JP5732681B2 - 被験者のグラウンドナッツに対する寛容を増大させる免疫治療法 - Google Patents

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Description

発明の分野
本発明は、被験者のグラウンドナッツに対する寛容を増大させる新規免疫治療法に関する。特に、本発明は、被験者をグラウンドナッツに対して次第に脱感作させるための皮膚パッチ装置の使用を開示する。
発明の背景
ピーナッツアレルギーは、反応の持続性及び重度の点で、最も一般的かつ深刻な食物に対する即時型過敏反応の1つである。事実、このアレルギーは、全ての年齢群における大半の致命的及びほぼ致命的な食物関連アナフィラキシーに関与していると推測されている。このアレルギーの罹患率はここ十年で倍増し、現在では母集団の0.6%〜1.2%が罹患している(Sicherer et al., 2003)。
このアレルギーは、人生の初期に現れる傾向があり、アレルギーを有する小児の僅か20%しかピーナッツに対して寛容とならない(Skolnick et al., 2001)。一般に感作は消化管で起こるが、ピーナッツ又は交差反応性環境抗原、例えば花粉の吸入曝露による直接感作又は交差感作の結果として起こる場合もある。
ピーナッツにより誘起されるアレルギー反応は、厳密には、IgEにより媒介されるI型過敏反応である。IgE−アレルゲン複合体は、肥満細胞レセプターと架橋することにより、シグナル伝達カスケードを誘導し、この誘導によりピーナッツ過敏症の臨床症状を引き起こす様々なメディエーターの脱顆粒及び放出が最終的に起こる。
主なピーナッツアレルゲンは種子貯蔵タンパク質である。9つのピーナッツアレルゲン、すなわちAra h 1からAra h 9までが報告されているが(Burks et al., 1992; Burks et al., 1991; Rabjohn et al., 1999; Koppelman et al., 2005; Mittag et al., 2004; Becker et al., 2001, Lauer et al., 2008)、Ara h 1、Ara h 2、及びAra h 3が主なピーナッツアレルゲンとして分類されている。なぜなら、それらは一般にピーナッツアレルギー患者の50%超に認識されているからである(Koppelman et al., 2001)。
このアレルギーの予防的処置は回避からなるが、これは非常に困難である。なぜなら、食物産業ではピーナッツは広範に使用されておりしばしば正体を隠して使用されているからである。現在の薬物療法(抗ヒスタミン及び副腎皮質ステロイド)を使用することによりアレルギー性疾患の症状は減少させることができるが、アレルギー反応を予防することはできない。
免疫療法は、アレルゲンに対する感受性を低下させることにより、アレルギー性疾患の自然経過を改変し得る唯一の利用可能な処置である。免疫療法では、ある量のアレルゲンを投与して、抗原/アレルゲンに対する寛容を特徴とする免疫応答を次第に誘導し、これは脱感作としても知られる。この方法は、重度のアレルギー性IgE依存性反応を示す患者に特に適応される。
免疫療法は、90年超の間、行なわれたきたが、その正確な作用機序は依然として明らかになっていない。ヒトでは、その機序には、(i)肥満細胞及び好塩基球からの炎症性メディエーターの放出を阻害することにより、IgE媒介性機序を遮断し得る遮断抗体であるIgG、特にIgG4の増加、(ii)より良好なTh2/Th1プロファイル平衡をもたらす調節性T細胞(Treg)の増加、及び(iii)肥満細胞の炎症作用を打ち消し、IgG4の産生を促進するヒトサイトカイン合成抑制因子(CSIF)としても知られるIL−10を産生しているT細胞の産生が含まれる。
現在までに、免疫療法は、皮下、舌下、又は鼻腔内経路により投与することができた。
皮下免疫療法は、アレルギー患者により使用される最も一般的な処置である。それにも関わらず、この方法は極めて費用がかかり、各注射に専門の技能者が必要とされる。皮下免疫療法の主な欠点は、そのアレルギー副作用である。これらの副作用は、局所性の場合もあり、全身性の場合もある。皮下経路を使用したグラウンドナッツアレルギー免疫療法は、非常に頻度の高い有害な全身性反応(最大50%)を誘導することが実証された(Nelson et al., 1997 and Oppenheimer et al., 1992)。全身性副作用は、小さな皮下血管に何かの事情で注入されたアレルゲンにより、又は皮下血管に拡散したアレルゲンにより引き起こされる。アレルゲンは肺などの他の臓器又は皮膚の遠位部分に輸送される可能性があり、そこで喘息又は蕁麻疹を誘起する可能性がある。それらはまた、死をもたらし得るアナフィラキシーを引き起こす可能性もある。結果として、ピーナッツアレルギーなどの高いアナフィラキシーリスクを有するアレルギーは、皮下経路によっては処置できない。
舌下免疫療法は、皮下経路に対する有効な代替手段としてWHOにより認可され、免疫療法が必要でありアレルゲンの皮下投与経路を受け入れない全ての患者に使用されるべきである。しかしながら、舌下免疫療法に必要とされるアレルゲンの用量は、皮下免疫療法よりも多く、この方法は、口内そう痒、喉の刺激、舌もしくは喉の腫脹などのいくつかの局所的な有害作用を誘発することが時々ある。
鼻腔内免疫療法は、皮下経路に対する別の代替手段であり、これは季節性鼻炎及び喘息処置に効果があることが判明した(Hufnagl et al., 2008)。それにも関わらず、この経路は、一般に、患者の耐容性が十分ではなく、大半の患者は早期にその処置を中断する(Pajno et al., 2005)。
結果として、安全で効果的で患者の耐容性が十分である、グラウンドナッツアレルギー処置のための免疫治療法が必要とされる。
発明の要約
本発明は、グラウンドナッツアレルギーに対する新規な免疫治療法を提供する。より具体的には、本発明は、初めて、皮膚上経路を通して効果的なグラウンドナッツアレルギー免疫治療を行なうことができることを示す。
本発明は、被験者のグラウンドナッツに対する寛容を増大させる新規な免疫治療法を提供し、前記方法は、前記被験者に、グラウンドナッツ由来の1つ又は複数のタンパク質を、バッキングを含む皮膚パッチ装置により皮膚上経路を介して繰り返し投与することを含み、前記のバッキングの周辺は皮膚と共に密閉されたチャンバーを作るように適合されており、前記バッキングは、その皮膚に面する側上のチャンバー内に、皮膚へのパッチ装置の適用後に前記被験者において免疫反応を誘導するのに十分な用量の1つ又は複数のタンパク質を有しており、前記の1つ又は複数のタンパク質は皮膚へのパッチ装置の適用後にバッキングから移動し、その後、皮膚上経路を介して被験者に送達され、前記投与を繰り返すと、被験者のグラウンドナッツに対する寛容が次第に増加する。
第二の局面において、本発明は、バッキングを含む皮膚パッチ装置に関し、前記のバッキングの周辺は皮膚と共に密閉されたチャンバーを作るように適合されており、前記バッキングは、その皮膚に面する側上のチャンバー内に、皮膚へのパッチ装置の適用後に前記被験者において免疫反応を誘導するのに十分な用量のグラウンドナッツ由来の1つ又は複数のタンパク質を有しており、前記のグラウンドナッツ由来の1つ又は複数のタンパク質は皮膚へのパッチ装置の適用後にバッキングから移動し、その後、皮膚上経路を介して被験者に送達される。
別の局面において、本発明はまた、被験者のグラウンドナッツに対する寛容を増大させるための(増大させる組成物の製造における)、バッキングを含む皮膚パッチ装置(の使用)に関し、ここで前記のバッキングの周辺は皮膚と共に密閉されたチャンバーを作るように適合されており、前記バッキングは、その皮膚に面する側上のチャンバー内に、皮膚へのパッチ装置の適用後に前記被験者において免疫反応を誘導するのに十分な用量のグラウンドナッツ由来の1つ又は複数のタンパク質を有しており、前記のグラウンドナッツ由来の1つ又は複数のタンパク質は皮膚へのパッチ装置の適用後にバッキングから移動し、その後、皮膚上経路を介して被験者に送達される。
別の局面において、本発明はまた、複数の皮膚パッチ装置を含むパッチキットにも関し、前記の各々の装置はバッキングを含み、前記のバッキングの周辺は皮膚と共に密閉されたチャンバーを作るように適合されており、前記バッキングは、その皮膚に面する側上のチャンバー内に、皮膚へのパッチ装置の適用後に前記被験者において免疫反応を誘導するのに十分な量のグラウンドナッツ由来の1つ又は複数のタンパク質を有しており、前記のグラウンドナッツ由来の1つ又は複数のタンパク質は皮膚へのパッチ装置の適用後にバッキングから移動し、その後、皮膚上経路を介して被験者に送達される。キットの中の様々なパッチは、同じ又は異なる量のグラウンドナッツアレルゲンを含み得、これにより本発明の免疫治療法の経過中にアレルゲン用量を維持又は増加/減少させることが可能である。
本発明は、任意の被験者、特に小児及び成人を含む任意のヒト被験者に使用し得る。好ましくは、被験者はグラウンドナッツに対してアレルギー性である。
図1は、感作終了時(43日目)のマウス血清中の特異的IgE、IgG1、IgG2aレベルを示すグラフである。 図2は、経口PPEで感作させたマウスの再活性化脾臓細胞により分泌されたサイトカインを示すグラフである。経口感作BALB/cマウスの脾臓細胞を単離し、60時間かけてPPEを用いて生体外で再活性化させた。酵素イムノアッセイにより上清中のサイトカインを定量した。 図3は、経口誘発後の感作マウス及び対照マウスから得られた血漿試料中のヒスタミンレベルを示すグラフである。ヒスタミンは競合的EIAとしてアッセイした。 図4は、足蹠への1回のピーナッツタンパク質による誘発から24時間後に測定し、足蹠腫脹の平均増大量として表現したDTH応答を示すグラフである(SEM)。Init.:PPE又はPBSの注射前の足蹠の測定値。PBSは右足蹠に、PPEは他方の足蹠に注射した。各足蹠の腫脹は、注射から24時間後に測定した。 図5は、PPE製剤の電気泳動パターン(変性及び還元条件)を示す。 図6は、皮膚上経路(EP)により脱感作された対照マウス及び感作マウス又は非処置(NT)における特異的IgE濃度を示すグラフである。結果は、平均(μg.ml−1)+/−SDとして表現する。 図7は、皮膚上経路(EP)により脱感作された対照マウス及び感作マウス又は非処置(NT)における特異的IgG2aの濃度を示すグラフを示す。結果は、平均(μg.ml−1)+/−SDとして表現する。 図8は、脱感作群(EP)、非処置マウス(NT)及び対照(C)のIgG1/IgG2a比を示すグラフを示す。結果は、脱感作から8週間後及び16週間後に示される。 図9は、皮膚上経路(EP)により脱感作された対照マウス及び感作マウス又は非処置(NT)の経口誘発後の血漿試料中のヒスタミン濃度を示すグラフを示す。結果は、平均(nM)+/−SDとして表現する。*p<0.05、**p<0.001、***p<0.001。 図10は、PPE製剤で処置(EP)又は非処置(NT)のマウス及び対照における血清試料中のピーナッツ特異的IgAの濃度を示すグラフを示す。感作マウス(W0)及び脱感作から8週間後(W8)及び16週間後(W16)の結果を、450nmの吸光度(OD)で表現する。*p<0.05、**p<0.001、***p<0.001。
発明の詳細な説明
本発明は、皮膚上投与を使用して、被験者のグラウンドナッツ寛容を増大させる免疫治療法に関する。この方法は、アレルゲンが皮膚を通過して血流に入ることが示されていないことを考えると、患者にとって特に安全である。従って、このアプローチにより、重度のアレルギー患者を、免疫療法プロトコールの最中の全身性反応又はアナフィラキシー反応という重要なリスクから回避することができる。更に、本発明者らにより得られた結果により、本発明に記載の皮膚上経路を通じたグラウンドナッツに対する脱感作は、他の投与経路、特に皮内経路を使用して脱感作したのと少なくとも同程度に効果的であることが示されている。
特に、本発明により、本発明に記載のグラウンドナッツアレルゲンの皮膚への適用により誘発される特異的免疫反応は、被験者の免疫系の改変を誘導し、被験者のグラウンドナッツに対する寛容を次第に増加させることが示される。
本発明の免疫治療法は、特定のパッチ装置を使用した皮膚上経路を介して被験者にグラウンドナッツアレルゲン組成物を投与し、寛容をもたらすことを含む。
本明細書に使用したような用語「皮膚上経路」は、皮膚上へのこのアレルゲンの適用により、被験者にアレルゲンを投与することを意味する。皮膚上経路は、穿孔するための又は表皮の表層の完全性を変化させるための、針、シリンジ、又は任意の他の手段の使用を必要としない。アレルゲンは、アレルゲンが表皮の角質層に浸透することができるのに十分な時間及び十分な条件下で皮膚との接触が維持されている。この拡散によりランゲルハンス細胞の移動及び活性化が誘発され、これにより免疫反応が促進される。
用語「寛容」は、本明細書において、特定のアレルゲン、本明細書ではグラウンドナッツアレルゲンに対する被験者の免疫反応性の低下として定義される。
本明細書で使用される用語「グラウンドナッツ」又は「ピーナッツ」は、マメ科Fabaceaeの中の種、例えばArachis種を意味する。ピーナッツは、アースナッツ(earthnuts)、グーバーズ(goobers)、グーバー・ピーズ(goober pea)、ピンダズ(pindas)、ジャックナッツ(jack nuts)、ピンダーズ(pinders)、マニラナッツ(manila nuts)及びモンキーナッツ(monkey nuts)としても知られている。
本明細書に使用される用語「グラウンドナッツアレルゲン」とは、アレルギー反応を誘起できるグラウンドナッツ由来の任意のタンパク質又はペプチドのことをいう。このアレルゲンは、天然又は自然アレルゲン、改変された天然アレルゲン、合成アレルゲン、組換えアレルゲン、アレルゴイド、及びその混合物もしくは組合せから選択され得る。好ましくは、選択されたアレルゲンは、IgEにより媒介される即時型過敏症を引き起こすことができる。用語「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」は、本明細書において同義語として使用され、アミノ酸残基のポリマーのことをいう。この用語は、1つ又は複数のアミノ酸残基が、改変された残基、又は天然に存在しない残基、例えば対応する天然に存在するアミノ酸の人工化学模倣体であるアミノ酸ポリマー、並びに、天然に存在するアミノ酸ポリマーに適用される。
本明細書において、用語「グラウンドナッツに由来するタンパク質」とは、グラウンドナッツから得ることができるか、又は、グラウンドナッツから得られるタンパク質の一部もしくは配列を含む、任意のタンパク質のことをいう。特定の態様において、タンパク質は種子貯蔵タンパク質から選択される。好ましくは、タンパク質は、Arachis hypogaea由来のAra h 1、Ara h 2、Ara h 3、Ara h 4、Ara h 5、Ara h 6、Ara h 7、Ara h 8及びAra h 9から選択される。最も好ましい態様において、グラウンドナッツ由来のタンパク質は、少なくともAra h 1、Ara h 2又はAra h 3又はそのアイソフォームを含む。Ara h 1、Ara h 2及びAra h 3のアミノ酸配列は当業者に公知である。例として、Ara h 1タンパク質、2つのAra h 2アイソフォーム及び2つのAra h 3アイソフォームのGenbankアクセッション番号は、それぞれ、AAL27476、AAM78596、AAN77576、AAT39430及びAAC63045である。これらのタンパク質は、グラウンドナッツ抽出物から得ることができるか、あるいは、組換え生物、例えば遺伝子的に改変された細菌、酵母により、又は当業者には公知の任意の他の方法により産生され得る。これらのタンパク質は、組み合わせて又は別々に使用できる。用語「グラウンドナッツ由来タンパク質」にはまた、前記抗原の断片もしくは変異体、例えばエピトープ含有断片、又はグラウンドナッツから得られその後に酵素的に、化学的に、機械的に、もしくは熱的に改変されたタンパク質も含まれる。
特定の態様において、グラウンドナッツアレルゲン組成物は、グラウンドナッツ由来の1つ又は複数のタンパク質を含む。
別の態様において、グラウンドナッツアレルゲン組成物は、グラウンドナッツ由来の他のタンパク質と場合により併用された、Ara h 1、Ara h 2及びAra h 3から選択されたグラウンドナッツ由来の1つ又は複数のタンパク質を含む。
別の態様において、グラウンドナッツアレルゲン組成物は、グラウンドナッツ由来のタンパク質源としてグラウンドナッツ抽出物を含む。
グラウンドナッツ抽出物とは、グラウンドナッツから得られる任意の調製物(溶解液、ろ液、ホモジネートなど)のことをいう。グラウンドナッツ抽出物は直接使用しても、又は、この抽出物からグラウンドナッツアレルゲンを少なくとも部分的に精製してもよい。この精製工程には、ろ過、遠心分離、沈降又は当業者には公知の任意の他の技術が含まれ得る。好ましくは、グラウンドナッツに由来し被験者に投与されるタンパク質は少なくとも部分的に精製されている。
1つの態様において、グラウンドナッツアレルゲン組成物は、液体形態、例えば溶液又は粒子分散液である。その場合、効果的な皮膚上投与は、アレルゲンが表皮の角質層へと浸透できるように、アレルゲン組成物の液相から皮膚へとアレルゲンが移動することにより行なわれる。特定の態様において、アレルゲン組成物の液相からのアレルゲンの移動は、密閉されたチャンバー内で、例えば発汗の結果として形成された凝縮液を通じてアレルゲンが拡散することにより行なわれる。
別の態様において、グラウンドナッツアレルゲン組成物は、例えば凍結乾燥により得られた、乾燥形態、特に粒子形態である。本発明により実際に、グラウンドナッツに対する効果的な寛容は、固体(例えば乾燥)形態のグラウンドナッツアレルゲン調製物を使用することにより達成できることが示される。粒子形態のタンパク質の使用が有利である。実際に、このような粒子状アレルゲンは装置のバッキングに直接付着し得、これによりこれらのタンパク質の免疫原性を妨害し得るあらゆる化学的相互作用又はあらゆる反応が回避される。更に、粒子の使用により、適切なパッケージングで物質を保存することが可能となり、これによりもはや即時調製を行なう必要がなくなる。この場合、パッチのバッキングに保たれるグラウンドナッツアレルゲンの皮膚上投与は、これらのアレルゲンが、密閉されたチャンバー内で形成された凝縮液に溶解されることにより行なわれ得る。
各態様において、密閉されたチャンバー内に存在する凝縮液は、皮膚により分泌される凝縮された汗に由来し得る。
本明細書に使用される用語「発汗(perspiration)」、「発汗(sweating)」又は「蒸散(transpiration)」は、哺乳動物の皮膚の汗腺により分泌される液体の産生を意味する。この液体は、主に水を含むが、また様々な溶解したミネラル及び微量元素も含んでいる。本発明において、皮膚により分泌される汗は、密閉されたチャンバー内で蒸発し凝縮される。
用語「凝縮」とは、本明細書において、気相から液相への物体の物理的状態の変化、特に、蒸発した汗から液相への変化のことをいう。皮膚へのパッチ装置の適用後にチャンバー内に発汗により形成される凝縮液は、アレルゲンの皮膚上への移動及び送達を引き起こすか、又はそれを増強する。事実、アレルゲンは、凝縮された汗に含まれる水に溶解され得、その後、皮膚上経路を介して被験者に送達され得る。
アレルゲン組成物は、更に、追加の成分、例えばアジュバントを含んでいてもよい。
ある態様において、本発明に使用されるグラウンドナッツアレルゲン組成物は、全くアジュバントを使用せずに製剤化されている。本発明により実際、グラウンドナッツ免疫療法は、追加のアジュバントを必要とすることなく、皮膚上経路を通じて達成できることが示される。
別の態様において、本発明に使用されるグラウンドナッツアレルゲン組成物は、アジュバントを含むか、又はアジュバントと共に適用される。本発明の構成の中で、アジュバントとは、特異的抗原と併用して使用された場合に抗原特異的免疫応答を活性化、促進、延長、又は増強するように作用する任意の物質のことをいう。グラウンドナッツアレルゲンと併用して使用できるアジュバント化合物には、ミネラル塩、例えばリン酸カルシウム、リン酸アルミニウム、及び水酸化アルミニウム;免疫刺激性DNA又はRNA、例えばCpGオリゴヌクレオチド;タンパク質、例えば抗体又はToll様レセプター結合タンパク質;サポニン、例えばQS21;サイトカイン;ムラミルジペプチド誘導体;LPS;MPL及び3D−MPLを含む誘導体;GM−CSF(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子);イミキモド;コロイド状粒子;完全又は不完全フロイントアジュバント;Ribiアジュバント又は細菌性毒素、例えばコレラ毒素又はエンテロトキシン(LT)が含まれる。特定の態様において、グラウンドナッツアレルゲン組成物は、エンテロトキシンと共に製剤化される。
本発明の方法に使用される皮膚パッチ装置はバッキングを含み、前記のバッキングの周辺は、皮膚と共に密閉されたチャンバーを作るように適合されている。このバッキングは、その皮膚に面する側上のチャンバー内に、免疫反応の誘導に使用されるグラウンドナッツアレルゲン組成物を有する。
本明細書に使用される用語「密閉されたチャンバー」は、パッチのバッキングが湿気に対して不浸透性であり、このバッキングの周辺が閉塞性バリアを構成し、これにより閉じた空間を規定していることを意味する。このチャンバーの湿気に対する不浸透性は、前記チャンバー内の湿気の作用を通じて、例えば溶解又は抽出により、アレルゲンがバッキングから移動し、その後、被験者に送達されるのに必要である。パッチの効力は、アレルゲンが溶液中又は懸濁液中にある液相が作られることにより大きく調整され、従って孔を通したその通過が促進される。
本明細書で使用される用語「湿気」は、液相又は蒸気相のいずれか中の水又は他の液体の存在を意味する。
好ましくは、バッキングの周辺は接着特性を有し、空気漏れがないタイプのジョイントを形成することにより、皮膚と共に密閉されたチャンバーを作る。
特定の態様において、グラウンドナッツアレルゲンは、バッキング上に静電気力及び/又はファンデルワールス力により維持されている。この態様は、特に、グラウンドナッツアレルゲンが固体形態(例えば粒子)である場合に特に適しているが、アレルゲンが液体形態である場合にも間接的に使用され得る。
本発明の構成の中で、用語「静電気力」とは、一般に、電荷が関与するあらゆる非共有結合的な力のことをいう。用語ファンデルワールス力とは、バッキングの表面と固体アレルゲンとの間に作られた非共有結合的な力のことをいい、これには3種類存在し得る:永久的双極子力、誘起双極子力、及びロンドン−ファンデルワールス力。静電気力及びファンデルワールス力は、別々に又は一緒に作用し得る。
この点において、好ましい態様において、パッチ装置は、静電気的バッキングを含む。本明細書に使用される表現「静電気的バッキング」とは、静電荷を蓄積でき、そして/又は例えば擦る、加熱するもしくはイオン化することによりファンデルワールス力を生成することができ、そしてこのような荷電を保存することができる材料から作られた、任意のバッキングのことをいう。静電気的バッキングには、典型的には、均一に又は不均一に分散され得る、空間荷電を有する表面が含まれる。バッキングの表面の一方側又は他方側に出現する荷電は、前記バッキングを構成する材料、及び荷電を作るのに使用される方法に応じて、陽性又は陰性であり得る。全ての場合において、バッキングの表面上に分布される陽性又は陰性荷電は、伝導性又は非伝導性材料上で誘引力を引き起こし、これによりアレルゲンを維持することができる。粒子はまたイオン化されていてもよく、これにより粒子とバッキングとの間に同じ種類の静電気的誘引力を引き起こし得る。
静電気的バッキングを与えるに適した材料の例は、ガラス、又は、セルロースプラスチック(CA、CP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリビニルクロリド(PVCs)、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアクリル、特にポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、及びフルオロポリマー(例えばPTFE)を含む群から選択されたポリマーである。前記のリストは、いずれにしても限定するものではない。
バッキングの背面は、標識で覆われていてもよく、これは適用直前に剥がし得る。この標識により、例えば、バッキングが少なくとも部分的に半透明である場合に暗闇でグラウンドナッツアレルゲンを保存することが可能となる。
表面と粒子との間の力の強度は、湿気の存在に起因する薄い水膜の存在により増強又は低下され得る。一般に、パッチは乾燥した場所で作製され保存される。湿気は活性成分を保存できるに十分なほど低くすべきである。湿気の程度は、最大の接着力を得るために調節することができる。
前記に考察したように、静電気的バッキングの使用は、アレルゲンが乾燥形態、例えば粒子形態の場合に特に有利である。更に、粒子サイズは、静電気力及び/又はファンデルワールス力の効力を向上させ、粒子を支持体上に維持するように当業者により調整され得る。好ましくは、粒子サイズは、1〜60μmの範囲内である。
具体的な態様において、パッチは、ポリマー性又は金属性又は金属でコーティングされたポリマー性のバッキングを含み、グラウンドナッツアレルゲンの粒子は、本質的にファンデルワールス力によりバッキング上に維持されている。好ましくは、ファンデルワールス力により支持体上に粒子を維持するために、粒子の平均サイズは60μmより小さい。
別の態様において、グラウンドナッツアレルゲンは、バッキング上に、バッキング上の接着性コーティングにより維持されている。バッキングは、接着性材料で完全に覆われていても、又は部分的に覆われていてもよい。様々な閉塞性バッキング、例えばアルミニウムでコーティングされたポリエチレン又はPETフィルム、又は接着層(アクリル、シリコンなど)を有するPE、PVCもしくはPET泡状物を使用することができる。
粒子形態のグラウンドナッツアレルゲン組成物は、噴霧乾燥工程、例えばフランス特許出願第0850406号に記載の電子スプレー工程によりバッキング上に負荷され得る。電子スプレー装置は、液体を微細エアゾールに分散するために高い電圧を使用する。次いで、溶媒に溶解されたアレルゲンをパッチバッキング上に微粉砕させ、そのパッチバッキング上で溶媒が蒸発し、アレルゲンが粒子形態で残る。溶媒は、所望の蒸発時間に応じて、例えば、水又はエタノールであり得る。当業者により他の溶媒も選択され得る。パッチバッキング上に物質を適用するこの種類の工程により、粒子が規則的に均一に再分配されたナノサイズで単一サイズの粒子がバッキング上に存在することが可能となる。この技術は、絶縁性ポリマー、ドープポリマー、又は伝導層で回復されたポリマーを含むバッキングを有するパッチなどの、任意の種類のパッチに適合される。好ましくは、バッキングは、伝導性材料を含む。
別の態様において、バッキングの周辺は、湿気を含む皮膚との接触により、接着性ヒドロゲル膜を形成することのできる、乾燥親水性ポリマーで覆われている(フランス特許出願第0757970号に記載)。この態様においては、皮膚は、パッチの適用前に加湿されていなければならない。ヒドロゲルが湿気のある皮膚と接触すると、ポリマー粒子は液体を吸収し、接着性となり、これによりパッチが皮膚に適用されると密閉されたチャンバーを作る。このようなヒドロゲルの例には、ポリビニルピロリドン、Naのポリアクリレート、コポリマーエチルメチルビニル及び無水マレイン酸が含まれる。
別の特定の態様において、液体グラウンドナッツアレルゲン組成物は、パッチの支持体上の吸着材料の貯蔵所に保持されている。前記組成物は、アレルゲン溶液又はアレルゲン分散液、例えばグリセリン分散液から成り得る。吸着材料は、例えば酢酸セルロースから成り得る。
バッキングは、構成材料に応じて、強剛性であっても又は柔軟性であってもよく、親水性であっても又は親水性でなくてもよく、半透明であっても半透明でなくてもよい。ガラスの場合、支持体は、プラスチックシートをガラスに結合させることにより破壊抵抗性となっていてもよい。
1つの態様において、パッチのバッキングは、パッチを必ずしも取り外す必要のない、炎症反応を直接観察し制御するこことのできる透明ゾーンを含む。適切な透明材料には、ポリエチレンフィルム、ポリエステル(ポリエチレン−テレフタレート)フィルム、ポリカーボネート、及びあらゆる透明もしくは半透明な生体適合性フィルムもしくは材料が含まれる。
特定の態様において、アレルゲンを有するバッキングの一部は、皮膚と直接接触していない。この態様において、バッキング、バッキングの周辺及び皮膚により規定されるチャンバーの高さは、0.1mmから1mmの範囲内である。
本発明の方法は、典型的には、前記に開示したような被験者への1つ又は複数のグラウンドナッツアレルゲンの反復投与を行ない、被験者の寛容が次第に増大することを含む。
アレルゲンの具体的な用量並びに適用回数及び接触時間は、被験者、アレルゲン調製物の性質、使用されるパッチ装置の種類などに応じて当業者により適合され得る。
一般に、前記方法には、1週間から数年間におよぶ期間の間、前記に開示したような少なくとも2回、好ましくは少なくとも3、5、10又は15回のパッチ装置の適用が含まれる。処置は、任意の時点で、例えば一旦効果的な寛容が確立された時点で中止してもよい。
1つの態様において、本発明の方法には、1カ月から数年間の期間におよぶ、少なくとも1週間に1回、1日あたり1〜4回のパッチの反復適用が含まれる。好ましい態様において、本発明の方法には、1カ月から数年間の期間におよぶ、毎日又は少なくとも1週間に1回の、1日あたり1回のパッチの適用が含まれる。各適用における皮膚とパッチの接触時間は、1〜24時間の範囲内、好ましくは約8時間である。
各パッチ上のグラウンドナッツアレルゲンの量は、典型的には、0.1〜1000μg/cm(パッチ表面)、好ましくは20〜500μg/cm(パッチ表面)、より好ましくは20〜200μg/cm(パッチ表面)の範囲内である。パッチ表面は、1cm〜10cmの範囲内、好ましくは1cm〜5cmの範囲内である。
適用では、パッチ装置は、皮膚上に、あらゆる前処置をせずに、好ましくは身体の毛のない部分に直接適用し得る。又は、皮膚を、装置の適用前に処置することにより角質層を破壊し、毛を除去するか、あるいは、単にパッチ装置との接触部位における皮膚を水和させてもよい。被験者のグラウンドナッツに対する寛容を効果的に増大させるために、グラウンドナッツアレルゲンは、好ましくは、被験者における免疫反応を誘導するのに十分な用量で投与される。
この免疫反応は、局所血管系及び免疫系の関与する生化学事象カスケードへと至る炎症反応を含み得る。炎症反応は、紅斑(炎症反応の最初の臨床要素)の形態で、又は局所性浮腫(炎症反応の別の成分)の存在も示す丘疹の形態でいずれも中等度である。皮膚上経路を介してグラウンドナッツアレルゲンの適用により誘発された炎症反応は、眼に見える場合もあり、又は肉眼では見えない場合もある。
実験章に開示されているように、本発明の方法により、特異的IgEレベルは低下し、いくつかの特異的IgGレベルは、特にIgG4レベルは増加し、グランドナッツに対する寛容は次第に増加する。用語「特異的Ig」は、本明細書において、被験者がアレルギーとなる少なくとも1つのアレルゲンに対して特異的である免疫グロブリンのことをいう。好ましい態様において、これらの免疫グロブリンは、グラウンドナッツに由来する少なくとも1つのタンパク質、特にAra h 1、Ara h 2又はAra h 3又はそのアイソフォームに特異的である。
本発明の方法によりまた、優性Th2プロファイルからより平衡のとれたTh1/Th2プロファイルへの免疫変動が起こる。別の言葉で言えば、本発明の方法は、投与されるタンパク質に対するTh1応答の上昇を引き起こす。Th1及びTh2細胞は、サイトカイン産生パターンが異なる、2種類のCD4+ヘルパーT細胞である。Th1細胞は、IFN−γ、IL−2及びTNF−βを産生し、そして、細胞外病原体及び悪性細胞に対する宿主防御においては有益であるが、自己免疫を媒介する際には有害である、細胞性免疫応答に関与している。Th2細胞は、IL−4、IL−5、IL−9、IL−10及びIL−13を分泌しているが、これらは抗体応答(IgE産生を含む)を増加させ、寄生虫侵襲に対して保護するが、アレルギー及び喘息も引き起こし得る。Th1及びTh2応答は相互に拮抗性であり、それらは通常は平衡がとれており、互いに相互調節している。アレルギー性被験者では、Th1/Th2の平衡が変化し、Th2のプロファイルが優性である。優性Th2プロファイルからより平衡のとれたTh1/Th2プロファイルへの免疫変動は、アレルギー状態から寛容状態への変動を意味する。この変動は、Treg細胞の増加により媒介されるが、これは当業者に公知の任意の方法により、例えばIgG1/IgG4比の低下又はサイトカイン産生解析により評価することができる。
好ましい態様において、本発明の方法には、全身性作用がない。炎症反応は、被験者の皮膚上の、皮膚上投与部位のみに、又はこの部位のすぐ周辺のみに観察されるようである。この炎症反応は、バッキングに負荷されたアレルゲンの用量によりモジュレーションされ得る。
本発明はまた、バッキングを含む、前記したような皮膚パッチ装置を提供し、前記のバッキングの周辺は、皮膚と共に密閉されたチャンバーを作るように適合されており、前記バッキングは、その皮膚に面する側上のチャンバー内に、皮膚へのパッチ装置の適用後に被験者の皮膚において免疫反応を誘導するのに十分な用量の、本明細書に記載した1つ又は複数のグラウンドナッツアレルゲンを有しており、前記の1つ又は複数のアレルゲンは皮膚へのパッチ装置の適用後にバッキングから移動し、その後、皮膚上経路を介して被験者に送達される。
本発明はまた、グラウンドナッツアレルギー被験者のグラウンドナッツに対する寛容を増大させる組成物の製造における、前記した皮膚パッチ装置の使用にも関する。
本発明はまた、グラウンドナッツアレルギー被験者のグラウンドナッツに対するTh1型免疫応答を増大させる組成物の製造における、前記した皮膚パッチ装置の使用にも関する。
本発明はまた、前記した複数のパッチを含むパッチキットにも関し、前記キットのパッチは、同じ又は異なる量のグラウンドナッツアレルゲンを含む。また、キットのパッチに使用されるアレルゲン組成物は、同じであっても異なっていてもよい。例えば、様々なグラウンドナッツタンパク質を、アジュバントと共に、又はアジュバントの非存在下で使用することができる。好ましくは、同じ組成物が、脱感作処置の経過を通じて使用される。
以下の実施例は、説明のために示されており、限定するために示されているのではない。
実施例
方法
動物及びタンパク質抽出物
Charles River Laboratories(France)から購入した4週齢の雌BALB/cマウスをピーナッツタンパク質に対して感作させた。ピーナッツタンパク質に対するマウス感作モデルとしてのBALB/cマウスの使用は、Adel-Patient et al., 2005に記載されていた。このモデルは、誘発時にアレルギー性ヒトにおいて観察されるようなIgEの微細な特異性及び症状を復元するはずである。全ての実験は、動物介護に関する欧州委員会規則(European Community rules of animal care)に従って行なわれた。
ピーナッツ抽出物は、室温で4時間、1M NaClを含む20mMリン酸緩衝液pH7.4中でピーナッツ粉末(Allergon、Sweden)を混合することにより調製された。遠心分離後、上清をピーナッツタンパク質抽出液(PPE)として保持した。次いで、PPEを透析し、タンパク質含量をBCAアッセイにより定量し、SDS PAGEにより解析した。エンドトキシンレベルは、0.06ng/mlより低かった(E-toxateキット、Sigma、France)。
感作プロトコール
8匹のBALB/cマウスに、胃管栄養法により1、6、12、18、24、30日目に、10μgのコレラ毒素(CT)と混合した1mgのホモジナイズしたPPEを投与した。血清を0、18及び43日目に後眼窩静脈神経叢から回収し、遠心分離にかけ、試料を更なるアッセイにかけるまで−20℃で保存した。ナイーブなマウスを同じ日に採血した(n=8)。感作を、前記で定義したような生物学的パラメーターによりモニタリングした。
脱感作プロトコール
脱感作は、以下のように皮膚上(EP)経路を介して、8〜16週間の間に1週間に1回行なった。
マウスにケタミン及びキシラジンを用いて腹腔内麻酔をかけ、電気はさみ及び脱毛クリームを用いて剃った。次の日、乾燥形態の100μgのPPEを有するバッキングを含む皮膚パッチ装置(前記バッキングの周辺は皮膚と共に密閉されたチャンバーを作るように適合されている)をマウスの背中に配置し、48時間包帯で維持した。
アレルゲンによる誘発及びヒスタミン放出の定量
マウスを一晩断食させ、30分間の間隔で2回の用量に分割した1匹あたり10mgのPPEを用いて胃管栄養法によりチャレンジさせた。ナイーブなマウスも同じようにチャレンジさせた。血漿中ヒスタミンレベルを決定するために、2回目の胃管栄養法による誘発から30分後に血液を回収し、解析するまで−20℃で保存した。ヒスタミンレベルは、製造業者により記載のように酵素イムノアッセイキット(SPI-BIO, France)を使用することにより決定した。
特異的IgE、IgG1、IgG2aの定量
血液試料を、免疫療法前及び最中に後眼窩神経叢から回収し、血漿を更なる解析まで−30℃で保存した。
ICHガイドラインを使用して検証された定量的ELISAを、特異的IgE、IgG1及びIgG2aに使用した。簡潔には、マイクロタイタープレートを、10μg/mlの濃度のPPE作用物質でコーティングした。1ウェルあたり100μlの各血清の連続希釈液を分注し、24時間4℃でインキュベートした。アルカリホスファターゼ(Serotec, England)で標識された抗マウスIgG1又はIgG2a抗体をトレーサーとして使用した。試薬(pNPP)(Sigma, France)を酵素基質として使用した。特異的IgE、IgG1及びIgG2aを、トレーサーに相補的である、ピーナッツタンパク質の代わりに抗マウスIgE、IgG又はIgG2a抗体(Serotec, England)でコーティングされた固相を使用して同一条件下で行なった全IgE、IgG1又はIgG2aアッセイで得られた濃度−応答曲線と比較することにより定量した。マウス免疫グロブリン標準物質は、Serotecから入手した。
IgAアッセイ
血清試料中の特異的IgAを決定した。0.1%BSAを含むPBS緩衝液中に希釈した血清(1/50)を、10μg.ml−1のPPEでコーティングしたプレート上でインキュベートした。特異的IgAを、アルカリホスファターゼで標識したヤギ抗マウスIgA(Southern Biotechnology Associated, USA)を使用して検出し、前記のように検出した。結果を、405nmでの吸光度単位として報告する。
サイトカイン産生
前回の血液試料採取後に、マウスを椎骨脱臼により殺滅し、脾臓を滅菌条件下で収集した。細胞培養を、PPE(2.5〜250μg.ml−1)、PBS(陰性対照)又はコンカナバリンA(1μg.ml−1、陽性対照)の存在下で行なった。IL−4、IL−5、IL−10、IFNγ及びTGFβを、製造業者の指示に従って、CytoSetTMキット(BioSource International Europe, Belgium)を使用してアッセイした。
遅延型過敏症応答(DTH)
DTH応答を誘起するために、マウスを、前回の経口での免疫化の後に、100μgのピーナッツタンパク質のPBS溶液を後ろ足蹠に注射することによりチャレンジさせた。PBSを他の足蹠に注射した。両方の足蹠の正味の腫脹を、誘発から24時間後にマイクロキャリパー(microcalliper)を使用して測定し、互いに比較した。
統計学的解析
グラフパッド(Graph Pad)ソフトウェア(San Diego, USA)を統計学的解析に使用した。データは、処置マウスを対照と比較する場合には分散分析(ANOVA)及びダネット検定を使用し、又は全ての群を互いに比較する場合にはANOVA及びチューキー検定を使用して解析した。
結果
予所見
マウス及びヒトにおける免疫系の解明、並びにTh1及びTh2応答などの機序のその類似性及び差異の研究は、依然として進行中である。皮膚上免疫療法の概念実証として開発されたモデルを評価するために、ヒト及びマウスにおける主なアレルギー性バイオマーカー及びその解釈に関するいくつかの要素、特にTh1/Th2の平衡に関する要素が提供される。
肥満細胞の脱顆粒:ヒトにおけるIgEは、肥満細胞の脱顆粒及びその後のアナフィラキシーの顕現を直接的に引き起こす唯一の免疫グロブリンアイソタイプであり、一方、マウスでは、肥満細胞の脱顆粒は、IgEと共にIgG1により引き起こされる。
IgG抗体の産生:ヒトにおいて、IgG抗体、主にIgG4サブタイプの産生は、IgEによる抗原認識により引き起こされるアレルギー性炎症カスケードに拮抗し「遮断」することができる。マウスでは、それに等価な抗体は記載されておらず、Th2からTh1プロファイルへのスイッチは、IgG2a抗体の増加からなる。
ヒトにおいて、Th2細胞においてはIgE及びIgG4の産生が刺激されるが、一方、Th1細胞においてはIgG1及びIgG3の産生が刺激される。
マウスでは、Th2細胞においてはIgE及びIgG1の産生が刺激されるが、一方、Th1細胞においてはIgG2a及びIgG3の産生が刺激される。
まとめると、マウスモデルにおいては、免疫療法の効力は、本質的に、特異的IgG2aの増加により評価した。
1.感作の検証
1.1 感作中の特異的IgE、IgG1、IgG2a
経管栄養によりPPEを投与した後にBALB/cマウスにおいて誘導されたPPE特異的抗体を解析した。マウスにおけるピーナッツ感作は、図1に示されるように特異的IgE及びIgG1の産生により特徴づけられた。IgG2aもまた産生されたが、特異的IgG1よりも低い程度であった。ナイーブマウスでは特異的抗体は全く検出されなかった。
1.2 インビトロで脾臓細胞を再活性化した後に分泌されたサイトカイン
CTとPPEで感作したマウス由来の脾臓細胞は、多量のアレルゲン特異的IL−4及びIL−5、並びに少量のIL−10、IFNγ及びTGFβを分泌した(図2)。対照マウスではサイトカインは全く見出されなかった。これらの結果により、PPE特異的Th2応答が、経管栄養によりピーナッツタンパク質の投与を受けたBALB/cマウスにおいて誘導されたことが実証された。
1.3 経口チャレンジ後のヒスタミンレベル
ヒスタミンレベルの上昇は肥満細胞の脱顆粒を反映し、アナフィラキシー反応の主なメディエーターの1つであるので、経口チャレンジ後の血漿中のヒスタミンをアッセイした。感作マウス由来の血漿試料のみにしかヒスタミンは検出できなかった(図3)。
1.4 遅延型過敏症(DTH)
ピーナッツタンパク質に対するマウスの感作を示す以前の結果を完了させるために、DTH応答を調べた。足蹠チャレンジを感作終了時に行ない、感作マウスのみに腫脹が実証された(図4)。PBSで処置した足蹠にはDTH応答は全く見られなかった。
2.ピーナッツ免疫療法
2.1 免疫療法用の製剤
免疫療法に使用される製剤のタンパク質含量は、SDS−PAGEにより特徴づけられた(図5)。
2.2 免疫療法中の特異的IgE、IgG1、IgG2a
IgE及びIgG1:ピーナッツによる感作は、特異的IgE及びIgG1の産生により特に特徴づけられた。免疫療法中、特異的抗体の発生がモニタリングされた。図6に示されるように、特異的IgEの産生は、脱感作の8週間から16週間の間に安定化した。特異的IgEの減少は、長期間の過程であり、これは数カ月後にしか観察できない。更に、免疫療法中に、特異的IgG1の改変は全く観察されなかった(データは示さず)。
IgG2a:特異的IgG2aは、脱感作の8週間後及び16週間後に処置マウスにおいて有意に増加した(図7)。
優性Th2プロファイルから平衡のとれたTh2/Th1プロファイルへの免疫変動を確認するために、IgG1/IgG2aの比を、各群(EP脱感作、NT及び対照)について評価した(図8)。IgG1/IgG2aの比は、処置されたマウスでしか減少せず、この処置マウスではTh1プロファイルの高まりを示し、より平衡のとれたTh2/Th1プロファイルが得られた。
2.3 ヒスタミン
ヒスタミンは、アナフィラキシー反応の主要なメディエーターの1つである。肥満細胞の脱顆粒マーカーとして経口誘発から30分後に回収された血漿試料中のヒスタミンをアッセイした。脱感作から16週間後に、ヒスタミン放出を、各群のマウスについて定量した(処置又は非処置)(図9)。PPEで皮膚上処置したマウスは、ヒスタミンの放出が有意により少ないことが示された。この結果により、マウスのアレルギー状態の改善が確認された。
2.4 免疫療法中の特異的IgA
特異的IgAのタイトレーションを、脱感作から8週間後に血清試料で行なった(図10)。特異的IgAは、脱感作から8週間後にPPEで皮膚上経路により処置したマウスにおいて有意に増加していた。非処置マウスでは改変は全く観察されなかった。特異的IgAは、対照マウスでは検出できなかった。
特異的IgAは、免疫療法中にIgG4と類似した作用を有すると記載されている。その免疫変調作用により、IL−10産生及びTGFβの発現がもたらされ得る(Francis et al., 2008)。
結論
皮膚上経路は、ピーナッツ感作マウスに対する、強力かつオリジナルな脱感作法を示す。
皮膚上脱感作により、優性Th2プロファイルから再度平衡のとれたTh2/Th1プロファイルへの免疫変動と、特異的IgAの増加が起きた。アレルギー原性(肥満細胞の脱顆粒)のマーカーとしてのヒスタミン放出は、皮膚上経路により処置されたマウスにおいて減少していた。
Figure 0005732681

Claims (15)

  1. グラウンドナッツにアレルギーの被験者におけるグラウンドナッツに対する寛容を増大させることにおける使用のためのグラウンドナッツアレルゲン組成物であって、前記組成物は、アジュバント無しに、乾燥形態の、ARAh1、ARAh2及びARAh3又はそのアイソフォームから選択される1つ又は複数のタンパク質を含み、前記組成物は、バッキングを含む皮膚パッチ装置により皮膚上経路を介して前記被験者に反復して投与され、前記のバッキングの周辺は、皮膚と共に密閉されたチャンバーを作るように適合されており、前記パッチは、皮膚の前処置無しに皮膚に直接適用され、そして前記パッチは、皮膚へのパッチ装置の適用後に前記被験者の皮膚上の炎症反応を誘導し制御するのに十分な、パッチ表面の20〜200μg/cm 用量の前記組成物を含み、前記投与を繰り返すと、被験者のグラウンドナッツに対する寛容が次第に増加する、組成物。
  2. 前記組成物は、グラウンドナッツ抽出物又は精製されたグラウンドナッツタンパク質を含む、請求項1記載の使用のためのグラウンドナッツアレルゲン組成物。
  3. 前記の1つ又は複数のタンパク質は、粒子形態であり、接着剤を用いずに、静電気力及び/又はファンデルワールス力によりバッキングに付着している、請求項記載の使用のためのグラウンドナッツアレルゲン組成物。
  4. 前記の1つ又は複数のタンパク質は、粒子形態であり、バッキング上の接着剤コーティングによりバッキングに付着している、請求項記載の使用のためのグラウンドナッツアレルゲン組成物。
  5. 前記の1つ又は複数のタンパク質は、噴霧乾燥工程によりバッキングに負荷されている、請求項1〜4のいずれか1項記載の使用のためのグラウンドナッツアレルゲン組成物。
  6. バッキングの周辺は、接着特性を有する、請求項1〜のいずれか1項記載の使用のためのグラウンドナッツアレルゲン組成物。
  7. 1カ月から数年間の期間におよび、少なくとも1週間に1回、パッチ装置の適用が、反復される、請求項1〜のいずれか1項記載の使用のためのグラウンドナッツアレルゲン組成物。
  8. 各適用についての皮膚とのパッチの接触時間が、1〜24時間である、請求項1〜のいずれか1項記載の使用のためのグラウンドナッツアレルゲン組成物。
  9. パッチが、身体の毛のない部分に適用される、請求項1〜のいずれか1項記載の使用のためのグラウンドナッツアレルゲン組成物。
  10. パッチの適用が、特異的IgGレベルの増加を引き起こす、請求項1〜のいずれか1項記載の使用のためのグラウンドナッツアレルゲン組成物。
  11. 特異的IgG4レベルの増加を引き起こす、請求項10記載の使用のためのグラウンドナッツアレルゲン組成物。
  12. パッチの適用が、投与されるタンパク質に対するTh1応答の上昇を引き起こす、請求項1〜11のいずれか1項記載の使用のためのグラウンドナッツアレルゲン組成物。
  13. パッチの適用が、優性Th2プロファイルから、より平衡のとれたTh1/Th2プロファイルへと免疫変動を引き起こす、請求項1〜11のいずれか1項記載の使用のためのグラウンドナッツアレルゲン組成物。
  14. バッキングを含む皮膚パッチ装置であって、前記バッキングの周辺は、皮膚と共に密閉されたチャンバーを作るように適合されており、前記バッキングは、その皮膚に面する側上のチャンバー内に、皮膚の前処置無しに皮膚へのパッチ装置の直接適用後に前記被験者において炎症反応を誘導し、制御するのに十分な、パッチ表面の20〜200μg/cm 用量の、アジュバント無しに、乾燥形態の、ARAh1、ARAh2及びARAh3又はそのアイソフォームから選択される1つ又は複数のタンパク質を有しており、前記の1つ又は複数のタンパク質は皮膚へのパッチ装置の適用後にバッキングから移動し、その後、皮膚上経路を介して被験者の皮膚に送達される、皮膚パッチ装置。
  15. 各パッチは、同じ量のグラウンドナッツアレルゲンを含む、請求項14記載の複数の皮膚パッチ装置を含むキット。
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