JP5657412B2 - アルカリ形燃料電池システム - Google Patents

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Description

本発明は、アルカリ形燃料電池が有するカソード極の湿度(水分含有量)を最適に調整することができるアルカリ形燃料電池システムに関する。
燃料電池は、小型軽量化や高出力密度を実現できる可能性を有していることから、携帯用電子機器用の新規電源や家庭用コジェネレーションシステムなどへの用途展開が精力的に進められている。燃料電池は、発電主要部として、電解質膜をアノード極およびカソード極で挟持した構成の膜電極複合体(MEA)を備えており、電解質膜の種類によって、固体高分子形燃料電池(直接形燃料電池を含む)、リン酸形燃料電池、溶融炭酸塩形燃料電池、固体酸化物形燃料電池、アルカリ形燃料電池などに分類される。
アルカリ形燃料電池は、電解質膜としてアニオン交換膜を用いた、電荷キャリアが水酸化物イオン(OH-)である燃料電池である(たとえば、特許文献1参照)。アルカリ形燃料電池においては、次のような電気化学反応により電力が取り出される。すなわち、カソード極に酸化剤および水(この水は、アノード極で生じ、電解質膜を透過した水であり得る)を供給すると、下記式(1):
カソード極:1/2O2+H2O+2e → 2OH- (1)
で表される触媒反応によりOH-が生成される。このOH-は、水分子との水和状態で電解質膜を介してアノード極側に伝達される。一方、アノード極では、供給された還元剤(燃料)、たとえばH2ガスとカソード極から伝達されたOH-とが、下記式(2):
アノード極:H2+2OH- → 2H2O+2e (2)
で表される触媒反応を起こし、水および電子を生成する。
特開平11−135137号公報
上記式(1)に示されるように、アルカリ形燃料電池のカソード極では、反応により水が消費されるが、その水の消費量はアノード極−カソード極間に流れる電流量の増減に応じて増減し、したがって、カソード極の湿度(水分含有量)も増減することになる。このようなカソード極の湿度変動は、燃料電池の出力電圧の低下を招き得る。すなわち、カソード極の湿度が過度に高くなると、水がカソード極にて水膜状となってカソード極の細孔を閉塞させ、酸化剤の供給が阻害される、いわゆる「フラッディング」が生じる。また、湿度が過度に低くなると、電解質膜が乾燥した状態(以下、「ドライアップ」ともいう)になることによって電解質膜のアニオン伝導抵抗が増加する。「フラッディング」および「ドライアップ」はともに燃料電池の出力電圧を低下させる要因となる。
本発明の目的は、アルカリ形燃料電池が有するカソード極の湿度(水分含有量)を最適に調整することにより、高い出力電圧を安定して維持することのできるアルカリ形燃料電池システムを提供することにある。
アルカリ形燃料電池のカソード極に供給される酸化剤の流量(カソード極に導入される直前の流量)をNt’、その酸化剤の湿度をφw’(ただし、0≦φw’≦1)とすると、この酸化剤の水分含有量はφw’×Nt’である。そして、カソード極内で消費される水の量をNr’とすると、カソード極内での酸化剤の流量はおよそNt’であり、その水分含有量はφw’×Nt’−Nr’と計算される。そうすると、カソード極内での酸化剤の湿度(カソード極の湿度と実質的に同じとみなすことができる。)は、下記式(3):
カソード極内での酸化剤の湿度=(φw’×Nt’−Nr’)/Nt
=φw’−Nr’/Nt’ (3)
と算出できる。
上記式(3)は、カソード極の湿度が、酸化剤の流量Nt’および/またはカソード極に導入される酸化剤の湿度φw’の調整により制御可能であることを意味している。また、アノード極−カソード極間に流れる電流量が増加してカソード極内で消費される水の量Nr’が増加すると、カソード極の湿度が低下することもわかる。本発明は、本発明者らによる以上のような着想に基づき、さらに種々の検討を重ねてなされたものである。
すなわち本発明は、アルカリ形燃料電池のカソード極の湿度を最適に調整することができるアルカリ形燃料電池システムを提供するものであり、本発明のアルカリ形燃料電池システムは、アノード極、アニオン伝導性電解質膜およびカソード極をこの順で備えるアルカリ形燃料電池を含む燃料電池部と、アノード極に還元剤を供給するための還元剤供給部と、カソード極に酸化剤を供給するための酸化剤供給部と、カソード極に供給される酸化剤の流量および/または湿度を調整するための調整部と、アルカリ形燃料電池のアノード極とカソード極との間を流れる電流値の単位時間当たりの変化量Δi(以下、単にΔiという)を少なくとも検出する検出部と、調整部および検出部に接続され、検出部による検出結果に基づいて、調整部による酸化剤の流量および/または湿度の調整を制御するための制御部とを備えるものである。
上記検出部は、アルカリ形燃料電池の出力電圧値の単位時間当たりの変化量ΔV(以下、単にΔVという)および抵抗値の単位時間当たりの変化率ΔR(以下、単にΔRという)をさらに検出するものであることが好ましい。
本発明のアルカリ形燃料電池システムは、たとえば次のような制御によりカソード極の湿度の調整を行なう。
(1)検出部によって検出されたΔiが所定値Ai(ただし、Aiは負の値である。)より小さい場合には、制御部により、調整部が酸化剤の流量の低減および/または酸化剤の湿度の低減を行なうように制御し、検出部によって検出されたΔiが所定値Bi(ただし、Biは正の値である。)より大きい場合には、制御部により、調整部が酸化剤の流量の増加および/または酸化剤の湿度の増加を行なうように制御する。Δiの所定値Aiは、好ましくは−50〜−25〔mA/cm2・min〕の範囲内であり、所定値Biは、好ましくは+25〜+50〔mA/cm2・min〕の範囲内である。
(2)検出部によって検出されたΔiがAi〜Biの範囲内である場合であって、かつ、検出部によって検出されたΔRが所定値CR(ただし、CRは正の値である。)以下である場合には、制御部により、検出部がΔVを検出するように制御するとともに、該ΔVが所定値DV(ただし、DVは負の値である。)未満である場合には、調整部が酸化剤の流量の低減および/または酸化剤の湿度の低減を行なうように制御する。一方、検出部によって検出されたΔRが所定値CRより大きい場合には、制御部により、調整部が酸化剤の流量の増加および/または酸化剤の湿度の増加を行なうように制御する。ΔRの所定値CRは、好ましくは+5〜+20〔%/min〕の範囲内であり、ΔVの所定値DVは、好ましくは−50〜−2〔mV/min〕の範囲内である。
(3)検出部によって検出されたΔiがAi〜Biの範囲内である場合であって、かつ、検出部によって検出されたΔVが所定値DV(ただし、DVは負の値である。)未満である場合には、制御部により、検出部がΔRを検出するように制御するとともに、該ΔRが所定値CR(ただし、CRは正の値である。)以下である場合には、調整部が酸化剤の流量の低減および/または酸化剤の湿度の低減を行なうように制御する。一方、検出部によって検出されたΔRが所定値CRより大きい場合には、制御部により、調整部が酸化剤の流量の増加および/または酸化剤の湿度の増加を行なうように制御する。ΔVの所定値DVは、好ましくは−50〜−2〔mV/min〕の範囲内であり、ΔRの所定値CRは、好ましくは+5〜+20〔%/min〕の範囲内である。
アルカリ形燃料電池は、アノードセパレータ、アノード極、アニオン伝導性電解質膜、カソード極およびカソードセパレータをこの順で備えるものであることができる。また、燃料電池部は、直列または並列に電気的に接続された2以上のアルカリ形燃料電池を含むことができる。
酸化剤供給部は、たとえば、酸化剤を保持する酸化剤供給源とアルカリ形燃料電池のカソードセパレータとを接続する配管を含むものであることができる。この場合、調整部は、該配管に備えられた流量調整弁および/または調湿器であることができる。
本発明のアルカリ形燃料電池システムに用いられる還元剤は好ましくは水素ガスであり、酸化剤は好ましくは空気である。
本発明によれば、アルカリ形燃料電池が有するカソード極の湿度(水分含有量)を最適に調整することができ、もって高い出力電圧を安定して維持することができる。
本発明に係るアルカリ形燃料電池システムの構成の一例を示す概略図である。 本発明に係るアルカリ形燃料電池システムに用いるアルカリ形燃料電池の好ましい一例を示す概略断面図である。 本発明に係るアルカリ形燃料電池システムの構成の他の一例を示す概略図である。 本発明に係るアルカリ形燃料電池システムによるカソード極の湿度制御の一例を示すフローチャートである。 本発明に係るアルカリ形燃料電池システムによるカソード極の湿度制御の別の一例を示すフローチャートである。 本発明に係るアルカリ形燃料電池システムによるカソード極の湿度制御の別の一例を示すフローチャートである。 本発明に係るアルカリ形燃料電池システムによるカソード極の湿度制御の別の一例を示すフローチャートである。 本発明に係るアルカリ形燃料電池システムによるカソード極の湿度制御の別の一例を示すフローチャートである。 本発明に係るアルカリ形燃料電池システムによるアノード極の湿度制御の一例を示すフローチャートである。 本発明に係るアルカリ形燃料電池システムによるアノード極の湿度制御の別の一例を示すフローチャートである。 本発明に係るアルカリ形燃料電池システムによるアノード極の湿度制御の別の一例を示すフローチャートである。 本発明に係るアルカリ形燃料電池システムによるアノード極の湿度制御の別の一例を示すフローチャートである。 本発明に係るアルカリ形燃料電池システムによるアノード極の湿度制御の別の一例を示すフローチャートである。
<アルカリ形燃料電池システム>
図1は、本発明に係るアルカリ形燃料電池システム100の構成の一例を示す概略図である。アルカリ形燃料電池システム100は、アルカリ形燃料電池を含む燃料電池部101;燃料電池部101に接続され、アルカリ形燃料電池のアノード極に還元剤を供給するための還元剤供給部102;燃料電池部101に接続され、アルカリ形燃料電池のカソード極に酸化剤を供給するための酸化剤供給部103;酸化剤供給部103に接続され、カソード極に供給される酸化剤の流量および/または湿度を調整するための調整部104;燃料電池部101に接続され、アルカリ形燃料電池のアノード極とカソード極との間を流れる電流値の単位時間当たりの変化量Δiを少なくとも検出する検出部105;ならびに、調整部104および検出部105に接続され、検出部105による検出結果に基づいて、調整部104による酸化剤の流量および/または湿度の調整を制御するための制御部106を含む。
検出部105は、電流値の単位時間当たりの変化量Δiのほか、アルカリ形燃料電池の出力電圧値の単位時間当たりの変化量ΔVおよび抵抗値の単位時間当たりの変化率ΔRをさらに検出するものであることが好ましい。
上記構成のアルカリ形燃料電池システムによれば、Δi、さらにはΔVおよびΔRのような電池特性を検出し、当該検出結果に基づいてリアルタイムにアルカリ形燃料電池のカソード極に供給される酸化剤の流量および/または湿度の最適化を行なうことができるため、カソード極の湿度が最適化され、結果、上述したカソード極への酸化剤の供給を阻害させる「フラッディング」および電解質膜の水分が過少となりアニオン伝導抵抗を増加させる「ドライアップ」の未然防止または改善を図ることが可能になる。これにより、安定して高い出力電圧を維持することができる。
(燃料電池部)
燃料電池部101はアルカリ形燃料電池から構成される。アルカリ形燃料電池とは、電解質膜としてアニオン伝導性電解質膜(アニオン交換膜)を備えた、電荷キャリアが水酸化物イオン(OH-)である燃料電池である。アルカリ形燃料電池は、アノード極、アニオン伝導性電解質膜およびカソード極をこの順で有する膜電極複合体(MEA)を発電主要部として備える。
図2は、本発明のアルカリ形燃料電池システムに用いるアルカリ形燃料電池の好ましい一例を示す概略断面図であり、アルカリ形燃料電池の単セル構造を示したものである。図2に示されるアルカリ形燃料電池200は、アノード極202、アニオン伝導性電解質膜201およびカソード極203をこの順で有する膜電極複合体(MEA)210と、アノード極202の外面に積層されるアノードセパレータ204と、カソード極203の外面に積層されるカソードセパレータ205とを備える。アノードセパレータ204およびカソードセパレータ205のMEA側表面には、それぞれ還元剤、酸化剤をアノード極202、カソード極203に導入するための還元剤流路206、酸化剤流路207が設けられている。
(1)アニオン伝導性電解質膜
アニオン伝導性電解質膜201としては、OH-イオンを伝導でき、かつ、アノード極202とカソード極203との間の短絡を防止するために電気的絶縁性を有する限り特に制限されないが、アニオン伝導性固体高分子電解質膜を好適に用いることができる。アニオン伝導性固体高分子電解質膜の好ましい例は、たとえば、パーフルオロスルホン酸系、パーフルオロカルボン酸系、スチレンビニルベンゼン系、第4級アンモニウム系の固体高分子電解質膜(アニオン交換膜)が挙げられる。また、ポリアクリル酸に濃厚水酸化カリウム溶液を含浸させた膜やアニオン伝導性固体酸化物電解質膜をアニオン伝導性電解質膜201として用いることもできる。
アニオン伝導性電解質膜201は、アニオン伝導率が10-5S/cm以上であることが好ましく、パーフルオロスルホン酸系高分子電解質膜などのアニオン伝導率が10-3S/cm以上の電解質膜を用いることがより好ましい。アニオン伝導性電解質膜201の厚みは、通常5〜300μmであり、好ましくは10〜200μmである。
(2)アノード極およびカソード極
アニオン伝導性電解質膜201の一方の面に形成されるアノード極202および他方の面に形成されるカソード極203には、触媒(それぞれアノード触媒、カソード触媒)と電解質(それぞれアノード電解質、カソード電解質)とを含有する多孔質層からなる触媒層(それぞれアノード触媒層、カソード触媒層)が少なくとも設けられる。これらの触媒層は、アニオン伝導性電解質膜201の表面に接して積層される。アノード触媒は、アノード極202に供給された還元剤とOH-とから、水および電子を生成する反応を触媒する。アノード電解質は、アニオン伝導性電解質膜201から伝導してきたOH-を触媒反応サイトへ伝導する機能を有する。一方、カソード触媒は、カソード極203に供給された酸化剤および水と、アノード極202から伝達された電子とから、OH-を生成する反応を触媒する。カソード電解質は、生成したOH-をアニオン伝導性電解質膜201へ伝導する機能を有する。
アノード触媒およびカソード触媒としては、従来公知のものを使用することができ、たとえば、白金、鉄、コバルト、ニッケル、パラジウム、銀、ルテニウム、イリジウム、モリブデン、マンガン、これらの金属化合物、およびこれらの金属の2種以上を含む合金からなる微粒子が挙げられる。合金は、白金、鉄、コバルト、ニッケルのうち少なくとも2種以上を含有する合金が好ましく、たとえば、白金−鉄合金、白金−コバルト合金、鉄−コバルト合金、コバルト−ニッケル合金、鉄−ニッケル合金等、鉄−コバルト−ニッケル合金が挙げられる。アノード触媒とカソード触媒とは同種であってもよいし、異種であってもよい。
アノード触媒およびカソード触媒は、担体、好ましくは導電性の担体に担持されたものを用いることが好ましい。導電性担体としては、たとえば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、黒鉛、活性炭等の導電性カーボン粒子が挙げられる。また、気相法炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ、カーボンナノワイヤー等の炭素繊維を用いることもできる。
アノード電解質およびカソード電解質としては、アニオン伝導性固体高分子電解質膜を構成する電解質と同様のものを用いることができる。アノード触媒層およびカソード触媒層における触媒と電解質との含有比は、重量基準で、通常5/1〜1/4であり、好ましくは3/1〜1/3である。
アノード極202およびカソード極203はそれぞれ、アノード、カソード触媒層上に積層されるアノードガス拡散層、カソードガス拡散層を備えていてもよい。これらのガス拡散層は、アノード極202、カソード極203に供給される還元剤または酸化剤を面内において拡散させる機能を有するとともに、アノード触媒層、カソード触媒層と電子の授受を行なう機能を有する。
アノードガス拡散層およびカソードガス拡散層は、導電性を有する多孔質層であることができ、具体的には、たとえば、カーボンペーパー;カーボンクロス;カーボン粒子を含有するエポキシ樹脂膜;金属または合金の発泡体、焼結体または繊維不織布などであることができる。アノードガス拡散層およびカソードガス拡散層の厚みはそれぞれ、厚み方向に対して垂直な方向(面内方向)への還元剤または酸化剤の拡散抵抗を低減させるために、10μm以上であることが好ましく、厚み方向への拡散抵抗を低減させるために、1mm以下であることが好ましい。アノードガス拡散層およびカソードガス拡散層の厚みは、より好ましくは100〜500μmである。
(3)アノードセパレータおよびカソードセパレータ
図2に示されるように、アルカリ形燃料電池は、通常、膜電極複合体210のアノード極202上に配置される、還元剤をアノード極202へ導入するためのアノードセパレータ204およびカソード極203上に配置される、酸化剤をカソード極203に導入するためのカソードセパレータ205を備える。アノードセパレータ204およびカソードセパレータ205はそれぞれ、膜電極複合体210側の面に還元剤または酸化剤を流通させるための溝からなる流路(それぞれ還元剤流路206、酸化剤流路207)を備えるものであることができる。当該流路は、1または2以上の溝から構成することができ、その形状は特に制限されず、ライン状、サーペンタイン状等であることができる。後述する還元剤供給部と還元剤流路206とを接続することにより、還元剤を還元剤流路206に流通させて、アノード極202に還元剤を供給することができる。同様に、後述する酸化剤供給部と酸化剤流路207とを接続することにより、酸化剤を酸化剤流路207に流通させて、カソード極203に酸化剤を供給することができる。
アノードセパレータ204およびカソードセパレータ205の材質は特に制限されず、たとえば、カーボン材料、導電性高分子、各種金属、ステンレスに代表される合金などの導電性材料のほか、各種プラスチック材料などの非導電性材料が挙げられる。なかでも、アノードセパレータ204およびカソードセパレータ205に集電機能を付与できることから、導電性材料を用いることが好ましい。非導電性材料を用いる場合には、アノード極およびカソード極に別途、触媒層やガス拡散層上に積層される上記導電性材料からなる集電体(集電層)が設けられる。あるいは、アノードセパレータ204およびカソードセパレータ205を導電性材料から構成し、それらの外側または膜電極複合体210と各セパレータとの間に集電体を別途設けてもよい。アノードセパレータ204とカソードセパレータ205(またはアノード集電体とカソード集電体)とを電気的に接続することにより、アノード極とカソード極との電気的接続を行なうことができる。
還元剤(燃料)としては、たとえば、H2ガス、炭化水素ガス、アンモニアガスなどを用いることができる。なかでも、H2ガスを用いることが好ましい。酸化剤としては、たとえば、O2ガスや、空気等のO2を含むガスなどを用いることができる。なかでも、空気が好ましく用いられる。
燃料電池部101は、アルカリ形燃料電池を2以上備えることができる。2以上のアルカリ形燃料電池は、互いに直列に電気的接続されていてもよいし、並列に電気的接続されていてもよく、あるいはこれらの両者の電気的接続を含んでいてもよい。たとえば、図2に示されるような単セルの複数を直列に積層した燃料電池スタックや、図2に示されるような単セルの複数を同一平面上に配置し、これらを並列に電気的接続した平面状集積電池、および該平面状集積電池の複数を直列に積層した燃料電池スタックなどを挙げることができる。
(還元剤供給部および酸化剤供給部)
還元剤供給部102は、アルカリ形燃料電池のアノード極に還元剤を供給するための部位であり、たとえば、還元剤供給源(還元剤収容タンクなど)とアルカリ形燃料電池のアノード側(より具体的にはアノードセパレータの還元剤流路)とを接続する配管であることができる。また、酸化剤供給部103は、アルカリ形燃料電池のカソード極に酸化剤を供給するための部位であり、たとえば、酸化剤供給源(酸化剤収容タンクなど)とアルカリ形燃料電池のカソード側(より具体的にはカソードセパレータの酸化剤流路)とを接続する配管であることができる。還元剤供給部102および酸化剤供給部103の材質は特に制限されず、高分子材料、金属、合金などであってよい。還元剤供給部102および酸化剤供給部103には、必要に応じて、還元剤または酸化剤の流動を促進するポンプやファンが設けられてもよい。
(調整部)
調整部104は、酸化剤供給部103を流通する(カソード極に供給されることとなる)酸化剤の流量あるいは湿度、またはこれらの双方を調整するための部位であり、酸化剤供給部103に接続される。調整部104は、たとえば、酸化剤供給部103内に設けられた、酸化剤の流量を調整する流量調整弁あるいは酸化剤の湿度を調整する調湿器、またはこれらの双方であることができる。流量調整弁および調湿器は従来公知のものであってよい。
調湿器の具体例を挙げれば、たとえば次のようなものが挙げられる。
1)温度制御可能な水浴を有しており、酸化剤を水浴中の水中へバブリングさせることにより加湿を行なう装置。水浴の温度を調整することにより、酸化剤の湿度を増減させることができる。
2)酸化剤供給部103内を流通する酸化剤に対して、温度制御された霧状(スプレー状)の水を吹き込む装置。この装置においても水温の調整により、酸化剤の湿度を増減させることができる。
3)細孔に水を含む多孔質金属(発泡金属など)を備え、該細孔内に酸化剤を通過させることにより加湿を行なう装置。この装置においても多孔質金属の温度調整により、酸化剤の湿度を増減させることができる。
上記のような、温度により酸化剤の湿度を調整する調湿器を用いる場合には、調整部104は、調湿器の温度(水温、多孔質金属の温度等)を検知するための温度検知手段(温度センサ)を具備するとともに、燃料電池部101は、アルカリ形燃料電池内(特にカソード極)の温度を検知するための温度検知手段(温度センサ)を具備することが好ましい。この場合、後述する制御部106は、両者の温度検知手段による温度検知結果に基づき、調湿器が所望の温度調整を行なうように制御する。具体的には、調湿器の温度を高く/低くすることにより、酸化剤の湿度を増加/低下させることができる。
調整部104によって調節される「還元剤の湿度」は、下記式(4):
還元剤の湿度=〔調整部(調湿器)の温度における水の飽和蒸気圧〕/〔アルカリ形燃料電池の温度における水の飽和蒸気圧〕 (4)
により定義される。
なお、ある温度Tにおける水の飽和蒸気圧は、各温度における水の飽和蒸気圧を記録したテーブルを制御部106に備え、それを参照することにより求めたり、近似的に下記式(5):
温度Tにおける水の飽和蒸気圧=6.11×10{7.5T/(T+237.3)}〔hPa〕 (5)
を用いて算出したりすることで得ることができる。得られた酸化剤の湿度を参照することにより、調整部104による酸化剤の湿度調整を好適な範囲内で行なうことが可能になる。

調整部104は、任意で、調整後(または調整前後)の酸化剤の流量および/または湿度(すなわち、入口側湿度)を検知する検知器を有していてもよい。この場合、当該検知器の検知結果を参照することにより、調整部104による酸化剤の流量および/または湿度調整を好適な範囲内で行なうことが可能になる。
(検出部)
検出部105は、燃料電池部101に接続される、アルカリ形燃料電池の電池特性を検出するための部位である。検出部105は、アルカリ形燃料電池の電池特性として、アノード極とカソード極との間を流れる電流値の単位時間当たりの変化量Δiを少なくとも検出する。本発明において、このΔiは、アルカリ燃料電池がフラッディングまたはドライアップを生じる方向へ向かっているか否かを判断するためのパラメータである。したがって、Δiを検出し、これに応じて酸化剤の湿度を適切に調整することにより、フラッディングおよびドライアップを未然に防止することができる。
ここでΔiは、下記式(6):
Δi=(i1−i0)/(t1−t0)〔mA/cm2・min〕 (6)
〔i0は測定開始時間t0(min)における電流量(mA/cm2)であり、i1は測定終了時間t1における電流量である。〕
で表される。測定時間(すなわち、t1−t0)は、1〜10分の間で任意の測定時間を選択することができる。電流量i0、i1は、通常用いられている電流計やテスター等を用いて測定することができる。好ましくは、回路内に直接組み込んで電流量を常時測定することができる電流計が用いられる。
検出部105は、フラッディングまたはドライアップがすでに生じているか、あるいはそのような兆候が認められるかを判断するためのパラメータとして、アルカリ形燃料電池の出力電圧値の単位時間当たりの変化量ΔVおよび抵抗値の単位時間当たりの変化率ΔRをさらに検出するものであることが好ましい。ΔVはフラッディングを判断するために有効なパラメータであり、ΔRはドライアップを判断するために有効なパラメータである。
ΔVは、下記式(7):
ΔV=(V1−V0)/(t1−t0)〔mV/min〕 (7)
〔V0は測定開始時間t0(min)における電圧量(mV)であり、V1は測定終了時間t1における電圧量である。〕
で表される。測定時間(すなわち、t1−t0)は、1〜10分の間で任意の測定時間を選択することができる。電圧量V0、V1は、通常用いられている電圧計やテスター等を用いて測定することができる。好ましくは、回路内に直接、並列に組み込んで電圧量を常時測定することができる電圧計が用いられる。
また、ΔRは、下記式(8):
ΔR=100×(R1−R0)/[R0×(t1−t0)]〔%/min〕 (8)
〔R0は測定開始時間t0(min)における抵抗値(mΩ)であり、R1は測定終了時間t1における抵抗値(mΩ)である。〕
で表される。測定時間(すなわち、t1−t0)は、1〜10分の間で任意の測定時間を選択することができる。抵抗値R0、R1は、電気化学インピーダンス法(交流インピーダンス法)または電流遮断法により測定することができる。電気化学インピーダンス法とは、燃料電池に電子負荷装置(ポテンショガルバノスタット)と周波数応答解析装置(Frequency Response Analyzer, FRA)とを接続し、装置に内蔵した発信器から燃料電池に対し、所定の周波数正弦波信号を出力し、燃料電池から入力される電圧および電流信号を、印加した周波数領域でデータ変換して電気化学インピーダンスを得、複素数平面での実軸と得られたインピーダンススペクトルとの接点から抵抗値を求める方法である。また、電流遮断法とは、燃料電池に電子負荷装置を接続し、電流遮断時にはオーム損失がゼロになり、燃料電池の動作電圧が瞬間的に変化(電圧増加)することを利用して、燃料電池への電流遮断時に得られる電流・電圧波形から抵抗値を算出する方法である。
上記の電気化学インピーダンス法および電流遮断法によって得られる、本発明において測定される抵抗は、一般に「セル抵抗」、「溶液抵抗」または「膜抵抗」と呼ばれる、アルカリ形燃料電池を構成するアニオン伝導性電解質膜、電極(触媒、電解質等)およびセパレータなどの抵抗である。このセル抵抗は、とりわけアニオン伝導性電解質膜の抵抗の寄与が大きく、そしてアニオン伝導性電解質膜の抵抗値はアニオン伝導性電解質膜の乾燥状態に大きく依存する。一方、アニオン伝導性電解質膜以外の抵抗(電極およびセパレータなどの抵抗)は、アニオン伝導性電解質膜の乾燥状態に関わらず、ほぼ一定の値を示す。したがって、本発明では、上記の電気化学インピーダンス法または電流遮断法によって得られるセル抵抗値をもってアニオン伝導性電解質膜の乾燥状態を把握する。すなわち本発明では、セル抵抗値の単位時間当たりの変化率(ΔR)が所定値CR(ただし、CRは正の値である。)より大きい場合には、アニオン伝導性電解質膜の抵抗もまた、単位時間当たりの変化率が正の値を示している(抵抗が増加している)と評価され、アニオン伝導性電解質膜に「ドライアップ」が生じていると判断する。
なお、上述のように、燃料電池部101は、アルカリ形燃料電池を2以上備えることができる。この場合、Δi、または、Δi、ΔVおよびΔR値は、それぞれのアルカリ形燃料電池ごとに測定されてもよいが、接続関係や制御の容易性の観点から、2以上のアルカリ形燃料電池を1つの燃料電池とみなして、全体としてのΔi、または、Δi、ΔVおよびΔR値を測定することが好ましい。
(制御部)
制御部106は、検出部105から出力される検出結果信号(Δi、または、Δi、ΔVおよびΔR値)に基づいて、調整部104による酸化剤の流量および/または湿度の調整を制御する部位であり、調整部104および検出部105に接続される。調整部104および燃料電池部101が上述の温度検知手段を備える場合には、これらとも接続され、温度検知手段からの検知信号に基づいて、調湿器による温度調整を制御する。具体的には、制御部106は、検出部105から出力される検出結果信号を、後述するフローに従って逐次受信し、受信されたΔi、ΔV、ΔR値と、予め設定した所定値との大小関係を判定する(この点については後で詳述する。)。この判定結果に基づき、カソード極の湿度が最適になるよう調整部104の制御を行なう。制御部106としては、特に制限されず、たとえば、パーソナルコンピュータなどを用いることができる。
(その他の構成部位)
本発明のアルカリ形燃料電池システムは、還元剤供給部に接続され、アノード極に供給される還元剤の流量および/または湿度を調整するための、酸化剤供給部に接続される調整部(第1調整部)とは別異の調整部(第2調整部)をさらに備えることができる。
上記式(2)に示されるように、アルカリ形燃料電池のアノード極では、反応により水が発生するが、その水の生成量はアノード極−カソード極間に流れる電流量の増減に応じて増減し、したがって、アノード極の湿度(水分含有量)も増減することになる。このようなアノード極の湿度変動もまた、燃料電池の出力電圧の低下を招き得る。すなわち、アノード極の湿度が過度に高くなると、生成水がアノード極にて水膜状となってアノード極の細孔を閉塞させ、還元剤の供給が阻害される「フラッディング」が生じる。また、湿度が過度に低くなると、電解質膜が乾燥した状態(「ドライアップ」)になることによって電解質膜のアニオン伝導抵抗が増加する。「フラッディング」および「ドライアップ」はともに燃料電池の出力電圧を低下させる要因である。
したがって、高い出力電圧を安定して維持するためには、アノード極の湿度(水分含有量)をも最適に調整することが好ましい。
アルカリ形燃料電池のアノード極に供給される還元剤の流量(アノード極に導入される直前の流量)をNt、その還元剤の湿度をφw(ただし、0≦φw≦1)とすると、この還元剤の水分含有量はφw×Ntである。そして、アノード極内で生成する水の量をNrとすると、アノード極内での還元剤の流量はおよそNtであり、その水分含有量はφw×Nt+Nrと計算される。そうすると、アノード極内での還元剤の湿度(アノード極の湿度と実質的に同じとみなすことができる。)は、下記式(9):
アノード極内での還元剤の湿度=(φw×Nt+Nr)/Nt
=φw+Nr/Nt (9)
と算出できる。
上記式(9)は、アノード極の湿度が、還元剤の流量Ntおよび/またはアノード極に導入される還元剤の湿度φwの調整により制御可能であることを意味している。また、アノード極−カソード極間に流れる電流量が増加してアノード極内で生成する水の量Nrが増加すると、アノード極の湿度が上昇することもわかる。
図3は、本発明に係るアルカリ形燃料電池システムの構成の他の一例を示す概略図であり、還元剤供給部に接続され、アノード極に供給される還元剤の流量および/または湿度を調整するための第2調整部をさらに備えるアルカリ形燃料電池システムの構成を示したものである。より具体的に説明すると、図3に示されるアルカリ形燃料電池システム300は、アルカリ形燃料電池を含む燃料電池部301;燃料電池部301に接続され、アルカリ形燃料電池のアノード極に還元剤を供給するための還元剤供給部302;燃料電池部301に接続され、アルカリ形燃料電池のカソード極に酸化剤を供給するための酸化剤供給部303;酸化剤供給部303に接続され、カソード極に供給される酸化剤の流量および/または湿度を調整するための第1調整部304a;還元剤供給部302に接続され、アノード極に供給される還元剤の流量および/または湿度を調整するための第2調整部304b;燃料電池部301に接続され、アルカリ形燃料電池のアノード極とカソード極との間を流れる電流値の単位時間当たりの変化量Δiを少なくとも検出する検出部305;ならびに、第1および第2調整部304a,304bならびに検出部305に接続され、検出部305による検出結果に基づいて、第1調整部304aによる酸化剤の流量および/または湿度の調整、さらには第2調整部304bによる還元剤の流量および/または湿度の調整を制御するための制御部306を含む。
第2調整部304bは、第1調整部304a(図1における調整部104)と同様であることができ、たとえば、還元剤供給部302内に設けられた、還元剤の流量を調整する流量調整弁あるいは還元剤の湿度を調整する調湿器、またはこれらの双方であることができる。検出部305は、Δiのほか、アルカリ形燃料電池の出力電圧値の単位時間当たりの変化量ΔVおよび抵抗値の単位時間当たりの変化率ΔRをさらに検出するものであることが好ましい。
制御部306は、第1調整部304aによる酸化剤の流量および/または湿度の調整と、第2調整部304bによる還元剤の流量および/または湿度の調整とをそれぞれ独立に制御できるものである。第1調整部304aによる酸化剤の流量および/または湿度の調整を制御する制御部と、第2調整部304bによる還元剤の流量および/または湿度の調整を制御する制御部とを別個に備えていてもよい。
還元剤の流量および/または湿度の制御を行なう上記構成のアルカリ形燃料電池システムによれば、Δi、さらにはΔVおよびΔRのような電池特性を検出し、当該検出結果に基づいてリアルタイムにアルカリ形燃料電池のカソード極に供給される酸化剤の流量および/または湿度の最適化を行なうとともに、アノード極に供給される還元剤の流量および/または湿度の最適化を行なうことができるため、カソード極、さらにはアノード極の湿度が最適化され、その結果、フラッディングおよびドライアップの未然防止または改善をより効果的に図ることが可能になる。これにより、安定して高い出力電圧を維持することができる。アノード極の湿度制御の具体的手法については後で詳述する。
本発明のアルカリ形燃料電池システムは、上記で述べたもの以外の他の構成部位を含むことができる。たとえば、本発明のアルカリ形燃料電池システムは、通常、アルカリ形燃料電池のアノードセパレータを通過した還元剤を外部に排出するための還元剤排出部、および、カソードセパレータを通過した酸化剤を外部に排出するための酸化剤排出部を備える。還元剤排出部および酸化剤排出部はそれぞれ、アノードセパレータの還元剤流路、カソードセパレータの酸化剤流路の出口側端部に接続することができる。また、燃料電池部から排出された還元剤を放出できる程度まで希釈するための希釈部、あるいは、燃料電池部から排出された還元剤を還元剤供給部に戻すためのリサイクル用配管が設けられてもよい。
<カソード極の湿度制御>
次に、上記アルカリ形燃料電池システムによるカソード極の湿度制御について、実施の形態を示して詳細に説明する。なお、下記に示すカソード極の湿度制御フローは、アルカリ形燃料電池の稼動中、所定の時間間隔を設けて繰り返し行なうことが好ましい。
(第1の実施形態)
図4は、本実施形態のカソード極の湿度制御を示すフローチャートである。図4に示される湿度制御においては、まず、検出部105によりΔiが検出される。そして、検出されたΔi値が所定値Ai(ただし、Aiは負の値である。)より小さいか否か、および、所定値Bi(ただし、Biは正の値である。)より大きいか否か(すなわち、0を含むAi〜Biの範囲内でないかどうか)が、制御部106により判定される(ステップS401)。この判定結果に基づき、制御部106は、調整部104を次のように制御する。
〔1〕Δiが所定値Aiより小さい場合には、酸化剤の流量の低減および/または酸化剤の湿度の低減を行なうように制御する(ステップS402)。このような制御は、本発明では「Δi<Ai」との判定結果が「フラッディングを生じる方向へ向かっている」と判断されることに基づく。「Δi<Ai(電流値の低下)」は、カソード極での反応により消費される水量の低下、したがってカソード極の湿度の増加をもたらし、結果、フラッディングを生じやすいからである。
〔2〕Δiが所定値Biより大きい場合には、酸化剤の流量の増加および/または酸化剤の湿度の増加を行なうように制御する(ステップS403)。このような制御は、本発明では「Δi>Bi」との判定結果が「ドライアップを生じる方向へ向かっている」と判断されることに基づく。「Δi>Bi(電流値の上昇)」は、カソード極での反応により消費される水量の増加、したがってカソード極の湿度の低下をもたらし、結果、ドライアップを生じやすいからである。
このように、本実施形態に係るカソード極の湿度制御は、ドライアップおよびフラッディングの発生を未然に防止するために適用することができる。すなわち、本例の湿度制御は、Δiの検出結果に基づいて、フィードフォワード制御を行なうものである。また、本実施形態に係るカソード極の湿度制御は、電流変化のみを検出すればよいため、迅速な制御を行なうことができる点において有利である。
カソード極の湿度制御は、酸化剤の流量調整のみで行なってもよいし、酸化剤の湿度調整のみで行なってもよいし、流量および湿度の双方を調整することにより行なってもよい(以下に示す他の実施形態においても同様)。酸化剤の流量調整は、カソード極の湿度制御を容易、かつ迅速に行なうことができる点で有利である。一方、酸化剤の湿度調整は、カソード極の湿度制御を高い精度で行なうことができる点で有利である。
所定値Aiは、好ましくは−50〜−25〔mA/cm2・min〕の範囲内であり、より好ましくは−40〜−30〔mA/cm2・min〕の範囲内である。また、所定値Biは、好ましくは+25〜+50〔mA/cm2・min〕の範囲内であり、より好ましくは+30〜+40〔mA/cm2・min〕の範囲内である。
本実施形態において、検出されたΔi値がAi〜Biの範囲内である場合、少なくとも暫くはドライアップおよびフラッディングの発生はないと判断して、次回のΔiの検出時まで調整部104による酸化剤の流量および/または湿度の調整を実施しないこともできるが、Δi値がAi〜Biの範囲内である場合においても、ドライアップまたはフラッディングが生じている可能性があることから、後述する第2または第3の実施形態の制御フローを引き続き実施することが好ましい(第4の実施形態参照)。
なお、カソード極の湿度を増加させるために酸化剤の流量を増加させる場合においては、酸化剤供給のためにファンなどの補機を用いたときに補機の電力ロスが大きくなることから、酸化剤の流量を極端に大きくすることは避けることが好ましい。一方、カソード極の湿度を低減させるために酸化剤の流量を低減させる場合においては、要求される電力量を供給できなくなるおそれがあることから、酸化剤の流量を極端に小さくすることは避けることが好ましい。また、カソード極の湿度を増加させるために酸化剤の湿度を増加させる場合においては、酸化剤の湿度を極端に大きくすることは避けることが好ましい。カソード極の入口側の湿度が極端に高くなることによってカソード極の入口側と出口側との間で極端な湿度差が生じ、ひいては反応量に極端な差が生じて、燃料電池の劣化が生じやすくなるためである。このような適切な範囲内での酸化剤の流量および/または湿度の調整は、たとえば、上述した調整後(または調整前後)の酸化剤の流量および/または湿度を検知する検知器の検知結果に基づく制御により達成することができる。以上の酸化剤の流量および湿度の下限値および上限値に関する事項は、後述する他の湿度制御フローにおいても当てはまる。
(第2の実施形態)
図5は、本実施形態のカソード極の湿度制御を示すフローチャートである。図5に示される湿度制御においては、まず、検出部105によりΔiが検出される。そして、検出されたΔi値が0を含むAi〜Bi(AiおよびBiは上記と同じ意味である。)の範囲内であるか否かが、制御部106により判定される(ステップS501)。ΔiがAi〜Biの範囲内である場合、制御部106は、検出部105がΔRを検出するように制御する(なお、ΔiがAi〜Biの範囲内でない場合には、上記第1の実施形態に示される制御フローを実施すればよい)。そして、検出されたΔR値が所定値CR(ただし、CRは正の値である。)以下であるか否かが、制御部106により判定される(ステップS502)。この判定結果に基づき、制御部106は、調整部104等を次のように制御する。
〔1〕ΔRが所定値CR以下である場合には、制御部106は、検出部105がΔVを検出するように制御する。そして、検出されたΔV値が所定値Dv(ただし、Dvは負の値である。)未満であるか否かが、制御部106により判定される(ステップS503)。検出されたΔVが所定値Dv未満の場合には、酸化剤の流量の低減および/または酸化剤の湿度の低減を行なうように制御する(ステップS504)。このような制御は、本発明では、「ΔR≦CR」およびそれに続く「ΔV<DV」との判定結果が「電圧値の低下がドライアップではなく、フラッディングによるもの」と判断されることに基づく。すなわち、「ΔV<DV」(電圧値の低下)との判定結果はドライアップまたはフラッディングが生じていること、あるいはその傾向にあることを意味するが、「ΔR≦CR」との判定結果はドライアップ(あるいはその傾向)が生じていないことを意味している。
一方、検出されたΔV値がDV以上である場合には、酸化剤の流量および/または湿度の調整は不要である。「ΔV≧DV」との判定結果は、電圧値が増加しており、ドライアップまたはフラッディング(あるいはそのような傾向)を生じていないと判断されるためである。
〔2〕ΔRが所定値CRより大きい場合には、酸化剤の流量の増加および/または酸化剤の湿度の増加を行なうように制御する(ステップS505)。このような制御は、本発明では、「ΔR>CR」との判定結果が「ドライアップ(あるいはその傾向)を生じている」と判断されることに基づく。
所定値CRは、好ましくは+5〜+20〔%/min〕の範囲内であり、より好ましくは+5〜+10〔%/min〕の範囲内である。また、所定値Dvは、好ましくは−50〜−2〔mV/min〕の範囲内であり、より好ましくは−30〜−10〔mV/min〕の範囲内である。
このように、本実施形態では、Δiに加えて、アルカリ形燃料電池のΔRおよび必要に応じてΔVをこの順で検出し、カソード極の湿度の最適化を行なう。これらの電池特性をリアルタイムに検出することにより、カソード極の湿度状態(ドライアップまたはフラッディングを生じているか)を把握することができ、これに応じてカソード極の湿度を最適に制御することができる。本例の湿度制御は、ΔRやΔVの検出結果に基づいて、フィードバック制御を行なうものである。特に、本実施形態によれば、ステップS502において「ΔR≦CR」でない(すなわち、「ΔR>CR」)と判断されれば、ΔVの検出は不要であり、比較的簡便にカソード極の湿度の最適化を行なうことができる。
(第3の実施形態)
図6は、本実施形態のカソード極の湿度制御を示すフローチャートである。図6に示される湿度制御においては、まず、検出部105によりΔiが検出される。そして、検出されたΔi値が0を含むAi〜Bi(AiおよびBiは上記と同じ意味である。)の範囲内であるか否かが、制御部106により判定される(ステップS601)。ΔiがAi〜Biの範囲内である場合、制御部106は、検出部105がΔVを検出するように制御する(なお、ΔiがAi〜Biの範囲内でない場合には、上記第1の実施形態に示される制御フローを実施すればよい)。そして、検出されたΔV値が所定値Dv(Dvは上記と同じ意味である。)未満であるか否かが、制御部106により判定される(ステップS602)。この判定結果に基づき、制御部106は、調整部104等を次のように制御する。
〔1〕ΔVが所定値Dv未満である場合には、制御部106は、検出部105がΔRを検出するように制御する。そして、検出されたΔR値が所定値CR(CRは上記と同じ意味である。)以下であるか否かが、制御部106により判定される(ステップS603)。検出されたΔRが所定値CR以下の場合には、酸化剤の流量の低減および/または酸化剤の湿度の低減を行なうように制御する(ステップS604)。このような制御は、本発明では、「ΔV<DV」およびそれに続く「ΔR≦CR」との判定結果が「電圧値の低下がドライアップではなく、フラッディングによるもの」と判断されることに基づく。すなわち、「ΔV<DV」(電圧値の低下)との判定結果はドライアップまたはフラッディングが生じていること、あるいはその傾向にあることを意味するが、「ΔR≦CR」との判定結果はドライアップ(あるいはその傾向)が生じていないことを意味している。
一方、ステップS603にて検出されたΔR値がCRより大きい場合には、酸化剤の流量の増加および/または酸化剤の湿度の増加を行なうように制御する(ステップS605)。このような制御は、本発明では、「ΔR>CR」との判定結果が「ドライアップ(あるいはその傾向)を生じている」と判断されることに基づく。
〔2〕ΔVが所定値Dv以上の場合には、酸化剤の流量および/または湿度の調整は不要である。「ΔV≧DV」との判定結果は、電圧値が増加しており、ドライアップまたはフラッディング(あるいはそのような傾向)を生じていないと判断されるためである。
このように、本実施形態では、Δiに加えて、アルカリ形燃料電池のΔVおよび必要に応じてΔRをこの順で検出し、カソード極の湿度の最適化を行なう。これらの電池特性をリアルタイムに検出することにより、カソード極の湿度状態(ドライアップまたはフラッディングを生じているか)を把握することができ、これに応じてカソード極の湿度を最適に制御することができる。本例の湿度制御は、ΔRやΔVの検出結果に基づいて、フィードバック制御を行なうものである。特に、本実施形態によれば、ステップS602において「ΔV<DV」でない(すなわち、「ΔV≧DV」)と判断されれば、ΔRの検出は不要であり、比較的簡便にカソード極の湿度の最適化を行なうことができる。ΔVの検出はΔRより簡便であり、この点においても本実施形態は有利な形態である。
(第4の実施形態)
図7および8は、本実施形態のカソード極の湿度制御を示すフローチャートである。本実施形態のカソード極の湿度制御は、上記第1の実施形態と、上記第2または第3の実施形態とを組み合わせたものである。図7に示す制御フローが上記第1の実施形態と第2の実施形態とを組み合わせであり、図8に示す制御フローが上記第1の実施形態と第3の実施形態とを組み合わせである。すなわち、本実施形態は、上記第1の実施形態のステップS401(本実施形態におけるS701またはS801)において、「Ai≦Δi≦Bi」と判定された場合に、上記第2の実施形態または第3の実施形態の制御フローを実施するものである。具体的には、制御部106は、調整部104等を次のように制御する。
(1)図7に示される実施形態(第1の実施形態と第2の実施形態との組み合わせ)
〔1〕ΔiがAiより小さい場合には、酸化剤の流量の低減および/または酸化剤の湿度の低減を行なうように制御する(ステップS702)。
〔2〕ΔiがBiより大きい場合には、酸化剤の流量の増加および/または酸化剤の湿度の増加を行なうように制御する(ステップS703)。
〔3〕ΔiがAi〜Biの範囲内である場合、制御部106は、検出部105がΔRを検出するように制御し、検出されたΔRがCR以下であるか否かが、制御部106により判定される(ステップS704)。この判定結果に基づき、制御部106は、調整部104等を次のように制御する。
〔3−1〕ΔRがCR以下である場合には、制御部106は、検出部105がΔVを検出するように制御する。そして、検出されたΔV値がDv未満であるか否かが、制御部106により判定される(ステップS705)。検出されたΔVがDv未満の場合には、酸化剤の流量の低減および/または酸化剤の湿度の低減を行なうように制御する(ステップS706)。一方、検出されたΔVがDV以上である場合には、酸化剤の流量および/または湿度の調整は不要である。
〔3−2〕ΔRがCRより大きい場合には、酸化剤の流量の増加および/または酸化剤の湿度の増加を行なうように制御する(ステップS707)。
(2)図8に示される実施形態(第1の実施形態と第3の実施形態との組み合わせ)
〔1〕ΔiがAiより小さい場合には、酸化剤の流量の低減および/または酸化剤の湿度の低減を行なうように制御する(ステップS802)。
〔2〕ΔiがBiより大きい場合には、酸化剤の流量の増加および/または酸化剤の湿度の増加を行なうように制御する(ステップS803)。
〔3〕ΔiがAi〜Biの範囲内である場合、制御部106は、検出部105がΔVを検出するように制御し、検出されたΔV値がDv未満であるか否かが、制御部106により判定される(ステップS804)。この判定結果に基づき、制御部106は、調整部104等を次のように制御する。
〔3−1〕ΔVがDv未満である場合には、制御部106は、検出部105がΔRを検出するように制御する。そして、検出されたΔR値がCR以下であるか否かが、制御部106により判定される(ステップS805)。検出されたΔRがCR以下の場合には、酸化剤の流量の低減および/または酸化剤の湿度の低減を行なうように制御する(ステップS806)。一方、検出されたΔRがCRより大きい場合には、酸化剤の流量の増加および/または酸化剤の湿度の増加を行なうように制御する(ステップS807)。
〔3−2〕ΔVがDv以上の場合には、酸化剤の流量および/または湿度の調整は不要である。
本実施形態によれば、最初に検出するΔi値が採り得るすべての場合(Δi<Ai、Ai≦Δi≦BiおよびΔi>Bi)に応じて、適切に酸化剤の流量および/または湿度を調整し、カソード極の湿度を最適に制御することができるため、ドライアップおよびフラッディングを効果的に抑制または未然防止することができる。Δiの検出結果に基づくカソード極の湿度制御は、ドライアップおよびフラッディングの発生の未然防止に有効であり、ΔRやΔVの検出結果に基づくカソード極の湿度制御は、ドライアップおよびフラッディングの発生(またはその傾向)を改善するのに有効である。このように本例の湿度制御は、Δiの検出結果に基づくフィードフォワード制御とΔRやΔVの検出結果に基づくフィードバック制御の2つの制御手法を組み合わせたものである。
<アノード極の湿度制御>
次に、アノード極に供給される還元剤の流量および/または湿度を調整する第2調整部をさらに備えるアルカリ形燃料電池システムによるアノード極の湿度制御について、実施の形態を示して詳細に説明する。下記に示すアノード極の湿度制御は、上記カソード極の湿度制御と並行して、独立に実施される。なお、下記に示すアノード極の湿度制御フローは、アルカリ形燃料電池の稼動中、所定の時間間隔を設けて繰り返し行なうことが好ましい。
(第1の実施形態)
図9は、本実施形態のアノード極の湿度制御を示すフローチャートである。図9に示される湿度制御においては、図3を参照して、まず、検出部305によりΔiが検出される。そして、検出されたΔi値が所定値Ai(Aiは上記と同じ意味である。)より小さいか否か、および、所定値Bi(Biは上記と同じ意味である。)より大きいか否か(すなわち、0を含むAi〜Biの範囲内でないかどうか)が、制御部306により判定される(ステップS901)。この判定結果に基づき、制御部306は、第2調整部304bを次のように制御する。
〔1〕Δiが所定値Aiより小さい場合には、還元剤の流量の低減および/または還元剤の湿度の増加を行なうように制御する(ステップS902)。このような制御は、本発明では「Δi<Ai」との判定結果が「ドライアップを生じる方向へ向かっている」と判断されることに基づく。「Δi<Ai(電流値の低下)」は、アノード極での反応により生成する水量の低下、ひいてはアノード極の湿度の低下をもたらし、結果、ドライアップを生じやすいからである。
〔2〕Δiが所定値Biより大きい場合には、還元剤の流量の増加および/または還元剤の湿度の低減を行なうように制御する(ステップS903)。このような制御は、本発明では「Δi>Bi」との判定結果が「フラッディングを生じる方向へ向かっている」と判断されることに基づく。「Δi>Bi(電流値の上昇)」は、アノード極での反応により生成する水量の増加、ひいてはアノード極の湿度の増加をもたらし、結果、フラッディングを生じやすいからである。
このように、本実施形態に係るアノード極の湿度制御は、ドライアップおよびフラッディングの発生を未然に防止するために適用することができる。すなわち、本例の湿度制御は、Δiの検出結果に基づいて、フィードフォワード制御を行なうものである。また、本実施形態に係るアノード極の湿度制御は、電流変化のみを検出すればよいため、迅速な制御を行なうことができる点において有利である。
アノード極の湿度制御は、カソード極の湿度制御と同様、還元剤の流量調整のみで行なってもよいし、還元剤の湿度調整のみで行なってもよいし、流量および湿度の双方を調整することにより行なってもよい(以下に示す他の実施形態においても同様)。還元剤の流量調整は、アノード極の湿度制御を容易、かつ迅速に行なうことができる点で有利である。一方、還元剤の湿度調整は、アノード極の湿度制御を高い精度で行なうことができる点で有利である。
本実施形態において、検出されたΔi値がAi〜Biの範囲内である場合、少なくとも暫くはドライアップおよびフラッディングの発生はないと判断して、次回のΔiの検出時まで第2調整部304bによる還元剤の流量および/または湿度の調整を実施しないこともできるが、Δi値がAi〜Biの範囲内である場合においても、ドライアップまたはフラッディングが生じている可能性があることから、後述する第2または第3の実施形態の制御フローを引き続き実施することが好ましい(第4の実施形態参照)。
(第2の実施形態)
図10は、本実施形態のアノード極の湿度制御を示すフローチャートである。図10に示される湿度制御においては、図3を参照して、まず、検出部305によりΔiが検出される。そして、検出されたΔi値が0を含むAi〜Bi(AiおよびBiは上記と同じ意味である。)の範囲内であるか否かが、制御部306により判定される(ステップS1001)。ΔiがAi〜Biの範囲内である場合、制御部306は、検出部305がΔRを検出するように制御する(なお、ΔiがAi〜Biの範囲内でない場合には、上記第1の実施形態に示される制御フローを実施すればよい)。そして、検出されたΔR値が所定値CR(CRは上記と同じ意味である。)以下であるか否かが、制御部306により判定される(ステップS1002)。この判定結果に基づき、制御部306は、第2調整部304b等を次のように制御する。
〔1〕ΔRが所定値CR以下である場合には、制御部306は、検出部305がΔVを検出するように制御する。そして、検出されたΔV値が所定値Dv(Dvは上記と同じ意味である。)未満であるか否かが、制御部306により判定される(ステップS1003)。検出されたΔVが所定値Dv未満の場合には、還元剤の流量の増加および/または還元剤の湿度の低減を行なうように制御する(ステップS1004)。このような制御は、本発明では、「ΔR≦CR」およびそれに続く「ΔV<DV」との判定結果が「電圧値の低下がドライアップではなく、フラッディングによるもの」と判断されることに基づく。すなわち、「ΔV<DV」(電圧値の低下)との判定結果はドライアップまたはフラッディングが生じていること、あるいはその傾向にあることを意味するが、「ΔR≦CR」との判定結果はドライアップ(あるいはその傾向)が生じていないことを意味している。
一方、検出されたΔV値がDV以上である場合には、還元剤の流量および/または湿度の調整は不要である。「ΔV≧DV」との判定結果は、電圧値が増加しており、ドライアップまたはフラッディング(あるいはそのような傾向)を生じていないと判断されるためである。
〔2〕ΔRが所定値CRより大きい場合には、還元剤の流量の低減および/または還元剤の湿度の増加を行なうように制御する(ステップS1005)。このような制御は、本発明では、「ΔR>CR」との判定結果が「ドライアップ(あるいはその傾向)を生じている」と判断されることに基づく。
このように、本実施形態では、Δiに加えて、アルカリ形燃料電池のΔRおよび必要に応じてΔVをこの順で検出し、アノード極の湿度の最適化を行なう。これらの電池特性をリアルタイムに検出することにより、アノード極の湿度状態(ドライアップまたはフラッディングを生じているか)を把握することができ、これに応じてアノード極の湿度を最適に制御することができる。本例の湿度制御は、ΔRやΔVの検出結果に基づいて、フィードバック制御を行なうものである。特に、本実施形態によれば、ステップS1002において「ΔR≦CR」でない(すなわち、「ΔR>CR」)と判断されれば、ΔVの検出は不要であり、比較的簡便にアノード極の湿度の最適化を行なうことができる。
(第3の実施形態)
図11は、本実施形態のアノード極の湿度制御を示すフローチャートである。図11に示される湿度制御においては、図3を参照して、まず、検出部305によりΔiが検出される。そして、検出されたΔi値が0を含むAi〜Bi(AiおよびBiは上記と同じ意味である。)の範囲内であるか否かが、制御部306により判定される(ステップS1101)。ΔiがAi〜Biの範囲内である場合、制御部306は、検出部305がΔVを検出するように制御する(なお、ΔiがAi〜Biの範囲内でない場合には、上記第1の実施形態に示される制御フローを実施すればよい)。そして、検出されたΔV値が所定値Dv(Dvは上記と同じ意味である。)未満であるか否かが、制御部306により判定される(ステップS1102)。この判定結果に基づき、制御部306は、第2調整部304b等を次のように制御する。
〔1〕ΔVが所定値Dv未満である場合には、制御部306は、検出部305がΔRを検出するように制御する。そして、検出されたΔR値が所定値CR(CRは上記と同じ意味である。)以下であるか否かが、制御部306により判定される(ステップS1103)。検出されたΔRが所定値CR以下の場合には、還元剤の流量の増加および/または還元剤の湿度の低減を行なうように制御する(ステップS1104)。このような制御は、本発明では、「ΔV<DV」およびそれに続く「ΔR≦CR」との判定結果が「電圧値の低下がドライアップではなく、フラッディングによるもの」と判断されることに基づく。すなわち、「ΔV<DV」(電圧値の低下)との判定結果はドライアップまたはフラッディングが生じていること、あるいはその傾向にあることを意味するが、「ΔR≦CR」との判定結果はドライアップ(あるいはその傾向)が生じていないことを意味している。
一方、ステップS1103にて検出されたΔR値がCRより大きい場合には、還元剤の流量の低減および/または還元剤の湿度の増加を行なうように制御する(ステップS1105)。このような制御は、本発明では、「ΔR>CR」との判定結果が「ドライアップ(あるいはその傾向)を生じている」と判断されることに基づく。
〔2〕ΔVが所定値Dv以上の場合には、還元剤の流量および/または湿度の調整は不要である。「ΔV≧DV」との判定結果は、電圧値が増加しており、ドライアップまたはフラッディング(あるいはそのような傾向)を生じていないと判断されるためである。
このように、本実施形態では、Δiに加えて、アルカリ形燃料電池のΔVおよび必要に応じてΔRをこの順で検出し、アノード極の湿度の最適化を行なう。これらの電池特性をリアルタイムに検出することにより、アノード極の湿度状態(ドライアップまたはフラッディングを生じているか)を把握することができ、これに応じてアノード極の湿度を最適に制御することができる。本例の湿度制御は、ΔRやΔVの検出結果に基づいて、フィードバック制御を行なうものである。特に、本実施形態によれば、ステップS1102において「ΔV<DV」でない(すなわち、「ΔV≧DV」)と判断されれば、ΔRの検出は不要であり、比較的簡便にアノード極の湿度の最適化を行なうことができる。ΔVの検出はΔRより簡便であり、この点においても本実施形態は有利な形態である。
(第4の実施形態)
図12および13は、本実施形態のアノード極の湿度制御を示すフローチャートである。本実施形態のアノード極の湿度制御は、上記第1の実施形態と、上記第2または第3の実施形態とを組み合わせたものである。図12に示す制御フローが上記第1の実施形態と第2の実施形態とを組み合わせであり、図13に示す制御フローが上記第1の実施形態と第3の実施形態とを組み合わせである。すなわち、本実施形態は、上記第1の実施形態のステップS901(本実施形態におけるS1201またはS1301)において、「Ai≦Δi≦Bi」と判定された場合に、上記第2の実施形態または第3の実施形態の制御フローを実施するものである。具体的には、図3を参照して、制御部306は、第2調整部304b等を次のように制御する。
(1)図12に示される実施形態(第1の実施形態と第2の実施形態との組み合わせ)
〔1〕ΔiがAiより小さい場合には、還元剤の流量の低減および/または還元剤の湿度の増加を行なうように制御する(ステップS1202)。
〔2〕ΔiがBiより大きい場合には、還元剤の流量の増加および/または還元剤の湿度の低減を行なうように制御する(ステップS1203)。
〔3〕ΔiがAi〜Biの範囲内である場合、制御部306は、検出部305がΔRを検出するように制御し、検出されたΔRがCR以下であるか否かが、制御部306により判定される(ステップS1204)。この判定結果に基づき、制御部306は、第2調整部304b等を次のように制御する。
〔3−1〕ΔRがCR以下である場合には、制御部306は、検出部305がΔVを検出するように制御する。そして、検出されたΔV値がDv未満であるか否かが、制御部306により判定される(ステップS1205)。検出されたΔVがDv未満の場合には、還元剤の流量の増加および/または還元剤の湿度の低減を行なうように制御する(ステップS1206)。一方、検出されたΔVがDV以上である場合には、還元剤の流量および/または湿度の調整は不要である。
〔3−2〕ΔRがCRより大きい場合には、還元剤の流量の低減および/または還元剤の湿度の増加を行なうように制御する(ステップS1207)。
(2)図13に示される実施形態(第1の実施形態と第3の実施形態との組み合わせ)
〔1〕ΔiがAiより小さい場合には、還元剤の流量の低減および/または還元剤の湿度の増加を行なうように制御する(ステップS1302)。
〔2〕ΔiがBiより大きい場合には、還元剤の流量の増加および/または還元剤の湿度の低減を行なうように制御する(ステップS1303)。
〔3〕ΔiがAi〜Biの範囲内である場合、制御部306は、検出部305がΔVを検出するように制御し、検出されたΔV値がDv未満であるか否かが、制御部306により判定される(ステップS1304)。この判定結果に基づき、制御部306は、第2調整部304b等を次のように制御する。
〔3−1〕ΔVがDv未満である場合には、制御部306は、検出部305がΔRを検出するように制御する。そして、検出されたΔR値がCR以下であるか否かが、制御部306により判定される(ステップS1305)。検出されたΔRがCR以下の場合には、還元剤の流量の増加および/または還元剤の湿度の低減を行なうように制御する(ステップS1306)。一方、検出されたΔRがCRより大きい場合には、還元剤の流量の低減および/または還元剤の湿度の増加を行なうように制御する(ステップS1307)。
〔3−2〕ΔVがDv以上の場合には、還元剤の流量および/または湿度の調整は不要である。
本実施形態によれば、最初に検出するΔi値が採り得るすべての場合(Δi<Ai、Ai≦Δi≦BiおよびΔi>Bi)に応じて、適切に還元剤の流量および/または湿度を調整し、アノード極の湿度を最適に制御することができるため、ドライアップおよびフラッディングをより効果的に抑制または未然防止することができる。Δiの検出結果に基づくアノード極の湿度制御は、ドライアップおよびフラッディングの発生の未然防止に有効であり、ΔRやΔVの検出結果に基づくアノード極の湿度制御は、ドライアップおよびフラッディングの発生(またはその傾向)を改善するのに有効である。このように本例の湿度制御は、Δiの検出結果に基づくフィードフォワード制御とΔRやΔVの検出結果に基づくフィードバック制御の2つの制御手法を組み合わせたものである。
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
〔アルカリ形燃料電池システムの作製〕
<実施例1>
以下の手順でアルカリ形燃料電池システムを作製した。
(1)膜電極複合体の作製
芳香族ポリエーテルスルホン酸と芳香族ポリチオエーテルスルホン酸との共重合体をクロロメチル化した後、アミノ化することにより、触媒層用のアニオン伝導性固体高分子電解質を得た。これをテトラヒドロフランに添加することにより、5重量%アニオン伝導性固体高分子電解質溶液を得た。
Pt担持量が50重量%のPt/Cである触媒担持カーボン粒子(田中貴金属社製「TEC10E50E」)と、上記で得られた電解質溶液とを、重量比で2/0.2となるように混合し、さらにイオン交換水およびエタノールを添加することにより、アノード触媒層用の触媒ペーストを作製した。
同様に、Pt担持量が50重量%のPt/Cである触媒担持カーボン粒子(田中貴金属社製「TEC10E50E」)と、上記で得られた電解質溶液とを、重量比で2/0.2となるように混合し、さらにイオン交換水およびエタノールを添加することにより、カソード触媒層用の触媒ペーストを作製した。
次に、アノードガス拡散層としてカーボンペーパー(東レ社製「TGP−H−060」、厚み約190μm)を縦23mm×横23mmのサイズに切り出し、そのアノードガス拡散層の一方の面に、上記のアノード触媒層用の触媒ペーストを触媒量が0.5mg/cm2となるように、縦23mm×横23mmのウィンドウを有したスクリーン印刷版を用いて塗布し、室温にて乾燥させることにより、アノードガス拡散層であるカーボンペーパーの片面の全面にアノード触媒層が形成されたアノード極を作製した。得られたアノード極の厚みは約200μmであった。
同様に、カソードガス拡散層としてカーボンペーパー(東レ社製「TGP−H−060」、厚み約190μm)を縦23mm×横23mmのサイズに切り出し、そのカソードガス拡散層の一方の面に、上記のカソード触媒層用の触媒ペーストを触媒量が0.5mg/cm2となるように、縦23mm×横23mmのウィンドウを有したスクリーン印刷版を用いて塗布し、室温にて乾燥させることにより、カソードガス拡散層であるカーボンペーパーの片面の全面にカソード触媒層が形成されたカソード極を作製した。得られたカソード極の厚みは約200μmであった。
次に、50mm×50mmのサイズに切り出したフッ素樹脂系高分子電解質(旭化成社製「アシプレックス」)をアニオン伝導性固体高分子電解質膜として用い、上記アノード極と電解質膜と上記カソード極をこの順で、それぞれの触媒層が電解質膜に対向するように重ね合わせた後、130℃、10kNで2分間の熱圧着を行なうことにより、アノード極およびカソード極を電解質膜に接合し、膜電極複合体を得た。上記重ね合わせは、アノード極とカソード極の電解質膜の面内における位置が一致するように、かつアノード極と電解質膜とカソード極の中心が一致するように行なった。
(2)アルカリ形燃料電池の作製
上記膜電極複合体を、市販の燃料電池セル(エレクトロケム社製)を分解して取り出した部品と組み合わせて燃料電池を作製した。具体的には、まず、アノード極側集電体(エンドプレート)/カーボン製アノード極セパレータ(ガスフロープレート)/ポリテトラフルオロエチレン製ガスケット/膜電極複合体/ポリテトラフルオロエチレン製ガスケット/カーボン製カソード極セパレータ(ガスフロープレート)/カソード極側集電体(エンドプレート)の順に積層した。なお、両ガスケットの中心部には貫通孔が形成されているため、得られた積層体において、各極セパレータと膜電極複合体とは接触している。最後に、M3のボルトおよびナットを用いて5N・mで締め付けることによって、アルカリ形燃料電池を得た。
(3)アルカリ形燃料電池システムの作製
作製したアルカリ形燃料電池を燃料電池部101として用い、図1と同様の構成のアルカリ形燃料電池システムを作製した。具体的には次のとおりである。
還元剤供給部102としてのステンレス製の配管を燃料電池部101のアノード極セパレータに還元剤を供給できるように接続するとともに、酸化剤供給部103としてのステンレス製の配管を燃料電池部101のカソード極セパレータに酸化剤を供給できるように接続した。酸化剤供給部103としてのステンレス製の配管は、調整部104としての流量調整弁および調湿器を有している。調湿器は、温度制御可能な水浴を有しており、酸化剤を水浴中の水中へバブリングさせることにより加湿を行なうタイプである。検出部105としての電流計、電圧計および抵抗測定器(電気化学インピーダンス法により抵抗値を測定するための電子負荷装置および周波数応答解析装置)を、燃料電池部101のアノード極側集電体およびカソード極側集電体に接続した(電流計は燃料電池に対して直列、電圧計および抵抗測定器は燃料電池に対して並列に接続)。また、制御部106としてのパーソナルコンピュータを検出部105に接続して検出部105からの電気信号を受信可能にするとともに、調整部104に接続して、検出部105からの情報に基づき調整部104に制御情報を送信可能とした。また、燃料電池内部の温度をモニターするために、アノード極セパレータ内部の膜電極複合体近傍に温度センサを設置するとともに、調湿器内部の水浴の温度をモニターするための温度センサを該水浴中に設置した。これらの温度センサの検知結果を制御部106に送信できるようにした。
<比較例1>
調整部104および制御部106を有しないこと以外は実施例1と同様にしてアルカリ形燃料電池システムを作製した。
〔カソード極の湿度制御実験およびその評価〕
(1)図4に示されるフローチャートに従うカソード極の湿度制御
<実施例2>
実施例1で作製したアルカリ形燃料電池システムにおけるアルカリ形燃料電池のアノード極側集電体とカソード極側集電体とを電子機器を介して接続するとともに、アノード極セパレータに還元剤(H2)を、カソード極セパレータに酸化剤(空気)を供給して、発電を開始した。この際、還元剤および酸化剤の流量および相対湿度、アノード極−カソード極間の電流量、ならびにアルカリ形燃料電池内の温度を一定に制御した(電流量=300mA/cm2、アルカリ形燃料電池内の温度=50℃)。その後、時刻T0における電子機器からの出力増加要請に基づき、時刻T0から時刻T1にかけて直線的に電流量を600mA/cm2まで増加させ、時刻T2までこの電流量を維持した(T1−T0=3分)。
以上の発電操作において、図4に示されるフローチャートに従い、次のようなカソード極の湿度制御を行なった。なお、所定値Biは30mA/cm2・minに設定した。時刻T0〜T1における1分間、検出部105により電流量を測定して、電流量の単位時間当たりの変化量Δiを検出し、「Δi>Bi」との判定結果に基づき(ステップS401)、制御部106による制御により、酸化剤の流量を2倍に増加させることにより、カソード極の湿度を増加させた(ステップS403)。このようなカソード極の湿度制御の結果、時刻T1〜T2において、安定した出力電圧を維持することができた。
次に、時刻T2における電子機器からの出力低減要請に基づき、時刻T2から時刻T3にかけて直線的に電流量を600mA/cm2から300mA/cm2まで低下させ、以後この電流量を維持した(T3−T2=3分)。
以上の発電操作において、図4に示されるフローチャートに従い、次のようなカソード極の湿度制御を行なった。なお、所定値Aiは−30mA/cm2・minに設定した。時刻T2〜T3における1分間、検出部105により電流量を測定し、電流量の単位時間あたりの変化量Δiを検出し、「Δi<Ai」との判定結果に基づき(ステップS401)、制御部106による制御により、酸化剤の流量を半減させ、発電初期の流量に戻すことにより、カソード極の湿度を低減させた(ステップS402)。このようなカソード極の湿度制御の結果、時刻T3以降において、安定した出力電圧を維持することができた。
<実施例3>
ステップS403において、酸化剤の流量を増加させる代わりに、酸化剤の相対湿度を初期値の約105%となるように調整し、カソード極の湿度を増加させた以外は実施例2と同様にしてカソード極の湿度制御を行なった。また、ステップS402において、酸化剤の流量を低減させる代わりに、酸化剤の相対湿度を低減させ、発電初期の相対湿度に戻すことにより、カソード極の湿度を低減させた以外は実施例2と同様にしてカソード極の湿度制御を行なった。このようなカソード極の湿度制御の結果、時刻T1〜T2および時刻T3以降において、安定した出力電圧を維持することができた。なお、相対湿度の増減は、調整部104の調湿器の温度を調整することにより行なった。
<比較例2>
比較例1で作製したアルカリ形燃料電池システム(調整部104および制御部106を有しない。)を用いたこと以外は実施例2と同様にして発電操作を行なった。電子機器からの出力増加/低減要請に応じて、実施例2と同様に電流量を増加/低下させたが、発電開始以降、酸化剤の流量および相対湿度は一定に維持した(これらの一定値は実施例2および3の初期値と同じである)。結果、時刻T1〜T2において、ドライアップが原因と見られる出力電圧の漸次的な低下が認められた。また、時刻T3以降においては、フラッディングが原因と見られる出力電圧の漸次的な低下が認められた。
(2)図5に示されるフローチャートに従うカソード極の湿度制御
<実施例4>
実施例1で作製したアルカリ形燃料電池システムにおけるアルカリ形燃料電池のアノード極側集電体とカソード極側集電体とを電子機器を介して接続するとともに、アノード極セパレータに還元剤(H2)を、カソード極セパレータに酸化剤(空気)を供給して、発電を開始した。この際、還元剤および酸化剤の流量および相対湿度、アノード極−カソード極間の電流量、ならびにアルカリ形燃料電池内の温度を一定に制御した(電流量=300mA/cm2、アルカリ形燃料電池内の温度=50℃)。その後、時刻T0における電子機器からの出力増加要請に基づき、時刻T0から時刻T1にかけて直線的に電流量を700mA/cm2まで増加させ、以後この電流量を維持した。
以上の発電操作において、図5に示されるフローチャートに従い、次のようなカソード極の湿度制御を行なった。なお、所定値Aiは−30mA/cm2・min、Biは30mA/cm2・min、CRは5%/min、DVは−30mV/minに設定した。時刻T1以後における1分間、検出部105により電流量を測定し、電流量の単位時間当たりの変化量Δi=5mA/cm2・minとの検出結果から、「Ai≦Δi≦Bi」との判定結果を得た(ステップS501)。続いて、当該判定結果に基づき抵抗値を測定し(測定時間1分)、抵抗値の単位時間当たりの変化率ΔR=2%/minとの検出結果から、「ΔR≦CR」との判定結果を得た(ステップS502)。さらに続いて、当該判定結果に基づき出力電圧値を測定し(測定時間1分)、出力電圧値の単位時間当たりの変化量ΔV=−60mV/minとの検出結果から、「ΔV<DV」との判定結果を得た(ステップS503)。
当該判定結果に基づき、制御部106による制御により、酸化剤の流量をおよそ半減させることにより、カソード極の湿度を低減させた(ステップS504)。なお、以上のような図5に示される一連のフローを終了した後、図5のフローを複数回実施して、流量の微小な増減を行ない、流量を微調整(最適化)した。フロー終了から次のフロー開始までの時間間隔は5分とした。以上のようなカソード極の湿度制御の結果、出力電圧の低下が収まり、安定した出力電圧を達成することができた。
<実施例5>
ステップS504において、酸化剤の流量を低減させる代わりに、酸化剤の相対湿度を初期値の約95%となるように調整し、カソード極の湿度を低減させた以外は実施例4と同様にしてカソード極の湿度制御を行なった。なお、相対湿度を初期値の約95%となるように低減させた後、図5のフローを複数回実施して、相対湿度の微小な増減を行ない、相対湿度を微調整(最適化)した。フロー終了から次のフロー開始までの時間間隔は5分とした。このようなカソード極の湿度制御の結果、出力電圧の低下が収まり、安定した出力電圧を達成することができた。
<比較例3>
比較例1で作製したアルカリ形燃料電池システム(調整部104および制御部106を有しない。)を用いたこと以外は実施例4と同様にして発電操作を行なった。電子機器からの出力増加要請に応じて、実施例4と同様に電流量を700mA/cm2まで増加させたが、発電開始以降、酸化剤の流量および相対湿度は一定に維持した(これらの一定値は実施例4および5の初期値と同じである)。結果、時刻T1以降、時間の経過とともに、フラッディングが原因と見られる出力電圧の低下が徐々に顕著になっていった。
<実施例6>
実施例1で作製したアルカリ形燃料電池システムにおけるアルカリ形燃料電池のアノード極側集電体とカソード極側集電体とを電子機器を介して接続するとともに、アノード極セパレータに還元剤(H2)を、カソード極セパレータに酸化剤(空気)を供給して、発電を開始した。この際、還元剤および酸化剤の流量および相対湿度、アノード極−カソード極間の電流量、ならびにアルカリ形燃料電池内の温度を一定に制御した(電流量=700mA/cm2、アルカリ形燃料電池内の温度=50℃)。その後、時刻T0における電子機器からの出力低減要請に基づき、時刻T0から時刻T1にかけて直線的に電流量を200mA/cm2まで低下させ、以後この電流量を維持した。
以上の発電操作において、図5に示されるフローチャートに従い、次のようなカソード極の湿度制御を行なった。なお、所定値Aiは−30mA/cm2・min、Biは30mA/cm2・min、CRは5%/min、DVは−30mV/minに設定した。時刻T1以後における1分間、検出部105により電流量を測定し、Δi=−5mA/cm2・minとの検出結果から、「Ai≦Δi≦Bi」との判定結果を得た(ステップS501)。続いて、当該判定結果に基づき抵抗値を測定し(測定時間1分)、抵抗値の単位時間当たりの変化率ΔR=10%/minとの検出結果から、「ΔR>CR」との判定結果を得た(ステップS502)。
当該判定結果に基づき、制御部106による制御により、酸化剤の流量を初期値の約3.8倍となるように調整し、カソード極の湿度を増加させた(ステップS505)。流量を初期値の約3.8倍となるように増加させた後、図5のフローを複数回実施して、流量の微小な増減を行ない、流量を微調整(最適化)した。フロー終了から次のフロー開始までの時間間隔は5分とした。以上のようなカソード極の湿度制御の結果、抵抗値の増加が収まり、これに伴い、出力電圧も安定するようになった。
<実施例7>
ステップS505において、酸化剤の流量を増加させる代わりに、酸化剤の相対湿度を初期値の約104%となるように調整し、カソード極の湿度を増加させた以外は実施例6と同様にしてカソード極の湿度制御を行なった。なお、相対湿度を初期値の約104%となるように増加させた後、図5のフローを複数回実施して、相対湿度の微小な増減を行ない、相対湿度を微調整(最適化)した。フロー終了から次のフロー開始までの時間間隔は5分とした。このようなカソード極の湿度制御の結果、抵抗値の増加が収まり、これに伴い、出力電圧も安定するようになった。
<比較例4>
比較例1で作製したアルカリ形燃料電池システム(調整部104および制御部106を有しない。)を用いたこと以外は実施例6と同様にして発電操作を行なった。電子機器からの出力低減要請に応じて、実施例6と同様に電流量を200mA/cm2まで低下させたが、発電開始以降、酸化剤の流量および相対湿度は一定に維持した(これらの一定値は実施例6および7の初期値と同じである)。結果、時刻T1以降、時間の経過とともに、ドライアップが原因と見られる抵抗値の増加および出力電圧の低下が徐々に顕著になっていった。
100,300 アルカリ形燃料電池システム、101,301 燃料電池部、102,302 還元剤供給部、103,303 酸化剤供給部、104 調整部、105,305 検出部、106,306 制御部、200 アルカリ形燃料電池、201 アニオン伝導性電解質膜、202 アノード極、203 カソード極、204 アノードセパレータ、205 カソードセパレータ、206 還元剤流路、207 酸化剤流路、210 膜電極複合体、304a 第1調整部、304b 第2調整部。

Claims (11)

  1. アノード極、アニオン伝導性電解質膜およびカソード極をこの順で備えるアルカリ形燃料電池を含む燃料電池部と、
    前記アノード極に還元剤を供給するための還元剤供給部と、
    前記カソード極に酸化剤を供給するための酸化剤供給部と、
    前記カソード極に供給される酸化剤の流量および/または湿度を調整するための調整部と、
    前記アルカリ形燃料電池のアノード極とカソード極との間を流れる電流値の単位時間当たりの変化量Δiを少なくとも検出する検出部と、
    前記調整部および前記検出部に接続され、前記検出部による検出結果に基づいて、前記調整部による前記酸化剤の流量および/または湿度の調整を制御するための制御部と、
    を備え
    前記検出部によって検出されたΔiが所定値A i (ただし、A i は負の値である。)より小さい場合には、前記制御部は、前記調整部が酸化剤の流量の低減および/または酸化剤の湿度の低減を行なうように制御し、
    前記検出部によって検出されたΔiが所定値B i (ただし、B i は正の値である。)より大きい場合には、前記制御部は、前記調整部が酸化剤の流量の増加および/または酸化剤の湿度の増加を行なうように制御するアルカリ形燃料電池システム。
  2. 前記検出部は、前記アルカリ形燃料電池の出力電圧値の単位時間当たりの変化量ΔVおよび抵抗値の単位時間当たりの変化率ΔRをさらに検出するものである請求項1に記載のアルカリ形燃料電池システム。
  3. 前記検出部によって検出されたΔiがAi〜Biの範囲内である場合において、
    前記検出部によって検出されたΔRが所定値CR(ただし、CRは正の値である。)以下である場合には、前記制御部は、前記検出部がΔVを検出するように制御するとともに、該ΔVが所定値DV(ただし、DVは負の値である。)未満である場合には、前記調整部が酸化剤の流量の低減および/または酸化剤の湿度の低減を行なうように制御し、
    前記検出部によって検出されたΔRが所定値CRより大きい場合には、前記制御部は、前記調整部が酸化剤の流量の増加および/または酸化剤の湿度の増加を行なうように制御する請求項2に記載のアルカリ形燃料電池システム。
  4. 前記検出部によって検出されたΔiがAi〜Biの範囲内である場合において、
    前記検出部によって検出されたΔVが所定値DV(ただし、DVは負の値である。)未満である場合には、前記制御部は、前記検出部がΔRを検出するように制御するとともに、該ΔRが所定値CR(ただし、CRは正の値である。)以下である場合には、前記調整部が酸化剤の流量の低減および/または酸化剤の湿度の低減を行なうように制御し、該ΔRが所定値CRより大きい場合には、前記調整部が酸化剤の流量の増加および/または酸化剤の湿度の増加を行なうように制御する請求項2に記載のアルカリ形燃料電池システム。
  5. Δiの所定値Aiが−50〜−25〔mA/cm2・min〕の範囲内であり、所定値Biが+25〜+50〔mA/cm2・min〕の範囲内である請求項のいずれかに記載のアルカリ形燃料電池システム。
  6. ΔRの所定値CRが+5〜+20〔%/min〕の範囲内である請求項3または4に記載のアルカリ形燃料電池システム。
  7. ΔVの所定値DVが−50〜−2〔mV/min〕の範囲内である請求項3、4または6に記載のアルカリ形燃料電池システム。
  8. 前記アルカリ形燃料電池は、アノードセパレータ、アノード極、アニオン伝導性電解質膜、カソード極およびカソードセパレータをこの順で備える請求項1〜のいずれかに記載のアルカリ形燃料電池システム。
  9. 前記酸化剤供給部は、酸化剤供給源と前記カソードセパレータとを接続する配管を含み、
    前記配管は、前記調整部としての流量調整弁および/または調湿器を具備する請求項に記載のアルカリ形燃料電池システム。
  10. 前記燃料電池部は、直列または並列に電気的に接続された2以上の前記アルカリ形燃料電池を含む請求項1〜のいずれかに記載のアルカリ形燃料電池システム。
  11. 前記還元剤が水素ガスであり、前記酸化剤が空気である請求項1〜10のいずれかに記載のアルカリ形燃料電池システム。
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