JP5743642B2 - アルミニウム合金ブレージングシート - Google Patents
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Cuは、アルミニウム合金組織への固溶・析出強化により、心材の強度を向上させる。また、Cuを添加することにより、高温経時における心材の強度低下が抑制される。更に、心材中にCuを添加することにより、心材とろう材との間において、心材の電位をろう材の電位よりも貴とすることができ、ろう材が心材(アルミニウム合金材)を犠牲防食することにより、熱交換器に組み立てた際に、管状のチューブ材又はプレート材のろう材面側における耐食性も向上させることができる。この心材中のCuの含有量が2.5質量%以下であると、十分な高温経時後の強度が得られない。一方、Cuの添加量が3.5質量%を超えると、アルミニウム合金材の融点が低下し、ろう付時の高温により心材が溶融する虞がある。また、Cuの含有量の増加と共に、ろう付前の素材(アルミニウム合金材)の伸びが低下して、成形加工性が低下する。従って、本発明においては、心材中のCuの含有量は2.5質量%を超え、3.5質量%以下と規定する。
上記のとおり、本発明においては、心材中にCuを含有させることにより、高温経時後におけるブレージングシートの強度を確保している。この場合の高温とは、ろう付時における高温と、熱交換器の使用温度が高いことを意味している。本発明においては、アルミニウム合金ブレージングシートの強度を、ろう付後に高温環境下に保持した後の引張強度で規定する。即ち、本発明のアルミニウム合金ブレージングシートは、590℃で2分間のろう付加熱後に200℃雰囲気中に300時間保持した後において、その引張強度が140MPa以上である。
犠牲陽極材は、耐食性を得るために、心材におけるろう材がクラッドされた面に対して反対側の面にクラッドされる。この犠牲陽極材は、心材との間において、電位が卑となることにより、熱交換器に組み立てた際に、管状のチューブ材又はプレート材の腐食環境面における耐食性を向上させることができる。しかし、犠牲陽極材の厚さが30μm未満であると、耐食性を十分に向上させることができず、逆に、心材からのCu拡散が犠牲陽極材の表面に達して表面電位を貴化させることにより、高温経時後における犠牲防食作用が低下する。よって、本発明においては、犠牲陽極材は厚さが30μm以上となるようにクラッドする。
本発明においては、犠牲陽極材中のZnは、最も重要な成分である。即ち、Znの含有によりアルミニウム合金の電位が卑となり、高温経時後における犠牲防食作用が向上する。但し、本発明のブレージングシートは、心材が多量のCuを含有するため、犠牲陽極材中にZnを添加しなくても、心材と犠牲陽極材との間に十分な電位差があり、高温経時後における犠牲防食作用を確保できる。一方、犠牲陽極材が2質量%を超えるZnを含有しても、高温経時後における犠牲防食作用の効果は飽和する。他方、心材と犠牲陽極材との電位差が過剰に大きくなる結果、犠牲陽極材の腐食速度が速くなりすぎて、却って犠牲防食作用が損なわれる虞がある。よって、本発明においては、犠牲陽極材中のZnの含有量を2質量%未満と規定する。
上記したように、本発明においては、犠牲陽極材の材料としてアルミニウム又はZnを含有するアルミニウム合金、例えば、純アルミニウム、Al−Zn系合金又はAl−Zn−Mg系合金を使用するが、これらのアルミニウム又はアルミニウム合金は、いずれも心材よりも強度が小さく、従って、犠牲陽極材を心材にクラッドすることにより、ブレージングシート全体の強度は低下する。本発明においては、上記高温経時後の140MPa以上の引張強度を得るために、犠牲陽極材のクラッド率を20%以下と規定する。犠牲陽極材のクラッド率が20%を超えると、所望の高温経時後の強度が得られなくなる。なお、本発明において、クラッド率とは、ブレージングシート全体の厚さに対する犠牲陽極材の厚さを意味している。
本発明のブレージングシートにおいては、高温経時後の強度を得るために心材に多量の(2.5質量%を超え、3.5質量%以下の)Cuを含有させており、これにより、ろう付時に犠牲陽極材にCuが多く拡散する。よって、犠牲陽極作用による耐食性を十分に得るために、上記のように犠牲陽極材の厚さ及び犠牲陽極材中のZn量を規定している。本発明においては、これらの規定に加えて、犠牲陽極材の厚さと犠牲陽極材中のZn量との間に最適なバランスを図ることにより、高温経時後において、高い耐食性が得られる。即ち、本発明においては、犠牲陽極材中のZn量をX、犠牲陽極材の厚さをYとしたときに、数値5X+Yを50以上と規定する。数値5X+Yが50未満であると、心材から拡散したCuが犠牲陽極材の表面に達して表面電位を貴化させ、Znを含有させた犠牲陽極材の電位卑化による耐食性の向上効果よりも、耐食性の低下の方が大きくなる。よって、高温経時後の耐食性が低下する。
Feは、アルミニウム合金中に金属間化合物として晶出・析出して分散強化に寄与する。また、晶出・析出した金属間化合物は、再結晶の核となって再結晶を促進させるので、グレイン組織を微細にする効果を有し、アルミニウム合金材の成形加工性を向上させる。Feの含有量が0.2質量%未満では、これらの効果が十分に得られない。一方、Feの含有量が1.5質量%を超えると、金属間化合物の晶出・析出量が増加してアルミニウム合金材の成形加工性を低下させる場合がある。従って、本発明のブレージングシートは、Feを0.2乃至1.5質量%含有することが好ましい。
Siは、アルミニウム合金中に固溶・析出して強度を向上させる。Siの含有量が0.15質量%未満では、十分な強度向上効果が得られない。一方、Siの含有量が1.00質量%を超えると、前記したCuと合わせて、アルミニウム合金材の融点が更に低下し、ろう付時の高温により心材が溶融する虞がある。よって、Siの含有量は0.15乃至1.00質量%であることが好ましい。
Mgは、アルミニウム合金に添加することにより、アルミニウム合金中に固溶・析出して、前記したCu及びSiと同様に、強度を向上させる。特に、Siと同時に添加した場合においては、金属間化合物の生成・析出により、析出強化に寄与する。Mgの含有量が0.05質量%未満では、これらの効果が十分に得られない。一方、Mgの含有量が0.60質量%を超えると、非腐食性フラックスを用いた雰囲気下でのろう付において、ろう付性を阻害する場合がある。また、ろう付前の素材(アルミニウム合金材)の伸びが低下して、成形加工性が低下する場合がある。よって、本発明においては、Mgの含有量は0.05乃至0.60質量%であることが好ましい。
Mnは、アルミニウム合金中に金属間化合物として晶出・析出して分散強化に寄与する。Mnの含有量が0.1質量%未満では、分散強化の効果が十分に得られない。一方、Mnの添加量が1.5質量%を超えると、粗大な晶出物の量が増加し、アルミニウム合金材の成形加工性を低下させる場合がある。よって、本発明においては、Mnの含有量は0.1乃至1.5質量%であることが好ましい。
Niは、アルミニウム合金中で金属間化合物として存在して分散強化に寄与する。Niの含有量が0.05質量%未満では、分散強化の効果が十分に得られない。一方、Niの含有量が1.50質量%を超えると、金属間化合物が増加し、アルミニウム合金材の成形加工性を低下させる場合がある。よって、本発明においては、Niの含有量は0.05乃至1.50質量%であることが好ましい。
Crは、アルミニウム合金中に微細な金属間化合物を生成して、その強度を向上させる。Crの含有量が0.05質量%未満では、この強度向上の効果が十分に得られない。一方、Crの含有量が0.30質量%を超えると、粗大な金属間化合物が生成し、アルミニウム合金材の成形加工性を低下させる場合がある。従って、本発明においては、Crの含有量は0.05乃至0.30質量%であることが好ましい。
Tiは、アルミニウム合金中に微細な金属間化合物を生成して、その強度を向上させる。Tiの含有量が0.05質量%未満では、強度向上の効果が十分に得られない。一方、Tiの含有量が0.30質量%を超えると、粗大な金属間化合物が生成し、アルミニウム合金材の成形加工性を低下させる場合がある。従って、本発明においては、Tiの含有量は0.05乃至0.30質量%であることが好ましい。
Zrは、アルミニウム合金中に微細な金属間化合物を生成して、その強度を向上させる。Zrの含有量が0.05質量%未満では、強度向上の効果が十分に得られない。一方、Zrの含有量が0.30質量%を超えると、粗大な金属間化合物が生成し、アルミニウム合金材の成形加工性を低下させる場合がある。従って、本発明においては、Zrの含有量は0.05乃至0.30質量%であることが好ましい。
Vは、アルミニウム合金中に微細な金属間化合物を生成して、その強度を向上させる。Vの含有量が0.05質量%未満では、強度向上の効果が十分に得られない。一方、Vの含有量が0.30質量%を超えると、粗大な金属間化合物が生成し、アルミニウム合金材の成形加工性を低下させる場合がある。従って、本発明においては、Vの含有量は0.05乃至0.30質量%であることが好ましい。
本発明においては、上記Si、Fe、Mn、Mg、Ni、Cr、Ti及びZrは、複合して含有させる場合においては、夫々の含有量を、Si:0.15乃至1.00質量%、Fe:0.05乃至1.50質量%、Mn:0.05乃至1.50質量%、Mg:0.05乃至0.60質量%、Ni:0.05乃至1.50質量%、Cr:0.05乃至0.30質量%、Ti:0.05乃至0.30質量%、Zr:0.05乃至0.30質量%、V:0.05乃至0.30質量%とした場合においても、上記全ての効果を奏する。
Snは、アルミニウム合金中で、高温時におけるCuの析出を促進して強度向上に寄与する。Snの含有量が0.01質量%未満では、その効果が十分に得られない。Snの含有量が0.10質量%を超えると、その効果が飽和する一方、多量のSnを含有させたことにより、ブレージングシートの製造コストが増加する。従って、本発明においては、Snの含有量は0.01乃至0.10質量%であることが好ましい。
Cdは、Snと同様に、アルミニウム合金中で、高温時におけるCuの析出を促進して強度向上に寄与する。Cdの含有量が0.01質量%未満では、その効果が十分に得られない。Cdの含有量が0.1質量%を超えると、その効果が飽和する一方、多量のCdを含有させたことにより、ブレージングシートの製造コストが増加する。従って、本発明においては、Cdの含有量は0.01乃至0.10質量%であることが好ましい。
Inは、Sn及びCdと同様に、アルミニウム合金中で、高温時におけるCuの析出を促進して強度向上に寄与する。Inの含有量が0.01質量%未満では、その効果が十分に得られない。Inの含有量が0.10質量%を超えると、その効果が飽和する一方、多量のInを含有させたことにより、ブレージングシートの製造コストが増加する。従って、本発明においては、Inの含有量は0.01乃至0.10質量%であることが好ましい。
成形加工性の評価は、引張試験機によって素材伸びを測定することにより行った。各ブレージングシートからJIS Z2201に規定されている5号試験片を切り出し、各試験片について常温で引張試験を行い、その素材伸びを測定した。そして、素材伸びが26%以上であったものを成形加工性が良好と評価した。
本実施例においては、ろう付による高温加熱後に高温環境下に長時間保持することにより、高温経時後の各試験片の強度及び耐食性を評価した。試験片としては、各実施例及び比較例のブレージングシートを、幅100mm×長さ200mmの短冊状に切り出し、ろう材側の表面に市販の非腐食性フラックス(FL−7、森田化学工業株式会社)を5g/m2塗布し、乾燥させたものを使用した。そして、各試験片の長手方向が鉛直となるようにつり下げた状態で、窒素雰囲気中、590℃の加熱温度で2分間保持してろう付加熱を行った。
第1実施例は、表1−1及び表1−2に示す種々の組成を有するNo.1乃至45の心材用アルミニウム合金板に対して、表2に示す合金No.Aの犠牲陽極材用アルミニウム合金板をクラッドして作製されたブレージングシートについての実施例である。本第1実施例においては、板厚が1.6mmのブレージングシートにおいて、犠牲陽極材の厚さを160μm(クラッド率:10%)とし、ろう材の厚さを160μm(クラッド率:10%)とした。そして、各実施例及び比較例のブレージングシートについて、上記各評価試験を実施した。各試験結果を表3−1及び表3−2に示す。
第2実施例は、請求項1の範囲を満足する組成を有する1種類の心材用アルミニウム合金板に対して、犠牲材の組成及び構成を変化させた場合の実施例である。本第2実施例においては、先ず、表1の合金No.1の心材を使用し、これに表2に示す種々の組成を有する犠牲陽極材をクラッドした。このとき、犠牲陽極材の厚さを変化させることにより、犠牲陽極材のクラッド率を変化させた。なお、ろう材のクラッド率は、第1実施例と同じく10%である。本第2実施例における犠牲陽極材の構成と、各評価試験結果を表4に示す。
Claims (9)
- Cu:2.5質量%を超え、3.5質量%以下を含有し、残部がアルミニウムおよび不可避的不純物からなる心材と、この心材の一方の面に設けられたろう材と、前記心材の他方の面に30μm以上の厚さで設けられ1.8質量%以下のZnを含有するアルミニウム合金からなる犠牲陽極材と、を有するアルミニウム合金ブレージングシートであって、
590℃で2分間のろう付加熱後に200℃雰囲気中に300時間保持した後の200℃雰囲気中における引張強度が140MPa以上であり、
前記犠牲陽極材は、クラッド率が20%以下であり、前記犠牲陽極材のZn含有量をX[質量%]、厚さをY[μm]としたときに、50≦5×X+Y≦169の関係式を満たすことを特徴とするアルミニウム合金ブレージングシート。 - 前記心材は、更に、Fe:0.2乃至1.5質量%を含有することを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
- 前記心材は、更に、Si:0.15乃至1.00質量%を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
- 前記心材は、更に、Mg:0.05乃至0.60質量%を含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
- 前記心材は、更に、Mn:0.1乃至1.5質量%を含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
- 前記心材は、更に、Ni:0.05乃至1.50質量%を含有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
- 前記心材は、更に、Cr:0.05乃至0.30質量%、Ti:0.05乃至0.30質量%、Zr:0.05乃至0.30質量%及びV:0.05乃至0.30質量%からなる群から選択された1種以上を含有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
- 前記心材は、更に、Si:0.15乃至1.00質量%、Fe:0.05乃至1.50質量%、Mn:0.05乃至1.50質量%、Mg:0.05乃至0.60質量%、Ni:0.05乃至1.50質量%、Cr:0.05乃至0.30質量%、Ti:0.05乃至0.30質量%、Zr:0.05乃至0.30質量%及びV:0.05乃至0.30質量%を含有することを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
- 前記心材は、更に、Sn:0.01乃至0.10質量%、Cd:0.01乃至0.10質量%及びIn:0.01乃至0.10質量%からなる群から選択された1種以上を含有することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
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