以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
[実施形態1]
図1は、実施形態1に係る車両制御システムの概略構成を表す模式図、図2は、実施形態1に係る車両制御システムの遊星歯車機構周辺の概略構成を表す部分断面図、図3は、実施形態1に係る車両制御システムの動作を表す模式図、図4、図5は、実施形態1に係る車両制御システムの動作を表す共線図、図6は、実施形態1に係る車両制御システムのECUによる制御の一例を説明するフローチャートである。
図1に示す本実施形態の車両制御システム1は、車両2に搭載される。車両制御システム1は、車両2の駆動輪30を回転駆動して推進するために、走行用動力源(原動機)として、内燃機関及び回転電機を搭載したハイブリッド形式のハイブリッド駆動システムである。つまり、車両2は、いわゆるハイブリッド車両であり、内燃機関に加えて回転電機を動力源として備えた車両である。車両2は、内燃機関を可及的に効率の良い状態で運転する一方、駆動力やエンジンブレーキ力の過不足を回転電機で補い、さらには減速時にエネルギの回生をおこなう。これにより、車両2は、内燃機関による排気ガスを低減し、同時に燃費の向上を図るように構成された車両である。
具体的には、車両制御システム1は、内燃機関としてのエンジン10と、動力伝達装置20と、駆動輪30と、制御装置としてのECU40とを備える。動力伝達装置20は、走行用動力源が発生させる動力を伝達するものである。動力伝達装置20は、エンジン10と結合されると共に、回転電機としてのモータジェネレータ(以下、特に断りのない限り「モータ」と略記する)MG1、MG2を含んで構成される。駆動輪30は、動力伝達装置20を介して伝達される動力により回転駆動する。ECU40は、CPU、ROM、RAM及びインターフェースを含む周知のマイクロコンピュータを主体として構成される電子制御装置である。車両制御システム1は、このECU40によって制御されることでエンジン10とモータMG1、MG2を原動機として併用又は選択使用することが可能に構成される。
より詳細には、エンジン10は、燃料を燃焼させることにより燃料のエネルギを機械的仕事に変換して出力する熱機関である。エンジン10は、燃料の燃焼に伴って機関出力軸としてのクランク軸11に機械的な動力(エンジントルク)を発生させ、この機械的動力をクランク軸11から駆動輪30に向けて出力可能である。エンジン10は、車両2の停車中、走行中にかかわらず、作動状態と非作動状態とを切り替え可能である。
ここで、エンジン10の作動状態(エンジン10を作動させた状態)とは、駆動輪30に作用させる動力を発生する状態であり、燃焼室で燃料を燃焼して生じる熱エネルギをトルクなどの機械的エネルギの形で出力する状態である。つまり、エンジン10は、作動状態では燃焼室で燃料を燃焼させて車両2の駆動輪30に作用させる動力を発生する。一方、エンジン10の非作動状態、すなわち、エンジン10の作動を停止させた状態とは、動力の発生を停止した状態であり、燃焼室への燃料の供給をカットし(フューエルカット)、燃焼室で燃料を燃焼させずトルクなどの機械的エネルギを出力しない状態である。
また、このエンジン10は、始動時にクランク軸11を回転駆動するスタータ12を有する。スタータ12は、例えば、電動機等によって構成され、発生させた動力によってクランク軸11を回転始動(クランキング)する。エンジン10は、スタータ12からの動力によりクランク軸11の回転が開始した後に、燃焼室に燃料を噴射して点火することで始動することができる。なお、このエンジン10は、後述するようにモータMG1をスタータモータとして利用して始動することもできる。
動力伝達装置20は、走行用動力源が発生させた動力を駆動輪30に伝達するものである。動力伝達装置20は、上記モータMG1、MG2、遊星機構としての遊星歯車機構50、減速機構60、差動機構70、係合装置としてのクラッチ80などを含んで構成される。
モータMG1、MG2は、供給された電力を機械的動力に変換する電動機としての機能(力行機能)と、入力された機械的動力を電力に変換する発電機としての機能(回生機能)とを兼ね備えた回転電機、いわゆるモータジェネレータである。モータMG1は、主にエンジン10の出力を受けて発電する発電機として用いられ、モータMG2は、主に走行用の動力を出力する電動機として用いられる。モータMG2は、交流同期電動機等で構成されており、インバータ(不図示)から交流電力の供給を受けて駆動し、ロータに機械的な動力(モータトルク)を発生させ、この機械的動力をロータから駆動輪30に向けて出力可能である。モータMG1もモータMG2と同様に交流同期電動機としての構成を有している。モータMG1は、ロータに回転軸線C1を中心に回転可能な回転電機出力軸としての回転軸21が結合される。モータMG2は、ロータに回転軸線C1と平行な回転軸線C2を中心に回転可能な回転電機出力軸としての回転軸22が結合される。なお、回転軸線C1は、クランク軸11の回転軸線と一致している。
遊星歯車機構50は、エンジン10が出力した機械的動力をモータMG1側と駆動輪30側とに分割(振り分け)可能である。この遊星歯車機構50は、相互に差動回転可能な複数の回転要素を含んで構成される。遊星歯車機構50は、複数の回転要素として、同一の回転軸線C1を中心に回転可能な第1回転要素としてのキャリヤ50c、第1回転要素とは異なる第2回転要素としてのサンギヤ50s、及び、第1回転要素及び第2回転要素とは異なる第3回転要素としてのリングギヤ50rを含んで構成される。サンギヤ50sは、外歯歯車である。リングギヤ50rは、サンギヤ50sと同軸上に配置された内歯歯車である。キャリヤ50cは、サンギヤ50s又はリングギヤ50r、ここでは両方に噛み合っているピニオンギヤ50pを自転可能かつ公転可能に支持する。
本実施形態の遊星歯車機構50は、キャリヤ50cがエンジン10からの動力が入力される入力回転要素であり、リングギヤ50rがキャリヤ50cに伝達された動力を出力する出力回転要素となっている。キャリヤ50cは、クランク軸11が一体回転可能に結合される。すなわち、エンジン10は、第1回転要素であるキャリヤ50cに連結される。サンギヤ50sは、回転軸21が一体回転可能に結合される。すなわち、モータMG1は、第2回転要素であるサンギヤ50sに連結される。リングギヤ50rは、出力回転部材であり駆動歯車である第1カウンタドライブギヤ23が後述するクラッチ80を介して係合、及び、解放可能に接続される。遊星歯車機構50は、エンジン10が発生させた動力がキャリヤ50cに入力され、このキャリヤ50cに入力された動力をリングギヤ50rから出力可能である。第1カウンタドライブギヤ23は、伝達される動力を車両2の駆動輪30側に出力可能な出力回転部材である。
減速機構60は、遊星歯車機構50から伝達される機械的動力と回転軸22から伝達される機械的動力とを統合し駆動輪30側に伝達する。減速機構60は、カウンタシャフト61、被駆動歯車としてのカウンタドリブンギヤ62、ファイナルドライブギヤ63を含んで構成される。カウンタシャフト61は、回転軸線C1、C2と平行な回転軸線C3を中心に回転可能な回転軸である。カウンタドリブンギヤ62は、カウンタシャフト61に結合され、第1カウンタドライブギヤ23と噛み合っている。ファイナルドライブギヤ63は、カウンタシャフト61に結合される。
ここで、上述したモータMG2は、回転軸22に第2カウンタドライブギヤ24が結合されている。カウンタドリブンギヤ62は、第1カウンタドライブギヤ23と共にこの第2カウンタドライブギヤ24にも噛み合っている。モータMG2が出力する機械的動力は、回転軸22、第2カウンタドライブギヤ24を介してカウンタドリブンギヤ62に伝達される。このとき、減速機構60は、回転軸22から伝達される機械的動力、言い換えれば、モータMG2が発生させた機械的動力を減速しトルクを増大させて、駆動輪30側に伝達する。
差動機構70は、減速機構60から伝達された機械的動力を左右の駆動軸71に分配して出力する。差動機構70は、リングギヤ72などを含んで構成される。リングギヤ72は、ファイナルドライブギヤ63と噛み合っている。駆動輪30は、左右の駆動軸71にそれぞれ結合されており、駆動軸71と共に一体に回転する。
クラッチ80は、遊星歯車機構50の第3回転要素であるリングギヤ50rと第1カウンタドライブギヤ23とを動力伝達可能に係合した係合状態と、この係合を解除した解放状態とに切り替え可能である。クラッチ80の解放状態とは、リングギヤ50rと第1カウンタドライブギヤ23とを切り離して、リングギヤ50rと第1カウンタドライブギヤ23との動力伝達を遮断した状態である。
ここで、図2を参照して遊星歯車機構50、クラッチ80のより詳細な構成を説明する。
本実施形態のクラッチ80は、係合移動部材としてのドグクラッチスリーブ81を有するいわゆる噛み合い式係合装置であるドグクラッチ装置が用いられる。このクラッチ80は、ドグクラッチスリーブ81がリングギヤ50r及び第1カウンタドライブギヤ23の回転軸線C1に沿って移動することで係合状態と解放状態とを切り替え可能である。ここでは、動力伝達装置20は、遊星歯車機構50の出力回転要素であるリングギヤ50rと、出力回転部材である第1カウンタドライブギヤ23と、クラッチ80の係合移動部材であるドグクラッチスリーブ81とを、適切な位置関係で配置することで、よりコンパクトな構成で動力の伝達状態を切り替えることができる構成を実現している。
なお、以下の説明では、特に断りのない限り、回転軸線C1に沿った方向を軸方向といい、回転軸線C1に直交する方向、すなわち、軸方向に直交する方向を径方向といい、回転軸線C1周りの方向を周方向という。また、径方向において回転軸線C1側を径方向内側といい、反対側を径方向外側という。
遊星歯車機構50は、上述したようにサンギヤ50sが回転軸21と一体回転可能に結合され、キャリヤ50cがクランク軸11と一体回転可能に結合される。リングギヤ50rは、円筒状に形成された円筒部材であり、中心軸線が回転軸線C1と同軸となるように配置される。リングギヤ50rは、径方向内側(内周面側)にキャリヤ50c及びピニオンギヤ50p、サンギヤ50s、回転軸21の一部、クランク軸11の一部等が挿入される。そして、リングギヤ50rは、内周面側が軸受(例えば、ボールベアリング)25、26を介してケーシング27に回転自在に支持される。この2つの軸受25、26は、軸方向に対してピニオンギヤ50pやキャリヤ50cを挟むようにして対向して配置される。そして、軸受25は、リングギヤ50rのクランク軸11側の端部を回転自在に支持し、軸受26は、リングギヤ50rの回転軸21側の端部を回転自在に支持する。
第1カウンタドライブギヤ23及びドグクラッチスリーブ81は、ともに円筒状に形成された円筒部材であり、ともに中心軸線が回転軸線C1と同軸となるように配置される。第1カウンタドライブギヤ23及びドグクラッチスリーブ81は、リングギヤ50rの径方向外側を覆うように配置される。すなわち、第1カウンタドライブギヤ23及びドグクラッチスリーブ81は、径方向内側(内周面側)にリングギヤ50rが挿入される。そして、第1カウンタドライブギヤ23とドグクラッチスリーブ81とは、軸方向に対して隣接して設けられる。ここでは、第1カウンタドライブギヤ23は、リングギヤ50rの、軸受25によって支持されている側の一方の端部側に配置される。ドグクラッチスリーブ81は、リングギヤ50rの、軸受26によって支持されている側の他方の端部側に配置される。つまり、第1カウンタドライブギヤ23とドグクラッチスリーブ81とは、軸方向に対して、第1カウンタドライブギヤ23がクランク軸11側に、ドグクラッチスリーブ81が回転軸21側に配置される。なお、この動力伝達装置20は、後述するパーキングポール82がリングギヤ50rのほぼ中央部に配置されている。つまり、動力伝達装置20は、リングギヤ50rの径方向外側に、軸方向に沿ってドグクラッチスリーブ81、パーキングポール82、第1カウンタドライブギヤ23の順で各構成が配置されている。
そして、第1カウンタドライブギヤ23は、内周面側が軸受(例えば、ニードルベアリング)28を介してリングギヤ50rの外周面に回転自在に支持される。したがって、第1カウンタドライブギヤ23は、回転軸線C1を回転中心としてリングギヤ50rと相対回転可能に構成される。ここでは、リングギヤ50rは、軸受25によって支持されている側の一方の端部(クランク軸11側の端部)の外周面に円環状の凹部51が形成されている。軸受28は、軸方向に対して、軸受25と軸受26との間に位置し、この凹部51内にて第1カウンタドライブギヤ23を回転自在に支持する。
第1カウンタドライブギヤ23は、噛合部としてのドグ歯23aと、歯車を形成する歯筋23bとを有する。ドグ歯23aは、第1カウンタドライブギヤ23の円筒状の本体部23cにおいて、ドグクラッチスリーブ81側の端部の外周面に設けられる。ドグ歯23aは、本体部23cの軸方向端面に形成された複数の噛み合い突起部等により構成され、クラッチ80の係合状態にて、ドグクラッチスリーブ81のドグ歯81aの端面と噛み合う部分となる。歯筋23bは、第1カウンタドライブギヤ23の本体部23cの、ドグクラッチスリーブ81とは反対側の端部の外周面に設けられる。歯筋23bは、本体部23cの外周面に形成された複数の線状の噛み合い突起部等によって構成され、カウンタドリブンギヤ62と噛み合う部分となる。第1カウンタドライブギヤ23は、本体部23cのドグ歯23aとは反対側の端面がワッシャ29aを介して受け部材としてのスナップリング29bによって位置決めされている。
ドグクラッチスリーブ81は、内周面に軸方向に沿って一体で形成されるドグ歯81aを有している。ここで、リングギヤ50rは、ドグクラッチスリーブ81の内周面と径方向に対向する外周面がドグクラッチハブとして機能する。リングギヤ50rは、この外周面に歯部としてのドグ歯52を有する。ドグ歯52は、リングギヤ50rの外周面に軸方向に沿って一体で形成され、ドグクラッチスリーブ81のドグ歯81aと噛み合う部分となる。ドグクラッチスリーブ81は、内周面側にリングギヤ50rが挿入された状態でドグ歯81aとドグ歯52とが噛み合う。これにより、ドグクラッチスリーブ81は、リングギヤ50rの外周面に、このリングギヤ50rと一体回転可能かつ軸方向に沿って相対移動可能に支持される。したがって、ドグクラッチスリーブ81は、リングギヤ50rとの間で動力伝達可能かつ軸方向に沿って移動可能に構成される。ドグクラッチスリーブ81は、軸方向に沿って移動することで、ドグ歯81aがドグ歯52と第1カウンタドライブギヤ23のドグ歯23aとの双方に噛み合う係合位置と、ドグ歯23aとの噛み合いが解放される解放位置とに移動することができる。
したがって、クラッチ80は、ドグクラッチスリーブ81が不図示のアクチュエータから動力を受けて回転軸線C1に沿って移動することで、リングギヤ50rと第1カウンタドライブギヤ23とを動力伝達可能に係合した係合状態と、この係合を解除した解放状態とに切り替え可能となる。リングギヤ50rと第1カウンタドライブギヤ23とは、クラッチ80が係合状態である場合には、一体回転する状態となり、すなわち、ドグクラッチスリーブ81を介して動力伝達が可能な状態となる。一方、リングギヤ50rと第1カウンタドライブギヤ23とは、クラッチ80が解放状態である場合には、一体回転する状態が解除され、相対回転可能な状態となり、すなわち、ドグクラッチスリーブ81を介した動力伝達が遮断された状態となる。
なお、この動力伝達装置20は、第1カウンタドライブギヤ23の外周面に一体で形成されるドグ歯23aが係止部材としてのパーキングポール82によって係止可能であるパーキングギヤとしても兼用される。つまり、動力伝達装置20は、ドグ歯23aを、クラッチ80のドグ歯とパーキングギヤ係止用の歯として共用する。動力伝達装置20は、パーキングポール82の先端部が径方向内側に移動する動作に応じて、このパーキングポール82の先端部がドグ歯23aに係合することで、第1カウンタドライブギヤ23の回転が規制される。これにより、動力伝達装置20は、例えば、駐停車時等において車両2の駆動軸71等への動力伝達を遮断し、車両2の前後進を防止することができるよう構成される。
図1に戻って、ECU40は、エンジン10及びモータMG1、MG2を協調して制御するための制御装置である。ECU40は、CPU、ROM、RAM及びインターフェースを含む周知のマイクロコンピュータを主体として構成される。
ECU40は、アクセル開度センサ90、車速センサ91、エンジン回転数センサ92、MG1回転数センサ93、MG2回転数センサ94、リングギヤ回転数センサ95、第1カウンタドライブギヤ回転数センサ96等の種々のセンサが電気的に接続されており、これらが検出した検出結果に対応した電気信号が入力される。アクセル開度センサ90は、運転者による車両2のアクセルペダルの操作量(アクセル操作量、加速要求操作量)に相当するアクセル開度を検出する。車速センサ91は、車両2の走行速度である車速を検出する。エンジン回転数センサ92は、エンジン10のクランク軸11の回転速度に相当するエンジン回転数を検出する。MG1回転数センサ93は、モータMG1の回転軸21の回転速度に相当するMG1回転数を検出する。MG2回転数センサ94は、モータMG2の回転軸22の回転速度に相当するMG2回転数を検出する。リングギヤ回転数センサ95は、リングギヤ50rの回転速度に相当するリングギヤ回転数を検出する。第1カウンタドライブギヤ回転数センサ96は、第1カウンタドライブギヤ23の回転速度に相当する第1カウンタドライブギヤ回転数を検出する。
ECU40は、入力された検出結果に応じてエンジン10の燃料噴射装置やスロットル弁装置、モータMG1、MG2、インバータなどの車両2の各部に駆動信号を出力しこれらの駆動を制御可能である。車両2の車両制御システム1は、このECU40によって制御されることでエンジン10とモータMG1、MG2を原動機として併用又は選択使用することが可能に構成される。
ECU40は、エンジン10による動力によって車両2を走行させるエンジン走行時、エンジン10による動力及びモータMG2による動力によって車両2を走行させるHV走行時には、図1に示すように、クラッチ80を係合状態に制御する。この場合、動力伝達装置20は、エンジン10のクランク軸11からキャリヤ50cに出力された機械的動力を遊星歯車機構50のピニオンギヤ50pからサンギヤ50sとリングギヤ50rとに分割する。そして、動力伝達装置20は、例えば、エンジン走行時にはリングギヤ50rから第1カウンタドライブギヤ23に伝達されたエンジン10からの機械的動力をカウンタドリブンギヤ62、差動機構70、駆動軸71等を介して駆動輪30に伝達する。また、動力伝達装置20は、例えば、HV走行時にはリングギヤ50rから第1カウンタドライブギヤ23に伝達されたエンジン10からの機械的動力と、回転軸22から第2カウンタドライブギヤ24に伝達されたモータMG2からの機械的動力とをカウンタドリブンギヤ62にて統合し差動機構70、駆動軸71等を介して駆動輪30に伝達する。
一方、ECU40は、エンジン10による動力によらずにモータMG2による動力によって車両2を走行させるEV走行時、車両2の制動時にモータMG2によって回生制動を行う回生走行時には、図3に示すように、クラッチ80を解放状態に制御する。動力伝達装置20は、例えば、EV走行時には回転軸22から第2カウンタドライブギヤ24に伝達されたモータMG2からの機械的動力をカウンタドリブンギヤ62、差動機構70、駆動軸71等を介して駆動輪30に伝達する。動力伝達装置20は、例えば、回生走行時には、駆動輪30側からの動力を駆動軸71、差動機構70、カウンタドリブンギヤ62等を介して第2カウンタドライブギヤ24に伝達し、これにより、モータMG2が回生により発電する。
そして、動力伝達装置20は、上記のようにクラッチ80が解放状態である場合、典型的には車両2のEV走行時、回生走行時には、クラッチ80にて第1カウンタドライブギヤ23からリングギヤ50rが切り離された状態となっている。これにより、動力伝達装置20は、動力の伝達に寄与しないリングギヤ50rを含む遊星歯車機構50の回転要素、回転軸21、モータMG1のロータ等が第1カウンタドライブギヤ23の回転に伴ってつれまわされることを防止することができ、これにより、いわゆる引き摺り損失を低減できる。
上記のように構成される車両制御システム1の動力伝達装置20の動作状態は、例えば、図4に示すような共線図で表すことができる。動力伝達装置20は、図4に示す共線図に基づいた回転数(回転速度に相当)で作動する。図4に示す共線図は、動力伝達装置20の遊星歯車機構50、減速機構60の各回転要素の回転速度の相対関係を直線で表した速度線図である。図4に示す共線図は、縦軸をサンギヤ50s、キャリヤ50c、リングギヤ50r、第1カウンタドライブギヤ23、カウンタドリブンギヤ62及び第2カウンタドライブギヤ24のそれぞれの回転の速度比(相対回転数比に相当)としている。図4に示す共線図では、横軸において左から順にサンギヤ50s(図中「s」と略記。)、キャリヤ50c(図中「c」と略記。)、リングギヤ50r(図中「r」と略記。)、第1カウンタドライブギヤ23(図中「23」と略記。)、カウンタドリブンギヤ62(図中「62」と略記。)、第2カウンタドライブギヤ24(図中「24」と略記。)としている。図4に示す共線図は、横軸に沿った互いの間隔がリングギヤ50r、サンギヤ50sの歯数比、カウンタドライブギヤ23、カウンタドリブンギヤ62、第2カウンタドライブギヤ24の歯数比に応じた間隔となるように各縦軸が配置されている。また、図4中、動作点GはMG1回転数Ng、動作点Eはエンジン回転数Ne、動作点Cはリングギヤ回転数Nr(ドグクラッチスリーブ81の回転数に相当)、動作点Oは第1カウンタドライブギヤ回転数Ncodr(Output回転数に相当)、動作点MはMG2回転数Nm、をそれぞれ表している。以下で示す共線図も同様である。
そして、本実施形態のECU40は、スタータ12を用いたスタータ始動制御の際に、モータMG1を制御して同期制御を行うことで、エンジン始動時の応答性の向上を図っている。
ここで、スタータ始動制御とは、クラッチ80の解放状態でスタータ12によりエンジン10を始動する始動制御である。これに対して、ECU40は、モータMG1をスタータモータとして利用したMG1始動制御も実行可能である。
上述したように、この車両制御システム1は、EV走行時など、エンジン10が非作動状態である場合には基本的にはクラッチ80が解放状態になっている。したがって、ECU40は、MG1始動制御を実行する場合には、解放状態にあるクラッチ80を、クランキングトルク反力を受けるために係合状態にした後、モータMG1によってクランク軸11をクランキングしエンジン10を始動する。一方、ECU40は、スタータ始動制御を実行する場合、クラッチ80を解放状態のままで維持し、スタータ12によってクランク軸11をクランキングしエンジン10を始動し、リングギヤ50rと第1カウンタドライブギヤ23との回転が同期した後にクラッチ80を係合状態とする。このため、エンジン10の始動に際し、スタータ始動制御は、MG1始動制御と比較して相対的に応答性に優れる傾向にある。
ECU40は、エンジン始動時に高い応答性が要求される場合、例えば、EV走行からの加速要求操作(運転者によるアクセルペダルの踏み込み、踏み増し操作)に伴ったエンジン始動要求時にスタータ始動制御を実行する。これにより、車両制御システム1は、EV走行からの加速要求時等、高い応答性が要求される場合に、スタータ始動制御によってエンジン始動時の応答性を向上することができる。この結果、車両制御システム1は、運転者による加速要求操作に対する車両2の加速応答性を向上することができる。一方、ECU40は、エンジン始動時に高い応答性が要求されないエンジン始動要求時にはMG1始動制御を実行する。これにより、車両制御システム1は、高い応答性が要求されない場合にはMG1始動制御によってエンジン10を始動することで、スタータ12の耐久性を向上することができる。また、車両制御システム1は、スタータ12を用いずにモータMG1を用いてエンジン10を始動することで、例えば、NV(Noise−Vibration、騒音・振動)の悪化を抑制することができる。
そして、ECU40は、応答性の高いスタータ始動制御の際に、さらにこのスタータ始動制御と並行して同期制御を行うことで、さらなら応答性の向上を実現することができる。この同期制御は、モータMG1を制御しリングギヤ50rと第1カウンタドライブギヤ23との回転速度を同期させる制御である。典型的には、ECU40は、スタータ始動制御によりエンジン始動すると同時にこの同期制御を行う。そして、ECU40は、リングギヤ50rと第1カウンタドライブギヤ23との回転速度が同期した後にクラッチ80を係合状態とする。ここで、リングギヤ50rと第1カウンタドライブギヤ23との回転速度を同期させるとは、リングギヤ50rと第1カウンタドライブギヤ23との回転速度差(回転数差)を予め設定される目標速度差以下とし、典型的には、当該回転速度差をなくすことをいう。ECU40は、同期制御として、リングギヤ50rと第1カウンタドライブギヤ23との回転速度差がなくなるようにモータMG1を制御する。
以下では、図5を参照してECU40による制御をより詳細に説明する。ここでは、エンジン始動時に高い応答性が要求される場合として、EV走行から運転者によって加速要求操作に伴ってエンジン10を始動し車両2をフル加速させる場合を例にとって説明する。
この車両制御システム1は、車両2がEV走行する場合にはエンジン10が非作動状態にあり、クラッチ80が解放状態にある。これにより、車両制御システム1は、ST1に示すように、サンギヤ50s、リングギヤ50r、キャリヤ50cの回転が停止した状態となっている。つまり、この場合、MG1回転数Ng(動作点G)、エンジン回転数Ne(動作点E)、リングギヤ回転数Nr(動作点C)は、0となっている(Ng=Ne=Nr=0)。このとき、第1カウンタドライブギヤ23は、モータMG2からの動力によって回転するカウンタドリブンギヤ62によってつれまわされた状態となっている。よって、第1カウンタドライブギヤ回転数Ncodr(動作点O)は、MG2回転数Nm(動作点M)に応じた回転数となっている。
ECU40は、この状態で運転者によって加速要求操作がなされエンジン始動要求が発生すると、スタータ始動制御を実行する。すなわち、ECU40は、スタータ12を駆動してクランク軸11のクランキングを開始すると共に、燃焼室に燃料を噴射して点火することで燃焼を開始する。これにより、エンジン回転数Neは、ST2に示すように、自立上昇する。並行して、ECU40は、同期制御として、エンジン回転数Neが燃焼安定目標回転数(燃焼安定目標回転速度)以上になるまでモータMG1を停止状態、すなわち、MG1回転数Ngを0(Ng=0)で維持する。これにより、リングギヤ回転数Nrは、ST2に示すように、エンジン回転数Neの上昇に伴って成り行きで上昇する。
ここで、燃焼安定目標回転数は、エンジン10の燃焼が安定するエンジン回転数であり、エンジン10が完爆し燃焼が安定し、安定した燃焼トルクを出力できる回転数に応じて設定される。燃焼安定目標回転数は、好ましくは駆動系の共振抑制回転数を回避できる範囲でできるだけ低い回転数に設定される。また、燃焼安定目標回転数は、クラッチ80の係合後のリングギヤ回転数Nrに関係するパラメータ、例えば、車速センサ91が検出する車速等に応じて変更されてもよい。
ECU40は、エンジン回転数Neが燃焼安定目標回転数以上になるまでMG1回転数Ngを0で維持することで、例えば、モータMG1を負回転させる場合と比較して、リングギヤ50r(出力回転要素)のイナーシャによるキャリヤ50c(入力回転要素)の回転上昇を抑える逆トルクの発生を抑制、低減することができる。この結果、車両制御システム1は、エンジン回転数Neを上昇させやすくすることができ、結果的にトータルでの応答性を向上することができる。
また、ECU40は、例えば、エンジン低回転状態でモータMG1を負回転にしてリングギヤ50rと第1カウンタドライブギヤ23とを同期させようとした場合、エンジン回転数Neが急上昇した際にリングギヤ回転数Nrがオーバーシュートしてしまうおそれがある。これに対して、ECU40は、エンジン回転数Neが燃焼安定目標回転数以上になるまでMG1回転数Ngを0で維持することで、リングギヤ回転数Nrがオーバーシュートしてしまうことを抑制することができる。この結果、車両制御システム1は、リングギヤ50rと第1カウンタドライブギヤ23との同期遅れや無駄な電力消費を抑制することができる。
そして、ECU40は、エンジン回転数Neを係合時目標回転数(係合時目標回転速度)まで自立上昇させる。ここで、係合時目標回転数は、クラッチ80の係合時の目標のエンジン回転数であり、上記燃焼安定目標回転数より高く、かつ、要求される駆動力に応じた最終目標回転数(最終目標回転速度)より低いエンジン回転数に設定される。上記最終目標回転数は、車速及びアクセル開度などの条件に基づいた要求駆動力を満足するエンジン回転数である。係合時目標回転数は、エンジン始動時の加速応答性とドライバビリティの悪化抑制とを両立できるエンジン回転数に設定される。より詳細には、係合時目標回転数は、クラッチ80が係合されるまでに運転者によって応答性の悪化が体感されない程度の時間を見込んで設定される回転数であって、ドライバビリティが悪化しない程度の大きさのエンジントルクが得られる回転数に設定される。
ECU40は、後述するように、エンジン回転数Neを最終目標回転数より低い係合時目標回転数まで自立上昇させることとすることで、EV走行からの、リングギヤ50rと第1カウンタドライブギヤ23との回転同期時間を相対的に短くすることができ、早期にクラッチ80を係合状態とすることができる。これにより、車両制御システム1は、要求される最終的な駆動力ではないものの、エンジン10からの動力による駆動力の立ち上がりまでの時間を短くすることができ、加速応答性を向上することができる。
この間、ECU40は、ST3、ST4に示すように、エンジン回転数Neが自立上昇し燃焼安定目標回転数以上になった後、係合時目標回転速度以上になるまで、リングギヤ50rと第1カウンタドライブギヤ23との回転数差に基づいたフィードバック制御によりモータMG1を駆動(力行)する。ECU40は、リングギヤ回転数センサ95、第1カウンタドライブギヤ回転数センサ96が検出したリングギヤ回転数Nrと第1カウンタドライブギヤ回転数Ncodrとの回転数差(以下、「クラッチ回転数差」という場合がある。)を算出する。そして、ECU40は、このクラッチ回転数差に基づいて、モータMG1をフィードバック制御し、実際のクラッチ回転数差を目標回転数差(目標速度差≒0)に収束させる。つまり、ECU40は、フィードバック制御によりモータMG1を制御し、リングギヤ50rと第1カウンタドライブギヤ23との回転数をほぼ一致させ、回転速度を同期させる。ECU40は、エンジン回転数Neの自立上昇と並行して、同期制御としてクラッチ回転数差に基づいたモータMG1のフィードバック制御を行う。これにより、車両制御システム1は、リングギヤ50rと第1カウンタドライブギヤ23との回転同期時間を相対的に短くすることができ、早期にクラッチ80を係合状態とすることができ、応答性を向上することができる。
このとき、ECU40は、同期制御として、モータMG1を駆動し、リングギヤ50rと第1カウンタドライブギヤ23との回転速度を同期させる際に、モータMG1が出力するトルクを制限することが好ましい。ECU40は、リングギヤ50rのイナーシャによるキャリヤ50cの回転上昇を抑える逆トルクが予め設定される目標値以下となるように、モータMG1の出力トルクに上限リミットを設定する。上記目標値は、典型的には、エンジン回転数Neの上昇速度が低くなりすぎず、エンジン回転数Neが係合時目標回転速度以上になるまでの期間が長くなりすぎないように予め設定される。ECU40は、モータMG1の出力トルクの上限リミットに基づいて、トルクガードを行う。したがって、ECU40は、エンジン回転数Neが燃焼安定目標回転数以上になった後、係合時目標回転速度以上になるまでの間に、同期制御によって上記逆トルクが発生することを極力抑制することができる。この結果、車両制御システム1は、エンジン回転数Neを上昇させやすくすることができ、エンジン回転数Neが係合時目標回転速度以上になるまでの期間が長くなりすぎないようにでき、結果的にトータルでの応答性を向上することができる。
ECU40は、エンジン回転数Neが係合時目標回転数以上になった後、エンジン回転数Neを係合時目標回転数で維持する。ECU40は、エンジン回転数センサ92が検出するエンジン回転数Neに基づいて、エンジン10をフィードバック制御し、エンジン回転数Neを係合時目標回転数で維持する。そして、ECU40は、クラッチ回転数差が予め設定される目標回転数差以下である状態で予め設定される同期判定時間継続した後に、同期が完了したと判定し、ST5に示すように、クラッチ80を係合状態とする。上記同期判定時間は、例えば、実車評価等に応じて適宜予め設定すればよい。これにより、車両制御システム1は、リングギヤ50rと第1カウンタドライブギヤ23との回転速度を確実に同期させた後に、クラッチ80を係合状態とすることができる。よって、車両制御システム1は、クラッチ80の信頼性、耐久性を向上することができると共に、係合動作時にショックが発生することを抑制することができる。
ECU40は、リングギヤ50rと第1カウンタドライブギヤ23とが同期しクラッチ80が係合状態となった後、ST6に示すように、エンジン10の出力を制御し、エンジン回転数Neを最終目標回転数まで上昇させる。このとき、ECU40は、回転上昇によるイナーシャトルクの影響を踏まえて、駆動力の大きさと加速感とが両立するような目標の上昇速度(上昇レート)でエンジン回転数Neを上昇させて、車両2をフル加速させる。この結果、車両制御システム1は、絶対的な駆動力の大きさと加速感とを両立する加速度を実現することができる。
次に、図6のフローチャートを参照して車両制御システム1のECU40による同期制御の一例を説明する。なお、これらの制御ルーチンは、数msないし数十ms毎の制御周期で繰り返し実行される。
まず、ECU40は、エンジン始動要求があるか否かを判定する(ST101)。ECU40は、例えば、アクセル開度センサ90、車速センサ91が検出した車速、アクセル開度等に応じた要求駆動力に基づいて、エンジン始動要求があるか否かを判定する。ECU40は、エンジン始動要求がないと判定した場合(ST101:No)、現在の制御周期を終了し、次の制御周期に移行する。
ECU40は、エンジン始動要求があると判定した場合(ST101:Yes)、クラッチ80の動作状態に基づいて、このクラッチ80が解放状態であるか否かを判定する(ST102)。
ECU40は、クラッチ80が解放状態であると判定した場合(ST102:Yes)、アクセル開度センサ90が検出したアクセル開度等に基づいて、今回のエンジン始動が運転者による加速要求によるエンジン始動であるか否かを判定する(ST103)。
ECU40は、今回のエンジン始動が運転者による加速要求によるエンジン始動であると判定した場合(ST103:Yes)、スタータ始動制御を実行してエンジン10を始動する(ST104)。すなわち、ECU40は、クラッチ80を解放状態のままで維持し、スタータ12によってクランク軸11をクランキングし燃焼室に燃料を噴射して点火し燃焼を開始する。
次に、ECU40は、モータMG1を停止状態で維持し、すなわち、MG1回転数Ngを0(Ng=0)で維持する(ST105)。
次に、ECU40は、エンジン回転数センサ92が検出するエンジン回転数Neが燃焼安定目標回転数以上であるか否かを判定する(ST106)。ECU40は、エンジン回転数Neが燃焼安定目標回転数以上でないと判定した場合(ST106:No)、ST104に戻って以降の処理を繰り返し実行する。
ECU40は、エンジン回転数Neが燃焼安定目標回転数以上であると判定した場合(ST106:Yes)、エンジン回転数Neの自立上昇を継続する(ST107)。
そして、ECU40は、クラッチ回転数同期F/B制御として、リングギヤ回転数センサ95、第1カウンタドライブギヤ回転数センサ96が検出したクラッチ回転数差に基づいて、モータMG1をフィードバック制御する(ST108)。これにより、ECU40は、実際のクラッチ回転数差を目標回転数差に収束させる。
このとき、ECU40は、モータMG1の出力トルクに上限リミットを設定しトルクガードを行い、モータMG1が出力するトルクを制限する(ST109)。
次に、ECU40は、エンジン回転数センサ92が検出するエンジン回転数Neが係合時目標回転数以上であるか否かを判定する(ST110)。ECU40は、エンジン回転数Neが係合時目標回転数以上でないと判定した場合(ST110:No)、ST107に戻って以降の処理を繰り返し実行する。
ECU40は、エンジン回転数Neが係合時目標回転数以上であると判定した場合(ST110:Yes)、エンジン回転数F/B制御として、エンジン回転数Neに基づいて、エンジン10をフィードバック制御し、エンジン回転数Neを係合時目標回転数で維持する(ST111)。
次に、ECU40は、リングギヤ回転数センサ95、第1カウンタドライブギヤ回転数センサ96が検出したクラッチ回転数差に基づいて、クラッチ同期判定として、クラッチ回転数差が目標回転数差以下である状態で同期判定時間継続したか否かを判定する(ST112)。ECU40は、クラッチ回転数差が目標回転数差以下である状態で同期判定時間継続していないと判定した場合(ST112:No)、ST111に戻って以降の処理を繰り返し実行する。
ECU40は、クラッチ回転数差が目標回転数差以下である状態で同期判定時間継続したと判定した場合(ST112:Yes)、不図示のアクチュエータを制御してドグクラッチスリーブ81を係合位置にストロークさせ、クラッチ80を係合状態とする(ST113)。
次に、ECU40は、ドグクラッチスリーブ81が係合位置にストロークし、クラッチ80が係合状態になったか否かを判定する(ST114)。ECU40は、クラッチ80を係合状態になっていないと判定した場合(ST114:No)、ST113に戻って以降の処理を繰り返し実行する。
ECU40は、クラッチ80が係合状態になったと判定した場合(ST114:Yes)、エンジン10の出力を制御し、目標の上昇速度(目標レート)でエンジン回転数Neを最終目標回転数まで上昇させる(ST115)。
そして、ECU40は、エンジン回転数センサ92が検出するエンジン回転数Neが最終目標回転数以上であるか否かを判定する(ST116)。ECU40は、エンジン回転数Neが最終目標回転数以上でないと判定した場合(ST116:No)、ST115に戻って以降の処理を繰り返し実行する。ECU40は、エンジン回転数Neが最終目標回転数以上であると判定した場合(ST116:Yes)、現在の制御周期を終了し、次の制御周期に移行する。
ECU40は、ST102にて、クラッチ80が係合状態であると判定した場合(ST102:No)、ST103にて、今回のエンジン始動が運転者による加速要求によるエンジン始動でないと判定した場合(ST103:No)、MG1始動制御を実行してエンジン10を始動し(ST117)、現在の制御周期を終了し、次の制御周期に移行する。すなわち、ECU40は、クラッチ80を係合状態にした後、モータMG1によってクランク軸11をクランキングし燃焼室に燃料を噴射して点火し燃焼を開始する。
以上で説明した本発明の実施形態に係る車両制御システム1によれば、遊星歯車機構50と、エンジン10と、モータMG1と、第1カウンタドライブギヤ23と、クラッチ80と、ECU40とを備える。遊星歯車機構50は、差動回転可能な複数の回転要素を含む。エンジン10は、始動時にクランク軸11を回転駆動するスタータ12を有し遊星歯車機構50のキャリヤ50cに連結される。モータMG1は、遊星歯車機構50のキャリヤ50cとは異なるサンギヤ50sに連結される。第1カウンタドライブギヤ23は、伝達される動力を車両2の駆動輪30側に出力可能である。クラッチ80は、遊星歯車機構50のキャリヤ50c及びサンギヤ50sとは異なるリングギヤ50rと第1カウンタドライブギヤ23とを動力伝達可能に係合した係合状態と、係合を解除した解放状態とに切り替え可能である。ECU40は、クラッチ80の解放状態でスタータ12によりエンジン10を始動するスタータ始動制御の際に、モータMG1を制御しリングギヤ50rと第1カウンタドライブギヤ23との回転速度を同期させる同期制御を行う。ECU40は、リングギヤ50rと第1カウンタドライブギヤ23との回転速度が同期した後にクラッチ80を係合状態とする。
したがって、車両制御システム1は、クラッチ80が解放状態であっても、スタータ12を用いたスタータ始動制御によってエンジン10を始動することができると共に、並行してモータMG1を用いた同期制御によってリングギヤ50rと第1カウンタドライブギヤ23とを早期に同期させることができる。この結果、車両制御システム1は、エンジン始動時の応答性を向上することができ、例えば、運転者による加速要求操作に対する車両2の加速応答性を向上することができる。
[実施形態2]
図7、図8は、実施形態2に係る車両制御システムの動作を表す共線図、図9は、実施形態2に係る車両制御システムのECUによる制御の一例を説明するフローチャートである。実施形態2に係る車両制御システムは、同期制御の内容の一部が実施形態1に係る車両制御システムとは異なる。その他、上述した実施形態と共通する構成、作用、効果については、重複した説明はできるだけ省略するとともに、同一の符号を付す。なお、実施形態2に係る車両制御システムの各構成については、適宜、図1、図2、図3等を参照する。
本実施形態の車両制御システム201(図1参照)のECU40は、図7、図8に示すように、エンジン回転数Neが燃焼安定目標回転数以上になった後、係合時目標回転数以上になるまで、下記のようにしてモータMG1のMG1回転数(出力回転速度)を一定の上昇速度(上昇レート)で上昇させる。すなわち、ECU40は、エンジン回転数Neの上昇速度(上昇レート)に基づいてエンジン回転数Neが燃焼安定目標回転数以上になった後、係合時目標回転数Ne−t2(図7参照)以上になるまでの時間を予測、算出する。また、ECU40は、エンジン回転数Neが係合時目標回転数Ne−t2以上になる際のモータMG1のMG1回転数を算出し、これをMG1目標回転数Ng−t(図7参照)とする。ECU40は、上記で算出した時間が経過した際に、MG1回転数センサ93が検出する実際のMG1回転数Ngが上記MG1目標回転数Ng−tとなるような上昇速度を算出する。そして、ECU40は、図8に示すように、モータMG1の駆動を制御し、MG1回転数を上記で算出した一定の上昇速度で上昇させ、リングギヤ50rの回転数を上昇させ、第1カウンタドライブギヤ23の回転数と同期させる。
ここで、図9のフローチャートを参照して車両制御システム201のECU40による同期制御の一例を説明する。
ECU40は、エンジン回転数Neの自立上昇を継続した後(ST107)、エンジン回転数Neの上昇速度に基づいてエンジン回転数Neが係合時目標回転数に到達するまでの時間を予測、算出する(ST208)。
次に、ECU40は、エンジン回転数Neが係合時目標回転数に到達した際のモータMG1のMG1回転数を算出し、これをMG1目標回転数とする。そして、ECU40は、このMG1目標回転数とST208で算出した予測時間とに基づいて、MG1回転数Ngの目標の上昇レート(上昇速度)を算出する。ECU40は、MG1回転数Ngを、算出した一定の上昇速度でMG1目標回転数へ上昇させ(ST209)、ST110に移行する。
したがって、車両制御システム201は、リングギヤ50rのイナーシャによるキャリヤ50cの回転上昇を抑える逆トルクを一定でかつ最小とすることができる。この結果、車両制御システム201は、エンジン回転数Neを上昇させやすくすると共に、リングギヤ50rと第1カウンタドライブギヤ23との回転同期時間をより短くすることができ、さらに応答性を向上することができる。
なお、上述した本発明の実施形態に係る車両制御システムは、上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変更が可能である。本実施形態に係る車両制御システムは、以上で説明した各実施形態の構成要素を適宜組み合わせることで構成してもよい。
以上で説明した遊星歯車機構は、いわゆる、シングルピニオン式の遊星歯車機構であるものとして説明したがこれに限らず、例えば、ダブルピニオン式の遊星歯車機構であってもよい。
以上の説明では、遊星歯車機構50は、キャリヤ50cが第1回転要素(入力回転要素)であり、サンギヤ50sが第2回転要素であり、リングギヤ50rが第3回転要素(出力回転要素)であるものとして説明したがこれに限らない。遊星歯車機構50は、例えば、サンギヤ50sが第1回転要素(入力回転要素)であり、リングギヤ50rが第2回転要素であり、キャリヤ50cが第3回転要素(出力回転要素)であってもよい。
以上の説明では、ECU40は、図5のST2にて、同期制御として、エンジン回転数Neが燃焼安定目標回転数以上になるまでモータMG1を停止状態(Ng=0)で維持するものとして説明したがこれに限らない。ECU40は、エンジン回転数Neが燃焼安定目標回転数以上になるまでモータMG1を負回転になるように力行させてリングギヤ50rと第1カウンタドライブギヤ23とを同期させるようにしてもよい。この場合でも、車両制御システム1、201は、クラッチ80が解放状態であっても、スタータ12を用いたスタータ始動制御によってエンジン10を始動することができると共に、並行してモータMG1を用いた同期制御によってリングギヤ50rと第1カウンタドライブギヤ23とを早期に同期させることができる。この結果、車両制御システム1、201は、エンジン始動時の応答性を向上することができる。