JP5664602B2 - ショートアーク型水銀ランプ - Google Patents
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Description
特開2003−234083号公報(特許文献1)には、かかるショートアーク型水銀ランプの一例が開示されていて、希ガスとして、アルゴン、クリプトン、キセノンをそれぞれ封入して構成したものが記載されている。
この文献によると、これらの希ガスをそれぞれ同じ圧力で封入したランプでは、同様の条件で点灯した場合、アルゴンを封入したものが最も高い放射照度が得られることが示唆されている。
このように希ガスの種類によって放射照度が変動する理由は、簡単に言えば、ガスの熱伝導率による違いからもたらされるものであって、熱伝導率が高い方が水銀アークを収縮させることができるため、アークが細くなり、これによって電流密度が高くなって、より高輝度な光源が得られる、というわけである。この熱伝導率は、アルゴン>クリプトン>キセノンの順に高く、従って、照射面の放射照度においてもこの順に高くなる。
このような知見から、従来、ショートアーク型水銀ランプには、高い輝度を実現できるとしてアルゴンを封入することが一般的であった。
本発明者らが、このランプの急激な放射照度の低下の原因について鋭意検証したところ、ランプ電流が150A以下で点灯すると問題ないが、これが例えば180A以上になると顕著に発生することが判明した。
そして、放射照度維持率の低下が生じたランプには、図8で示されるように、陽極の先端面に凹凸Xが形成されていることが確認された。この理由は、アルゴンガスによりアークが絞られることで、アークが陽極先端面において局所的に集中して電流密度が高くなり、先端面が過熱して熱応力が発生することで、変形したためである、と考察される。
このような現象は、アルゴン以外の、クリプトン、キセノンを封入したランプにおいては観測されていない。
すなわち、単にランプの寿命を延ばすことに主眼を置くと、アルゴンよりも熱伝導率が低い希ガスとして、例えばクリプトンを用いれば、この問題を解消することができる。
しかしながらその場合、先述したように、アルゴンのようにアークを細く絞ることができないので、照射面で高い放射照度が得られず、必要な初期放射照度が得られない、という別の問題が生じる。
しかも、希ガスとしてクリプトンを封入することで、アルゴンを封入したショートアーク型水銀ランプと比較して、アークが絞られて電流密度が高くなるという作用が小さくなるので、このようなアークが絞られないという作用を利用して、陽極先端にアークが集中することを緩和して、陽極材料であるタングステンの蒸発を抑制し、放射照度が急激に低下することを防止することができるようになる。
このように、本発明によれば、希ガスとしてクリプトンを封入したことにより、アルゴンを封入したものと同等以上の高い初期放射照度を得ることができるとともに、陽極形状を所定の形状とすることにより放射照度維持率の急激な低下がなく、長い使用寿命のランプを得ることができるようになる。
ショートアーク型水銀ランプ1は、例えば石英ガラス等の透光性材料より構成される発光管2を備え、該発光管2は、中央部に形成された膨出した形状を有する発光部3と、該発光部3の両端からそれぞれ外方向に伸びる円筒状の封止部4、4とを備えている。また封止部4、4の端部には口金5、5が接続されている。
そして、前記発光管2の内部には水銀及びクリプトンが封入されると共に、一対の陰極6と陽極7が対向配置されており、この陰極6と陽極7は、いずれもタングステンを主成分として構成され、発光部3の中央において所定距離だけ離間して対向配置されている。
そして、本発明においては、封入される希ガスとして、クリプトン(Kr)が選択されていて、好ましくは0.25Mpa(2.5atm)以上封入される。
ところで、図7を用いて説明したように、アルゴンを封入した従来のショートアーク型水銀ランプに対して、単に希ガスをクリプトンに置き換えた場合、アークは広がることになる。このため、上記したような光学系に組み込まれた場合、ランプからの光を反射ミラーで集光する際、ミラーの焦点位置に収束する放射量が低下することになり、理論的にはランプの効率が低下することになる。
ところで、この種のショートアーク型水銀ランプでは、陰極の先端部の先端面は高い電流密度を得て、高輝度を得るために、陽極に比べて充分に小さな径のものが使用されており、また、先端のテーパー角も40〜70°と陽極に比べて小さくされている。このため、陰極形状を変更しても大幅な利用効率アップへの寄与は小さい。そこで、本発明では、陽極形状に着目して光の利用効率の向上を意図したものである。
以下、本発明にかかる陽極の形状について詳細に説明する。
しかして、前記一対の陰極6と陽極7の離間距離、すなわち極間距離d0は、この種のショートアーク型水銀ランプにおいてはランプ入力などの仕様によって規定されていて、該極間距離d0(mm)は同じ仕様のランプの場合、一定である。
このため、陽極7の寸法上変更可能な構成は、陽極先端面7aの大きさ、つまり、半径r(mm)と、軸方向横断面において、テーパー面(陽極先端における傾斜面)7bと電極軸心Lとのなす角度(以下、傾斜角度ともいう)θ(°)となるので、これらの条件を変更した場合に、クリプトンを封入したランプでの効率が良好となる陽極形状について検討することとした。なお、図2を参照してテーパー面7bの傾斜角度θを説明すると、電極軸心Lとテーパー面7bの稜線に沿った線分Aとの交点をOとしたとき、この交点Oを頂点として電極軸Lと線分Aのなす角度である。
ここで、陰極先端と交点Oの距離dは、光軸上の点Oから放射される光が陽極で遮光されずに、有効に利用できる立体角Ω=2πcosθ以上を満足する仮想極間距離であり、実体的な極間距離d0に対してこの仮想極間距離dが占める割合が大きいほど、理論上利用できる放射光が多くなる。
極間距離d0は、d0=d1+dであるので、d0=r/tanθ+dとなる。ここで、陰極先端と交点Oの距離dが、極間距離d0において占める割合(d/d0)を表すと次式で表される。
(式1) d/d0=1−r/(d0×tanθ)
但し、
r:陽極先端面の半径(mm)
θ:陽極テーパー面の電極軸心に対する傾斜角度θ(°)
d0:陰極と陽極の離間距離(極間距離)(mm)
d:電極軸心上の点Oから放射される光が陽極で遮光されずに、利用できる
立体角Ω=2πcosθ以上を満足する仮想極間距離(mm)
無論、この例においても光軸上の点Oから放射される光が陽極で遮光されずに、有効に利用できる立体角Ω=2πcosθ1以上を満足する仮想極間距離d(mm)は、d=d0−(r/tanθ1)となる。
図3に示す陽極構造と図2に示す陽極構造を比較すると明らかなように、テーパー面7bの電極軸心(L)に対する傾斜角度(θ1)が大きいほど、仮想陽極先端領域Sが小さくなり、仮想極間距離d(mm)を大きな割合で形成することができる。
無論、この例においても光軸上の点Oから放射される光が陽極で遮光されずに、有効に利用できる立体角Ω=2πcosθ以上を満足する仮想極間d(mm)はd=d0−(r1/tanθ)となる。
図4と図2に示す陽極構造を比較すると明らかなように、陽極先端面7aの半径r1(mm)が小さいほど仮想陽極先端領域Sが小さくなって、仮想極間距離d(mm)を大きな割合で形成することができる。
なお、d/d0を大きくするためには上述したように、θを大きくすることと、rを小さくすることの2つの方法がある。つまり、θ=90°又はr=0を満足した場合、理論上d/d0=1となり最大となる。
しかしながら、実際のランプにおいてはd/d0=1となることはない。この理由は次の通りである。
次に、陽極先端面7aの半径r(mm)の大きさは、陽極先端面7aの電流密度が10(A/mm2)以上となった場合、電極の溶けが発生しやすく、やはりこれが発光部2に付着し、放射照度維持率が悪くなることが経験的に知られている。
このような理由から、半径r及びテーパー面の傾斜角度θに関しては、この種のショートアーク型水銀ランプに適用可能な範囲を逸脱しないような上限範囲として、適宜に選択する必要がある。
従って、本発明者らは、上記経験的に定められた陽極の数値範囲を超えることなく、可能な範囲でパラメータを変更し、高い初期放射照度が得られる形状について検証実験を行った。
<ランプ仕様(1)>
発光管 材質:石英ガラス
陽極 材質:タングステン、最大径部直径:φ40mm
極間距離:8.5mm
入力電力:7.5kW
ランプ電流:200A
水銀密度:2.4mg/cc
希ガス ガス種:アルゴン(Ar)又はクリプトン(Kr)
封入圧力(静圧換算):0.46MPa(4.5atm)
ランプ1〜ランプ5は、いずれもアルゴンガスを封入したショートアーク型水銀ランプである。
ランプ1は従来技術にかかるランプであり、陽極先端面の半径rは6mm、先端のテーパー部の傾斜角度θは60°である。
このランプ1に関して上述した(式1)を適用してd/d0を算出したところ0.59であった。
図5においては、ランプ2〜5の初期放射照度は、ランプ1のものを基準(100)とした相対値で示されている。その結果を見ると、ランプ5を除いて初期放射照度はランプ1と同等もしくはそれ以上であって、これらランプ2〜4について初期放射照度は問題がない。
しかしながら、放射照度維持率を見ると、ランプ1〜5のいずれも、所定時間経過後に放射照度の急低下が発生し、長い使用寿命を得ることができなかった。
ランプ6の陽極形状は、従来技術のアルゴン封入のランプ1と同一であって、即ち、陽極先端面7aの半径r=6mm、先端テーパー面7bの傾斜角度θ=60°であり、このランプ6では、d/d0は、ランプ1と同じ0.59である。
ランプ7、8は、陽極先端のテーパー面の傾斜角度θ=60°であって、ランプ1と同等であるが、先端面の半径rがそれぞれ異なり、ランプ7ではr=3.5mm、ランプ8ではr=5mmである。これらランプにおけるd/d0は、それぞれ0.76と0.66である。
ランプ9は、先端面の半径r=6mmとランプ1と同等であるが、テーパー面の傾斜角度θ=65°としたものであり、このランプ9の場合、d/d0は0.67となる。
ランプ6は、クリプトンを用いたために初期放射照度がランプ1よりも低下してしまい、同一の放射量を得ることができなかった。つまり、陽極形状が同一のランプでは、クリプトンを封入したランプは、アルゴンを封入したランプとの比較で十分な初期照度が得られないことが実証されている。
ランプ7は、d/d0=0.76であって、先に述べたように、理論上、利用できる光の量がランプ1やランプ6に比べて大きくなることになる。実際にその結果をみると、このランプ7の初期放射照度は相対値で103となり、ランプ1を上回る放射照度が得られた。
ランプ8においても、初期放射照度は相対値で100であり、ランプ1と同等の放射照度を得ることができた。
また、ランプ9においても、その初期放射照度は相対値で100であり、ランプ1のものと同じ初期放射照度が得られることが判明した。
以上により、ランプ7〜9においては、いずれも従来技術によるランプ1と同等以上の初期放射照度が得られることが分かる。
次いで、放射照度維持率を検証したところ、クリプトンを封入したランプ6〜9においては、いずれも、1500時間経過後においても放射照度の急激な低下が見られず、放射照度維持率は、アルゴン封入のランプ1〜5との比較において、長時間に及んで高水準が維持されて、長い使用寿命が得られることが判明した。
<ランプ仕様(2)>
発光管 材質:石英ガラス
陽極 材質:タングステン
形状寸法:最大径部直径:φ35mm、先端面半径(r):4.4mm
電極間距離(d0):7.5mm
入力電力:6.5kW
ランプ電流:215A
水銀密度:1.8mg/cc
希ガス ガス種:クリプトン(Kr)
封入圧力(静圧換算):0.36MPa(3.5atm)
テーパー面傾斜角度(θ):60°
以上の仕様で作製した実施例のショートアーク型水銀ランプでは、d/do(即ち、1−r/(do×tanθ))の値は、0.66である。
このランプの初期放射照度及び放射照度維持率を測定した。
比較例のアルゴンガスを封入したショートアーク型水銀ランプ(図中△印)では、点灯時間が1500時間を経過すると放射照度が初期放射照度の30%近くにまで急激に低下した。
一方、本発明の実施例のクリプトンガスを封入したショートアーク型水銀ランプ(図中■印)では、比較例ランプと同等の初期放射照度が得られるとともに、点灯時間が3000時間を経過しても、初期放射照度に対して70%以上の高い放射照度を維持することができた。
2 発光管
3 発光部
4 封止部
5 口金
6 陰極
7 陽極
7a 先端面
7b テーパー部
r 先端面の半径
θ テーパー部の傾斜角度
d 極間距離
d0 仮想極間距離
S 仮想陽極先端領域
Claims (1)
- 発光管内に陰極と陽極とが対向配置さるとともに、該発光管内に水銀及び希ガスが封入され、水銀が0.8〜5.0mg/cm 3 封入され、ランプ電流180A以上で点灯されるショートアーク型水銀ランプにおいて、
希ガスとして、クリプトンが0.25MPa以上封入され、
前記陽極は先端側にテーパー部が形成されてなるとともに、前記陽極の先端には平坦な先端面が形成されてなり、
前記陽極先端面の半径をr(mm)、
前記陽極の軸方向横断面において、電極軸心とテーパー面のなす角度をθ(°)、
前記陰極と前記陽極間の離間距離をd0(mm)としたとき、
1−r/(do×tanθ)≧0.66を満足することを特徴とするショートアーク型水銀ランプ。
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