JP5139841B2 - ポリ乳酸原着繊維、その製造方法及びその製造方法に用いるチップ - Google Patents

ポリ乳酸原着繊維、その製造方法及びその製造方法に用いるチップ Download PDF

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Description

本発明は、繊度、物性、色相が安定したステレオコンプレックスポリ乳酸原着繊維とその製造方法等に関する。
近年の地球環境保護意識の高まりを受け、バイオマスプラスチックとしての脂肪族ポリエステルの研究開発が積極的になされている。中でも、ポリL−乳酸は、脂肪族ポリエステルの中では融点が約170℃と高く、機械物性が優れている上、ポリ乳酸の原料である乳酸あるいはラクチドの大量生産技術が飛躍的な進歩を遂げたことによって、農業用や生活雑貨用フィルム、電気製品筐体等の樹脂製品、衣料用布帛、医療器具等の用途で実用化が進んでいる。ただし、衣料や産業資材用途の汎用合成繊維であるポリエステル(主としてポリエチレンテレフタレート)や脂肪族ポリアミド(主としてナイロン6やナイロン6,6)対比ポリL−乳酸は融点が低いため、ポリL−乳酸の融点を超える180℃以上の温度がかかるアイロン掛けやタンブラー乾燥、紡績糸の毛焼きや織物の熱セット、車両内装材としての熱成型等ができないと言った実用上の耐熱性に問題がある。そのため、石油由来プラスチックをバイオマスプラスチックへ置き換えるための大きな障害となっている。
その中で、L−乳酸を主成分とするポリL−乳酸(以降、PLLAと略記)とD−乳酸を主成分とするポリD−乳酸(以降、PDLAと略記)を溶液状態あるいは溶融状態にて分子レベルでの混練を行うことにより、PLLA分子鎖とPDLA分子鎖が結晶内に交互にパッキングされたステレオコンプレックスポリ乳酸結晶を形成し、融点をポリブチレンテレフタレートやナイロン6並の220〜230℃まで上昇できることが知られており(例えば、非特許文献1参照。)、このステレオコンプレックスポリ乳酸を繊維化する検討がなされている(例えば、特許文献1〜3、非特許文献2参照。)。
但し、ステレオコンプレックスポリ乳酸の原着繊維の検討についてなされた先行文献は皆無である。ステレオコンプレックスポリ乳酸結晶を安定に形成するためには、ポリL−乳酸とポリD−乳酸が分子レベルでの均一なポリマーブレンドをすること、すなわちポリL−乳酸分子鎖とポリD−乳酸分子鎖が互いにコンプレックスとなるための接触機会を増やす必要があり、分子鎖長をある程度短くすること、溶融混練温度を高くすること、あるいは溶液中混合の場合は濃度を下げること、溶融押出機やノズルでのせん断速度を大きくすること等が有効な手段ではあるが、分子量を低目に制御することは、繊維強度低下や脆化に繋がり、また、溶融温度や溶液濃度、剪断を好ましい条件に調整したとしても、操業機レベルの設備では均一な混合状態が再現できず、全てがステレオコンプレックス体を形成せず、耐熱性に劣るばかりか、ポリL−乳酸あるいはポリD−乳酸単独のドメインが残ってしまうため、ステレオコンプレックス前駆体との溶融粘度斑が生じ、繊度斑やノズルでの吐出不良が起こることがしばしばあり、再現性に乏しかった。
また、天井材やフロアマット等の車両内装材として、主にポリエチレンテレフタレートの原着短繊維のニードルパンチ不織布を約180℃で熱成形された成形体が使用されているが、従来検討されてきたポリL−乳酸短繊維では、成形温度がその融点(約170℃)を超える温度であるため、融解して成形できなかった。従って、バイオマスプラスチックベースの合成繊維からなる原着繊維はこれまで実用化されていなかった。
特開昭63−241024号公報 特開2003−293220号公報 特開2005−23512号公報 Macromolecules,24,5651(1991) Seni Gakkai Preprints (1989)
本発明は、上記従来技術を背景になされたもので、実用的耐熱性を有するバイオマスプラスチック原着合成繊維としてのステレオコンプレックスポリ乳酸原着繊維と、それを品質、工程調子ともに安定して製造する方法を提供することにある。
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、特定の燐酸エステル金属塩をPLLAとPDLAのブレンド体に添加した樹脂をベースとする顔料マスターチップを添加する方法によって、ステレオコンプレックスポリ乳酸原着繊維を安定して製造できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち本発明はL乳酸を主成分とする重量平均分子量5万〜30万のポリL−乳酸とD乳酸を主成分とする重量平均分子量5万〜30万のポリD−乳酸からなるポリ乳酸組成物A、燐酸エステル金属塩及び顔料からなるポリ乳酸チップであって、式(1)で表される燐酸エステル金属塩がポリ乳酸組成物重量に対して0.05〜10.0質量%、顔料がポリ乳酸組成物重量に対して0.1〜70質量%含有するポリ乳酸チップを、L乳酸を主成分とする重量平均分子量5万〜30万のポリL−乳酸とD乳酸を主成分とする重量平均分子量5万〜30万のポリD−乳酸からなり実質的に顔料を含まないポリ乳酸組成物Bに溶融混合した後、ノズルから吐出させ、溶融紡糸法によって未延伸糸を得て該未延伸糸に対して延伸処理を行った後、緊張熱処理及び/又は弛緩熱処理を行うポリ乳酸繊維の製造方法であって、L乳酸を主成分とする重量平均分子量5万〜30万のポリL−乳酸(A成分)とD乳酸を主成分とする重量平均分子量5万〜30万のポリD−乳酸(B成分)からなるポリ乳酸組成物100質量%あたりに対して、式(1)で表される燐酸エステル金属塩(C成分)を0.05〜5.0質量%及び顔料(D成分)を0.01〜10.0質量%含む組成物であって、L乳酸を主成分とする重量平均分子量5万〜30万のポリL−乳酸、D乳酸を主成分とする重量平均分子量5万〜30万のポリD−乳酸及び燐酸エステル金属塩からなる組成物がステレオコンプレックスポリ乳酸を形成しているポリ乳酸原着繊維の製造方法であり、当該発明によって上記課題を解決することができる。
Figure 0005139841
[上記式中、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、R、Rは各々独立に水素原子又は炭素数1〜12のアルキル基を表し、Mはアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子又はアルミニウム原子を表し、pは1又は2を表し、Mがアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子又は亜鉛原子のときqは0を表し、Mがアルミニウム原子のときqは1又は2を表す。]
本発明のステレオコンプレックスポリ乳酸原着繊維によって、従来知られているポリエチレンテレフタレート原着繊維並の耐熱性や強度を有するバイオマスプラスチック原着合成繊維を初めて実現した。また、ステレオコンプレックスポリ乳酸原着繊維の着色方法として、顔料マスターチップのベース樹脂をPLLAとPDLAの溶融混合体とし、更にステレオコンプレックス形成を促進させる特定の燐酸エステル金属塩を予め添加しておくことで、溶融押出機内でのPLLA分子鎖とPDLA分子鎖のブレンド均一性や溶融粘度斑、延伸・熱処理後のPLLA単独結晶、PDLA単独結晶の生成を抑えることで、工程調子が良好なポリ乳酸の製造方法を提供することができる。更に得られたポリ乳酸原着繊維の発明により、ポリ乳酸繊維を用いた繊維製造及び繊維製品の性能向上を飛躍的に高めることができる。
以下本発明の実施形態について詳細に説明する。
(ポリL−乳酸:A成分)
ポリL―乳酸は、主としてL−乳酸単位からなる。L−乳酸単位はL―乳酸由来の繰り返し単位である。ポリL―乳酸は、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%、さらに好ましくは98〜100モル%のL−乳酸単位を含有する。他の繰り返し単位としてD−乳酸単位、乳酸以外の共重合単位がある。D−乳酸単位及び乳酸以外の共重合単位は、好ましくは0〜10モル%、より好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜2モル%である。
共重合単位としては、ε−カプロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−バレロラクトン、β−バレロラクトン、γ−ブチロラクトン、β−ブチロラクトン、β−プロピオラクトン、グリコール酸等のヒドロキシカルボン酸類(環状エステルを含めて)、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等の炭素数が2〜30の脂肪族ジオール類、コハク酸、マレイン酸、アジピン酸等の炭素数2〜30の脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキノン等の芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸等から選ばれる1種以上のモノマー由来の単位である。
ポリL−乳酸は、好ましくは結晶性を有する。融点は、好ましくは150〜190℃、より好ましくは160〜190℃である。更にそのポリL−乳酸は、重量平均分子量が、好ましくは5万〜30万、より好ましくは14万〜25万である。これらの条件を満足すると、高融点のステレオコンプレックスポリ乳酸結晶を形成させることができ、かつ、結晶化度を上げることが出来るからである。
(ポリD−乳酸:B成分)
ポリD―乳酸は、主としてD−乳酸単位からなる。D−乳酸単位はD―乳酸由来の繰り返し単位である。ポリD―乳酸は、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%、さらに好ましくは98〜100モル%のD−乳酸単位を含有する。他の繰り返し単位としてL−乳酸単位、乳酸以外の共重合単位がある。L−乳酸単位及び乳酸以外の共重合単位は、好ましくは0〜10モル%、より好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜2モル%である。
共重合単位としては、ε−カプロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−バレロラクトン、β−バレロラクトン、γ−ブチロラクトン、β−ブチロラクトン、β−プロピオラクトン、グリコール酸等のヒドロキシカルボン酸類(環状エステルを含めて)、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等の炭素数が2〜30の脂肪族ジオール類、コハク酸、マレイン酸、アジピン酸等の炭素数2〜30の脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキノン等の芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸等から選ばれる1種以上のモノマー由来の単位である。
ポリD−乳酸は、好ましくは結晶性を有する。融点は、好ましくは150〜190℃、より好ましくは160〜190℃である。更にそのポリD−乳酸は、重量平均分子量が、好ましくは5万〜30万、より好ましくは14万〜25万である。これらの条件を満足すると、高融点のステレオコンプレックスポリ乳酸結晶を形成させることができ、かつ、結晶化度を上げることが出来るからである。
(ポリL−乳酸又はポリD−乳酸の製造方法)
ポリL−乳酸又はポリD−乳酸は、L−乳酸又はD−乳酸を直接脱水縮合する方法で製造したり、L−乳酸又はD−乳酸を一度脱水環化してL−ラクチド又はD−ラクチドとした後に開環重合したりする方法で製造することができる。これらの方法に用いる触媒として、オクチル酸スズ、塩化スズ若しくはスズのジアルコキシド等の2価のスズ化合物、酸化スズ、酸化ジブチルスズ若しくは酸化ジエチルスズ等の4価のスズ化合物、金属スズ、亜鉛化合物、アルミニウム化合物、カルシウム化合物、又はランタニド化合物等を例示することが出来る。
ポリL−乳酸及び/又はポリD−乳酸は、重合時使用された重合触媒を溶媒で洗浄除去するか、触媒活性を不活性化しておくのが好ましい。触媒活性を不活性化するには、触媒失活剤を用いることができる。
触媒失活剤として、イミノ基を有し且つ金属重合触媒に配位し得るキレート配位子の群からなる有機リガンド、リンオキソ酸、リンオキソ酸エステル及び下記一般式(2)で表される有機リンオキソ酸化合物群から選択される少なくとも1種が挙げられる。触媒失活剤は、重合終了の時点において触媒中の金属元素1当量あたり、好ましくは0.3〜20当量、より好ましくは0.4〜15当量、さらに好ましくは0.5〜10当量配合する。
−P(=O)(OH)(OX2−n (2)
[上記式中、mは0又は1、nは1又は2、X及びXは各々独立に炭素数1〜20の置換基を有していても良い炭化水素基を表す。]
炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、フェニル基等をあげることができる。置換基としては、ハロゲン原子基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、カルボキシル金属塩基、スルホン酸基、スルホン酸金属塩基等を挙げることができる。
かかる失活剤のより具体的な例としては、たとえば例えばイミノ基を有し且つ重合金属触媒に配位し得るキレート配位子の群からなる有機リガンド及びジヒドリドオキソリン(I)酸、ジヒドリドテトラオキソ二リン(II,II)酸、ヒドリドトリオキソリン(III)酸、ジヒドリドペンタオキソ二リン(III)酸、ヒドリドペンタオキソ二(II,IV)酸、ドデカオキソ六リン(III)III、ヒドリドオクタオキソ三リン(III,IV,IV)酸、オクタオキソ三リン(IV,III,IV)酸、ヒドリドヘキサオキソ二リン(III,V)酸、ヘキサオキソ二リン(IV)酸、デカオキソ四リン(IV)酸、ヘンデカオキソ四リン(IV)酸、エネアオキソ三リン(V,IV,IV)酸等の酸価数5以下の低酸化数リン酸、式xHO・yPで表され、x/y=3のオルトリン酸、2>x/y>1であり、縮合度より二リン酸、三リン酸、四リン酸、五リン酸等と称せられるポリリン酸及びこれらの混合物、x/y=1で表されるメタリン酸、なかでもトリメタリン酸、テトラメタリン酸、1>x/y>0で表され、五酸化リン構造の一部をのこした網目構造を有するウルトラリン酸(これらを総称してメタ燐酸系化合物と呼ぶことがある。)、及びこれらの酸の酸性塩、一価、多価のアルコール類、あるいはポリアルキレングリコール類の部分エステル、完全エスエテル、ホスホノ置換低級脂肪族カルボン酸誘導体等が例示される。
触媒失活能の観点から、式xHO・yPで表され、x/y=3のオルトリン酸、2>x/y>1であり、縮合度より二リン酸、三リン酸、四リン酸、五リン酸等と称せられるポリリン酸及びこれらの混合物、x/y=1で表されるメタリン酸、なかでもトリメタリン酸、テトラメタリン酸、1>x/y>0で表され、五酸化リン構造の一部を残した網目構造を有するウルトラリン酸(これらを総称してメタ燐酸系化合物と呼ぶことがある。)、及びこれらの酸の酸性塩、一価、多価のアルコール類、あるいはポリアルキレングリコール類の部分エステルリンオキソ酸あるいはこれらの酸性エステル類、ホスホノ置換低級脂肪族カルボン酸誘導体及び上記のメタ燐酸系化合物が好適に使用される。
本発明で使用するメタ燐酸系化合物は、3から200程度の燐酸単位が縮合した環状のメタ燐酸あるいは立体網目状構造を有するウルトラ領域メタ燐酸あるいはそれらの(アルカル金属塩、アルカリ土類金属塩、オニウム塩)を包含する。
なかでも環状メタ燐酸ナトリウムやウルトラ領域メタ燐酸ナトリウム、ホスホノ置換低級脂肪族カルボン酸誘導体のジヘキシルホスホノエチルアセテート(以下DHPAと略称することがある)等が好適に使用される。
ポリL−乳酸及び/又はポリD−乳酸中の金属イオン含有量は20ppm以下であることが繊維の耐熱性、耐加水分解性の点から好ましい。金属イオン含有量は、アルカリ土類金属、希土類、第三周期の遷移金属類、アルミニウム、ゲルマニウム、スズ及びアンチモンから選ばれる金属の各々の含有量が20ppm以下であることが好ましい。
(燐酸エステル金属塩:C成分)
ポリL−乳酸とポリD−乳酸を溶液あるいは溶融状態で混合を行い結晶化させると、ステレオコンプレックスポリ乳酸結晶のみが形成されるが、分子レベルでの十分な混合状態が達成できていないとポリL−乳酸の単独結晶あるいはポリD−乳酸の単独結晶を形成しうる前駆体が残留していることがあり、ステレオコンプレックスポリ乳酸結晶前駆体との溶融粘度差により、溶融紡糸時に繊度斑や吐出不良を起こすことがある。従って、ステレオコンプレックス生成をより安定化させるために、下記一般式(1)の構造式で示される燐酸エステル金属塩(C成分)を添加する方がより好ましい。燐酸エステル金属塩は1種類を用いても複数種類を併用してもよい。
Figure 0005139841
上記一般式(1)において、Rは、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。Rで表される炭素数1〜4のアルキル基として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等が例示される。
、Rは、各々独立に水素原子又は炭素数1〜12のアルキル基を表す。炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−アミル基、iso−アミル基、sec−アミル基、tert−アミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、iso−オクチル基、tert−オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、iso−ノニル基、sec−ノニル基、デシル基、iso−デシル基、tert−デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、tert−ドデシル基等が挙げられる。
は、Li、Na、K、Rb等のアルカリ金属原子、Mg、Ca、Sr等のアルカリ土類金属原子、亜鉛原子又はアルミニウム原子を表す。pは1又は2を表す。Mがアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子又は亜鉛原子のときqは0を表し、Mがアルミニウム原子のときqは1又は2を表す。
一般式(1)で表される燐酸エステル金属塩のうち好ましいものとしては、例えばRが水素原子、R、Rがともにtert−ブチル基の化合物が挙げられる。このような燐酸エステル金属塩として、旭電化(株)製の商品名、アデカスタブNA−10、NA−11、NA−21、NA−30、NA−35等が挙げられる。燐酸エステル金属塩は公知の方法により合成することができる。
燐酸エステル金属塩は、平均粒径が好ましくは0.01〜10μm、より好ましくは0.05〜7μmである。粒径を0.01μmより小さくすることは工業的に困難であり、それほど小さくする必要もない。また10μmより大きいと、紡糸、延伸時、断糸の頻度が高まる。
(顔料:D成分)
原着繊維として用いる顔料は、ポリエステル原着繊維等で通常知られているものを用いてよい。無機顔料の例としては、二酸化チタン、亜鉛華(酸化亜鉛)、べんがら、酸化クロム、鉄黒、コバルトブルー等の酸化物、アルミナ白、黄色酸化鉄、ビリジアン等の水酸化物、硫化亜鉛、リトポン、カドミウムイエロー、朱、カドミウムレッド等の硫化物、黄鉛、モリブデードオレンジ、ジンククロメート、ストロンチウムクロメート等のクロム酸塩、ホワイトカーボン、クレー、タルク、群青等の珪酸塩、沈降性硫酸バリウム、バライト粉等の硫酸塩、炭酸カルシウム、鉛白等の炭酸塩、フェロシアン化物(紺青)、燐酸塩(マンガンバイオレット)、炭素(カーボンブラック)等がある。有機顔料の例としては、ローダミンレーキ、メチルバイオレットレーキ等の塩基性染料系顔料、オレンジII等の酸性染料系顔料、スルホン化銅フタロシアニンブルー等の直接染料系顔料、カーミン6B、レーキレッドC、ジスアゾイエロー、レーキレッド4R、クロモフタルイエロー3G、クロモフタルスカーレットRN、ニッケルアゾイエロー、パーマネントオレンジHL等のアゾ系顔料、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系顔料、フラバンスロンイエロー、チオインジゴボルドー、ペリノンオレンジ、ペリレンレッド、ジオキサジンバイオレッド、キナクリドンレッド、イソインドリノンイエロー等の縮合多環系顔料、ナフトールイエローS等のニトロ系顔料、ピグメントグリーンB等のニトロソ系顔料、ルモゲンイエロー、シグナルレッド等の昼光蛍光顔料、アルカリブルー、アニリンブラック等がある。
なお、ポリ乳酸はポリエチレンテレフタレートに比べて屈折率が低く、深色性が強く出るため、顔料濃度や顔料混合比は、目標とする色相に併せて微調整する必要がある。
(ポリL−乳酸とポリD−乳酸からなるポリ乳酸組成物)
本発明におけるポリ乳酸組成物を構成するポリL−乳酸(A成分)とポリD−乳酸(B成分)との比は、A成分/B成分(質量)で、好ましくは40/60〜60/40、より好ましくは45/55〜55/45、さらに好ましくは50/50である。この範囲を逸脱すると、ステレオコンプレックスポリ乳酸結晶以外にポリL−乳酸単独結晶あるいはポリD−乳酸単独結晶が生成しやすくなり、結果として耐熱性を下げる結果となってしまう。
ポリ乳酸組成物には更に、燐酸エステル金属塩(C成分)が含まれている必要がある。その燐酸エステル金属塩(C成分)の好ましい含有量は、ポリL−乳酸(A成分)とポリD―乳酸(B成分)との合計100質量%(ポリ乳酸組成物)あたり0.05〜5.0質量%、好ましくは0.05〜4.0質量%、より好ましくは0.1〜3.0質量%である。0.05質量%より少量であると、ポリL−乳酸とポリD−乳酸の混練状態によってはポリL−乳酸単体の結晶あるいはポリD−乳酸単体の結晶が存在していることがあり、熱安定性が劣化することがある。また5.0質量%より多量に使用すると繊維形成時、熱分解を起こしたり、断糸が発生したりする場合があり好ましくない。
顔料(D成分)の好ましい含有量は、ポリL−乳酸(A成分)とポリD―乳酸(B成分)との合計100質量%あたり0.01〜10.0質量%、好ましくは0.02〜8.0質量%、より好ましくは0.05〜7.0質量%であるが、最終製品としての色相に応じて適宜選定される。D成分が0.01質量%より少量であると、原着繊維としての発色性が十分ではない。一方、10.0質量%より多量に使用すると顔料の未分散塊が生じやすく、紡糸や延伸での断糸や繊維の強度劣化に繋がる可能性がある。
なお、目標とする色相を達成するために、ポリ乳酸組成物に複数の顔料を適当な比率で含ませてもよい。
前述のポリ乳酸組成物には必要に応じて、触媒のほか、各種の添加剤、例えば、艶消し剤、熱安定剤、光安定剤、中和剤、造核剤、滑剤、減粘剤、抗菌剤、難燃剤、帯電防止剤、可塑剤、消泡剤、整色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、又は蛍光増白剤が添加されていてもよい。なお、ポリL−乳酸及びポリD−乳酸は高温高湿下や酸、アルカリ等の存在下で加水分解を受け易いので、カルボジイミド化合物等のポリエステル用等で公知の加水分解抑制剤を添加してもよい。
(混合方法)
ポリL−乳酸(A成分)及びポリD−乳酸(B成分)に対して、顔料(D成分)及び燐酸エステル塩(C成分)を添加する方法としては、以下のような方法が挙げられる。
(1)ポリL−乳酸(A成分)ペレット、ポリD−乳酸(B成分)ペレット、燐酸エステル塩(C成分)粉体、顔料粉体あるいはマスターパウダー(ワックスや滑剤を含む)を水分が100ppm以下になるように乾燥し、所定の流量分を1軸又は2軸溶融押出機に投入し、溶融混練を行いながら紡糸口金から吐出して未延伸糸を得る方法
(2)ポリL−乳酸(A成分)ペレット、ポリD−乳酸(B成分)ペレット、燐酸エステル塩(C成分)粉体、顔料粉体あるいはマスターパウダー(ワックスや滑剤を含む)を、所定の流量分となるようベント付き1軸又は2軸溶融押出機に投入し、脱気と溶融混練を同時に行いながら、紡糸口金から吐出して未延伸糸を得る方法
(3)(1)又は(2)の方法において、口金の代りにペレタイザー(チップカッターあるいはホットカッター)を装着し、ストランド状に吐出された組成物をペレット状に一旦カットし、水分率が100ppm以下となるように乾燥したペレット(ベント装置付き溶融押出機を使用する場合は無乾燥でもよい)を公知の溶融紡糸機に供給して未延伸糸を得る方法
(4)(3)の方法において、A成分とB成分(及び必要に応じてC成分)を含有するベースペレットと、A成分、B成分、C成分及びD成分を含有するマスターチップを別々に作成し、ベースペレットとマスターチップを所定の流量に計量して一台の溶融押出機に供給して未延伸糸を得る方法
(5)(3)の方法において、A成分とB成分(及び必要に応じてC成分)を含有するベースペレットとA成分、B成分、C成分及びD成分を含有するマスターチップを別々に作成し、ベースペレットとマスターチップを所定の混率で予めブレンダーでチップブレンドしておき、溶融押出機に供給して未延伸糸を得る方法
(6)(3)の方法において、A成分とB成分(及び必要に応じてC成分)を含有するベースペレットとA成分、B成分、C成分及びD成分を含有するマスターチップを別々に作成し、ベースペレットとマスターチップを別々の溶融押出機で溶融し、ギアポンプで所定の流量に計量して溶融状態で合流させ、スタティックミキサーあるいはダイナミックミキサーで十分な混練を行い、紡糸口金から吐出させて未延伸糸を得る方法
(7)(3)の方法において、A成分、B成分、C成分及びD成分を含有するマスターチップを作成し、A成分ペレット、B成分ペレット、マスターチップの各々を所定の流量に計量して一台の溶融押出機に供給して未延伸糸を得る方法
(8)(3)の方法において、A成分、B成分、C成分及びD成分を含有するマスターチップを作成し、A成分ペレット、B成分ペレット、マスターチップを所定の混率で予めブレンダーでチップブレンドしておき、溶融押出機に供給して未延伸糸を得る方法
(9)(3)の方法において、A成分、B成分、C成分及びD成分を含有するマスターチップを作成し、A成分ペレット、B成分ペレット、マスターチップの各々を別々の溶融押出機で溶融し、ギアポンプで所定の流量に計量して溶融状態で合流させ、スタティックミキサーあるいはダイナミックミキサーで十分な混練を行い、紡糸口金から吐出させて未延伸糸を得る方法
特に、銘柄切替えの容易性や色相のバリエーション(多銘柄化)が容易である理由から、顔料(D成分)のマスターチップとする製造方法(前述の(4)〜(9))が好ましく採用される。マスターチップのベースとなる本発明のポリ乳酸チップはポリL−乳酸(A成分)とポリD−乳酸(B成分)を質量比で好ましくは40/60〜60/40、より好ましくは45/55〜55/45、最も好ましくは等量(50/50)含むポリ乳酸組成物に、更に燐酸エステル金属塩(C成分)を含んでいることが必要である。A成分とB成分をその質量範囲とする目的は、できるだけ完全なステレオコンプレックス体を形成させることで、ステレオコンプレックス形成能のあるベースチップと溶融粘度差が生じるのを抑制し、溶融粘度斑による繊度変動や吐出不良、延伸・熱処理工程での熱融着や製品の耐熱性が悪化することを防ぐことにある。またそのポリ乳酸チップを構成するポリL−乳酸(A成分)及びポリD−乳酸(B成分)は、共にその重量平均分子量が、好ましくは5万〜30万、より好ましくは14万〜25万である。高融点のステレオコンプレックスポリ乳酸結晶を形成させることができ、かつ、結晶化度を上げることが出来るからである。
単にA成分とB成分の等量混合のみでは、A成分やB成分の分子量、溶融温度や混練状態等の製造条件や設備のスケール等によって、ステレオコンプレックス以外のポリL−乳酸単独ドメインあるいはポリD−乳酸単独ドメインを形成することがあるので、ステレオコンプレックス形成を促進させる燐酸エステル金属塩(C成分)をマスターチップ中に含有することが必要である。マスターチップ中に含有する燐酸エステル金属塩(C成分)の濃度は、0.05〜10.0質量%とすることが必要であり、好ましくは0.07〜7.0質量%、更に好ましくは0.1〜5.0質量%である。0.05質量%未満では、ステレオコンプレックス以外のポリL−乳酸単独ドメインあるいはポリD−乳酸単独ドメインを形成しやすくなる。一方、10.0質量%を越えると、未延伸糸やノズル周辺の異物となったり、反ってポリ乳酸の分子量を下げて、強度低下の要因となることがある。繊維を形成するポリ乳酸組成物として、燐酸エステル金属塩(C成分)混率が0.05〜5.0質量%となるようにすれば、マスターチップとなる本発明のポリ乳酸チップ中にC成分を多目に含有させることで、(7)〜(9)に示す混合方法のように、ベースチップのポリL−乳酸(A成分)とポリD−乳酸(B成分)のステレオコンプレックス形成促進のための燐酸エステル金属塩(C成分)を別途添加する必要がなくなり、好ましい。
マスターチップとなる本発明のポリ乳酸チップに含有する顔料(D成分)の濃度は、顔料の種類や目標とする繊維の色相によって異なるが、0.1〜70質量%とすることが好ましい。0.1質量%未満では、原着マスターチップとしては濃度が小さく、所望の色相の繊維を製造する際、多量のマスターチップを入れる必要があり、経済的に好ましくない。一方、70質量%を越えると、顔料の凝集が起こりやすく、未延伸糸中の欠点や紡糸口金への異物付着につながり、紡糸断糸を生じやすくなる。好ましい範囲は0.5〜60質量%、更に好ましくは1〜50質量%である。
ペレットや粉体(例えばC成分、D成分)を混合するために、従来公知の各種方法を使用することができる。例えば、タンブラー、V型ブレンダー、スーパーミキサー、ナウタミキサー、バンバリーミキサー又は1軸若しくは2軸の溶融押出機等等で混合することができる。また、C成分及び/又はD成分からなる剤(混合物)や、C成分及び/又はD成分を含むペレットを一定量に供給するために、スクリューフィーダーやコイルフィーダー、振動式フィーダー等の公知の供給装置を用いることができる。
マスターチップとなる本発明のポリ乳酸チップを作成する際は、凝集粒子や粗大粒子、ゲル化樹脂を除去する目的でスクリーンチェンジャーや多層フィルターに通過させたのち、ペレタイザーに供給することが好ましい。また、高濃度の顔料やその他添加剤の分散性を向上させる目的で、滑剤やビヒクルや、剤や樹脂の熱劣化や酸化劣化を抑制する目的で酸化防止剤、熱安定剤、その他機能剤等を添加させてもよい。
本発明のポリ乳酸チップのペレット長は1〜7mm、長径3〜5mm、短径1〜4mmのものが好ましい。ペレットの形状は、ばらつきのないものが好ましい。
ポリL−乳酸樹脂、ポリD−乳酸樹脂、ポリ乳酸組成物、燐酸エステル金属塩及び顔料並びにこれらからなるマスターチップとなるポリ乳酸チップは、溶融混練の前には水分率を100ppm以下とすることが好ましい。水分率が高いと混練した際に、ポリL−乳酸成分とポリD−乳酸成分の加水分解が促進され、分子量が著しく低下し、紡糸が困難になるばかりでなく、得られた糸の物性が低下し、好ましくない。
また、ポリ乳酸組成物又はポリ乳酸チップ中の残留ラクチド量は400ppm以下が好ましい。ラクチド法によって得られるポリ乳酸中のラクチドは溶融紡糸時に気化して糸斑の原因になることがあるため、ラクチド量を400ppm以下に抑えることが良好な糸を得る目的からすると好ましい。
(溶融紡糸を行い未延伸糸を得る工程(1))
C成分及びD成分を含んだポリ乳酸組成物は、エクストルーダー型やプレッシャーメルター型の溶融押出し機で溶融された後、ギアポンプにより計量され、紡糸口金に設けられたノズルからモノフィラメント、マルチフィラメント等として吐出される。但し、溶融温度及び紡糸温度(輸送温度、紡糸口金温度)は220〜260℃、好ましくは225〜255℃の間に制限することが必要である。なぜならば、260℃を超えると、ポリL−乳酸及びポリD−乳酸が加水分解、熱分解を起こして、ラクチド等の低分子量物を発生し、220℃を下回ると、吐出前にステレオコンプレックスポリ乳酸結晶を形成し始め、ノズルや吐出ポリマー中で固化し、紡糸単糸切れになるからである。なお紡糸の際に用いるノズルの形状、ノズル数は特に制限されるものではなく、円形、異形、中実、中空等のいずれも採用することができる。
その後、紡糸口金下5〜200mmの位置で、紡出糸条に10〜40℃の空気を送風して冷却固化させた後、摩擦低減や集束を目的とした紡糸油剤を付与して、紡糸速度100〜3000m/分以下で引き取って、ワインダーを用いてボビンに巻き取るか、数百〜数万デシテックスのトウの状態で缶等の容器に得られた未延伸糸を収納する。紡糸速度は特に限定されるものではないが、3000m/分を超えると未延伸糸内に配向結晶化による結晶が生成するため延伸後の強度が落ちる傾向にある。設備や目標とする繊度、強伸度物性に応じて100〜3000m/分の範囲で選定されることが多く、且つ好ましい態様である。特に、短繊維の量産機では、数十〜数千フィラメントの未延伸糸トウを数百〜数万デシテックスに束ね、バケツや缶等の容器に受けるプロセスをとっている場合が多いが、トウのもつれがないように容器内に収納できる2000m/分以下の紡糸速度が好ましく選定される。
(1段延伸あるいは2段以上の多段延伸を行う延伸工程(2))
未延伸糸をボビンに一旦巻き取るか、缶等の容器内に収納した後、公知の別延用延伸機に供される。
延伸は、1段延伸でも2段以上の多段延伸でも良いが、ステレオコンプレックスポリ乳酸繊維の未延伸糸は降伏応力が高く、かつ脆い傾向があるため、通常の室温空気中での延伸(冷延伸)や延伸前あるいは延伸中の乾熱状態での加熱では単糸レベルでの破断を生じやすいため、水中等の液浴延伸が好ましい。延伸温度は、未延伸糸を延伸すると部分的にポリL−乳酸単独結晶あるいはポリD−乳酸単独結晶を生じるため、双方の結晶融点より十分に低い20〜150℃で好ましく行われる。50〜100℃で延伸処理を行うことがより好ましい。
延伸温度は上述のように20〜150℃の液浴中で行うとよい。空気中や乾熱雰囲気下で延伸を行うと、熱交換効率が悪いために、非晶部分子鎖のパッキング状態が緻密になっているとみられるステレオコンプレックスポリ乳酸結晶形成能をもつ未延伸糸をネック変形させるに十分な温度に短時間にすることができないからである。延伸温度が20℃未満であると非晶分子の運動性が悪く本発明が目標とする延伸性を得られない。また、150℃を超えると、延伸により部分的に生じたポリL−乳酸単独結晶やポリD−乳酸単独結晶(各々融点が約170℃)が存在するため、結晶融解開始に伴う融着や繊維の硬化が見られる。好ましくは40〜130℃の範囲である。
液浴に用いる媒体は、水、シリコーンオイル、エチレングリコールやアセトン等の有機溶媒、塩化カリウム塩水溶液等の無機塩溶液、超臨界二酸化炭素等が上げられるが、プロセスや繊維への汚染や作業面の安全性等を考慮すると、水が最も好ましい。水浴延伸は、ポリエステル短繊維の量産設備として知られている温水バス等を活用することができる。水浴の場合の延伸温度は20〜100℃ということになる。
更に延伸倍率については、1.5〜6.0倍、より好ましくは2.5〜4.5倍といった比較的高倍率の延伸倍率に設定することで、室温あるいは乾熱中での多段延伸と異なり、延伸張力を低下させ、かつ延伸点を一定位置に固定することによって、延伸での単糸切れやスリップ、発熱による延伸斑、繊度斑、強伸度斑を抑制することに特徴がある。
(定長熱処理又は弛緩熱処理を施す工程(3))
延伸糸を緊張熱処理又は弛緩熱収縮させることにより、延伸後のポリL−乳酸単独結晶前駆体あるいはポリD−乳酸単独結晶前駆体をステレオコンプレックスポリ乳酸結晶へ転移させ、かつ非晶部の結晶化促進あるいは非晶部の歪を除去し熱収縮を下げることができる。緊張熱処理は、130〜200℃、好ましくは140〜190℃で行うことが好ましい。緊張熱処理温度が130℃未満では、延伸時に生成するポリL−乳酸又はポリD−乳酸単独の結晶からステレオコンプレックスポリ乳酸への結晶転移が進まない。緊張熱処理温度が200℃を超えると、ステレオコンプレックスポリ乳酸結晶の融解が始まり、熱収縮や繊維硬化が始まる。また一方、弛緩熱処理は、130〜165℃、好ましくは140〜160℃で行うことが好ましい。弛緩熱処理温度が130℃未満では、延伸時に生成するポリL−乳酸又はポリD−乳酸単独の結晶からステレオコンプレックスポリ乳酸結晶への転移が進まない。弛緩熱処理温度が165℃を超えると、延伸で生じたポリL−乳酸単独結晶あるいはポリD−乳酸単独結晶の融解が始まり、熱収縮や繊維硬化が始まる。
熱処理はテンションがかかった状態で行う定長熱処理でもテンションがかからない状態で行う弛緩熱処理のいずれでもよいが、水分や有機溶媒で湿った湿熱状態でなく乾熱状態で行うことが肝要である。湿熱状態で熱処理を行うと、ポリL−乳酸あるいはポリD−乳酸の非晶部分が水分子あるいは水酸基を含む化合物、アルカリによる加水分解(若しくは加溶媒分解等)を受けやすくなり、強伸度物性や靱性が低下するためである。
定長熱処理を施す手段としては、延伸糸に一定のテンションがかかった状態で、熱媒や電気ヒーターで表面を加熱したローラーや接触式ヒーターに接触させる接触加熱法と、スーパーヒートした高温蒸気(水蒸気等)噴射や熱風循環のチャンバー、赤外線ヒーター等の輻射熱による非接触加熱法がある。定長熱処理は基本的にはドラフトが1.0倍であるが、熱処理に伴う繊維の収縮や伸長変化等に伴い、0.85〜1.15倍等のドラフトもとり得るものとする。なお、液浴延伸後の水分を除去するために、熱処理前にローラーによる狭窄や乾熱ローラーによる低温乾燥、温風あるいは減湿空気、高圧空気を吹き付ける等のプロセスが併設されることが好ましい。
一方、弛緩熱処理は、延伸糸に無緊張状態で、熱風循環チャンバーや熱風を通過させるサクションドラム、オーバーフィードの状態で加熱ローラーや接触式ヒーター上を通過させる等の方法がある。
このように定長熱処理又は弛緩熱処理における延伸糸への加熱方法は、乾熱雰囲気中又は乾熱加熱体との接触によって行うことが好ましい。
定長熱処理と弛緩熱処理の両方を組み合せると、強度が高く、熱収縮率が低い繊維が得られるのでより好ましい。その場合、定長熱処理の方が繊維軸方向に配向した状態のステレオコンプレックスポリ乳酸結晶を得ることができるので、定長熱処理を130〜200℃に設定し、弛緩熱処理は40〜160℃の間で設定することが好ましい。弛緩熱処理温度を下げると、より高強度や高捲縮性の繊維が得られるが、熱収縮はやや高目となるので、弛緩熱処理は40℃以上で行うことが好ましい。比較的強度は低目で伸度高め、熱収縮率低めの繊維を得ようとするならば、弛緩熱処理温度を160℃で行うことが好ましいが、200℃まで上げることも可能である。
短繊維を製造する場合は、長繊維での延伸方法に加えて、用途に応じた所定の繊維長にロータリーカッター等でカットする工程、更に捲縮が必要とされる場合は、定長熱処理と弛緩熱処理の間に押し込みクリンパー等で捲縮を付与する工程が加わる。その際、捲縮付与性を高めるため、水蒸気や電熱ヒーター等でクリンパー前を予熱することができる。
本発明のステレオコンプレックスポリ乳酸原着繊維においてはこのような紡糸、延伸、熱処理を行うことによって、ポリL−乳酸単体結晶、ポリD−乳酸単体の結晶からステレオコンプレックスポリ乳酸結晶への転移が進んだポリ乳酸原着繊維を得ることができる。そしてその融点を200〜230℃にすることができる。背景技術の欄にて説明したようにポリL−乳酸においては、その融点は約170℃前後であり、180℃以上の温度がかかるアイロン掛け等ができないといった実用上の問題がおこるが、本発明によって得られたステレオコンプレックスポリ乳酸原着繊維ではこのような問題が発生することがなくなる。
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は実施例によって何ら限定を受けるものではない。
なお、実施例における各項目は次の方法で測定した。
(1)還元粘度:
ポリマーサンプル0.12gを10mLのテトラクロロエタン/フェノール(容量比1/1)に溶解し、35℃における還元粘度(mL/g)を測定した。
(2)重量平均分子量(Mw):
ポリマーの重量平均分子量はGPC(カラム温度40℃、溶媒:クロロホルム)により、ポリスチレン標準サンプルとの比較で求めた。
(3)ステレオ化率(Sc化率)
理化学電気社製ROTA FLEX RU200B型X線回折装置用いて透過法により、以下条件でX線回折図形をイメージングプレートに記録した。得られたX線回折図形において赤道方向の回折強度プロファイルを求め、ここで2θ=12.0°、20.7°、24.0°付近に現れるステレオコンプレックスポリ乳酸結晶に由来する各回折ピークの積分強度の総和ΣISCiと、2θ=16.5°付近に現れるホモポリ乳酸結晶に由来する回折ピークの積分強度IHMから下式に従いステレオ化率(Sc化率)を求めた。尚、ΣISCi並びにIHMは図1に示すように、赤道方向の回折強度プロファイルにおいてバックグランドや非晶による散漫散乱を差し引くことによって見積もった。
X線源: Cu−Kα線(コンフォーカル ミラー)
出力: 45kV×70mA
スリット: 1mmΦ〜0.8mmΦ
カメラ長: 120mm
積算時間: 10分
サンプル: 長さ3cm、35mg
Sc化率=ΣISCi/(ΣISCi+IHM)×100
ここで、ΣISCi=ISC1+ISC2+ISC3
SCi(i=1〜3)はそれぞれ2θ=12.0°、20.7°、24.0°付近の各回折ピークの積分強度を
HMは2θ=16.5°付近の回折ピークの積分強度をそれぞれ表す。
(4)融点、結晶化点
TAインストルメンツ製 TA−2920示差走査熱量測定計DSCを用いた。
測定は、試料10mgを窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で室温から260℃まで昇温し、結晶融解吸熱ピーク及び結晶化発熱ピークのピーク温度を各々融点及び結晶化点と定義した。
(5)単糸繊度
JIS L 1015:2005 8.5.1 A法に記載の方法により測定した。
(6)乾強度・乾伸度
JIS L 1015:2005 8.7.1法に記載の方法により測定した。
(7)繊維長
JIS L 1015:2005 8.4.1 C法に記載の方法により測定した。
(8)捲縮数
JIS L 1015:2005 8.12に記載の方法により測定した。
(9)油剤付着率
JIS L 1015:2005 8.22 c)法において、試料量を9g、抽出用溶媒をメタノール(25℃)とし、油分抽出を25℃のメタノールで30分静置して行った以外は同様の方法により測定した。
(10)150℃乾熱収縮率
JIS L 1015:2005 8.15 b)法に記載の方法により、150℃で測定した。
(11)色相
原綿から作成したニードルパンチ不織布を試験片とし、JIS L0809:2001記載の分光測色方法に従って、不織布のL、a、bの値を測定した。
(12)燐酸エステル金属塩含有量
燐酸エステル金属塩の含有量はポリ乳酸チップ又はポリ乳酸繊維サンプルをスチール板上で加熱溶融した後、圧縮プレス機で平坦面を有する試験成形体を作成した。この試験成形体を使って蛍光X線装置(理学電機工業株式会社製3270E型)を用いてリン元素及び金属元素含有量求めた。
また別にポリ乳酸チップ又はポリ乳酸繊維サンプルを、可溶な溶媒に溶解してメタノールにより再沈澱処理操作を行った。得られたポリ乳酸以外の成分から燐酸エステル金属塩成分を抽出した。得られた抽出成分を重水素化トリフルオロ酢酸/重水素化クロロホルム=1/1混合溶媒に溶解後、日本電子(株)製JEOL A−600 超伝導FT−NMRを用いて核磁気共鳴スペクトル(H−NMR)を測定した。そのスペクトルパターンから含有されている燐酸エステル金属塩の化学構造を特定した。これらの結果を総合的に評価して燐酸エステル金属塩含有量を算出した。
(13)顔料の含有量
得られたポリ乳酸チップ又はポリ乳酸原着繊維サンプルをテトラクロロエタンに溶解した後、メタノールにより再沈殿操作を行って、顔料の溶液を得た。その溶液中の顔料の量から算出した。
(製造例1:ポリL−乳酸A1の製造)
光学純度99.8%のL−ラクチド(株式会社武蔵野化学研究所)100質量%を重合容器に加え、重合容器内を窒素置換した後、ステアリルアルコール0.2質量%、触媒としてオクチル酸スズ0.05質量%を加え、190℃、2時間、重合を行い、ポリマーを製造した。このポリマーを7%5N塩酸のアセトン溶液で洗浄し、触媒を除去し、ポリL−乳酸A1を得た。得られたポリL−乳酸A1の還元粘度は2.92(mL/g)、重量平均分子量は13万であった。融点(Tm)は168℃であった。結晶化点(Tc)は122℃であった。
(製造例2:ポリD−乳酸B1の製造)
光学純度99.8%のD−ラクチド(株式会社武蔵野化学研究所)100質量%を重合容器に加え、重合容器内を窒素置換した後、ステアリルアルコール0.2質量%、触媒としてオクチル酸スズ0.05質量%を加え、190℃、2時間、重合を行い、ポリマーを製造した。このポリマーを7%5N塩酸のアセトン溶液で洗浄し、触媒を除去し、ポリD−乳酸B1を得た。得られたポリD−乳酸B1の還元粘度は2.65(mL/g)、重量平均分子量は13万であった。融点(Tm)は176℃であった。結晶化点(Tc)は139℃であった。
[実施例1]
ポリL−乳酸A1及びポリD−乳酸B1のチップを作成し、ポリL−乳酸A1/ポリD−乳酸B1=50/50(質量比)及びA成分とB成分の合計に対して燐酸2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ナトリウム塩(平均粒径5μm)0.1質量%とカーボンブラック(C.I.ピグメント・ブラック7)30質量%を水分率が50ppm以下となるように乾燥後、各々ロスインウェート式振動フィーダーで2軸ルーダー溶融紡糸機に供給し、ベント使用の状態で230℃で溶融し、ペレタイザーにより、2mm径、2mm長の原着マスターチップを作成した。この原着マスターチップは示差走査熱量計(DSC)で217℃にステレオコンプレックスに由来する単一の結晶融解ピークを有していた。
この原着マスターチップ5質量%とポリL−乳酸(A1)、ポリD−乳酸(B1)、及び燐酸2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ナトリウム塩(平均粒径5μm)を各々50:50:0.1(質量比)でメルトブレンドして得たペレット(ペレット作成方法は前述と同様の方法)95質量%を各々110℃の減湿空気を循環して5時間乾燥を行い、別々にロスインウェート式重量フィーダーから2軸溶融押出機(ベント使用)に供給し、0.5Φの吐出孔を420ホールもつ口金から500g/分で吐出させた。顔料濃度は1.5質量%であった。
その後、口金下30mmの位置で25℃の空気を吹き付けて冷却固化させながら、450m/分の速度で未延伸糸を巻き取った。この未延伸糸はSc化率0%で、示差走査熱量計(DSC)で217℃にステレオコンプレックスに由来する単一の結晶融解ピークを有していた。
この未延伸糸を束ねて60万デシテックスのトウとし、60℃の温水中で4.07倍に延伸し、引続き90℃の温水中で1.05倍延伸し、全延伸倍率4.27倍とした。その後、0.85MPaの水蒸気で加熱した金属ローラー6本を通過させ、通過後のトウ温度165℃の状態で定長熱処理(1.0倍)を行い、ステアリルホスフェートカリウム塩からなる油剤を付与した後、水蒸気で80℃に加熱したトウを押し込み型クリンパーに供給して、14個/25mmの捲縮を付与した後、45℃の循環熱風中を50分間通過させ、弛緩熱処理を実施した。その後、ロータリーカッターにてカットし、6.45デシテックス、64mmの短繊維を得た。得られた繊維は、示差走査熱量計(DSC)測定において、ポリL−乳酸及びポリD―乳酸からなるステレオコンプレックスポリ乳酸結晶の単一融解ピークを示し、融点が218℃であった。また、広角X線回折測定でのSc化率100%、繊維の強度は2.7cN/dtex、伸度46%であり、150℃乾熱収縮率は5.7%、色相は、L=11.07、a=−0.16、b=0.05であった。
[比較例1]
マスターチップ中の燐酸2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ナトリウム塩を0質量%とした以外は実施例1と同様に実施したが、溶融粘度斑に基づく吐出不良(五月雨状の吐出状態)となり、未延伸糸を得ることができなかった。
ノズルから吐出されたポリ乳酸組成物のDSCを測定した結果、217℃のステレオコンプレックス由来の結晶融解ピーク以外に168℃のポリL−乳酸単独結晶あるいはポリD−乳酸単独結晶に由来するピークが見られた。
[比較例2]
ポリL−乳酸(融点168℃)をベースチップとし、顔料をカーボンブラック(C.I.ピグメント・ブラック7)とするマスターチップを実施例1と同様の要領で作成(顔料濃度30質量%)し、マスターチップ5質量%とポリL−乳酸ペレット95質量%を各々110℃の減湿空気を循環して5時間乾燥を行い、別々にロスインウェート式重量フィーダーから2軸溶融押出機(ベント使用)に供給し、0.5Φの吐出孔を420ホールもつ口金から500g/分で吐出させた。顔料濃度は1.5質量%であった。
その後、口金下30mmの位置で25℃の空気を吹き付けて冷却固化させながら、450m/分の速度で未延伸糸を巻き取った。この未延伸糸はSc化率0%で、示差走査熱量計(DSC)で168℃にポリL−乳酸に由来する単一の結晶融解ピークを有していた。
この未延伸糸を束ねて60万デシテックスのトウとし、60℃の温水中で4.4倍に延伸し、引続き90℃の温水中で1.05倍延伸し、全延伸倍率4.6倍とした。その後、0.3MPaの水蒸気で加熱した金属ローラー6本を通過させ、通過後のトウ温度120℃の状態で定長熱処理(1.0倍)を行い、ステアリルホスフェートカリウム塩からなる油剤を付与した後、水蒸気で60℃に加熱したトウを押し込み型クリンパーに供給して、14個/25mmの捲縮を付与した後、45℃の循環熱風中を50分間通過させ、弛緩熱処理を実施した。その後、ロータリーカッターにてカットし、7.70デシテックス、64mmの短繊維を得た。得られた繊維は、示差走査熱量計(DSC)測定において、ポリL−乳酸又はポリD―乳酸単独からなる結晶の単一融解ピークを示し、融点が168℃であった。また、繊維の強度は3.5cN/dtex、伸度49%であり、150℃乾熱収縮率は12.8%であった。当然のことながら、180℃における耐熱性はなく、この原着繊維から自動車内装材を成形することは、繊維が融解するため不可能である。
[実施例2]
マスターバッチの顔料を弁柄(酸化鉄:C.I.ピグメント・ブラウン6)、顔料濃度を5質量%とし、マスターバッチ:ベースチップ混率=0.4:99.6(質量比)とした他は、実施例1と同様に実施した。顔料濃度は0.02質量%(色相:アイボリー)、延伸糸のSc化率100%、融点217℃、繊度6.44デシテックス、強度2.9cN/dtex、伸度49%、150℃乾熱収縮率5.4%、色相は、L=85.65、a=2.56、b=10.58であった。
[実施例3]
マスターバッチの顔料をキナクリドンレッド(C.I.ピグメント・レッド122)/フタロシアニンブルー(C.I.ピグメント・ブルー15:3)/カーボンブラック(C.I.ピグメント・ブラック7)=28.4/69.0/2.6(質量比)、顔料濃度を25質量%とし、マスターバッチ:ベースチップ混率=14.4:85.6(質量比)とした他は、実施例1と同様に実施した。顔料濃度は3.6質量%(色相:濃紺)、延伸糸のSc化率100%、融点217℃、繊度6.51デシテックス、強度2.3cN/dtex、伸度42%、150℃乾熱収縮率5.1%、色相は、L=15.60、a=−0.46、b=−15.01であった。
[実施例4]
マスターバッチの顔料濃度を60質量%、マスターバッチ:ベースチップ混率=11.7:88.3(質量比)とした他は、実施例1と同様に実施した。顔料濃度は7.0質量%(色相:黒)、延伸糸のSc化率100%、融点217℃、繊度6.51デシテックス、強度2.1cN/dtex、伸度38%、150℃乾熱収縮率4.3%、色相は、L=6.17、a=−0.36、b=0.15であった。
[実施例5]
マスターチップ中及びベースチップ中の燐酸エステル金属塩をアルミニウムビス(2,2’−メチレンビス(4,6−ジ第三ブチルフェニル)ホスフェート)ハイドロキサイドとした以外は実施例1と同様に実施した。顔料濃度は1.5質量%(色相:黒)、延伸糸のSc化率100%、融点217℃、繊度6.46デシテックス、強度2.5cN/dtex、伸度42%であり、150℃乾熱収縮率は4.8%、色相は、L=11.27、a=−0.23、b=0.09であった。
[実施例6]
ポリL−乳酸A1及びポリD−乳酸B1のチップを作成し、ポリL−乳酸A1/ポリD−乳酸B1=50/50(質量比)及びA成分とB成分の合計に対して燐酸2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ナトリウム塩(平均粒径5μm)9質量%とカーボンブラック(C.I.ピグメント・ブラック7)30質量%を水分率が50ppm以下となるように乾燥後、各々ロスインウェート式振動フィーダーで2軸ルーダー溶融紡糸機に供給し、ベント使用の状態で230℃で溶融し、ペレタイザーにより、2mm径、2mm長の原着マスターチップを作成した。この原着マスターチップは示差走査熱量計(DSC)で217℃にステレオコンプレックスに由来する単一の結晶融解ピークを有していた。
この原着マスターバッチとポリL−乳酸A1ペレット、ポリD−乳酸B1ペレットを各々110℃の減湿空気を循環して5時間乾燥を行い、別々にロスインウェート式重量フィーダーから各々5:50:50(質量比)で2軸溶融押出機(ベント使用)に供給し、0.5Φの吐出孔を420ホールもつ口金から400g/分で吐出させた。顔料濃度は1.5質量%であった。
その後、口金下30mmの位置で25℃の空気を吹き付けて冷却固化させながら、1000m/分の速度で未延伸糸を巻き取った。この未延伸糸はSc化率0%で、示差走査熱量計(DSC)で217℃にステレオコンプレックスに由来する単一の結晶融解ピークを有していた。
この未延伸糸を束ねて42万デシテックスのトウとし、60℃の温水中で2.94倍に延伸し、引続き90℃の温水中で1.02倍延伸し、全延伸倍率3.0倍とした。その後、0.85MPaの水蒸気で加熱した金属ローラー6本を通過させ、通過後のトウ温度165℃の状態で定長熱処理(1.0倍)を行い、ステアリルホスフェートカリウム塩からなる油剤を付与した後、水蒸気で80℃に加熱したトウを押し込み型クリンパーに供給して、17個/25mmの捲縮を付与した後、45℃の循環熱風中を50分間通過させ、弛緩熱処理を実施した。その後、ロータリーカッターにてカットし、3.37デシテックス、51mmの短繊維を得た。得られた繊維は、示差走査熱量計(DSC)測定において、ポリL−乳酸及びポリD―乳酸からなるステレオコンプレックスポリ乳酸結晶の単一融解ピークを示し、融点が217℃であった。また、広角X線回折測定でのSc化率100%、繊維の強度は2.4cN/dtex、伸度38%であり、150℃乾熱収縮率は4.8%、色相は、L=11.86、a=0.26、b=0.21であった。
本発明のステレオコンプレックスポリ乳酸原着繊維によって、従来知られているポリエチレンテレフタレート原着繊維並の耐熱性や強度を有するバイオマスプラスチック原着合成繊維を初めて実現した。また、ステレオコンプレックスポリ乳酸原着繊維の着色方法として、顔料マスターチップのベース樹脂をPLLAとPDLAの溶融混合体とし、更にステレオコンプレックス形成を促進させる特定の燐酸エステル金属塩を予め添加しておくことで、溶融押出機内でのPLLA分子鎖とPDLA分子鎖のブレンド均一性や溶融粘度斑、延伸・熱処理後のPLLA単独結晶、PDLA単独結晶の生成を抑えることで、工程調子及び耐熱性、繊度斑、強伸度物性斑を極度に低減させることができた。この発明により、繊維製造及び繊維製品の性能向上を飛躍的に高めることができ、非常に有用である。
実施例等において得られた繊維のステレオ化率(Sc化率)の計算に用いた赤道方向の回折強度プロファイルの一例である。

Claims (7)

  1. L乳酸を主成分とする重量平均分子量5万〜30万のポリL−乳酸とD乳酸を主成分とする重量平均分子量5万〜30万のポリD−乳酸からなるポリ乳酸組成物A、燐酸エステル金属塩及び顔料からなるポリ乳酸チップであって、式(1)で表される燐酸エステル金属塩がポリ乳酸組成物重量に対して0.05〜10.0質量%、顔料がポリ乳酸組成物重量に対して0.1〜70質量%含有するポリ乳酸チップを、L乳酸を主成分とする重量平均分子量5万〜30万のポリL−乳酸とD乳酸を主成分とする重量平均分子量5万〜30万のポリD−乳酸からなり実質的に顔料を含まないポリ乳酸組成物Bに溶融混合した後、ノズルから吐出させ、溶融紡糸法によって未延伸糸を得て該未延伸糸に対して延伸処理を行った後、緊張熱処理及び/又は弛緩熱処理を行うポリ乳酸繊維の製造方法であって、L乳酸を主成分とする重量平均分子量5万〜30万のポリL−乳酸とD乳酸を主成分とする重量平均分子量5万〜30万のポリD−乳酸からなるポリ乳酸組成物100質量%あたりに対して、式(1)で表される燐酸エステル金属塩を0.05〜5.0質量%及び顔料を0.01〜10.0質量%含む組成物であって、L乳酸を主成分とする重量平均分子量5万〜30万のポリL−乳酸、D乳酸を主成分とする重量平均分子量5万〜30万のポリD−乳酸及び燐酸エステル金属塩からなる組成物がステレオコンプレックスポリ乳酸を形成しているポリ乳酸繊維の製造方法。
    Figure 0005139841
    [上記式中、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、R、Rは各々独立に水素原子又は炭素数1〜12のアルキル基を表し、Mはアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子又はアルミニウム原子を表し、pは1又は2を表し、Mがアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子又は亜鉛原子のときqは0を表し、Mがアルミニウム原子のときqは1又は2を表す。]
  2. ポリ乳酸チップを構成している、ポリ乳酸組成物A及び燐酸エステル金属塩からなる組成物がステレオコンプレックスポリ乳酸を形成している請求項記載のポリ乳酸繊維の製造方法。
  3. 緊張熱処理が定長熱処理であることを特徴とする請求項1〜2のいずれか1項記載のポリ乳酸繊維の製造方法。
  4. 緊張熱処理又は弛緩熱処理を行うポリ乳酸繊維の製造方法であって、緊張熱処理温度が130〜200℃、弛緩熱処理温度が130〜165℃である請求項1〜3のいずれかに記載のポリ乳酸繊維の製造方法。
  5. 緊張熱処理又は弛緩熱処理を行うポリ乳酸繊維の製造方法であって、緊張熱処理温度が140〜190℃、弛緩熱処理温度が140〜160℃である請求項1〜4のいずれかに記載のポリ乳酸繊維の製造方法。
  6. 緊張熱処理及び弛緩熱処理を行うポリ乳酸繊維の製造方法であって、緊張熱処理温度が130〜200℃、弛緩熱処理温度が40〜160℃であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリ乳酸繊維の製造方法。
  7. 溶融紡糸において、紡糸口金下5〜200mmの位置で紡出糸条に10〜40℃の空気を送風して冷却固化させ、100〜3000m/分の紡糸速度で引き取ることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載のポリ乳酸繊維の製造方法。
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