JP5731207B2 - 低乾熱収縮率のステレオコンプレックスポリ乳酸繊維の製造方法 - Google Patents

低乾熱収縮率のステレオコンプレックスポリ乳酸繊維の製造方法 Download PDF

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本発明は、180℃の熱収縮率を抑え、かつ、捲縮性能が良好なステレオコンプレックスポリ乳酸繊維を製造することに関する。
近年の地球環境保護意識の高まりを受け、バイオマスプラスチックとしての脂肪族ポリエステルの研究開発が積極的になされている。中でも、ポリL−乳酸は、脂肪族ポリエステルの中では融点が約170℃と高く、機械物性が優れている上、ポリ乳酸の原料である乳酸あるいはラクチドの大量生産技術が飛躍的な進歩を遂げたことによって、農業用や生活雑貨用フィルム、電気製品筐体等の樹脂製品、衣料用布帛、医療器具等の用途で実用化が進んでいる。ただし、衣料や産業資材用途の汎用合成繊維であるポリエステル(主としてポリエチレンテレフタレート)や脂肪族ポリアミド(主としてナイロン6やナイロン6,6)対比ポリL−乳酸は融点が低いため、ポリL−乳酸の融点を超える180℃以上の温度がかかるアイロン掛けやタンブラー乾燥、紡績糸の毛焼きや織物の熱セット、車両内装材としての熱成型等ができないと言った実用上の耐熱性に問題がある。そのため、石油由来プラスチックをバイオマスプラスチックへ置き換えるための大きな障害となっている。
その中で、L−乳酸を主成分とするポリL−乳酸(以降、PLLAと略記)とD−乳酸を主成分とするポリD−乳酸(以降、PDLAと略記)を溶液状態あるいは溶融状態にて分子レベルでの混練を行うことにより、PLLA分子鎖とPDLA分子鎖が結晶内に交互にパッキングされたステレオコンプレックスポリ乳酸結晶を形成し、融点をポリブチレンテレフタレートやナイロン6並の220〜230℃まで上昇できることが知られており(例えば、非特許文献1参照。)、このステレオコンプレックスポリ乳酸を繊維化する検討がなされている(例えば、特許文献1〜3、非特許文献2参照。)。
例えば、ポリL−乳酸とポリD−乳酸を等モル量含む組成物を溶融紡糸したステレオコンプレックスポリ乳酸繊維が開示されているが、得られた繊維の強度は0.5cN/dtex程度で実用に供するには強度は充分ではなかった(例えば、特許文献1参照。)。また、溶融紡糸によりステレオコンプレックスポリ乳酸繊維を得たことが記載されている(例えば、非特許文献2参照。)。この文献には、ポリL−乳酸とポリD−乳酸との溶融ブレンド物を溶融紡糸した未延伸糸を熱処理することでステレオコンプレックス繊維を得ることが記載されているが、熱処理時に繊維内部の分子配向が緩和してしまい、得られる繊維の強度は2.3cN/dtexにとどまっている。
これらのように、従来のステレオコンプレックスの形成方法は、ポリL−乳酸とポリD−乳酸のブレンド物を紡糸して得られる非晶性未延伸糸を延伸、熱処理するものであるが、ステレオコンプレックスポリ乳酸結晶を十分成長させるために、ポリL−乳酸単独結晶あるいはポリD−乳酸単独結晶の融点以上の温度で熱処理する方法が主流である。確かに、ステレオコンプレックスポリ乳酸結晶生成にこの高温熱処理は有効であるが、糸の部分融解が発生し、糸が粗硬化したり低強度化したりする問題があった。
この問題に対し、ポリL−乳酸とポリD−乳酸の溶融混合体から紡糸線上で一気にステレオコンプレックスの形成する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。例えば紡糸速度4000m/分の高速で紡糸し、広角X線回折測定よるステレオ化率が10〜35%の結晶化未延伸糸を1.4〜2.3倍の延伸を行うことで、糸の部分融着を改善することが提案されている。しかし、この方法を実施するためには、3000m/分程度の紡速では不十分で、5000m/分以上の紡速で紡糸するための特殊な紡糸設備を必要とする等、工業的実施には越えなければならない問題点も残されている。この提案における耐熱性の評価は、繊維の筒編に170℃アイロンをあて編地の破れ、粗硬化といった激しい変化をみるものであり、衣料用繊維における衣料の縮みについてはなんら検討されておらず、耐熱性についての検討は不十分である。このように、ステレオ化率が0%の未延伸糸から、高いステレオ化率を有し、強度及び耐熱収縮性に優れた繊維を製造する技術は完成されていないのが現状である。また、ポリエチレンテレフタレートでの知見では、前述のような高速紡糸によって得られた未延伸糸(POY:Partially Oriented Yarn)を延伸・熱セットして得られる延伸糸は、2000m/分以下の紡糸速度により得られる未延伸糸(UDY:Un Drawn Yarn)を別工程で延伸・熱セットする通常紡糸・延伸法により得られるFOY(Fully Oriented Yarn)に比べ、配向結晶化により比較的大きいサイズの結晶を形成すると共に、非晶部の配向が低いため、より高強度のステレオコンプレックスポリ乳酸繊維を得るには、通常のUDYを延伸する紡糸・延伸法での技術確立を追求する必要がある。
紡糸ドラフトが50以上、引き取り速度が300m/分以上の条件で溶融紡糸した未延伸糸をいったん巻き取ったあと延伸を行うか、又は巻き取ることなく2.8倍延伸を行い、120〜180℃で熱処理することによりポリ乳酸ホモ結晶と190℃以上のステレオコンプレックスポリ乳酸結晶の2つのピークを有する200℃の耐熱性を有する繊維が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。但し、このような繊維は180〜200℃のアイロンやタンブラー乾燥、熱成形等の加工を施した際、ポリ乳酸ホモ結晶の融解に伴う熱収縮や皺を生じ、実用上の耐熱性を有するとはいえなかった。また、本発明者らによる検討では、ステレオコンプレックスポリ乳酸の非晶性未延伸糸は堅く脆い傾向にあり、空気中又は乾熱雰囲気下でのネック変形を起こし難い。そのため、長繊維の別延工程で用いられる接触ヒーターや加熱ローラー等による乾熱下の延伸では延伸性が非常に悪く、延伸単糸切れによる引き取りローラーやヤーンガイドへの捲付を生じたり、所定の糸長までのボビン巻きが出来ない(完巻き率が悪い)といった課題があった。延伸性のカバーするために、所定の延伸倍率まで多段に分け、少しずつ延伸する方法があるが、ネック変形の張力がばらつきやすく、単糸の強伸度や径が不均一となる欠点があった。
また、延伸工程における1段目の延伸を20〜150℃の液浴中で延伸した後、乾熱雰囲気中又は乾熱加熱体との接触により130〜200℃の定長熱処理又は130〜165℃弛緩熱処理を施すことを特徴とする別延伸法を採用することにより、ステレオコンプレックスポリ乳酸繊維の工程調子、品質ともに安定化することが記載されているが、180℃乾熱収縮率が高く、成型加工時に熱収縮ムラが発生することや、捲縮率が大きく、カード機通過性が悪く地合ムラになるなどの問題が以前生じる(例えば、特許文献4参照。)。
特開昭63−241024号公報 特開2003−293220号公報 特開2005−23512号公報 特開2009−203576号公報
Macromolecules,24,5651(1991) Seni Gakkai Preprints (1989)
本発明は、強伸度、捲縮性能を特定の領域内にし、且つ180℃における収縮率を従来の値より低下させ、特定の数値範囲内にするポリ乳酸繊維の製造方法を提供することである。更にその製造方法により得られたステレオコンプレックスポリ乳酸繊維を用いた繊維製品に良好な効果を提供することである。合わせて、風合いの良好なポリ乳酸繊維製品に適するステレオコンプレックスポリ乳酸繊維の製造方法を提供することである。
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、延伸工程における1段目の延伸を20〜150℃の液浴中で延伸した後、乾熱雰囲気中又は乾熱加熱体との接触により20〜120℃の定長熱処理および130〜165℃弛緩熱処理を施すことを特徴とする別延伸法を採用することにより、ステレオコンプレックスポリ乳酸繊維の工程調子、品質ともに安定化することを見出し、本発明に到達した。
すなわち本発明は、L乳酸を主成分とする質量平均分子量5万〜30万のポリL−乳酸(A成分)、D乳酸を主成分とする質量平均分子量5万〜30万のポリD−乳酸(B成分)及びA成分とB成分との合計100質量部当りに対して、下記式(1)で表される燐酸エステル金属塩(C成分)が0.05〜5.0質量部配合されており、200〜230℃の範囲に単一の溶融ピークを有し、広角X線回折法によるステレオ化率(Sc化率)が90%以上であるポリ乳酸組成物からなるポリ乳酸繊維の製造方法であって、
Figure 0005731207
[上記式中、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、R、Rは各々独立に水素原子又は炭素数1〜12のアルキル基を表し、Mはアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子又はアルミニウム原子を表し、pは1又は2を表し、Mがアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子又は亜鉛原子のときqは0を表し、Mがアルミニウム原子のときqは1又は2を表す。]
ポリ乳酸組成物を溶融紡糸により未延伸糸を得た後、延伸工程において1段延伸又は2段以上の多段延伸を行うにあたり、1段目の延伸を20〜150℃の液浴中で延伸し、延伸の後、20〜120℃の定長熱処理および、130〜165℃の弛緩熱処理を1分〜120分間施すステレオコンプレックスポリ乳酸繊維の製造方法であり、当該発明により上記課題を解決することができる。更に好ましくは本発明は、
(ア)該ポリ乳酸組成物を紡糸速度100〜2000m/分で溶融紡糸することにより未延伸糸を得る工程、
(イ)該未延伸糸を1段延伸又は2段以上の多段延伸を行うにあたり、1段目の延伸を20〜100℃の液浴中で該未延伸糸のCDRの0.5〜1.5倍となるように行い、かつ全延伸倍率が該未延伸糸のCDRの0.5〜2.0倍となるように延伸する工程、および
(ウ)延伸する工程の後、20〜100℃の定長熱処理後、130〜165℃弛緩熱処理を施す工程
を含むことを特徴とする融点が200〜230℃にあり、150〜190℃に実質的に融点が観測されない、請求項1記載のステレオコンプレックスポリ乳酸繊維の製造方法であり、当該発明により上記課題を解決することができる。
[ただし、CDRとは、25℃の水中で未延伸糸を引っ張ったとき、目視によるネッキング現象が終了する延伸倍率を表す。]
本発明のステレオコンプレックスポリ乳酸繊維の製造方法は、液浴中で延伸を行うことで、未延伸糸の可塑性を高め、延伸性を向上させることによって、別延伸方式での延伸単糸切れや繊度斑、強伸度斑等の発生を抑え、従来検討技術に比べて、品質と工程調子の両面で変動を最小限にとどめることができる。よって、別延伸方式の長繊維だけでなく、基本的に紡速2000m/分を超える高速紡糸が採用できず、別延伸方式で生産性向上を確保している短繊維のプロセスにも適用できる。さらに定長熱処理、弛緩熱処理を行うことにより、ステレオコンプレックス繊維の180℃における、乾熱収縮率の低下を実現することができ、合わせて同繊維の量産化と、ポリエステル製品並の品質到達を可能とすることができる。
以下本発明の実施形態について詳細に説明する。
(ポリL−乳酸:A成分)
ポリL−乳酸は、主としてL−乳酸単位からなる。L−乳酸単位はL−乳酸由来の繰り返し単位である。ポリL−乳酸は、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%、さらに好ましくは98〜100モル%のL−乳酸単位を含有する。他の繰り返し単位としてD−乳酸単位、乳酸以外の共重合単位がある。D−乳酸単位及び乳酸以外の共重合単位は、好ましくは0〜10モル%、より好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜2モル%である。
共重合単位としては、ε−カプロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−バレロラクトン、β−バレロラクトン、γ−ブチロラクトン、β−ブチロラクトン、β−プロピオラクトン、グリコール酸等のヒドロキシカルボン酸類(環状エステルを含めて)、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等の炭素数が2〜30の脂肪族ジオール類、コハク酸、マレイン酸、アジピン酸等の炭素数2〜30の脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキノン等の芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸等から選ばれる1種以上のモノマー由来の単位である。
ポリL−乳酸は、好ましくは結晶性を有する。融点は、好ましくは150〜190℃、より好ましくは160〜190℃である。更にそのポリL−乳酸は、重量平均分子量が、好ましくは5万〜30万、より好ましくは14万〜25万である。これらの条件を満足すると、高融点のステレオコンプレックスポリ乳酸結晶を形成させることができ、かつ、結晶化度を上げることが出来るからである。
(ポリD−乳酸:B成分)
ポリD−乳酸は、主としてD−乳酸単位からなる。D−乳酸単位はD−乳酸由来の繰り返し単位である。ポリD―乳酸は、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%、さらに好ましくは98〜100モル%のD−乳酸単位を含有する。他の繰り返し単位としてL−乳酸単位、乳酸以外の共重合単位がある。L−乳酸単位及び乳酸以外の共重合単位は、好ましくは0〜10モル%、より好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜2モル%である。
共重合単位としては、ε−カプロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−バレロラクトン、β−バレロラクトン、γ−ブチロラクトン、β−ブチロラクトン、β−プロピオラクトン、グリコール酸等のヒドロキシカルボン酸類(環状エステルを含めて)、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等の炭素数が2〜30の脂肪族ジオール類、コハク酸、マレイン酸、アジピン酸等の炭素数2〜30の脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキノン等の芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸等から選ばれる1種以上のモノマー由来の単位である。
ポリD−乳酸は、好ましくは結晶性を有する。融点は、好ましくは150〜190℃、より好ましくは160〜190℃である。更にそのポリD−乳酸は、重量平均分子量が、好ましくは5万〜30万、より好ましくは14万〜25万である。これらの条件を満足すると、高融点のステレオコンプレックスポリ乳酸結晶を形成させることができ、かつ、結晶化度を上げることが出来るからである。
(ポリL−乳酸又はポリD−乳酸の製造方法)
ポリL−乳酸又はポリD−乳酸は、L−乳酸又はD−乳酸を直接脱水縮合する方法で製造したり、L−乳酸又はD−乳酸を一度脱水環化してL−ラクチド又はD−ラクチドとした後に開環重合したりする方法で製造することができる。これらの方法に用いる触媒として、オクチル酸スズ、塩化スズ若しくはスズのジアルコキシド等の2価のスズ化合物、酸化スズ、酸化ジブチルスズ若しくは酸化ジエチルスズ等の4価のスズ化合物、金属スズ、亜鉛化合物、アルミニウム化合物、カルシウム化合物、又はランタニド化合物等を例示することが出来る。
ポリL−乳酸及び/又はポリD−乳酸は、重合時使用された重合触媒を溶媒で洗浄除去するか、触媒活性を不活性化しておくのが好ましい。触媒活性を不活性化するには、触媒失活剤を用いることができる。
触媒失活剤として、イミノ基を有し且つ金属重合触媒に配位し得るキレート配位子の群からなる有機リガンド、リンオキソ酸、リンオキソ酸エステル及び下記一般式(2)で表される有機リンオキソ酸化合物群から選択される少なくとも1種が挙げられる。触媒失活剤は、重合終了の時点において触媒中の金属元素1当量あたり、好ましくは0.3〜20当量、より好ましくは0.4〜15当量、さらに好ましくは0.5〜10当量配合する。
−P(=O)m(OH)n(OX−n (2)
[上記式中、mは0又は1、nは1又は2、X及びXは各々独立に炭素数1〜20の置換基を有していても良い炭化水素基を表す。]
炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、フェニル基等をあげることができる。置換基としては、ハロゲン原子基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、カルボキシル金属塩基、スルホン酸基、スルホン酸金属塩基等を挙げることができる。
かかる失活剤のより具体的な例としては、たとえば例えばイミノ基を有し且つ重合金属触媒に配位し得るキレート配位子の群からなる有機リガンド及びジヒドリドオキソリン(I)酸、ジヒドリドテトラオキソ二リン(II,II)酸、ヒドリドトリオキソリン(III)酸、ジヒドリドペンタオキソ二リン(III)酸、ヒドリドペンタオキソ二(II,IV)酸、ドデカオキソ六リン(III)III、ヒドリドオクタオキソ三リン(III,IV,IV)酸、オクタオキソ三リン(IV,III,IV)酸、ヒドリドヘキサオキソ二リン(III,V)酸、ヘキサオキソ二リン(IV)酸、デカオキソ四リン(IV)酸、ヘンデカオキソ四リン(IV)酸、エネアオキソ三リン(V,IV,IV)酸等の酸価数5以下の低酸化数リン酸、式xHO・yPで表され、x/y=3のオルトリン酸、2>x/y>1であり、縮合度より二リン酸、三リン酸、四リン酸、五リン酸等と称せられるポリリン酸及びこれらの混合物、x/y=1で表されるメタリン酸、なかでもトリメタリン酸、テトラメタリン酸、1>x/y>0で表され、五酸化リン構造の一部をのこした網目構造を有するウルトラリン酸(これらを総称してメタ燐酸系化合物と呼ぶことがある。)、及びこれらの酸の酸性塩、一価、多価のアルコール類、あるいはポリアルキレングリコール類の部分エステル、完全エスエテル、ホスホノ置換低級脂肪族カルボン酸誘導体等が例示される。
触媒失活能の観点から、式xHO・yPで表され、x/y=3のオルトリン酸、2>x/y>1であり、縮合度より二リン酸、三リン酸、四リン酸、五リン酸等と称せられるポリリン酸及びこれらの混合物、x/y=1で表されるメタリン酸、なかでもトリメタリン酸、テトラメタリン酸、1>x/y>0で表され、五酸化リン構造の一部を残した網目構造を有するウルトラリン酸(これらを総称してメタ燐酸系化合物と呼ぶことがある。)、及びこれらの酸の酸性塩、一価、多価のアルコール類、あるいはポリアルキレングリコール類の部分エステルリンオキソ酸あるいはこれらの酸性エステル類、ホスホノ置換低級脂肪族カルボン酸誘導体及び上記のメタ燐酸系化合物が好適に使用される。
本発明で使用するメタ燐酸系化合物は、3から200程度の燐酸単位が縮合した環状のメタ燐酸あるいは立体網目状構造を有するウルトラ領域メタ燐酸あるいはそれらの(アルカル金属塩、アルカリ土類金属塩、オニウム塩)を包含する。なかでも環状メタ燐酸ナトリウムやウルトラ領域メタ燐酸ナトリウム、ホスホノ置換低級脂肪族カルボン酸誘導体のジヘキシルホスホノエチルアセテート(以下DHPAと略称することがある)等が好適に使用される。
ポリL−乳酸及び/又はポリD−乳酸中の金属イオン含有量は20ppm以下であることが繊維の耐熱性、耐加水分解性の点から好ましい。金属イオン含有量は、アルカリ土類金属、希土類、第三周期の遷移金属類、アルミニウム、ゲルマニウム、スズ及びアンチモンから選ばれる金属の各々の含有量が20ppm以下であることが好ましい。
(燐酸エステル金属塩:C成分)
ポリL−乳酸とポリD−乳酸を溶液あるいは溶融状態で混合を行い結晶化させると、ステレオコンプレックスポリ乳酸結晶のみが形成されるが、分子レベルでの十分な混合状態が達成できていないとポリL−乳酸の単独結晶あるいはポリD−乳酸の単独結晶を形成しうる前駆体が残留していることがあり、ステレオコンプレックスポリ乳酸結晶前駆体との溶融粘度差により、溶融紡糸時に繊度斑や吐出不良を起こすことがある。従って、ステレオコンプレックス生成をより安定化させるために、下記一般式(1)の構造式で示される燐酸エステル金属塩(C成分)を添加する方がより好ましい。燐酸エステル金属塩は1種類を用いても複数種類を併用してもよい。
Figure 0005731207
[上記式中、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、R、Rは各々独立に水素原子又は炭素数1〜12のアルキル基を表し、Mはアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子又はアルミニウム原子を表し、pは1又は2を表し、Mがアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子又は亜鉛原子のときqは0を表し、Mがアルミニウム原子のときqは1又は2を表す。]
上記一般式(1)において、Rは、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。R1で表される炭素数1〜4のアルキル基として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等が例示される。
、Rは、各々独立に水素原子又は炭素数1〜12のアルキル基を表す。炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−アミル基、iso−アミル基、sec−アミル基、tert−アミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、iso−オクチル基、tert−オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、iso−ノニル基、sec−ノニル基、デシル基、iso−デシル基、tert−デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、tert−ドデシル基等が挙げられる。
は、Li、Na、K、Rb等のアルカリ金属原子、Mg、Ca、Sr等のアルカリ土類金属原子、亜鉛原子又はアルミニウム原子を表す。pは1又は2を表す。Mがアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子又は亜鉛原子のときqは0を表し、M1がアルミニウム原子のときqは1又は2を表す。
一般式(1)で表される燐酸エステル金属塩のうち好ましいものとしては、例えばRが水素原子、R、Rがともにtert−ブチル基の化合物が挙げられる。このような燐酸エステル金属塩として、旭電化(株)製の商品名、アデカスタブNA−10、NA−11、NA−21、NA−30、NA−35等が挙げられる。燐酸エステル金属塩は公知の方法により合成することができる。
燐酸エステル金属塩は、平均粒径が好ましくは0.01〜10μm、より好ましくは0.05〜7μmである。粒径を0.01μmより小さくすることは工業的に困難であり、それほど小さくする必要もない。また10μmより大きいと、紡糸、延伸時、断糸の頻度が高まる。
(ポリL−乳酸とポリD−乳酸からなるポリ乳酸組成物)
本発明におけるポリ乳酸組成物を構成するポリL−乳酸(A成分)とポリD−乳酸(B成分)との比は、A成分/B成分(質量)で、好ましくは40/60〜60/40、より好ましくは45/55〜55/45、さらに好ましくは50/50である。この範囲を逸脱すると、ステレオコンプレックスポリ乳酸結晶以外にポリL−乳酸単独結晶あるいはポリD−乳酸単独結晶が生成しやすくなり、結果として耐熱性を下げる結果となってしまう。
ポリ乳酸組成物には更に、燐酸エステル金属塩(C成分)が含まれていても良い。その燐酸エステル金属塩(C成分)の好ましい含有量は、ポリL−乳酸(A成分)とポリD−乳酸(B成分)との合計100質量部(ポリ乳酸組成物)あたり0.05〜5.0質量部、好ましくは0.05〜4.0質量部、より好ましくは0.1〜3.0質量部である。0.05質量部より少量であると、ポリL−乳酸とポリD−乳酸の混練状態によってはポリL−乳酸単体の結晶あるいはポリD−乳酸単体の結晶が存在していることがあり、熱安定性が劣化することがある。また5.0質量部より多量に使用すると繊維形成時、熱分解を起こしたり、断糸が発生したりする場合があり好ましくない。
A成分、B成分及びC成分の混合は、従来公知の各種方法を使用することができる。例えば、A成分、B成分及びC成分を、タンブラー、V型ブレンダー、スーパーミキサー、ナウタミキサー、バンバリーミキサー、混練ロール又は1軸若しくは2軸の溶融押出機等で混合することができる。また、C成分単独からなる剤やC成分を含むペレットを一定量に供給するために、スクリューフィーダーやコイルフィーダー、振動式フィーダー等の公知の供給装置を用いることができる。
こうして得られるポリ乳酸組成物(必要に応じてC成分を含んでも良い。)は、溶融混合され、そのまま、又は計量ポンプ等を経由して紡糸装置に移送することもできる。また、一旦ペレット状にしてから紡糸装置に供給することもできる。その際のペレット長は1〜7mm、長径3〜5mm、短径1〜4mmのものが好ましい。ペレットの形状は、ばらつきのないものが好ましい。ペレット化されたポリ乳酸組成物は、プレッシャーメルター型や1軸あるいは2軸エクストルーダー型等の通常の溶融押出し機を使用して紡糸装置に移送することもできる。ステレオコンプレックスポリ乳酸結晶の形成にあたっては、A成分及びB成分を十分に混合することが重要であり、とりわけ剪断応力下、混合することが好ましい。
ポリ乳酸組成物は、260℃において溶融させた場合の質量平均分子量の低下が20%以下であるのが好ましい。高温での分子量低下が激しいと、紡糸が困難になるばかりでなく、得られた糸の物性が低下し好ましくない。
またポリ乳酸組成物は、水分率が100ppm以下であることが好ましい。水分率が高いとポリL−乳酸成分とポリD―乳酸成分の加水分解が促進され、分子量が著しく低下し、紡糸が困難になるばかりでなく、得られた糸の物性が低下し、好ましくない。また、ポリ乳酸組成物中の残留ラクチド量は400ppm以下が好ましい。ラクチド法によって得られるポリ乳酸中のラクチドは溶融紡糸時に気化して糸斑の原因になることがあるため、ラクチド量を400ppm以下に抑えることが良好な糸を得る目的からすると好ましい。
前述のポリ乳酸組成物には必要に応じて、触媒のほか、各種の添加剤、例えば、艶消し剤、熱安定剤、光安定剤、中和剤、造核剤、滑剤、減粘剤、抗菌剤、難燃剤、帯電防止剤、可塑剤、消泡剤、整色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、蛍光増白剤、染料や顔料等が添加されていてもよい。なお、ポリL−乳酸及びポリD−乳酸は高温高湿下や酸、アルカリ等の存在下で加水分解を受け易いので、カルボジイミド化合物等のポリエステル用等で公知の加水分解抑制剤を添加してもよい。
(溶融紡糸を行い未延伸糸を得る工程(ア))
ポリ乳酸組成物は、エクストルーダー型やプレッシャーメルター型の溶融押出し機で溶融された後、ギアポンプにより計量され、口金に設けられたノズルからモノフィラメント、マルチフィラメント等として吐出される。ポリ乳酸組成物は、ポリL−乳酸とポリD−乳酸及び必要に応じて燐酸エステル金属塩を予め溶融混練して得たペレットを溶融押出機で溶融してもよいし、ポリL−乳酸とポリD−乳酸のペレット及び必要に応じて燐酸エステル金属塩の粉体、溶融物、あるいは燐酸エステル金属塩を樹脂中に含有するマスターチップをドライブレンドの状態でブレンドしたものを溶融押出機に供給して溶融してもよい。但し、溶融温度及び紡糸温度(輸送温度、紡糸口金温度)は220〜260℃、好ましくは225〜255℃の間に制限することが必要である。なぜならば、260℃を超えると、ポリL−乳酸及びポリD−乳酸が加水分解、熱分解を起こして、ラクチド等の低分子量物を発生し、220℃を下回ると、吐出前にステレオコンプレックスポリ乳酸結晶を形成し始め、ノズルや吐出ポリマー中で固化し、紡糸単糸切れになるからである。なお紡糸の際に用いるノズルの形状、ノズル数は特に制限されるものではなく、円形、異形、中実、中空等のいずれも採用することができる。
その後、紡糸口金下5〜200mmの位置で、紡出糸条に10〜40℃の空気を送風して冷却固化させた後、摩擦低減や集束を目的とした紡糸油剤を付与して、紡糸速度100〜3000m/分以下で引き取って、ワインダーを用いてボビンに巻き取るか、数百〜数万デシテックスのトウの状態で缶等の容器に得られた未延伸糸を収納する。紡糸速度は特に限定されるものではないが、3000m/分を超えると未延伸糸内に配向結晶化による結晶が生成するため延伸後の強度が落ちる傾向にある。設備や目標とする繊度、強伸度物性に応じて100〜3000m/分の範囲で選定されることが多く、且つ好ましい態様である。特に、短繊維の量産機では、数十〜数千フィラメントの未延伸糸トウを数百〜数万デシテックスに束ね、バケツや缶等の容器に受けるプロセスをとっている場合が多いが、トウのもつれがないように容器内に収納するには、缶や収納済みトウへの衝突による衝撃の少ない2000m/分以下の紡糸速度とすることが好ましい。
(1段延伸あるいは2段以上の多段延伸を行う延伸工程(イ))
未延伸糸(UDY)をボビンに一旦巻き取るか、缶等の容器内に収納した後、公知の別延用延伸機に供される。延伸は、1段延伸でも、2段以上の多段延伸でも良いが、本発明の製造方法では、1段目の延伸を20〜150℃の液浴中で、CDRの0.55〜1.5倍といった比較的高倍率の延伸倍率に設定することで、室温あるいは乾熱中での多段延伸と異なり、延伸張力を低下させ、かつ延伸点を一定位置に固定することによって、延伸での単糸切れやスリップ、発熱による延伸斑、繊度斑、強伸度斑を抑制することに特徴がある。
ここで、CDRとは冷延伸倍率(cold draw ratio)の略であるが、ここでは特に、25℃の水中で未延伸糸を手で引っ張ったときに、目視でのネッキング現象が終了する時点における未延伸糸の長さを基準とした延伸倍率を表す。紡糸速度100〜2000m/分で得られたステレオコンプレックスポリ乳酸未延伸糸は降伏応力が高く、かつ脆い傾向があるため、通常の室温空気中で行う冷延伸では破断してしまうが、水中に浸漬して冷延伸を行うと、未延伸糸への水分子の浸透拡散と推定される可塑化効果により、通常のポリエステル等と同様のネッキング現象が確認される。1段目の延伸は液浴中でCDRの0.55〜1.5倍の延伸倍率に設定することが好ましいが、延伸ローラーあるいは延伸ピンに延伸点がかからないような延伸倍率の設定が肝要である。延伸ローラー又は延伸ピンに延伸点がかかってしまうと、断熱変形に伴う発熱で未延伸糸自体が加熱され、融着や延伸点バラツキによる未延伸状態が発生してしまうためである。結果として、全延伸倍率はCDRの0.55〜2.0倍に設定し、目標とする強伸度物性や熱収縮物性に応じて設定すればよい。但し1段目の延伸及び全延伸倍率がCDRの0.55〜1.0倍の場合であっても、実質的な延伸倍率、すなわち未延伸糸の長さに対する延伸糸の長さが1.0倍未満の場合を除く。当該工程を通過した後に実質的に未延伸糸が延伸されていない場合を除く趣旨である。2段目以降の延伸も液浴中で実施するのが好ましい。1段目の延伸倍率がCDRの1.5倍あるいは全延伸倍率がCDRの2.0倍を超えると、ポリ乳酸組成物の可能延伸倍率を越え、延伸で単糸切れを生じる。一方、1段目の延伸倍率又は全延伸倍率がCDRの0.55倍未満では、延伸点にバラツキを生じ、部分的に未延伸部分が発生したり、強伸度や熱収縮率、繊度に不均一性が生じたり、延伸で単糸切れを起こし、ローラーへの捲付や断糸端の融着等の問題が生じる。好ましくは1段目の延伸はCDRの0.6〜1.4倍、全延伸倍率はCDRの0.6〜1.8倍となるように設定することである。
延伸、特に1段目の延伸は20〜150℃の液浴中で行うとよい。空気中や乾熱雰囲気下で延伸を行うと、熱交換効率が悪いために、非晶部分子鎖のパッキング状態が緻密になっているとみられるステレオコンプレックスポリ乳酸結晶形成能をもつ未延伸糸をネック変形させるに十分な温度に短時間にすることができない。延伸温度が20℃未満であると非晶分子の運動性が悪く本発明が目標とする延伸性を得られない。また、150℃を超えると、延伸により部分的に生じたポリL−乳酸単独結晶やポリD−乳酸単独結晶(各々融点が約170℃)が存在するため、結晶融解開始に伴う融着や繊維の硬化が見られる。好ましくは40〜130℃の範囲である。
液浴に用いる媒体は、水、シリコーンオイル、エチレングリコールやアセトン等の有機溶媒、塩化カリウム塩水溶液等の無機塩溶液、超臨界二酸化炭素等が上げられるが、プロセスや繊維への汚染や作業面の安全性等を考慮すると、水が最も好ましい。水浴延伸は、ポリエステル短繊維の量産設備として知られている温水バス等を活用することができる。水浴の場合の延伸温度は20〜100℃が好ましいということになる。
(定長熱処理又は弛緩熱処理を施す工程(ウ))
延伸糸(DY)を定長熱処理又は弛緩熱収縮させることにより、延伸後のポリL−乳酸単独結晶前駆体あるいはポリD−乳酸単独結晶前駆体をステレオコンプレックスポリ乳酸結晶へ転移させ、かつ非晶部の結晶化促進あるいは非晶部の歪を除去し熱収縮を下げることができる。定長熱処理は、20〜120℃、好ましくは20〜100℃で行うことが好ましい。定長熱処理温度が120℃以上では、延伸時に生成するポリL−乳酸又はポリD−乳酸単独の結晶からステレオコンプレックスポリ乳酸結晶への転移が進むが、剛性が強い繊維が形成され、捲縮付与しにくく、かつ、弛緩熱処理することで捲縮がヘタリため、ローラーカード機でネップやフライが発生しやすくなる。定長熱処理温度が120℃を超えると、ステレオコンプレックスポリ乳酸結晶の融解が始まり、熱収縮や繊維硬化が始まる。また一方、弛緩熱処理は、130〜165℃、好ましくは140〜160℃で行うことが好ましい。弛緩熱処理温度が130℃未満では、延伸時に生成するポリL−乳酸又はポリD−乳酸単独の結晶からステレオコンプレックスポリ乳酸結晶への転移が進まず、また、180℃乾熱収縮率が高くなる。弛緩熱処理温度が165℃を超えると、延伸で生じたポリL−乳酸単独結晶あるいはポリD−乳酸単独結晶の融解が始まり、熱収縮や繊維硬化が始まる。
熱処理は、テンションがかかった状態で行う定長熱処理では相対的には低温、テンションがかからない状態で行う弛緩熱処理では相対的には高温に設定するのがよいが、水分や有機溶媒で湿った湿熱状態でなく乾熱状態で行うことが肝要である。湿熱状態で熱処理を行うと、ポリL−乳酸あるいはポリD−乳酸の非晶部分が水分子あるいは水酸基を含む化合物、アルカリによる加水分解(若しくは加溶媒分解等)を受けやすくなり、強伸度物性や靱性が低下するためである。
定長熱処理を施す手段としては、延伸糸に一定のテンションがかかった状態で、熱媒や電気ヒーターで表面を加熱したローラーや接触式ヒーターに接触させる接触加熱法と、スーパーヒートした高温蒸気(水蒸気等)噴射や熱風循環のチャンバー、赤外線ヒーター等の輻射熱による非接触加熱法がある。定長熱処理は基本的にはドラフトが1.0倍であるが、熱処理に伴う繊維の収縮や伸長変化等に伴い、0.85〜1.15倍等のドラフトもとり得るものとする。なお、液浴延伸後の水分を除去するために、熱処理前にローラーによる狭窄や乾熱ローラーによる低温乾燥、温風あるいは減湿空気、高圧空気を吹き付ける等のプロセスが併設されることが好ましい。
一方、弛緩熱処理は、延伸糸に無定長状態で、熱風循環チャンバーや熱風を通過させるサクションドラム、オーバーフィードの状態で加熱ローラーや接触式ヒーター上を通過させる等の方法がある。この処理時間は、1分〜120分間が望ましく、特に30分〜90分間が望ましい。1分間未満では、トウへの熱セットムラで部分的にステレオ化が進行しない部分があり、逆に120分間以上では、ステレオ化は進行するが、捲縮性能が劣る傾向にあり、紡績工程などにおいて短繊維同士の絡まりが悪くなる。このように定長熱処理又は弛緩熱処理における延伸糸への加熱方法は、乾熱雰囲気中又は乾熱加熱体との接触によって行うことが好ましい。乾熱雰囲気とは空気雰囲気下に限定されず、窒素やヘリウム、他のアルゴンガス雰囲気下であっても良い。繊維の特性に特段の劣化を及ぼさない限りには特に期待の種類に限定はされない。また乾熱加熱体とは加熱ローラーを用いるのが一般的であるが、糸条を効率よく加熱できる点で、熱が伝達できる程度に繊維の走行方法に十分な長さを有する媒体であれば良い。さらに、押し込み型クリンパーにて通常の機械捲縮を付与することにより捲縮数/捲縮率の値を0.5〜3.0にすることができる。好ましい0.8〜2.0の数値範囲は〜であり、より好ましくは1.0〜1.6である。
定長熱処理と弛緩熱処理の両方を組み合せると、捲縮数/捲縮率が規程範囲であり、熱収縮率が低い繊維が得られるのでより好ましい。その場合、定長熱処理の方が繊維軸方向に配向した状態のステレオコンプレックスポリ乳酸結晶を得ることができるので、定長熱処理を20〜120℃に設定し、弛緩熱処理は130〜165℃の間で設定することが好ましい。弛緩熱処理温度を下げると、より高捲縮性の繊維が得られるが、熱収縮は高目となり、成型加工性が悪くなるため、弛緩熱処理は130℃以上で行うことが好ましい。比較的強度は低目で伸度高め、熱収縮率低めの繊維を得ようとするならば、弛緩熱処理温度を160℃で行うことが好ましいが、200℃まで上げることも可能である。この定長熱処理条件および弛緩熱処理条件の規定が、本発明の課題である180℃における収縮率の低下を達成するためには重要である。
本発明のステレオコンプレックスポリ乳酸繊維においてはこのような紡糸、延伸、熱処理を行うことによって、ポリL−乳酸単体結晶、ポリD−乳酸単体の結晶からステレオコンプレックスポリ乳酸結晶への転移が進んだポリ乳酸繊維を得ることができる。そしてその融点を200〜230℃にすることができる。背景技術の欄にて説明したようにポリL−乳酸においては、その融点は150〜190℃、より厳密には約170℃前後であり、本発明のステレオコンプレックスポリ乳酸繊維の製造方法において得られたステレオコンプレックスポリ乳酸繊維においては、この150〜190℃の温度領域に実質的に融点が観測されない。「実質的に観測されない」とは後述するように、示差走査熱量測定計(DSC)を用いて、試料10mgを窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で室温から260℃まで昇温した場合に、結晶融解に基づく吸熱ピークが観測されないことを表す。
なお、このように150〜190℃の温度領域に、本来のPLA(PLLAまたはPDLA)結晶融解に基づく融点ピークが実質的に観測されず、ステレオコンプレックス結晶に由来する210℃〜230℃の温度領域にステレオコンプレックス結晶融解に基づく融点ピークが表れる状態であると、広角X線回折法に基づくステレオ化率(Sc化率)が90%以上が達成できていると考える。測定方法の詳細は以下の実施例の(3)の項目にて後述する。概説すると、ホモポリ乳酸結晶に由来する回折ピークとステレオコンプレックスポリ乳酸結晶に由来する回折ピークそれぞれの積分強度の和に対するステレオコンプレックスポリ乳酸結晶に由来する回折ピークの積分強度の比率を規定していると考えることができる。本発明のステレオコンプレックスポリ乳酸繊維においては、より好ましくはSc化率が95%以上であり、さらにより好ましくはSc化率が98%以上であることである。
故に本発明の製造方法によって得られたステレオコンプレックスポリ乳酸繊維は、従来のポリ乳酸繊維を用いて織られた布帛等が有していたような、180℃以上の温度がかかるアイロン掛け等ができないといった実用上の問題が発生することがなくなる。
さらに本発明のステレオコンプレックスポリ乳酸繊維において、ステレオコンプレックスポリ乳酸繊維中の放射性炭素(C14)の含有率とは、それぞれの有機化合物を構成する全炭素原子中、放射性炭素である14C濃度を基準(この値を100%と設定する)とした場合の14C濃度の比率を表す。その放射性炭素である14Cとは1950年時点の循環炭素中の14C濃度を基準とすることが好ましい。その放射性炭素である14Cの濃度は以下の測定方法(放射性炭素濃度測定)により測定する事ができる。すなわち14Cの濃度測定は、タンデム加速器と質量分析計を組み合わせた加速器質量分析法(AMS:Accelerator Mass Spectrometry)によって、分析する試料に含まれる炭素の同位体(具体的には12C、13C、14Cが挙げられる。)を加速器により原子の重量差を利用して物理的に分離し、同位体の原子一つ一つの存在量を計測する方法である。
炭素原子1モル(6.02×1023個)中には、通常の炭素原子の約一兆分の一である約6.02×1011個の14Cが存在する。14Cは放射性同位体と呼ばれ、その半減期は5730年で規則的に減少している。これらが全て崩壊するには22.6万年を要する。従って大気中の二酸化炭素等が植物等に取り込まれて固定化された後、22.6万年以上が経過したと考えられる石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料においては、固定化当初はこれらの中にも含まれていた14C元素は全てが崩壊している。故に21世紀である現在は石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料においては14C元素は全く含まれていない。故にこれらの化石燃料を原料として生産された化学物質にも14C元素は全く含まれていない。一方、14Cは宇宙線が大気中で原子核反応を行い、絶え間なく生成され、放射壊変による減少とがバランスし、地球の大気環境中では、14Cの量は一定量となっている。
一方、大気中の二酸化炭素が植物やそれを食する動物などに取り込まれて固定化された場合には、その取り込まれた状態では14Cは新たに補充されることなく、14Cの半減期に従って時間の経過とともに14C濃度は一定の割合で低下する。このため、グリコール化合物中の14C濃度を分析することにより、化石燃料などの化石資源を原料としたものか、或いはバイオマス資源を原料にしたグリコール化合物か簡易に判別することが可能となる。またこの14C濃度は1950年時点の自然界における循環炭素中の14C濃度をmodern standard referenceとし、この14C濃度を100%とする基準を用いる事が通常行われる。現在のこのようにして測定される14C濃度は約107pMC(percent Modern Carbon)前後の値であり、仮に試料として用いられているプラスチック等が100%天然系(生物系)由来の物質で製造されたものであれば、107pMC程度の値を示すことが知られている。この値が上述で言うバイオ化率100%に相当する。一方石油等の化石燃料由来の化学物質を用いてこの14C濃度を測定した場合、ほぼ0pMCを示すことも知られている。この値が上述で言うバイオ化率0%に相当する。これらの値を利用して天然資源由来の化合物(バイオマス資源由来の化合物)−化石資源由来の化合物の混合比を算出する事が出来る様になる。更にこの14C濃度の基準となるmodern standard referenceとしてはNIST(National Institute of Standards and Technology:米国国立標準・技術研究所)が発行した蓚酸標準体を用いる事が好ましく採用する事が出来る。この蓚酸中の炭素の比放射能(炭素1g当たりの14Cの放射能強度)を炭素同位体毎に分別し、13Cについて一定値に補正して、西暦1950年から測定日までの減衰補正を施した値を標準の14C濃度濃度の値として用いている。この14C原子を含む有機化合物を用いることによって植物由来の物質からのポリ乳酸繊維を得て、化石資源の使用量を低減し、ニ酸化炭素の増大を抑制することが可能となる。
本発明の繊維の製造方法は、未延伸糸を紡糸とは別工程で延伸するFOY長繊維にも適用できるが、量産機の殆どが溶融紡糸と延伸・熱処理が別工程であって、3000m/分以上の高速紡糸が困難である短繊維の製造方法に特に適している。短繊維を製造する場合は、長繊維での延伸方法に加えて、用途に応じた所定の繊維長にロータリーカッター等でカットする工程、更に捲縮が必要とされる場合は、定長熱処理と弛緩熱処理の間に押し込みクリンパー等で捲縮を付与する工程が加わる。その際、捲縮付与性を高めるため、水蒸気や電熱ヒーター等でクリンパー前で予熱することができる。
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は実施例によって何ら限定を受けるものではない。なお、実施例における各項目は次の方法で測定した。
(1)還元粘度:
ポリマーサンプル0.12gを10mLのテトラクロロエタン/フェノール(容量比1/1)に溶解し、35℃における還元粘度(mL/g)を測定した。
(2)質量平均分子量(Mw):
ポリマーの質量平均分子量はGPC(カラム温度40℃、クロロホルム)により、ポリスチレン標準サンプルとの比較で求めた。
(3)ステレオ化率(Sc化率)
理化学電気社製ROTA FLEX RU200B型X線回折装置用いて透過法により、以下条件でX線回折図形をイメージングプレートに記録した。得られたX線回折図形において赤道方向の回折強度プロファイルを求め、ここで2θ=12.0°、20.7°、24.0°付近に現れるステレオコンプレックスポリ乳酸結晶に由来する各回折ピークの積分強度の総和ΣISCiと、2θ=16.5°付近に現れるホモポリ乳酸結晶に由来する回折ピークの積分強度IHMから下式に従いステレオ化率(Sc化率)を求めた。尚、ΣISCi並びにIHMは図1に示すように、赤道方向の回折強度プロファイルにおいてバックグランドや非晶による散漫散乱を差し引くことによって見積もった。本願発明においては、延伸後に得られた延伸糸(DY)のSc化率が92%以上の場合を、ステレオコンプレックスポリ乳酸繊維が得られていると評価した。
X線源: Cu−Kα線(コンフォーカル ミラー)
出力: 45kV×70mA
スリット: 1mmΦ〜0.8mmΦ
カメラ長: 120mm
積算時間: 10分
サンプル: 長さ3cm、35mg
Sc化率=ΣISCi/(ΣISCi+IHM)×100
ここで、ΣISCi=ISC1+ISC2+ISC3
ISCi(i=1〜3)はそれぞれ2θ=12.0°、20.7°、24.0°付近の各回折ピークの積分強度を、
IHMは2θ=16.5°付近の回折ピークの積分強度をそれぞれ表す。
(4)融点、結晶化点
TAインストルメンツ製 TA−2920示差走査熱量測定計DSCを用いた。測定は、試料10mgを窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で室温から260℃まで昇温し、結晶融解吸熱ピーク及び結晶化発熱ピークのピーク温度を各々融点及び結晶化点と定義した。
(5)単糸繊度
JIS L 1015:2005 8.5.1 A法に記載の方法により測定した。
(6)乾強度・乾伸度
JIS L 1015:2005 8.7.1法に記載の方法により測定した。
(7)繊維長
JIS L 1015:2005 8.4.1 C法に記載の方法により測定した。
(8)捲縮数、捲縮率
JIS L 1015 7.12に記載の方法により測定した。
(9)油剤付着率
JIS L 1015:2005 8.22 c)法において、試料量を9g、抽出用溶媒をメタノール(25℃)とし、油分抽出を25℃のメタノールで30分静置して行った以外は同様の方法により測定した。
(10)180℃乾熱収縮率
JIS L 1015:2005 8.15 b)法に記載の方法により、180℃で測定した。
(11)CDR
25℃の水中に未延伸糸を浸漬し、10cmの間隔で未延伸糸をチャックして両方に引っ張り、ネッキングが終了した点のチャック間隔(Lcm)を測定し、次式にて算出した。
CDR=(L−10)/10
(12)延伸ローラーへの単糸捲付
短繊維製造用の別延伸法延伸機にて10分間延伸を行った際、延伸〜定長熱処理までのローラーに巻きつく回数を記録した。単糸捲付が目視で確認された段階で、延伸機を運転したまま、ローラーに巻きついた単糸を真鍮ワイヤーブラシで除去し、再度捲付が確認できるようにした。
(13)燐酸エステル金属塩含有量
燐酸エステル金属塩の含有量はポリ乳酸チップ又はポリ乳酸繊維サンプルをスチール板上で加熱溶融した後、圧縮プレス機で平坦面を有する試験成形体を作成した。この試験成形体を使って蛍光X線装置(理学電機工業株式会社製3270E型)を用いてリン元素及び金属元素含有量求めた。また別にポリ乳酸チップ又はポリ乳酸繊維サンプルを、可溶な溶媒に溶解してメタノールにより再沈澱処理操作を行った。得られたポリ乳酸以外の成分から燐酸エステル金属塩成分を抽出した。得られた抽出成分を重水素化トリフルオロ酢酸/重水素化クロロホルム=1/1混合溶媒に溶解後、日本電子(株)製JEOL A−600 超伝導FT−NMRを用いて核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR)を測定した。そのスペクトルパターンから含有されている燐酸エステル金属塩の化学構造を特定した。これらの結果を総合的に評価して燐酸エステル金属塩含有量を算出した。
(14)製品評価
実施例・比較例にて得られた短繊維から常法により紡績糸を製造し、その紡績糸からなるタオルを製造する。そのタオルの風合いにより製品の良好、不良を評価した。
(製造例1:ポリL−乳酸A1の製造)
光学純度99.8%のL−ラクチド(株式会社武蔵野化学研究所)100質量%を重合容器に加え、重合容器内を窒素置換した後、ステアリルアルコール0.2質量%、触媒としてオクチル酸スズ0.05質量%を加え、190℃、2時間、重合を行い、ポリマーを製造した。このポリマーを7%5N塩酸のアセトン溶液で洗浄し、触媒を除去し、ポリL−乳酸A1を得た。得られたポリL−乳酸A1の還元粘度は2.92(mL/g)、重量平均分子量は13万であった。融点(Tm)は168℃であった。結晶化点(Tc)は122℃であった。
(製造例2:ポリD−乳酸B1の製造)
光学純度99.8%のD−ラクチド(株式会社武蔵野化学研究所)100質量%を重合容器に加え、重合容器内を窒素置換した後、ステアリルアルコール0.2質量%、触媒としてオクチル酸スズ0.05質量%を加え、190℃、2時間、重合を行い、ポリマーを製造した。このポリマーを7%5N塩酸のアセトン溶液で洗浄し、触媒を除去し、ポリD−乳酸B1を得た。得られたポリD−乳酸B1の還元粘度は2.65(mL/g)、重量平均分子量は13万であった。融点(Tm)は176℃であった。結晶化点(Tc)は139℃であった。
[実施例1]
ポリL−乳酸A1及びポリD−乳酸B1のチップを作成し、ポリL−乳酸A1/ポリD−乳酸B1=50/50(質量比)の割合でV型ブレンダーを使用してチップブレンドした後、110℃の減湿空気を循環して5時間乾燥を行った。このチップ100質量%に、燐酸2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ナトリウム塩(平均粒径5μm)0.5質量%を加え、2軸ルーダー溶融紡糸機を用い230℃で溶融し、0.45Φの吐出孔を1008ホールもつ紡糸口金から430g/分で吐出させた。 その後、紡糸口金下55mmの位置で25℃の空気を吹き付けて冷却固化させながら、1000m/分の速度で未延伸糸を巻き取った。この未延伸糸はSc化率0%で、示差走査熱量計(DSC)で217℃にステレオコンプレックスに由来する単一の結晶融解ピークを有していた。CDRは2.2倍であった。
この未延伸糸を束ねて42万デシテックスのトウとし、60℃の温水中で2.95倍(CDRの1.34倍)に延伸し、引続き90℃の温水中で1.05倍延伸し、全延伸倍率3.098倍(CDRの1.41倍)とした。その後、0.6MPaの水蒸気で加熱した金属ローラー6本を通過させ、通過後のトウ温度90℃の状態で定長熱処理(1.0倍)を行った。更にその後、ステアリルホスフェートカリウム塩からなる油剤を付与し、水蒸気で65℃に加熱したトウを押し込み型クリンパーに供給して、16個/25mmの捲縮を付与した後、150℃の循環熱風中を50分間通過させ、弛緩熱処理を実施した。その後、ロータリーカッターにてカットし、1.98デシテックス、38mmの短繊維を得た。得られた繊維は、示差走査熱量計(DSC)測定において、ポリL−乳酸及びポリD−乳酸からなるステレオコンプレックスポリ乳酸結晶の単一融解ピークを示し、融点が216℃であり、150〜190℃の範囲に融解に基づくピークは観測されなかった。
った。また、広角X線回折測定でのSc化率96%、繊維の強度は2.9cN/dtex、伸度51%であり、180℃熱収縮率は9.3%であった。捲縮数/捲縮率は1.44このときの延伸機ローラーへの単糸捲付は0回/10分であった。結果を表1に示した。この繊維で構成された紡績糸からなるタオルは、加工の際の熱収縮率が小さく寸法安定性に優れるだけではなく、風合いも良いものに仕上がった。
[実施例2]
1段延伸倍率、2段延伸倍率を上げた他は、実施例1と同様に実施した。得られた繊維は、示差走査熱量計(DSC)測定において、ポリL−乳酸及びポリD−乳酸からなるステレオコンプレックスポリ乳酸結晶の単一融解ピークを示し、融点が217℃であり、150〜190℃の範囲に融解に基づくピークは観測されなかった。その他の結果を表1に示した。紡績糸を紡ぐ際に、短繊維の捲縮性能が悪く、短繊維同士の絡まりが悪かった。
[比較例1]
緊張熱処理温度を125℃とした他は、実施例1と同様に実施した。結果を表1に示した。
[比較例2]
緊張熱処理温度を150℃とした他は、実施例1と同様に実施した。結果を表1に示した。紡績糸を紡ぐ際に、短繊維の捲縮性能が悪く、短繊維同士の絡まりが悪かった。
[比較例3]
緊張熱処理温度を175℃とした他は、実施例1と同様に実施した。結果を表1に示した。紡績糸を紡ぐ際に、短繊維の捲縮性能が悪く、短繊維同士の絡まりが悪かった。
[比較例4]
緊張熱処理温度を175℃、弛緩熱処理温度を45℃とした他は、実施例1と同様に実施した。結果を表1に示した。紡績糸を紡ぐ際に、短繊維の捲縮性能が悪く、短繊維同士の絡まりが悪かった。
[実施例3〜4、比較例5]
C成分(燐酸エステル金属塩)の種類、添加量を変更した他は、実施例1と同様に実施した。実施例3で得られた繊維は、示差走査熱量計(DSC)測定において、ポリL−乳酸及びポリD―乳酸からなるステレオコンプレックスポリ乳酸結晶の単一融解ピークを示し、融点が216℃であり、150〜190℃の範囲に融解に基づくピークは観測されなかった。その他の結果を表1に示した。比較例5で得られた延伸糸は、そのSc化率(DY−Sc化率)が80%と低く、218℃以外に168℃にも融点ピークが認められ、充分にステレオコンプレックスポリ乳酸結晶への転移が進行したステレオコンプレックスポリ乳酸繊維ではなかった。この繊維で構成された紡績糸からなるタオルは、加工の際の熱収縮率が小さく寸法安定性に優れるだけではなく、風合いも良いものに仕上がった。
Figure 0005731207
本発明のステレオコンプレックスポリ乳酸繊維の製造方法は、従来技術に比べて180℃乾熱収縮率を下げることが可能で、かつ、捲縮数/捲縮度を規定範囲に抑えることで、ポリエステル並の繊維物性を確保でき、衣料や産業資材用途の汎用合成繊維としても使用することができる。また、液浴中で延伸を行うことで、未延伸糸の可塑性を高め、延伸性を向上させることによって、別延伸式での延伸単糸切れや繊度斑、強伸度斑等の発生を抑え、従来検討技術に比べて、品質と工程調子の両面で変動を最小限にとどめることができる。よって、別延方式の長繊維だけでなく、基本的に紡速2000m/分を超える高速紡糸が採用できず、別延方式で生産性向上を確保している短繊維のプロセスにも適用でき、ステレオコンプレックス短繊維の量産を可能とすることができ、バイオマス由来ポリマーの代替により石油資源枯渇抑制が可能となる。

Claims (4)

  1. L乳酸を主成分とする質量平均分子量5万〜30万のポリL−乳酸(A成分)、D乳酸を主成分とする質量平均分子量5万〜30万のポリD−乳酸(B成分)及びA成分とB成分との合計100質量部当りに対して、下記式(1)で表される燐酸エステル金属塩(C成分)が0.05〜5.0質量部配合されており、200〜230℃の範囲に単一の溶融ピークを有し、広角X線回折法によるステレオ化率(Sc化率)が90%以上であるポリ乳酸組成物からなるポリ乳酸繊維の製造方法であって、
    Figure 0005731207
    [上記式中、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、R、Rは各々独立に水素原子又は炭素数1〜12のアルキル基を表し、Mはアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子又はアルミニウム原子を表し、pは1又は2を表し、Mがアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子又は亜鉛原子のときqは0を表し、Mがアルミニウム原子のときqは1又は2を表す。]
    ポリ乳酸組成物を溶融紡糸により未延伸糸を得た後、延伸工程において1段延伸又は2段以上の多段延伸を行うにあたり、1段目の延伸を20〜150℃の液浴中で延伸し、延伸の後、20〜120℃の定長熱処理、および130〜165℃の弛緩熱処理を1分〜120分間施すステレオコンプレックスポリ乳酸繊維の製造方法。
  2. 加速機質量分光計(AMS)を用いた測定による放射性炭素(炭素14)を含むポリ乳酸を使用する請求項1記載のステレオコンプレックスポリ乳酸繊維の製造方法。
  3. さらに押し込み型クリンパーによりステレオコンプレックスポリ乳酸繊維に捲縮を付与することにより、捲縮数/捲縮率が0.5〜3.0である請求項1〜2のいずれかに記載のステレオコンプレックスポリ乳酸繊維の製造方法。
  4. (ア)該ポリ乳酸組成物を紡糸速度100〜2000m/分で溶融紡糸することにより未延伸糸を得る工程、
    (イ)該未延伸糸を1段延伸又は2段以上の多段延伸を行うにあたり、1段目の延伸を20〜100℃の液浴中で該未延伸糸のCDRの0.5〜1.5倍となるように行い、かつ全延伸倍率が該未延伸糸のCDRの0.5〜2.0倍となるように延伸する工程、
    (ウ)延伸する工程の後、20〜100℃の定長熱処理後、130〜165℃弛緩熱処理を施す工程、
    で表される各工程を含むことを特徴とする融点が200〜230℃にあり、150〜190℃に実質的に融点が観測されない、請求項1記載のステレオコンプレックスポリ乳酸繊維の製造方法。
    [ただし、CDRとは、25℃の水中で未延伸糸を引っ張ったとき、目視によるネッキング現象が終了する延伸倍率を表す。]
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