JP5717957B2 - キャプスタン及びキャプスタン装置 - Google Patents

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本発明は、外周側に線材が巻き付けられるキャプスタンと、このキャプスタンを備えたキャプスタン装置に関する。
ダイスで線材を引き抜く際、キャプスタン装置でキャプスタンを回転させて線材を巻き取りながら引き抜くことが行われている。
ここで、生産性を挙げるためには線材を引き出す速度(線速)を上げることが有効であるが、線速を上げると塑性加工や摩擦によるダイス内での発熱量が増大する。このため、発生した熱を除去して線材に熱が蓄積されることを防ぎ、線材が次のダイスに低温で入るようにする必要がある。
この熱除去として最も一般的に行われていることは、キャプスタンのうち線材が当接する部位を介して、伝熱による熱交換で除去することである(例えば特許文献1参照)。この手法の利点は線材表面を変化させる心配がないことである。そして、伸線工程の途中や伸線工程の最終段階で熱除去することができ、その上、線材表面の潤滑剤を変化させることがないため、ダイスに入線するときの線材温度を下げる作用に加え、ダイス内での摩擦抵抗を下げる効果もある。
US5678443
ところで、特許文献1に開示されているように、キャプスタン装置には、通常、回転することにより線材を引き出しつつ巻き付ける中空円筒状のキャプスタンが設けられている。そして、このキャプスタンの内側を流体(水)で冷却することにより線材の熱を除去することが行われている。
しかし、線材を引き出すことによって形成した伸線の長さ、線材の引き出し速度、線材の硬さなどが増大するにつれて、キャプスタンのうち線材が当接する部位で表面摩耗が進行する。その結果、ついには線材とキャプスタンとが充分に接触することができなくなり、線材を冷却する能力(線材冷却能力)の低下や、線材がキャプスタンにうまく巻き付かない事態が生じるという不具合があった。
線材との接触によるキャプスタンの摩耗を抑制するために、キャプスタン本体の外周面に、溶射による摩耗抑制層を形成することが考えられるが、摩耗抑制層の材質等によっては、熱伝導率が低いために線材冷却性能が低下することが懸念される。
本発明は、上記事実を考慮して、キャプスタン本体の外周面の摩耗を抑制し、且つ線材冷却性能の低下を抑えたキャプスタンと、このキャプスタンを備えたキャプスタン装置を提供することを課題とする。
請求項1に記載の発明では、キャプスタン装置を構成し回転力が与えられて回転するキャプスタン本体と、前記キャプスタン本体の外周面のうち少なくとも線材が巻き付けられる領域に形成された熱処理硬化層と、を有し、前記キャプスタン本体が、機械構造用炭素鋼鋼材のS55Cで構成されている。
このキャプスタンでは、キャプスタン本体は、機械構造用炭素鋼鋼材のS48C、S50C、S53C、S55Cのいずれかで構成されている。この機械構造用炭素鋼鋼材は、JIS G 4051に規定される種類の記号によって特定されるものであり、種類に応じて所定範囲の化学成分(C、Si、Mn、P、S)を有している。しかも、キャプスタン本体の外周面のうち少なくとも線材が巻き付けられる領域には熱処理硬化層が形成されている。したがって、キャプスタン本体の耐磨耗性を維持して外周面の摩耗を抑制しつつ、高い熱伝導率により線材冷却性能の低下を抑えることができる。
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載のキャプスタンと、前記キャプスタンを構成するキャプスタン本体を内周側から冷却する冷却機構と、を有する。
すなわち、請求項2に記載の発明では、請求項1に記載のキャプスタンを有するキャプスタン装置であり、キャプスタン本体を冷却機構により内周側から冷却する。従って、キャプスタン本体を効率的に冷却することができる。なお、冷却方式としては水冷が代表的であるが、水以外の他の液体による冷却であってもよいし、空冷することも考えられる。また、ペルチェ素子を用いた冷却方式であってもよい。
本発明は上記構成としたので、キャプスタン本体の外周面の摩耗を抑制し、且つ線材冷却性能の低下を抑えることが可能となる。
本発明の一実施形態のキャプスタン装置の構成を示す側面断面図である。 本発明の一実施形態のキャプスタン装置の変形例の構成を示す側面断面図である。 本発明の一実施形態のキャプスタン装置の変形例の構成を示す側面断面図である。 機械構造用炭素鋼鋼材の材質と摩耗深さとの関係を示すグラフである。 キャプスタン巻き高さワイヤー温度の関係を示すグラフである。 キャプスタン巻き高さワイヤー温度の関係を示すグラフである。
以下、線材としてワイヤを用いた実施形態を挙げ、本発明の実施形態について説明する。なお、ワイヤ以外のコードなどの線材を用いることも可能である。
図1に示すように、本実施形態に係るキャプスタン装置10は、回転中心軸Cが鉛直方向に向けられた本実施形態に係るキャプスタン12と、キャプスタン12を回転させる回転機構14と、キャプスタン12を冷却する冷却機構16と、を備えている。
キャプスタン12は、回転機構14に取付けられて回転するキャプスタン本体20と、キャプスタン本体20(母材)の外周側のうちワイヤWが巻き付けられる領域に形成された熱処理硬化層22と、を有する。
キャプスタン本体20は、JIS G 4051規定される機械構造用炭素鋼鋼材のなかで、特にS48C、S50C、S53C、S55Cのいずれかの鋼材を鍛造することにより構成されている。このキャプスタン本体20は、熱処理硬化層22が外周側に形成されている中空の円筒状部24と、円筒状部24の上側に形成され、周縁部26Eが円筒状部24の外周側に鍔状に張り出す円盤状の上部26と、円筒状部24の下側に形成され、周縁部26Eが円筒状部24の外周側に鍔状に張り出す下部28と、を有する。円筒状部24の内周側24Sは波状とされていて、波の凸部24P及び凹部24Dがキャプスタン本体20の内周方向(円周方向)に沿っている。キャプスタン12の外周には、熱処理硬化層22の下部からワイヤWが入線し、熱処理硬化層22の上部からワイヤWが出線するように巻き付けられる。また、本実施形態では、熱処理硬化層22は、キャプスタン本体20の外周面を加熱した後、浸炭焼入れ、窒化、高周波焼入れ、炎焼入れなどの所定の処理を行って、硬化された層である。
回転機構14は、鉛直方向に立てられた回転軸部30と、回転軸部30の下部を支えるベアリング部32とを備えている。ベアリング部32は、キャプスタン装置10に設けられた支持部34で支えられている。キャプスタン本体20は、回転軸部30に取付けられており、回転軸部30が回転することによってキャプスタン12が回転する構成になっている。
冷却機構16は、円筒状部24のうち、外周側に熱処理硬化層22が形成されている内周側部分24Bの上部に向けて冷却水Lを噴出するノズル40を備えている。また、冷却機構16は、キャプスタン本体20の内周よりも内側(回転中心軸Cの側)に鉛直方向に沿って配置された支持部材42と、支持部材42の外周側に固定され、キャプスタン本体の内周に沿って螺旋状に形成された案内板44と、を有しており、ノズル40から噴出した冷却水Lを、キャプスタン本体20の内周側下部へ徐々に案内する構成になっている。支持部材42は、円筒状であってもよいし、複数本の柱状部材で構成されていてもよい。
以上説明したように、本実施形態では、キャプスタン12のキャプスタン本体20は、JIS G 4051規定される機械構造用炭素鋼鋼材のうち、S48C、S50C、S53C、S55Cのいずれかの鋼材で構成されており、このキャプスタン本体20の外周側のうちワイヤWが巻き付けられる領域に熱処理硬化層22が形成されている。
ここで、単に表面の摩耗を抑制するためだけであれば、表面を熱硬化処理すれば済むが、キャプスタン本体20を構成している鋼材の炭素量(以下「C量」とする)が多くなると、熱伝導度が低下する、表1には、機械構造用炭素鋼鋼材の種類と、熱伝導度の関係が示されている。
Figure 0005717957

なお、表1の材質における最下段の「ピアノ線溶射」とは、S55CまたはFCD500の表面に、熱処理硬化を形成することに代えて、ピアノ線材溶射を用いた際の、ピアノ線溶射層部分の熱伝導度を示している。
この表1からは、S35C、S45C、S48C、S50C、S53C、S55Cでは、熱伝導度が45(W/m・k)あるいはそれ以上であり、キャプスタン本体20として用いたときに、他の材質と比較して、線材冷却性能の低下を効果的に抑えることが可能であることが分かる。
一方、C量が異なると、耐摩耗性(摩耗しづらさの程度)も異なる。図4には、C量が異なる機械構造用炭素鋼鋼材で摩耗評価を行った結果の一例が示されている。この図4から、S48Cよりも番号の小さい(すなわちC量の少ない)機械構造用炭素鋼鋼材では、それ以外の機械構造用炭素鋼鋼材よりも耐摩耗性が低下していることが分かる。
以上より、熱伝導率と耐摩耗性を両立できる機械構造用炭素鋼鋼材として、S48C、S50C、S53C、S55Cを用いることが好ましいことが分かる。たとえば、キャプスタン本体20の外周面(ワイヤWが巻き付けられる領域)に摩耗抑制のためにピアノ線溶射を施すことも考えられる。本発明では、ピアノ線溶射層を設けた構成よりもさらに高い冷却性能が得られるため、ピアノ線溶射層を設ける必要がなく、しかも、耐磨耗性も高いキャプスタン本体20とすることができる。
特に、本実施形態では、キャプスタン装置10が、キャプスタン本体20を内周側24Sから水冷する冷却機構16を備えている。上記したS48C、S50C、S53C、S55Cの機械構造用炭素鋼鋼材の熱伝導率は高いので、キャプスタン12を効率的に冷却することができる。
また、キャプスタン本体20の回転中心軸Cが鉛直方向に向けられ、冷却機構16は、キャプスタン本体の内周に沿って螺旋状に形成された案内板44と、この案内板44を回転中心軸Cの側から支える支持部材42と、を有している。これにより、内周側部分24Bの上部に向けて噴出した冷却水Lが、キャプスタン本体20の内周に沿って接触しながら徐々に下方へ流れる。従って、冷却水Lの噴出流量をあまり多くしなくても効率的にキャプスタン12を冷却することができて冷却水Lの噴出機構の小型化を図ることができ、しかも、キャプスタン本体20の内周全体にわたって確実に冷却することができる。
また、キャプスタン本体20の内周側24Sが波状であって波の凸部24P及び凹部24D(何れも図1(B)参照)がキャプスタン本体の内周方向(回転中心軸回り方向)に沿っている。従って、ノズル40から噴出した冷却水Lは、案内板44に沿って下方へ流れる際に凸部24P及び凹部24Dを経由して流れるので、冷却水Lの内壁面への接触面積が大きくなり、効率的に冷却することができる。また、凸部24P及び凹部24Dがキャプスタン本体20の内周方向に沿っているので、ワイヤWが巻き付くことによる引張り力がキャプスタン本体20に作用しても、この引張り力に対する強度が強い。
なお、本実施形態では、キャプスタン本体20が全体にわたってS48C、S50C、S53C、S55Cの機械構造用炭素鋼鋼材からなる例で説明したが、キャプスタン本体のうち熱処理硬化層22の内周側のみがこれらの機械構造用炭素鋼鋼材からなる例であっても、同様の効果を奏することができる。
また、本実施形態では、キャプスタン本体20の内周側上部に向けて噴出した冷却水をキャプスタン本体20の内周側下部へ徐々に案内する案内手段として、キャプスタン本体20の内周に沿って螺旋状に形成された案内板44を支持部材42の外周側に固定した例で説明したが、図2に示すように、キャプスタン本体20の内周に沿ってリング状に配置された案内板48を支持部材42の外周側に固定してもよい。これにより、冷却水をキャプスタン本体20の内周側下部へ更に徐々に案内することができる。この場合、図2に示すように、上下方向に等間隔で離隔した複数の案内板48を配置すると、より均一にかつ効果的にキャプスタン本体20を冷却し易い。
また、本実施形態では、キャプスタン本体20の内周側24Sに凸部24P及び凹部24Dが形成されている例で説明したが、図3に示すように、キャプスタン本体20に代えて、外周側に熱処理硬化層22が形成されている内周側部分54Bの内壁が通常の円筒内面状であるキャプスタン本体50としても、冷却機構のノズル51から冷却水Lを噴出してキャプスタン本体50の冷却効果を充分に得ることが可能である。なお、ノズル51の高さ位置を固定している支持部材52は、内周側部分54Bに沿って冷却水Lが流れるように円筒状とされていてもよい。
以下に、本発明の実施例を挙げて、より詳細に説明するが、本発明がこれらの実施例に限定されないことはもちろんである。
発明者らは、まず、以下の各材質及び各処理を施した同一形状のキャプスタン本体を作製した。
<試験例1>
キャプスタンA:鍛造のS55Cのキャプスタン本体に、熱処理硬化層22を形成したもの
キャプスタンB:鍛造のS55Cのキャプスタン本体に、ピアノ線材を溶射して耐摩耗層(厚さ3mm)を形成したもの
キャプスタンC:鍛造のFCD500(球状黒鉛鋳鉄)のキャプスタン本体にピアノ線材を溶射して耐摩耗層(厚さ3mm)を形成したもの
以上の各構成のキャプスタン本体に対し、キャプスタンの巻き高さとワイヤ温度との関係をそれぞれ調べた。結果を図5に示す。
この図5のグラフから、材質及び表面性状によって冷却性能が大きく異なることが分かる。すなわち、ピアノ線材を溶射して耐摩耗層を形成したキャプスタン本体(比較例1及び比較例2)では、熱処理硬化層22を形成したキャプスタン本体(実施例1)に対し、冷却性能が低くなっていることが分かる。特に、材料としてFCD500(球状黒鉛鋳鉄)を用いたキャプスタン本体(比較例2)では、55Cを用いたキャプスタン本体(比較例1)よりも、さらに冷却性能が低い。
<試験例2>
実施例1:鍛造のS55Cのキャプスタン本体に、熱処理硬化層22を形成したもの
実施例2:鍛造のS48Cのキャプスタン本体に、熱処理硬化層22を形成したもの
比較例1:鍛造のS40Cのキャプスタン本体に、熱処理硬化層22を形成したもの
比較例2:鍛造のS30Cのキャプスタン本体に、熱処理硬化層22を形成したもの
比較例3:鍛造のS40Cのキャプスタン本体に、ピアノ線材を溶射して耐摩耗層(厚さ2mm)を形成したもの
以上の各構成のキャプスタン本体に対し、試験例1と同様に、キャプスタンの巻き高さとワイヤ温度との関係をそれぞれ調べた。この結果を図6に示す。また、これらのキャプスタン本体の摩耗深さについても調べた。この結果を表2に示す。
Figure 0005717957

まず、耐磨耗性については、表2から、S55Cのキャプスタン本体に、熱処理硬化層22を形成した実施例1、及び、S48Cのキャプスタン本体に、熱処理硬化層22を形成した実施例2、さらに、S40Cのキャプスタン本体にピアノ線材の耐摩耗層を形成した比較例3では、実質的に摩耗が生じていない(摩耗深さが0mmである)のに対し、S40Cのキャプスタン本体に、熱処理硬化層22を形成した比較例1、及び、S30Cのキャプスタン本体に、熱処理硬化層22を形成した比較例2では、摩耗が生じている。
また、冷却性能については、図6のグラフから、S55Cのキャプスタン本体に、熱処理硬化層22を形成した実施例1、及び、S48Cのキャプスタン本体に、熱処理硬化層22を形成した実施例2では、S40Cのキャプスタン本体に、熱処理硬化層22を形成した比較例1、及び、S30Cのキャプスタン本体に、熱処理硬化層22を形成した比較例2と同程度の冷却性能となっていることが分かる。特に、S40Cのキャプスタン本体にピアノ線材の耐摩耗層を形成した比較例3に対しては、より高い冷却性能が得られることが分かる。なお、S48CとS55Cの間の材料であるS50C及びS53Cについては、耐磨耗性はS48C及びS55Cと同様の耐磨耗性(摩耗が生じない)を有し、冷却性能については、これらの間の特性を示すことが推測できる。
以上から、機械構造用炭素鋼鋼材として、S48C、S50C、S53C、S55Cを用い、これらに熱処理硬化層を形成することにより、必要とされる熱伝導率と耐摩耗性を両立できることがわかる。
10 キャプスタン装置
12 キャプスタン
16 冷却機構
20 キャプスタン本体
22 熱処理硬化層
24P 凸部
24D 凹部
24S 内周側
44 案内板(案内手段、案内板)
48 案内板(案内手段、案内板)
50 キャプスタン本体
C 回転中心軸
W ワイヤ(線材)

Claims (2)

  1. キャプスタン装置を構成し回転力が与えられて回転するキャプスタン本体と、
    前記キャプスタン本体の外周面のうち少なくとも線材が巻き付けられる領域に形成された熱処理硬化層と、
    を有し、
    前記キャプスタン本体が、機械構造用炭素鋼鋼材のS55Cで構成されているキャプスタン。
  2. 請求項1に記載のキャプスタンと、
    前記キャプスタンを構成するキャプスタン本体を内周側から冷却する冷却機構と、
    を有するキャプスタン装置。
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