例えば、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法においては、ニッケル酸化鉱石の浸出液を中和して得られた溶液や不純物を除去したニッケル回収用溶液に対して、硫化水素ガスを吹き込んで金属硫化物を形成する硫化処理が行われる。
このときに使用される硫化水素ガスは、例えば、図5や図6に示すような構成を有する硫化水素ガス製造プラントにより製造されている。
具体的に、図5に示す硫化水素ガス製造プラント50は、供給された硫黄と水素ガスとにより硫化水素ガスを発生させる反応設備51と、硫化水素ガスを冷却する冷却設備52と、硫化水素ガス中に含まれる硫黄を洗浄する洗浄設備53と、洗浄後の硫化水素ガスを乾燥し水分を除去する乾燥設備54とで構成されている。また、硫化水素ガス製造プラント50は、付帯設備として、生成した硫化水素ガスを貯留する貯留設備55と、硫化水素ガスを供給する供給設備56とを備えてなる。
硫化水素ガス製造プラント50では、活性化エネルギーを低減することを目的としてリアクター51内に触媒を使用している。また、硫化水素ガス製造プラント50では、製造した硫化水素ガスに含まれる硫黄を洗浄設備53で除去した後、乾燥設備54で水分を除去することによって水分による設備の腐食を防止している。
また、硫化水素ガス製造プラント50では、製造した硫化水素ガスをコンプレッサー等の供給設備56を使用して必要な圧力まで昇圧し、昇圧させた硫化水素ガスを、例えば上述したニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法の脱亜鉛工程や硫化工程等における硫化水素ガスを使用するプラントに供給する。
硫化水素ガス製造プラント50においては、硫化水素ガスを製造する条件として、例えば、圧力が約5kPaG、温度が約380℃で運転される。この硫化水素ガス製造プラント50では、反応設備51に触媒を使用しているため、圧力、温度ともに低い条件での運転が可能となり、その点が操業上の利点となっている。
しかしながら、硫化水素ガス製造プラント50においては、反応設備51内の触媒を定期的に交換する必要があることの他に、触媒の寿命の観点から硫化水素ガスの原料である硫黄の品質を厳しく管理する必要がある。
一方で、図6に示す硫化水素ガス製造プラント60は、リアクターに触媒を使用しないプラントである。硫化水素ガス製造プラント60は、図6に示すように、硫黄と水素ガスとにより硫化水素ガスを発生させる反応設備(リアクター66、クエンチタワー67、ヒータ68)61と、硫化水素ガスを冷却する冷却設備62(62A,62B)と、硫化水素ガス中の硫黄を除去し硫化水素ガスを供給するノックアウト設備63と、硫化水素ガスから除去した硫黄を回収し硫黄処理プラント等に供給するブローダウン設備64とで構成されている。また、硫化水素ガス製造プラント60は、付帯設備として、熱バランスを調整するために硫黄の温度を冷却する設備65を備える。
硫化水素ガス製造プラント60では、反応設備61のリアクター66内に熔融硫黄が貯留され、下部から水素ガスを供給することにより、水素ガスが熔融硫黄を通過する間に硫化水素ガスの生成反応が進行する。なお、反応によって減少する硫黄は反応設備61上部から供給される。反応設備61にて生成した硫化水素ガスは、大部分が硫化水素であるものの、水素ガスがリアクター内を通過する際に巻き込んだ硫黄蒸気が含まれている。
また、硫化水素ガス製造プラント60では、硫化水素ガスを製造する条件として、例えば、圧力が約800kPaG、温度が約470℃という高温・高圧条件で運転されている。生成した硫化水素ガスは、反応設備61を構成するクエンチタワー67を出る際に約150℃程度の温度まで下がっているが、さらに冷却設備62にて約50℃程度(供給先の設備で使用する温度)にまで冷却され、ノックアウト設備63に移送される。
また、反応設備61にて発生した硫化水素ガスに含まれる硫黄の大部分は、供給先となる硫化水素ガスを使用するプラント等のコントロール弁やマニュアルバルブ等のバルブ類や、温度計や圧力計等の計器類に付着すると操業上大きな支障をきたす。そのため、ノックアウト設備63にて一度固化し、その底部に堆積した硫黄をノックアウト設備63の下部外周囲に設置されたジャケットを介してスチームで加熱することにより熔融して回収する。回収した硫黄は、ブローダウン設備64にて貯留した後に供給ポンプ69を用いて硫黄処理プラントに供給されて処理され、又は繰り返して使用される。
このようにして、硫化水素ガス製造プラント60にて生成した硫化水素ガスに含まれていた硫黄がノックアウトドラムで分離された後、その硫化水素ガスが、例えば上述したニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法の脱亜鉛工程や硫化工程等における硫化水素ガスを使用するプラントに供給される。
硫化水素ガス製造プラント60においては、系内の圧力を高い状態にして運転管理されることから、コンプレッサーやチラー設備等の設備が不要となり、初期の投資を抑えることができる。さらに、上述した硫化水素ガス製造プラント50のような触媒の定期交換やそのための交換費用、硫黄の品質管理を含めたメンテナンスコストが不要となり、操業コストを低減できるという利点がある。
しかしながら、硫化水素ガス製造プラント60では、高圧、高温の条件で運転を行っているため、製造された硫化水素ガスを供給するにあたっては、供給先のプラント操業における適切な圧力にまで減圧させることが必要になる。例えば、ニッケル酸化鉱石を処理してニッケル及びコバルトを含む混合硫化物(ミックスサルファイド:MS)を生成する硫化工程におけるプラントでは、硫化水素ガスを約350kPaGの圧力として運転しており、また、硫化処理を行い中和終液に含まれる亜鉛を亜鉛硫化物とする脱亜鉛工程におけるプラントでは、硫化水素ガスを約5kPaG以下の圧力として運転している。また、硫化水素ガス製造プラント60では、高圧、高温の条件で運転されるため、ガス漏洩時の危険性が高く、硫化水素ガスに含まれる硫黄(硫黄蒸気)を冷却する設備である硫化水素ガス冷却設備62や硫化水素ガスを回収する設備であるノックアウト設備63への負荷は大きくなる。
また、硫化水素ガス製造プラント60では、発生した硫化水素ガス中に含まれる硫黄をノックアウト設備63にて除去するが、一部の硫黄は、冷却設備62において固化しその内部に固着してしまい、そのまま放置すれば操業効率を低下させる。そのため、冷却設備を複数備え、それらを交互に切り替えて使用するようにしている。具体的には、例えば2系統の冷却設備62A,62Bを備えるようにし、その内部に固着した硫黄によって冷却能力が低下するのに伴って、使用していた冷却設備62A(内部に固着がある状態の設備)とスタンバイの冷却設備62B(内部の固着が除去された状態の設備)とを切り替える。そして、冷却能力が低下した冷却設備62Aに対しては、蒸気を使用して設備内に付着した硫黄を溶解して回収することにより、スタンバイ状態とする。これらの操作を繰り返すことにより、硫化水素ガス製造プラント60の稼働率の低下を防止している。なお、冷却設備62(62A,62B)にて熔融回収された硫黄は、ブローダウン設備64に移送され同様にして処理される。
ところで、硫化水素ガス製造プラント60において、上述したように硫黄が固着し熔融処理のために切り替えた冷却設備62(例えば冷却設備62A)は、その直前まで硫化水素ガスを冷却するのに使用されていたものである。そのため、冷却設備62A内には高圧かつ高濃度の硫化水素ガスが保持されている。したがって、冷却設備62Aの内壁に固着した硫黄を熔融して回収するにあたっては、冷却設備62A内の圧力を開放した上で行う必要がある。
しかしながら、圧力を開放する際に発生する硫化水素ガスは、いわゆる廃硫化水素ガスとなってロスとなる。また、その廃硫化水素ガスは、非常に有毒であり、そのまま大気中に放出することはできない。そのことから、フレアー設備(燃焼させて毒性を低下させる設備)や苛性ソーダ等を用いた除害設備等で処理してから排出することが必要となる。
ところが、フレアー設備で廃硫化水素ガスを処理する場合には、硫化水素ガスはSOxガスとなり、僅かとはいえ環境に対して影響を与える。一方、除害設備で無害化する場合には、苛性ソーダのような中和剤が必要となり、その中和剤も操業コストとして考慮する必要がある。
例えば、特許文献1には、ニッケル酸化鉱石を処理してMSを製造する硫化工程において、硫化反応槽から排出される余剰の硫化水素ガスを回収する方法として、硫化水素ガスを苛性ソーダに吸収させた液(水硫化ソーダや硫化ソーダといった形態)を通じて硫化反応に再利用する方法が提案されている。また、特許文献2には、脱水工程中に揮散する硫化水素ガスを、脱水工程が行われている系外で有機アミド溶媒に吸収させて回収し、回収した硫化水素をアルカリ金属硫化物の原料として重合反応に再利用する方法が公開されている。
しかしながら、これらの方法は、硫化水素をガスとして回収する方法ではなく、また、苛性ソーダや有機アミド等の回収溶媒が必要になる。
以下、本発明に係る硫化水素ガス製造プラント及び廃硫化水素ガスの回収利用方法について、以下の順序で詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
1.本発明の概要
2.硫化水素ガス製造プラント
2−1.第1の実施形態
2−2.第2の実施形態
3.廃硫化水素ガスの回収利用方法
3−1.第1の実施形態
3−2.第2の実施形態
4.実施例
[1.本発明の概要]
本発明に係る硫化水素ガス製造プラントは、少なくとも、硫黄と水素ガスとにより硫化水素ガスを発生させる反応設備と、発生した硫化水素ガスを冷却する複数の冷却設備と、硫化水素ガス中に含まれる硫黄を除去する硫黄除去設備とを備える硫化水素ガス製造プラントであって、冷却設備にて発生し当該プラントから排出される廃硫化水素ガスを回収し、一端が硫化水素ガスを使用する処理プラントに接続される配管を備えるものである。そして、本発明では、その配管を介して回収した廃硫化水素ガスをその処理プラントに供給することを特徴とする。
硫化水素ガス製造プラントにおいては、反応設備にて発生した硫化水素ガスを冷却設備にて冷却する際、その硫化水素ガス中に含まれていた硫黄の一部が固化して冷却設備の底部に固着してしまう。冷却能力の低下とそれに伴う操業効率の低下を防ぐために、冷却設備を複数備えて交互に切り替えて使用するようにし、切り替えて一時停止させた冷却設備に対して内部に固着硫黄の除去処理を行っている。このとき、その硫黄の除去処理を行う際に、廃硫化水素ガスが発生する。
従来、当該プラントから生じた廃硫化水素ガスは、ほとんど活用されることなく、硫化水素ガス製造におけるロスとなっていた。また、そのまま大気中に放出できないため、フレアー設備や除害設備等を用いて処理していたが、環境に対する負荷は少なからず生じ、また苛性ソーダ等の中和剤を別途用いる必要があった。
これに対して、本発明に係る硫化水素ガス製造プラント及びそのプラントを用いた廃硫化水素ガスの回収利用方法によれば、排出される廃硫化水素ガスを効率的に回収して、硫化水素ガスを使用する処理プラントに対して供給することができ、有効利用することができる。また、従来のようなフレアー設備や除害設備を用いた処理を要しないことから、環境に対する負荷を効果的に低減できるとともに、苛性ソーダ等の中和剤を要せず、コストの点においても有利である。
なお、硫化水素ガスを使用する処理プラントとしては、例えば、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法における脱亜鉛工程にて用いられる脱亜鉛工程プラントや、硫化工程にて用いられる硫化工程プラント等が挙げられる。
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、ニッケル酸化鉱石のスラリーから、例えば高温高圧浸出法(HPAL法)を用いて、ニッケル及びコバルトを回収する湿式製錬方法である。具体的に、このニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、ニッケル酸化鉱石のスラリーに硫酸を添加して高温高圧下で浸出する浸出工程と、浸出スラリーを多段洗浄しながら残渣を分離しニッケル及びコバルトと共に不純物元素を含む浸出液を得る固液分離工程と、浸出液のpHを調整して不純物元素を含む中和澱物を分離しニッケル及びコバルトと共に亜鉛を含む中和終液を得る中和工程と、中和終液に対し硫化水素ガスを吹き込んで亜鉛硫化物を形成して分離しニッケル及びコバルトを含むニッケル回収用母液を得る脱亜鉛工程と、ニッケル回収用母液に対し硫化水素ガスを吹き込んでニッケル及びコバルトを含む混合硫化物を形成する硫化工程とを有する。
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法における脱亜鉛工程及び硫化工程では、各プラントにおける反応槽の気相に硫化水素ガスを吹き込んで硫化反応を生じさせることにより金属硫化物を形成する。したがって、これらの硫化水素ガスを使用する処理プラントに対して、硫化水素ガス製造プラントから正規に製造された硫化水素ガスと共に、従来は廃硫化水素ガスとして廃棄処理していた硫化水素ガスを回収し供給することにより、硫化水素ガス製造プラントにて製造される硫化水素ガスをロスなく供給できる。また、それぞれの硫化水素ガスを使用する処理プラントにおいては、硫化水素ガスの使用コストを低減することも可能となり、効率的な湿式製錬操業を行うことができる。
以下、本発明に係る硫化水素ガス製造プラント及び廃硫化水素ガスの回収利用方法に関する具体的な実施の形態について、図面を参照しながら、より具体的に説明する。なお、本実施の形態に係る硫化水素ガス製造プラントは、上述した図6に示す硫化水素ガス製造プラント60を改良したものであり、一部共通する説明は省略する。
[2.硫化水素ガス製造プラント]
<2−1.第1の実施形態>
図1は、硫化水素ガス製造プラントの構成の一例を示す概略図である。この図1に示される硫化水素ガス製造プラント10は、硫化水素ガスを発生させる反応設備11と、発生した硫化水素ガスを冷却する複数の冷却設備12と、硫化水素ガス中の硫黄を除去し硫黄が除去された硫化水素ガスを供給する硫黄除去設備13とを備える。また、硫化水素ガス製造プラント10は、冷却設備12にて発生し当該プラント10から排出される廃硫化水素ガスを回収し、一端が硫化水素ガスを使用する処理プラントAに接続される配管14を備えている。
さらに、硫化水素ガス製造プラント10は、硫黄除去設備13にて除去された硫黄を回収して貯留し、硫黄を処理する設備に供給するブローダウン設備15と、反応設備11における熱バランスを調整するために硫黄を冷却する硫黄冷却設備16とを備える。
反応設備11は、例えば、リアクター17と、クエンチタワー18と、ヒーター19とから構成されている。反応設備11は、供給された硫黄と水素ガスとにより硫化水素ガス生成反応を生じさせ、硫化水素ガスを発生させる。より具体的には、リアクター17内に熔融硫黄が貯留され、その下部から水素ガスが供給されることによって、水素ガスの上昇流が熔融硫黄を通過する間に反応が進行して硫化水素ガスが発生する。ここで発生した硫化水素ガスは、その大部分が硫化水素であるが、一部に水素ガスがリアクター17を通過する際に巻き込んだ硫黄蒸気が含まれている。
また、反応設備11においては、温度が約470℃、圧力が約800kPaGという比較的に高温かつ高圧の条件下で運転されており、発生した硫化水素ガスも高温かつ高圧になっている。なお、反応設備11において発生した硫化水素ガスは、供給される硫黄と熱交換が行われる結果、クエンチタワー18を通過した際には150℃程度となっている。
冷却設備12は、反応設備11にて発生した硫化水素ガスを回収する。冷却設備12における硫化水素ガスの冷却温度としては、特に限定されず、硫化水素ガス中の硫黄分を低減する上では低い方が好ましい。具体的には、通常(冷却)水を使用していることから、約50℃程度にまで冷却される。
また、硫化水素ガス製造プラント10においては、冷却設備12が複数備えられている。冷却設備12においては、回収した硫化水素ガス中に含まれる硫黄の一部が、設備内部(伝熱面)で固化して固着してしまう。そのため、冷却設備12を複数備えるようにすることによって、それらを交互に切り替えて使用することを可能にし、冷却能力の低下に伴う操業効率の低下を防止している。なお、図1に示す硫化水素ガス製造プラント10は、冷却設備12A,12Bの2系統を有する例である。
また、冷却設備12A,12Bにおいては、例えばその下部周囲にジャケットが設けられており、スチームで加熱することによって固着した硫黄を熔融することが可能となっている。冷却設備12A,12Bにおいては、例えば冷却設備12Aの内部に硫黄が固着した場合、冷却設備12Aの使用を停止して冷却設備12Bに切り替える。使用を停止させた冷却設備12Aでは、スチームにより固着した硫黄が熔融され回収される。
ここで、冷却設備12A,12Bは、使用を一時停止した設備においても直前まで硫化水素ガスを冷却していたものであるため、その内部に高圧かつ高濃度の硫化水素ガスを保持している。そのため、内部に固着した硫黄の熔融回収処理にあたっては、その硫黄を熔融回収する冷却設備12A,12B内の硫化水素ガスを排出し、内部圧力を低下させた状態で行う必要がある。硫化水素ガス製造プラント10では、このとき排出される硫化水素ガスが、いわゆる廃硫化水素ガスとなり、当該冷却設備12A,12Bにて発生する。
硫化水素ガス製造プラント10からの廃硫化水素ガスの排出態様としては、例えば、冷却設備12A,12Bにて熔融回収された硫黄と共に、後述するブローダウン設備15に廃硫化水素ガスを放出させて圧力を開放し、そのブローダウン設備15に設けられた排出口25から排出する。または、冷却設備12A,12Bにて発生した廃硫化水素ガスを、冷却設備12A,12Bに設けられた排出口から直接排出するようにしてもよい。
なお、ブローダウン設備15に設けられた排出口25から廃硫化水素ガスを排出する場合、図1に示すように、ブローダウン設備15の排出口25と硫化水素ガスを使用する処理プラントAとを接続させるように後述する配管14を設けるようにする。また、冷却設備12A,12Bに設けられた排出口から直接廃硫化水素ガスを排出する場合には、その冷却設備12A,12Bの排出口と硫化水素ガスを使用する処理プラントAとを接続させるように後述する配管14を設けるようにする。
硫黄除去設備(ノックアウト設備)13は、冷却設備12A,12Bにて冷却された硫化水素ガス中の硫黄を除去する。そして、硫黄除去設備13は、硫黄が除去された硫化水素ガスを、硫化水素ガスを使用する処理プラント等に供給する。上述のように、反応設備11内で発生した硫化水素ガスには、一部硫黄蒸気が含まれている。硫黄除去設備13では、その硫黄蒸気を固化して底部に堆積させ、例えばその下部の外周囲に設置されたジャケットを介してスチームで加熱することによって熔融し回収する。回収した硫黄は、後述するブローダウン設備15に移送する。
なお、硫黄除去設備13が硫化水素ガスを供給する処理プラントとしては、後述する配管14を介して廃硫化水素ガスを供給する処理プラントAと同一であっても異なってもよい。例えば、処理プラントとしては、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法にて用いられる硫化工程プラントや脱亜鉛工程プラント等が挙げられる。
配管14は、当該硫化水素ガス製造プラント10から排出される廃硫化水素ガスを回収し、一端が硫化水素ガスを使用する処理プラントAに接続される。配管14により回収される廃硫化水素ガスは、上述したように、冷却設備12A,12Bにおいて固着した硫黄の熔融回収処理に際して排出される硫化水素ガスである。なお、この廃硫化水素ガスも、780kPaG程度の高圧ガスとなっている。
例えば、配管14は、図1に示すように、後述するブローダウン設備15の排出口25と硫化水素ガスを使用する処理プラントAとを接続する。配管14は、硫黄の熔融回収処理を行うために冷却設備12A,12Bにて発生しブローダウン設備15へ放出された廃硫化水素ガスを、ブローダウン設備15の排出口25を介して回収する。回収された廃硫化水素ガスは、配管14を通って、配管14の一端が接続された硫化水素ガスを使用する処理プラントAに供給される。
また、配管14には、その内部に、硫化水素ガスを使用する処理プラントAに対して供給される廃硫化水素ガスの圧力を測定する圧力計20と、廃硫化水素ガスの流量を測定する流量計21とが設けられている。さらに、配管14には、処理プラントAへの回収した廃硫化水素ガスの供給を制御するコントロールバルブ22が設けられている。このように、配管14では、少なくとも圧力計20とコントロールバルブ22が設けられていることにより、圧力計20にて測定される廃硫化水素ガスの圧力に応じてコントロールバルブ22を制御することで、適切に廃硫化水素ガスを処理プラントAに供給することが可能になっている。詳しくは後述する。
また、配管14には、少なくとも1つのON/OFFバルブ23が設けられており、緊急時の硫化水素ガス製造プラント10と硫化水素ガスを使用するプラントとの間における廃硫化水素ガスのアイソレーションを可能にしている。
なお、配管14を介して廃硫化水素ガスを供給する処理プラントAとしては、特に限定されるものではなく、硫化水素ガスを使用する処理プラントであればよい。例えば、上述したニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法に用いられる硫化工程プラントや脱亜鉛工程プラント等が挙げられる。処理プラントAは、その硫化水素ガスの使用圧力が当該プラント10の反応設備11における運転圧力条件(780〜800kPaG)よりも低いものであることが、移送ポンプ等を設けなくても圧力差によりスムーズに廃硫化水素ガスを供給できるという点で好ましい。
ブローダウン設備15は、硫黄除去設備13にて硫化水素ガスから除去された硫黄を回収する。また、ブローダウン設備15は、冷却設備12A,12B内に固着していた硫黄を回収する。そして、ブローダウン設備15は、それら回収した硫黄を供給ポンプ24を用いて例えば硫黄処理プラント等に供給する。または、回収した硫黄を、再び反応設備11に対して供給する硫黄源として循環利用させてもよい。
また、ブローダウン設備15には、冷却設備12A,12Bにて発生し当該ブローダウン設備15に放出されてきた廃硫化水素ガスを系外に排出するための排出口25が設けられている。ブローダウン設備15は、図1に示すように、その排出口25に配管14が結合され、配管14によって硫化水素ガスを使用する処理プラントAと接続されており、排出口25から排出される廃硫化水素ガスが配管14を介して回収されて処理プラントAに供給されるようになっている。
硫黄冷却設備16は、反応設備11における熱バランスを調整するために硫黄を約470℃から約150℃まで冷却する。また、硫黄冷却設備16は、冷却した硫黄を例えばブローダウン設備15に供給し、冷却設備12A,12Bや硫黄除去設備13から回収した硫黄と共に硫黄処理プラント等に供給する。また、硫黄冷却設備16は、冷却した硫黄を循環ポンプ26を用いて再び反応設備11に供給する硫黄源として循環利用させてもよい。
以上のように、硫化水素ガス製造プラント10は、冷却設備12A,12Bにて発生し当該プラント10から排出される廃硫化水素ガスを回収し、一端が硫化水素ガスを使用する処理プラントAに接続される配管14を備えている。この配管14は、当該プラント10から排出される廃硫化水素ガスをその処理プラントAに供給することができるので、これまで単に排出されるだけでロスとなっていた廃硫化水素ガスを効率的に回収し、処理プラントAにて有効に利用させることができる。また、従来のように、フレアー設備や除害設備等による処理を要しないため、苛性ソーダ等の回収溶媒の使用コストを無くすことができ、操業コストを大幅に削減できる。
また、その配管14には、少なくとも、廃硫化水素ガスの圧力を測定する圧力計20と、処理プラントAへの廃硫化水素ガスの供給を制御するコントロールバルブ22が適切に配置されているので、測定される圧力に応じて、回収した廃硫化水素ガスを効率的に処理プラントAに供給することができる。また、図1に示すように、配管14に、廃硫化水素ガスの流量を測定する流量計21を設置することにより、廃硫化水素ガスの流量に応じても、効率的に処理プラントAに供給することができる。
<2−2.第2の実施形態>
上述した図1に示す硫化水素ガス製造プラント10においては、配管14の一端を1つの処理プラントAに接続させ、配管14を介して廃硫化水素ガスをその1つの処理プラントAに供給可能とした例について説明したが、これに限られるものではなく、複数の処理プラントに廃硫化水素ガスを供給可能なように配管14を構成するようにしてもよい。
図2は、硫化水素ガスを使用する2つの処理プラント(処理プラントA、処理プラントB)に廃硫化水素ガスを供給可能なように構成した硫化水素ガス製造プラント10’の構成図である。なお、この図2に示される硫化水素ガス製造プラント10’において、図1に示した硫化水素ガス製造プラント10と同一の構成については同じ符号を付し、その説明を省略する。
硫化水素ガス製造プラント10’は、反応設備11と、冷却設備12と、硫黄除去設備13と、ブローダウン設備15と、硫黄冷却設備16とを備える。そして、冷却設備12にて発生し当該硫化水素ガス製造プラント10’から排出される廃硫化水素ガスを回収し、一端が硫化水素ガスを使用する処理プラントに接続される配管14’を備えている。
硫化水素ガス製造プラント10’では、配管14’が、所定の分岐点30で分岐された分岐配管となっており、分岐して形成された2つの配管14A,14Bを、硫化水素ガスを使用する2つの処理プラント(処理プラントA、処理プラントB)にそれぞれ接続可能にしている。また、配管14A,14Bの内部には、それぞれ、供給される廃硫化水素ガスの圧力を測定する圧力計20A,20Bと、廃硫化水素ガスの流量を測定する流量計21A,21Bとが、その分岐点30よりも処理プラントA,B側に設けられている。さらに、配管14A,14Bには、それぞれ、処理プラントA、処理プラントBに供給する廃硫化水素ガスの供給を制御するコントロールバルブ22A,22Bが設けられている。さらにまた、配管14A,14Bには、それぞれ、少なくとも1つのON/OFFバルブ23A,23Bが設けられており、緊急時の硫化水素ガス製造プラント10’と硫化水素ガスを使用するプラントとの間における廃硫化水素ガスのアイソレーションを可能にしている。
このように、配管14’には、分岐して形成された、それぞれの配管14A,14Bに、少なくとも、各処理プラントA,Bに供給する廃硫化水素ガスの圧力を測定する圧力計20A,20Bや、廃硫化水素ガスの供給制御を行うコントロールバルブ22A,22Bが設けられている。これにより、処理プラントA、処理プラントBに対して異なる圧力の廃硫化水素ガスを供給することが可能となっている。つまり、硫化水素ガス製造プラント10’から排出される廃硫化水素ガスを、硫化水素ガスの使用用途や使用条件が異なる複数の処理プラントに対して、適切に供給することが可能となっている。
具体的に、廃硫化水素ガスを供給する処理プラントA、処理プラントBとしては、例えば、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法の脱亜鉛工程における脱亜鉛工程プラント、及び、硫化工程における硫化工程プラントが挙げられる。この湿式製錬方法における脱亜鉛工程と硫化工程とでは、硫化水素ガスの吹き込む圧力条件等を変えることによって、金属硫化物を生成を調整している。すなわち、先ず、脱亜鉛工程にて、ニッケル酸化鉱石を浸出し中和して得られた溶液に対して比較的低圧の硫化水素ガスを吹き込むことによって亜鉛を亜鉛硫化物として優先的に回収する。そして、硫化工程にて、得られた亜鉛除去後の溶液に比較的高圧の硫化水素ガスを吹き込むことによってニッケル及びコバルトを含む混合硫化物を生成させて回収する。
このように、脱亜鉛工程プラントと硫化工程プラントとでは、用いられる硫化水素ガスの圧力条件等が異なる。より具体的には、脱亜鉛工程プラントでは、硫化水素ガス製造プラント10’の反応設備11における運転圧力条件の1/100以下に相当する2kPaGの圧力条件で運転され、硫化工程プラントでは、その反応設備11における運転圧力条件の1/2以下に相当する280kPaGの圧力条件で運転される。
上述したように、硫化水素ガス製造プラント10’によれば、配管14A,14Bのそれぞれに、圧力計20A,20Bやコントロールバルブ22A,22Bが適切に配置されているので、廃硫化水素ガスを供給する複数の処理プラントA,B間において使用する硫化水素ガスの圧力条件が大きく異なる場合であっても、その供給を適切に制御でき、それら処理プラントA,Bにおいて有効に利用させることができる。具体的な廃硫化水素ガスの供給制御については、後述する。
以上のように、硫化水素ガス製造プラント10’においても、当該プラント10’と硫化水素ガスを使用する処理プラントA,Bとが配管14’により接続され、またその配管14’が所定の分岐点で分岐した分岐配管(14A,14B)となっている。これにより、当該プラント10’から排出される廃硫化水素ガスを効率的に回収することができ、また配管14’により接続された複数の処理プラントA,Bに対して回収した廃硫化水素ガスを有効に供給することができる。
また、配管14’においても、分岐して形成されたそれぞれの配管14A,14Bに、廃硫化水素ガスの圧力を測定する圧力計20A,20Bと、その供給を制御するコントロールバルブ22A,22Bが適切に配置されているので、廃硫化水素ガスを効率的に供給することができ、またその複数の処理プラントA,Bに対して異なる圧力の廃硫化水素ガスを供給することができる。これにより、それぞれの処理プラントA,Bに対して、硫化水素ガスの使用条件に合致した圧力の廃硫化水素ガスを適切に供給することができる。
[3.廃硫化水素ガスの回収利用方法]
次に、上述した硫化水素ガス製造プラント10,10’おいて発生する廃硫化水素ガスの回収利用方法について説明する。
<3−1.第1の実施形態>
先ず、硫化水素ガス製造プラント10における廃硫化水素ガスの回収利用方法について説明する。上述したように、硫化水素ガス製造プラント10は、当該プラント10から排出される廃硫化水素ガスを回収し、一端が硫化水素ガスを使用する処理プラントAに接続される配管14が備えられている。そして、硫化水素ガス製造プラント10における廃硫化水素ガスの回収利用方法では、その配管14を介して、排出された廃硫化水素ガスを回収し、その廃硫化水素ガスを処理プラントAに供給する。
上述のように、硫化水素ガス製造プラント10における反応設備11では、約470℃の高温かつ約800kPaGの高圧の条件で運転されており、冷却設備12A,12Bにて発生する廃硫化水素ガスも、約780kPaGという高圧のガスとなっている。一方で、回収した廃硫化水素ガスの供給先である処理プラントAでの硫化水素ガスの使用圧力条件は、発生した廃硫化水素ガスの圧力よりも低い。したがって、配管14を備えることにより、その圧力差により、当該プラント10から排出される廃硫化水素ガスが効率的に回収され、配管14を接続させた処理プラントAに移送することが可能となる。
ここで、廃硫化水素ガスを供給する処理プラントによって、圧力や流量等の硫化水素ガスの使用条件が異なる場合が多い。そのため、配管14を介して廃硫化水素ガスを処理プラントAに供給するに際しては、以下の廃硫化水素ガスの供給制御を行って適切に供給することがより好ましい。
具体的に、図3に、硫化水素ガス製造プラント10において、配管14を介して廃硫化水素ガスを回収し、回収した廃硫化水素ガスを処理プラントAに供給する際の供給制御のフローを示す。
先ず、ステップS11にて、配管14を介して硫化水素ガス製造プラント10から排出された廃硫化水素ガスが回収する。具体的に、冷却設備12A,12Bにて発生しブローダウン設備15の排出口25から排出された廃硫化水素ガスを配管14を介して回収する。
次に、ステップS12にて、配管14に設けられたコントロールバルブ22を開放する。
続いて、ステップS13では、ステップS12におけるコントロールバルブ22及びON/OFFバルブ23の開放により、配管14を介して、処理プラントAへの回収した廃硫化水素ガスの供給が開始される。
次に、ステップS14にて、配管14内に設けられた圧力計20を監視し、配管14を流れて処理プラントAに供給されている廃硫化水素ガスの圧力を測定する。
そして、ステップS15にて、圧力計20にて測定される圧力が低下して、測定される圧力に変化が殆ど無くなってきたか否かを判断する。すなわち、測定される圧力が低下して、供給する処理プラントAにおける圧力と同等となり、もはやその処理プラントAには廃硫化水素ガスが流入されない状態になったか否かを判断する。ステップS15にて、変化が殆ど無いと判断された場合(Yesの場合)には、次にステップS16に進む。一方で、変化がまだあると判断された場合(Noの場合)には、ステップS13に戻り、処理プラントAへの廃硫化水素ガスの供給を継続する。
ステップS16では、供給する廃硫化水素ガスの圧力変化が殆ど無い状態、すなわち廃硫化水素ガスが処理プラントAにこれ以上流入されない状態となったため、コントロールバルブ22及びON/OFFバルブ23を閉鎖する。これにより、廃硫化水素ガスが硫化水素ガス製造プラント10に逆流することを防止する。
そして、ステップS17では、ステップS16におけるコントロールバルブ22及びON/OFFバルブ23の閉鎖により、処理プラントAへの廃硫化水素ガスの供給が停止される。
硫化水素ガス製造プラント10においては、回収した廃硫化水素ガスを処理プラントAに供給するに際して、以上のような供給制御を行うことにより、より効率的にかつ処理プラントAにおける使用条件に合致した廃硫化水素ガスを適切に供給することができる。
<3−2.第2の実施形態>
次に、上述した硫化水素ガス製造プラント10’における廃硫化水素ガスの回収利用方法について説明する。硫化水素ガス製造プラント10’は、当該プラント10’から排出される廃硫化水素ガスを回収し、一端が硫化水素ガスを使用する処理プラントに接続される配管14’が備えられている。その配管14’は、所定の箇所で分岐した分岐配管となっており、分岐して配管14A,14Bとなっている。そして、硫化水素ガス製造プラント10’における廃硫化水素ガスの回収利用方法では、その配管14’を介して、排出された廃硫化水素ガスを回収し、回収した廃硫化水素ガスを、配管14A,14Bを介して処理プラントA、処理プラントBに供給する。
硫化水素ガス製造プラント10’における配管14’を介して接続された複数の処理プラント(処理プラントA,処理プラントB)は、その硫化水素ガスの使用圧力条件がそれぞれ異なる場合が想定される。その場合、硫化水素ガス製造プラント10’から排出される廃硫化水素ガスを短時間で回収するとともに、回収した廃硫化水素ガスを適切に効率的に供給して、処理プラントA,Bにて好ましい態様で有効利用されることが必要となる。なお、以下では、処理プラントA(例えば硫化工程プラント)は、相対的に高い圧力で硫化水素ガスが使用される処理プラントとし、処理プラントB(例えば脱亜鉛工程プラント)は、相対的に低い圧力で硫化水素ガスが使用される処理プラントとする。
そこで、このような硫化水素ガスを使用する圧力条件が異なる複数の処理プラントに対して廃硫化水素ガスを供給するにあたっては、先ず、相対的に圧力条件の高い処理プラントAに対して廃硫化水素ガスを供給する。そして、続いて、相対的に圧力条件の低い処理プラントBに対して廃硫化水素ガスを供給する。
これにより、各処理プラントA,Bへの廃硫化水素ガスの移送が短時間で完了し、効果的に廃硫化水素ガスを供給することができる。すなわち、先ず処理プラントAに対して廃硫化水素ガスを供給することにより、時間経過に伴って配管14’内の廃硫化水素ガスの圧力は低下していき、処理プラントBにおける圧力条件に近似させることができる。そして、処理プラントAへの供給後に処理プラントBへの供給を開始することにより、直ぐに処理プラントBに対して適切な圧力の廃硫化水素ガスを供給することができ、圧力が低くなるまで長時間に亘って放置するといった措置を要しない。そのため、安全面においても効果的に供給できる。
なお、硫化水素ガス製造プラント10’における冷却設備12A,12Bでは、例えばジャケットに蒸気を通じて固着した硫黄を溶融する時間や溶融した硫黄を回収する時間、そして溶融し硫黄を回収した後に再び設備内を冷却してスタンバイ状態に移行するための時間等が必要となる。このことから、極力、廃硫化水素ガスを処理プラントに効率的に供給し、改めて短時間で廃硫化水素ガスを回収できるようにすることが望ましい。この点においても、上述したように、効率的に廃硫化水素ガスの供給が効率的に完了できることから、配管14’を介した廃硫化水素ガスの回収も短時間で行うことが可能となり、操業効率を向上させることができる。
より具体的に、硫化水素ガス製造プラント10’において、配管14’(14A,14B)を介して硫化水素ガスの使用圧力条件が異なる処理プラントA及び処理プラントBと接続し、それら処理プラントA,Bに対して廃硫化水素ガスを供給する場合の供給制御について、図4に示すフローに基づいて説明する。
先ず、ステップS21にて、配管14’を介して硫化水素ガス製造プラント10’から排出された廃硫化水素ガスを回収する。具体的に、冷却設備12A,12Bにて発生しブローダウン設備15の排出口25から排出された廃硫化水素ガスを配管14’を介して回収する。
次に、ステップS22にて、配管14Aに設けられ処理プラントAへの廃硫化水素ガスの供給を制御するコントロールバルブ22A及びON/OFFバルブ23Aを開放するとともに、配管14Bに設けられ処理プラントBへの廃硫化水素ガスの供給を制御するコントロールバルブ22B及びON/OFFバルブ23Bを閉鎖する。続いて、ステップS23では、ステップS22におけるコントロールバルブ22A及びON/OFFバルブ23Aの開放により、配管14Aを介して、処理プラントAへの回収された廃硫化水素ガスの供給が開始される。
次に、ステップS24にて、配管14A内に設けられた圧力計20Aを監視し、配管14Aを流れて処理プラントAに供給されている廃硫化水素ガスの圧力を測定する。
そして、ステップS25にて、圧力計20Aにて測定される圧力が低下して、測定される圧力に変化が略無くなってきたか否かを判断する。すなわち、測定される圧力が低下して、供給する処理プラントAにおける圧力と同等となり、もはやその処理プラントAには廃硫化水素ガスが流入されない状態になったか否かを判断する。ステップS25にて、変化が殆ど無いと判断された場合(Yesの場合)には、次にステップS26に進む。一方で、変化がまだあると判断された場合(Noの場合)には、ステップS23に戻り、処理プラントAへの廃硫化水素ガスの供給を継続する。
ステップS26では、供給する廃硫化水素ガスの圧力変化が殆ど無い状態、すなわち廃硫化水素ガスが処理プラントAにこれ以上流入されない状態となったため、配管14Aに設けられたコントロールバルブ22A及びON/OFFバルブ23Aを閉鎖し、そして、処理プラントAへの廃硫化水素ガスの供給を停止する。
そして、ステップS27では、配管14Bに設けられたコントロールバルブ22B及びON/OFFバルブ23Bを開放して、配管14Bを介した処理プラントBへの廃硫化水素ガスの供給を開始する。
次に、ステップS28にて、配管14B内に設けられた圧力計20Bを監視し、配管14Bを流れて処理プラントBに供給されている廃硫化水素ガスの圧力を測定する。
そして、ステップS29にて、圧力計20Bにて測定される圧力が低下して、測定される圧力に変化が略無くなってきたか否かを判断する。すなわち、測定される圧力が低下して、供給する処理プラントBにおける圧力と同等となり、もはやその処理プラントBには廃硫化水素ガスが流入されない状態になったか否かを判断する。ステップS29にて、変化が殆ど無いと判断された場合(Yesの場合)には、次にステップS30に進む。一方で、変化がまだあると判断された場合(Noの場合)には、ステップS27に戻り、処理プラントBへの廃硫化水素ガスの供給を継続する。
そして、ステップS30では、供給する廃硫化水素ガスの圧力変化が殆ど無い状態、すなわち廃硫化水素ガスが処理プラントBにこれ以上流入されない状態となったため、配管14Bに設けられたコントロールバルブ22B及びON/OFFバルブ23Bを閉鎖し、そして、処理プラントBへの廃硫化水素ガスの供給を停止する。
硫化水素ガス製造プラント10’においては、回収した廃硫化水素ガスを処理プラントA,Bに供給するに際して、以上のような供給制御を行うことにより、各処理プラントにおいて使用する硫化水素ガスの圧力条件が異なる場合であっても、効率的にかつ各処理プラントにおける使用条件に合致した廃硫化水素ガスを適切に供給することができる。
なお、以上の説明では、使用する圧力条件の異なる複数の処理プラントに対する供給制御について説明したが、使用する硫化水素ガス量の異なる複数の処理プラントに対しても、適切な流量を効率的に供給することができる。
具体的に、例えば、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法の脱亜鉛工程における硫化処理と硫化工程における硫化処理との硫化水素ガスの使用量を比べると、脱亜鉛処理工程における使用量の方が遥かに少ない。そのため、その処理に要する時間も必然的に長くなる。
このように、廃硫化水素ガスを供給する複数の処理プラントA,Bにおける硫化水素ガスの使用量についての条件が異なる場合であっても、上述した硫化水素ガス製造プラント10’による廃硫化水素ガスの回収利用方法によれば、廃硫化水素ガスを効率的に回収し、そして供給することができる。具体的な方法として、配管14A,14Bにそれぞれ設けられた流量計21A,21Bにて測定される廃硫化水素ガスの流量に基づいて制御すればよい。これにより、各処理プラントにおける処理時間が延長してしまうといった不具合を生じさせることなく効率的な操業が可能になるとともに、発生した廃硫化水素ガスを無駄なく有効に活用することができる。
[4.実施例]
以下に本発明についての実施例を説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
実施例1として、図2に示す硫化水素ガス製造プラント10’を用いて、硫化水素ガスを製造する通常の操業を行うとともに、当該プラント10’から排出される廃硫化水素ガスを回収し、その回収した廃硫化水素ガスを、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法における硫化工程プラント(処理プラントA)及び脱亜鉛工程プラント(処理プラントB)に供給する操業を行った。
硫化水素ガス製造プラント10’における通常操業では、その冷却設備12A,12Bにおいて、硫化水素ガスの冷却に伴って硫化水素ガスに含まれる一部の硫黄が底部に固着してしまうため、冷却設備12A,12Bを交互に切り替えて使用するようにした。そして、一時停止させた方の冷却設備については、固着した硫黄を熔融して回収する処理を行った。この硫黄の熔融処理に際して放出させる硫化水素ガスを廃硫化水素ガスとした。
具体的に、硫化水素ガス製造プラント10’では、ブローダウン設備15の排出口25と、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プラントにおけるニッケル硫化処理プラント及び脱亜鉛硫化処理プラントとを接続させる配管14’を設置した。配管14’は、所定の箇所で分岐させることによって、硫化工程プラント及び脱亜鉛工程プラントに接続可能となるようにした。
また、配管14’において、その所定の分岐点において分岐して形成されたそれぞれの配管に、廃硫化水素ガスの圧力を測定する圧力計20A,20Bと流量を測定する流量計21A,21Bを設置した。また、それら圧力計20A,20Bや流量計21A,21Bよりも各処理プラント側に、廃硫化水素ガスの供給を制御するコントロールバルブ22A,22Bを設置した。さらに、分岐点の直後の配管に、緊急時のアイソレーションを目的としたON/OFFバルブ23A,23Bを設置した。
以上の構成を有する硫化水素ガス製造プラント10’において、廃硫化水素ガスの回収及び供給については、冷却設備12A,12Bにて発生しブローダウン設備15に放出されてそのブローダウン設備15から排出される廃硫化水素ガスを配管14’にて回収し、回収した廃硫化水素ガスを配管14’を介して脱亜鉛工程プラント及び硫化工程プラントにそれぞれ供給するようにした。
なお、硫化水素ガス製造プラント10’の反応設備11における運転圧力条件は、多少変動はあるものの、日平均値として780kPagであった。一方で、硫化水素ガスの供給先であるニッケル硫化処理プラントにおける圧力条件は280kPagであり、脱亜鉛硫化処理プラントにおける圧力条件は2kPagであった。
各処理プラントへの廃硫化水素ガスの供給制御については、先ず、配管14’のコントロールバルブ22Aを開放するとともにコントロールバルブ22Bを閉鎖して、ブローダウン設備15から回収した廃硫化水素ガス(780kPag)をニッケル硫化処理プラントに供給した。そして、圧力計20Aにて測定される圧力が350kPaG程度となるとその圧力の変化が略無くなる状態となったので、コントロールバルブ22Aを閉鎖した。また同時に、コントロールバルブ22Bを開放するバルブの切り替えを行い、配管14’内の残りの廃硫化水素ガスを脱亜鉛硫化処理プラントに供給した。脱亜鉛硫化処理プラントへの供給は、圧力計20Bにて測定される圧力が50kPaG程度となるとその圧力の変化が略無くなったので、その時点で終了させた。このような操業を繰り返すことにより、6カ月のオペレーションを実施した。
以上のオペレーションの結果、操業期間において、冷却設備12A,12Bの互いの切り替えは合計1488回行われ、冷却設備12A,12Bの硫黄の熔融回収処理により発生した廃硫化水素ガス合計15tを配管14を介して回収することができ、その廃硫化水素ガスを効果的にニッケル硫化処理プラント及び脱亜鉛硫化処理プラントに供給することができた。
同時に、廃硫化水素ガス約15tを回収し供給できたことにより、硫化水素ガス15tを製造するのに相当する原料系の操業資材として、硫黄を約14.1t、水素(メタノール)を約0.9t節約することができた。また、従来用いられていた廃硫化水素ガスを処理する処理系の資材として、硫化水素ガスを吸収して除害するための苛性ソーダが約17.5t不要になった。なお、従来のように廃硫化水素ガスをフレアー設備にて除害した後に大気に放出するという処理も不要になったので、環境に対する負荷も全く無かった。
(比較例1)
比較例1では、従来の硫化水素ガス製造プラントを用いて操業を行った。
その結果、冷却設備にて発生した廃硫化水素ガス約15tは、回収されること無く、除害設備により廃棄処理が必要となった。そして、その除害設備による処理にあたり、廃硫化水素ガスを吸収して除害するための約17.5tの苛性ソーダが必要となった。また、実施例1に比して、原料系の操業資材として、硫黄約14.1t、水素約0.9tが余分に必要となってしまった。なお、フレアー設備にて廃硫化水素ガスを処理する場合でも、発生する硫黄酸化物(SOx)が大気に放出される可能性を有していた。