JP5674340B2 - 燃焼器用部材、燃焼器用部材の製造方法、及び燃焼器 - Google Patents

燃焼器用部材、燃焼器用部材の製造方法、及び燃焼器 Download PDF

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Description

本発明は、ガスタービン燃焼装置などの燃焼器に用いられるコバルト(Co)基合金を用いて製造した燃焼器用部材、燃焼器用部材の製造方法、及び燃焼器に関する。
ガスタービン燃焼装置などの燃焼器は、環境保護の観点から排ガスの低NOx化が必要とされている。そのため、図5の断面図に示すように、燃焼器100は、空気と燃料を混合して燃焼させる際に火炎を安定させてNOxを低減するため、リング状の燃焼器用部材101(保炎リング102)を設けている。図6に示すように、保炎リング102は、肉厚が薄く、空気と燃料を混合した可燃ガスに接触する一端部103と、末広がりで肉厚が厚く、可燃ガスを燃焼して得られる高温の燃焼ガスに接触する他端部104とを有しており、この一端部103と他端部104とで大きな温度勾配が生じている。そのため保炎リング102をはじめとする燃焼器用部材101には高い熱応力が誘起される。
近年、高効率化のため前記燃焼器100の燃焼温度は上昇する傾向にあり、前記保炎リング102などの、燃焼器100に用いられる部材には、優れた高温強度(耐熱疲労性)を有することが要求されている。かかる要求に応えるべく、前記保炎リング102などは例えばCo基合金を用いて製造されているが、年々厳しくなる要求に応えるため、さらにその性能を向上させる研究が鋭意進められている。
そのような研究の成果の一例として、例えばWによる固溶強化、及びM236やM6C型の炭化物を析出させることによってCo基合金の高温強度、耐熱疲労性などを向上できることが見出され、広く使用されている。なお、前記Mは、W及びCrのうちの少なくとも一方を示す。
また、そのような研究の成果の他の一例として、例えば非特許文献1に記載されているHAYNES ALLOY No.188(HA188)が有名である。HA188はCo基超耐熱合金として知られ、優れた耐熱疲労性、クリープ特性及び熱間加工性を兼ね備えているため、燃焼器用部材101として前記保炎リング102のほか、燃焼器100の主室ライナ、副室ライナ、内筒コーンなどに広く使用されている。
また、特許文献1には、C:0.03〜0.60質量%、Si:1.0質量%以下、Mn:3.0質量%以下、Ni:2.0〜40.0質量%、Cr:15.0〜25.0質量%、Fe:15.0質量%以下、Wまたは/およびMo:5.0〜20.0質量%、残部:Coを必須成分とするCo基合金を溶製してそのインゴットを製造する工程;前記インゴットに1160〜1220℃の温度で均熱化処理を施した後、1160〜1220℃の温度で鍛錬比2以上の熱間加工を施す工程;前記熱間加工品に1160〜1220℃の温度で均熱化処理を施した後、1050〜1160℃の温度で鍛錬比2以上の仕上げ加工を施す工程;および、前記仕上げ加工品に1000〜1160℃で固溶化処理を施す工程;を備えるCo基合金部材の製造方法が開示されている。この特許文献1によれば、組織内に微細な炭化物を分散させることにより、熱負荷が加わっても亀裂や皺などの熱損傷を防止することができるため、表面に反復する熱負荷を受けても熱損傷を起こすことのないCo基合金部材を製造することができると記載されている。そのため、この方法で製造された部材は、溶融物の熱ロールのように、過酷な熱負荷を受ける部材として有用である旨が記載されている。
さらに、特許文献2には、ガスタービン静翼材などとして使用されるCo基耐熱合金材の時効処理に伴う組織変化を定量的に表すラーソン・ミラーパラメータと関係づけた相関曲線に基づいて、Co基耐熱合金の使用温度を推定するCo基耐熱合金の使用温度の推定方法が開示されている。なお、ラーソン・ミラーパラメータ(LMP)は、LMP=(237+T)×(C+logt)という式で表される。ここで、Tは加熱温度、tは加熱された時間、Cは一般的には17〜23の範囲で選択される定数を表す。この特許文献2によれば、Co基耐熱合金の使用温度を客観的、定量的かつ精度よく推定することができると記載されている。
特開平04−202733号公報 特開平10−197515号公報
HIGH-TEMPERATURE ALLOYS HAYNES(R) 188 ALLOY, pages 3-4, and page 10, HAYNES International, [online]. [retrieved on 2001-09-??]. Retrieved from the Internet: <URL:http://www.haynesintl.com/pdf/h3001.pdf>
しかしながら、従来よく知られたCo基合金や非特許文献1に記載のHA188或いは特許文献1に記載の技術を用いて保炎リング102などの燃焼器用部材101を製造してガスタービン燃焼装置などの燃焼器100に使用しても、Cを含むCo基合金を使用している以上、実機使用中に燃焼器用部材101が特定の温度域に加熱されることによって表面や組織中に炭化物が析出することは避けられない。表面や組織中に炭化物が析出すると燃焼器用部材101は炭化物の析出強化により硬化するため脆化し、結果的に耐熱疲労性及び延性が劣化するため、炭化物が析出した燃焼器用部材101を新しいものに交換する必要がある。
また、特許文献2に記載の技術はCo基耐熱合金材の時効処理に伴う組織変化を定量的に表すラーソン・ミラーパラメータと関係づけた相関曲線に基づいてCo基耐熱合金の使用温度を推定するに止まり、Co基耐熱合金を用いた燃焼器用部材101の長寿命化をもたらすものではない。
本発明は前記問題に鑑みてなされたものであり、耐熱疲労性及び延性を劣化し難くした燃焼器用部材、燃焼器用部材の製造方法、及び燃焼器を提供することを目的とする。
本発明者らは前記課題を解決するためスモールパンチ試験による破断延性の測定を行った。また、Co基合金の脆化メカニズムとして合金組織における析出炭化物である(Cr,W)236に着目し、実機使用後の保炎リングを破壊調査して画像解析によって析出炭化物の平均粒径d及び面積率Fを求め、それらの関係から下記式(1)により平均粒子間距離λを算出した。
λ=0.41d((π/F)1/2−2)・・・式(1)
その結果、結晶粒界及びマトリクス中に析出する炭化物の面積率の増加に伴って破断延性が低下することが分かった。また、この原因として実機使用中に炭化物の二次析出が進行し、これが粗大化及び過剰析出して粒子間距離が減少することによって転移の移動が妨げられ、材料が硬化するために脆化が進行し、その結果として耐熱疲労性や延性が劣化すると考えられた。
そのため、予め炭化物の平均粒径を大きく粗に形成させてその析出量(面積率)を特定の範囲に一次析出させておくこと、さらには、粒子間距離を一定以上に保つことによって実機使用中に二次析出する炭化物の過剰析出を抑制することができると考えられた。そして、このようにして炭化物の過剰析出を抑制することによって転移の移動の妨げによる材料の硬化の防止を図ることができ、脆化を緩やかにすることが可能となる結果、耐熱疲労性及び延性を劣化し難くすることができると考えられた。
〔1〕前記課題を解決した本発明に係る燃焼器用部材は、C:0.07〜0.10質量%、Si:0.01〜1質量%、Mn:0.5〜2質量%、Ni:20〜25質量%、Cr:20〜25質量%、W:10〜20質量%、及び残部がCo及び不可避不純物からなるCo基合金を用いて製造した燃焼器用部材であって、断面組織における析出炭化物の面積率が、前記Cの含有量(質量%)を[C]として、−66.7×[C]+8.47%以上、−53.3×[C]+8.53%以下であることを特徴としている。また、前記断面組織における析出炭化物の平均粒子間距離は、前記Cの含有量(質量%)を[C]として、20×[C]+1.3μm以上、50×[C]−0.4μm未満であるのが好ましい。
このように、断面組織における析出炭化物の面積率が特定の範囲にあるように予め一次析出させておくことにより、実機使用中に二次析出する炭化物の過剰析出を抑制することができる。このように炭化物の二次析出を抑制することができると、燃焼により加熱されても粒子間距離の減少による転移の移動が妨げられるのを防止することができ、Co基合金が硬化するのを防止することができるようになるため、Co基合金の脆化を緩やかにすることが可能となる。
〔2〕また、本発明に係る燃焼器用部材の製造方法は、前記に記載した燃焼器用部材の製造方法であって、C:0.07〜0.10質量%、Si:0.01〜1質量%、Mn:0.5〜2質量%、Ni:20〜25質量%、Cr:20〜25質量%、W:10〜20質量%、及び残部がCo及び不可避不純物からなるCo基合金を用いて燃焼器用部材を所定の形状に成形する成形工程と、前記成形した燃焼器用部材に対して溶体化処理を行う溶体化処理工程と、前記溶体化処理した燃焼器用部材に対して応力除去焼鈍を行う応力除去焼鈍工程とを含み、さらに、前記応力除去焼鈍した燃焼器用部材に対して1000〜1080℃、3〜24時間の熱処理を行う熱処理工程を含むことを特徴としている。
このように、成形工程後に溶体化処理と応力除去焼鈍とを行い、さらに特定の温度範囲での熱処理を行うことにより、断面組織における析出炭化物の面積率が、Cの含有量(質量%)を[C]として、−66.7×[C]+8.47%以上、−53.3×[C]+8.53%以下となるように析出炭化物を一次析出させることができる。そのため、かかる製造方法によって製造された燃焼器用部材は、燃焼により加熱されても二次析出する炭化物の過剰析出を抑制することができる。従って、粒子間距離の減少による転移の移動が妨げられるのを防止することができ、Co基合金が硬化するのを防止することができるようになるため、Co基合金の脆化を緩やかにすることが可能となる。
〔3〕本発明に係る燃焼器は、可燃ガスを燃焼して得られる高温の燃焼ガスと接触する部分に燃焼器用部材を使用した燃焼器であって、前記燃焼器用部材が前記〔1〕に記載の燃焼器用部材であることを特徴としている。本発明に係る燃焼器は、前記〔1〕に記載の燃焼器用部材を用いているので、燃焼により加熱されてもCo基合金の脆化が緩やかである。
本発明に係る燃焼器用部材は、Co基合金の脆化が緩やかであるので、耐熱疲労性及び延性の劣化が進行し難い。
また、本発明に係る燃焼器用部材の製造方法は、Co基合金の脆化が緩やかな燃焼器用部材を製造することができる。従って、耐熱疲労性及び延性の劣化が進行し難い燃焼器用部材を製造することができる。
本発明に係る燃焼器は、Co基合金の脆化が緩やかな燃焼器用部材を用いているので耐熱疲労性及び延性の劣化が進行し難い。
本発明に係る燃焼器用部材が用いられる燃焼器の構成を説明する断面図である。 本発明に係る燃焼器用部材の一例を示す斜視図である。 本発明に係る燃焼器用部材の製造方法の内容を説明するフローチャートである。 0.10質量%C含有Co基合金の熱処理の温度、時間及び硬さの関係を示すグラフである。 従来の燃焼器の構成を説明する断面図である。 従来の燃焼器用部材の一例を示す斜視図である。
以下、本発明に係る燃焼器用部材及び燃焼器用部材の製造方法の一実施形態について詳細に説明する。まず、図1及び図2を参照して本発明に係る燃焼器用部材について説明する。
なお、燃焼器10としては、例えばガスタービンに用いられるガスタービン燃焼装置10a(図1参照)や、図示しない航空機エンジン燃焼装置などを挙げることができる。
燃焼器用部材1の一例としては、図1に示した燃焼器10に用いられるリング状の保炎器(以下、保炎リング1a)や、燃焼室壁3w(主室ライナ31)、副室ライナ32或いは内筒コーン33などを挙げることができる。この保炎リング1aは、図1及び図2に示すように、肉厚が薄く、空気と燃料を混合した可燃ガスに接触する一端部1a1と、末広がりで肉厚が厚く、可燃ガスを燃焼して得られる高温の燃焼ガスに接触する他端部1a2とを有している。なお、保炎リング1aは一体物であってもよいが、四〜八分割等されているものをリング状に組み合わせる物であってもよい。かかる燃焼器用部材1は、例えば鋳塊を鋳造後、均質化処理を行い、鍛造することによって所定の形状に製造することができる。
ここで、保炎リング1a(燃焼器用部材1)が使用される使用態様について図1を参照して簡単に説明する。
ガスタービン燃焼装置10aにおける燃焼は、2つの燃焼室2,3で行なわれる。燃焼室2では、供給されてきた燃料と空気によって拡散燃焼が行われ、燃焼室3では、供給されてきた燃料と空気を予混合器4で予め混合してから燃焼させる予混合燃焼が行われる。図示しないコンプレッサで圧縮された空気は、所定の配分で空気流入口5,5から、それぞれ燃焼室2及び予混合器4に導入される。空気は燃焼室壁3wの冷却にも使われるが、ここでは詳細な説明を省略する。燃料は、燃焼室2へは燃料供給管6から、予混合器4へは燃料供給管7から燃料ノズル8,8を経て導入される。保炎リング1a(燃焼器用部材1)は、予混合器4の出口に、取付け用の支持板材9によって固定されている。
本発明に係る燃焼器用部材1は、C:0.07〜0.10質量%、Si:0.01〜1質量%、Mn:0.5〜2質量%、Ni:20〜25質量%、Cr:20〜25質量%、W:10〜20質量%、及び残部がCo及び不可避不純物からなるCo基合金を用いて製造した燃焼器用部材であって、断面組織における析出炭化物の面積率が、前記したCの含有量(質量%)を[C]として、−66.7×[C]+8.47%以上、−53.3×[C]+8.53%以下である。
なお、以下の説明においては、燃焼器用部材1に含有されるCの含有量(質量%)を単に[C]ということとする。
なお、本発明に係る燃焼器用部材1の成分と含有量を限定する理由は以下のとおりである。
(C:0.07〜0.10質量%)
Cは、CrやWなどと炭化物を形成し、合金の析出強化に寄与する元素であるが、0.07質量%未満では強度不足となり、0.10質量%より多いと過剰析出により延性が低下するため、含有量は0.07〜0.10質量%とする。
(Si:0.01〜1質量%)
Siは、脱酸及び耐酸化性の向上に寄与する元素であるが、過度の添加により強度及び熱間鍛造性が低下するため、含有量は0.01〜1質量%とする。
(Mn:0.5〜2質量%)
Mnは、脱硫及び脱酸に寄与する元素であるが、過度の添加により熱間鍛造性が低下するため、含有量は0.5〜2質量%とする。
(Ni:20〜25質量%)
Niは、Co基のマトリクスの安定化に寄与する元素であるが、過度の添加により安定性が低下するため、含有量は20〜25質量%とする。
(Cr:20〜25質量%)
Crは、耐酸化性を向上し、炭化物の形成またはマトリクスへの固溶により合金の析出強化及び固溶強化に寄与する元素であるが、過度の添加により組織安定性が低下するため、含有量は20〜25質量%とする。
(W:10〜20質量%)
Wは、合金組織に固溶するか又は炭化物を形成し、合金の固溶強化又は析出強化に寄与する元素であるが、過度の添加により組織安定性が低下するため、含有量は10〜20質量%とする。
(残部;Co及び不可避不純物)
残部はCoと不可避不純物である。不可避不純物としては例えばP、S、Mo、Cu、Al、Ti、Nb、Zr、N、O、B、Mg、Laなどを挙げることができる。本発明においては不可避不純物としてこれらの元素を総計0.6質量%以下で含有していても問題なく使用することができる。
(断面組織における析出炭化物の面積率が、Cの含有量(質量%)を[C]として、−66.7×[C]+8.47%以上、−53.3×[C]+8.53%以下
断面組織における析出炭化物の面積率が、−66.7×[C]+8.47%以上、−53.3×[C]+8.53%以下の範囲にあると一次析出させた析出炭化物の析出量が適切であるため析出強化による適度な強度と、実機使用中に二次析出する析出炭化物の過剰析出を抑制することができる。
一方、断面組織における析出炭化物の面積率が、−66.7×[C]+8.47%未満であると、析出炭化物の析出量が少ないために析出強化による強度向上を図ることができない。また、断面組織における析出炭化物の面積率が、−53.3×[C]+8.53%より大きいと、析出炭化物の析出量が多いため析出強化によって強度が向上し過ぎてしまい、脆化してしまう。
従って、断面組織における析出炭化物の面積率は、Cの含有量(質量%)を[C]として、−66.7×[C]+8.47%以上、−53.3×[C]+8.53%以下とする。
断面組織における析出炭化物の面積率は、本発明に係る燃焼器用部材の製造方法を実施することによって具現することができる。すなわち、特定の条件の熱処理を行うことで具現することができる。詳しくは後に詳述する。
(断面組織における析出炭化物の平均粒子間距離が、Cの含有量(質量%)を[C]として、20×[C]+1.3μm以上、50×[C]−0.4μm未満)
本発明に係る燃焼器用部材1においては、断面組織における析出炭化物の平均粒子間距離が、20×[C]+1.3μm以上、50×[C]−0.4μm未満であるのが好ましい。
断面組織における析出炭化物の平均粒子間距離が、20×[C]+1.3μm以上、50×[C]−0.4μm未満の範囲にあると一次析出させた析出炭化物の粒子間の距離が十分離れているため実機使用中に炭化物が二次析出して析出炭化物の面積率が大きくなったとしても転移の移動を妨げ難くすることができる。そのため、より確実に材料を硬化し難くすることができるので、脆化をより確実に緩やかにすることができる。
これに対し、断面組織における析出炭化物の平均粒子間距離が、20×[C]+1.3μm未満になるということは、一次析出させた析出炭化物の析出量が多くなり過ぎているということであるため、強度は高いものの、実機使用中に炭化物が二次析出すると転移の移動が妨げられて材料が硬化するため脆化し易くなる。一方、断面組織における析出炭化物の平均粒子間距離が、50×[C]−0.4μm以上ということは、Cが固溶し過ぎてしまうことであり、析出炭化物の析出量が少なくなるため析出強化の効果を得ることができない。そのため強度が低くなる。
従って、断面組織における析出炭化物の平均粒子間距離は、Cの含有量(質量%)を[C]として、20×[C]+1.3μm以上、50×[C]−0.4μm未満とする。
なお、断面組織は、例えば走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)により観察することができ、断面組織における析出炭化物の面積率や平均粒径は、SEMにより撮影した画像を任意の画像解析ソフトを用いて画像処理や解析することで測定することができる。また、断面組織における析出炭化物の平均粒子間距離(λ)は、下記式(1)により算出することができる。
λ=0.41d((π/F)1/2−2)・・・式(1)
(但し、前記式(1)において、dは析出炭化物の平均粒径であり、Fは析出炭化物の面積率である。)
次に、本発明に係る燃焼器用部材の製造方法について説明する。
本発明に係る燃焼器用部材の製造方法は、前記した本発明に係る燃焼器用部材1を製造するための製造方法であって、図3に示すように、成形工程S1と、溶体化処理工程S2と、応力除去焼鈍工程S3と、熱処理工程S4とを含んでいる。
以下に各工程について説明する。
成形工程S1は、C:0.07〜0.10質量%、Si:0.01〜1質量%、Mn:0.5〜2質量%、Ni:20〜25質量%、Cr:20〜25質量%、W:10〜20質量%、及び残部がCo及び不可避不純物からなるCo基合金を用いて燃焼器用部材1を所定の形状に成形する工程である。なお、Co基合金の成分及び組成については既に詳述しているのでその説明を省略する。
成形工程S1における成形手段としては、例えば前記組成を有するCo基合金の鋳塊を鋳造し、これを均質化処理した後、所定の形状となるように鍛造することで行うことができるが、これに限定されるものではない。例えば、所定形状の板材などとした後にプレス加工や切削加工等を施すことによって所定の形状の燃焼器用部材とすることもできる。
次に行う溶体化処理工程S2は、成形工程S1で成形した燃焼器用部材1に対して溶体化処理を行う工程である。溶体化処理を行うことで添加した各成分をマトリクス中に固溶させ、強度の向上を図ることができる。溶体化処理は、例えば1160〜1200℃で行うことができる。溶体化処理の温度が1160℃未満であると温度が低過ぎるため十分な固溶状態を作ることができず、十分な強度を得ることができないおそれがある。また、溶体化処理の温度が1200℃を超えると温度が高過ぎるため結晶粒が粗大化するおそれがある。溶体化処理の時間は0.5〜2時間程度とするとよい。溶体化処理の時間が0.5時間未満であると溶体化処理が十分に行われないおそれがある一方で、溶体化処理の時間が2時間を超えてもそれ以上の効果を望むことができない。
前記条件で溶体化処理を行った後は、溶体化処理した燃焼器用部材1を空冷又は水冷等により冷却するとよい。
次に行う応力除去焼鈍工程S3は、溶体化処理工程S2で溶体化処理した燃焼器用部材1に対して応力除去焼鈍を行う工程である。応力除去焼鈍を行うことで燃焼器用部材1に生じた残留応力を除去することができる。応力除去焼鈍は、例えば1000〜1100℃で行うことができる。応力除去焼鈍の温度が1000℃未満であると温度が低過ぎるため燃焼器用部材1に生じた残留応力を十分に除去することができないおそれがある。また、応力除去焼鈍の温度が1100℃を超えると再結晶温度に至ってしまうため軟化するおそれがある。応力除去焼鈍の時間は0.5〜1時間とするとよい。応力除去焼鈍の時間が0.5時間未満であると燃焼器用部材1に生じた残留応力を十分に除去することができないおそれがある一方で、応力除去焼鈍の時間が1時間を超えてもそれ以上の効果を望むことができない。
前記条件で応力除去焼鈍を行った後は、応力除去焼鈍した燃焼器用部材を空冷又は水冷等により冷却するとよい。
そして、次に行う熱処理工程S4は、応力除去焼鈍工程S3で応力除去焼鈍した燃焼器用部材1に対して1000〜1080℃の熱処理を行う工程である。この熱処理を行うことで燃焼器用部材1の表面又は組織中に炭化物を一次析出させて成長させ、その面積率を−66.7×[C]+8.47%以上、−53.3×[C]+8.53%以下という特定の範囲となるようにすることができる。析出炭化物をこのように制御すると、実機使用中の燃焼器用部材1に二次析出する炭化物の過剰析出を抑制することが可能となる。
かかる熱処理の温度が1000℃未満であると温度が低過ぎるため燃焼器用部材1の断面組織における析出炭化物の面積率を−66.7×[C]+8.47%以上とすることができない。また、熱処理の温度が1080℃を超えると温度が高過ぎるため燃焼器用部材1の断面組織における析出炭化物の面積率が−53.3×[C]+8.53%を超えてしまう。本発明において断面組織における析出炭化物の面積率が−66.7×[C]+8.47%未満となったり、−53.3×[C]+8.53%を超えたりした場合が好ましくないことは既に述べたとおりである。かかる熱処理の温度は1000〜1066℃とするのがより好ましい。
かかる熱処理の時間は3〜24時間とするとよい。熱処理の時間が3時間未満であると、熱処理の時間が少ないため燃焼器用部材1の断面組織における析出炭化物の面積率を−66.7×[C]+8.47%以上にすることが難しいため、3時間以上とすることが望ましい。また、熱処理の時間が30時間を超えると、燃焼器用部材1の断面組織における析出炭化物の面積率が−53.3×[C]+8.53%を超える可能性が高くなるため、24時間以内とすることが望ましい
なお、この熱処理は、熱処理の初期に炭化物が多く析出する。そのため析出強化による強度向上の効果を得易いが、最大強度に達した後は析出炭化物の粗大化により軟化する傾向にあるため、最大強度に達した後、熱処理を行う前の強度となるような温度及び時間となる条件を選択するようにするとよい。例えば、熱処理の温度を1080℃や1066℃といった高い値に設定する場合、熱処理の時間は5時間程度とするとよい。また、熱処理の温度を1000℃といった低い値に設定する場合、熱処理の時間は24時間程度とするとよい。熱処理後は、500℃以下まで30分以内に空冷するのが好ましい。
次に、本発明に係る燃焼器用部材及び燃焼器用部材の製造方法について、本発明の要件を満たす実施例と本発明の要件を満たさない比較例とを対比して説明する。
〔1〕Co基合金の熱処理の温度と時間の検討
Co基合金として、C:0.10質量%、Si:0.15質量%、Mn:0.79質量%、Ni:23.1質量%、Cr:21.8質量%、W:13.9質量%、及び残部:Co及び不可避不純物の組成を有する10kgの鋳塊を高周波真空溶解にて作製し、1200℃で10時間保持して均質化処理を行った後、1050℃まで加熱してから鍛造して縦30mm×横30mmの角材に成形し、これを供試材とした。かかる供試材を用いて1177℃で0.5時間保持後空冷する溶体化処理を行い、次いで1066℃で0.5時間保持後空冷する応力除去焼鈍を行った。
そして、応力除去焼鈍を行った供試材を1000℃、1025℃又は1066℃の温度で0時間(熱処理前)、3時間、6時間、12時間又は24時間保持後空冷する熱処理を行った後、硬さ(HV)を測定した。硬さ(HV)は、JIS Z 2244に規定のビッカース硬さ試験方法に準拠して測定した。その結果を図4に示す。
図4に示すように、Cの含有量が0.10質量%であるCo基合金を用いた供試材では、前記した条件の熱処理を行ったところ、熱処理開始から早期の段階、具体的には熱処理開始から3時間後に析出炭化物による析出強化によって最大硬さ(強度)に達した後、さらに熱処理を継続することで炭化物が粗大化したためか、軟化する傾向にあることが分かった。また、最大強度は熱処理の温度が上昇するのに伴って増加し、最大強度に達するまでの時間も早くなる傾向にあることが分かった。
従って、強度を低下させず、且つ析出炭化物を粗大化して面積率を大きくするために、最大強度に達した後、熱処理前(0時間)における硬さ(強度)になるような条件を採用するのがよいと考察された。
前記で得られた結果及び考察に基づいて、本願明細書で開示する範囲内となるよう予め試験を行うことで熱処理の温度及び時間を設定することができる。
〔2〕断面組織における析出炭化物の面積率と平均粒子間距離、低サイクル疲労試験及びシャルピー衝撃試験
次に、種々のC含有量のCo基合金を用いた供試材について、断面組織における析出炭化物の面積率と平均粒子間距離の測定と、耐熱疲労性を評価するための低サイクル疲労試験、及び延性を評価するためのシャルピー衝撃試験を行った。
まず、下記表1のNo.1〜に示す成分組成(質量%)を有するCo基合金を高周波真空溶解炉にて10kg溶解して鋳塊を作製し、1200℃で10時間保持して均質化処理を行った後、1050℃まで加熱してから鍛造して縦30mm×横30mmの角材に成形した。
Figure 0005674340
No.1〜のCo基合金で製造した角材をそれぞれ1177℃で0.5時間保持後、500℃以下まで30分以内で空冷する溶体化処理を行った後、1066℃で0.5時間保持後、500℃以下まで30分以内で空冷する応力除去焼鈍を行った。そして、No.1〜のCo基合金で製造した各角材を下記表2の対応するナンバーで示される条件の熱処理を行った。なお、下記表2において「−」は熱処理を行っていないことを示す。
Figure 0005674340
前記表2に示す条件の熱処理を行った後、断面を#200〜#1500のエメリー紙で研磨した後、1μmのダイヤモンドペーストで鏡面研磨仕上げを行った。さらに王水またはエレクトロライトBの腐食液を用いてエッチングを行った後、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて5000倍の倍率で断面組織を撮影し、撮影した画像を画像解析ソフトであるImagePro-Plusを用いて解析することで断面組織における析出炭化物の面積率や平均粒径を測定するとともに、下記式(1)により断面組織における析出炭化物の平均粒子間距離(λ)を算出した。
λ=0.41d((π/F)1/2−2)・・・式(1)
(但し、前記式(1)において、dは析出炭化物の平均粒径であり、Fは析出炭化物の面積率である。)
また、前記表2に示す条件の熱処理を行った後に、各供試材から低サイクル疲労試験片(平行部直径3mm)及びシャルピー衝撃試験片(2mmVノッチ)をそれぞれ作製した。
低サイクル疲労試験は、作製した低サイクル疲労試験片を用いてJIS Z 2279に規定の金属材料の高温低サイクル疲労試験方法に準拠して行った。
また、シャルピー衝撃試験は、作製したシャルピー衝撃試験片を用いてJIS Z 2242に規定の金属材料衝撃試験方法に準拠して行った。
なお、低サイクル疲労試験及びシャルピー衝撃試験は、750℃で1000時間保持した材料についても測定した。
断面組織における析出炭化物の面積率[%]と平均粒子間距離[μm]、低サイクル疲労試験及びシャルピー衝撃試験の結果、得られた破断繰り返し数[N]及びシャルピー吸収エネルギー[J]を下記表3に示す。なお、初期材とは、表2に示す熱処理を行って作製した材料であり、時効材とは、750℃で1000時間保持した材料を表す。
Figure 0005674340
表3に示すように、熱処理を行ったNo.2,3いずれも実施例)の低サイクル疲労試験の結果は熱処理を行わなかったNo.1,4(実施例および比較例)と比較していずれも著しく向上し、700℃で1000時間保持後の結果においても、耐疲労性が著しく向上することが分かった。また、熱処理を行ったNo.2,のシャルピー衝撃試験の結果は、初期材では表2の熱処理によって炭化物が析出したため減少しているが、700℃で1000時間保持後には、いずれも比較例よりも向上することが分かった。
すなわち、脆化を緩やかにすることにより、耐熱疲労性及び延性を劣化し難くすることが可能となることが分かった。
そして、これらNo.2,の断面組織における析出炭化物の面積率は、Cの含有量(質量%)を[C]として、−66.7×[C]+8.47%以上、−53.3×[C]+8.53%以下の範囲にあり、平均粒子間距離は、Cの含有量(質量%)を[C]として、20×[C]+1.3μm以上、50×[C]−0.4μm未満の範囲にあったことから、これらを前記した範囲内となるようにすることで前記した効果を得ることができることが分かった。
1 燃焼器用部材
1a 保炎リング
2,3 燃焼室
3w 燃焼室壁
4 予混合器
5 空気流入口
6,7 燃料供給管
8 燃料ノズル
9 支持板材
10 燃焼器
10a ガスタービン燃焼装置
S1 成形工程
S2 溶体化処理工程
S3 応力除去焼鈍工程
S4 熱処理工程

Claims (4)

  1. C:0.07〜0.10質量%、Si:0.01〜1質量%、Mn:0.5〜2質量%、Ni:20〜25質量%、Cr:20〜25質量%、W:10〜20質量%、及び残部がCo及び不可避不純物からなるCo基合金を用いて製造した燃焼器用部材であって、
    断面組織における析出炭化物の面積率が、前記Cの含有量(質量%)を[C]として、−66.7×[C]+8.47%以上、−53.3×[C]+8.53%以下であることを特徴とする燃焼器用部材。
  2. 前記断面組織における析出炭化物の平均粒子間距離が、前記Cの含有量(質量%)を[C]として、20×[C]+1.3μm以上、50×[C]−0.4μm未満であることを特徴とする請求項1に記載の燃焼器用部材。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の燃焼器用部材の製造方法であって、
    C:0.07〜0.10質量%、Si:0.01〜1質量%、Mn:0.5〜2質量%、Ni:20〜25質量%、Cr:20〜25質量%、W:10〜20質量%、及び残部がCo及び不可避不純物からなるCo基合金を用いて燃焼器用部材を所定の形状に成形する成形工程と、
    前記成形した燃焼器用部材に対して溶体化処理を行う溶体化処理工程と、
    前記溶体化処理した燃焼器用部材に対して応力除去焼鈍を行う応力除去焼鈍工程と、を含み、さらに、
    前記応力除去焼鈍した燃焼器用部材に対して1000〜1080℃、3〜24時間の熱処理を行う熱処理工程を含むことを特徴とする燃焼器用部材の製造方法。
  4. 可燃ガスを燃焼して得られる高温の燃焼ガスと接触する部分に燃焼器用部材を使用した燃焼器であって、
    前記燃焼器用部材が請求項1又は請求項2に記載の燃焼器用部材であることを特徴とする燃焼器。
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