本発明の高周波フィルタを実施するための形態では、高周波フィルタは、分布定数回路であるマイクロストリップラインと集中定数回路とを組み合わせて構成される。このような構成を採用することによって、高周波フィルタの低損失化と小型化を図り、イミタンス素子である集中定数回路の特性を変化させることによって高周波フィルタの特性を容易に可変できるようにするものである。
発明を実施するための形態(実施形態)について、以下に図面を参照して説明をする。
[実施形態の高周波フィルタの原理]
実施形態の高周波フィルタは、分布定数回路であるマイクロストリップラインと集中定数回路(イミタンス素子)を組み合わせて、低損失化と小型化を図り、イミタンス素子である集中定数回路の特性を変化させることによって高周波フィルタの特性を容易に変化可能とするものである。ここで、集中定数回路はどのようなイミタンス素子であっても良い。例えば、コンデンサであっても良く、ソウデバイス(SAWデバイス、例えば、SAW共振器)であっても良い。
ここで、イミタンスの用語は、インピーダンスとアドミタンスとの両方を含む総称であり、イミタンス素子の用語はインピーダンスでその特性が表される素子とアドミタンスでその特性が表される素子との両方を含む総称である。
以下では、特定のインピーダンス素子にはインピーダンス素子Zの用語を用いる。インピーダンス素子Zのインピーダンスの値は、インピーダンスZ=R+jXとし、実部である抵抗Rと虚部であるリアクタンスXとで表せる。ここで、jは虚数単位である。また、特定のアドミタンス素子にはアドミタンス素子Yの用語を用いる。アドミタンス素子Yのアドミタンスの値は、アドミタンスY=G+jBとし、実部であるコンダクタンスGと虚部であるサセプタンスBとで表せる。
インピーダンスとアドミタンスとは相互に、その虚部および実部の各々が1対1に変換可能である。Y=1/Z、Z=1/Yの関係から、R=G/(G2+B2)、X=-B/(G2+B2)、G=R/(R2+X2)、B=-X/(R2+X2)の関係式が成立する。よって、イミタンス、インピーダンス、アドミタンスの三者は、物理概念が異なるものではなく単位系が異なるだけである。
実施形態の高周波フィルタの一部として機能するマイクロストリップラインは、一般的に基板上に形成される線路として構成される。本実施形態では、2つの線路の各入力端を相互に接続して入力端子とし、各出力端を相互に接続して出力端子とする。そして、2つの線路間にイミタンス素子を挿入して高周波フィルタを構成することを特徴とする。このような高周波フィルタにおいて、出力端子と入力端子との間の伝達特性をどのようにして求めるかに付き説明をする。その後に、具体的な実施形態について説明をする。
図1は、マイクロストリップラインとして機能する2つの線路の並列接続回路を示す図である。2つの線路である、線路L1と線路L2とは、回路的には分布定数回路であり、線路間に集中定数回路であるイミタンス素子(図1ではコンデンサC)が挿入され、全体としてマイクロストリップラインとイミタンス素子の結合回路として機能する。第1の線路L1の入力端子L1iと第2の線路L2の入力端子L2iとは相互に接続され、この接続点が入力端子Liである。また、第1の線路L1の出力端子L1oと第2の線路L2の出力端子L2oとは相互に接続され、この接続点が出力端子Loである。
線路L1は2つの部分からなり、その一方の長さはλとされ、その他方の長さは0.5λとされ、2つの部分の中間点は点P1とされ、全体の長さは1.5λとされている。線路L2は2つの部分からなり、その一方の長さは0.5λとされ、その他方の長さはλとされ、2つの部分の中間点は点P2とされ、全体の長さは1.5λとされている。そして、点P1と点P2との間にコンデンサCが接続されている。ここで、λは任意波長である。
このような線路(マイクロストリップライン)を分布定数回路として解析をする場合には計算量も多くなり煩雑であるので、解析を容易とするために、分布定数回路として形成される部分を集中定数回路で表す等価回路に置き換える。
図2は、2つの線路間にイミタンス素子であるアドミタンス素子Yを挿入した場合の集中定数回路で表す等価回路を示す図である。点P1と入力端子Liとの間の伝達特性を縦続行列T1で表す。出力端子Loと点P1との間の伝達特性を縦続行列T2で表す。
また、点P2と入力端子Liとの間の伝達特性を縦続行列T3で表す。出力端子Loと点P2との間の伝達特性を縦続行列T4で表す。アドミタンス素子Yの機能は、線路L1と線路L2とを連結するものである。
ここで、縦続行列T1は、インピーダンス素子Z11、インピーダンス素子Z12、インピーダンス素子Z13、によって形成される集中定数回路で表す等価回路であるT型回路の縦続行列である。インピーダンス素子Z11の一端が入力端子Liに接続され、インピーダンス素子Z12の一端が点P1に接続され、インピーダンス素子Z13の一端が接地点GNDに接続され、インピーダンス素子Z11の他端とインピーダンス素子Z12の他端とインピーダンス素子Z13の他端とが相互に接続されている。
また、縦続行列T2は、インピーダンス素子Z21、インピーダンス素子Z22、インピーダンス素子Z23、によって形成される集中定数回路で表す等価回路であるT型回路の縦続行列である。インピーダンス素子Z21の一端が点P1に接続され、インピーダンス素子Z22の一端が出力端子Loに接続され、インピーダンス素子Z23の一端が接地点GNDに接続され、インピーダンス素子Z21の他端とインピーダンス素子Z22の他端とインピーダンス素子Z23の他端とが相互に接続されている。
また、縦続行列T3は、インピーダンス素子Z31、インピーダンス素子Z32、インピーダンス素子Z33、によって形成される集中定数回路で表す等価回路であるT型回路の縦続行列である。インピーダンス素子Z31の一端が入力端子Liに接続され、インピーダンス素子Z32の一端が点P2に接続され、インピーダンス素子Z33の一端が接地点GNDに接続され、インピーダンス素子Z31の他端とインピーダンス素子Z32の他端とインピーダンス素子Z33の他端とが相互に接続されている。
また、縦続行列T4は、インピーダンス素子Z41、インピーダンス素子Z42、インピーダンス素子Z43、によって形成される集中定数回路で表す等価回路であるT型回路の縦続行列である。インピーダンス素子Z41の一端が点P2に接続され、インピーダンス素子Z42の一端が出力端子Loに接続され、インピーダンス素子Z43の一端が接地点GNDに接続され、インピーダンス素子Z41の他端とインピーダンス素子Z42の他端とインピーダンス素子Z43の他端とが相互に接続されている。
伝搬減衰を考慮しない場合、インピーダンス素子Z11のインピーダンスは数式1で表され、インピーダンス素子Z12のインピーダンスは数式2で表され、インピーダンス素子Z13のインピーダンスは数式3で表される。ここで、jは虚数単位であり、Zoは特性インピーダンスである。すなわち、インピーダンス素子Z11とインピーダンス素子Z12とは、分布定数回路の分布インダクタンス成分を集中定数に置き換えた誘導性リアクタンスであり、インピーダンス素子Z13は分布定数回路の分布キャパシタンス成分を集中定数に置き換えた容量性リアクタンスである。
そして、入力端子Liと点P1との間の線路長L1a、特性インピーダンスZoの伝送路を波長λの波が伝送するときの伝達特性は、2行2列の縦続行列として数式4で表される。ただし、φは数式5で表される。
図3は、アドミタンス素子Yの両端の電圧とアドミタンス素子Yに流れ込む電流およびアドミタンス素子Yから流れ出す電流の関係を示す図である。以下、図3を参照してアドミタンス素子Yの縦続行列を求める。
第1の線路L1について、入力端子L1iの側から点P1に流れ込む電流を電流I1、入力端子L1iと接地点GNDとの間の電圧を電圧V1、第1の線路L1の点P1から出力端子L1oの側に流れ出す電流を電流I2、出力端子L1oと接地点GNDとの間の電圧を電圧V2とする。
また、第2の線路L2について、入力端子L2iの側から第2の線路L2の点P2に流れ込む電流を電流I1’、点P2と接地点GNDとの間の電圧を電圧V1’、第2の線路L2の点P2から出力端子L2oの側に流れ出す電流を電流I2’、 出力端子L2oと接地点GNDとの間の電圧を電圧V2’として、以下の数式6、数式7、数式8から数式9で表されるアドミタンス素子Yの縦続行列Tyを求める。図3に示す回路の縦続行列Tyは数式9で表される。数式10におけるYは、アドミタンス素子Yのアドミタンス値である。
図4は、図3に示した回路の入力側を入力端子L1iの側から点P1までのマイクロストリップラインに接続し、図3に示した回路の出力側を図3に示した回路を点P2から出力端子L1oまでのマイクロストリップラインに接続した回路図である。図4を参照して、さらに、以下に説明をする。
イミタンス素子は、マイクロストリップラインとして機能する線路L1の点P1とマイクロストリップラインとして機能する線路L2の点P2の間に挿入されている。入力端子L1iの電圧を電圧V1’、入力端子L1iから線路L1に流れ込む電流を電流I1’、入力端子L2iの電圧を電圧V1”、入力端子L2iから線路L2に流れ込む電流を電流I1”、出力端子L1oの電圧を電圧V2’、出力端子L2oの電圧を電圧V2”、線路L1から出力端子L1oに流れ出す電流を電流I2’、線路L2から出力端子L2oに流れ出す電流を電流I2”とすれば、図4に示す回路の縦続行列Taは数式11で表される。
ここで、Taは数式12で表される。
また、数式11と数式12を、以下の数式13、数式14、数式15、数式16を用いて、数式17に示すようにして、図4に示す、電圧V1、電圧V2、電流I1、電流I2のみを変数とする数式に変形する。
ここで、数式17に示される、a、 b、 c、 d、 e、 f、 g は、数式18、数式19、数式20、数式21、数式22、数式23、数式24で表される。
数式17に示す縦続行列で与えられる複素数の伝達特性から、入力電圧と出力電圧の比の絶対値を求めて、フィルタの挿入損失Vlosは数式25で表される。ここで、Rsは本フィルタの入力端子に接続される機器の出力インピーダンスであり、Roは本フィルタの出力端子に接続される機器の入力インピーダンスであり、入力端子および出力端子の各々がRsおよびRoの終端抵抗によって終端される。
「第1実施形態の高周波フィルタ」
図5は、第1実施形態の高周波フィルタの構成の概略を示す図である。
図5に示す高周波フィルタF1は、マイクロストリップラインとして機能する、2つの線路である線路L1(点P1を接続点とする第1区間L1aと第2区間L1bとから形成される)と線路L2(点P2を接続点とする第1区間L2aと第2区間L2bとから形成される)との線路間にイミタンス素子としてのコンデンサC(キャパスタンス値はC、以下、単にコンデンサCの値と記す)が1個だけ挿入されて構成される。後述するように、コンデンサCの値と、2つの線路L1と線路L2との各長さ、コンデンサCの接続位置に応じて、高周波フィルタF1の特性が大きく異なる。
(シミュレーションについて)
数式25に基づいて計算されたフィルタ特性について以下に説明をする。
まず、計算の基礎となる各パラメータについて説明をする。予め定める所定波長をλoとすると、線路L1(第1線路)の長さはL1 =1.5λoの長さである。線路L1は、上述したように、連続した2つの部分である第1区間L1aと第2区間L1bとから形成されている。線路L1の入力端子L1iからの長さがλoの位置までが第1区間L1aであり、線路L1の出力端子L1oからの長さが0.5λoの位置までが第2区間L1bである。第1区間L1aと第2区間L1bの境界が点P1である。
線路L2(第2線路)の長さはL2 =1.5λoの長さである。線路L2は、上述したように、連続した2つの部分である第1区間L2aと第2区間L2bとから形成されている。線路L2の入力端子L2iからの長さが0,5λoの位置までが第1区間L2aであり、線路L2の出力端子L2oからの長さがλoの位置までが第2区間L2bである。第1区間L2aと第2区間L2bの境界が点P2である。
点P1と点P2との間にコンデンサCが配されている。コンデンサCの値が100pFである場合について以下に説明をする。
図6は、計算機シミュレーションの結果を示す図である。計算機シミュレーションはフォートラン(Fortran)90を用いて行った。数式25に基づく数値解析によって、高周波フィルタF1の周波数特性を求めた。図6の縦軸は挿入損失であり、横軸は周波数である。図6から、見て取れるように、高周波フィルタF1は周波数3.38GHz付近を中心周波数とするバンドパスフィルタとして機能する。
(実測特性について)
実際に高周波フィルタを試作して実験によって得られた実測特性について以下に説明をする。
図5に示す高周波フィルタF1と同一パラメータを有する回路を実際にガラエポキシ基板上に作製した。図5に示す図は、マイクロストリップラインが形成されている基板の表面から見た図に対応する。基板の寸法は、横幅14cm、縦の長さ10cmとした。図5に示す、線路L1の第1区間L1a、線路L1の第2区間L1b、線路L2の第1区間L2a、線路L2の第2区間L2bは、各々を銅箔で形成した。基板はガラスエポキシ基板を用い、ガラスエポキシ基板の裏面は全面を銅箔で覆った。実際の回路でも、図5に示すと同様に、線路L1の第1区間L1aの形状を曲線とし、線路L2の第2区間L2bの形状を曲線としている。このような形状とした理由は、線路L1と線路L2の2つのマイクロストリップライン間の電磁界的な結合を最小限に抑え、線路が急激に曲がることによって起こる反射の影響を抑えるためである。
図7は、マイクロストリップラインの断面図を模式的に示す図である。図5、図7を参照して、具体的な寸法を以下に示す。線路L1、線路L2の線幅W(図5に示す線路L1の第1区間L1a、第2区間L1b、線路L2の第1区間L2a、第2区間L2bの線幅)は0.67mm(ミリ・メータ)であり、導体の厚みT(図7を参照)は70μm(マイクロ・メータ)であり、誘電体(ガラスエポキシ基板)の厚みH(図7を参照)は1.6mmである。ガラスエポキシの比誘電率εrは4.6である。線路L1、線路L2の各々の特性インピーダンスZoは100Ωである。波長λoは10cm(センチ・メータ)であり、得られた遮断周波数foは1.69GHzである。また、得られた中心周波数fcは3.38GHzである。
ここで、特性インピーダンスZoは数式26に示す計算式によって求められ、実効誘電率εeffは数式27に示す計算式によって求められる。
線路L1と線路L2とを並列接続することによって、特性インピーダンスZoとしては50Ωが得られる。また、ガラスエポキシを挟んだ線路L1、線路L2の裏面側の導電材(例えば、銅箔)が接地側(GND側)となる。すなわち、線路L1と線路L2の入力側の接続点の近傍の裏面が入力端子の接地点となり、線路L1と線路L2の出力側の接続点の近傍の裏面が出力端子の接地点となる。
図8は、実際の回路において静電容量が0の場合の実測結果を示す。図8は、コンデンサCの値を0とするときの特性である。縦軸は挿入損失であり、横軸は周波数である。図8から、見て取れるように、この回路では、周波数が高くなると挿入損失は大きくなる。
理論的にはコンデンサCの値を0とすると、線路L1と線路L2は長さが等しいので、周波数特性はフラットなものとなると考えられる。しかし、実際の回路ではマイクロストリップラインとして機能する線路L1と線路L2とが基板上に形成されていることによって誘電体損及び放射損を有するものであり、図8は、この誘電体損の影響を主として示している。
この誘電体損は、今回の実験では誘電体としてガラスエポキシを用いているために発生するものである。より誘電体損が小さい材料、例えば、アルミナのような損失の少ない誘電体を用いたマイクロ波用の基板を使用することによって,誘電体損をより低減させることができる。そして、図8に示すような周波数が高くなるにつれて増加する挿入損失をより少なくできる。
ここで、中心周波数fcと波長λoの関係について説明をする。電磁波が自由空間を伝播する速度である光速c≒3×108m/s(メータ/秒)とすると、中心周波数fcと波長λoは数式(28)で関係づけられる。
上述したように、波長λoは10cmであるので、数式(28)から計算される、中心周波数fcは6GHzとなるはずであるが、電磁波は、自由空間を伝播するのではなくマイクロストリップラインを伝播するために電磁波の伝播速度は、波長短縮率に応じて遅くなる。図7に示す、上述した諸定数を有するマイクロストリップラインの波長短縮率=3.38(GHz)/6(GHz)=0.563である。この波長短縮率は、誘電体材料、線路材料、各部の形状に依存することはいうまでもない。
図9は、実際にガラスエポキシ基板の上に形成された回路においてコンデンサC(図5を参照)の静電容量が100pFの場合の周波数特性の実測結果を示す図である。縦軸は挿入損失であり、横軸は周波数である。図9から、見て取れるように、この回路では、シミュレーションと略同様の周波数特性が得られるが、周波数が高くなると、図8を参照して説明した理由によって、挿入損失は大きくなる。
図10は、誘電体損等の伝搬損が無いとした場合の校正した高周波フィルタの特性を示す図である。図10に示す図は、図9に示す静電容量が100pFの場合の実測結果を、図8に示す静電容量が0の場合の実測結果で校正し(損失を差し引き)、伝搬損がなかった場合に得られるものであろう結果を演算によって求めて、その結果を示すものである。静電容量が100pFの場合のシミュレーションの結果を示す図である図6と、実際の回路の測定結果を演算により校正した結果を示す図である図10とを比べると、実験結果とシミュレーション結果は略一致している。
上述した実施例においては、比誘電率εrが4.6のガラスエポキシ基板を用いてマイクロストリップラインを形成しているので、高周波フィルタの中心周波数を3.38GHzに設定するために基板のサイズは14cm×10cmとされた。しかし、例えば、比誘電率が44である、Y-cut LiNbO3を誘電体として用い、中心周波数が10GHzである場合には、基板のサイズを8mm四方に縮小できる。さらに、BaTiO3の水熱合成微粉末を誘電体として用いる場合には、比誘電率として、5000以上を得ることができるので、中心周波数を10GHzとする高周波フィルタにおいては、そのサイズを0.5mm四方とすることができる。
上述した第1実施形態では、線路L1(第1線路)の長さはL1 =1.5λoの長さとし、線路L1の入力端子L1iからの長さがλoの位置までが第1区間L1aとし、線路L1の出力端子L1oからの長さが0.5λoの位置までが第2区間L1bとし、第1区間L1aと第2区間L1bの境界を点P1とした。また、線路L2(第2線路)の長さはL2 =1.5λoの長さとし、線路L2の入力端子L2iからの長さが0.5λoの位置までが第1区間L2aとし、線路L2の出力端子L2oからの長さがλoの位置までが第2区間L2bとし、第1区間L1aと第2区間L1bの境界を点P2とした。しかしながら、第1実施形態の高周波フィルタの動作原理に基づけば、点P1と点P2とにおいて、遮断域で位相が相互にπラジアン異なる逆位相の関係にあり、且つ、通過域で2πラジアンの整数倍となる同位相の関係に選ぶことが重要である。したがって、線路L1と線路L2の長さをこれ以外の他の長さ、つまり、任意の長さ、とすることも可能である。また、点P1と点P2の位置をこれ以外の異なる位置とすることも可能である。
例えば、k、m、nを整数として、線路L1(第1線路)の長さはL1 = 0.5mλの長さとし、線路L2(第2線路)の長さはL2 = 0.5nλoの長さとし、線路L1の第1区間L1aの長さと、線路L2の第1区間L2aの長さとの差が、(k+0.5)λoとなるようにして、点P1と点P2との間にコンデンサCを配するようにしても良い。
要は、第1実施形態の高周波フィルタでは、0.5λoの長さの整数倍の長さ、或いはそれに任意の長さを加えた第1マイクロストリップラインと第2マイクロストリップラインとを備え、第1マイクロストリップラインの入力端子と第2マイクロストリップラインの入力端子とを接続し、第1マイクロストリップラインの出力端子と第2マイクロストリップラインの出力端子とを接続し、第1マイクロストリップラインの入力端子からの距離と、第2マイクロストリップラインの入力端子からの距離の差が、0.5λoの奇数倍となる、第1マイクロストリップライン上の点と第2マイクロストリップライン上の点とをイミタンス素子で接続するものである。このようにすると、第1マイクロストリップライン上の点の位相と第2マイクロストリップライン上の点の位相とが、波長λo(周波数は1/λo)においてπラジアン或いはそれに2πの整数倍を加えた位相だけ異なる逆位相となり、この2点間に接続されたイミタンス素子の効果によって、入力端子から出力端子に伝送される信号は、減算され、且つ、第1マイクロストリップライン上の点の位相と第2マイクロストリップライン上の点の位相とが、通過帯域での波長λc(周波数は1/λc)において2πラジアンの整数倍だけ異なる同位相となり、この2点間に接続されたイミタンス素子には電流が流れず減衰なく加算され、イミタンス素子の特性に応じて良好なフィルタ特性を生じるようにできる。
「第2実施形態の高周波フィルタ」
図11は、第2実施形態の高周波フィルタを示す図である。第2実施形態の高周波フィルタF2は、マイクロストリップラインとして機能する線路L1とマイクロストリップラインとして機能する線路L2とを有している。
線路L1は、第1区間L1a、第2区間L1b、第3区間L1c、第4区間L1d、第5区間L1e、第6区間L1f、から形成されている。第1区間L1aの長さはλo、第2区間L1bの長さは0.5λo(λo/2)、第3区間L1cの長さは0.5λo、第4区間L1dの長さは0.5λo、第5区間L1eの長さは0.5λo、第6区間L1fの長さはλoとされている。第1区間L1aないし第6区間L1fまで順に線路は連結されて線路L1は形成されている。ここで、λoは予め定める所定波長である。
線路L2は、第1区間L2a、第2区間L2b、第3区間L2c、第4区間L2d、第5区間L2e、から形成されている。第1区間L2aの長さはλo、第2区間L2bの長さはλo、第3区間L2cの長さは0.5λo、第4区間L2dの長さはλo、第5区間L2eの長さはλoとされている。第1区間L2aないし第5区間L2eまで順に線路は連結されて線路L2は形成されている。
線路L1の第1区間L1aの一端は入力端子L1iであり、第1区間L1aの他端と第2区間L1bとの境界は点P11であり、第2区間L1bと第3区間L1cとの境界は点P12であり、第3区間L1cと第4区間L1dとの境界は点P13であり、第4区間L1dと第5区間L1eとの境界は点P14であり、第5区間L1eと第6区間L1fの一端との境界は点P15であり、第6区間L1fの他端は出力端子L1oである。
線路L2の第1区間L2aの一端は入力端子L2iであり、第1区間L2aの他端と第2区間L2bとの境界は点P21であり、第2区間L2bと第3区間L2cとの境界は点P22であり、第3区間L2cと第4区間L2dとの境界は点P23であり、第4区間L2dと第5区間L2eの一端との境界は点P24であり、第5区間L2eの他端は出力端子L2oである。
入力端子L1iと入力端子L2iとは接続されて、入力端子Liとされ、出力端子L1oと出力端子L2oとは接続されて、出力端子Loとされている。入力端子Liから信号が入力され、出力端子Loから信号が出力されて、高周波フィルタF2は機能する。
点P11と点P21との間にコンデンサC1が配され、点P12と点P22との間にコンデンサC2が配され、点P13と点P22との間にコンデンサC3が配され、点P13と点P23との間にコンデンサC4が配され、点P14と点P23との間にコンデンサC5が配され、点P15と点P24との間にコンデンサC6が配されている。
図12は、図11に示す実施形態の高周波フィルタF2の特性を計算機シミュレーションで求めた結果を示す図である。Cの値は100pFである。
図12から見て取れるように、図6に示す、コンデンサの個数が1個のみの高周波フィルタF1の特性に場合に比べると、コンデンサC個数が複数個の高周波フィルタF2では、より狭帯域のフィルタ特性となっていることが分かる。これは、線路が多段に接続されている効果である。
図13は別の計算機シミュレーションの結果である。図11に示す実施形態の高周波フィルタF2’の3.38GHz付近を示す図である。コンデンサCの値は500pFである。図13の縦軸は挿入損失であり、横軸は周波数である。図13から、見て取れるように、高周波フィルタは周波数3.38GHz付近を中心周波数とするバンドパスフィルタとして機能するが、通過帯域の幅は、高周波フィルタF1におけるよりも狭くなっている。
図14は、さらに別の計算機シミュレーションの結果を示す図である。さらに別の計算機シミュレーションの高周波フィルタF2’’(図11に示す高周波フィルタF2と同一の回路構成であり、コンデンサCの値のみが異なる)では、コンデンサCの値が1000pFである以外の他のパラメータは、上述した、高周波フィルタにおけると同様である。
図14は3.38GHz付近を示す図である。図14の縦軸は挿入損失であり、横軸は周波数である。図14から、見て取れるように、高周波フィルタF2’’は周波数3.38GHz付近を中心周波数とするバンドパスフィルタとして機能するが、通過帯域の幅は、高周波フィルタF2及びF2’におけるよりも狭くなっている。
図15は、計算機シミュレーションで得た、イミタンス素子であるコンデンサCの値(静電容量)と高周波フィルタの周波数帯域との関係を示す図である。この計算機シミュレーションでは,コンデンサCの静電容量(キャパシタンス:単位はpF(ピコファラッド))の大きさを変化させたときに通過域(3dB比帯域幅)がどのように変化するのかを求めた。縦軸は3dB比帯域幅(3dB減衰する帯域幅/中心周波数)であり、横軸は静電容量である。また、図15ではコンデンサCに並列に抵抗Rpを接続し、この抵抗Rpの値が10Ω(オーム)、100Ω、抵抗なしの開放(∞Ω)の3つの場合についての計算機シミュレーションの結果を示す。
図13、図14、図15に示すように、静電容量を変化させると,中心周波数は3.38GHzと同じままで,通過帯域幅が変化することが分かる。図15から見て取れるように、図11に示す回路では,コンデンサCの値(静電容量)が大きくなると通過帯域幅が狭くなる特徴があることが分る。
第2実施形態の高周波フィルタでは、種々の態様が可能である。m、nの各々を整数として、線路L1(第1線路)の長さはL1 = (m+0.5)λoの長さ、または、L1 = m λoとするものであっても良く、線路L2(第2線路)の長さはL2 = (n+0.5)λoの長さ、または、L2 = n λoとするものであっても良い。さらに、線路L1の長さはL1、線路L2の長さはL2は任意の長さとしても良い。重要な点は、線路L1と線路L2の接続点を基点(0)として、コンデンサを接続する点が以下に示すように、0.5λoの整数倍とされれば良いものである。
q1・・・qj(j個の数)、r1・・・rk(k個の数)s、tの各々を整数として、線路L1には、入力端子L1iから出力端子L1oまで、q1 (0.5λo) ・・・qs (0.5λo)(q1〜qnは任意整数)と、0.5λo 単位で長さが定まるs個の区間を連結して、点P11〜点P1sの各点を区間の境目として配するようにしても良い。すなわち、入力端子L1iから点P11までの長さはq1 (0.5λo)とし、点P11から点P12までの長さはq2 (0.5λo)とし、・・・点P1s-1から点P1sまでの長さはqs (0.5λo)とするようにしても良い。
また、線路L2には、入力端子L2iから出力端子L2oまで、r1 (0.5λo) ・・・rt (0.5λo)(r1〜rtは任意整数)とt個の、点P21〜点P2tの各点を配するようにしても良い。すなわち、入力端子L2iから点P21までの長さはr1 (0.5λo)とし、点P21から点P22までの長さはr2 (0.5λo)とし、・・・点P2t-1から点P2tまでの長さはrt (0.5λo)とするようにしても良い。そして、点P11・・・点P1sと点P21・・・点P2tとの間にコンデンサを配置するようにしても良い。
このような接続態様を採用すれば、線路L1における点P11・・・点P1sに対して、線路L2における点P21・・・点P1tの任意の各点は同位相であるか逆位相であるかのいずれかとなる。ここで、線路L1と線路L2の異なる線路の逆位相の点を相互にコンデンサで接続したときに、信号はキャンセルされて減衰され、帯域フィルタとしての効果を得ることができる。
第2実施形態は、上述した第1実施形態を一般化した実施形態である。要は、第2実施形態の高周波フィルタは、0.5λoの長さの整数倍の第1マイクロストリップラインと0.5λoの長さの整数倍の第2マイクロストリップラインとを備え、第1マイクロストリップラインの入力端子と第2マイクロストリップラインの入力端子とを接続し、第1マイクロストリップラインの出力端子と第2マイクロストリップラインの出力端子とを接続し、第1マイクロストリップラインの入力端子からの距離と、第2マイクロストリップラインの入力端子からの距離の差が、0、または、0.5λoの整数倍となる、第1マイクロストリップライン上の点と第2マイクロストリップライン上の点とをイミタンス素子で接続するものである。
より詳細には、第1マイクロストリップラインの入力端子と第2マイクロストリップラインの入力端子が接続された状態とする。そして、第1マイクロストリップラインの入力端子からの距離と、第2マイクロストリップラインの入力端子からの距離の差が、0.5λoの奇数倍となる、第1マイクロストリップライン上の点と第2マイクロストリップライン上の点とをイミタンス素子で接続するようにする。このようにすると、第1マイクロストリップライン上の点の位相と第2マイクロストリップライン上の点の位相とが、波長λo(周波数は1/λo)においてπラジアン異なる逆位相となり、入力端子から出力端子に伝送される信号は、減算され、且つ、第1マイクロストリップライン上の点の位相と第2マイクロストリップライン上の点の位相とが、通過帯域での波長λc(周波数は1/λc)において2πラジアンの整数倍だけ異なる同位相となり、この2点間に接続されたイミタンス素子には電流が流れず減衰なく加算され、イミタンス素子の特性に応じて、良好なフィルタ特性を生じるようになる。
「第2実施形態の変形の高周波フィルタ」
図16は、第2実施形態の変形の高周波フィルタを示す図である。
図16(a)は、第2実施形態の変形の高周波フィルタの原理を示す図である。図16(a)に示す、フィルタF3は周波数特性の異なるフィルタであるフィルタ1とフィルタ2とを縦続接続して構成されている。図16(b)は、フィルタ1の周波数特性とフィルタ2の周波数特性とを同一周波数軸上に重ねて表示する図である。フィルタ1の帯域幅とフィルタ2の帯域幅とは一部が重複して、ずれている。16(c)は、フィルタF3の周波数特性を示す図である。フィルタ1の帯域幅とフィルタ2の帯域幅との重複する部分が通過帯域となる。
図16に示すようにして、コンデンサの容量の大きさで帯域幅が変わるフィルタを2つ縦続接続すると、任意の遮断周波数をもつフィルタを得ることができる。特に、コンデンサとして、例えば電圧で容量が変わるバリキャップなどの素子を用いると、電圧でフィルタ特性を自由に変化できるため、非常に有用なフィルタとなる。例えば、最近の携帯端末では多くの電波形式を扱えるようにするために、複数のフィルタが用いられ、スイッチでそれを切り替えている。そこで、このように、特性を可変できるフィルタが実現すると、フィルタの数を減らすことができる。
ここで、図16に示すフィルタF3において、フィルタを2つ縦続接続することのより大きな効果を生じさせるためには、フィルタ1の波長λoの値をλo1として、フィルタ2の波長λoの値をλo2として、λo1の値とλo2の値とを異ならせて、コンデンサを接続する点の位置をフィルタ1では0.5λo1の整数倍の位置、コンデンサを接続する点の位置をフィルタ2では0.5λo2の整数倍の位置とするのがより望ましい。
「第3実施形態の高周波フィルタ」
図17は、第3実施形態の高周波フィルタの構成の概念を示す図である。
図17に示す高周波フィルタF4は、マイクロストリップラインとして機能する、2つの線路である線路L1と線路L2との線路間にイミタンス素子として、ソウデバイス(SAWデバイス:SAW共振器)DSAWを挿入した構成とする。ここで、SAWデバイスDSAWは、マイクロストリップラインとは別区間としても良いが、マイクロストリップラインとSAWデバイスDSAWの両方を、比誘電率の高い同一の基板上に一体成形することもできる。また、SAWデバイスDSAWではアドミタンスの値(コンダクタンスの値とサセプタンスの値)を比較的自由に設定することができる。
上述した第2実施形態においては、イミタンス素子としてのコンデンサCの静電容量の値が大きくなれば、通過帯域が狭くなる特徴があることが分かった。第3実施形態では、この特徴を利用して、コンデンサCに替えてSAWデバイス(SAW共振器)DSAWを用いるものである。上述した第1実施形態及び第2実施形態と第3実施形態との異なる点は、点P1と点P2との間に挿入するイミタンス素子がコンデンサであるかSAWデバイスであるかであり、第3実施形態においても、第1実施形態及び第2実施形態に開示された技術を実施することが可能である。
図18は、SAWデバイスDSAWのアドミタンス特性を表すものであり、サセプタンスBとコンダクタンスGとの周波数fに対する特性を表す図である。SAWデバイスDSAWのサセプタンスBは、コンダクタンスGの値が最大となる周波数である中心周波数から離れると傾斜が一定値となる。この傾斜はDSAWが有する静電容量Coによるものである。
一方、コンデンサCにおいても、静電容量が一定であるので、SAWデバイスDSAWのサセプタンスBの傾斜が一定な部分はコンデンサCと等価な作用を奏する。よって、SAWデバイスDSAWのサセプタンスBの傾斜一定部の特性に対応する等価静電容量の値を、第1実施形態のイミタンス素子としてのコンデンサCの静電容量の値と等しくすることによって、高周波フィルタとしての良好な特性を得ることができる。
図19は、SAWデバイスDSAWの特性と第3実施形態の高周波フィルタの周波数特性との関係を示す図である。図19の上段は高周波フィルタの周波数特性を示すものであり、縦軸は挿入損失を表し、横軸は周波数を表す。図19の下段はSAWデバイスDSAWのサセプタンスの周波数特性を示すものであり、縦軸はサセプタンスを表し、横軸は周波数を表す。SAWデバイスDSAWをマイクロストリップラインに挿入するに際しては、SAWデバイスDSAWのサセプタンスBの傾斜一定部を図19で示すBaとBbの間とする。このようにSAWデバイスDSAWを用いると、第1実施形態における、コンデンサCをイミタンス素子として2つのマイクロストリップラインの間に挿入する場合に比べて、より急峻な遮断特性を有する帯域フィルタを得ることができる。
ここで、マイクロストリップラインとSAWデバイスを同一基板上に形成する場合には、基板上にマイクロストリップラインのパターンを形成するとともに、イミタンス素子であるSAWデバイスについては規則性のすだれ状電極(IDT)のパターンを形成する。
よって、例えば、マイクロストリップラインとSAWデバイスDSAWとを別部材とする場合には、マイクロストリップライン部分は同一形状とし、SAWデバイスDSAWのみを交換することによって容易に帯域幅を変化させることができる。また、マイクロストリップラインとSAWデバイスDSAWとを同一基板に形成する場合には、マイクロストリップラインのパターン、または/および、SAWデバイスDSAWのすだれ状電極のパターンを変更することによって高周波フィルタの特性を変更することができる。
上述した第1実施形態ないし第3実施形態において示された、2以上の技術を任意に組み合わせることによって、新たな実施形態として実施することが可能である。