<第1の実施の形態>
<ガスセンサの概略構成>
はじめに、ガスセンサ100の概略構成について説明する。
図1は、ガスセンサ100のセンサ素子101の構成の一例を概略的に示した外観斜視図である。図1には、センサ素子101の長手方向をx軸とする右手系のxyz座標を付している(以降においても同様)。図2は、ガス流通部111の構造を説明するために、図1に示す各位置におけるセンサ素子101の断面を概略的に示した断面模式図である。図2においては、単純化のため、ガス流通部111以外の構成は省略している。図2(a)は、図1のA−A´を矢印に沿って切断した断面図である。図2(b)は、図1のB−B´を矢印に沿って切断した断面図である。図2(c)は、図1のC−C´を矢印に沿って切断した断面図である。また、図3は、ガスセンサ100のより詳細な構成を例示した断面模式図である。
センサ素子101は、それぞれがジルコニア(ZrO2)等の酸素イオン伝導性固体電解質層からなる第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6との6つの層が、図面視で下側からこの順に積層された構造を有する細長な長尺の板状体形状の素子である。また、これら6つの層を形成する固体電界質は緻密な気密のものである。係るセンサ素子101は、例えば、各層に対応するセラミックスグリーンシートに所定の加工および回路パターンの印刷などを行った後にそれらを積層し、得られた積層体を素子単位に切り出したうえで、これを焼成して一体化させることによって製造される。
センサ素子101の一先端部側であって、第2固体電解質層6の下面と第1固体電解質層4の上面との間には、外部連通部11と、第1内部空所20と、第1拡散律速部30と、第2内部空所40とが、この順に連通する態様にて隣接形成されてなる。
外部連通部11は、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられた、センサ素子101内部の空間である。外部連通部11は、上部を第2固体電解質層6の下面またはスペーサ層5の内面5aで、下部を第1固体電解質層4の上面またはスペーサ層5の内面5bで、側部をスペーサ層5の側面5c,5dで区画されることによって設けられている。ただし、より詳細には、外部連通部11は、後述するように、窒素酸化物(NOx)濃度の測定に適した拡散抵抗の程度に応じて、形成される位置が調整される。
第1内部空所20および第2内部空所40も、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられた、センサ素子101内部の空間である。第1内部空所20および第2内部空所40は、上部を第2固体電解質層6の下面で、下部を第1固体電解質層4の上面で、側部をスペーサ層5の側面で区画されることによって設けられている。
第1拡散律速部30は、2本の横長の(y軸方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられる。なお、外部連通部11から第2内部空所40に至る部位をガス流通部111とも称する。
また、センサ素子101の他端部側であって、ガス流通部111よりも素子先端部101aより遠い位置には、第3基板層3の上面と、スペーサ層5の下面との間であって、側部を第1固体電解質層4の側面で区画される位置に基準ガス導入空間43が設けられている。基準ガス導入空間43には、NOx濃度の測定を行う際の基準ガスとして、例えば大気が導入される。
大気導入層48は、多孔質アルミナからなる層であって、大気導入層48には基準ガス導入空間43を通じて基準ガスが導入されるようになっている。また、大気導入層48は、基準電極42を被覆するように形成されている。
基準電極42は、第3基板層3の上面と第1固体電解質層4とに挟まれる態様にて形成される電極であり、上述のように、その周囲には、基準ガス導入空間43につながる大気導入層48が設けられている。また、後述するように、基準電極42を用いて内部空所内の酸素濃度(酸素分圧)を測定することが可能となっている。
<ガス流通部および関連部位の詳細>
外部連通部11は、センサ素子先端部101aに形成された開口部11aを通じて外部空間から導入された被測定ガスに対し、窒素酸化物(NOx)濃度の測定に適した所定の拡散抵抗を付与したうえで、該被測定ガスを連通部11bにて連通する第1内部空所20へと導く部位である。
外部連通部11のy軸方向の幅aおよびz軸方向の厚みbは、開口部11aから第1内部空所20へ導入される被測定ガスに対して付与しようとする拡散抵抗の程度に応じて規定される。
ただし、外部連通部11は、厚みbが、第1内部空所20のz軸方向の厚み(空室厚み)dに対して50%〜100%であり、幅aが、第1内部空所20のy軸方向の幅(空室幅)cに対して5%〜60%(望ましくは、10%〜40%)であることが好適である。
厚みbが厚みdに対して50%未満になると、開口部11aの開口面積が小さくなってセンサ素子先端部101aに付着した水が毛細管現象により第1内部空所20内に浸入しやすくなるため好ましくない。また、幅aが幅cに対して5%未満になると、開口部11aの開口面積が小さくなってセンサ素子先端部101aに付着した水が毛細管現象により第1内部空所20内に浸入しやすくなるため好ましくない。一方、幅aが幅cに対して60%を超えると、被測定ガスに対して窒素酸化物(NOx)濃度の測定に適した拡散抵抗を付与することが困難となる。
このように、ガスセンサ100においては、外部連通部11の幅aおよび厚みbが上述した範囲内に規定されることで、センサ素子先端部101aに付着した水の第1内部空所20内への浸入が抑制される。
第1内部空所20は、外部連通部11を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、主ポンプセル21が作動することによって調整される。
主ポンプセル21は、第1内部空所20に面する第2固体電解質層6の下面のほぼ全面に設けられた天井電極部22aを有する内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6の上面の天井電極部22aと対応する領域に外部空間に露出する態様にて設けられた外側ポンプ電極23と、これらの電極に挟まれた第2固体電解質層6とによって構成されてなる電気化学的ポンプセルである。
内側ポンプ電極22は、第1内部空所20を区画する上下の固体電解質層(第2固体電解質層6および第1固体電解質層4)、および、側壁を与えるスペーサ層5にまたがって形成されている。具体的には、第1内部空所20の天井面を与える第2固体電解質層6の下面には天井電極部22aが形成され、また、底面を与える第1固体電解質層4の上面には底部電極部22bが形成され、そして、それら天井電極部22aと底部電極部22bとを接続するように、側部電極部(図示省略)が第1内部空所20の両側壁部を構成するスペーサ層5の側壁面(内面)に形成されて、該側部電極部の配設部位においてトンネル形態とされた構造において配設されている。
内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23とは、多孔質サーメット電極(例えば、Auを1%含むPtとZrO2とのサーメット電極)として形成される。なお、被測定ガスに接触する内側ポンプ電極22は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた、あるいは、還元能力のない材料を用いて形成される。
主ポンプセル21においては、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に所望のポンプ電圧Vp0を印加して、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に正方向あるいは負方向にポンプ電流Ip0を流すことにより、第1内部空所20内の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間の酸素を第1内部空所20に汲み入れることが可能となっている。
また、第1内部空所20における雰囲気中の酸素濃度(酸素分圧)を検出するために、内側ポンプ電極22と、第2固体電解質6と、スペーサ層5と、第1固体電解質4と、第3基板層3と、基準電極42によって、電気化学的なセンサセル、すなわち、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80が構成されている。
主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80における起電力V0を測定することで第1内部空所20内の酸素濃度(酸素分圧)がわかるようになっている。さらに、起電力V0が一定となるようにVp0をフィードバック制御することでポンプ電流Ip0が制御されている。これによって、第1内部空所内20内の酸素濃度は所定の一定値に保つことができる。
第1拡散律速部30は、第1内部空所20で主ポンプセル21の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第2内部空所40に導く部位である。
第2内部空所40は、第1拡散律速部30を通じて導入された被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)濃度の測定に係る処理を行うための空間として設けられている。NOx濃度の測定は、主として、補助ポンプセル50により酸素濃度が調整された第2内部空所40において、さらに、測定用ポンプセル41の動作によりNOx濃度が測定される。
第2内部空所40では、あらかじめ第1内部空所20において酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第1拡散律速部30を通じて導入された被測定ガスに対して、さらに補助ポンプセル50による酸素分圧の調整が行われるようになっている。これにより、第2内部空所40内の酸素濃度を高精度に一定に保つことができるため、係るガスセンサ100においては精度の高いNOx濃度測定が可能となる。
補助ポンプセル50は、第2内部空所40に面する第2固体電解質層6の下面の略全体に設けられた天井電極部51aを有する補助ポンプ電極51と、外側ポンプ電極23(外側ポンプ電極23に限られるものではなく、センサ素子101と外側の適当な電極であれば足りる)と、第2固体電解質層6とによって構成される、補助的な電気化学的ポンプセルである。
係る補助ポンプ電極51は、先の第1内部空所20内に設けられた内側ポンプ電極22と同様なトンネル形態とされた構造において、第2内部空所40内に配設されている。つまり、第2内部空所40の天井面を与える第2固体電解質層6に対して天井電極部51aが形成され、また、第2内部空所40の底面を与える第1固体電解質層4には、底部電極部51bが形成され、そして、それらの天井電極部51aと底部電極部51bとを連結する側部電極部(図示省略)が、第2内部空所40の側壁を与えるスペーサ層5の両壁面にそれぞれ形成されたトンネル形態の構造となっている。
なお、補助ポンプ電極51についても、内側ポンプ電極22と同様に、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた、あるいは、還元能力のない材料を用いて形成される。
補助ポンプセル50においては、補助ポンプ電極51と外側ポンプ電極23との間に所望の電圧Vp1を印加することにより、第2内部空所40内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間から第2内部空所40内に汲み入れることが可能となっている。
また、第2内部空所40内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、補助ポンプ電極51と、基準電極42と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81が構成されている。
なお、この補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81にて検出される起電力V1に基づいて電圧制御される可変電源52にて、補助ポンプセル50がポンピングを行う。これにより第2内部空所40内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にまで制御されるようになっている。
また、これとともに、そのポンプ電流Ip1が、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80の起電力の制御に用いられるようになっている。具体的には、ポンプ電流Ip1は、制御信号として主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80に入力され、その起電力V0が制御されることにより、第1拡散律速部30から第2内部空所40内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となるように制御されている。NOxセンサとして使用する際は、主ポンプセル21と補助ポンプセル50との働きによって、第2内部空所40内での酸素濃度は約0.001ppm程度の一定の値に保たれる。
すなわち、ガスセンサ100においては、主ポンプセル21と補助ポンプセル50とを作動させることによって酸素分圧が常に一定の低い値(NOxの測定に実質的に影響がない値)に保たれる。
このように第2内部空所40内において酸素濃度が調整された被測定ガスは、測定用ポンプセル41が作動することによってそのNOx濃度を測定される。測定用ポンプセル41は、第2内部空所40に面する第1固体電解質層4の上面に設けられた測定電極44と、外側ポンプ電極23と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4とによって構成された電気化学的ポンプセルである。
測定電極44は、多孔質サーメット電極である。測定電極44は、第2内部空所40内の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する。さらに、測定電極44は、第2拡散律速部45によって被覆されてなる。
第2拡散律速部45は、アルミナ(Al2O3)を主成分とする多孔体にて構成される膜である。第2拡散律速部45は、測定電極44に流入するNOxの量を制限する役割を担うとともに、測定電極44の保護層としても機能する。
測定用ポンプセル41においては、測定電極44の周囲の雰囲気中における窒素酸化物の分解によって生じた酸素を汲み出して、その発生量をポンプ電流Ip2として検出することができる。
また、測定電極44の周囲の酸素分圧を検出するために、第2固体電界質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、測定電極44と、基準電極42とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82が構成されている。測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された起電力V2に基づいて可変電源46が制御される。
上述したように、第2内部空所40内に導かれた被測定ガスは、酸素分圧が制御された状況下で第2拡散律速部45を通じて測定電極44に到達することとなる。測定電極44の周囲の被測定ガス中の窒素酸化物は還元されて(2NO→N2+O2)酸素を発生する。そして、この発生した酸素は測定用ポンプセル41によってポンピングされることとなるが、その際、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された制御電圧V2が一定となるように可変電源の電圧Vp2が制御される。測定電極44の周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に比例するものであるから、測定用ポンプセル41におけるポンプ電流Ip2を用いて被測定ガス中の窒素酸化物濃度が算出されることとなる。
すなわち、ガスセンサ100においては、被測定ガス中のNOxの濃度に略比例して、NOxの還元によって発生する酸素が測定用ポンプセル41より汲み出されることによって流れるポンプ電流Ip2に基づいて、被測定ガス中のNOx濃度を知ることができるようになっている。
また、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、外側ポンプ電極23と、基準電極42とから電気化学的なセンサセル83が構成されており、このセンサセル83によって得られる起電力Vrefによりセンサ外部の被測定ガス中の酸素分圧を検出可能となっている。
<ヒータ部>
さらに、センサ素子101は、固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるために、センサ素子101を加熱して保温する温度調整の役割を担うヒータ部70を備えている。ヒータ部70は、ヒータ電極71と、ヒータ72と、スルーホール73と、ヒータ絶縁層74、圧力放散孔75とを備えている。
ヒータ電極71は、第1基板層1の下面に接する態様にて形成されてなる電極である。ヒータ電極71を外部電源と接続することによって、外部からヒータ部70へ給電することができるようになっている。
ヒータ72は、第2基板層2と第3基板層3とに上下から挟まれた態様にて形成される電気抵抗体である。ヒータ72は、スルーホール73を介してヒータ電極71と接続されており、該ヒータ電極71を通して外部より給電されることにより発熱し、センサ素子101を形成する固体電解質の加熱と保温を行う。
また、ヒータ72は、第1内部空所20から第2内部空所40の全域に渡って埋設されており、センサ素子101全体を上記固体電解質が活性化する温度に調整することが可能となっている。
ヒータ絶縁層74は、ヒータ72の上下面に、アルミナ等の絶縁体によって形成されてなる絶縁層である。ヒータ絶縁層74は、第2基板層2とヒータ72との間の電気的絶縁性、および、第3基板層3とヒータ72との間の電気的絶縁性を得る目的で形成されている。
圧力放散孔75は、第3基板層3を貫通し、基準ガス導入空間43に連通するように設けられてなる部位であり、ヒータ絶縁層74内の温度上昇に伴う内圧上昇を緩和する目的で形成されてなる。
上述したように、本実施の形態に係るガスセンサ100では、センサ素子101の先端部101aに開口部11aを有する外部連通部11のサイズを好適に定めることにより、センサ素子先端部101aに付着した水が毛細管現象によって内部空所内に浸入することが抑制される。その結果、内部空所内にて水が急激に蒸発することによってセンサ素子101に亀裂が生じることが抑制される。
ゆえに、本実施の形態に係るガスセンサ100は、センサ素子101に生じる亀裂を原因とする測定精度の低下が好適に抑制されたものとなっている。換言すれば、ガスセンサ動作中にセンサ素子先端部101aに水が付着したとしても、測定精度が安定的に保たれたものとなっている。
なお、上述のようなセンサ素子101の形成は、外部連通部11の厚みbを第1内部空所20の厚みdと同じにする場合であれば、上述したグリーンシートプロセスにおいて、スペーサ層5に対応するセラミックスグリーンシートにパンチングによって第1内部空所20や第2内部空所40に対応する開口部を形成する際に、外部連通部11に対応する開口部を併せて形成し、その後は上述と同様の工程を経ることによって実現可能である。
また、外部連通部11の厚みbを第1内部空所20の厚みdよりも小さくする場合であれば、上述した6層に対応するグリーンシートとは別に、第1固体電解質層4とスペーサ層5との間またはスペーサ層5と第2固体電解質層6との間に積層されるグリーンシートを準備し、上述したグリーンシートプロセスにおいて、該セラミックスグリーンシートにパンチングによって対応する切り欠きを形成した後、該グリーンシートも含めた積層を行い、その後は上述と同様の工程を行うようにすればよい。
あるいは、上述したグリーンシートプロセスにおいて、各層に対応するセラミックスグリーンシートに所定の回路パターンの印刷などを行う際に、第1固体電解質層4に対してまたはスペーサ層5に対して外部連通部11に対応する昇華性ペーストを印刷するようにしてもよい。係る場合、焼成時にペーストが昇華することで、外部連通部11が形成される。
以上のように、本実施の形態によれば、センサ素子先端部101aに外部連通部を所定のサイズにて設けることによって、動作中にセンサ素子先端部101aに水が付着したとしても、測定精度が安定的に保たれるガスセンサが実現できる。
<第2の実施の形態>
第2の実施の形態においては、第1の実施の形態に係るガスセンサ100とはガス流通部の構成が異なる態様について説明する。
なお、第2の実施の形態に係るガスセンサ200のセンサ素子201の構成の一例を示す外観斜視図は、第1の実施の形態に係るガスセンサ100のものと同じであるため、図1を引用する。
図4は、ガス流通部112の構造を説明するために、図1に示す各位置におけるセンサ素子201の断面を概略的に示した断面模式図である。図4においては、単純化のため、ガス流通部112以外の構成は省略している。図4(a)は、図1のA−A´を矢印に沿って切断した断面図である。図4(b)は、図1のB−B´を矢印に沿って切断した断面図である。図4(c)は、図1のC−C´を矢印に沿って切断した断面図である。なお、第1の実施の形態に係るガスセンサ100と同様の構成については、同一の符号を付してその説明および図示を省略する。
センサ素子201は、第1の実施の形態に係るセンサ素子101の外部連通部11と第1内部空所20との間に、緩衝空間91と第3拡散律速部92とを設けた構成を有する。なお、本実施の形態においては、外部連通部11から第2内部空所40に至る部位をガス流通部112とも称する。
緩衝空間91は、外部連通部11と同様に、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられた、センサ素子101内部の空間である。すなわち、緩衝空間91も、上部を第2固体電解質層6の下面で、下部を第1固体電解質層4の上面で、側部をスペーサ層5の側面で区画されることによって設けられている。ただし、緩衝空間91は、y軸方向の幅wが、外部連通部11の幅aよりも大きくなるように設けられる。
係る緩衝空間91を備えることで、センサ素子201においては、被測定ガスが、センサ素子201外部から第1内部空所20内まで導入される際の、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)の影響が低減される。すなわち、圧力変動に伴って被測定ガスが急激に取り込まれたとしても、第1内部空間20へ導入される被測定ガスの濃度変動はほとんど無視できる程度のものとなる。
第3拡散律速部92は、緩衝空間91から第1内部空所20に導入される被測定ガスに対して所定の拡散抵抗を付与する部位であり、2本の横長の(y軸方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられる。
センサ素子201においては、外部連通部11、緩衝空間91および第3拡散律速部92の全体によって、開口部11aから第2内部空所20に導入される被測定ガスに対し、窒素酸化物(NOx)濃度の測定に適した所定の拡散抵抗が付与される。
よって、外部連通部11において付与される拡散抵抗の値を規定する幅aおよび厚みbの値は、第3拡散律速部92にて付与される拡散抵抗との関係も踏まえて定められればよい。ただし、本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様に、外部連通部11は、厚みbが、第1内部空所20のz軸方向の厚みdに対して50%〜100%であり、幅aが、第1内部空所20のy軸方向の幅cに対して5%〜60%(望ましくは、10%〜40%)であることが好適である。これにより毛細管現象の発生が抑制される。
以上のように、本実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様に、動作中にセンサ素子先端部201aに水が付着したとしても、測定精度が安定的に保たれるとともに、緩衝空間91と第3拡散律速部92とを設けることによって、外部空間における被測定ガスの圧力変動に伴って被測定ガスがセンサ素子201内部に急激に取り込まれたとしても、該被測定ガスの濃度変動が好適に抑制されるガスセンサが実現できる。
<第3の実施の形態>
第3の実施の形態においては、第1の実施の形態に係るガスセンサ100とは異なる位置に外部連通部が設けられる態様について説明する。
図5は、第3の実施の形態に係るガスセンサ300のセンサ素子301の構成の一例を概略的に示した外観斜視図である。図6は、ガス流通部113の構造を説明するために、図5に示す各位置におけるセンサ素子301の断面を概略的に示した断面模式図である。図6においては、単純化のため、ガス流通部113以外の構成は省略している。図6(a)は、図5のA−A´を矢印に沿って切断した断面図である。図6(b)は、図5のB−B´を矢印に沿って切断した断面図である。図6(c)は、図5のC−C´を矢印に沿って切断した断面図である。なお、第1の実施の形態に係るガスセンサ100および第2の実施の形態に係るガスセンサ200と同様の構成については、同一の符号を付してその説明および図示を省略する。
センサ素子301は、第1の実施の形態に係るセンサ素子101においてセンサ素子先端部101aに設けられていた外部連通部11に代えて、センサ素子側部301bに外部連通部12が設けられてなる。なお、本実施の形態においては、外部連通部12から第2内部空所40に至る部位をガス流通部113とも称する。
外部連通部12は、外部連通部11と同様に、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられた、センサ素子301内部の空間である。外部連通部12は、上部を第2固体電解質層6の下面またはスペーサ層5の内面5aで、下部を第1固体電解質層4の上面またはスペーサ層5の内面5bで、側部をスペーサ層5の側面5e,5fで区画されることによって設けられている。ただし、より詳細には、外部連通部12は、窒素酸化物(NOx)濃度の測定に適した拡散抵抗の程度に応じて、形成される位置が調整される。
外部連通部12のx軸方向の幅eおよびz軸方向の厚みfは、開口部12aから第1内部空所20へ導入される被測定ガスに対して付与しようとする拡散抵抗の程度に応じて規定される。
ただし、外部連通部12は、外部連通部11と同様に、厚みfが、第1内部空所20のz軸方向の厚みdに対して50%〜100%であり、幅eが、第1内部空所20のy軸方向の幅cに対して5%〜60%(望ましくは、10%〜40%)であることが好適である。
このように、ガスセンサ300においては、外部連通部12の幅eおよび厚みfが上述した範囲内に規定されることで、センサ素子側部301bに付着した水の第1内部空所20内への浸入が抑制される。
なお、外部連通部12は、第1内部空所20の素子先端部側の端部から連通部12bに到達するまでのx軸方向の距離t1が、第1内部空所20のx軸方向の長さt2に対して、20%以下であることが好適である。距離t1が20%を超えると、第1内部空所20内において、上述した被測定ガス中の酸素分圧の調整をすることが困難となる。また、t1は0でもよい。より効果的に酸素分圧の調整をすることが出来るからである。
上述したように、本実施の形態に係るガスセンサ300では、センサ素子301の側部301bに開口部12aを有する外部連通部12を設けることにより、センサ素子先端部301aに付着した水が毛細管現象によって内部に浸入することが抑制される。さらに、外部連通部12のサイズを好適に定めることにより、センサ素子側部301bに付着した水が毛細管現象によって内部に浸入することも抑制される。その結果、内部空所内にて水が急激に蒸発することによってセンサ素子301に亀裂が生じることが抑制される。
加えて、本実施の形態に係るガスセンサ300では、センサ素子先端部301aに開口部を有する外部連通部に代えて、センサ素子側部301bに開口部12aを有する外部連通部12を設けることにより、センサ素子先端部301a近傍の強度が向上する。その結果、センサ素子先端部301aに付着した水により発生する熱応力によってセンサ素子301に亀裂が生じることが抑制される。
ゆえに、本実施の形態に係るガスセンサ300は、センサ素子301に生じる亀裂を原因とする測定精度の低下が好適に抑制されたものとなっている。換言すれば、ガスセンサ動作中にセンサ素子先端部301aに水が付着したとしても、測定精度が安定的に保たれたものとなっている。
以上のように、本実施の形態によれば、センサ素子側部301bに外部連通部を所定のサイズにて設けることによって、動作中にセンサ素子先端部301aに水が付着したとしても、測定精度が安定的に保たれるガスセンサが実現できる。
<第4の実施の形態>
第4の実施の形態においては、第3の実施の形態に係るガスセンサ300とはガス流通部の構成が異なる態様について説明する。
図7は、第4の実施の形態に係るガスセンサ400のセンサ素子401の構成の一例を概略的に示した外観斜視図である。図8は、ガス流通部114の構造を説明するために、図7に示す各位置におけるセンサ素子401の断面を概略的に示した断面模式図である。図8においては、単純化のため、ガス流通部114以外の構成は省略している。図8(a)は、図7のA−A´を矢印に沿って切断した断面図である。図8(b)は、図7のB−B´矢印に沿って切断した断面図である。図8(c)は、図7のC−C´を矢印に沿って切断した断面図である。なお、第1の実施の形態に係るガスセンサ100ないし第3の実施の形態に係るガスセンサ300と同様の構成については、同一の符号を付してその説明および図示を省略する。
センサ素子401は、第3の実施の形態に係るセンサ素子301の外部連通部12と第1内部空所20との間に、緩衝空間91と第3拡散律速部92とを設けた構成を有する。なお、本実施の形態においては、外部連通部12から第2内部空所40に至る部位をガス流通部114とも称する。なお、本実施の形態においては、緩衝空間91は、x軸方向の幅t4が外部連通部12の幅eよりも大きくなるように設けられる。これにより、第2の実施の形態と同様の緩衝効果が得られる。
センサ素子401においては、外部連通部12、緩衝空間91および第3拡散律速部92の全体によって、開口部12aから第2内部空所20に導入される被測定ガスに対し、窒素酸化物(NOx)濃度の測定に適した所定の拡散抵抗が付与される。
よって、外部連通部12において付与される拡散抵抗の値を規定する幅eおよび厚みfの値は、第3拡散律速部92にて付与される拡散抵抗との関係も踏まえて定められればよい。ただし、本実施の形態においても、第3の実施の形態と同様に、外部連通部12は、厚みfが、第1内部空所20のz軸方向の厚みdに対して50%〜100%であり、幅eが、第1内部空所20のy軸方向の幅cに対して5%〜60%(望ましくは、10%〜40%)であることが好適である。これにより、毛細管現象の発生が抑制される。
なお、外部連通部12は、緩衝空間91の素子先端部側端部から連通部12bに到達するまでのx軸方向の距離t3が、緩衝空間91のx軸方向の長さt4に対して、50%以下であることが好適である。距離t3が50%を超えると、緩衝空間91内において、上述した被測定ガスの濃度変動の急激な変化を打ち消すことが困難となる。
以上のように、本実施の形態によれば、第3の実施の形態と同様に、動作中にセンサ素子先端部401aに水が付着したとしても、測定精度が安定的に保たれるとともに、緩衝空間91と第3拡散律速部92とを設けることによって、外部空間における被測定ガスの圧力変動に伴って被測定ガスがセンサ素子401内部に急激に取り込まれたとしても、該被測定ガスの濃度変動が好適に抑制されるガスセンサが実現できる。
<変形例>
以上の説明においては、第1拡散律速部30および第3拡散律速部92が横長のスリットとして形成される態様について説明したが、本発明の適用はこれに限られるものではなく、その他の形状で形成される態様であってもよい。
また、第3の実施の形態および第4の実施の形態においては、センサ素子のそれぞれの側部に外部連通部が1つずつ設けられる態様について説明したが、本発明の適用はこれに限られるものではなく、センサ素子のそれぞれの側部に外部連通部が2つ以上設けられる態様であってもよい。あるいは、一方の側部にのみ外部連通部が設けられる態様であってもよい。
また、外部連通部の厚みを第1内部空所の厚みよりも小さくする場合は、外部連通部が、図9(a)および図9(b)に示すように、スペーサ層5の上側または下側のどちらかに形成される態様であってもよいし、図9(c)に示すように、スペーサ層5の略中央に形成される態様であってもよい。
(実施例1)
第1の実施の形態に係るガスセンサ100の実施例であるガスセンサAと第2の実施の形態に係るガスセンサ200の実施例であるおよびガスセンサBと、第3の実施の形態に係るガスセンサ300の実施例であるガスセンサCおよびガスセンサDと、第4の実施の形態に係るガスセンサ400の実施例であるガスセンサEおよびFと、比較例であるガスセンサGに対して、水滴滴下試験を行った。
なお、ガスセンサCでは距離t1が0、ガスセンサDでは距離t1が長さt2の10%、ガスセンサEでは距離t3が0、ガスセンサFでは距離t3が長さt4の10%である。また、ガスセンサGは、センサ素子先端部に開口部を有するスリット状の外部連通部が設けられた、従来のガスセンサである。なお、ガスセンサGにおいては、外部連通部の幅は空室幅と同じであり、外部連通部の厚みは空室厚みの5%である。
水滴滴下試験においては、センサ素子を所定の温度で加熱しつつガスセンサを駆動させた状態で、センサ素子の先端部近傍に水滴を落下させて、センサ素子にクラックが発生するかどうかを確認した。そして、センサ素子にクラックが発生するまで、落下させる水滴の量を多くして同様の試験を実施し、センサ素子にクラックが発生した時点でガスセンサの駆動を停止して、このときの水滴の量を測定することで行った。クラック発生水滴量比は、ガスセンサA〜ガスセンサFのそれぞれのクラックが発生する水滴量の、ガスセンサGのクラックが発生する水滴量に対する比で表される値である。
図10は、ガスセンサA〜ガスセンサFのクラック発生水滴量を測定した結果を示している。なお、ガスセンサAでは幅aが幅cの20%、厚みbが厚みdの100%であり、ガスセンサBでは幅aが幅cの10%、厚みbが厚みdの100%であり、ガスセンサCでは幅eが幅cの20%、厚みfが厚みdの100%であり、ガスセンサDでは幅eが幅cの30%、厚みfが厚みdの50%であり、ガスセンサEでは幅eが幅cの20%、厚みfが厚みdの100%であり、ガスセンサFでは幅eが幅cの15%、厚みfが厚みdの80%である。また、ガスセンサA〜ガスセンサGの各々において、測定数はいずれも5とした。
図10中の丸印は測定値の平均値を示しており、丸印の上下のラインは測定値の最大値および最小値を示している。図10に示すように、ガスセンサA〜ガスセンサFは、ガスセンサGよりもクラック発生水滴量が多いことが確認された。係る結果は、ガスセンサA〜ガスセンサFが、ガスセンサGよりも破壊強度が大きいことを意味している。
(実施例2)
本実施例では、外部連通部のサイズと破壊強度との関係を調べるために、各実施形態ごとに、空室のサイズに対する外部連通部のサイズの比が異なる複数のガスセンサを用意して、実施例1と同様の水滴滴下試験を行った。
図11は、第1の実施形態に相当するガスセンサであって、外部連通部11の幅aが異なる8種類のガスセンサのクラック発生水滴量を測定した結果を示している。また、図12は、第2の実施形態に相当するガスセンサであって、外部連通部12の厚みbが異なる5種類のガスセンサのクラック発生水滴量を測定した結果を示している。また、図13は、第3の実施形態に相当するガスセンサであって、外部連通部12の厚みfが異なる5種類のガスセンサのクラック発生水滴量を測定した結果を示している。さらに、図14は、第4の実施形態に相当するガスセンサであって、外部連通部12の幅eが異なる8種類のガスセンサのクラック発生水滴量を測定した結果を示している。各種類のガスセンサについて、測定数は5とした。ただし、図11および図14において空室幅に対する外部連通幅の比が100%のもの、および、図12及び図13において空室厚みに対する外部連通厚みの比が5%のものは、比較例であるガスセンサGについての測定結果である。
図11ないし図14中の丸印は測定値の平均値を示しており、丸印の上下のラインは測定値の最大値および最小値を示している。図11ないし図14に示すように、外部連通部の幅あるいは厚みの大きさに関わらず、実施例に係るガスセンサはいずれも、比較例に係るガスセンサGよりもクラック発生水滴量が多いことが確認された。係る結果は、外部連通部の幅あるいは厚みの大きさに関わらず、実施例に係るガスセンサはいずれも、比較例に係るガスセンサGよりも破壊強度が大きいことを意味している。特に、空室幅に対する外部連通部幅の比が5%以上60%以下である場合、および、空室厚みに対する外部連通部厚みの比が50%以上100%以下である場合に、クラック発生水滴量が比較例に係るガスセンサの2倍以上になっている。これは、これらのサイズを満たすように外部連通部を設けることで従来の2倍以上の破壊強度を有するガスセンサが実現されることを示している。
実施例1および実施例2の結果より、上述した要件にてサイズに定めた外部連通部を設けることが、破壊強度の向上に効果があることが確認された。また、実施例1および実施例2の双方において、センサ素子の側部に開口部を有する外部連通部を設ける(第3および第4の実施形態相当)方が、より破壊強度の向上に効果があることが確認された。係る結果は、上述の外部連通部を設けることが、センサ素子に生じる亀裂を原因とする測定精度の低下を抑制するうえで効果的であることを意味している。
(実施例3)
本実施例では、実施例1の各ガスセンサについて、応答性を調べた。応答性の試験は、被測定ガスの空燃比(被測定ガス中の酸素濃度)をλ=0.9からλ=1.1に変化させた場合において、センサ素子内が空燃比λ=0.9の被測定ガスにほぼ置換したときのセンサ出力(Ip2)を0%とし、センサ素子内が空燃比λ=1.1の被測定ガスにほぼ置換したときのセンサ出力(Ip2)を100%としたとき、33%に相当するセンサ出力(Ip2)を検出した時点から66%に相当するセンサ出力(Ip2)を検出した時点までの時間(応答時間)をそれぞれのガスセンサについて3回ずつ測定することで行った。
図15は、ガスセンサA〜ガスセンサGの応答時間を測定した結果を示している。なお、ガスセンサA〜ガスセンサFのそれぞれにおいて、外部連通部の幅と幅cとの関係および外部連通部の厚みと厚みdとの関係は、図10に示す水滴滴下試験で用いたガスセンサと同様とした。
図15中の丸印は測定値の平均値を示しており、丸印の上下のラインは測定値の最大値および最小値を示している。図15に示すように、ガスセンサA〜ガスセンサFの応答時間とガスセンサGの応答時間との間には、有意差はみられなかった。
以上の結果より、上述した要件にて外部連通部を設けたガスセンサA〜ガスセンサFにおいても、従来のガスセンサと同等の応答性が得られることが確認された。