以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、この実施の形態の構成要素には、発明の同一性を維持しつつ置換可能かつ置換自明なものが含まれる。また、この実施の形態に記載された複数の変形例は、当業者自明の範囲内にて任意に組み合わせが可能である。
[原子力プラントの蒸気発生器]
原子力プラント100には、例えば、加圧水型軽水炉原子力発電設備がある(図48参照)。この原子力プラント100では、原子炉容器110、加圧器120、蒸気発生器130およびポンプ140が一次冷却材管150により順に連結されて、一次冷却材の循環経路(一次系循環経路)が構成される。また、蒸気発生器130とタービン(図示省略)との間に二次冷却材の循環経路(二次系循環経路)が構成される。
この原子力プラント100では、一次冷却材が原子炉容器110にて加熱されて高温・高圧となり、加圧器120にて加圧されて圧力を一定に維持されつつ、一次冷却材管150を介して蒸気発生器130に供給される。蒸気発生器130では、一次冷却材が入口側水室131に流入し、この入口側水室131からU字状かつ複数本の伝熱管132に供給される。そして、伝熱管132にて一次冷却材と二次冷却材との熱交換が行われることにより、二次冷却材が蒸発して蒸気となる。そして、この蒸気となった二次冷却材がタービンに供給されることにより、タービンが駆動されて動力が発生する。なお、伝熱管132を通過した一次冷却材は、出口側水室133から一次冷却材管150を介してポンプ140側に回収される。
ここで、蒸気発生器130では、入口側水室131に入口管台135が設けられ、この入口管台135に入口側の一次冷却材管150が溶接されて接続される(図49参照)。また、出口側水室133に出口管台136が設けられ、この出口管台136に出口側の一次冷却材管150が溶接されて接続される。また、入口側水室131と出口側水室133とが仕切板134を介して仕切られる。また、蒸気発生器130の内部には、管板137が設置される。この管板137は、伝熱管132の下端部を支持し、また、蒸気発生器130の上部と水室131、133とを区画して水室131、133の天井部を構成する。また、入口側水室131および出口側水室133には、作業員が水室131、133内に出入りするためのマンホール138が設けられる(図50参照)。
[水室内作業装置]
図1は、この発明の実施の形態にかかる水室内作業装置の設置状態を示す斜視図である。図2は、図1に記載した水室内作業装置を示す斜視図である。図3は、図1に記載した水室内作業装置のベースおよび連結リンクの組立体を示す説明図である。
この水室内作業装置1は、蒸気発生器130の水室131、133に搬入されて設置され、遠隔操作されて水室内作業を行う装置である(図1参照)。水室内作業装置1は、ベース2と、連結リンク3と、マニピュレータ4と、ツール5とを備える(図2参照)。
ベース2は、水室内作業装置1を水室131、133の管板面137aから吊り下げるための部品であり、ベース本体21と、一対のウイング22a、22bと、複数のクランパ23a、23bとを有する。ベース本体21は、枠型形状のケーシングである。一対のウイング22a、22bは、ベース本体21に挿入されて設置される。これらのウイング22a、22bは、例えば、伸縮式のはしご機構により駆動されて、ベース本体21の設置位置に対してスライド変位できる(図3参照)。また、一対のウイング22a、22bは、相互に異なる方向にスライド変位できる。また、一対のウイング22a、22bは、相互に独立して駆動される。クランパ23a、23bは、伝熱管132をクランプするクランプ機構を有する。このクランプ機構には、例えば、爪状の先端部を伝熱管に挿入して爪先を拡幅させることにより先端部を伝熱管の内周面に摩擦接触させて伝熱管をクランプする構成が採用され得る。
例えば、この実施の形態では、ベース本体21が略立方形状の枠状部材から成り、このベース本体21に伸縮機構を有する一対のウイング22a、22bがそれぞれ挿入されて設置されている(図2および図3参照)。また、各ウイング22a、22bが、その伸縮機構を駆動させることにより、その端部をベース本体21の幅方向(設置状態にて管板面137aの平面方向)にスライド変位させ得る。また、一対のウイング22a、22bが、相互に直交する方向にスライド変位できるように配置されている。また、ウイング22a(22b)の端部には、複数を一組としたクランパ23a(23b)が伝熱管132の設置間隔に合わせて一列に揃えられて配置されている。また、この一組のクランパ23a(23b)がウイング22a(22b)の前後にそれぞれ配置されている。これにより、ベース2が管板面137aに設置された状態にて、ベース2の前後左右にそれぞれクランパ23a(23b)が配置され、また、ウイング22a(22b)が伸縮して端部をスライド変位させることにより、これらのクランパ23a(23b)が管板面137aの平面方向にスライド変位できる。
連結リンク3は、ベース2とマニピュレータ4とを連結するための部品である。この連結リンク3は、ベース2のベース本体21に対してベース2の高さ方向を回転軸lとして回転可能に連結される。また、連結リンク3は、その回転軸lに対して傾斜する取付面31を有する。そして、この取付面31には、マニピュレータ4が連結される。
マニピュレータ4は、多軸マニピュレータである。このマニピュレータ4は、その基本姿勢(直立状態)の基準軸mを連結リンク3の回転軸lに対して所定の傾斜角θにて傾斜させて、連結リンク3に連結される。また、マニピュレータ4は、前段部41および後段部42に分割できる構造を有する。例えば、この実施の形態では、7軸マニピュレータが採用されており、マニピュレータ4の先端側の4軸と後段側の3軸とが前段部41および後段部42として分割可能に構成されている(図14および図15参照)。また、前段部41と後段部42とが差込式のクランプ機構によりワンタッチで着脱できる接続構造を有している。具体的には、前段部41のロッドが後段部42の連結孔に挿入され、エアシリンダ(図示要略)により前段部41が爪を開いて後段部42にクランプする。これにより、前段部41と後段部42との連結を、遠隔操作により簡易に行い得る。
ツール5は、所定の水室内作業に対応したツールであり、マニピュレータ4の先端部に取り付けられる。このツール5は、例えば、水室内の保全作業に用いられる保全作業ツールであり、検査ツール、切削ツール、溶接ツールなどにより構成される。具体的には、入口管台135や出口管台136、伝熱管132、仕切板134と管板137との溶接部、仕切板134と水室鏡部との溶接部などを検査あるいは補修するためのツール5が用意されている。なお、この実施の形態では、多様な水室内作業に対応して複数種類のツール5が準備されている。そして、これらのツール5を交換できるように、ツール5がマニピュレータ4に対して着脱可能な構造を有している。
[水室内作業装置による水室内作業]
水室内作業時には、水室内作業装置1が水室131、133内にて管板面137aから懸垂状態で吊り下げられて設置される(図1参照)。この設置状態では、ベース2のクランパ23a、23bが伝熱管132をクランプ保持することにより、ベース2が管板面137aに固定される。また、マニピュレータ4がベース2に対して連結リンク3を介して連結される。したがって、設置状態では、マニピュレータ4が水室131、133の天井(管板面137a)から吊り下げられて保持される。そして、このマニピュレータ4の先端部に、水室内作業に対応したツール5が取り付けられる。なお、水室内作業装置1の設置工程については、後述する。
ここで、水室内作業は、水室131、133外部の安全領域から作業員が水室内作業装置1を遠隔操作することにより行われる。これにより、水室131、133内に作業員が立ち入ることなく水室内作業が行われる。
また、水室内作業装置1の設置状態では、マニピュレータ4が水室131、133の天井から吊り下げられた状態にある(図1参照)。したがって、マニピュレータ4を旋回させてその姿勢を変化させることにより、ベース2を起点とした広範囲での水室内作業が実現される(図4および図5参照)。具体的には、水室内作業装置1がベース2を起点として管板面137aから吊り下げられて設置される。そして、遠隔操作により連結リンク3が駆動されると、マニピュレータ4が連結リンク3の回転軸l周りに旋回して、その向きを水室131、133の周方向に変化させ得る。さらに、マニピュレータ4自身が姿勢を変化させることにより先端部のツール5を水室131、133の任意の位置まで移動させ得る。これにより、水室131、133内の隅々までツール5を移動させ得るので、多様な水室内作業に柔軟に対応できる。例えば、図4は、仕切板134と管板137との溶接部の点検作業の様子を示しており、図5は、伝熱管132の点検作業の様子を示している。これらの図に示すように、ベース2が定位置に固定されている場合であっても、マニピュレータ4を旋回させて屈曲変形させることにより、水室131、133の隅々までツール5を移動させ得ることが分かる。
また、蒸気発生器130では、水室131、133の床面が半球状を有するので、この床面上に水室内作業装置を設置することは、容易でない。この点において、この水室内作業装置1は、水室131、133の天井(管板面137a)から吊り下げられて設置されるので(図1参照)、床面での設置作業が不要な点で好ましい。例えば、マニピュレータが支柱状の旋回支持部に支持されて水室内に設置される構成(特許文献1参照)では、作業員が水室内に立ち入って旋回支持部を設置する必要があるため、好ましくない。
また、この水室内作業装置1では、その設置状態にて、連結リンク3がその回転軸lを管板面137aから下方に向けてベース2に連結される(図2および図3参照)。このため、マニピュレータ4が、ベース2を起点として吊り下げられた状態にて、管板面137aの法線方向を回転軸lとして旋回できる(図4および図5参照)。したがって、水室131、133が管板面137aを天井とした1/4球状の室内形状を有するときに、マニピュレータ4の向きを水室131、133の周方向に旋回させ得る。これにより、水室131、133の隅々までツール5を移動させ得るので、水室内作業の作業性が向上する。なお、この実施の形態では、連結リンク3がその回転軸lを管板面137aの法線方向に向けて設置されている(図2および図3参照)。しかし、これに限らず、連結リンク3は、その回転軸lを管板面137aの法線方向から下方に向けていればよく、例えば、回転軸lを管板面137aの法線方向に対して所定角度で傾斜させて配置されても良い。
また、この水室内作業装置1では、その設置状態にて、マニピュレータ4が基本姿勢の基準軸mを連結リンク3の回転軸lに対して所定の傾斜角θにて傾斜させて連結リンク3に連結される(図2および図3参照)。かかる構成では、マニピュレータ4が、ベース2を起点として吊り下げられた状態にて、その基本姿勢の基準軸mを管板面137aの法線方向に対して傾斜させる。したがって、水室131、133が管板面137aを天井とした1/4球状の室内形状を有するときに、マニピュレータ4の向きを水室131、133の床面および壁面の双方に対して容易に変化させ得る。これにより、水室131、133の隅々までツール5を移動させ得るので、水室内作業の作業性が向上する。
また、この水室内作業装置1は、ベース2が管板面137a上を移動することにより、水室131、133内を所定の範囲内で移動できる(図6参照)。具体的には、ベース2が伝熱管132に対するクランプ位置を移動させて管板面137a上を移動することにより、マニピュレータ4の起点となる位置(ベース2の固定位置)を管板面137aにて移動させ得る。これにより、水室131、133内の異なる位置を起点として水室内作業を行い得るので、水室内作業の作業領域が拡大されて水室内作業の作業性が向上する。
特に、蒸気発生器130では、水室131、133の床面が半球状を有するので、この床面上にて水室内作業装置を移動させることは、容易でない。この点において、この水室内作業装置1は、水室131、133の管板面137aから吊り下げられることにより、平坦な管板面137a上に設置される。これにより、水室131、133内における水室内作業装置1の移動が容易となる。
なお、水室内作業装置1(ベース2)の移動は、例えば、次のように行われる。水室内作業時には、ベース2が双方のクランパ23a、23bの先端部を伝熱管132に挿入して伝熱管132をクランプ保持することにより定位置に固定されている。そして、水室内作業装置1の移動時には、まず、一方のクランパ23a(23b)が伝熱管132をクランプ保持しつつ、他方のクランパ23b(23a)が伝熱管132から引き抜かれて伝熱管132に対するクランプ保持を解除する。次に、ウイング22b(22a)が伸びて(あるいは縮んで)先端をスライド変位させることにより、この他方のクランパ23b(23a)が管板面137aに沿って移動する。次に、この他方のクランパ23b(23a)が先端部を再び伝熱管132に挿入して伝熱管132をクランプ保持する。これにより、他方のクランパ23b(23a)のクランプ位置が移動する。次に、この他方のクランパ23b(23a)が伝熱管132をクランプ保持した状態のまま、一方のクランパ23a(23b)が同様にしてクランプ位置を移動させる。そして、双方のクランパ23a、23bが交互にクランプ位置を移動させることにより、ベース2が管板面137a上を歩行して移動できる。
また、ツール5を交換するときは、水室内作業装置1が水室131、133内に設置された状態のまま、マニピュレータ4が遠隔操作されて先端部を水室131、133のマンホール138から水室131、133の外部に突出させる(図1参照)。そして、この状態にて、マニピュレータ4の先端部に取り付けられたツール5が交換される。したがって、水室131、133内に水室内作業装置1を設置したまま、水室131、133外にてツール5の交換作業を行い得る。これにより、ツール5の交換作業が容易化される。
[水室内作業装置の設置工程]
図7〜図15は、図1に記載した水室内作業装置の設置工程を示すフローチャート(図7)および説明図(図8〜図15)である。水室内作業装置の設置工程では、以下のように、水室内作業装置1が水室131、133内に搬入されて設置される。ここでは、水室内作業装置1が入口側水室131に設置される場合について説明する。
まず、竿状の治具10がマンホール138から水室131内に挿入され、この治具10が用いられて、管板面137aにベース搬入取付治具11が設置される(ステップST1)(図8参照)。このベース搬入取付治具11は、ベース2を管板面137aに取り付けるための治具であり、伝熱管132に挿入されて管板面137aに固定される。このベース搬入取付治具11には、ベース2を吊り上げるためのワイヤ12が係留される(図9参照)。
次に、ベース2および連結リンク3が水室131内に搬入されて管板面137aに設置される(ベース設置ステップST2)(図10参照)。このとき、ベース2および連結リンク3があらかじめ連結されて水室131内に搬入される。また、ベース2が、ウインチ24を搭載しており(図11参照)、このウインチ24でワイヤ12を巻き取ることによりマンホール138から水室131内の管板面137aまで吊り上げられる。これにより、重量のあるベース2を水室131の管板面137aまで容易に引き上げ得る。そして、ベース2が、クランパ23a、23bの先端部を伝熱管132に挿入して伝熱管132をクランプ保持することにより、管板面137aに固定される(図3参照)。このとき、作業員が竿状の治具10を用いてベース2を下方から押し上げ、あるいは、他のロープ(図示省略)を用いて引き上げることにより、ベース2が管板面137aまで上手く吊り上げられるように操作する。
次に、ベース2の下部に取付治具13が設置される(ステップST3)(図12参照)。この取付治具13は、円弧状に湾曲した長尺な板状部材から成り、マニピュレータ4を連結リンク3に連結するための治具として用いられる。取付治具13は、上端部にてベース2の下部に取り付けられ、下端部にてマンホール138の入口に固定される。これにより、取付治具13がベース2の下部からマンホール138の入口に渡されて、滑り台状のガイドが形成される。
次に、マニピュレータ4の後段部42が連結リンク3に連結される(ステップST4)(図13参照)。このとき、竿状の治具14が後段部42に差し込まれて取り付けられる。そして、後段部42が取付治具13に乗せられてガイドされながら治具14で押し上げられて連結リンク3に連結される。これにより、重量のある後段部42をマンホール138から管板面137a上のベース2まで容易に搬送できる。また、滑り台状の取付治具13により、後段部42を水室131内の連結リンク3まで容易にガイドできる。なお、治具14は、後段部42と連結リンク3との連結後に、後段部42から取り外される(図14参照)。
次に、マニピュレータ4の前段部41がマニピュレータ4の後段部42に連結され、この前段部41にツール5が取り付けられる(ステップST5)(図15参照)。このとき、前段部41が取付治具13に乗せられてガイドされながら押し上げられて後段部42に連結される。これにより、重量のある前段部41をマンホール138から後段部42まで容易に搬送できる。また、滑り台状の取付治具13により、前段部41の上端部を後段部42の下端部まで容易にガイドできる。なお、この作業は、作業員が水室131の外部からマンホール138越しに行う。
その後に、取付治具13が連結リンク3から取り外されて撤去される(ステップST6)(図1参照)。これにより、水室内作業装置の設置工程が終了する。
[ベースの具体例]
図16は、図1に記載した水室内作業装置のベースの実施例を示す斜視図である。同図は、ベース2および連結リンク3の組立体を示しており、また、ベース2がウイング22a、22bを開いた状態を示している。図17〜図19は、図16に記載したベースを示す正面図(図17)、平面図(図18)および右側面図(図19)である。これらの図は、ベース2が管板面137aにて伝熱管132をクランプしている状態を示している。図20および図21は、図16に記載したベースを示す斜視図(図20)および右側面図(図21)である。同図は、ベース2がウイング22a、22bを閉じた状態を示している。
この実施例では、ベース本体21が略立方形状の枠状部材により構成されている(図16〜図21参照)。また、ベース2が、一対のウイング22a、22a;22b、22bを一組として、二組のウイング22a、22a、22b、22bを有している。また、これらのウイング22a、22bがベース本体21の四方の側面からそれぞれ挿入されて配置されている。また、これらのウイング22a、22bが、ベース本体21の側面から相互に独立して突出および収納できるように、ベース本体21に対してスライド可能(進退可能)に配置されている。また、ウイング22a、22bが、ベース本体21に収納されたアクチュエータにより相互に独立して駆動される。かかる構成では、ベース2がウイング22a、22bを開くときには、ウイング22a、22bがベース本体21の側面からスライド変位して突出する。また、ベース2がウイング22a、22bを閉じるときには、ウイング22a、22bがベース本体21に収納される。
また、これらのウイング22a、22bには、3つを一組とするクランパ23a;23bが伝熱管132の設置間隔に合わせて一列に揃えられて配置されている(図16〜図21参照)。また、クランパ23a、23bが、クランプ機構231と、グリップシリンダ機構232と、メインシリンダ機構233とを有している(図示省略。図22〜図31参照。)。
クランプ機構231は、クランパ23a、23bの先端部に配置され、伝熱管132に挿入されて拡径および縮径することにより、伝熱管132をクランプおよびクランプ解除する機構である。具体的には、クランプ機構231がテーパロッドおよびコッタから成る。そして、テーパロッドがコッタに嵌め合わされてコッタが開くことにより、クランプ機構231が拡径して伝熱管132をクランプする(クランプ状態ON)。また、テーパロッドがコッタから引き抜かれることにより、クランプ機構231が縮径して伝熱管132のクランプを解除する(クランプ状態OFF)。
グリップシリンダ機構232は、クランプ機構231のテーパロッドを駆動してクランプ機構231のクランプ状態のON/OFF(拡径および縮径)を切り替える機構である。具体的には、グリップシリンダ機構232が、クランプ機構231のテーパロッドをピストンとするシリンダから成る。そして、クランプ機構231が伝熱管132に挿入された状態にて、グリップシリンダ機構232がクランプ機構231のテーパロッドを伝熱管132側から引き込むと、クランプ機構231がクランプ状態ONとなる。また、グリップシリンダ機構232がクランプ機構231のテーパロッドを伝熱管132側に押し込むと、クランプ機構231がクランプ状態OFFとなる。
メインシリンダ機構233は、グリップシリンダ機構232を進退変位させてクランプ機構231を伝熱管132に挿入退出させる機構である。具体的には、ベース2が管板面137aに設置された状態にて、メインシリンダ機構233がグリップシリンダ機構232を押し上げることにより、グリップシリンダ機構232が管板面137aに当接して、クランプ機構231が伝熱管132に挿入される。また、メインシリンダ機構233がグリップシリンダ機構232を引き下げることにより、グリップシリンダ機構232が管板面137aから離隔して、クランプ機構231が伝熱管132から引き抜かれる。
[ベースの歩行ロジック]
図22〜図31は、ベースの歩行ロジックを示す説明図である。これらの図は、ベース2が管板面137aを歩行するときのウイング22a、22bおよびクランパ23a、23bの基本動作の実施例を示している。なお、ベース2の歩行ロジックは、この実施例に限定されない。
この実施例では、ベース2は、相互に直交するウイング22a、22bを交互にスライド変位させつつ、伝熱管132に対するクランパ23a、23bのクランプ位置を順次移動させることにより、管板面137aに沿って移動する。また、対向する一対のウイング22a、22a;22b、22bが同時に駆動される。ここでは、ベース2が図中の左方向から右方向に移動する場合について説明する(図22〜図31参照)。
ベース2の停止状態では、ベース2がすべてのクランパ23a、23bの先端部を伝熱管132に挿入して伝熱管132をクランプしている(図19、図21および図23参照)。このとき、各クランパ23a、23bでは、メインシリンダ機構233がグリップシリンダ機構232を押し上げ、グリップシリンダ機構232がクランプ機構231のテーパロッドを伝熱管132側から引き込むことにより、クランプ機構231のクランプ状態がONとなっている(図22参照)。この状態では、ベース2が管板面137aにしっかりと固定された状態にある。
ベース2の移動時には、まず、ベース2の移動方向にスライド変位できるウイング22bのクランパ23bにて、グリップシリンダ機構232がクランプ機構231のテーパロッドを伝熱管132側に押し込む(図23参照)。すると、クランプ機構231のクランプ状態がOFFとなる。次に、このクランパ23bにて、メインシリンダ機構233がグリップシリンダ機構232を引き下げる(図24参照)。この状態では、ベース本体21が残りのウイング22a(図示省略)のクランパ23a(クランプ状態ON)により支持されている。そして、このクランプ状態OFFとなったクランパ23bを有するウイング22bがベース2の移動方向にスライド変位する(図25参照)。
次に、この移動したクランパ23bにて、メインシリンダ機構233がグリップシリンダ機構232を押し上げて管板面137aに当接させる(図26参照)。そして、グリップシリンダ機構232がクランプ機構231のテーパロッドを伝熱管132側から引き込むことにより、クランプ機構231のクランプ状態がONとなる(図27参照)。これにより、すべてのクランパ23a、23bのクランプ状態がONとなる。
次に、ベース2の移動方向に直交する方向のウイング22a(図示省略)のクランパ23aにて、グリップシリンダ機構232がクランプ機構231のテーパロッドを伝熱管132側に押し込む(図28参照)。すると、クランプ機構231のクランプ状態がOFFとなる。次に、このクランパ23aにて、メインシリンダ機構233がグリップシリンダ機構232を引き下げる(図29参照)。この状態では、ベース本体21が移動方向のウイング22bのクランパ23bにより支持されている。
次に、ベース本体21とクランプ状態OFFとなったウイング22a(図示省略)とが、ベース2の移動方向にスライド変位する(図30参照)。具体的には、クランプ状態ONのウイング22bが駆動されてベース2の移動方向の逆側に向かってスライド変位することにより、ベース本体21とウイング22a(図示省略)とがクランプ状態ONのウイング22bに対して相対的に変位する。これにより、ベース2が管板面137aに対して移動する(図30参照)。
次に、このベース本体21と共に移動したクランパ23aにて、メインシリンダ機構233がグリップシリンダ機構232を押し上げて管板面137aに当接させる(図31参照)。そして、グリップシリンダ機構232がクランプ機構231のテーパロッドを伝熱管132側から引き込むことにより、クランプ機構231のクランプ状態がONとなる(図22に戻り参照)。これにより、すべてのクランパ23a、23bのクランプ状態がONとなり、ベース2が最初の停止状態に戻る。
そして、ベース2が、上記の動作を繰り返し行うことにより、管板面137aに沿って任意の距離を移動できる。また、ベース2が一対のウイング22a、22bを有すると共に、これらのウイング22a、22bの進退方向が交差(この実施例では直交)することにより、ベース2が管板面137a上の任意の位置にスライドして移動できる(図3参照)。具体的には、ベース2が、上記の歩行ロジック(図22〜図31)により一方のウイング22a(22b)の進退方向にスライド歩行し、その移動方向を他方のウイング22b(22a)の進退方向に変更してスライド歩行することにより、管板面137a上の任意の位置に移動できる。
[水室内作業装置の搬入工程の具体例1]
水室内作業装置1の搬入工程(図7参照)では、ベース設置ステップST2(図7および図10〜図12参照)にて、ベース2(ベース2および連結リンク3の組立体)がすべてのウイング22a、22bを閉じた状態(図20参照)で水室131に搬入されることが好ましい。すると、ベース2がウイング22a、22bを開いた状態(図16参照)で搬入される構成と比較して、組立体2、3がコンパクト化されるので、水室131への搬入作業および管板面137aへの設置作業が容易化される。
また、マニピュレータ4の後段部42、前段部41およびツール5の取付作業時(ステップST4、ST5)(図7、図14および図15参照)では、ベース2がすべてのウイング22a、22bを開いて管板面137aに設置された状態(図17〜図19参照)とすることが好ましい。特に、マニピュレータ4の前段部41およびツール5の取付作業時には、マニピュレータ4の重量がベース2のクランパ23a、23bに作用する。したがって、この取付作業時にて、ベース2がすべてのウイング22a、22bを開いた状態とすることにより、ベース2に作用するモーメントを低減できる。これにより、マニピュレータ4の取付作業時におけるベース2のクランプ外れが防止される。
同様に、ツール5の交換作業時にも、ベース2がすべてのウイング22a、22bを開いて管板面137aに設置された状態(図17〜図19参照)とすることが好ましい。これにより、ベース2に作用するモーメントを低減できるので、ツール5の交換作業時におけるベース2のクランプ外れが防止される。
さらに、ツール5の取付作業時(ステップST5)および交換作業時には、マニピュレータ4の通電を解除した状態とすることが好ましい。すなわち、マニピュレータ4の間接部を外力に対してフリーにした状態で、ツール5の取付作業および交換作業が行われることが好ましい。これにより、ベース2に作用するモーメントを低減できるので、ツール5の取付作業時および交換作業時におけるベース2のクランプ外れが防止される。
また、水室内作業時(図5参照)には、ベース2がすべてのウイング22a、22bを開いて管板面137aに設置された状態(図17〜図19参照)とすることが好ましい。これにより、ベース2に作用するモーメントを低減できるので、水室内作業時におけるベース2のクランプ外れが防止される。
さらに、水室内作業装置1の移動時(図6参照)には、ベース2のクランプ状態が一方向のウイング22a;22bにてOFFとなる。このとき、マニピュレータ4の重心がベース本体21に対して鉛直方向真下にあることが好ましい(図示省略)。例えば、水室内作業装置1の移動時には、まず、ベース2がすべてのウイング22a、22bを開いて管板面137aに設置された状態(図17〜図19参照)にて、マニピュレータ4の重心がベース本体21に対して鉛直方向真下となるように、マニピュレータ4が前段部41を折り畳む(図示省略)。そして、この状態にて、ベース2が管板面137aを移動する。これにより、ベース2に作用するモーメントを低減できるので、水室内作業装置1の移動時におけるベース2のクランプ外れが防止される。
[ベース搬入取付治具の変形例]
この実施の形態では、ベース搬入取付治具11を水室131の管板面137aに設置し(ステップST1)、このベース搬入取付治具11に係留したワイヤ12でベース2を吊り上げて水室131に搬入している(ステップST2)。このとき、ワイヤ12を巻き取るウインチ24がベース2に搭載されている(図11参照)。
しかし、これに限らず、ウインチ24を管板面137a側のベース搬入取付治具11に搭載し、ベース2に係留したワイヤ12でベース2を吊り上げて水室131に搬入しても良い。かかる構成では、ベース2側のウインチ24を省略して水室内作業装置1を軽量化できるので、好ましい。
図32〜図36は、かかるベース搬入取付治具の変形例を示す正面図(図32)、側面図(図33)、底面図(図34)、A−A視断面図(図35)および平面図(図36)である。これらの図では、ベース搬入取付治具11を水室131の管板面137aに設置した状態にて、管板面137a側を上と呼び、水室131の床面側を下と呼ぶ。
この変形例にかかるベース搬入取付治具11は、治具本体111と、一対のクランプ機構112、112と、一対のガイドピン113、113と、ウインチ114とを有する(図32〜図36参照)。
治具本体111は、ベース搬入取付治具11の本体を構成する板状部材である。ベース搬入取付治具11の設置状態では、治具本体111がその上面を水室131の管板面137aに向けて配置される。
一対のクランプ機構112、112は、ベース搬入取付治具11の設置状態にて、治具本体111を水室131の管板面137aに固定するための機構である。このクランプ機構112は、クランプ部1121と、操作部1122とから成る。
クランプ部1121は、ゴム製の外表面を有するロッド状部材から成り、治具本体111の上面から上方に突出して配置される。このクランプ部1121は、伝熱管132に挿入されて拡径することにより、伝熱管132の内周面に摩擦接触して伝熱管132をクランプする。具体的には、クランプ部1121が鍔付きのロッドをゴム管に挿入して成る構造を有する(図32参照)。そして、ロッドが軸方向に進出した状態では、ゴム管が縮径して伝熱管132のクランプを解除する(クランプOFF状態)。この状態から、ロッドが軸方向に引っ張られて後退すると、ゴム管がロッドの鍔に挟み込まれて拡径して伝熱管132をクランプする(クランプON状態)。そして、ロッドが進退することにより、伝熱管132のクランプON/OFFが切り替えられる。
操作部1122は、クランプ部1121のクランプ状態をON/OFF操作するための機構であり、治具本体111の下面側に配置される。この実施の形態では、レバー式の操作部1122が採用されている。この操作部1122が降りた状態(図32の実線部参照)では、クランプ部1121のロッドが軸方向に進出してゴム管が縮径し、クランプ機構112がクランプOFF状態となる。一方、操作部1122が上がった状態(図32の破線部参照)では、クランプ部1121のロッドが軸方向に後退してゴム管が拡径し、クランプ機構112がクランプON状態となる。なお、操作部1122は、フック形状の先端部および先端部に取り付けられたリングを有する。先端部のフック形状は、治具(図示省略)を操作部1122の先端に引っ掛けて操作部1122を押し上げるために用いられ、先端部のリングは、治具をリングに引っかけて操作部1122を引き下ろすために用いられる。
一対のガイドピン113、113は、ベース搬入取付治具11の設置時にて、クランプ機構112のクランプ部1121を管板面137aの伝熱管132にガイドするためのピンである。これらのガイドピン113、113は、治具本体111の上面から上方に突出して配置される。
ウインチ114は、ベース2を吊り上げるためのワイヤ12を巻き取りおよび巻き出しする機構である。このウインチ114は、ワイヤ12を巻き付けるドラムリール1141と、このドラムリール1141を駆動するモータ1142とから成り、治具本体111の下面に配置される。このウインチ114は、モータ1142を駆動してドラムリール1141を回転させることにより、ワイヤ12の巻き出しおよび巻き取りを行い得る。また、ドラムリール1141の回転方向および回転角度を制御することにより、ワイヤ12の巻き出しモードおよび巻き取りモードの切り替え、ならびに、ワイヤ12の巻き出し量および巻き取り量を制御できる。なお、ウインチ114のモータ1142は、水室131外部にある制御ユニット(図示省略)に接続されて遠隔操作により駆動制御される。また、モータ1142は、水室131外部の電源(図示省略)に接続されて電力供給を受ける。
このベース搬入取付治具11の設置時(ステップST1)には、作業員が竿状の治具10を用いてベース搬入取付治具11を保持し、マンホール138から水室131内に搬入する(図7および図8参照)。次に、ガイドピン113を管板面137aの伝熱管132に挿入し、このガイドピン113によりクランプ機構112のクランプ部1121をガイドして伝熱管132に挿入する。次に、治具本体111を水室131の管板面137aに押圧して保持しつつ、他の竿状の治具(図示省略)を用いてクランプ機構112の操作部1122を押し上げる。これにより、クランプ部1121が伝熱管132にクランプして、ベース搬入取付治具11が水室131の管板面137aに固定される。
一方、ベース搬入取付治具11の撤去時(ステップST6)には、作業員が竿状の治具10を用いてベース搬入取付治具11を管板面137a上に保持する(図示省略)。次に、他の竿状の治具(図示省略)を用いてクランプ機構112の操作部1122を引き下げる。すると、クランプ部1121のクランプ状態がOFFとなる。その後に、ベース搬入取付治具11を治具10で保持しつつ管板面137aから降ろして、マンホール138から水室131の外部に搬出する。
[水室内作業装置の搬入工程の具体例2]
図37〜図41は、図1に記載した水室内作業装置の搬入工程の具体例を示す説明図である。ここでは、ベース設置ステップST2(図7参照)において、図32に記載したベース搬入取付治具11を用い、図16に記載したベース2および連結リンク3の組立体をワイヤ12で吊り上げて水室131の管板面137aに設置する場合について説明する。したがって、ウインチ114がベース搬入取付治具11に搭載されており(図32および図34参照)、このウインチ114によりワイヤ12の巻き取りが行われる。
水室内作業装置の搬入工程では、ベース設置ステップST2に先立って、一対のベース搬入取付治具11、11が所定間隔を隔てて水室131の管板面137aに設置される(ステップST1)(図7および図37参照)。
ベース設置ステップST2では、まず、ベースガイド治具15が設置される(図37参照)。このベースガイド治具15は、組立体2、3を水室131の外部からマンホール138の入口までガイドする治具であり、柱状の支持台151と、滑り台状のベースガイド152とが支持ブラケット153を介して連結されて構成される。ベースガイド治具15は、支持台151を水室131外部の床面上に立設し、この支持台151の上部からマンホール138の入口にベースガイド152を渡して設置される。このとき、位置調節用ネジ154の操作により、ベースガイド152の傾斜角を調整できる。なお、ベースガイド152の下部には、組立体2、3の滑り落ちを防止するためのストッパ155が設けられる。
また、ベース2および連結リンク3の組立体が水室131外部の床面上に準備される(図37参照)。具体的には、床面上に仮置台17が設置され、この仮置台17上に組立体2、3が載置される。このとき、組立体2、3が、ベース2のクランパ23a、23bを上方に向け、連結リンク3を下方に向けて載置される。また、管板面137aに設置された一対のベース搬入取付治具11、11からワイヤ12、12がそれぞれ巻き出され、これらのワイヤ12、12の端部がベース2の側部(例えば、ベース本体21の側部)に係留される。これにより、ベース2のクランパ23a、23bを上向きにしつつ組立体2、3をワイヤ12で吊り上げ可能となる。
次に、作業員が組立体2、3を持ち上げてベースガイド治具15のベースガイド152に載せる(図38参照)。そして、ベース搬入取付治具11がワイヤ12を巻き取ることにより、組立体2、3が水室131内に搬入されて吊り上げられる(図39および図40参照)。このとき、作業員が組立体2、3を押し上げつつ水室131内に押し込む。また、組立体2、3がマンホール138の内縁に衝突しないように、作業員が組立体2、3に巻き掛けたロープ18を引っ張って組立体2、3の姿勢を操る。
そして、組立体2、3が水室131の管板面137aまで吊り上げられ、ベース2がクランパ23a、23bを伝熱管132に挿入してクランプすることにより、組立体2、3が管板面137aに設置される(図41参照)。その後に、ベースガイド治具15が解体されて撤去され、次の搬入工程(ステップST3〜ステップST6)が進められる。
なお、この実施例2では、一対のベース搬入取付治具11、11が用いられて組立体2、3が管板面137aに設置されている(ベース設置ステップST2)(図37〜図41参照)。しかし、これに限らず、例えば、3つ以上のベース搬入取付治具11が用いられ、これらのベース搬入取付治具11が組立体2、3をワイヤ12でそれぞれ吊り上げることにより、組立体2、3が管板面137aに設置されても良い(図示省略)。かかる構成では、例えば、組立体2、3が略立方形状を有するときに(図16参照)、組立体2、3を4本のワイヤ12で四方から係留して保持できるので、吊り上げ時における組立体2、3のバランスを好適に保持できる点で好ましい。
[水室内作業装置の水室内作業の具体例]
図42〜図47は、図1に記載した水室内作業装置の水室内作業の様子を示す説明図である。これらの図では、水室内作業装置1のベース2および連結リンク3のみを記載し、マニピュレータ4およびツール5(図1参照)の記載を省略する。
この実施例では、水室内作業装置1が、図16のベース2を備え、このベース2により水室131の管板面137aを歩行して移動する場合(図6参照)について説明する。また、この水室内作業装置1は、ベース2が図22〜図31の歩行ロジックを採用することにより、管板面137a上をスライド歩行して任意位置に移動できる。また、水室内作業装置1は、図42の一点鎖線に囲まれた位置X、Yを順に移動して水室内作業を行う。
また、ワイヤ12には、ベース搬入取付治具11(ウインチ114のドラムリール1141)とベース2との間に、錘19が配置される(図47参照)。この錘19は、所定長さに巻き出されたワイヤ12に吊り下げられたときに、ワイヤ12の形状のクセやヨリを矯正できる程度の重量を有する。また、この実施例2では、錘19が、貫通孔191を有する楕円体の金属部材であり、その貫通孔191にワイヤ12を挿通してワイヤ12上をスライド可能に吊り下げられている。なお、錘19は、例えば、滑車形状を有することによりワイヤ12上をスライド可能な重量部材から構成されても良い(図示省略)。また、この実施例2では、1本のワイヤ12に1つの錘19のみが配置されるが(図47参照)、これに限らず、1本のワイヤ12に複数の錘19が配置されても良い(図示省略)。
まず、初期状態では、水室内作業装置1が水室131内に搬入されて最初に設置された位置にある(図42参照)。この位置では、ベース2が一対のベース搬入取付治具11、11の中間に位置し、ウインチ114からのワイヤ12の巻き出し量が最小となっている。
次に、水室内作業装置1の移動開始には、ベース2の歩行開始と同時あるいはベース2の歩行開始に先立って、ワイヤ12がベース搬入取付治具11のウインチ114から巻き出される(図43および図44参照)。このとき、ワイヤ12が弛んで懸垂曲線を描く程度に、ワイヤ12が巻き出される。したがって、ワイヤ12の巻き出し量は、少なくともベース2の歩行距離(移動距離)よりも長く設定される。また、その後の水室内作業装置1の移動時および移動先での作業時にも、同様に、ベース2の歩行開始と同時あるいはベース2の歩行開始に先立って、ワイヤ12がウインチ114から巻き出される(図45および図46参照)。
このように、ワイヤ12が弛んで懸垂曲線を描く程に巻き出された状態では、ワイヤ12に吊り下げられた錘19により、ワイヤ12に張力が付与されてワイヤ12の懸垂形状が安定する(図44および図46参照)。すなわち、錘19の重量により、また、錘19がワイヤ12の巻き出し量に応じてワイヤ12上を移動することにより、ワイヤ12の形状のクセやヨリが矯正されてワイヤ12が安定した形状で垂れ下がる。これにより、近隣のワイヤ同士が絡まる事態やワイヤと水室内作業装置の配線コード類とが絡まる事態が抑制される。また、ワイヤ12が安定した形状で垂れ下がるので、水室内作業装置1の移動中や作業中におけるワイヤ12の挙動が予測し易い。したがって、作業員がワイヤ12の挙動を目視にて観察することにより、容易にワイヤ12と水室内作業装置1との干渉を回避できる。
水室内作業の終了後に、水室内作業装置1を水室131から搬出する場合には、水室内作業装置1が移動経路(位置X、Y)を逆に辿って最初の搬入位置(図42参照)に戻る(図示省略)。このとき、ワイヤ12が垂れ下がり過ぎて絡まないように、ワイヤ12が巻き取られることが好ましい。そして、水室内作業装置1が最初の搬入位置まで移動した後に、ワイヤ12が最小の巻き出し長さまで巻き取られる。その後に、水室内作業装置1が解体されて水室131から撤去される(図示省略)。
なお、この水室内作業装置1では、ワイヤ12の巻き出し量を調整してワイヤ12の下端位置を所定の高さ位置に制御することが好ましい。具体的には、水室内作業装置1の移動時および作業時にて、ワイヤ12の下端位置が、少なくともマニピュレータ4の前段部41よりも上方(管板面137a側)にあることが好ましく、マニピュレータ4の後段部42よりも上方にあることがより好ましい。例えば、この実施の形態では、ワイヤ12の巻き出し量がウインチ114のモータ1142の駆動制御により制御されている。また、この巻き出し量の制御が、水室内作業装置1の移動開始にて、ベース2の歩行開始と同時あるいはベース2の歩行開始に先立って行われている。また、水室内作業時にて、ワイヤ12の懸垂曲線の下端がマニピュレータ4よりも高い位置(連結リンク3以上の高さ位置)にあるように、ワイヤ12の巻き出し量が制御されている(図44および図46参照)。これにより、ワイヤ12と水室内作業装置1のマニピュレータ4およびツール5との干渉が防止されている。なお、巻き出し量の制御は、作業員がワイヤ12の下端位置を目視しつつ遠隔操作によりウインチ114のモータ1142の駆動制御することにより、行われる。
また、この実施の形態では、ベース2が所定の歩行ロジック(図22〜図31)に基づいて水室131の管板面137a上をスライド歩行して移動する(図42、図43および図45参照)。したがって、ベース2の移動経路が直線的であり、また、ベース2自身が旋回しない。これにより、水室内作業装置の移動時にてワイヤが水室内作業装置に巻き付く事態が防止される。例えば、水室内作業装置が水室の管板面上を旋回しつつ移動する(移動経路が円弧となる)構成では、水室内作業装置の移動時にて、ワイヤが水室内作業装置に巻き付くおそれがあり、好ましくない。
[効果]
以上説明したように、この水室内作業方法では、水室内作業装置1の少なくとも一部(例えば、ベース2および連結リンク3の組立体)をワイヤ12で吊り上げて水室131の管板面137aに設置するステップ(ベース設置ステップST2。図7、図37〜図41参照)と、水室内作業装置1がワイヤ12を係留したまま管板面137aに沿って移動して水室内作業を行うステップ(図6および図42〜図46参照)とを備える。このとき、ワイヤ12の巻き出し量を所定値以上としてワイヤ12を弛ませると共に、ワイヤ12に錘19を移動可能に取り付けた状態で、水室内作業装置1が水室内作業を行う(図44、図46および図47参照)。
水室内作業装置の搬入工程にて、水室内作業装置の少なくとも一部をワイヤで吊り上げて水室の管板面に設置する構成では、水室内作業時にて水室内作業装置が移動および作業を行うときに、このワイヤが邪魔になるおそれがある。例えば、ワイヤにクセやヨリがある状態では、ワイヤ同士が絡まる事態やワイヤと水室内作業装置の配線コード類とが絡まる事態が想定されるため、好ましくない。一方で、水室内にて搬入用のワイヤを着脱する作業は、特に、作業員の作業時間に制約がある原子力プラントの蒸気発生器において、容易でない。
この点において、この水室内作業方法では、水室内作業装置1がワイヤ12を係留したまま水室内作業を行うので、ワイヤの着脱作業(水室内作業装置1を水室131に搬入した後の離脱作業ならびに水室内作業装置1を水室131から搬出するときの装着作業)を省略できる。また、水室内作業時には、弛ませたワイヤ12に錘19を取り付けるので、錘19によりワイヤ12に張力が付与されてワイヤ12の懸垂形状が安定する(図44および図46参照)。すると、水室内作業装置1の移動中や作業中にてワイヤ12の挙動が予測し易いので、ワイヤ12と水室内作業装置1との干渉を容易に回避できる。これらにより、蒸気発生器130における水室内作業の作業性が向上する利点がある。
また、この水室内作業方法では、ワイヤ12の巻き出し量を調整してワイヤ12の下端位置を所定の高さ範囲に制御する(図44および図46参照)。かかる構成では、ワイヤ12の下端位置が調整されるので、水室内作業時にて、ワイヤと水室内作業装置との干渉を適切に回避できる利点がある。特に、かかる構成では、ワイヤ12を弛ませた状態でワイヤ12の下端位置を基準としてワイヤ12の巻き出し量を調整するので、ワイヤ12の巻き出し量の制御が容易である。例えば、ワイヤをほぼ弛ませること無くワイヤの巻き出し量を制御する構成では、水室内作業装置の移動距離に応じてワイヤの巻き出し量を制御する必要があるため、制御がタイトとなり、好ましくない。
また、この水室内作業方法では、水室内作業装置1(ベース2)が水室131の管板面137aに沿ってスライドして移動する(図42、図43および図45参照)。かかる構成では、水室内作業装置1の移動経路が直線的なので、水室内作業時にてワイヤが水室内作業装置に巻き付く事態が防止される。例えば、水室内作業装置が水室の管板面上を旋回しつつ移動する(移動経路が円弧となる)構成では、水室内作業装置の移動時にて、ワイヤが水室内作業装置に巻き付くおそれがあり、好ましくない。
また、この水室内作業装置1の治具(ベース搬入取付治具11)は、水室131の管板面137aにある伝熱管132をクランプ保持するクランプ機構112と、水室内作業装置1の少なくとも一部(例えば、ベース2および連結リンク3の組立体)を吊り上げるためのワイヤ12を巻き取りおよび巻き出しするウインチ114とを備える(図32〜図36参照)。かかる構成では、クランプ機構112が水室131の管板面137aにクランプした状態で、水室内作業装置1の吊り上げ作業が行なわれる。このとき、治具11がワイヤ12のウインチ114を備えるので、水室内作業装置1を軽量化できる。これにより、水室内作業装置1の搬入設置などが容易となり、水室内作業の作業性が向上する利点がある。例えば、水室内作業装置が複数のウインチを有する構成(図示省略)では、複数のワイヤ12を用いて水室内作業装置1(組立体2、3)を吊り上げるときに(図37〜図41参照)、水室内作業装置の重量が嵩んで好ましくない。また、かかる構成では、ウインチ114がワイヤ12を巻き取りおよび巻き出しできるので、水室内作業装置1がワイヤ12を係留したまま水室内作業を行うときに(図42〜図46参照)、ワイヤ12の巻き出し量を調整できる。これにより、ワイヤ12と水室内作業装置1との干渉を容易に回避できるので、水室内作業の作業性が向上する利点がある。