合、通信性能測定装置10は、n個全ての無線通信方式による通信を、コヒーレンス時間TC内に終了しなければならない。そのために、通信性能測定装置10は、PER、消費電力、スループット等の性能の測定を、各無線通信方式に関して実行する前に、その伝搬環境におけるコヒーレンス時間TCを求める。そして、通信性能測定装置10は、n個の無線通信方式全ての通信時間の合計値がコヒーレンス時間TCよりも小さい値となる様に、各無線通信方式におけるパケット長Ln及びデータレートRnの各値を予め設定しておく。ここで、サフィックスnは、パケット長L及びデータレートRが、n番目の無線通信方式に関するものであることを意味する。
通信性能測定装置10は、n個全ての無線通信方式による通信をコヒーレンス時間TC内に終了するため、性能の測定処理の事前準備として、データ伝達時間測定処理を実行する。図4は、データ伝達時間測定処理を説明するためのフローチャートである。
まずS1では、通信性能測定装置10の入力装置10bは、ユーザの指示に従い、パケット長Ln及びデータレートRnの初期値を入力する。S2では、第1通信モジュール10fは、無線通信方式M1〜MNを用いて、通信性能測定装置20との間で、ROM10dに格納されているデータパケットの送受信を行う。なお、Nは、通信性能測定装置10の有する全通信モジュール数を表す。したがって、第1通信モジュール10fは、無線通信方式M1〜MNを用いて、データパケットの送受信を行うことで、全ての通信モジュールの個数であるNまでデータパケットの送受信を繰り返すこととなる。
ここで、図5、図6を参照しながら、S2の処理について詳細に説明する。前提として、以下の説明では、通信性能測定装置10によるデータパケット送出時から通信性能測定装置20によるデータパケット受信時迄の時間を、n番目の無線通信方式Mにおけるsender to receiverを意味するサフィックスsrnを用いて、データ伝達時間Tsrnと定義する。図5は、通信性能測定装置10、20間のデータ伝達時間Tsrnを説明するための図である。図5に示すように、このデータ伝達時間Tsrnには、データパケットの送出に要する時間Ln/Rn及びデータパケットの受信に要する時間Ln/Rnの他に、時間T0n(例えば、1〜10μs程度)が含まれる。時間T0nは、データ送信側の第1通信モジュール10fを通過するのに要する時間Tcircuit-tと、空間を伝搬するのに要する時間Tairと、データ受信側の第1通信モジュール20fを通過するのに要する時間Tcircuit-rとの合計時間である。したがって、データ伝達時間Tsrnは、データ送受信のための時間である2Ln/Rnを含み、次の算定式(1)により表すことができる。
Tsrn=2Ln/Rn+T0n・・・(1)
通信性能測定装置10は、無線通信方式Mnを用いてパケットを送信し、これを受信した通信性能測定装置20は、無線通信方式Mnを用いて同一のパケットを返信し、通信性能測定装置10が当該パケットを受信する。データ伝達時間Tsrnは、上記パケットの往復時間の測定結果を0.5倍することによって得られる。
図6は、データパケット送受信処理を説明するためのシーケンス図である。まずS21では、通信性能測定装置10において、RF(Radio Frequency)インタフェースにより、無線通信方式M1の適用された第1通信モジュール10fが選択される。同様に、S22では、通信性能測定装置20において、通信性能測定装置10と同一の無線通信方式である無線通信方式M1の適用された第1通信モジュール20fが、RFインタフェースにより選択される。
S23では、通信性能測定装置10の第1通信モジュール10fは、データ伝達時間Tsrnを測定するための通信を開始する旨を通信性能測定装置20に伝えるため、測定開始通知パケットを送信する。この測定開始通知パケットは、通信性能測定装置10のROM10dから読み出された後、プロセッサ10aに出力され、第1通信モジュール10fと共用アンテナA1とを通過して、通信性能測定装置20宛に送信される。通信性能測定装置20は、測定開始通知パケットを受信する迄は、消費電力低減のため、第1通信モジュール20f以外の回路を休止状態としてもよいが、測定開始通知パケットの受信を契機として、通信性能測定装置10に対する肯定応答を示すACK信号を返信する(S24)。通信性能測定装置20は、ACK信号の返信に伴い、装置内の全ての回路を動作状態に移行させる。
S25では、ACK信号を受信した通信性能測定装置10は、通信性能測定装置20にてデータパケットを受信する準備が完了したものと判断し、データ伝達時間Tsrn測定用のデータパケットを送信する準備を開始する。すなわち、パケット長L1、データヘッダ長Ldhを有する、送信対象のデータパケットが、ROM10dから読み出された後、プロセッサ10aに入力される。プロセッサ10aは、送信時刻ts1、パケット長L1、及びデータレートR1の各情報を、データパケットのデータヘッダに付加する。このデータパケットは、第1通信モジュール10fを通過した後、共用アンテナA1を介して、データレートR1で通信性能測定装置20へ送信される。通信性能測定装置20は、第1通信モジュール20fにより、上記データパケットを受信する。
S26では、通信性能測定装置20のプロセッサ20aは、S25で受信されたデータパケットのヘッダ部分から、送信時刻ts1、パケット長L1、及びデータレートR1を抽出する。すなわち、通信性能測定装置20に到達したデータパケットは、共用アンテナA2により受信された後、第1通信モジュール20fを通過してプロセッサ20aに入力される。プロセッサ20aは、データパケットのデータヘッダに記録されている送信時刻ts1、パケット長L1、及びデータレートR1の各情報を読み取り、メモリ20cに一時的に保存させる。なお、後述する性能の測定処理では、PER算出のため、受信されたデータパケットが、通信性能測定装置20のROM20dに事前に格納されている送信データパケットと同一のものであるかの比較が行われる。しかしながら、現時点では、通信性能測定装置20は、PERを算出する必要がないため、メモリ20cの空き容量が十分でない場合には、次の無線通信方式M2により通信性能測定装置10から送信されたデータパケットを受信する迄に消去するものとしてもよい。
なお、通信性能測定装置20は、S24におけるACK信号の返信後、所定時間Tss以内に、データ伝達時間測定用のデータパケットが通信性能測定装置10から受信されない場合には、通信が失敗したとみなす。その後、通信性能測定装置20は、再び、測定開始通知パケットを受信するモードに移行し、通信性能測定装置10から送信される測定開始通知パケットの受信を待機する。一方、通信性能測定装置10においても、測定開始通知パケットの送信後、所定時間Tss以内に、ACK信号の受信が検知されない場合には、通信が失敗したとみなす。その後、通信性能測定装置10は、通信性能測定装置20宛に、測定開始通知パケットを再送する。
ここで、所定時間Tssは、好適には、測定対象のデータ伝達時間Tsrn(例えば、10μs〜1ms程度)と略同一の値であるが、あくまで通信成否の指標となる閾値を与えるための時間であることから、過度に厳密である必要はない。例えば、通信性能測定装置10、20は、所定時間Tssとして、通信性能測定システム1の仕様から読み取り可能な値を用いてもよい。また、例えば、通信性能測定装置10、20は、無線通信方式Mnを用いた、最大のパケット長Lnによる実際の送信が成功した時の通信時間を事前に測定しておき、その測定値を参考にして、所定時間Tssを決定するものとしてもよい。
S27では、通信性能測定装置20の第1通信モジュール20fは、パケット長L1及びデータレートR1を用いて、通信性能測定装置10宛にデータパケットを送信する。すなわち、S25で受信されたデータパケットは、ヘッダから読み取られたパケット長L1及びデータレートR1の各情報に基づいてプロセッサ20aに転送された後、プロセッサ20aにより、データヘッダに上記送信時刻ts1が付加される。その後、データパケットは、第1通信モジュール20fを通過した後、共用アンテナA2を介して通信性能測定装置10へ送信される。通信性能測定装置10の第1通信モジュール10fは、通信性能測定装置20からデータパケットを受信する。
図4に戻り、通信性能測定装置10のプロセッサ10aは、データパケットの送信時刻ts1と受信時刻tr1とから、データ伝達時間Tsrnを測定する。すなわち、通信性能測定装置10にて受信されたデータパケットには、通信性能測定装置20への送信時にデータヘッダに付加された送信時刻ts1が含まれている。したがって、プロセッサ10aは、通信性能測定装置10が上記データパケットを受信した時刻tr1と送信時刻ts1との差分を求めることで、無線通信方式M1を用いた往復通信の所要時間を算出することができる。更に、プロセッサ10aは、この算出結果に0.5を乗算することで、データ伝達時間Tsrnを算出することができる。
なお、図6及び図4のS3では、1番目の無線通信方式である無線通信方式M1について代表的に説明したが、図6に示したS21〜S27の一連の処理は、2〜N番目の無線通信方式である無線通信方式M2〜MNについても同様に実行される。また、図4のS3に示した処理は、2〜N番目の無線通信方式を用いた場合のデータ伝達時間Tsr2〜TsrNについても同様に実行される。その結果、N個分のデータ伝達時間Tsr1〜TsrNの測定結果が得られる。なお、上述したように、Nは、通信性能測定装置10の有する全通信モジュール数を表す。したがって、プロセッサ10aは、全ての通信モジュールの個数であるNまでの分、データ伝達時間Tsr2〜TsrNを漏らさずに測定する。
各無線通信方式M2〜MNのデータ伝達時間の測定においても、無線通信方式M1と同様の再送制御が行われる。すなわち、各通信性能測定装置20、10は、ACK信号又はデータパケットの送信後、所定時間Tss2〜Tssn(サフィックスのnは、無線通信方式M2〜Mnに対応する。)内に相手の通信性能測定装置10から応答がない場合には、通信が失敗したものとみなす。そして、通信性能測定装置10は、再度、データ伝達時間の測定開始通知パケットを、通信性能測定装置20宛に送信する。
通信性能測定装置10は、全ての無線通信方式M1〜MNに対するデータ伝達時間Tsrnの測定を終了すると、現時点の伝搬環境におけるドップラ周波数fDの算出を行う。次に、図7は、性能測定処理の前半部分を説明するためのシーケンス図である。S4では、プロセッサ10aは、入力信号の電力の時間波形を観測し、その波形をフーリエ変換することで、最大ドップラ周波数fDを算出する。S5では、プロセッサ10aは、ドップラ周波数fDを基にコヒーレンス時間TCを算出する。一般的に、コヒーレンス時間TCは、ドップラ周波数fDの逆数として近似可能であることが知られている。したがって、コヒーレンス時間TCは、次式(2)により算出される。
TC≒1/fD・・・(2)
S6では、プロセッサ10aは、入力装置10bによる入力に従い、コヒーレンス時間TCに乗算する係数αに、初期値0.1を設定する。但し、αは、0<α<1を満たす値である。ここで、全ての無線通信方式M1〜MNに関する性能の測定は、コヒーレンス時間TCの何割程度の時間内に終了すべきかを検討する。通信性能測定装置10は、αの値として例えば0.1を設定すると、コヒーレンス時間TCの10%という非常に短い時間内に、PERやスループットの性能の測定を完了させることとなる。したがって、通信性能測定装置10は、伝搬環境の相違を捨象してもよい程に極めて等しい伝搬環境下において、無線通信方式の比較をしていることとなる。その結果、通信性能測定装置10は、各無線通信方式M1〜MNに対して、個々の方式の有する様々な特性の観点から、厳密な評価を行うことが可能となる。一方、αの値を増加させる程、最初に測定を行った無線通信方式M1と、最後に測定を行った無線通信方式MNとの間における伝搬環境の相違は、増大する。但し、αは1未満の値であることから、αの値を増加させても、S6での設定時間がコヒーレンス時間TCを超えることはない。このため、αの大小が、性能の測定処理自体に支障を来すことはなく、通信性能測定装置10は、αの値に拘らず、無線通信方式の評価を行うことができる。
以降、通信性能測定装置10は、S3にて得られたデータ伝達時間Tsrnの測定値を用いて、全ての無線通信方式M1〜MNによる通信の合計時間がコヒーレンス時間TCよりも短い時間となる様に、各無線通信方式M1〜MNに応じたパケット長及びデータレートを決定する。通信性能測定装置10は、性能の測定を行うために、各無線通信方式M1〜MNを用いて、通信性能測定装置20との間で、データパケットを往復させる。これにより、通信性能測定装置10、20間において、合計2N回のパケット送受信が行われることとなる。したがって、全ての無線通信方式につきデータパケットの送受信が完了する迄に要する時間は、それぞれのデータ伝達時間Tsrnを用いて、以下の算定式(3)により表すことができる。
なお、上記式(3)において、nは自然数であり、Nは、通信性能測定装置10、20の対応する無線通信方式の数(nの最大値)である。また、本実施例では、通信性能測定装置10は、通信モジュール通過と空間伝搬との合計時間T0nを直接測定することなく、データ入出力のための時間を含んだデータ伝達時間Tsrnを測定の対象とするものとした。したがって、以降の説明においては、パケット長Ln及びデータレートRnによるデータ伝達時間Tsrnへの寄与を明確にするため、これらの値(Ln、Rn)をパラメータとして含む算定式を用いることとする。
このとき、全ての無線通信方式M1〜MNによる通信が、伝搬環境が時間変動の影響を受けることなく略一定とみなせる程度に短い時間内に完了したとみなすためには、上記数式(3)とコヒーレンス時間TCとの関係が、次式(4)を満たす必要がある。
なお、上述したように、0<α<1である。通信性能測定装置10がαを小さい値に設定する程、無線通信方式毎の時間方向の伝搬環境は互いに近似することから、伝搬状態の同一性は確保され易くなる。しかしながら、その一方で、無線通信方式毎に利用可能なパケット長LnとデータレートRnとの組合せの範囲では、上記式(4)を満たせなくなる可能性が高くなる。
上述したように、コヒーレンス時間TC自体は、ドップラ周波数fDから近似的に算出される固定的な値であるが、係数αの乗算により、伝搬環境の変動状況に応じて、適宜、可変的に調整を図ることができる。すなわち、無線チャネル状態の変動が激しい環境では、各無線通信方式の性能測定時における伝搬環境の差が大きくなることから、通信性能測定装置10は、測定精度を維持するために、コヒーレンス時間TCを短くとる。これに対して、無線チャネル状態が安定している通信環境では、各無線通信方式の性能測定時における伝搬環境の差は小さくなる。したがって、通信性能測定装置10は、コヒーレンス時間TCを多少長くとっても、伝搬環境の変化が測定精度に与える悪影響を低減(抑制または排除)することができる。
図7のS7では、通信性能測定装置10のプロセッサ10aは、初期値として設定されているα=0.1を上記式(4)に代入することで、各無線通信方式M1〜MNにおけるパケット長LnとデータレートRnとの組合せが、上記算定式(4)を満たすか否かを判定する。当該判定の結果、上記組合せが算定式(4)を満たす場合(S7;Yes)、後述するS10に移行する。これに対して、上記判定の結果、上記組合せが算定式(4)を満たさない場合(S7;No)、S8に移行し、プロセッサ10aは、係数αの増加が可能であるか否かの判定を行う。この判定は、性能の測定につき、如何なる程度の測定精度が要求されるかに基づいて行われる。
上記判定の結果、係数αの増加が許されない場合(S8;No)、換言すればα(=0.1)の制限を緩和することができない場合には、S9に移行し、プロセッサ10aは、αの初期設定を厳守するため、再び上記式(4)を参照する。S9では、係数αの増加は不可であるので、プロセッサ10aは、変更の対象をαからLn、Rnに切り替えて、上記式(4)を満たすLn、Rnの組合せを探索する。
ここで、パケット長Ln及びデータレートRnを探索する手法として、通信性能測定装置10は、以下に説明する手法を採ることができる。すなわち、プロセッサ10aは、まず、無線通信方式M1のデータレートR1を一段階高速なレートに変更する。式(4)が満たされれば、プロセッサ10aは、式(4)に代入するデータレートR1として、変更後のデータレートを採用するが、式(4)が満たされない場合、無線通信方式M2のデータレートR2を一段階高速なレートに変更した後、式(4)の成否を再び確認する。式(4)が満たされない場合には、プロセッサ10aは、更に次の無線通信方式のデータレートを一段階高速なレートに変更していく。その結果、無線通信方式MN迄のデータレートRNを一段階ずつ高速のレートに変更してもなお、依然として式(4)が成立しない場合、最初の無線通信方式M1に戻り、プロセッサ10aは、無線通信方式M1のデータレートR1を更に一段階高速なレートに変更する。以降も、プロセッサ10aは、各無線通信方式のデータレートを一段階ずつ上昇させていく。そして、上記一連の処理を繰り返し実行した結果、全ての無線通信方式M1〜MNが最速のデータレートとなってもなお、式(4)の関係に立たない場合には、プロセッサ10aは、データレートRnの増加を停止させ、パケット長Lnの短縮化を試行する。
すなわち、プロセッサ10aは、データレートRnの増加と同様の手法で、各無線通信方式M1〜MNのパケット長Lnを、一段階ずつ順次短縮させていく。データレートRnにつき、プロセッサ10aは、例えば、数百kbps〜1Mbpsの範囲内で、百kbpsずつ増加させていくことができる。また、パケット長Lnにつき、プロセッサ10aは、例えば、100ビット〜1キロビットの範囲内で、100ビットずつ短縮させていくことができる。
ここで、S9において、プロセッサ10aは、データレートRnを増加させた後に、パケット長Lnを短縮させる制御を行う。これにより、PERの値の信頼性が確保される。すなわち、PERやBERの測定時には、パケット長Lnが長い程、PERやBERの算出に用いられるサンプル数が多いこととなり、その値の信憑性が高くなる。そこで、プロセッサ10aは、データレートRnの増加を、パケット長Lnの短縮よりも優先させることで、従前のパケット長Lnをできる限り維持し、パケット長Lnが減少するのを極力回避する。その結果、通信性能測定装置10は、より信頼性の高いPERの値を得ることが可能となる。
S9では、プロセッサ10aは、上述の手法により、各無線通信方式M1〜MNのパケット長LnとデータレートRnとの組合せの中から、式(4)を満たす組合せを探索する。当該探索の結果、代替可能なLn、Rnの組合せが存在した場合(S9;Yes)、後述するS10に移行し、プロセッサ10aは、それらの値を用いて、各種性能の測定を開始する。一方、探索の結果、代替可能なLn、Rnの組合せが存在しない場合(S9;No)には、後述するS13(図10参照)に移行する。そして、プロセッサ10aは、上述の手法と同様の手法により、更に別の条件式(7)を満たすLn、Rnの組合せの存否を判定する。
以下、図8、図9を参照しながら、S7又はS9における判定の結果が肯定であった場合に実行されるS10の処理について説明する。図8は、往復データパケット送受信処理の前半部分を説明するためのシーケンス図である。図8に示す通信性能測定装置10、20の動作は、前提処理として図6に示した動作と同様のステップを含むため、共通するステップには、末尾が同一の参照符号を付すと共に、その詳細な説明は省略する。具体的には、図8のステップS101〜S104は、図6に示したステップS21〜S24にそれぞれ対応する。
S105では、通信性能測定装置10は、消費電力測定装置10hにより、データパケットの送受信に伴って消費される電力の測定を開始する。一方、通信性能測定装置20においても、消費電力測定装置20hは、通信性能測定装置20の装置内回路を全てアクティブにした上で、通信時消費電力の測定を開始する(S106)。
S107では、通信性能測定装置10は、通信性能測定装置20宛に、性能測定用のデータパケットを送信する。データパケットの送信は、上述のS3(図4参照)で測定されたデータ伝達時間Tsr1に基づいて決定されたパケット長L1とデータレートR1とによって行われる。このとき、プロセッサ10aは、送信時刻ts1-1、パケット長L1、及びデータレートR1の各情報を、送信対象のデータパケットのデータヘッダに付加する。なお、送信時刻ts1-1に付されたサフィックスは、送信(send)が、1番目の無線通信方式M1を用いて、通信性能測定装置10から行われたことを表す。
S108では、通信性能測定装置20のプロセッサ20aは、S107で受信されたデータパケットのヘッダ部分から、パケット長L1及びデータレートR1を抽出する。また、プロセッサ20aは、これらの情報を、データパケットの送受信時刻ts1-2、tr1-1及び受信されたデータパケットと共に、メモリ20cに一時的に保存させる。なお、受信時刻ts1-1に付されたサフィックスは、受信(receive)が、1番目の無線通信方式M1を用いて、通信性能測定装置10により行われたことを表す。
S107、S108にて実行される一連の処理は、送信側と受信側を反対として、S109、S110においても同様に実行される。すなわち、通信性能測定装置10のプロセッサ10aは、通信性能測定装置20からのデータパケットの受信を契機として、当該データパケットから、パケット長L1とデータレートR1とを抽出し、送受信時刻及び受信データパケットの各情報と共に、メモリ10cに保存させる。S109において、通信性能測定装置10へのデータパケットの送信が完了すると、通信性能測定装置20は、RFインタフェースの入力を、従前の無線通信方式M1から無線通信方式M2に切り替える。その後、各通信性能測定装置10、20は、S105、S106にてそれぞれ開始された、消費電力測定装置10h、20hによる消費電力の測定を終了する(S111、S112)。上記一連の通信中に消費された電力の測定結果は、ログデータとして、各装置のメモリ10c、20cに格納される。
S111において、消費電力の測定が終了すると、通信性能測定装置10は、RFインタフェースの入力を、従前の無線通信方式M1から無線通信方式M2に切り替える。
以上、最初の無線通信方式である無線通信方式M1に関して実行される往復データパケット送受信処理について説明したが、2番目以降の無線通信方式M2〜MNについても同様に、パケット送受信処理が実行される。図9は、往復データパケット送受信処理の後半部分を説明するためのシーケンス図である。図9に示す通信性能測定装置10、20の動作は、S207、S213、及びS214を除き、図8に示した動作と同様である。したがって、共通するステップには、末尾が同一の参照符号を付すと共に、その詳細な説明は省略する。具体的には、図9のステップS201〜S212は、図8に示したステップS101〜S112にそれぞれ対応する。
図8との相違点として、S207では、通信性能測定装置10は、通信性能測定装置20宛に、性能測定用のデータパケットを送信する。データパケットの送信は、上述のS3(図4参照)で測定されたデータ伝達時間Tsr2に基づいて決定されたパケット長L2とデータレートR2とによって行われる。このとき、プロセッサ10aは、送信時刻ts2-1、パケット長L2、及びデータレートR2の各情報を、送信対象のデータパケットのデータヘッダに付加する。また、S207では、通信性能測定装置20は、通信性能測定装置10からデータパケットを受信するが、データパケットの送信時(図8のS109)から上記所定時間Tss以内に、次のデータパケットを正常に受信できなかった場合、待機状態に移行する。
なお、図8では、1番目の無線通信方式である無線通信方式M1によるデータパケット送受信処理について代表的に説明した。また、図9では、2番目の無線通信方式M2によるデータパケット送受信処理について説明した。S101〜S112の一連の処理は、3〜n番目の無線通信方式である無線通信方式M3〜Mnについても同様に実行される。また、各通信性能測定装置10、20がデータパケットを送受信する過程で、データパケットの送信時から上記所定時間Tssが経過する前に、相手の通信性能測定装置からの応答が得られない場合、性能測定処理は失敗したとみなされる。同時に、各通信性能測定装置10、20はリセットされ、性能測定処理は、測定開始通知パケットの送受信(図8のS103)から再開される。
全ての無線通信方式に関して、データパケット送受信処理が終了すると、各通信性能測定装置10、20は、それぞれのプロセッサ10a、20aにより、PER及びスループットを無線通信方式毎に算出する(S213、S214)。すなわち、プロセッサ10aは、ROM10d内の通信性能測定用プログラムを実行する。プロセッサ10aは、S110、S210でメモリ10cに保存された受信データパケットと、ROM10d内に予め格納されている、通信性能測定装置20から送信されたものと同じデータパケットとを比較することにより、PER及びスループットを算出する。
通信性能測定装置10、20においては、同一のデータパケットがROM10d、20dに格納されている。このため、各通信性能測定装置10、20は、データパケットの受信時に、ヘッダに記録されているパケット長Lnの情報を参照し、受信されたデータパケットと自装置の有するデータパケットとの比較を行うことで、PERの値を算出する。PER値の算出処理は、無線通信方式の種別を問わず、各通信性能測定装置10、20がデータパケットを受信する都度、実行される。
PER及びスループットの算出結果は、ログデータとしてメモリ10cに格納される。PER及びスループットの算出及び格納処理は、通信性能測定装置20においても同様に実行される。メモリ10c、20cを着脱可能なメモリ(例えば、SDカード)とすれば、ログデータの可搬性が向上する。また、各通信性能測定装置10、20にログデータ用のインタフェースを設けることで、該インタフェースを介した、メモリ内のログデータの取得が可能となる。
なお、上述した性能測定処理では、上述したデータ伝達時間測定処理とは異なり、性能測定の精度を維持する観点から、データパケットの通信中は不要な演算処理を極力省略することが好ましい。したがって、通信性能測定システム1は、PERやスループットの計算を、性能測定中には実行せず、受信データパケットを、他の情報(パケット長Ln、データレートRn、及び送受信時刻)と併せて、受信側の通信性能測定装置のメモリに格納しておく。そして、N個の無線通信方式全てについて性能測定が完了した時点で、各通信性能測定装置10、20は、プロセッサ10a、20aとメモリ10c、20c、ROM10d、20d内の情報とを用いて、性能を測定する。このため、送信側の通信性能測定装置は、データパケットをメモリから読み出す際、実際のパケット長Lnよりも、パケット長Ln、データレートRn、及び送信時刻tsnの各情報の分だけ、データパケットを短くしておく必要がある。これら各情報は、プロセッサ10a、20aによりデータヘッダとして付加されるため、各通信性能測定装置10、20から送出されるデータパケットのパケット長は、結果としてLnとなる。
また、通信性能測定装置10は、性能測定処理に先立ち、データ伝達時間測定処理を実行することで、全ての無線通信方式に関する測定を終えても、データパケットの送受信に要する時間が充分に小さくなるように、パケット長Ln及びデータレートRnを調整するものとした。しかしながら、通信性能測定装置10が、性能測定に際してデータパケットの送受信時刻を測定した結果、データパケットの送受信に伴う実際の所要時間がコヒーレンス時間TCよりも充分に小さいという条件が満たされないことがある。当該条件が満たされないことが判明した場合、通信性能測定装置10は、αの値を0.1よりも多少大きな値(例えば、0.2)に変更して、性能測定に要する合計時間に係る上記条件を緩和することが望ましい。この場合、通信性能測定装置10は、再び、データ伝達時間測定処理を実行し、その後に改めて、上述の性能測定処理を実行することとなる。
図7に戻り、S8における判定の結果、係数αの増加が可能な場合(S8;Yes)、換言すればαの制限を緩和することができる場合には、通信性能測定装置10のプロセッサ10aは、以下の算定式(5)の成否を判定する(S11)。
なお、αの値の緩和に関し、本実施例では、初期値のα=0.1からα=0.5に変更する態様を例示したが、緩和の程度は、必ずしも0.5でなくてもよく、0.1<α<1を満たす値であればよい。反対に、ユーザが厳密な測定結果を必要とする場合には、通信性能測定装置10は、αの値を初期値よりも小さい値(例えば、0.05)に再設定することで、より厳格な条件の下での性能測定が可能となる。その結果、伝搬環境の変化の影響は無視し得る程低減されることとなり、測定結果の信頼性は更に向上する。
S11における判定の結果、算定式(5)が成立しない場合(S11;No)、全ての無線通信方式M1〜MNにおける通信時の伝搬環境が略同一であるという条件設定は、初期状態(α=0.1)よりも軽減されているものの、依然としてコヒーレンス時間TCの半分以下である。このため、上記式(5)の条件を満たせば、プロセッサ10aは、全ての無線通信方式M1〜MNの性能測定に対し、概ね同一の伝搬環境を提供することができるものと判断する。したがって、S10に移行して、通信性能測定装置10は、各無線通信方式毎に、性能の測定を開始する。
しかしながら、αの値が大き過ぎると、無線通信方式間での伝搬環境の相違が小さいという仮定が成り立たなくなる恐れがある。そこで、S11において条件式(5)が成立する場合(S11;Yes)、プロセッサ10aは、αの値を更に増加させる制御は行わず、データパケットの送受信に掛かる時間を減少させる制御を行う。すなわち、周辺環境の時間的変動が大きいとドップラ周波数fDの値が上昇し、コヒーレンス時間TCが短くなる。このため、通信性能測定装置10は、各無線通信方式M1〜MNによる合計N往復の通信に対して測定を行った場合、かかるN往復分の通信に要する時間が上記コヒーレンス時間TCの半分を超えてしまい、略同一の伝搬環境の下で測定を行ったとは見做せない状況が想定される。
そこで、上記式(5)が成立する場合には、図10のS12に移行する。すなわち、通信性能測定装置10は、データパケットの送受信に掛かる時間を短縮すべく、往路では、無線通信方式Mnによる通信を行い、復路では、無線通信方式Mn+1による通信を行う。通信性能測定装置10は、上述の様な簡略的な手法を採ることで、片道分のデータパケットの送受信に対する性能測定を実現する。これにより、データパケットの送受に必要な合計時間は短縮され、コヒーレンス時間TCの半分以下となる可能性が高まる。したがって、S12では、プロセッサ10aは、短縮されたデータ通信時間がコヒーレンス時間TCの半分以下であるか否かの判定を行う。この判定は、上記算定式(5)において、Σ内の項の係数を従前の2から1に変更することで実現される。S12では、プロセッサ10aは、下記条件式(6)の成否を判定する。
S12における判定の結果、上記式(6)が成立する場合(S12;Yes)には、次のS13に移行し、不成立の場合(S12;No)には、後述のS14に移行する。
S13では、通信性能測定装置10は、現状のパケット長LnとデータレートRnとでは、片道分ずつの測定を行ってもなお、伝搬環境が略同一といえる状況での測定は困難であると判断し得ることから、Ln、Rnの代替値を検索する。すなわち、通信性能測定装置10は、データパケットの送受信に要する時間を短縮すべく、下記条件式(7)を成立させるために変更させるパラメータを、係数αからパケット長LnとデータレートRnとの組合せに切り替える。
なお、条件式(7)では、αの値は、式(6)に倣い0.5に設定されるが、0<α<1の範囲内で、任意の値を採ることもできる。
S13におけるLn、Rnの代替値の検索手法は、S9の説明において上述した手法と同様である。したがって、詳細な説明は省略するが、プロセッサ10aは、データレートRnの高速化、パケット長Lnの短縮化の順に設定値を検索する。また、データレートRnの高速化に際しては、プロセッサ10aは、1番目の無線通信方式M1から昇順に、各無線通信方式のデータレートRnを1段階(例えば、百kbps)ずつ上昇させていき、上昇の都度、上記式(7)の成否を確認する。全ての無線通信方式につき1段階上昇させてもなお式(7)が成立しない場合には、プロセッサ10aは、最初の無線通信方式M1に戻り、再び無線通信方式の昇順に、2段階目の上昇を繰り返す。そして、プロセッサ10aは、全ての無線通信方式につき、データレートRnを上限値(例えば、1Mbps)まで上昇させても、依然として式(7)が成立しない場合に初めて、パケット長Lnの短縮を試みる。
パケット長Lnの短縮化に際しても、データレートRnの高速化と同様の手法が用いられる。すなわち、プロセッサ10aは、1番目の無線通信方式M1から昇順に、各無線通信方式のパケット長Lnを1段階(例えば、100ビット)ずつ減少させていき、減少の都度、上記式(7)の成否を確認する。全ての無線通信方式につき1段階減少させても式(7)が成立しない場合には、プロセッサ10aは、最初の無線通信方式M1に戻り、再び無線通信方式の昇順に、2段階目の減少を繰り返す。そして、プロセッサ10aは、全ての無線通信方式につき、パケット長Lnを下限値(例えば、100ビット)まで減少させてもなお、依然として式(7)が成立しない場合(S13;No)には、性能測定処理を終了する。
ここで、上述したように、図7のS9において、上記式(4)を満たすLn、Rnの組合せが不存在の場合(S9;No)にも、図10のS13が実行されるが、この場合には、コヒーレンス時間TCの条件は緩和されない。したがって、α=0.1のまま、上記式(7)を満たす組合せの存否が判定されることとなる。
S13において、上記式(7)を満たす代替のパケット長Ln及びデータレートRnの組合せが存在しない場合(S13;No)には、如何なるパラメータの設定値を採っても、伝搬環境が略一定とみなせる程度に短い時間内でのパケット送受信が不可能であるとの判断が可能である。換言すれば、伝搬環境の時間的変動が激しく、ドップラ周波数fDが著しく大きいことから、コヒーレンス時間TCが極めて小さいことが推測される。このため、現状では、無線通信方式M1〜MN間の性能比較が不可能な状態にあるとの判断が可能である。したがって、この場合には、通信性能測定装置10は、上記一連の性能測定処理を中断するものとしてもよい。そして、伝搬環境の改善によるコヒーレンス時間TCの増加を待機する、伝搬環境が良好な場所に移動する、あるいは、通信性能測定装置10、20間の距離を小さくする等の措置をとるものとしてもよい。また、通信性能測定装置10は、性能の測定対象となる無線通信方式の数を減少(例えば、2つの無線通信方式)させた上で性能測定処理を再開させることによっても、測定不能な状態を回避することができる。
なお、データ伝達時間Tsrの測定処理(図4〜図6参照)に関しても同様に、通信性能測定システム1は、伝搬環境の変動状況に応じて、データ伝達時間測定処理の実行の要否を決定することができる。すなわち、システムの位置する伝搬環境が安定している場合には、通信性能測定システム1は、性能測定処理の実行に先立ち、データ伝達時間測定処理を頻繁に実行する必要はない。これに対して、通信性能測定システム1が、伝搬環境の時間的変動が激しくドップラ周波数fDが大きい場所に設置されている場合には、性能測定処理を実行する度に、その前提処理となるデータ伝達時間測定処理を実行することが望ましい。また、通信性能測定システム1の設置場所が変わった場合、あるいは、通信性能測定装置10、20間の距離が変化した場合にも、通信性能測定システム1は、その都度、性能測定処理の事前処理として、データ伝達時間測定処理を実行することが推奨される。
上記S13における判定の結果、上記式(7)を満たす代替のパケット長Ln及びデータレートRnの組合せが存在する場合(S13;Yes)には、上記S12;Noの場合と同様に、通信性能測定装置10は、S14の処理を実行する。上述のS10では、通信性能測定システム1は、各無線通信方式毎にデータパケットを往復させて性能を測定するものとした。これに対して、S14では、通信性能測定システム1は、より短いコヒーレンス時間TCに対応するため、片道でのデータパケットの送受信から、各無線通信方式の性能を測定する。したがって、データパケットが通信性能測定装置10、20間を1往復することにより、往路と復路とにおいて1方式ずつ、計2つの無線通信方式の性能測定が可能となる。以下、図11、図12を参照しながら、S14の処理について詳述する。
図11は、片道データパケット送受信処理の前半部分を説明するためのシーケンス図である。図11に示す通信性能測定装置10、20の動作は、図8に示した動作と同様のステップを複数含むため、共通するステップについては、その詳細な説明は省略する。具体的には、図11のステップS141〜S148は、図8に示したステップS101〜S108にそれぞれ対応する。また、図11のステップS149、S150は、図8に示したステップS111、S112にそれぞれ対応する。図11のステップS151、S152は、図8に示したステップS105、S106にそれぞれ対応する。更に、図11のステップS153、S154は、図8に示したステップS101、S102にそれぞれ対応する。
図12は、片道データパケット送受信処理の後半部分を説明するためのシーケンス図である。図12に示す通信性能測定装置10、20の動作は、図9に示した動作と同様のステップを複数含むため、共通するステップについては、その詳細な説明は省略する。具体的には、図12のステップS155〜S158は、図9に示したステップS209〜S212にそれぞれ対応する。また、図12のステップS159、S160は、図9に示したステップS205、S206にそれぞれ対応する。図12のステップS161、S162は、図9に示したステップS201、S202にそれぞれ対応する。更に、図12のステップS163、S164は、図9に示したステップS213、S214にそれぞれ対応する。
以下においては、通信性能測定装置10、20の実行する片道データパケット送受信処理を、上述した往復データパケット送受信処理との相違点を中心として説明する。図8のS107では、通信性能測定装置10が性能測定用データパケットの送信を行う際、送信時刻ts1-1、パケット長L1、及びデータレートR1の各情報を、データヘッダに付加するものとした。これに対して、図11のS147では、通信性能測定装置10が性能測定用データパケットの送信を行う際、上記各情報に加えて、通信性能測定装置20から返信されるデータパケットの送信時刻ts2-2、パケット長L2、及びデータレートR2の各情報をヘッダに付加する。
同様に、S155では、通信性能測定装置10のプロセッサ10aは、S155で受信されたデータパケットのヘッダ部分から、パケット長L1、L2及びデータレートR1、R2を抽出する。また、プロセッサ10aは、これらの情報を、データパケットの送受信時刻ts2-2、tr2-1及び受信されたデータパケットと共に、メモリ10cに一時的に保存させる。なお、受信時刻tr2-1に付されたサフィックスは、受信(receive)が、2番目の無線通信方式M2を用いて、通信性能測定装置10により行われたことを表す。
これにより、通信性能測定装置10は、往路においてのみ用いられる無線通信方式M1の性能測定のみならず、復路においてのみ用いられる無線通信方式M2の性能測定を可能とする。したがって、通信性能測定システム1は、1往復分のデータパケットの送受信により、2つの無線通信方式Mn、Mn+1の性能測定結果を得ることができる。通常、1往復分のパケット通信に要する時間は、2往復分のパケット通信に要する時間よりも短いため、コヒーレンス時間TCよりも充分に短い時間となる可能性が高くなる。このため、通信性能測定装置10が、伝搬環境の時間的変動の少ない時間内に、異なる複数の無線通信方式の性能を測定することができる状況が増える。その結果、通信性能測定システム1の柔軟性、ひいては伝搬環境適応性が向上する。
以上説明したように、通信性能測定システム1は、通信性能測定装置10と通信性能測定装置20とを有する。通信性能測定装置10は、パラメータ設定部11と第1通信モジュール14と第2通信モジュール15とパケット受信成功率測定部13とを有する。パラメータ設定部11は、伝搬環境Eが一定とみなすことのできる所定時間(コヒーレンス時間TC)と、通信性能測定装置20とのデータ送受信に要することが推定される時間(推定所要時間)とを算出する。第1通信モジュール14と第2通信モジュール15とは、上記所要時間が上記所定時間を下回った場合に、第1の無線通信方式(Bluetooth)及び第2の無線通信方式(ZigBee)により、通信性能測定装置20との間でデータを送受信する。パケット受信成功率測定部13は、上記データを用いて、上記第1の無線通信方式の性能及び上記第2の無線通信方式の性能を測定する。通信性能測定装置20は、第1通信モジュール24と第2通信モジュール25とを有する。第1通信モジュール24と第2通信モジュール25とは、上記第1の無線通信方式及び上記第2の無線通信方式により、通信性能測定装置10との間で上記データを送受信する。また、通信性能測定装置10において、パケット生成部12は、上記所要時間が上記所定時間を下回るように、上記データのデータ長またはデータレートを変更するものとしてもよい。更に、通信性能測定装置10において、パケット生成部12は、上記データレートを増加させた後、上記所要時間が上記所定時間を下回らない場合に、上記データのデータ長を減少させるものとしてもよい。
これにより、通信性能測定装置10は、複数の無線通信方式(例えば、Bluetooth、Zigbee)によるデータ送受信に要する時間がコヒーレンス時間TC内に収まるように、パケット長Ln、データレートRn、及び係数αの各値を調整する。通信性能測定装置10は、調整の結果、コヒーレンス時間TC内にデータパケットの送受信が完了することが判明した場合には、伝搬環境の経時変化が性能測定結果に与える影響を排除可能と判断する。そして、そのデータパケットを、通信性能測定装置20宛に送信する。一方、通信性能測定装置10は、調整の結果、コヒーレンス時間TC内にデータパケットの送受信が完了しないことが判明した場合には、伝搬環境の変化が測定結果の精度に影響を与え、無線通信方式間で公平な測定を行うことができないものと判断する。このため、通信性能測定装置10は、データパケットの送信を行わず、コヒーレンス時間TC内にデータパケットの送受信が完了する状態となるまで待機する。
換言すれば、通信性能測定システム1は、伝搬環境が一定とみなせる程短い時間(コヒーレンス時間TC)内に、共用アンテナA1、A2を用いて、複数の無線通信方式によるデータ通信を時分割に行うことで、伝搬環境の変動が測定結果に与える影響を排除する。したがって、通信性能測定システム1は、伝搬環境の変化の影響を受けることなく、各無線通信方式に公平な同一条件の下で、無線通信方式の性能を測定することができる。その結果、高精度な測定結果が得られる。更に、通信性能測定システム1は、この測定結果を用いて、各無線通信方式の性能評価、あるいは無線通信方式間の性能比較を行うものとすれば、各無線通信方式の特性や伝搬環境の相違に応じた、より信頼性の高い情報をユーザに提供することが可能となる。その結果、通信性能測定システム1の利便性が向上する。
本実施例に係る通信性能測定装置10の用途としては、PER、消費電力、スループット等の実測による、無線通信方式の厳密な比較が必要となる場合が好適である。特に、通信性能測定装置10は、異なる規格の通信機器のプロトコルやPHYの違いがPER、消費電力、スループットに及ぼす影響を、同一の伝搬環境において実測により厳密に評価したい場合(例えば、極限を追求する研究用途)への適用が効果的である。
本実施例に係る通信性能測定装置10の更なる効果として、通信性能測定装置10は、無線通信方式の性能として、複数の性能の測定結果(例えば、PER、消費電力、スループット)を出力可能であることから、各性能に適した伝搬環境を検索可能であることが挙げられる。すなわち、通信性能測定装置10は、各性能の測定結果に基づき、無線通信方式間の優劣を決定することができるのみならず、例えば、信頼性に関しては、伝搬環境Eよりも伝搬環境Fの方が良好なPER値を示すという様に、伝搬環境間の優劣を評価することもできる。また、例えば、伝搬環境毎に消費電力が有意に異なる測定結果が得られた場合には、省電力化の観点から、ユーザは、消費電力の低い伝搬環境に移動した上で、より消費電力の低い無線通信方式による通信を行うのが好ましいとの判断が可能となる。更に、スループットを最優先したい場合には、ユーザは、各性能と各伝搬環境とのマトリックスから、スループットが最大値をとる環境において、よりスループットの高い無線通信方式を選択すれば、そのユーザにとって最適な環境で無線通信を行うことができる。このように、本実施例に係る通信性能測定装置10によれば、無線通信方式間の優劣は元より、伝搬環境間の優劣をも考慮して、何れの通信環境が最適な通信環境であるかを把握することができる。したがって、通信性能測定装置10は、その結果を基に、より良い状態での通信をユーザに提供することが可能となる。
上述したように、通信性能測定装置10は、データパケット通信の所要時間とコヒーレンス時間TCとの大小関係を調整するためのパラメータとして、少なくとも3種類の数値(パケット長Ln、データレートRn、及び係数α)を利用することができる。通信性能測定装置10は、これらのパラメータによる調整を図る際、αを増加可能な場合には、パケット長やデータレートよりも係数αを優先的に変更する(S8、S13)。また、上述の優先順位と併せて、上記大小関係の調整は、係数αの増加、データレートの増加、パケット長の減少の順に行うのが好ましい。これにより、通信性能測定装置10は、データパケットに設定されている既存の特性を変更することなく、各無線通信方式の性能を測定することができる。その結果、データ特性の変更に伴う処理量が低減され、処理負荷の増加が抑制される。
また、通信性能測定装置10、20は、データパケットの送受信に際し、適用される無線通信方式の種類を問わず、各装置に実装された共用アンテナA1、A2を使用する。つまり、データパケットは、無線通信方式毎に同一のアンテナを用いて送受信される。このため、各無線通信方式の性能の測定結果に、アンテナの種類(形状や構造)や特性に起因する差異や優劣が生じることはない。すなわち、通信性能測定システム1は、伝搬環境の相違による影響のみならず、アンテナの相違による影響(有利不利)も排して、異なる無線通信方式間の性能比較を公平に行うことができる。したがって、より精度の高い性能比較を行うことが可能となる。その結果、通信性能測定システム1の信頼性が向上する。
なお、上記実施例では、無線通信方式の性能比較を行うための通信性能測定装置として、試験・研究専用の測定装置を想定したが、これに限らず、例えば、携帯電話、スマートフォン、PDA(Personal Digital Assistant)等の移動局を通信性能測定装置として用いることもできる。その際、図2に示した第1及び第2通信モジュール14、15(図3に示した第1及び第2通信モジュール10f、10g)を通信性能測定装置10から着脱可能とすることで、上記実施例に係る通信性能測定技術の移動局への適用が容易となる。すなわち、上述した第1及び第2通信モジュール10f、10gは、それぞれCPU10f−1、10g−1、RAM10f−2、10g−2、ROM(図示せず)を有し、各々独立に完結した、Bluetooth、ZigBee等の無線通信モジュールである。上記実施例では、通信性能測定装置10は、2つの通信モジュール10f、10gを内蔵するものとした(図3参照)が、これらの通信モジュール10f、10gは、単なるRF回路ではなく、それぞれモジュールとして独立している。したがって、各通信モジュールは、その個数に拘らず、コネクタ等の各種インタフェースを介して、外付け及び着脱が可能な態様を採ることができる。
以下、図13を参照して、上述の変形態様に係る通信性能測定装置のハードウェア構成を説明する。図13は、外部インタフェースを有する通信性能測定装置のハードウェア構成を示す図である。変形態様に係る通信性能測定装置は、上記実施例に係る通信性能測定装置10と共通する構成部分を複数有する。したがって、共通する構成部分には、同一の参照符号を用いると共に、その詳細な説明は省略する。通信性能測定装置10は、プロセッサ10aと入力装置10bとメモリ10cとROM10dと表示装置10eと消費電力測定装置10hとに加えて、外付けの通信モジュール(図示せず)を接続するための外部インタフェースを有する。外部インタフェースは、例えば、無線通信システム用デジタルインタフェース10i−1〜Nと、無線通信システム用電源インタフェース10j−1〜Nと、共用アンテナA1を有する無線通信システム用RFインタフェース10k−1〜Nとを含む。外部インタフェースは、Bluetooth及びZigbeeの各無線通信方式に対応した第1及び第2通信モジュール10f、10g接続用に、少なくとも2系統分設けられる。なお、かかる態様では、図3に示したアンテナA1切替え用のアナログスイッチSW2は、上記無線通信システム用RFインタフェースにおける入力選択機能によって代替される。
上述の変形態様に係る通信性能測定装置10においても、各通信モジュール10f、10gは、必ずしも双方が着脱可能である必要はなく、何れか一方の回路が着脱可能であればよい。更に、通信性能測定装置10がn個(nは2以上の整数)の通信モジュールを実装する場合には、実装された通信モジュールの内、少なくとも1つが着脱可能であればよい。これにより、通常は複数の通信モジュール10f、10gを装置内に実装することなく1つの無線通信方式にのみ対応している移動局を、上記実施例に係る通信性能測定装置10として用いることが可能となる。その結果、通信性能測定装置10の装置構成の柔軟性が増すと共に、汎用性が向上する。
また、上記実施例では、通信性能の評価の対象となる無線通信方式として、2.4GHzの周波数帯域を用いるBluetooth、ZigBeeを例示したが、これらに限るものではない。評価対象の無線通信方式は、例えば、BAN(Body Area Network)、PAN(Personal Area Network)、LTE(Long Term Evolution)、3G(Generation)、WiFi(登録商標)等の無線LAN(Local Area Network)、赤外線通信であってもよく、これらの組合せについても、任意の組合せが可能である。また、通信性能測定システム1が評価の対象とする無線通信方式の数についても、2種類である必要はなく、3種類以上であってもよい。
更に、上記実施例では、各無線通信方式の性能として、PER、消費電力、スループットを例示した。しかしながら、各無線通信方式の性能を表すパラメータは、これらに限らず、伝送遅延、BER(Bit Error Rate)、FER(Frame Error Rate)を、各無線通信方式に対する性能評価の指標として用いてもよい。
また、通信性能測定装置10は、無線通信方式間あるいは伝搬環境間の優劣を決定する際、測定結果としての各性能(例えば、PER、消費電力、スループット)を、必ずしも各々独立して使用する必要はない。例えば、通信性能測定装置10は、各性能を、所定の算定式に基づいて評価値に換算し、その結果得られた評価値の和が最大の無線通信方式を、その伝搬環境において最良の無線通信方式として選択するものとしてもよい。その際、通信性能測定装置10は、各性能の換算結果である各評価値に所定の係数を乗算することで、重み付けを行うものとしてもよい。これにより、通信性能測定装置10は、各性能の特徴が十分に反映された、より精度の高い優劣の判断結果を得ることができる。その結果、通信性能測定装置10の信頼性が向上する。
なお、データパケットの送受信に掛かる時間(所要時間)は、あくまで、プロセッサ10aが上記算定式(3)〜(7)に基づいて算出した推定の所要時間である。このため、通信性能測定装置10が、通信性能測定装置20との間で、データパケットの送受信を実行した結果、実際の所要時間(実測値)が推定の所要時間(推定値)を上回ると共に、実際の所要時間がコヒーレンス時間TCを超えてしまうケースも想定される。この場合、データパケットの送受信が、伝搬環境の変動を無視し得る程十分に短い時間内に完了されなかったこととなる。その結果、通信性能測定装置10において、伝搬環境の変動の影響が直接的に反映された不正確な測定結果が得られる可能性がある。この場合には、通信性能測定装置10は、得られた性能測定結果(PER、消費電力、スループット)の一部又は全部を破棄するものとしてもよい。これにより、通信性能測定装置10は、不要なデータを保持することなく、メモリ10cの使用容量を節減することができる。
更に、図2に示した通信性能測定装置10の各構成要素は、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の具体的態様は、図示のものに限らず、その全部又は一部を、各種の負荷や使用状況等に応じて、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することもできる。例えば、パケット受信成功率測定部13と回路消費電力測定部16とを1つの測定部として統合してもよい。反対に、パラメータ設定部11に関し、ドップラ周波数fDを算出する部分と、コヒーレンス時間TCを算出する部分と、係数α、パケット長L、及びデータレートRを選択する部分とに分散してもよい。また、メモリ10cを、通信性能測定装置10の外部装置としてネットワークやケーブル経由で接続するようにしてもよい。更に、図3に示した通信性能測定装置10のハードウェア構成についても、メモリ10cとROM10dとは必ずしも別体に構成される必要はない。例えば、メモリ10cの一部の領域を、ドップラ周波数fD、コヒーレンス時間TC、係数α、パケット長L、データレートR等の各種パラメータ、あるいは性能の測定結果を格納するデータ領域として用いてもよい。